余録

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余録:ちょうど80年前の2月3日に起こった出来事は…

 ちょうど80年前の2月3日に起こった出来事は、この国の人々に真夏の悪夢のように語り伝えられてきたという。え、2月は真冬ではと思った方、これは南半球のニュージーランドの話で、北島の都市ネーピアを襲った大地震のことだ▲「ホークスベイ地震」と呼ばれるこの地震は建物の倒壊と火災で死者258人を出す同国最悪の震災となった。だがきのう南島のクライストチャーチを襲った地震は死者多数を出し、なお200人が建物に取り残されている可能性があるという。真夏の悪夢の再来だ▲地震列島の一住人として人ごとではないと思っていたところに飛び込んできたのが、日本人語学研修生らの被災の知らせだった。富山県の外国語専門学校の生徒が壊れた建物に閉じ込められたり安否不明になり、他にも連絡の取れぬ在留邦人の情報が相次いだのだ▲南半球と北半球の違いで季節が逆転しているとはいえ、地勢や自然環境で不思議なほど日本列島と似通っているニュージーランドである。太平洋プレートと大陸プレートがぶつかりあう地殻構造や火山、温泉の多さ、そして地震の多発という共通の宿命も負っている▲だからニュージーランドを訪れ、その自然に魅せられる日本人が多いのは不思議ではない。故郷に似た美しい国で英語を学ぶ若者の楽しそうな表情がいやでも頭に浮かんでくる。その何人かが今、がれきの下の暗闇で苦痛と恐怖に震えているかと思えば胸がつぶれる▲現地が混乱する今は間違いゆえの安否の情報の錯綜(さくそう)もあるだろう。日本人であれ誰であれ、一人でも多い所在不明者の無事が一刻も早く確認されるよう祈る。

毎日新聞 2011年2月23日 東京朝刊

 

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