新燃岳噴火:避難勧告、割れた判断

2011年2月5日 20時30分 更新:2月5日 22時0分

火口の中央部から噴火が始まった霧島山系・新燃岳。火口を覆う溶岩の中央付近にくぼみらしきものがみられた=2011年2月4日午前、東大地震研究所・金子隆之助教撮影
火口の中央部から噴火が始まった霧島山系・新燃岳。火口を覆う溶岩の中央付近にくぼみらしきものがみられた=2011年2月4日午前、東大地震研究所・金子隆之助教撮影

 霧島山系・新燃岳(しんもえだけ、1421メートル)の噴火で、ふもとの宮崎県高原町が一部住民に避難を勧告して6日で1週間。町は5日、大半の勧告を解除したが、3年前に気象庁が5段階の「噴火警戒レベル」を設けてから始まった噴火活動で、自治体が避難勧告を出したのは初めてだ。噴火警戒レベル3(入山規制)で避難の必要はないと判断した気象庁と必要と判断した町。情報はうまく共有されたのか検証した。【三木陽介、小原擁、八田浩輔、飯田和樹】

 事態が動いたのは先月30日夜。火口では溶岩が急速にたまり始めていた。高原町には午後10時前に県から「火口付近のガスが抜けず、急激に爆発して火砕流発生の恐れがある」と情報が入った。町は約1時間後の対策会議で、ハザードマップなどを基に検討した結果、同11時50分に火口から最短6.5キロの513世帯に避難勧告を発令。町は「気象庁の情報を十分精査していなかった面はあるが、住民の安全を第一に考えた」と強調する。

 一方、東京の気象庁では、午後9時ごろには噴火警戒レベル3のまま規制範囲を2キロから3キロに広げることを決めていた。同庁火山課は「事前に避難に関する相談があれば『そこまでは必要ない』と言えたが、より安全側に立った自治体の判断だと思う」とする。

 避難勧告は災害対策基本法に基づき市町村長が発令するもので、気象庁には避難を迫る法的根拠はない。警戒レベルや規制範囲はあくまでも目安だ。

 それでも避難措置は暮らしの変更を迫り、首長は慎重にならざるを得ない。91年の火砕流で死者43人を出した雲仙普賢岳の災害当時、長崎県島原市長だった鐘ケ江管一さん(80)は「噴火はいつまで続くか難しく、(勧告などは)苦渋の決断だ」と振り返る。31日に高原町を訪れた河野俊嗣・宮崎県知事は「住民の生命や安全を守る責務を首長は負う。万全の判断だ」と町の姿勢を評価した。

   □  □

 「気象庁や私たち火山学者は、地下のマグマの状態から危険性を科学的に判断している。その点は信頼してもらいたい」と語るのは、京都大の鎌田浩毅教授(火山学)。高原町の判断に理解を示しつつ「今回は根拠に基づく『安全情報』が、必ずしも地元の『安心』につながらなかった。東京の気象庁と地元の気象台、自治体間で情報共有のあり方に課題を残した」と話す。

 また、火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長(東大名誉教授)は3日の会見で「地元で自ら判断するのは決して悪いことではない。ただ、それが正しい判断かどうかは気象庁と相談した方がいい。また気象庁もそれに応じた情報を出してもらわないと困るので努力をしてほしい」と話した。

 政府は警戒レベルが上がった場合の事態に備え、被災地域での避難計画の策定などを支援するチームを7日に現地に派遣する。

top

PR情報

スポンサーサイト検索

アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド