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【子ども貧国】

お弁当に希望詰め 未来が泣いている(1)

2011年1月1日

夫の暴力から逃れ暮らす中で心に余裕が生まれ、子どもたちのために作ったお弁当=東海地方で

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◆暴力から逃れ母子で再出発

 「なんちゃってチキンライス」。それが、加奈ちゃん(6つ)の好物だった。ケチャップをご飯にかけるだけ。具はなし。母親の久美さん(28)は、食べやすいようにとケチャップに砂糖を混ぜた。

 加奈ちゃんが二つになり、妹が生まれたころ、東海地方の自動車関連工場で派遣社員として働いていた父親が失業した。母子家庭で育ち、虐待された経験のある父親は、自分の妻子に暴力を振るい始めた。久美さん名義で消費者金融から借りてパチスロに通った。

 久美さんが働きに出た。日当が数千円の食品加工工場で日雇い。月収は4、5万円。電気やガスを止められたこともある。「寒いから、みんなで寝よ」。母子が一つの布団で寝た。

 久美さんは「だんなの機嫌と、お金がかからない食事ばかりを考えていた」という。夫が家にいる時の夕食は、ごはんにみそ汁と野菜いためなどのおかずが一品。母子だけで取る食事の定番が、甘い甘い「なんちゃってチキンライス」だった。

 加奈ちゃんは、無表情なまま好物を食べた。感情を素直に表すことが苦手な子になっていた。

 「子どもさんに、お弁当を作ってください」。久美さんがわが子のために弁当を作るように言われたのは、1年前のことだった。

 夫の暴力がついに命の危険を感じる域に達し、久美さんは子どもを連れて、「母子生活支援施設」(旧母子寮)に入った。生活に追い詰められた母子のために、国が運営する駆け込み寺だ。

 施設は、母親が働きに出ている間、子どもの面倒をみる。ただし、昼食の用意は母親にしてもらう。子どもの食に責任を持つのが、生活再建の第一歩。そう考えてのことだ。

 「お弁当を見れば、どういう生活をしてきたか分かる」とベテラン職員は言う。コンビニのパンやおにぎり、冷凍食材ばかりを詰めたもの。すさんだ生活の影響を最も受けやすいのが食だ。「入所したばかりの母親はお弁当に彩りなど入れられない」と言う。 

 久美さんのお弁当は、生まれて初めて作ったにしては、上出来だった。卵とソーセージでウサギの顔を作り、ご飯にのせた。「みんな喜ぶかな」。新生活に不安な子どもたちを安心させようとの気遣いを込めた。

 久美さんの母親は料理がうまかった。「母さんの空揚げを作ってみようかな」。お弁当を作るにつれ、貧しさで忘れていた手料理の温かさを思い出していった。

 入所後、しばらくして職員が言った。「加奈ちゃんたち、顔がやさしくなったね」

 加奈ちゃんが通う保育園の遠足の日。久美さんは、にっこりと笑う大きな顔ののりご飯の弁当を作った。

 「今日のお弁当、なあに。見せてよ」。登園する加奈ちゃんに職員が声をかけた。加奈ちゃんは照れ笑いしながら、お弁当袋をそおっと、さすった。 (文中仮名)

◆「7人に1人」

 経済協力開発機構(OECD)が2008年に発表した報告では、日本の子どもの貧困率は13・7%で、7人に1人が貧困状態にある。非正規雇用の増加などで、20年前の12%から悪化した。ここでいう貧困とは、4人世帯で年収が254万円、2人世帯で180万円を下回ることで、生活保護基準にほぼ重なる。子どもの貧困は将来、さまざまな社会問題を生み出しかねない。さいたま教育文化研究所の白鳥勲さんは「本人がどれだけ努力しても貧困の連鎖を脱するのは難しい。社会が解決する問題だ」と話す。

   ◇

 「貧しさに苦しむ子どもたち」。そう聞いても、過去のことか、他の国の話と思われるかもしれない。だが、日本の子どもの7人に1人が貧困状態にあるとされる。経済大国の実相だ。少子高齢化社会で「宝」とされるはずの子どもたち。この国の未来が今、貧困に蝕(むしば)まれている。その現実を直視したい。

 

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