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[26146] IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:b6052bea
Date: 2011/02/22 15:47
最初に見たのはガラス越しに見える良く分からない機械が沢山敷き詰められ弱々しい光に照らされた部屋。

最初に聞いたのは『白き少女』を包む水の揺れる音。

呼吸をすれば自分の口から酸素が吐き出されコポコポという音と共に上の方へと浮かんでは消えていく…。

ゆらり、ゆらり、入れ物に満ちた水が彼女を揺らす…。

(…此処は何処?)

知らない場所だ。いや、そもそも自分が誰なのか。どうしてこのような場所に居るのか。何故存在しているのかすら彼女には分かっていなかった。

彼女はキョロキョロと辺りを見回し、ぺたぺたと自分を閉じ込めているガラスの壁を触れては不思議そうに白い髪を揺らし首を傾げる。

(わからない)

何度考えても、何度辺りを見回しても自分の置かれている状況に彼女は理解出来ないで居た。しかしそれは当然な事なのだろう。彼女にとって自分が何者なのかと言う記憶など最初から存在しないのだから…。

(…こわい)

心細い。寂しい。それが彼女にとって最初の感情だった。目覚めた場所が誰も居ない部屋で、しかも狭いポッドに閉じ込められればそう感じるのは当たり前なのかもしれない。閉じ込められた少女はガラスを叩き外に呼び掛けるもポッドの防音は完璧に機能しており少女の声は外には届く事は無かった…。







あれからどれ程の時が経過したのだろう。陽の光どころか常時薄暗いこの部屋には時間と言う概念から隔離されているのではと錯覚までしてしまう程だ。しかし幾ら時間が分からないと言っても延々と声を出し続けていれば当然体力も消費する。幼い少女となればなおさらだ。先程まではガラスを叩き大きな声で助けを呼んでいたその姿も今では疲れ果て膝を抱え込み眠たそうにうとうととした表情で液体の中を漂っている。このまま疲れて寝てしまうのだろうか。そう思われたその時だ。

「これが例の欠陥品かね?」

閉ざされた部屋の入口が開かれ、その入口から漏れた光が彼女を照らしたのは…。

開かれた扉からはぞろぞろと見知らぬ大人達が入ってきた少女が入っているポッドを囲んで行く。何人かは部屋に置いてある機械を操作していたが少女にはそれが何なのか子の大人達が誰なのかは分からない。

「はい。髪の色素もそうですが、肉体の強度も他の実験体と比べて大きく劣っています。とても計画に使えるとは…」

(…誰?)

部屋に入ってきた大人達はきっと科学者か何かなのだろう皆、白衣を身に纏っていた。そして白衣達はこの部屋にいきなり現れてはポッドを見上げて口々に「欠陥」だの「劣っている」だのと目の前に居る少女を馬鹿にするような言葉を吐き、汚らしい物を見る様な目で彼女を睨む。しかしそんな視線を向けられている当の本人は唯不思議そうに此方を見上げて来る人物達を眺めていた。その姿はまるで水族館でべったり水槽にへばりついて水の中を泳ぐ子供の様だったが、立場はまるで逆でそれに眺めて居る物も大勢の大人。余り見て心が和む光景では無い。寧ろ一般人から見れば不快極まりない物だろう。

「オリジナルや他のクローン達の髪の色は黒だと言うのに白とは…」

「何処かで問題が生じて…」

「髪だけでは無い。肉体の方もだ。これでは強化工程に耐えられん。これは明らかに失敗作だ」

(よく聞こえないや…)

額をガラスにくっつけて耳を凝らすも彼等の声は少女には届かない。

(…なに話してるんだろ?)

そんな彼女を他所に、少女の目の前で何やら討論を始める科学者らしき者達。科学者らしき者達の表情はどれも優れずに居た。その表情から察して彼女の存在は余りにも予定外の事であり大きな支障だったのだろう。これだけの設備だ相当の金額が動いているに違いない。

「では、この欠陥品は廃棄しますか?」

「馬鹿を言うな!これ一体作るのにどれだけの費用を使ったと思っている!?」

「しかしこれのパラメーターでは先程も申しましたように今後の計画に耐えられるか…」

「…刷り込みは出来ているのだろう?」

この中で一番立場が上の人物だろうか。今まで黙って少女を見上げていた男が初めて口を開き低い声を鳴らして隣に控えていた男に問う。

「はい。他のクローン同様。戦闘知識他、規定の教育課程の刷り込みは完了しています」

男はそうかと頷くと暫し考える仕草を取りもう一度少女を見上げ呟く。

「…ISのデータ取りに使う。少しでも元を取れ」

「しかし所長。これは他の実験体とは違い何時壊れても可笑しくない状態で「誰か手の空いている者にこれの傍に常に待機させ監視させろ」は、はぁ…」

「我々にはもう後が無い。失敗は許されんのだ。良いな?」

「は、はい!」

次は無いそう言い聞かせる様な冷たい目で睨まれ、男の部下と思われる男性はその眼に怯え、声を震わせながらも返事をする。男はその返事を聞くと同時に白衣を翻し入口の方へと戻っていきその場に居た全員が彼の後に続いてぞろぞろと部屋を出て行く。

(待って!いかないで!)

部屋を去っていく彼らを見て少女はまた一人ぼっちになってしまうと慌ててガラスを叩くが誰一人振り向きはせず、無情にも扉は閉まり再び薄暗い部屋で唯一人になってしまった…。

(此処から…出して…)

そう願う少女の声はポッドの中で虚しく響くだけだった…。








―――Side とある女性研究員




「は?私がですか」

突然の上司の辞令に私はコーヒーを飲む作業を止め間抜けな声を溢し私の肩に手を置いている上司を見上げる。どうでも良いが作業中に突然背後から肩を叩くのはやめていただけないだろうか。「明日から来なくて良いよ」とか「今までお疲れ様」とか言われそうで心臓に悪い。

