2011年1月19日 21時16分 更新:1月19日 22時14分
日本経団連の米倉弘昌会長と連合の古賀伸明会長が19日、東京都内で会談し、11年春闘の交渉が実質スタートした。賃金水準を底上げするベースアップ(ベア)の統一要求を2年連続で見送った連合は新たに「諸手当、一時金を含めた給与総額の1%引き上げ」を掲げた。これに対し、経団連は、国際競争の激しさを理由に人件費増への慎重姿勢を崩しておらず、給与総額を巡る攻防は激しくなりそうだ。一方、業績回復のばらつきを反映し、組合側の足並みも「1%」でそろわず、連合と個別組合の方針の違いも目立ち始めている。
19日の会談で、経団連の米倉会長は「雇用の維持と安定が最優先」と強調した。円高基調の定着と新興国の急成長で、メーカーが生産拠点を相次いで海外に移している中、事実上、「国際競争力維持のため賃金を抑えなくては、国内の雇用を守れない」との認識を突きつけた。一方、連合の古賀会長は「労働者の配分を高め、消費拡大につなげることで経済も成長する」と、賃上げこそ景気回復の第一歩と反論した。
だが、古賀会長の舌鋒(ぜっぽう)とは裏腹に、組合側は厳しい立場に置かれている。ベア統一要求は、連合だけでなく、春闘相場に大きな影響を与える産業別労働組合の自動車総連、電機連合も見送った。労働界に「先行き不透明感が強まっている。(定昇など)賃金制度の維持が(労組の)責務だ」(西原浩一郎・自動車総連会長)との見方が広がっているためだ。
ベアに代わる「1%アップ」について連合は「厚生労働省の統計で、09年の一般労働者の賃金が、ピークの97年から5.1%減少した。それを1%ずつ5年かけて取り戻すため」と説明する。
ただ、自動車総連は13日に決定した交渉方針に「1%」を盛り込まなかった。定昇維持と一時金増で昨年を上回る水準は求めるものの「傘下企業の業績回復にばらつきがあり、統一的な引き上げを求める状況にない」(関係者)からで、傘下単組も1%アップを求めることはないとみられる。
電機連合も「賃金水準の改善要求を行う状況にはない」としてベアとともに見送る。このため「1%引き上げ」を掲げる産別は、繊維や食品、流通業界の「UIゼンセン同盟」などに限られる見通しだ。労組側の足並みの乱れを見透かすように、経団連側は「1%は困難」との発言を繰り返しており、連合幹部は「産別が企業組合を引っ張る役割を果たしていない」と不満そうに語る。
明確な定昇制度のないことも多い中小企業はさらに深刻な状況にある。金属・機械の中小労組などで組織する産別「JAM」傘下の300人未満の組合の平均月額賃金は、過去10年で7245円下がった。JAMは定昇制度のない組合について、「定昇相当分」4500円を含む計6000円の賃金上積みを求めるが、JAM幹部は「中小は大手に影響される。大手が賃金改善要求をやめると、中小の組合はもっと苦しくなる」と不安を隠さない。【宮崎泰宏、市川明代】