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社説:年金改革 まず一歩を踏み出そう

 人類が経験したことのない超高齢化社会を迎えようとしている日本には、財政危機という大津波も押し寄せつつある。産業や雇用構造の変化に合わせて社会保障の仕組みの再構築が必要になっている。最近の何代もの政権が緊急の課題として社会保障と税制の議論を繰り返してきたことは当然のことだ。

 特に老後の人生設計に欠かせない年金制度への信頼回復が急務になっている。一刻も早く必要な改革に着手し、国民の生活への安心感を取り戻す必要がある。

 ◇被用者年金の一元化

 年金問題の核心は未納による無年金・低年金で生活困窮者が増えること、少子化で保険料を負担する層が先細りしていくことにある。制度を支える加入者を増やすためには、若者が納得して加入しやすい仕組みにする必要がある。同時に医療や介護、雇用、子育てなど総合的な改革を考えていくことが重要だ。

 毎日新聞は08年、働き方の多様化に合わせてすべての人を対象にした制度の一元化、現在の基礎年金に代えて税による最低保障年金を創設するなどを内容とする年金改革案を発表した。負担と給付の関係をシンプルにすることで、公平で分かりやすい仕組みを追求したものだ。将来目標として優れた案と確信しているが、ハードルの高い問題がいくつかあった。自営業者は所得把握が難しいこと、新制度への移行には長期間を要することなどである。 

 また野党時代の民主党は自公政権の年金改革案や与野党協議への呼びかけを拒否し、あくまでも抜本改革を主張してきたが、政権交代後も改革は進まなかった。その間、財政赤字は悪化するばかりで失業率も高止まりし、高齢化の進展で医療や介護の立て直しも迫られている。

 理想に固執するほど改革は難しくなり、年金不信を増幅するという悪循環に陥っている。できるだけ早く不信を払拭(ふっしょく)する必要がある。

 年金改革案は経済団体や連合、新聞各紙が発表しているが、それぞれ一長一短ある。現在の課題は「今すぐやるべきこと」「すぐに着手するのが難しいこと」に整理して改革への一歩を踏み出すことだ。

 毎日新聞が今回提案する緊急課題は次の4点だ。

 (1)厚生年金と共済年金を一元化し被用者すべてを対象とする「新厚生年金」(仮称)を創設する

 (2)未納・未加入者の多くを占めるパートなど非正規雇用労働者に対し新厚生年金の適用を広げる

 (3)無年金・低年金者に過渡的措置として税による「高齢者福祉給付」(仮称)の創設を検討する

 (4)税と社会保障の共通番号導入

 公務員向けの手厚い共済年金と厚生年金を一元化する準備は自公政権時代に進められてきた。まずこれを実施すべきだと考える。

 非正規労働者の待遇改善や社会保障の拡充は雇用問題としても優先的に取り組まなければならない。経営が不安定な中小企業には優遇税制や雇用関係の各種助成金制度を見直すなどで非正規雇用への新厚生年金適用を促す施策を検討してはどうか。これらを実行すれば対象者の約9割が新厚生年金に入ることになる。

 現在の無年金・低年金者には年金制度とは別枠の税財源による「高齢者福祉給付」を新設する。生活保護の中での対応とするか、給付水準、所得や資産調査をどうするか。各国で既に実施されている同種の高齢者給付を参考にして検討する。

 ◇消費税増税は不可避

 公平な年金制度の実現には共通番号を導入し国民の所得や資産を正確に把握する必要がある。自営業者を含めた完全一元化の検討の際も番号制度は不可欠だ。

 四つの緊急課題は5年以内の実現を目指す。新厚生年金や高齢者福祉給付の状況を見た上で、第2段階で08年に提言した完全一元化や最低保障年金の必要性、実現可能性を検討し、5~10年で実施に移す。

 年金に関心が集中するのは現在の生活が不安だからでもある。医療や介護、住宅政策を充実すれば年金への過度の依存や、現在の生活不安を解消することにもつながる。

 わが国の65歳以上の高齢者人口は55年に40%に達する。だが、高齢者の数を見ると現在が最も増加率の高い渦中にあり、25年ごろから緩やかになり次第に減少していく。

 一方、医療や介護に多額の費用が必要とされる75歳以上の人口を見ると、05~25年の間に約2倍に増える。この先十数年間が最も医療・介護のニーズが膨張する期間なのだ。こちらの問題にも十分に備えておかなければならない。

 消費税で本来賄うことになっている年金・医療・介護の「高齢者3経費」は現在でも約10兆円足りない。このままでは不足分は毎年1兆円ずつ増えていくといわれる。将来の必要経費を予測した上で、消費税率の引き上げなどの増税を実施しなくては賄えない。

 一口に高齢世代と言ってもその資産や所得はさまざまである。所得格差も広がっている。若年世代の負担を軽減するためにも、高齢世代の間での再配分を視野に入れた税制の検討も必要になるだろう。

毎日新聞 2011年2月24日 2時30分

 

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