「ああ、例の…3510号の監視員をやってくれとの上からの命令だ」

3510号…ああ、欠陥品っていうあの…。

その噂は下っ端である私にも届いていた。何でも一体だけでも一生遊んで暮せるほどの大金はたいて作った実験体の一体がまるで役に立たない程の欠陥品だったという話だ。髪の色素は抜け落ち真っ白。肌の方も白く、筋力の方も他の実験体と比べ全て劣っていると言う事らしい。他の実験体は全て強化工程に入っていると言うのにその欠陥品だけは今だ調整の段階も終了していないと聞いている。廃棄はされるだろうって皆も私も思っていたのだが…。

まさか私がその欠陥品の監視員を任されるとはなぁ。拒否権…無いんだろうなぁ…。

嫌な仕事を押しつけられた物だと思う。何が悲しくてそんな嫌な役を好き好んで任せられなければならないのだ。断れるのなら断りたいが勿論そんな事許されないのだろう。

「監視なんて必要なんですか?他の実験体は一纏めにしているそうじゃないですか」

「肉体が不安定でな。何時停止するか分からん」

うは、ホント嫌な仕事を押しつけられたわ…。

つまり24時間監視しろとの事だ。平社員は辛い物である。

「早急に頼むとの事でな。今日から監視に入ってくれ」

「き、今日からですか!?」

「うむ。調整も済んでいないからな。寿命が短い分、上の連中も少しでも多くのデータを取るためには時間が惜しいのだろうさ」

「はぁ…」

「まぁ、そう落ち込むな。一ヶ月かそこらで解放されるさ。そう長くは持たんよアレは」

「…」

幾らクローンで欠陥が生じているとしても実験体は生きている。それをどうとも思わない此処の連中は歪んでいるのだと私は思う。自分もその連中の一部なのだが…。

はぁ、慣れるってのも嫌な物ね…。

そう自分に嫌気が指しながらも椅子から立ち背筋を伸ばし与えられた事例を復唱する。

「…分かりました。現時刻から欠陥品の監視任務に入ります」

「うむ。愛玩動物を眺める気楽な仕事だと割り切って頑張りたまえ」

他人事のように…。

目の前で笑うおやじに苛立ちを覚えながらも上司から監視対象が待つ部屋のカードキーを受取り自分の職場を後にした。この職場とも一ヶ月ほどお別れとなるとどうも複雑な気分である。別に誇れる仕事でも無いし唯自分の才能を活かせると言うだけの場所。正直この場から離れられると聞いた時は少しだけほっとした気持ちが無いと言えば嘘になる。まぁ、あの上司の言う通り息抜きを与えられたと言う事で素直に喜んでおこう。息抜きの内容は人として最低の物だが…。

廊下を抜けエレベーターに乗り込むと目指す階のボタンを押す。目的の階はクローン培養区域の最深部だ。

あそこ薄暗くて気味が悪いのよねぇ…。

エレベーターに揺られながら私は心底嫌そうにうげぇ~と声を漏らす。

『最強のIS操者』のクローンを培養し優秀なIS操者を量産するこの計画も既に中盤にまで進んだ今ではクローン達の強化工程に入りクローンの培養は既に停止され殆どの者が培養区域には出入りする事は無くなった。その為か電力削減の一環で普段は必要最低限の明かりしかあそこは点けられていないのだ。量産段階に入るまでかなりの『人間の様な物』が廃棄されたからか研究員の間では出るって噂があるくらいだと言うのに…。自ら進んで出入りするのは相当のマッドサイエンティストだろう。

「あ…着いたってうわぁ…」

ドアが開いた瞬間私は早くも引き戻したくなった。視界に映るのは廊下の奥が見えない薄暗い空間。天井のライトは点いておらず足元のランプだけが辺りを弱々しく照らしていた…。

「あ~やだやだ。帰りたい…」

弱音を吐きながらも床の明かりを頼りに目的地へ進んで行く。計画開始当初はこのエリアも多くの研究員が往ったり来たりしていたと言うのに今は本当に寂しくなった物だ。

「『クローン培養区画』…『クローン計画』最重要エリアとも呼べる場所…か」

『クローン計画』とは我が国が立ち上げたIS開発プロジェクトの一つである。他国の国々が最新鋭のISを開発する中、我が国はISの乗り手に注目し、もっとも優れたIS操者の遺伝子を使ってクローンを培養。優秀なIS操者を量産しようと言うのがこの計画の最終目的だ。勿論、人としてではなく兵器として…。しかし、問題点が多くあり今だ成功に至ってはいない…。

そもそもクローン技術がまだ完成されていない技術なのだ。そんな状態でどうして優秀な操者を量産できると言うのだろう。それが理由で国もこの計画を切り捨てようと言う声が上がっており上の連中も最近焦り出している様だ。まぁ、下っ端の私にはあまり関係の無い話なのだが…。

しかも聞いた話ではドイツでも似たような研究が行われ結果を残しているらしいと言うのに、我が国ではこの有様だ。本当に駄目駄目な国である。

まぁ、あくまで噂話だけど…。

そんな非人道的な実験が口外されるとは思えない。この国だってこの計画は機密中の機密なのだから。それに、ドイツは第3世代の開発も形が纏まりつつあると言う。別に操者にこだわる必要も…と、どうやら着いたらしい。

「この部屋ね…」

歩く足を止め目的の部屋の前で立ち止まる。この部屋が例の欠陥品とやらが保管されている場所だ。何だかんだ言って莫大な金額が掛かっている所為かセキュリティーは完璧で分厚く頑丈な扉で閉ざされており爆弾でも持ってこない限りこじ開ける事は無理だろう。

私はポケットからカードキーを取り出すとカードリーダーに通しロックを解除する。

「これ、が…」

ロックが解除され開かれた扉を潜ると、私は思わず嘆声をもらし暗闇の部屋でおぼろげな光に照らされて生体ポッドの中で膝を抱えて眠っている白き少女を見上げた…。

私もオリジナルの写真をテレビや資料で見た事はあったが…。

「白い…髪…」

白だった。何もかもが。髪も肌も。オリジナルとは全て異なる色だった。それに、腕や足も簡単に折れてしまいそうな程細い。肉体の成長に必要な栄養素は常に生体ポットに満たされている培養液から送られていると言うのに、だ。

成程、確かにこれは欠陥品だ。

調整が済んでいないとは言えこれでは計画に使える見込みは0に近いだろう。それでも廃棄しないのはそれだけウチもヤバい状況にまで追い詰められていると言う証拠だ。

『パチクリ』

「…あら?」

考えに耽っているといつの間にか少女は眠りから覚ましポッドに張り付き此方を不思議そうに眺めていた。その姿を見て可愛いと感じたこの気持ちは何処かに捨ててしまおう。先の長く無い道具に感情移入などしてしまえば後が辛くなる。

…それにしても本当に似ていないわね。姿形は幼いとは言えオリジナルその物なのに雰囲気がまるで違う。髪の色で印象が変わったからかしら?

なんとなく手をポッドに触れてみる、すると彼女も私の手に重ねる様にしてポッド越しに手を合わせて来た。

好奇心旺盛な子供そのものね。他のクローン達も最初はこうだったのかしら?

私は下っ端だからクローンの開発まで深く関わってはいないが訓練中のクローンを何度か見た事はある。皆人形の様に表情が無く、唯命令を聞くだけの存在の様に見えた。一体何をすればこれからあの様な姿に変わり果てるのか…。

詳細は知りたくない。
きっとロクな内容ではないだろう。

「っと…眠り姫は我慢の限界みたいね」

気付けばポッドの中の少女はまるで催促するようにぺしぺしと割れる筈も無い防弾ガラスを叩いていた。どうやら出して欲しいらしい。そんな少女に私は苦笑するとポッドの足元にある端末を操作する。するとポッドの中の培養液が少しずつ抜け始めた。少女は突然の事に目を丸くして驚いたがその表情はだんだんと驚きから興味へと変わっていく。

…本当に子供なのね。

培養液の排水口をじっと興味津々に見つめている少女の姿に私はそう思わずにはいられなかった。これが自分達の目標としている兵器になり得ると言うのだろうか?とても信じ難い。実際計画の内容を聞いた時でさえ眉唾物だったと言うのに更にこんな物を見てしまえばこの計画が成功するのか当事者である筈の私自身でさえ疑いたくなると言う物だ。

『ポッドを開放します』

「…」

培養液が排出されると同時にシステムアナウンスが発する機械音と共に少女を閉じ込めていた防弾ガラスがゆっくりと昇っていく…。

『pi―…ポッドの開放を完了しました』

ポッドの開放が完了した事を知らせるアナウンスを聞き流しながら私はぺたりと隔てる物が無くなったポッドの底にぺたりと座りこんでいる少女に歩み寄る。

「調子はどう?3510号」

身体の状態については既に知らされてはいるが一応本人に確認した方が良いだろうと思い私は3510号に訊ねる。しかし返ってきたのは…。

「…?」

不思議そうに此方を見上げ首を傾けるという可愛いらしい少女の姿だった…。

言葉が通じない?報告によれば刷り込み作業は済んでるって話だけど…?

「あの…私の言ってる言葉が分かる?」

「こくり」

少女は黙って頷くと私はほっと胸を撫で下ろす。

良かった言葉が通じた。刷り込みまで失敗してたらどうしようかと思ったわ…。

「本日より貴女の監視員になったクリス・オリヴィアよ」

素っ気無く挨拶だけ済ますと、私は彼女に背を向けて入口へと向かう。しかし背後からは一向について来る気配が無い。私は面倒だと深く溜息を吐き立ち止まり振り返る。

「何をしているの?ついて来なさい」

「!」

私の言葉に反応してか3510号はポットから這い出ると…

コテッ

…こけた。

「…」

妙な静寂が部屋を支配する。

「!」

ガバッと起き上がる3510号。しかし起き上がった途端また…

コテッ

…こけた。

ちょっと…まさか…。

「~~~っ!」

何度も何度も3510号は起き上がろうとするもその度に転んでいく。そんな虚しく奮闘する3510号を見て私は嫌な可能性が頭を過ぎる…。

「歩く所から始めろっての…?」

最悪のスタート。どうやら私は本当に面倒な仕事を押しつけられてしまった様だ…。














あとがき

お久しぶりです。その所為で内容が薄いです。短いです。

原作開始までまだまだ掛かり話の内容がまだ把握し辛いでしょうがもうしばらくお付き合いください。今作の流れは

プロローグ(現在ココ)→観察日誌編(日記風で1~5話くらい使う予定)→原作スタートてな感じです。

今回は完結目指したいですね。学園黙示録は原作の方が完結するか分からないので…(--;



[26146] 3510号観察日誌1
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:b6052bea
Date: 2011/02/21 14:36


―――3510号観察日誌



9月4日(晴れ)



今日から3510号の監視が始まった。これからずっと同じ部屋で一緒に生活しずっとアレにくっ付いて居なければならない。気が重い…。

上司から受取った辞令書を見てみるとISのデータ取りのために3510号を使うつもりらしい。確かにISなら適性が高ければ身体能力はさして問題は無いだろうが、それでも最低限の筋力をつけなければならないだろう。とりあえず最初は歩行練習からだ。


…その前に服を要請しておこう。何時までも裸と言うのはこちらも目のやり場に困る。




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9月5日(晴れ)



監視を開始してから二日目。マンツーマンで歩行練習に取り組んではいるがやはり一日で歩行が出来る筈が無い。このままではあっという間に彼女の肉体に限界が来てしまうだろう。上は別に3510号の観察記録を求めてはいないのだ。他の方法を考える必要があるのかもしれない。最低の場合、調整をしてもらい3510号の寿命を伸ばすことを申請するのも考えなければならない。余りにも時間が足りない。


計画とは関係無いが、前日記した様に3510号とは寝食を共にしている。食事も何でも興味深そうに食べるし、目に映る物全てに興味を示していた。まるでその姿は子供その物だ。非常に無口で何もしゃべらないが…。




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9月6日(晴れ)



調整の要請の返答はコンマ単位で直ぐに来た。返事は「NO」調整にどれだけの費用が掛かると思っていると長々と小言までおまけについて来た。人の苦労も知らないで…。

調整の申請を通すにはそれなりの結果を見せる必要があるだろう。なら、本来の目的であるISのデータだが…それも問題がある。ISの操縦に最も必要なのはイメージ。歩けない3510号にどうやってISを操作しろと言うのだ。


そう言えば歩行訓練のついでに地上にあるIS専用の訓練場まで連れて行ってみたのだが、3510号は珍しく目に映る物全てに興味を示していたと言うのにISには全く興味を示さずずっと空を眺めていた。何を見ていたのだろう?…空?





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9月11日(曇り)



ずっと地下生活だと時間の感覚が掴めなくなる物だ。監視の辞令を受けて一週間が経過した。歩行訓練の成果は好ましく無い…。

今度もう一度調整の申請を出す事にする。返答は変わらないだろうが…。


歩行訓練以外での3510号の生活だがこの一週間で私に懐いたのだろうか?ずっと私の後ろについて来ている。私がソファーに座っている時は私の足元でちょこんと座り。自室に備え付けられているキッチンで料理をしている時はずっと私の後ろでエプロンを握っていた。…正直落ち着かない。



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9月16日(雨)



最悪の事態だ。3510号が倒れた。どうやら身体の限界が近づいているらしい。これは一か八か賭けてみるしかないだろう。3510号の体調が回復次第ISに搭乗させる事を決意する。


今日は一日中彼女の看病をしていた。ベッドに苦しそうにして眠る彼女はずっと私の手を握り離そうとしなかった。不安なのだろうか?何故か私が子供の頃に風邪を引いて看病してくれた母の事を思い出してしまった。情が移ってしまったと言うのだろうか?有り得ない。




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9月17日(雨)



体調は一向に良くならない。まさかこのまま…地上では雨が続いているらしい。


彼女は熱にうなされてか何やらうわ言を呟いており、私は気になって口元に耳を寄せてみると微かにだが「閉じ込めないで」と聞き取れた。どうやらポッドの中がトラウマになっているのかもしれない。




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9月18日(雨)



体調は回復はしていないが熱はだんだん引いて来た。どうやらまだ大丈夫な様だ。明後日には健康な状態に戻っているだろう。体調が回復次第ISの訓練に入る。上にISの使用要請を出しておこう。


熱が引き余裕が出て来たのか珍しく「プリン食べたい」と喋った。まさか一番長い台詞がプリン食べたいとは…思わず笑ってしまった。




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9月19日(晴れ)



体調の方は問題無い様だ。ISの使用許可も通っている明日には万全の状態で望める事だろう。明日結果が出せなければそれで最後だ。せめて成功する事を願おう…。


何故か知らないが3510号が以前にも増して更に懐いている様な気がする。朝起きた時私のベッドの中に潜り込んでいた時はかなり驚いた。




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9月20日(晴れ)



今日が運命の日。今日結果が出せなければ恐らくこの子は…。今日の事が気になって昨日は眠れなかった。今現在も私を悩ませているアレは私のベッドで気持ち良さそうに寝ていると言うのに…呑気な物だ。さぁ、もう直ぐ時間だ。あの子を起こして訓練場に向かうとしよう。願わくば、この日誌に良き結果が記される事を祈って…。











パタン…

私は日誌を閉じデスクの引き出しにそれを仕舞い、座っている椅子にもたれ掛り大きく背伸びをする。結局眠れず仕舞いだった。何だかんだ言って私も3510号の今後が気になって仕方が無いのかもしれない。

「スゥ…スゥ…」

ふふ、呑気に寝ちゃって。

ベッドを覗いてみるとそこには今日が自分の運命を決める日だと言う事も知らずに安らかに寝る3510号の姿があった。

今日結果を出せなければ処分されちゃうって言うのに、本当にこの子は…。

「…3510号。起きなさい」

「…ぁぅ?」

優しく肩を揺らすと3510号はゆっくりと身体を起こし眠たそうに目を擦りこちらを見上げてまだ眠たいを視線で訴えて来る。その仕草はとても可愛らしい物だったが時間は限られている。私は心を鬼にして彼女を抱きかかえた。

「ぅ?」

「さぁ、行きましょう。貴女の運命を決めにね」

「?」

私はそう彼女に話しかけるが彼女はその言葉の意味を理解出来ずにまたいつもの様に首を傾げるだけだった。











あとがき


原作まで殆ど日記風にします。重要なイベントはちゃんと書きますがそれ以外も書くと原作までに10話まで使いそうなので;






[26146] 3510号観察日誌2
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:b6052bea
Date: 2011/02/22 23:28

暗いのは嫌い。とてもこわいから。



一人は嫌いとても寂しくて寒いから…。



クリスが好き。優しくてずっと私の傍に居てくれるから。一人ぼっちにしないから。



お日様が好き。私を照らして優しく温めてくれるから。



風が好き。風が運ぶ色んな香りと私の髪を揺らし肌を撫でる感触がとても心地良いから。



空が好き。綺麗でとても広くて此処とは違って何処までも何処までも広くて私を閉じ込めないから。自由だから。



私も行ってみたい。あの空に…。



あの鳥の様に自由に何処までも飛んでいきたい…。



私は、空を飛べる事が出来るのだろうか?あの鳥の様に…。











――――Side クリス・オリヴィア





「3510号を連れて来ました」

3510号を抱きかかえ、私はISが収納されているハンガーへとやってくると、今日、訓練に使用するために上から借り受けたISの整備をしているメカニックに話し掛ける。

「ん?…あぁ、『欠陥品』か」

声を掛けられたメカニックは振り返ると私の腕の中で気持ち良さそうに抱えられている3510号を見て嫌な顔を隠そうともせずにこの子の目の前で「欠陥品」と吐き捨てる。この子を見て第一声がそれか…と、私は不快に思いながらも表情に出す事無く頭を下げた。私も人の事は言えないのだから。結局は私もこの男と同類なのだ。彼の態度に対して憤る資格など私には無い。

「…はい。今日はよろしくお願いします」

「時間の無駄だと思うがね。乗りこなすなんて出来やしないさ」

頭を下げる私に短く舌打ちをする男。どうやら余り3510号を快く思ってはいないらしい。しかもまだ試していないと言うのに結果まで決め付けてくると来た。

やってみないと分からないでしょう?

「これは上の決定でもあります」

彼の態度に苛立ちを隠しながら私は感情を見せない平坦な声でそう告げる。「上の決定に文句があるのか?研究員でも無くたかが整備員であるお前が?」と若干脅しながら。するとそれを聞いた男は表情に怯えを色を見せ咳払いをして逃げる様に視線をISに向けるのだった。

「…分かってるよ。そう凄みなさんな」

「…」

男はISに整備を再開すると、私もそれ以上何も言わないでいた。どうやら整備にはまだ時間が掛かる様だしもうしばらく此処で待っていようと考えていると、ふと私の腕の中でじっとしている3510号に視線が止まる。

「じぃ~~~…」

…また空を見てる。

以前もそうだ。この子は何も無い空を唯じっと眺めていた。歩行訓練もほっぽり出して何もする事無く唯空を眺めていた。私も彼女の視線を追って空を眺めるがやはり何も無い。あるのはゆっくりと流れる雲だけだ。

…?

この子をそこまで気を惹かせる物があの空にあると言うのだろうか?目を凝らしてみるがやはりあるのは青空だけ特に変わった物は無い。だと言うのにこの子は真剣にまるで憧れる様にじっと空を眺めていた…。

「…」

「じぃ~~…」

何もする事が無いので私もこの子と一緒に雲が流れて行くのを眺めている事にした。良い天気だ。今日は気持ち良い天気になる事だろう。出来る事なら今日はずっと外に居たいものだ。ずっと地下に居るとかびてしまいそうになってしまう。だがそれは許されないだろう。何処に目があるか分からない余りこの子を外に出すのは良く無いだろう。此処は本土から離れた無人島に建設された施設だが衛星で監視されている可能性だってある。訓練が無い時はクローン達は施設にしまっておく。それがウチの方針だ。

「…」

分かってる。この施設が行っている研究が公にされでもしたら自分も唯では済まないと言う事くらい。でも…。

未だ空を眺めている彼女を見て私は思う。未来の無いこの子には少し位自由を与えては良いのではないのかと…。

…いけない。情に流されるのは私の悪い癖ね。だから何時まで経っても万年平社員なんだわ。

どう足掻いた所で、どんなに科学が発展した所で、この子は…いや、この子達は長くは生きられない身体。死ねば誰も悲しまず世間に知られる事無く処分され、役立たずと判断されればまた処分される。道具同然の存在。そんな存在に情なんてあってはならない。仕事の邪魔になるだけだし辛くなるのは自分なのだ。

…でも、だからこそこの仕事になれない自分が居る。感情を捨てきれない自分が居る。

…駄目ね、私。

「おい。ISの準備は完了だ。何時でもいけるぞ」

「あっはい!……わぁ」

物思いに耽っていると男の整備が完了したと言う知らせに現実に引き戻され私は慌てて返事を返すと3510号を抱え直して整備されたISへと駈け寄ると思わず息を漏らしてしまった…。

黒に塗り染められた鋼鉄の巨兵。世界最強の兵器<インフィニット・ストラトス>。何時も遠目で眺めていたが間近で見るのは初めてで実際に見るとその迫力に圧されてしまう。

『打鉄』。オリジナルの故郷である日本の第2世代量産機。性能が安定しており扱い易いと評判で日本にあるIS学園以外でも多くの国々が訓練に使用している機体だ。この研究所でもこの打鉄で訓練が行われている。兵装がオリジナルのISと近いと言う理由が一番の理由なのだが…。

「おい何してんだ?早くそいつをコクピットに乗せろよ」

「あっ…すいません。ほら、じっとしてるのよ?

「…コクン」

男の急かす言葉に私は慌てて抱えている3510号を持ち上げコクピットに座らせた。既にインナー・スーツは部屋を出る前に着替えさせているので問題無い。しかしこうしてみると他のクローンは調整の際に肉体を強制的に成長させているため幼いにしても出る所は出ていると言うのにこの子は見た目9歳くらいで何て言うか残念である。何処がとかは言わないが。

「…?」

「な、何でも無いから。気にしないで」

じっと自分を見て来る私が気になったのか首を傾げる彼女に私は笑って誤魔化すと傍に居ると危険なのでISから離れる。

私が離れたるのと同時に、機体の至る所から空気が吐き出され開いていた装甲が3510号の身体に装着されていき彼女とISが『繋がった』。

起動は問題無いシステムも異常無し。コンソールに表示されているパラメーターも正常値だ。此処までは順調だろう。後は上の連中を納得させるだけの成果を出せれば…。

「まぁ、起動はな…」

っ!少し黙ってくれないかしら?

隣で見学している男を睨むと男は笑って口を閉ざす。私はそれに舌打ちしオペレー再開する。

「3510号。まずは歩いてみて。大丈夫、いつも通りにやれば出来るわ」

「コクリ」

私の指示に3510号は頷くとゆっくり、本当にゆっくりだが一歩また一歩と歩き出す。…しかし。

「っ!」

彼女は数歩目でバランスを崩し、大きな音を立てて盛大に転んでしまった…。

「っ!?何をしているの!?早く起き上がりなさいっ!ほら!歩いて!」

このままでは…このままでは3510号の廃棄が決定してしまう。ISもロクに操作出来ないと分かればあの子に価値なんて…。

「っ!…っ!?」

私の声に応える様に何度も何度も3510号は起き上がって歩こうとする。しかしその度に転倒してはハンガーを大きく揺らす。

「おいおいおい。勘弁してくれよ。誰が直すと思ってんだぁ?」

「黙って下さい!今は訓練中です!」

「…ちっ!すいませんねぇ」

派手に転倒している機体を見てそう文句をたれる男を声を荒げて鋭く睨み黙らせると、彼女の方へと視線を戻す。彼に当たった所で結果は変わらない。このままでは。このままでは…。

駄目…なの?

そもそも歩けない3510号にISの操縦なんて無理な話だったのだ。歩き方の分からないあの子にISを操縦させるなんて…。

「~~~~っ!」

もがく様に起き上がろうとする3510号の姿を見るのがとても辛く目を逸らす。いつもなら転んでは手を差し伸べてあげられると言うのに、今はそれが出来ない。例えそれが出来たとしてもそれは彼女を救う事にはならない。何も出来ない自分がただ無力で憎たらしかった…。

「~~っ!………」

「?」

「…お?諦めたか?」

ピタリと止む騒音。何かあぅたのだろうか?私は気になり逸らした視線を再び彼女へと戻す。するとそこには…。

「じぃ~…」

ハンガーを這い様に出たのだろう。ハンガーから出た所で覗かせた空を眺めている彼女の姿がそこにはあった…。

「じぃ~…」

眺めている。憧れる様に、羨む様に、愛おしむ様に。唯、空を眺めていた…。

また、何を見てるの…?

あの子の瞳には何が映っているの…?

何をそんなに、求めているの…?

わからない。わからない。わからない。わからない…。

「お~い。研究員さんよぉ。もう終わらせてくれねぇかぁ?午後には他のクローンの連中が使うんだからよぉ?」

バサッ

…え?

何かが、一瞬私から陽の光を遮った。私は自然と空を見上げると、光を遮った正体を見て目を見開く。

まさか…。

「じぃ~………んっ!」

あの子が眺めていたのは…。

「おい!」

見ていたのは…。

「おい!聞いてんの……んだぁああああああっ!?」

「きゃあっ!?」

衝撃が暴風が私達をハンガー全体を吹き抜ける。男は風に負け盛大に転び、私はコンソールに掴まりなんとか吹き飛ばされるのを間逃れる。一体何が起こったのだろう。私は辺りを見回すと風の正体を知り驚きを上回り、喜びで心が震えた。

「何だぁ?今のかぜ…は…」

違うこれは自然の風なんかじゃない。そんなんじゃない。これは、これは…。

そうこれは、小鳥が羽ばたいて生れた風だ…。

「んなぁああああああっ!?」

空を見て男は絶叫する中、私はその空を舞う小鳥を見て微笑んだ。そうか、彼女が見ていたのは空なんかじゃない。この檻の中で閉じ込められていた彼女が見ていたのは空を自由に飛ぶ鳥の姿だったのだ。自由を憧れて、自分もそうなりたいと願って…。

そっか。そうなのね…。

空を嬉しそうに自由に舞う彼女。その表情は今まで見た事が無い程幸せそうな物だった。あまり感情は表情に出さないあの子があんなにも幸せそうにしている。

…良かった、ね。

叶わぬ願いだ。私はそれを知っている。どんなに足掻こうとも、願おうとも彼女は使い捨てられる運命。でも、今の彼女を見て、短い時間だが共に過ごしてきて彼女を祝福せずにはいられなかった。

本当に、良かった…。

彼女はいつまでも空を舞い続けていた。今の気持ちを表すかの様に…。















「何?3510号の調整の申請?」

訓練の後、私は報告書をまとめて上司の許へとやって来ていた。再び3510号の調整を申請するために…。

「はい」

私は上司の言葉に頷く。

「馬鹿を言うな!調整にどれだけ金が掛かると思ってる!」

上司の返答は以前と同じ物だった。しかし、今度ばかりは引き下がる訳にはいかない。私は負けじと自分の意見を述べる。

「しかし、3510号のISの搭乗結果をご覧になった筈です。初搭乗でのあの飛行技術。他のクローン達でも不可能でした。時間を掛ければより有用なデータが得られると私は考えています」

「君の意見などどうでも良いんだよ!下っ端が口出しするなっ!」

「っ!」

机を殴る音にビクリと身体を震わす。

確かに彼の言う通りだ。下っ端の私が意見を述べるなどうぬ溺れにも程がある。下っ端は下っ端らしく言われた事だけをすれば良いのだ。だが、だとしてもだ…。

「他の実験体よりの良いデータ?結構じゃないか。予定通り死ぬまでISのデータを収集すればいい」

「しかし!」

「我々が目指しているのは最強の操者だ。ロクに歩けないISのデータ取りではない。そんな物に金を使う余裕なんて無い」

「ですが!3510号の寿命も長くはありません!ISのデータを収集するにも時間が無ければ!」

「なら眠らさず24時間ISに乗らせればいい」

何を馬鹿な事を!そんな事をすれば!

「それではあの子の体力がもちません!」

「構わんさ。所詮道具だ」

「っ!…しかし良きデータを得る為には万全な状況をっ!」

「何を騒いでいる」

私と上司の口論で騒がしかった室内がその低い声により一瞬にしてしんと静まり返った…。それに私の気のせいだろうか?その低い声が響いた瞬間、部屋の温度も急激に下がった様な錯覚まで感じてしまったのは…。

「っ!?」

「し、所長!?」

慌てて振り向いた先に居たのはゼル・グラン博士。この研究所の所長にしてクローン計画という非人道的な計画の発案者でもある人物…。

この研究所で最も恐ろしく狂った人間…。

クローン計画。この計画はISが世界に現れる以前から軍事運用出来ないか彼が発案していた。しかしクローン禁止国際条例。そしてその非道さにより今まで実行に移される事はなかった。だが、ISという兵器が現れ事態は急変した。各国とは比べ技術が劣る我が国はクローン計画に頼るしか方法は無くなったのだ。国の命運を握る彼は次第に力を蓄えていき、今では我が国でかなりの発言権を持つまでに到る。この国で彼に逆らう事は死を意味すると言っても過言ではないだろう。

まさか、こんな所に出て来るなんて…。

私の職場は地位が低い連中の集まりで上の連中が此処に足を運ぶなんて事はまず無い。だと言うのに何故この研究所のトップがこんな場所に…。

「…っ」

嫌な汗が私の背中を伝う。喉も乾いてカラカラだ。目の前の化け物に身体が怯えてガチガチ硬直している。上の命令に意見した私はこのまま殺されてしまうのではないだろうか?そういった恐怖に怯えて…。

「し、所長!?何故この様な所に!?」

「欠陥品の様子が気になってな。報告を聞きに来たのだが…何の騒ぎだ?」

「えっ!?いえっ…あの、これは…」

っ!?これはもしかしたらチャンスかもしれない!

聞けば廃棄される筈の3510号をISのデータ取りに使うと決めたのは所長らしい。ならもしかしたら3510号の調整も…。

「3510号の調整について話していたんです!」

「ちょっ!?君っ!?」

「…何?」

ピクリと所長の表情が動く。

「本日、始めて3510号をISに搭乗させたのですが、3510号の飛行操作には目を見張る物がありより良いデータを収拾するためには時間が必要と考え調整を申請した次第です」

そう報告すると、私は上司にデスクに並べてあった報告書を手に取ると所長に渡した。

「…ふむ」

所長は受取った報告書を目を通しあらかた報告書を読み終えると視線を此方に向けてくる。

「…ISは今日初めて乗せたと言ったな?随分遅い様だが?」

「は、はい。3510号は一人で歩行するのも困難なため、今までは歩行訓練に中心に行っていました」

「成程、確かに時間が足りんな…しかし何故もっと早く調整の申請を出さない?こんな事初日でも分かっていた事だろう?」

「あ、いえ…申請を求めたのですが…」

チラリと私は上司を見ると、上司は顔を真っ青にしてだらだらと汗を物凄い勢いで流し始めた…。

ちょ、独断だったのかよこのオヤジ…。

「聞いていないぞ。どう言う事だこれは」

「は、はい!結果を出せない欠陥品に予算を割けれないと思いまして!」

所長に睨まれ震えて応える上司だが、まったく答えになっていない。所長は何故報告しなかったのかと訊ねているのにどうして彼の意見なんて求めているだろう。

「現に結果を出している。私はそう言う事を聞いているんじゃない。何故報告しなかったんだと聞いているんだ」

「そ、それは…!」

「もういい。君は要らん」

「――――っ!?」

所長の言葉に絶句して既に顔を青を通り越して白に変えている元・上司。ご愁傷様ざまあみろである。

…あ、これ気を失ってるわね。

「君」

「あ、はい!?」

「調整の申請は承諾した。準備に時間が掛かるから明後日になるだろう。それと、今度からはそう言った話は私に直接通す様に」

「は、はい!ありがとうございます!」

要件を済ました所長はそれだけ言うとこの場から去っていき私は大きな声で返事をすると深々と頭を下げて所長を見送るのだった…。








「………まさかあの欠陥品がな。強化工程中の成果が出せていないクローンは廃棄するか」







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9月20日(晴れ)



勝った。あの子は賭けに勝ったのだ!これで調整が受けられる。あの子は僅かではあるが生き長らえる事が出来た。これで当面の心配は無くなった。所長とのコンタクトが取れるようになったのも大きい。これを利用しない手は無いだろう。


今日は御馳走にしよう。あの子にとって色々と記念すべき日だ。











「ふふ…」

「?」

私は向かいで不器用にフォークを使い服を汚しながら食事をしている3510号を頬杖を突いて微笑ましく見守る。彼女は不思議そうに首を傾げるが私は何でも無いから気にしないで食べなさいと食事を勧めた。

「…ねぇ」

「ぅ?」

「明日からも頑張ろう?」

「?…コクン」















あとがき


何気に日誌2回目にして重要イベント。原作までどれだけかかるんだろうね…。



[26146] 3510号観察日誌3
Name: 金髪のグゥレイトゥ!◆60293ed9 ID:b6052bea
Date: 2011/02/23 05:06
「は?成果が出せていないクローンを廃棄…ですか?」

「ああ」

「で、ですが。よろしいのですか?あの欠陥品すらも廃棄を惜しんでいたと言うのに肉体に問題の無い実験体を廃棄とは…」

調整を済ませ強化工程の段階に移っている実験体はあの少女と比べかなりの額が既に投資されている。それを廃棄するなど彼の部下である男には信じられない事だった。

「構わん。代わりのクローンはまだ数体ある。結果の出せない失敗作など邪魔なだけだ」

「は、はぁ…了解しました」

「…時間が無いのだ。私にはもう時間が…」

要件を済ませ去っていく途中、彼は誰も聞き取れないほど小さな声でそう呟いた。普段感情を感じさせないその口から焦りと言う感情を漏らして…。

…この日、数体のクローンが研究所から姿を消した。










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9月22日(晴れ)



先日、所長が言った通りに3510号の調整が行われた。3510号は最初は生体ポッドの中に入るのは嫌がっていたが私がずっと傍に居てあげるからと言ったら悩みはしたが素直にポッドの中に入ってくれた。暫くはこの暗い部屋の中で3510号と一緒に缶詰生活の様だ。世話の焼ける子供である。


しかし、こうやって生体ポッドの中で眠る彼女を見ていると最初に出会った時の事を思い出す。あれからまだ一ヶ月も経っていないと言うのに可笑しい物だ。私はそんな感傷浸る自分に苦笑すると、調整のため眠っている彼女をずっと見守っていた…。





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9月23日(曇り)



調整2日目。調整にはまだ暫く掛かるらしい。早くあの子をあそこから出してあげたいものだ。





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9月24日(雨)



…失敗した。まさかお手洗いに行っている間にあの子が目を覚ますなんて…。私がお手洗いから戻ってきたのを出迎えたのはポッドの中で泣きそうな(というか泣いていたが)な表情で頬を膨らませている3510号だった。私はポッドの中には声が届かないので手を合わせてごめんと謝るが彼女はそっぽを向いて機嫌を悪くしてしまった。これはご機嫌とるのに時間が掛かりそうだ…。





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9月25日(雨)



不快極まりない。今日の調整担当者が同期の友人だったのだが、その友人が3510号とじゃんけんで遊んでいた私にこんな忠告をしてきた。「可愛がるのは結構だがあまり欠陥品に構うなよ?」と…。

…分かってる。そんな事は…。


その日の私はどうしても友人の言葉が頭から消えず気分が晴れる事はなかった…。


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9月26日(晴れ)



3510号の調整が完了した。これで、これでこの子はまだ生きられる。これで…。


ポッドから解放された途端。彼女は私に抱き着いて来た。心細かったのか、彼女は弱い握力で必死に私の服を掴み離れようとせず私はそんな彼女に苦笑すると濡れるのを構わず他の研究員の目を気にすることなく彼女を抱きしめた。




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9月28日(晴れ)



調整のおかげか3510号の歩行も物凄い速度で上達していっている。今ではもう私の補助無しでも一人で歩ける程だ。まだ歩ける距離は短いがこの調子ならそう遠くない内に一人で歩いて生活する事が出来るだろう。


