チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25323] 【元チラ裏】 【習作】もう一度、今度は二輪の花で……【北斗の拳(憑依?)】
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/31 16:20
 どうも    ジャキライと申します。
 チラ裏から引っ越してきました。その他版の皆様にも北斗有情拳を味わえる文章を執筆したいと頑張りたい所存です。
この作品には作者の妄想が多分に含まれています。そう言うのが嫌な人は北斗千手殺。

    構わないというモヒカンの方々は北斗羅漢撃な感じで見てやって下さい。





 それでは、どうぞ















 酷く、頭が割れそうな痛みだった。喉が焼けつく様に水を望んでいて、そして胸の何箇所がやけに何かを求めていた。

 






    気が狂いそうな位に必死に何かを訴えて、身が引き裂かれそうだった。







誰かが……俺の事を呼んでいたような気がする。
 


最初の声は懐かしさと怒りと哀しみと憎しみが入り混じった気持ちが俺の胸を満たして、どうしようもなく当り散らしたい衝動を覚えていた。
 









 二人目と三人目の声には嫉妬と先ほどよりは薄い怒りが滲んだ感情の波が襲ってきて、そして嫉妬と同じぐらいに畏怖の気持ちが
俺を縛っていて、それは俺の中では憧憬ではなく、俺の悪意を紛らわせる願望だったんだと思う。
 








 四人目の誰かの声もした。
    そいつの声を聞いた瞬間、堪らないぐらいの殺意と憎悪が俺の中と外を流れるのを感じた。
引き裂いて心臓を貫いてやりたいぐらいの破壊衝動と願望が襲う。
 







 



  俺はそいつが俺の「 」を奪った事が何よりも許せなくて、そして「 」に俺がなれたら、失わなくて済んだんじゃねぇかって。


                     そんな滑稽で陳腐な仮定が





                  割れそうな頭の中をぐるぐると過ぎった。

 











                  誰かが……俺を呼んでいた。

        




             そいつの事を俺は唯一嫌いだと思わなかった。







          そいつは俺にとって唯一守ってやりたいと思えた奴だった。
 







                  俺の心が言っている。










    あいつともう一度もっと喋りたかった。あいつともう一度もっと触れたかった。










       あいつの夢について聞きたかった。あいつの夢が何であれそれを守りたかった。










           あいつを守りたかった。好きだと言ってやりたかった。     愛してるって……。
 
 










             俺の    心が      叫んでる。

 








                   俺の    心が      











…………。

……。

…。





               「……知らない天井だ」
 





目を覚まして第三番目の少年の台詞を呟いて起きた俺。何でか知らないけどお世辞にも綺麗とは言えない部屋、



そして隣の窓からは見慣れない景色が見える。
 


  アレー? って思いながら、とりあえず落ち着くために近くに設置していた洗面台で顔を洗って、鏡を見た。
 






                 「……誰だお前は?」
 






 釣り目、針鼠みたいな感じの髪、今は可愛いけど将来的に何だか悪人になりそうと不思議に思える顔。






              ……あれ? 俺、こいつの顔どっかで見覚えあるぞ?
 





  「うんっ、起きたかジャギ」
  「へ?」
 





    扉を開ける音と共に、並みならぬ風貌のおっさんが微笑みを携えて現れた。





  いや、おっさんの微笑みなんて朝から俺はno thanky……








       うん? このおっさん今              俺のことなんて呼んだ?
 





   「え、あの」
 「朝食はもう出来ている。お前も速く来なさい、ジャギ」
 そう言っておっさんは俺の言葉も聞かずに消える。てか、聞き間違いじゃない?



     




        え?       聞き間違えジャない?










   


   え?   俺ってば                  ジャギ?


  



[25323] 第一話『目指せ! 汚物の野望!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/31 16:26
 






            「はっ、はっ、はっ……」
 急な階段を汗で濡らしながら、一人の少年とおぼしき人物が駆け上がっている。
その者の名はジャギ。



 十何年後かには、世紀末救世主に殺される予定の人物だ。
 






      「……これでっ……二十七……往復……!」
微妙な数字で倒れ付すジャギ、我ながら何て脆い体だよって思ってしまう。
 


 「てか、何でジャギなんだよ……」
確かに北斗の拳や蒼天の拳は前は愛読書だったけど、この仕打ちはねぇだろうと正直に思う。


いや、神様恨んだとしても、こちらの世界ってマジで神様もどき出てきそうだから心の中でしか言わないけど。
 






   まず正直なんでジャギになっているのか? と問いただしたい。
別に事故に遭った覚えもないし、覚えているのは昨日北斗の新ゲームやってレイの声カッケーとかそんな思い出しかないのだ。
 






  うん、ぶっちゃけ死んだと思しき記憶がない。
 





  というか北斗の拳の世界に入り込んでる時点で、俺の運命詰んでる気がするが。
 


   「……核落ちたらどっちにしろ拳王でアボーンじゃねえの?」
 









    そう。この世界、ぶっちゃけ主人公以外はほぼ死んでる。








 下手なモブキャラならモブキャラでモヒカンに消毒されるし、有名所で死なないの野球(バット)君とリンリンと
レイのセクハラ攻撃受けた彼女ぐらいだし……。
 






    「……体鍛えないとまずモヒカンとかで殺されるって糞ゲーだろ」
 








  うん、とりあえず北斗神拳覚えるっていう選択肢を捨てる手段がない。
 






  伝承者争いで頭ポップコーンにされるのは自分の心次第で回避出来るし、ある意味ジャギになった俺って運が良いんじゃ? 
いや、運が良いと思わないとやってられないっす。 運が良いって言ってよ、お師さん……!(※師が違います)
 
 





       「とりあえず体を鍛えないとなぁ……」
 体力がないとこの世界やっていけない。そして体力があれば北斗神拳の習得も
早くなる⇒兄弟の競争に僅差になる⇒彼女が出来る……最後はないか。
 






 そう妄想しつつ階段を駆け上がるのを一休みしつつ腕立てをしながら、ふと過ぎった思考を口にした。
 





 「……俺がいなければとりあえず南斗と争わなくても済むんだよな」
 




思えばジャギは小物に見られがちだけども、シンを唆したり、外伝ではアミバに奇跡の村を襲う手段を教えたりと、
何かと元凶と言っても過言ではない事をしてるのだ。けれども……。
 






   「でも、俺がしなくても誰が別の奴が起こすんだろうなぁ……多分」




タイムパラドックスを修正する為に、世界とは元の軌道に修正しようと力が働くのがSF作品の醍醐味と言っても良い。
俺以外の誰かがシンを唆すんだろうと予想してみる。(多分、媚びぬ!聖帝と、俺は美しい!様は反乱起こすし)



 第一、ジャギの存在ってシンの事で省かれたら実際『俺の名』以外じゃほとんど存在価値ないって思うし……。




つうかそれでじゃなくてもユリアに執着してたから俺が別になんかしなくても勝手にケンシロウに傷作るんじゃね?KING。
 





  『ケンシロウ』、そう頭の中で単語が浮かんだ瞬間、不意に激痛が走った。







   不快感に眉を顰めつつ、額に手を当てながら痛みが引くのを待つ。


  何でか知らんが自分の名前とケンシロウの事を考えると頭に激痛が起きるのだ。




 多分推測だが、俺の漫画知識の中でジャギが死ぬシーンと、今のジャギの体が同調して、自分の嫌いな単語で
自分の死ぬシーンがリアルに再現されるんじゃないかと自分は考えている。
 




 「……つか俺ってば本当に名前思い出さないとやばいってばよ」
 某主人公忍者の台詞をパロって見るけど、本当に深刻だ。自分の名前が思い出せないとか、どんな記憶喪失よ。本当……。








  「……けどまだ慌てる時期じゃない、か」

 



      そう、どうやらまだトキとラオウと救世主は寺院に訪れていないのだ。





   それならばこれから体を鍛えつつ、フレンドリーに接するイメトレも出来るはず!
 

     







      俺は世紀末一般人になってやるぜ!     ……きっと。







   



[25323] 第二話『親父の愛が辛くて死にたい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/31 17:00
 







 独自の訓練を開始し始めて六日目。とりあえずある程度の世界観を理解した。




1まず北斗宗家の三人が寺院に居ない。
2リュウケンは北斗神拳に関してまったく生活の中でおくびに出すことはない。(※そして未だスキンヘッドでない)
3自分、まだ五歳ぐらいだった。そして、リュウケンの養子
            







                 アレー? 何、この世界?
 






 まあ時系列的に修羅の国にあの三兄弟がいるんだと思うけど、何で俺はリュウケンの養子になってるんだろうか? 
 




  リュウケンに関してだが、一番やばいのが俺がそれとなくこの寺院に関して質問しても言葉を濁して説明して、
北斗神拳に関しては俺に決して知らせる気がない。


        






        そう、 俺に関して 知 ら せ る 気がない。

 いや、きっと自分のmy sonにそんな危険な拳法教えてどうすんだjkって言う気持ちだとは思うんだが、
それを身に着けないと俺、世紀末に死ぬよ? パパン。
 


ってか何で五歳児なんだ俺? そりゃクソ長いあの階段約三十往復もすれば絶対へばるだろ。


と言うよりも五歳児で三十往復も出来た方が驚きだわ!

 





 「大丈夫か、ジャギ? いきなり一人で蹲(うずくま)ってぶつぶつと……」
 「あっ、な、何でもないよ父さん」
 






 そう言いながら体を起こして笑顔でリュウケンを見つめる俺。精神のsan値が地味に減ってくるが、
変に疑われて現伝承者のほあたたたた喰らってアボーン☆よりは確実にマシなので、普通に可愛い息子を演じてる。
 

 その俺の態度にほっとした顔つきになった後、引き締めた顔でリュウケンは俺の眼をじっと見つめながら質問してきた。
 








      「そうか……。最近、外で鍛錬をしているようだが、どうしてなんだ?」
          
              ギグッ! ……来たか。









   そりゃまあ、汗かいてべそかきながら階段往復して死に物狂いで腹筋背筋腕立てをやってたら疑われるの当然だ。
 
 






  けど、この俺は普通の汚物ではない。ちゃんとこの質問に関する回答はある!

 





 「……父さん。父さんは僕の事、燃え盛る火事の中から助けたんでしょ?」
 「うぬ、そうだな」

 そう。どうもこのジャギ君、火事で赤ん坊の頃両親を失いリュウケンに助けられた後に、リュウケンの元で育ったという設定なのだ。
 
 


  食事の時にちょびっと上った話題だが、俺はそれを最大限に今こそ活かす!!

 拳を握りながら、俺は強い目線でリュウケンを見上げると力強く言った。
 「だから……。だから僕、大きくなったら父さんも守れるぐらいに強くなりたいんだ! 父さんを守れるぐらいに……強く」
 



  「……おお、ジャギ」

 







  俺の言葉に、目尻から涙を垂らしつつガシッと俺を抱きしめるリュウケン。


一握りの罪悪感が心を責めるが、こんな理由でもないと危ないから訓練なんて止めなさいとか言われちゃあ、
折角の北斗神拳身につけるまでのマル秘大作戦基礎体力を磐石にしてすぐに北斗兄弟に並んでやるぜ! ジャギ様は本当に
頭の良いお方大作戦が水の泡に帰すはめになるからな……。
 





  そう何やかんやで俺が鍛錬する事に関してリュウケンは何も言うことは今後なかった。




むしろ俺の為に重しのついた服とか手縫いで作ったりしたもんで、それを夜、手洗い済ます為につい見てしまった時は
申し訳なくて死にたくなった。あの人手縫いで作っているんだぜ? 何か祈りの言葉とか唱えながら……(泣)

 




         そして、現在も結構死にたい状況に陥っている……。


 




  「ここ、何処だよ……」

 

 





      そう、鍛錬の為にランニングがてら寺院を出て走りこみをしたはいいが、
      




           現   在    絶    賛     迷   子   中


 「本気で馬鹿だろ、俺」

 



がっくりとうな垂れつつ呟きながら、今日は野宿する事を本気で考えていると、
一匹の犬が寄ってきて俺に元気を出せと
言う感じで舐めてきた……泣かんぞ、俺。
 



  「お前も迷子か? お互い大変だよなぁ、おい」
  『クゥ~ン』
 




          そう撫でてやっている時に、遠方からバイクのエンジン音。
 



そういえば未来でも乗っているんだよなー、と呑気に考えていたら。そのバイク、







           生意気な事に犬ごと目掛けて自分を轢きそうになった。



危なっ!? 咄嗟に恋人を守る如く抱きしめて避けたけど死にかけたよ、今!!??
 







 「馬鹿が! てめぇ轢き殺されてぇの……」
 
 「馬鹿はてめぇだぁっ!!」
 




 文句を言う前に飛び掛って頬に右ストレート。君がっ!泣くまでっ!殴るのを……いや、自粛するけどね? うん。
 





   「てめぇ何するんだこの野郎!」
 


   「うるせぇ! 犬殺す気か! チワワよりも雑種の方が何百倍も可愛いんだぞ!?」
 




   「訳わかんねぇこと抜かすなっ、このっ……」



          





                             「はいはーい、 そこまでっ!」

 







       乱闘に突入五秒前、という時。
 



    この場には似つかわしくない声が、俺と不良の間を割って入った。

          










                          「今のあんたが悪いよ。この子に謝んなっ」


 





              大人ぶった子供の声。そして微かに鼻をくすぐる、嫌ではない香水の匂い。
 




  そして見やれば特徴的な緑のバンダナをしている赤いレザーを着た女の子。





  リーダー的な人間の隣で微笑みを浮かべながら、俺を見るとニカッと微笑んでた。



       






          ……あれ?      誰?        この娘?










[25323] 第三話『お前のような娘がいるか(可愛さ的な意味で)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/31 17:06
 





「はい、ココア」
  「お、おうっ、サンキュー……」











とある屋内。 バーもどきの部屋の端でココアを馳走になっている俺。
 息を吹きかけつつ甘ったるいのが口の中に流れるのを感じながら、始終こちらを眺めてくる女の子に、
どうも落ち着かなくて折角のココアの味も一割減な状態だ。……てか何でこの子,俺の事さっきからじろじろ見てるんだろう?

 





最初に出会ったときも、『その度胸の良さが気に入った!』とか言う台詞で俺の事を指差して宣言してたし。
バイクでとりあえず一泊さしてくれる事になった次第の流れの中でも、俺の事を見ながら不気味ににこにこしていた。
 
         







……俺の顔って、そんなに珍しい顔か?

 








それとなく質問しても、こいつは『え? 私そんな顔してた?』ってとぼけた返答しかしねぇし。


……それに俺も何でか知らないけどこの女の子の顔を見てると胸が変にドキドキして、妙な気分になる。


 
(北斗の拳の世界にこんな登場人物いたか? つうかこの体がドキドキするって事はジャギに関連した人物って事だけど、
ジャギに面識ある女性なんてユリア以外にいんのか? ……レイナとかは除いてな、ありゃあ外伝作品だし)

 





  暗中模索と言う状態で頭がフィードバック起こしかけた時、頭に掌の強い感覚が襲ってきて、俺は思考を一旦遮断してその人物を見上げた。
 







  「おい、ガキがそんな難しい顔してちゃしけちまうぞ?」
 「……ガキじゃねぇよ」
  


 「はっ! 大人ぶるってのがガキだって言う証拠なんだよ。……何を悩んでるのが知らねぇが、重く考えるなよ?
 子供のうちからそんな切羽詰った表情してたら、笑顔も上手に出来ねぇぞ」








   そう俺の肩を叩いて、80年代風のリーゼント頭のリーダは階段へ消えてった。








            ……あのリーゼントじゃなければ俺ももっと感動出来るんだけど。
 






 「ねぇ、ジャギ」
 「あん、何だよ。アンナ」







      そう俺が呼んだ瞬間、途端にこいつは綻(ほころ)んだ顔をした。
 





 「……へへへ」
 「……何だよ、気味が悪ぃな」
  「あ、酷い言い方。……何でか知らないけど、私、ジャギと初めて会った気がしないのよねぇ。こういうのって、デ、デ……」
 「デジャビュか?」
 「そう、それっ!」
 





 大げさに指を突き出して、我が意を得たと言う満足気なアンナに、俺は何故か高鳴る胸のドキドキを隠す為に無理やり不機嫌な顔で、
向けられた人差し指をどけて言った。
 




 「人を指差すなって言われてねぇのかよ。行儀悪ぃな」
「暴走族のドン(首領)の妹がマナーなんて気にしないわよ。それにジャギこそ人の事さっきから睨んでさ。それこそマナー違反じゃん」
 




 「……元々こう言う顔なんだよ。」
顔を逸らす俺に、頬を膨らませ若干睨みを利かせていたアンナだったが、直ぐに笑みを浮かべると、身を乗り出しつつこう言ってきた。
 





 「ねえ」
 「あん?」
 「私の名前、もう一度呼んでくれない?」
 



  ああ? と、怪訝な顔をする自分。そりゃ元の体のジャギでも、俺と同じ反応をすると思うぞ? そう思考する俺に、
目の前で金髪を揺らす女の子は俺を急かす。
 




 「ねえ、呼んでよ」
 「うっせえな。つか、何でだよ?」
 







    何でもよ。と、答えにならない答えに俺は頭を一瞬抱えてから、気恥ずかしい感情やら懊悩やらを頭を掻きつつ一旦収めて、じっと目線を見据えて言った。



              















                          「……アンナ」

                           「……っ」
 






そう呼びかけると、当の本人はわかりやすい変化で、頬が薄っすらとピンク色に染まって、その後炬燵で眠る猫のように
目線を垂らしつつ、微笑んだ。

   
           









                  え   なに  この可愛い生き物

 







  いや待てよ俺。この年で見た目チルド世代にときめきってどうよ?
つか俺は承太郎先生曰く、大和撫子がタイプだぞ?(※アメリカ人と結婚したよ)それに俺は二十代だろ? 
盗んだバイクで走り出す世代は過ぎているよ?でも逆に
この年齢だから可笑しくないよ?でも俺の精神年齢的に炉利だよ?完璧アグネス拳の餌食にされちゃうよ? 
    いや、アグネス拳って何だよ。青少年法の魔の手がここにも迫ってきてるって言うの? いや いい加減に落ち着けよ、  俺。

 



 


 





            「……何バカップルやってんだ。あいつら」
 先ほどジャギに殴られた不良Aは、先ほどの件に関して文句を言ってやろうと隙を窺っていたが。二人の発する桃気(とうき)に機を失われた。













[25323] 第四話『愛など要らぬって声が千の風に乗って聞こえた』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 20:34
 後日アンナとリーダーと共に寺院へと送って貰った俺。(※ちなみに犬もいる)
アンナからは『迷子とか子供じゃん』と笑われたが、るせぇと軽い言葉の応酬を交わした後が問題だった。ピンチが訪れた。
 「……ジャギ、今まで何処に行ってた?」
 そう心配な顔と深く険しい皺を携えて、階段の上でリュウケンは俺を迎えた。
  
 ウワー、完璧に怒ってらっしゃる。

どう言い訳しようかと考えていると、横からアンナが飛び出して言った。
 「あのっ! 御免なさい、ジャギのお父さんですよね?」
 「うん? ……そうだが」
 「私が悪いのっ! ジャギを一晩私が勝手に泊まらしたから……」
 君は誰だと言う台詞を遮りつつ、アンナは昨日の事を大まかに説明しだした。
それを聞いてリュウケンの顔の皺は幾分か薄れ、『心配させるでない』と言うお叱りの言葉で済んだ俺。ビバ感謝、アンナ。
 リュウケンと出会って何か雰囲気が悪くなるんじゃないかと心配していた俺であったが、そんな事も別段なかった。
 いや、だってさ? 不良とかそう言うのリュウケン目の敵にしてそうだし。
 余り心配性になりたくねぇなぁと考えつつも、ふぅっと汗を拭う俺をアンナは服の裾を引っ張って注意を引いてきた。
 「うん? 何だよ、アンナ」
 「ねえ、ジャギ……」
     何かを言い含み、口ごもりながら服の裾を離さないアンナ。
アーカワイイナーモウーとか頭の中が花畑になりつつも、このままじゃ埒が明かないのでアンナの頭を無理に上げて言った。
 「言いたい事があるなら、言えよ。ちゃんと聞くからよ」
 その俺の言葉に、少しばかりアーとかウーとか変に呻いてから、勢いよく言った。
 「あっ、あのさ! これからも何度かここに来てもいい?」
 不安と期待を交ぜ合わせつつ尋ねてきたアンナ。……何でそんな事を聞くんだ?

 「……当たり前だろ。変な事を聞くなよ」
 そう返事をすると、花みたいな笑顔をぱあっと浮かべた。……心にドストライク。
 「父さん、良いでしょ?」
 首を向けてリュウケンへと問いかける俺。北斗の寺院は確か原作知識だと女人禁制な気もしたが……大丈夫だよな?(ビクビク)
 「いや、……この寺院は」
 「父さん」
 「う、ん? 如何したジャギ?」
 「僕、父さんが駄目だって言ったら絶縁するから」
 「ぜ、絶縁っ!?」

 驚愕の顔をするリュウケンに、拗ねた顔を作って横を向く。……ふっ、これこそ秘技 愛息子の我侭よ! どうだぁ~ 悔しいかぁ~?

 俺の言葉に頭を悩ました後、……少しぐらいならば、と折れた。……勝った!

  ハッハッハッ! どうよ! 父の心変わりとは恐ろしいものよの~?

 いや、傍目子供の微笑ましい約束事を目の前で見せられたら、極悪人以外なら説得出来ると踏んでたけどね。
 ……某聖帝なら『愛などいらぬっ! 愛などいらぬっ!!』とか言って鳳凰拳の奥義繰り出してきそうだけどな!

 そんな事を考えていると、助けた犬が俺の足元に擦り寄って仕切りに首を擦りつけて来た……雑種犬好きの俺の心をこいつは知ってるな。
 「ジャギ、この子ここで飼うの?」
 「ああ、そうするつもりだ」
 撫でながらアンナの言葉へと返し、リュウケンを見遣ると仕方なさそうな顔を浮かべて首を小さく振っていた。……この手応えだと上々っぽいな。
 
 リーダーの背に乗って帰るアンナを見送りつつ、手を振る俺の横でリュウケンは俺に言った。
 「ジャギ」
 「うん? 何、父さん?」
 「友達が出来たのだな」
 「……ああ、とっても、大切な友達」
 「……そうか」

 夕焼けが真っ黒な針鼠のような頭の少年と、年老いながらも微笑みを携えた僧を照らしつつ、俺とリュウケンはゆっくりと踵を返すと、寺院へ戻った。



 「ねえ、父さん」
 「どうした? ジャギ」
 「少しって、週にどのぐらい?」
 「……三日に二時間ぐらいかな」
 「四日に五時間にしてよ」
 「いかん! 三日に二時間だ!」
 「じゃあせめて五日に三時間は会わせてよ! 何!? 俺に女人禁制の寺院で男色家になれとでも言うの!?」
 「だっ……! 何処でそんな言葉を覚えたんだ! それに俺なんて言葉遣い、私は許さんぞ!」
 




 ギャーギャーと口論する二人の上で、阿呆鳥がやけに喧しかった。












後書き

北斗三兄弟はこの一年後ぐらいに登場します。
 実際ジャギの運命の女性と出会うのは時系列でもっと後ですが、それだと
自分的にやきもきしたので、こう言う出会い方にしました。
 犬に関しても実際の作品には出ます。
描写的に言いますと、カイオウとラオウが飼っていた犬とよく似ていると思ってください。



[25323] 第五話『ギーズ大佐! お助け下さい!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/09 22:34
 
                  (´・ω・`)   やあジャキライです。

   うん、今回の内容はほとんど中の人の説明とこれまでの思考を整理する『まとめ』と、これからの事についての未来予想図しかないんだ。

    けど、この題名を見たとき言葉では言い表せない『ときめき』を、みんなは味わえたとおもうんだ。

 その気持ちを 出来ればこれからも持ち合わせて欲しい。

    それじゃあ、駄文もおなざりに、ここからが本文です。











   





       我輩はジャギである。名前は未だ(思い出せ)ない

何でこんな事になったのか、本当わけがわからない。
 北斗無双でジャギで27分で完クリした事とか、AC北斗でcpuのトキにパーフェクトで勝てた事以外に心当たりはない。
 リュウケンの顔を見た後に、これは夢だと見当つけて朝食終わって寺院で座禅をやって、そんで町の子供に『やーい! お前の父ちゃん、霞羅門~!』とか言われたんで激流を制するは⇒ハーン! セッカッコ! テレッテー 紅の豚さん有難う! とか言う感じで黙らせてから寺院に帰って。

     あ ありのままに起きた事を話すぜ! 気がついたらジャギになっていた。な、何を言っているのかわからねぇ)byトイレの災難の君へ

              本当、そんな心理描写なんで困る。

 今はあの三兄弟がいないようなので割愛するけども、何で俺はジャギなんだろう?
 何故私はジャギであり、ジャギは私なのか? ……哲学だな。

 ベットの上で頭を悩ます俺。というよりも何故だが自分の名前が思い出せぬっ!

自分は父、母、祖父ちゃん、弟を含めた五人家族で、バイクには結構五月蝿くて漫画に関しては二倍五月蝿かったのは覚えてる。
 ってか弟とは別段仲も悪くなかったし、普通に地方の大学で過ごして帰る一般ピープルだった筈なのに何でこんな目に……泣

 「あ~あ! どっかにスタンドの矢かdiscねぇかなぁ!」

 せめてスタンドとか一方通行とか、百歩譲って無限の剣製で良いから欲しかった。
 ここが現実だって認識した瞬間かめはめ波とか色々試行錯誤してみたが……結果は惨敗。リュウケンに見られて痛い子扱いされなかっただけ恩の字だと思おう。

 「……いや、待て、諦めるのにはまだ早い」

 そうだ。この体はどうやら低スペック。けれども鍛えてやればどうだろう?
某中国茶の人だって頑張れば番外編でボージャック辺りと互角に戦えたのだ。

 俺だって今から頑張れば三兄弟は未だしも、いてぇよぉ~!! 様をぎったんぎったんのけちょんけちょんに出来るぐらいはいけんじゃねぇ?
 
 「……となるとやっぱ持つべきは北斗神拳と、南斗聖拳だよな」

 二指真空把(にししんくうは)とか転竜呼吸法(てんりゅうこきゅうほう)やら北斗神拳には魅力的な技がかなりあるので、これは世紀末に欠かせない。
 それに今から南斗と仲良くなっておけば、南斗邪狼撃(なんとじゃろうげき)以外も覚えられる可能性があるのだ。
 そうすれば蒼天の拳のギーズ大佐見たいに銃弾を操ったりと……ああ、夢が広がリング! 実際は北斗孫家拳の技だけど、出は同じだしな!

 重火器だって今から適当に何処からか調達出来るかもしれないし! (方法はどう考えても犯罪行為になりそうなんで思考の片隅においやる)

 それに含み針も馬鹿にされてるが、あれだってカイオウの呼頸虚塞とかを破るには欠かせんし、秘孔を封じる思わぬアイテムになるかも知れないのだ。もしかしたらケンシ……(突然の激痛に身を悶えていますので暫くお待ち下さい)
 ……世紀末救世主が負けてカイオウ乗り込みフラグも有り得るしね!!

 


  よし……決めたぜ。




    俺はこの原作知識とジャギの体をフル活用して、世紀末を生き延びる!

   そして伝承者争いで三人と好感度フラグを斜め上で保ちつつ拳が潰されぬ適当な言い訳を形成しつつ生き延びてやるのだ!

 ラオウ(拳王軍)と救世主(ケンシロウ)の板ばさみとかになりそうで恐いけど……頑張って見せる!

 そうさ俺はやってやる! 俺は世紀末に生きる通りすがりの北斗神拳使い(※仮面はイナゴ印でなく鉄仮面)として生きる!


  世紀末一般人として絶対に生き残ってやる!!         絶対に生き延びてやる!!
 






あとがき

こんな感じで中の人の憑依lifeが始まりました。
 
実際漫画の知識以外は結構鈍めのオタクだと思って貰って結構です。

 けど時折ジャギの癖に主人公補正とか付きそうなんで、汚物の嫉妬でこれからも先行きには数々の困難が与えられます(我二七難八苦ヲ与エタマヘ!

 こんな汚物ですが、これからの作品を暖かく見守って下さい

 デハデハ ノシ



[25323] 第六話『いっしょにとれーにんぐ(前編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 10:10
         


          「ジャーギ♪」

 そんな甘い鈴のような音色と共に、離れがたい睡魔を寄せるシーツを押しのけて金髪の女の子は怠惰を貪る俺の目を見つめる。
 
      「もうっ、早く起きないと駄目じゃない。今日も街の見張りなんでしょ?」

 その問いに俺は、少しぐらい寝過ごしても罰が当たらねぇと言いながら、そいつの腰を手さぐりで抱き寄せて隣に置いた。

 文句の言葉も短く、すぐに甘い吐息を耳に近づけて、そいつは俺の首に細い腕を回しつつ微笑みながら俺の名を呼びかけて頬を舐めた。




          あぁ?                 頬を舐めた?

 そうペロペロとアンナは俺の頬を舐めて……って、うん? この展開どっかで見たぞ!? そうだ……確か二作目は不詳の『マス……。







 

               



               「……起こしてくれて有難うよ」
                     「アンッ」


 べたべたの唾液をつけさせた張本人ならぬ張本犬のリュウ(※ジャギ命名)を抱かかえつつ、不機嫌な目つきで俺は覚醒した。


 


 AM5時ちょっと。雑種犬リュウに飯を用意した後階段の駆け上がり、駆け下りのランニングを始める俺。
 季節は二月を過ぎて秋の中頃。着実に冬は到来しようとしていた。
余談だが、俺がこの犬にリュウと名づけたのも未来へ向けての策略の一つである。

 ラオウの兄カイオウの飼っていた犬と未来の息子の名前を合致させたこの名前、この犬を飼う俺に少しは不和感も薄れるのでは?
 そんなチキン思考で思いついたのだけど……出会い頭に俺の飼っている犬を蹴り飛ばしたりとかしないよね? 兄たま……。

 俺そんな行動取られたら『な、何をするだーっ!』って行動取れんし、『俺は人間をやめるぞ! リュウケン!』とか言われても困る。

             ……吸血覇者ラオウとか、DIOやカーズでも倒せねぇよ

 
   ランニング終了後、リュウケンと朝食(親子のスキンシップ)を済ませ、ランニングを再会……と見せかけ別の修行。

 
 リュウケンにも黙っているが、ランニングと腕立てと背筋と腹筋以外のトレーニングは……実はしている。
                    
                    ……それは。


        
          ……コン     コン     コン     コン    コン    


        「……58、59……71、72」


                うん、突きの練習。

 石の窪みに向けて指を何回も突く練習を繰り返す俺。
 何でこんな事をするかと言うと、自分の名前も思い出せない馬鹿阿呆の癖に昔のジャギの記憶のような物が夢に現れたからだ。
 その記憶の中でリュウケンは木の窪みに向けて何回も人差し指を悪い言い方になるが藁人形を打つようなスピードで打っていた。

 ……赤ん坊の自分を背負いつつ木の窪みに突きとか……傍目から見て呪いの儀式だよな。

 


 とにかくその記憶を見て、あれ? イベント!? とハチャメチャの押し寄せる気持ちで修行を開始したのだが……クソ痛い。

 「……第一これで何の効果あるのか全然わかんねぇぞ」
 
 この修行に関しては凄い気の遠くなるような怠惰な感覚が芽生えて来るが、来るべき世紀末の為にはこの修行だって必要だと
 むりやり自分を納得させて、熱くなれよ、もっと熱くなれよー! と突きを再開する。

                     ……突き指になるな。何時か



 

  そしてお昼ごろ、寺院の階段の下で片手などで逆立ちをしている俺の元に、アンナは弁当をぶら下げつつ笑顔で訪れる。

 正直この弁当と笑顔がないと修行で削られるsan値を補えられない。マジ天使、アンナ。
 どうも兄のリーダーと本格的にこの町を拠点に暮らすつもりらしいが……原作に影響出ないよね? ……出ないよね?)ガクガクブルブル


 そしてお昼もそこそこ俺はアンナと組み手をするのだ。   はいここ重要!




     そう            何故かアンナと       組み手をしているのだ。


   切欠は一ヶ月ほど前にクレージーズとか言う訳ワカメな暴走族にアンナ達の住む場所が荒らされたのが始まりだった。

 それで俺の町の一角にとりあえず場所を移して『あーあ、私が強くなったらあんな奴ら追い払うのに!』とかアンナが言ったのだ。



 「それじゃあ俺と修行するか?」      「え? いいの?」

               閑話   休題



                   


                   うん、こんな感じであっさり決まった。



組み手と言ってもアンナに俺が軽く格闘の初手(これでもこの世界の前じゃ格闘技齧ってたんだ)を教えて、アンナはそれを試すって感じ?

 


     ドサッ          鈍い感じで地面の叩かれる音が響く



 「あー、もう! また一回も触れられずに負けたー!!」
 「いや、アンナも段々素早くなってるぜ? 俺も今日は危なかったし」
 「本と?」
 「俺は本当の事しか言わねぇよ」



 そう言い切ると、不満気な顔をすぐさま笑みに変えて、アンナは持ってきた荷物から水筒を出すと、俺に甲斐甲斐しくも差し出してきた……ええ子や。


 リーダーもアンナが体を鍛える事には口出ししなかった。
 『言っておくけどな、何があったらお前が一番に守ってやらなきゃ駄目だぜ?』と、釘は刺されたけどな。



 そしてそんな感じで軽く色々話をして、日が傾くまで時が過ぎる。

 どうもアンナは兄と暴走族の仲間以外には身内と呼べる者はいないらしい。俺も天涯孤独だからとやかく言わないが、アンナは話題に上ってるとき
ちらっと寂し気な表情が出ていたのが胸を痛めた。

 まあシリアス(笑)な話題は苦手なので、今度どっか遠出でもするか? と言う話題を今日はした。
 行き先はだいだい決めている。目指すはサザンクロス! 今のうちにシンと仲良くなれれば世紀末でも何かと助けてくれそうだし。
 アンナも食いついていた話題なので、幸先は良い……と信じたい。

……世紀末になった時の為に今から植物の種とか安くサザンクロスで買いたいな。



  アンナの笑顔を清涼剤に、今日も中の人物は未来へと頭を悩ませた。









あとがき

 最初に題名の奴のサイトを見たとき、某拳王『体(特に脳)を愛え……』と本気で思った汚物

 とうもろこしとか芋の種を買いだめしたい願望……汚物めも2012年の為に買っとこうかな。



[25323] 第七話『いっしょにとれーにんぐ(中編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 11:00

                    

                 「……何だ貴様は?」








                 「お前こそ何だよ?」







   首元まで伸びた金髪。鋭いブルーの眼光。そして紫を基調とした制服見たいな感じの衣装。






              ……ゴクト様や!     モノホンのゴクト様や!!





                 ……ふっ      興奮し過ぎた。





  何故険悪な雰囲気で睨みあっているかというと、産業で纏めろっていう電波の声に従って説明すれば……。

 ヒロイン属性アンナ
 街の悪人『嬢ちゃん一人でこんなとこ来じゃ、あぶねぇぜ? グェヘヘ』
 通りすがりのシン『ナントゴクトケンッ!』ジャギ『ヤツザキ二シテヤルー!』


 うん、今来た産業って便利だね。


 「……今のは南斗の拳法によく似ていた気がするが?」
 「だったら何だよ?」



               「……知れたこと、貴様が南斗の名を汚す人物か我が拳で見定めてやる」



                            ……は?



        え? ねえねえ聞きまして奥さん?    やぁねぇ、拳で見定めるなんて、最近の若い子は……。





                           本当に待てよ、おい。






   余りの出来事に現実逃避と無意識に体がシンの若芽ながらも鋭い闘気に当てられて戦闘態勢に入ってる俺。え? 詰んだ、俺?


 そんな急な場面展開を、何時かの不良との死闘五秒前の時のように、天使の声が割り込んできた。


 「ちょっ!  何いきなり目の前で喧嘩しようとしてるのよ!」




 

   ……あぁ助かったぜアンナ! そうだ言えっ! もっと言っちまえ!!




 「女……こいつは貴様とは関係ない事だ。南斗に関係のない奴は引っ込んでいろ」
 「関係なくないよ! ジャギは私の大切な人なんだからっ!」
 
 「引っ込め……これは南斗の問題だ。部外者は引っ込んでいろ!」
 
 「何よ南斗、南斗って! ジャギはねっ! 北斗の寺院で生活しているだけであんたの言う南斗になんて関係ないんだからっ!」


 「……北斗?」



 その名を聞いた瞬間、纏っていた闘気を消し去り、眼光を薄れたシン。それには安堵の感情を覚えます。覚えますけども……!
 アンナの言葉に薄っすらプロボーズ的な言葉が混じってた事にも気付かず、こちらを見つめるシンに心中汗でだらだらな中、俺は緊張で爆発気味の頭で思った。




                   これ、結構ややこしい状況に陥っているんじゃねぇか?











(Partシン)


 金髪の女を囲む男達。修行の息抜きに外に繰り出した意味がないと頭を痛めつつ秘孔を外しつつ南斗孤鷲拳を繰り出し、吹き飛んだ男の片隅で針鼠のような男が飛び出し、女の近くを囲っていた男達の方に手刀をくりだしていた。
 南斗の拳はその型の自由さから邪法、そして拳法とは呼ぶには似つかわしい技もある。だが、その男の拳はどちらとも違った。

 未だ幼少で未熟な部分は見れるが、女の元に寄るまでに悪党共の肩を一瞬にして
血を吹かせる技は、洗練された南斗の技の原石を俺に見せた。

 逃げ惑う悪党の背を横目に、俺はその現れた男の目をじっと観察し、こう心中でぽつりと結論付けた。


                  ……この男の目つき、気に食わん。


    まるで泥を塗り固めたように黒く鈍い目。そして南斗聖拳伝承者となる為に日々磨き上げた俺の闘気すら歯牙にかけぬという表情。

        その男のすべてが俺の心の深い部分を苛立たせた。


 俺の構えにすら自然体で向かおうとする事に苛立ちは拍車をかけ、拳を繰り出す機を窺い始めたとき、助けた女の方から邪魔が入った。

 俺の拒絶を含んだ声に女は言った。『北斗』と。
この女の言うことが真実ならば、この男は北斗神拳候補者と言う事になる。


  ならば今一度氷の如く心でこの男の一挙一動をつぶさに観察しなくてはなるまい。

 北斗と南斗、それらは陰と陽。




 何ゆえにこの男が両方を見に付けているのが俺は知らなくてはいけない。
















 あとがき


 「おばちゃん、このとうもろこしとかぼちゃとさつま芋の種くれ!」
 
 「はいよっ、どん位だい?」

 「……全部だ!」

 「えっ!?」

 「それも一台や二台じゃない……全部だ!!」



 アンナとはぐれた事に気付かずやってた中の人のやり取り。
この数秒後に見失ったことに気付いて悪人に見よう見まね南斗邪狼撃しました。
お陰でピンチ絶賛発生中。
 



[25323] 第八話『いっしょにとれーにんぐ(後編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 11:31


        豪華な装飾の一室。     ふかふかのソファー。   そして腕を組みつつ俺とお見合い中のシン。




                        







                            ……性転換しちゃ駄目ですかね?







    この状況の九割五分は俺の責任だ。
アンナが囲まれた状況を見た瞬間に完璧に頭がぷっつんして見よう見真似南斗邪狼撃をだした俺の責任。
 ……そういやグレージーズを見たときも俺の体、全身が沸騰するように熱くなって今にも秘孔突きそうになっていた気がするな……。

 ……精神科医ってこの世界じゃあんまり浸透してねぇんだよなぁ……チクショー。








  「……答えろ。お前は北斗神拳伝承者候補なのか?」
  「……」



  



   ……どうする……どうする……どうやってこの問いに答えるよ!?? 俺!!?




 yes 後々リュウケンに知られる。『何故知ってんだコラ』新一or上顎 最悪 解唖門天聴コースにご案内♪

 NO  よかろう、殺してやる      ナントゴクトケンッ! ⇒ フハハハハッ! ⇒ ナント腰抜けの奥義! ⇒  何分後に死ぬcry



詰んでるジャン





     ……仕方がねぇ。   この原作知識覇者ヘタレの知識   思う存分に披露してやるよぉ!!







   


  「……俺は、父に拾われた子だ。     ……火事で家族を失い、愛する者を失った……それが俺だ」


  そう言葉を切り出した俺に、眉を微動だにせず、シンは聞き入る。



  「……俺は父さんに何かしてやりたがった。父さんを守る為に何か出来ないか
必死で自分に出来ることを探して……ある時それを見つけた」


  「……それは、南斗聖拳に関する書物か?」


  シンの言葉に、頷きつつ遠くを見つめて話を続ける。


  「……父さんは俺に北斗の拳法に関しては話さない。……当たり前だよな、北斗の拳は暗殺拳……息子に話すもんかよ」


  辛そうに(実際話の構成を作るのに脳内がパンクしそうで死にそう)拳を握り締めて、俺は深呼吸を一回、話の終わりを言った。

  「……だから、父さんに黙って南斗の拳法家の動きを盗み見て、それを何万回もやって、さっきの拳が出来た。
……父さんは俺に伝承者になって欲しくない。……それなら、俺は南斗の拳だけでもいいから……」


  


    「父さんを守る為の……父さんの愛に報いるために一つでいいから拳を……」




  


  「もういい」








  顔を上げると、シンは額と目を手で隠しつつ、天井を見上げていた。









          ……え?             しょっとして     ……いけた?





   「……お前が南斗の拳を使う理由は知った。……もしもまた来るときがあれば会いに来い……手ほどき位はしてやる」













        ………………。
        …………。
        ……。

                       
                        ( ゚д゚ )               




 あとがき



 デレシンとか需要あるのかしら?   汚物の頭では理解不能です。

 後第二話ぐらいしてから三兄弟の登場。

 ……今頃聖帝様と妖星様は何をしてらっしゃるのやら……(遠い目)



[25323] 第九話『修行中ロッキーのテーマソング流れたら勝つる』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 16:19


         127 本当にいた汚物 :2011/01/10(月)16:20:00 ID:※※※※※※※ 

           光の速さで羅漢撃繰り出したらどうなるの?






          
           リアルな話するとお前の街が吹き飛ぶ。
           高速で突くほどの質量(約270~590グラム)
           の物体が動いたら壮絶な衝撃波が発生する
           まして地表と衝突したら地球はほぼ崩壊
           お前の羅漢撃で地球がヤバイ





           さらにリアルな話すると相対性理論では物体が
           光速になった瞬間質量=∞(無限大)となるため
           重力崩壊を起こしブラックホールが発生
           それが一瞬で太陽系を含む銀河系を五秒以内に
           飲み込みお前の羅漢撃で宇宙がヤバイ





           また羅漢測をリアルに説明すると光の速さで
           羅漢撃すると、羅漢撃は北斗震天雷を見る。
           羅漢撃の後方は無想転生が、
           そして進行方向には周囲が蒼龍天羅になる。
           そして愛の効果で闘剄呼法が生まれる
           お前の羅漢撃素敵








  


(´・ω・`)  乙こ、これはおつじゃなくてポニーテールだからね!








 雪が降り始めた今日この頃。
 未だにシンとの邂逅がちゃんと成立したのが信じられなくて爪が割れるまで石を突いてみた。痛かった。けど引き換えに石も割れたし万事ok


 


  つか本当に成功したんだな。いや愛に誓う殉星とは知っていたけど、あそこまで上手くいくとは……





  あの後放心状態の俺をリーダーが担ぎつつ帰り、俺はアンナが悪戯で俺の耳に水を入れるまで半ば意識がなかった。



  サザンクロスにたむろっていた悪党達の件も知ってか、リーダーは『俺のチームでも武器買うかな……』とぼやいてた。
 ……確実にショットガン所持フラグじゃねぇの? その台詞


 そんな未来像を嫌にくすぐる出来事も過ぎ去り、とりあえずはシンとまた来週にでも会う予定を企てる俺。
 ……何と言っても確実に南斗聖拳を覚えられるのだ。この機会を失うわけにはいかないだろう。

 リュウケンはというと、最近疲労がたまった表情で文に目を通してたりしていた。……手紙のあて先が修羅の国っぽいんだよな~。

 予測が正しければ多分カイオウとかの事に対しての内容だろうなぁ~と結論づけて見る。今頃ヒョウとカイオウとかどうしてんだろ?

 「……ん? ジャギ、今日は体を鍛えなくてもよいのか?」
 「あ、……父さんが、何だか辛そうな顔をしてたから」
 「私の心配はせずともよい。行ってきなさい」


 文を自分の見えざる所によけて、俺に微笑むリュウケン。……う~む、この調子だと本当に北斗神拳を教えてほしくても無理そうだぞ、おい。





 それとなく、俺は考えた末の質問をしてみた。

 「ねえ、父さん」
 「何だ?」
 「……ちょっと、聞いてもいいかな?」
 「何でも言ってみなさい。私は、お前の父親だぞ?」



 そう俺に向き直って聞く体勢に入ったリュウケンに、俺は言葉を投石した。



  「……もし、俺が父さんを守りたい為に、父さんが歩ませたくない道へ行ったら……父さんは如何する?」

  


  「……っ! ……何故、そんな事を聞く?」



  
 俺の質問に一瞬目を見開きつつ暫し目蓋を閉じてから、リュウケンは質問を返した。 質問を質問で返すなー! とか、今の状況的にネタは追いやる。



  「……何だか知らないけど、胸騒ぎがしたから」



  「……そうか」






  



 冷たい雪が地面に染み込む音が降りつつ、暫し二人の親子の間には無言の空間だけが支配した。





 その時ジャギを演じる中の人は舞台を見るように冷静な感情で思っていた。多分、家族でいられる時間は、もう短いだろうな、と。










あとがき

 


シリアスとか誰得なんだよ。





 これなら一騎当千の世界に行きたかったぜ!(中の人の心の叫び)

   
           


            



[25323] 第十話『ぶらり途中下車の旅ーサザンクロスー』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 20:31
       
      

      三国無双というゲームを知ってるだろうか?














 これは云わばシミュレーションゲームで、農業、技術、工房、商売などあらゆるステータスを五角形にするゲームだと思って貰えばいい。


         ならば世紀末無双というゲームがあると何が重要か?

 俺が思うに 農業、医術、力、兵力、技術を満たす為にどげんかせんといけないと思う。


 ……兵力だけなら拳王軍だけで五角形グラフつきぬけてるからなぁ……。




 今の平和な内にスペイン風邪とかマラリヤに関する薬とか貯蔵しなくてはいけないし、非常食とかも備蓄しとかないといけない。
 ……ああ、あと栽培用の種だ。とうもろこし、じゃが芋、稲(……この世界って粥が主流なのか米がなぁ……。)


 放射能で汚染される訳にはいかないから実質何処か地下になると思うが、それも自分で掘ったほうがよいのかね? 
 つうかどっか荒野の穴とかを開拓して竪穴住居にしたろうか?(手段がなければそうすっけどな!)
 ……ええっと、後は秘孔での治療で出来る医療の限界を探しつつ……。



 「……おい、ジャギ」
 「ちょっとぉ……ジャギぃ」
 「あ? 何だ?」

 書物から顔を上げると、いきなり両方から拳が降り、俺の両方のこめかみにジャストミートした。 こぶしをゴールに目掛けてシュウウウゥ!! じゃなくて



 「ってぇなぁ!! 何しやがんだ!?」

 「拳法を教わりに来たのに、書物にずっと顔を向けてる奴が言う台詞か!」
 
「そうよ! 私も折角シンのお陰で上達してきたのに。ジャギ全然みてくれないじゃん!」


 二方向の怒声にすぐに降参の印で手を挙げる俺。現在南斗聖拳cheating中の俺とアンナ。 ……うん? 何故アンナもしてるかって?






  「ジャギだけ頑張らせないよ! 私だって一緒に修行するんだから!」


 まるでカルガモの子供(そう思った瞬間に蹴りがケツを襲った)のように俺に笑顔を見せて申し出るアンナに、シンは苦笑しつつも了承した。
 
                       




         ……いや、良いのかよ。(まあ、南斗聖拳は広まってるから良さそうだけど)




  「……書物で勉強すんのも拳法の一つだろ?」
  「それは医術の本だろうがっ! ……お前は二兎を追って一兎も得られなくても良いのか?」
 「一石二鳥って言葉があんだろ。さっきまで一通りの事はやってたからリフレッシュがてら頭の体操をやってんだよ」
 
 「……っ! 口の減らぬ奴め……!」


 舌打ちをしつつ腕を組むシン。
  俺は一瞬勝った気分になったが、アンナに持っていた医学書をあっさり抜き取られ頭を叩かれると、怒気のこもった声で言われた。


 「折角教えに来てもらったのにそんな態度じゃ駄目でしょう!? ほらっ、シャキッとするっ! シャキッと!」

  
 



   「あー! あー! ったく、わかったつうの!」
 
 やることが山ほどあんのになぁ、と心中ため息で一杯の俺はちらっとシンを見遣ると、キザな感じで目を閉じ、ふっ……と笑った。……ウワむかつく



 「あんだぁ?」

 「いや……尻にひかれているな、とな」

 「……よし、シン組み手だ。その綺麗な顔を吹き飛ばしてやるよ」

 「はっ……! いいだろう! お前のその顔を少しはマシな顔にしてやろう!」


 



 


 こんな風景が、最近の俺たちの日常だ。
 一度妖星様と聖帝に会ったんだが……それは後日に割愛する。一言感想述べるとありゃ典型的なナルシストとファザコンだ。

 アンナは意外にも筋が良いようで、手甲での闘い方以外に獲物を持った戦い方を最近学んでる……俺追い越されたりしないよな?
 世紀末救世主に七つの傷をつけた奴が筋が良いって言うんだから、これで少しは俺も安心……か?





                ……胸に七つの傷、        か……。





あとがき

 彼女が南斗聖拳覚えた……死にたい。の巻

実際ラオウの側近のレイナとかマミヤとか女傑はいたし、これ位……良いよね?


次回、あの兄弟がとうとう登場



[25323] 第十一話『ユリアが聖母マリアなら、アンナは聖アンナか?』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 23:16
             


         (´・ω・`)やあ   ジャキライです。


うん、『また』なんだ。すまない




今回の話はジャギがサザンクロスに出向いたときの話しか紹介しないんだ。
 上の題名とはまったく関係がないんだよ。



でもこの題名を見たとき君たちはきっと『もんもん』てきな物が過ぎったと思う。



その気持ちを出来れば忘れないで欲しい。











 


 「……美しい顔だ」



 (……さっさと脇にどけてくんねぇかな)



 シンの修行場にあった本を元の場所へ戻す為に一人で廊下を歩いていた俺。

 その途中で真紅の軍服に紫マントと言う、お世辞にもセンスが良いとは言いがたい中世的な声の子供が
渡り廊下の鏡を恍惚気な顔で眺めながら丁度真ん中に佇んでいた。
 完全に通路を防ぐ感じで、声をかけようとしたが、人目でわかる原作キャラの衣装に、俺は声を失ってしまった。
 肩まで届く紅の髪の毛、そして横からでも見て取れる派手な口紅……これ、しょっとしなくても、あれだろ……。


  

                           ……完璧にユダだ。








 余りにもわかりやすい格好、そして台詞に一瞬硬直しかけたのを気合いで立て直し、俺はぶつぶつと何かを呟くユダに耳をすませてみた。




 
 「……ああ、やはり私は今日も美しい。この鏡に映える美貌、そして夕焼けの如く輝く唇、そして……」






                       悪い、無理、シャットアウトだわ。



   げんなりしてもう通り過ぎるかって考えた丁度その時、この男はようやく佇んでいる俺に気がつくと、不思議そうに口を開いた。


  「……なんだ貴様は?」


  「いや、通れないんだが」



 極めて平坦な口調で指摘すると、ああと呟き素直に脇へとどける妖星。
一安心しつつ通り過ぎようとすると、妖星はあろう事が俺の体を上から下に見つつこう言葉を投げかけて俺の歩みを止めた。


 「ふむ、貴様、私の元に来ないか?」

 「はっ!!??」


 余りの出来事に振り返って我を失い叫ぶ。いうぁ……いや、いやいやいやっいきなりドゥーユ事よ!?(某海賊王のバレリーナ口調で変換)



 だが、次の言葉は限りなく俺を安心させてくれた。

 

 「お前の顔、私の隣に並ばせれば私の顔がより美しく引き立つ顔をしているからな。なに、悪いようにはしないぞ? 私は傷つき醜い物は嫌いだが
 お前のように造形が元々そのような顔で、私の美貌を輝かせるのなら私はお前の生活を何不自由なくしてやろう」



           ……よ、良かったあ~!!       ああ、そう言う意味ね!


  元々ジャギの顔って余り褒められた顔じゃないし、それにこいつは美しい物以外に興味はないといっても美と知略の星。
美しさを高める為って言う理由ならば俺を欲するのも納得する。(完全に自画謙遜だけども)


 けれども北斗で修行(予定)する俺としては、これはきっぱりと  だが ことわる(ドヤ?)。


    「……悪いけどな、いきなり人の顔に難癖つける奴に、はいわかりましたって言う奴がいるかよ」

     そう返事をする俺に、高笑いしつつ見下した表情でユダは言う。

    「ハッ!  お前のような下賎の者が、この妖星のユダに逆らうというのか? お前のように、醜い顔をした者がか?」

 そう言ってまた笑うユダ。……醜い醜いって、まだ十歳にもなってない奴に言う台詞じゃねぇだろ?


  もはや怒りなく呆れて困っていると、後方から俺を呼びかける声がした……アンナだ。 怒った表情で俺に小走りに近寄ってくる。

  「ジャギ! 本を戻すだけなのに遅すぎるよ! ……って、誰? こいつ?」

  「……こいつ? だと。……女、お前この妖星のユダを知らないと?」


 眼光を鋭くしてアンナを睨むユダ。少し危険な雰囲気を察知し自然にアンナを守れる位置に動いて、俺は憮然とした表情で言う。

  「……こいつは関係ないだろ」

  「お前には聞いてない…………ふむ、女、中々美しい顔をしてるな」

  「はっ?」

  背中越しに怪訝な声を上げるアンナ。

 ユダはニヤリと口元を歪めると、こう言い放って目の前を通り過ぎた。

 「ジャギと言ったな……今日はその女に命じてお前の事は放っておいてやろう。……だが忘れるな! 私は欲しいものはきっと手に入れる!」



 忘れぬなよと高笑いでシンの部屋へと向かったユダ……。……え、何なのこれ? 俺ってば一方的に因縁つけられた? しょっとして?

 「ねえ、あれなんだったの?」
 
 「……なあアンナ」

 「うん?」

 なんだがもうどうでもよくなりつつ、一番疑問に思った事だけ言った。

 「……俺ってそんなに醜い顔か?」

 その言葉にキョトンとした顔を一旦してから、むっとした表情で俺の頬を両手で挟むと言った。

 

 「ジャギは格好いいっ!! 何言われたか知らないけどこれだけは真実だからっ」

 「何怒ってんだよ?」

 「怒ってない!!」

 そう不機嫌なアンナの態度が理解できず。もう思考をいい加減丸投げにしたくなりつつも、その日はそれで無事に終わった。





  ……翌日 サザンクロスでシンに帰りを告げようとした時。





 「ここにフウゲン(※現南斗孤鷲拳伝承者)が居ると聞いたのですが」
 「おっ、おう……それならあの階段を上って右に曲がった所だ」
 「ありがとうございます」




 そう礼儀正しく会釈して階段を駆け上った子供。……え? あれってもしかして
もしかしなくてもサウザー??

 アンナに少しだけ待って欲しいと出口で告げて引き返すと、シンと軽く会話している先ほどの子供を見かけた。
 「……師は変わりないのか?」
 「ええ、お師さんは変わりありません」

 そうにこやかに微笑んでいる子供……信じられるかおい!!? あんな温和な笑顔を浮かべる子供が聖帝サウザー!? あの!??


 呆然としつつ見守っていたが、衝撃が強すぎて壁にぶつかり二人に気付かれた。
シンに手招きされて自己紹介する事になった俺。いや、本当、数分だけ話す機会があってほとんど見た目のインパクトにやられたけど……。




                 ……うん、この子ファザコンだわ。間違いなく。



  シンがお師さんの事について話題を上らせた瞬間笑顔が増したし……マジでおしいな、誰かサウザー性転換で小説作ってくんねぇかな?
 お前は何を(ry  ……すまん、本当漫画と実物のギャップが激しくてメタパにかかった。

 ……こんな良い子だから性格が急変しちまったんだろうなぁ。そう言う意味ではオウガイもある意味外道だぞ? 本当……。


                            ……何で北斗の師はこんなに海のリハクばっかなんだ?(ため息)








 ……うん、とまあこれ位か? 書き記すべき事は?



 「……独り言最近多いけど、大丈夫? ジャギ?」

 「……色々と心配事が多くてな」

 「ふ~ん……私に言えない事なんだろうけどさ。きつかったら言ってね。私に出来ることをするからさっ」


 「おう、サンキューな」


 アンナの頭を軽く撫でつつ、俺は綺麗に輝く北斗七星を見つつ今一度決意を口にしてみる。



              


                  
                         ……絶対に幸せになるからなコンチクショー
 


 



[25323] 第十二話『書いてて死にたくなる文章ってあるよね……』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/10 22:53
     
     いや、言い訳するようだが後一話待ってくれ。
     後一話で拳王と聖者登場する)ホアタタタタタタタタタッタオワッター!!
    









「……頭痛が酷ぇ」

 今日は以前にもまして激しい見えない痛みが、激しく自分を狂わせようと襲っていた。

 



     「……み、ず」


 辛うじて意識を保ちながら、引き摺るように動きつつ水場まで辿り着くと、必死に水をすくって飲み、それでやっと幾許か頭痛が引き、安堵のため息を吐いた。
 

 『……くぅ~ん』
 「……心配すんな。なんともねぇよ」
 
 心配気なリュウの背中を撫でながら、深呼吸かでら窓に浮かぶ月と星を見上げる。今日は何時にもまして北斗の星が輝いている。
 「……来る、のかねぇ」
 この頭痛が起こるのは、北斗三兄弟の事を考えた瞬間にだけ起きる特殊な頭痛だ。
 アスピリンはおろか雪の中に頭を突っ込んでも薄れない痛み。水を飲むときは幾らか痛みは気休め程度に収まりはした。
 最近はその事を考えず生活してたが、最近は考えずとも頭痛が起き始めたのだ。
 「……漫画とかだったら来るフラグだからなぁ。俺も修行はしてきたし、多少は何とかする自信は……あるんだけど」
 付け焼刃程度の南斗聖拳は覚え始め、六歳に差し掛かるこの体は南斗の十五代の拳法家の身体能力と互角程度には成長している。
 後はリュウケンを説得さえ出来れば、北斗伝承者候補として成長し世紀末となりアイツが伝承者となる……。
 

                          ……俺は本当にそれでいいのか?


                       なあ?       オマエは本当にそれで       イイノカヨ?







                        お           い?







          「……っ!?」

 何とも言えぬ気持ち悪い感覚が喉にせり上がり、慌てて厠へと向かうと夕食の残りカスが嘔吐物となって全て吐き出された。



        「……ゲホッ! ゲホッ!? 何だぁ……今の感覚?」


    まるで自分の中に自分ではない物が混じっているかのような得体の知れない感覚。……もしかしなくてもこの体のジャギか?


   「なあ? そこに居るのか?」

 情けなく顔色の悪い顔立ちの俺が映ってる鏡へと問いかける。


                     ……目の前の鏡の俺は変わることなく俺の姿をただ映していた。





  「……はぁ~」




 階段の段差に腰掛けつつため息を吐く俺。太陽が頭上を照らす中、俺の心は曇天を纏いながら頭痛と共に胃の辺りを傷ませていた。
 朝に外出用の僧衣を纏いつつ俺に向けた言葉を思い出す。

  


     『……ジャギ。 今日私は大事な用で一日留守にしなくては成らぬ。……明日の朝には帰ってこよう』




   




  「……どう考えても北斗三兄弟が来るフラグ……だな」

 

 修行を終わらせても頭痛が治まらず、苛立ち紛れに転がっていた石ころを持ち上げ軽く手刀を横に入れる。……石には浅く切れ込みが走った。

  


  「断られたら南斗聖拳を見せて、俺の本気をアピールするってのも手だよな」


 そんな事を考えつつ、寄ってきたリュウの頭を撫でながら空をぼんやりと俺は眺めた。……ジュウザは雲を眺める時こんな気持ちなのかね?





  


                      「ぼんやりして、どうしたの?    ジャギ」





   眩しい太陽を背に、影になった顔が俺を覗き込んだ。




 「……ちょっと人生の厳しさについてな」
 
 「何それ? ジャギってばらしくない」

 噴出しつつ笑みを浮かべて俺を見るアンナ。……頭痛が不思議と引いていくのが感じた。

 「……何か悩み事?」

 「……ああ」

 俺の力のない返事に、アンナは少し渇いた笑みを零しつつ、俺に少しだけ儚い笑みを浮かべて言葉を向けた。

 「ジャギってさ、不思議だよね」

 「ん?」




 俺が首を向け、その言葉に疑問の声を上げたが。アンナは独り言のように遠くを見つつ言った。


 「いっつも不機嫌で、ぶっきらぼうで……けど何かを必死で変えようと頑張っててて。……私ね? これでもジャギには何時も感謝してるよ。
 サザンクロスや、前の家でも私が襲われかけた時は、何時も守ってくれた」

 「……んなもん……当たり前な事をしただけだ」


 それでも、と。アンナは柔和な笑みを咲かせつつ俺の頭に言葉を降らした。


 「……時々さ、ジャギは何でも知っているんじゃないかって思うんだ。そんな、何か全部知っちゃって諦めてる目……してるから」



 表情と合わぬ言葉の内容。俺は驚きつつ目をしばかせて、何も言えずにただ息だけを上空へと吐いた。そして……俺は振り絞って言った。

 
   「……御免な」
   「御免な、アンナ」
   「けど、信じて欲しいんだ」
   「俺は絶対に、どんなに嘘を吐いたとしても、どんなに傷ついても」
   「お前はぜったいにまも『やだよ、そんなの』




   



   思考が停止する中、原因の本人は快活に笑って言った。


  




   「言ったでしょ?  辛かったら言って欲しい。ジャギが頑張るなら私も頑張りたい」





   「私は      私はジャギと一緒にどんな事も歩んで生きたいから」










              ……プロポーズの言葉じゃねぇか    それ?





 


     「……ば~ぁか!」
   赤面しつつ立ち上がって叫ぶ俺、その俺の顔色がわかってか余裕の態度で微笑むアンナ……ちくしょう惚れたもん負けかよ。



     



   どう対抗出来ぬか考えたが馬鹿らしくて、この際泣き言でも全部漏らそうかなって気にようやくなれて、俺は言った。


 「……最近よ、頭痛が酷いんだ。今日の朝は頭が割れそうなぐらい痛かった」
 「え!? ……今は大丈夫?」
 「ああ、何でか知らないけどアンナが傍にいると頭痛が治まるんだ」
    不思議だよなと、付け加える俺に、アンナは一瞬顔を上気してから少し考え込むと、顔を上げて言った。


   「ねえ、……目、瞑ってくんない?」
 
   「あ? ……おっ、おうっ」


    な、何だキスフラグか! と緊張の走る俺。憑依前もチェリーな俺に我が世の春が来たアアアア! か?

 とビクビクしながら言われたとおりにすると、頭に柔らかい布状の物が巻かれるのが感じられた……甘い香りが頭上から降りて鼻をくすぐる。


   「……こりゃあ」

   「それ、元々母さんの物だったんだけど、私が生まれた時に貰ってずっと使っているお守り」

   ……それって形見って事じゃないか?  バンダナを脱いで自然な頭部があらわになった新鮮なアンナを見遣りつつ言う。

   「いいのかよ? そんな大事なもん」

   「いいの! それに……」

   「それに?」



   俺の疑問に、ニヤリとしつつ俺を指して言った。

   「甘えん坊のジャギには、私が何時も傍にいるっていう印があったほうがいいじゃない!」
    そう、堂々とした口調で、アンナは言った。


 その言葉に一瞬絶句したと、俺は笑い出し、それにつられてアンナも笑った。



                           久しぶりに自然に笑い声を出せた、そんな運命の日の一日前だった。




 






  



   あとがき







あーあ! ここのジャギ天翔十字鳳でぶっ倒されねーかな!
  



[25323] 第十三話『俺の兄がこんなに恐いはずがない(切実)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/05 13:14
   


         シャッハー!    ついに運命の日(泣)がやってきたぜぇ!



 前回アンナに(愛の)無限バンダナを託された俺。   頭痛も治まりIm happy セット! を字で行く俺(ハンバーガこの世界不味い)
 今まで何ちゃって北斗神拳の訓練をして鍛えられた指と、酷使した足腰は今や虎だって余裕で勝つる(逃げ足的な意味で)
 リュウケンの夜鍋重り服を防具に、スキルに南斗聖拳LEV5を身に着けている俺! ラオウなんて今ならラ王(笑)にしてやる自信があるぜ!
                        ……そう考えてた時期もありました。









             「……きさまは何だ?」










                  うん、御免。調子に乗ってすいまエんでした。 









             コエー!     超コエーんだけど! 拳王!!?







  リュウケンに『今日からお前の長兄と次兄になる若本と土師君だよ。これから北斗神拳を教えるんだランランルー♪』って紹介された後に
 よしっ来るんだリュウ! ⇒あんっ? てめぇ俺の思い出汚す気か? ってきな目線 ⇒ くせぇ! こいつはゲロ以下の)ry






                     う~んっ……ちょっと失敗した気がするっぽい……。










  だいだい何だあの殺気と闘気!? 階段上ってきた瞬間 ダダンダンダンッ♪ ってリアルにターミーネーターのイントロ流れてたぞ!?





 あっ、トキに関しては本当良い子。信じられないよねぇ、この後奇跡の村で木偶人形で秘孔の開発すんだから(※原作の初期設定です)





                うんっ、何があったが細かい描写をするとすると……。












   早朝の寺院の広場、朝食もそこそこに広場の真ん中で片手の小指で逆立ちを行う俺。
 精神統一しつつ三十分間はその状態で瞑想をしていると、階段を上ってくる複数の足音がして、自分は静かに体を反転すると音の方へと近づいた。



 「……ただいま、ジャギ」

 「お帰り、父さん」







  その父の両手は、干草色の髪で鋭い眼光の少年と、黒髪を少し伸ばしている優しげな顔つきの少年の肩に置かれて、二人の紹介をした。








                             ……アレ?  最重要人物いなくね??(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル





  ちょいテンパる俺。な、何故だ!? ……そ、そうかケンシロウまだ幼いし期待の子だから後で来るんだよ! まったくしょうがなぃなぁ~ケン太君は。お兄たん、ホアタッ☆ しちゃうぞ♪ (実際返り討ちだろうけど)




 そんな状態の俺にすり寄って来る雑種犬。……おっ、お前は……リュウ! とネタもそこそこに俺は座って撫てて名前を呼ぶ。
 ……おっ!? ラオウが反応し始めたっ!   よしっオッケーオッケーいいよ君いいよ輝いているよ~。そのまま行けぇー!!






    「……貴様の犬か?」






                       ヒー!!    流石の若本に育つボイスと迫力!! ちょいビビリつつも肯定。



   「……ああ、俺の大切な家族の、リュウだ」








            そう俺が答えると、           そう……答えた後だったんだよ……。







      お兄たま、こめかみに血管が浮かび上がっちゃうんだもん……il|li(つω-`。)il|li






  あれか?  そんなに俺とカイオウを重ねるのが嫌なのか?    アァアアン!?(地面に向かって顔面汗を大放出で)






  舌打ちをして寺院へと入るラオウ……。好感度一気に失っちゃう俺……誰が抗鬱剤を下さい……泣。











 (partラオウ)






                  気に食わなかった。



 カイオウを連想させる犬、そしてタールのように光を失っている瞳と、無駄があるように見せて隙のない肉体、その全てが。




 後でリュウケンに聞けば自分の息子であり、伝承者候補には入れはしないと宣言していたが……俺の直感が告げている。





 あの母者の死を嫌にも連想させた男は、必ず俺の天に対する野望に立ちはだかるだろうと。





 トキは奴と接し『優しく良い子ではありませぬか』とあおったが……、トキよ、貴様は奴の瞳を直視したか?








        あのように死を間近で経験したような瞳の男が、ただの男であるはずがない……。















あとがき

ラオウに警戒されたの巻き


トキと話した中の人の感想

トキ!トキ!トキ!トキぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ジョインジョイントキううぁわぁああああ!!!
あぁハーンハーン!セッカコッ!トラエラレマイ!激流をセイス!命は投げ捨てるもの…ビクンビクン
んはぁっ!歴代の北斗神拳伝承者の中で最も洗練された華麗な技を味わいたいお!ホクト! ウジョーダンジンケンッ!あぁあ!!
間違えた!バスケ食らいたいお!テンショー!テンショー!テンショー百裂拳!かかってくるがいい…ジョインジョインジョイン!!
銀の聖者外伝のトキもかっこよかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
北斗無双出演決まって良かったねトキたん!あぁあああああ!こえぇ!トキ!つえぇえ!あっああぁああ!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…ゲームもアニメもよく考えたら…
ト キ は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!奇跡の村ぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?未来の伝承者のトキが僕を見てる?
未来の『ケンシロウ、暴力はいいぞ』が僕を見てるぞ!アミバが僕を見てるぞ!残悔積歩拳喰らってうわらば!!が僕を見てるぞ!!
アミバのトキが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはトキがいる!!やったよジュウケィ!!ひとりでできるもん!!!
あ、ジョインジョイントキィぎゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあラオウ様ぁあ!!サ、サウザー!!フドラぁああああああ!!!光帝バラぁあああン!!
ううっうぅうう!!俺の想いよケンへ届け!!修羅の国のケンへ届け!







(`・ω・´)   反省はしない



[25323] 第十四話『ガッツポーズでモヒカンの半分が死んだ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/11 17:39



    
   季節は繰り返されまた秋。そして寺院のご神像が祭られている部屋で向かい合うジャギとリュウケン。



      ……親父ぃ、……何故俺様を北斗神拳伝承者にしねぇ!!?           何故だぁ      !?










       






            坊やだからさ










  うん、間違ってはいない、間違っては。
でも本格的に指導して貰わないと、びっくりするほどユートピア! って叫びながらケツ叩くよ、おい(チリトクダケヨー!






   何度か 俺も父さんを守りたい ⇒ お前に修羅の道を背負わせたくない  ⇒私はあなたの背を見続けてきた!

 
 やり取りはあったけども結局良い反応がなかったからなー    (´・ω・`)ショボーン



 あっ、因みにあの指で岩を何度も突く修行、ラオウとトキもやってた! やりぃ! 俺のやってた事無意味じゃなかった!

 それに月日が少しは経過する事でトキとはある程度仲良くなれた事が大きいな~。




 俺が購読していた医術書を発見

 すまないが見せてくれ ⇒ 喜んで!

 共通の趣味とか……スイーツ(笑い)>何笑ってんだころ)テンハカッサツ!




 うん、まさか医学談義で盛り上がることがあるとは夢にも思わなかったな。



 俺が考案していた針で秘孔を突くまったく新しい治療法の考案を説明すると、感心してくれたし、いケルフラグだな。






  ……ラオウはもうちょっと愛想を覚えようよ。あんなにギザギザハートだと話もろくに出来ないよ。デレがコナ━━━━━(´・ω・`)━━━━━イ…








  「ジャギ、そんな暗い顔してたら折角の気分転換も台無しじゃないの?」


  「……んぁ」


  「駄目だ、完全に思考で行動放棄してる……」



  アンナは何時ものこと、と俺に呆れ顔で濡れタオルを乗せる。   いや、本当に未来での拳王様との好感度は大事よ?


  最近ではシンとも手紙のやり取りする位には好感度あるんだよなぁ……俺とアンナ。


 つか俺どちかと言うと手紙不精だからアンナの方がシンと手紙のやり取り多そうだよな。



  手紙のやり取り楽しい? ←なに嫉妬? ふふん    と言う態度はむかついたけどな! ……すねてねぇよ。




  




 最近南斗で身につけた身の軽さとか見せる為に目の前でバク転⇒ぁ……白とか苺百パー展開とか本当にあったからなぁ……ごちです。



  




  ああ、後問題のいない人物は冬頃に来るだろうと、トキとラオウの会話を盗み聞きして大体見当がついた。




 となるとあと一月、この体をアボーン☆ 張本人が来る……。






 バンダナを締めなおしつつ、頭の痛みを恐れつつ撫でる。……会った瞬間記憶のバックドラフトとかで死んだりしないよな。俺?





 今日もラオウの視線に恐怖してアンナの微笑みに癒されてトキの優しさを肌で感じてリュウケンにアタックして散る。











……俺の世紀末lifeは本当に大丈夫でしょうか     神様?



[25323] 第十五話『北斗の拳×ローゼンメイデン』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 18:08

            



             (´;ω;`) やあ ジャキライです







うん、またまたなんだ。すまない


今回のお話は始めてユリアとセクハラ君と暴力に染まったトキと出会った頃のお話なんだ。


けど、この題名を見た時、君達は『ジャギギ』てきな物が頭に浮かんだと思う。




その気持ちはすぐに忘れていいわ





       あ。ちなみに前回の時系列↓

   五歳~五歳半:修行開始 ⇒ アンナと出会う
   六歳~八歳:シンと出会う⇒ 南斗の人と出会う。 ⇒ 南斗聖拳覚え始めました。
   八歳半:頭痛発生(エマージェンシ) 拳君と暴君と会った。




では 投下します。












   『ハァッ』        『ティィヤァ!』          『ヤァ!』

        『オラッ!』           『トリャァ!』





   激しい突きと蹴り、そして拳と手刀がサザンクロスの一室で乱れ飛んでいた。


   「どうしたジャギ!? そんなスローな動きでは蝿も止ま……ウォぉお!?」

   「緩急つけて翻弄させてんだよ! 喋ってる余裕あんなら次の行動読め……ちぃいぃ!?」



   言葉の応酬もそこそこに、危ない所で避ける二人。その小さな嵐の如く猛襲は拳法家としては様になってき始めていた。



  


  だがまだ幼い体にその動きは少しだけ急性で、時間の経過と共に動きに乱れが出始め、そして丁度良く壁にかけられた時計が修行の終わりを告げた。



   「……今日は、ここまでだ」

   「……ああっ、ありがとさん」




  疲労困憊といった表情で向かい合う二人。どちらも強敵(とも)として実力は認めているが、それを表面に出すことは決してないだろう。




    「……二人ともよくやるよねぇ」

    「アンッ」


 そんな様子を(先にトレーニング終わらせた)アンナと腕に抱かかえられたリュウは呆れつつ眺めていた。





   「……おい、シン」


   「何だ?」

   「お前、何か今日は随分機嫌か良くないか? 何か良い事でもあんのかよ?」

   「……! ……お前は時々鋭いな」



  じと目で俺を見るシン。いや、『今日も始めるぞ、ジャギ!』とか滅多に見れない爽やかな顔をしてたからわかりやすかったけどな。


    そんな俺の思考も知らず、ため息をつくと、窓の一角を見つめ穏やかな表情を浮かべるシン。……キモ、と思いつつもつられて見る俺。



       


          ……!  ……そうか、原因はあれか……。




  「……あれ、誰だ?」



  「あの方の名前はユリア……私が密かに思いを寄せている娘だ」









 海のリハクの横に、人形のように鞠を抱えたまま佇む小さな少女。その少女の瞳には何も映し出さてはいなかった……。







   ……あぁ。まあこの時期だとそうだろうなぁ。





 シンと共に少し離れた所でユリアを観察する俺。

 あの様子だとケンシロウとラオウの元へ行くまでは海馬君宜しく心のパズルも直らないだろうなぁ……。


 シンは苦々しい表情で『私も幾度が彼の方に声をかけたのだが……一度として振り向いてはくれない……』と呟いていた……切ねぇ。


 何だかシンの未来のサラダバーエンドが可哀想過ぎるなぁと苛立って衝動的に小石を蹴る俺。あっ、結構飛んだ……ってえええええぇえ!!!?




  


   やべっ……!?   勢い良く飛びすぎてミラクル鞠の下ゴーオオオオオオルゥゥウ!!



   ユリアが機械的についていた鞠は俺の小石による物理的エネルギーの誤差によって転がって……それはリュウを躾けているアンナの元へ。



  アンナは鞠が転がってくるのに気付くと拾い上げてユリアへと持っていく。




 「はいっ!  落としたよ!」

 快活な笑みで鞠を差し出すアンナ。それを動くことなくじっと佇むユリア。

 



   ああぁ、たっ、頼むアンナ。穏便な行動を!!!



 「……」


 「うんっ、どうかしたの~? あっ、もしかして貴方のじゃない? あれ? でもさっき持ってたのって貴方よね?」

 「……」

 「あっ、てか御免ね自己紹介もしなくて! わたしアンナっ! 貴方の名前なんて言うのっ? この場所ってむさい男しかいなくて貴方みたいに
綺麗な子っていないから結構吃驚! あっ、吃驚といえば……」




               ……ナイス! アンナ!!




 ユリアの無反応を不審に思わず、天然さを炸裂して喋り倒すアンナ。それを海のリハクは少し心配気ながらもアンナの事は警戒はしてないようだし
シンも頭を抱えながらもアンナの行動をたしなめようとしない!

 あっぶねぇ~! 聖母に自然な対応出来るアンナばねぇ!!


 
 近づいた瞬間に影とかでボディカードしている南斗の暗殺者とか出てきたら洒落にならねぇし、凄ぇベターな近づき方! うん!
 
 けどとりあえずこのままだとアンナは世紀末まで喋りそうなのでここら辺で止める。


     「……おいアンナ。その娘はさ」


   「え? 何ジャギ……って。あっ」

   「? あ?」

  ユリアに何かを気付くアンナ。俺もつられてユリアの方向を見ると、だ。






   ユリアは鞠を受け取ろうとするように手を差し出していた。




  「……あっ! ごめんごめ~ん! やっぱ鞠貴方のだった!? 私ってば喋ってばっかで御免ねぇ~!」


 俺の顔に出さないながらラオウが北斗天帰掌出してきた位の衝撃を余所にアンナは恥ずかしそうに鞠を渡すと、リュウと供にトイレへ逃げた。





    
    「あ、ありがとうございます……」


    「うぉお!?」

 気付けば涙を流しながら俺の背からリハクが立っていた。恐ぇよ!? 俺の後ろに立つな! (本気でゴルゴ位の腕前が欲しい今日)

    「ユリア様は……幼い頃に言葉と感情を泣くし……けれども……初めて今日、人らしい反応を見せて……」

  
    「は……はぁ……」



  ……まぁ……リハクが泣いて喜ぶのもわかる。……今回偶然でもアンナが声をかけたのがアンナの心の琴線に何かしら電気的な刺激
を与えて、それが結果的に人らしい反応を見せる要因になったのだろう。

  このまま何度かアンナがユリアに話しかけてくれれば、もしかしたらケンシロウと出会う頃までにはユリアの心の殻を脆くする事も可能
なのかも知れん……。……それが未来に影響与えそうで凄い恐いんだけどな。
 疲れ気味に、俺はアンナにユリアの説明をするため追おうと、シンに告げて行こうとした。





    「……おい、シン……って……」


    「……ユリア……良かった……初めて……お前が人らしく動くのを……」



 シンは一部始終を見て達観した様子で泣いていた…………俺がもしアンナと同じ行動で同じ反応してたら俺の事殺すんじゃねぇ? こいつ。







                 閑話




            とある日           とある南斗の修行場



   「これからお前を木偶人形のように倒してやるぅ~!」   「貴様如き俺の南斗聖拳の敵ではない」

                   「喰らぇ~!」       「止まって見えるぞ」
      
                      「ぶぎゃぁあぁああ!?」  「お前如き、南斗聖拳の前にはゴミ屑同然だ」




                 「ふぇえ~。すっごい動き!!」   「……はっ!!?!  ア、アイリ何故ここに!?」

       
                   「へ? いやアイリって」    「わざわざこんな所まで! お前は体が弱いのに無理を!!」

                   「いや、だからちが」     「兄さんがお前を送る! さあ俺の腕の中にっ!」

                    「いやいや、誰かと勘ち」   「南斗究極奥義、断固送妹拳(ダンコソウマイケン)!!」

              
   「きゃぁ! どこ触っ!」    「ああ俺の可愛いアイ「この俺の顔より(さっきまでシンと修行で殴られた)醜く凹られろぉ!!」




あとがき





レイはシスコン 異論は認めよう( ´_ゝ`)



あ、ちゃんと勘違いに気付いて和解したよ。よかったねレイちゃん

セクハラからシスコンへ格上げされたよヾ(*´∀`*)ノ

    



[25323] 第十六話『俺があいつで、あいつが俺で前編(死兆星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 11:43

       最後に覚えているのは降りしきる白い脳の破片と降りしきる自分の血液の雨




      






        そして薄暗くなる景色と走馬灯の最後に君が映っていた











      ---------……こんな所で死にたくないな……---------









        始まりは唐突。


  今日もリュウケンに伝承者候補になりたい事を旨にしつつも断られ。ラオウとトキは外で修行し
自分は独自で修行を開始して小休止で階段上り口付近でリュウへと餌を与えて。



           コツ コツ  コツ         と、   誰かが近づいてきた。



   
      「よっ!   今日も階段を走りこみ?」
 

      「……リーダーと一緒に出かけたんじゃないっけ?」

      「兄貴は兄貴で最近『街の警備任せられて金回り良いから遊んでおけ』ってさ……。暴走族蹴散らしてバイク売り払う兄貴も兄貴だけどね」

      ハハハ、と渇いた笑い声で対応する。リーダー……それちょっと犯罪すれすれだぜ? いいかもしんねぇけど……。



     「……それにしても」

    うーんと背伸びをしつつアンナは空を見上げて呟いた。


    「ジャギと出会ってだいだいこれで五年ぐらいになるんだよねぇ。早いよね本当、月日が矢のように去っていく……」

    「最初はこいつ助けたのが始まりだったよな」

    「そうそう。んで、ジャギは迷子って言う」

    「……それは言うなよ」




   大げさにがっくりと項垂れる俺に、アンナは嫌味のない笑い声でぽんぽんと俺の頭を叩いた……ったく……。



    「そういえばさっき街でかなり仰々しい格好の出迎え? 見たいなのやってたよ。何かのお祭りかな? ジャギも後で行く?」

   
    「祭りぃ? こんな馬鹿みたいに冷え込んでいる日に?」

   
    「冬だって祭りはするんじゃない? ……そういえば私たちどっかのイベントとかに参加した事ないよねぇ……修行ばっかで」



   そう不満気に睨むアンナ。……しょうがないだろ。鍛えないと世紀末では死活問題なんだよ。


   「……いや、それは……すまねぇと」

   「あ~あ! ジャギのせいで体は鍛えられて身軽になっちゃったし! 勉強教わって農業とかバイクの直し方とか覚えちゃったし!
 頭も何かすっきりして、肌も綺麗だし! 本当! ジャギには責任取って貰わないと!!」
   
   「良い事ずくめじゃねぇか!? 何の責任だよ!?」


   俺の言葉に笑うアンナ。本当この子は俺をネガティブにしないため良く笑わせると言うか何と言うか……いや、助かるけど。


   「暇があったら一緒に花火とか見に行こうねぇ~」

   「ああ、暇があった、ら……」










          黒い瞳    芝を刈るように短い髪     そして幼げながらも信を秘めた顔






      それがアンナの背後から幽鬼のように影を引いて俺の瞳に映る。







    あいつは 



                               

                                    あいつは……。







        ……ジジジ            ……ジジジ        ……ジジ






      『嘲嘲(フフ)……この……と……まっ……』        『場所…………そこ……死に……』





     『……いい事…………と言う…………魂を売り……この俺……』    『……貴様に……くるわ……四人の…………』





            『…………終わりだ』









    

         最後(おわり)の日の前に映っていたのは、キラキラと輝く北斗七星  そしてその横に控えめながら輝く北極星





    アンナは俺が迷子の話をすると       得意気に俺の顔を見ながら説明した。

        『迷子になった時は北極星を目印に帰ればいいんだよ! 北極星は、絶対に空で動く事のない星なんだよ!」



 その言葉に俺は『曇っている場合は?』と茶々を入れて軽い掴みあいの喧嘩をして、リーダーに一緒に拳骨を落とされた日を俺はよく覚えている。




    


   それはこの世界での話し、俺が俺でない世界では  君は星の中ですら存在しないものとして世界は紡ぎ続いていた。




   この世界で君はよく微笑み僕の体に君の心臓の鼓動は確かに聞こえていた。僕は君に出会うたびに君が生きてくれる喜びに安堵した。

   
   


   それはこの世界での話し、どの世界とも違う世界  君と僕の出会っていた場所では君は僕が狂ってしまった礎(いしずえ)として紡がれた。







             知らなくて良かった事実。    知らせても貰わなければ良かった事実。    このまま消えればよかった事実。






   君が僕……オレを悪の、極悪の華を育て上げる土であり水であるなどと認める事など出来るはずがなかった。


   



   燃え盛る煉獄が俺の胸を、頭をすべてを焦がす中。





   君の生まれた事実を知った瞬間、激痛は憎悪に。憎悪は悲哀へ変わった。






 修羅よりも   散っていった野党よりも     アイツを憎悪していた気持ちは   たちまちの内に俺自身に向けられ   こう願った。







   

    『……アイツが……きっ……と…………に……なれる……世界を』












  

   ケンシロウが北斗の寺院を訪れた日、ジャギは意識を失った。





[25323] 第十七話『俺があいつで、あいつが俺で中編(北斗七星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 16:54

(partケンシロウ)



          何がなんだかわからなかった








 北斗の寺院へと師父と共に辿り着き、階段が見え始めた頃に発見した二つの人影。

 遠目ながらラオウを少しだけ連想させる顔つきで意外にもトキを思わせる優しげな笑みを女性へと浮かべる、緑色のバンダナを巻いた男。

 
 それに穏やかな笑みを浮かべるお揃いの柄のバンダナを巻いた女性、その男性の良き人なのだろうか?  
 その二人の組み合わせは不思議とお似合いだと思わせる雰囲気を醸し出していた。


    「……ん? ジャギとアンナか……」


  そう付き添う師父が呟いたので見上げれば、師父には珍しく口元に微笑を携えていた。厳格と思っていたが、こう言う表情も浮かべれるのか……。




  そして事は唐突に起きた。師父がジャギと呼ばれた男が近づく自分に気がつき瞳がかち合ったその瞬間だった。



  



    自分の気の所為だと信じたい。だが、今でも思い返してみても、間違いなくその男性は自分の顔を見てあの反応をしたと確信する。


  



   その男性の瞳は一瞬夕焼けのように赤く染まったかと思うと、寺院の静けさを打ち破るように音を立てて倒れたのだ。





   

  慌てて駆け寄る師父。そして仰向けに男性の姿勢を直すアンナと呼ばれた女性。


 


   目尻に涙を浮かべ血相を変えて男性の名を呼ぶ女性と、厳しい顔で脈を取る師父。その一転変わって緊迫した空気は、悪い冗談に思えた。








(partリュウケン)


    「ジャギ! ジャギ! しっかりしてよぉ! ジャギ!」

生気のない真っ青な表情の息子。それを呼び覚まそうと必死に心臓を押すジャギの友人であるアンナ。


  脈を計り、正気を若干失っている娘に気付かれぬようにジャギの秘孔を突く。




 だが信じられぬ事にジャギの体には一切の変化は訪れず、更にその体の体温はどんどんと冷えていくのが感じられた。






     「……師父! 何事ですが!?」







  声の方向へ向くと、修行を終えた直後であろうトキが駆け寄ってくるのが見えた。その後ろから険しい目つきでゆっくりと追うラオウ。

 私のすぐ隣へと腰を下ろし同じように脈に触れ、事の重大さにトキもすぐに知れたようだ。 私は伝承者としての威厳も捨て、力なく言った。




  「ジャギが……いきなり倒れおった」


「……! ……秘孔は?」


  「すでに試した…………だが」



  娘に聞かれぬようぼそぼと今の会話をしつつ、私は娘の手を出来るだけ強くない力でどかすと、ジャギを持ち上げた。


  「ひとまず寺院へ寝かす…………トキ、町の医者へ。ラオウ、ケンシロウを頼む」


  そして階段へ足をかける私の横で、泣き腫らす娘の顔を覗き込むと、答えは予測しつつも問いかけた。

   
  「……駄目と言われてもジャギの傍に居るのだろう?」


 その問いに、娘は当たり前だと言う顔で頷く。その顔は一人の男へと全てを投げ打つ女の顔だった。








        ……ジャギよ       死んでくれるな。




         お前を慕う女を置いて突然逝く気か?


       


             ……私を置いて。











           ……ここは一体何処だろう?

 目の前に広がるのは草木すら生えず生きる物の気配がほとんどない荒野が目前を広がっている。



   自分はそこで座り込んでおり、暫くしてから誰か居ないかと荒野を歩き始めた。




    そしてある大きな建物が建てられていたであろう残骸へと辿り着くと、その残骸の一角に一人の男が座って空を眺めているのが見えた。






      見覚えのあるセンスの悪いヘルメット。  そして一昔前のロックバンドを思わせるトゲ付き肩パットと、腰に下げられた銃。







          「……あんっ。……何だてめぇは?」











         ……いや、あんたこそ何でここにいる?      ジャギ……。



[25323] 第十八話『俺があいつで、あいつが俺で後編(北極星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 18:15

    




      「おい、そこに座れ」             「言われなくても座るよ、疲れたし」    「……気の強ぇガキだな、おい」









   荒野で壊れたブロック塀を椅子代わりに、俺は何故だがジャギと腰を下ろして話している。
  俺がこの訳の分からない場所にいるのと同じく、どうやらこのジャギも訳のわからぬままここに来て、そしてアテもなくこの場所まで辿り着き
気の長くなるような時間ここで時々拳法の練習をしたり空を眺めたりして暇を潰していたようだ。




  「……あ~ん? てめぇが俺様だぁ? ……はっ! おい、クソガキ。嘘をつくにしても、もっと上手い嘘をつけ」


  「いや、本気だって。なんだったらこれまで起こった事聞かせようか?」


  「おうっ、話して見ろよ。随分と暇だったからな。てめぇのホラ話でも機嫌よく聞いてやろう。この北斗神拳伝承者ジャギ様がな」




  長いこと喋ったと思う。……五歳で憑依して修行した事。アンナとの出会い。そしてシンに南斗聖拳を教わった事。ユリアと会った事。
 原作での話し、外伝の『銀の聖者』『天の覇王』『慈母の星』等の話。そして突然ここに来た事。

  この原作の格好をしていて、どう見ても本物のジャギにしか見えないジャギは、俺の話をホラとけなしつつも、いざ話し始めると
割と真剣に聞き入っていた。……シンとの修行で初めて勝った時の様子話すと『イ~ヒッヒヒ!』って小さく笑ったけどな……。




  
 口を動かすのも疲れ果て、ようやく話を終わらせた時。聞き終わったジャギは口元を歪めながら笑うと、静かに口を開いた。



  「……随分と作りこまれた話だがよ。てめぇの話がホラだって言う決定的な証拠があるのを教えてやろうか?」


  「あん? 何処が嘘だよ? こんなに色んな事知ってんのに」



  「そいつはな……」






   ジャギはこちらの背筋に悪寒が走る笑みを浮かべ、言い切った。





         

            「テメェなんぞが『ジャギ』である事を俺様が認めねぇって事よ」








    目の前に突然告げられた銃口。ヘルメットから覗く眼光は壮絶に紅く。俺へと銃弾は飛び出される前に言葉の連弾が飛び出された。





    「おめぇが『ジャギ』? ふざけるな! てめぇが『ジャギ』であって良いはずがねぇ! 恋する女と友に秘密を抱え暢々と日々を生き
今日まで平和を享受していたお前が『ジャギ』!? 
 北斗宗家を高める毒として使われ! あまずさえ誰にも愛されず! 師父に! 兄者に!
 誰からも認められず消えたのが『ジャギ』だ!
 最初から伝承者にする事なんぞ考えてなかったリュウケンのクソったれに騙され拳王の捨て駒として使われたのが『ジャギ』だ!!
 弟なんぞ言う下等な奴に! ただ北斗であると言う理由で血の滲む努力を指先一つで苦痛と怨嗟の道へ進んだのが『ジャギ』だ!!! 
 愛する女に破滅の道を進む運命(さだめ)を背負う為に虫けらなんぞに見殺しにされて! 抗えもしねぇ糞野郎が『ジャギ』だ!!!!
 全部! 全部! 何一つ上手くいかねぇ理由で! 本当に大切なのを捨てて壊しちまった馬鹿が! そ い つが『 ジ ャ ギ 』だ!!!!!
 てめぇが『ジャギ』を背負ってんじゃねぇよっ!!!!!!」









                     声にならなかった。




 荒い息で俺に視線で人を殺せるならばそう願う光を浮かべるジャギに。  俺は何もいえなかった。







   そして俺が何か言おうとした時、荒野の残骸にそびえる入り口であった場所に光が点るのが見えた。






  「……ちっ! 時間が来ちまったが。……まぁいい。救世主様のお陰で俺もこれから何度でもお前に会えるからな」


  「あ!??」


 「いいか? 俺様は地獄の底からてめぇがどうなるのか見届けて、そんで以ってまたここに来たら遊んでやるからよ……俺様からは」






                  




                        「逃げられんぞぉ~!」




獰猛な笑みを浮かべ、そう叫びながら『俺』をつまみ上げてジャギは光の中へと乱暴に投げ込んだ。




    ……不思議な事に、地面に衝突した時の感触には痛みがなく。まるでゼリーが触れるような柔らかい感触が印象的だった。









           「……ジャギ……っ!!」






 目覚めたとき、俺が最初に見たのは涙の跡をくっきりと残しながら開花の如き笑顔を浮かべるアンナ。そして重荷がとれた感じのリュウケン。
   先ほどまでの記憶がおぼろ気な感じながら抱きしめられる俺に、リュウケンは本当に不意に俺へと告げた。






       



      「……ジャギ、お前を……伝承者候補として認めよう」










             工エエェェ(´д`)ェェエエ工!!!!??!!!!?







 



[25323] 第十九話『何を迷う事がある寝取れ! 今は女が微笑(ry』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/12 19:13




         





                   「……よっし! スケバン刑事を修羅の(女の戦い)道へ導いてやろう!」














  時期はユリアがケンシロウにニコポされ、シンが手紙で『ユリアが(他の男に)笑顔で辛い……』って心境の手紙に目を通した時だった。



 どうすっべかなぁと青線引いてユリア見るシンを頭悩まして見て、んでもって離れた所から心配そうに見る小さな女の子を発見したのが始まり。






          



               ……あれって『慈母の星』に出てきた女の子に似てねぇ? てかこの前確か会ったな……。



            アンナが同い年ぐらいだ~ って喜んでて俺も少しだけ自己紹介したぞ?      ……確か……!!






   その女の子を修行で鍛えた視力でじっと血走った眼で見て、プロフィールを脳内へ転送!! 



          

      ……ジャギジャギ   ジャギジャギ    ジャギジャギ(ロード中……)




                               ジャギィ!!(ダウンロード終了)







                名称:サキ
              家族構成:(兄)テムジナ
                役職:ユリアの付き人       
                声優:柴田由美子・雨宮一美
                







                       ……いいこと思いついちゃったぞぉ~?







                 この時の俺はかなり悪い顔つきをしていたと思う。











  (PARTサキ)



  柱の影からあの方をお守りする。

  ユリア様とお話しするシン様。微笑みつつシン様と会話するユリア様。
  ユリア様が笑顔の理由がシン様とお話するからと言う理由では決してない事はユリア様の話題に上る意中の人の名を口にする時、ユリア様
が笑顔になさる様子で見て取れる。シン様もそれを理解してか時折りユリア様が見えぬ方向を向いた時悲しげな表情をなさる。
  ……私のような者が何て恐ろしい事を考えるのだろうと思うけど。私はユリア様がシン様に特別な想いを抱かぬ事がとても嬉しい。

 それは私のような身分の者でも、あのお方のお傍にいられる僅かな可能性を指し示してくださると言う、何とも身勝手な理由からだ。


                 ……私はシン様が好きだ。


 けれど、この気持ちは墓まで持っていく事になるであろう。私のような者はシン様に相応しくないのだから。

 ……小さく痛む胸を押さえ、私はシン様の姿をこの瞳に納めるだけで……。





  


    「……なぁ」







  ひっ! と小さく悲鳴を上げる私。シン様とユリア様に気付かれぬようにと慌てて口を押さえ件の声の主を睨みつける。
 この方は知っている。ユリア様の心を取り戻す為に懸命に話しかけてくださっていた快活な女性の隣りで守りをしていた男の人。シン様がよく
『あいつは突然断りもなく来る迷惑な……!』と文句を口にしつつも笑みをちらつかせる男性の方。



 何の用だと口にする前に、その方に見つめられ私の心は穏やかではなくなった。時折この方の目は全て見通すように見えてしまう。
 そんな事はないのに、時折り物憂げに窓を見遣るユリア様の瞳に重ねてしまうのだ。



   けどそんな心中の感想もすぐに撤回する事になる。このお方は物の怪が鬼のように悪い顔つきになると、私の心をかき乱す事をのたまったのだ。




    




       「なあ、お前あいつの事が好きだろ?」






   ……!?         ……何故この方は私の必死で隠してきた想いをいとも簡単に暴けたのだろうか!?




 私が混乱するのを余所に、その方は、ジャギ様は「ククッ……」と喉から笑うと、私の女を燃え上がらせる種火を放り込んだのです。





      



        「なぁサキ……何故お前が諦める必要がある?」



   「な、何を」


      「俺にはわかるぜ? 自分の身分や下らない事を気にして、シンから身を引こうって腹なんだろぉ?」



   「……っ!!? どうし」



      「勝負もしねぇ内から何故身を引く!? 惚れた男は幸いな事に相手が意中の奴がいる事を知って傷ついてる!! 
    ハートブレイクしている男はその時他の女に優しくされるとコロッ☆と行くんだぜぇ!!!(※テレビで見た知識です)」


   「そっ、そんなふしだらな真似! 私はユリア様の侍女! そのような」



                        「サキィッ!!」



   ガシッ、と肩を掴まれ。私は息できぬぐらいにジャギ様の瞳に吸い込まれ。 その言葉が心の深く深くへと入り込んでしまった。





       「何を迷う事がある!? 何故諦める必要がある!!?」



          


               「 今 は お ま え が微笑む時代なんだ!!」





           「どんな手を使ってもシンの心を奪い取れ!!」














 

   「……あのっ、シン様……」


   「うん? ……あぁサキか、何の用だ?」


   「はいっ、お疲れのようですので、紅茶を……」


   「ああ、有難い。貰おう……ふむ、良い香りだな……」


   「はいっ、有難うございます!(ニコッ)」


   「!? あ……あぁ。(……何だ、急にサキの笑顔を見て胸に高鳴りが……ユリア、私は……)」

 
   「(ニコニコ)『……ジャギ様から受け取った南蛮製の媚薬……少しずつ、少しずつよ、サキ』」











あとがき



 良い子になってもジャギはジャギ。






……恋する女は羅刹よりも怖い。





[25323] 第二十話『ようこそ! 世紀末バーへ!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 09:59





           ( -`ω-)ンー>やあ、世紀末バーのジャキライだ。ゆっくりしていってくれ



           



           ( ̄ー ̄)ニヤリ>ここでは今までの人物設定を紹介しよう。勿論、設定の後にはココアのような短編も紹介する






           ホアタ!( ´∀`)σ)Д`)>では、楽しんでくれ。































   ジャギ(中の人?)

言わずと知れた世紀末でケンシロウの名を騙り暴虐を果たし最後は秘孔により爆散された悪役。
  この作品の中では漫画マニア(特に原哲夫作品)である名前だけを何故か失ってしまった大学生が憑依。運命を変えようと必死に動いてる。
 性格はどちらかと言うとチキン。だがアンナが危険な時だけ思考がぷっつんするのでトキが早く医者になって自分を診てくれるよう密かに望んでる。
 幼初期にしてはかなりの身体能力で南斗聖拳の基礎を着実に学び、ようやく北斗神拳を学べるようになった。
 好きな食べ物は醤油と卵のご飯。アンナに洗脳されてココアが好きになった。



    アンナ

『極悪の華』ヒロイン。原作ではジャギと十歳頃に出会い、密かに恋心を秘めつつも作中ではお互いの環境の違いから想いを告げれず死別。
 核が落ち世紀末の発生の中モヒカンに輪姦され瀕死の状態で寺院の階段に向かいケンシロウをジャギと見間違えて息を引き取る。
 この作品では五歳の頃から出会いほとんど幼馴染の関係。そして刷り込みの如くジャギへと好感継続だが、恐ろしい事にキスまで発展してない。
 天然な性格と飄々とした口調であるが、時折りジャギの行動をじっと冷静に観察している。けれど絶対にそれをおくびに出さない。
 作中ではほとんど描写がないがジャギと修行した事により十五歳の南斗聖拳使いと同じぐらいの技量はある。武器は手甲で主にジャギの折檻用
 家族は族のリーダーと二人。以前にモヒカンに襲撃されたのを経験にジャギの手元になるべくアンナを置きつつ町の警備隊へ所属した
 最近はジャギに薦められ家庭菜園について調べている。ジャギの良き未来のお嫁さんである。



  北斗三兄弟

 説明するまでもないが未来の天の覇王と銀の聖者、そして救世主
ラオウに至ってはジャギが普通でない事に薄々気付いており警戒を怠らずジャギの行動と思惑について観察している。
トキに関しては針による秘孔を活性化、仮死状態にする事での安全な手術等。常識を外れつつも理論的な医療の発案にジャギに感服している。
ケンシロウは出会って間も無く人と成りを掴めずにいるが、初対峙の時の瞳の血の如き変化を忘れないでいる


  リュウケン
 
 原作ではジャギを北斗宗家を高める為の毒 『極悪の華』では息子として愛情を注ぎつつも北斗の修羅の道に進める事を最後まで拒絶した。
 物心がついたジャギが言った父想いの発言の甲斐もあり愛情はとても深く、外伝と同じく最初は北斗の伝承者候補に入れる事を否認していた。
だがジャギが倒れた最のうわ言により、揺れていた決意を固める。



  シン

原作ではジャギの悪魔の囁きに魂を売り、ユリアの愛を欲する為にケンシロウと決別の道を歩んだ愛に殉する星の男。
 この作品ではサザンクロスでアンナを助けたときにジャギと対面。南斗の基礎をジャギに教え、共に切磋琢磨する将来の強敵(とも)
 ジャギの計略によりユリアとサヤに対して心が揺れ始め、自分の優柔不断さに頭を抱えている。


  
  ユリア
 
 南斗最後の将であり、世紀末の聖母。ケンシロウと共に世紀末を歩み。そして星となりつつも見守った慈母の星。
 この作品でも原作と同じくケンシロウとラオウを切欠に心を取り戻すが、その前に自分に明るく話しかけてくれた女性(アンナ)の事は
 おぼろげながらもはっきり覚えており、とても感謝している。
 
 


  南斗の伝承者

 ユダ:ジャギの顔を『醜さと言う名の芸術』と賞賛し、自分の手元に置きたいと思っている。アンナも出来るならば欲しいと思ってる。
 サウザー:オウガイに育まれ優しさを損なわず元気に育っている。ジャギの事は『シンが認める使い手』と認識。
 当の本人はどうやって性格を急変させないが頭を悩ませている。
 レイ:南斗でよくアミバに挑まれうとましくも全て返り討ちにしつつ修行中。アンナをアイリと見間違えジャギに殴られた義星           
 非礼を詫びつつ、アンナにアイリを重ね、時々ホームシックになりそうになっている。
 




    ジャギ??


 憑依した中のジャギが『全てが崩壊した後のような世界』の荒野で出会った原作らしいジャギ。
 常に崩壊したビル跡地で星を眺めるが拳法の修行をしている。
 子供のジャギに関してはクソガキと呼びつつも、色々な感情が混ざった瞳でジャギの事を見守っている。








            ( -`ω-)ンー>これは私からの奢りだ。是非これを呼んで暖かい気持ちで眠ってくれ










   血が流れない白い手を組んでじっと横たわる男を見守るお揃いのバンダナをしている女の子


  そして脇に立つ厳格な雰囲気を纏う僧衣の男。




  「……医者は何と」



  「……原因は不明だと言っていました。このような症状は初めてだと」




  そうかと溜息を吐いて頭を垂れるリュウケン。トキはちらっと祈るアンナを見つつ、部屋をそっと出た。



  出た先では腕を組んだままラオウが目を瞑りつつトキへと聞いた。


 「……奴は目覚めるのか?」


 「わかりません。これが病なのか怪我なのか……医者や師父にも不明で」


 「……ふんっ」


 「心配ではないのですか? 兄上は?」

 知れたこと、とラオウは形相を変えることなく呟き。元の人物のいる部屋を一瞥すると、堂々とした口調で言った。

 「天が奴を活かすか殺すか……それだけの事よ」



 トキに有無を言わせぬ口調で、ラオウは修行へと戻る。トキは扉とラオウの去った方向に視線を何度か往復したが、最後は躊躇いつつも
 ラオウを追うように寺院の外へと向かった。……ケンシロウはその様子をじっと離れた場所で見守っていた。









    「……ねぇジャギ。覚えている?」



  優しく天使のような表情で、アンナは眠るジャギへ語る。


   「私が始めて名前を呼んでってせがんた時。ジャギは不機嫌だけど私の言う事を聞いてくれたよね? 私ね、とっても嬉しかったんだよ」


  針金のような髪を梳きながら、アンナは透き通るような涙を流して続ける。

   「……もぅ無理なお願いも……我が侭も言わない……ジャギの言うこと何でも聞くよ?……だからお願い……私のお願い最後に聞いて?
 『目を覚まして』って言うお願いを素直に聞いてよ……ジャギ……!」



   その言葉にも反応せず、ただジャギの口から漏れる吐息は、はっきりと薄れつつあるのが感じとれた。




        それをアンナは理解すると、意を決しジャギへと囁き、目を瞑るとその桜色の唇をジャギの紫色の唇へ重ねた。






         「もう目を覚ます時間だよ。『ジャギ』」







   「……に」







   「……ジャギ!?」





  
 目を瞑りじっと祈りと、アンナの儀式めいた様子への配慮していたリュウケンは、ジャギの微かな声に慌てて駆け寄った。



   「……う、さん」



   「何だ! 何が言いたい!? ジャギ!?」







   「……ん……しゃ」





   蚊の鳴くような声、だがそれは暗殺拳を極めたリュウケンの耳は、はっきりと捕らえていた。



   「北斗神拳……伝承者」




   「……父さんを……守る」







                          「……ジャギ……っ!」







  もはや言葉は不要であり、息子の真なる願いにリュウケンの心は完全に折れた。九歳の男の言葉が、北斗の伝承者の心を突き壊した。






        「……ぁ」






        「ジャギ!!」








 そして、話は冒頭へと戻り物語は始まる。



 これから始まる物語は、北斗の星を目指しながら、北斗の星に見放された男の話。

 そして、その男を導いた。北極星のような女性の話……。






  あとがき





  


 作者を休ましてやってくれ            死ぬほど疲れている

       



[25323] 第二十一話『休んでから投下すると言ったな? あれは嘘だ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 10:26

  




           どうも~!  ジャギに絶賛憑依中の糞ったれだよ~!!



前回までのおさらい! 何故だが知らないけど有耶無耶に伝承者候補になれた俺!!

 


 もう本気で訳ワカメだけど、これでやっと北斗神拳を教わることが出来るよ! イヤッホーウ!! マンマミーヤ! 空っぽの頭が夢広がリング!!





                 そう思ってた時期がありました。









           「今日で俺がお前に南斗聖拳を教えるのは最後だ」










                   ( ̄_ ̄|||) どよ~ん  ……シンがあんな事言わなけりゃなぁ~……。








         「……は!? そりゃまた何で!?」



         「……何でも何も、伝承者候補に正式になったのなら分かるだろう? 南斗と北斗の掟を?」



       「……あっ」




   ああそうだった……。南斗と北斗での試合って殺し合い以外だと禁止っぽかった気がするなぁ……。




  組み手ぐらいでも駄目なの~!? ウルウル! って感じで聞いたけどno! no! no! ってスタープラチナ風に断られ心はオラオラされ状態。




   ぐったりする俺に、若干困った様子でシンは言う。




 「いや、だいだいお前はもうほぼ南斗聖拳の基礎は出来ているんだぞ? 後はそれを如何に自分で極め高めるのかが重要なんだ」

  「え? 本当か!?」

 「お前に嘘を吐いてどうする……。……今日で正式にお前はここを卒業だ……喜べ」


  そう親のように暖かい笑みを浮かべるシンに嬉しさと気恥ずかしさと……そして意地の悪い邪気が漏れ出てこう言った。



  「……本当は時々遊びに来て欲しいんじゃねぇのぉ~?」


  「誰かだっ!!」




   そうやって結構殴り会いしてから別れを告げた。……いや行くけどね? サキに定期的に媚薬渡す約束だし、だんだんロリコンになるのを
 からかわない手立てはないし、ユリアとは友好的なほうがいいし。レイ君とかサウザーの動向見ないと……ユダが最悪にうざいけど。









  あ~あともう一つの問題……。未来の拳王様……俺に物凄い殺気最近向けてて胃に穴が開きそうなマッハストレス状態。







  何かケンシロウに可愛がりした後、俺に強引に組み手させるんだよね。あの人








 女だったら毎日生理状態か? って思うけど。……あの人本気で完膚なきまで叩こうと俺するからな。



 憑依してからすぐ修行した肉体スペックと南斗の動きを見につけてなかったら半身不随になるまで痛めつけられてたぞ……おい。
  何とか避けて避けて 『見える、俺にも敵が見えるよ……アンナ』状態だったけど、調子に乗って気絶したからな、俺。





 あ、ケンシロウは未だ本格的な修行は参加しないのを知ってホットケーキ状態の俺。お古の重りの服を渡したらお礼言われた。やったね! ジャギちゃん!



 トキとも順調に医療の話から友好的な会話を広げることが出来たし、あと羅漢身につけたり、気を纏えたらどんなに良いか……。












           






            ……うん? 気って実際どうやって身につければいいんだ? おい??



[25323] 第二十二話『キムおじさー~ん! パンプリーズ!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 14:03


     「きょ、今日からここで修行する事になりました。キムと申します!
 よろしくお願いします!!」










                      ……誰だ?              こいつ……?









 

        季節は秋頃。ラオウの猛攻を受け流しつつも結構殴られ、トキとは柔の雰囲気を保ちつつ組み手しつつ温和な修行。
最近本格的に修行を共に始めるケンシロウには一応連勝中な俺様ことジャギ。





      ……いやねぇ、まあ主人公って言ってもまだ子供だし勝てるの当たり前だけど……ケンシロウが優しいって言う原作設定を知っていると
何処かで手加減する気持ちがあるって知ってるから勝っても心中複雑っすわ~;



  


  最近は修行でアンナと会う日が週に五回から週に三回に減っちまったぞコンチクショー (つд⊂)ウワ―ン



  アンナは俺と会わない日はサザンクロスでシンに教わってユリア達と談笑して勉強とか頑張っているらしい……癒しって本当にアルノネ







   で、件の目の前の人物は何とも頼りない動きを見せて遠くで修行しているキムさん。原作でも外伝でもほとんど知られぬ北斗の修行者の一人。


  拳も潰されてない様子だと本当に才能ないんだろうなぁ~って見つつも、俺はある事に気付く。
その修行の様子を一緒に見てたトキは俺に聞こえるか聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。


 「……動きは良いのですが……あれでは」

 トキはキムの突きの動きで眉を顰めての感想だったが、俺は別の感想を抱いている。それを口にしようとした時、音もなくラオウが現れ言った。

 「トキ、貴様はあ奴がの動きが伝承者候補にするには余りに未熟と考えているな?」

 「え……ぁ……はい……」


 「……ジャギよ、貴様はどう思う?」

 意外にも俺へ意見を促すラオウ。え? これって久しぶりの好感度上げフラグ!? と内心トキメキつつ冷静に意見を言った。

 「……確かにトキの兄者と同じで、動きは粗く北斗の拳を極める素材としては適してはいないと思います」

 「……ふん」

 「ですが」

 「……?」

 俺はラオウの注意が俺に向くのを知りつつも、冷静にこう言い切った。

 「一番の問題は拳に『人を殺す意思』がない事だと思います。北斗の拳は言うなれば肉体を凶器よりも高めた兵器。その肉体に何であれ強い意思を宿していないあの拳では、高めれば一流の拳法家にはなれると思いますが、北斗の拳を身につけることは不可能かと思います」


 「……!」

 「……ほぅ」






 上からトキ、ラオウの反応。感心してくれたって事は少しは仲良くなってくれるって思った証拠だよね!? ね……?





  だが、その幻想をぶち壊すラオウの拳……もどき言葉





    


                           「……貴様、やはり油断ならんな……」








                え?        何で俺もっと強い殺気向けられているの~??:(;゙゚'ω゚'):サムイー??







      そう涙を呑んで、気付けば豪雪となった真冬。予想通りリュウケンは門へとキムを引き連れるとこう言った。



    

      「出て行け! お前に伝承者候補としての資格はない!!」




                            ……じゃあ最初っから引き入れるなよ……何、このSMより酷い仕打ち……?







  そう考えつつもケンシロウと共に俺はハートブレイク中のキムの元へ趣き、ケンシロウの顔面パワー炸裂⇒俺、町まで送るぜ? を実行。






 「……ケンシロウは凄いな、ジャギ。 俺の荒んでいた心を、一瞬にして春の陽射しので解ける雪溶けのように癒してくれた」




  うん。ケンシロウが凄いのは知っている。けどわざわざバイクで送ってあげている俺に何か言う事はないのかなぁ~?  ^^♯
 そんな気持ちはひた隠し。何気ない口調で問いかける。

 「……これからどうするんだ?」

 「そうだな……。何処かの町で自分のしたかった事を、この機にやろうと思う」

 「やりたかった事?」

 「ああ……笑うなよ。昔からパンを焼いて食べてもらうのが……俺の夢だったんだ」
 

 「……笑わねぇよ。……素晴らしい夢じゃねぇか」

 「そうか……ジャギ、お前も意外に優しかったんだな。何時も恐ろしい風貌だったので誤解していたが」

 「ぶっ飛ばすぞ、ナン野郎」




  町まで辿り着き、荷物を担ぎ外へ向かうキムへ、俺は言った。



  「なぁキム」

  「うん? 如何したジャギ?」

  「……お前は北斗の拳法には向いてないけどよ。鍛えれば一流の拳法家になれる才能はあるぜ?」

  「……っ、だが……師父は」

  「『伝承者としての資格』だろ? 言っとくが北斗の拳は邪拳だ。お前の拳は綺麗すぎるんだよ。それをリュウケンは危惧したんだ。
 ……お前の未来を案じてな」
  


   「うっ……嘘だ!!」

                       「嘘なもんか、俺はリュウケンの息子だぜ? リュウケンの事なら何でも知ってる」



   俺の言葉に、キムは歯噛みしつつ顔を下に向けた。 俺は用が済んだとばかりにアクセルを踏み始め、独り言のように続けた。



  「お前は夢を叶えリャいい。……けど拳法家としての夢も追っていいんじゃねか? お前はパンを誰かに食わして笑顔にすんのもいいが
 暴力が支配するような場所じゃお前のその拳が誰かを笑顔にするんだ。そう、お前がリュウケンに真っ直ぐだと思われた拳がな」

   


  「……ジャギ、俺はどうすれば? 二つの夢を、同時に追っても良いのだろうか……?」



  「知るか、勝手に自分で決めろ、馬鹿」




  俺はもう話すことはないと、バイクで寺院へと戻った。





 





  ……いや、一人でも拳法家の味方は多いほうが……ね? 拳王の軍隊相手にする時もしかしたらキムのパン拳法が役立つかもしんないし……。








  あとがき



 キム  パン職人目指しながら自分の目指したい拳法を追う、の巻き





……あとお前の投稿ってスローだよな(笑)って言った友達に関しては絶対に許さないノダ(`;ω;´)



[25323] 第二十三話『こんな睡眠学習はいやだ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 18:39
 


        場所はすべてが荒地となり、草木や生き物の姿は見えぬ荒廃となった世界。まるで核で全て消滅しているようだ。








        そんな世界の残骸の一角のビルの跡地に見える場所で、一人のヘルメット姿の男が子供へと銃を振りかざし怒鳴っていた。



      「違ぇ違ぇ! そんなへっぴり腰で邪狼撃が撃てるか! 手を限界まで反らして腰を安定させながら屈ませるんだ! 馬鹿!!」


      「……ぐっ……ぐ……」


      「何やってやがる!! いいか!? 弓を限界まで引き締めるのを想像しろ! そんでもってその状態で弦が切れるように勢いよく
前へと鋭い突きを繰り出すんだ!! 理想形は衝撃で周囲の奴らがかまいたちで切り刻まれるぐらいのスピードで撃つんだよっ!!」


               「てん……めぇ。それ自分も出来もしないのに調子こいて言うなよ!」



          「あぁん! 何だその口の利き方は!? もう一度この周囲を岩を引き摺って走り回りてぇのか!?」







     ラオウと対戦した後に気絶。そして一日の終わりでの就寝。どちらの状態でも最近ここへと自分はジャギと対面する事が増えた。







    興味深い事にビルの一階部分が修復され、その内部でジャギはソファーに腰掛けて『俺の』現実世界でも人気だったビールを飲んでるのが
 再びこの世界へと『俺』が出現した時に見た印象深い光景だった。
ジャギは『子供の飲む味だな』と飲んだ後に言ったが、その割に全部飲み干していた。



 あの銃口を向けられた時の記憶は現実世界ではまばらにしか覚えていなかったが、ここに来ると再び蘇るらしい。ジャギの剣幕を見つつ考える。

 ここのジャギは俺に『この俺様直々に稽古してやる。有難く思えよ?』と迷惑この上ない指導をしている。……最もここで俺はやる事はないのだが。



  ジャギが最初に指導しているのは戸谷さんの最後の遺作とも言える『南斗邪狼撃』。どこで覚えたのか原作でも結局不明だったが、質問すれば
やはりシンの南斗聖拳の技から盗み取った物だったらしい。最も見ただけで模倣出来るジャギのスペックはやはり北斗の拳と評価出来る実力だ。


   けれど性格はやはり原作通り最悪。見た目が自分の子供の姿だからが暴力までは振るわないが、鬼のように命令して指導を行う。





   
     「駄目だ駄目だ! 全然なってねぇ! 見てろ。こいつが『南斗邪狼撃』だ!」


  
     そう言って崩れ去った壁へと手を後方に反らせ腰を屈みこませるジャギ。そして雰囲気は殺気じみた物から闘う気配へと変わった。



                       「……『南斗邪狼撃』!!」




   一瞬のタメの後に声を上げつつ突きを繰り出すジャギ。その突きは凄まじく、繰り出したジャギの周囲の空気は確かに衝撃波を描き
 そして繰り出した突きと言えば、壁を綺麗に貫通し、荒廃した地平線へと伸ばされた手は汚れすらなく綺麗なままだった。


     

      「どうだぁ! 見たかぁ!!」



  
                子供が自慢するような声でジャギは俺へと振り返る。何度かこのやり取りをしたので溜息をつきたくなったが
 そうすると目の前のデザインが最悪なヘルメットは怒り出すので、素直に頷きながら同じように腰を屈め、腕を後方へと反らす。そして声が上がる。






     「いいか、てめぇは弱いんだ。それを理解しろ! 何年何十年もかかってようやく俺のように技が身につくのを俺がここで教える事で
 数年ぐらいで完璧に身につけられるようにしてやってんだ! 文句言う暇あんならここで何万回も『南斗邪狼撃』の動きを繰り返せ!!
 てめぇのようなふにゃちん野郎を鍛えてやる俺の優しさにむせび泣け! いいか!? てめぇは屑だ! 糞だ! 出来損ないのカスだ!!」



                  「……うるせぇな!! 少しは静かにやらせろ!!」



                「馬鹿め!! 俺様の声なんぞで気が散るなんぞ未熟な証拠だろうが! 心で耳を閉じろ! 頭を空白にしろ!!
 精神を統一するんだ! そんで指先と腕の特異点を気で熱くして弾丸のように突き出せ!! てめぇはまだまだひよっ子だっ!」





                       黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ 黙れ!!!!!!!








                  「……黙りやがれぇ!!」







   散々馬鹿にされて精神の限界までの怒りは俺の体中を巡り、そしてジャギへと向けて俺の『南斗邪狼撃』は繰り出された。



    

             鋭く風の切れる音。そして衝撃で地面が抉れる跡。




 


          出来た!? と思った瞬間俺の脳天に激痛が走り、俺の視界は地面に横たわった景色へ切り替わっていた。





           「……馬鹿がっ! 俺様の技で俺様の心臓に突きたてようなんざ十年……百年早ぇんだよ!! だがなぁ、少し惜しかったぜ!
   もう少し早ければ俺を殺せたかもしれんなぁ~? どうだぁ~悔しいか~? アハハハハハハハハハッハハハハハハハ!!!!!」



     俺の脳天を殴ったライフル銃を指揮棒のようにしながら耳に煩わしく突くジャギの声。悔しくて悔しくて、俺は口に入った砂利を噛んだ。



     


        「……悔しけりゃ俺を殺せる位に『南斗邪狼撃』を磨け! ……まぁ、てめぇなんぞじゃ一生かかっても無理だがなぁ!
  その悔しさを! 怒りを! 拳へ乗せるんだ!! 聞いてるのかボンクラ!? だいだいてめぇは根性がねぇ!! だいだい……」












         「……何年も見知っている天井だ」


         『アンッ』







    目覚めると寺院の天井。どうやらラオウとの対戦の後に『また』トキかケンシロウに運ばれたらしい。




    現実ではラオウ。夢の世界ではジャギ。俺は涙を垂れ流しつつ蚊の鳴く声で呟いた。





                   「……アンナぁ~ 早く会いてぇよぉ~……」

                                「……クゥ~ン……」




                   尻尾を垂れるリュウの姿がとても切なく映る、とある日の夕方の風景だった。





[25323] 第二十四話『マダンテをジャギスライムは覚えたい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/13 19:12



            「なぁシン。どうやれば気で飛び道具って操れるんだ?」


            「……お前はあの後で何で五日も経たずに来れるんだ……っ」









               『気』を習得するためにシンへと訪れた俺。そして隣にはアンナも控えさせている。





          一応『気』は北斗の秘伝の技って事はないだろうし……アンナも聞いといて損はないだろ。







          「……俺の拳法が南斗孤鷲拳と言うものだとは知っているな?」

      溜息をつきつつも説明するシンに、同時に頷くアンナと俺。




         「……南斗聖拳は主に肉体と精神を同調させた上で手刀や拳打、そして高等な技で衝撃波を出すことは出来る」


                    


                (;゚∀゚)=3   うんうん。      そんでそんで?





          「……だが、武器に気を纏わせ操る類の技となると、俺の拳法ではそのような物はない」








                     ……(; ・`д・´) ナ、ナンダッテ━━━━━━!! (`・д´・ (`・д´・ ;)











                「……結局ジャギが覚えたかった肝心なもの聞けなかったね」



    落ち込む俺を慰めるアンナ。町のリーダーの新しい拠点となるバーのカウンターに突っ伏す俺。その時苛立ち気にリーダーが下りてきた。



            「……どうしたぁ? リーダぁ……?」



            「どうしたもこうしたも……! この馬鹿、俺に黙って銃を売りさばこうとしてたんだ!」


          「ひっ……! ゆ、許してくれよぉ……リーダー!」



    リーダーに首根っこ捕まえられているのは、懐かしい不良Å。そして手に握られていたのはショットガン……うん? ……ショットガン!?



     「リ、リーダー、それ、貸してもらってもいいか!?」

   鬼気迫る表情と口調に、リーダーは『べ、別に構わないけどよ?』と俺にショットガンを差し出す。





                      ……ジャギが『ジャギ』であるトレードマークのこれなら、銃弾操れるかもしれねぇ……!






         町の外れで二つ分かれた方向に的を設置し、ショットガンを構える俺。それを見守るアンナ。



           「何する気、ジャギ?」



           「いいから黙って見てろって……」


    緊張の一瞬。    ソードオフ・ショットガンを構え、自分の掌に流れる気を銃身へと入れるイメージ。

        
       ……HUNTER×HUNTERのビスケ師匠!  俺に力をお与え下さい……!



    イメージは放出された弾丸を二手に分かれて当てるイメージ。 ……出来る出来る。俺は出来る! 絶対にやってやる! やるんだ!!










                              ……当てろ!!!!









    乾いた銃声が一発。祈り瞑った瞳を開ければ、両端の的の右端と左端に銃弾が僅かに当たった痕跡が         残っていた。







                            ……やっ        ……た?







    「……は、はははは! ははっ!! やったぞおおおおお!!  俺やったぞおおお!!  アンナぁ! 俺やったああああ!!!!」







    「ちょっ、持ち上げないでよ! 恥ずかしいってばジャギ! 恥ずかしいってばぁ!!」







    喜びアンナを抱き上げて回転する俺。そして紅くなりながらもジャギの成功を一番に喜んでるのが口元まで隠せず笑みのまま文句するアンナ






                           「……ひゅ~……。……ったく、若いねぇ~」






       動向を離れて見守っていたリーダーは、お邪魔とばかりにサングラスを装着し、町の警備へと戻るため踵を返した。











 あとがき



   これで自由に操る散弾雨でモヒカン共をぶっ倒せるよ(`・ω・´)



   あとこんなに速い投稿でも「お前、本気出してる?(笑)」って
    聞いてくる友達、もうぼこぼこにしてもいいと思う(`;ω;´)



[25323] 第二十五話『邪狼の産声が胸の中から聞こえた日(前編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/14 10:52


              時系列に関しては大目に見て欲しい……(´・ω・`)










           



           





           けどそう言う注意事項書くと『はww?  許せねぇからww それ逃げてるだけだからww』って言われる(´;ω;`)












       それは何時もと同じ日々の中で突然、運命論で言えば『決定されている』と確定の中で起きた出来事だった。




              思えば兆候はあった。町では骸骨のデザインを施したどうも胸騒ぎがする集団をよく見かけていたのだから。






 隣にすくすくと成長し自分の腰ほどに大きくなっているリュウを引きつれ、町へと向かう昼過ぎほどだった。荒いリュウの舌の音を聞きながら思考。
          修行も一通り終了し、今日はまたラオウにぼこられるか、それともトキと医学談義でもするかケンシロウの肩でも揉むか
 ……いや、アンナと最近喋ってなかった気がするから会いに行ってやるとするか、ちょっとご機嫌とりに小物でも適当に町で買って……。
 と選ぶ品物を決めかねつつ町へ向かう最中、一台のバイクが轟音と派手に煙を吹かして向かってくるのが見えていた。  ……あれはリーダ?





 


                  「どうしたんだよリーダ? 血相変え」









                     「アンナが攫われた……!!」








 

                         ……         ……                  ……は?









    いきなりの言葉に思考は止まり、世界から音と匂い、そして色が一瞬失われた。
 
    我へと返ると俺はリーダーの胸倉を掴んで叫んでいた。



  「何処に!? おいっ! リーダー何処にだ!!?」



  「攫ったのはグレージーズだ! ……けど奴らいきなりアンナを車に拉致しやがって……! 必死に今仲間で奴らのアジト探してるところだよ!」


 
  「……あいつら……!!」









 口から零れる歯の擦れる音。そして溶岩のように熱い塊が脳と心臓へ注がれるのを感じた。隣から鳴き声が聞こえる。 ……鳴き声?





  沸騰しそうな熱を抱えたまま、何かを必死に訴えるように鳴くリュウ。その視線は俺のバンダナに向けられていた。……  ……そうか!!






 
  「おいリュウ……出来るのか?」




  「ワンッ!!」







 同意するように強い一吠え。俺はアンナから貰ったバンダナをヒュルリと解くと、それをリュウの鼻へかざした。



   ひくつく鼻、そしてそれを見守る強面の男二人。短くも長い間のあと、リュウは力強く鳴き、そしてある一方へ走り出した。





                   「……ゥウウウウ!    ワンッ!!」



             「……よしっ!!  リーダー! すまねぇけどバイク!!」


            「いいぜやるよ!!  その代わり絶対にアンナを救うんだぞ!! でないと俺がお前を殺す!!」




        サムズアップするリーダーに見送られながら、俺は矢の如くかけるリュウを追いかけ、バイクのエンジン音を空へ木霊させた。









                 ある程度の距離の後、荒い呼吸で座りこむリュウの先に、怪しげな建物と、骸骨のデザインの見張りが見えた。





            確信を秘めて俺は足を忍ばせて見張りへ近づく。気付かない男。そいつの首筋に手刀を打とうとした瞬間、そいつは呟いた。









 
                           「……あぁ~。ったく貧乏くじだぜ。俺もあの上玉相手にしてぇのに……」













          「おい」





       「……!!?  なっ、何者……ひっ!? な、何だぁお前えええぇえええ!!!??」






        「……ここに……アンナは……いるのか?」








   自分がどう言う表情をしているのか自分で理解出来ない。微笑んでいるつもりだけど、その男はまるで化け物でも見るかのように『俺』を見る。




     「おっ、女の事か!?  お、おおおおお俺は関係ない!! 浚ったのは上の奴等だ!! だから助けて!! 助けて助けて助けて助け」





                                  「黙れ」






   首を軽く押さえただけだ。なのに、目の前の男は瞳孔が開いたまま倒れている。俺は耳鳴りが聞こえる中、その建物の入り口の階段を見遣ると
 騒がしいロックだが何かの音楽が鳴り響く、一方通行の階段を登った。












            


                   目の前には服を引き裂かれ、乳房が見え隠れしながら懸命に抵抗する「    」 それを下品に笑う『 』

 





       前にもこんな光景があった気がする。あの時はただ俺は俺が成長している事に酔い、「   」へ英雄行為(ヒロイズム)した満足感
 だけで鎮圧する事で拳を収め。俺は『 』を殺すまではしなかった。







       だから「   」は死んだ。だから「   」は獣の慰み者にされた。だから「   」は俺に会えずに終わった。









   「   」の声が聞こえる。     何で助けに来たのにそんな瞳をするんだ「   」? 大丈夫だ、何の心配もいらない。



    



     「   」を汚す者。「   」を傷つける物。「   」を悲しませる者。「   」を絶望に陥れる全て。











                  オレが破壊してやる。



[25323] 第二十六話『邪狼の産声が胸の中から聞こえた日(後編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/14 11:45


     最近ジャギに会ってないな~。色々と拳法の修行が忙しかったりするんだろうけど……。









           「おいアンナ。ぼ~っとしてないで店の仕込みやれって」



           「……ふぁ~い」



           「……お前ジャギと会わない時と会う時の態度まるで違うな。兄貴と言えど、ちょっとショックだぞ、おい?」





    兄貴が何か文句を言うのを聞き流しつつ、私は店の中にある苗を種類ごとに分け始める。

  ジャギが『絶対に役立つから! 勉強しろ!』 って農業とかそう言う参考書渡されて最初は興味はなかったけど……悔しいけど面白い



それが影響してか兄貴に「警備以外にもお金を稼いだほうがいいし、私、花でも売ろうか?」と聞くと、お前の好きにしろと言われ、好きにする事に。





  ようやく最近栽培も上手く行き、客へ売れるほどには花と植物の苗は育ち始め私の胸は躍る。


  水と肥料を与えるべき植物に与え終わる。その後は本来の勉学を片手間でし始める。学校に行くほどのお金のない私には、リーダーとジャギ
だけが私の先生だった。……何でジャギ私より年下なのに因数分解とか小難しい事知っている天才なのに拳法家なんだろう? 
 って事は置いておく。それを質問したら、ジャギが焦った口調で『それは言ってはいけない約束だ……!』って言ってたし。




                   「あぁ~あ~……ジャギと会いたいなぁ……」


                   「そればっかりじゃねぇか……お前は」




              「……兄貴も恋人作ればいいじゃん? そんな風に文句言うんだったら」

            「お前が誰かと安心して結婚出来るようになるまで俺は相手なんぞ探せねぇよ。死んだお袋と親父に誓ってな」




              「……え? 作れば?」




            「てめぇどう言う気持ちでその言葉繰り返したんだ? おい? 言ってみろ、おい?」



           米神に青筋が立ち始めたので危険を察知し外へと出る私、陽射しが強く今日は花も元気に育つだろう。 風も気持ちい~……







 
                              




                                「……今だ!!」





                                「え?」



   





       気がつけば何かの薬品を口に当てられ、私は暗転の意識へ落ちる。……そして目覚めるとニヤニヤ笑うグレージーズの姿。







    「……あんたら落ちる所まで落ちたのね。私を誘拐するとか」




    「はっ! てめぇの兄貴のせいでこちとらこの町で堂々と闊歩する事も出来なくなっちまったんだ! お陰で堅苦しい生活なんだぞぉ!!」




    「自業自得でしょうか、馬鹿」





   アァ!? っと拳を私へ振りかざす目つきの危険な男。それを私は培った南斗聖拳の動きですり抜けると背中へ蹴りを見舞わした。





      「がっ……!?」




      「生憎だけどね。あんたらの半分ぐらいなら両腕縛られていてもぶっ倒せる自身はあるよ?」






     武器である手甲も何もないけど、ジャギとシンから教わった動きがこんな屑達に劣ると私は考えてない。




  

       「……けっ……! こいつ女の癖に一端にも南斗使いかよ!」

 
       「だけどこの大人数相手に無傷で勝てるとか思ってないだろうなぁ……?」



    フゲゲゲ! と何処から出しているのかわからない笑い声。確かにこの人数相手だと闘うより逃げる事に全力を尽くしたほうがいい。
 けど逃げる手段は入り口の扉一つ。窓はすべて鉄格子ではめられ、私の拳ではそれを切断出来る自信はない。



     気が前へ集中し過ぎたせいだろうか?  横から襲い掛かってきた男のナイフが胸元を掠め、私の右の胸が露出した。


     湧き上がる口笛、そして貪欲な獣の目。その視線と雰囲気は私の心の奥を震わせ、冷たい血流が動きを鈍くしかけた。






                                「……アンナ」









      その冷たい血流を一瞬にして暖かくする貴方の声が聞こえた。視線へと振り返る私。けど、貴方の様子はまるで変わっていた。







                             「待ってろ……アンナ。……すぐこの『蛆虫』を……全部潰してやるからな」








       貴方は微笑みを浮かべているつもりだったんだと思う。でも貴方の笑みは何時も私に向けられる小さくも暖かい笑みではなく
 裂けるように大きく、そして血が吹き出ているかのように幻視させるワライだった。








   グレージーズの恐怖に慄いた声、そして挑みかかろうとする実力が理解できない愚か者の声、その声に混じって私は確かに聞こえた。

   ……行き先がわからない子供のような声が、癇癪を起こすように泣き叫ぶ声が、空耳ではなく確かに耳に届いていた。






  ジャギは普通の人間には追いつけぬ速さでグレージーズ達の周囲を駆け抜ける。その度に悲鳴を上げて体の至る部分から血が吹き出ていた。



    ジャギが飛ぶ、ジャギが舞う、ジャギが突く、ジャギが凪ぐ、ジャギが斬る、ジャギが……   あれは本当に『ジャギ』なの……?

  私の胸にはジャギが振るう力に対しての恐怖は微塵もなかった。
 けど、ジャギがあいつらを屠りながら浮かべる顔は、私がここへ来た瞬間のジャギの顔に対しての不安感を膨れ上げて……。私は……私は。








                           私は、ジャギへとその足を進めた。










                 醜い虫の悲鳴。この世で最も聞くに堪えない命乞いの声。
         誰の血か不明の血の海の中で、俺は両手に誰かの血が染まった手で周囲の声を聞いていた。





          シニタクナイ、クルシイ、タスケテホシイ、イタイ、ヤメテ、タスケテ、コロシテ






   激痛ならば当然の反応の声。だが、俺はその声を聞きながら天井よりももっと上に輝いているだろう星を見つつこう考えていた。




                      ……あいつは死ぬ瞬間まで、俺に会おうとする中でこいつ達と同じ気持ちだったのだろうか? と






           アア  アア  ヒドク  ヒドク    スベテハムリョクゆえに スベテをハカイする

                 俺は破壊するため拳を構え、そしてその言葉を唱えようと口を動かした。








                        「北斗千手」






                        「ジャギ」









     甘い香り、そして太陽を吸い込んだ金色の色。俺を抱きしめる腕は力強く、そしてその手は小さくながらも俺の手よりも強い。





                    「もういい……もう私は満足したよ? ……だから帰ろう? ここはジャギのいる所じゃないでしょ?」








      



    「……! アンナ! 平気か!? 怪我してないのか!? 何も酷いことされてないよな!? そんな事あったら俺……!」




    「大丈夫、大丈夫だよ。『ジャギ』」






  必死に心配する『俺』を余所に、母親のような笑みを浮かべてアンナが俺を抱きしめる。それに混乱する『俺』の耳元で、アンナはこう囁いた。









     


            『ジャギは私が守るから』












あとがき










 『ちょっとペース落ちてるんじゃない(笑) いや、別にいいよ(笑)
それがお前の全力全開って事でしょ(笑)』





  


  ちょっと三時のおやつ抜いて殴りこみに行く(`・ω・´)






[25323] 第二十七話『Q・M・Z!!Q・M・Z!! 』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/14 21:00




    グレージーズは病院送り。『二度とアンナやリーダー達の前に現れるな。悪さすんな』と釘は刺しといた。

   アンナは何ともなかったようだけど、怖かったせいか俺の傍に頻繁にいる事が多くなった。リーダーは本格的に武器を調度するらしい。

   とりあえず一段落過ぎて何とか束の間の平和へ戻れそうかと思ってたんだ。……思ってたんだよ。













      「グああアアああぁぁっぁああアアああ!! み、耳ガァァああ!! お、俺の耳ガァアアあ嗚呼あぁぁああ!!??!!?」










                     ……やべぇ      余りにもやりすぎだよ   俺(。_。lll)










     うん、何が起こったかと言うと、今日はラオウもトキもケンシロウもリュウケンも何かしらの使用で寺院を空けていたんだよね(´・ω・`)

    
     それで、俺暇だよやっほう(;゚∀゚)=3 って久しぶりにゴロゴロ出来そうかなって思っていたら、空気の読めない道場破り登場(´;ω;`) 

     そんで『俺様、白蛇拳のシバ。おで、強い』『そうですか、白蛇拳凄いですね(笑)』『何笑ってんだ殺すぞ』って喧嘩売られた (つД`)

     戦闘勃発。ジャギのターンコマンド⇒:南斗聖拳
                       :北斗神拳
                       :話術
                       :石油(まだ選択出来ません)


          『敵』白蛇拳のシバ⇒:正拳突き
                    :正拳突き
                    :頭突き






   傷だらけのスキンヘッドで、『アイアムレジェンド』の奴等見たいな格好で手強そうだったけど、直進的で意外と弱い。

   
   いやね? 俺もレベルが上がった証拠だろうけど、それって伝承者に選ばれる確立が上がっているから喜べないんだよね? 


   そんでさ、一時間は避け続けて相手の疲労困憊で自滅待ちしていたら、そいつの言葉にカチン☆ と来ちゃって……。


   リュウケンが拾った孤児とかそう言うのは別に構わなかった。だってそれ俺には関係ないし。けどあの言葉がなぁ……。





             『この避け続けるだけしか脳のない臆病者が!! そう言えば町で貴様が女を引き連れて歩いているのを見たぞ!!
 その女もお前に似て下品で! 無様で! 何処の馬の骨とも知れない体を売るしか能がない×××なんだろうが!! どうだ当たりだろ!?』



                    ……うん御免。つい南斗聖拳でそいつの右耳を削ぎ落としちまった。ちょっとだけ後悔(`・ω・´)  





                         ……しかもその場面丁度帰ってきたリュウケンに目撃されちゃったもん……(`;ω・´)
 やべ……って思っていたら右耳抱えつつ『許さねぇ……! てめぇには何時か復讐してやるからな……!!』っていちゃもんつけられるし……泣






 


        正座する俺。そして厳しい目線で俺を見下ろすリュウケン。



    「……ジャギ、お前が北斗の寺院に唾を吐かんとする者を払わんとした意思は認めよう……だがこの寺院で北斗の伝承者を目指す者が
 南斗の動きを使い避ける事はまだ許すと言え、技を使うことを私は認めてはおらん!」



    「……はい、師父」





   めっちゃ怒られている。……当たり前か、この寺院、北斗神拳覚える場所なのに南斗の技使ったら本末転倒だもん……。






 三十秒ぐらい経過しただろうか? 見下ろすリュウケンの溜息が静寂な空間を木霊する。……破門とか言われないよね?(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル






   「……ジャギ、お前は本当に。北斗の名を、修羅の道を究めんと思っているのだな……先程の動きからもそれは知りえた……。わかった……。
 お前に北斗の奥義、授けよう。これをお前が極めれば、お前もまた北斗の拳を……」








                     え?     ……それって、もしかして……まさか……? そのまさか……!





                  「受けてみよ、そしてその心と身に刻むがいい。北斗神拳奥義『北斗羅漢撃』を……!!」










キ……!!  キタ━━━(´∀`)´・ω・`);゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)゚皿゚)∵)TΔT)ΦдΦ)#-_-)~ハ~)゚з゚)ё)≧。≦)°.Å)゙・Ω・)^σ^)=゚ω゚)ノ━━━!
















        「で?   ほとんどわからなかったってか?」



        「面目ないっす、sir」






   またこの不思議空間で、ジャギに羅漢で感激。けど速くてほとんど何を極めて言いかわからねぇ 死にてぇ状態の俺 を告白。



   ヘルメットのジャギは一升瓶に入ったアルコールを飲み下しながら「見ただけで体得なんぞお前に出来るか馬鹿」とそっけない。



   


   「……『羅漢』なんぞ糞だ。んなもん覚えるより『南斗邪狼撃』をしっかり覚えろ」

   「いやいや、あんただってケンシロウに使ったんだろ? 使って負けたからって糞ってのは酷いだろ?」


   「糞は糞だ。それにな、羅漢なんぞ極めたって大した得にはならねぇ」



  
  俺の言葉に逆上するんでは? と少し不安だったけど、平然とした口調でそう言いつつ立ち上がると、羅漢撃を繰り出す構えを取った。




   「こいつが『羅漢の構え』だ」


   「……天破の構えのぱくりじゃないの?」


   「馬鹿め、こいつは攻守に関してはバランスは良い技だ。もっとも、俺は『あの時』出来なかったんだ。糞見たいな技だ」


   そう言いながら、突き出した掌を空間を撫でるように動かすジャギ。


   「この状態を維持しつつ『二指真空把』を極める事が出来れば降り注ぐ弾雨も矢も相手の元へ返すこたぁ出来る」

   そう言って、掌を合わせ、喉から呼吸を始めるジャギ。そしてゆっくり押し出すように掌の親指同士をくっつけつつ俺へと説明する。

   「『羅漢の構え』の状態で精神を統一すれば『発頸の法』。高めれば『北斗流弧陣』。もしかしたらシュウの『誘幻掌』も出来るかもな」



   「最高じゃねぇか! 何で糞なんだよ!!」



   「てめぇだからだよ」


   「え?」


   興味ないとばかりに『羅漢の構え』の姿勢を崩し適当に座ったジャギは『俺』へと言った。


   「ジャギに『北斗羅漢撃』は極められねぇ。羅漢撃が極めもしない野郎に『羅漢の構え』なんぞ教えても無駄だろうか?」



   わかったか? と何故か二階まで修復されている建物から飲み物を取りにいくジャギに、俺は無念や憤りの混ざった感情が拳の中へ
流れ込むのが感じた。そして、何故ジャギがそこまで『北斗羅漢撃』を見放しているのかが、頭の片隅でずっと後に解るまで疑問に残った。









あとがき



 とりあえず友人の家まで乗り込んだらカレンダーの来月のこの日に赤丸。


 「愛などいらぬ! 愛などいらぬ!!(泣」って全裸で酒転がしてわめいてたから北斗有情断迅拳で許すことにした(´・ω・`)


 とりあえず仲直り。みんなも頑張っている人を傷つけるような感想はやめようね?(´・ω・`) 汚物との約束だよ?(´・ω・`)

     
   



[25323] 第二十八話『女の愛は一匹の豚を救う』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/15 11:38

  場所はサザンクロスの街道。核戦争の未来が襲来する前のここは、人々の熱気と活気で和気藹々とした空気を醸し出し、自然と心が躍る。
 その街道の人々の川の一角で、人々を惹きつかせる風貌と言ってもさしつかえない女性が三人、人の熱気を和らげる空気を纏い歩いていた。
  
   「何時も屋内にこもっていたら自然と醗酵しちゃうからね。もっと外で元気に遊んだほうがいいよ? 二人とも」

   「け、けどわざわざ抜け出して遊びに出るなどしなくても良かったではないですが! 護衛の一人や二人つけたとしても……」

   「ジャギだったら別に構わないけどさ。女同士でしか楽しめない事ってあるでしょ、サキ? 若いんだから今のうちに色々楽しまないと!」

   「だから! 私は万が一の事があったらと!」

   「万が一万が一考えていたら楽しめる事も楽しめないよ? サキは心配性だって……ほら、もっと自然にスマイル、スマイル~!」

   「しゃっ、くすぐらないで……あっはっはっ! しゃめ! もぉ~! ユ、ユリア様笑ってないで助けて下さい!」

   「……ふふっ。いえ、ごめんなさい。あまりにもサキとアンナが楽しそうだったから。……お邪魔かなって」

 
   からかわれているのはサキ、何時もと違ってユリアの傍にいる時の正装はカラフルで、女としての美しさを控えめにアピールしている着服だ。

   そして腰をくすぐったりなどからかっている、太陽に映える緑色のバンダナの女性、アンナ。その服装は何時もの赤いレザーを基調とした
外出用の服だが、靴だけは何時も着けているブーツでなく、歩きやすいスニーカーで動いている。因みに、お気に入りの靴はジャギの前でしか履かない。

そしてそれほど目立つ服装はしていないが、本来の生まれ育った特性から歩くだけでも清涼で見た物を穏やかな気持ちへと変えてしまうユリア。
 
    今日はアンナに半ば強引に外へと遊びに来ているのだ。


   「まったくアンナ様は……! もしリハク様かジュウザ様に見つかった日にはどうするおつもりですか!?」

   「ジュウザ君ならユリアの事邪魔しないでしょ? ……あぁ、リハクさんならちょっと大目玉喰らうけど……その時はその時で」

   「何も言い訳はないのですか!? もぉ~、今頃寺院では居なくなった事が知れて大騒ぎですよ! 頭が痛い……!」

   「けど、そう言うサキも町の露店のアクセサリー色々物色して買ったじゃん? 凄い乙女チックに見て楽しんでたのは明らか」

   「うっ、あ、あれはそ、その、シ……ゴニョゴニョ……様が褒めてくださるかな、と……」

   「え? 誰に誰が褒められたいって? もう一度意中の相手を言おうか」

   「……///!! ですから!! からかわないと言っているでしょ!?」

   二人の漫才のようなやり取りに上品に笑い声を上げるユリア。周囲の人間はその輪に出来れば入りたいと羨ましそうに見つつ歩き去る。

   「ユリア様ぁ~! ユリア様も何かおっしゃって下さい!」

   「……御免なさいねサキ。でも私、アンナに誘われて遊びに来て良かったと思っているわ」
   
   「……ユリア様?」

   遠くの上空に目線を向けるユリアに、サキは不思議そうに小さく声をかける。

   「……こんな風に友達と露店を回ったり、美味しい物を一緒に同じものを食べたり。……昔の私なら考えられなかった出来事だわ、全部
  そう、こんな風に楽しい気分でいられるのもアンナやサキのお陰。私、とても二人には感謝しているわ。そして二人の周りの人にも」

    微笑むユリアに、アンナは照れたように笑い、サキはと言うと『私は一介の侍女として同然の事をしているだけで』と慌てて答えていた。

   
   そのように穏やかなひと時の中を、遠方から聞こえてくる何かしらの破壊音と悲鳴が突如破壊した。

   慌てるサキ、そして動じる事なく何があったようね。と呟くユリア。そして破壊音のする方を見ながら、行ってみる? と誘うアンナ。


   「危険でございます! もしユリア様にお怪我が起こるようでしたら、この、サキ! サキめは一生罰をお受けするつもりですよ!」

   「ふ~む……その罰って『好きな相手と死ぬまで一生傍にいて胸が幸せすぎて痛すぎる』と言う罰でどうかな?」

   「あら、それはとても魅力てきな罰ですわ……って、話をはぐらかさないで下さい! あっ! ユリア様、アンナ様!! ……もぉ~!!
  真面目にお二人を心配しているのが私だけって、馬鹿みたいですわ!!」


  駆ける三人の女性、暫し走ると開けた場所で一人の大男が闇雲に暴れており、それを必死で押さえつけようとサザンクロスの兵士が手をこまねいていた。

   「何があったの?」

   「あぁ、刑務所に護送中の囚人がいたんだが、何せあの体型だろ? 乗り物にも乗せれないから鎖で引き連れていたんだ。
  けど野次馬の誰かが石を投げてそいつの腕を掠って血が出た途端、そいつがいてぇよぉ~! って叫んで鎖を引きちぎって暴れ出したんだよ。
 今護送していた兵士が取り押さえようと頑張っているけど、あの体型であの力だし、最後には射殺されるんじゃないか? あの囚人」


   ふ~んと暴れまわる男を見るアンナ。額の左にはハートマークが刻まれ、暴れまわる顔つきは殺人鬼のそれだ。けどアンナはこう思った。


                 (……何か、とっても悲しくて痛そうだな……あの人)


   そうぽつりと思っていると、隣で大男を眺めていたユリアは静かな瞳で男を眺めながら呟いた。


    「……あの方、とても凄惨な目ですが、とても苦しそうな光を携えています。……私が癒すことが出来れば良いですか……あの方の耳には」

   「ユリアもそう思う? 何か悲しそうな目をしているよね。けどあの状態じゃ話も聞けなさそうだしなぁ~」

    「お二人ともどのような目でそう思うのですか? ……いえ、ユリア様を疑う訳では決してないのですが……」




        「いてぇよぉ~! いてぇよぉ~~!!」





     (……あぁ~よしっ! 決めたよ! 私!!)



    「ユリア! 私があいつの動き止めるからさ! その間に説得してよ!!」


    「え?」


    「な、何を言っているのですかアンナ様! あんな大男をどうやって!?」

    「サキ、さっき買ったロープ貸して」


    「え? あ、はい……ってもしかしてそれで!? だ、駄目ですアンナ様! アンナ様ったらぁ~!!」


   (いざって時にシンを拘束する為の)ロープを手に持つと、走り出すアンナ、引き止めようとする群衆の声を背に、アンナは暴れる男の
 目の前に立つと、ブンブンとロープを回しながら言った。


                       「……豚を捕縛するのも農家を目指す者の心得……ってね」




      「おっ、おい君よせっ!!」


      「そ、そうだ私たちに任せ……どわっ!?」



  
    慌てて緩慢な動きになったサザンクロスの兵士は大男の手に運悪く当たり吹き飛ばされる。それにあちゃぁと呟きつつも声を張り上げた。


     「ほらほらっウスノロ君! 捕まりたくなかったらこのアンナ様を倒してごらんっ!!」


    
      「いてぇよぉ~!!  いてぇよぉ~!!!」




    形相を浮かべ襲い掛かる大男。その足元をすり抜け、アンナは男の太い右足に瞬時にロープを絡みつかせた。


      「いてぇよぉ~! いてぇよぉ~!!」


    振り返りアンナを叩き潰そうとする男、それも培った敏捷性で金鼠の如く避けると、左足へロープを絡みつかせた。ここまで来ると終わりだ。


      「ほらほら~、そんなんじゃ捕まらないよ!!」

 
      「いてぇよぉ~! いて……っ!!??」



   カクンと体が崩れ倒れる男。ロープは男の右足と左足を縛りつけ、歩こうとした重心を崩す完璧な役割を果たした。倒れる男、近づくユリア。


   危ないと叫ぶ群衆、その声を流しながらユリアは男の顔を上げ、目線を固定して、男へ優しく語りかけた。

    「……貴方は何故そんなに苦しんでいるのです。何がそんなに痛いのです? ……私では貴方の心を癒せませんか?」

  
    「うぅ……いてぇ、いてぇよぉ~……」


  そしてユリアは男の瞳に浮かぶ苦しみが見えた気がした。幼い頃にその体型で見世物として売り物にされた男。そして虐待の内に自分の中に
 凶暴な獣が生まれ育ってしまったこと。今回刑務所に入れられるのも、自分を折檻した主人によって流れた血が、自分の心を壊した事、などを。


   「……辛かったでしょう。怖かったでしょう。私は貴方を傷つけはしません……ここには貴方を傷つけようとする者はおりません……」


   ユリアが流す涙、そして慈悲の瞳を見続け、いてぇよぉ~と叫んでいた男の声は徐々弱まると、正気の瞳へと変わった。


  「……もう、大丈夫ですか?」


  「……はい。……有難うございます優しきお嬢さん。いま……いま私の中にあった凶暴に狂い叫ぶ猪の心は静まりました……」



  涙を浮かべ、ユリアへ感謝する『ハート』。そして起きた兵士達に再び鎖をつけられながら、アンナへサキへ、そして見ていた群集へ深く深く
 頭を下げた。……しかし、運が悪いことに群集の中の意地の悪い人間が騒ぎを起こした男へ制裁を食らわそうともう一度石を飛ばしたのだ。


     「……危ない!」


     「……うっ……!」



   石は容易に男が避けようと思えば避けれたかもしれない。けど自分を癒した女性に万が一でも当たることを考えハートはあえて受けた。

   額から流れ出る血。だがもはやハートは自身を失う事はなかった。



「……これから私は自身の罪を静かに受けましょう。そして美しきお方。もう一度外の空気を浴びる時、貴方へお礼を言いに行っても構いませんか?」



  「もちろんです。……貴方の名前は?」


 

  「私の名前はハート。貴方の未来が、無限の幸で溢れん事を祈ってます」
















    「母も知らぬ、父も知らぬ、故に命もしらぬわぁ!!」


   吹き飛ばされる修行者の一団。北斗の寺院でリュウケンとラオウへ殺気を張り巡らしながら、フドウは吠えていた。





  

  「……くっ、流石は鬼神のフドウか……うん? そこの青年よ、何を」



  「お静かに、今私は『木』と『石』。無となるべく精神を統一してます」



  「いや! 鬼神のフドウの見えぬ柱の影でわざわざする事」


  「お静かに、木は喋ることはない。石は人の目には留まらぬのです」


  「いや、だから」


  「お静かに」


  



[25323] 第二十九話『君の隣で夢を囁きつつ眠りたい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/15 12:38


                           ------体は羅漢で出来ている



                              血潮は石油で、心は邪悪



                               幾たびの世紀末を超えて惨敗


 
                                ただ一度の七星もなく、


                                ただ一度の幸福もなし。
 
                                  担い手はここに一輪

                                  荒野の崖で華を咲かす


                                ならば、我が生涯に意味は不要ず


                                この体は、無限の羅漢で出来ていた。 










      「……と言う夢を見たんだ」


                 「お前ぇ、この世界が夢見たいなもんだって知ってて言ってんのか?」











    今日は修行も休みつつ、珍しくアンナの部屋へと上がりこみごろごろしている。


   あの事件があって以来自分は何かとアンナの近くにいるつもりだが、逆にアンナが俺の傍で守ってるような気がするのだが、気のせいだろうか?


そんな疑問が頭を過ぎりつつも、アンナは机に向かいつつ植物に関しての図鑑などを観察している。
    ……世紀末で図鑑の六割の植物は死滅するだろうけど。覚えとくのは無駄ではないよ。復活する可能性もあるし……。


  「……アンナ。見てて楽しいかぁ?」


  「いや、ジャギが勉強しろって言ったんじゃないの。それなのに楽しいかって最上級の嫌味なんだけど?」


   「嫌味でザンス」


  「何それ?」


   「……何でもねぇよ」



  この世界は自分の世界の知っている漫画がほとんど流通していないのがネックすぎる。テレビは一部の金持ちの物だし。俺達はラジオ聞くぐらい。

  ネットなんて問題外だ。核戦争起こす技術あるのに何で日本にパソコン流通してねぇんだよ!? あれか! 敗戦国家ゆえにか!?

  
 一つの可能性としてラオウが漫画オタクだったら共通の趣味で仲良くなれるかなとか夢に思ってたんだぞ神様の馬鹿~!!(絶対に無理


   「ジャギ、顔が巡るましく変わっていて怖い」


  アンナにきつい一言でダウンする俺。立ち直っている間にアンナは勉強を終わらせ、童話全集ののっている本を持ってきた。
   
  リア王とかロミオとジュリエットとか昔の有名どころの作品に関してはこちらにも実存している。……逆にこちらに俺の知っている作品は少ないほうがいいんだよな。一騎当千とかねぎマとかジョジョとか『真実愛(トゥルーラブ)』とかが消滅すると思ったら鬱だし……。


   「……このお話ってさ、かなり救いようがないと思わない」


   「え? どの話だ?」

   
   「またぼぅっとしてたでしょ? ジャギ。……ほら、このお話」



   アンナが指した童話全集にのっていたのは『ヒナギク』と題名つけられた作品……アンデルセンって有名だけど知らないぞ、この話?



   「どう言う話なんだ?」



   「……昔ある所に小さい小さいヒナギクの花が咲いていました。その花の香りは小さく、他にも美しい花は咲いていましたが綺麗でした。」


   「……ヒナギクや他の綺麗な花達の前に、ある時一匹のヒバリが降り立ちました。ヒナギクは他の花にヒバリが降り立ち綺麗だろうと
 褒めるだろうと思っていました。他の花達もそう思ってましたがヒバリはヒナギクの前を飛びながらヒナギクの心は金、着物は銀と褒めました」


   「いい話じゃねぇか」


   最後まで聞いて? と念を押すアンナ。その微笑に何故か翳りが見えた気がして、俺の心は少しだけざわめくも、黙って耳を傾けた。



   「……ある時ヒバリは子供達に捕えられました。そしてヒナギクも。……ヒバリの檻の前に土草ごとヒナギクは置かれました。
   捕まったヒバリが少しでも自然を思い出されるようにと……水も、餌も、ヒナギクにもヒバリにも与えず……」


    一旦、目を閉じて何かを考え込むアンナ。僅かばかり静寂を生んでから話は終わりへと続けられた。

   「ヒバリは死にかけたとき、ヒナギクはこの可哀想なヒバリを少しでも癒したいと精一杯の香りを醸し出しました。ヒバリはヒナギクと
  話すことも、意思を通じる事も出来ませんでしたが、ヒナギクが自分のためにその香りで癒そうとする事はわかっていました」


   「……やがてヒバリは死にました。子供達は大声で泣きつつヒバリの為に墓を立ててやりました。けれど、広大な空から切り離されたヒバリ
 の為へと心の中で涙を流し、精一杯の癒しのために尽くしたヒナギクは、雑草の生えた土と共に道路へと無造作に捨てられてしまいました」



    「ヒバリの為に子供達は涙を流しました。生きている間に水も餌も忘れていた子供達はヒバリの墓へと涙を注ぎました。
  けれどヒバリと永遠に居たかったヒナギクに関しては、その墓の側に咲くことすら許されず土ぼこりの中誰の心にも残らず枯れたのです」





    ……パタン、と本は閉じた。俺は聞き終えてから最初にこう感想を漏らした。



   「……下らない話だ」



   「……そう?」



  「ああ、……最悪で、下らなくて、聞く価値もねぇよ……」


   



    「……じゃあ、何でジャギは泣いているの?」



   そう言ってアンナは俺の頬へ手を伸ばし、俺の目から流れている液体を優しく拭った。


   言われるまで泣いている事も気がつかなかった俺。暫し涙が止まるまで時間が経った後、俺とアンナは外へと出かけた。




   月が綺麗な夜だったと思う。アンナは生い茂る草の布団に寝転がりながら、ここ、私の秘密の場所なんだと得意気に言った。






               「……ジャギの夢ってさ、何?」



    そう不意打ち気味に問いかけたアンナ。俺は暫し思考を巡らした後、そっけなく言った。


          「……わからねぇ。とりあえずは、今を精一杯生きるって所かな」


          「ふふっ、何かその答え、おかしい」


          「アンナはどうなんだよ? どんな夢なんだ?」


          「……私の夢はね」



   腕を枕に、夜空に浮かぶ月へと語りかけるように、アンナは言った。






         


                 「『大好きな人と一緒に、好きな場所へ旅をする事』……かな。……お金貯まったらさ、色んな場所を
 見に行きたいんだ。ジャギもさ、良かったらジャギも……ジャギ?」







     「……うん?」



    「大丈夫? また泣いているよ、ジャギ」


     「え? 本当か? ……何でだろうな? アレルギーって訳でもないだろうし……」



    ごしごしと目元を拭おうとすると、駄目駄目とアンナはハンカチを取り出し俺の目元を拭った。そして、俺へと笑顔で言った。





      








           『一緒にさ、夢を叶えようねジャギ』





 



[25323] 第三十話『てめぇは俺の野望のために生きれ!!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/15 19:39



  ついにその日は来た。俺は散々やり取りした手紙を見つつ、手早く準備を後にして立ち上がった。その手に握られるはサウザーの手紙。                 





                時刻は日が昇る前の闇夜。一人のまだ子供の体をしている少年の寝室へと忍び込む怪しき影。

               その影はじっと少年を暗い瞳で見下ろすと、その顔へと鋭く光る指先を向けて……。



                                   ぷにぷに



                                頬っぺたを突付いて、少年を目覚めさせた。



                          「……うっ、何……? ジャギ兄さん?」


                「悪いけどなぁケンシロウ。ちょいと大事な用があるから二日ほど留守にしなくちゃならねぇ。
   師父には何とか適当な言い訳繕っておいてくれよ。帰った後に土産物渡すからよ。何がいい?」

         「……いいよ。この前『珍しい海産物だぜぇ~!』って言われて蟹料理食べてお腹壊したばっかりだし……」


                「うっ、あ、あれは実際悪かったよ……。とりあえず、頼んだぜ! な!?」


     そう言って髪を針鼠のように立てつつジャギは去る。ケンシロウは未だ半覚醒ながらもジャギの頼みは覚えつつ再び眠りへ落ちた。






        「……ジャギ、今日も出かけるのか? この前も外出したばっかりではないか?」

     寺院を出ようとした直後、座禅をしていたトキに見つかるジャギ。

   げっ、と思いつつもジャギは片手で頭を下げつつ、切迫した調子で言い訳をした。

     「トキ、頼むって……! ちょいと本気で出かけないとやばい用事なんだって! ……帰ったら新しい医学書渡すから」

     物で釣ろうとするジャギへ頭が痛むのを感じつつも、生来の優しさからトキはやれやれと微笑みつつ、口を開いた。

      「……わかった。帰った時に師父に取り繕るつもりなら私も一緒にいよう」

                 「助かる……!     それじゃあ行ってくる!!」

            疾風の如く階段を駆け下るジャギ、その束の間、木陰から険しい目線を携えラオウはトキの前へ降り立った。


               「……トキ、奴の最近の挙動、どう見る?」

           「私には修行の気晴らしのために外出しているように見えますが……。心に在る女性の特別な日なのでは?」

          「たわけめ、それだけでは奴が修行を度々抜け出してまで外出する意味が説明つかん」

          腕を組みつつ、未だ上にある星を見上げラオウは謡う。

 「……かつて第六天と冠を名乗りし武将がいた。そ奴も未だ若芽の頃は愚慮を周囲に見せつけ、自身の力を隠していたと言う……」

                        「……ジャギが、そうだと言うのですか? ラオウ」

                 「……奴の瞳には近しき何かがある。トキ、奴は我々北斗宗家へ何時か立ちはだかる。きっとな」










(partサウザー)

   瞳は帯に隠され、目の前には緊迫した空間が包み込む。そして天から降り注ぐ豪雨が緊張する肉体の熱を奪い取ろうと服えとへばりつく。

   今日は自分の鳳凰拳伝承の日。お師さんが挑ませるほどの実力者。自身の拳に知らず知らずの内に力が入るのがわかる。


      ……! 風を斬る音。そして一人、いや三人だろうか? 複数の気配の中で一つだけ強い殺気の持ち主が自分へ襲い掛かる。

    遮られた視界越しにはっきりと刺客の動きが読める。当然だ。お師さんとの今までの修行の日々、それを今発揮できなくてどうするのだ?


    体をねじらせ鳳凰拳の鋭き切れ味を叩き込もうとする。しかし、その瞬間にだ、最悪なことに体を崩すほどの轟音が耳を襲った。

           散弾銃の音!?  伝承者の資格では重火器から自身の肉体を防がなくてはいけないのか?!


   手応えは浅い、確実に次に命を奪ってくるだろう一撃が来る。その一撃に対し集中しかけた時、よく知っている声が焦った声を上げた。


    ……え?  これはジャギ?  ……何?   何を言っている?  ……お師さんがどうしたというのだ?


     その言葉の通りに帯を外すと、荒く息を吐きつつ腹から血を流して膝を付くお師さんの姿が俺の視界へ飛び込んだ。




(partジャギ)


                               ……危なかった!!


            豪雨の中気配を消し待ち続ける俺とアンナ。
          オウガイが現れると急いで町医者を呼ぶように小声で告げて俺は時を待った。

          避けるサウザー そして鋭く拳を振るうオウガイ

    そしてサウザーの殺気が膨れ上がったと確信した瞬間、俺はショットガンを美しく鳳凰の如く舞う二人の横へ着弾させた。


        見込みの通り、サウザーはバランスを崩し、オウガイの腹は裂かれるもまだ治療すれば助かる状態になったのだ!!


        「……え? お師……さん? これは……一体!? それに何故ジャギがここに」

          「後で説明してやるよ! 今はオウガイを早く治療しねぇと……ぼやぼやしねぇで足持て!」

           混乱しているサウザーは素直にオウガイの足を持ち上げる。荒い息で腹の傷に耐えながらオウガイは俺へ言う。

                「……何故、邪魔を……した?  これ、は……息子が鳳凰となるべく……大事な」


                      「鳳凰? 馬鹿が、鵺の間違いだろ。あんた達のやり方だと雛の翼がねじ曲がるんだよ」

             オウガイの声を一刀両断し、俺とサウザーは中の修行場となる場所の寝室へ辿り着いた。




        ……よし、まずは余計な事やらかさないように新膻中(使用者の声がかからない限り動けなくなる)を針で刺す。
                      

                    「……わかっておるのか、お前は伝来からの南斗鳳凰拳の儀式をけが……!!」


               動けなくなるオウガイ、よしっ、次に針で刺すのは定神(気絶するが落ち着く)だ!!


                    「……お師さん! お師さん……!?」


                     「安心しろ、気絶させただけだ。……ちょいと痛みが走るかもしれないしな」


                      「ジャギ……! 貴様お師さんをどうするつもり」

                   「ガダガダ抜かしてんじゃねぇ! 助けようとしてんだから黙ってろ!!」

                          「…………!!!」



        ……よし、雨の所為で傷が熱持ったらやばいから安騫孔(毒素に対する抵抗力が倍加する)を針で定期的に刺す。
   そして極めつけは亜血愁(出血や激痛を止める)を正確に刺すこと……絶対に成功させてやる……オウガイ、てめぇには悪いがな




               てめぇは俺の生き残るための野望の礎になってもらうぜ?






 



  (partオウガイ)




         ……夢を見ていた気がする。


    成人になった愛息子が私のために墓を建てる夢。だがその夢の中で息子は私の愛ゆえに嘆き狂う鳥と化していた。

      私も知っている仁星のシュウを私の墓の完成の為に屠り、そして北斗の星を宿す男に息子は……。




                         「起きたか?」



         目覚めると、そこには荒々しい風貌をしているが、マグカップにココアと不釣合いな雰囲気を持つ男が私を見下ろしていた。


   「医者が早く来て助かったぜ。俺は出血は止めれても傷を縫ったりは上手くないしな。……トキを無理にでも誘うべきだったな」


                           「……何故、私を助けた?」


                      「……少なくともあんたのためじゃねぇ、しいて言うなら……俺のためだ」

               「ほう?」

     私の疑問の声と目線へ見返す男。黒曜石よりも黒い瞳を見せつつ、男は湯気の立つココアを飲みながら、そっけなく言った。


   「……あんたが死んだらサウザーはきっと狂っちまう。そしたら南斗は乱れ北斗と争う。……俺はまだ死にたくねぇし、闘うなんて
   もっての他だ。俺は平和に生きたいんだよ。平和に」


        そう言って液体のすべてを飲み干し、要るか? と問いかける。私が首を振ると扉へ歩きつつ背を向けて言った。

           「あんたがもう一度伝承者の儀式やろうか勝手だがよ……あんたの息子はあんたが思う以上に愛しすぎてんだ。
  ……あんたが本当にあいつの事思うなら、ちゃんと見てやんな。俺は疲れた、後は適当に息子と語りあってくれや」


 


   


    ……私は間違ってただろうか?



    いや、そんなはずはない。私はあの子の瞳の中に極星の“南斗十字星”を見たのだから。


    入り口の前に、泣き腫らしたままの息子が見える。成る程、あの男が若い雛だと言うのもわかる。

 私は苦笑しつつも息子へ笑顔を向けた。息子の笑顔を見ながら時代を背負うこの子に何をしてやれるかと、私は抱きしめつつ考えた。







あとがき





   『センター試験(笑) いや、自分内定もう持ってますから(笑い)
  頑張ってね皆さん(笑) 応援してますから(笑) 本当(笑)』by友人






        懲りてなかったみたい(´・ω・`)
     




       皆の分まで北斗羅裂拳喰らわす(`・ω・´)




          


                           



[25323] 第三十一話『運命の歯車が軋む兆しの見えた日』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/16 10:48



          「……はぁ!……覇っ!!……破ァ……!!……うぉおりゃぁ!!……てぃりゃあああ!!」








           寺院の少し外れた一角で、ソードオフショットガンを構えながら無意味に木へと気合(洒落で非ず)いを入れるジャギ。


       現在、ショットガンから気弾を発射する実験の真っ最中だ。

  銃弾もある程度『気』で操る事も可能になり、調子に乗って考えた末に銃口から自分の『気』を発射する事が出来るのではないかと考えたのだ。


  有言実行を即開始して、一時間はこの完全に徒労とも言えるべき行動をとっている。終いには自分でもよくわからない叫び声を発している。



        「霊丸!」    「ショットガン!」   「か〇は〇波!」
 「ジャンケン、パー!」  「俺の拳が真っ赤に(ry」





        ……そして三十分が経過し、無駄に疲れ果てたジャギはとぼとぼと寺院に戻ろうと思い足取りを引き摺った。
    その道中に何かにつまずいてこけるジャギ、見るとどうにも腹が立つ顔の地蔵が立っており、それがつまずいた原因であった。

         

  この野郎……! 何時もなら気にしない程度なのに、何故か不思議と込み上げた怒りのまま、ジャギは銃口を向け声を上げていた。





   


                                 『ぶち抜いてやる!!』







              石が砕け散る音、そして足元に転がる破片。





      呆然と地蔵を再び見遣ると、地蔵の頭は砕け散っていた。そして……ジャギは銃口を見つめてから、大慌てて逃げ帰った。












        「……嘘、だろ……! 何であそこで出来るんだよ! やべぇ、俺祟られるわ……! 絶対に祟られるわ……!」



                              「……あの」




                     「……あ? ……何だぁ……って……ユリア?」




      目線を向ければ、そこに居たのは不安気な顔つきで俺を見るユリア、何でこの北斗寺院に……? と一瞬の疑問、そして氷解







               「……お願いです! ジャギさん、ケンを助けて下さい!!……ケンは、ケンは南斗の者と……!」








 
 
            ……         ……     ……       ……しまった!! 今日は『あの日』だ……!?




   気付けば時既に遅し、とりあえずユリアにはケンシロウが帰ってきたら知らせる旨を伝え、包帯や治療針をいそいそ用意する良妻ジャギ




      そしてトキに背負われ結構重症なケンシロウが数刻してから現れた……やべぇ……シュウさん本気で御免(泣)



 とりあえず怪我の手当てやって(傷口に薬塗ったら大げさに呻くのがちょい面白い)何故か訪れたアンナ(不思議そうにしてたら何故か蹴られた)
   とユリアと共にトキに試合の描写を説明して貰ったんだが……どうも原作と食い違っててあれれー? って感じた。






                         ……どう言う事かと言うと……。









                        「……サウザー、私はこの子を生かす」


    ケンシロウを宝物のように腕に抱え、じっと玉座に携えるサウザーを透き通った目で見るシュウ、それを影の中じっと聞くサウザー。


                            「この子の瞳には無限の可能性が秘められている、私はそれを潰したくない」



                     「……それは伝来からの南斗の掟を破ってまでお前が望む行動か?」


                                 


                                「無論」




  天を見上げるサウザー、そして重々しく告げる声が闘技場に響いた。






   「……『仁星』のシュウよ。お前の望み、聞き入れてやろう。だが、南斗の掟を破るなら相応の罰……受ける覚悟はあるのだろうな?」




                         「覚悟の上だ、サウザー。お前が望むなら、この両目「待て」……何?」



     いぶかしむシュウを無視し、思慮深く手を顎に添えるサウザー。そしてそれを険しく眺めるラオウ。そして不意に声は現れた。



                    「……ふむ、決めた。……兵よ、前に私が興味を抱いたアレを持って来い……そしてシュウ」


     兵に命令を指示した後、シュウへと向き直るサウザー。それは未だ成年に達さずも、聖帝としての貫禄と風格はある。


             「お前には我が前で薬品を被り貴様が見たと言う光を見えぬようにしよう……そして、私はもう一つ」


                              「もう、一つだと……?」



                 「ああ、貴様が何時か大切な物が出来た時、シュウよ、それを貰おう。それがお前の罰だ」





            サウザーの提案に、暫し考え込んだ後、頷く、シュウ。それを確認し頷くと、兵から受け取った薬品を掲げて言った。



  「……『仁星』のシュウよ。古きしきたりを破りし罰として、貴様の光を長きに渡り封じよう! それは我が南斗の星が潰えるまで……!」

    









                ……え?    何それ?    シュウさんまさかのアイリ状態?  すぐ秘孔突けば直る程度?













             ……何それ怖い










あとがき




  サウザー、その心中は如何に?



最近ネタがなくて困った状態。


半裸の友人(※下半身)をボコボコにしたら『そうだ、もっとだ……! もっと!! 私は、私はここにいる……!!」



   ってインテグラのエロ画像パソコンに貼り付けて勃起しながら言ってたからとりあえず思いっきり蹴り上げて帰った(`・ω・´)




      暫く会ってやんない……(´・ω・`)






[25323] 第三十二話『真夏の空に一滴の星と虹と華と雲を』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 18:12
   








                    それは核が降る前の、平和なひと時を過ごしていた時の話。



  南斗の寺院の外れにある広場、そこでジャギ、ケンシロウ、シン、ジュウザ。ユリア、サキ、そしてアンナと言うメンバーが集まっていた。




        「……一体ここに集まって何をする気なんだ?」



        「アンナに聞いてくれ……俺は何も聞いてない」



    疲れた表情のジャギ。シンはそれを見て、最近何かと起きたら横にサキがいたり、修行終わりの水浴の終わりにサキに会ったりする
 自分に何故かデジャビュを覚えた。だが、それに自覚してしまうと何か手遅れになった気がするので慌てて精神力でデジャビュを打ち払った。



         「……それで、一体何を始めようって言うのアンナちゃん? そろそろお兄さん教えて貰いたいな」



            慣れなれしく肩を置こうと手を伸ばすジュウザ、しかし自然の動作でそれをいなすアンナ。つんのめるジュウザに
 ジャギはいい気味だと鼻で笑い、そしてむっとした顔のジュウザと睨み合いになるのを心配そうにケンシロウが目線を向けていた。



                 




                     「今日はね……はい! これで皆で遊ぼうと思って!!」



     そう言って、先ほどからアンナの横で存在感を放っていたダンボール箱は開かれ、六人は覗き込んで思い思いに声を上げた。


                    「えっと……、これは……水鉄砲……でございますよね? シン様」


                   「そのようだな……。何だ? わざわざこれで遊ぶためにここに集まらせたのか?」


                   呆れ顔を向けるサキとシンに瞳を閉じて得意そうに指を立てて反論するアンナ。


               「甘いわね! 水鉄砲だから危険もないしこんな蒸し暑い日だからこそ絶好の玩具なんじゃない!!
    第一こんな風に遊べる機会なんてそんなにないんだから思いっきり遊べる日は遊ばなくちゃ!」



      その言葉に、溜息を吐くシンとサキ、そして段ボール箱をここまで運んできたジャギ。しかし乗り気な声がここで上がる。



            「……面白そうじゃないか。賭けないかシンにジャギ、ケンシロウ。どれだけ避けれるか勝負するのは?」


       賭け   勝負     その言葉に意識を注ぐ男三人。一体どのような賭けをするのか? 次の言葉を待つ。
                         そして緊張する空気を破りジュウザは楽しげに声を上げた。


             「この勝負に勝ったら美しき乙女三人からキ『却下』……わかったよ。だからそんな恐い顔するなって!」



         ある程度予想通りの内容と、そして自身の未だ気付かぬ想いが相乗して険しい声を上げるジャギ、シン、ケンシロウ。

           三人のシンクロした反応に女性三人は笑いつつも恋する女の目を秘めて意中の相手を暖かい視線で見ていた。



         「……でも、まぁ。勝負に関しては乗っても構わねぇな。……なぁシン、ケンシロウ?」


         「ふむ、そうだな……。ジャギ、貴様を完膚なきまで濡れ鼠にしてやろう……ついでにケンシロウ、貴様もだ」


                        「……自分もそうやすやすと負けるつもりはない」




  好きな相手に良いところを見せたき男の性。三人は炎天下の熱気も合わさってか背後に炎を背負いながら火花を散らし始めていた。



       

 「私たち三人は普通にどっちが多く当てれるか競走しようね。ユリア、サキ」


 「ふふっ、そうねアンナ。……これでも私、結構すばしっこいんだから、簡単には当たらないわよ?」

 
  「さ、サキめも命一杯頑張らせてもらいます! アンナ様の凶弾に、ユリア様をおめおめ濡らせはしませんわ!」


  「あら? サキ、貴方も私とは敵同士よ? その方が楽しいじゃない」


  「えぇ!? え……っと。ま、まあユリア様がそれで良いのなら……」


   「いやぁ、こっちは華やかで良さそうだね! 俺もこっちのゲームに『早く来いこの野郎』……おぉ怖……」



     最後ら辺で余計な茶々を入れようとしたジュウザを引き戻しつつ、かくして四人の男は熾烈な激闘。それを勃発した。






                        



      「……うぉお! 破っ!」       「甘いわぁ! 貰ったぁ!!」   「くっ……この!!」


        

              「おぉ~すげぇすげぇ、そんじゃこの隙にあっちへお邪魔『逃げるんじゃねぇ(ない)!』っぶな!!?」





       南斗聖拳や北斗神拳の動きすら使い必死に水を避ける三人、そして悪乗りしつつも我流の拳で避けるジュウザ。
  その気配は死闘にいる闘士の気配そのものであり、水鉄砲で遊んでいる光景とはとても言えない血生臭さか捕えられた。……一方。







        




 二丁の水鉄砲を提げ、木へと足をかけると空を反転しつつガン=カタの如く水鉄砲を放つアンナ。それは出鱈目に打つサキの額へ命中する。

            「……よっしゃあ、当たったよおぃい!」


        「きゃっ!? ず、ずるいですわよアンナ様! 南斗聖拳の動きなんて使われたら勝ち目がありませんってばぁ!」

       「へへぇ~! 勝てばよいのだ、何を使お、ぶっ!?」


        「ふふっ、やった、当たったわ!!」




                   ガッツポーズの隙をつき、楽しそうに命中したのを喜ぶユリア。
    華やかな空気を放ち水をかけあう女性三人。そこには殺気も闘気もなく、平和の象徴と呼んで構わない光景であった。



                            しかし、……神々が悪戯をしたのか、ここで思わぬアクシデントが起こる。




            「しっかし、結構避けられないものだね。服がびしょびしょになっちゃったよ」


          「そうですわね。最近炎天下でしたから、丁度よい涼法でしたわ。けれど服がはり付いて気持ち悪いですぅ……」


          「少しだけ困ったわね。私も、今日こう言う風に遊ぶと思っていなかったから替えの服は持ってきてないわ」




                そう……、水鉄砲をかけあえば当然運動で汗もかくし水で濡れる、おまけに最近までの暑さで薄着


                そう   女性三人とも   う  す  ぎなのだ……!





                 最初に気付いたのはジャギか、シンか、ケンシロウか、はたまたジュウザであっただろうか?


         

                  「よっしゃあやっと三人ともマイナス1点だぁ……って、何処に行くの……ってあらあら」


       得意気なジュウザの脇をすり抜け心なしか顔が赤い三人は着ていた上着を脱いで意中の人の元へと駆ける。


         一瞬の疑問のあと、三人の肌着が濡れている事で合点がいったジュウザは呆れつつその様子を眺め、ふと一つの視線が
 こちらへ注がれているのを感じ、その視線と気配が自分の知っている者だと理解すると溜息を一つ、そちらの近くの木へ寄りかかり声をかけた。




                     「……そんな場所で見張ってないで一緒にどうですか、『リュウガ』?」


                   「……構わん、俺はここでじっと見守っているだけで良い」




    『天狼星』の宿命を持つリュウガ。ジュウザとは血縁上異母兄弟に当たる者。だがその関係は複雑で、リュウガは決して人の目に
 つく場所でジュウザと共に喋ることはほとんどない。



            「構わないではないですか。あの六人の輪にリュウガが混じっても、決して誰も拒絶はしないですよ」


                    「それでも、だ。俺はあいつを影から守れれば構わん。光輝くあいつの影として……」



           そう言って、気配が遠ざかっていくリュウガへ、木立ちに背を寄らせつつ、雲を見上げジュウザは苦笑いを浮かべる。
   そして六人の輪の元へ戻るかと動こうとした時、何時もよりも優しげな声が雲を流す風と共に乗って聞こえた。


         


                           『……誘ってくれて嬉しかった、ジュウザ。……礼を言う』









                      「……おぉい!! ジュウザ、何やってんだ! 続きやるぞ! 続き!!」




                「……ははっ! 俺は流れる雲だ! お前たちの遅い水流なんぞ当たらないよ!!」



             年相応の笑顔を浮かべ、心の中に暖かい灯火が広がるのを感じつつ、雲は暫し風の子となり遊び更けた。











 あとがき



  






      メールの受信ボックス見たら昼で25件ほどあった。



  内容は全部『え?(笑)   何今回放置プレイとか(笑)
    
    汚物ちゃ~ん厳しい~!(笑)』って感じの内容。







   ……無視だな 無視が一番良いよ! |ω・`)




              



[25323] 第三十三話『幽鬼の極悪の激情』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/16 21:41




    ---幽鬼の極悪の激情 または彼は如何にして信ずる事を止めて極悪へ進むことになったか---








       「……う……ちっ……夜明けか……くそったれ」






   朝が来る。その陽射しが自身を覆うヘルメットをすり抜け視界へ襲うのを憎々しく思いつつもどうしようもない事を知りつつ
 体を起こす。柔らかい布団も毛布すらないこの場所では冷たい土と岩だけが自分を眠りに付かせる為の緩和剤にしかならない。

   すべてが憎く、どうしようもなく誰かを細切れにしたい衝動が襲う。どうしようもなく、誰かを撃ち殺したい衝動が襲う。




   その負の感情で体が可笑しくなりそうになるのを自覚しながら、自嘲しつつ朝の鍛錬をおこなう。
 鍛錬の日課はお決まりの技。一人の女の為に身を捧げた馬鹿が身に付けていた技を盗み取り、消し去りたかった奴に掠り傷を負わせた技。


    百回、千回、一万回、十万回、百万回……どれほど同じ動作を繰り返し、どれだけ突きをこの世界で行っただろうか?


    気の遠くなる時間行い、何時しか南斗の将星にすら勝る技に磨かれていたソレ。あの地獄の世界で少しは役立つと思い齧った技。
   
   それが今となっては自分の存在を確立するための要となっているのだから、人生何が起こるかわからないと言っていい。



   「人生、か」


  俺の人生は一体何だったんだろうか?


  長兄が俺に与えたものは『歪み』であり、『最強』の『誇示』だった。

  次兄が俺に与えたものは『妬み』であり、『失堕』の『起源』だった。

  そして……あいつは。




     「……クソだ。何もかもクソだ。そうだ、クソの事なんぞ考える必要がねぇだろ……。考えただけ無駄だ。所詮、屑は屑なんだ」


    それは兄へか? 師か? それとも憎むべき者へか? はたまた自分へと向けての事なのだろうか? それは誰にも知り得ぬ。




    「……何が北斗だ。何が北斗神拳だ。何が父だ。何が家族だ。何が愛だ。何が……何でたって俺様はこうなんだ……っ!」



    憎しみは周囲へ、そして憎むべき相手がいなくなると自分へとまた帰る。それはまた夜が訪れ自分に眠りが来るまでの久遠永劫。




   「……ちっ、下らねぇ。さっさと迎えは来ねぇのか? よぉ、俺の事見てるんだったらさっさと元の場所に戻せってんだ」


      天へ向けてそう声をかける紅の瞳の男。だが何も変化が訪れないのを知ると聞くに堪えない悪態をつき、突きの練習を再開した。








                  ……それからどの位の時が経っただろう?ある日そいつの元にはそれの子供の頃によく似た
 者が男の場所へ訪れた。男は最初からその来訪を知っていたのかもしれない、知らなかったかもしれない、だが男はその子供へ向けて
 自身の身の丈の憎悪を今まで乱世の要として振るってきた抗弁で思いの限りぶつけ、男はその子供が来るまでまた時の流れに佇む。








    最初は遮二無二銃を乱射し、男はその脳天に尽きぬ弾丸を何度も発射し、何度も心の臓へと男は滅びる事を願い引き金を引いた。


   それは引く人差し指の皮から骨が見えるまで続けられ、男の周りの地面には赤い色以外何色も染まらぬまで続けられた。




                            だが、ソレは死ねず自身の怒りと憎しみを抱え存在していた。





     「……ちっ、こんな所に咲いているんじゃねぇよ。……邪魔だろうが、クソったれ、踏み潰すぞ……」





  ある時目の前に見覚えのある建物の残骸が現れ、そこを根城にしていた時、柱の影に何かの花が咲いているのが見えた。


    それは何処かの俺が何処かで嫌いにならなかった奴が心で涙した物語の中の花。どうしようもなく俺のように救いのない花。





   「……けっ! 俺様が同情して水でもかけてやると思ってんのか? あぁ! おい!! んな訳ねぇだろうが!!」





      花に向け怒鳴る自分。傍から見れば何て滑稽だろうかと思うだろう。だが言わずにはいれなかった。




  「いいか!? 俺様はジャギだ! 嫌いな野郎は皆殺しにして! 弱者が死ぬのを喜んで見て! 憎い野郎を貶め名を堕とすのが好きで!!
  あいつ達の中で一番劣っていて! 誰よりもそれを妬み憎んでいて! だから俺は喜んでその道を選んだんだ!!」



 「悔いなんぞねぇ! 嘆く事なんぞあるはずがねぇ! んなもん俺より弱い野郎のするこった!! 俺を馬鹿にする奴は許さねぇ!!」



  男の怒声に、花は静かに揺れる。悲しげに、儚げに、それがどうしようもなく男の胸の中に巣食う何かが動き、男は吠えた。



  『てめぇ見てぇに本気で好きになる野郎を間違えた野郎が、俺様に説教垂らすんじゃねぇぞ!! このクソガキがぁあ!!』






                              パアアアアアン……!!






    



   ……銃弾はその花の横へ着弾し、男は呼吸も荒く、その花を沈んだ目で見つめ、自分の腕が銃弾が起こした埃で汚れたのに気付いた。



   「……ちっ! 貴重な銃弾を花なんぞ撃つのに使って……いや、ここじゃあ弾薬なんぞ眠りゃあ戻ってるか……」


  ぼやきながら男は腕の汚れを払い、それがこびり付いているのに顔をしかめると腰に提げた水筒で洗い落とした。


   その汚れを洗った雫は静かに花のそばへと流れ落ちる。花は微かに喜ぶように男が気付かない内に揺れた。




    「……クソガキが来るまで暇でしょうがねぇや。……精々枯れないように咲いてみろや。……まっ、こんな荒れ果てた場所で
 咲けるもんなら、な……イーヒッヒッヒッハッハッハッハハァ!!! んなもん無理だよな! 無理に決まってるだろうが! おい!?」








     

 
       ……柱の影で花は揺れる。その花は何を待ち咲いているのだろう? 物語の中のヒバリか? それとも何時か許される
 日が来るかわからぬ咎人(とがびと)か? それとも童子か?




    誰も知り得ぬまま、空に星は輝いている。北斗七星が輝いている。そして 小さく北極星が輝きを荒野へ照らしている。





   男は眠る。決して赦されはしないと知りつつも、それを嘲(わら)い審判が来るであろう日までここで旅人へと拳を教え気長に待つ。



   その男が眠る壁の反対側で花は咲いている。微かに香る花は、その男の眠りを暫しでも癒せるのだろうか?




 


    それはきっと知り得ぬ物語、その一輪と、一輪だけがきっと心の中で知りえる物語。それは脅かされぬ星の下でひっそりと消える……。
      



[25323] 第三十四話『軋む歯車は水車の軸を逆にする(仁星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 10:35





 それは核が落ちた後だったであろうか? 少しばかり薄汚れた部屋の一室にベビーベットが置かれている。
   そのベットに寝ているのは、『仁星』のシュウによく似た顔つきをしている赤ん坊であった。
     「……よしよし、シバ」

     「……あー、だぁー」

    赤ん坊の顔を覗き込み、目蓋が閉じた顔で微笑みを作るシュウに、シバは父へと笑みを浮かべ手を伸ばそうとする。


  「はは、シバよ強くあれ。この時代を強く、強く生き残るのだぞ……」

  「……あのっ、シュウ様」

  「む? どうした乳母よ?」

  「その……聖帝と名乗るお方が、訪れてまして……」

  「何!?」


 慌ててシバを乳母へ任せ、戸口へと急ぐシュウ。目は見えずとも南斗白鷺拳を極めた男には、乱雑した物を避け進むには容易すぎる。


  「サウザー。何用で我が家を訪れた?」

 光を失った瞳の中、はっきりと感じる鳳凰拳伝承者サウザーの闘気、それは相対するだけで感じられるほど昔より成長している。


  (……何と言う気。暫く相見えずいたがこれほど成長しているとは……! 聖帝サウザーに何が……?)

  「……シュウよ」

 重苦しい空気を纏い、サウザーは口を開く。次に出てくる言葉へ身構えるシュウ。サウザーが次に口を開くと、このように言った。

  「赤ん坊を見せてもらっても良いか?」

  「……なに?」

  「見せれぬのか?」

  「いや、それは構わぬが……」

  「そうか」

  シュウの了承を聞くやいなや、シバが眠る場所へ闊歩するサウザー。その心中がわからず焦りつつも後を追うシュウ。
 サウザーは乳母から承諾を得ると、まだ小さきシバを抱き、その瞳をじっと覗き込んだ。
 シバはと言うと、泣くこともせずサウザーを不思議そうな顔でじっと見ていた。暫くその得も言えぬ空気が続いた後、サウザーは息を吐き
 満足そうな笑みを浮かべると、シバを両手で天高く持ち上げ、堂々とした口調で言った。

  「……なるほど、そうか……! お師さん。貴方が守りたき未来、悲願は私の手で完遂する事が出来るだろう……!」

  「サウザーよ。お前は……一体何を言っている?」

  「ふっ……シュウよ、元気な赤子が生まれた事祝福しよう! ……だが、残念な事はお前の妻の事だな……」

  痛い部分を口にされ、少しだけ表情を苦しげにするシュウ。だがすぐ穏やかな顔へ戻ると、こう高らかに言った。

  「いや……我が妻はシバを抱かかえ言った。『この子には貴方の血脈が確かに息づいている。私は貴方と、貴方の息子が時代を支える
 人となる事を今日確信しました』……と。サウザーよ、私は何も悲しんでなどはいない。この子には我が『仁星』の血脈の子なのだから」


  その言葉をじっと聴き終えると、サウザーは『ふむ、そうか……』とぽつりと呟き、シュウの家を後にした。





  それから何月が経った時。シュウは聖帝軍の使いに呼び出されるとサウザーの立つ展望の一角へと立っていた。

  その道中に過ぎったのは昔に交わした約束。シュウは一抹の不安が湧き出つつもサウザーが聖帝十字陵の建設するのを眺める脇へ立ち
 サウザーの呼び出しの意図を考えつつ聖帝の風格がほぼ完成されたサウザーの次の言葉を待った。


「……シュウよ、昔、貴様が北斗の者を助けた時の約束。忘れてはおるまいな?」

   (やはりか!?)

 胸中に浮かび上がるのは昔に交わした約束。サウザーの言葉が瞳に光が点っていた頃と褪せる事なく思い出される。

    『お前に大切な物が出来た時、それを貰いうけよう……』


  「シュウよ、赤子のシバ。それはお前にとって大切な者に間違いはないな?」


  「……っ!!……っ」

 掌に爪が食い込み血が流れる。この言葉に、私が何と答えるか知りつつ、聖帝は口元に笑みを作りこの問いかけをしているのが見える。
  我が子が大切ではないと言えるか? 出来ぬ! 父として男として……そのような言葉は口を裂こうと言えはしまい……!
 だがこれに了承の声を上げれば、サウザーは……私の子を……!

  「……シュウ、私は、シバを……」

 聖帝十字陵を建設する石垣を運ぶ聖帝軍を眺めながら、サウザーは感情を厭わぬ声で天へ静かに言葉を舞わした。


  




   






   「私はシバを、南斗鳳凰拳伝承者として、我が元で育て上げたいと思う」



                    「……何?」


  何をサウザーが言っているのが最初理解が出来ないでいた。自分の最悪の予想はシバを人質として、南斗を乱さんとするサウザーの
 野望に自分を駒にしようとする計略が心の中にあると思ったからだ。
 だがこの言葉の意味をどう捉える? 確かにある意味人質なのかもしれぬ。だが南斗鳳凰拳伝承者にすると言う事は……。


   


   「サウザーよ、言葉の意味がわかって言っているのか? それともこれは何かの悪質な冗談なのか?」

   「真の言葉よ、シュウ。私はシバを、南斗鳳凰拳伝承者として、真の鳳凰拳を最後に知る者として育て上げたいと申しているのだ」


   「……真の、鳳凰拳の……使い手? 最後?」


  


   サウザーの真意が読み取れぬ。南斗白鷺拳を極め、瞳は失いもその者へ心眼でどのような意図があるか読める自信はあった。

   それが今はまったくわからぬ。何を聖帝が考えているのか? 何がサウザーを動かす望みなのか?

   その混乱する中、この男将星サウザーが打ち明けた野望に、私は全身の毛が粟立つ感覚を覚えた。

   




      サウザーの野望。それは何とも鳳凰のように美しく雄大で、何と鳳凰のように偉大で優美なる野望なのか……!



[25323] 第三十五話『軋む歯車は水車の軸を逆にする(将星)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 14:04


   下界を広々と見下ろせるサウザーの立つ展望の一角、そこでサウザーは朗々と自身の野望についてシュウへと聞かせていた。


    「シュウよ、我がお師さん。先代の南斗鳳凰拳伝承者オウガイはこの荒々しき力がはびこる乱世の未来を憂いていた」


      「それゆえに決めたのだ。我は鳳凰拳伝承者としての、最後の勤めを果さんと。それはお師さんも最後には望んでくれた」

    「……先代、オウガイの望み?」


   「そうだ、もしも乱世が訪れた時。我は真の鳳凰と化しこの乱世を命を賭し若き雛鳥立ちが空を自由に舞える空へ戻さんと」


    

       「何!?」



 そう、時は世紀末。海は枯れ、空は乱れ、そして生きとし生ける者に安息の地を得るのは難しくなった。


   更に噂では天を握ろうと北斗のとある者が軍を集めているとも聞く。確かに南斗鳳凰拳、将星、聖帝のサウザーならば収め得る事も可能。
 だがしかし、だがしかし!! それは余りにも危険な行為!  一歩間違えれば天の逆風に鳳凰は力尽き倒れることになろう!!



   「……お前の光失った瞳。奪ってしまった事は詫びる。だがお前の息子の瞳に俺は確かに見た。……あの瞳に昔の私の瞳と同じ
  ……そうだ、私と同じ瞳の中に極星の“南斗十字星”に連なる物を見たのだ。……シュウよ、我が願い、この身を賭し聞き届けてくれるか?
 お前の息子を次代の鳳凰の雛として育て、若き雛達を見届けれる世を私が創り上げられるまで、お前の息子を……」



   
   「『仁星』のシュウよ。これは俺の最初にして最後の願い。お前の息子、『仁星』の血を受け継ぎ、そして南斗十字星を瞳に灯すあの子を
 我が手で育てさせて貰いたい。そして、我が命が尽きたとき。お前は我が言葉の通りその瞳の封を破れ。……幸いにしてあの薬は幾つかの
 秘孔さえ知ればすぐに光を戻せる薬なのだ。我がお師さんを、我が心を救ってくれた恩人が俺に教えてくれた……」


   「きっと、俺はこの乱世を納める礎としてこの翼を失い尽きるだろう。……だが次代の鳳凰の魂が生き続けれると知っていれば、
 俺は何も迷う事なくこの大空を舞える。何も悲しむことなく大空を自由に飛び回り、凶鳥を屠る守護獣としての役目を果たせるのだ」



   
   「暇があればお前の息子に会ってやればいい、お前が望むならばお前の拳を息子へと教えてやってもいい。
  この俺の言葉に邪心があると信ずれば、今ここで我が鳳凰の翼を、シュウよ。……お前の拳で断ち切れ」


   


    「シュウよ、我が願い、どうか聞き届けて貰いたい……!」




   





  

  ……気がつけば我は涙していた。




  

  例え薬品を被り光を失いも、この涙は枯れぬ。








 聖帝よ、お前が極星となり南斗の将星となった事、間違ってはいなかったのだな。




  お前の願い、聞き届けた。シバよ、暫しの間離れる事になるだろう。だが、決して悲しむことはない、恐れることはない。



  お前を育て上げようとする者は、この乱れし天からお前たちを守ろうとする守護の鳳凰だ。誇りを抱き育つが良い。




  決めたぞ、聖帝。私もお前の野望の礎となってやろう。だが、私もむざむざとこの乱世に飲み込まれ押し潰される気はない。


  





  
   息子を、次代の鳳凰を守る為。このシュウ、阿修羅となって闘おう。







 あとがき




 今回は少し短め  



 これからは時系列が色々乱れて紹介するけど許してね(´・ω・`)



[25323] 第三十六話『焼きたて!! ジャギパン。 キムの日々(生地)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 12:48



   今回オリジナルキャラが出ます。そう言うのが嫌な方は、北斗七星点でお帰り下さい。







   とある町へ辿り着き、私はそこで見習いのパン職人として働かせ貰える事になった。
  最初はパンを作らせて貰えるはずもなく日々材料を運んだり、材料器具を洗う日々の毎日が最初の内は過ぎていった。

  だがそれは悔いではない。自分の夢。美味しいパンを作り、お金もないような貧しい子供達のためにパンを売る。そんな馬鹿にされそうだけど
 一人の友人は応援してくれた夢へ向かい、キムはせっせと見習いとしての職務をまっとうしていた。


   「今日もご苦労さん、ほら、売れ残ったパンでも夕飯にしな」

   「ありがとうございました! 明日も宜しくお願いします!」


  袋の中に大きめのパンを何個か入れて貰う。今日は繁盛しているこの店では珍しく売れ残りがあり、そのおこぼれを貰えたと言う訳だ。

   お腹いっぱい今日はたんと食べれるぞとホクホク顔で寝場所へ戻ろうとするキム、しかし道中で獣の唸り声のような物が聞こえた。

   な、何だ? と周囲を見渡すキム。しかし獣の気配も辺りにそのような音源を出しそうな物はない。自分の気のせいであろうか?

 仕切りに首を傾げつつ、気を取り直し歩こうとするとまた聞こえるその音。今度はそれが路地裏から聞こえたとはっきりわかった。


   

   ……正直覗きこみたくない。……だが気になる。


  

  恐る恐る路地裏へ入るキム、そして暗い景色を注意深く見るとそこに横たわる老人の姿を見ることが出来た。



   「……だ、大丈夫……ですか?」


  「……め」


  「……め?」


  「……飯を……くれぇ~」


   そう老人は言うと、腹から先ほど聞こえた音源が発生し、キムはがっくりと体を曲げた。







  




  ………………。
  …………。
  ……。


  「わははははっ!! お若いの助かったわい!! 危なくあそこで力尽きる所じゃった!!」


  「……いえ、……いいですよ。困った時はお互い様、ですから……くぅ」



  袋のパンを出した所、すべて平らげてしまった老人。仕方がない、今日は少ない賃金を捻り出し握り飯ですまそう……。そう考えるキムへ
 腰に提げた瓢箪から何かの液体(酒臭かった)を飲み干すと、老人は手を叩きつつキムへ言った。


   「いやはや馳走になった! このご時世人に施してやろうなんぞ気性の人間はほとんどないからの! お主大したもんじゃ!!」

   
   「は……ぁ、どうも……」


   「どうじゃ、何か礼でもしてやるぞ! ふむ……何が良いかの……?」


   「いや、いいですよ、本当」


   見れば見すぼらしい格好をした背の低い老人。礼と言っても有りがた迷惑な礼をされそうと逃げ帰ろうとするキム。けれど
 老人はそんなキムの様子を呆けた表情の中でつぶさに観察し、こう鋭く切り出した。

   「お前さん、もしかして変わった拳法でも身に付けておったか?」


   「……! 何故、それを」



   思い出すのは北斗の寺院での短い修行の日々。それは未だ忘れえぬ濃い体験であり、老人の言葉に反応しまい事はキムには不可能だった。


   「お前さんの体つきを見てな。わしも昔は色々な拳法修行しておったからなぁ、ある程度解るんじゃよ。しかも特殊な拳法じゃろ? かなり」

 
   「……おっしゃる通りです」


   「そんじゃあ、わしが拳を教えてやろうか?」


   そう自信満々に自分を指す老人に、キムは苦笑しつつ答えた。

   
  「……私は破門された身と言えどそこの拳法家。そうそう他の拳法へ着手するようではそこの修行者へ恥じを晒す事になります……。
  それに自分は職人を目指す身。自分の道を極める事も出来ぬ軟弱者が拳法を習う事など出来ないでしょう」


   では、と、そう言ってキムは老人に一礼するとその場を去る。その背中を髭を撫でながら老人はじっと観察していた。


   翌日だった。材料の買出しを頼まれ道中を急ぐキム、しかし途中またあの老人が現れた事に憂鬱な顔を見せつつもこう言った。

  
  「今日は飯をねだられても困りますよ。こちらも日々の食い扶持を稼ぐのに必死なのですから」


  「いやいや、今日は飯をねだりに来たんではないわい。お前さん、本当に拳を身につけたくはないのか? お主の眼は、どうにもパンを
 作るだけでは満足しておらぬのではないか? うん?」


   そう言われて唇を噛むキム。確かにそう言われるとそうなのだ。あの冬の日ジャギが言った言葉が心から離れない。
  見習いとして働き終えて眠りに着くと、自分が拳を必死に鍛える夢が今も続いており、その熱は心と体を捕えて離さないでいる。



  「……ですが、自分は職人を目指していると昨日も言ったでしょう? 今は拳を習う余裕などほとんどないのです」



   「んなこたないだろ? 職人が二足の草鞋を履けない事があるか? ねぇだろうがさ。お前さんが本当に拳を身につけたきゃあ
 職人目指しながら何とでも出来る。腐らせてんのは夢がじゃねぇ、自分の心さね」



  痛い部分を突きつけられる自分。的を得た発言に自分は俯きつつ老人から逃げ帰るようにその場を去った。……言葉が離れない。



   




  ……夜になった。





 帰り道ぼうっと空を眺めていると、北極星が一瞬いやに煌(きらめ)いたように思えた。






 注意して見ようとしていたら、足元を掬われ地面へ転倒するキム。目を瞑り衝撃に備える……しかし何時まで経っても地面は襲ってこない。







  「ほれ、気をつけねぇと怪我するじゃろうか? 星が今日は一段と綺麗なのは認めるがな。……そういや昔々、星を眺めておったら
 落とし穴に落っこちたドジな天文学者がおったな……。あん時は上から笑いすぎて落っこちかけたわい」




  

  「え……お爺……さん?」








  近くの座れる場所で腰を下ろす老人とキム。手の指をいじりながらキムは自分の悩みを打ち明ける。

  

  「……私は、北斗の寺院で修行者となっておりました」



  「ほほう?」


  「……ですが師から資格なきと破門を言い渡され、私は一人の男に心を洗われ、そして一人の男に道を説かれました」


  「そうかい、そうかい」



  瓢箪から酒を飲みながら聞く老人に、真面目に聞いているのか? と疑問を飲み込みつつ、キムは言葉を続ける。



  「私の迷いはこうです。本当に道を二つ追いかけて良いのか? もし二つとも道を追いかけ両方とも叶わなかった時はどうすれば良いか?」



  「私は自分が正しき道を極めたく北斗で修行する事を選びました。……夢は叶いませんでしたが、別の拳でも夢は叶えれると言われました」



  「きっとそうなのでしょう、けど怖いのです。自分の無力が、自分の弱さが」





  「……フガァ~」




  真面目に話をしているのに、酒のせいが鼻提灯を出す老人。それに遂に自分の堪忍袋の緒が切れ、原因の瓢箪を奪おうと手を伸ばした。




                    ……が。






  「そいりゃ」




  「……!?」







  人差し指を握られた瞬間、自分の体は一回転し地面へ寝かされていた。




  この瞬間理解した。 この老人、自分が気付かぬだけで拳法の達人であると……!



  

   瓢箪から酒をまた一口、天の星を眺めながら老人は言う。



  「お前さんのよわ~い心はよぉく解ったわい。けど、変え様と思うなら行動をせんと何も変わらんよ。んなもん真理じゃろう?」


  「弱いなら強くなれ。無力なら自分の強いと思える力を身につけろ。わしはお前さんが望むなら協力してやるぞ?」





  

  その茶目っ気を含みつつも、仙人のような貫禄さを放つ老人に、自然とキムは敬うように姿勢を正し、名を尋ねていた。






  「……ご老人、失礼ながら、お名前を窺っても?」




  「わしか? わしの名前は寿々(じゅじゅ)老人。
 寿々老人と呼んでくれや。ただの寿々老人じゃ」



       そう言って赤ら顔の老人は、町に天に木霊する笑い声を、長く長く上げていた。




[25323] 第三十七話『焼きたて!! ジャギパン。 キムの日々(醗酵)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 13:56



   「ぅぐ……! ……ぬん……!! はぐ……ぐっ!!」



   「ほれほれ、足腰使って走らんと日が暮れちまうぞい?」







 寿々老人に弟子入りを初め四日目。キムはタイヤをロープで引き摺りながら材料器具を店まで帰っている。


 道中の人々に奇特な視線を受けているのも屈辱的だが、どう考えてもタイヤの上に乗っている寿々老人の重みがタイヤ以上自分を苦しめていた。




  歯を食いしばりつつ眼を血走らせ材料を持ち運ぶキム。後悔が芽生え始めていたが、決めた以上意地でもやめたくはなかった。





  「……お、お疲れさん。……ちょい休んでいいよ?」



  「い、いえ……これも修行……ですから」




  店の主人の優しい言葉に涙が出そうになるも、やんわりと断り買出しへと再びタイヤを引き摺るキム。その背中は哀愁漂っていた。


 



  「ほれほれ、しっかり気張らんかい。大丈夫じゃって、人間一時間睡眠とれば十分次の日には体が動くからよ」



  「……そ……ん、な……わけ……あり……ます、か……!」




 「ほっ? まだ余裕がありそうじゃな? そんじゃあ輪っか増やそうかの」



  「……ぐ……ぬぅ……!?」




  鉄の輪を背中に乗っけて腕立てをするキム。時間は朝の四時頃で、眠ることなくぶっ続けて未だに修行をしていた。



  「ほれほれ後五十回ぐらいで終わりなんじゃからしっかり頑張れ」



  「……六百五十一……! 六百五十二……!!」



  「そうそう頑張れ頑張れ」





  そして時間になると死んだようにキムは横になって眠る。その脇で寿々老人は体を点検するように突き、こう一人ごちる。





  「……ふむ、やっぱ体が未だ硬いのぉ……これじゃあ北斗の技は身につけられん訳じゃわい。……けどまあ今から四年もすれば少しは
 見れるもんになっか……。……ったく南と北のあ奴らも
 わしをこき使いおって、わしゃあ終わりの時まで寝ておりたいってのに」
  



    ぶつくさと愚痴を言いながらも、正確に肉体の疲労を消す秘孔を突く老人、そして掌を翳すと見えるものには見える気が溢れ出て
 キムの体へと流れ行くのが見えた。そして一瞬の内であっただろうが?


 赤く汗ばんでいた肉体は一瞬にして一日の始まりに耐えうる体力を取り戻せたのだった。

  キムの疲弊した顔には穏やかさが戻り、荒い息遣いも静かな寝息へと変わった。



  「こいつの気性は生真面目じゃからのお、どの拳法おしえてやるべきかのう? 南斗の技は南斗の技で乱世を駆けるに少しきついしのぉ。
 こりゃやはり古来の失われた技を直伝するしかねぇか……はぁ~、本当、面倒臭い仕事を引き受けちまったなぁ~」


   そうぼやきながら星を見る寿々老人。その口調は愚痴を言いながらも表情は楽しげであった。


  「さてさて、この世界でこの男は何を成し、何を掴むのかの?     なあ『南斗星君』『北斗星君』何百年以来かの? 
 こんなに楽しいのは? お主らは楽しくないかもしれぬがわしは楽しくて仕方がないわい。これからの時代、どんな武士(もののふ)の
 魂が世を立て直そうとし、または握ろうとするのかの? 天の行く末がわからない事がこんなに面白いとはなぁ」



   そう楽しげな声へ変えて星へ語る寿々老人。その顔には神々しさが見え隠れしていたが、幸いにも誰もそれに気付くことはなかった。




  「何百回も繰り返す常世の中で、まさか見るにたえない穢れた魂が真理を啜(すす)っただけでこんな奇跡が起こったんじゃ。
  これからの未来が未知で満ち溢れているなんぞ、これから先にも滅多に見れぬもんじゃぞ?」



 
  「この男の世話は任せた。だからそっちはそっちで頼んだわい。わしゃあこの男に教えられる全てを教えてやるわい。
  この寿々老人改め『南極老人』の秘技、とくと見せてやるかのぉ、覚悟しとけな? キムよ」




   カラカラと笑いつつ老人は瓢箪から尽きぬ酒をまた飲み干し天を見上げこう詠った。





    


  




  「常世(とこよ)廻る(まわ)る星月に」


  「願いし詩は天をも知り得ぬ詩を紡ぎゆ」


  「ゆえに天は詩となり詩は天となりけり」




 





 あとがき



 神様が修行についたと言う感。 キムよ、パン拳法を進化せよ。



……音沙汰のない友人




……これは嵐の前の静けさか?





[25323] 第三十八話『追い求める貴方の背中がとても寂しい』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 17:07


(partとある女性)



  貴方に対し恋心を抱いていたのは何時からだったでしょうか?


  貴方が私を野犬から助けてくれた出来事。 それとも逞しい背中を見た時?


  何時も何かを強い意志を秘めていたあの方の瞳。私はそれに対し心奪われていました。


  貴方はきっと私の事など、毛ほどにも何も感じないかもしれません。


 それでも構いません。この想いは、貴方を思うだけで満たされるのですから





 (ジャギ)



  出来事の始まりは南斗の寺院の建物でユリアへと会いに行っていたアンナを見つけようとしていると、溜息をついた女性を見かけた時。
 その女性に原作でショッキングな出来事ランク5には入るエピソードで見かけた女性だったのに気付き、俺は頭を抱えかけた。


 ……こいつリハクの娘のトウだ。


 確かラオウを愛するようになったのは野犬に襲われかけたのを助けられた……からだったか? 最近もうろくに原作知識おぼろげにしか
 思い出せないからやばいぞ、おい。こんな事だったらちゃんとメモしときたかったけどそれリュウケンやラオウとかラオウとかラオウとか
 に見つかるとやばいから出来なかったんだよなぁ……。あぁ~ちくしょ~!
 そんな思考で頭が一杯になっていると、その娘はジャギへと気付き、声をかけた。


 「……あっ。貴方は確か、ユリア様によく会ってらっしゃる……?」

 「ジャギだ。後、俺はアンナの金魚の糞なだけだよ。ちなみにラオウとトキの兄者の弟でケンシロウの一応兄って身分だ」


 自己紹介の半分は聞き流していたが、『ラオウ』の言葉に関しては目の色が変わったのが見えた。

 
 ……いや、趣味悪いとは言わないけどさ? 流石にラオウはきついって……あの人興味あるの天と(一応)ユリアだけだろうし……。


  しかも、この子ラオウの前で自害するスクールデイズ言葉だぜ? と心中穏やかじゃない目つきでトウを見るジャギ。

 そんなジャギを意に介さず、頬を少し染めて、ジャギへと質問するトウ。

 「あの……ラオウ、様が何か好きか……ご存知ありませんか?」


 その言葉に、未来の展開を知っているジャギとしてはどう変えようか脳みそが軋む音が空耳で聞こえつつも、何とかしようと決断する。


 






 (partトウ)

 ドカッ、と音立てて私の隣に腰を下ろすジャギ様。
この方の素性……と言うか性格は私に関して言わせるとユリアの良き兄様のジュウザ様と同じく捉えられない方だと思う。
   
  何時も離れた場所で、ユリア様に何時も笑顔で気さくに声をかけるお方を守れる位置で不機嫌そうに聞いているお方。
  
  誰であれ男性であれば人目見ると惹きつかれないことがないユリア様に関してさも普通の人と同じように接する事の出来るお方。
  
  そしてユリア様も歯牙にかけない態度であり、あの赤の色彩の装飾が目立つあのお方の事だけは子供のような態度へ戻るお方。


  それは私のように多分恋しているお方なのだろう。だからユリア様の魅力にも何とも思わずあのお方の側にいるのだ。


   「……兄者はな。……何て言うか、複雑なんだよな」

   「複雑、でございますか?」
 
  ああ、と苦笑いを浮かべるジャギ様。私が首を傾げると、少しだけ慌てた口調でこう言った。

   「好きな物……って言っていいのか知らないけどよ。……あいつが好きなのはあれだよ」

   「……?」

  そう言って指を上へさすジャギ様。上、と言っても空があるだけだ。一体このお方は何を言っているのだろう……?

  「兄者が望んでいるのはな、いいか? これは俺が教えたってのは秘密にして欲しいんだが……それは天だ」


   「……天」


  「ああ……。兄者は天を握るのが夢だ。その為なら、どんな物も捨てる決心をしている。友も、兄弟も、師も、……無論恋人もだな」


    

                 ……っ!!?



  「……お気づきでしたのですか?」


  「……前にあんたが兄者を見ていた表情を見てピン……とな」


  そう顔をそむけるジャギ様に、私は顔を俯かせる。それは想い人が私の事を一生見てはくれない事を知ったせい? それとも分かりやすく
 こんなにも自分の想いを見抜かれた事を恥じてだろうか?


  「……俺は兄者の夢を知っている事を知られたら、多分殺されるだろうなぁ」

  「そんな!! まさかラオウ様に限って……!」

  「そのお前が恋するラオウ様に限ってなんだよ。兄者は自分の夢を他の奴には知られなくないだろうから……特に俺に関してはな」

  面倒臭そうな表情で、緩んだバンダナを締めなおしながら嫌そうな声を上げるジャギ様。耳を塞ぎたかった。

  「天を握りたい。この世界で一番強く在りたい。そりゃ夢としては立派だがよ。それゆえに全部捨てるってどう考えても不可能だろ?
 兄者ははっきり言って大馬鹿野郎だ。自分の考えが一番素晴らしいと考えている大馬鹿野郎」


                 


                   パンっ




  ……気付けば私はジャギ様の頬に赤い紅葉を植えつけていました。

  「……いて」

  「も、申し訳ありません! わっ、私は」

 
  「わかってるって。好きな野郎の夢を馬鹿にされたらそりゃ怒る。俺だってそうする、誰だってそうする」

  頬を撫でながらジャギ様は立ち上がる、そして、少し悪魔めいた笑い顔を浮かべると、私へ問いかけた。

  「そんで? その好きな奴の夢を邪魔したくないってんならよ。いっその事速いうちにけじめつけてみたらどうだ?」
  

   そう言って立ち上がるジャギさま。そして、探し人なのであろうお方がユリア様とサキを引き連れこちらに向かうのが見えた。



   「ジャーギ! 遅いってば、何やってんのよ!?」


   「るせぇなぁ……こっちも散々探したんだぞ……ったく」


  ジャギ様がその方を見る顔つきは一見不機嫌そうな顔を崩さないが瞳はとても優しさを帯びているのがわかる。これは私も一途に想う
 気持ちがあるからこそわかるのだろう。ユリア様もそのような相手と何時か沿いどけるのでしょうか?


  




    私は、私のけじめをつけよう、この恋が、あなたの夢に邪魔ならば。










  「……ラオウ様っ!!」


  「……む」


  振り返る強き瞳の私の恋する方。私は気持ちを保ちつつ、声を放つ。

  「何時しか前は野犬から救い頂きありがとうございます! 私は……私は貴方の事が好きです!」


  その言葉に、瞳を閉じる私の勇敢なる騎士であるお方。私はこの魂魄の想いを乗せ声を放った。

  「どうか私の想いに応え「断る」……っ!」

  「俺はお前の気持ちに応える事は出来ない。俺の夢の為」


  あぁ……そうだ、『これでいい』私の儚い想いの芽は、ここで散る。もはや私の心に傷はない。


  「……いえ、有難うございます! 失礼を致しました!」


  私は今涙を浮かべないで笑ってられているだろうか? いや、きっと目尻に涙がたまっている。どんなにあの方に無様に映ったか。

  足早に駆ける私は風と同化する。胸が苦しい、息が……、そう気持ちと体が滅茶苦茶で足がもつれ、私は地面に衝突しようとした。……した。


  「……おっと、女の子がそんなに泣きそうな顔で走るのは見ていられないな」


  「……ジュウザ様」

  「何があったのかい? 俺は可愛い美女の悩みは何でも聞いてあげ」

  「ジュウザ様!!」


  うおっ!? と声を上げるジュウザ様の胸に飛び込み泣きじゃくる私


  今だけ、今だけこの方の胸で全ての苦しみを吐き出そう。この雲のようなお方ならば、私の涙も雨にして忘れてくれるだろうから。

  寺院に戻ったときまた私は悲しくなるだろう、けれどサキが、ユリア様がいる。私の苦しみをあの方たちはきっと受け止め共に泣いてくれる。


   



   



    私は何も寂しくない。寂しいのは、夢を追い求める貴方の背中










 あとがき





       


       羅漢
          うま



[25323] 第三十九話『羅漢の構え』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/17 20:20



 汗が荒野へと染み込む。空に輝く太陽が自分の水分を奪う。足には自身を縛る大きめの岩がつながれている。






    「……マコ兄ちゃん」



 瞳から流れるのはこの境遇に対する涙、そして必死に呼びかけるは、自分が愛する兄の名前。それを必死に囀った。


    「……マコ兄ちゃん……!!」



    







    「お前ぇ、子芝居する余裕あんだったらもう一つの足にも岩くくり付けてもう一週走らせてやろうか?」



    「わかりました、ちゃんと走りますでございますジャギ様」







 
    荒野の世界で走りこみを行うジャギこと俺。目の前で監視されながら大きく一周して走りこみ、息は絶え絶えになる。


    「おし、次は『南斗邪狼撃』を一万回繰り返せ」



   その言葉にうんざりして、俺は少しだけ怒気を含んでジャギへ向けて言った。


   「あのよぉ……。もう何十回その動作やってると思ってるんだよ? もう飽きて飽きて……」



     「……んだとてめぇ? なら、一回この壁へ向かってやってみろや」



   低く危険な口調に変わるジャギの声、だがその言葉へと俺は受けて立ちこう調子よく言った。



   「おう、やってやるよ!……南斗邪狼撃!!」





  そう言ってもはや体に自然に馴染んでしまった突きは、軽く空気を裂いて壁に音も無く吸い込まれると壁を無音で貫通した。


    
   どうだ? と自慢気な顔を浮かべる俺に、ジャギはじっと貫通した穴を見てから、軽く俺の頭を殴って言った。


 

   「馬鹿が、よくここの部分を見ろ。……上に面して下の部分は凸凹になってんだろ? こんなんじゃ極めたって言わねぇんだよ」





   「あのなぁ! 何千回、何万回、何億回だよ!? 少しは別の事教えねぇと俺あんたからケツ巻いて地平線の彼方まで逃げるからな!」


  


   「立ち向かうって選択肢はねぇのか、てめぇには」





   ヘルメットを押さえ頭を痛めつつ溜息をはくジャギ。そして億劫そうに俺を見ると、こう投げやりな口調で俺へ言った。



   「……んじゃあ、特別に『羅漢の構え』を教えてやるよ」



   「おっしゃあ!」



   ガッツポーズをする俺に、とても呆れた視線をジャギは向けていたが俺には気になりはしない。やっと新しい事が出来るのだ!




   ジャギは俺を真正面に立たせると、ショットガンで肩を軽く叩きつつ言った。



   「……んじゃあ構えてみろ?」



   「……うっし!」



  言われたとおり俺は腰を屈ませ膝を曲げる。そして気合を入れて目と腕に力をッ込めると、腹に力を込めて掌を空中で強く翳した。


   「ほう? 一応、さまにはなってるってとこか?」


   
   「そりゃあ憑依した時に羅漢撃出せるか練習してたからな。どう言う原理でああ言う突きを出すのが不明だけど、構えは練習したぜ?」


   
   俺の言葉にそうかよ、と興味のない声を上げるジャギ。まあ、こいつが俺の言葉に何か興味を抱いている様子ってほとんどないけどな……。


   暫く俺の構えを見てから、ジャギは目つきを険しくすると、銃口で俺の掌を指してこう言った。


   「まず姿勢はどうやら出来るらしいから、体勢を維持しつつ掌をゆっくり回転させろ。回転している間は絶対に気合いを全身に巡らせろ。
  休んだり、少しでも気合いを抜いたと俺が思ったら俺様がてめぇの背中をこいつで思いっきり叩いてやるからな」
    
    そう言って、ショットガンを目立つように振るジャギ。だが言葉の説明に分かり難い箇所があり、俺はそれを指摘した。


   「回転って、どう言う風に?」


   「太極拳の円の形だよ。ああ言う風にして気を巡らせる感じだ。お前の世界だとテレビや映画とかでわかりやすく説明してんだろうか?」



   ジャギの言葉に頷くと、言われるままに気合を入れたまま掌を回転させ始めた。……十秒経過した。……五十秒……二分経過しただろうか?




   「……ぬっ……!? ……っ……!?」


  
   何故こんな簡単な動作なのにこんなに汗が大量に出ているのだろう? 混乱する俺に嫌な笑い声を立てながら説明するジャギ。



   「ヒッヒヒヒヒ!! わからねぇって面してんな? 当たりめぇだよ。人間同じ動作を数分間力を込めたまま普通は出来ねぇもんさ。
  けど兄者達だったら平然とこれ位やれるぜ? まっ、お前には出来ないと思うがな。俺様を感心させれるか? 出来ないだろ、おい?」




   馬鹿にしているのが丸っきり分かる口調。俺は吠え面を拝ませてやると決意すると体全体に一層気合を込めて掌をゆっくりと回転させた。








   ……一時間が経過。







  欠伸しながら寝っ転がるジャギ。太陽に晒されながら汗の雨で地面に水溜りを作りながら懸命に千回目ほど掌に気合を込めて回転する。




   「……そん位出来りゃあ上出来か? おい、もう止めていいぞ」



   「……ぷはぁ……ぜー……! ……ぜー!!」


   
   「ふん……根性だけは認めてやるよ」



   ジャギの言葉に、自慢気にニヤリと笑う俺。だが、すぐ俺の表情を絶望へ突きつけるようにジャギは平然と言った。



   「そんじゃあ岩乗せて腕立て一万回やれ。心配すんな、やっている間に多分また目が覚めるだろ」



  



………………ジャギ……さん




……ジャギ兄さん






     ……ガバッ……!





  「……ジャギ兄さん。凄い魘されていたが……?」



  「……なぁケンシロウ」


  「うん? 何だい?」



  「……今度俺が夢の中で魘されていたらよ。秘孔突いてても良いから起こすか、または俺の掌に何か武器持たせてくれ。頼むわ……。
  ……あの野郎、次に出会ったときはあのヘルメットぼこぼこに変形させてやってそんでもって……ブツブツ」



   
  「……(……修行のやり過ぎか?)」



 おどろおどろしい雰囲気で何事かに呪詛の声を上げるジャギ。その兄の姿を見て、若干兄としての尊敬が薄れそうな感覚にケンシロウは陥った。



   だが、ジャギの願いも虚しく、魘されている時はどんなに秘孔を突こうとも目覚めず、そして武器を持たせようが夢の中でジャギが
 いくら頑張ろうと、ヘルメットのあの世紀末に波乱を増長させた男には掠らせる事すら出来ずに負けるのだ。





   「弟なんぞに頼ってんじゃねぇ!! 自分の力で俺を殺して見ろ!!」



   「うっせぇ! 絶対にてめぇはぶっ倒す! 例えバズーカ砲使ったとしてもてめぇはぶっ倒す!!」


   「自分の拳で俺を打ち倒せって言ってるんだ馬鹿野郎!!」





   今日も殺伐としつつもある種平和的な修行が、ジャギの夢の中で行われるのであった。







   「……へい……わ……な訳ある……か」








   何かそう呻く声がしたが、それは気の所為である。










 あとがき




 これから少し色々と時系列の中で起きたちょっとした出来事描き終わったら
第一部の最終回を執筆するつもり。




  三日ほどで終わる事を期待……!(`・ω・´)





[25323] 第四十話『運命の風が追い立てる邪の火』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 08:06

 

                パリィイン……!!







 「糞がぁ!!」


  ここはグレージーズの隠された基地。そこでは何とか治療により五体とも復活出来た不良集団が怒りに任せ騒いでいた。

 体は完治出来たものの心に負った傷に関しては癒せない。事実、グレージーズを脱退した数も少なくはなかった。


 「これも、これも……全部あのリーゼンドと糞野郎の所為だぞ、がああああぁあああああ!!!」




  怒りだけで突き動かされる男、そいつが思いっきり投げたナイフは大きく孤を描き攫おうとした女に似たモデルのポスターに刺さった。



  「……けどよ、もうあの町で騒ぎを起こすのはやめた方がいいんじゃねぇのか?」


  「てめぇ何弱気な事言ってんだ!? あの男の体を全身丸焦げにしてやって女を目の前で犯しながら笑ってやらねぇとこっちの気が
 治まりはしねぇんだよ!! それとも何か!? みすみす俺達に負け犬として終われって言うのかよてめぇは!!?」


  「うっ……わ、悪かったよ。二度と言わねぇ……二度と……」



  胸倉を掴まれて無言になる特徴的なヘルメットを被る男、その男に舌打ちしながら今のグレージーズの首領になった男は周りへ叫んだ。


  「誰が良い案はねぇのか!! この中であいつらを地獄に叩き落としてやれる良い方法はよ!!」



  「んな事言ってもよ、あそこの族のリーダーも警備隊長として最近警護付きで見張りやってるから襲うのは少し難しいぜ?
 ……それに女も女で南斗の拳法身につけてるから、この前の一件で不意打ちで攫うの難しいと思うし、男に関しては糞強いしよ……」


  「だよな……。あの野郎一人で俺達瀕死に追い込んだんだぜ? ありゃあ化け物だよな……」


  「そうそう。俺ちびってあの時何か解らず血だらけだったぜ?」


 情けない意見しか出せない部下達にこめかみから血管が浮き出て切れそうになる首領。その時、先ほどの弱気な男は再度言った。


  「な……な? やっぱり無理だって……。もう大人しく別の町へよぉ……」


  「面白そうな話してんなぁ?」


  その時、扉から聞こえて突如現れた見知らぬ声。一斉にして振り返りその男へ意識を集中させるグレージーズ達。


  「……てめぇ達が地獄へ落としたいってのは……針鼠見たいな風貌したバンダナ巻いている男で間違いはねぇよなぁ……?」



  「てめぇ何処から入って来やがった!? 見張りはどうした? 見張りは!?」



  「んなもん俺の拳法で切り刻んでやったよ……未だちょっと息はあるがな」



  ざわ、ざわ……! とどよめくグレージーズ達。首領だけは殺気を帯びたまま柔らかい口調で尋ねた。


  「なあ? 何の用でここに来たんだ? 下らない用事だったらよぉ、こっちは今忙しいんだ。また後にして……」


  
  「俺の用はお前達がさっきから騒いでいた内容と同じよ。あの鼠頭を地獄の中へ叩き落したいって内容よ……!」


  
  「……ほうっ?」


  
  憎悪と殺意を含んだその言葉に、殺気を少しだけ薄らいで手頃な場所に腰かけると首領はその顔をフードで隠した奴へ尋ねた。


  
  「てめぇそいつに何の恨みがあんだよ?」



  「……あの野郎、俺様をコケにした挙句。俺の大事な耳を切り取りやがった。同じように耳を奪い取るんじゃ俺様の気が済まねぇ!!
  全身を細切れにして女の前でそれを見せ付けて、絶望に落ちた女を犯して男と同じようにじっくりと体を細切れにしてやらねぇと……!」




  その男の言葉に溜飲が下がる気持ちが首領には浮かんだ。成る程、この男も糞野郎に煮え湯を飲まされた同士か。……首領は言う。


   「そんじゃあお前どんな良い計画があるんだ? 三人集まっている時はあの野郎共襲うのはきついぜ?」



   「……あそこの奴等はどう格好つけて振舞っても族の寄せ集めだ。今の内に適当な奴そこに侵入させて時期を見計らって分離させる。
  ……そして男が絶対に気付かないと見計らった時、俺様の手であの糞野郎の体をこいつで切り刻んでやるよ……!!」



  そう言って、腰に提げた双剣を取り出すと、手元にあった瓶を瞬時に細切れの硝子へと変えた。口笛を吹く首領。腕はあるらしい……。



   「……中々良い計画だな。……で? 誰をスパイとして送るんだ? 俺達はほとんど顔が割れてるから無理だぜ?」


   「……心配はいらねぇ……『こいつ達』を使う」




  指を鳴らすと、その男が入り口から入ってきた場所からぞろぞろと屈強そうな男達が入ってきた。みな何かしらの拳法を齧っている体だ。




  「……道場を破って引き連れた奴達だ……こん中から一人少しは頭の回る野郎を送り込んで、機を見て一気に叩き潰す……!!」



 

  拍手する首領。そして悪意で歪んだ笑みを張り付かせ高々と言った。



  「よし、最高だ!! それじゃあ俺達は今まで通り武器の調達『お前は要らん』……あ? ……おい、何だと?」




  「お前は要らん、その首領の座、俺に渡せ。お前じゃあの男を潰すのに力不足だ。すぐに俺にその地位を渡せ」




   ピキ    ピキ……!!    浮き出た血管をそのままに、血走った目で首領はフードの男を睨みつけて近くの剣を取った。




   


   「……ちょっと拳法齧っているだけの屑が俺様に調子こいた口利きやがって……! 俺様はグレージーズの首領を担ってんだぞ!!
  この意味がてめぇにわかるか? 解らねぇよなぁ!!? 俺様だってよぉ……てめぇ一人殺せる程の腕前はあんだよ!! おらぁ!!」







   飛び掛るグレージーズの不良。振りかぶったサーベールはフード男の脳天を叩き割らんと叩きつけようとする。だが……声は響いた。
  悪意に満ち、自分が憎むべき物をすべて絶望に落としてやらんとする男が紡ぐ邪悪な声がサーベールが触れるか触れないかで響いた。





  

     「馬鹿が……『白蛇獄水』!!」







  グレージーズには何か何だが解らなかっただろう。一瞬にして空中で首領の上半身と下半身は分かれてしまったのだ。





      「……あ、ば……?」







   ドガッ……!! と叩きつけられる首領。分かれた下半身を不思議そうに見つつ、その瞳から生気は永遠に失われてしまった。






     「ひいいいいいい!!?」    「首領! 首領!?」   「こ、こいつも本気で強い拳法使ってやがる……!」




     ほとんどの男はそいつに前に全滅した時と同じほどの恐怖をフードの男に感じた。そして思ったのだ。







                              ……こいつならあの『男』を殺す事が出来る……!!   と。








   「あ、あんたが今から俺達のリーダだ!!」      「お名前を、名前をお聞かせ下さい……!!」






     「俺か!? 俺様の名前は……!!」







    サーベールは偶然にもフードを少し切り裂き、その切れ目を掴んで男は脱ぎ捨ててグレージーズへ叫んだ。
     その男の傷だらけの顔には、新しく出来た生生しい傷跡が、無くなった右耳を異様に際立つように照らしていた。





   「俺様は白蛇拳のシバ!! 今から貴様達のボスとしてここに君臨する!! 気に食わない奴等は今すぐ出て行け!! そして誓え!!
 あの『男』を殺すと!! あの『ジャギ』と名乗るバンダナ野郎が大切にする物を叩き壊すと約束しろぉ!!!」









        オオオオオオオオオオオオ雄オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ悪オオオオオオオオオオ!!!!!!






   その瞬間、悪意の運命の風は決まった。あの幸福へ向けて進もうとする二人を喰らおうとする、運命の追い風が……。










    「……馬鹿馬鹿しい、俺はもう降りるぜ……これじゃあ命が幾つあっても足りやしねぇ……実家でも継いだほうがマシってもんだ」





    その中に、一人だけコソコソ抜け出す男がいた。その男こそ『極悪の華』でジャギの部下として唯一運良く生きていた部下Aだった。



[25323] 第四十一話『すこしまったり蜜柑でも食べながら(男星編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/18 12:01



 季節は真冬、至る場所で雪が積もり道行く人々の吐息は一瞬にして白色へと変わる。

 舞台はサザンクロス。その一室では世にも奇妙な光景が生み出されていた。









  「……なぁシン」


  「……何だ?」


  「……俺が言おうとしている事わかると思うけどよ……いや、言わせろよ? 絶対に遮るなよ? ……絶対に似合わんだろ、これは」


  「……言うな」



  頭痛を抑えながら、炬燵の中で疲弊しきった顔をするシン。






                  ……炬燵、そう、炬燵だ。




 サザンクロスの豪華な一室、そこでは大量の蜜柑が積み上げられた大型の炬燵が中央にでんと佇んでいた。……正直、部屋とは合わない。






  「お前よぉ……少しは断れよ。何が悲しくて男だらけで炬燵入ってんだよ? 全国のシンのファンクラブの女性が泣くんじゃねぇか?」


  「あるのか!? そんなのが!?」

 
  「……探せばあるんじゃねぇの? お前、モテるし」



 ……いや、俺には心に決めた女性が……と真面目に苦悩するシン。世紀末さえない平和な世なら苦労人として過ごせただろうに(ホロリ)


   その二人へと声をかける男達。


  「……本当に何で俺達男で炬燵入っているんだ? トウに、ユリアに、サキちゃんやアンナちゃんもいないなんて俺耐えられないぜ?」

  「ジュウザ……蜜柑食べすぎだと思うんだが?」

  「サウザーにもその文句を言えよ、ケンシロウ。どれだけ蜜柑積み上げていると思うんだよ?」

  「……(黙々と蜜柑を運ぶレイ)」

  「ふん、沢山あるのだ。そう文句を言うと自分の度量が伺い知れると言うものだぞ? ジュウザ?」


  そう、何故か知らないがジャギ、ケンシロウ、シン、レイ、サウザー、ジュウザと言う異様なグループが炬燵で蜜柑を食べるカオスな
 状況へ陥っている。もしこの面子で食べているのを未来の世紀末を生き抜く者が一人でも見かけたら驚愕で反射的に拳法を繰り出すだろう。


  「……サキにねだられて購入したのだ。それに興味を持ったのはお前たちだろうが!? 何故俺に文句を言う!?」


  「いや、女っ気が全然ないから? むさ苦しすぎるだろ。この面子」


  「まあ、それには同感するがなジュウザ。俺も出来るならアイリと……」

  「シスコン、そっちの蜜柑寄越してくれ」

  「誰がシスコンだ!!」

  「……反応している時点でシスコンって確定じゃねぇか」

  その言葉に詰まるレイ。呆れた顔つきのジャギに、ケンシロウは疑問を口にした。

  「……兄さん、しかし、何故炬燵に蜜柑なんだ?」

  「……いや、定番だろ炬燵に蜜柑は? なあ、お前ら?」

  「俺はこのような庶民の習慣など知らん」

  「いや、俺も知らんぞジャギ? ……何故だか不思議と落ち着くがな、この炬燵と言う代物は……」

  
  「何か安心してあったかいから自然と眠くなりそうだよなぁ~、これ」

  
   「そうだな……この暖かさ、まるで妹の」
   「うむ……それには俺も同意しよう。……この暖かいぬくもり、お師さんを」

  『それはねぇわ(ないな)』

 誰が誰の発言かはさておき、のんびりとした空気が周囲を漂う。これ程平和なのは夢ではないかと秘孔で確認したい今日この頃。


  「そういや、シン。お前伝承者に、もうなりそうなんだろ?」


  「うん? ああ……ジュガイは肉親が死んで錯乱したからな……。師フウゲンも体の具合が最近良くないらしい。俺を正式に伝承者に
 した後は何処か遠くの場所で養生すると言っていた」


  ふーんと相槌を打ちつつ、原作とのずれに気付かぬまま蜜柑を頬張るジャギ。それを馬鹿にしたように笑いつつサウザーは言う。

  「くく……鼠のように頬に詰め込むのは中々の見世物だな。おいジャギ、もう一度やって見せろ」


 「……お前かなり性格変わったな。いや、良いか悪いかさておき」

 
  「当然だ。お師さんに誇れるように、俺は王者として君臨するのだから」


 何と言うか、サウザーはサウザーなんだなぁ……と呆れつつジャギは疲れた目線で見る。その一方で蜜柑をお手玉のように扱いながら
 ジュウザは軽い曲芸を蜜柑で見せていた。蜜柑を瞬時に頭をのせたり、一瞬にしてばらして垂直に蜜柑の果肉を積み上げる……などだ。



   「……食べ物で余り遊ぶなよ、ジュウザ」



   「おいおいケンシロウ! そんな堅い事言っていたらジャギ見たいな顔になっちまうって! もっと俺みたいに軽く振る舞え!」


  「お前本当いい加減にしろよ。……てかお前に最近気になっていた事あんだけど、聞いても良いか?」


  「うん? 何だジャギ、良い男のモテる秘訣とかが? それだったら特別にお」


  「お前最近トウと付き合っているって聞いたけど」


  「……っ!?」


 蜜柑のお手玉を失敗するジュウザ。……こりゃ聞いて良かった。……ふっふっ、どうだ~、当たって悔しいかぁ~!?



   「……そうなのかジュウザ?」

   「いや、いや違うぜ? 俺は特定の女性から愛されない、皆から愛される雲のジュウザだ!」

   「知っているか? 拳法家って嘘をつくと鼻がピクピク動くんだぜ?」


   「嘘だろ!?」


   「ああ、嘘だ。だが間抜けは見つかったようだな……俺様は嘘吐きがでぇっ嫌いなんだ!!」

   
   「お前たち、もう少し落ち着いて食べられないのか?」


    呆れたように蜜柑を丁寧に剥きながら食べるレイ。こいつ……意外と上品だったのね……食べ方。



   「そう言うお前は誰か好きな相手がいねぇのかよ、レイ?」


   「俺はアイリの他に大切な物はない」


   「……うわ、こいつ開き直りやがった」


  ドン引きする俺。……もういっその事俺がマミヤ引っ張ってレイの元へ引っ張ってやろうか?
   



   「……そういえば、これ程南斗の者がいると、足りない人物も目立つな」



  そのケンシロウの言葉に、先ほどまで和やかだった空気が微妙に凍りつく。



    「……まあ『仁星』のシュウだっけ? あいつは確か嫁さんと一緒にいるんだろうさ。愛妻家らしいって聞いたしな」


    「……そうだな、あ奴は今は妻と共にしたい時期であろう」


    「え、いやそれも違わなくないが、あの」

    「南斗五車星……と言ったか? あいつ達もあいつ達で南斗の未来を守るために色々と大変なのだ」

    「そうだな、俺達も見習わないとな」


    「いや、だから一人忘れていないか? 確か『よう」

    「そう言えばジュウザ、ファルコって奴がいたな。あいつはここには来ないのか?」

    「ああ、あいつはあいつで忙しいんだ……けど、嫌っているわけではないから安心してくれよ」

 
    「いや、だからさ」





                            


                                バンッ!!!

          「ほぉ? お前達。この『妖星』のユダを差し置いて何やら面白い事をしているではないか?」







     『(……出やがったよ、くそ)』



   げんなりとするケンシロウを除く男達。それを耳に突く笑い声を立てながらユダは言った。


     「このユダを招かぬ宴などまことに詰まらない物はないだろう!! 我が美しさでこのむさ苦しい空気も華やかにしてやろう!
   皆よ! この『妖星』のユダの美と優しさに涙するがいい!!」





     『(だからこいつを参加させたくはなかったんだよ……)』





    噂をすれば影、男どもの挽歌はなおも続く、一人、心は男なのか女なのか解り難い者はいたが……。







  あとがき



 炬燵が家にないんです……(´・ω・`)






 ココアで我慢するよ……(´;ω;`)





  


    



[25323] 第四十二話『すこしまったり蜜柑でも食べながら(女星編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 18:13


      季節は真冬。そして少しだけ小さい部屋の中には炬燵。




     そこにはデジャビュを覚える中四人の乙女が蜜柑など啄ばみながら食べていた。







  「……いやぁ~恋する乙女の力の勝利だよね。こんな風に炬燵購入してくれるシンの太っ腹には感謝しないと」



   「……アンナ様。それ、シン様を褒めていらっしゃるのですか? それとも馬鹿にしているのですか?」


  「サキ……落ち着きなさいって……」

  
  「……(静かに蜜柑を口に運んでいるユリア)」



    乙女四人。アンナ、サキ、トウ、ユリアの四人組は炬燵に入り込みながらぬくぬくと外界と切り離された天国を満喫している。


    「こんな寒い日は炬燵でのんびりするのに限るねぇ~。ジャギも乗り気で蜜柑を必死で購入してたし」

  
     「凄く良い笑顔でダンボール箱の蜜柑抱えていましたよね……あのお方ころころと性格が変わるのでよくわかりませんわ……」

   
    「捉えどころのないお方、ですわね。もっとも、ジュウザ様とは似ても似つかぬ方でございますけど」

    
    「……あら? トウ、貴方もしかして……!?」


    「へ!? いや、ユリア様? ち、違いますよ? 私はあのように女っ垂らしで格好よくて、見ていると危なっかしい方など」


    「後半それ褒めてるんだけど」


  アンナの秀逸な突っ込みと、ユリアの優しげな笑顔にグウの音も出ないトウ、だが意外にも反撃の言葉がサキから飛び出した。



   「そう言うアンナ様とユリア様がどうなのです? ジャギ様とケンシロウ様との今の所のお関係は?」


    「へ? 私と……」


    「ケンと私? そうね……ケンは優しい人よ? 少し言葉数が少ない時はあるけど何時も見守ってくれているってわかるの」


     「あっ、それわかる~! 口じゃあ絶対に出さないけど絶対に何時でも危険から守ってくれる位置なんだよね」

   
    「そうそう! それで申し訳なく思って、時折り自分でも嫌になるの……けどそう言う時は黙って私の隣にいてくれるの」


     「完全に一緒!! 絶対に慰めたりしないんだよね。時折り黙って手を繋いだり、頭撫でてきたりはするけどね」



    「わかるわ……ケンも本当一緒。兄弟だからかしら? あっ、でもケンはジャギさんとは血縁はないと言ってたわね……」



     「一緒に暮らしてたら性格も似てくるんじゃない? だいだい、私達も似たようなもんでしょ? 気持ちは?」

  
    「え?」


    「私はジャギが苦しそうな時は黙って一緒にいてあげるし、辛かったら居れるときは何時までも居ようって思うもの。
  それってどちらも同じだって気持ちじゃない? 私もユリアも、ジャギもケンシロウ君も一緒って事なんだよ」


   「……ふふ、そうね。アンナの言う通りだわ。私達、一緒って事ね」


   「そうそう! 一緒一緒~! ……あれ? 二人とも赤い顔してどうしたの??」


    


                          「いえ……」    「……ご馳走様です」







            不思議そうな顔で顔を見合すユリア様とアンナ様。


    お二人とも……本心で言ってますからこっちが照れてしまいますわ。





   「……私たちも頑張らなくてはいけませんわね……トウ」

   「そうね、サキ。……貴方の方が先輩ね、何が良い方法はある?」


   「……ふふ、実はそんなトウの為にとっておきの用意をしているわ……この琥珀色の液体を一滴……想い人の飲み物へ」


   「まあ……! サキ……貴方も悪ね……」


   「ふふ……トウに言われたくはないわ……」











   


   「……!!?  な、何だ今の悪寒は?!」

   「し、シンも感じたのか? 何だろうなぁ……風邪か?」


   「……ユダが歌い始めたからじゃねえの? てか誰か止めろ! あいつらを止めろ! おいケンシロウ! 北斗神拳使え! 俺が許す!!」


   「え!? いや、駄目だって兄さん!!」


   「アイリ……この炬燵を持って帰れば喜ぶだろうか……!」

   「レイ、貴様の望みは潰えた。これはお師さんと俺の所有物に相応しい!」



   「フハハハハハハハハハ!!  俺は……美しい……!!」



   「お前達……!!  ……よかろう……殺してやる!!」


   「ひぃぃいいいい!! や、止めてくれシン!! た、頼む!!  (誰が収拾つけてくれよ本気で!!)」




   
   宴は夜遅くまで続く、一つは恋の炎を広げつつ、一つは戦火を広げさせ。








 あとがき





  悪い、ブラックコーヒー頼むわ






[25323] 第四十三話『俺、声変わりしたら戸谷さんか大塚さんで』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/18 19:46
 

  




   「ふぁいひゃきっ、しゅれしぇんほ!!(はいっジャギ、プレゼント!!)」



   「……いや、有難いんだけどよ。どうしたんだよ、その口は?」



  
   「ふぇ? ふぁんへほふぁいほ(えっ? 何でもないよ)」



   「何でもない訳あるか! 何でそんなに舌が切れてんだ!? こっち来い! すぐ冷やして手当てすっから!!」



   「ふぉふふぁ! ひはへへはへふぁんへ……ひゃきっはらふぁらひぃ~!(そんな! 舌で手当てなんて……ジャギったらやらしい~!)」


   「何を想像してんだ! 何を!?」



   「……お前ら何で意思疎通出来ているんだ?」


  リーダーの突っ込みを受けながら、俺は頭を痛めつつニコニコと舌を出すアンナへ注意深く消毒と氷で冷やした。

  ……アンナの奴、涙目でひは~い(痛~い)って言ってたが……自業自得だろうが! 俺の見えない所で怪我をするなっつうの……。



  しかもプレゼントなんだが……その、あれだよ。本当頭が痛むんだけどよ……ヘルメットなんだよ……ジャギのトレードマーク。

  何でこれ選んだのって後で聞いたら、バイクで事故って頭怪我したら大変だから……。うん……まあ頭を怪我する前にヘルメットは
 被っておけば安全だよ? この体の人は頭怪我してからヘルメット被ってんだけどな! しかも理由は最悪な方の理由だがよ!!


  前に貰ったプレゼントは確か結構綺麗な石(パワーストーンだって聞いた)のブレスレットでセンス良いなぁって見直してたのによ……。
 何でよりにもよってジャギのトレードマーク(汗) これも運命の修正力だっけか? 俺そんなん要らないから! 核もノーサンキュー!
  あ、ちなみに俺アンナ以外からだとプレゼンと貰ったのって言うとリュウケンからだと『お前に父として最後の……』って前置きの後に
 数珠貰ったのと(父さん……数珠って)トキが俺にくれた自作の秘孔に関するノート(これ下手した凄い貴重じゃね?)かな……。


  一応数珠とブレスレットは両手首に付けているけどな。何か格好良い<おいらに力をくれるって気分。


  第一話し戻すけどアンナの怪我は何なんだ? 自己練であんな風にはならんだろうしプレゼント作成とか? ……んな訳あるか。
 だとすると何でだろう。気にかかるとしたら今日ラオウの兄者が凄い天を睨みながら珍しく憂鬱そうな顔をしていたが……関係、ないよな?


  「……ひゃき、ふせひふふぁい?(ジャギ、嬉しくない?)」


  「あん? 嬉しくないはずがねぇだろうが。そんな泣きそうな顔すんな。ほら、被るから、どうだ? 格好良いだろ?」


  「うんっ、ひゃき、ひょっへほふぁっこひひ!!(うんっ、ジャギ、とっても格好いい!!」


  「おう、有難うな」


  「……いや、だからお前ら何で意思の疎通出来るんだよ? 今のは解りやすかったけど」


  「……アベックパワーとかっすよ。多分」


  「……お前いたのかよ」


  「……酷いっすよ、兄貴」


 リーダーと不良Aの漫才を背に、ジャギとアンナは桃色の雰囲気を出していた。











     

  場所と時間はそれより打って変わってサザンクロス。



  アンナからのプレゼントの翌日にシンの元へ訪れたジャギ、もはや慣れ親しんだ関係なのでノックもせず中へ入ったのが問題だった。

       「……すまん」


                     「……」            「……」



   「いや、本当すまん。俺もうちょっと後で来るから、それじゃあ『南斗千首龍撃!!』……うぉおおおおおお!!?」            



    サキとシンが接吻かましている最中に扉を開けたジャギ。本気で扉越しに殺されかけ体の至る部分に浅い切り傷が出来た。



 


  「……それで、何の用だ? これで詰まらん用事だったら……貴様、覚悟しておけよ?」


  「いや、本気な話でよ。……最近情勢が不安定でさ、核戦争が起きそうってのは知っているだろ」


  その言葉に真面目な顔で頷くシン。そうなのだ。最近どうにも露米辺りが何か雲行きが怪しいとニュースで流れている。
 普段の俺の世界なら流しているが、この世界だと終末の時計の針が重なるのがあと一秒前程だって知っているので内心ビクビクものだ。


 「前にも俺が何度が言ってたと思うけどよ。地下にちゃんと物資は保存しているのか?」


 「勿論だ。二年程前から医療器具に食料に技術設備。ありとあらゆる対策は万全とさせている。……サウザーにも言ったのだろう?」


 
 「言ったさ。けど土地柄なのか、あんまり地下の格納庫って少ないらしいんだよな。最も、ちゃんと万事差し支えないって自信満々に
  言い切ってだし、サウザーなら多分大丈夫だと思うけどな」


 「ふむ、なら大丈夫ではないか? 何をお前はそんなに心配しているのだ?」



 「……核が落ちたら俺の知り合いの内何割が死ぬかもしれねぇだろうが……」


  ああ、と頷き理解したシンは、優しい光をジャギへと浮かべる。


 「……お前はそう言う奴だったな」


 うっせえと顔が少し赤くなるのを感じながら反撃の言葉を探る俺。そして先ほどの場面を死を覚悟でネタにする事にした。
                   ……断己双砕拳!(主に自分は肉体的な意味で、シンは精神的な意味で)


  「……まあ安心したぜ、やっている事はちゃんとやっているってわかったから。……さっきの光景も含めてな」


  「言うと思ったわ……! 貴様こそ、アンナと何度か接吻はしている仲なんだろうが! 俺は見たことないがきっとそうだろ!」



            

                    ……?   俺    が          アンナ        と?



  「……何で俺と、アンナの話になるんだ?」

  「戯けめ……! 俺に話を振っておいてしらばっくれる気か? お前とアンナは恋人同士だろう? 見えない所でしてるに決まって」


  「……違うぞ」


  「は?」


  「……俺、は。アンナとキスした事……ねぇ、し。……好きだって……言った……事、も」




        



   ……ジジ                ……ジジ





   『……自分の心が何を変えたいって叫んでいるか聞いてあげないと!』
                            

                          『へへ、ここ秘密の場所なんだ』             『何時か夢を叶えたいの!』


               『ジャギ』


         『ジャギ』                        『ジャギ』









  「……おいっジャギ!!」


  「……うぉっ!? 何だシン、近いぞ!?」

  「お前大丈夫か? ……顔が真っ青だぞ?」


  「え?」


  シンに言われるまま鏡を見る俺。そこには真っ青で汗を貼り付けている酷い顔の『ジャギ』の顔があった……やばい、吐き気がする。




  「……悪い、シン。俺、邪魔したし帰るわ……」

  「あ、ああ……本当に大丈夫か?」



  平気だ、と言いながら少しだけ平衡感覚を失いつつもシンの部屋を後にする俺。……何なんだろう? 一体この感情は何なんだろう?


  酷くムカムカする。いや……酷く憎んでいるのだ……一体ナニを……?




             オレハ                 ナニヲ……?






  「……ジャギ」


  「……アンナ?」


気がつくと、俺はサキと町をうろついていただろうアンナに抱きしめられていた。吐き気が収まる。俺はさっきまで何を感じてたんだっけ?



  「……なあアンナ」


  「何、ジャギ?」


  「……俺、今のままで良いのかな? 変わったほうが、良いのかな?」

  俺の口から勝手に出てきた言葉、それをアンナはきょとんとしてから、向日葵のように笑顔で言った。


  「……ジャギはジャギだよ。変わっても、どんなに変わって見分けがつかなくても変わらないよ。私は解るから安心して」



  「……そうか」



  アンナに抱きすくまれ聞こえる心臓の音は子守唄のように安心した。


  俺はどうしたら良いのだろう? 漠然とした不安は、アンナの側だとまるで気にならなくなった。









 あとがき




 ポスト見たら雪見大福入ってたんだ。




 『御免ね☆ 汚物ちゃん☆』by友人



 ……(´・ω・`)ムシャムシャ>まあ、もうちょっとしたら許そうかな



[25323] 第四十四話『虎? 声優繋がりで山羊をだな……』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 09:37


      



   「トキ、ジャギ。こちらへ来い」





  




  師父リュウケンにトキと共に呼ばれたジャギこと最近針を飛ばす事を練習する苦学生ならぬ苦汚物の俺様。……ジャイジャイキーンとか言いそう。

 ……西斗月拳の操孔針(そうこうしん)覚えること出来たらもう言うことないんだがなぁ……むずいんだよ、命中させんの。
 しかも戦闘中に使うとかレベルSぐらいむずいよね。どうやってヤサカさんはあんな技を……『気』か? いいえ血筋です。




  「……伝承者を決める日も近づいてきた。トキ、ジャギ、お前達にはこれと闘ってもらおう……」



   うん? これ何か原作で似たような台詞あったな……? あっ、思い出した。この後にでっかい虎が来るって……げぇええええ!?

  ちょっ、滅茶苦茶でかくないか……? どこの動物園から仕入れてきたのよ師父さんよ!? 虎が可哀想だろうが! こんな場所何かに……(泣)


  檻から出され、のそり、のそりとこちらへ歩み寄る殺気立った虎。いや、わかるぜ? いきなり大自然を謳歌していたと思ったら
 こんなスキンヘッドの男なんぞに囚われて、こんなアミバ化するかわからん男と極悪面の男の前に出されたんだ。……俺でも切れるな。


  
           グオオオオオオオオオ!!?※ジャギ意訳(何メンチ切ってんだこの野郎!!?)



  そう吠える虎。……うわっ凄いわやっぱトキさん、平然と自然体で佇んでいる。俺? 怖くて意識半分手放しているに決まってるジャン☆

  ……真面目に考えるか。確かこの虎と闘うの伝承者としての資格があるか師父が見極めるためにやってるんだよな?

  俺どう言う事すればいいんだ?? 虎殺したら殺したで『お前って所詮その程度なんだね(笑)』って言われそう……今何か凄いむかついた。

 うしっ、なら最近着実に練習して来てヘルメット野郎をグウの音を出さないように成長をほぼ仕切った(※本人は何も言ってない)
 洗練させたこのジャギ様のアレを見せてやろうとすっかぁ!!









(partリュウケン)

 伝承者を決める日。それは着実に迫っている。

 自分の体もそうそう長くはない事を告げておる。この四人の内誰が一番相応しいか決めるか?

 ……ケンシロウ。思えば遠き昔に過ごした閻王の面影をあの子に感じた。あの男にある意味一番期待をかけている……過去の憧憬も含め。

 ……ラオウ。日増し周囲をひれ伏させる程の剛拳を身につける男。あ奴の瞳には計り知れぬ『何か』を秘めている。……もはやこの我が眼力でも
 遠くあの男が子供の頃だった時の心を見透かす力は残っておらん……。……最悪我が拳をもって封じるべきかも知れん……。

 ……トキ。北斗神拳を習い、自身を唸らせる程に洗練された拳を身に付けた男。だが、時折りその気性の優しさが後々に災いになるのでは?
 と危惧すべき点でもあると考えている。今も虎と対峙している行為がそれを遠まわしに告げておる。

 

 流石、と言うべきかもしれん。座禅を組み虎を澄んだ瞳で見るこの男の眼光には、荒々しき獣を治める御仏に通じる力を備えている。
 虎は現に怒り狂った気を鎮め、トキに対してはもはや上機嫌の猫のように撫でられるほど大人しくなっている。……見定めるのが難しい。
 








  ……ジャギ。私の息子として愛し育てた男。拳法を身につけた理由は私を守護せんと言う何ともいじらしい気持ちゆえ力を身につけた男。
 周囲からはその風貌で知らぬ者から時折り怖がられるが、この子の優しさは親として十分に知っている。
   だが、成長し初めたジャギに、私はどう言う心持ちで接すれば良いのか何時しか困惑している自分がいるのに気付いていた。
時折り自身の意中の女に会いに行くジャギ、南斗の寺院へ勤しみ南斗伝承者候補者と交流を深めていたジャギ、南斗の拳を身につけてたジャギ。
 ラオウの拳に倒れる前に自分から誤って気絶していたジャギ、トキと医術の道で深い才を見せたジャギ、一度として怒りを見せぬジャギ。
 ケンシロウに実の弟のように接していたジャギ。兄に対し敬服の意を見せつつも何処か傍観するような様子を見せていたジャギ。
 気がつくと銃を携え拳法の構えを練習していたジャギ。針を飛ばし秘孔を突く技を自分で試行錯誤して得ようとしていたジャギ。
 ……お前の奇行とも卓越とも言える行為に、私はどう言う感想を抱けば良いのか始終解らず仕舞いだった……。

 
  ……ジャギ、私には遠く離れた場所に、お前が行ってしまった気がする。……私はお前を伝承者候補にした事……それは……それはもしや。



 トキの切羽詰まった危機を上げる声がする。すでにトキに敵意を見せなかった虎はジャギへ狙いを定め爪を振るったのだ。
 避けるジャギ。だが顔に浅くは無い切り傷が出来た。……やはり無謀であったのだろうか? 私の心中穏やかではない視線とトキの心配気
 な視線の中、瞬時にジャギは立ち上がると一呼吸の後に……。







                    ……気配が                  変わった。







  ……あれは、『北斗羅漢撃』の初動の構え。なのに何故だ? 何故こうも心をかき乱される程の気がジャギから溢れ流れている?
 直接その気を当てられてないトキさえも冷や汗を流している。これではそれを直に浴びる虎は早速どうにかなってしまうだろう。

 ……暫し硬直しジャギの目の前で震えていた虎は、数秒の後に元の檻の中へと尾を逆立て逃げ去った……もはや二度とジャギには近づくまい。


 しかし、今の異常な気の濃さは何だ? 何時の間にあのような気配を身につける変化が、お前の心に何があったのだ? ジャギ。

  ……ジャギ、我が息子よ。先ほどの、しいて言うなら『羅漢の構え』とも言うべきだろうか? お前があの構えをした瞬間にだ。





   


     ……まるで怒り涙して狂うビンドラ・バラダージャ(十六羅漢)がお前の姿を借りて構えているように思えた。











  (part中の人)


  ……ふぃ~ あっぶなかったぜ!?



 いきなり虎が飛び掛られて爪が顔を掠った時は流石に死ぬかと思ったよ☆
 けど羅漢の構えって便利だな! この前森で構えやって精神統一して気合い入れたら鳥が慌てて飛んでいったから虎にも通じると思ったんだよ!


 いやぁ~! これで俺も少しは師父に見直されつつ伝承者候補から穏便に離されるってもんよ! ……いやぁ~、良かった良かった!!









  ……本当に、これで良いんだよな?











(あとがき)



 阿羅漢:「仏」になれず「地獄」へ堕ちる事も出来ないと言う論書がある。
      また、その位のまま輪廻転生するとも言われている。
     中国、日本で仏法を維持する事を誓った十六人の弟子を「十六羅漢」
    と呼び崇拝され、第一回仏典編集に集まった五百人を「五百羅漢」と
    称し尊敬される事も盛んであった。

    京都市中京区の六角堂には羅漢像とその周りに邪鬼があるのが見れる。




[25323] 第四十五話『エンド・オブ・ザ・ワールド』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 11:58




   「……暇だな……死ぬほど暇だ……死んでるんだろうけどよ」









  太陽が罅割れた荒地を照りつける。風はなく、生きる物が佇んでいれば二日とたたず脱水症状や熱中症で命を落とすだろう。

  そんな熱線を受けながら、平気な様子で長すぎる時間に億劫そうな声を上げるヘルメットの男。



  「……バイクがありゃあ少しは暇つぶし出来るか? ……走り続けても、この場所じゃあ何処へ行っても似たような景色……か」



  建物の中には復元された物以外にも、『あいつ』の記憶の中にあった読み物や食べ物飲み物も置かれている。
 だがそれは一時凌ぎの暇つぶしでしかなく、ほとんどの書物と言える書物は読みつくしてしまったジャギは、こうして建物に背を預けて
 銃を解体、そしてまた組み立てると言う作業をゆっくりとしながらとてつもなく膨大な時間の無用さを体へと噛み締めていた。

 これでおよそ五千九百六十二回目の組み立て作業が終了。仕方が無いから突きの練習を再開するかと立ち上がる男の鼻に、何かが漂った。



  

  「……ちっ、未だしぶとく咲いてんのかよ」




 そう気だるく男は柱の影へ近寄る。建物からほんの少し離れた影に咲いている。小さく儚く、自分とは対極の位置で佇んでいる弱い花。



  「……花でも喋る相手にはましか、……世の中サボテンに話しかける馬鹿もいるってんだから驚きだよな? おい」


  花の隣に座るジャギ。銃を適当な位置に立てかけて、何を言おうか少し迷ってから、こう切り出した。


 「……俺はよ、伝承者候補になる前はほとんどスラムのガキと同じ扱いだった」


 「一日食うのにもやっとでよ。ごみ漁る事もあったんだぜ? ……この北斗神拳伝承者の俺様が、だ。……笑えるよな、おい?」

 「食えるもん探して誰にも奪われないようにして……それを見る周囲の目線が憎くて憎くて仕方が無くてよ……その頃リュウケンに拾われたな」


 「最初はこいつも俺を売りさばくが何なりするかと思ったんだが……。……美味い飯、暖かい部屋。……俺は単純に、あの野郎が良い奴
 なんじゃねぇかって思って……。あいつの頼みを引き受けて伝承者候補って奴を引き受けちまった……笑えよ、ま、花に笑えって言っても無駄か……」


 「……同じように修行している奴等、……そいつらに俺は何時も勝てなかった。年下のあいつは何かしら俺を不憫そうに見て手を抜いて負けるのが
 丸わかりでよ。……俺は最初わかってたけどよ。何時か気付きたくねぇから都合よく見ない振りしたんだ、……馬鹿野郎だな、本当に」


 「結果はこの様……。俺様はあの野郎に頭を吹き飛ばされて終わりだ。……何も可笑しくねぇ、ただの盗賊と同じただの屑野郎だ。
 ……俺は別に自分のやった事を後悔する気はねぇ。……一つ、あるとすればだ。別に決してそんな事はねぇんだけどよ」


 「……平行世界とか、言うのか? 『あいつ』の部屋にあった漫画に描かれてた……、……あの世界の漫画ってあんな風に目が異様に
 でかい女を描いたら受けるのか? 俺はあんま生理的に受け付けないんだがよ? 『コブラ』って作品の女は好みだったがな……」


 「……脱線したな。いや、どうせ独り言見たいなもんだから勝手に全部話すけどよ。その平行世界って場所にも、もしかしたら俺がいるって
 のが最初ちょっと驚いたな。SF作品なんぞ、俺は手をつける機会なんぞなかったからな……。『タイム・マシン』だっけか? ウェルズの作品……」


 「……そんであれだよ、その平行世界の一つに、俺に似た俺を愛した馬鹿野郎がいて、その馬鹿野郎はある意味憎めない奴だった、としてだ」


 「……その馬鹿が死んだ事で俺に似た俺は狂っちまうんだよ? ……この俺様がそんな事で狂うかよ。北斗神拳伝承者の俺様が
 『愛』にも『恋』にも発展してない女の事で狂う、だと? お笑い種だな……。
 『ジャギ』はそんなセンチメンタルじゃねぇ。『ジャギ』はそんなに純粋な生き方なんぞ出来るはずがねぇんだ……」


 「俺様は悪だぞ? そんな俺が最初は善人でしたなんて言われたってんなもん俺からすりゃ核戦争なんぞなかったって言われるぐらい
 信じられねぇ話だよ。……何だ? 俺がこんなに自分の事ペラペラ喋るのが嬉しそうって感じで揺れるんだな……てめぇは」



 「……ああ、そんでよ。少しだけ気がかりってのがよ。その俺に似た俺が馬鹿の所為で狂ったとして、よ。その馬鹿が、俺に似た俺を
 狂わせる……『運命の女』(ファム・ファタール)って言うのか? 確かよ、俺には蚊帳の外だったが、あの三兄弟の喜劇を作る要因も
 『運命の女』(ファム・ファタール)だったんだっけか? ……こんな共通点をあいつらと同じように持ちたくは正直ねぇがな……」



 「……んでその馬鹿が狂って死んで。死ぬ間際にそいつの事を思いつつ、あいつを憎んで……。俺と同じようにあの世へ行って苦しんで
 苦しんで責め苦を受けてよ。……そんで以ってあいつからすりゃあ迷惑な話だ。俺だってそこまでやらねぇな……考えた奴はいかれてるよ」


「その全部憎んでいる野郎に、『お前を好きだった奴はお前を悪役に仕立て上げるのに死んだ』って突きつけるんだ。……そいつは元々
 純粋でその馬鹿の事も別段嫌いではなかったから後はもう大変だな。もう今までの憎しみなんぞ屁で神へと呪詛の言葉を吐く」


 「……後はありゃあ亡者じゃなくて修羅だ。神を屠らんとする悪魔と化して地獄の鬼を餓鬼を阿修羅漢の拳で散らせつつ神へ叫ぶんだ。
  『俺の名を言ってみろ! 俺を愛した女の名前を言ってみろ!』……ってよ」



 「……悪魔が居る事が証明されれば、神が居る事の証明にもなる……だっけか?  ……そんであいつは虫やもっとおぞましい何かに
 なろうと何千年、何億年経とうとあいつを救う事だけを魂に刻んで生き続ける」


 「俺は、そんな俺に似た俺に救いがあんのかって思うんだよな……」







 「……もう少しで世紀末だ。……そうすりゃ俺様もようやくこんな糞つまらねぇ場所からおさらば出来るだろうさ。……てめぇもその時は一人だな」







  ……その男の語りはなおも続き、気がつけば日も傾きまた夕日が見える。



 「……まあ良い暇つぶしになったし、……ほら賃金として水かけてやるよ。俺は優しいだろうが? うん?」


 水筒から花に被せるには少し多い程の水をかける男。花は水圧で少し曲がってから起き上がると、苦しそうに少しだけ揺れた。



「……ヒーッヒヒ! 一週間分はそれで凌いで見ろよ。……まっ、本気で枯れそうになったらまた暇つぶしも兼ねて水かけてやるよ。じゃあな」


  嫌な笑い声を天に響かせビル内へ戻る男。……男は知らない、その花は男が真の意味で見放さなければ枯れない事を、男は知らない。




  



 今日も北斗七星と北極星が輝く下で男は眠る。仄かに花の香りが世界が埋め尽くすような気の所為を感じながら。









 あとがき


 





  昨日の話、某友人とは別の人が『最近行進速度異常な小説、チラ裏でやってるよ』
って話の流れで出してきたんで、それ俺だよ! (;゚∀゚)=3
 って言ったら『じゃあ某友人紹介してよ(笑)』って言われたので
 冗談だって直ぐ流してしまった……(´・ω・`)

 ……あんな奴紹介したら恥じかくだろjk


 ……友人の野郎……(`;ω;´)



[25323] 第四十六話『荒野にて』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/19 20:11


     元ネタ『渚にて』:ネビル・シュート作
           内容:第三次世界大戦後北半球の汚染された地へ
             海軍スコーピオン号がモールス信号が発信
             された人がいない場所のメルボルンへ向かい……。













   「……いてぇ」
   

   「…………ぷっ」


   「おい、アンナ……見る度に何度も笑うなよな」

   「……くくっ……いや、だって何か間抜けだもん。その包帯巻いている姿! ヘルメットでも被ったらマシになるかもよ?」

   「あーはいはい。どうせ見れた顔じゃねぇんだ。ヘルメットだろうと包帯姿だろうがほとんど変わり映えしねぇって」


   「……私はどんな姿でも好きだけど?」

 
   「あんがとよ」


   そう礼を言うとえへへと照れたように笑うアンナ。こいつのこう臆面もなく素直に褒める性格は正直嫌いではない。

  何故包帯を巻いているかと言えば虎に飛び掛られた時の爪傷が化膿したのが少し腫れたのだ。それを大げさにアンナが慌てて(涙目で)
 俺の顔全体を包帯を巻いてミイラ男にしてほっと一安心した後、自分でしたのにその姿がツボにはまったようで俺を見る度笑うのだ。


  「……今度笑ったらその頬っぺた餅みたいに引き伸ばしてやるからな」


  「あっ、お餅最近食べてないよね。後で買いに行こうか?」

  
  「そうだな……醤油付けて網焼きだよな、やっぱ」

 
  「え~? よもぎ餅の方が美味しいけどなぁ」


  「へいへい両方買ってきますよっと、……さっき俺ら何の話してたんだ?」


  「え? 大した事じゃない…………ぷっ!」


  「あっ!? また笑いやがったなこの野郎~!!」


  「ひはひひはひ!? ひふはっふ~!(痛い痛い!? ギブアップ~!)」




  「……お前ら何時でもイチャつけて、こちとら胸焼けしそうだわ」


  カウンターでの俺達のやり取りを見てそう戻ってきた途端呟くリーダー。その手には結構大きめの荷物が抱えられている
 ……ん? それってもしや!? 俺が求め続けていた念願の……!?


  「……リーダー、それ、もしかしてアレか?」

  「ああ……。お前無茶な注文すんなよな? こんな代物普通の場所じゃ売ってねぇから危ない所まで綱渡りしたぞ? ……まあお陰で
 違法製の武器とか取り上げられたから結果オーライだがよ……」


  そう疲れ果てた声で呟くリーダーを尻目に、俺はようやく手に入れたコレに頬擦りしつつ心から喜んだ。これさえ、これさえあれば……!


  「……ソレってそんなに喜ぶ代物なの?」


  「アンナ……兄貴として忠告するがな。……もうちょい男は選べ」


  「あっ、大丈夫。兄貴とは比べ物にならないから」


  「表出ろ」


 後ろの方で和やかではない会話をアンナとリーダーがしている気がするが、これさえ……これさえあれば後はもう俺の仕事ほぼ終わり
 みたいなもんだ! ……後は無事に世紀末生き残ってラオウさえ何とかケンシロウがしてくれたら……な。





  ……数週間は経ち、まだ顔のむくみが酷くて少しイライラし始めた頃(シンは俺の顔見た瞬間噴出しかけたから殴りつけたよ)に、
 どうも雲行きが怪しいのが寺院からも見て取れた。
 その雲を見た瞬間途轍もなく胸騒ぎを感じた。まるで……何か手遅れになりそうなそんな感覚が自分の胸を過ぎった。

 

 

  ……穏やかじゃねぇな。……アンナの様子、心配だな。


 そう抜け出そうかと思っていた時、リュウケン……師父へと呼び止められ中で少し話しをする事になった。




  「ジャギ……この十数年、お前は私の期待以上に力を身につけたな」



   俺に背を向けてそう語る師父。……何だろう? 拳を潰すのは未だ先だし、それに何だか様子が可笑しいな?


  「……お前は昔言ったな。私がお前を進めたくない道へ言ったらどう考えるか? ……と。……今だからこそ答えが言える気がしたのだ。
 ……私は、お前をこの道へ進ませた事を後悔もあるが……感謝していると」


  「……師父?」


  「……ジャギ、お前は突然の兄弟にすら当たり前のように兄弟として接し、驕る事も反発する事もせずここまで過ごした。
 お前の心は昔からまるで変わらぬままのように、私の錯覚でなければ思う。……ゆえにお前の真偽をかけ、この問いに答えて貰いたい。
 北斗の拳を身につけ、お前はこれから先私の元へ離れたら……お前はその拳で何をしたい?」


  その言葉に暫し思考してから、『俺』は本心でこう返すことにした。


  「……俺は、……俺はこの拳で何かをしようとは思わない」

  
  「……では、何故身につけた」

  
  「……俺の前で師父が危険な目に遭ったら俺は拳を振るう。目の前に大切な人がいたら拳を振るう。……それだけで俺は十分……!!?」


   気がつけば一瞬にして、俺は師父に……『リュウケン』に抱きしめられていた。その目からは止まることない涙が流れていた。


   
  「……師父」


  「すまない……」

  
  「……何でだよ。何で謝るんだよ……」


  「すまない……!!」


  ああ、何故だろう? 以前も同じ事を『師父』から言われた気がする。何時かの光景で俺は謝る『リュウケン』にそう言葉を返した気がする。



               ……俺は……                  ……オレは……






   「……ふんっ、家族ごっこも大変だな?」


   「……」


   「……貴様の父親も愚かだな? お前に勝手に期待を背負わせ」


   「ラオウ」


   「ぬ?」


   「……師父の事を悪く言うな。『二度と』。……それ以上言ったらただじゃおかねぇ」


   「……!! 弱き分際で何を……!」


   拳を振るうラオウ。だが、『今』だけは何故かその恐ろしい威力を秘めた拳も受け止める事が出来た。……ヒドク何カガ辛カッタ。


                     ギギ……!             ギギ……!

   「ぬぅ……!?」


   「退けよ」


  頭痛が酷く耳鳴りがする。半歩下がったラオウの脇を通り俺は階段を駆け下った。トキとケンシロウが途中にいた。


  「あっ……ジャギ兄さん。今は結構外も危なくて……」

 
  「悪い、それでも早く行かねぇとやばい気がするんだ。トキの兄者、ちゃんとアレは持ってるよな?」


  「あ、ああジャギ。だが」


  「悪い、急が……ねぇ……と」



 頭を割りそうな痛み。そして胸を鋭く突く特点部分の激痛。吐き気と闘い『あいつ』の元へ急ぐ、その時リーダーが最近引き入れた
 奴等が俺の元へ走ってくるのが見えた。


  「どうした?」


  「あ、じ、実はジャギの兄貴のお連れなんですけど、ビルの屋上で待つって知らせを持ってきて……」


  「は? 何でお前らにそんな報告させてんだよ?」


  「た、多分吃驚させたいとか……」


 その言葉に痛む頭を何とか堪え、『あいつ』ならサプライズとかでビルで何かするかもな……と考え俺は気にしなかった。

   何も疑問に思わずビルの内部へ入る俺。黴臭い香りが嗅覚を刺激する。……本当にこんな場所で待っていると言うのだろうか?

  

    何だ?    俺は何か大変な間違いをしでかそうとしてないか?   だとしても一体何を……?


  「……この上です。俺達はここで待ってますから」


  「……あっ、ああ悪い」


  タイミング悪く思考を遮る声。俺は気分が悪くなるのを包帯越しに顔の化膿している部分を刺激させて痛みを発生させて
 誤魔化しながら俺は扉を開けた。……? 何だ誰もいねぇ……











                            ドガッ……!!!           …………ドシャッ……ッ!!






   「……やっ……! ……ざま……見ろ!」

   「気……抜くな! こ……強い……使うって……しだ!!」

   「ああ!!…………どめに額を銃で……」

   「ま……そいつ……やる! こい……耳の……からな! ……終わりだ!」





  ……何だ?  ……何で俺は頭から血を流して倒れているんだ?

  ……あいつは、前に寺院へ乗り込んできた白蛇拳のシバ……?

 ……ありゃあ俺の銃……俺に……向けて? ……死ぬのか? 俺?

  
  ……待て……よ         ここ   で ……おれ 死んだ   ら  誰  が   ……「   」 を   まも







                            パアアンッ!!!!












    「……よう、お目覚めが?」




  気がつけば、何処かで見た事のあるビルの屋上で俺は悪魔のような瞳で見下ろすジャギに睨まれていた。 
  そして、ジャギは地獄の底から響かせるような声を上げて、まるで『あの時』のようにこう台詞を俺の前で響かせた。






  
                 「フッフッフッフッ……! この時を待っていたのだ…………!」





[25323] 第四十七話『極悪の芽』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 10:45



  他の建物に比べると少しだけ高層のビル。そこでは空気を罅割れさせながら勝利の笑い声を雄叫びに近く発する顔が傷だらけの男がいた。


  「ざまぁ見ろ!? それだけ額が割れちまったら流石に死ぬよなぁ!  ……けど拳法家ってのは俺の経験上脳天に銃弾食らわしても
 しぶとく生きる野郎は生きるからな……。そう言う訳でてめぇには俺様の満足感の為にこの白蛇獄水を受けて細切れに」


  「ど、首領!!」


  「何だいきなり!? こちとらようやく望みが叶うって時なんだぞ!?」


  「そ、それがどうも核が落ち始めたって情報が入って……! 早くどっかに避難しないと巻き込まれて死んじまう……!」



  「何だとぉ!?」


  舌を打ちながら怒声を上げるシバ。そして顔中の包帯から僅かに露出した額の傷口から血を垂れ流し倒れふすジャギへ唾を吐いてから
 獰猛な笑みを浮かべて小馬鹿にした口調で言った。


 
 「……けっ。まあ構わねぇか……。やべぇ事が収まったら女を探し出してこいつの分細切れにしてやるよ。おい、聞こえているかよジャギ?
 てめぇはここで核に巻き込まれてお陀仏! あの世で自分の女が犯されて細切れになるの見届けろや! ヒハハハハハハハハハハハ!!」



  悠然と立ち去るシバは気付かなかった。ピクリとも動かなかったジャギは、扉を閉める寸前に指が一瞬何かを掴むように動いたのを。











  「……おいっ!! どけよ! 俺はアンナの元へ行くんだ。行かなくちゃいけねぇんだよ!」


  「……何故行く必要がある?」


  「はぁ? てめぇ何を!」


  「何を焦っている? てめぇはさっき俺の見間違いじゃなけりゃ銃弾で額が割られて死んだはずじゃなかったか?」


  「……! 五月蝿ぇ! 死んでいようか何だろうか俺はアンナを助けなくちゃならなぇんだよ!!」


  何がこんなに苦しいのかわからない。何がこんなに切なくて涙が出ているのわからない。ただ無性にアンナの元へ行きたかった。


  そんな俺に『ジャギ』は深く深く溜息を吐く。まるで見飽きたと、失望したと言う風に俺に向かって溜息を吐くと呟いた。


 「……やっぱな。てめぇは駄目だ、ひよっこだ。……『また』駄目に決まっている。お前じゃ駄目だ。……諦めろ。どうせ手遅れだ」


 「何が手遅れなんだよ!? 早くあの白くて輝くもん出せよ!! 俺は、俺はアンナに」


        




       「アンナアンナって五月蝿ぇんだよ!!? おい『ジャギ』!! てめぇは何処まで女々しいんだ!! あぁ!!?」




  ……あ?    ……いや、俺は確かに『ジャギ』だ。……けど何故かそんな口調ではなかった。……まるで、……そうまるで。


   俺の思考を見透かしたように、突如ジャギは俺に胸倉を掴み問いかける。


  「……おいお前、『お前』の名を言ってみろ」


  「……俺は、ジャギに……憑依……」

  
  「……『お前』の名を言ってみろ……!」


  「……お……れ……は」


  「そうか……」


  ジャギは呟くと俺の胸倉を離し、自分の胸の傷を見せ付けた。……仄かに七つの胸の傷が……輝いている?


  「……この胸の傷を見ても誰だがわからねぇのか?」


 





              ……ジジ              ……ジジ     ……ジジ         ……ジジ







   記憶が逆再生される。





  あれは大学生の俺。悪ふざけが多い友達とゲームセンターで北斗の拳で対戦をして勝どきの声を上げている俺と台パンしている友達。
        ……こいつは確か大学一年頃の話だ。

  あれは高校生の俺。北斗のキャラクターで名前が似通っているのでそのあだ名で呼ばれている俺が見える。そのあだ名をつけた奴には
  復讐する為におにぎりの具をわさびに入れ替えた。……その後の展開は想像に任せようと思う。


  あれは中学生の俺。家族と一緒にオーストラリアへ旅行した光景が見える。思春期のせいか家族写真で嫌そうに離れている。
 弟も若干嫌そうにしているのが見えるが、それを父と母ともに宥められ一緒に写真を撮っている……懐かしいなぁとぼんやり思う。


  だんだん小さくなっていく俺、そして俺の姿は消えて、山羊や狼などの動物。蛇やノミなど小さい生物が映し出される。


  ……そして最後に小さい頃のジャギの姿が俺に映し出された。




  ……ジャギがリュウケンに育てられている光景。これは憑依する前の姿なのだろう。すくすくリュウケンの愛情を受けて純粋に育つジャギが見える。


  そして五歳児、六歳児……子供に自分が孤児だとからかわれ泣いているジャギの姿。多少不憫に思いつつ四年ほど歳月が流れ……。




                          ……何だこの記憶は?



  ……何故アンナに出会う前にトキとラオウが訪れている? 何故その後にアンナが出ている? 何故ケンシロウの首を『俺』は絞めている?


  何故ラオウとトキに劣等感を感じジャギは屈辱を? 『俺』の記憶ではないのか? これは並行世界とでも言うのか?


 アア、記憶の整理と、記憶の進み方が追いつかない。ジャギはこのまま成長してアンナと再会していた。……何故『再会』なんだ?

 アンナはリュウケンとも他の兄弟にすら接しない。当たり前だ、以前に出会ってなければこのようなはずだろう。……待て、待てよ?


 ……動悸が激しくなる。脳が沸騰するぐらい熱を持つ。……この記憶は俺の予想が当たっているなら……『正しい』のではないか?



  激しく暴れ狂う心臓。激痛が飛び交う頭。それに苛まれながら俺が見た光景。世紀末が訪れた瞬間……アンナが   「    」が。






  アア   アア   何でだ?   何でお前が死ななくちゃならない?   死ぬのは『俺』だけで十分なはずだ。




   呪われろ   呪われろ   リュウケン   ラオウ     トキ   そして ケンシロウ          神よ



   ノロワレロ   ノロワレロ   ノロワレロ   俺を   俺達をあんな目に遭わせたスベテよ  ノロイ果テルガイイ




   ノロワレロ  ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ ノロワレロ



   「    」を 「アンナ」を 『アンナ』を     ……誰があんな目に遭わせた?      ……それは俺達だ。


   
    

                        スベテの元凶ハ               ……オレダ……!!










   「……よぉ、思い出したがよ」

 嗚咽して跪く俺に。ジャギは静かに語る。その言葉が混乱する俺……『ジャギ』には一番きつかった。


  「……そうだよ。てめぇは憑依した奴かも知れねぇがな……。元々『ジャギ』なんだよ。……もっとも俺様とは違う世界らしいがな」


  「……あ…………ン……」


  「あ? 何が言いてぇ?」









                           「……アン……ナ」






  その『ジャギ』の掠れた声に、ジャギは仮面越しでもわかるほどの怒気を膨らませ『ジャギ』の腹部を思いっきり蹴り飛ばした。




  「がっ……!」



  「……何処までてめぇはしぶてぇんだよ!? お前は守れるもんがあった癖に守れもしなかった負け犬だろうが! そんでもって
 それを知りもせず、ぐだぐだ周囲を憎んで、挙句の果てに真実を知ったら修羅と果ててもう一度やり直そうって言う甘ちゃんだろうが!」


  「……アン、ナ……アンナ……!」



  「もう手遅れだろうが!? 『正しく』前と同じ展開だ。おまけでお前の愛しい奴は、今度は細切れになるサービスもついてるかもなぁ!!
 どうせ何回何度やり直そうと『ジャギ』なんぞが救おうなんぞ出来るはずがねぇだろうが!? よーく思い出せ! 思い出してみろあの時を!?
 お前に何が出来た!? 寺院で倒れ付したてめぇの恋人の屍を抱きしめてやるしか出来ねぇ! そして元凶のグレージーズ共を全員
 殺しもしねぇで部下にして寺院を爆弾で破壊して。見ろ! 結果はこの俺様と同じだ! てめぇは俺よりも更に悪い運命しか辿ってねぇじゃねぇか!?」



  「俺は……俺は」



 「お前は無理だ!! 屑だ! カスだ!! 転生して別の世界で普通に過ごしてこの世界の知識を反則技で得ようとしたってなぁ……
 お前が『ジャギ』である限りあいつを救えやしねぇんだよ!!!!っ!!!」



  「……ジャギ……」


  「……何だぁ!?」


  怒鳴るジャギに、『ジャギ』は……『俺』は言う。何時の間にか包帯は外されて、額の傷は星のような跡を作っている。



 考えてみた。『ジャギ』の苦痛が、悲鳴が、怨嗟が、憎悪が流れ込みながら必死で考えた。

それはアンナの事。アンナの名前を最初に呼んだ事。アンナと最初に組み手の練習をした事。アンナと最初に約束をした事。
 
  アンナと一緒に夢を語りあった事。アンナに……アンナに俺が抱き始めていたこの感情さえも『ジャギ』の感情だと言うのか?


   違う、そんな事はない。俺は、あくまでも俺だ。『ジャギ』の魂はあるかも知れない。けど『俺』はどうあっても『俺』なんだ。

  アンナは俺に言ってくれた。どんなに変わろうと、俺は変わらないと……!



   ああ、そうだ。何を迷う必要性があったのだろう? そうだ、俺は行こう。『ジャギ』を倒し、アンナの元へ行こう。








  「ジャギ……『俺』の名を言ってみろ……!」






[25323] 第四十八話『極悪の蕾』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 11:45


  

    核の反動で混乱する町、それはほとんどが地獄絵図を描いている。



  「リッ、リーダー!? こっちは弾が尽きちまったぁ!!?」


  「焦ってんじゃねぇ! バリゲートさえ破れなくちゃそう簡単に暴徒は襲ってこねぇよぉ!! ほらっ! 替えの弾だ!」


  「へへ、ありがてぇ……! けどジャギには感謝しねぇと! 万が一核で混乱したら頑丈な建物使ったほうが良いって言われてたからなぁ!」

  
  「おうっ! だから俺達はここで暴動が治まるまで絶対にここを守れ! 俺達で妹とあいつの帰る場所を守るんだ。気張れよてめぇら!」

  
  『イエッサー!! リーダー!!!』


 グレージーズの襲撃に遭ったリーダー達。いち早く危険を察知したリーダの機転と、ジャギの助言の甲斐も相まってすぐに拠点
 へと信頼できる仲間を全員集めると襲撃にすぐ応戦したのだ。


  (……アンナとはタイミング悪くはぐれちまったからな。頼むぜジャギ……妹を前みたいに救い出してくれ……頼むぞ!!)


  二人の安否を気にしながら、周囲へと激励をリーダーはし続ける。戦いは始まったばかりなのだ。










 舞台はヘリポートの屋上。ジャギと俺は睨みあいを続けていた。

 「……面白ぇ、……まぁ俺様を殺せば確かに戻れると思うぜ? ……そらっ」


 腰に提げたショットガンを俺の足元に投げるジャギ、馬鹿にしたような口調で俺へ言った。

 「こんな物はもはや必要ない……」


 「……そうかよ? なら俺が使っても構わねぇよな」


 「……使え、無理をするな」


 そう意地の悪い笑みを浮かべて口にするジャギ。……楽しんでやがる、こちとらジャギと遊んでいる時間はねぇってのに……!


 ソード・オフ・ショットガンの引き金を引く俺。無論、先ほど蹴りを喰らわれた時に秘孔を突かれた訳でないのでこちらに銃口は向かない。

 余裕な雰囲気で腕を組み俺を見ているジャギへ、俺は引きかねを引いた。





                           ……カチ、カチ。





  「……イーヒィヒヒ!! これは何だ? うん?」

 悪戯が成功したように銃弾を見せ付けるジャギ、……これ位は想定済みだ!


  俺は気を巡らすと、ジャギの顔目掛けて声を放った。



           『ぶち抜いてやるっ』


  



        ……カチ                    ……カチ




  「……!? 何で『気』の銃弾が??」


  俺の焦り声にジャギは呆れた声を上げて、衝撃の言葉を口にした。



  「当たり前だ……。てめぇの銃弾を気で操作したのも。気の銃弾を発射させたのも全部俺がやったんだからよ」


  その言葉に驚愕する俺。ショットガンが手元から零れ落ちる音が耳元に木霊しながら、ジャギは説明を続けた。


 「本来『気』は非情でなければ身につけられないが、北斗宗家並みの才能か血筋がなければもっと使えねぇってお前漫画で知ってるだろうが?
 ……もっともてめぇは都合よく……いや、仕組まれたのか? まあどっちでも良いがその様子だと忘れてたみたいだがな……」


 「……だが良かったな? 俺様さえ殺す事が出来たらそいつも以前のように使えるぜ? この北斗神拳伝承者の俺に『情』なんてもんは
 欠片もあるはずがねぇからな! お前も願ったり叶ったりだろうが?」


 嫌な笑い声、そして嫌な顔つき。俺は精神を落ち着かせて構えを取った。……『羅漢の構え』を。それを見てジャギは鼻息を呆れつつ出す。



 「……また『羅漢の構え』かよ。いいぜ? お前がそんな付け焼刃の北斗神拳で俺様の邪狼撃を防げると思ってんなら……なぁ!?」



   不意打ち気味にジャギは南斗邪狼撃を繰り出す。防ぐ事も出来ず未だ先ほどの腹部の衝撃が疼く腹に鋭い突きが当たる。……思わず嘔吐した。



  「……ぐぇええ!……!?」


  「だから言っただろうが! 手加減しなけりゃ今頃てめぇの腹部は俺様の拳で風通しの良い穴が出来ているはずだぞ! 感謝しろや!?」



  ズキズキと痛む腹。もう立ち上がりたくないと体が訴える。けれど……アア、けれどもだ……! 『アンナ』の笑顔が俺を動かす……!



  「……『羅漢の構え』……!」




  「……貴様……!」



  ジャギが纏う殺気が増幅する。けれども俺は負けれない。負けてしまったら、『また』アンナを絶望へ堕としてしまう!



  「……いいぜ、てめぇがそこまで調子に乗るならよ。こうだ……」


   そう言って復元したガスタンクから石油を垂れ流すと、持っていたマッチでヘリポート全体が火の海へと包まれた。
 ……いや、火以外にも白く小さく輝いている光が見える。ちょうどジャギが立つ後方で点滅している。……あれが現実への出口だ。


  「……次で終わりだ。俺様の『南斗邪狼撃』か、お前の『北斗羅漢撃』か……あと一つ付け加えるとな……てめぇの体、ジャギの本当の
 体ではないんだぜ、知っていたか? ……どうやら気を上手く扱わしてやろうって事でどっかの北斗の血筋の体を赤ん坊の時に融合させて
成長させたらしいぜ? ……違う世界の俺とは言え気分が悪いもんだよな? おい」


  「そんな下らねぇ話しはいい……。さっさと来いよ……ジャギ」


  「……そうかよ。……準備は良いか? 『ジャギ』」


 南斗邪狼撃の構え、北斗羅漢撃の構え。


 一人は愛する者も涙する者すらなく、ただ世を唾棄すべき物と嘲いつつ死した。

 一人は死して愛と涙を知り。世を呪いつつ再来と救世の未来を願いつつ生きた。

 一人は幽鬼として願う。ただただ、世界にいる憎むべき者に絶望が下される事。
 一人は修羅として願う。ただただ、世界にいる愛すべき者が救世を下される事。


  どちらも真逆ながら純粋にそれを願っていた。ただどちらも生き方は逆だった。



  「……ああ、後もう一つ、言うことがあった」

  「なんだよ……喋っている間に燃やされるぞ……てめぇ」

  「それはお互い様だろ? ……お前の好きな奴よ、知っていたか?」


  






           
             


        「『そいつ』もどうやら転生してる身らしいぜ?」









  
   「なっ?」

  思わず崩れる構え。それを口元を歪め哂い好機とばかり叫びジャギは言った。


  

  「かかったな……!                  南斗邪狼撃!!」





  しまった、と思った時は手遅れ。体を焦がさんと包み込もうとする炎を切刻んで消しながらジャギの突きが迫り来る。




   ここで死ぬのか?   ここで終わりなのか?     俺は……                  俺は……!!








      




     俺は……アンナに……未だ何も伝えてねぇじゃないか!!!






[25323] 第四十九話『極悪の根』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/20 21:41

(part???)


  最初に物心ついた時に覚えていた風景は。森林を抜けた先にあった小さな草原。それはすぐに私の秘密のお気に入りの場所になった。

  小学生、中学生、高校生に成長。父と母に私を溺愛する兄に育てられ私は不自由なく幸せに過ごしていた。……何の不満もない日々。
  そう、何の不満のない日々なのに、私の心には何だか何時も穴が開いているような感覚がぼんやりする時に時折感じられた。

  きっとこれは誰もが感じる物なのだろう。私は自分で納得しつつ高校でも友人を作ってそのまま大学へと進学する。……そんな時だった。

 切欠は日本のオタク文化が好きな友人が持っていた漫画。結構奇抜なセンスの絵に暴力描写が多い作品。私は最初それに目を通した時は
 少しだけ引いたけれど、その作品の中に一人だけ目を惹く人物がいた。

 奇抜なデザインのヘルメット。それは主人公に倒される悪役の一人。何の変哲もないストーリを盛り上げるためのやられ役の一人。

 だけどそれを見た瞬間。何故だが胸が締め付けられて……私はネットも通して全作品を購入し、スピンオフの作品も病的に購入した。

  


        ……そして見つけたのだ。     ……『貴方』を。



 その作品で『わたし』は輪姦され死ぬ寸前までの描写が描かれていた。それは拙い絵のはずなのに一瞬現実的な嘔吐感が迫るほど
 鮮明に自身の記憶がフラッシュバックして襲い掛かった。
 震える腕を押さえつつページを巡る。そしてその場面を差し掛かり、私は驚愕した。





  ……私が最後に出会えたと思う『あなた』は『あなた』でなく。『あなた』は私と最後に言葉すら交わせなかった真実に。





  気がつけば私は秘密の場所へ赴き号泣していた。家族に心配される程私の顔は家に帰った時は酷かった。……でも私はこの時決意した。



  もう一度『あなた』に会いたい。もう一度、せめて今度は『あなた』へ好きだと告げたい。……私はそう心から魂から願った。






  ……私は別段クリスチャンでも無かった。教会へ礼拝しにいった事はあったけどそこまで信仰が深い訳ではない。


 けれど、私の祈りは通じたらしい。気がついた時私はあの時の如く、兄の背中にバイクで走っていた。

 そして何日が町を走り……           やっと      「あなた」がいるのを見つけた。


 あの時不審に思われるほど私は顔から喜びを隠せなかった。当たり前だ、ようやく出会えたのだから、ようやく再会したのだから。

 

 ……「あなた」も以前と様子は何処か違うのは知っていた。もしかしたら別の人なのかもしれない、私の事など何とも思わないかもしれない。


 それでも「あなた」に「わたし」は全てを捧げる。「あなた」が「わたし」を呼んでくれた時にそう誓ったのだ。

 これから「わたし」は『アンナ』として振舞おう。何時か「わたし」で振舞えるその日まで。……だからこそ、……だからこそ……!!







  「ヒッヒッヒヒひ……!  迷子の迷子の子猫ちゃんは何処でちゅか~!? 細切れにしてあげまちゅから出ておいで~!」

  「そうだぜ~! さっさと出て来いよ! もう袋の鼠なんだからよぉ売女がぁ!! さっさと出て来やがれや!!」



  





  



       ……「あなた」が「わたし」を見つけてくれるまで、「わたし」は生き延びて見せる。












  迫り来るジャギの手刀。あと十五cmぐらいか?  そんな冷静な思考の片隅で走馬灯のように今までの風景が思い出されていた。


  ケンシロウに勉強を教えたこと。ラオウとの組み手の猛攻で一度も手を出すことなく気絶した事。トキと論議を交わしつつ秘孔の研究をした事。
   ……残り十cm。
 リュウケンに見守られつつ重しの服で走っていた事。アンナと初めてバイクで運転してリーダーに見つかり叱られた事。
   ……残り八cm。
 シンと組み手の最中、余りに白熱しすぎてフウゲンに共に叱られた事。ジュウザやアンナと共にケンシロウとユリアへ悪戯した事。
   ……残り五cm。
  様々な出来事。本来在り得るはずはなかった出来事。泣きたくなるぐらい幸せに思えていた日々を   『俺』は失くすというのか?



  ……だ            ……やだ         ……嫌だ        ……嫌だ!!      嫌だ!!!




 『ジャギ』なんぞどうでもいい! 『俺』はこれからアンナと一緒に歩んで生きたいんだ! 



 頼む!!    『俺』の体よ今だけ力を貸して欲しい!!    『俺達』がきっと幸福で包まれる華となる為に!!



                    ……『幸福の華』とならんが為にこの拳よ光を超える程の疾風の突きを繰り出してくれ!!







        



                     『北斗羅漢撃!!!!!!!』








   ……刹那、炎が一瞬揺らめきかき消えそうになった。



  ……ジャギは腕を突き出し邪狼撃を繰り出したまま硬直。そして『ジャギ』は片足を突き出し羅漢の構えのまま硬直していた。









                       ……最初に動いたのは『ジャギ』だ。






   
 跪く『ジャギ』。その体の両脇からは血が流れている。……致命傷か? いや、……未だ余裕はある。……ヘルメットのジャギは




                   ……ピシッ



  「……やりゃあ出来るじゃねぇか」




                  ……ピシッピシピシ……!!



  「そうだ……てめぇに足りないのは『非情』だ……あの俺を殺した糞野郎と同じとはな……因果なもんだぜ……自分を殺す事で
 てめぇはようやく半人前だ……どうだ? 今の気持ちはよ」


     喋りながらもヘルメットの皹は広がっていく。業火がジャギを包みながらジャギは明日の天気を占うような口調で『ジャギ』へ告げた。


  「……憎み、恨み、妬み、嫉み……『お前』はどうやら最後の最後で捨てれて良かったじゃねぇか……とっとと行けよ? 
  何もたもたしてやがる? 惚れた女の元へ行くんだろうが」


  
  振り返る『ジャギ』。疲弊しながらも、『ジャギ』は何故だか理解していた。ジャギは『俺』に羅漢撃を習得させたかったのだ……と。

 
   「……ジャギ、お前……」



  

   「あー!! ったく五月蝿ぇ野郎だ一々!! さっさと行けよ!? お前は何で最初に走る練習してたんだ!?  えぇ!?」



   「え……」






                   「『あいつ』を今度こそ助ける為に早く走れる為なんだろ? 馬鹿が!!」







        ……ああ、そっか。      ……そうだな『ジャギ』    『俺』……馬鹿だったよ。





  「……行ってくる……もう、二度と会えないのか……な?」


  「だろうな。こちとら清々するぜ、クソガキのお守なんざ」


  「……ありがとな、ジャギ……」

  とっとと行け……。 そうぶっきらぼうにジャギは言い残し……   業火の中へ飲み込まれ見えなくなった。



  ……待ってろ、今すぐ行く                                         アンナ













 「……ギャハハハハ!!! もう逃げられないなぁ~おい!? どうした!?  命乞いして俺様のしゃぶれば少しは寿命も延びるぜ?」

 「ヒヒヒヒヒヒ!……!! まあ、てめぇが死ぬのは決定事項だけどな! ……気に食わねぇ目つきしやがって! 
 てめぇ今の自分の状況わかってんのか!? 今からてめぇは俺達に犯されてその後指を一本一本切った後、てめぇの大事な部分切り落とすからなぁ!!」


 目の前に迫るモヒカン達。


 折角「あなた」から貰った手甲も身を防ぐのに壊れてしまい、私の体は長時間の抗戦で満身創痍だ。



 でも未だ私は前のように穢されてない。未だ前のように弱いままではない。


 死ぬ一瞬まで私は「あなた」が来るのを信じている。

 「あなた」の名を呼び続けて見せる。








  「……ギ」

  「あぁ? 今更遺言でも吐く気か? いいぜ聞い」

  「ジャギ」

  「あぁあああん!!??」

  「ジャギ……!!!」

  「……!!  この状況で死んだ野郎の名前なんぞ吐いてるんじゃねぇよ、このクサレカス女がああああああぁぁああああ!!!!」







                            パアァン!!!






   「……あ……び……づ?」

  
  アンナに飛び掛ったモヒカンは、訳もわからず脳天が破裂したまま倒れる。
 そこへ降り立つ特徴的なヘルメットの男。両手首には数珠と特徴的なブレスレットを嵌め、ショットガンを提げている男。



  男はヘルメットを外し、それと同時に緩くなった包帯は解け男の顔は露になった。




 それをもしも未だ閻王が生きていれば驚愕しただろう。その顔は髪の毛を幾分伸ばし、額に星の傷を作った若い霊王の顔をしていたのだから。





  
 いきなり建物の中へ入ってきた男に混乱するモヒカン達。アンナの元へ降り立った男は、アンナを抱き寄せ名前を連呼した。



  「アンナ」  「……ジャギ」  「……アンナ」   「……ジャギ!」  「アンナ!!」   「ジャギぃ!!!っ!」


 抱きしめあう男女。お互いの顔には涙が流れ、どちらも、もう何処へも行かせないとばかりに強く抱きしめあっていた。
 そして掠れ声で男は、その女へ強く強く囁いた。



         「……アンナ! アンナ、俺は……お前の事が好きだ……! 愛している……!!」


  その男の言葉に、女は泣いてぐちゃぐちゃの顔で嬉しそうに、そして幾許かの怒りや哀しみなどの感情を含め言い返した。


            「ひぅっ……! うっ……!!  言うのが、遅いんだよ……馬鹿ジャギがぁ……!!」







   「……てめぇら何を俺等を無視してやがんだぁ!!?? そっちの男はてめぇの新しい男か!? 助けに来たって事かい!!」


  モヒカン達にはわからない。それが『ジャギ』であった事は。だが、そいつらは自分達の命が風前の灯である事に残念ながら気付けなかった。


  「……アンナ、すぐに終わる。……待っててくれるな」

 抱きしめながら頷くアンナ。しかし、離れないでね? と懇願するアンナへと、ジャギは力強くこう返した。

  「当たり前だろ? ……いいかよ、アンナ……俺様は誰だよ」


  「……! うん……そうだね!!」


  向日葵の如く微笑むアンナの笑顔を久しぶりだと感じるジャギ、そしてモヒカン達へ振り返った表情は悪鬼の如き笑みへ変わっていた。



  「よう……随分……舐めた事してくれたよな? 約束を忘れたとは言わせねぇぜ……?」


  「ハァ!? て、てめぇなんぞ知るかよ!!」

  「……い、いや待てよ? そ、その額の傷、も、もしかして首領があの野郎へ放った銃弾の跡じゃあ……!!?」

 
 ざわめくモヒカン達、だがもはや手遅れだ。モヒカン達は世紀末誕生の際に一番手を出してはいけない人物を手にかけようとしたのだから。



  ジャギはモヒカン達全員へ木霊する声で             叫んだ。







 
「……   お  前   ら !!!!    俺   の   名  前  を  言  っ   て   み  ろ !!!」





   






  あとがき


  
  トキの話は第二部で紹介します



  トキ好きの皆さん  怒らないでね(´・ω・`)



  まあもっともこの作品が好きな人は全部のキャラクターが
 好きだと思ってくれると信じてる……(´・ω・`)





[25323] 第五十話『極悪の華』【第一部完】
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/21 09:35


    
   


   その台詞を叫んだ瞬間、男の周囲の散乱物は吹き飛ばされていた。まるで見えない力を男が身に纏い散乱物を飛ばしたように。



  その咆哮に怯えモヒカンの一人は錯乱しかけるも未だ残っている理性で全員へ叫ぶと命令した。


    「なっ、何してやがる!!!?  あ、相手は一人だ! 全員で蜂の巣にしろやあああああああぁああ!!」



   その言葉に従ってモヒカン達は刃物、銃弾、槍、鈍器。ありとあらゆる自分の獲物でその男を亡き者にせんと飛ばした。



 だが、男は普通ではなかった。男は何かの奇妙な構えをする。そして背後に居る女を傷つけぬ意思を体で表示し、見えない壁を作りつつ唱えた。





   『二指真空把(にししんくうは)』





 その瞬間にだ。男に迫っていた全ての武具は停止したかと思った瞬間、逆再生のようにモヒカン達の元へその凶器が返っていった。




    「ぶげ!!?」    「へばっ!?!」       「ぎょぶふ!!」  「もがび!?」   「ぐれぇげぇ?!!」




   運の悪い者達は顔と心臓に投げた銃弾や刃物を受け死に絶えた。その光景に慄き「化け物……!」と呟くモヒカンへ男は呟く。




 「……俺が化け物なら……てめぇらは『餓鬼』や『畜生』共だ。……『前』は俺は甘過ぎた。……今回はお前らを一人も逃がしはしねぇ!!」

 男の殺気と怒気はモヒカン達からは男が巨大化するような錯覚を見せた。それを見て逃げ出すモヒカンを見て、男は叫んだ。




           ……言っただろうが!!っ!!         『逃げられんぞぉ~!!』



 男が向けた銃口は逃げるモヒカンの上を通過する。しかしまるで意思を持つかのように銃弾はモヒカンの頭上で一瞬に降下し、脳天を貫いた。



  「……あ、わわわあわあわ……に、人間じゃねぇ……!!  あ、悪魔だ……!! な……何でだ!? お、俺達の他だって
 盗みやったり女を犯す奴がいるじゃねぇか!! ……何で俺達だけ」


  「ああ、そうだよ……」


                                 ガチャ


  モヒカンの頭に突きつけられる銃口。額の星のような傷が生生しく輝きながら男は言う。


  「てめぇらのような奴等が、これから生き延びていく……てめぇらのような奴等がこれから先暴力で時代をのさばっていく……!!
 ……だからこそ俺は悪魔になってやる。てめぇら全員を屠り、俺が愛する奴だけを微笑(わら)わす時代を作ってやる……っ!!!」



  
  そう魂からの独白を発する男に、モヒカンは恐怖で最後に漏らした言葉はこうだった。



   「ひ、ひぃ悪魔が微笑んで」



   『ぶち抜いてやる!!』




  見えない銃弾は、恐怖に染まった男の顔面を吹き飛ばした。









 すべてのモヒカンを消し飛ばしたジャギは、隅の方へ移動させていたアンナへと心底心配した声をしゃがみつつかけた。

  「……アンナ……!! ……平気か……!?」


  「うん、言われた通り目と耳瞑ってたよ。……これからどうするの?」


  「ああ、とりあえずリーダーのも……!?」


   迫る殺気、反射的に腕を振るうジャギ、そして次の瞬間にはジャギの腕には鋭い矢が突き刺さっていた。


  ジャギの名を叫び悲鳴を上げるアンナ。ジャギは放った人物を睨みつけながら名前を呼んだ。



   「……シバ!!!っ!」             「……久しぶりだなぁ!! 北斗の屑野郎……ジャギ……っ!!!」



   血の飛沫を上げジャギは矢を抜き取る。そして恐ろしいほど低音でジャギはシバへと言い放った。



   「……これから貴様を生き地獄……いや、それすら生温ぇ……!! 本物の地獄を味あわせてやる……!!」



   「……面白ぇ……俺様の進化した白蛇拳……受けて見やがれ……!!」


 怨嗟と憎悪を含んだ声を上げるシバ。二人は場所を移動すると、運命の悪戯か? 世紀末発生の荒れ狂う天候の中で対峙しあった。


 荒れ狂う風が吹く。腰へ提げた双剣を煌かせシバは歪んだ笑みで言った。

 「……その銃を使おうがな。俺の白蛇拳は銃弾すら弾き飛ばせる程に成長したんだ……!! てめぇなんぞ……」


                            ガシャ……!


 「こんな物はもはや必要ない……!」


 ショットガンを地面へ投げ捨てるジャギ。それは真の意味であり、殺意の意思を裏返しで秘めた意味でもある。銃でお前は殺しはしない、
 アンナを絶望へ陥らせようとしたお前は俺の拳で殺す。その意思がその言葉には秘められていた。


 だが、シバには気付けない。挑発だと単純に思い怒気を膨らませたシバは双剣を構え飛び交い、構えないジャギへ飛び交い修練の拳を振るった。






                          『白蛇獄水!!』



 それは刀剣。白く煌く刀身のリーチを活かし蛇の如く相手へ投げ体を両断し死に至らしめる白蛇拳の最終奥義。


 勝った……!! シバは確信した。だが……。



  
 「……ジャギ……飛んでる」


 見守っていた女の視線と声に、シバは投げた状態で上を見上げる。そして驚愕と恐怖で顔を凍りつかせた。
  ジャギはヒバリの如く空を舞い、以前モヒカン共を亡き者にせんとした拳を今存分に自分達を絶望へ陥れた全ての憎悪を込め放たれる。







                          『北斗千手殺!!!』






  大量の秘孔を突かんと猛打する拳。その拳の嵐に一陣の白蛇は衝撃で耐え切れず地面へ体勢を崩し無様に倒れた。
 だが、シバは自分の体に痛みも異常も起きていないと感じ、すぐさま起き上がりジャギへ振り返り言葉を投げかけよう……とした。



      「はっ! 何処も痛くねぇじゃ……ね、べ……? 出で出でヴぇヴぇヴぇヴぇ??!!??!!」



  「……龍頷(痛覚神経を剥き出しにされる)頸中(強烈な痛みを持続的に感じる)下扶突(強烈な痛みを持続的に感じる)を突いた。
 ……暫くてめぇの罪を後悔しろっ! ……そして……」


  ジャギは持っていた針を気を纏い投げ、ある一箇所へと刺した。


  「……命門(突いてから一分後に死ぬ)を突いて……終わりだ」



 
 

 





  



 ……一つの燃え盛るビルがあった。そのビルから炎に包まれた男が現れ……やがて柱の影にある花へと幾分が火が消えた状態で座った。




 「……よう、……これで俺の役目も御免だな……ようやくだ」


 「……あの野郎、間に合ったかって? ……はっ、当たり前だろうが? あいつはこの日の為だけに鍛えたんだろうからな。
 だがこれからだろ? あいつの兄弟は俺の時のように野望を実現する為に動く。あいつはどうする気かね……ヒヒ! これからが本当の
 地獄の始まりよ……! 俺様は地獄の底で見守るぜ……」


 そう花に語る男の下へ、一匹の犬が近づく。……その犬は数年ほど前に行方を晦ましていた犬のリュウであった。
 そのリュウは男へ近づく度に人間の影が濃くなり、やがて砂塵が吹いた後には背の曲がった老人の姿となって立っていた。


  『……勤めをちゃんと果たしたようじゃな?』


  「……やっとお迎えかよ……遅ぇんだよ」

  
  『……ふぅ~、何故お主のような者が北斗の星を胸に宿しているか不思議じゃわい。……お前さん、今回の働きもあってか
 等活地獄へ降下。そして刑期も減るようじゃわい』

  「……けっ、どうせ一億年が九千万年に減るぐらいだろ?」

 
  『人間時間で27億270万年じゃ……。お前さんの罪の重さを考えるとこれ程の減刑は初めてじゃぞ? わしも目を疑ったわ……』


  「とっとと連れて行けよ……。……あ、一つ良いか?」

  
  『うん、何じゃ? ……望む物があるのならば、罪なき物じゃぞ?』


  「……こいつ、俺がいなくなると一人ぼっちだろ? どうにかしろよ」

 
  『……うん? ほぉ、これは……。……良し、ならばお前さんの側へ置いてやれ、世話の間は刑罰もないように取り計らってやる』

  
  「そうかい、そうかい、ありがとさん」


  『……ったく……難儀な男じゃ』



 体が下へ下へ引っ張られる感覚が迫りながら、男は隣に咲く花の根元を守るように手で覆いながら、小さく最後に呟いた。



 「……せいぜい抗って見ろ…………クソガキ……」













  「……よしっ、荷物は全部積み終わったな?」

 寺院の階段近く。核の影響で半壊した寺院が上を見ると良く見渡せる。
 
 ヘルメットを被る『俺』。そこに「   」はいない。


 バイクには必要な弾薬や針、医薬品は重量オーバーぎりぎりまで積み、ヘルメットの中でやり過ぎたか? と苦笑する。


 これから宜しく頼むな。と、リーダーから貰ったバイクに挨拶している時、「   」が颯爽とバイクに乗って現れた。






  「お待たせっ!!  ジャギ!!」




 向日葵のように笑顔で俺を見る「アンナ」。その腰には俺の命令で扱いやすい軽い拳銃を二丁。そして新しい手甲を身に付けている。


  「……カウボーイ見たいだな。改めて見るとよ?」


  「……そう言うジャギはどう考えてもヘルメット被っていると悪人にしか見えないけど?」


  「うっせぇな……被ってないと色々困るんだよ……」


  そう弱気な口調の俺に、アンナは小さく笑い声を囀ってから、こう慰めた。


  「……ふふ、じゃあジャギの顔格好良いから、私だけにしか見せないようにするって事で!!」

  その言葉に呆気に取られる俺、微笑むアンナに俺は釣られて微笑むしか出来ず、だからこそ穏やかな気持ちでこう返した。







   「……アンナ、『愛してるぜ』」


   「うんジャギ、私も『愛してる』」




 これから先、本当の世紀末の困難が俺達を襲ってくるだろう。

 死にそうな目に、危険な目に、アンナを巻き込んで……けど、俺はもう昔の『俺』ではない……今の『俺』は『アンナ』がいる。


  アンナの手を一瞬強く握ると、バイクのハンドルを強く握って輝く夜空へ叫んだ。




  「……ぶっ飛ばすぜ!!   アンナ!!」


  「うん! ぶっちぎろう!! ジャギ!!」








           


          『あの北極星を目指して!!!』











 あとがき



 色々と批判もあるだろうけど第一部完。

 トキはどうなった? とかリュウケンとラオウの闘いは? とかは
明後日から南斗邪狼撃(一日一話投下)で執筆します。
皆様、ここまで読んでいただき真に有難うございました。
 これから世紀末編へ突入しますので暖かく見守って下さい。








   





   



  ……もはや北斗百烈拳を放つ余裕しかない(´・ω・`)



[25323] 第五十一話『秘孔を突かれた男。その名はジョニー!?』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/23 18:57
         


                (ゝ∀・*)ノやぁ    ジャキライです。


      (っ´∀`っ)  今回は今までの人物設定、及びこれから登場する人間の事も兼ねて紹介します。


                 
                (σ・∀・)σ 勿論最後には第一部最終回裏で何が起きていたのかも説明するね









                 (´;ω;`)  ……じゃ   どうぞ







              



  ジャギ(極悪の華)

  この作中の主人公。自分の頭崩壊エンドと、拳王による塵エンドを防ぐ為に第二部でも必死に運命と闘っている。
  現実世界では大学生と過ごしている男であったが、遠い前世では『極悪の華』のジャギであった事が判明。
  何の因果がアンナの死の真相を知り神と相打ちになる覚悟での直訴が功を成し『極悪の華』世界で人類滅亡まで地獄で刑期を終了すると
  新世界で微生物から動物まで転生、そして主人公の体になってもアンナを救うと言う目的だけは決して忘れる事はなかったヒーロー。
  アンナの最初の悲劇は回避出来たが、『ある人物』との対峙から運命から未だ逃れられてない事を知る。その事実を知ると
  前世の感情と今の感情を複雑に絡ませながら、愛する人間を救うために『ある決意』をする事になる。
 原作とほぼ同じ衣装。両手首に数珠とアンナから貰ったブレスレット。そして頭にバンダナを巻いている霊王顔。
 蒼天の拳の霊王の顔になっているのは神のせめてものサービスであるらしい。


  アンナ

 『極悪の華』 作中のヒロイン。
 
 世紀末による、ある意味災害で死亡したジャギの恋人。『ある人物』との出会いからジャギが自分を守る為に『ある決意』をする事を
 感じ取り、自分でもジャギを守る事が出来る事がないかと必死で探している健気なジャギの未来の姉さん女房。
 第一部でジャギと同じように転生をしていた事が判明。理由は自分が最後に出会えていたと思ったのがジャギではなかったと言う理由から。
 現実世界で読んだ北斗の拳の作品の知識と、鍛えた南斗聖拳と装備している拳銃やジャギからの受け売りによる『生き残る為に何でも使う』
 精神で世紀末が降り注ぐ運命の試練から抗おうと決心している。
 北斗の拳の描写だと、健康的で少し瞳が大きいアイリと言う感じ。特徴的なバンダナと赤いレザー。二丁拳銃とシングルアクションアーミーを装備。



 『ある人物』

 占い師、これだけで北斗の拳ファンからはだいだい解ると思うので以下省略。
 ジャギとアンナにある啓示を報告し、遠い場所で二人の安否を祈っている。
 この世界が普通の北斗の拳世界と違う事を知る貴重な人物。原作とのずれによる起こるであろう事を憂いつつ二人の動きを見守る。


  
  サウザー率いる南斗聖帝軍

 師オウガイのバットエンドを回避した事により、オウガイの意思を託され(汚物が)理想の鳳凰として世紀末を守護せんと活躍する。
 『仁星』のシュウを拠点での指導者として任せ、鳳凰拳伝承者に仕立て上げようとシュウの息子のシバを乱世へ連れ鍛えている。
 オウガイが見たと言う予知夢の事も考慮に入れ、ラオウの動向を警戒しつつユダの最近の挙動不審も王者の貫禄で観察している。


  ラオウ
  
 近作のラスボス。原作と等しき天を目指す覇者だが、『ある女性』と遭遇した事がラオウの心にとある変化を僅かながら起こしている。
 この作品でもユリアを手に入れようと考えているが、自分の側近の双剣のレイナが自分に特別な想いを抱いているのに気付いている。
 天を握ると言う野望は変わらないが、その野望の事を考えるたびに、昔言われたある出来事が離れない世紀末覇者ラオウ。



  アミバ
 
 ある意味今回の作品の一番の敵。
 昔レイにより手酷くやられた事や、奇跡の村でトキとも同じように対峙した事もあって深く劣等感などの負の感情を抱いている。
 拳王軍に参入し、自分を馬鹿にした奴達に復讐、願わくば世紀末で思い通りに出来る力を得たいと考えている。




  ジャギ(北斗の拳)
 原作最後でケンシロウに怒拳四連弾(どけんよんれんだん)を喰らい、今までの悪事を償う為等活地獄で刑期を過ごしている。
 この作品では孤児でスラムの生活をしている時に不良をのしていたのをリュウケンに見込まれ伝承者候補になったと言う設定。
 地獄から引っ張られ極悪の華のジャギに『非情』さを教える為、数年間影の師として『ジャギ』に南斗邪狼撃を極めさせた。
 夢に近い精神世界で咲いていた花を共に、地獄で『ジャギ』がどう運命と闘うのかを嘲笑いつつも見守っている。










   --------聖者の誕生--------



それは突如の地鳴りであった。ケンシロウとユリアを連れて『ある荷物』を抱えてシェルターを目指す私達。
 目指す道中逃げ惑う恐怖を張り付かせた人々が脳裏に焼きつき、私はこう言う時何も出来ない自分の無力さを噛み締めていた。
 
 「……兄さん、早く、行かないと」

 「……わかっている」

 駆け足でシェルターを目指す三人。私はある程度平気だが、女性でもあるユリアには、そこまでの距離も辛く荒い息遣いが耳に届いていた。
 平気か? と目線を向ければ、その視線に力強い笑みを向けるユリア。……やはり強い人だ。私の心には少しだけ報われぬ痛みが走る。

 そして辿り着いたシェルター、そこで見た光景はある意味では私達には絶望であった。

 「す、すみません……! こ、この中には後一人……いえ限界で二人までです! それ以上乗れば扉が閉まらなく……!」

 不安で怯え泣く子供達を抱かかえる年長の女性の言葉に、唇を思わず噛み締めるケンシロウ。そして自分でも不安であるだろうに
 その肩をしっかり支えるユリア……。その光景に神秘的な雰囲気を思うと同時にジャギから『ある物』を渡された際の場面が思い出された。





 ……場面は核が落ちる三週間前、座禅を組み精神統一する私の元へ小さくはない荷物を担いできたジャギ。

 私はどうしたのかと尋ねると、それにジャギは答えはせず荷物だけ投げるように渡してこう質問を返した。

 「……兄者、兄者はケンシロウとユリアに幸せになって欲しいと思うか?」

 「……何だいきなり? そんな事は当たり前だろう?」

 私が心中の深い所でユリアを想っている事はジャギも見抜いている筈、何故唐突にそんな事を尋ねるのだろうか? 

私の疑問を余所に言葉を続けるジャギ。その瞳は全てを見通しているように錯覚させる。

 「ならよ……。話しは変わるが、……これはトロッコ問題って言う倫理テスト見たいなもんだが……もしも、兄者とその二人がいて
 一人だけ犠牲になったとしたらよ……兄者は自分を犠牲にするのか?」

 私はジャギの意図は読めないが、その質問に真剣に返す言葉を探した。ジャギが無意味にそう言う質問をする事はないと思ったからだ。

 「……するだろうな。私も犠牲にはなりたくないが……二人は愛し合っているのだから」

 「……兄者も男前だから何時か好きな奴と巡りあうとしてもか?」

 「プッ……! あ……いやすまない。……男前なんて初めて言われたな」

 私の思わず噴出した様子にも、ジャギは包帯の奥から苦笑いしか覗かせず、そろそろ私の元を離れる雰囲気が現れだした。

 「……その、よ。そう言う状況に陥りそうになったら『それ』を開けてくれ。あ、言っとくがユリアとケンシロウと一緒にいる時は
 必ずその荷物を持つようにしとけよ? それで危険な時だ。
 ……それ以外ではなるべく開けないでくれよ?」

 「……ジャギ? お前は何を……」


 『約束だぜ? 兄者』

 何故か、最後の力強い言葉に、私はジャギへ問うのを止めざるを得なかった。


 ……そして私は無意識に『それ』を開封し……見た瞬間、ジャギの思惑を理解し、私は二人をシェルターへ突き飛ばした。


 「……ト、トキ兄さん……!?」

 
……ケンシロウ、ユリア……すまない。

だが、詳しく話している時間はない。だ私は大丈夫だと言う力強い笑みを、閉める直前に見せる事は出来たと思う。
 頑丈な扉が閉まる音。それを確認し、地響きを立てて迫る死の灰の音が迫っているのを背後から感じると、急いで私は『ある物』を
 被った。……ジャギよ、お前の考えは読めたぞ? 私がもしコレを早く開けていれば他の者へ渡していたかもしれないからだな?
 私はそこまで分かり易い性格だったかな、と笑みを浮かべつつ『ある物』越しに死の灰が迫るのを視認しながらジャギの声が聞こえた気がした。



    『……あんたは何時でも分かり易いよ。今頃気付くとは……兄者、腑抜けたかぁ?』



    (……ふっ、ジャギ。……その通りかもしれんな……)


 死の灰に飲み込まれながら、空耳かも知れぬジャギの呟きに、トキはそう最後に頭の中で言葉を返した。









     -------二週間後-------




 ……放射能値が安全レベルまで下がるのが点灯ランプで表示される。

 そのランプの意味を理解した子供は喜びの声を上げる。けれど、ユリアは依然として暗い表情で俺の顔を見遣っている。
 ……大丈夫だ。 俺は力強くそう頷くと、ユリアは少しだけ口元に笑みを作る程は元気が出たらしい。……俺は扉を開ける為一呼吸置く。
 
 ……扉を開けた瞬間、そこには倒れ付す兄の姿が飛び込むかもしれない。いや、それよりももっと悪い光景が……。
 俺はその最悪の想定を振り払う。大丈夫だ……最後に兄が見せた笑みは達観の笑みでなく、何かを秘めた微笑だったではないか。

 引き摺るようにして扉は開く。白い死の塵が一瞬舞い上がりかけ、すぐに落ちた。……扉を開けても、誰もいなかった。
 
  ……!? ……いや、待て! 何か引き摺るようにして出口へ向かった痕跡が見える。隣へ来ていたユリアも瞳に期待の光を宿す。
 ……俺は頷くと、ユリアを連れ外へ向かった。……もしや、もし俺の期待が正しければ……! ……あの外の向こうには……!!





  ……外は荒廃。廃墟が点々と並んでいる光景にユリアが俺を掴む力は一瞬強まる。そして辺りを見渡し、俺は硬直した。






                        あれは……                    あれは……!!




    


                              「…………や、やあ…………!」




    照れた表情を見せながら、少しだけ頬が痩せこけているのが見て取れるも元気な様子のトキ兄さんがいた……!!


 ユリアと共に抱きしめつつ、俺は至極真っ当な疑問を口にする。……何故トキ兄さんは無事だったんだ?

 その俺の疑問に、一瞬詰まった様子を見せてから、トキは隣にぼろぼろになった袋状の物を指し、こう言った。

 「……ジャギが……ジャギが私に……『放射能防護服』を渡してくれたんだ」


 「……!! ……ジャギ兄さんが……! !?ジャギ兄さんは何処に!?」

 「それも含めて伝えたい事がある。……ケンシロウ……一先ず」

 「……?」

 「……生きて……生きてまたお前達に会えて私は幸せだ……っ!!」

 そのトキ兄さんの言葉に、俺は目頭が熱くなるのを感じながら、この優しい兄の体を思いっきり抱きしめた。







                              鉄の聖者       誕生











   


    あとがき



 




ジョニーは結局ケンシロウに秘孔を突かれたのでしょうか?

 私はそれを考えると五秒間眠れません(´・ω・`)





それと、その他版へ変更した方が良いんじゃ? って言われたけど
 どうするべきでしょうか? 皆さんのご要望に従うことにします。


 



[25323] 第五十二話『どんなに不器用でも変わらない』【第二部開始】
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/23 18:52

   
  

       「どうやら……! 天はこのラオウに生きろと言っている……!」









  北斗寺院のとある一角。その場所で死闘を繰り広げる、リュウケンとラオウ。
 七星点心を使いラオウに後僅かで敗北を付かせる一歩まで近づかせるリュウケン。だが皮肉にも、病はリュウケンの勝利を嘲笑った。


  
  「……神よ、今しばしの命を!」


  「褒めてやろうリュウケン! 我が拳の糧となるがいい!」

 迫り来るラオウの拳。その自身の命を刈り取ろうとする死の気配に、ただリュウケンが思うのは何か? その疑問に答えず、拳は迫る。

 



 ……いや、未だ神は居たらしい。その拳が後僅かでリュウケンに触れるか否かで突如の咆哮がラオウの拳を止めた。







 

                   



                       「ラオオオオオーーーーーーーーーーーウウウウウウ!!!!!!!」








  ピタ。 止まるラオウの拳。そして首を捻れば般若の如く顔を歪めたジャギが迫っていた。……後方からはトキの姿も見える。
 その光景に分が悪いと感じたのか興醒めしたのがわからない。だが、事実ラオウは止めを刺さず、リュウケンから身を引いた。


  「……命拾いしたなリュウケン。……我が授けた束の間の命、楽しむがいい」

  「……ま……て、……ラオ」










  (partジャギ)


  ……危機一髪だった!!


 リュウケンを横に寝かせながら未だ収まらない動悸を落ち着かせつつ思考するジャギ。
 アンナをリーダーの場所へと返し、無事に再会出来た喜びを味わいつつ一旦寺院へ戻る事にした俺。
   (リーダーは少しだけ右腕に銃創を負っていたが『こんなもん唾つけてりゃ治る』と余裕だった)
 道中に、核の被爆地に近かった場所から鈍い動きで歩いてくる防護服の人間を発見し、それがトキの兄者だと理解すると合流。
   (一応放射能残ってるといけないから少し離れてくれよ? と言うと何とも言えない表情が防護服から見えたのが印象的だった)
  そして寺院へ辿り着き、トキの兄者と(勿論防護服は脱衣済み)俺で師父の安全を確認しようとして、何とか間に合った訳だ。



 (……実際間に合った訳じゃないけどよ。けど……史実をかなり捻じ曲げない為には、俺には……俺にはこうするしか)

 「ジャギ……約束を……果たしに来てくれたのか」

 え? と俺が何とか出血だけでも止めようと針治療をしている最中に言葉を投げるリュウケン、そして微笑み言った。

 「……私を守ってくれる……例え他に何が含んであろうと……子に恵まれぬ私には……その言葉はとても嬉しかった」

 静かに涙を流しながら……『師父』は……『リュウケン』は呟く。俺は何時しかただじっと……動かず『父』の瞳を見ていた。


 「……ジャギ……私は北斗伝承者候補の中で……お前を伝承者にする気はないと思っていたと言ったら……お前は」

 「師父」

 『俺』は全部を『リュウケン』が言い切る前に、その手を握ると言った。

「俺……俺は嬉しかったよ。『師父』の拳を学べて、『師父』の学んだ事を一緒に学べて……俺、今まで幸せだったよ……」

 『俺』の名を『父』は呟く。何で今更なんだろう? 何故死の間際にしかこれ程赤裸々に伝えられないのだろう?
 この今伝える言葉は『ジャギ』の言葉か? 『俺』の言葉か? 考えている間にも握る『父』の手から徐々に力が失われていく。


 「……ジャギ、もはや……目も……霞んできた。……トキ、お前もまた私の息子。そして今はいないケンシロウも……私の」


 


  「…………私の…………」





 反射的に『俺』は『父』へ気を流れ込ませようと手を翳す。そしてトキも必死で脇で一たび力を与えようと秘孔を突く。
 それは功を成した。リュウケンは、父は生気を取り戻した瞳を浮かべ、二人へ微笑みながら今わの言葉を呟く。

 
 「……ジャギ、トキ……北斗の掟を忘れないでくれ。出来るならば……ラオウの拳を封じる事を……頼めるな」

 頼めるか? と聞かないのは、最後の最後に『リュウケン』が『師父』が信頼を見せる、精一杯の態度なのだろう。

 トキは力強く返事を返す。俺はヘルメットを脱ぎ捨て、もはや息子の顔ですらない事も忘れ涙を流しながら叫んだ。


 





          「ああ……ああ!! 約束する!! だからよ『親父』!! 死ぬなよ!!」







  魂からの『ジャギ』の懇願。それに最後に瞳を開き、『ジャギ』の頬へ手を伸ばしつつ穏やかに呟いた。



                      「……『息子』よ、すまない……すまない…………」








                                『ありがとう』








                   「……師父? ……師父……親父……親父……!! と、……う……さん」











  それは自分が少しだけ変えた史実の風景。そして最後に霞 羅門。第六十三代北斗神拳伝承者リュウケンは幸せだったのか?

 それは誰も知り得ない。だが、その最後の顔は眠るように穏やかでいた事をここに執筆する。

 尚、この世界の史実で居合わせた人物のトキは後に語る。

 あの時私はいなかった。いたのはただ愛を伝えるのが不器用な父と息子、その別れだけであり、私はいなかった……と。











  「……ジャギ、サザンクロスへと行くのか?」


  「ああ……準備もあるから一週間ぐらいしてからな。……兄者はどうする? いっその事伝承者になっちまえよ」


  そのジャギの本音なのか冗談なのか判別し難い問いに、私は苦笑を以って答える。

 「……いや、師父の決まりを破ってまで私は伝承者になろうとは思わん。……ここで苦しんでいる人達の救助を手伝ってから
 ケンシロウとユリアが戻ってくるのを待とう」

 「……兄者の事だから不眠不休で救助活動するんじゃねぇのか? たいがいにしておけよ? 折角死の灰被らずに済んだんだからよ。
 それが元で体ぶっ倒れたら本末転倒だろうがぁ」

 そのジャギの言葉に降参のポーズをとるトキ。やれやれとした表情をヘルメットから見せるジャギに、トキは鋭く切り出した。

 「……そう言えばジャギ。……何故私だけに防護服を渡したのだ? まるで予知していたかのように」

 「すまん、兄者」

 遮り謝罪の意を込めて片手だけを出すジャギ。辛酸を舐めたような声を出す。

 「……全部済んだら言う。……それで勘弁してくれねぇかな?」

 その雰囲気から聞かれたら困ると言う気を出されると、トキはもはや再度同じ問いで困らせる気にはなれなかった。
 ましてや方法はどうあれ、このどうにも威嚇するような格好をした弟は自分の命の恩人であるのだから……。……そういえば?

 「……もう一つ尋ねたい事があるんだが?」


 「あん? 手短に頼むぜ、アンナの奴へすぐ戻るって言ったから心配して……」

 「先ほどは状況が状況で細かく確認はしなかったが、お前の顔が変わって」

 


 「さいなら」

 


 「ジャギ!?」

 私の質問を最後まで聞かず、ジャギはバイクの排煙を多量に流しつつ私から去って行った。




                             ……まったく……困った弟だ……。




 ……ジャギ、お前と私が師父から承った約束……何時か果たす時が来るだろう。……我が兄との約束もある。


 



       ……それまで、少しであるがお別れだ。













 あとがき




検討の結果二月に入ってからその他版へ移る事にします。皆様もご了承下さい。






後某友人が『北斗の拳TS化したら激カワってボルゲだよな(笑)』って言ってた。






  ……あいつ北斗の世界でも最後まで生き残るんじゃねぇ?(´・ω・`)








[25323] 第五十三話『ドスジャギィ狩り装備』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/24 12:11
 
  

                   西暦199X年!    



                地球は核の炎に包まれた!!





                     だが!!!






                人類は死に絶えてはいなかった!!!!  










