チュニジアの「ジャスミン革命」に端を発した反政府・反体制デモは燎原(りょうげん)の火の如(ごと)く広がり、北アフリカからペルシャ湾岸諸国のほぼ全域に及んでいる。民主化を求めて立ち上がった民衆のデモは不可逆的であり、もはや後戻りできない奔流となっている。
こんな中にあって軍隊が自国民に銃口を向けてデモ隊を武力で徹底的に弾圧し、多数の死者を出しているのがリビアである。チュニジアやエジプトでは軍隊が中立を保っていたが、リビアでは民衆に対して牙をむいており、そこが決定的に違う点だ。
リビアは反欧米の強硬姿勢を貫く最高指導者のカダフィ大佐による独裁政権が41年も続く。似たような独裁的な政治体制が多い中東でも異例の長さである。
外電によると、デモ隊は首都トリポリに拡大、戦闘機やヘリコプターがデモ隊に対し空爆し、地上では治安部隊が実弾を発砲しているという。
自国民を殺戮(さつりく)する蛮行は、許されない。カダフィ氏は即刻退陣すべきである。
同国は言論・情報統制が徹底的に敷かれ、秘密警察が暗躍しているとされる。1969年以降、体制批判をした数千人が粛清されたという情報もある。自国民への無差別攻撃では外国からの「雇い兵」の存在が指摘されている。
カダフィ氏の最有力後継者の次男は国営テレビで「リビアはチュニジアやエジプトとは違う。最後の一人になるまで戦う」と演説した。デモ隊との徹底対決を意味し、いっそう混乱する可能性がある。
だが、カダフィ独裁政権も内部からほころびが出始めている。「終わりの始まり」の動きかもしれない。
同国の国連次席大使はカダフィ氏の退陣を公然と要求した。革命指導評議会のメンバーが退陣を求めることを決めたとも報じられている。各国駐在のリビア大使が次々と辞意を表明した。母国で起きたことを見れば、いずれも当然の要求であり、行為である。
本国では法相もデモ隊への過剰暴力を理由に辞任した。
デモが始まった第2の都市ベンガジで軍の一部部隊が実弾での弾圧を拒否しデモ隊に合流した。離反の契機となった。ベンガジは反体制派が支配したようだ。空爆命令を受けたパイロットも拒否、行き先をマルタに変更した。
カダフィ氏が国外脱出したとの情報が流れたが、自ら国営テレビに出て否定した。流血の混乱を極めるリビアの先行きは予断を許さない。
デモ隊や市民は厳しい情報統制をかいくぐって動画投稿サイト「ユーチューブ」や短文投稿サイト「ツイッター」で現状を伝えているようだ。
民衆は政治腐敗や貧富の格差、30%に上る失業率、物価高騰に不満を募らせている。
同国は外国メディアの取材を一切許していない。インターネットの普及度が低く、チュニジアやエジプトのようにはいかないかもしれない。
国連安全保障理事会は緊急会合の開催を決定した。これ以上、無辜(むこ)の市民を犠牲にしてはならない。国際社会は、蛮行をやめさせるよう一致して働き掛けを強めるべきだ。