「どうなるか」という明確な展望もなければ、「どうするか」という確固たる意志も見えてこない。迷走する政治の現状を憂慮せざるを得ない。
予算関連法案の成立と引き換えに、菅直人首相を交代させる首相退陣論が与党の民主党内で取りざたされている。
新年度予算案は与党が多数の衆院を通過すれば成立するが、赤字国債の発行に必要な特例公債法案など予算関連法案は野党が過半数を占める参院で否決されれば成立しない。
首相退陣論は「窮余の一策」かもしれないが、それが政権を追及する野党ではなく、首相を支えるべき与党から公然と語られている。何とも異様な政治状況というほかない。
民意を問うことなく求心力の低下した首相を交代させ、当面する政治危機をしのぎ、政権の延命を図ろうとする。
長期政権末期の自民党で繰り返され、野党時代の民主党が「政権たらい回し」と批判した手法そのものではないか。
「古い政治に戻すつもりはない」と菅首相が一蹴したのは当然である。
ところが、首相本人が否定しても首相退陣論が独り歩きしてしまい、野党から「首相が辞めても予算関連法案には賛成しない」と突き放されてしまう。
八方ふさがりとは、このことである。このまま、予算関連法案の取り扱いが宙に浮いてしまえば、国民生活や経済活動にも重大な支障が及びかねない。
いまこそ、与野党は党利党略を度外視して、局面転換へ動くべきである。
菅首相と谷垣禎一自民党総裁ら与野党の党首討論が、きのう国会で開かれた。残念ながら、膠着(こうちゃく)した政治状況の打開につながる内容には乏しい討論だったと言わざるを得ない。
谷垣総裁は、民主党内で持ち上がった会派離脱騒動を取り上げ「与党内さえ掌握できない政権の正統性は崩壊した」と批判した。首相は「国民生活にとって最も重要なのは予算を成立させ、執行することだ」と繰り返した。前回と同様の堂々巡りである。
接点の可能性を探るとすれば、谷垣総裁が「予算案の組み替え動議を出す」と明言したのに対し、1998年の金融国会で当時の小渕内閣が野党案を丸のみした前例を引き合いに、首相が「丸のみできるような動議をぜひ出してほしい」と応じたことだろう。
自民党は、子ども手当や高速道路の無料化など民主党が政権公約で掲げた目玉政策の廃止を動議に盛り込み、菅政権を揺さぶる構えのようだ。
ここは与野党とも正念場である。野党第1党の自民党は現実的な組み替え動議を提出する。政府・民主党は政権公約の大胆な見直しを含めて予算案や関連法案の修正協議に柔軟に応じる。そこで妥協できる案と審議を尽くす案を区分けして、一歩でも政治を前に進めるべきだ。
突破口を開く英断を双方に求めたい。
=2011/02/24付 西日本新聞朝刊=