       ここはとある荒地、黒煙が立ち上っている村が見渡せる通路の横でいかつい格好のモヒカン達が騒いでいた。

 モヒカン達の周りに散らばっているのは強奪品の食料・武器・衣服などの生活に欠かせぬ物ばかり、奪った食料を片手に声を上げるモヒカン。

 「ヒィイイハアアァ!! 最高だぜ! 食料庫なんぞ洒落た物があったお陰で一ヶ月は当分食い物には困らねぇ!」

 「笑いが止まらねぇよ! あの村、今度寄った時にも襲おうぜ! ついでに良さそうな女もいたから次はよぉ……」

 「おお、そうだな!! 今日の所は欲張るといけねぇと思って物だけで我慢したけどよ。もはや俺達を邪魔する奴はいねぇんだもんな!」


 「ああ!! 今は俺達悪魔が笑う時代なんだぜ!!」


 哄笑を上げながら騒ぐモヒカン達。だが、最後の言葉を区切りに宴は終わりを告げる。モヒカン達のたむろする上方から、突如
 小馬鹿にしたような口調、それでいて上空に輝く太陽から降ってきたように声が上がったからだ。


「ふーん? それじゃあ悪魔退治をするのにこっちは別段理由は要らないよね?」


 その声に、誰だ!? と困惑の声と共にその声の持ち主の居る方向へと見上げるモヒカン達。
そこには、緑色のバンダナを巻いた金髪の女性。両手に拳銃を掲げながら不敵な笑みを浮かべてモヒカン達へ太陽を背に見下ろしていた。


 正体が女だと理解した瞬間。モヒカン達は下種な笑みを浮かべ口笛を吹きながら驚かせやがって……等と呟きつつ声をかける。

 「おい女! 何の用で俺達に用があるんだ!? あっ、食料だな!? それだったらてめぇの体で交換してもいいぜ?」

 そう厭らしく提案するモヒカンへ、金髪の女性……アンナは返事を返す。     
 「う~ん……折角のお誘いだけど、私、あんた達見たいな集団が死ぬ程嫌いなんだよねぇ……。だからさ……」

 ガチャ……構えた拳銃を一人のモヒカンの頭へ定めつつ、悪戯気な口調で言った。

 







                       「鉛の弾と交換って事で」


 そう呟き、呆気なくモヒカンの脳天に血の華を咲かせた。

 どよめくモヒカン、そして女を仕留めろと焦った調子で手元に置いてある武器を取ろうとする。だがアンナの初動の方が速い。

 空中へ跳び体を捻りながら二丁の拳銃を地面にいるモヒカン達へ定めるとフルオートで連射する。
 銃弾の雨はモヒカン達の七割の頭へと確実に命中させ、アンナが地面へ華麗に着地する時には、モヒカン達は三、四人しか残ってなかった。


 「い、いかれてやがる……!? こ、この女!」

 「落ち着け馬鹿! ……へへ、いい腕しているけどよ、そんなに撃ったらもう弾なんぞねぇケベッ!!??」

 そう馬鹿にした口調のモヒカンは、アンナの一発の銃声と共に額に穴が開いた。

 「うん、今ので最後の一発」

 何気ない口調でそう喋るアンナに、モヒカン達は殺気を漂わせながら刃物をちらつかせ震える声色で言った。

 「……このアマ、ここまでしてただで済むと思ってねぇだろうなぁ? 切刻んでやるだけじゃ済まねぇぞ!!」

 「おうよぉ! 弾のねぇ銃弾なんぞ鉄屑と同じだ!! 弾丸がまだあっても替える暇なんぞ与えねぇ! てめぇの手斬り飛ばしてやる!」

 「……いや? 銃弾はもう空だよ。だけど……」



 そうモヒカン達へ平坦な口調で呟き二丁拳銃を何気ない動作で地面へ落とす。そのアンナの不気味な程の冷静な態度に思うように
 襲い掛かれないモヒカン達へと笑みを浮かべながら、アンナは両手を拳銃の形にしてモヒカンへ向けると、言い放った。


 「……悪魔を倒すのに、私にはこれで十分」


 その言葉を聞き、生き残っているモヒカン達は大声で笑いながら罵声を上げた。

 「ケッケッケケケヶ!! このアマやっぱいかれてやがる!」

 「そうだなぁ! ……馬鹿にしやがってこのアマ! ……気が変わったぜ、喜んで腰振らせる位になるまで犯してや」




 


                     『……北斗蛇欺弾(ホクトジャギダン)!!!』





 その悪役めいた台詞が男達の最後の言葉になる。

 上空から聞こえた声。それと共にモヒカン達の脳天へとあらかじめ狙いを定めたかのような銃弾が貫き、モヒカン達の生命を永遠に絶った。
 その銃弾は普通の直線の軌道を描く物理的エネルギーすら欺いて、蛇の如く空中を自在に動きモヒカン達へ着弾したのだ。




 「……ジ・エンド……なんてね」

 拳銃の形を作った人差し指に息を吹きかけながら、そう口にするアンナ。
 モヒカン達の屍を通り越し、銃弾を放ったいかついヘルメットの男は疲れた声でアンナへと声をかけた。

 「……頼むからよ、無茶はしないでくれ。俺様が一人で片付ければ済む話しじゃねぇか」

 「まぁまぁジャギ! 私だって早くこの拳銃使いこなしたいし! だいだい私、結構格好良かったでしょう?」

 「……そう言う事を言ってるんじゃねぇっつうの。……ったく、頭がいてぇ」

 ジャギと呼ばれた男は溜息を吐きながらヘルメットの頭部を押さえる。空いた片手には先ほど銃弾を放った所為で未だ少しだけ銃身が熱い
 ソードオフ・ショットガンが太陽に照らされていた。


 サザンクロスへ向かう道中。増え続けるモヒカン達によって阿鼻叫喚を上げる町の人間の懇願に、何度かこの二人は似たような事を
 行っていた。その度にジャギはアンナの果敢にモヒカン退治する場面で胸中穏やかじゃなく、ほとんど父親のような気分を過ごしていた。


 「……だいだいこれで五度目ぐらいだろ? もう銃の扱いも慣れただろうが?」

 そう口にしつつ銃弾を替えようとするジャギの耳に、物陰から殺気に満ちた歯軋りの音が届き、アンナだけに気付かせる合図を目で送る。

 「けど、リロードするまでに南斗聖拳で避けていると不意打ちされる危険がやっぱり付いて回るんだよね。……昔の水鉄砲で
 遊んでる時見たいには上手くいくはずがないよね。……あの時の必死なジャギの顔……楽しかったなぁ」

 過去の記憶に浸りつつ、アンナは悟られぬように、お尻の方に差していたシングルアクションアーミーのグリップを握った。



                         「死ねぇ!! てめ」



 
                     


                  「北斗邪技弾!(ホクトジャギダン!)」

                 「jade give!!(緑を喰らえ!!)」


 ……投擲用のチャクラムのような物を握り締めながら、ジャギの気弾と、アンナの銃弾の錆びへとモヒカンは散っていった……。


 「……そのネーミングセンス。ちょっとどうかと思うんだけど?」

 「アンナの決め台詞もだろうが。何だ『緑を喰らえ!』って?」

 「いや、銃弾喰らって死ぬ瞬間多分緑色が視界を満たすかなぁと。私が死んだ時って最後に何か緑色の帯状の物が」

 「悪い、俺が悪かった」


 悲痛そうな声で謝罪するジャギのヘルメットを撫でながら、アンナはと言うとシングルアクションアーミーを貰った時の回想を浮かべた。












   「……おぉ、助かったよ若い娘さん。もう下敷きになって二日位経っておったからな、駄目かと思ったよ」

  「おじさん、その割りには余裕がありそうだね」


 兄貴の元へ一旦帰ってから付近の救助活動及び物資の収集。兄貴は「心配かけやがって……!」と泣きながら私を抱きしめ、苦しくて
 申し訳なさが立った。そして今、家屋に潰れていたおじさんを引っ張り出して話しこんでいる最中である。


 「……うち銃砲店を営んでいたんだけど、この騒動で大半盗まれたり壊れたりでもうまともな品残ってなくて終わりだわ……。
 ……まぁ悔やんでも仕方が無いから別の町で昔のように品物の修理屋でもしようかねぇ」

 「それがいいよ。私の兄貴、少ししたら実家のある場所へ帰還すると思うから一緒についていけば?」

 「そうすっか……。お嬢ちゃんは一緒にいかんのかい?」

 その言葉に、私は好きな人を脳裏に映しながら笑いつつ言った。

 「……放っておけない人がいるから」

 「そうかい……。おぉそうだ! これ、箱の中で入れてたんだ。よけりゃあ持っていってくれ!」

 そう助けたおじさんは頑丈そうな箱の中に入れていた鈍く銀色に光拳銃を取り出した。……これって西部劇とかに出てくる銃だよね?

 「いや、私はもう(兄貴から貰った)拳銃二丁あるし」

 「遠慮すんな! せめてものお礼だよ。それにな……こいつはとある曰くつきの品物でよ……」

 怪談話でもするように、突然低音で話をするおじさん。

 「……何でも昔刑事だっだ男が、とある組織を壊滅させる為に使った呪いの銃だって話なんだよ……! しかもその銃は放てば
 百発百中なんだが、撃つたびに命を削ると言われ……!」


 「いや、いらない」


 そんな危険な代物を渡すな、と、すぐさま踵を返そうとするとおじさんは慌てた声で言った。

 「すまんすまん! 冗談だ!! ……けど遠距離でも八割程で命中出来る優れもんだってのぉは間違いねぇんだ。……本当に要らんか?」


 そう涙目で訴えかけるおじさんに、アンナは呆れと疲労の声を上げて、承諾するしかなかった。



  「良かった良かった!! 銃弾は全部で六発しか撃てんから気をつけてなー」


 そう声を投げかけるおじさんを背に、私は鈍く不気味に輝く拳銃を見上げつつ、小さく舌を出して心の中で呟いた。



   


           (……呪いだが何だか知らないけど……こっちだって普通の女じゃないんだからね)







    緑色のバンダナを微かに揺らし、アンナはジャギの背を追う。

 そしてこうも思う。貴方の力には及ばないけど、この銃弾の数だけ貴方の命を救えればいいな、と。















    あとがき


元ネタヒロモト森一作『シングルアクションアーミー』


 


 『武死道』の刀も出せたらいいなぁって思っている。






[25323] 第五十四話『潜入! サザンクロスの策動!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/25 19:14





                           「いっ! いてぇよぉ~! いてぇよぉ~~!!」





                      「ひぃ~ひっひっぃ~!! どうだぁ~! 悔しいかぁ~! あっはっはっはっは!」





                    「……(猿轡を噛まされつつ絶対零度の視線でジャギの事を半眼で見ているアンナ)」






   さて? 何故このような状況に陥っているのか? 時間は半時間前へと遡る。






  「……何だ? 門の前が騒がしいなぁ」

  「とりあえず言ってみようか? 正門からしか入れないでしょ」




 五日間でおよそ三十回程のモヒカン集団を殲滅しつつ、ようやく見えたサザンクロス。

 お風呂入りたい!! と声を上げるアンナへ溜息を吐きつつ、頑丈に塀で囲み頑丈な拠点となっている場所へ辿り着いたまでは良かった。

 ……入り口で何やら口論している声。そして遠方からでも視認出来る巨漢が困ったように両手を振っているのが見える。……あいつは?

  
 「……KINGの命令です! 私を一度でも地面に倒せるならば構いませんが、それ以外では通す事は出来ません!!」

 「頼むから通せ! 俺は別に構わん、だが息子と妻だけでも中へ通してくれ! 食料ももはや尽きかけているんだ!!」

 「……っ、申し訳ないですが無理な物は無理です!! ……申し訳ない」


 入り口を塞ぐように立っているのは、見覚えのある豚に似た体型、それと顔に鮮やかに見えるハートーマーク……ハートだな、如何見ても。


 「……あれってハート……だよね?」

 「だな……何で入り口で門番やってんだ? ……おいそこのお前、何が如何なってるか教えろ」

 近くにはテントを建てている人間がちらほらと見え、手近な人間へと顔を近づけて質問するジャギ。

 「……え? ひっ!! お、お助け下さい!! しょ、食料なら渡しますから!」

 「……俺はモヒカンと同程度に見られてんのかよ」

 「すいません、この人こんな風だけど偶にしか取って食いやしませんから」

 「まるで時々やっているような言い方すんな! アンナ!!」

 その漫才のようなやり取りを見て、危険性がないと判断したのが質問をした男は冷静になるとジャギへと口ごもりながら答えた。

 「あ、ああ……どうも二日前は被災した避難民も快く町へ入れてくれてたようなのによ。……何故か知らないけどいきなり門番が
 立たされて『私を倒せない限り町へは入れません!』なんて言うんだぞ!? おまけにあいつに挑んだ人間全員返り討ちだよ……」

 「……あいつ、誰が挑んだ奴、殺したか?」

 「あっ、それはなかったな。昨日から『この私を地面に転ばせる事が出来れば入れてあげても宜しいですよ』って難易度下がったし」

 その言葉に腕を組んで思考するジャギ。シンが考えるはずはない、それにハートが本気を出せばここにいる人間を血達磨へと
 容易く変えるだろう。ならサザンクロスに奇妙な異変が確実に起きているという事だ。となると……。


 「私、ちょっとハート君に聞いてくるね」

 「あん……、…………は!? おい、ちょっと待て!!?」

 埒が空かないとハートへと駆け寄るアンナ。……ったくあいつちょっと脳筋になってんじゃねぇのか!?




  ……ドサッ!! 吹き飛ぶ男。唇は若干切れ、悔しそうに男は地面を叩く。

「……くそっ! 何なんだあいつの体は!? まるで割れない風船見たいに拳がめり込んで、そして腹だけで歯が立たないなんて……!」

 その男の言葉を聴きつつ、ハートは腕を組みながら溜息を吐く。

 「……はぁ~、貴方がたでは私を倒す実力には及びません。……誰が私を倒せる実力を持ってる方はいないのですか!?」

 「ここに一人いるけど」

 切願するハートに聞こえてきた、若い女性の声。何処だと首を振って見渡すと、自分の下から声が上がった。

 「ここ、ここ! そんなにウスノロだと足にロープかけて転ばせちゃうよ?」

 「ははっ、勇敢なのは結構ですが私はウスノロじゃぁ」

 その時、ハートの笑顔は過去の情景が過ぎった事により、真面目な顔つきへと変貌した。

 「……も、もしやアンナ様ですか? ……そう言えばあの時正気を失っていた時も同じ事を言われ……そのバンダナ、顔つき……」

 「思い出した? 私の他にユリア、サキの事。後、石から身を挺して守った事も覚えている?」

 「おおっ……! やはり、貴方でしたか!」

 ぶわっ! と涙を滲ませ膝を付きアンナへ握手するハート。それは先ほどまでの威勢さを金繰り捨て、若干体も小さくなったように見えた。

 「……頼みます。どうかKINGを! サキ様を助けて下さい! もしくは頼れる方へ連絡して貰っても構いません! どうか!!」

 「……話が見えねぇなぁ。何が起きてんだ、今このサザンクロスによぉ?」

 そう目つき悪く近寄るジャギ。ハートはアンナを守るように巨漢に似合わぬスピードで立ち上がってアンナへ声をかける。

 「アンナ様、お知り合いで?」

 「……あっはっはっは……警戒しなくていいよ。ジャギもそんなに睨んでいたら凶悪犯だと思われても仕方がないでしょ?」

 「……生まれつきだってんだ。この目は」

 投げ遣りな口調で吐き捨てるジャギ。だがアンナが呼びかけた声で、ハートがジャギを見る顔が変わる。

 「……もしやKINGが話していたジャギとは貴方の事ですか? ……おぉ! ようやくこの国を救う手立てが生まれましたよ!」


 「いや、だから話しが見えねぇんだって! 何が起きてるのが詳しく話せや!」

 自分だけで一喜一憂をしているハートに痺れを切らして怒鳴るジャギ、アンナの介入もあってようやく落ち着くと、ハートは語り始めた。






  


  ……核戦争によって荒廃へ追いやられた世界。幸いにも被爆地を免れたサザンクロスでしだが、核の影響で起きた自然災害だけは
 防ぐ事は不可能です。地震、火災、そして悪天候による風害、冷害……だが、KINGは冷静でした。

 『……女、子供はすぐに地下へ避難させろ! 動ける男はバリゲートの強化を急げ! 絶対にサザンクロスの民一人残らず救うんだ!』

 KINGの冷静な判断と指示によって、それはもぉ国民の九割は救われたと言っても過言ではありません。
 
 私の入っていた刑務所……もう機能はしていませんが、そこからも人手を頼まれ人一倍の筋力がある私も救助活動、防壁強固へと
 尽力を尽くしました。……その甲斐もあってかKINGへと賞賛も兼ねてKINGの下で働くことを許されたのです。
……何故私がKINGと呼ぶのかって? そりゃあこのサザンクロスの指導者は勿論シン様ですから。私だけかもしれませんかKINGと言う
 呼び方がしっくり来るんですよ。……KINGは余り嬉しくなさそうでしたが。

 ……話は戻しますがサザンクロス復興がほぼ完了は一週間と経たず終わる事が出来ました。核の猛威にすら負けず人々が活気を戻し
 笑顔を見せながら修復や商店を出しているのをKINGは見下ろしつつサキ様へこう話すのを盗み聞き……いえ、耳に挟みましたね。

 

 『サキ……核により世界は新しい時代となった。……だが人々の笑顔は変わらない……サザンクロスは私の宝だ……』

 『ええ……シン様、私も嬉しいです。貴方が善政を志し、笑顔で民を守っているのが……』

 『……サキ、このサザンクロスも我が宝だが。私にはそれ以上の宝がある』

 『……? それは何ですか?』

 『……サキ、お前だ。お前は私の后となって貰いたい。お前は女王だ、この国の女王にしてやる』

 『……っ! ……私のような、下賎な身分でも……愛してくださると?』

 『何を言っている、お前の暖かい笑顔があったからこそ、今の私がここにいる。力こそが正義! いい時代になったものだ。
 強者は心おきなく好きなものを自分のものにできる。サキ、お前は私の者だ。ただ一人、俺の愛する者……。下らぬ身分の違いや
階級制度などもはや、この時代に必要ない。ただ俺はお前だけでないと駄目なんだ。……俺を愛していると言ってくれ』

 『……っ、シン様……!』

 『様は要らん……ただのシンで良い』

 『……シン、愛しています。一生お傍に……!』

 『……サキ、俺もだ』

 ……まあこの後、私はこのような体ですからすぐに見つかって二人にお叱りの言葉を長々受けましたが、本当に幸せそうでした。
 ……そして突如悪夢が襲ったのです。……悪夢が……。







 
 


 仲睦まじくサザンクロスの民からの感謝の品物の中にあった宝石類をサキへ渡すシン。幸せそうに微笑むサキ。
 ハートはそんな二人をにこやかに見ながら手の届かぬ汚れた場所へ雑巾を手に掃除をしていた。……そしていきなり扉は開け放たれた。


 「……KING。ご加減はどうですかね?」

 「む? バルコムか……何用だ、私は今サキと……」

 「いえいえ、そのままで結構。大したお話ではございません」

 ……思えばこの時私は異変に気付きサキ様の傍にいれば良かったのです。そうすれば……少なくともあのような事には……。

 「KING、あなたの優れた政治能力、感服します……。地下で行っている資源の再生活動。そして貴方自身の強さにもねぇ」

 「……何が言いたい? バルコム」

 不穏な気配を察し、サキ様の前へ立つKING……それがいけませんでした。

 「だが、そんなサザンクロスの王となる貴方にも意外や意外、致命的な欠点が生まれてしまうとは! ……そう、貴方の愛するお方が
 今まさに命を握られている状態になるとはねぇ……!」

 なっ!? と声を上げKINGが振り返った時には既に遅く、サキ様の背中へともう一人の副官ジョーカーがサキ様を捕えていました……。

 「……バルコム……っ!! 貴様ぁ!!」

 ノンノン。指を振りながら冷静な顔でそう呟きバルコムは続けました。

 「許して欲しいとは言いませんが、私もKINGに実力で勝つのは難しいのでね。これも貴方が悪いのですよ。そう、貴方が」

 「俺の……所為だと……!?」

 「そう……豊富な資源、そして残っている戦略兵器に安定した食料を確保出来る場所。……そして貴方の統率出来る地位は
 喉から出る程欲しい物でね……。……他の者も賛成していますよ。もっとも一人だけナリマンが反対していましたが……今の貴方の
 状況のようにサキ様を殺すと脅せば快く承諾してくれましたよ。……本当、やり易くて助かりました」

 「……このままでただで済むと思っているのか……! 貴様……殺してやる!」

 「怖いですね……ですが指一本でも私に触れようとしたら……貴方の想像通りです」

 「……シン……! 私の事は構わず、グッ!?」

 「大人しくして貰いましょうか? 女性にこちらも手荒な事はしたくない」

 「や、やめろ!? サキを少しでも傷つければお前達全員……!」

 「……ええ、ですからお二人には別々の場所で幽閉さして貰います。……ご安心を、サキ様には手荒なことはしません。
 ……『貴方達』が可笑しな事をしなければ」

 その時、隙あればジョーカーに飛び掛ろうとしていた私の心も機敏に察していたのでしょう……恐ろしい奴です。

 ……私はすぐに命令で入り口の門番としてKINGとサキ様から隔離されました。そして奴はこの国をゆっくりと自分達の思い通りに
 しようと企んでいるのです……。







 「……なる程……シンの善政が皮肉にも奴等の嗜虐心を煽っちまったって訳か……」

 「……酷い話だね! ……それで、どうやってサキとシンを助ける?」

 「まず、私が無傷でお二人を通したら奴等の兵が間者を送られたと気付かれてしまいます……八百長でも私を倒さないと……」


 その言葉に、俺は荒い鼻息を一つ出して……哂いながら呟いた。


 



 
 「……何だ……これ程簡単な事はねぇ……おいハート、アンナ、耳貸せ……」









 ……そして話しは冒頭へと戻る……。





 (な……なる程、わざと出血の多い場所を切り大げさに倒れさせるまでは理解しました。……そしてこの国に悪意ある人物と
 思わせて何食わぬ顔でバルコムに近づこうとは思いも寄りませんでした……!)

 血だらけで叫びながらも、ジャギの巧妙に心の中で感心するハート。そしてジャギはハートの頭に足を乗せ哂いながら考える。

 (とりあえずバルコムと手を組む振りをしてシンとサキの居場所を聞き出す。……サキの奴をまず助けねぇとシンが動けねぇからな)

 そう思考展開の中、ジャギは冷たい視線が自分の後方、握っているロープの場所から感じているのを必死に無視していた。

 それはジャギの奴隷役として猿轡を噛まされているアンナの視線だった。

 (……別に良いんだけどさ、これってあんまりじゃない? とりあえず我慢するけど、ジャギ……終わったら覚悟しなさいよ!!)

 三人のそれぞれの思惑を受けつつ、サザンクロスの入り口の兵達はその様子を見てから大きな声で言った。




            「……開門!! 二名、サザンクロスへの入門を許可する!!」













 あとがき




 ジャギはシリアスだと大塚さん、名台詞で戸谷さんだと思う。





 ……アンナに声優付けるとしたら俺のイメージだと石橋 けいさんかな?





  



[25323] 第五十五話『アサシン・ジャギードⅡ』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/28 19:05

   サザンクロスの兵の間を通り、不穏な気配を発しつつ表情の読めぬヘルメットの男が首輪をした女を引き連れ歩く。
 
  それを遠巻きに見物するサザンクロスの住民。ざわざわと声が入り混じりつつ男は傍目平然とした様子で歩いていた……歩いていた。




  『……避難民を迎え入れるのが突然途切れたと思ったら何だあいつは? どう考えても悪人じゃないか……』


  『しかもロープで引き連れているのは金髪の娘は奴隷か? 何て可哀想に……』



    『これからサザンクロスはどうなるのかしら……統率者のKINGは突然体調を崩したと伝えられたばかりなのに……』



    「……ねぇマーマ? 何であの人ロープで女の人を連れているの?」


    「こ、こらっ!? 指を差しちゃいけません!!」


 ……最後の台詞を言った小さな男の子と母親の声は、はっきりと自分達にも聞こえた。

 『……お~ぼ~え~て~なさいよ~……ジャギィ~!!』

 (……俺全部終わったらどっちにしろ殺されるんじゃねぇのか? おい!?)


 現在統率者となっているだろうバルコムかジョーカーに接触する為に、あえて悪人になりきり堂々と歩いているが、アンナの怒りに満ちた
 低い呟き声が霊王の体のスペックの所為かはっきりと耳に聞こえてしまい無性に何処かへとバイクで逃げ去りたい気分だった。








   「ひっ……お、おやめ下さい! む、娘をどうするつもりなんですか!?」

 「あ~! うるせぇ~な! バルコム様のご命令だ! 綺麗な女は全員城に集めるようにとのご命令なんだよ!」

 ……如何にも悪人面のサザンクロスの兵士服をパツンパツンに破けそうに来ている大男が父親と娘らしき人間へ脅迫している。
 ……と言うか放射能でこの世界の一部の人間は巨大化するのか? と呆れた感情が襲ってくるが、その思考はとりあえず置く事にした。

 「お、お願いします。父は体が弱く私の助けがないと……!」

 「あん~? 体が弱いだぁ~? そんなら大変だなぁ~?」

  大男の声が異質になる。……このままだとあいつ父親殺すな。どう見てもその通りです、有難うございました……じゃねぇだろ!!?

 「は、は『それじゃあよ、俺様が介助しなくて済むようにしてやる』……え?」

 女性は不意に声をかけた俺へと顔を向ける。兵士服を着た男も同時だ。……少し緊張するが止むを得まい……ジャギ、行きまーす!!

 「おい、お前」

 「な、何だお前は? 私の娘、ジェニファーには指一本触れ」

 「俺の名前を言ってみろぉ!!」

 胸倉を掴み、二人の見えない所で仮死状態にする秘孔を突く……よっしゃあ! ここでアミバッたら俺自殺もんだった!!

 「お父さん? ……お父さん!?」

 嫌ぁ~! と悲鳴を上げて息をしていない父親へ寄り添う娘……自分でやっといて何だが胸が痛いな……大男は自分でやりたかったなぁと、
 残念そうに背中に背負っている大鉈をいじっていた。……あいつ俺が手を出していなかったら絶対に娘の親の体割ってたな……。
 ……てか、このジェニファーってアニメで見た気がするぞ? もっと勇ましかった気がするんだが……俺の気のせいか?

 「人殺し! 人殺し!! お父さんを帰してよぉ!!」

 「黙れ」

 定神(気絶するが落ち着く)を突き背負う俺。……アンナの視線が更に冷たくなって俺の胃の痛みも増す……泥沼にはまってるな。

 「おい、お前。偉い偉いバルコム様の所とやらに、これ運ぶんだろ? 案内しろや。俺様も用があるんでな」

 そう言うと、俺様も同じ穴のムジナだと観察して納得したのが素直に道案内をしてくれた……見ていた見物客の視線が本気で痛い……。







  


  「……ふむ……我が軍に入りたいと?」

 「お前さんがここの新しい指導者って事はよ、シンの糞野郎は地位を追放されたって事だろうが? 俺はあの野郎の下なんぞ
 死んでも働きたくねぇが……まあ、あいつ以外なら俺様は構わねぇからな」

 「……KINGとはどう言う関係だ?」

 「昔あの野郎に一生残る傷を負わされたのよ。……なんならこのヘルメット脱いで見せてやろうか? ……もっとも俺様の顔の傷
 を見た野郎を、生かしておく気はないがな……!(※前世的な意味で)」

 「いや、結構だ……ふむ、願ったり叶ったりだ。ハートを倒す程の実力があるならば拳法の実力は合格だろう。……最も私に対して
 危害を加える意思があれば別だが……」

 その言葉に、ジャギとして俺は手を振りつつ答える。

 「俺は俺に対して危害を加える野郎以外は襲わねぇよ。……シンに関してはこの顔の傷の礼をどうしても返してやらないと
 如何しても収まらねぇがな……! おい、あの野郎何処なんだ?」

 「安心するがいい。あいつは地下に幽閉済みだ。この二日間水も食料も与えていない」

 「……少し軽いんじゃねぇか? 俺様ならきつい拷問を長時間じっくりと与えるぜ」

 「いやいや、KINGの強さは侮れないのでね。お前も一回厳しくやられたのなら実力はわかるだろう? 今は女を盾に大人しく
 しているが、それでも何をしでかすかわからないから厳しい監視を続けてる」


 「……女? あの野郎に好きな野郎がいたなんて初耳だな?」

 「それは同然だろう。公然は避けて密愛していた関係だったからな。私も最近知って切り札として得たカードだ。
 ……KINGに忠実な部下として今まで従っていたが、本当にあの裏切られたと知った時のあの顔は今でも愉快だ!」

笑い出すバルコム、自分も口元に笑みを浮かべ頷いているが心中反吐が出そうな気分だ。……『ジャギ』ならどう思うのかな、こいつを……。

 「……女の方は美人か?」

 「おいおい! 気持ちはわかるがあの女は手強いぞ? 私達の物になればシンを自由の身にしてやると言っても首を振らん!
 手を出そうとしたら首筋に短剣を突きつけて『私はシンだけの物!』と言われ困っている所だ……」

 その話を聞き、最近感化されたのが、『ジャギ』の昔の感情が湧き出たように、俺の頭に素晴らしい事このうえない知恵が出てきた。

 「……なぁ、その女がお前の事を愛せばよ。シンの野郎は絶対に絶望に堕ちるよな?」

 「……何だ? どうやら良い案があると見えたか?」

 フッフッフッ……と笑いながら、人差し指をギラリと立てると、俺はこう言った。

 「奪い取れ……。今は悪魔が微笑む時代だぜ……?」






 俺が出した提案。それは自分が相手を思い通りに出来る秘孔を知っている(※実際知っているけどね)事でサキへ施すと契約。
 契約の代償として俺様にこの街で自由に民の生殺与奪の権利とかそう言うのを約束させた……恐ろしいほど楽勝だったな……。


 秘孔を突くのは相手の精神状態が一番弱くなっているだろう夜にした方が良いと言うと、わかった。それまで休んでくれと個室
 へ案内。……まあ扉の外側、部屋の中でも気配がするから軟禁状態だ、実質。


 猿轡と首輪を外すと、思いっきり大声でアンナが怒鳴ろうとするのがわかったのですぐさま手で口を押さえる。

 暫しモガモガ言っていたが、俺の目線を理解すると体の力を抜いて大人しくなった。……正直話が早くて助かる。
 アンナへと潜んでいる気配へ気付かれぬように話し合いをする。

 『……で、どうするの?』

 『夜になったらサキの元に案内して貰ってから助け出す。……アンナはその間シンの正確な居場所を探ってくれ』

 『了解、……後で色々文句があるけど、一先ず置いて……今どんな状況?』

 『……外に見張りが二人、部屋の中に二人気配がする……。……アンナ、すまねぇけど頼みがるんだが……』


 『……何?』


 「おい、お前脱げ」

 「アイアイサー」

 いきなり上半身を脱ぎ、形の良いブラが見える……って……。

 ……ッ!? ……気をとり直してそこぉ!! 


 部屋の中にあった堅そうな小箱を思いっきり視線が濃くなった場所へと振りかぶる。……天井からコウモリのような男が二人落ちてきた。



 「……これってドラゴンパトラって奴の部下?」

 「いや、ドラゴンとパトラだろ。……生きてるか? こいつら」

 いや、アンナの裸見ようとした時点で死罪も確定だけどな。と考えつつ蹴って反応を確かめてみると生きてた……しぶてぇな。


 「殺すか?」

 「考え方物騒過ぎない? ……とりあえず縛ってベットの下に詰めとこうよ」

 「秘孔で目を覚まさないようにしとくぜ。……永遠に目覚めさせないようにするのは駄目か?」

 駄目、と言われ舌打ちしつつベットの下へ蹴りながら入れた。……とりあえず外にいる二人組みもどうにかしなくちゃ……って、おい!?
 何故上半身ブラジャーだけのままでドアノブに手をかけてやがる!? アンナ!!!??

 「……何しているんだ、アンナ?」

 「いや、色仕掛けで外の二人を中に入れて気絶させるプランで」

 「却下だ却下!! 早く上の服を着ろ、馬鹿野郎っ!!」

 そんな怒らなくても……とブツブツ呟き先ほど脱いだ上の服を羽織るアンナ。……視界に移ったブラジャー越しの胸の形
 とか焼きついてこちとらそれを脳から削除するのに必死だ。

 「それじゃあ、潜入捜査に参りますか!」

 「……その手に持っているのは?」

 「え? 見ての通り銃だと気付かれるからブラックジャックだけど?」

 ……アンナの手に握られた、結構威力がありそうな重り袋。俺はもはやソレに関して口出しする事は放棄した。







  「……おい、酒が欲しいんだがよ?」

  「あん? 部屋の中にある物で我慢……ボフッ!?」

  「……! 貴様何スバッ!?」


  「ふっ、他愛もない」

  「……正規軍って所か? ……ライフル提げてる所を見ると下手な行動したら発砲されるな……気をつけろよ?」

  「了解、BIG・BOSS」

  「……誰だよ」

 気絶させた正規軍を部屋の中へ入れると、適当に自分のサイズに合っているのが一人いたのでその服へ着替える自分。

 着替え終わった自分に『似合う!』と褒めるが、……まさか最中は覗いてねぇよな?

 内部の中を堂々と歩く自分。ヘルメットは外しているので俺の事を知る奴はいないから容易に出歩ける。……前の顔ならアウトだな。悪人面だし

 「途中でここの女中の服を見つけられたのもラッキーだったね。ゆったりしているから武器も隠し易いし」

 「……あぁ、まぁな」


 色々と話し声を聞いてい見ると、バルコムに従っている人間と、疑問視している兵士が別れているのが聞こえる。
 当然かも知れないな。……バルコムが指導者になったら恐怖政治になるのは確実だ。だけど誰が何処で聞いてバルコムの耳へと届く
 か知れない恐怖で誰も手出し出来ないでいる。
 そう言う風に誰が誰の命令に従っているのが疑心暗鬼の状態を長く続けて洗脳させようって腹なんだろう……胸糞悪ぃ……。


 「……あれ? あそこにいるの、サキの兄さんじゃない? 私、見た事あるよ」

 アンナの声に意識を戻す俺。……あれは言葉通りテムジナ? 何をあそこでこそこそやっているんだ?


 「……おい、何をやっている?」

 「……! いえ、私は何も」

 「嘘を吐きやがれ、正直に言えば今なら許してやる事も……痛ぇ!?」

 「だからっ、何ですぐそう言う態度で接するのよ!?」

 アンナの蹴りが膝の泣き所へと当たる。涙目な俺を無視しつつテムジナへ声をかけるアンナ。テムジナはと言えばアンナと面識が
 あるので一安心しつつ話し始めた。

 ……サキが幽閉されて二日。このままではバルコム達にサザンクロスは支配されてしまう。それはバルコム達が手中に収めるまでは
 極秘の扱いだったが、一人の密告者によりテムジナは対抗勢力を作る為に伝達役を請け負ったと言うのだ。
 密告者はナリマン。素直にシンの善政に満足し、サキと仲睦まじくサザンクロスの未来を創り上げるだろうと予想していたのも束の間
 バルコムが提案した今回の謀反。自分がサキに昔よく世話を焼いて貰った(シンに上げる菓子の味見役など)事を材料に
 自分は承諾をしたが、バルコム達の政治ではサザンクロスはおろか自分の率いる軍隊もいずれ崩壊させられる。あいつはそう言う男だ。
 何とかしようと考えていた時、サキの兄である自分が目をつけられたと言うのだ。


 「……近日中にバルコム達へと闘いを挑むつもりです」

 「止めとけ、あっちは戦闘の一応スペシャリストだ。……今日で何とかサキとシンは助け出すからよ。門にいるハートを安全な
 場所に待機させといてくれねぇか?それと俺達の荷物ここまで持ってきてくれ。 ……安心しろ、すぐに片付ける」

 「……! お願いします」

 涙目で頭を下げられ去っていくテムジナ。……『ジャギ』の時も、これ位優しく出来る器量があれば良かったのにな……。

 湧き上がる後悔。それを振り払いつつサキが監視されているだろう厳重な部屋も発見。……入り口にはライフルで厳重な監視を
 施している……やはり夜まで待つしかないか。

 「……後は地下か。……シンの事だからくたばりはしねぇと思うが、精神的に結構きついだろ。……何とか連絡出来ねぇか?」

 「……それじゃあ、私がその役目引き受けるよ」

 女中の姿で申し出るアンナ。その目は強い意思で輝いている。……暫し言葉を出せない俺。……アンナの頭を撫でる。

 「……危険だぞ。シンを監視するんだ、余程の実力者が警備についている」

 「……シンは私の南斗聖拳の先生だよ。せめて借りを返さないとね」

 そう気丈に笑うアンナ。……あぁ、たくっ……何だってこいつは……こんなに……俺より強くて、儚いんだろうか?

 「……約束しろ。シンに伝えたらすぐ俺と合流しろよ。絶対だ」

 「うん、ジャギも……死んだら絶対に許さないよ?」

 
 わかっている。……それはこっちの台詞だと言いたい。

 ……サキを助ける。シンを助ける。同時に行わないとどちらかに危害を奴等は平気で行う。だったら二人で同時に助ければいい。
 
 ……その役目を引き受けさせられる程信頼しているのは……俺にはアンナしかいないのだ。

 アンナ以外俺には信用出来る物などこの世に存在せず、アンナ以外の物など俺にとって二の次だ。

 
 ……二人は願う。もしも永遠に切り離せぬ手錠があるなら、……自分達へ付けて貰いたい……と。

  




 ……見張りの兵士達に秘孔で先ほどまでの記憶を忘れさえ元の位置へ正す。時間は夕日が沈み、空は黒へ変色し始めた。




 「……アンナ、準備は出来ているか?」

 「勿論、シンを助け出したら、サキを助け出したジャギの元へ合流。簡単簡単!」

 「……やっぱりシンの事は放って置かないか? あいつ自分で如何にでもなるって」

 「ジャギ?」

 低音で有無を言わせぬ声で自分の名前を呼ぶアンナ。……解った。こうなったら自分の任務を完璧にやってみせらぁ。


 時計が十時を指し、鐘が鳴る。丁度約束の時間だ。

俺とアンナは同時に呟いた。






              『ミッション・スタート』











   あとがき

 今更だけど、アンナのバンダナってメタルギアの無限バンダナだったら最強なのになって思った。




 某友人? バカデミー賞のインドの踊りやってる所を携帯動画で送ってきた。




    ……地味にうざくて上手かった。(´・ω・`)





  



[25323] 第五十六話『一夜が織り成す火蓋』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/31 15:48


  地下の石油精製工場地。辺りにはまばらに警戒態勢をとる警備の兵隊。それを見下ろす影は猫のようにしなやかに飛び移る。



  きな臭い通路を発見すると影は暫く時間を置いて警備の兵士が一人だけになるのを見計らい、その兵士の頭上へ飛んだ。

 「……ジャーマン」

 その兵士の場所まで約七・八メートル。ブリッチのように体を反らせ、拳を腰へ構い呟く、そして兵士は声に反応し上を見上げる。
 自分の上から落ちてくる影に驚愕し、武器を構えるか危険を周囲へ察するかの判断に数コンマを要する。それで時は既に遅かった。


 「……ナックル!!」

 猫のように体を反転させ拳を振りかぶり兵士の脳天に直撃させ着地したアンナ。あわれ兵士は意識をそのまま刈り取られた。

 ガッツポーズを束の間、意気揚々とアンナは目的の通路へと小走りで進むのであった。










 「……ここか? その例の女の部屋は」

 「ああ、本当に上手くいくのだろうな? もしも失敗したら」

 「安心しろよ。この秘孔を突いた瞬間、目の前にいる奴を例外なくそいつは愛する。俺に任せておけ」

 時間丁度にバルコムと同行するジャギ。アンナに関しては別の人間(俺のいない所でジェニファーがアンナに協力してたらしい。
 ……俺と昼に別行動していた時に何があったのだろうか? 謎だ……)が身代わりをかって出たので、部屋に待機している。

 ……重く軋む音を響かせると光ない部屋に物憂げに椅子へ座っているサキが見つかった。……相当疲労しているな、無理もねぇが。

 俺が部屋の中に踏み入れると、警戒するように立ち上がるサキ。……ヘルメットしている所は見せた事なかったな。

 「……てめぇがシンの女のサキか?」

 俺が声をかけるとサキは驚いたような表情をする。気付いてくれたか……。安堵しつつもきつい口調で続けるジャギ。

 「後ろの野郎の命令でな、今からてめぇには『俺の言う通りにして貰う』勿論、抵抗しようが無駄な事だ。俺様はてめぇなんぞ
 死んだ所でどうでもいいが、シンの奴を苦しませる事が目的なんでな。いいか?『絶対に抵抗』するなよ?」

 「……何故貴方のような下劣な人間に従わなくてはならないのですか? 私の命はシンの物。貴方には従いません」

 流石サキ……。俺の言葉に察してくれたのか、予想通りの態度をとってくれる。激しい敵意の目線。まさかバルコムも俺とサキが
 知人とは思うまい。……更に一歩近づく俺。サキは声を張り上げる。

 「離れなさい! ……それ以上近づけば、私は……」

 「甘いわ!」

 頃合と考え、針を飛ばし椎神(動きを止める、歩行を困難にする)の部分へ刺す俺。硬直するサキへ近づき顎を持ち上げながら
 下卑な笑い声を上げて顔を近づける。そして気付かれぬようにサキへ言った。

 「ヒーヒッヒヒ! どうだ、動けまい!『シンにはお前を助けると伝えてる』」

 「くっ……おのれ……! 『私は今からどうすれば?』」
 サキの囁きに、俺は気付かれぬように演技もそのまま言葉の中に含ませ指示した。
 
「これからてめぇは俺様の手により愛する奴の事も忘れ、『次に目を開けた時はそいつが愛する』野郎だ。どうだぁ? 悔しいか? ヒヒヒ!」

 そう声を上げ俺が首筋へ指を突きたてると、サキは『目を瞑り倒れた』。それを幾分不安そうに眺めバルコムは声をかける。

 「……本当にこれで私を愛するのだろうな?」

 「ああ……。もっとも俺は部屋を出るぜ……他の奴等も間違って視界に入ると危険だろうが? 出したほうが良いだろう……」

 「そうだな。……お前達聞いただろ! 私を残し後は全員出ろ!」

 控えていた兵士達は命令に従い部屋を出る。そして俺もちらっとサキに上手くやれと思いつつ見てから、部屋を出た。





 

 (partバルコム)

 遂に私が新しいKINGとなる時代が来た。
 
 KINGをただ処刑すれば民の大半が反抗と考え、私の地位も危ぶまれる。だが、私を女が愛すればシンは愛の喪失により狂ったと
 人々は考えるだろう。私のKINGとしての未来は今日、この日によって決まるのだ。……女へと声をかける私。

 起きろ、と声を告げると体を震わせ瞳を開けるサキ。……シンが愛する女にしてはそれ程魅力的だとは思わない、だがこんな女
 でも私の地位の為には存分に振るえる道具だ。……今からその玩具としての使用を考えると笑みを隠せなくなる。

 「……バルコム……様」

 うっとりとした声を上げる女。素晴らしい……あの男は私と同質の人物だと信用したのは正しかった。……無論、私の地位を確立
 する為にあいつには後で寝込みにでも襲撃をしよう。……あのような目の男は駒に使えても信用は出来ない。
 私の元へゆっくりと近づく女。私は茶番に付き合おうと両手を広げる。……この女が次に私へ愛の言葉を囁いた時、KING……貴様は。





     「……言ったでしょう? 私はシンの物よ」



 ……胸に激痛を与えるほどの熱。……短刀? ……これは? ……え?








  



 



 目の前に立ちはたがるは特徴的な禿げが目立つ男。左手にはボウガン、右手に大振りの剣を携えて笑いながらアンナに声をかけた。

 「ハハハ! お嬢ちゃん。KINGを助ける勇敢なナイトと言った所か!? 最もこのスペード様の拳技を受け切れればの話しだがな!」


 「……うっさい禿ヤロー」

 アンナは太刀を自分の胴体めがけて振り回すのを敏捷に避けつつ挑発する言葉を浴びせる。
 誰がハゲヤローだ! と大きく剣を凪ぐスペード。それを横っ飛びで避けつつ提げた拳銃をスペードへ放つアンナ。

 「キカーーーーーーン!!!」

 だが悉くそれはスペードの剣に弾かれ、スペードは拳銃の装填を許す暇を与えず改造したボウガンの矢を連射し、アンナを追い詰めていた。
 アンナはそれを何度か繰り返してから、少し落胆した声を上げた。
 「……駄目だなー、これじゃあ」

 「ハァーハハハハハ!! 本当にな! お前の実力では駄目だ!」

 (……こんな奴、すぐに倒せる実力じゃないと……ジャギを守れないよ)

 アンナは連射するボウガンを巧みに飛び回り避けながら、昔シンに教えを受けていた時の事を回想する。






  
 「……いいかアンナ? お前は力では他の男には劣る。それは理解してるな?」

 「まぁ、流石に拳で壁を砕いたり斬ったりは出来ないね。私は」

 「だが、お前は他の物にはない長所がある。それはまず長時間動き回れるタフさと、そして敏捷性だな。それを上手く活かせば
 お前は南斗聖拳の力と総合し、より強くなれる。……まず如何にして相手より勝る部分があるか考えろ」








 



  シンに言われた事。私がこいつに勝る所……。


 まずこいつは力だけで知性が低い、ならば自分が奇策で攻撃を一回でも当てれれば逆上して動きも単調になるだろう。


 既に二丁拳銃の弾は撃ち尽くし、スペードへ一撃を決めるのは難しい。近距離で倒せなくもないが、ジャギに心配をかけたくない私
 としては、なるべく無傷でこいつを倒したい。

 ……まず冷静になって見ると、シンを自由に動かせれば良いのだ。無理にこいつを倒さなくても、戦闘不能に近くすれば良い。

 そう私は判断を下すと、後ろに提げていたシンクロアクションアーミーを引き抜き、それを『ある場所』へ向けた。
 ……これが成功すれば相手に痛手、少なくとも動きを鈍らせれる。……呼吸を落ち着かせ、機を見計らう。……ボウガンが迫る。




                          ……今だ!!






 「……ハァーハハハ! 何処を狙ってんだガァア!?」





 成功した。アンナが『天井へ向けて撃った』銃弾は、予測通り跳弾するとスペードの油断を突き右目へと着弾した。


 怒り狂うスペード。これで猪猛突進で襲い掛かれば私のカウンターで楽々と倒せる。……そう確信した時、鳥がスペードの前を横切った。

 ……鳥? 如何して? と疑問に思う私。だがスペードにはそれが何なのか理解したらしい、血を右目から流しつつ、私へ苦悶と怒り
 に満ちた声で叫んだ。

 「……くそっ! 一先ず引いてやる!! だが今度会ったらてめぇを俺様の手で殺してやる! 忘れるなよ!!」

 
 そう言って隠し出口であろう場所からスペードは鳥と共に抜け出した。……何が起こったのだろう? 一体……。

 アンナは冷静に考えたが答えは出ず。とりあえず目的を遂行しようと厳重に封じていた扉のレバーを引いた。

 軋む音を立てて開く扉。埃を上げ開いた奥には、空間を歪ませる程の殺気と憎悪を帯びつつ座る、シンが佇んでいた。

 だが、その空気すら、女性にとっては関係ないとばかりに、楽天的な声をシンへかけた……少し悪戯気な響きを含ませながら。


 「ハロー! 助けに来たよ。シンデレラ」


 「……っ!? お前は……アンナか!? ……と言う事はジャギが助けに……」


 「うん、サキはもう救出済みだと思うよ」


 「そうか……良かった……本当に良かった……!」

 深い深い安堵を滲ませ、言葉を吐くシン。それを穏やかな眼差しで見ていたが、思い出したように少し焦った口調でシンへアンナは言った。

 「あっ! すぐシンを助けたらジャギと合流するんだった! シン、急いで!」

 「あ、あぁ……。……アンナ、……こんな時だが聞いても良いか?」

 「何!? 早く急がないといけないんだから……」

 「……聞き間違えちゃなければ、さっきシンデレ」

 「早く!!」

 「いやっ、待ってくれ!?」
 
 アンナの一段と増した走りを、シンは途中に自分を止めようとするバルコムの部下達を南斗孤鷲拳で払いつつ追いかけるのであった。









  部屋から聞こえる汚い男の悲鳴。部屋を出た瞬間にジャギは兵士達を一瞬にして秘孔を突き気絶させた後にそれは聞こえた。
 すぐに部屋の中へ戻るジャギ。そこには『正気の』サキと、胸に短刀を刺された状態で混乱するバルコムがいた。
 バルコムの体は泰山寺拳法により体を鋼鉄化させれる。別に自分の北斗神拳。南斗聖拳には通じないと思うが万全の策を取りたかった。

 自分の思い通りになり完全に高揚し油断した状態。それはサキの非力な力でも容易に短刀を刺せる絶好の機会だと踏んだのだった。
 それに今回の件の被害者はシンとサキ。自分が代行するのは趣旨違いだともジャギは考え、今回の策で進めようと考えた訳だ。

 「……よぅ、バルコムさんよ? 自分が利用されたと感じた今の気分はどうだ?」


 「かっ! かっ!? が……貴様……最初から裏切って……」

 「元から俺はシンの友人だよ。……最もてめぇのような三流野郎に罠に嵌められたんじゃ、シンも腑抜けになったとは思うがな」

 「はっ! はっ! はっ! ……?! ふぅ~ううう……!!?」

 「泰山流拳法の華山鋼鎧呼法か? ……無駄だ。そんな心臓に刃物刺された状態で呼吸法なんぞ出来ねぇよ」

 「くっ……ぐぅぅうう!!?」

 既に俺の背中へと逃げたサキ。その脇を鈍い足取りで逃げようとするバルコム。俺はシンが来るまで秘孔で動きを封じるか考えた矢先
 そのバルコムの前に突如瞬間移動のようにジョーカーが現れた。……拳法なのか別の何かなのか不明だな……こいつの技。

 「……ジョ、ジョーカー……! 手を……貸して……!」

 「ふむ……良いだろう、お前は一応同じ軍人だ」

 「あ、あり」

 「両腕でなく、右手だけで勘弁してやろう。自分の止めは自分で刺せ」

 え? と声を上げる暇もなく、ジョーカーが飛ばしたトランプは、バルコムの右手を切り落としていた。

 悲鳴を上げ血を噴出す右手首の部分を押さえるバルコム。俺はサキを後ろに庇いながらジョーカーの意図がわからずも警戒する。

 「……拳王軍との内通。それに今回のお粗末な軍事政略……お前の行動を黙認していたがな、バルコム。お前では統率者の資格はおろか
 軍人でさえ真っ当に出来まい。三日も経たずこの様な無様な結果に終わるのが良い証拠だ」

 「お……前は! 裏切るのか、私を!?」

 「裏切る? 私はお前の行動に『賛成』は示したが、『同盟』した覚えはない。サザンクロスは私の計算が正しければやがて
 拳王軍に侵略される。……どちらにしろ此処に長居する気はないのだよ。私は」

 始終氷のような表情でバルコムを眺めているジョーカー。そして今まで油断なく構えていた俺へ不意に華麗におじきすると言った。

 「中々の拳法、感服しました。……ですが惜しいですね、私の駒として使うには貴方の性格は難儀過ぎるようだ」

 「……てめぇはこれから如何する気だ? 俺様は言っておくが、この瞬間からお前を危険人物だと判断するぜ」

 「褒め言葉と受け取っておきましょう。既に準備は仕上がっております……。ご安心を、貴方達に危害は加えませんよ。
 将来的に貴重な駒と物資を軍人とは残すものです。……では」

 そう言い残し、未だ苦しんでいるバルコムを残しジョーカーは消える。……消化不良だな……無理してでも殺すべきだった気がするぜ。


 「……ジョーカー!? ジョーカー!? くそぉ! くそぉ~~~~~!!!!!」

 血走った目で立ち上がり、鬼気迫る表情でジョーカーの消え去った方向から俺へ視線を移し睨むと、残った左手で俺を指しバルコムは叫ぶ。

 「いいか!? 私はここで死ぬ……だがなぁ! 『我々』は何時かこの世界を統率する。あの裏切り者が良い例だ!!
 『我々』はどんな手を使おうと目的の為なら同胞さえも切り捨てられるのだ! 貴様も努々忘れるな! その心に刻んでおけ!!
 お前が信じる者! 絶対に裏切らない者!! 何時か貴様も必ず裏切られ俺と同じ結末を味わうだろう!! ヒヒヒヒヒヒヒヒ……!!」

 

 「……慣れているよ。とっくによぉ、そんな結末は……」



 タイミング良く駆け寄ってくるシンとアンナが見えた。バルコムはもはや年貢の納め時だと観念したのだろう。鋭い手刀を構え走る
 シンを睨みつけ、左手だけで妖鬼幻幽拳を繰り出そうと走り、叫んだ。

 


   「何故だ! 何故俺様の計画は失敗したぁ!?」


   

                         『南斗飛龍拳!!!』


   「……貴様には何かを守ろうとする欲望……執念が足りん!!」



  最後にバルコムは原作通りげぼう゛ぁ、ばぼば!! と断末魔を上げてシンの手によって命を絶たれ今回の反乱は幕を閉じた。

 ……だが、ジョーカーが残した不気味な不安がサザンクロスへと残る。これに関しては南斗の三割程の部下と兵器を連れて
 去ったジョーカー達を倒さぬ限り晴れる事はないだろう……。











  



 「……おいガキ共! この果物は俺様が先に買おうとしてたんだ! 引っこんでろ!!」

 賑わっている商店。その一つで大男が子供相手に凄みを利かせている。泣きそうな顔で、『でも……母さんが好きな物』と引かない子供。

 「てめえの親の事なんぞ知るか! 早くどかねぇとぶっ倒」

 「ねぇねぇお兄さん、ちょっといい?」

 「あん? ……何だよ女。お前も欲しいのか? ……へっへっへ、俺の相手してくれるんなら考えても」

 「ふん!!!」


                           コキ------ン☆!!!!


 「……あっ……た……ビ!?」

 とある部分を両手で押さえ白目で倒れる男。それを見た女性は拍手。見ていた男性達は腰を引きつつ自分の事ではないのに痛そうにしていた。


 「……子供相手に見っともないったら……おばさん! 私はそっちの果物五個お願いね!」

 ありがとう! とお礼を言って立ち去る子供に手を振りつつ、果物を抱え多少の注目を浴びたアンナを一人の幾分強面の男が待っていた。

 「待った? 早く果物二人の所へ持っていこう」

 「……お前はよ。もう少し厄介事は放って置けよ。……俺の心臓がもたねぇ」

 「良い事してるだけじゃない。こんな事で心臓駄目にしないの!」

 ケラケラと笑うアンナへ、ヘルメットを脱いで素顔のジャギは額の星の形の傷跡を撫でながら異様に疲れた顔を作る。

 ……バルコムが死んだ後。あっさりとシンによってサザンクロスの政治は戻り、今回のような事が二度と起こらぬように政策も
 見直されるようになった。……二日は呑まず食わずなシンだったが、『これ位は修行中は何度があった』と俺の心配も余所に
 すぐに問題点の改善へ取り掛かっていた。……サキの事になるとべた惚れだな、本当に。

 ハートやナリマン、テムジナ率いる反抗勢力に関しては昇格、そしてバルコム側の兵士は追放と言う形に収まった。
 もっともバルコムの率いていた兵士達はほぼジョーカーの手中にいたらしいのでほとんどがあの時にサザンクロスを去ったらしいが……。


 「……未だ何か起こりそうだよな。……頭が痛いぜ、ったく」

 「けど、『今回』は沢山味方がいてくれるじゃない。大変だったら助けて貰う。簡単でしょ」

 「……言ってくれるよなぁ、お前は」

 アンナを撫でると嬉しそうに笑う。……こいつがいると何でもやれそうに思えるから安心する。……こいつと離れ離れになるなんて
 考えられない。そんな事は万に一つでも起こりえないように、俺はもっともっと強くならなければ……。そうだ、もっともっと。

 アンナが小さく焦った声を上げる。意識を戻し何が起こったか確認すると紙袋が避けて果実が転がっていた。

 安心しつつも果物を拾おうとすると、目の前にローブとフードで顔を隠した正体不明の人物が果物を拾い上げた。

 「あ、ありがとう」

 「すまねぇな、拾ってくれて」

 礼を言い、受け取ろうとする俺とアンナ。だが、そのローブの人物は無言で俺達を観察している。……何だ?






  

   






   「……『輪廻を破壊し異邦人』と『原初の死兆星を負う方』……間違いないですね」






  ……あ? 何を言っているんだ。こいつは……? だが、嫌な予感がする。先ほどの願いを吹き飛ばすような、嫌な予感が。

 ジャギとアンナ。二人へとフードをその目の前の人物は外す……女性だ。そしてじっと二人を静かに吸い込まれるような瞳で、女性は告げた。



  
   


  



     「……お二人に告げに参りました。『死の運命(さだめ)』が、貴方達に迫っております」











  



   あとがき



 




Is this the rakangeki? (これは羅漢撃ですか?)

 

 No, This is a pen.   (いいえ、これはペンです)


 OK, but, IS this the RAKANGEKI?(わかりました。なら、これは羅漢撃ですか?)

 No! This is Yuria.  (いいえ! これはユリアです)




[25323] 第五十七話『星の予言の詩』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/28 12:03



   昔、シンと対峙しあっていた時と同じ場所のホテルの一室で、俺はアンナと共に息苦しさに包まれた部屋で女性と向かい合っていた。

 予言士、そう言っているがアサムに一刀両断された奴とかの事では決してない……ましてや、あいつは男だったし。

 ……こいつはサクヤ。確か拳王軍に彗星の如く突如来訪した予言士。その正体はガイヤの実妹、黒山陰形拳のもう一人の伝承者……
 と説明はされているが、俺からして見ると胡散臭い人間の一人でしかない。

 「……それで? 俺とアンナが死ぬってのは如何いう了見だ?」

 「……詳しい話の前に一つ確認が。貴方はジャギ……それで間違いないですね?」

 その言葉に頷く俺。それを見ると深い溜息を吐くサクヤ……いきなり溜息を吐かれるとこっちも少し腹が立つぞ……っと話しが逸れた。
 サクヤは暫し黙考を続けてから、重い口を開いた。

 「……私の正体を……『貴方達』は知っている。……それも間違いないでしょうか?」

 その言葉に一瞬冷静さを失いそうになる。何故知っているんだ? ……いや、それはまた置いておこう……俺達は頷いた。

 「お伺いしても?」

 「……お前はサクヤ。黒山陰形拳伝承者の一人。ガイヤの実の妹……知りたかったら教えてやるが、おめぇ拳王と聖帝に」

 「間を割って殺されるのでしょう。存じて居ます」

 俺が先ほどからペースを崩されている意趣返しとして意地悪く先の事を言おうとしたが出鼻を崩される。しかも尚悪いことにこいつは言った。

 「ですが、もはやその『未来はほぼ消えています』これからの貴方達には役には立ちのしない物の一つです」

 「……え? 未来が消えているって、如何言う事?」

 今まで観察に徹底していたアンナは疑問の声を上げる。……アンナも俺と同じく転生している。そりゃ俺と同じ疑問は持つだろう。

 「……まず、初めから話すべきでしょう。私は核が落ちる一月前までは、砂漠の村で暮らしていました」

 



 ……夜空を見上げ星の動きを見ていた自分。そこへ突如若い青年とおぼしき者が現れました。
 当たり前のように私に気配を悟らせず現れた美しい風貌(今は思い出しても顔ははっきり思い出せない)の青年はこう言いました。

 『……預言の従者……報われなき愛に倒れし者……汝に託そう』

 そう青年は言葉を紡ぎ、私の額へと指が触れると辺りの夜の闇は太陽が出現したかの如く輝き……私にはある景色が流れ込みました。


 



 「……思えば、あれは神が何かだったのでしょう。……私は身動き一つ、あの時はただじっと意識を保っている事が精一杯でした」

 「……それで俺達の事を知った……と? 眉唾もんの話しだが、俄かに否定出来ねぇな」

 「私達がこうして居るのも奇跡とかそう言う類だもんねぇ」

 アンナは楽天的な笑みを浮かべ声を出す。少しだけ雰囲気が和らげた気がするが、サクヤの言葉はすぐに空気を元のように重くした。

 「……貴方達の出来事もその景色の中で知りました。……貴方達の行いを私は否定する気はありません。……ですが肯定も出来ない」

 「あのよぉ、もう少しストレートに言ってくれて構わねぇぜ? 俺もこっち側で長年生活しているが、未だ前の世界での知識は
 持っているから頭はそんな悪くねぇつもりだ。……アンナはちょい天然だから良いとしてな」

 「ねぇジャギ、その言い方だと私が少し頭が悪いって言い方見たいだけど?」

 「実際そう言う行動し過ぎだろ……痛ぇ!? つねんな! つねんな!!」

 「話を戻しても?」

 サクヤの強い口調に姿勢を戻す。雰囲気を戻した俺達に少しだけ息を吐いてから……俺達には顔面を叩かれるような言葉を吐いた。

 「……貴方達が知る未来。……それは貴方達が星の動きを大きく変えた事により崩れ、最も悪ければこの世界その物が滅びます」


 『……え(は)?』

 俺達の愕然とした呟きに構わず、サクヤは続ける。

 「……小さな例では、貴方達がついこの前助けた女性。あの女性は本来KINGの軍勢によって死ぬはずでしたが、KINGは焦がれた
 愛により穏やかな人物になり、彼女は勇敢な気性にならず普通の女性に戻りこの地で暮らすようになりました」

 俺は記憶を掘り返す。……確かにジェニファー……原作ではジーナ村の女戦士のはずだったが、『ここ』ではシンが暴政を
 する筈もないので戦士になる必要はなかった。……テムジナもそう言う意味では同じようにシンの運命の犠牲者だった……。

 「……ある意味一番最悪の行為は……貴方達が南斗鳳凰拳の前代の師を救ってしまった事です」

 「はぁ!? 何で俺達がオウガイを助けた事が最悪の行為なん」

 「多くの命を救った。……ゆえに多くの命が奪われる。……その様な光景を見た事は?」

 その言葉にあ!? と口を押さえ青ざめるアンナ。俺が心配して声をかけると、弱弱しく言った。

 「……『わたし』が高校の時見た映画で知っている。飛行機事故を予知夢で回避した主人公と主人公の周囲の人間が
 『運命の修正力』で次々死んでいくって話し……!」

 






   ……    ……!!!!??     っておいおいおいおい      まさか     まさかよぉ!!?





 「……到来すべき星と消える星が崩れ去り、大いなる宇宙が崩れ去ろうとする。……このままではお二方、いえ、我々の
 周囲の人間が全て破滅の未来を辿ります。……お二人の知っている知識の未来よりも、更に悪い未来に……」







 ……暫く何も言えなかった。……言えるはずもなかった。……俺、アンナ、……そして昔過ごした仲間が……全員死ぬ?
 そんなのは御免だ。俺が死ぬのは未だしょうがないと割り切れる。……だがアンナだけは、アンナが『もう一度』死ぬ? そんなの……




 「……けど、知らせに来たって事は運命を回避する術はあるんでしょ? 映画でもそんな方法はあったよ? ……記憶曖昧だけど」

 アンナは顔色を幾分取り戻し、そうサクヤへ問いかける。……! そうだ、態々破滅を伝える為だけに来たって事はねぇだろ!

 「……方法はあります。……まず変えてしまった星の軌道は戻せません、それは神だろうが悪魔だろうと万理の絶対です」

 「……まず、星々の未来を変えた人物から運命は災いを振りかざします。覚えはないですか? ここ数日波乱や凶兆に遭った事は?」

 「……そういや大した事はなかったとはいえ、サザンクロスに向かうまでの間はモヒカンに出くわした数は尋常ではなかったな。」

 「……確かに世紀末だからって納得していたけど、あれは可笑しかったよね。着いたら着いたでシンとサキが拘束されたし……」

 ……それらも全部運命の修正力の所為ってのか? ……冗談じゃねぇぞ。

 「……話を少しだけ戻しますが、貴方達が前代の南斗鳳凰拳伝承者を救った事により、聖帝は文字通りの聖帝としての星の輝き
 となりました。……私個人は素晴らしいと感じますが、それによりリュウロウ・カレン等の南斗聖拳108派の方達の死の定めは
 貴方達へ降り注ぐ結果へと陥っています。……もしくは南斗の強き星達に全てが降りかかろうと……」

 「お、おいおいちょっと待て? リュウロウ……は確か南斗流鴎拳の使い手で、カレンは南斗翡翠拳伝承者だっけか? 
 二人とも外伝の作品の人間だろ? 何でその運命が……」

 「外伝……と言うのは解りかねますが、この世界の星は多くの星で構成されています。……今の私には時折複数の位置を星が
 交差したり、あるはずない場所に星が出現しているのが……今までにない星の変化の現れです」


 ……って事はあれか!? 外伝作品も全部巻き込んでの回避した概念的な『死』が俺とアンナに降りかかるってのか!!?


 「……え? それってほぼ詰んでない? ……私もうギブアップ寸前なんだけど、何か話し聞いただけで無理ゲーって感じ……」

 頭を押さえるアンナ。……いや、待てよ? ここで疑問が浮かび上がる。

 「……いや、サウザーがまともになったとしても。ラオウ……の兄者が戦争するだろう? そう言う回避は不可能な争いの中で
 普通なら死ぬべき人物が死んだりとかするんじゃねぇのか?」

 「……本来ならそうなのでしょう。……ですが星の動きはもはや大きく変わってしまった。背負うべき星は背負えなくなった……
 と言うべきでしょうか? ……一部を除けば他の人物に正史の災厄が降る事はもうないでしょう……それだけは安心を」

 ……正直、俺とアンナにも死の運命ってのが降らなければ尚良いんだけどな。

 俺の表情を見据えてか、言葉を続けるサクヤ。

 「それは無理な願いです。……貴方達は投石を起こした張本人。……ましてや一番の原因は、そこのアンナ……貴方です」

 「え? 私?」

 自分を指して鳩が豆鉄砲を喰らった表情でサクヤを見る。頷いてサクヤは続けた。
 「……貴方は『原初の死兆星』を負う方。それを免れた事がこの世界の歪みの切欠となるのには十分だった……」

 「ちょい待て!? アンナが『原初の死兆星』ってのは如何言う意味だ!?」

 「言葉の通りです。貴方の付き人は最初に死兆星を負い、そして死んだ……。『ここ』では見なかったかもしれませんが、本来
 はそれが軌道すべき運命の流れであった……。『あなた』が運命を破壊する事を望み、結果命を救えました。
 ……ですが終わりではない。これからも貴方達が一緒の限り災厄が続きます。そう、『貴方達が一緒の限り』」





                  


                      ……あん?           ……俺と、アンナが……一緒……なら?








 気がつけば俺は立ち上がりサクヤへと鬼気を纏い睨んでいた。

 「……如何言う意味だ? アンナと俺が一緒にいれば……アンナが死ぬと?」

 「……『死を逃れし者』、『死を変えた者』。両者が側にいれば『死の運命』は引き寄せられるでしょう。……間違いなく」

 「……俺達が離れれば……『死の運命』とやらは襲って来ないのか?」

 「……身に起こる災厄は軽減します。……お二方が一緒では間違いなく突如何かに命を奪われる。死を逃れられない病が発症する。
 不可避の自然災害に襲われる……もっと恐ろしい何かが」


                         「黙りやがれやぁ!!!」




 我慢出来ず冷静さを欠いて、俺は反射的に置いていたカップをサクヤに一歩間違えれば命中するように蹴り付けていた。

 押さえるように、俺の怒りと不安を失くすように横から俺を抱きしめるアンナ。……これを失くせと。俺にとって、命より大事な……嘘だろ?


 「……私達が、離れて過ごせば一人でも何とか切り抜けられる位の出来事で済むんでしょう? ……簡単だよね、ジャギ? ジャギは
 誰にも負けない位に強いし、私だって普通の男よりも腕っぷしは強いんだからさ、楽勝だよ……だから泣かないで? そんなに」


 ……アンナに言われるまで、俺は涙を流している事に気付かない。それをじっと見守っていたサクヤは、押さえた声で言った。

 「……もう一つ、伝える事が……ご安心を、これは吉兆です。……巨星の落墜と共に、お二人の運命は解放されると、私に
 神託を告げた方は最後に言いました。……巨星とは」

 「ラオウ……かよ。……なる程な、って事は救世主様にすぐさま倒して貰えば良い訳だ。簡単じゃねぇか」

 焼け糞気味に言い放つジャギ、だが頭をハンマーで殴られたような衝撃が次の言葉で襲う。

 「……北斗七星を宿す宿命の男の手により終わる事……これも予言の一旦です。……そしてお二人にこれを伝える事は
 心苦しいですが、運命の始まりは約一年後からなのです」


 「はぁああああ!!? って事は何か!? ケンシロウが行き倒れになってリンと出会うのはこれから一年後だってのか!?」


 「ええ。……今から半年後に軍編を整えた拳王軍は聖帝軍と激突し合い両者痛み分けにより一旦撤退……。
 その半年後に北斗の宿命の男子と、南斗の慈母の女子の下に波乱の使者訪れ運命の時を告げん」

 「……波乱の使者?」

 「貴方です。……ジャギ」

 「あ?」

 サクヤは俺を見据えて言った。

 「……貴方が北斗の子の元へ訪れ七つの傷をつける切欠を起こします。……そして貴方は非情さを伝える為……地に倒れ伏す光景
 を私は目にしました、……逃れられない真実かは……解りませぬが」











  「……サクヤ、てめぇはこれから如何するんだ? 拳王の元に行くのかよ?」

  「……もはや私に予知の力はほとんどありません。……星の告げるまま旅をしようかと思います」

  「……ガイヤの事は良いのか?」

 「構いません……兄の死の兆しは見えております。……諭しても聞きはしないでしょうから……さようなら、未知の未来の中に
  貴方達の幸福がある事を……祈ります」

  「……けっ、とっとと失せやがれ」

  「……何処かで良い相手が見つかる事を祈るね。……まあジャギ以下の男が見つかる事は多分ないと思う……イタッ!?」

  「おめぇは減らず口が多いんだよ!」

 拳骨を繰り出すと涙目で睨みつけるアンナ。……サクヤは最後に一瞬だけ微笑を見せ、夕日の沈む方向へと去って行った。


 「……約一年半、お前と会っちゃいけねぇってよ」

 「一年半の間に別行動していたほうがベターって事でしょ? 会っちゃいけないとは一言も言われてないじゃん?
 サザンクロスで決められた所で手紙置いて定期的に連絡を取るって方法もあるよ? あと伝書鳩とか?」

 「何で最後疑問系だ? ……ああ、モヒカンに食われる可能性もあるか。……まあシンに手紙預けてもらうのが一番かく、じつ……」


  俺が言い切る前に、アンナは俺の胸元に飛び込み抱きついていた。……顔を震わせて泣いている。……こんなにも、アンナが小さい。


 「……いや、だよぉ……離れ、たく、ないよぉ……ジャギぃ……!!」


 「……っ」


 「せっか、く……やっと一緒にいら、れるって……ずうっと、ずっとお爺ちゃんお婆ちゃんになるまで……いっ、しょに……!
 何で? 何でなの!? 何で今更ジャギと離れなくちゃいけないの!?」


 「……アンナ」


 「運命なんてそんなの如何でも良いよ! 私は……私はもう……はなれたくないよぉ……! ジャギ……ジャギ……!!」



 





  泣きながらしがみつき、俺の事を呼び続けるアンナに。俺はずっとアンナの名を呼びながら、アンナが泣き疲れ眠った後に
 星を見上げて……決意をした。

 ……そうかよ。てめぇが、『運命』とやらが襲ってくるならかかって来やがれ。……俺は『ジャギ』だ。……『俺』はジャギ。

 ……この一年の間に俺は悪魔になる。神すら屠る悪魔となる。……旅の中でアンナの兇刃となるスベテヲハカイしてやる。


 






  ……アンナ     お前だけは俺が守る。           ……お前の笑顔は     ……お前だけは











  あとがき

     ジャギ>俺の名前を言ってみろ。
      汚物>ジャギ様ですね? レギュラーですか? ハイオクですか?
     ジャギ>俺の名前を言ってみろぉ!
      汚物>わかりました。レギュラー満タンですね。お煙草は回収しますか?
     ジャギ>北斗千手殺!
      汚物>わかりました。ヘルメットの方はお拭きになりますか?
     ジャギ>……頼むぅ!!
      汚物>ありがとうございます。レギュラー満タン完了しました。お支払いは現金、カードどちらにいたしますか?
     ジャギ>こいつはどうだぁ!
      汚物>わかりました、ジャギメダルでのお支払いですね。
     ジャギ>北斗羅漢激!!
      汚物>有難うございました! またのお越しをお待ちしております!!




  こんな夢を見た。……俺疲れてんのかな(´・ω・`)









[25323] 第五十八話『世紀末破壊王の地獄生活』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/29 13:13


            副題『5+8=13』

                意味解らない?  最後のあとがきで全部氷解されるので本文をまずは楽しんでね(´・ω・`)












   






   等活地獄   そこは害心を持った罪人達が刀剣や生前の武具を備え気が遠くなる時間の中、殺し合いと蘇りを繰り替えす場所。


  その一角では何時もの如く悲鳴と恐怖に慄いた慟哭が上がっている。

 「……ヒィイイイイィ! あの野郎まただ! 『刃物も何も付けてない』癖に数十人バラバラにして一瞬の内に肉塊にしちまった!」

 「何なんだあいつ!? 何であんな奴がこんな場所で刑罰受けてんだ!? 普通もっと下層で刑罰受けるだろうがぁ!」

 「活きよ、活きよ」の言葉で再生される罪人達。それを特徴的なヘルメットの男は直ぐにまた目にも留まらぬ速さで肉塊に変える。

 『……マァ~タオメェカァ。チョイズニノリスギヤ』

 そこへ空中から数十人の罪人達を押し潰し現れる獄卒。……罪人達へ刑罰を与える鬼はヘルメットの男に鼻息一つ出しつつ武具を振るう。
 
 舌打ちをしつつヘルメットの男は空中に避けて凄まじく千手のような突きを繰り出すが、鬼は体を掻きながら余裕で男を叩き潰した。

 『ムダダァ、ムダダァ。ヒコウダガナンダガシラネェケンド、オラタチ二通ジンベ』

 「活きよ、活きよ」その言葉がまた争い続ける罪人達の戦場に流れる。そして砕け散った肉体は再生される。これは日常茶飯事だ。


 『オメェ花二世話スル時間ダガネェカ?』

 「……うん、もうそんな時間か……。へいへい態々叩き潰してまで知らせて貰って有難うございますっとよ」

 『……オメェ本当ナマイキダガナァ』

 獄卒の鬼は最初その生意気な態度に何千、何万は刺し、潰し、噛み砕き性根を直そうとしたが解らなかったが、もはやどんなに
 しても蛙の面に水をかけるように無駄だと悟り鼻息を出すだけに留まっていた。


(……針山地獄の針は含み針に応用出来る。血の池地獄は適当に柄杓さえ持ってる罪人から奪ってあの糞鬼の目にかけりゃあ、あるいは……)

 最も、ヘルメットの男は心の底では一泡吹かせる事に余念はなかった。








               パシャ……              パシャ……







  「……おらよっ、……賽の河原くんだりまで歩いて水かけてやってんだ。感謝しろよ、おい?」

 桶から透き通った水を柄杓へ汲んで2、3回花の周りへとかける。勿論ながら花にやる水はジャギは飲む事はおろか触れる事さえ
 禁じられているし、物理的に不可能である。……最もジャギはそんな事はどうだって良いと考えているのだが。

  「……等活地獄にはよ。北斗神拳使うような野郎はいねぇからな……ヒヒヒッ! 当たり前だよなぁ? 俺様のような外道に
 堕ちている人間なんぞ他にはいねぇよ、おい! ……あっ、一人そういやここに居そうな奴がいるが……あいつはもっと下層だろ。
 あの野郎はガキを殺してるからな。児童殺しってのは重い罪だからな、おい。……まあそう言う俺様も、あの糞野郎に
 良く似た目のガキを殺す気で荒野へ放り出したけどよ、どうやら直接と間接的だとかなり違いが出るらしいな……」

 ……ジャギと共に地獄へ降り立ったか弱い花。それは地獄の亡者にとっては永遠の苦痛を和らげる唯一の存在である。
 襲獄の熱と腐臭の中、たった一つ怨嗟や憎悪とは無縁の、淡い平和の世界の象徴として佇む花は引き込まれる優しい香りを発する。
 だからこそ時折危険な目に遭いそうな物だが、ジャギのいない時は獄卒か何かの大きな力で近寄れず、ジャギが側にいる時は……。

 「話してるんだから近寄るんじゃねぇ雑魚ども!! 南斗邪狼撃!!」

 ……現世では受けた事のない苦痛を受けてバラバラになって終わる。

 「……ここじゃあ俺様が唯一の北斗神拳使い、北斗神拳伝承者ジャギ様よ。……なぁ、俺様は嘘吐きじゃなかったじゃねぇか。
 ……そうだ、ここなら俺は北斗神拳伝承者のジャギだ。……けど俺様にはもはや何も残ってねぇ……これ程哂える話はねぇよな」

 花は微かに揺れる。そして芳香は微かに強くなる。……目の前の自分には泣いているように見える男を慰めようと。

 「……けっ!! てめぇ何ぞに慰められる程落ちぶれてねぇんだよカスがっ!! ……そう言えばよ、あいつはそろそろ
 自分が仕出かした事の重要さに気付いてケツ拭きに没頭してる頃だろうなぁ……ヒィーヒッヒヒ!! 笑えるぜ、おい!!」

 男は肩を揺らし小刻みに震え本当に可笑しそうに哂う。だが、花は少しだけ悲しげに揺れるだけに留まった。

 「……そんなにあいつ達が心配かよ、おい? ……まあ奴等が死んだとしたら、俺様に記憶が流れ込むだろうから知らせてやる。
 ……驚いてんのか? 俺様を誰だと思っている、北斗神拳伝承者ジャギ様だ……あいつと記憶を十年は共有していたんだぜ、おい。
 ……正直気持ち悪いがな。奴が死んだらその時から水滴がゆっくり落ちてくるように、記憶が俺の頭に徐々流れ込むだろうぜ。
 そしたら世話やりながら、あの野郎が運命に逆らってどう言う冒険譚をしたのか面白可笑しく聞かせてやる……香りの駄賃だよ」

 
 男の言葉に、花は生える草を出来る限り揺らして喜びを表現する。まるで必死におじきする童女のように、それは可愛らしい。

 「……てめぇは何が面白くて俺様なんぞと一緒に来たんだろうな。……まあてめぇは喋れもしねぇ、ただ揺れるか香りを出すだけの花だ。
 ……まあ喋る花なんぞ気持ち悪くて踏み潰すだろうけどな、俺なら。……じゃあな、亡者共の呼び声に精々怯え震えるんだな、おい」


 ……花は知っている。きっと、もしも自分を守る見えない囲いが消える事があれば彼は悪態吐きつつも自分の元へ駆けつけると。
 ……花は知っている。例え、どんなに地獄の苦痛を受けようと、彼は自分の生き様に誇りはすれど悔いを周りへ見せはしないと。

 それが多分、『あの世界』で救世主の名を騙った彼と、聖者の名を騙った人物との違いなのだろうと思う。

 彼は死が差し迫った時でさえ自分の末路に怯える事よりも、自分の憎悪の絶望を哂う事を選びこの世から消えた。

 もう一人の騙り人は、その憎悪の人物の裁きに怯え、自分の末路を呪い、最後には死に怯え、この世から消えた。

 

 彼は悪を誇り、もう一人は悪になった報いに怯えた。……この違いが多分、運命を大きく別つ程に罪人である彼らの違いなのだ。


 けど……。 花は微かに罪人達の打ち据えあう刃物や肉の裂ける音で震える振動を受けて揺れつつ思う。

 もし彼でなく、彼が話すもう一人の罪人ならば花にさえ見向きもしなかったのではないかと考える。

 もしも、その罪人の前で突如自分が咲いても、驚きはすれど自分へ世話をする心をその罪人は持たないのではと、花は夢想する。


 また彼は私の為に地獄の踏み締める度に痛みつける地面を歩き、賽の河原の水を汲み、悪態と皮肉を浴びせつつも私へと
 自分の気の紛れと、言い訳しつつ私が少しでも嬉しくなる事や自身の正直な心を吐露してくれる。それが何よりも嬉しい。

 彼は天邪鬼だ。そうだ、今度生まれ変わる時があるならば多分口で好意は絶対に見せずとも行為で人へ感謝を記す者になるだろう。

 その未来があるかもしれない、そう考えるだけで花はわくわくする。それは願望、絶対に在り得もしない未来かもしれない、
 けど花にとって数回に及びかけられた水の冷たさ全部が太陽の熱に変わったかのように幸福の未来を夢想するに変わった。

 花の芳香は周囲へ漂うほど強くなる。彼が幸せになる事を祈り香りを満たす。前の荒廃の世界でも総てが幸福で在る事を願ったように。


 





 「……何を考えてるんだが、あのチビ花はよぉ。……亡者共が香りに寄って集まってんだろうが……食われてぇのか……馬鹿が」




 その意中の彼は鍛え上げた一つの技で、寄って来た亡者達をバラバラに地面へ散らせ、残りを千手観音さえ殺せると思い上がっていた
 技で亡者達の歩みを鈍くさせる。……それは多分善意や愛からではないと、彼は拳を振るいつつ、魂を振るわせる哂い声で否定を込め叫ぶ。



 「……ヒィーヒィヒッヒッヒッ!! 俺の名前を言ってみろ! 俺様は北斗神拳伝承者ジャギ様だ!! てめぇら亡者如きに
 この俺様が負けるはずがないだろうが!! 喰らいやがれ! てめぇら全員俺様の南斗聖拳で八つ裂きにしてやるぅ~!!」







  ……それから何千年か後、花の隣に腰掛けつつ、獄卒や気が奇遇にも合った亡者共へと、彼等の物語を話すジャギの姿が見える。

 ……それは魂が起こした奇跡の冒険譚。北斗の星を外れしも、何千年の血の流れによる呪縛さえ抗い続けた二人の闘いを語る。

 時には煩わしく、時にはその記憶の中の魔人の如く闘っている鏡写しの自分の雄姿に腹を抱え哂いつつも、男は語る。


 





     それはもう少し後の話し。けれど常世から外れた中で紡がれている物語。













     



       あとがき



  今日の朝五時に着信音で起こされてメールに書かれた某友人の文章。




   

   
  subボッギンキン★


  『ラメェ ラメェ  ラメェエエエエエエエエエエエエエン!!!!!
    汚物チャンの羅漢撃でボキちゃんの穴壊れちゃウウウウウウ!!
    羅漢撃激しすぎるウウウウ!! ボキの穴オカシクナッチャウウウ!!
    もっと、もっとスローペースの南斗邪狼撃で突いてぇ……!!!
    そう……ゆっくり……ゆっくり……アアアヤッパラメエエエエ!!
    速すぎる南斗邪狼撃があボキの穴の奥をズンズン突クノオオオオ!!
    あ! あ!! そんな敏感な所北斗千手殺されたら、もう……イッ!
    もうラメェ! 壊れちゃう!! 北斗羅漢撃が強すぎるウウウウ!!
    汚物ちゃんのガソリンが穴の中全部征服シチャウウウウウン!!!
    ダメェ ダメナノォ!! そんなに強く敏感な部分南斗邪狼撃で
    攻められたらボキちゃん死んじゃうノォオオオオオオオオン!!!
    どうして? どうしてそんなに意地悪す、る……あっ、アン……!
    もう大事な穴全部羅漢撃でガバガバにナッテルノオオオオオ!!!
    もう、もうワタシ汚物たんに文字通りの意味で
    ケ ガ サ レ チ ャ タ(ハート)





    PS:アミバ天才手帳買おうと思います。拳王手帳もあるから買えば?』







  デューク・東郷。このあとがきを見ていたら某友人を狙撃して貰いたい(`・ω・´)

  副題に君を呼ぶマークを乗せていた。私の願いを聞いてくれると信じてる(`・ω・´)


  報酬は『絶対にこの作品第二部を完結する』と言う条件でお願いしたい。私の精一杯の払える限界だ。(`;ω;´)


  ターゲットは攻撃力は0だが再生能力はエイリアンを超えている。期待しているぞ、デューク・東郷。


    



[25323] 第五十九話『鳳凰の瞳とトリカブト……』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/31 08:36


       「お師さん、もうすぐだ、もうすぐ貴方の聖帝十字陵は完成する」





  聖帝軍や盗人や器物破損などで囚人として捕えられている人物達を総動員して石垣は積まれていく、
   そして最後の一段、……三角形の石段を除く最後の石段を乗せる時になるとサウザーは横に控えさせていたシバの肩に手を置いて言った。

 「シバよ、最後の石段は私と共に乗せるか?」

 「……! よろしいのですか? サウザー師父」

 「構わん、お前は次の南斗鳳凰拳の伝承者、この勤めもしっかりと果たし自分の役割をその心に刻まなくては」

 物見見物や聖帝軍、囚人達に囲まれながら最後の石段をサウザーとシバは慎重に階段を登り、ゆっくりと音立てつつ積み上げた。

 その瞬間に拍手と歓声がのぼった。……この瞬間、先代南斗鳳凰拳伝承者師オウガイの墓は完成となったわけだ。



 「……ふっ、何とも感動的な光景だな。……務めはわかっているな? イザベラ」

 「……えぇ、わかっております」


 その光景を眺めながら、静かにユダの囁きと、顔色悪くもしっかりとした声色で頷く、イザベラの姿が群集の中にあった。














  「……その女を私に寄越すと?」

  「そうだサウザー……お前の先代師父の聖帝十字陵の祝いの品としてな」

 唸りながら顎に手を乗せ、私を観察する聖帝サウザー。……若くして南斗の将、そして南斗聖拳最強と言われる鳳凰拳伝承者
 ユダの話では自身を王と名乗る傲慢な者……と聞いている、が直視せずともこの貫禄と迫力……私は始終俯いているばかりだ。

 「……ユダよ、その献上する女の顔色が優れないが? 女、具合が悪いのならば寝室に案内するぞ?」

 「い、いえ構いません……っ!」
 危ない、意識を手放すなど失格。私だけに届いたユダ様の小さな舌打ちに体を固くしながら、私は平常心へ戻ろうと呼吸を正す。

 運が良く食事が運ばれそちらへ席に着いている人間の意識が向かう。私は平常心を取り戻しつつあると、聖帝サウザーは給仕へ言った。

 「……頬が痩せこけている……給仕、貴様満足に食しているのか?」

 「は、はい! 勿論でございます!」

 「……見え透いた嘘を吐くな、どう考えても満足に食しておらぬだろう。……家族はどれ程だ?」

 「……今年で子供が産まれ四人。で、ですが満足に食時は取っております!」

 その言葉に思慮深い顔つきで数秒黙る聖帝。その雰囲気に呼吸が荒くなりそうになるのを押し隠していると不意に聖帝は言った。

 「……今日の食事は口に合わぬ。俺の食事は給仕……貴様の家族へと全部渡すが良い」

 「……!? サウザー様、今日はオウガイ様を弔う大事な晩餐会。そのような」

 「くどい。……お師さんは何よりも子が飢えて苦しむのを憂いていた……今日の俺のした事にお師さんが微笑ども悲しむ事などない!
 リュウロウ!! 姿を隠している事はわかる! 指示を出す!!」

 「ここに」

 何時から居たのだろう? 私のすぐ近くに出現したリュウロウと言われたボサボサの髪の毛の間から識者の瞳を抱く男。

 「この国の民の食糧事情をもう一度洗え! 如何なる時であろうとこの俺を除き民を飢えさせる事は許さん! 他の者にも触れ回せ!
 我が身可愛さに食料を占めようとする者は聖帝サウザーの拳で裁くとな!!」

 「はっ! 承知しました!」

 胸に手を当て力強く返事すると消える男。それを一部始終拝見して、フッと笑い心の篭らぬ拍手をしつつユダは言った。

 「……いやいや、お涙頂戴の大江戸裁き……とこういう場合言うのか? 流石は聖帝サウザー……面白い気紛れを起こすな?」

 「ユダよ、お前にもその『面白い気紛れ』を起こす度量がある事を……俺は祈りたい」

 「……ふん、俺も食事が合わん……失礼しよう」

 ユダ!! と出口を抜ける瞬間呼び止め、聖帝は鳳凰の如き炎を瞳に爛々と宿し、別れ際力強く言った。

 「……いずれ話をし合おう……二人でな」

 「……あぁ、俺も楽しみにしているぞ……」

 暫し『将星』と『妖星』の瞳には周囲の人間に感じ取れるほどに火花が散った。
 私はそれを俯きながらただただ聞いていた。去る最後にユダ様が『わかっているな?』と耳に届いた言葉は氷のように冷たく
  私はこれから先に立ちはだかるだろう苦痛を描きながら、その日から私が聖帝へと使える日々が始まったのだ。









  時は少し遡る。

 「……お前、この首の傷は如何した?」

 「……こ、これはサリムを刺した時に誤ってつけた傷……! す、少し経てば塞ぐ傷です……っ!!」

 ダガール様に目敏く見つけられた首の傷。それに気付けなかった自分を呪い、必死に言い訳する、が目の前の眼帯の男は当然許しはしない。


 「ふんっ……ユダ様がこの宮殿に置くのは美しい物だけ……傷一つでさえユダ様は許さぬ……!」

 「お、お許しをダガール様! ど、どうがお許しを!!」

 イザベラの腕を掴み、ダガールは冷たい笑みを浮かべながら外で舌を出す野獣共に放り投げようとする。
 そこで待ち受けているのは野獣共による陵辱……!! 死よりも辛い苦しみが長きに渡り続いた挙句気紛れに死が下される……!

