きょうの社説 2011年2月25日

◎まちなか定住促進 効果ある施策さらに拡充を
 金沢市のまちなか区域の人口は、転入者から転出者を引いた社会動態が2年連続でプラ スとなり、まちなか回帰の流れが一段と鮮明になった。出生者数から死亡者数を引いた自然動態ではマイナスが続き、全体の人口は減っているものの、社会動態のプラス幅拡大は明るい材料である。

 金沢市は2001年にまちなか定住促進条例を制定し、新築や住宅購入資金の助成、住 宅団地整備、共同住宅建設補助などを進めてきた。何も手を打たなければ人口はもっと減っていた可能性があり、歯止めをかける一定の成果はあったとみてよいだろう。

 定住促進に特効薬はなく、さまざまな施策を組み合わせて地道に取り組むほかない。効 果が確かめられた支援策はさらに拡充し、そうでない施策は使い勝手をよくする工夫がいる。まちづくりと一体となって相乗効果を引き出し、社会動態から見えてきた、まちなか回帰の道筋を本物にしたい。

 金沢市の旧城下町区域を中心とするまちなか区域の今年1月1日時点の人口は6万76 6人で、前年より446人減少した。中心部は高齢化率が高く、自然動態はしばらくマイナス傾向が避けられない見通しである。

 その一方で、社会動態は135人増となり、定住促進条例施行以降で初めてプラスに転 じた前年の70人から拡大した。地価下落傾向に加え、戸建て購入や新築に補助する奨励金などが転入を後押ししたとみられる。

 金沢市は今年度、まちなかの空き地、空き家を減らすため、インターネット上で、まち なか住宅再生バンクを開設して情報を一元化し、バンクと連動した新たな定住支援制度もつくった。空き地、空き家の増加は景観上もマイナスとなるだけに、官民の連携をさらに強化する必要がある。

 まちなかへの定住を促すには、そこに住むことが快適であるという共通認識を広げるこ とが大事である。そのためにも小売、医療・保健施設など生活基盤の充実は欠かせない。金沢では町家暮らしに価値を見いだし、積極的に楽しむ人も増えてきた。そうした居住スタイルにも光を当て、まちなかの魅力を発信していきたい。

◎緊迫する中東 警戒すべきリスクの増大
 緊迫するリビア情勢が原油価格の急騰を招き、世界経済に影響を及ぼし始めている。エ ジプト、チュニジアの「革命」がどこまで波及するか見通せないが、世界の原油供給地である中東諸国のいわゆるカントリーリスク、地政学的リスクが一気に高まり、強い警戒が必要な時代に入ったことは確かである。

 国内の原油の大部分を頼る中東諸国は、成長戦略の柱であるインフラ輸出の相手国でも あり、日本にとって死活的に重要な地域である。それだけになお各国の政治リスクには特段の注意を払う必要があり、中東地域の情報収集力を強化しなければなるまい。

 日本政府は昨年12月中旬、アラブ連盟との共催で「第2回日本・アラブ経済フォーラ ム」を開き、エネルギーや環境、科学技術、貿易、金融、観光などさまざまな分野で経済協力を進める共同声明を発表したばかりである。

 政府は今後、原子力や太陽熱発電、上下水道、鉄道インフラなどの売り込みを積極的に 行っていく構えである。そのためにはリスク管理が不可欠であるが、アラブ連盟との経済フォーラムが開かれたチュニジアでは、それからわずか1カ月後に「ジャスミン革命」と呼ばれる政変が起きた。現地の日本大使館がチュニジアの政情をどれほど正確に把握していたか、気になるところである。

 外務省の情報収集能力や分析力に関しては、昨年、当時の駐ロシア大使がメドベージェ フ大統領の北方領土訪問の情報収集が不確かで、事実上更迭されるという「失態」が記憶に新しい。

 長年の課題である原油の調達先の分散化に再度本腰を入れる必要もある。2度の石油シ ョックを経験して、原油の中東依存率は1987年に67%まで低下したが、輸入先のアジア諸国自身の需要拡大で、中東依存率が再び90%ほどに高まっている。最大の輸入先であるサウジアラビアとアラブ首長国連邦は豊富なオイルマネーで福祉政策が充実しており、反政府デモは起こりにくいといわれるが、警戒を怠らず、原油の備蓄体制を拡充する必要もあろう。