【萬物相】「ミリタリースペック」
金融業界で最高レベルの給与を支払う、再保険会社「コリアン・リインシュアランス」に入社する際の最終関門は「野外面接」だ。再保険会社は、一般向けではなく、保険会社を対象に再保険事業を行う会社だ。同社の入社志願者は学歴と経歴共に「スペック(仕様)」が整った若者ばかりだ。面接は朝7時から夜9時まで行われ、登山→サッカー→リレー→サウナ→食事→爆弾酒(ビールとウイスキーのカクテル)という流れで体力面も試される。書類審査を1位で突破した入社志願者が脱落することもある。元海兵隊員のパク・ジョンウォン社長は「自分のことしか考えない人間はいらない。協働精神と強靱(きょうじん)な体力が重要だ」と話す。新入社員は毎年10人前後だが、そのうち1人は元海兵隊員だという。
上場企業の役員のうち、予備役将校訓練課程(ROTC)や学士将校といった将校出身者は5000人を超える。特にサムスンの前職・現職の最高経営責任者(CEO)には将校出身者が多い。李相浣(イ・サンワン)サムスン社会貢献委員会社長、李基泰(イ・ギテ)サムスン電子元副会長、黄昌圭(ファン・チャンギュ)サムスン電子元社長がそうだ。サムスン生命は李水彰(イ・スチャン)代表をはじめ、金相恒(キム・サンハン)資産運用部門社長、権相烈(クォン・サンヨル)、韓鍾潤(ハン・ジョンユン)両副社長も元将校だ。サムスンは除隊前のROTC将校を最初に採用した会社だ。
米国は軍隊でのキャリアを法やシステムで優遇している。1944年に制定された復員軍人援護法(G.I Bill)により、参戦軍人の教育や就職を援助した。99年には、国防省が軍の経歴を認める軍経歴認証書(VMET)制度も導入された。この認定書を会社に提出すれば、その経歴が認められ、就職にメリットがある。また、韓国と同様に徴兵制があるイスラエルでも、最前線や特殊部隊服務者は就職時に優遇される。
韓国でも海兵隊、海軍特殊戦旅団(UDT/SEAL)、特殊戦司令部などの特殊部隊出身者は就職戦線で善戦している。企業が体力と精神力の強い人材を求め、韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件や延坪島砲撃以降、安全保障に対する関心が高まったためだ。このため、つらく厳しい特殊部隊に志願する若者が増えているそうだ。こうした経歴は、軍隊で身に付けるスペックという意味から「ミリタリースペック」と呼ばれている。
アフガニスタンに派遣される陸軍作戦支援隊の競争率が、昨年9.6倍という高倍率に達するほど海外派兵の人気も高い。これには、就職時に派兵された経歴が認められる、という期待も影響したはずだ。かつて大統領を務めた人物は「軍隊に行ったら腐る」と発言し、今も国家指導者層には軍未経験者が多い。その上、多くの若者が「軍隊に行ったら損をする」と考えているのも事実だ。だが、厳しい就職戦線が軍隊に対する若者たちの考えを変えるのに一役買っているとも言える。
鄭佑相(チョン・ウサン)論説委員