チュニジアに始まった中東のドミノ現象は、リビアで最大の山場を迎えている。ムバラクは30年、カダフィは40年以上も続けてきた独裁政権が、なぜ数ヶ月の間に一斉に倒れるのだろうか。これは前にも紹介した協調ゲームの応用問題である(利得a>b>0は対称とする)。

自由独裁
自由 a  0
独裁 0  b

いま人々が独裁に甘んじているとすると利得はbだが、全員が一挙に独裁に反抗し、政権を倒して自由になれば、利得はaに上がるとしよう。このときナッシュ均衡は複数あり、どちらが選ばれるかは初期値に依存する。パレート効率的なのはaだが、独裁から出発すると自分だけカダフィに反抗しても殺されて利得は0になるので、独裁政権に服従するbがナッシュ均衡になる。この「恐怖の均衡」が40年間つづいてきたと考えられる。

しかし他人が閾値x=b/(a+b)以上の確率で反乱すると予想する場合は、協調して反乱を起こすことが合理的になる。ここで重要なのは、過半数の人々が反乱に参加する必要はなく、反乱分子の確率がxを超えればいいということだ。xは自由の相対的な価値a/bが大きいほど低くなり、たとえばaがbの2倍だとxは1/3だが、100倍だと1/101になり、100人に1人以上が反乱に参加すれば勝てる。

この閾値xは予想なので、人々の心理で決まる。エジプトで政権が倒れて人々が自由になると、aが上がって閾値xが下がり、カダフィに反抗する突然変異の発生確率が高まる。今は大量に発生した突然変異をカダフィが皆殺しにして、均衡の移行を防いでいる状況だが、これは安定した均衡ではないので、独裁か自由かのどちらかに落ち着くまで内戦は終わらない。

このような複数均衡のゲームでは、均衡の移行が不連続に起こる。独裁政権がドミノ的に倒れるのは、隣の国で倒れたという事実が突然変異の予想確率を高め、それによって突然変異が増えて事後確率が高まるフィードバック・ループが発生し、閾値を超えるからだ。バブル崩壊やハイパーインフレも同様の非線形の現象なので、途中で止めることはできない。何も起こらないか爆発的に起こるかの二つに一つである。

トラックバックURL

コメントする

このブログにコメントするにはログインが必要です。               



Twitterクライアント
HootSuite - Social Media Dashboard
連絡先
記事検索
アゴラ 最新記事




メルマガ配信中


アゴラ就職セミナー
アゴラブックス
QRコード
QRコード
Creative Commons
  • ライブドアブログ