歩けるようになった所為か3510号の好奇心が更に増した様な気がする。最近では私のする事成す事真似する様な仕草も見せている。子は親の背中を見て育つ、か。ふふふ。




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9月29日(晴れ)



今日は所長から直々に辞令が来た。内容は「ISを優先的に回してやる。結果を出せ」との事。どうやら3510号の報告書をちゃんと目を通してくれているらしい。期待されているのかそれとも他に何かあるのか。私にとって都合の良い事だが何か気に掛かった…。


先日記したように3510号の好奇心が増している。私が席を外した隙に私のPCを使ってネットサーフィンをしていた時は心臓が止まるかと思った。情報漏れなどしたらとんでも無い事になる。幸いそんな事は無かったが…。

私はきつく彼女を叱っておいたが、ネットで何か見たのだろうか?「…オワタ」とか何処の国の言葉か良く分からない単語を呟いていた。ネットは子供の教育に良くない。



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10月1日(晴れ)



外ではだんだんと気温が下がり始め私と3510号を撫でる心地良い風が秋を感じさせる。久々に外に出た所為か3510号もとても嬉しそうだ。今日はISの訓練のために外に出たのだがメカニックが呼びにくるまで暫く久しぶりの外を二人で楽しんでいた。


ISの搭乗訓練の方は…あれは訓練と呼べるのだろうか?私には唯空を飛びまわっていただけに見えたのだが…。まぁ飛行技術の方は伸びている様なので文句は言われる事はないだろう。




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10月2日(晴れ)



ISの搭乗訓練には専門の教導官が居る。勿論私では無い。私は唯の下っ端研究員だ。ISの知識なんて一般常識に毛の生えた程度しか知らない。何故そんな事を日誌に書いているかと言うと、今日のISの搭乗訓練が原因だ。

どうもあの子は初搭乗の時が原因でISは自分の遊び道具か何かと勘違いしているのかもしれない。初登場は大した結果が出る訳でもないと言う理由で教導官は不在。二回目もどれだけの技量があるかの確認で口出しはされなかった。だが今日は本格的な訓練のため教導官が直接3510号の教導を行っていた訳なのだが…。

「3510号が訓練中ずっと空を飛でいるだけで言う事を聞かない」

物凄い形相で訓練を見学していた私に苦情を言いに来たのだ。そんな事言われてもと困り果て、貴女もISの操者なんだから捕まえて地上に引き摺り下ろして叱れば良いじゃないかと提案したがすばしっこくて捕まえられないとの事。空で追いかけっこしていたのは飛行訓練では無かったのか…。

ウチの教導官は国の代表には選ばれてはいないが、IS操者としての能力は優秀だったはず。そんな彼女が捕まえられないとは…。普段はぼーっとしているのに空を飛ぶ事に関してはあの子に勝てる人なんていないんじゃないだろうか?ISの操作はイメージが大事ならば、空を誰よりも憧れるあの子は…。




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10月3日(雨)



今日は雨のためISの訓練は中止。3510号も心なしか灰色の雲に覆われた空を見上げて不満そうである。他のクローン達は室内でトレーニングをしている様だがこの子には無縁な話だろう。今日は二人でゆったりと過ごす事にする。


夕食準備中何やら視線を感じると思ったら3510号が私の作業をじっと真剣に眺めていた。今まで色んな物に興味を示していたが、今日のこれはまるで空を、いや鳥を眺めていた時と同じ物だった。料理に興味があるのだろうか?




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10月8日(雨)



季節の変わり目は天気が崩れやすい。此処の所ずっと雨だ。その所為で3510号の機嫌もずっとご機嫌斜めだ。さてどうした物か…。ISも一応室内で訓練する設備はあるがこの子を乗せると地盤をぶち抜いて空に飛び出しそうなので乗せないでおこう。それが賢明だ。うん、それが良い。


今日もあの子は私が食事の準備をしている時にじぃーっと真剣に此方を眺めていた。ふむ…?




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ぱたん…




「…ふぅ」

日誌を閉じると私は小さく息を吐く。この日誌を書くようになってもう一ヶ月が経つ。色々あったが本当にあっという間の日々だった。

最初は嫌な仕事を押しつけられたものだと思ったけど…。

「スゥ…スゥ…」

ふふっ…。

私のベッドの中で安らかに眠っている3510号を見て私は微笑む。

嫌な仕事だろう。それは今も変わらない。でも、悪くない。この子と過ごす日々は悪くない。例え、結末は決まっているとしても…。

「おやすみなさい」

私は眠っている彼女の髪をそっと撫でてそう優しく囁く。

この子には、まだ『明日』があるんだから…。











「…私の料理している所を妙に真剣に見てると思ったら…」

翌朝私は何かが焦げる臭いにより目を覚ますと目の前の惨状に頭を抱える。

別に悪くない。興味のある事を自ら進んで実践する事は悪くない。寧ろ良い事だろう。その経験は必ず糧となるのだから…しかし。

「だからってこれは酷過ぎるでしょーがぁ!?」

「…っ!?(ビクゥッ」

何かを焼いたのであろう最早それが何だったとか分からない程黒焦げに焦げた謎の物体X。そしてめちゃくちゃに散らかされたキッチン。そして色んな物が飛び散って汚れた床。酷い。余りにも酷い光景だった。

「もうっ!」

「…ぅぅ」

怒っている私に怯えて縮こまっている彼女。私はそんな彼女の姿を見てやえやれと溜息を吐くと、ポンと頭の上に手を置いて…。

「料理がしたいなら教えてあげるわよ…」

そう微笑んだ。

「!」

「料理。してみたいんでしょう?」

「コクコク!」

物凄い勢いで何度も首を上下に動かす彼女。

「なら、時間が空いた時に練習しましょうか?」

「コクコク!」

まったく…またやる事が増えちゃったじゃない。

そんな事を考える私だったが。その表情は全然嫌そうな物では無かった。









「……でも、まずはこれを片づけないとね」

「…コクン」













あとがき

日記風だから速いけど。原作が始まったら速度落ちるよ?絶対に!


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