共通番号制度:個人情報保護の体制強化が課題に

2011年2月7日 21時25分 更新:2月7日 23時6分

 政府は7日、15年1月の利用開始を目指す「税と社会保障の共通番号制度」について、個人情報の保護策を検討する作業部会の初会合を開いた。制度導入により、社会保障サービスの充実や行政手続きの簡素化など国民の利便性が高まる半面、個人情報の漏えいや番号の不正利用の懸念もつきまとう。制度導入に国民の理解を得るためにも、情報保護体制の整備・強化をいかに図るかが最大の課題になる。【谷川貴史、久田宏】

 「国民は個人情報保護について政府に対して不安感を持っている」「個人情報保護の規制を強化しなければいけない」。7日に初会合を開いた政府の「個人情報保護ワーキンググループ」(座長・堀部政男一橋大名誉教授)では、メンバーの弁護士や学識者などから、徹底した個人情報保護策の必要性を訴える声が相次いだ。

 政府が導入方針を決めた共通番号制度は、年金、医療、福祉、介護、労働保険、税を対象に、国民一人一人に番号を割り振る制度。番号の活用により、1枚のICカードで年金手帳と医療保険証、介護保険証の代用ができたり、納税などの手続きが簡素化できることなどの利便性をアピールしている。

 一方で、プライバシー侵害など番号制度に対する国民の警戒感は根強い。過去に浮上した「納税者番号制度」や、02年に稼働した住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の導入を巡る議論でも、強い反対論が巻き起こった経緯がある。個人情報保護のための具体策づくりが最大の課題になっている。

 住基ネットで取り扱う情報は氏名や生年月日など4種類に限られるが、共通番号制度では個人の医療や年金に関する記録や、所得に関する内容など、扱う情報は多岐にわたり、流出した際の危険度はより高い。また、行政機関のみが情報を取り扱う住基ネットと異なり、医療機関や金融機関など民間の利用を前提にしているため、情報の管理も難しい。

 番号制度がすでに導入されている各国では、情報流出や不正使用の例が後を絶たない。韓国では06年に大手通信会社から700万人以上の個人番号を含む情報が流出し、情報が売買されるなどして大きな問題になった。米国では他人の番号を不正に使って、年金を不正受給するなどの「なりすまし」が相次いでいる。

 日本でも、住基ネットを巡る情報漏えいやなりすましがすでに起きており、「情報流出などの危険性がある」として、いまだに住基ネットに参加していない自治体がある。

 新たな番号制度を巡っては、名古屋市の検討委員会が昨年12月、「個人情報保護に多大な影響を及ぼす可能性がある」として、反対の意見書を市長に提出した。委員長の平松毅・姫路独協大教授は「プライバシーにかかわる広範なデータを国家が管理することは人権上も問題があり、犯罪を誘発することで『なりすまし天国』になる恐れがある」と警告している。

 ◇第三者機関が焦点に

 政府は作業部会で検討を進めたうえで、5月をめどに個人情報保護の具体策を取りまとめる方針だ。最大の焦点になりそうなのは第三者機関の設立だ。欧州各国では、個人情報の保護を巡り、問題があった際の調査や制裁、苦情処理などの幅広い権限を持った監督機関が設立されている。

 フランスでは、病歴など特に重要度の高い個人情報を扱う機関は、情報保護を担当する国家委員会の「許可」が必要で、同委は警告、許可の取り消しなどの権限も持つ。ドイツでは監察官が、行政機関や一部民間事業者に立ち入り検査を行い、データ保護法に違反する事例があれば裁判所への訴追も可能だ。

 こうした事例を参考に日本でも、第三者機関のあり方について検討が進む見通しで、7日の作業部会では「(独立性が高く、立ち入り検査などの権限を持つ)公正取引委員会と同じレベルのかなり強い権限にしなければ、国民の不安感をぬぐいきれない」などの指摘が出された。

 保護策については、自らの情報にどの機関がアクセスしたかを国民自身が確認できる制度の創設や、不正な情報活用・情報流出を防止するための罰則強化なども検討課題になる見通しだ。

 また、作業部会では、「最小限の利用範囲から出発し、最大限の個人情報保護を基本線にすべきだ」と、当初は番号の活用範囲を限定すべきだとの意見も複数出た。ただ、番号の利用範囲を絞れば、利便性の向上は限られたものになり、国民の納得感も薄くなる。政府は、安全性と利便性のバランスをどこでとるのか、難しい判断を迫られそうだ。

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