 「お、お慈悲を!! どうか……どうかダガール様!」

 「慈悲を請いたければ野獣共に請えば良い! さぁ『待て、ダガール』……ユダ様……帰られていたので?」

 放り投げようと勢いをつけた瞬間に邪魔される声。視線を後方へ向ければ、既に背中まで届く程の長髪、正史通りの姿のユダが
 苛立ちを紛れた声で髪を撫で付けながら言った。

 「……奴め、俺の軍政にまで口を出すようになってきた。……いくら『将星』といえど、この俺様に尊大な口調で命令を下すのは
 どうも我慢が出来ん……その女を野獣共にくれてやるのは如何言う理由だ?」

 「はっ!! 実は……」

 ひれ伏しながらユダの裁決が決まるまで地獄の時が遅れるイザベラ。だがユダが自分に酌量の余地を与えるなど決してないだろう
 と諦めの光を既に顔を俯かせながら宿していた。……だが、次のユダの言葉にイザベラは端整な顔を驚愕で崩し上げる事になる。

 「ふむ……許そうではないかダガール」

 「はっ、やはり追放……今、なんと?」

 「だから許そうと言ったのだダガール、二度も俺に同じ事を言わせるな?」

 面倒臭そうな表情と声色、信じられないと面持ちのダガールをすり抜け、靴に接吻しながらイザベラは声を上げた。
 
 「あ、有難うございます! 有難うございます!!」

 何の気紛れかは知りえぬが、その理由を推し量りユダの機嫌を損なうよりは心から我が身の今の恩恵を喜ぼう。

そう礼の言葉を述べるイザベラの顎を取り、ユダは魔性に等しき笑みを浮かべ告げた。その内容に、イザベラは喜びの表情のまま固まる事になる。

 「ふむ、イザベラよ。……だが貴様はここにもはや置いておけはせぬ」

 「……え?」

 ここから追放……い、いや待て、私をここから地獄に等しい外へ放り出すなら先ほどそうしていたはずだ。……私には故郷と言える
 村もないから送り返すと言う事でもないだろう。まず、ユダがそこまでの温情を持ち合わせているとは私は微塵も思っていない。
 思考を巡るましく回転して意図を知ろうとするイザベラの疑問を、ダガールは代弁した。

 「で、でしたらユダ様。この女の処置はどうするおつもりなので?」

 「……イザベラよ、お前は玄王サリムを姦計で仕留める程の器量なのだろう?」

 「はっ、はい……」

 「……良し、ならば次に俺が聖帝サウザーの元へ訪れる時、お前をサウザーの側女として引き渡す。……これが如何言う意味か
 わかっているな?」


 衝撃……そして長年人を騙し、欺いてきた自分だからこそやっと呑みこめた。
ユダが命じているのは聖帝サウザーの暗殺。自分が南斗の最高権力を保持したるべく初手として私の能力を使おうと言うのだ。

 無論ユダは私が任務の間に裏切る事も余念に入れているだろう。……失敗しようと成功しようと、私は聖帝軍に処刑、もしくは
 ユダの暗殺部隊に殺されるか、私の思考では考え付かぬ処遇を下す可能性すら否定は出来ない……ユダとはそう言う男だ。

 「……あ、有難き、お言葉」

 「お前のその素直な心が『将星』に気に入られれば良いな。だがお前はこの俺の道具である事を忘れぬなよ。期待しているぞ、イザベラ」

 ドクン           名前を告げられた瞬間         キサマハニゲラレナイ   ……そう言われた気がした。









 
 「……サウザー様は、今日は外出で?」

 「うん? あぁサウザー様に最近仕えたイザベラ様で? そうです。聖帝はシバ様と共に野盗の征伐へ出ております」

 「……あのような小さな子供に?」

 「小さくても、あの子は南斗鳳凰拳伝承者。乱世を治める器を今から築かなくてはいけないと、聖帝は考えていますから」

 農作業をしていたのか、土まみれの服を払いながら『南斗の智将』リュウロウは笑みを浮かべつつ答えた。

 「……貴方は何を?」

 「農作業を町の方に教授を少し……核の影響で汚染された土を浄化するには特定の花を植えなくてはいけないのですが、どうにも
 少し足りなくて……誰かこの場所へ持ってきてくださる事を祈るばかりです」

 苦笑いしつつも顔色に悪い所は見当たらない。それはこの聖帝軍が極めて良質と言える事が原因の一つなのだろう。

 「では、これで失礼。まったく聖帝もお厳しい……物資の流通、医療品の確保と生成……まったくもう一つ体が欲しい所だ」

 息を吐きつつ目の前から消えるように去ったリュウロウ……南斗流鴎拳の使い手とし未だ腕は現在も何一つ損なわれていない。

 (……この国は治安も良く民の反応も悪くない。……まったく、ユダの考えは恐ろしい……此処を掌握出来ると本当に思っているのか?)

 半分は本気、半分は失敗しようとも補える策があるのだろう。押された烙印は今は怪我をした適当に言い訳しつつ包帯で隠している。
 内部の正確な見取り図を見学していると、一角では若い兵達が一人の女性に発破をかけられつつ訓練していた。

 「何をしている!? そんな動きでは野獣共の襲撃にすぐやられてしまうぞ!! ほらっ! もっと力強く突け!!」

 男だらけの兵士達の中で年若く、それでいて一際光輝きながら指揮を執るのは南斗翡翠拳伝承者のカレンだ。

 聖帝軍が暴政を働かないので兄のマサヤが死亡する事はなく、今は聖帝軍の兵を指揮する一部隊として活躍している。
 その力強い指揮に疲弊を上げて一人の兵が弱弱しく訴えた。

 「か、カレン隊長、ちょっと厳しすぎると……少し休憩を取りたいのですか?」

 「馬鹿者! この程度の訓練、兄のレイ様や師のシュウ殿なら息一つ乱さずやり遂げて見せるぞ!」

 『(……いや、南斗聖拳伝承者と比較されても困りますって……)』

 うんざりとした雰囲気を察知して、カッとなり怒鳴りつけようとするカレン。そこへ不意に穏やかな気風と肩に手を当てる感触に振り返る。
 そしてカレンは人物を確認すると慌てて姿勢を正して言った。

 「しゅ、シュウ師匠! み、見ていたんですか!?」

 「あぁ、……訓練に熱を入れるのは構わんが少しやりすぎではないか? それでは兵を無駄に疲弊してしまう、戦場では命取りだぞ?」

 「う……っ、申し訳ありません」

 項垂れるカレンへ苦笑いしながらシュウは問いかける。その響きには生来の『仁星』の持つ優しさが滲んでいるが、悪戯気もある。

 「……それ程レイに会えぬのが寂しいか? それならば少し休暇を願い出て探しに行くのも良いのだぞ? 私からサウザーに言えば」

 「なっ!? ち、違いますよ! そんなレイ兄様に会えないから苛ついて兵に当り散らしているなんて、そんな子供見たいな……!」

 「うん、そうか? ……いや感括ってすまない。最近レイからの文を来ない事が寂しいと仕切りに食堂で言っていたのを聞いて……」

 「ワーーーーー!!!? 言わないで下さい!! 言わないで下さいシュウ殿! と言うか盗み聞きとは酷いですよ!!!?」

 「失敬、失敬! 目が見えぬと、その分耳が良くなってしまってな!」

 穏やかな笑い声を上げるシュウをポカポカと叩くカレン。その光景を笑いを噛み殺しつつも我慢出来ずに体を震わせて眺める兵士達。
 その平和と思える風景に、何故か知りえぬが自分の胸が痛むのを無理に気にせずシュウへとイザベラは歩み寄った。


 「……あの、貴方がシュウ様で? ……私はイザベラと申します」

「む? ……確か前はユダの元に使えていたと言うのは君か? ……いや、私の耳には不必要な噂も届くのだ……そう身を固くせずとも良い。
 私達はお前がユダの間者と疑ってはおらんし、それに聖帝もユダの思惑は薄々は気付いている……頭の痛い事ながらユダを諌める術を
 我々は思いつかなくな。……失礼、これはユダには秘密にして欲しいな」

 「……伝承者にしようとしているのは、貴方の息子と聞き及んでいますが、それで貴方は満足を? ……確かに鳳凰拳伝承者となれば
 貴方の息子は南斗の権力者となる事が出来ます、そして」

 「いや……私も、息子も権力と言うものには興味はない」

 え? と言葉を失う私に、シュウは開かない瞳ながらも、私の心を見透かすように言った。
 「……シバは私の『仁星』を引く身。……『仁星』は民の命を救うため己の命をも犠牲にする星の事だ。……シバには私の『仁星』
 の血脈を確かに受け継いでいる。……私もきっと何時かは民衆の為にこの命を賭す運命……後悔があるならば息子にその役目
 を引き継かせたくなかった。……だからこそ聖帝には感謝している。『将星』をシバの下で輝かせられるならば『仁星』を
 例え失いしも息子の命が未来で犠牲になる事を免れるのだから」

 「……そのような事を私に話して良かったのですか?」

 「別に隠す事ではない、サウザーにも話した事だ。……最もサウザーの言い返しには流石に私も脱帽せざるを得なかったがな」

 「え、聖帝は如何言ったのですか? シュウ師匠」

 何時の間にか話しに聞き入っていたカレンはシュウへとせがむ。シュウは回想を浮かべつつ言葉を再現する。……表情は苦笑のままだ。

 「聖帝の言葉はこうだ。『貴様の心配など明日天地が逆さまになるかを憂う程に下らぬ心配だシュウ。お前が『仁星』を宿命とするならば、
 命を賭しつつも、その命を前提に軽く犠牲にする事など愚かしき事だ。お前が自分の大切な者を守りたければ誰も犠牲にせず守れば良いのだ。
 宿命や掟、縛りなど古い習慣とこれからは無くなる。お前は自分の守るべき物をその開かぬ瞳でしっかりと見据える事を徹底しろ』
 ……とな。まったくサウザーは正に『将聖』だと笑うしかなかった。正に鳳凰! と。その時納得するしかなかったよ」

 「……凄まじい方ですね、やはり。私でしたら習慣を打破する、等と簡単には言えませんもの」
 「カレン、お前もこれからの世代を守る大事な一人だ。……その大事な習慣すら破り時代を守る初めとしてレイに会いに行けば良いの」

 「で! す! か! ら! 私は役割を投げ出してまで会いに行くようなふしだらな事はいたしません!! シュウ師匠の馬鹿っ!!」
 
 「……おやおや」

 また赤面しつつポカポカとカレンに叩かれ、降参の手を上げるシュウ。

 その光景を見遣りながら、本当にユダの命ずるまま、自身が懐に忍ばせている小さな牙を聖帝に向ける事が良いのかと、イザベラは疑問を感じた。









 「……サウザー、さ、ま」

 「……む、如何した? イザベラ」

 「……ユダ様から仰せつかっています。夜伽の……役目を……」

 「……ユダか……あ奴」

 薄いローブ、それ以外には胸と大事な部分を申し訳程度に隠す下着しか着けていない。この姿で数え切れぬ程に目的の男性へ
 迫り、そして行為の終わりの油断を突き、私は……。
 


 ……そうだ、私は道具なのだ。何を迷っている、『平和』な世など私には昔から無きに等しく散々命のやり取りをして来たではないか?
 『仁星』にほだされたのか? ほら、お得意の肉体で迫れ。私はトリカブトだ、トリカブト……ユダ様と最初に出会った時の言葉が蘇る。



 




  ……華やかな豪邸室。……囲まれている装飾品と宝石類、そして美しくも毒々しい爬虫類のケースに囲まれ跪く私達。

 ダガール様が教育用の指揮棒を手の平で叩きつつ言っていた。

 『……今日から貴様等はユダ様に仕えユダ様の為に死ね! お前達のように身寄りなき者を救ったのは、『妖星』ユダ様である!
 ユダ様の美しさを際正し、ユダ様の道具であるのだ! そして貴様達の傷はユダ様の傷! それを肝に命じるのだ!!』

 『私達』はそれを跪き心へ刻んでいた。その言葉は宮殿の絶対であり、言葉に背く物は死と同質の外の野獣の贄として……。

 あの時……ユダ様は私達を見回しつつ、私に目をつけて口を開いた。

 「女、名前は?」

 「……イザベラ、と申します」

 「ふむ、イザベラ……良い名前ではないか。お前は男を陥れる素質がある。私が保証しよう……お前はトリカブトに似ている」


 トリカブト    それが私がユダ様から頂いたもう一つの賛辞。生き抜く為に培った力を、私はユダ様にそう名づけ褒められた。


 そうだ、サウザー。お前も男なら私を抱け。抱け。そして私の毒に溺れろ。鳳凰などと言うまやかしを騙っても貴様は男。抱け!!!


 



 

  

 ……部屋の中を天使が通り過ぎる。そしてその時間がとても長く長く感じ居た堪れなくなった頃、聖帝は私へ静かに告げた。
 「……俺は言っておくが、お前を抱く気はない」

 「……っ! ……私がユダ様からの贈り物だからですか!? でしたらお気になさらず! 私の四肢にはサウザー様を害する物は」

 「違う、間者であろうとなかろうとお前を抱こうとは思わん」

 ……何故!? 唇から血が出そうになる。握り締めた拳からもだ。……いや、焦るな、今日は日が悪いだけの事、ならば潔く下が

 「お前も大事なこの国の民の一人。……泣いている貴様を抱ける程、俺は冷酷になれん」

 ……泣く? 誰が泣いている? ここにいるのは私とサウザーだけ……私?

 瞳に手を翳せば、目尻に浮かぶ涙。拭っても拭っても拭いきれず、私は呆然と自分が何故泣いているか訳がわからず混乱する。

 何時の間にか私の手首を掴み、重々しい声でサウザーは言っていた。

 「……そう何度も拭えば目に傷がつく、やめろ。……泣きたい時は涙がなくなるまで泣け……死ぬ間際にお師さんが言っていた
 悲しいとき、苦しいときはそのまま吐き出せとな……」

 何時の間にか抱きすくめられる私。……私は悲しくなど、苦しくなど。

 「……苦しく辛く狂いそうな時は、泣き続けるしかないのだ。……お師さんの死が間近になった時。お前は優しすぎる、だから
 私の死を受け入れるまで泣き続けろと言った。……お前も全て吐き出せるまで俺の胸を貸してやる。……お前は昔の俺だ」

 






  




  私はトリカブト。ユダ様の為の道具。花は摘まれた後に捨てられるもの。

 私は鳳凰とめぐり合った。私は最初、自分とは似ても似つかぬ人を超え者。……ユダ様と同質なのだろうと思っていた。
 だけど、その方も最初は泣き虫で、とても何かを失う事を恐れている方だと、私はあの時知った。
 ……気がつけば私は泣き叫び聖帝……いや、サウザー様の腕に抱きしめられ寝床に居た。

 ……あの時から、この方の生き様を見続けたいと言う望みが私の心に咲いた。そしてサウザー様はそれを言わずとも許した。

 ある時拳王とサウザー様がぶつかる時があった。私は遠く祈る事しか出来ない自分をその時初めて呪った。

 サウザー様は体中から血を流しながらも力強い笑みを浮かべ、リュウロウ達兵に抱かかえられながら戻った時泣きながら私は抱きついた。

 サウザー様がその後二日は養生の為に倒れた時。周りの兵士やシバ様から苦笑されるほどお傍で私は献身的に介護を勤め上げた。

 





 




 「……花の世話をしているのか? イザベラ」

 「はい……ゼラニウムです。サウザー様」

 「……良い花だな……この拳王から受けた傷も早く治りそうだ」

 
 サウザー様が外出出来るようになった頃、私はアイビーゼラニウムの花を植えました。サウザー様に、私は心から心配を含み問う。

 「……傷は大丈夫なのですか?」

 「ふっ……拳王は痛み分けと言っていたがな、違う。守るべき物がないあ奴の拳ではこの俺の体を砕く前にあ奴の肉体が砕ける。
 イザベラ、この俺が乱世を治める時は近い。人々が平和を謳歌する中で鳳凰が舞える日もきっと来るぞ」

 「ええ、サウザー様」

 ……貴方は知らないだろう。この花の言葉の意味を。

 アイビーゼラニウムの意味は『真実の愛情』。……貴方に抱いた、多分最初で最後のこの思い。

 私の人生に愛などないと思っていた。……けど翼を広げる貴方の暖かい瞳に私の心に咲いていたトリカブトはすべて燃えてしまった。
 その燃え滓の中から生まれ変わり咲いたのは……私の今手の中ですくすくと太陽の光を浴びて育んでいる。

           




         この想いを届けたい。あなたの瞳に




        何時か私の心の咲く花を映してもらいたい……










  



    あとがきと言う名の後日談




 「……ユダ様。サウザー様のご命令で一定の期間で私をユダ様の配下になさるようサウザー様が命じられました。
 イザベラ様は本当に有能な方、その代価として、らしいですよ?」

 「……な……!? ……そ、そうか、サウザーも人が悪い。急にリュウロウ。お前を贈るとは」

 (くっ! これで暗黙下に動く事がまた難しくなった……! ふっ……構わんサウザー! 貴様がこの俺の『妖星』に拮抗出来る
 と思っているなら、この俺も『妖星』の真価を見せてやる!!)


 


 (……やれやれ、この私の目の黒い内は何もしないで頂きたいですね)



 



 ユダの策略、それを南斗の智将は頭を痛めつつもどのような手を繰り出すか智将として密かに対抗心が燻るリュウロウであった。











[25323] 第六十話『また会えるから 笑顔で小指を絡めよう』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/01/31 11:03



 「やっほー、元気? お父さんもいるの?」

 「……その声はアンナ? あぁ良かった……! 父もお礼を言いたいと言っていたけど今は外出中よ。来ないから何かあったんじゃって
 私達三人とも心配していたわ……。もう、大丈夫なの? それで」

 「このアンナ様が死ぬ訳がないでしょジェニファー? ……まぁ、すぐに旅に出なくちゃいけなくなったけど……頼みがあるんだ」

 「私に出来る事なら何でもするわ。貴方はこの街を救ってくれたんでしょ? きっと私達家族以外は誰も知らないけど……」

 





 サザンクロスの根城で捜索に適した服を探していたアンナ。道中で寝台に寝かされていたジェニファーを発見し、ジャギと
 別行動を取る事にしたアンナはジェニファーに事情を説明して協力を願ったのだ。

 最初は父親を殺害されたと信じていたジェニファーだったが、アンナの説明を受けて徐々にその説明を理解すると、半信半疑ながらも
 城の兵士から説明された女性用の服棚の居場所は説明したのだ。
 
 バルコムの反乱が鎮圧された後、無事にジェニファーは父親と再会出来てアンナの言っていた事が本当だと知ると、父親の命の恩人
 だと感謝の意をアンナとジャギへ抱く事になった。
もっとも、ジャギに関しては『あんな荒っぽい助け方でお礼言われる筋合いはねぇよ』と、ジェニファーに会おうとは頑なに拒否したが。

 「とりあえず、ちょっとジャギと別行動する事になりそうだから手紙を預ける場所が欲しいんだ。だけどまた何かあった時に
 シンだと忙しいから受取り損ねるし、ジェニファーに頼めるかなって」

 「それ位お安い御用よ。貴方達には父を救ってもらったんだもの……けど何で別行動を?」

 「……ちょいと訳ありなんだ。御免ねぇ、言えなくて」

 そう笑顔で黙秘を示されると何も言えず、ジェニファーは質問を収めるしかなかった。





(partジェニファー)

 私はジーナー村で生まれ、そこで野盗崩れ達から自分達で守る事で必死に暮らし生きていた。そう、核が落ちた後もそうしていた。
 けど、世界が破滅に向かったと錯乱した暴徒から村を守る事は至難の技で、私達家族はサザンクロスの庇護を享受した。
 サザンクロスを治めるのはKING。金髪を靡かせる男性の横には温和な雰囲気を醸し出す女性が控えており、その女性を気遣う
 KINGを見て、ああ、これならこの町で暮らすのも悪くないと私は思った。
 母は核が降る前に病死で死別した。けど、死ぬ間際の言葉は未だ覚えてる。
 『……もしも平和な暮らしが出来るようになったら、幸せな女性の暮らしをする事も考えなさい。……貴方は男勝りだからねぇ」
 その母の言葉が蘇り、私は普通の女性としての暮らしを望むことにした。……父と祖父がそれを喜んで受け入れるのを見た時、
 ああ、こんなに心配されていたのだなと胸が痛くなるのを感じた。

 今、目の前で快活に笑う子は私の父が偽りの死で嘆いている時に希望を持たせてくれて、実際にその希望は現実だった。
 もしもあの時その言葉がなかったら一夜で自分の男性の部分の心が勝り自殺を決意していたかもしれない……彼女には感謝している。
 そんな彼女は旅へと出る……この街で付き人と幸せに暮らせないのは多分深い事情があるんだろう……これは私の女としての勘だ。
 ……私に出来る事は、彼女の旅路に少しでも露払い出来る物を託すしかないだろう。……彼女を暫し待たせ、私は奥に眠らせていた
 武具を引っ張り出した。……その中には弾薬などの他に一振りの『武器』が入っていた。……ジーナー村でも活用しなかった
 古武器だが、それは使用すれば間違いなく人を殺傷する武器だ。……直感的に、私はこれを彼女に託す事を、持ち上げて決めた……。










 「……これ、私に?」

 「そう、……使わないに越した事はないけど今の外では武器は必要よ。……貴方のように細い腕なら尚更……重くはないでしょ?」

 「そうだね。長さも私の腕より少し長い程度か……何処にあった物?」

 「村に昔からあった物ね。……確か祖母の母が昔村で医者の助手をやっていた時に礼の餞別だと言われて貰ったらしいわ」

 「ふーん、奇怪な礼だね。貰っても困ったでしょ、その時」

 苦笑いするしかないジェニファーを見つつ、その『武器』を抜いて光へ照らすと不気味な輝きを帯びていた……思わず喉が鳴る。

 「……使った事あるの?」

 「前にある男性がふざけて振った事があったけど、その時に村で一番の霊媒師だと言われた方が慌てて止めて、『コレは遊びで
 振り回して良い物じゃない! 命を呈し振らねば自分が斬られるぞ!』ってすぐ元の場所に札を付けて戻したらしいわよ」

 「……ねぇ、それって呪われてるとかそう言う系でしょ? この前の呪われた銃の話と言い、私ってそう言うのに好かれてるとか?」

 顔を引きつらせ『武器』を背中へと背負うアンナ。そして軽く腰を回したりなどして具合を確かめ、一回頷くとニカッと笑い言った。

 「……うん、何か格好良くて強くなった気分がする。……ありがとうねジェ二ファー、……『あの時』も友達になれたら……」

 「え?」
 
 最後の小さく言った部分を聞かれたらしく、慌てて手を振って独り言、独り言! とアンナは答える。丁度その時に祖父のアルナが
二人の場所へと鈍い足取りで歩み寄ってきた。
 「……お爺ちゃん、平気なの動いてて?」

 「わしを何だと思ってるんじゃジェニファー? 未だ体を悪くはしとりゃせんよ……お前さんがわしの息子を救ってくれた娘かい?」

 頷くアンナ、その瞳をじっくり見てからアルナは重々しく頷いた。

 「……うん、賢そうな顔に信を持った瞳が輝いておる。……それでいて何かとても重大な決心をしているな、お前さん?」

 わかるの? と問うアンナに、アルナは当然とばかりに頷くと、部屋の隅に置いてある木箱を指し示し言った。

「……村から何かの為に必要と思い運んだんじゃが、今のサザンクロスで暮らすにはもう必要なくてな……持っていって構わん」

 「……お爺ちゃん、いくら何でも『アレ』は……危ないわ」

 「何を言うんじゃ、ピンさえ抜かんかったら世界で一番安全な爆弾じゃ」

 そのアルナの言葉に、原作知識も併せ何となく携帯させようとした物体に合点がいったアンナ。呆れつつも今の自分には必要な
 物だな、と考える。アンナはアルナの手を握ると、力強く返事をした。

 「うん、持ってく。……だから二人とも約束して? 絶対に戻って来たら元気で会って欲しい……約束だよ」

 「ええ」

 「うむ、約束しよう」

 









 「……やっぱり手榴弾かぁ……、火のついた何か袋に入ったら完全に終わりだよね」

 袋の中に入れられた大量の手榴弾。もしもジャギと同行して旅をしたら何かの衝撃で爆発して二人とも死ぬだろうなと予測する。

 「……何? もしかして新手の嫌がらせ? ……考えすぎか、ナイーブになったら元も子もないんだよ~……っと」

 背中の『武器』がずれ、慌てて手で位置を戻す。これもこれで寝ている時に自分に斬りかかりそうだ……この『日本刀』は。

 「……『わたしの世界』でも日本オタクの友達が美しいって褒めてたけどさ、いや、綺麗だけどこれで斬ったら死ぬって
 わかってるのかな? そう言う根本的な部分わかってないよね、多分」

 少しだけ抜いた刃は、太陽の反射を受けて輝きを帯びている。何故か『妖刀』と言う言葉がしっくり当てはまりそうな印象を受ける。

 「……世紀末を生き抜くのは、これから呪われた銃と刀と手榴弾……幸運の女神とか降りてこないかな? 会った瞬間に殴るけど」

 天に染み付かせるように快活な笑い声を上げるアンナ。眩しすぎる太陽は余りにもこれからの道筋には泣きたくなるほど明るすぎて……。
 




 不意に                          その光を遮るように影が出来た。


 「……準備、出来たのか?」

 「そっちは? 緊張で寝不足気味とか言わないよね?」

 「何処のガキだよ、俺は……まあ正直言うと、心配で心配で眠れないってのは実際そうだけどな。これ脱いだら隈が酷いぜ、おい」

 太陽を遮る彼の体。目を細めて見上げると、梳いた髪の毛をクシャクシャにするように乱暴な手つきだけど優しさを帯びて撫でる。
 「……もぉ、また直さないと」

 「どうせ走ったら整えてもまたクシャクシャになるだろうが?」

 「それもそっか……ねぇ、似合う?」

 くるりとバレエのように体を回す。兄から貰った黒皮のジャケットへと取り付けられた日本刀。そして動き易いように膝の部分まで
 のジーンズの腰部分に拳銃は備え付けられている。
 これが精一杯の装備。他にも色々と忍ばせているが、目立つこの武具が世紀末を生き抜く為の私の命がけの牙達。

 「……あぁ、似合っている」

 私の姿をぶっきらぼうに褒める貴方。けど知っているよ? 本当は私が武器何て持たないで欲しい事など、私はお見通しだから。

 

 きっと……、貴方は私と同じ事を思っている。


 私と別々に旅へ出たら、現れる野獣達を冷徹に屠り続けるだろう。

 私も同じ。疲れ果てた貴方を襲うかもしれないと危惧し、逃げる事を選択肢から捨て去り野獣へと尽きるまで弾丸を浴びせるだろうから。

 貴方は優しすぎると、言い聞かせる人は私しかいない。

 けど、私は言わない。言ってしまえば貴方が迷って、その迷いが貴方の命を脅かすかもしれないから。

 針鼠のジレンマのように、私と貴方は必要以外の言葉を話せないでいる。だから……だから精一杯の言葉を最後に……。










 




彼女の姿。それは一昔前に覚えているゲームのキャラクターを何故か彷彿させる。

普段なら苦笑い出来る光景。だけどお前が俺の為に必死で強いと安心させようとしているのが痛々しくて堪らない。

 彼女は笑顔を見せている。俺の瞳には明るく見えるけど、それが俺にはそう見えているだけできっと心の中では苦しい筈なのだ。
 
 俺は彼女の視界に映らぬ場所で邪狼に戻り、彼女に迫る可能性のあるスベテを拳で屠り消す決意を抱いている。……許し等は請わせぬ。

 『許し』はここでは『罪』であり、『甘さ』はここでは『報い』へ繋がると、『前』に身にしみて得た経験は、俺の拳に力を宿す。

 彼女を守る為なら守るべき者からも『悪』と呼ばれても構わない。『極悪』など石を投げられるよりも軽い事だ。……彼女は小指を出す。


 「……何だよ」

 「指きりげんまん! やった事あるでしょ、ジャギ?」

 「……かなり昔にな。……恥ずかしいけどな」

 「私とするの、恥ずかしいの?」

 「そうは言ってねぇだろうが……ほらよっ、これで良いんだろうが?」

 小指を出す。それは悪意抱く者に殺意を宿し突けば、肉体を死へ向かわせる俺の凶器。彼女を守る為に俺が鍛えた、俺の誓い。

 けれど今だけは彼女が絡ませる小指は仄かに髪の毛と同じく金色を帯びているような気がして、俺の指さえも無垢な存在に思えるのが不思議だ。

 彼女は唱える、再会を誓う約束の呪文。子供らしさを二十歳となりても依然と失わぬ彼女の風貌に心が安らかになる。


 「……寂しかったらお守りのバンダナと、小指を見て私を思い出して? 大丈夫だよ。……私が強いって、ジャギも知っているでしょ?」

 「……馬鹿、俺からすればまだまだひよっ子だ……危なっかしくて見てられねぇよ……見てられねぇに……決まってんだろうが」

 言葉が震える、体が震える、これからの約一年も続く日々に彼女の暖かさが消える事を、太陽を浴びれぬ獣の如く畏れている。

 彼女は俺を抱きしめる。子供を安心する母親のように俺を抱きしめて、囁く。

 「……大丈夫。……大丈夫だよ」

 「……アンナ」

 「ジャギ……寂しかったら、辛かったら私の名を呼んで? ……私も呼ぶから……同じ気持ちの時は呼ぶから……」

 「アンナ……!」

 「……ジャギ」

 腕にすっぽりと包まれる彼女の体はとても小さい。どうして、どうしてこんなに神とは殺意を抱かせる試練を成そうと考えるのか?

 ……いや、嘲笑だ。俺は悪魔……今が悪魔が微笑む時代なんだ。わかりきった事に今更疑問を抱くな。

 俺はこの場所にある真実。この暖かさが俺の守る物である事を忘れなければ良い。







                    ……だから      だからさ


 「アンナ……」
 「ジャギ……」








        『また会える    だから私(俺)の名を呼んで(くれ)』










 
     




あとがき


 今回でチラ裏の投稿は終わりです。『新たな旅たち』をジャギとアンナと共に
 汚物めも、その他版へ移り冒険譚の執筆へ取り組もうと思います(`・ω・´)
 ちなみに今年一番最初にイラッ☆とした言葉は
 某友人の言葉で『お前ってユーモアのセンス全然ねぇよな(笑)』です。(`;ω;´)
 ちなみにその言葉を吐いた瞬間に一メートルは吹っ飛ばしたので気分は爽快MAXです!(`・ω・´)
 皆さん、これからも汚物めの作品を         北斗羅漢撃!!!
 




[25323] 第六十一話『真っ白な空に北斗七星は黒く輝く』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/01 22:04
           




           「なぁシン……。……俺の名を言ってみろ……っ!」


           








             「ジャギ……っ、な……なにを ジャギ!?」





   





    雷雨が激しく落ちるサザンクロス、その一角で雨に濡れながら二人の男が対峙している。


      

    一人は胸に鮮やかに刻まれている、北斗七星の形に刻まれた傷を。

  それを見せ付けられた男は驚愕と馴染み深い『強敵』が変貌している様を見て呆然と立ちすくんでいた。

  「……ジャギ、……何故だ? 何故俺にケンシロウとユリアを引き離す凶行を話す? そして……その七つの傷は……っ」

  

  「シン……『今は悪魔が微笑む時代なんだ』……っ! 俺は悪魔となって俺の道を進む。その為にシン……貴様の手も汚す!」

  
 そうジャギが言い放った瞬間。凄まじい雷光がジャギを照らし、その眼光の強さをシンへと見せ付けた。
 ジャギの眼光に輝いているのは、ある意味凶兆であり、それでいて修羅に似た瞳を帯びているのをシンは感じ取った。








 ……話は数日前に遡る。










 
  暗い、暗い空間で一人考え耽る男がいた。男の前には鈍く自分を映す鏡。……男が大事だと思う付き人は今はいない……。

 男が回想するのは少し前に予言士が言った言葉。その言葉は頭の中で木霊していた。


 『北斗七星を宿す男の宿命の手により巨星は落墜する』 『北斗七星を宿す男の宿命の手により巨星は落墜する』  『北斗七星……』






 「……そう、かよ。……なぁ『ジャギ』、てめぇもそう思うか? あの甘ちゃんを、北斗七星を輝かすのには、正史の道を
 半ば強引にでも進ませなくちゃいけねぇってよ? ……ちくしょう……何が悲しくて変えようと思ってたもんをわざわざ
 同じように進ませなくちゃいけねぇってんだ……!」


 男の握る拳は震える。鏡の中の『ジャギ』は幻覚かも知れぬが、嘲笑(わら)いながら囁く幻聴を男へ見せ付けた。


 『……お前なら簡単だろ? ……お前は俺なんだ。『前』と同じく似たようにやればいい……。……何を迷う事がある?
 何故運命を変えるのを諦める必要がある? ……『あいつ』の幸せを掴み取りたいなら。……あの野郎から愛を奪い取ればいい……』


 「……ふざけんな……他人事見たいに言うんじゃねぇ……! 俺の、俺の個人的な問題のはずだったはずだろうが……っ!
 ……あいつだって宿命なんぞ捨てて幸せに一時期は過ごす未来があったって……誰も文句言わねぇだろう!?」

 『言うさ……『神』って言う糞野郎がな……。なぁ、この世で一番強いのは人間の悪魔めいた信念だぜ? だからこそ『俺達』は
 鍛え『あいつ』を守ろうとしたんだろう? ……『俺達』が悪魔になろうぜ? そうすりゃ絶対に悪い事にはならねぇ……』


 「俺は……俺は……っ!」

 
 『……その左手は『あいつ』と手を繋ぎたいから鍛えたんだろう? ……その右手の小指で約束したんだろう、再会をよぉ……。
 ……俺とも契約すれば良い。その右手の……『あの時』に守れなかった時に変えようと禁忌を破り悪漢を滅した……人差し指で』


 「やめ、ろ……っ! 俺を誘惑すんな! お前は俺だろうが!? 何今更出てきて出しゃばってやがる!? お前はお」

『そうさ『お前』は『俺』、『俺』は『お前』さ……! ……約束しただろう?  『あいつ』が無邪気に微笑んで暮らせる世界を
 創るってよぉ……! その為なら『てめぇ』を潰しても『俺様』が出てやらせて貰うぜ……』 


  「俺は……俺は……俺だ。……『お前』に指図されなくてもやる……好きにやらせても貰う……っ! だから黙ってろよっ!」

  

 


 『……けっ……たかが日和日の生活してた癖にほざきやがる……。……だが貴様が見てられなかったら『俺様』が出るぜ?
 『俺達』が守らないで、誰が『あいつ』を守るんだよ……』
 

 その言葉を区切りに……鏡の中の幻想は闇へ還っていった……。















闇が深まりつつも、男は膝跪き、一呼吸後に儀式を行う。

 

 「アンナ」


 胸に翳すのは、最初に左手の親指で(貪狼)と呼ばれる星を突く。
 
 突き刺す痛みの中で浮かべるのは、アンナの笑顔、そして俺の決意の言葉。

 『……絶対にお前の笑顔を失わない』




 


 「……アンナ」


 胸に翳す次は(巨門)の位置。

 左手の人差し指で突く中で次の言葉を回想する。

 『……絶対にお前の暖かさを失わない』



 


 


 「……アンナ……っ」


 (禄存)、そう呼ばれる三番目の星を中指で突く。

 痛みの中で君の笑顔が闇に輝く、それを胸の中に刻み付ける。


 『……絶対にお前の光を失わない』









 「……アンナ…………っ!」


 薬指で刻み付けるは(文曲)の位置。

 眠りが脅かされた時、君の口ずさむ歌が過去の偉人達の曲を勝った時を思い出す。


 『……絶対にお前の笑い声を失わない』








 「アンナ……っ!」

 (廉貞)の位置を、血まみれの左指達の最後の締めくくりとして突く。

 激痛は多分『前』の贖罪。だがこの痛みで彼女の未来が祝福されるならば、俺は

 
 『……絶対にお前の未来を失わない』








 「アン……ナ……!」

 震える右手、最初に突く指は人差し指。悪魔と契約しすべし指で(武曲)を突く

 その体中を流れる氷の如き血流の中、君の声を呼び、僕を呼んでとせがむ。

 
 『……絶対にお前の心を失わない』 










                              「アンナ!」

 最後に小指を高々と上げ、振り下ろし突くは(破軍)

 そして上空を見上げると、激痛で霞む瞳の中で北極星が輝くのを見た気がした。

 
 『……絶対にお前の総てを失わない』




 男の血で滴った胸の傷は闇の中で微かに光を帯びるように輝く。

 男は決意する。決して、もう二度と失わない為に、すべての『悪』を飲み干してでも『あいつ』の微笑みを失うまいと。




                   もう二度と              失わない


                       たとえ         俺のこの身がどうなると      お前だけは









                                 ……絶対に……











 「シン……元気か……?」

 「ジャギか! 心配していたんぞ、あの後旅支度以外でお前の姿を見ていなかったからな……。……アンナと一緒じゃないのか?」

 「……ちょいと別行動だ。……サキ、シンをちょいと借りるぜ? 大事な話がてめぇにある……」









 『ある時』に悪魔の囁きを起こした場所。……そこで対峙するジャギとシン。そしてジャギは話した。世間話も唐突にだ。


 「……ユリアとケンシロウを引き離す。……そしてシン、てめぇにはケンシロウに七つの傷を付けて貰うぜ? ……俺と同じように」


 「……馬鹿な、それに協力してどうなる? ユリアとケンシロウ……二人の仲をお前も祝福していたではないか? それを」


 「くどい……口で説得出来ないなら……てめぇには俺の拳で従って貰う」

 「なっ……!?」


 構えるのは手刀、シンは俺が構えると同時に臨戦態勢に入る。例えどんなに平常であろうと殺意を帯びた人間が目前に居れば
 拳法家とは自然と構えてしまう。シンは叫ぶ。

 


 「何故俺と闘わねばならんジャギ!? お前は……お前は俺の『強敵』だろ!」

 

 ……っ。  アア ソウダ   ……『ここ』ではお前と俺は本当に心通わせられる『強敵』だ。


 だからこそお前に拳を向けている今。『ジャギ』の憎悪が、『俺』の苦痛が混ざりヘルメットが締め付けるように頭痛が発生する。


 「……うだうだ言ってるんじゃねぇ! ……本気でやらねぇと……死ぬぞぉ!」

 



  一閃       振りぬかれる手刀



 だがシンはそれを軽々と避ける。……当たり前だ、こいつは迷っている状態では相手に本気で拳を向けれない。……甘ちゃん。
 




 ……そうだケンシロウと同じだ。オレヲコロシタアマチャント……っ!!?




 「黙れやあアアアアアアあああぁぁぁアア!!! 『お前』はシャシャリ出て来てんじゃねぇぇぇエエエエエエええええ!!!」


 「っ……!?」


 地上へと振り抜かれる俺の拳。そして砕かれた床はシンめがけて飛ぶ。


 荒く息吐き体を揺らすジャギ。それを眺めつつ、シンは口を開いた。

 「……何か、あったんだな? ……俺には言えない……何かがお前をそう駆り立てている……そうだな?」

 「……っ」

 「ジャギ、俺にお前の苦しみを言え。……何も聞かせてくれなければ俺は」

                               『かかったなぁ!!』

 「……っ!?」


 歩み寄るシンに、俺が『密かに含んでいた針』はシンの椎神(動きを止める、歩行を困難にする)へと正確に命中した。


     「ヒィイ~ヒッヒヒ~!! シン、腑抜けたかぁ~!? あっはっはっはっはっはっはっは!!」



 「……ジャ、ギ」


     「これから貴様は風厳(術者の言うことを聞く)を突いて言うことを聞いてもらうぜ? ヒヒヒヒ……! どうだ、悔し」


 「……お前は」









                               「……お前は俺の……『強敵』だ……」












 




  ……北斗寺院の跡地。そしてリュウケンの墓が建てられし場所。

 「……む、この花は?」
 リュウケンの墓へとユリアと共に参ったケンシロウ。その墓にはふうりん草が植えられている。

 「……私達以外の方が、先に参ったようですね」

 一体誰か? トキ兄さん……いや、確か別の村で医師として奔走していると風の噂で聞いた。ラオウ……いや、それは想像するのが困難だ。

 「……あぁ、どうやら、そうらしいな」

 ふっと微笑む自分。……考えれば俺とユリアの他に、この墓へと花を植える者など一人しかいないではないか……。
 何処か安住の地を俺達より先に見つけようと旅をしているだろう兄。……その光景が楽々想像出来てしまい思わず笑みを浮かべた。

 「……親父、俺は大丈夫だ。俺には北斗神拳が、ユリアが……そして慕うべき兄達がいる……何も心配いらない」

 俺の言葉に、微笑むユリア。俺はユリアを抱かかえると言った。




 「……行こう! 何処かにある、安住の地へ……!」


 



                            






                          「……そんな物はなぁ、この時代にはない……っ!」






  
 「……っ!!?」

 振り返るケンシロウ。そこにはとげ付きショルダー、そしてヘルメットの男が腕を組んで立っている。……!? 隣にいるのはシン!?

 「お前は……」

 「……フッフッフッフッ……! ……やれ……シン!!」

 「……っ、行く……ぞ……ケン、シロウ……。ユリ、ア……を……ヤメ……頂く……っ!!」


 ……!? シンの様子が可笑しい……。そしてこいつは何者だ? ジャギ兄さんの声に似ているが、……在り得ないのだ。
 あの『ジャギ兄さん』がこの様な事を起こすなど天地が逆さまになろうと在り得ない! 襲い掛かるシンにケンシロウは跳ぶ。





                                 『南斗獄屠拳!!』

                                 『北斗飛衛拳!!』






  同時の形の飛び蹴りが交差する。……数秒の時の後に血を吐き、胸の服が裂けケンシロウは倒れ伏した。


 「ケン!!」

 「ヒ~ヒッヒヒヒヒヒィ!! ケンシロウ如き、この俺様が手を下す事もなかったわぁ!!」

 「……っ、貴方は、貴方は一体!!」

 「シン、わかってるな!? ……やれぇ!!」

 ふらふらと正気を失っているシンは倒れ伏すケンシロウを掴み起こし、胸へと人差し指を翳す。そして男はユリアへと獰悪に言い放った。
 

 「……おい貴様ぁ、俺様の物になると言え! ……そうすればケンシロウを殺さずにおいてやる。……貴様は美しいなぁ」

 「……っ、貴方にそう思われているだけで私は死にたくなりますっ」

 「グヒッヒッヒヒヒヒ!! つれないなぁ『南斗の慈母星』は! 俺様の心にはお前の光なんぞ届きはしないさ……しねぇんだよ」

 「? ……え、今の……」

 「シン、ユリアの言葉を聞いただろ? ……殺せ」

 「……ケン、シロウ……何……分後に……止めるんだ……死ぬ……か、な」

 シンの言葉が紡がれ、ケンシロウの胸には次々と北斗の星を模るように傷が突く。ユリアの悲鳴、そして男へと言った。

 「わ、わかりました! 貴方の……貴方の者になります!!」

 「……ヒィ~ヒッヒッ!! 聞こえたかケンシロウ!!? 先ほどまで嫌がってたユリアが、こんな子悪党の物になるとよ!!
 女の心変わりとは恐ろしいもんだなぁ~!? イ~ヒッヒヒヒヒ!!!」

 「……っ、ユリ、ア……」

 「……おいお前、俺の名前を言ってみろぉ?」

 ケンシロウの髪を掴み上げながら、男はケンシロウと目線を合わす。

 その時ケンシロウは激痛によって体が縛られるように動けずとも実感した。……違う。やはりジャギ兄さんの服装とヘルメットに
 よく似ているがジャギ兄さんではない! こんな凶行を、こんな瞳で俺を睨む奴がジャギ兄さんのはずがないと……!!

 胸に浮かんでいるのは先ほどつけられた俺と同じ北斗七星の傷。




 お前は……                お前は誰だ!?


 「……誰だ、貴様は?」

 「ヒヒ……!! 俺様を倒し、ユリアを取り戻したければ地獄の果てまで追いかけるのだなぁ? ……俺様は待ってるぜ? ケンシロウ……」
 苦しむ様子を見せながらユリアを拘束するシンを引きつれ、一台の車へ乗り、その男は去っていった。……視界から消え去った時、
 胸の中に迫りあがったのは自分の無力感……そして生み出される感情と慟哭を天へと叫んだ。

 






                 「……待て、……ユリ、ア、シン……っ! ユリ、ア……ユリアーーーーーーーー!!!」












 ……車は荒野のとある場所で止まる。それまでじっと無言だった男は、シンへと先ほどとは打って変わった悲しげな声で言った。

 「……これから数時間後にお前は正気に戻る。……そして俺のやった事は忘れろ。……あいつが記憶を思い出そうとしても
 俺の事は口に出せない……わかったな」

 「……っ! やはり……貴方は……っ」

 先ほどまで幾分怯えた様子を見せつつも何やら秘めた表情だったユリアは、俺の正体にすべて勘付いたのだろう。俺へ怒鳴るように言った。

 「何故ケンシロウにあのような事を!? 貴方は……貴方達は」

 「近い内にラオウがお前らの元に来る。……危ねぇからお前は南斗五車星の元に行け……シンの連絡ですぐ近くまで来てる」

 「……何をなさろうとしているんです? ……こんな未来はなかった。……こんな悲しい出来事は、私には……」

 「ユリア……そういやお前にも予言の力って秘められていたんだっけな。……核の降った後の様子は最近見えたのかよ」

 それに力なく首を振るユリア。……予測はしていたが、これで全員未来を知る手段はない……って事か。


 「……シンにはサザンクロスの兵士が迎えに来るはずだ。……俺のいない間に野獣が来る事はないだろうがよ、一応ライフルは
 車に置いとくから持ってろ。……って、もう構えてんのか」

 


  その俺の言ったライフルを、構えるユリア。……堪んないな……本当。



 「……悪かったよ。悪かった……謝るから行かせて来んねぇか?」


 「いいえ……っ。貴方を行かせてしまったら、もっと自分を苦しめる道へ進むでしょうっ……私は、私は貴方にそんな道は」


  



                 「……アンナの為だ。……行かせてくれよ、『ユリア』」

 

 「……っ」


 そうジャギが静かに呼びかけると……、力をなくしユリアはライフルを提げた。……遠くない場所で車の音が聞こえる。

 



 「……お迎えが来たようだな。……お邪魔虫は消えるぜ、いいか? ケンシロウの元に戻るなよ。戻ったら俺がまた来るか」

 「……あなたの」

 「……ん?」

 「……貴方の行く末に……幸あることを……私は祈ります」

 「……『聖母』の加護か……。……はっ、要らねぇよ。……俺には女神一人で間に合ってっからよ」







    アンナ                      お前を絶対にこの世界から守り抜いて見せる。


            お前を守れると思える限り、俺はお前に守って貰っているに等しいんだ……俺はさ。


       『あの時』の俺の夢は叶わなかった。……けど『今度』の夢は絶対に俺の命を懸けてでも叶えて見せるから。


  バイクで荒野を走るジャギ、その風を切る音と共に、空耳でアンナの声が聞こえた気がした。






                         






                                『ジャギ、何時だって同じ気持ちだよ』










  あとがき



 

 ここのジャギはとりあえずスピリタス程度の沸点で動いている人間です




 




  今回のシーンはデスノートOPの「the WORLD」を流して見ると鳥肌物です、はい









[25323] 第六十二話『焼きたて!! ジャギパン。 キムの日々(燃成)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/02 20:37


  

 世紀末で海は枯れ、草木は枯れた。


 だが、それでも河口が生きている場所は存在しており、そこを拠点として町も設立はされている。

 そんな場所には決まって川が流れる山々が近くにたっていたりする物だ。

 その場所へと飛んでく一羽の鳥。その鳥は山目掛けて飛びながら一人の男性が繰り返し一定の大声を上げているのを聞いた気がした。







   『一万八千九十二回!! 一万八千九十三回!!! 一万八千九十四回!!!! 一万八千九十五回!!!!!』


    

 
   『一万九千九十八回!!!!!! 一万八千九十九回!!!!!!! 一万九千回!!!!!!!! てぃやあああああ!!!!』






  山のとある滝の流れる場所。そこでボロボロの胴着を身につけながら男は滝へと拳を繰り返す突いている。

 男の雄叫びが木霊し、拳が突かれる度に徐々に滝も大きく割れ、次第に滝の流れる根元まで水流が一瞬割れた気がした。


 「……はぁ! はぁ……!! よしっ! 次は仕込みを済ませたアレを老師へと
……。……今日こそは唸らせる味を出してみせる!!」


 男は掛け声と共に聳えた岩を飛び下りつつ一つの洞窟へと降り立つ。その洞窟の中に置かれているのは大量の袋と……竈(かまど)だ。

 その竈から慎重にパンを取り出すと、風の如く男はまた聳え立った岩を飛び移り山頂の方へと駆け上がっていった。







  「……zzz……zzz」

  「老師! 老師!! 朝の食事です!! どうかお食べになって下さい!」

  「……んあ? もうそんな時間かぁ?」

 男の目指した場所で、不安定な岩の上で鼻提灯を膨らませ眠りこけていた老人を起こすと、男は荒れた肌でパンを差し出した。

 そのパンを無造作に口に入れる老師と呼ばれた老人。寝ぼけなまこで咀嚼してから数秒後目を見開くと、震える声で男へと言った。

 「……おぉ……これは……っ……これは!?」


 「どうですか老師!? この味ならば満足出来ましょう!!」

 
 「……キムよ」

 
 「はい! どうですか!?」











                               





                               「……米の味がせぬ」


                              「出来るかボケ老師!!!!!!!!!っっ!!!!」












   「……うむ、しかしお前がわしに弟子入りして幾年……色々あったのぉ」

   「……そうですね」

 切れて殴りかかったキムを返り討ちにした寿々老人。そしてボコボコに顔が腫れあがったキム。

 何年もの修行で力は身についているキムであったが、どんなに挑んでもこの老師には一度も勝てた試しがなく、これが日常茶飯事となる。
 夜襲や不意打ちをしてものらりくらりとかわされ、キムは今までの怒りと不満はすべて自作のパンへ込めるだけしか出来なかった。

 「……老師、お願いです。私をどうか外の世界へ行かせて下さい……!」

 「お前さんには未だ早い。もう少しわしの元で鍛えよって」

 「その言葉を受けて早一年は経ちます! 核が落ち世界は荒れ、人の皮を被った野獣が罪なき者達に牙を向いている!!
 私の拳はそのような者達を守る為に鍛えたのです!! 今振るわずして何時振るえと言うのですか!!?」

 「お前さんの拳は確かに着実に強くなっちょる。だけど今ひとつ足りん。何かが足りんのじゃよ。岩砕けようが滝を割る事出来ても
 自慢にも何にもなりゃせん。自分のの拳に何が足りんのかをよーく考え、そんでもって美味いパン出来たら外に出してやる」

 「……老師、そう言って私が何時どんなパン出しても『……米の味がせん』としか言わないのは何故ですか?」


 「わしゃ米の方が好きじゃからな」


 「ただの好みの問題で私の人生を台無しにするつもりか貴方は!!?」


 その寿々老人の言葉にまた殴りかかり、そして返り討ちでキムはまたボコボコになるのだった。








 「……くそっ、駄目だこれでは。……これでは私を信頼してくれた店主やジャギに申し訳が立たない。……店主の方は今でも健在
 と聞き及んでいるが、……ジャギの方は大丈夫だろうか?」

 傷の手当てをしつつパンを捏ねながら昔の友の安否を気遣うキム。その顔に憂いが備わり、パンを捏ねる手は疎かだ。

 「……くっ、……水の如く穏やかに……そうだ、私に足りない物とは何なのだ? ……考えろ、考えるんだキム、雑念を払え……」

 ……雑念を払おうと思っても湧き出てくるのは今までの修行の日々。……美味い飯が食いたいからと言われ山を降りて食材の買出しへ
 出かけて山で迷子になって死に掛けた事。滝から突き落とされ死にかけた事。目隠しされて谷底から落とされ死に掛けた事。
 雪山の中で突きの練習を凍てつく夜にやらされて凍死しかけた事。両手両足を縛られて地面に埋められて窒息死しかけた事……。

 「……駄目だ。老師の(虐待としか言えない)修行の事しか思い浮かばない。……怒りで今老師と対峙したらまた殴る……」

 もっと昔の出来事でも思い出そうとキムは気をとり直す。そして一番やはり思い出に残っている北斗の寺院での修行時代を思い浮かべた。


 ……あの頃は身寄りない私は我武者羅に自分の生き方を身につけたく、リュウケン様……師父の元で修行を半ば強引に入れてもらった。

 そして毎日厳しい修行を耐えつつも、師父の表情には私の鍛錬の様子は期待に応える物はなく、それで私は強引に破門を言い渡された。

 思えば良かったのかもしれない。あのまま私は鍛えていたら他の者と比較し歪みを得て今の自分のまま成長していなかったから。
 
 そういう意味では師父の判断とケンシロウとの邂逅……そしてジャギの言葉は私の人生を良い意味で大きく変えてくれた。

 ジャギが師父の伝言……と言っても大まかはジャギの想像の言葉なのかもしれんが、その言葉が私を勇気付けてくれた。

 私の拳が正道であり、だからこそ輝けると言ってくれた事がうれし……っ!? 待てよ? ……もしかしたら足りない物とは……!


 「そうか! わかった! わかったぞジャギ! 老師!!」

 私は急いでパンを捏ねる。それは繊細に自身の今の気持ちを込めて熱心に捏ねる。そしてゆっくりと竈へ入れて、数時間後に
 取り出して出来栄えを見て確信した。……やはり……そういう事か!!
私は急いで今完成したパンを抱えると、老師の元へと急いだ。


                    老師! 今貴方の言葉がわかった! 私に足りない物……それは!!
                              










 「老師、どうぞお食べになって下さい! ……これを食せば、私の気持ちをわかってくれると思います!」

 「ほぉ? 妙に自信があるんじゃな? 不味かったら承知せんぞ?」

瓢箪の酒を拭いつつ、胡散臭げにキムのパンを咀嚼する寿々老人。





                              ……パク




 「……どうですか?」

 「そう急かすでないわ。……ふむぅ……」


 キムのパンを一口、二口……そして全部を腹へと収めた寿々老人。キムの期待が高まる中、寿々老人はおもむろに言った。

 「ふむ……米の味は流石にせんが、この味は昔食べた味にほぼ同じじゃ。……それが何かお前はわかっておるか?」

 「はい! ……このパンは老師に最初へご馳走した、私の師であるパン屋の店主の味を思い出し作った物です」

 「何故、そう作った」

 老師の言葉を受けて、キムは手を見つめつつ感慨深げに言う。

 「……思えば、私は下界の乱れを正そうと思うばかり自分の事に目を向けておりませんでした。……昔言われました。私の拳が
 誰かを助ける拳になれると友人に。……その拳を創るには自分自身の心をまず忘れてはならない! 他者を労わる心、思いやる心!
 老師。貴方が私を鍛えてくださった理由。……今思えば私が貴方を救おうとした事が原因だったと思います。ですから私は!」

 「いや……わし、そう言うの思ってなかっ」


 「ですから私はこのパンに込めたのです! 自身の初心を忘れず、拳を揺らぐ事はないと言う決意を! 老師、私の心を理解して
 下さりますね!? 私の心をすべてそのパンに込めたのです!!」

 
 「……おめぇ昔から思っちょったけど暑っ苦しいやっちゃなぁ……」

 呆れた声色で暫し真面目に詰め寄るキムを見ていた寿々老人だったが、気を取り直し真面目な表情で立ち上がると言った。


                          「……よっしゃ……お前さんの心……どれ程のもんか見定めて貰おう」








 



 荒れる天候で対峙する寿々老人とキム。一人は正拳で構え、一人は無行だ。だがどちらの体にも風を防ぐほどの闘気が立ち昇っている。


 「……おめぇさんに今からわしが殺す気で拳を放つ。……今まで鍛えたお前さんの拳に覚悟がなけりゃ受けきれねぇ……わかるか?」

 「はいっ!! 老師!!! お願いします!!!!」

 「……おめぇ演技で良いから恐れるか何か他のリアクションとれねぇのかね?」

 キムの暑苦しい態度は寿々老人からすると調子が狂うらしい。気を取り直し掌を合わせる寿々老人。その合わさった掌からは気の球
 のような物が膨れ上がり、荒れ狂う風すらも防ぎ寿々老人を守る気の膜が出来上がる。

 




  「……はぁあああぁ……! 『南極界』……!! ……行くぞぉキムよ……! わしの拳、見事返して見よぉ!!!」


  「来い……っ! 今までの私の努力の結晶……っ! ここにすべて込めて見せる……!」

 その二人は空中を飛ぶと、力強く気を纏った拳は交錯した。





 



                              『南極界破!!!!』



                              『金剛正覚!!!!』












   ……空の天候はやがて快晴へと戻る。その空の下で背を向き合った二人が拳を放った状態で立っていた……。





 「……よぉやった……」


 「……老師」


 崩れ落ちる寿々老人。それを慌ててキムは支える。だが、寿々老人……『南極老人』の呼吸は弱弱しく、手つきは震えている。

 「……お前さんの心はもはやわしが手を貸さずとも、この地上に立派に立っておる。……良いな? お前の心は真っ直ぐじゃ……
 真っ直ぐ過ぎる時もありすぎる……。下界ではお前さんの拳でもどうにもならぬ時が必ずある。良いな? ……柳の如くあれ」

 「老師……何故、何故ですか!? 老師が……こんな簡単に……っ」

 「……すべてお前に教える事は教えれた。……お前に教えている間……本当の子が出来たように……嬉しかったわい」

 「老師……! 今から、今から医者を呼んできます。だから死なないで……!」

 フッ、と笑みを浮かべ天を見上げて……寿々老人はポツリと言った。

 「……ようやく、眠れる」

 





 「老師……?        ろ    う……       老師いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!っ!!っ!!」














  「……そんなに叫ばれたら眠れないんじゃがのぉ?」

  「……は?」


 呆れたように自分を見上げる老師。……え? いや、今確かに……。

  









   「……いや? わし眠るって言っただけじゃろうか? 何勝手に勘違いしてわし殺してんじゃよ? ……え? 本気で死んだとおも」


  「こん     の        ボケ老師がああああああああああああああああああああああああ!!!!っ!!!っ!!」










 その後キムは本気の拳法を使い寿々老人へ挑みかかるが、単調な攻撃を軽々と避けられまたボコボコのまま荷造りする事になった。
 そんなやり取りをしつつ、何処にでもある家出息子の如くキムは大量の小麦袋とパン作りの器材を荷台に乗せて山を降りた。

 


 そんなキムを山から見下ろしつつ瓢箪を口にしながら『南極老人』は言う。


 


 『……いやぁ~、そんにしても本当から甲斐のある弟子じゃったわい。……今度下界に降りたらまた同じような弟子を見つけたい
 もんじゃわ。……後はお前さんの頑張りを上から見ておるからな。頑張るんじゃぞキムよぉ。……いやぁ~ほんま楽しかったわぁ!』



 しょっしょっしょっ! と山彦に笑いを乗せて『南極老人』は山を照らす太陽の光に溶けるように消えた。

 キムはその後二度と寿々老人に出会う事はなかった。だがキムはあの老師が死ぬなどと欠片も思っていなかったし。
 パンの焼き具合が上手くいかない時は、自分だけに聞こえるような老師の笑い声が聞こえるのだった。
 










 あとがき



 キムの拳法に関してはパンを用いた拳法にはなれません。






 期待していた読者の皆様、大変申し訳ないですm(__)m











[25323] 第六十三話『満月の下で針鼠の心は儚く道筋を辿る』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/03 19:28


    ※注意

    今回の作品には一部グロテスク・ダークな描写が存在しています。
    精神的にそう言うのが慣れないモヒカンの皆様は十分お気をつけ下さい。

  









 ここは等活地獄。罪人達が責め苦と生前の争いを引き摺り骨肉を飛び散らせ断末魔を未来永劫の終わりまで声が続く場所。

 その一角にある儚げな花が場違いに揺れている。その花へと柄杓で賽の河原の水をかけてやりながらヘルメットの男は話しかける。


 「……そういやぁよ。お前、本当にあいつらが強い奴だって思ってんのか? ……はっ、だとしたらとんだ思い違いだぜ。
 ……考えてみろよ? 俺に酷似したアイツはともかく、アイツに付き添っている女の方の事だ。……普通よ、自分が死んだ世界に
 居るって事を実感していたら平然とした様子でいられるはずねぇだろ? ……お前はそんな事考えたこともなかっただろうが?」
 
 そのヘルメットの男の言葉に、花は小さく肯定するように揺れた。

 「……とりあえず、アイツの経験した『前の世界』だと、アイツの女は輪姦されて死ぬ寸前まで痛めつけられてんだ。なぁ、そんな酷い目
 に遭わされた世界で、一番信頼できる人間と長時間離れて平気でいられる訳が普通ねぇだろ? ……ライナスの毛布だっけが?
 心理学でよ、心に何かしらの問題を抱えている人間は特定の物に依存する事で心の安定化を図るんだ。……あの女は正にそれだな。
そんな奴が特定の人間と約一年間も離れて正気でいられるはずがねぇだろうがぁ?……ヒヒヒ! 俺の勘が言ってるぜ?
 どう考えても、今頃アイツとアイツの女は気が狂いそうなの必死で耐えてるってなぁ……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」











 「……今日で何日目だろ? ジャギと離れて……」

 満月の下で焚き火をするアンナ。その焚き火の周囲に肉を刺した串が置いてある。

 旅を続けてどの位が経ったか既に不明。核の影響で陽が下がった以外では時間を計る術は失われており、しかも何時野盗に
 襲われるか警戒もしなくてはいけないので時間を正確に測ろうと思っても出来なかった。……荷物の中から懐中時計を取り出す。

 「……やっぱ壊れてる。助けた村とかで時計結構貰ってんのに何でこんなに壊れるのかなぁ? やっぱ放射能の所為?」

 色々とモヒカンに襲われている村を助けてお礼の品物を度々貰っているから物資に困る事はなかった。……いや、自分が村に寄るから
 厄介事が起きているのでは? と薄々感づいている。これも多分一人で切り抜けられる程度に災厄が自分に降ってるのだろう。

 「……ジャギ」

 夜空を見上げれば輝く北斗七星。遠い遠い『昔』、私はその横で一際輝く星を見つけ、貴方と一緒に居る事を願った。
 けれど、神様はその願いを一蹴して私は混乱した暴動の中で『奴ら』に捕まり、そして……そして……っ。

 







  「……あぁ、駄目だ……考えたら駄目だってばぁ……」


 最近、時々『あの記憶』がフラッシュバックする。それは『奴ら』をジャギが『この世界』から消し去っても続いている。
 例えどんなに時が経とうとも、この記憶に私は死ぬまで苦しめられる。ジャギが側に居ないときはずっと、ずっと……。

 「……ほらほら! シャキっとしなさいってばアンナ!! ほらぁ~お肉も良い具合に焼けてるよ~っと!」

 荒野の手頃な場所で鉄串で肉の良い香りで自分を奮い立たせて無理に明るくなろうとする。……少し火傷しかけた。危ない、危ない。
 そう半ば赤くなった小指を口に含もうとして……約束した時の光景が私の記憶の中に咲く……そして貴方が私を呼ぶ声がするのだ。

 それだけで今起こしている火のように暖かい気分に一瞬にして戻れた。……そうだ、しっかりしないと……。頬を叩いて気合を入れた。

 







                                 パキッ







 
 「……っ?」

 焼けた肉を口に運ぼうとしたその時、何かを踏んだ音が近くから聞こえた。
 こう言う状況には慣れているので、すぐに火を消すと慎重に物陰を見つけそこに身を隠す事にした。……誰かが近づいてくる。



 「……おい、どうやら誰がいたようだぜ?」

 「……あぁ、バイクがあるしな。……捜せ、どっかその辺にいるはずだ。馬鹿な野郎だ、荷物ごとこいつは貰ってやる」

 「戻ってくる可能性が高いから一人ここに置いとけ……女なら良いな、今日も上玉を手に入れたばっかりだ」

 「……あぁ……あんな美女は滅多に手に入らないからな……他の野獣共襲うのは最近ご無沙汰だったが、やってみるもんだ」


 状況の悪さに唇を噛むアンナ。足であるバイクを取られたのは痛い。武器は常備しているから取り返すのは難しくはないかも
 知れないが相手は集団であろう。そう言う相手とは乱闘戦は確実なので余り動きたくないのだ。生き残ってると後々しつこいから。


 「……はぁ~……一々こう言う事が起こっていたら身がもたないってば」


 一人残して離れていくモヒカンの集団。そいつは焚き火の跡を蹴りつつ呟いていた。

 「……あぁ~、やってられねぇ。何で俺が見張りなんて面倒くせぇ事……。だいだい一人襲ったってあんまり稼ぎにならねぇっつうの。
 ……最近目ぼしい奴は抱いてねぇしよぉ……この前女を抱いたのは何時だったけなぁ? ……確か」



 ……アア、何ダロウ? ヤケニ今日ハ心ガザワメク。


物陰で身を隠し隙を窺うアンナ。だが男の邪気溢れる言葉の内容を聞いていく内に先ほどまでの『あの記憶』がこの体を蝕む。
 まるで『あの時』に自分が襲われていたような感触が体中を襲う。

 『あの時』私は必死に『奴ら』を蹴って思いっきり走って逃げた。短距離の走りなら自信があった。逃げ延びる時間を稼ぐ自信は。
 けど走り続けても身を隠せる安全な場所は存在せず、笑い声と荒い息、そして背後から幾多の腕が私の体を捕え、服を裂いていた。





  『奴ら』の舌が全身を這っていた。『奴ら』の気持ち悪い局部が全身をかき回していた。『奴ら』の手が全身を穢していた。



 『奴ら』が『わたし』を地面に貼り付けて野獣の声を上げながら激痛と屈辱の中、『あなた』の笑顔が霞む中で耳の中を陵辱していた。





             





             ワタシノスベテガケガサレナガラ上二見エルノハ        


                ……北斗七星ノヨコヲ輝ク星





             アア    アア    満月ガ輝イテイル……










  「……ねぇ」

  「うぉっ……!? ……へ、へへっ、何だ女かよ? おい、さっきここでキャンプやってたのお前か? ……どうだ? 俺達の
 所へ来たら暖かいベッドで眠れるぜぇ?」

  「……ねぇ、お兄さん、ジャムが欲しくない?」

  「あぁ? ジャム? んなもん要るか……いや、結構貴重品だな。おい、あるならよこ」

  


                            「はい」


 モヒカンは笑顔で女が自分に何かを差し出す格好をしたのが見えた。けれど同時にやけに喉が痛くなり眉をしかめて目線をずらす。

 そして最後に悟った。……あぁ、何だ。俺の喉に鉄の串が刺さってるんだ、と。

 あぁ、何だって俺の喉に? いや……何だか喉から溢れている血がジャム  見    て    ぇ     だ……。



 「……jam give(ジャム あげる)」

 アンナは笑わない瞳で倒れ伏したモヒカンを一瞥し、喉に刺さった鉄串を引き抜くと、モヒカン達の去った道筋を見遣り呟いた。

 


 「……うん、ジャギ。あいつらは『奴ら』と同じだもん。何時も言ってるもんね? 危なかったら引き金を引け……って。
 うん、ジャギ。今ね、体がとっても気持ち悪いんだ。……あいつらの血で少しはこの穢れた所も洗い落とせるかな?
 ジャギに気持ち悪いって言われてくないからさ。何人でも、何十人でも『奴ら』の血じゃ清められないけど、少しぐらいなら……」


 ゆっくりとした足取りでアンナは道筋を歩く。……満月だけがそれを見ていた。










 


 「……いや、それにしても本当上玉だな。……今は眠っているけどよ、あの女の抱いた時の顔が見物だよなぁ……」

 「言って置くがボスは売り物にするつもりらしいぜ? ……まぁあの女を売りさばけばどんな物でも交換出来るだろうしな」

 「けど少しは手を出すんだろ? まだやってねぇけどよ。……くそっ、俺もおこぼれに預かりたいもんだぜ……
 食料一か月分よりあの女の方をじっくりと自分の物にした方がよっぽど利益があるってもんだ……」




 入り口の方でヒソヒソと喋っているモヒカン達。それに近づく足音。モヒカン達が目を向けると満月に金髪が照らされた女が見えた。

 「……こいつは驚いた。……おい女、ここに来たのはどんな用だ?」

 「……う~ん、商売? ……お兄さん達は私の売る物買ってくれるかしら?」

 「へへへへ……! 今日はついてるぜ、一度に二人も……っとと、ボスには内緒にしてぇ所だ……。……へへ、何を売ってくれるんだ?」

 下卑た笑みを浮かべるモヒカン二人に、アンナは微笑んで一言だけ言った。

 「……jam give(ジャムをあげる)」

 『あん?……べッ!?』

 それだけで入り口のモヒカン達は崩れ落ちた。何てことはない。ただ素早く二本の鉄串をまた喉へと刺しただけだ。


 後は内部に入るまでは流れ作業だったと告げておく。出会い頭のモヒカンはアンナの笑顔と警戒心なしの様子に油断して、その命を
 肉を焼く為の鉄串で一瞬にして地獄の業火のバーベーキューへと招待されて逝った。


 入り口を開けるアンナ。……そこには鎖と首輪を取り付けられたアイリ。……アンナは数十人のモヒカンが全員自分に注意を向けるの
 を感じ取りつつも、笑顔は崩さず言葉を開いた。

 「……ここで面白い宴会がやっているって聞いたけど……お邪魔して良い?」

 モヒカン達は武器を構える。……当然だ。扉を開け放ったアンナの横には喉に鉄串を刺され絶命している自分達の仲間がいるのだから。

 「……女ぁ……一人でのこのここのアジトに来るとは良い度胸だなぁ? アァ?」

 「俺達の仲間を全員殺したのかよ……。面白ぇ、散々痛みつけた後に、この女と一緒に商品にしてやっからよぉ……!」


 踊りかかるモヒカン達。そのモヒカンへと素早く引き抜いた拳銃を放つアンナ。

 それは見事にモヒカンの頭に着弾する。だが、一発だけでアンナは収めた。

 「……やっぱりさ、銃弾じゃ一瞬で眠れるじゃない? ……それって理不尽だよね? 『あの時』の私はさ……とても、とても長い間
 苦しくて痛くて辛かったのにさ……。ねぇ、とっても理不尽だよね? ねぇ?」

 「な、何を言ってるんだ、この女?」

 「いかれてるんだろうが、見ての通り! 銃構えてねぇんだ! ぶっ倒せ!!」

 モヒカン達は思い思いの武器を構えてアンナの体へ振り下ろそうとする。だがアンナは身の軽さを活かしつつ体を宙へ浮かせると
 既に刀を抜いていた。……抜くと同時に一振り、それで一人脳天を割られ地面に血を散らしつつ死んだ。

 雄叫びを上げつつアンナへモヒカン達は迫る。それをアンナは笑いながら刀を振りぬく。宙を舞う血飛沫を受けながら笑っていた。

  


    裂き    斬り     両断し    突き刺し      血の華が咲き乱れる    金色の乙女を囲むように


 それは演舞のように美しくも、とても恐ろしい光景であり、それを一部始終見ていたアイリは途中からじっと目を瞑っていた。










           ジャギ……    ワタシ     ケガレテルかな?   だんだんワタシ、自分を殺したくなるよ。


  こんなに苦しい思いを、『あの時』の後もずっと貴方は受け続けても、きっと私へ恨み言なんて考えもしなかっただろうから。

  『わたし』は弱いから。自分が同じように苦しみ抱えて生きたら、きっと貴方にも不満をぶつけてしまうと思うんだ。



                          


                     





                       ジャギ             ワタシノ事          呼ンデクレル?










  「……中々やるなぁ……だが俺様に勝てると思うなよ? 俺様はここのアジトを仕切る南斗使いだ。……てめぇのような
 小娘なんぞに部下全員殺されて黙ってると思うなよ! おい!?」

 「……あはっ。……うん、許さなくて良いよ? 最初っからさぁ……許すとか、許さない以前じゃん? 私も、貴方も……」

 「あぁ!?」

 大振りの中国剣を構えながら男は声を上げる。それをアンナは飛び散った血の化粧のまま笑みを浮かべて淡々と言った。

 「……『この世界』で私と貴方の違いって、次に死んでるか、生きてるかじゃない? ……私は一度死んで、それで気付いたんだ。
 死んだら全部終わる。そしたらジャギも終わっちゃう。……私、それだけは御免だから、……血の華を咲かせても生きるつもり」

 「何を言ってるかわからねぇんだよイカレ女が! 構わねぇ……ぶっち斬る……!」

 「うん、いかれていると思うよ? ……それでも、さ? ジャギの事だけは絶対に変わらず想いたいんだ」

 惚気話するように笑みを浮かべながら刀を鞘に戻すアンナ。走り一閃しようとする、アイリを攫った首領。その中国剣が振りかぶられた
 瞬間に、アンナは男へと飛ぶと体を反転させつつ鞘から日本刀を引き抜いた。










                                ……一閃










 「……本当は首狙ったんだけど、鼻の部分で両断か……。……もうちょっと練習が必要だね」

 「あ……あの」

 「……あっ、御免御免。……私、アンナ。……貴方の名前は?」

 「……アイリよ。……その、貴方は」

 「ちょっと色々と面倒事を解決している美少女……かな? ここら辺血だらけだからさ、別の場所に移動しようよ?」

 少し怯えているのか震える手を引っ張ってアンナは歩く。







                      




               ……ねぇジャギ       今の私見ても     ……笑顔で私を呼んでくれる?











 「……娘がぁ~! 娘がぁ~!!? 貴様ぁ! 殺してやる! ぶっ殺してやる~!!」

 「……ほぉ? 俺様を殺す……か。やってみな……てめぇなんぞに殺される程にヤワじゃねぇんだ……ヒヒヒ! どうだ、悔しいか? おい」

 ヘルメットの男に首を絞められつつも涙で血走った目で睨んでいるのはゲッソーシティの奴隷売人のグルマ。
 そのグルマの睨んでる男の後方には、自分の一人娘が地面に倒れている。……娘の顔には既に死相が出ており……もはや手遅れだ。

 「……シスカ様とやらがてめぇを言うとおりにする為に俺様を寄越したのはお前にとってもあいつにとっても不運だったなぁ?
 ……俺様はガキがでぇっきれぇ何だ! ……これでてめぇも心おきなくシスカ様に使えるってもんだろぉ?」

 「……くそぉ……ちきしょぉ~……!!」

 そこには力なく崩れ、一人娘を泣きながら抱かかえる一人の親がいた。それを少しだけ途方に暮れた顔で見遣るゲッソーシティ将軍の
 シスカがいた。シスカはグルマの娘が死のうがどうでも良い事だが、取引材料がなくなる事だけが心配であった。

 「お、おい貴様!? これじゃあグルマの奴が反抗するじゃねぇが!? この責任どうするつも」

 「おいおい、俺様が後先考えず娘を殺したと思ってんのか? ……俺様には人間を思い通りに出来る術があるって言ったろうか?
 それでグルマの野郎を操れば良い……」

 「な……何だそれならそうと早く言ってくれ! ……報酬は何が欲しいんだ?」

 「なぁ~に。俺様は少しの弾薬と食料さえ貰えればそれで良い……。何ならまた来るぜ? 他の奴らも何なら俺様が操っても良いが
 そうなると報酬も上がるからな? よくよく考えて行動しろよ。将軍様よ?」

 「わかっている……。……お前のような流れ者は雇っても後々痛いしっぺ返しが来るだろうからな……とっとと行ってくれ」

 「ヒヒヒヒ! わかってるじゃねぇか? 俺は良いビジネス相手は好きだぜ? ……あばよ」

 そう行ってゲッソーシティの根城へ戻るシスカを見届けるジャギ。……その後泣き崩れているグルマへとぽつりと言った。

 「……おい、もう芝居は良いぞ」

 「……デヘデヘ! あ、あんた有難う……! だ、だけど早く娘を! ……本当に生き返るんだろうな!?」

 「どけよ……ほらっ、これで大丈夫だ」

 グルマの一人娘を仮死状態から開放するジャギ。息を吹き返す娘を抱き起こしなき笑うグルマへとジャギは重々しく言う。

 「……わかってんだろうな? ……早い時期に俺と同じ七つの傷をつけた野郎がどっかの家族……ヤマンとか野郎だっけか?
 の家族と一緒に来る。……そいつがこのシティを解放する。……てめぇはその一家連れてシティから逃げるんだな」

 「あぁ……! ……だ、だけど何であんたそこまでしてくれるんだ? それに、俺の娘がお前に殺されたって嘘を何で吐かなくちゃ
 ならねぇんだよ? あんた命の恩人……」

 「くどい……これ以上何かほざいたら殺すぞ?」

 殺気の混ざった脅し文句に黙るグルマ。そして早々と娘を抱えて家へ戻るグルマを見遣ってから空を見上げて一言向けた。







        




                     アンナ           ……今    俺のこと         呼んでくれてるか?













