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みえ (5)熊野の母親遺棄 高齢者確認へ積極策必要


白骨化した遺体が見つかった桐本被告方を調べる捜査員

 「(自分のやっていることが)恐ろしいことだとは知っていた」

 熊野市木本町の民家で8月、桐本千代さん(当時80歳)が一部白骨化した遺体で発見された事件。保護責任者遺棄や詐欺罪などで起訴された次男の無職桐本行宏被告(57)は22日の第3回公判で、母親の死を隠して年金を受け取っていたことに、良心の呵責(かしゃく)があったと述べた。だが、その思いもすぐに薄らいだという。

 認知症の兆候が見られた母親に食事を与えず自宅の部屋に放置し、1年半もの間、生存を装って年金など計約106万円を詐取したことを重くとらえた検察側は、「母親の命に重大な結果を及ぼした。死後、何度も年金をだまし取った犯行は悪質だ」として懲役3年6月を求刑した。判決は来年1月13日、言い渡される。

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 今年7月、東京・足立区で生存していれば111歳の男性の遺体が自宅で見つかった。その後、各地で高齢者の所在不明問題が相次いだ。事件は、こうした報道を見た親類の男性が千代さんの姿を見かけないことを不安に思い、同市に相談して発覚した。

 桐本被告の自宅はJR熊野市駅に近い、細い路地を挟んで古い家屋が並ぶ住宅街。8月11日に熊野署へ任意同行を求められた桐本被告は、「母は部屋にいます。状況はわかりませんが、亡くなっていると思います」と淡々と応じたという。

 逮捕状が出た翌12日未明、同署員が桐本被告の自宅へ入ると、1階和室の引き戸にはくぎが打ちつけられ、部屋の前には消臭剤が置かれていた。捜査員が掛け布団をめくると、ビニールで覆われた遺体が横たわっていた。県警幹部は「この小さな町で、こんな事件が起きるなんて……」と息をのんだ。

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 桐本被告は地元の高校を卒業後、ホテル、ガソリンスタンドなどに勤めたが、長続きせず、次第にギャンブルにのめり込むようになる。消費者金融からしばしば借金もした。1994年以降は定職に就かず、2年前に死亡した妻と、長女の収入で生活。借金のうち約100万円分を千代さんに肩代わりしてもらったこともあった。

 第3回公判の被告人質問で、桐本被告は「年金の半分を元手にパチスロで稼ごうとした」と、月平均10万円にも満たない年金を使っていたことを認めた。そんな桐本被告に対しても、証言台に立った長女は「父は唯一の身内。これからも一緒に暮らしたい」と述べた。この時、初めて桐本被告はすすり泣いた。

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 事件発覚後の8月19日、熊野市は「高齢者等所在確認対策委員会」を発足させ、職員10人余で、市内に住民票を置く65歳以上の高齢者7354人(4月1日現在)の安否確認を始めた。通院や介護サービスなど公的援助の利用状況から所在を把握していった。民生委員の協力も仰いだ。これまでに9割以上の所在が判明したという。

 同市健康・長寿課は「職員だけで所在を確認するのは難しい。地域の人たちの力も借りなければならない」とし、まだ接触できていない数%の高齢者について、年明けから引き続き確認作業を進める。

 大阪府池田市は65歳以上の安否確認を制度として定める条例を制定し、来年1月1日から施行する。毎年2回実施し、同居人の拒否があった場合、警察と連携して対応することも検討しているという。こうした例も参考に、行政には一歩踏み込んだ仕組み作りが求められる。

(加藤雅浩)


2010年12月25日  読売新聞)
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