エジプト:ムバラク大統領即時退陣拒否 米への反発渦巻く

2011年2月5日 11時30分 更新:2月5日 13時0分

 混迷が続くエジプトのムバラク大統領が、相次ぐ大規模な反大統領デモや最大の同盟国・米国の「即時退陣」要求をはねつけ、辞任を拒否している。内憂外患の窮地にありながら、今年9月までの任期の全うに固執するムバラク氏の胸中には、30年間にわたり「アラブの盟主」エジプトを率いてきた自負心と、古くからの盟友を簡単に切り捨てようとするオバマ米政権への反発が渦巻いているに違いない。

 シャフィク首相は4日、中東の衛星テレビ局アルアラビーヤのインタビューで、「大統領の存在は国家安全保障の源だ」と語り、即時辞任はあり得ないとの見方を示した。

 この日は反大統領派の呼びかけで、首都カイロ中心部のタハリール広場に推定約20万人が集結、大統領の辞任を要求。暴力的な衝突など大きな混乱はなかったが、首相の発言は米国などが求める新政権への移行がこうちゃくしている印象を与えた。

 9月に予定される次期大統領選まで7カ月。残り任期にこだわるムバラク氏の心境は、今月1日の退陣表明演説や米ABCとの3日の会見から読み取れる。「私はエジプトを守るために30年間戦ってきた」との一言に、ムバラク氏の心中は凝縮されている。

 エジプト空軍司令官だった同氏は、宿敵イスラエルとの第4次中東戦争(73年)で形勢を有利に導いた功績で一躍「英雄」になった。81年の大統領就任後も、前任のサダト大統領を暗殺したイスラム過激派組織との戦いに明け暮れた。「体を張って国を守った」との強い自負心が、辞任要求をはねつけている。

 オバマ米政権への憤りもある。暗に辞任を求めるオバマ大統領に対し、ムバラク氏は「エジプトの文化も、私が今辞任したら何が起こるのかも分かっていない」と反論した。米国から巨額の支援を受けてはいるが、国民の不評を押してイスラエルとの平和条約を守り続けてきたのは自分だとの意地が垣間見える。

 辞任拒否の理由は、感情論だけではない。次期大統領選の行方を左右する、憲法改正論議への影響力の確保も念頭にあるとみられている。ムバラク氏の多選は、巨大与党に有利な厳しい立候補要件によるところが大きい。憲法改正に際し、同氏が土壇場で介入する可能性を指摘する専門家も少なくない。

 ムバラク氏は退陣表明の時、「私とその他の者たちの評価は歴史が下すだろう」と語った。発言の裏には、自分が大統領を辞めれば、エジプトの治安も米国の中東政策も立ちゆかなくなるぞ、との脅しが隠されている。【カイロ樋口直樹】

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