   あとがき





  羅漢撃投稿に戻りたいと言ったら





                          皆さん切れますか?(´・ω・`)









[25323] 第六十四話『運命に歪む獣は大地を歪ませる』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/03 21:59
 

   今回の作品は少しばかりFalloutのゲーム作品ネタが混じっております。

 決して原作品を侮辱する程に掘り下げはしませんので、モヒカンの皆様ご容赦下さい。









 「……へ、へへへへ! 正直恐れ入ったぜ!! お前がガデスを一瞬にして葬るとは恐れ入った……! な、なあ俺と手を組め!
 そうすればこのシティの幹部にして」

 「そんな物に興味はない。……さっさとヤマンとその妻子達を解放して貰おうか?」



 ガデスの肉片が地面に晒される中、ケンシロウは冷徹な声でシスカの言葉を切り捨て近寄ろうとする。だがシスカは口に泡を含ませつつ
 獰悪な目つきで口走った。

 「ふははははは!! 良いのか!? お前が俺にこれ以上近づいたら。このシティの奴隷達に取り付けてる首輪は全部爆発する!」

 「何?」

 その言葉に歩みを静止するケンシロウ。その様子を見て更に笑い声を高めながらシスカは悪どい笑みを深め言った。

 「貴様のように救世主気取りなど片腹痛い! 俺様がこの指を一本押す。それだけ……あ……らららら?? なん、で指が、ぎゃ、く?」

 「む!?」

 驚愕を含むケンシロウの声。そのケンシロウの目線の先では、スイッチを高々と上げているシスカの指はだんだん反対側へと曲がって
 いく光景が映っていた。……落下するスイッチ。あわあわと震えながら自分の指が血飛沫を立てて曲がるのを見てシスカは叫んだ。

 「な、何でだああああああ!?!?!? ……あ、あいつかああ嗚呼!? そ、そうか!? あん時分かれる間際に腕に触れ……!???
 や、やべえ腕が、腕がアアアア!?!? お、俺の腕が曲がっちまうウウウウウウウうウウウ!!!!!!!??!!」

 「北斗神拳!? 誰が……俺の前に……」

 曲がった腕を抑えつつ、我を失い悲鳴を上げるシスカ。意図も簡単にケンシロウはスイッチを叩き壊すと、シスカへと言った。

 「おい……お前に秘孔を突いた男は如何言う男だ? ……教えたら助けてやる」

 「ほ、本当か!? 頼む腕が嗚呼!? 腕がアア嗚呼嗚呼??!!」

 「まず教えろ。……お前をそうした奴の事を」

 「わ、わかった教える。そ、そいつはへ……ボグルバッ!!!??」

   爆散。その一言だった。

 ケンシロウへとシスカが秘孔を突いた人物の正体を明かす前に、シスカはゲッソーシティを恐怖に陥れた爆死の末路を自分で辿ったのだ。

 ……歓声を上げるシティの奴隷達の声を受けながら、ケンシロウはシスカの物であった肉破片を見つつ、思考に一人の兄の言葉が過ぎった。





              ……甘ちゃんがぁ……        ケンシロウ    弱味なんぞ敵相手に見せるなよ……











  ……時と場所は移り、とある荒野のアジトへと舞台は変わる。
 
 そこでは凶悪な顔ぶれの集団が武器を携帯しつつ中心に陣とっている男を守っていた。……その男の名はジャッカル。
 地底特別獄舎「ピレニィプリズン」の脱獄囚である彼は、核戦争後の世界を暴力と破壊で謳歌し満喫していた。
 そのジャッカルから言わせて見れば『楽園』で寝そべっている時、今日は珍客が来訪してきたのであった。


 「……のこのこと俺に会いに来るとは良い度胸だなぁジョーカー? ……俺様に今更何のようだ?」

 「相も変わらずだなジャッカル? ……貴様のその独特とも言える体臭を態々嗅ぎに来た事でないのは確かだ」

 元サザンクロスの服を纏いつつジャッカルと対峙するジョーカー。側近に凶暴なボウガンに鈍器等を手に警戒するモヒカンを見つつ
 ジョーカーは手を後ろに組み余裕な態度を見せている。その態度に気に食わないと感じつつもジャッカルは葉巻を銜えつつ問いかけた。

 「俺様は忙しい身分なんだよ。これから適当に町へ駆り出すんだからよ」

 「何、すぐに済む……。貴様が私から盗んだペンダント……返してもらおうか?」

 カチャ……。その言葉を聞くや否やジャッカルはボウガンを片手に構えた。

 「どうせそんなこったろうと思ったぜ……。答えはNO! だ。……あれは俺様の切り札だ。てめぇにはやらねぇ」

 「そう言うのも想定済みだ。……アレを見ろ」

 あん? とジャッカルはジョーカーが指した方向を見る。指した窓から見えるのは何やら厳重に密閉された鉄の箱だ。……中身は見えない。

 「アレが何だってんだ?」

 「アレを貴様にやる。それでペンダントを渡せばお前の昔の所業にも目を瞑ってやろう」

 「……話がピンと来ねぇなぁ。あの中にある物がデビル以上の物だと言いてぇのか? あぁ?」

 「ああ」

 臆面もなく言い切るジョーカー。その言葉にジャッカルは思案する。

 こいつは地底特別獄舎「ピレニィプリズン」以前から傭兵と依頼主と言った関係だったから知っている。こいつは抜け目無く冗談は嫌いな性質
 だから何かしら貴重な物が箱に入っているのだろう。……ここでこいつを殺して奪い取っても中にある物に対してこいつが何かしら
 対策している可能性がある……とりあえず話を聞いてみるか。
 
 数秒でこれだけの計算をすると、ニヤリと笑みを浮かべてジャッカルは言った。

 「良いぜ、話しだけでも聞いてやる」

 そのジャッカルの言葉に、ジョーカーは機械めいた無表情の瞳を一度だけ瞬きしてから……長い話をし始めた。



……私はKING以前はこの国での兵器及び外国政情を知る為に日々研磨していた。……言えば世界大戦で有利に進めるのが仕事だった。
 その兵器研究の中で最も興味深い研究だったのは禁断の研究……『生体兵器』の研究が軍では秘密裏に行われていた。
 人間の運動能力を限界まで薬物及びマインドコントロールによる強化、そして戦闘経験を積み重ねることによる進化の研究。
 ……『我々』はその研究を『G(ゴッド)L(ライン)』……神の境界線と呼びその研究へと没頭したのだ。

 「そして見つけたのだよ。人間が神に成り代わるであろう方法……神に等しい力を身につける方法を……それが放射能だった」

 「ほぉ? 大した話だなぁ、おい! お前エイプリルフールキングになれるぜ」

 ジャッカルの茶化す言葉にすらジョーカーの熱の篭った話の邪魔は出来なかった。遠くの方向へと目を向け話は続く。


 ……核戦争により『我々』の研究は潰えたかに思えた。だが、どうやら神は見捨てなかったようだ。
 地形変動によって『我々』の研究資料及びサンプルは全滅したか、とある米国が入手していた貴重な薬品は一つだけ生き残っていたのだ。
 その薬品の名前は『FEVウイルス』……人間をスーパーミュータント、人体兵器へ変える神の進化の布石とも呼べる薬品だった。

 私は歓喜した。これさえあればようやく神に近づく肉体を得られると! ……しかしこの薬品だけでは足りない。それで私は
 KINGの元で暫く様子を見て、その時は来たのだ。

 ……バルコムの愚かな政治活動のお陰で人材及び貴重な薬品関係は簡単に私の元に掌握出来た。これに関しては予め核からの防御施設を
 築いていたKINGに感謝しなくてはいけないだろう。お陰で研究を再開出来る材料は揃ったのだから。

 私には鳥を操り瞬間移動のような技を駆使出来るが、それは拳法ではなく『GL計画』で得た物である事は誰も知らない。
 
 ……そして私は遂に見つけたのだ。人間の血液へと放射能のとある物質と薬品を合成し投与する事でより強い生物へと進化させる方法をだ。

 「それがアレだ。あの箱の中には私が研究の上で完成した試作品第一号が入っている。……好きに使えば良い、注意事項とすれば
 アレは人肉を主に食うが、命令しない時は休眠状態を維持し、そして戦闘能力はデビルと同格、いや……これから上回る可能性もある」

 「……そいつは嘘、だな。お前がそんな大した物を俺にデビルと交換なんてさせる訳がねぇだろうが。交換した途端仕込んだ爆弾でも
 爆発させて体よく俺達を殺す気だろうが?」

 「お前を殺すつもりならとっくに今アレで殺している。……これはビジネスなのだよジャッカル。デビルリバースは生体兵器研究
 の生き残りだ。……失敗作ではあるがその体に流れる血は『GL』計画の上で不可欠な存在なんだよ。……これだけ言っても
 納得出来ないなら……出て来い、Type-1。お前の戦闘能力を見せてやるが良い」


 ……軋む鉄の箱。その箱を持ち上げる手を見て、ジャッカルは思わず銜えていた葉巻を地面へ落とし、それに気付かずじっと目線を固定した。
 その目線の先に見えるは鋭い獣の爪、そして緑色のワニの肌から狼のような体毛が露出しているのが見えた。
 立ち上がるジャッカル、そして全貌を見た。その瞬間ジャッカルは「……アンビリーバボー……」と感想を思わず漏らしていた。

 そいつの肌は爬虫類のような肌をしていた。そいつの手と足の爪は鉄で出来ているように鋭かった。そして牙は鋼鉄を裂ける如く紅い。
 体毛も鋼のように全身を生やし守っており、腹部は呼吸する度に軋むような音を絶えず発生させている。獲物を欲している音だ。
 瞳は鋭利で眼球は絶え間なく視界を360℃を捉えようと動き回り、這いずり回った舌は触手のように唇をはみ出て動き回ってた。
 頭部に関しては怪物、としか形容出来ない。露出している眼球以外は何かの獣の皮を被っているからだ。 
 そいつは以前は人間だったとは考えられなかった。対峙する全ての人物はこう叫ぶだろう、『アレはこの世の生き物ではない!』と。

 「……主食は人肉だ。食欲に関しては尋常ではなくてね、起きている時は牛三頭を一日に三回は与えないと気が済みやしない。
 しかも人肉を与えなければ絶対に休眠しないのだ」

 「……ははっ……!! 凄ぇ! 凄ぇぜおいジョーカー!! 最高の代物じゃねぇかよおいっ!? ……おい、そこのお前、アレと闘え」

 「……へ!? えぇえええ!!?? そ、そんなボス!!?? い、嫌」

 「さっさとやれ……ここで俺に殺されるよりマシだろ? ……心配すんな。見かけより弱いかも知れないだろうが?」

 「銃を携帯しているなら使用しても構わん。……最も普通の弾薬ではダメージを与える事は不可能だろうがな」

 ジョーカーとジャッカルの絶望的な声に言葉を失うモヒカン。青白く顔を変色しつつも、その怪物へと巨大な刃物を構える。

 その怪物はギョロギョロと絶え間なく動かしていた眼球を一瞬にしてモヒカンだけに固定した。その眼球が固定しモヒカンを映した
 動きでさえ「ヒッ!?」と悲鳴を口走らせる程に不気味な動きだった。

 『ギャブリ……ゲベリ! ……ゲベリ……!!』

 「ば、化け物があああああ!!!」

 刃物を振りかぶるモヒカン。だが、それがモヒカンの最後の動きとなる。

 一瞬だった。一瞬にして怪物が爪を振るうとモヒカンの頭部は爪の間に挟まれていたのだった。倒れる首と分かれた胴部……正に一瞬だった。


 怪物はモヒカンの頭を菓子でも食べる如く齧る。その様子を見て暫くしてからジャッカルの笑い声が木霊した。
 「……は、ははははは!!!! さ、最高だおいっ!! おしっ! てめぇにペンダントは返してやるよ! デビルなんぞくれてやる!
 こいつさえ……こいつさえ手なずけたら俺様は怖い物なしだ!!」

 「交渉成立だな……。因みにtype-1だが、この電池式のリモコンで操作が可能だ。……電池に関しては旧型だ、それ位は自分で
 何とかしろ」

 「へへっ! 乾電池なんぞ町で幾らでも強奪すれば幾らでも手に入れられる。礼を言うぜジョーカー! これで俺様の生活もほぼ安泰だ!」

 「忠告だが……活動が激しくなればなる程燃費がその試作品は悪いのだ。動けば動くほど大量に人肉を要請する。……後はわかるな?」

 「……はっ! 今更人間殺すのに何を迷う必要があんだよ!? 俺様は神をも欺く男だぜぇ! 怪物如き手なずけるの訳ねぇよ!
 ……いや、怪物じゃねぇ! こいつは俺様をこの野獣の世界で王にさせる事の出来る獣……『ビースト・キング』だ!! 
ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」








 「……よろしかったのでジョーカー様? あのような野獣に試作品を渡して」

 「ふん……試作品Type-1はこの地域の環境下では長期間の行動を続けると体が崩壊するのは資料から既に見解済みだ。
 あいつが気付く頃には既に『我々』の研究は終了している。……南斗聖拳及び他の拳法の技など一笑する程の力を手に入れられる。
 ……次にコンタクトへ向かうのは遺伝子的に特殊な『牙一族』の元へと向かう。……『我々』の計画の完成は近い」





   歪んだ信念は世界へとはびこる。           ゆっくり      ゆっくり       ……着実に









   あとがき



 とりあえず羅漢撃投稿の一発目だ。




 可能な限り投稿を約束しよう









  



[25323] 第六十五話『貴方の怨嗟の遺跡は私のオアシス』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/04 12:05



   


  アンナがアイリを引きつれ、レイの居る村へと送り届けた矢先、素っ頓狂なアンナの声が村の一角で上がった。

 「へ? それじゃあアイリを捜す為に旅に出たの?」

 「あぁ。……しかしアイリが無事で良かったよ……。……結婚相手は既に死んだと思って悲しそうに元の村へ帰っていったがな」

 「……うわぁ~……何ていうベタなすれ違い」

 バンダナを手の平でこすりながらうんざりとした声を上げるアンナ。歴史通りに物事が進むと言っても、こんな漫画見たいに……、と
 思いつつアイリへと声をかけた。

 「どうする? お兄さんとすれ違いになったけど……ここで家族と待っている?」

 「……いえ、元はといえば勝手に家を出て攫われた私の不注意が原因。……兄へ無事を告げるのは私の責任です……」

 「……根性あるねぇ! それじゃあ私も手伝うよ。暇だし」

 ニカッ! と笑顔を浮かべるアンナを、微妙な笑みでアイリは眺めていた。

 







 (partアイリ)

 結婚を控え、少しばかりマリッジブルーに陥って無断で外へ出ていたのがそもそもの始まりだった。
 何処かしらの兵士服を纏った複数の人間に誘拐された私、泣き叫んでも状況は悪くなるばかりだろうと冷静に考えてではなく、余りの
 突然の事態に恐怖で声を出せない時に他の野盗が私を拉致した人間を襲い……その経緯の元、奴隷商人を商いとした野獣達の元で
 苦痛と恐怖の日々が始まるかと思った時に、アンナと私は出会ったのだ。



 満月の光の下で野獣達の血で汚れたアンナは……恐ろしいほどに触れ難い存在に私には映っていた。
 私が村まで送って欲しいと告げた時には、アンナは無邪気な雰囲気を身に纏っていたが……どれが彼女の素なのだろうか? 
……私には解らない。彼女の戦乙女のような部分と、無邪気に笑う童子のような部分の境界線が。
 だけど……一つだけ確かなのは、彼女には支えが必要だと何故か感じる。……そうしないと何時か壊れる……そんな印象を受けるのだ。
 元はといえば私の責任。兄と再会して自分は大丈夫だと告げれるまで彼女の事を出来る限り傍で見守ろうと思う。
 私は弱いけど……、この私より強い力は少しは所有している彼女の心はとても、とても脆く見えてしまったから……。
 









 ……ジャギに会えない日々が続く。後ろには難しい表情を浮かべているアイリ。
 笑顔の仮面を纏っている『わたし』よりはずっと彼女の心は豊かであろう。彼女の姿は少しだけ昔の何も出来なかった自分を思い出し
 少しだけ苛立ちに似た気持ちが浮かぶ。そんな事は気の所為で彼女は全然悪くないのに、だ。
 バイクを走らせ風を切っている時は何時もジャギと一緒に走っていた時を思い出させ高揚感に浸っていた。
 けれど最近に至ってはその時の楽しかった気分が思い出させない。塵が目に入らぬようゴーグルをしていて良かった。今の私は
 余り見られた顔をしていないだろうから……。また村へと着く、出来ればそこにレイがいれば良いと思う。今の私は少しだけ一人に……。




 「……あれ? 何かここ見覚えあるような……?」

 「どうしたの、アンナ?」

 ちょっとね、と返事をしつつ村へと入る。何処にでもあるような何の変哲もない村。少しアイリと歩いてレイの人物像を上げて尋ねるが
 やはり見ては居ないとの事。まあ当然だろうな、と内心思いつつ少し上の空で歩いていると一人の子供とぶつかりかけた。

 「あ、ごめん」

 「いえ、大丈夫です。……行こう、マコ兄ちゃん」

 ……うん? と聞き覚えのある名前に意識を戻し二人の小さな男の子が歩いていくのを見る。
 足の不自由そうな子供と、それを必死で手助けをしている帽子を被った男の子が商いをしている店へと歩いて行った。

 「……参ったなぁ~……、よりにもよって『此処』かぁ~……」

 「ここが……どうかしたの?」

 「いや、私にはほぼ無関係だけど……。なる程、そう言う事ね、はいはい」

 コンパスも余り役に立たない所為か、よりにもよって『貴方』が騒ぎを起こした場所へとたどり着いてしまった。
 いや、もしかしたら引き寄せれられた可能性もあるのだけど。と、私は苦笑しつつアイリへと声をかけた。

 「……とりあえず安全そうだから食料と水だけ買い足しお願いして貰っても良い? 少しだけ用があってさ……」

 「ええ、それ位構わないわ」

 サンキュー、と声をかけ別れる私。アイリが視界から消えると目的の建物が見える遠方を見据え、ポツリと呟いた。

 「……神様が何を考えているのか知らないけど、……今からそっちへ行くよ」










                    ね?                            ジャギ










 「……お嬢ちゃん。あの建物には近づかん方がええ」

 「……如何して?」

 「……前に野獣共が根城にしていたんだが……最近になって死神が出た! と叫んで青い顔で出て行ったよ……あそこは亡霊の巣だ」

 そう言って肩を抱く老人に気の抜けた相槌を打つアンナ。ハンドルを軽く握りアクセルを吹かしながら、ゆっくりと建物へ歩く。

 「本当に行くのかね? わしゃ知らんよぉ……」


老人の声を背に歩き、遂に数分後アンナは目的の建物へと辿りついた。


 建物の上にはガスタンクが置かれ、野獣達が生活していた名残なのか生活用具が少し残っており、生活しようと思えば今から出来る
 状態で保存されていた。……だが不気味な事にその建物と周囲には人気と生気はまったくと言って存在しておらず。
 人間を寄せ付けないある種の結界のようになっているように見えた。

 「……よっ、と」

 バイクを建物の脇に置いて中へ入る。すると『貴方』が先ほどまでいたような、とても泣きそうな感覚が胸を襲うのを感じた。
 アア……『此処』には『貴方』が居た気配がとても強く強く感じ取れる。貴方がここで立っていた気配が、間違いなくするのだ。

 「……ジャギっ…………ジャギ!」

 堪らず小走りで建物の中を走る。寝室、食料庫、広間、そして屋上。貴方が何処かで隠れてるように思えて必死に走った。

 十分は走り続けたと思う。膝を屈ませ息を弾ませる私、そして泣きそうな顔でポツリと搾り出すように口から泣き言を漏らした。

 「……ジャギぃ……私……一人ぼっちだよぉ……。……会いたいよぉ……ねぇ……?」

 座り込み床に手を当て嗚咽する。嗚呼、貴方に誓ったのに。未だ離れてから半年も経ってなかろうに私の心はボロボロだ。

 嗚咽して床には涙の染みが広がる。クルシイ……苦しい……と。私はゆったりと夢遊病者の如く歩いて、ほとんど汚れてないベッドへ
 倒れこんでいた。……嗚呼、『貴方』の香りがしている。野獣達の気持ち悪い悪臭ではない、『貴方』の香りが……。
 そうして、私は限界点を突破したように、急激な眠気に襲われて意識は沈んだ。











 ……どの位時間が経ったのだろう? ……周囲が暗闇に覆われているのが触感で感じ取れるほどはっきり解った。

 ……寒気と、生温い空気が首筋を這う感覚に襲われた。私の意識は反射的に覚醒する。けれど武器は構えない……殺気がないから。
 私のベッドに倒れている背後から強い強い視線がする。憎悪に駆られて、苦痛に縛られているような視線が襲っている。
 けれど私の体に恐怖は生まれない。その視線の正体を、私は多分『あの世界』から知っているから恐怖は生まれないのだ。
 
 私はゆっくり、ゆっくりと、その視線へと体を反転させ                      ……ソレを見た。

ソレは私をソレ越しに睨んでいた。ソレにはもはや意識はなくただ繰り返し壊れたラジカセのように音声を紡いでいる名残だった。
 ソレが憎む『アノ人』は『この世界』に存在せず。ただその縛られた悪の魂は繰り返し憎むべき対象へと怨嗟を紡いでいた。

 ……悪魔? 死神? ……違う。それは私が何時も馴染み見ていたヘルメット。貴方の象徴であり、恥ずかしがりやな貴方を隠す仮面。

 

                      『……オレ……ノ……名ヲ……言ッテ……ミロ』


  ……アア     ワカル        ワカッテル     ダカラこそ溢れる涙を抑える事が出来ない。

 



                          ……目の前にイルのが何なのかはっきりと理解しているから。







                            『……オレノ……ナヲ……イッテ……ミロ……ッ!!』




  それは正しく亡霊。『わたし』以外からは生命を妨害する邪気の塊。神仏からは疎ましがられる光を邪魔する幽鬼。
 けれどボロボロの『わたし』には会いたくて会いたくて仕方がなくて、だから私はソレが震えるのも構わず手を添えて唱えた。







  「……ジャギ……」


                    ピクン        震える仮面。  ソレが紡いだ声は僅かに割れて繰り返される。



 『……オレノ……ナマエヲ……イッテミロ……』


 「……ジャギ」


 『ッ……オレノナマエヲ……イッテ……ミロ』


 「…………ジャギ……ジャギ」


 涙で濡れつつ笑顔で『わたし』は呟く、何度でも呟く、例えここで呪い殺されても『貴方』なら笑顔で生き絶えれる。

 ソレは震える。きっと、ソレが居る事は『この世界』では決して認められるべき物ではないのだろう。
 例え『この世界』が繰り返している世界であろうが、ソレが何かに引っ張られ此処へ連れられた物だろうが、それは多分許されない。

 だがソレは今まで滅びた後にも在り得なかったが、ソレは名前を始めて紡がれたのだ。……『その世界』の後で初めて……。

 ……ヘルメットから覗いていた視線に初めて負の感情以外の物が見て取れる。そして悲痛や、恐怖に似た感情が浮かぶのがアンナには
 はっきりと感じられ、引き裂かれそうな気持ちになる。

 





                             『……ア…………ン………………ナ』







  アア                   アア                  そう     ……『わたし』だ。








 「……そう、だよ。……ジャギ」


                      『……ソンナ……バカナ…………ソノ目が……そのミミガ……似テ……イル』



 「っ似てるんじゃないんだよ? ……本当に、本当に私だよ? ……ねぇ『ジャギ』……私、貴方の事……大好きだったよ」

 ソレは震える。決して許されずここで怨嗟を紡ぐ存在が。自分を赦してしまう存在が現れた事に震える。恐怖を、歓喜を、悲哀を、
 それは拒絶も肯定も出来ず更に苦しみ震える。そしてヘルメットの頭部は以前にあったように皹割れそうになっていた。

 それを見てアンナは抱きしめる。その悪意で出来た存在に触れる事で自分にどんな影響が出るのかも解らないのに抱きしめる。

 「……ジャギ……ッ! ……ごめん、ね……わたし……今は結構大変だけど……『前』よりも幸せになれる道を進んでる……。
 こんな場所でも必死で闘っていた貴方に構わずに……っ! ……もう、もう我が侭だけど……休んでも良いよ、お願いだよぉ……!」


 『わたし』は懇願する。ソレが十分にここで苦しんでるのが解りすぎる位に理解してしまってるから。だから願う。罪深い部分で
 あろうと愛している『貴方』だから願う。……けれど、次の言葉で貴方はやっぱり貴方なのだと……私は解ってしまった。


 『……アン…………ナ……』


 「ジャギ……ジャギ……ッ』











                       『イマ…………ハ……悪魔…………ガ……微笑む…………時代……ナンダ』







  ……紡がれるのは貴方が二つの星を破滅に陥らせる為に使った言葉。


 けれど理解する。それはきっと私をどんな事があろうと守護すると言う『わたし』の心をもはや壊せぬ程に壊してしまう呪文。


 「……ジャギ」


 



                     『……オレ……ハ……北斗神拳伝承者…………ジャギ………サマダ……』


それは私と『貴方』以外には知る由もない。けど、それは私を消えても守ると言う貴方の意思の言葉だと、私は知っている。
 だから私は言う。もはや消えかかっているヘルメットを抱きしめて、大粒の涙をヘルメットへと落としながら別れの言葉を唱えた。





  「……うん。……ありがとう……『ジャギ』……ありがとうっ」














 「……よし、弾薬の補給終了。……残っている荷物はまた暇があったら取りに来ようっと……」




 一夜明けて、心配していたと苦言を呈するアイリに必死に謝り倒してから、『ジャギ』の終着点である建物から旅立つ事にした。

 私の予感めいた確信だが、ここは私と『ジャギ』以外には人を寄せ付けない……そんな気がしたので安心して必要な物を保管する
 事にした。……私の第二秘密基地、と言った所だろうか?

 少しだけ暇が出来たらここで火薬類とかの実験をしても良いだろう。何時の日か拳王軍とジャギは決戦する可能性がある。
 その時の為に小細工で構わないけど必要な武器の製作を自分でもやっといた方が良いだろうから。


 「……アンナ! 準備は出来た!?」

 「うん……大丈夫! そろそろ行きますかっ!!」

 ゴーグルを付けてハンドルを握る、アクセルを吹かしていると後部座席からアイリが微笑みを浮かべて言った。

 「……何かあったのか知らないけど元気になってくれて良かったわ。……昨日はまるで幽霊見たいだったから」

 「え? そんな顔私してる?」

 「昨日までよ。……大変な時は私にも相談してくれないかしら? ……少しで良いから力になるわ」

 ……アイリの顔を暫く見てから、プッと噴出し笑うアンナ。

 それに文句を告げるアイリに謝りつつ尚も笑う。笑い声を上げて涙目で晴れる空を見上げつつ、アンナは声のない言葉で叫んだ。










                  ジャギ           私             頑張るからね!!
















  あとがき


 今月で終わりてええええええええええ!!!!


 けど腕があああああ   腕があああああああああ


 因みにAC版ジャギが格ゲーに現れたアンナと対戦すると



 『似ている……! そんな馬鹿なぁ!!?』と特殊イントロが発生します。





[25323] 第六十六話『奇跡の村 影の陰謀』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/04 22:07

 




        それはゲッソーシティの支配が崩壊していた頃であった。








 バイクのエンジンを吹かせつつ、一つの村へと降り立つ強面の仮面を被った男。その男の視線の先には強固な策の入り口が見える。

 「……おいお前ら、トキに会わせて貰おうか?」

 「……お前、トキ様に何のようだ? ……返答しだいでは……!」

 「ちっ、五月蝿ぇなぁ……。ジャギって名前の奴が入り口で待ってるって伝えてくれや……、……俺様はちょいと寝るよ……っと」

 「お……おい!?」

 入り口の門番の制止に構わず地面に寝っ転がる男。そして数十分後に急ぎ足で駆ける振動が迫るのを聞いて、男は体を起こした。

 「……よぉ、兄者」

 「……ジャギ……来たのか」

 黒い髪を靡かせ、幾分か髭を生やしたトキ。それを固い笑みをもってジャギは久しぶりの邂逅を果たした。










 「……随分と賑やかだな、最も具合の悪そうな奴が何人か転がってるけどよ」

 「以前はもっと病人に溢れていた。……今でも私の手が間に合わず死ぬ人間もいる。医療品も足りないからな……」

 「シンかサウザーの野郎に医療品を定期的に貰えよ。……俺様が口添えしてやるぜ? 何なら」

 「いや……。そこまで迷惑はかけられない。何より道中に運ぶ人間も今の時代では危険に晒される。……何とかするさ」

 キリストの如く優しさを醸し出すトキ、それに並ぶ悪鬼に似た雰囲気のジャギ。ちくはぐな光景を村人は心配気に見ていた。

 「……仕方がねぇがどうにかすんなり入れないのかね、俺は? ……まぁこんな格好じゃしょうがないんだがよ」

 「ならばヘルメットを脱げ、ジャギ。……脱げれぬ理由があるのか?」

 「……まぁ……ちょっとな」

 トキが診療所として使っている場所まで数メートルと言う所でジャギは制止する。理由はトキが立ち止まり自分を見てるから。
 疑問に思う間もなく力強い瞳でトキは自分の仮面を突き抜ける如く言った。

 「何か悩んでいるのではないか? ……お前が何をしているのか解らぬが、何か大きな事に対して動いているように私には思える。
 ……私を救った事例が一番の理由だな。ジャギ、何かしら悩んでいるのなら力になれないか? ……私はお前の兄だぞ」

 「……兄者、兄者でも……俺は」

 ジャギが心中の苦言を呈し様とした時、ジャギにとってはタイミング良く診療所から出てきた女医が雰囲気を壊してくれた。

 「トキ様、ラモの隣に住む御老人が胸を痛んでいると……その方は?」

 「心配するな、私の弟だサラ……ジャギ、後で話しは聞かせて貰うぞ?」

 サラと呼ばれた若い女医をすり抜けて患者の元へ向かうトキ。それを眺めつつ深い溜息でジャギはポツリと零す。
 
 「……兄者、あんたは優しすぎるんだ。……だから一番に命を落としそうだから話したくねぇんだよ」

 「……あの」

 「……うん? あぁ悪いぼーっとしてたわ。……水貰いたいんだけど場所案内して貰えるか?」
 
 ええ、と頷き案内するサラ。その後ろを付いて行きながらジャギが考えるのは、今アンナがどの空の下で旅してるか? だけだった。








 









 「……上手いもんだな。けどよ、一々傷口縫ってたら糸が勿体ねぇだろ? 火で傷口塞ぐ方が良いんじゃねぇのか?」

 「確かに火炎滅菌は実用的な一つの治療法だが、二次的に火傷する危険性もあるし、何より患者の精神的な配慮も考えなくてはいけない。
 ……それに余り火は使いたくないんだ。……核の惨状で燃え広がる家屋を目にした今となっては……な」

 重々しい表情で子供の足の傷を縫うトキ。ジャギも昔はある程度医術を齧ったので手伝いをしているのだった。

 何気にジャギもオウガイを救ってから、今後も役に立つかと思い勉強していたので村人からは治療を手伝うのを目撃され始終驚かれていた。

 「……ったく、この俺様が聖者様を手伝ってるのがそんなに珍しいかよ? まるで動物園のパンダだぜ」

 「ははっ! そんな怖い仮面を被ったままでは仕方がないさ。……取り外せないのか? もしも大怪我をしてるのなら悪かった」
 
 「いや、別に怪我はしてねぇんだ……けど、驚くぜ? 多分兄者は……」

 「……? それは如何言う」
 トキが尋ねようとしかけた時……事は起こった。






              「    や          や    野獣だあああああああああああああ!!!!??」





                           ……!!!!








 「兄者ぁ!!」

 「あぁ!!」


 立ち上がり入り口へと向かうトキとジャギ。 前方からはバイクに乗ったモヒカン達が獲物を構えながら村へ来るのが見える。

 「……ちっ! 三方向から攻めてきやがる……っ。兄者ぁ、俺は東側を守る。そっちは任せて貰うぜ?」

 「あぁ! ……油断するな?」

 「……はっ! 俺様を誰だと思ってる兄者ぁ!? 兄者の弟だぜぇ!!」


 
















 「……けっ!! 来やがれやぁモヒカン共!! 最近機嫌が悪い俺様は……容赦しねぇぞお? おい!!!」
 東から迫り来るモヒカン達。 奪え 奪え 奪え 殺せ 奪え!! そう叫び迫るモヒカンに極悪な笑みを浮かべて
 ソード・オブ・ショットガンを迫り来る大量のモヒカン達へ向けてジャギは叫ぶ。





                                 『北斗蛇欺弾!!!』





   放った玉は意思を以って動く弾幕となりモヒカンへと降り注ぐ。弾けて擬音にもならぬ悲鳴を上げながら倒れ伏すモヒカン。
 だが数の多さが有利となり、ジャギへと数台のモヒカンの乗ったバイクが迫り来る。片手にはボウガンやライフル……だが、無意味だ。
 ジャギは笑みを濃くすると呼吸を深く一回。『羅漢の構え』を繰り出し両手を突き出すと上下左右へと軟体生物のように動かし始めた。

 死ねぇ!! と叫び銃弾と矢はジャギを貫かんと襲う。だが、それはジャギが待ち望んでいた展開に他ならない。

 『かかったなぁ!』

 何が起こったか解らず口内から濁点交じりの母音を発し飛び道具を放ったモヒカンは死ぬ。ジャギの二指真空把の手によって。
 ここでようやく自分達へと一人で立ち向かう鉄仮面の男が無謀な馬鹿でないと感じ取り、生き残ったモヒカンはバイクを降りると
 武器を構え走り寄ってきた。それに向かい『羅漢の構え』を維持しつつジャギも走り迎え撃つ。

 大柄なモヒカン達の武器を巧みに避けながら、その時ジャギは違和感を感じ取った。

 

   



                        (……何だ『こいつら』? 動きが違う……!?)







  普通のモヒカンとは違い、振り下ろした武器の衝撃で地面が割れ掠るだけで大怪我になる程の気を纏っている。……『普通のモヒカン』がだ。
 在り得ないと心中で否定しつつも適当な位置で飛び上がりジャギは破壊の拳を唱えた。



                                 『北斗千手殺!!!』





 秘孔を突かれ制止するモヒカン。着地すると同時に体から血を噴出し爆散するモヒカン達。……疲労の息を吐き、呼吸を落ち着かせようと
 する束の間、霊王の耳が後方から立ち上がる音を聞きつけていた。

 






                             「なぁっ……!?『ぶち抜いてやる』!!!」







 ドゴッ……ッ!! と鈍い音を立てて北斗邪技弾で頭が消し飛び倒れるモヒカン。だがジャギは冷静さを半ば失い言った。

 「はぁ!? 何でだ!? 何で『秘孔を突いた』のに起き上がったんだ、こいつはぁ!!?」


 そのうろたえ声に反応してなのかどうかは知らない……だが、先ほど銃弾で心臓部分と脳天を貫いたモヒカンが『立ち上がった』……。


 「……!? ……これじゃあまるでブランカの兵士だぜ、おい。……何でだ? 何でこんなモヒカン共がそんな風に……!?」

 思考もつかせずモヒカン達はゾンビの状態で迫り来る。……癪にも南斗聖拳の如く手刀に気が纏い触れれば斬られる程に『力が増してる』。

 「……きな臭ぇ……! だがなぁ……驚きばっなしじゃ割りに合わねぇだろうがよ、おい!? ……そうだ、来いやてめぇらあああ!!」

 一閃、二閃、三閃。意思なくとも触れれば重傷にはなる攻撃を単調に振るうゾンビ状態のモヒカン達。

 それを難なく避けつつジャギはその時を待っていた。そして『それは来た』。

 「そうだ……そう『一列に並んでる』のを待っていた……! 喰らえ……」






                                 『南斗邪狼撃』!!!!









 



  







 「……激流に身を任せ同化する」


 迫り来るモヒカン達の猛攻を動かぬ清水の如く華麗に避けるトキ。その柔拳に苛立ちを上げてモヒカン達は叫ぶ。



                   殺す!       殺す!!    殺す!!!    殺す!!!!




 「……お前達は殺気が強すぎる……激流では勝てぬ」


 振りかぶる鈍器を巧みに残像すら残しつつ避けるトキ、頃合を見計りモヒカン達へと叫んだ。

 


                                 





                                 『北斗有情断迅拳』!







 『……あ……れべ?……気持ち……いぃ~……!?』


 まるで天に昇るかのように薬物中毒で天国を味わってるかの如く笑みを浮かべ肉体を崩壊しながら死んでいくモヒカン。

 だがその瞬間トキの顔に驚愕が張り付く事になる。何故なら秘孔を突いたはずの一人が凶悪な笑みを張り付かせ傲然と立っていたのだ……!

 「……へへっ!! 今……何かしたかぁ……!!?」

 「馬鹿なっ……! 確かに秘孔を突き切った筈……っ」

 迫り来るモヒカンの凶悪で巨大な武器、思わず立ち尽くしたトキは、ゆっくりと降りてくるモヒカンの凶器を他人事のように見てた。











                                 『北斗蛇欺弾』!!!

 





  ブゲェェエ!!? と叫び崩れ落ちるモヒカン。振り返れば荒く息を吐きながらショットガンを構えるジャギの姿が映っていた。


 「ジャギ……っ」

 「こんな奴らに後ろ取られるなぁ……! 兄者ぁ……腑抜けたかぁ!?」

 「済まん! ……こいつら、普通ではないぞ!」

 「わかってる。……おい他の奴はぶっ倒したぜおい!? てめぇ等俺達二人に勝てると思ってるんだろうなぁ……!?」

 怒気と殺気を含ませつつモヒカン達へ声を張り上げるジャギ。だが……。








                   ……へへへ!       キキキ!!!     ……ギャハハハハ!!!






 「何が可笑しい……?」

 「……へ、へへへ! 別にてめぇら何ぞ倒さなくても良いんだ。……俺達の目的は、そっちの黒髪の足止めさ。……てめぇって言う
 ちょいと邪魔者が出たけどよ、……村を壊滅させれれば俺達は良いんだよ!!」

 なっ……!? と言葉を失うトキ。……信じられねぇ、多人数の命失ってまでトキへ嫌がらせするのが目的って事がこいつら……!?

 「今頃別の奴らが村に乗り込んでる。……そろそろ聞こえるぜ? てめぇ達が守りたかった奴らの悲鳴『いや、違うな』……あ?」

 上空……。奇跡の村の入り口横から聞こえてきた声……。ありゃあ……!!


 「……お前等の言う悲鳴は、この俺がヒーローのように登場してきた事についての女の子達の黄色い悲鳴だ。……お前等の歓声は要らないね」

 「……何だてめぇは!? 他にも進入しようとしていた連中は……」

 「あぁ……何だかこそこそ進入しようとしていた虫がいたから地面に埋めておいたぜ? この……」



     パッ            飛び上がり、一人のモヒカンを踏みつけて笑顔で自分を親指で指し、その男は叫んだ。



                「……この、愛に生き雲のように流れる男……『雲のジュウザ』がなぁ!!」











 






 

 「……おめぇよ。登場するならもっと早く登場しろよ、ジュウザ。こちとら村を守るのに必死で余裕なかったんだぜ、おい?」

 「おいおい、ジャギ! 本当に昔からそのヘルメット並みに石頭だなぁ!? 少しは楽に生きろって、この俺のようにさぁ」

 「……てめぇは楽観過ぎるんだよ、糞ったれ」

 ……ジュウザ、ジャギ、トキの三人の活躍により、物の五分程で襲ってきたモヒカン達の殲滅は完了した。
 だが、やはり何かしらモヒカン達の体は可笑しく、ジュウザ曰く『久しぶりにこんな歯ごたえのある野獣達を見た』との事だった。
 奇跡の村に戻り、ジュウザへと悪態を吐きながら酒を一口含み息を吐くジャギ、ジャギからして見ると、この『雲のジュウザ』は
 自分の恋人に似た雰囲気を持っているのでどうも居心地悪いと言うか、きつい口調になってしまう。ジュウザはジュウザでジャギの
 真面目な雰囲気は何故かリュウガに既視感を覚え、無意識に軽口を叩きたくなるのであった。


 「……大題にして、お前ここにどんな理由で来たんだ? ……お前トウの事は放っておいても良いのかよ?」

 そう半眼で見ると、先ほどまでの飄々とした雰囲気を一瞬にして硬直させ、苦々しくジュウザは言った。
 
 「……いや、まぁ…………そうだな」

 「は? ……別れたって訳じゃねぇよなぁ! おい!?」

 「い、いやいや違う! そんな訳じゃない! 今でも俺とトウの仲は最高だぜ! お前だって良くネタにからかってただろ!?」

 「……じゃあ何で口ごもった。てめぇ……?」

 嘘を吐いたらぶっ飛ばすと言う意思を秘めて胸倉を掴むと、暫く顔を背けてから一つのブレスレットを取り出した。……何だ?

 「……トウに言われて……ここの村に結構有名なブレスレットのお守りを作る職人がいるって言われて買いに行かされたんだ」

 ……世紀末でパシリさせるってトウの野郎も肝っ玉太いな、おい。……で、何のお守りなんだ?

 そう尋ねると、遠い目線であらぬ方向へ向けてぽつりと言った。









                              



                                






                              「……安産祈願のお守り」











「……は? ……って事は、おい!!? ジュウザおめぇ!!??」


「アディオス、ジャギ」

「てめ、ちょ。待ちやがれええええええええええええええええ!!!!??」















 「……要は嵌められて逃げられなくなった駄目亭主じゃねぇか……あいつ」


 呆れつつ奇跡の村入り口を見遣るジャギ。……ジュウザは雲と言うよりは風のようなスピードで逃げ去っていった。

 今度会ったら死ぬほどからかってやりてぇと人が見たら小さく悲鳴を上げそうな笑みを浮かべ戻るジャギ、……トキが難しい顔で待っていた。
 その顔つきに真面目な顔へと戻ると、一つの死体を調べている時へと口を開いた。

 「……? 兄者、どうした?」

 「……これを見てくれ……ジャギ」

 それは俺が脳天を吹き飛ばしたモヒカン。他の死体は秘孔でほとんど肉片となったのでトキがわざわざ運んだのだろう。
 トキがモヒカンのズボンを捲る。






                               ……これは!!!??





 「……刹活孔の……跡」

 「ああ……他にも秘孔の位置をずらした形跡も見られた。……これは北斗神拳を良く知る者でなければ在り得ない……」

 トキの顔は暗い。……ラオウはありえない、だから、だから俺は俺の記憶で一番『こんな事』が出来る奴を思い浮かべ、尋ねた。

 「……アミバって奴を……兄者は知っているか?」

 「……? いや、知らないな」

 「ああ、言い方悪かったか……前にここで誰かの足の秘孔を突いて直そうとしてお前に止められた奴いなかったが?」

 「……!! あぁ、それなら知っている……! 良く覚えてるぞジャギ」

 力強く頷くトキ、その横から少年の声……ルカの声が上がる。

 「そいつトキ様に叩かれ奴だろ? ……その後すんげぇ血管が黒く浮かび上がって俺達の前で助けを求めて叫んでぶっ倒れたんだぜ。
 一週間は苦しんでてトキ様が毎日治療してくれなかったら死んでたよあいつ。……なのに礼も言わずにすぐに村から出てさぁ」

 「……血管が……黒く?」

 「ああ、もの凄かったぜ? 全身の血管が浮かんで黒く流れててさ、呼吸するのも命がけだったな、あれは。
……激痛で髪の毛も白髪になってよぉ、目つきも恐ろしくなっていて一瞬俺もチビりかけたぜ……思い出すのも嫌だよ」




                             ……白髪    黒い血管    ……何なんだこの展開は?





      何が      何が起ころうとしている???   俺の知らない所で   一体        何が   ?





 「……おい、トキ。忠告しとくぜ? 何があったらすぐに村人を避難出来るようにしろ。そんでそのアミバって奴が来たら全力で
 倒せ……嫌な予感がしてならねぇ……」

 「いや……だが、ジャギ。そいつは自身が死ぬほどの病に冒され命の大切さを知った筈だ、それをころ」

  
 

                                  「兄者ぁ!!」


 ジャギは形相を仮面越しに浮かべ、トキの肩を鷲掴みして叫んだ。

 「アレはそんな奴じゃねぇ! アレはそんな殊勝な気持ちなんぞ持ってねぇんだ!! あいつは絶対に改心なんぞしねぇ!!
 『俺』が良く知っている!! 『アレ』の思考は『邪悪』だ!!」


 「ジャ、ギ……?」

 「良いか!? 絶対に今度会ったら油断しないでくれ!! 絶対だ!!!」

 まるで過去の全てを赦して欲しいとキリストに懇願する悪魔のように、その切実なジャギの叫びにトキはその場は頷くしかなかった。
 『ジャギ』は風車が回る音に混じり、『アレ』が嘲笑(わら)う音が遠くから響くのを感じていた。……心臓が震え振るえる。
 









          



        銀の聖者、後に彼はそう呼ばれていた。……だが聖者でも赦されない存在が現れてしまった場合……それを滅ぼせるのは……















  あとがき



  邪神『我神魔(あみば)』降臨。の巻






 空中に浮かび上がりながら『北斗有情破顔拳』ビームを繰り出す魔神



                           ……怖いよね(´・ω・`)











[25323] 第六十七話『地獄に住まう天邪鬼の教義』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/04 22:11



                     等活地獄に声響く。その声響いて亡者の肉片蘇る。




         


                 活きよ               活きよ             活きよ








                 活きよ               活きよ             活きよ







 「……これで十万回この屑鬼に殺された、か。……結局針山地獄の針を目玉に命中させても無意味か……。ちっ、血の池の水も効果ねぇ!」

 『ンナモンキカネェヨ。オデラノモノデ、オデラ二キズナンゾツクカ……時間ガキタベ?』

 「へいへい、あんがどさん」

 『……オメェヤッパ生意気ダァ』

 賽の河原へ赴き水を汲む。そして微かに揺れ動き待つ花へと今日はどんな話をするか考えあぐねている時、亡者達が自分の前に
 待ち受けているのを発見した。……鼻息を一つついておもむろにそいつ達へ口を開く。

 「……てめぇらまたちょっかい出そうとしてんのか? ……こりねぇ野郎だ……」

 「い……いや待ってくれ……あ、あんたの話し面白いからよ、俺聞きてぇんだ……! なっ、なっ!? 頼むよ旦那!!」

 「ああ……俺達針山から針盗んだし、柄杓貸してやったろ? 頼むよ……!」
 必死で懇願する亡者達。どうやら花に語る内容は、亡者達の娯楽に成り下がっていたらしい。それはヘルメットの男にとってはかなり
 面白くない物であり、自分のただ一つ独占していた行いがかなり汚された気分になっていた。けれども、ここで怒気を纏い
 拳法で払えば、目の前の一輪のゆらゆら揺れる存在が悲しむと知っているから、拒絶の言葉も言えず、苛々しつつ結局こう言った。
 


 「……けっ、好きにしろよ」



 唾を吐きつつ迷惑な野郎が寄って来たとうんざりするヘルメットの男。それに喜びの声を上げつつ花に触れぬ意思の表明として
 かなり離れた場所に座りながら男が話し始めるのを待った。
 ジャギは鬱陶しそうに話を聞く体勢の亡者達に不愉快な気分に陥り、それでようやく話す内容を決めれた。

 


 「……今日、話すのはよ。羅漢撃の際の印相の話しだ」

 そう切り出した男に、げぇ!? と悲鳴を上げる亡者達。何だ? と睨みつけると亡者達は口々に文句の声を放った。
 
 「仏教の話しなんぞされたら体が痛んじまう! おめぇさん何て話をしようとしてんだよ、おい!?」

 「そうだ、酷ぇよ旦那!? 俺達が説法なんて受けたら激痛上げる体だって身の程もって知ってるだろぉ!!?」

 「俺様には関係ない話だね。第一、俺様は元々仏神の拳を受けてた修行者なもんでね。そう言う知識を教えて何が問題なんだ?」

 鬼だ、悪魔だと文句を垂れる亡者達に悪どい笑みを浮かべつつヘルメットの男は生前の自分の師父の教えを話し始めた。





 ……まず初めに羅漢撃とは、相手を幻惑。主に自身を羅漢(仏に仕える修行者)と同一になるのが初歩としての基本だ。
 俺様は奴を殺すと言う殺意を纏って行ったが、死んで気付いたまず一つの重要な行い。第一に無心で初動は行わないと発揮できねぇ。
 ……羅漢撃とは相手に自身を仏と同じ存在だと思わせ動きを封じた上で相手に無数の突きを放ち相手を滅す技だ。
 いや、滅すと言う言い方は間違いか。相手を『伏す』。こうだな。
 陰陽師とかの五字切りとかと同じく、相手の気を仏の力で封ずるのが初動で肝心なんだ。……俺様が扱えなくても当然だったぜ、
 あんな技はよ、神仏に通じ正当な人間しか扱えないように出来た技だ。または本当に神仏を憑依するか、同じような心を持った野郎のな。
 

                ……苦しそうだな亡者共? ヒヒヒヒヒヒ! まだまだ話は続くぞぉ!!


 上下にしなやかに手を上げ下げしつつ印相を次々に変える。それが初動の基本だ。これからてめぇらに逐一説明してやる。感謝しろよ?
 
 まず施無畏印(せむいいん)。不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)が主に結ぶといわれている形の印相。
 『恐れるな』と言う意味を持った印相。……何を恐れるなってんだ? おい?
 
 








 与願印(よがんいん)。宝生如来(ほうしょうにょらい)が主に結ぶと言われている形の印相。『相手に与す』意味の印相。
 ……誰かに何かを与えるなんて冗談じゃねぇ……まぁてめぇの世話は除外してな、……ただの気紛れだ。
 
 









 施無畏与願印(せむい よがんいん)。釈迦如来(しゃかにょらい、しきゃじらい)がこの手の形の印相を結んでいるが
  左手に薬壷を乗せるようにしてりゃあ薬師如来 (やくしにょらい)の結びでもある。……まあ大差は無いがな。
  阿弥陀如来(あみだにょらい)もこの手の結びをしているからよ、この手の結びで何の仏を奉っているかは不明って訳だ。
 因みに印相の意味は『信者の願いを叶える』らしいが……糞喰らえだ。

 








 転法輪印(てんぽうりんいん)。釈迦如来の印相の1つだが様々なバリエーションに営んでる。「説法印」とも呼ばれていて、
 「転法輪」(法輪を転ずる)とは、「真理を説く」ことの比喩だと。……真理なんぞ生きるか死ぬかの瀬戸際に意味あるかってんだ。
 両界曼荼羅(りょうかいまんだら)の釈迦院の釈迦如来の場合、両手の指先を上に向け、右手は前に、左手は自分側に向けてるんだとよ。

 






 定印(じょういん)。坐像で、両手の手のひらを上にして腹前(膝上)で上下に重ね合わせた形……仏の瞑想の形らしいぜ?
 瞑想なんぞしてる暇があるなら強奪でもするってんだ、こちとら。

 






 触地印(そくちいん)。降魔印とも呼ばれ、誘惑や障害に負けずに真理を求める強い心を象徴する印……言ってて寒気がするぜ。

 







 智拳印 (ちけんいん)。大日如来(金剛界)、一字金輪仏頂、多宝如来が結ぶ印相なんだと、詳しい意味は覚えてねぇが
 ご大層な意味があるに違いねぇ。第一、仏教徒にちゃんと現世で説明出来る奴なんぞ今時いるのかよ?

 







 降三世印 (こうざんぜいん)。……これも特筆すべき意味なんぞねぇんだよな。まっ……これが大まかな印相の説明だな。



 他にも上品(じょうぼん)、上生(じょうしょう)、中生(ちゅうしょう)、下生(げしょう)、と言われる九品来迎印
 がある。主にこれは阿弥陀の九品印と言われている。




 ……お次は阿弥陀如来の印相を教えてやる。……何だお前等? 泣きそうな程に嬉しいのかよ、おい! ヒヒ! 俺様は仏か、ヒヒヒ!!

 
 
 来迎印(らいごういん)。信者の臨終に際して、阿弥陀如来が西方極楽浄土から迎えに来る時の印相だ。……浄土宗・浄土真宗に関しては
 この印相が主らしいぜ?



 曼荼羅では他にも色々印相が見る事が出来る。それに関して決まった名前を説明するとてめぇら米粒ほどまで魂が削られそうだから
 ここいらで説明するのは止めにしといてやる。

 次に突きに関しての動きだ。この突きの動き一つ一つに関しても仏教的な関係が密接している。

 

 ……あん? 何死にそうな顔してるんだ。安心しろや、そんな長い話じゃねぇ。





 貫手(ぬきて)ってのは地獄突きとも言われてな……言うなれば現世では邪道と言われている。……だから北斗神拳で扱われる
 技へと発展したんだ。
 4本貫手(しほんぬきて)、二本貫手(にほんぬきて)、一本貫手(いっぽんぬきて)……これらはすべて
 邪道の技として武道では禁じ手だが、それを一瞬にして体の秘孔めがけて突きを食らわす邪拳……仏と邪法を混ぜ合わせたのが
 北斗羅漢撃って訳だ。……言うなれば神仏と人間の邪拳を融合させた技だな……極めれば悪魔すら屠れる技だ……すげぇじゃねぇか、なぁ?


 俺様には貫手しか極めれる技がなかった。ようするに南斗聖拳がそれだ。

 南斗聖拳は主に人体を殺傷するに長けた技。要するに邪道の拳に通じるから俺様でも一万年を経て完成する技へ至った訳だ。


 つまりよ、言ってみれば南斗邪狼撃を極めることさえ出来れば貫手を極めたと言う事になり、北斗羅漢撃を極める次の手に
 移れるって事よ。

 陰と陽。天と地。真逆ゆえに一つ極めたりて逆極めたりってな。……あいつはそれを解っているか眉唾もんだけどな。

 まあここら辺で仏教教義は終わりだ。……って、全員ダウンか……情けねぇ。



 




 ……お次の話しをするとしたら何を話して貰いたいんだ、おめぇは? ……もっともあいつらの冒険譚なんぞ未だ記憶に
 流れ込まねぇし……ついでだから俺の兄貴達の話しをすっか。

 まず二番目の兄だがよ、あいつの生来の拳はまんま観音菩薩とかの拳なんだよ。言うなれば『仏の拳』を完全に映してたな。
 だから俺様もしぶしぶ認めるしかなかった。……本当、あの野郎庇って死の灰を被ったって聞いた時は馬鹿野郎だと思ったぜ。
 けど本当に、あの兄者には出来れば伝承者になって貰えば良かった。そうすりゃ俺様だってこんな風にならずに済んだんだ。
 言い訳がましいが本当にそう思うぜ? だいだいそうすりゃあの兄者だって別に争おうとは……過ぎた事だな、本当。

 ……一番目の兄貴はよ……間違いなく最強を誇れる拳だとは思ったな。

 何が強いってよ、殺気や闘気に関しては誰よりも勝っていた。あれなら神と対等に闘えるって自負しても馬鹿に出来なかったな。
 ……多分今頃あの二人は天界がなんぞに行っただろうな。あいつらはそれだけの人生を送る生き様を持ってたからな……。

 ……俺を殺したあの野郎に関してはよ。もしかしたら天界の神にでもなってるんじゃねぇかってのか俺の予想なんだよな。

 奴は救世主と言う名を付けられてたんだろ? 漫画だが何だがだろうとそう言うのは『言霊』があるしな。……在り得るから性質悪い。

そう言う事なら医神とか戦神とかで兄者達もなってそうだが……ま、俺様には関係のない話だ。本当……関係のない話だ。

 俺を殺しておいて神なんぞに成ってると知ったら、絶対に俺様はこの地獄抜け出して悪魔と化して奴に挑むぜ。例え消えるとしてもな。

 ……これで今日の話しはしめぇだ。……マタナ?テメェら?



 説法を聞き死屍累々の山を掻き分けつつヘルメットの男は高笑いして去る。

 そんな男に素直ではないなと苦笑するように花は静かに揺れる。

 花の香りは最近になって変わるようになって、それが自身の感情の変化によって変わるのかと試行錯誤し、ようやくそうだと
わかり喜びに芳香強くした。これで彼とも意思疎通が出来るような気がしたから。
 その喜びを纏い花は揺れる。今日も地獄の断末魔を受けつつも。









 あとがき


 釈迦に説法ならともかく、亡者に説法……。火属性にハイドロポンプ喰らわす並みにやばい攻撃。





 拳王、アミバの登場はもう少し先です。皆さんお待ち下さいませ(`・ω・´)






[25323] 第六十八話『多分 一番この世界で貴方が優しかった』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/06 19:39

         


  「……おぉ……! こ、これは如何した事だ……!? ジャギ!」


  「兄者……」


 対峙し座りつつ顔を向かい合わせるトキとジャギ。わなわなと口を震わせ、まるで悪夢が降り立ったかの様な口調をトキは上げる。

  「……こんな、馬鹿な……! 通常では考えられん!? ……こんな、こんな出来事は医学的に……っ」

  「兄者……」

 わなわなと拳を握り締め、ありとあらゆる医学的視点から『この出来事』を冷静に分析しようとする。
 だが、医学的にどう考えても不可能である出来事を目前に突きつけられ、トキは自身の髪が白色になりそうな程の衝撃を受け続ける。

  「……ジャギ……くっ……! 済まん! 私ではどうする事も出来ん……! 未熟な兄を……許してくれ……!」

  「……いや、だから兄者」











                      「お前の顔が以前より良質化してるなんて……!」

                      「なぁサラ。目の前のこいつに北斗神拳使っても構わないか?」









 自身の顔を見た瞬間、否定ばかりを繰り返す兄に殺意を覚え女医のサラへと話を振るが、千切れるのでは? と思うぐらいその瞬間
 首を横に振って否認を示した。……どいつもこいつも我が世の春が来てるのかよ……と、うんざりしたのは秘密である。










 「……いや、錯乱して済まん。……然し放射能の影響か? このようにお前の顔に驚異的な変化を及ぼすとは。……いや、わかったぞ?
 秘孔で顔を変えたのだな!? ……済まない、軽い冗談だ。だからそんなに殺気を指で込めるな、頼むから、な? ……そうか理解した。
 元々生まれた時お前の顔は病的な何かを含んでおり、それが核の放射能を浴びた副作用で奇跡的に良い方向へと変化した」

 「俺は何処のゴジラだ、兄者」

 まだ錯乱してるのか? と呆れつつトキを睨みつけながら、ヘルメットを被り直すジャギ。その、ある種漫才のような光景に
 少しだけクスクスと口元を抑え女医のサラは眺めていた。

 「あんたもそんな他人事見たいに眺めないでくれよ? ……ってかこんな美人さん捕まえておいて兄者も隅に置けないぜ」

 「いやっ、私と彼女はそんな関係ではないよ。あくまで共に医者としての義務を果たす仲間だ」

 そう笑みを浮かべるトキは気付いているのだろうか? 頷きながらその話の中の女性は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべてるのを?

 (……実際、何で兄者って女縁が無いんだ? サウザー並みに女縁が無いよな。……北斗の拳で女性との関係が記されてないのって
 ユダ、サウザー、目の前の兄者だけだぞ? ……ユダは論外だけどな)

 あいつ、あのナルシスト失くさないと永遠に恋人作れないだろうし。と、自分の運命の安否すら忘れ本気で目の前の兄の心配をするジャギ。
 少しだけ滞在する事を約束し、一通り街を見てくると言って出たジャギの思考の中は、どうやってトキとサラをくっつけるかであった。

 (……まず、真救世主伝説だっけか? それに出てきたサラは、トキがユリアに想いを抱いているのを核戦争前から
 付き添ってるから知っていて、それで想いを告白しねぇんだっけか?)

 その頭を痛める状況に苛々とヘルメットをこするジャギ。ああ言う一途でしかも隙なく想いを抱いている人間に別の相手に
 意識を向けさせるのは一苦労なのだ。しかもトキは良い大人だし……。

 (うん? ……大人、……そうか大人か……)

 ちょっくら一か八かで兄者に蹴られる覚悟でやってみるか。と、ジャギは自分だけでヘルメットと同じぐらい固い決心を決めた。








 

 (partサラ)

 目の前では真剣に傷を縫ったり、重い軽い関係なしの病を診るトキさま。



 私は昔から医者を志し、その道の勉学と実践の場で明け暮れていた頃、あの方と出会った。……それが私の運命の始まり。

 最初は優しげな風貌と柔らかい雰囲気を纏うあのお方に、本当に患者の悲鳴や凄惨な光景が目の当たりする医療の現場が務まるのか
 内心疑問に思っていた。けれど、最初にあの方の手術の場に立会い、その疑問の氷解、そして胸にメスを入れられたような衝撃が入った。

 氷のように感情を殺した瞳で一挙一動に隙なく傷、患者の病状を見定めるトキさま。その素早く一連の作業は一種の芸術のように
 私は思えた。心奪われたと言って良い。それ程あの人の動きは洗練されて、私には到達出来ない領域にいる方だと思えた。

 ……それから私がこの感情を抱いたのは遅くはなかった。貴方の笑顔、貴方の気遣い、貴方の父のような暖かさに
 私は貴方が子供達に接する時に、子供達が貴方に抱くような安心感と、そして生まれなくては良かったと思う想いが産まれた。

 ……あの方が一番下の弟様だと言われた方に付き添っている女性に向ける目が恋慕の瞳だと理解した時、私の胸は持病の癪を持つように
 痛んだ。あの時は苦しく馬鹿な真似をしでかしそうな自分を抑える薬を心の底から欲していた。今も時折それを欲する。

 ……核が落ち、世界は野獣で溢れても貴方の道は揺らぐ事はなかった。

 二番目の弟様から教わったと言われた針治療、そして譲り受けたと言う医薬品がなければこの村の人々を救うのは不可能だったかもしれない。

 貴方は必死で『死』その物に命懸けで闘っていた。貴方が拳法家と死闘を打ち据える事があろうと、この村で必死に治療を
 施していた時の顔よりは激しくはないだろう。貴方はこの村で常に纏わりついている死神と、その両手で命懸けで闘っていた。

 一段落して貴方が糸が切れた人形のように倒れた時、必死で抱き起こした時安らかな寝息だったと理解するまで生きた心地がしなかった。

 貴方と共に居るだけで幸せ……例えこの想いが実らなくても……。




 



 ……今日の請け負った患者の治療を全て済むと、休憩がてら仮眠を取るトキさまを起こさぬようにそっと抜け出す私。





 ……そこには花が植えられていた。トキさまが弟様から譲られたと言われた花が植えられていた。今は咲いている数はまばらだが
 半年もあればやがてここは満開の花畑になるだろう。それを想像して微笑もうとしてたのだけど、……そこには先客がいた。

 「……おっ…………よぅ」

 ……それは昨日訪れた悪魔めいた仮面を被るトキさまの二番目の弟様。

 私は最初野獣めいた来訪者かと出会った瞬間警戒したが、トキさまの苦笑めいた紹介と、達観したような空気を帯びたその方に
 警戒心は薄れ、そして意外にも中々の医療の腕を持ってるその方の治療行為を観察して瓢箪から駒が生まれたような気分を覚えた。

 詳しく聞いてみれば花を譲り受けたのもこの方からであり、昔医学談義で盛り上がったのもこの方だと聞いた。
 人間見た目では判断出来ないなと思ったけれど、今日の朝トキさまが弟様の顔が変わったと(そんなに顔が変化してたのだろうか?)
 何時もなら考えられぬ程に豹変してるのと、その弟様の静かに怒る様子は、どうもシュールで笑いを誘う光景で我慢出来ず少し笑った。

 ……そんな方が如何してここに? 多分、譲り受けた花の様子を見てだろうけど……。そう考えていると、トキさまの弟様は口を開く。


 「……この花はよ、俺の大事な奴が元々育てていたんだ。……ちょいと今は事情があって別行動なんだがな」

 そう傷つけぬように、そっと花びらへと触れるその方。……何を言おうとしてるのだろう?

 「……花ってのは繊細でよ、肥料は与えすぎると良くないし、水も同じだ。……人間と変わらねぇって、あいつは言ってたな。
 ……でよ、あんたからしてトキの兄者はあんたの何になるんだ? ……土か? 水か? ……それとも空気か太陽か?」

 ……っ!? 直球で私の心を土足で上がるような言葉に一瞬感情が露になりそうになる。……けれど呼吸を置いて私は言った。

 「……トキさまは大事な方です。けど……あの方にも太陽となる方がいます。……それを奪えはしません」

 「太陽、ねぇ……。……けどよ、その太陽は明後日の方向を照らしてるんだぜ?お前の太陽様は、一生その照らさぬ太陽を見守るか?」

 その言葉に胸が締め付けられる気分を覚える。……けれどずっとあの方は、あの方なりに愛を抱いているのだ。それを私の身勝手な
 想いを振りかざし、あの方の迷惑になる事はどうしても嫌だ。その心情を言葉にして目の前の方へ告白する。……その方は嘲笑(わら)った。

 「……迷惑なんぞあの聖者並みにお人よしの兄者は思うわけがねぇよ。……第一あんた人間の体については俺より詳しくても
 人間の心をすべて知り尽くせねぇだろうか? ……思い切って、何て言わねぇよ。……けど、あんた達良い大人じゃねえか?
 機を見てよ、自分の気持ち言うだけでも罰は当たらぇだろ? ……そうだな、この花畑が溢れる程になったら……とかよ」

 








                             っ……この方は……意地悪だ 








 私とあの人の事なんて何も知らないだろう。……それなのにとても深い部分を抉るように言葉が襲ってくる。
 ……その方はその後に無言で自分の寝台へと戻っていった。私はまばらに咲く花を眺めつつ思考に耽る。
 ……良いのだろうか? ……あの方に想いを告白しても。……その時の光景を頭の中に浮かべてみる。
 優しいあの方、時折り氷のような瞳と水のような手で医療を施すあの方、そして私が大好きで、愛おしくて……そこで思考を止める。







                           




                              おめぇ達、良い大人だろ? ……なら正直になれよ。








 「……大人、か」

 両手を広げる。この手は何時しか未熟な頃より大きくなった。背丈も、そして医術の腕も、それは成長出来たけど、心はどうだろう?

 「……参ったな、これではあの方の隣に並べられない」

 この心はまるで子供で、その気持ちのままあの方と接しても何時しか駄目になるだろう。
 ……あの悪魔のような風貌の方に、一度だけ従っても良いかもしれない。苦笑いが込み上げる。医療を、神の代わりに人を助ける担い手
 の私が、悪魔めいた方のたぶらかしに乗ってみようと思ってるのだから。

 けど、このままではこの花が何時しか枯れるように私の心も枯れてしまう気がする。……だからあの方の言葉の通りにしてみよう。














 




 「……兄者」

 横になる私の前に、いきなり覗き込むようにジャギが現れる。
 意識を覚醒する。……また野獣が襲ってきたのかと思考を回転しようとすると、呆れた面持ちで言った。

 「言っとくけどもう日が昇るぜ? 今日は朝から体の弱い老人とかを診て回るんだろうが? ……まあ昨日は色々あったからな」

 「あぁ、そういえばそうだったな。……済まん、心配事があってな」

 「無理もねぇ。あの秘孔の跡を見た後じゃ俺も寝つきが悪くてそんなに寝てねぇよ。……ったくアミバの糞野郎が」

 「……本当にそいつが原因なのか? 私は未だ半信半疑なのだが……」

 ほぼ100パーな、とジャギは断言する。……この自信は何なのだろうと疑問に思うが、それよりも聞きたい事が先にあった。

 「……なぁ、ジャギ。お前の悩みの件だが」

 「……掻い摘んでで良いか? ……眉唾もんの話しだぜ?」

 構わん、と私は言い、医療器具の準備がてらジャギの話を聞いた。

 ……聞けばとある予言士が私や他の者の死の運命を見てそれをジャギへ話したとの事だ。……それで変えた出来事の所為で
 何かしら不都合な事態が発生するのを恐れてる……。

 「……成る程。……だが、それだとお前の顔が変わった事や、他の説明が」

 「兄者は俺の顔が変わった事がそんなに認めたくないのか? あれか? 俺は一生極悪人の顔だったら良かったと思うのか? え? おい」

 詰め寄られて否定の言葉を口にする。ったく……と呆れた声を吐くジャギに私は苦笑を漏らしつつ言った。

 「……男前になったと思うぞ? ……私は前の顔も良かったと思うが」

 「……けっ」

 その顔をそむける態度が上辺だけだと自分は知っている。

 ……思えば昔から大っぴらに優しさは見せずとも、裏で気遣いを見せていたのはこの弟だった。ケンシロウに、ラオウに、そして
 他の南斗や色々な者へと……。優しさ、と言う物では、この弟は尊敬に近い行動を何時も起こしていた気がする。

 「……話は変わるけどよ。あぁ……まだ想ってるのか? ……あいつを」

 その言葉に僅かばかり胸が痛む。だが口元に笑みを作り私は頷いた。

 「……なぁ、兄者。……あんたは優しすぎるんだよ。……腑抜けてると言われても可笑しくない位だぜ、この世界じゃ?
 ……もうちょい自分の気持ちを整理しろや? 一生特定の人間に陰日向で見守るなんぞ馬鹿らしすぎるっつうの。
 ……もしもだぜ? もしも兄者を想う奴がいて、そいつが兄者が好きだって告白したらどうするつもりなんだ?」

 「……丁重に断るだろうな」

 その言葉に頭を抱えて溜息を吐くジャギ……何か不味かっただろうか?

 「……そいつの気持ちも考えてみろよ? そいつも兄者と同じような苦しい想いを一生背負うんだぜ? どんな負の連鎖だ、それ……。
 ……兄者も手頃な、とは言わねぇけど、自分が好きだって言う人間がいたら少し時間を置いてそいつの事どう思ってるかを良く
 考えてから返事しな? ……例えば、例えばの話しだけどよ。お前に付き添ってるサラが告白したとして、だ」

 「彼女はそんな事思ってはいないよ」

 苦笑して否定する私に、強引に「良いから聞け!」と怒った口調で言うジャギ。……素直に言葉の続きを聞く。

 「……そう好きだって言って、お前が今でも好きな人間がいますって言って否定する訳だ。……で、そいつは一瞬泣きそうな顔してから
 笑顔で『そうですか、それじゃあこれからも同じ医者としてよろしくお願いします』って健気に言うんだぜ? ……想像しろよ」

 ……目を閉じてその光景を想像してみる。彼女が必死な表情で想いを告白する。私が否定の意を口に出した瞬間、彼女は必死の手術も
 虚しく助けられなかった時と同じような表情を一瞬浮かべる。……そして泣きそうな顔で私に……。

 「……それは、何だか嫌だな」

 そう言うと、ジャギは何故かほっと一安心と言った顔つきをした気がした。……何故かと思う暇なく『話しは終いだ』と外へ向かった。

 「……お、おいジャギ?」

 「話しは終わりだっつうの。あと、髭剃っておけよ? その方が、俺としては兄者の男前の顔だと思うぜ?」

 「いや、だから話をなぁ……まったく」

 反対方向へ行って村人を診に行くジャギ。……あの仮面を外さないと寝起きに心臓を止める事になるぞ、と声を最後にかければ
『五月蝿ぇ!』と怒鳴り返され苦笑を浮かべるしかなかった。

 その時診療所へと着いたサラがやって来た。……先ほどの話題に上った所為か少しだけ意識している私にサラは声をかける。
 その表情は何かが吹っ切れたように朝日の下で輝く綺麗な笑顔で、……不覚にも見惚れた。

 「……トキさま」

 「何だ? サラ」

 「……何時か貴方が下さった花が満開になった頃……大事な話しがあるんです。……聞いて貰っても構いませんか?」

 「……今でなくて良いのか?」

 「はい。……満開になった頃で構いません。……私は、まだまだ未熟ですから」

 「そんな事はない。……私は何時も助けられてると……感謝している」

 ……サラは一段と深い笑みを浮かべた。……その笑みを受け止めながら私は朝日の輝きを見上げ目を細めた。




 ジャギ……サラ、多分 一番この世界で貴方が優しかった。

 だからこそお前達を守る為に……何時か来る運命とも闘おう。









 村人へと声をかけつつ、ジャギは思う。

 兄者……多分 一番この世界で貴方が優しかった。……今も何処かで俺を守る為に旅してるあいつを除けば。
 だからあんたには幸せになって貰いてぇと思う。……だからあんたの運命なんて破壊してやるよ。……悪魔になろうとな。









 ……トキさま。     核が降り注いだ世界 その前でも一番この世界で貴方が優しかった。

 

   だからもう少しだけ待ってください。この世界で、貴方の一番の薬になれるまで。











   あとがき



  諸君  私は羅漢撃が好きだ。
  諸君  私は羅漢撃が好きだ。
  諸君  私は羅漢撃が大好きだ。

  千手殺が好きだ。
  邪狼撃が好きだ。
  邪技弾が好きだ。
  蛇欺弾が好きだ。
  操気掌が好きだ。
  醒鋭孔が好きだ。
  真空把が好きだ。
  操孔針が好きだ。
  狂神魂が好きだ。

  荒野で 下水で
  山谷で 濃霧で
  廃土で 砂漠で
  水上で 空中で
  天羅で 湿原で
 
  この地上で行われる ありとあらゆる羅漢撃が大好きだ。


  印相をならべた貫手の一斉突きが 轟音と共にモヒカン達を吹き飛ばすのが大好きだ
  空中高く放り投げられたモヒカンが 南斗聖拳でばらばらになった時など心がおどる

  
  ヘルメットの操るソード・オフ・ショットガンがモヒカンを撃破するのが好きだ
  悲鳴を上げてバイクや車から飛び出してきた逃げ惑うモヒカンを
  蛇欺弾で倒した時など胸がすくような気持ちだった

  千手観音のように突きを繰り出す北斗千手殺がモヒカンを蹂躙するのが好きだ
  恐慌状態の成り立ての拳法家が既に息絶えたモヒカンを何度も何度も千手の貫手をしている様など感動すら覚える

  敗北主義のモヒカン共を荒野の屍として晒す様などはもうたまらない
  泣き叫ぶ野獣達が私の振り下ろした突き指とともに
   金切り声を上げる旋風に ばたばたと爆散するのも最高だ

  哀れなモヒカン達が 雑多な凶器で健気にも立ち上がってきたのを
  南斗邪狼撃の音速の衝撃貫手がバイクごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える
  ケンシロウの百烈拳に滅茶苦茶にされるのが好きだ
  必死に守るはずだった誇りが蹂躙され愛する女性が犯され壊れていく様はとてもとても悲しいものだ。

  ラオウの剛掌波に押し潰されて肉片になるのが好きだ
  北斗輯連打に追い回され 汚物の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ

  諸君 私は羅漢を 地獄の様な羅漢を望んでいる
  諸君 私に付き従う世紀末戦友諸君
  君達は一体 何を望んでいる?

  更なる羅漢を望むか?
  情け容赦のない糞のような羅漢を望むのか?
  蒼龍天羅の限りを尽くし三千世界の星を殺す悪の様な羅漢を望むのか?

  
  (ガガガガ ガガガガッ と手を上げたモヒカン達が口々に)

  「 羅漢!! 羅漢!! 羅漢!! 」



  よろしい ならば羅漢だ


  我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする羅漢撃だ
  だがこの暗い闇の底で何世紀もの間堪え続けてきた我々にただの羅漢ではもはや足りない!!
  
  羅漢撃を!! 一心不乱の羅漢撃を!!

  我等はわずかに両手十指 百人力に満たぬ汚物にすぎない

  だが諸君は一騎当千の古強者だ と私は信仰している
  ならば我等は諸君と私で総兵力270万と一人のモヒカンとなる

  我々を汚物の彼方へと追いやり 眠りこけている連中を叩き起こそう

  髪の毛をつかんで引きずり降ろ し 眼を 開けさせ思い出させよう
  連中に羅漢撃の味を思い出させてやる
  連中に我々の羅漢撃の音を思い出させてやる

  天と地のはざまには 奴らの拳法では思いもよらない事があることを思い出させてやる
  27tの羅漢撃の戦闘力で
  世界を燃やし尽くしてやる


 「最後の神拳 汚物指揮官より全拳法家へ」


 第二次 人類羅漢計画 作戦 状況を開始せよ


  征くぞ 諸君


 
  羅漢撃の時間だ(`・ω・´)





 



[25323] 第六十九話『カサンドラの暗雲。そして交錯の出会い』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/05 13:17





   

    核が降り注ぎ、世界が凶悪なる本性を露にした世界。




 その一角にある巨大収容所、カサンドラ監獄に三人……妻子と崇山通臂拳の伝承者である男がラオウと向かいあっていた。

 「……これが……約束の秘伝書だ」

 



                                ……パラッ




  それを無言で広げ眺めるラオウ。そこは監獄。出る事も入る事も至難な、強き拳を持つ物だけが生き残れる場所、カサンドラ。

 そこで男はラオウと約束していた。極意書さへ渡せば妻と子を解放する、と。


 「……確かに、これぞ崇山通臂拳の極意書……か」


 「ああ……だから妻と子を今すぐに放せ……!」


 ラオウは光篭らぬ目でその男を見る。拳法家としてこの男が自分に恐怖を覚えているのが手に取るようにわかる。だからこそ言った。

 「……貴様、我に怯えるか」

 手を翳す。その挙動に男は半歩下がるも、家族の為に目元に力を込めるとラオウを睨みつけた。

 「……」

 ラオウの光篭らぬ瞳の奥に、何の思惑が過ぎっているのだろう。ここで男の命運を分けたのは、拳を振るわずただラオウを
 睨み付けるだけに留まった事が原因だと後に記す。もし拳を振るうか、それとも何かしらの動きを見せればたちまちラオウは
 この男を手にかけていただろうから。

 「……連れて来い」

 ラオウの言葉にウイグルが返事をすると、少し離れた場所に立たせた妻子達を男の前へと引き連れた。……そしてラオウは言った。

 「……貴様、ここでこの妻子を我が手にかけたら貴様はどうする?」

 「……な、に!?」

 「どうするか、と聞いておるのだ。……二度は言わぬ……」

 何をこの目の前の男は訪ねている? いや……ここでこの問いに答えねば我が妻子達の命が失われる……! そう直感すると
 男は言った。

 「……貴様を殺す……っ! 例えこの命を失ってもだ……っ!」

 「……ほぉ」

 ラオウはそう声を漏らし、次に妻子達へと首を向けた。不意に向けられた強烈な威圧感に怯える妻子、だが毅然と目はラオウを向いてた。

 「……貴様等もこの男を俺が手にかければ……挑むつもりか?」

 「……貴方がそうなさるなら……っ、私達も同じ気持ちです」

  崇山通臂拳伝承者の男を見て力強く頷いてから、同意の返答をラオウへと妻子は言う。それをじっと眺めてからラオウは拳を上げた。









                                 ……ゴォ……ッ!








 「……っ……!!」

 振りかぶった拳は、崇山通臂拳伝承者の子へと振られた。そして触れるか触れないかの距離で制止するラオウの拳。
 死を間近に見せ付けられた崇山通臂拳伝承者の子は、尿を漏らしつつも毅然と立っていた。


 「……何故、避けぬ」

 「……ぼ、く……父さんの子だから……逃げちゃ……いけないって……」

 「……それは『愛』か?」

 そのラオウの禁忌とも言える問いかけに対し、臆面なく子は頷いた。それがラオウに対してどのような意味かも知らずにだ。

 ……だが神の気紛れか、ラオウは拳を引き闘気を消すと言った。

 「……戯れに時間を食ったわ。……行け、そして我が目前から消えうせよ」

 その言葉に暫し呆然としつつ妻子を抱きしめていた崇山通臂拳伝承者の男。……そして逃げるように男は妻子と共に立ち去った。


 「……よろしいので?」

 「あ奴らに平穏な土地などなきに等しい。いずれこの地を全て掌握する。……ただ命が延びただけの事よ」

 拳王の配下の兵士は気付かれぬように心中で溜息を吐いた。これで何度目か? 拳王の心にどんな心境の変化があったが
 知らないが、蘭山紅拳(らんざんくれないけん)の伝承者が母を守ろうと命懸けで拳王へ迫った時も、殺さず野へと出した。
 ……拳王の部下も最近の奇行とも言える拳王の行動に不信感を覚えてる。特に暴力で支配を望む者達は特に……。
 ……最近白髪の男が部下になったが、あの男に関しては特に危機感を覚える。……胸騒ぎを……拳王様は気付いておられるのか?
 ……いや、拳王様の事だ。この私には想像つかぬ考えがあるのだ。きっとそうだ。
 拳王配下の兵士は、そう自分に納得させながら堂々と巨大な黒王号で進む拳王の後ろを歩くのであった……。











  「……それでね、この種はどちらかと言うと間隔を開けて植えたほうがよく育つよ」

  「教えてくれて有難う。……ねぇ、旅なんて止めてここで暮らさない? 女性の二人旅なんて危険だわ」

  「……う~ん、そうも言ってられないんだよね。何と言うか……会いたい人の為に頑張らなくちゃいけないんだぁ」

  「そう……。大事な事なんでしょ? そんなに旅を続けるって事は」

 そこはマミヤの住む村。そこで元花屋として花の植え方を教授するアンナ。それを熱心に学ぶマミヤの姿があった。

  「けれど女性で村を守るのって結構大変でしょ? 私尊敬しちゃうな」

  「……貴方も貴方で結構凄いわよ? ……その格好も含めて」

  そのアンナの姿は以前よりも何というか野性的な服装を纏っていた。
 荒野に同色のマントを羽織り、腰には何本もの矢を備え付けまるでロビン・フッドを連想させる格好だ。
  「……まぁ、拳銃の弾薬って尽きちゃうからさ、工夫して野獣と戦わないと」

  「そんなに戦う日々で良いの? 貴方それじゃあボロボロになるわ」

  「……けど、何時か大事な人が死に掛けたとき、戦わなくちゃいけなかったらマミヤはどうするの?」

  「……私は……そんなの考えた事も無かったわね」

  「私には命を喜んで賭けれる人がいるからさ。その人を守れる位に強くなりたいんだ。……相手が拳王だろうと」

  「え? 今なんて……」

 聞き捨てならないアンナの台詞にマミヤは尋ねようとすると、近くに寄ってきたアイリに出鼻をくじかれる。

  「お風呂ありがとう。……こんなに綺麗な場所が……まだあったのね」

  「ここは私の家族が守りたい場所だから。……どんなに反対されても私は戦うは、この村を守る為に」

 その力強く決意を証明するマミヤを眺めつつ、アンナはマミヤと一緒に風呂に入った時の事を思い浮かべ、頭を少し痛めた。

 ……どうやら聖帝の善政はユダを完全に抑えているのか、マミヤはユダに烙印を押されてないのだ。

  これからどうかは知らないけど、世紀末によって野獣達から守る理由としてマミヤは女を捨てて戦士になっている。

 その方がマミヤとしてはすぐに普通の女性として戻る事が出来て楽だろうけど、とアンナは思いつつ、空の何処かで今日も
 頑張っているであろうジャギの事を考える。

 ……ねぇ、ジャギ……。私の腕、最近男の人見たいに固くなって来ちゃったよ。……これって本当はマミヤの台詞だったけど。

 ……私、生き残る為に色んな武器を身に付けて、それでも一生懸命動き回れるように鍛えて全身が筋肉見たいになっちゃってる。

 ジャギは体が固い女性って嫌いかな? ……そうだったら悲しいな。

 小指を太陽へ向けて溜息を吐くアンナ。その小指に赤い糸が結ばれているのならば、ジャギに繋がれてるであろう赤い糸を
 こっちの方へと引っ張って欲しい……そう今日も世紀末の空の下でアンナは夢想するのである。





 






 ……時間は刻一刻と運命の日へと舞い戻ろうとしている。



 『この世界』では守りたい華達はまだ純白を保ったままだ。

 『この世界』では輝くべき星達の光は未だ損なわぬままだ。

 『この世界』では北斗七星だけが道筋を慎重に辿っていた。














                               ……だが
















  「……レイナ」



 一人の微笑みながら眠る冷たい女性を抱かかえる、背中が泣いている男性が見える。


 その男と女の場所には雨が降っていた。……まるで男の代わりに泣こうとするように。






  







 「……おれは天才だ……おれは…………天才だ……!」



 白髪で顔が影となった男の嘲笑(わら)い声が、その男の見えぬ影の部分で静かに地面へと響き渡る。

  その男の目前には人形のように光無き拳王の兵士達。男はそれを眺めつつ自分が起こした奇跡の一手を天に一本指を振っていた。

    「おれは天才だ……! おれの手で北斗神拳は生まれ変わるのだ!!」









  時は迫る          この数ヶ月後   







  ケンシロウはリンとバットのいる村へと到着するのであった。









 あとがき



 
 第十三話 ジョインジョイン トキコピペ

   訂正しときました。







 



[25323] 第七十話『天を握る男 天に反逆する男』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/06 09:02

                 



                あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたほあったあっ!!!






                                 『北斗百烈拳』


 「……貴様の拳など蚊ほどにも効かぬわぁ!!」


 「……お前はもう死んでいる」


 「何ぃ!? ……ふぐらばぁだひでぶぅ!!?」



 ケンシロウの拳によってたちまちの内に肉塊へと代わっていくジード。だが、本来の正史とは異なる事がこの時起きていた。

 最後の最後顔が破裂する寸前、悔しそうにジードは断末魔と共に声を上げた。


 「……ぐぞぉ~おおおお! やはり……! あの時あの男に秘孔を突いてもらべぇげぇええええええええええ!!!!!」


 「なにっ!?」


 リンを抱かかえ振り向くケンシロウ。……時既に遅く、後ろにはジードの肉片だけが転がっているだけだった。


 (……秘孔……まさか……俺に七つの傷を付けた……?)


 吹きすさぶ風を受けながらバットと共に、『あの時』に居合わせたシンの元へ行こうと……ケンシロウは旅を続けるのであった。











   
 一方……その頃荒野を一台の駆けるバイクがあった。

 そのバイクに乗る男は悪魔を模ったかのような仮面を被り、見るからに痛そうなトゲの生やしたショルダー。そして深い青のレザー。
 腰にはショットガンを提げ、その危なげな雰囲気を携えた男は、前方に見える大軍へと向かっていた。


 ……見えるのは大量の人 人 馬 馬 武器 武器。それらが合わさった旧時代の軍隊が荒野に佇んでいた。
  その中で一際目立つ大きな軍馬。その軍馬の名前は黒王号と呼ばれていた。そしてその鞍に乗るのは、その纏う闘気が
 何十倍にもそれに乗る人物を巨大化する幻視を齎していた。
 男は冷たい目線で排煙を靡かせて着いた男を見下ろす。そして男も乗り物から降りつつ極悪な笑みをもって男を見上げた。








 「……来たな……ジャギ……」

 「……兄者ぁ……待っていた」





 そのお互いの雰囲気には友好的な気配は何一つなく。どちらとも一たび触れれば正に激闘を放つだろうと予測できた。
 視線にあるのは憎悪。まるで仇敵に会わさったかのように殺気混じりの視線がぶつかっている。

 二人の男の視線の内、一人は『とある理由』により、男をこの場で殲滅したいと志していた。だが、それを今せぬのは
 自分が『拳王』である誇りゆえ、それゆえに見下ろしている男を一振りで滅する事を、拳を握り収める事で封じていた。

 もう一人の視線の理由は、自身の愛する者との離別の原因、そして『この先』で自身の友を凶拳にて討つ存在ゆえに。
 男がソレを憎み、滅したいと理由は他にもあった。上げるならば切りがない程に理由はあった。だが、それは今話す事ではない。
 男は腰に提げた愛用の獲物で、憎悪と義憤の混じった気の銃弾を放とうとしないのは未だその時ではないと『自分』が言うゆえに。


 「……一度しか言わぬ」

 ラオウは自身の拳を掲げると、ジャギ目掛けてその声に闘気を漲らせ『命令』を発した。

 




                                  「……我が軍勢に入れ」







 それはこの地を統率出来ると本気で思っている覇者の言葉。そして本当にそれを出来る実力をあわさった『拳王』の言葉。
 普通ならばこの言葉に否と言わぬだろう。『正史』ならば何の戸惑いも無く男はその言葉に従い軍勢で暴れまわっただろう。




                                





                                   ……だが








                     ……ヒヒ        ……ヒヒヒ!      イーーーヒッヒヒヒヒ!!!!







 男は嘲笑(わら)った。さもありなん、本当に可笑しくて堪らないと、その男は拳王の軍勢全部に聞こえる声で嘲笑を上げた。
 笑い 哂い 嘲笑(わら)い 嘲り そして散々笑い声を木霊させた後に、ジャギはラオウへと問いかけた。

 「……兄者ぁ……兄者は何が望みだぁ……?」

 
 その問いにラオウは指で応える。頭上目掛けて高々と拳を上げつつ重い声で返答する。


 



                                 「……天!」

 




 「そいつはよぉ……、つまりこの空の星丸ごと手に入れるって言う事で構わねぇよなぁ……?」

 男の哂いつつの問いかけに、ラオウは気分を害した様子もなく『無論』と呟く。

 きっと、どちらも答えを予測していたのだろう。まるで打ち合わせの如く二人の会話には付け入れる隙すらなかった。

 男は言う。両手を広げつつ、裂ける様に笑みを浮かべラオウへと謳う。

 「兄者ぁ……俺様は天なんぞでかい物はなぁいらねぇんだよ……! ちっぽけで俺様は良い。……欲しい物なんぞ天の星で十分なんだ……!
 俺の欲しい星は一つだ……その星はよ、他の星に比べりゃ輝いてもいないかも知れねぇ、目立たないかもしれねぇ。
 しかも俺様以外は誰も見向きもしないような星かもしれない……俺はその星が微笑(わら)ってるだけで満足なんだよ……っ!
 ……兄者ぁ、そのたった一つの星の為に……俺は命を賭けるぜ」

 「……我が拳を受けようともか?」

 背筋を震え上がらせるような死の気配がラオウからにじみ出る。その気配すらもその男が昇らせる気配は反発するように撥ね付け言う。

 「俺様はジャギだぜ? ……天邪鬼なのさ兄者! だからてめぇが指図すればする程反発したくなるのよ……!
 兄者……あんたの命令だけは地獄に落ちようと聞かん……っ!」


 「……ならば貴様は今から敵……我が滅すべきな……!」


 膨れ上がる殺気、それをジャギは腰のショットガンに触れつつ嘯くようにラオウへ向けて言う。

 「兄者ぁ……一つだけ言って良いか? ……俺は昔からあんたは気に食わなかったぜ……!」

 その拳王に対して無遠慮であり、命知らずな発言に軍勢の何割かはざわめく。だがその言葉に拳王は喉から笑い声を出す。


 「クク……っ! 我も同じ……貴様は出会った当初から気に食わなかったわ!」



 拳王の体から凄まじい程の闘気が溢れる。その上へと掲げた右手に凄まじい程の闘気が収縮されるのが見てとれた。
 その顔に浮かぶのは夜叉の如き笑み。その笑みを浮かべながら北斗剛掌波を繰り出そうとしながら見上げるジャギへ叫ぶ。
 
「ジャギ!!っ!」







                            「きさまは北斗七星のわきに輝く蒼星をみたことがあるのか!?」








 その言葉にジャギは見えぬ顔ながらもはっきりと笑みだけは作り上げ叫んだ。




 「兄者ぁ!!!!」




                               「甘いわぁ!!!!」







 男は自分とその男の狭間に『ある物』を投げ飛ばした。

 一瞬その物体へと誰もが視線を注いだ。その刹那、その一瞬だけで男には十分だった。男はショットガンを素早く抜き、それを打ち抜いた。
 『閃光手榴弾』を打ち抜いたのだ。





                                  『かかったな!!』






  「……っ!? ……ぬかったわ……っ!!!」




 弾け飛ぶ光、一瞬視界が真っ白になる。

 暴れる黒王号を鎮めつつ、戻ってきた視界を見れば、既に彼方へと走り去るジャギの姿が目に入った。




 「拳王様! 追いかけますか!?」

 「捨て置け……! 奴とはいずれ決着を付ける。……もはや義弟ですらない。……奴め……しっかりと我に唾吐きおったわ」


 その顔に浮かぶは、ようやく宿敵として迎え討てる王者としての笑み。

 その笑みを向ける視線の男は、どよめきの声を上げる拳王軍を背に、流れる背中の汗の嫌な感触を風で振り払いつつ呟いた。


 「……ヒヒヒヒ!! これでもう後がなくなっちまった……だけど俺様は絶対に俺の望みを叶えるぜ? 兄者……」









                              今は悪魔が微笑む時代なんだ!!





