2011年2月25日
国会党首討論/国益後退の責任を追及せよ
菅直人首相と谷垣禎一自民党総裁、山口那津男公明党代表との間で2回目の党首討論が行われた。来年度予算案、マニフェスト(政権公約)、解散総選挙など前回の討論が繰り返されたが、外交・安全保障は政権交代後の国益後退顕著な問題だけにもっと議論を闘わせてほしい。
軍事情勢認識が欠如
質問時間の残り12分で外交問題に討議を移した谷垣氏は、ロシアが北方領土問題を無視する対日政策に転換したことを問題視し、メドべージェフ大統領の国後島訪問後に河野雅治駐露大使を更迭しない菅内閣の姿勢を批判した。菅首相はロシア側に抗議したと表明し、「粘り強く、しかし慌てないでこの交渉にあたっていきたい」と述べるが、言葉だけで策がない。
討議では日ソ・日露の65年の交渉について触れているが、現在の日露問題の責任をすべて菅内閣に背負わせるわけにはいかない。しかし、日ソ共同宣言で歯舞・色丹の2島返還に触れたソ連時代にもなかったほどの問題無視が、なぜ政権交代後に起きたかは偶然ではあるまい。
谷垣氏は対露外交の根本が定まっていないこと、日米安保体制が揺らいでいることの2点を追及したが、ここでも民主党マニフェストから検証すべきだ。同党の2009年衆院選マニフェストには国防や安全保障の項目はなく、領土問題の解決について触れていない。
外交の扱いも僅かなもので、北朝鮮の核問題を除けば周辺情勢について極めて楽観的で、軍事情勢認識が欠如している。それにも拘わらず日米関係を「対等」にしようと動いたのだ。
しかも、反米反安保の社民党と連立を組み、「東アジア共同体」という親中路線をとり、また民主党内の約半分は旧社会党系や系列労組出身者で、敗戦国家の武装解除を意味する憲法9条を積極的に称賛する人々が政権に就いた。菅内閣発足時も枢要なポストをこのような「護憲派」が占めたのだから、日本と領土問題がある相手国にとっては好機到来である。
実際、「護憲派」の主張が普天間基地移転に関する日米合意白紙化という形に一度なったことから、中露の動きや、北朝鮮の韓国への軍事挑発など脅威が顕在化した。極東正面は依然として「冷戦構造」の残滓が活火山のマグマの如くうごめいており、中露のような軍事大国や先軍政治の北朝鮮の近くに位置する日本は安全な国ではない。
今回の党首討論では中国との尖閣問題にまで踏み込めなかったが、国会の各委員会で議論されたとはいえ、わが国の領土が一方的に「領有」を主張されるという深刻な事態であり、改めて取り上げるべきだろう。
外交パワーの背景整えよ
外交は問題を回避する予防外交こそ上策である。そのためには、衰退する経済力を補い、文化力、防衛力、および集団的自衛権に関する憲法解釈や憲法改正まで独立国に相応しい法整備をするなど、外交パワーの背景を整えなければ国益の実現能力に乏しいものになる。なぜ、こうした国益後退をもたらしたのか。菅内閣・与党に対する責任を問うとともに、これをどう挽回するか議論を深めてほしい。