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社説:中東情勢 経済への警戒も怠るな

 中東情勢の緊迫が世界経済の先行きに影を落とし始めた。政情不安が原油輸出国のリビアで深刻化したことを受け、世界の商品市場で原油の先物価格が軒並み2年数カ月ぶりの水準まで急騰した。アジア、欧州などの株式市場も揺さぶられた。22日の東京株式市場では、日経平均株価が一時200円超の下げ幅となり、上昇基調が戻ったかに見えた市場に冷水を浴びせた。

 折しもインフレが世界経済の最大リスク要因として懸念され始めた中での中東緊張であり、警戒したい。食料高騰に加え、人々の生活に直結するエネルギー価格が一段と上昇すれば、政情不安が中東・北アフリカから他地域に飛び火し、混乱の連鎖が拡大する恐れも否定できない。

 チュニジアに始まった長期独裁政権への抗議デモはエジプトに波及し、ムバラク政権の崩壊につながった。その過程で、一時的に原油価格が急上昇する局面もあった。

 しかし、今回は原油輸出量が世界12位のリビアを舞台とした混迷だ。同国には欧米やロシア、南米など世界各国から石油会社が進出している。すでに一部で減産や従業員を国外に脱出させる動きを始めた外国企業もあるようだ。混乱が長期化すれば、輸出への影響や先物価格の一段の高騰は避けられまい。

 仮に最高指導者カダフィ大佐が早期退陣しても、価格高騰がすぐに沈静化するかどうかは不確かだ。権限が極端に集中していた指導者の失脚により、外国企業が交わしていた契約が宙に浮き、生産が回復するまで時間がかかる恐れがある。

 現時点で最も気になるのは、原油輸出の要であるペルシャ湾岸諸国への波及だ。世界最大の原油輸出国、サウジアラビアが不安定化したり、同じく主要産油国のイランで体制が揺さぶられる事態になれば、影響はリビアの比ではないだろう。

 もちろん過剰反応は慎まねばならない。パニック的な行動は価格高騰に拍車をかけるだけだ。しかし、警戒しておく必要はある。菅直人首相が、中東情勢に関する情報収集や邦人保護、原油高騰への対応を指示したが当然のことだ。

 高まるインフレ懸念に産油国の緊迫。日本経済への打撃をいかに最小化させるか、今から検討しておかねばならない課題は多いはずだ。

 外からのショックに対する危機管理に加え、庭先の問題を解決することも、混乱を抑えるうえで重要だろう。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが日本国債の格付け見通しを下方修正するなど、財政への注目度が高まっている。永田町のコップの嵐にかまけている場合ではないのだ。

毎日新聞 2011年2月23日 2時30分

 

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