2011年2月4日 21時56分 更新:2月5日 0時20分
【カイロ和田浩明】エジプトの反大統領派は4日、イスラム教の金曜礼拝に合わせて「追放の金曜日」と銘打った大規模デモを実施し、カイロ中心部のタハリール広場には数万人が集結した。ムバラク大統領に即時退陣を迫る今回のデモは各地に拡大し、大統領支持派との緊張も高まっている。先月25日のデモ開始以来の混乱は既に11日目に突入し、「ムバラク後」を見据えた米国の「後継工作」も加速。燃えさかる反大統領運動の背後で、政治的駆け引きが本格化してきた。
反大統領派の拠点となっているタハリール広場。金曜礼拝で人々は自然と高揚し、突然、国歌を斉唱する声も聞こえてきた。朝から続々と詰めかけ始め、広場の入り口では手荷物検査などを待つ長蛇の列ができた。
若者、老人、女性、親子連れ……。あらゆる階層の顔が見える。記者が警備の兵士にパスポートを提示すると、笑顔で肩をたたかれた。数回のチェックを受けて、ようやく広場内に入った。2日の大統領支持派による攻撃で負傷したのか、顔や頭に包帯を巻く人がいる。疲れ切ってしまい、芝生の上で眠り込む人も多い。
「人々は自由のために、ここに集まった。政府は国民の声を聞くべきだ」。礼拝が始まり、イスラム教の宗教指導者が説教を始めると、広場は巨大なモスク(礼拝所)と化した。人々は聖地メッカ(サウジアラビア)の方角を向き整然と並んで、ただ祈る。感極まり、おえつする男性も。静寂を破るのは、スピーカーから流れる聖典コーランの引用と、上空を旋回する軍ヘリコプターの爆音だけだ。
反大統領派の要求はムバラク大統領の「即時退陣」だ。しかし、今のところ大統領にその意思はない。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3日、米政府が、スレイマン副大統領率いる暫定政権に権限を移譲させる案をエジプト側と検討していると伝えた。副大統領は大統領の側近で、事実上の後継者とも目される。中東の衛星テレビ・アルジャジーラによると、副大統領は、半世紀以上にわたり非合法化してきたイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」の政治的合法化を容認する考えも示唆して懐柔に乗り出した。
だが、反大統領派の不信感は根深い。スレイマン副大統領についても「(ムバラク大統領と)同じシステムの人間。受け入れられない」(40代女性教員)との見方が大半だ。配管工のアハマド・アブドルアミさん(38)は「子供たちが自由に歩ける国にしたい。それまでここを離れない」と話した。
午後1時(日本時間午後8時)前。礼拝が終わると、広場は「変化」への期待感に満たされた。人々は「メルハル(去れ)」「バーテル(偽物め)」と叫び、拳を突き上げてデモが始まった。
「民衆の力で独裁政権を倒せるとチュニジアから学んだ」。医師のアハメド・ナグラさん(29)はそう言って、「ムバラク大統領は自らの威厳を保つことしか考えていない。国民の尊厳などお構いなしだ」と吐き捨てるように言った。「ムバラクが去らなければ同じことが続く。即時退陣しかない」。広場には、次期大統領選出馬に意欲を見せるムーサ・アラブ連盟事務局長も姿を見せた。
国軍はこの日、広場に有刺鉄線を張り巡らせるなどして、前日まで続いた大統領支持派の「再襲来」に警戒を強めた。タンタウィ国防相も状況視察に足を運んだ。大統領支持派の姿は見えないが、デモ隊の中には自分の周りに石をかき集めたり、投石に備えてヘルメットをかぶる人もいた。「市民同士」の流血の記憶は生々しい。
ロイター通信によると、デモは各地に拡大し、北部アレクサンドリアやスエズでも数千人が集まった。イスマイリアでは約100人の大統領支持派もデモを繰り広げたが、軍が反大統領派の集結場所から分断し、激突は避けられた模様だ。
カイロでは、デモ隊はタハリール広場のほか、国営テレビ局や人民議会(国会)にも参集するよう呼び掛けた。英BBCによると、同広場から約12キロ離れた大統領宮殿まで行進する構えも見せており、エジプトの緊張は最高度に達している。