  あとがき


 
 人類羅漢計画を完成するに当たって、絵師様の協力を願い出たい。




 ……画力ないもの。自分(´・ω・`)










[25323] 第七十一話『星よりも輝き抜いた貴方に捧ぐ(IF)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/06 21:50


   今回の作品はIFストーリ。『もし極悪の華ジャギが、アンナが死ぬ寸前の前に再開出来たら?』と言う話しです。



   今日は尊敬すべきジャギ声優:戸谷さんの命日と言う事でこの作品一話のみの投稿となります。ご容赦下さい。


    副題として『FAR AWAYを聞きながら』と付け足しておきます。ではどうぞ。
















   「……行って来るぜ、アンナ」



  目の前にあるのは小さな墓石。何の変哲も無い石だが、それに向かい合う男にとっては何よりの宝であり、何よりの存在だった者。


 男はその女性の事を素直に大切に思える存在であった。だからこそ瀕死の彼女を見つけ激昂し、彼女をその様にした存在を殲滅せんと思った。


 だが抱かかえる彼女は微笑んで自分へと言った。










                        『……ジャギ、……ジャギの事……私、愛していたんだ』










 ぼろぼろでほとんど肌着が見え、陵辱されながらも彼女の顔には笑みが張り付き、その瞳は穏やかだった。


 それはただ念願の想いが最後に叶ったから。だから彼女の言葉に男は彼女を抱きしめながら胸の中の尖った物が壊れてくのを感じた。


  『……ジャギ、……私……もう、あの星になるよ』


 彼女の言葉に必死で男は否定の言葉を張り叫ぶ、だけどその男を優しく諭すように自身の死を提示し、そして甘えるように言った。


  『……ねぇ……最後だから一杯……お話しよう。……言いたかった事全部』


 男は彼女の願いに全身全霊で応える。何分、何時間? 時間の経過など関係なしに男は今までの自分の事を泣きじゃくり話した。

 北斗神拳。自身の兄弟の不満。そして彼女への想い。限りある時間で全てを吐き出すように彼女へと喉から血が出るまで喋った。

 彼女も話す。自分の夢、彼女が彼に対する今まで会わなかった不満や、そして今までどれだけ自分が待っていたかを、そしてどれだけ自分が彼を
 愛してたかを語る。喉の渇きなどない。だって彼の涙が幾度どなく彼女の小さな唇へと注がれ、その度に心と体は癒される。



 ……彼女の体が冷たくなり、そして瞳から光が失いつつ時、彼女は小さく願いを言った。


                『……ジャギの夢の、星に……願ったけど……叶いそうに……ないね』

                『ずっと一緒に……って願ったけど……御免ね? ……けど約束して』

                『私がいなくっても……ジャギは……私が愛したジャギのままで……』









  

 男は約束を果たした。そして見るだけで憎悪を掻き立てる弟とは究極対峙し会おうとはせず、二番目の兄に自身の苦しみを告白し
 血の汗を流す修行をつけて貰い、そして一番目の兄とは決別した。








 それは彼女との約束を果たす為。それゆえに正史と同じく彼は胸に七つの傷も宿した。……それは自身が憎悪の対象へ成り代わる
 願望が捨て切れなかったからかもしれない。けど、その想いには彼女の愛が含まれていた事は確かだった。


 男は墓から去るとバイクへ飛び乗り決戦の場所へと駆ける。その男の背中には見る人には小さな女性の幻影を見た事だろう。

 男はバイクで荒野を駆け抜ける。

 目前に広がる光景に、幼き者達は恐怖を浮かべる光景が迫っている。




       それは死の軍隊。武器を携えてすべてを破壊し尽くさんと言う連合隊が荒野を進んでいるのが遠目からでもはっきりと見えた。




   だが、男は進んでいく。それは彼女との『約束』の為に。

 
       
                      胸に刻まれた北斗七星を掌で触れつつバイクのスピードを上げた。



  男がバイクから降りた目前には侵攻を開始しようとしている拳王軍が迫ってくる。それへと男は戦火を告げる銃声を轟かす。
その男へと気付き大柄な拳王軍の配下の一番下の雑兵達は自分達へと一人で立ち向かおうとするドン・キホーテへと嘲りを浮かべた。


 迫り来る雑兵達。それに向かい男はただ忽然と仁王立ちしたまま、それに嘲りの笑みを濃くしつつまさに武器を下ろさんとする。

 迫り来る雑兵達に、男の視線には恐怖も闘争の興奮も湧き上がってはいない。

                 ただやるべき義務を果たさんとその脚に力を込めた。

                 ただ目の前の敵を屠り去る為にはどのように倒せば良いかを機械的に思考していた。



                 そして目の前の悪鬼のように迫る雑兵達の顔を数秒で視認すると、それに相応しい拳を構えた。


  男は飛ぶ。その異常とも言える跳躍力に驚き見上げる拳王軍の雑兵達。それに向かい男は自分が独自で磨き上げた拳を放つ。
 その拳は邪拳。だが、男の師である二番目の兄によって限りなく昇華されたその拳は、見渡す限りの雑兵達を殲滅する威力を持つ。



   それは数年を経て暗殺拳を鍛えるべくして自身の寺院で祭られていた仏像の化身となるべく編み出した独自の拳


   だがそれは自身の父から言われれば技と言えぬ技だと一蹴され、自身は心に大きな大きな針を生やしていた。……子供の如く。


   
   それよりももっと大事な事があったはずだった。その技を編み出している暇があるならば、それよりも絶対に大切であった
 彼女へと構うべきだったと振り返りては後悔し、振り返りては己の愚かさを味わいてこの拳には怒りと憎悪が自らを蝕む。


    





                        けれどそれを彼女は望んでいるだろうか?  否だ


                        だからこそ今だけは何も考えず目の前の悪鬼を屠り去ろう。

       これは独り善がりの狼煙。彼女への鎮魂歌の幕上げの拳。


                             叶うならば彼女が千手観音に魂が救われると願い



  そして繰り出されるは千手観音の如き怒涛の突き、それが隙間無く雑兵達へと突きの波を浴びせる。
  何が起こったのかを知る前に雑兵達は数秒後に訳もわからず顔を歪ませ肉片を飛び散らせながら爆散した。そして後に残るは血の海。
 数秒にして数百人の雑兵達はその体から肉片と脳梁を飛び散らせながら飛んでいる男の視界全ての雑兵達が命を散らせたのだった。
 その血の海の中で男は地面へと着地すると、遠方でこちらを見据える軍の最頂点を見返した。その目線は壮絶な光を互いに帯びる。
 傲然と巨大な黒馬の玉座に腰掛けながら全てを支配しようとする王へと、血も宿命すらなきに等しい男は睨みつけていた。




 そして男は女性の最後の言葉をもう一度思い出す。その女性が耳元で囁いた言葉を。



                              『……変わらないで、優しくて強いジャギのままで』




  ……君のそう囁いた声は、世紀末の序章の阿鼻叫喚の悲鳴が遠方から聞こえる騒がしい世界を一瞬にして無音へと化した。


  君の声だけが自分の世界に存在せず。君の瞳に映える星だけが、自分の信じる星なのだと、その時真理は自分へと貫いた。



  
  ゆえにその日から自身は寺院を去る。そして北斗とは無縁の存在、然し北斗の拳を極めんとする矛盾なる者として生きゆ。


  そして目前に迫る、我が道の証明を彼女へと捧げんとする道に立ちはだかる敵だけを、今じっと自分は睨んでいるのだ。



 巨大な黒い馬に乗った拳王は、前方へとゆっくり足を踏みしめる。その眼光は鋭く男の姿を射抜き、殺気は膨れ上がっていた。
 その纏う気は地面の小石や塵を無重力のように浮かび上がらせる。それは嵐の前の静けさを拳王の気が表していた。





   何時の頃か、自分は北斗七星に対し願望は消え去った。残る感情は彼女に対する神に等しき信仰のみ、ゆえにその言葉は絶対。

 

   彼女の体は小さく、まるで赤子を抱くようにその骸は軽くて、それでいて壊れ物のように俺の腕で彼女は笑みを浮かべ眠る。永久に



   夜空に浮かび上がる星空に一つだけ流れ星が振る。それを見つつ自分は涙を流しながら夜空を睨みつける。殺意を宿しつつ

   
   そして君の額に口付けをしつつ、しっかりと抱かかえて君の温もりが消えてしまうのを必死で止めようと俺は強く抱き直す。



                        その回想を瞬き一つで止め、今の現実を見る。


 そして見下ろされた男は腰元へ提げた散弾銃を二丁掲げその男へと放つ。連続した銃弾の雨は確かに拳王へと浴びせられかけた。



                                  一発     二発    轟く銃声



                   銃弾        銃弾       銃弾     銃弾    銃弾の弾雨


 だが一瞬にして膨れ上がった拳王の闘気は、服についた水滴を振り払うかのように迫り来る銃弾のすべてを吹き飛ばしてしまった。
 

   それに一瞬戸惑いの気配を浮かべるヘルメットの男。それもそうだろう、殺せはせぬとも傷を少しは負わせれると思ってたのだ。
 



その一瞬の隙を突き、拳王は膨れ上がった闘気を右手に収縮させ、男へと全身全霊の闘気の波状を男へと直線状に放った。

 それを『羅漢の構え』で受けきろうとする男。だが、闘気が男の両手へ触れた瞬間の衝撃で、男の踏みしめた両足は地面を
 後退する跡を造り上げる。



           必死に波状を受けきっているが力量が最初から違いすぎるのだ。それでも闘気で死なぬのは男の執念。だが
後数秒も経てば男はその拳王の闘気の波状に耐え切れず吹き飛ばされるだろう。






      君の墓を埋めた場所から何時しか華が咲いていた。



      その華が君のように思えてまた涙を流す。だけど君の声は聞こえなくて、それが悲しくてまた涙を華へと落とす。



      二番目の兄に教わり本当の拳を血を流しつつ半ば身につけても君の喪失に自身の体は何かが欠けて君の墓石を抱く。



      そして下の救世主へと憎しみを向け、そして考え直すのだ。全て何も出来なかった自分が悪いのではないか、と。

   
      殺意と闘気。それらが練りあわされた発光の気体を受け止めつつ、その激痛を他人事のように感じつつ自分は自分を責める。  
 






  そして目論見通り男は吹き飛ばされる。掛けていたバイクの置いてあった建物の跡地にあった残りの壁すらも自分の体で
 破壊しながら吹き飛ばされる。
そして男の意識は刈り取らされる寸前まで陥る。それでも必死で体は、心は立ちあがろうと奮起している。

それは男が離別の前に交わした約束の為。父や兄弟等ではない。自分が唯一大切だと最後に理解した者の為に立とうとする。
 
  だが男の体は拳王の全身全霊の拳の闘気を直撃で浴びた事によって意識はもうろう。その男の視界はおぼつかなく、暗闇が覆わんとする。
 

  その時に男の脳裏に過ぎるはただ彼女の事ばかり、その言葉だけが彼の生きる全てであり、それだけが彼の心を進ませる。
  





                                『私の愛していた貴方のままで生きて』









    

                             君と一生分話せた等とは到底思えない。 


    例えこの体が老体を超えても、君の声は、響きは、そして温もりを離したい等と天地がひっくり返っても在り得ない。



                            愛している    愛している   絶対に失いたくない。



         そう仕切りに夢想の中で遠くへと行く君の振り返らぬ背中へと手を伸ばしたのは、星の数に等しいはず。


         ああ  君の声が聞きたい                  せめて      この意識が無くなる最後に

                               『立って     ジャギ』




 その時彼女の声が聞こえる。それと共に膝を崩し倒れそうな自分が昔の子供の頃の自分に戻る幻影が照らされた。
 
その子供の頃の自分に昔の彼女が微笑みかけながら手を伸ばす。たなびくバンダナを揺らしながら手を伸ばす彼女へと、涙を流し男は手を取る。
 

 胸の北斗七星の傷すら消え、昔の共に遊んでいたあの頃の状態へと戻る。その幻覚とも幻惑とも取れぬ姿で男は彼女に引かれ、立った。

   立ち上がると共に世界は光で溢れ彼女の幻影は消えると、自分が建物の残骸で立ちつくしているのを理解させる。
 

            ……いや、幻影ではない。その証拠に自分の脇には彼女の愛した花が咲いているのを確認したから。
 

そうだ、彼女は自分の側にいる。例え魂になろうとも。理解しヘルメットの男は静かに涙を流しながら誰もいない隣へと頷き立った。
 



 その心にあるのはもはや迷い無く、胸に宿している因果の傷も、こびりついていた彼女の死の思い出すら乗り越えた顔へ変貌していた。
   








  
                    アンナ                     君は俺に教えてくれた。

  
     その教えは北斗七星の傷すら癒し、俺の心に華を咲かせた


   ……それはこれからも枯れぬ華。例えどんな逆境でもその華が咲いている限り自分の足は前へと進めれると確信する。




              ゆえに男は立ちあがれる。ゆえに男はその拳に未だ力を込められる。


      救世主ではない       自分はそのような者になる位なら彼女と共にあの時間の中で一緒に旅立ちたかった

      聖者などなく    覇王などと滑稽な弱きこの心


     だが今なら知りえる。君の教えてくれたものが、この拳に宇宙よりも無限の力を与えてくれるのだ。


  そして目前へと何時しか馬から降り自分へと仁王立ちする拳王が見える。

  だが男は恐れることはない。その顔に好戦的とも、穏やかとも取れる笑みを浮かべながら『羅漢の構え』をゆっくり取った。

  拳王はゆっくりと自身の右拳を振りかぶる。それは一撃で男の体を塵と化せる威力を秘めた剛拳だ。だが、男に迷いはない。

  


                         その男の構える横には共に同じ構えをしつつ男を守る魂があるから。





 そしてヘルメットの男は激突する。その無数の突きを保持したまま拳王へと全ての終わりを込めて放つ。

 拳王の拳とその男の無数の突きが触れ合った瞬間に世界を包むほどの光が溢れんばかり生まれた。

        だが男の無数の突きを放つ横に、金髪を揺らした女性の笑顔が幻影かもしれぬがあった。












    あとがき



   稚拙な作品ですが、これを戸谷さんへと捧げます。

   本作品の方もしっかりと完成させるので、戸谷さん、見ててくださいね(`・ω・´)


   ps編集だけに留まりました。やっぱり残したかったの……(´;ω;`)





[25323] 第七十二話『まやかしの鐘が鳳凰の舞いを告げる(前編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/09 20:49


  「……今日よりも明日、それが生きるための秘訣なんじゃよ。……送ってくださってありがとうな」

  「爺さん、って言うか種を運ぶのにわざわざ歩いていく必要あったのかよ? 村にこんなに種があるのによぉ」

  「……いや、本当に面目ない。……まさかわしの居ない間に種を村に贈って下さるような人間が居るとは思わなくてな」

  村へとケンシロウ、バットによって送られたスミス爺。だが、折角命からから種を運んだのだが、村には既に作物の種を運ばれた
 と言われ、一瞬口から魂が抜け出るような感じを覚え、慌ててバットが倒れかけたスミス爺を必死で支えると言う出来事が先ほどあった。


  「……いや本当悪かったな、スミスの爺さん。金髪の今時珍しい旅の女性がよぉ、ちょっとの水と交換で渡してくれたんだよ。
 まるで生き仏ならぬ天使だったなぁ。……思い出してもあの娘の笑顔に癒されて泣きそうになるよ」

  「しかも、ここら辺の野盗も最近めっきり少なくなったしなぁ。……確か最近新しい統率者になった人が、ここら一帯を警護に
 回したりしているらしいけど。……そういやあの娘が帰った深夜に野獣共の悲鳴が上がってたけど、大丈夫だったかねぇ?」

 「……金髪の娘?」

 「知り合いかね?」

 「……いや」

 (ユリアではない。……だが金髪の女性……いや、そんなのは良く居る。……兄に何時も付き添っていた彼女ではないだろう)

 スミスの村で暫しの休憩に浸るケンシロウは、思考しつつもスミス爺達人間の、生きようとする懸命さを眺めていた。











                                









                             「汚物は消毒だぁ~~~~~~~~!!!!!!」



 「消毒されて堪るか! 糞ったれが!!?」


 場所は打って変わり、ジャギは今ピンチへと陥っていた。

 目の前には火炎放射器を構える、某有名な敵役の聖帝軍の配下だった消毒モヒカン。
 そのモヒカンの直線状に迫る炎を巧みに避けつつ、ジャギはどうしてこうなったかを回想した。

 





 ……数時間前。サウザーの元へと走っていたジャギが目撃したのは、聖帝軍の服装をした兵士が家屋を焼き払っている所。
 何故善政をしているであろうサウザーの軍がそんな暴挙を!? と内心混乱しつつもバイクで駆け下りモヒカンへと迫ったジャギ。

 家屋には家族が数人居たが、入り口で火炎放射器を構えるモヒカンの所為で動くにも動けずそのままあわや丸焦げになりかけていた。
 舌打ちをしつつ注意を引き付け対峙をする。奇襲すれば良かったと後悔する暇なく、モヒカンの火炎放射器から逃れていた。 

 「……っ熱!? くそったれ!! てめぇにはそれしかねぇのか!?」

 「しゃはハハハハ!! 汚物は消毒だぁ~~~~~!!!!!」

 聖帝軍(?)モヒカンは火炎放射器を振りかざし、良い笑顔でジャギを消毒しようと巧みに火炎を動かす。
 だがおめおめと消毒と言う名の焼死を受ける気はジャギにはさらさらない。ショットガンで攻撃しようにも、圧倒的に位置が悪かった。

 (風下だから火がもろに迫ってきて構える瞬間がねぇ! ……ガスが無くなるまで粘れば勝ちだが、あの野郎、俺を袋小路にしようと
 してやがる! このまま避けているだけだったら本当に消毒された汚物になって死亡だぞ!? 笑えなさ過ぎるだろ、おい!?)

 そう冷静に分析しつつ冷や汗をヘルメットの中で流し続けるジャギ。熱い空気。逃げ回る内に死角が消える状況。
 刻一刻と死の気配が昇りかけた時。……その声は轟いた。

 「しゃははははは!!! 汚物は消毒『ふむ、もっともだな』……あぁ?」






                              「我が地を穢す凶鳥……及び」



                                「汚物は消毒せねばならんな」










そう太陽を逆光に腕を構え見下ろす男。その男の声は馴染み深く、寛大と尊大と貫禄を併せ持つ声が、モヒカンの見上げる上空を舞った。
  その飛ぶ光景は正に鳳凰の如き舞い。そしてそれを見上げる二人の内、一人はその技に壮大さを、一人は恐怖を浮かべた。


 

                     
                




                そこまでだ!!           『南斗爆星波』!!


 


 「聖帝さう!? ぶはー!!? あつぅーーーーー!!?」

 その十字形の衝撃波は、モヒカンの火炎放射器へと見事に命中した。モヒカンの最後の言葉は、命を奪いし相手の名の途中と断末魔。
 火炎放射器のガスは引火しモヒカンと共に見事な爆発を描き、そして汚物消毒のモヒカンの命はここにて幕を閉じる事となった。

 爆炎を背に華麗に着地を終えたサウザー、そしてヘルメットの男の目前に立ちあがりつつ不遜な口調で言葉を口にし、男も言い返す。

 「……久しいな、ジャギ」

 「……サウザー」

 見据える二人、その瞳は一瞬強さを秘め、どちらも互いに一触即発てきな雰囲気が立ち昇っているように見える。


                                  ……だが……


 「……ふははははははは!! 元気だったか!? でかくなったなぁ!」

 「……へっ、相変わらず生意気そうでこっちも安心したよ」

 お互いに握り拳を軽く叩きつつ嬉しそうに再開の言葉を口にした。








  ……そしてサウザーとジャギは共に聖帝軍の根城へと戻る。その豪華な(『派手過ぎないか?』とジャギが問いかければ、
 『これ位が権力を示すには丁度良い』と返された)車へ付き添いつつ、そこに乗るのは先ほど通りかかったサウザーへと助けを求めて
 火炎放射器で危機に瀕していたタカの家族達。そして隣でかなり鍛えられた様子のシバが腰掛けているのが見て取れた。

 道中に話すのは今までの出来事。だがそれはシバを伝承者候補にしただの、リュウロウが智将としてだの、カレンが一個部隊の
 隊長だのの……正史では起こりえぬ事ばかり聞かされるので心臓に悪い。


 「……けど、てめぇがシバを鳳凰拳伝承者になぁ……。さっきから目ん玉飛び出るような出来事ばかり聞かされてるぜ、こちとら」

 「ふはははは! お前には何時も驚かされてたからな! これで相応のお返しとは言えぬぞ? もっともっと驚いて貰わなければな!」

 そう高らかにサウザーは笑う。話題に出たシバは照れつつも誇りをもった笑みを張り付かせサウザーを見てる。……尊敬されてるよ、おい。
 
 気を取り直しつつ、自分は先ほど気にかかった事をサウザーへ問いかけた。
 「……そういやさっきのモヒカン野郎は何で聖帝軍の服装をしてたんだ?」

 「大方拳王軍か、この俺の内政を快く思わぬ者が見聞を悪化させようとする作戦であろう。だが、この俺がこの地を羽ばたく限り
 そのような真似はさせん。俺は聖帝サウザー!」

 そう強く言い切るサウザーに、俺は何と言うか、畏敬とも、感心ともつかぬ感情が浮かびつつ、こう感想を口にした。

 「……立派になったなぁ。……お師さんも喜んでるぜ?」

 「当たり前だ。この俺を誰だと思っている」

 そう王者の笑みを浮かべるサウザーに、本当に歴史を変えて良かったと、ジャギはしみじみと思うのであった。








 



 「……あれ、もしかしてお前の師匠の墓か?」

 「ああ、そうだ。あれこそお師さんの墓……そして俺の墓でもある」

 そう指された建物。それは原作でも見られたピラミッド状の建物。だがジャギは少しばかり動揺を隠せず、こう素直に口にした。

 「……なん、つうか……小さいんだな」

 そう、小さいのだ、原作と比べると。

 およそ三階建ての建物程の大きさで、原作にあった本物のピラミッドの大きさに比べるとそれは小さく、そして頂点の部分は未完成だ。

 だが、それに対しフッと笑い、サウザーは穏やかに言い放った。

 「ジャギよ、これで良いのだ。これ以上の高さで墓を建てれば民に悪戯に労働を強いる事になる。……しかもこの墓を建てる人間は
 手が足りずに借りた囚人達を除けばお師さんに昔世話になった者達が積み上げた石垣。……その感謝の気持ちだけでお師さんも報われよう」

 「へぇ……。因みに最後の三角形の石碑は積み上げないのか?」

 「あれは俺の墓の部分だ」

 その言葉に一瞬胸が大きく揺れかけつつも、サウザーの言葉の続きを冷静に待つ事が出来た。自分で自分を褒めてやりたい。

 「……この鳳凰としての命が乱世に呑まれ力尽き大地へ降りた時、あの石碑と共に私はお師さんの元へ還る。……そんな顔をするなジャギ、
 これは私の決意だ。何があろうと、この凶鳥が舞う空を、雛鳥小鳥達が安心して空に舞える時代を作るのは『将星』としての
 義務なのだ。……例えその為にこの命が尽きても、俺はお師さんに誇りをもって天に還りて会える。……わかってくれ」

 「……わかりたくねぇよ。……嫁さんでも貰って自分の平和を作れや。……無闇に死ぬだの命を賭けるだの言うもんじゃねぇよ」

 その言葉に高らかにサウザーは笑う。何だよ? と睨むと涙目で笑みを浮かべて『いや……俺の予想通りの返事をするから可笑しくてな』
 と返されては……俺は何も返せなかった。

 そしてピラミッドへと車は到着する。……ここに何か用があるのか?

 その疑問を察し、サウザーはジャギへと問いかけた。

 「ジャギ、ここに来る間人影はあったか?」
 
 「……そういや見当たらねぇな。……何でだ?」

 「それを今披露してやる。……ふっ、驚けよ?」

 ……さっきから驚きっぱなしだっつうのと愚痴を漏らしつつ、サウザーは石垣のとある部分を押した。……カクンと何かが内部で作動してる?

 そしてピラミッドへと入り口が出来る。……こりゃあ確かオウガイの遺体を収納していた仕掛け? ……いや、階段がある。

 入れとサウザーに促され俺達はピラミッドの中へと降下していった。……少しばかり続いていく暗闇。……そして光が見えた。

 眩しさに一瞬目を細める。そして俺は次の光景に本当に開いた口が塞がらなくなりかけた。





                              やぁ!       やぁ!      やぁ!

                              やぁ!       やぁ!      やぁ!                                     


 そこには賢明に拳を突き出している子供達。それはだいだい十歳にも成らぬ者ばかりだ。それを指導しているのは……リゾか!?
 確かシュウと同門だった男で、原作では傷口の開いたシュウへ布を巻こうとしていた男だ。……どうなってんだ?? これは一体??



 「あ、サウザー様が帰って来た!!」

 「え! サウザー様が!?」

 『サウザー様! お帰りなさい!』

 「ふっははは! こら、そんなに詰め寄るな! 客人が通れぬであろう!」

 もはや何か何だか解らない俺。救助された家族は別の聖帝軍の兵士に連れられていく、そしてサウザーは悪戯が成功したと言う笑みで
 俺を見据えた。……くそっ! 何が如何してこうなったかきっちりと説明して貰おうじゃねぇかよ! おい!!

 「どうやら驚いたようだな? ここに居る子たちは皆南斗鳳凰拳を教わりたいとせがみ、そして教えを学んでいる子供達だ!」
 
 はぁ!!? と驚愕の声を上げるジャギ。いきなり現れた強盗まがいの男の突如の大声に怯える子供。それを撫でつつサウザーは喋る。

 「シバに教えている時に、この雛鳥達に強請られてなぁ。今やこの子供達全員が南斗鳳凰拳の基礎を学びつつあるのだ。……他の
 南斗聖拳を学ばぬのかと聞いたのだが、この俺の拳の舞う姿が一番格好良いと言われてわなぁ……これもまた星のお告げよ」

 「いや……って言うかお前」

 根本的に重要な事を言おうとする俺に、子供達から距離を置いた場所へとサウザーは移動させると、真面目な顔で言った。

 「ジャギ、お前には感謝しているのだ。……お師さんをあの時救ってくれなければ、俺は荒れ狂う鵺か鷲の如くなっていた筈。
 お師さんは俺へ言ったのだ。『自分の創り上げたい空を見据えよ』と。……シバは俺の肉体のように特異体質ではない。
 だが生まれつきの体が何だ!? 血縁が何だ!? 選ばれた者だけが掴む物を掴み取りその座へと腰掛けると言うのか?
 否!! 俺は違う!! 俺が『将星』となり得たのは、ただの運、それのみ!! この星の下に生まれたのなら、『将星』としての
 義務を生きる限り果たさなくてはならん! ジャギ、俺は俺の時代で唾棄すべきと言える習慣すべてを鳳凰の炎で葬り去る!
 全ての者が平等に力を身につけ、全ての者が平等に平和を享受すべき時代は今なのだ! そして空を自由に舞える事。それが俺の目的!」

 「サウザー……」

 「……俺の時代、俺の世代で一子相伝の南斗鳳凰拳伝承の儀式は廃止するつもりだ。……真の鳳凰拳は廃るかもしれぬ、だが迷いなし。
 古き習慣は燃え、新たな心技が鳳凰拳を生まれ変わらせる。まるで本当の鳳凰のようではないか? 俺は本当に満足なのだ。
 あの子達が新しい時代で鳳凰の子として羽ばたく、その光景は想像するだけで何と圧巻で、何と美しい! ジャギよ、想像して見てくれ!
 ……他の者は俺を愚者と罵るかもしれん。拳王はきっと理解せんだろう。……だが俺は俺の進む空を自由に羽ばたく、誰も止められはせん!」

 「サウザー!」

 俺はサウザーに対し、もはやその握り締める拳に掌で覆ってやるしか出来ない。

だが俺の覆う熱に、サウザーは俺の同意と賛辞を理解してくれた。……フッと笑みを覗かせ子供達の元へ戻る。……言葉の締めを言った。

 「……時勢は野獣の猛威を味方してる。……ここは鳥篭、一時のな。……だがすぐに猛禽の野鳥など鳳凰の爪を浴びせてくれる!
 ……待たせたなお前達! シバよ、共に修行の続きを開始するぞ!!」

 『はい、サウザー様!!』

 子供とシバの掛け声が響く。俺はそれを見送りつつ、本当にサウザーの未来を変えて良かったと、改めて感じた。

 ……サウザーの言伝のお陰が兵士達の態度は良好。……良好過ぎて不気味だと文句を言ったらサウザーは笑い飛ばすだろうな。
 
 どうやらシュウのレジスタンスのアジトと似たような物だと内部を見渡しつつ歩いていると、一人の女性と出会った。


                      ……ありゃあ             イザベラ……か?




 外伝では肉体の媚でサリムを殺害した女。……何故こんな所に?

 警戒心をむき出しにイザベラへ進むジャギ、その気配にジャギを見据え、堂々とした口調でイザベラはジャギへ尋ねた。

 「……どなたで?」

 「……サウザーの友人のジャギって名前だ。……お前は?」

 「私はシバ様の世話役……及び今はサウザー様の女中です」

 「……今、は?」

 その言葉に首を捻る俺。本当にサウザーが変わってしまった所為で出来事が把握出来てないので、このイザベラの真偽が付かない。
 俺の口調が疑心で満ちているのに察しているのだろう。イザベラは少しばかり向きになりつつも言った。

 「……誰かからお聞きになってるかも知れませんが、私は元々はユダ様の配下でした。ですが今ではサウザー様に仕えし者。
 例えこの命散ろうともサウザー様の為に死ねるなら本望と思っています。これだけ言ってもお疑いでしたら、証拠として……」

 残念ながら、その証拠を提示する事はその時叶わなかった。何故ならその瞬間に何処かしらから巨大な鐘の音が鳴り響いたのだ。









                         ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!









 「っ!!? 何だぁ、今の鐘の音は!?」

 俺の言葉に、少しだけ笑みを浮かべイザベラは口にする。

 「あぁ、先月程に警鐘として設置された大鐘の音です。正午を告げる為にも使われているのですよ。……けど可笑しいですわね?
 今は時刻もそんな時間では……!!??」









                            ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!











                     コロセ          コロセ     



                     コロセ          コロセ










 「……ガッ!!!??」

 頭の中に湧き上がる声。そして久し振りに脳を直接刺激する激痛。
 これは『俺』ではない。その激痛とは違うと『俺』が言っている。頭を抱えている目の前でイザベラの瞳は正気を失う。

 「……ユ……ダ……!? ……何故……サリ……嫌! ……殺されるわけ」

 

                                   シュッ


 「うぉっ!!? ……正気を失ってんのかっ……!」

 理解するや否や、ナイフで襲ってきたイザベラの背後を軽々と取る。暗殺と言っても常人と同じ程の身体能力のイザベラを
 不調とは言え後ろを取るのは容易い。易々と首筋を叩き気絶させた。










                       ゴーーーーーーーーー-ーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!









          ニクイ            ニクイ            ニクイ 


          ニクイ            ニクイ            ニクイ










 「……ぬっ……!? ……ぐぅ……ぬぅん……!!」

 脳へと進入する声を、頭の秘孔を抑える事で何とか正気を保つ。

 ……ふざけるなよこの音!!?? どんだけ威力あるんだ、おい!!?


 足取りも重く何とか平衡感覚を維持し歩き先ほどの子供達の修行の場へ戻る。……そこにあったのは予想通りの光景。


 「……酷ぇ……いや……未だマシか」


 意識を失い青白い顔で倒れ伏す子供達。だが、幸いにも気絶だけで済んでいる様で命に別状はない事だけが幸いだ。
 ……シバも気を失っているが、青白さはなく目蓋が震えているのを見ると多少は他の子供達よりは鐘のダメージは少なそうだ。
そして体から血を流し倒れているリゾ……叩き起こす。……こいつなら何か知ってるかもしれん。すると青白くも意識をしっかりし、半ば混乱しつつも口を開いた。

 「……サウザー様! サウザー様は何処だ!?」

 「落ち着けおい! ……何が起こった?」

 その言葉に冷静になると、腹部を押さえつつ苦しそうに言葉を出した。

 「……鐘の、音が聞こえた瞬間意識が途切れて……夢を見てた、拳王軍と闘う夢だ。……そして体を裂かれたと思ったら
 意識が昏倒して……サウザー様に、私は襲いかかったのだ。……助け、ないと」
 
 「俺が行く、……ここの子供達の介抱を頼むぞ」



 そして俺はピラミッドの階段を駆け上がった。……大鐘の鳴っているのはピラミッドの隣、そこにある。……何で俺とした事があんなでかい
 不自然な物に気付かなかったんだ!? 大馬鹿野郎が!!

 そして出口へたどり着き外を見渡し……俺は今度こそ言葉を失った。








                           そこに佇んでいたのは動く屍の群れ




                           そしてそれに鳳凰の構えを取るサウザー








[25323] 第七十三話『まやかしの鐘は鳳凰の舞いを告げる(中編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/08 08:52




                                 『南斗爆星波』!!




                                 『南斗爆星波』!!



                                 『極星十字衝破風』!!








 動き回る死者の群れ、それに向かい大空を舞いながら屍を葬るのは南斗鳳凰拳現伝承者、南斗聖拳最強と言われる拳が空を舞う。

 それに対峙するは屍の群れ。生前は、その空を舞う『将星』に仕える者として、そして鳳凰の翼に守られる民であった。

 それに向かい聖帝サウザーは心を殺し屍の群れを薙ぎ払う。情け容赦なしと言われても構わない、だがこの後ろに守るべき者あり!!



                                  『南斗剽斬功』!!



 着地と共に繰り出される衝撃波が、屍の軍隊を退ける。だが圧倒的量の進攻は、着実にサウザーに悪意を触れんとしていた。









                                『北斗蛇欺弾』!!!







触れる一歩手前で散弾雨がサウザーを守るかのように周囲の屍の脳天へ命中。そしてサウザーは振り返ると叫んだ。

 「っ! 来たかジャギっ!!」

 「応っ!! 目指すは鐘の破壊だ! サウザー!」

 「承知! 一月程前に大事の上と言われ建てられたがきな臭かった! しかしこのような屍を操るとは……はぁっ!!」

 飛びつつ屍を刻むサウザーへと、一方向へ散弾銃を飛ばしつつ、片手で屍の首を殴りながらジャギは大声で言った。

 「多分これやってんのはザリアって奴の筈だ!! 妖術使いで鐘の音で生きてる奴操ったり死者を、うおっ!? ……ご覧の有様だ!!」

 「ならば鐘さへ破壊すれば全て落着なのだろう! ふんっ! この聖帝サウザーの舞う地でこのような所業……ただでは済ませぬ!」

 怒気を含ませつつ腕を凪ぎ屍の一団をまた吹き飛ばすサウザー。その光景はほとんど英雄そのものであった。

 「……俺が鐘破壊出来たら良いんだが……この距離じゃきつい! サウザー、お前……行けるか!?」

 「当たり前だジャギ! この俺を誰だと思っている!」

 そして両手を広げ構えを取るサウザー。……っ! あの構えは!!








                                 『鳳凰呼闘塊天』!!









                              「わが拳にあるのはただ制圧前進のみ!!」







 後は前進するだけで良かった。闘気の鎧で翔けるサウザーの前進に屍達は触れる間もなく消し飛んでいく。

 屍の海をもう一歩で抜ける所まで来て勝利を確信した。……だが!!









                             極十字聖拳『死鳥血条斬』









 「っ!? ……むっ……っ!?」


 目前に立ちはたがった屍の影は、『何故か南斗星拳を扱い』サウザーの前進を退けさせた。……鳳凰の闘気が消し飛ぶ。

 そして……屍の軍団はまるで意思あるかのように、『その屍』に道を開け……その正体を聖帝サウザーへと突きつけた。

 それを見た瞬間体は硬直し、そして体中の汗腺から汗が吹き出るのを確認した。そしてサウザーは震える声で言った。

「……お」







                                「お師……さん……」



                              







 ……嘘だろぉ!!? ……糞……ったれがぁ! あの野郎、先代のオウガイの遺骸を操った……だとぉ!!?


 思わずショットガンで殴打するのすら止めて、その光景に硬直してしまうジャギ。その油断を突いて屍達は迫り狂う。
 それに我に帰ってジャギは薙ぎ払うのに一層腐心するが、サウザーの安否は高まるばかりだ。

 (不味い! 非常に不味い!! サウザーじゃあ……サウザーじゃあオウガイに拳を向けれる筈がねぇだろうが!!!)



  「サウザーーーーーーーーーーーーーあああああああああああああ!!!!」


 屍の群れで隠れるサウザーへとジャギは絶叫する。その絶叫に、命の喪失への恐怖を含ませて。










 「……お師さん……おぉ……お師さん……っ!!」

 震える手で微笑みを浮かべているオウガイへと手を伸ばすサウザー。
 それは遺骸だと心の片隅が悲鳴を上げつつ叫んでても、体は、そして心はオウガイを求め、そして歩み寄っていた。
  
                  一歩         二歩            三歩             

                          ……四歩        五歩







                              極十字聖拳『瞑空爪舞』








                                「ぐわぁあああ!!??」






 
 体から上がる血飛沫。死体ゆえに威力は低くも、それは先代鳳凰拳伝承者の体、そしてサウザーの受けた傷は体より心に響く。

 「な、何故……お師さん……何故?」

 『……サウ……ザー……』

 「!!っそうだお師さん! 俺だ! ……サウザーだ!! お師さん!」

 『サウ……クク……ザー』

 ……涙が零れる。……お師さんに混じり邪悪な笑みがお師さんの口から流れているのは理解している。だが、お師さんを傷つける?
 一度ならず二度もお師さんにこの俺の拳を……? この俺の拳を向けようとすれば、確実に俺の心は鵺へと堕ちてしまう……。

 
 「……お、お師さん……昔のように……もう一度ぬくもりを……」

 歩み寄るサウザー、それへとオウガイの遺骸は両手を広げる。受け入れてくれる様子に涙を零し微笑むサウザー、しかし遺骸を
 操る者がそのような意思を宿しているはずがない。もう一度近づいた瞬間に心の臓に極十字聖拳で止めを差すつもりだ。


 『……サウザー』

 「お師……さ」


                             一歩         二歩                
                             

                                三歩         四歩           ……五


  その時、幾数もの声が響いた。









                           南斗翡翠拳奥義『南斗雷脚斬風陣』!!!
               



                             南斗流鴎拳『嘴翔斬』!!!!


                             



                               南斗白鷺拳『烈脚空舞』!!!   



                    
       


                             南斗鳳凰拳『極星十字拳』!!!









 ……屍の群れを撃破する数人の人影、それにサウザーは後一歩でオウガイに触れる瞬間に意識がそちらへ向けられ、オウガイの
 極十字聖拳を無意識に拳法家の性として避ける事が出来た。……声が響きわたる。それは自分を支えてくれる者達の声。






 「サウザー様!! ご無事ですか!!? 兵の皆も何とか正気に戻りました!! 直にこちらへ援軍が来ます!!」

 カレンの声、南斗翡翠拳の足技を駆使し迫り来る屍へ猛威を振るう。それには兄のマサヤの姿もあった。屍は見事蹴散らされる。
 兵としてこの国を守り、追いつきたい人へと会いたいが為に彼女は拳を振るう。忠誠など聖帝の振る舞いを最初に目撃し既に誓った身。
その声には迷いなく、自分の義務をしっかり重んじてた。


 




 「将!! このような屍に油を売るのは私どもに任せて、早く仕事を終わらして貰えませんかね!!」

 智将リュウロウ。空中を飛び交いつつ屍へと南斗流鴎拳の自在の斬撃や突きを振るう。皮肉を混じりつつも、自身を率いる帝の背中
 を押さんが為に彼の言葉は力強い。それは影ながらこの国を支える将として、そして守りたいと思わせてくれた将の為に。

      






 「サウザー!! 迷いを捨てろ! それは全て屍! 過去だ!! お前は俺に何と言った!? 古き物を捨てろと言ったではないか!
 お前の心は既に『将星』として輝いている!! その輝きを曇らすのではない! 思い出すのだ自分の言葉を!!」

 南斗白鷺拳、盲目の闘将シュウはサウザーへと魂から叫ぶ。自身の瞳を封じたのは彼であった。だが彼でなければもっと酷い罰すら
 受けてたかもしれない。そして息子の運命も……。だからその恩に『仁星』は輝き拳を振るう。その声もサウザーの耳へ迫る。









 「サウザー師!! 僕も闘います!! 師父様が教えてくれた技、今こそ恩に報いる為に振るいます! ですから負けないで下さい!」

 「サウザー様!! そうです、負けないで!! イザベラも……イザベラも貴方の為に闘います!!」

 そして屍へと未熟ながらも若き鳳凰の拳を浴びせるシバ。そして身の丈に合わぬ銃を必死で屍に向けて最も信ずる者に言葉を
 振るう二人。





       


   その言葉に鳳凰が羽ばたけないはずがない。否、鳳凰の魂が、心がこの言葉に翼に力が入らぬはずがないのだ!!!












 『サウ……ザー』

 





                               極十字聖拳『舞裂爪破弾』






                                 ……スッ……









 サウザーに殺意を込められた爪が振るわれる。だがまるで嵐を軽々と飛ぶカモメの如くその爪を避けるサウザー。
 それに悪意を宿し……いや、ザリアはオウガイを操りつつ疑問の言葉をサウザーへと投げかける。

 『……サウ…………ザー?』

 「……この体に流れるは南斗の……民の血……っ!」







 そしてサウザーは叫んだ。魂からの慟哭を。








                        「天に輝く天帝は南十字星 この聖帝サウザーの将星なのだーーーーーっ!!」







     






      あとがき



極十字聖拳は南斗聖拳と正確には違う拳法だと思っていますが、先代のオウガイだったら扱えていた……と、この作品では思ってください。



  ……まぁキムの拳法とかオリジナル展開になるからごみ投げつけられても仕方が無い












[25323] 第七十四話『まやかしの鐘は鳳凰の舞いを告げる(後編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/07 18:23




 「……お師さん……! あれを見よ……っ!」

 
 オウガイの遺骸と対峙しながら、人差し指を聖帝十字陵へ向けてサウザーは口を開く。


 「この十字陵は偉大なる師オウガイへの最後の心!! そして このおれの愛と情の墓でもあるのだ!! ……お師さん……
 ゆえに貴方はあるべき場所に戻って頂く……!」


 『……サウザー……サウ……ザー……』

 そのオウガイの遺骸はよろよろと体を揺らしながら次の極十字聖拳を振るわんと動く、ゆえにサウザーは決意する。
 



                                 「はぁあああ!!!」



 一つの屍へと両手で掴み逆立ちすると空中へと舞うサウザー。

 それは知る物には知るサウザーの拳。それを屍の群れから何とか脱出し汚れまみれのジャギが目撃し呟いた。

 「……ありゃぁ……鳳凰の舞、奥義だ……」






  (お師さん……貴方は我が師……ゆえに貴方の死を穢したものには死を! ……だがその前に……ここで南斗鳳凰拳伝承の
 儀式を果たそう……これはあの時の続きだ……お師さん……!!)

 そして空中で両手を広げ構えるサウザー。迷い無くその鳳凰の構えを繰り出す背には極星が一段と輝きを放ちながらサウザーを照らす。


  「……行くぞ! お師さん!!!」


 『……サウザー(な、何だ遺骸が思い通りに動かない……馬鹿なぁ!?)』

 悪意を振りまくザリアの操り人形は停止したまま。それはそうであろう。何故ならそれは『オウガイ』ゆえに……サウザーの心を
 最も汲んでいた人物が……今この時に一瞬で良いから悪意に反抗出来ないはずがなかった。たとえ骸であろうとも。








                            南斗鳳凰拳奥義『天翔十字鳳』!!!









  「……お師さん……! 今こそ……貴方の聖帝十字陵は完成する……!」


 倒れ伏すオウガイの遺骸。それに涙を流しながら感無量の声をサウザーは紡いだ。


 そして鐘へと近づくジャギとサウザー、そして死屍累々をすべて再起不能へと陥らせた南斗の拳士達が続く。


 「……むっ!? そこまでだ!!」

 鐘の下まで近づいた瞬間に何かにサウザーの闘気の混じった手刀が弾かれた。それと同時に小さく鐘の音が後に響く。

 「今のは?」

 「恐らく鐘の音で真空刃を作ったと言う所だろうか。やれやれ、この後に及んで切り札があるらしいなぁ」

 「そういえばシュウ師匠は何故暗示にかからず?」

 「私は盲目ゆえに音に対する攻撃には慣れているからな。……お前達を正気に返すには骨が折れたぞ」

 「うっ……すいません」

 ジャギの後ろでカレンとシュウのやり取りを耳にしながら、大鐘に見える人影を発見する。そしてショットガンを放ち大声で言った。

 「おらっ出て来い! てめぇはもう袋の鼠だぁ!!」


 ……その声に数秒経ってから人影が現れた。……呪術師と言ういかにもな格好をした男、それは反動からか何やら知らぬが
 苦しそうに口元に血を吐きながらも、拳士達を不気味な笑みで見渡していた。

 その笑みにゾッとする一同。だが、サウザーはその笑みを受け止めつつ怒気を含み言い放つ。

 「フ……ついにでてきたが、ドブネズミの親玉が!! この聖帝サウザーに逆らったものは降伏すら許さん! おれはアリの反逆も許さぬ!
 ましてやお師さんを穢す真似をした貴様に……っ!!」

 喋ると共に抑えていた感情が露呈したのだろう、険しい顔つきと口調になるサウザー、肩を抱くイザベラがいなければザリアへ
 突進していた事であろう。……そして。



 「……ヒヒ……!! 南斗……か……! 貴様等の力量ははっきりと知ったわ! 貴様達は拳王によって塵と化すであろう!」

 「何ぃ……!!?」

 憤怒を上げるサウザーに鐘に寄りかかりながらザリアはサウザーを指し叫ぶ。

 「予言が告げておるわ!! 白き邪神と天を目指すがゆえに狂う王によって世界は破滅への序章の鐘を鳴らす!!
 ……ヒヒ!!  お前の愛する者も守るべき者も何もかも無駄に帰す! すべて……すべてなぁ……!!!」

 狂気を秘めた目でザリアはサウザーへ血を吐きつつ叫ぶ、それに静かな殺意を秘めつつ、『槍を』とサウザーは口にした。

 「お前達にはもはや安息の時なき!! 鐘は鳴ったのだ破滅の鐘が!! ヒヒヒヒヒ!! 核落ちて安息の世界は終わりを告げた!
 もはやこの世界は地獄へ進むだけ! ……冥土の土産に貴様を切刻んでなぁ!!!!!!」


 隙をつき、その大鐘を飛びつつ隠し持ってた短剣を振りかざし飛ぶザリア、だがそれはサウザーの瞳には予想済みであった。


  






                                 「とどめだ!!」









  「もー、ぎゃーーー!!?」と断末魔を最後に、腹部を槍で貫かれ南斗暗鐘拳の使い手ザリアの生は幕を閉じた。


                           ……不吉な言葉を最後に南斗の星へ告げて……











 「……おい、そこの包帯を取ってくれ鉄仮面」

 「誰が鉄仮面だ、カレン。ジャギって名前があるんだ、俺には」

 「鉄仮面は鉄仮面で十分だ。……何で仮面を取らないんだ?」

 「……トレードマークなんだよ」

 現在、ザリアの鐘で正気を失い同士討ちなどで重傷を負った兵士達へ治療中の南斗拳士達及びジャギ。巡るましい急がしさだ。
 今回の一件で間者の露呈もあってか南斗の結束は更に固くなり、そして聖帝サウザーの威厳も高まったのは大きな功績だろう。
 そして治療行為へ参戦しているジャギは、そのギャップが受けたのか南斗の兵士達と奇妙な友情が出来上がっていた。

 まあ、その功績の張本人は聖帝の槍を受けると言う褒美を受けてあの世へと旅立ったが……同情する気はない。


 「……しかしあのような呪術があるとは……いやはや世界とは広い物です」

 「……リュウロウはどうやってアレを逃れたんだ? 俺様は頭を必死で抑えてたが……」

 「水を浸した布を耳に詰めたのですよ。鐘の音がどうも可笑しいと気付いた時に手元に汗を拭いたハンカチがあって助かりました」

 「……流石智将」

 てきぱきと他の兵士へと包帯を巻くリュウロウ。色々と世間話を南斗の拳士達としながら気になる話題がこいつから昇った。

 「そういえば、この前やっと向日葵の種が確保出来たのですよ。汚染された土地を浄化し作物を植えるのには一番ですからね。
 本当、礼をする暇もなく出て行ってしまわれたのが悔やまれます」

 「……それ、もしかしてバンダナ巻いた女だったか?」

 「……お知りあいで?」

 その言葉に、まあな、と相槌を打ちつつ針治療をしながらアンナの姿を頭の中に映す……良かった……元気でやってんのか。

 「……さて、と。そろそろ俺は行くぜ」

 「もう行かれるのですか? せめて一日滞在すれば……この国の危機を救ってくださったんですよ、鉄仮面さんは」

 「礼なんぞ俺には似合わねぇ……それと次に鉄仮面って言ったら吹っ飛ばすぞカレン」

 兵士達の横になっている部屋を抜けて、通路へ出るとそこには必死で包帯を巻いてる涙目のイザベラが見えた、……サウザーに。

 「おいおいイザベラ、見た目より大した傷ではないのだ。包帯も貴重品なのだから俺にわざわざ……」

 「馬鹿を言わないで下さい! 貴方の身に何があったら……! ……サウザー様はこの国を守る聖帝。……ですがこんなにも。
 ……力のない自分がこんなにも恨めしく思った事がありません! 私にもっと力さえあれば……貴方を守れるほどの力が」

 「イザベラ」

 泣きそうなイザベラに、頭を撫でつつサウザーは穏やかに微笑んで言う。

 「……この傷はお前を守る為に受けたと思えば……痛みはない」

 「……っ! サウザー……様」

 その様子に、一回強く咳きをしつつジャギは現れる。慌てて赤面しつつイザベラは離れ、サウザーは堂々とジャギへ向き直る。

 「む? どうしたジャギ?」

 「俺はそろそろ行くわ、サザンクロスへ。……ユダと拳王軍に関して任せる事になるけど……済まねぇなぁ」

 「構わん。むしろ今回でまた借りがお前に出来た。……いずれ借りは必ず返す」

 「期待せずに待ってる」

 そう手を振って、俺は外へ出る通路へと歩く。……本当、期待なんてしてないぜ? サウザー……その前に終わらしてみせるからよ。

 そう思考するジャギに、小走りに駆けつける足音がした。……イザベラだ。

 「……あ、あのっ!」

 「……如何した?」

 「いえ……今回は、有難うございました。……それとご無礼をお許し下さい」

 「無礼? ……あぁ操られてたから仕方がねぇだろ。……あ、一つだけ良いか? お前がサウザーに仕えてる証拠って……」

 「ああ……それはこれです」

 そう言ってドレスを上半身まで脱ぎ出すイザベラ。驚き慌てて目を背けようとしたが、イザベラは全部は脱がず腕を突き出した。

 ……そこにはユダの刻印のUDを覆うように……ゼラニウムのタトゥーが咲いてる。……アンナが確か花言葉に詳しかったから
 この花の花言葉を覚えてる。……!!……そっか……そう言う事な。

 「私は既にユダの物ではありません、私は」

 「いや……その花の意味知ってるから大体理解したわ。……あいつをしっかり支えてくれな?」

 その言葉に一瞬だけ呆然としてから、とても良い笑顔でイザベラは「はい!」と返事をした。そしてイザベラの惚気話に何分か
 付き合う事になったが、……それはまあご愛嬌で済む事だ。



   ……そして小走りにまた走ってくる音。

 「……おいっジャギ!? イザベラに何を!? ……お前もお前だ! ジャギだからと言って肌着をそんなに晒すではない!!」

話しこんで時間が長引いてるのを心配して駆けつけてたサウザーの最初の言葉。それに思わずイザベラとジャギは見合わし、笑い声を上げた。

 「むっ? な、何故笑う? ……おいジャギ! イザベラ! 何でそんな一層と笑って……! こら! 笑うなあああ!!」






 聖帝十字陵の下で笑い声は響いていた。そして知りえない事だが、極星の南斗十字星はサウザーを暖かく微笑むように、その日
 輝いていたとここに記す。











    あとがき



  『鳳凰、鳳凰言ってるけど、原作のサウザーってそんな事一言も言ってないじゃん(笑)』by某友人






   ……良いんだよ、俺の作品なんだから!(`;ω;´)








[25323] 第七十五話『二つの北斗七星は不運に巡り合う』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/08 12:59



 ……賑わう露店、そして活気付く人々。そこはサザンクロスの街中で人々が今日も生きる事を味わいつつの日常の風景。

 「ひぇ~! すげぇ賑わっているなケン! ここにお前の恋人の知り合いがいるんだろう?」

 「あぁ……そして俺に七つの傷をつけた人物でもある。……だがあの時のあいつの目は正気を失っていた。……詳しい話を聞ける
 かはわからんが……」

 そう話しながらサザンクロスの中心にある城へと進んでいくケンシロウとバット。バットは腕を頭に乗せつつふと、こう口にした。

 「なぁ、KINGってどう言う人物なんだよ?」

 そのバットの言葉に暫し思考してから、固い表情で返事を返した。

 「……昔から生真面目な性格で、南斗の正式な伝承者になるべく修行していた男だ。……だが俺の兄に共に無理やり一緒に……
 いや、強引に仲良くされて、次第に親友になった……と言う所か」

 「……要するに兄貴がお前の友達の切欠作ったって言う所か?」

 「そうだな。……何時も修行だけの日々だったこの俺に、普通の遊びや色々な楽しみを教えてくれたのは主にその兄だった。
 ……あの兄がいなければ今の俺はいない。……だからこそユリアを取り戻し兄に心配させないようにしなければ……な」

 その兄貴ってどんな奴なんだ? とバットが尋ねようとした時、バットは強制的に柔らかい何かに後ろへ飛ばされ言葉を失った。
 鼻を押さえつつ見上げると、そこにはハートの形の刻印を顔に張っている大柄な男が困った様子で見下ろしているのが見えた。

 「あっ、あぶねぇなぁ! ちゃんと前向いて歩けよ!」

 「おやおや、すいません! 怪我はありませんでしたか? 坊ちゃん?」

 「坊……っ!? 俺にはバットって言う名前があるんだよ!」
 
 「それはそれは……私はハートと申します、バット坊っちゃん」

 「……だから坊っちゃんは止めろってんだ」

 尻の埃りをはたきながら文句を口にするバットに、大柄な体を倒れるような姿勢で謝るハート。それに危険性はないと判断
 したのがケンシロウはKINGの居る場所へ向かおうと歩みを再開する。慌てた様子でケンシロウを呼び止めるバット。それを
 ハートは呼び止めた。

 「……ケン? ……もしやKINGが話していたケンシロウ様で?」

 「……俺の事を知っているのか?」

 「えぇ、KINGが『妙に最近ケンの事か気にかかる』とお悩みの様子で呟いていましたので……、北斗神拳を扱うらしいですね?」

 「……あぁ」

 無表情で言葉を返すケンシロウの態度に意を介さず、持ち上げられ慌てた声のバットを肩へ担ぐとケンシロウに朗らかに言った。

 「良ければKINGの居る場所へ案内しましょう! 最近軍の反乱などあって面会には時間がかかりますからねぇ!」

 「……反乱?」

 「ええ! ですけどKINGとジャギ様達のお陰ですぐ鎮圧されましたよ! 私もすこぶる調子が良くて」

 (……! ……ジャギ……兄さん)

 その常に気にかかっていた人物の名前が、見ず知らずの人間からこうも簡単に出た事に内心心が揺さぶれつつも、ケンシロウは
 黙ってハートへと付き添うのであった。……もっとも子供じゃないから下ろせ! と文句を口にするバットのBGMつきだったが。







 

 ……そして大した問題はなくKING……シンの元へと辿り着くケンシロウ。窓から街を眺めていたシンは、振り返ると言った。

 「……来たか」

 「……シン」

 どちらの雰囲気も少しばかり重苦しく、それを眺めるハートとバットは少しだけ喉を鳴らした。……だがすぐそれは崩れ去る。
 
 「良かった……! 最近お前から連絡が途絶えていたからサキと一緒に心配していたんだ。……ユリアは一緒じゃないのか?」

 そう、笑顔と一抹の疑問を口にして歩み寄るシンに、腹の底から安堵を混じらせた溜息をケンシロウは吐いた。……予想が当たったからだ。

 「やはり……お前は覚えてないのだな」

 「……? 何の事だ、ケンシロウ?」

 「聞いてくれ、シン。ユリアは俺の前で攫われた。……その時に七つの傷をつけた男がお前を率いて俺にも七つの傷をつけた。
 ……驚くのは無理もない、だがこの胸の傷が証拠でありお前はあの時正気を失っていた。……協力してくれるか? シン」

 ケンシロウの説明に驚愕しつつも、次第に冷静になり記憶の底を探りつつ頷いてシンは返事を返した。

 「勿論だ。……前にどうも記憶がすっぽり抜け落ちているような気がしていたがそれが原因だったとは……この俺が……!」

 歯噛みするのは南斗聖拳伝承者が簡単に操られた等と言う不甲斐なさと、大切な親友の心に大きな傷をつける原因を与えたから。
 それに『強敵』である人物にその犯人が模倣していたのもシンにとっては屈辱であった。……憤怒が体を駆け巡るがどうしようもない。
 
 「いや、お前はただ利用されていただけだろう。……これから経星(封じられた記憶を取り戻す)を突く……良いか?」

 ケンシロウの問いに、シンは恐怖や怯えの色は無く静かに受け入れた様子で言葉を開いた。
 「やってくれ、ケンシロウ。……何があの時あったのか俺も知りたい」

 そして周囲が静けさに包まれる中で、ケンシロウの指がシンの後頭部を突き、一瞬震えてからシンの頭には記憶が流れ込んできた。






そしてシンは見た。まるで映画を見るように『その時に似た場面』を自分がヘルメットを被った男に奇襲されてる光景を……。
 (……ヘルメットを被った男……北斗七星の傷……!? 背後から秘孔を俺は突かれたのか……意識を失い場面が変わり……俺は……ユリアを)









 荒い呼吸で膝をつくシン。それに何が起こったかを問うケンシロウ。

 「……っやはり俺は操られていたらしい。……不意打ち気味に行動不能になる秘孔を突かれた後に……その男の操り人形に良いように
 利用されたらしいな。……くそっ! 顔は不明だ。……七つの傷……それしか目立つ特徴はないな。……ジャギではない」

 「あぁ……多分俺か北斗宗家に何かしらの恨みを抱く人物がジャギ兄さんの服装を模しただけだと思う。……ユリアは無事だろうか?」

 「それは大丈夫だと思いたい。……奴はお前を苦しめるのが目的だ。ユリアを殺す真似はしない……と思いたいな」

 そう二人は前向きに推測を出す。最悪な予想をするよりは、例え甘くともその想像の方が精神的にはマシだから。
 そこへ歩み寄る足音が聞こえた。……質素ながらも上品なドレスを纏っているサキ。……二人のやり取りに心配そうにシンへと尋ねる。

 「……ユリア様を助ける事に、シン、協力してくれるわね」
元はユリアの侍女であったサキ……シンの伴侶になっても尊敬の気持ちは薄れる事はない。

 「勿論だ。……友人である事や大切なお前が仕えてた人である事も含めて、ケンシロウ、何がわかったらすぐ教えてくれ」

 「……済まん。……なら、俺はすぐ旅へ戻ろう」

 「……えぇ!? ちょっ、ちょい待てよケン! こんな治安の良い場所滅多にないんだぜ? もうちょいのんびりしても……」

 「駄目だ。……奴を見つけ出しユリアを取り戻す。……俺には今それしかない」

 そう城から出ようとするケンシロウに、シンは慌てて声をかけた。

 「ケンシロウ。……俺にはあの男が何故ジャギの格好をしていたのかも疑問だ。……そちらの行方も出来れば」

 「わかっている。……どちらも俺には大事だ」

 そして慌てて付いて行くケンシロウとバットを見送りながら、シンは先ほどの影響で残る頭痛を手で押さえつつ考えが過ぎった。

 (……先ほどの映像……まだ何かあったような気がする。……違和感? そうだ何かが可笑しいのだ。……一体何が?)

 シン……と、その時サキの心配気な声が上がる。それに大丈夫だと返事を返すと、続けてハートが言った。

 「宜しかったので? ……最近付近の町で行方不明者が出ている事を知らせなくて……。もしかしたら何か関連が……」

 「時期的に見て関係はないとは思うがな、ケンシロウに無意味に不安を煽るべきでは無いだろう。……それに何か起きた時の為に
 民の避難経路も作らなくてはいけない。正直、今はケンシロウに協力出来る人手がないからな」

 ジョーカーの反乱から月日は経っていたが、不穏な噂や他の出来事も統率者としてしっかり対処しなくてはいけないシンの立場
 から無理な動きは出来ない。歯痒くもシンはケンシロウの無事を祈る事しが出来なく、そして最後にこう願った。

 (……無事を祈るケンシロウ。……そしてジャギ、お前も今何処にいるのだ? ……こんなに自分が無力と思えるとはな)












  
  『ジャギヘ

  マミヤの村にアイリを住ませる事にしたよ。その方が原作も考えると会える確立が高いでしょ?私ってば頭良い!
 ジャギが『前』に死んだ場所を拠点としつつ、今は各地を旅しつつモヒカン達はぶっ飛ばしてるから心配しないで?
 日本刀って刃毀れとか心配だったけど、これって何か何時までも切れ味抜群だからちょっと不気味。……私何かに憑かれてんの?
 スミスの村って所に作物の種あげたよ。それと付近にいたモヒカンは弓矢で仕留めといたから。暗視ゴーグルをサザンクロスで
 猫糞……借りといて良かったよ、本当に。
 それと聖帝軍の居る場所も見て回ったよ。サウザーには会えなかったけどボサボサの髪の毛の農作業してる人が向日葵の種
 必要みたいだったから最後の種全部上げたよ。これでほとんど常備していた種はすっからかんになったかな?
 ジャギから教えて貰ったから火薬の扱い方とか結構上手くなったよ。自作で花火も作れるようになったから。全部終わったら花火
 打ち上げようね。ジャギ。
                       アンナより』


 「……色々と省略しすぎだろ? ……おい」
 
 「この手紙置いた後すぐに出て行っちゃったわ、……喧嘩でもしてるの貴方達?」
 
 「……それだったら簡単で良いよ。」

 ジェニファーに重く重く返事を返してから。『こっちは拳王に喧嘩売った。色々不味そうだったらすぐ逃げろ』と大まかな手紙を書く。

 「じゃあ毎度の事だけど済まねぇな。郵便屋もどきやらせて」

 「構わないわ。……アンナの様子、何だかとっても疲れていたって感じよ? ……会ってあげてね?」

 「……あぁ」

 声を返し、バイクへ乗り込むとサザンクロスを後にする。……シンとサキには会えない。……色々と聞かれ手を出されると……厄介だ。

 サザンクロスを抜けて、今度はユダの元にでも向かうか? と考えていると、屈強そうな男が三人程と鉢合わせする感じで出会う。
 あやうく轢きそうになり、口汚く文句を罵ると、その男達は弓矢を構えつつ言った。

 「お前、その風貌……目つき! ゴッドランドの兵士か!?」

 「あぁん!? ……ゴッドランド……そうか!」

 その男達を眺め瞬時に原作と照らし合わせ察する。こいつらゴッドランドに妻と娘奪われた男達だ!
 そう理解し否定の意を唱えようとするが、その前に声を上げたのが不味すぎた。

 「やはりか……! リマを……リマを返して貰うぞ!」
 「ああ、私の妻のケイもだ!!」

 ビュン! ビュン! と風を切りジャギめがけて弓矢は飛ぶ……が。

                                  パシッ

 「……俺は本当……顔だけで敵役と判断されるんだな。……いや、むしろこのヘルメット被ってたら一生か、おい?」

 呆れつつ弓矢を掌で難なく受け止めつつ一人ごちるジャギ。近距離では弓矢のスピードは速くとも、これ位の飛び道具を
 受け止められなければ北斗神拳伝承者候補なんぞやってられないのだ。

 「なっ……!? 受け止め」
 「くっ……! だが絶対に俺達はあきら」

 「話を聞けよてめぇらは」

 その言葉と同時にジャギは一瞬で詰め寄ると当身を食らわし気絶させる。
倒れた男達を眺めつつこれからの展開を頭の中で展開させ……重い溜息を吐いた。

 「……やってられねぇよ。……いや、これが一番の方法だとわかってても……よ」










 (partリン)

 小さく身を縮こまらせている私の前には鉄格子が取り仕切られている。
 私を助けてくれたケン。……会いたくて会いたくて私は村を抜けて暴力がひしめく荒野へ飛び出した。

 そして自業自得だけど、この軍服に身を包まれた兵士達にゴッドランドへと連れて行かれる。

 ゴッドランド(GOLAN)……鉄格子の中で女の人が囁くような話し声でその正体を伝えてる。優秀な兵士を創り上げる為に
 非情な事を何でもやっている所だと……。

 膝小僧に顔を伏せつつ涙が零れかける。……こんな時、もしもケンが来てくれたら、と思う。でも、今回のは私の不注意。
 ケンの後を追ってしまった私の責任。ケンが来るはずが……。

 その時大きな振動が私の顔を半ば強制的に起き上がらせた。……胸に七つの傷をつけている人間が、ゴッドランドに通ずる道を
 立ちはだがっている。……あれは! ……あれは!!
 一目見れば印象に残るその胸の北斗七星の紋章。それに笑顔で私は呼びかけようとした。……したのだ。






                             




                          「……お前ら、俺の名前を言って見ろ……」









 その顔のまま固まり……そして私の顔は不安と混乱を混ぜ合わせた顔へ戻りこう思考した。


                              (……ケン……じゃない?)










 「何だ貴様は? 我々の道を塞ぐのが如何言う意味がわかってるのか?」

 必死で先回りしたのだろう。荒く息を吐いて呼吸を落ち着かせようとしているヘルメットの男。そして大分楽になると
 うんざりした声で、軍服を纏った男へと言い放った。

 「ゴッドランド(GOLAN)の兵士だろ? ……特殊な戦闘訓練を養い殺人マシーンを創り上げる部隊。そして後ろにいる
 女達は人間兵器を作るための子種として使うって言う寸法だ。……正直、結構理に叶っているとは思うけどな。『少佐』?」

 「……むっ?」

 眉を上げて俺を警戒する少佐。……後ろに控える兵士達も、何故自分を率いている人間の事を詳しく知ってるのか動揺する。

 そに下品な笑い声を覗かせ……ヘルメットの男は腕を組んで言った。

 「だがよ、神なんぞに成り代わろうってのはな、誇大妄想で片腹痛いね。どんな者すら神なんぞに成り代われねぇ、そんな者
 は存在しちゃならねぇ、悪魔だって神なんぞに憧れようとは思わんね」

 「貴様……GOLANの民を侮辱する気か」

 懐に手を伸ばしつつ少佐は怒り混じりに声を上げる。……だがジャギは臆しはしない。神の兵士など名乗る人間には。

 「侮辱? 真実を言ってるんだよ、俺は」

 「……わかった、もう良い……やれ」

 手を上げた瞬間に、兵士達はナイフを構えるとジャギ目掛けて飛ばした。飛ばされたナイフはジャギの体を貫かんと迫る。
 しかし恐怖はジャギにはない。呼吸を一つ、そして構えを繰り出すとナイフ目掛けて一声と共に気合いを放った。






                        『羅漢の構え』     『二指真空把』








                       「ぬっ!?」   「ぐっ!?」   「うぉ?!」






 迫るナイフは運動エネルギーを無視し、反転すると飛ばした兵士達の額へと突き刺さり、そして地面へと倒れた。

 それに少佐は瞳孔を一瞬開いてから、体を構えるとヘルメットの男へ口を開いた。もはや目の前の人物がただの男ではないと
 理解している。一瞬でも動けば懐の暗器を振るおうと腕に力を込めていた。

 「……貴様、名は?」

 「……これから死ぬ貴様に言う必要はあるまい」

 「そうか……では参る!」


 風を切り跳ぶ少佐、そして振りぬかれる腕……キラッと輝く糸を視認するとジャギは横へと跳ぶ……地面が僅かに削れた跡が出来る。

 「ほうっ……良く避けたな?」

 「ピアノ線なんぞ手の動きをよく見れば避けれる。……それで終いか?」

 「ふん……貴様に接近戦を挑むのは危険そうなのでな……そこで!」

 腰に提げた鞭を地面に一回叩きつけつつ、少佐は笑みを浮かべつつ舌なめずりして言う。

 「……これで貴様を痛めつけつつ殺そう。……覚悟は良いかな?」

 その言葉に無言で『羅漢の構え』を繰り出す。舌打ちをして鞭を振るう少佐、一回、二回……振るわれた鞭は巧みにジャギを
 打ち付けようとする。……だが不思議にもジャギの回す手の軌道が風車のように回転すると、迫り狂う鞭を横へ反らしていた。

 ……螺旋、回転、それらの蛇の如く、独楽の如く回される掌の異様な動きは少佐の鞭をまるで寄せ付けず虚しく空を切る。

 「くっ……!? ……何故!?」

 「……誘幻掌を真似て練習してたが……まあシュウには程遠いが……使えなくはねぇな」

 南斗白鷺拳の奥義『誘幻掌』……相手に掌をゆっくり動かしつつ敵の背後へと廻る奥義。……それを模した技は未完成
 ながらも少佐の猛攻にまったく疲弊させる事なく防ぐ事は可能にしていた。

 (……ある意味直線的な鞭を螺旋で防ぐ……か。……ちっ、もう少し何かを会得出来れば模倣出来そうなんだがなぁ……)

 
 やがて呼吸が荒く動きも徐々に乱れていく鞭、そしてシュッと鞭はジャギから離れた。

 「もう終わりか?」

  ジャギの小馬鹿にした声が少佐へ響く。その声が体に染みながら、振り絞るように少佐は言った。……恐怖と苦悩を滲ませて。







                          「……この薬は……出来れば使いたくなかった」







  「あん?」


  「……未だ未完成だが……背に腹は変えられん……! ……GOLANに栄光あれ!!」


 その言葉を叫び首筋へと『何か』の液体が注射される。……瞳が緑色に変色していく……!?

 


                             グウウウウウウゥゥルウウウウウ……!!ッ!!



  「イク……ゾ」

  「……嘘だろ、おい」

 目の前にいるのは既に人間の顔と形容出来ない物に変貌していた。

 顔の肌は鱗状へ変化し、爪は鋭く尖る。そしてその瞳は変色し、鼻からは緑色の液体を垂れ流していた。

  



                              キシャアアアアアアアアァァァァ!!!!



 鋭く尖った爪が迫る。思わず身の危険で後退するが、その瞬間地面が爪の跡で裂かれていた。

 「南斗聖拳だとぉおお!?」

 「ナン、ト……!? 違ウ……コレハ神ノ血ノ祝福……!!」

 奇声を発しながら振るわれる爪、当たる事はないがこのままだと不味い。隙を見て腹部を殴りつけ秘孔を突く……が!



 鋭い爪が瞬時に自身の顔を襲おうとした。幸運にもヘルメットのお陰で軽く痕だけが仮面に残っただけで済むが……効いてない!?

 

                             「ククク……痛ミハ……ナイ!」


  (馬鹿げてるだろ!? 肌が変化してる所為か? 秘孔突こうにも上手く出来ないって在り得ねぇだろ!)

 重い一撃一発で沈める自身はある。だが今まで起こりえないイレギュラーを見せ付けられ、ジャギは思うように行動する事が
 精神的に制限された。これは何時もならば機転を利かし逆転の発想で倒してきたジャギには致命的な事だった。

 だが、忘れないで欲しい。北斗神拳を扱う者とは、どんな出来事でも対処し得る力があると言う事を。……そしてそれは起こった。


 「……! ……良いぜ、ならとっておきの技を俺も見せてやるよ」

 その言葉と共に殺気と闘気を膨らませるジャギ。その気配に本能的な物が敏感になっていた少佐は後退し様子を見る。
 『羅漢の構え』を再度繰り出し大げさに両手を広げるジャギ。それに何時でもその変化した爪とピアノ線を携えつつ少佐は思考する。
 

                               はぁあああぁあぁああああ……!!



  (オチツケ……コノ体ハ凄マジキ能力ヲヒメテル……ナラバドンナ技デアロウト避ケタ瞬間二一撃ヲ)



                                ……トン


 「……ア?」

 「……化け物でも頭を切られたら生きられないだろう」


 その言葉は背後から聞こえた。その声は静かで殺気もない、だが本能的に自分は死ぬと予感した。……その予感は正しかった。

 「……ア……手ガ勝手二……二ビィイイ……!!!?」

 そして『自ら首をピアノ線で両断する』と、怪物に半ば変貌した少佐の命は事切れた。……その体が倒れたと共に、二人の男は
 対峙する事となった。……その瞬間重苦しい空気が周囲の空間全てを覆う。



……ジャギの作戦はこうだ。背後から歩いてきたケンシロウを発見すると、殺気と大げさな動作で少佐を引き付け、その間に
 ケンシロウが倒す作戦。……はっきり言って自分もろともケンシロウが攻撃してくる可能性もあったが、その時はその時で
 対処しようと思っていたが……成功してくれたようだ。




 「……ようやく……貴様に会えた……」


 「……中々遅い到着だな? ……救世主様よ?」




 それはケンシロウ。リンを助けるべく駆けつけた世紀末救世主。そして胸に七つの傷を付けた弟が自分の元へと出現していた。




  ……一陣の冷たい風が、二人が出会った瞬間に流れていった。









     あとがき


  



       


                   ネ……ネタを



[25323] 第七十六話『二つの北斗七星と神を望む兵士』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/08 19:20


 「……答えろ……ユリアは何処だ?」

 
 「……俺様を倒せば解るかもしれねぇな?」


 俺の声を聞いて一瞬体が震えるケンシロウ。そしてぽつりと小さく声を上げる。

 「……ジャギ……兄さんの声?」

 そう……確かにこの声は『ジャギ』の声であろう。……だがケンシロウへと俺は何もわざわざ計算なしに出会おうとした訳ではない。
 ゆっくりとヘルメットを脱ぎ、驚きの表情を浮かべるケンシロウへと言い放った。
 「ほう?……俺様の声はそんなに、そのジャギって奴と似ているのか?」

 「……ジャギ……兄さんじゃない。……では貴様は誰だ? 何故ジャギ兄さんと同じ服装をしている?」

 俺の顔にケンシロウは幾分か安心を滲ませつつも警戒した声で俺へ問いかける。……まさか顔の変わった利点がこんな所で
 生まれるとは思わなかった……。最も、それを利用して俺はこうやってケンシロウに駆け引きしてるんだけどな。……命懸けで。

 「この服か? 俺様がどんな服装しようか勝手だろうが……あぁ、ヘルメットに関しては荒野に落ちてた奴を拾ったんだよ。
 誰が落としたかは知らねえが、それはお前にとって大切な奴ならざまあねぇな? ……死体はなかったぜ、残念ながら」

 俺の言葉に殺気を膨らませつつも動かない。……まぁ、これ位で動かれたらこっちも困る。いきなり攻撃されるのも覚悟していたが
 これはケンシロウを褒めても良いだろう。……良く出来た弟~ってな。

 心の中でふざけつつも、ジャギは名乗る。
 「俺様の名は……そうだな、お前の兄にそんなに似てるってんならジャギで良いんじゃねぇか?」

 「お前……ふざけるな」

 「ふざけてねぇよ。……お前を苦しめる事が目的だ、ふざけてねぇさ」

 ゆったりと拳を構える俺。それと同時にケンシロウも拳を構える。……その時声は上がった。……待望の声だ。

 「ケン待って! ……その人、私達を助けてくれたわ……」

 「……何?」

 小走りに寄ってきたリンの声に、ケンシロウは構えを崩す。それに伴い俺も構えを解く……心中冷や汗ものだが上手くいってる。

 「……まぁ目障りだからそこに転がってる奴ら殺したけどな。……お前が邪魔しなければ最後の奴も殺せたのによぉ」

 「貴様に殺されてはユリアの居所が聞けないのでな。……何故貴様のような悪党がリンを助けた?」

 「ハッ! 俺様以外の人間が好きに暴れまわっているのが気に食わないだけよ! だから好きに俺は俺以外の人間が暴れていれば
潰す! 別に俺はお前以外に憎い奴はいねぇんだよ。他はどうなっても構わねぇんだ」

 そう演説する俺に、ケンシロウは難しい顔をする。ヒヒヒヒ! と笑いつつ悪鬼の笑みで俺はショットガンで先ほどケンシロウが
 秘孔で首を自ら切断させた少佐の死体を指した。
 
「……このGOLANって奴はどうもきな臭くてな。……だから壊滅させようと思ってる所だ。……何なら手伝ってくれたらユリアの
 居所を話しても良いぜ? ……嘘は言わねぇ、俺は嘘がでぇっ嫌ぇだからな」

 その言葉に食いつくかどうかで次の行動が決まる。心臓の音が激しく揺れる。……そしてケンシロウの口が開かれた。

 「……良いだろう。……貴様を倒したいがリンを助けた借りもある」

 「……ヒヒヒヒヒヒ!! 流石は救世主様だ。話しが早くて助かる……行くぜ」

 そしてGOLANに到達する道筋へ歩こうとするジャギ。……その時に救援にかけつけた男達が走り寄って来た。リマ! ケイ! と
 攫われた子供と妻などの大事な者達を抱きしめる男達。……その一人がジャギを怯えを交えつつ言った。
 「……お、お前がGOLANの兵士をやったのか?」

 「……知らないね……やったのはそこの救世主様だよ。七つの傷を付けたな」

 そう面倒くさそうにジャギは言い放つ。その男の捕えられない態度にケンシロウは既視感を覚えた、……良く知っている感覚を。
 「……何? お前……」

 口を開こうとするケンシロウに、男達が感謝を述べる事で機は失われた。……ジャギと名乗ったその男の思考をケンシロウは
 読み取れず、心中複雑ながらもその背中を追うのだった。










 


……ゴッドランド、優秀な人間殺人兵器を創り上げる為に建てられた一室に、二人の男が話していた。……ジョーカーと大佐(カーネル)だ。

 「……素晴らしいな、この薬は。……これさえ投与を続けていればおれは神に等しい力を手に入れられる」

 「だが、生成に当たって優秀な遺伝子がもっと必要だ。……その為には人体兵器の改良がもっと必要だ。……もっとな。
 薬は一ヶ月保つかどうかだろう。余り無駄使いはしたくないのだが……万が一もある。生成には今の物資では時間がかかるのだよ」

 「我々の殺人兵器と貴様の人体兵器さえあれば問題あるまい。……ようやくおれの夢は叶えられる。……ようやくだ」

 「……ザリアは良い仕事をしてくれた。呪術など最初は信用に足りるか心配だったか『聖帝の血液』を届けてくれたし、な……。
 南斗聖拳伝承者は優秀な血液を秘めた存在だと確信した。……後は改良のみだ」

 「お前には感謝してるよジョーカー。……だが貴様は良いのか? この薬品は完成品なのだろう?」

 「私は今のところは実戦を経験しようとは思わない。……念を押すが私は技師の方が向いてるのだよカーネル。軍人としては
 失格さ。身体能力には長けていると自負しているが、君ほどに強くは無い」

 「いや、研究者とは我々には欠かせぬ存在だよ。……あのクサッタブタの馬鹿な振る舞いさへ無ければお前も優秀な研究者として
 名を馳せただろうに。……惜しい事だ」

 「君ほどの有能な人間が生き残っただけ御の字だろう。……幸運を祈ってるよ、私は本部へ戻る。君の進化を目の当たりに
 出来ず残念だが……くれぐれも無理はしないでくれよ? 君は優秀な人材なのだから」

 そう言って去るジョーカーをカーネルはじっと静かに見送っていた。そして翳すのは紅く紅く光る液体の注射器。ニヤリと微笑む。

 「くくっ……これが『108』……『南斗108派の血液を凝縮』したと言われる薬品か。……早く試したいものだ……すぐに。
 ……いや、駄目だ駄目だ。……例え鍛えぬいた俺の肉体でも暴走する危険性があるとジョーカーは言ったではないか?
……じっくりと今の体を慣らすのだ。今のままでも俺はどんな者よりも強い」

 そう笑うカーネルへ近づく一人の兵士。どうしたのか問いかければ、焦った声の内容を理解すると笑みを深くして言い放つ。

 「……丁度良いモルモットがやって来たようだな。……この『GL』によって生まれ変わった新しい肉体を……試す時が来たようだ……!」











 





 「……マッドサージねぇ……確かに、この今のお前の体はマッドだろうなぁ?」
 
 「グギギギ!? き……貴様……!?」 

 戦闘訓練をしていた兵士達全員をケンシロウとジャギでのした後に現れた原作の敵。そのマッドサージのニードルナイフを
 十八番の『二指真空把』で返しつつマッドサージの体から生えた管から血液が流れ出すのを眺めつつジャギは億劫そうに感想を口にした。

 「……フン! ……なら……ば……この薬品を使うしかあるま」

 「わざわざ使わせるか馬鹿」
 
 震える腕で薬品を取り出すマッドサージ。それをジャギは無常にもショットガンを取り出しマッドサージへと構える。

 「!? ちょ、待て、やめ」

 「じゃ、あ、な」

 「はぁひゃ~~~~!! たわば!!?」

 北斗邪技弾による、調節した小さな気の銃弾はマッドサージの額へ穴を作った。……わざわざ変異するのを二度も傍観してる
 馬鹿なんぞいねぇよ。と心中呟きつつショットガンを提げ直すと、『かーぺーきーぬー!!』と言う断末魔が横から上がった。
 ケンシロウがバッカムを倒した音だ。『交首破頭拳』で爆死させたようだが、頭部だけは頑丈に苦悶の表情で残っていた。
 ……そいつも顔が変質化している、……獣人のような姿なのだが、余り人間の時と変わらないようにジャギには思えた。

 「……今度は狼男見たいな面になってんな。……お前わざわざ変身するの見届けたのか?」

 「……力は増したが、……その分動きが荒い。……力の制御が出来ないのだろう」

 「……こんな訳のわからない薬の大本も、確認させて貰おうじゃねぇか、お前も賛成か?」

 「……俺はユリアを救うのが目的だ。……が、お前の言うとおり確かにこいつらの所業には許せない部分が多い。……裏は深いだろうな」

 「らしいな……お次がここのラスボスだろうぜ。 ……言っておくがお前を殺すのは俺だ。……やられるなよ」

 「それはこちらも同じだ。……開けるぞ」


 一つの扉。そこから殺気が溢れ出ているのを二人は確認する。








……ここまで戦ってケンシロウにはこの男の真意がわからずにいた。ユリアを攫った憎い怨敵。……その筈なのに自分の心に憎悪が沸かない。
 ……北斗神拳を扱い、そして兄の声に良く似ているが顔はまったく違う男。……そして善人なのか悪人なのか理解出来ぬ行動。
 ……この男の振る舞い一つ一つが演技に見えてしまうのは俺の勘違いだろうか? この男を倒したら取り返しのつかない事が……。
……いや、今は目前の闘いに集中しよう。……そうすれば解る事だ。







 ……その一方でジャギも危惧していた予感が当たった事に憂いていた。
……やはり『ケンシロウは弱くなってる』。ここで闘う様子を見て観察してやはりそれが真実だと確信へ変わっていた。
 当たり前と言えば当たり前だ。ケンシロウは『強敵』との闘いを経て『非情』さを身につけるはずだったのに、俺が歴史を変えた
 事もあいまって秘孔一発でおしゃかになるようなモヒカンしか相手にしてないのだ。……これでは強くなれる筈もない。
 ……思えば自分が未来を変えた所為でこの世界の関係図も大幅に変わってしまったからである事は知っている。
 けれど後悔はしない。そのお陰で幸福になれた人間がいる事は知っている。そして事が全て済めばアンナと一緒になれるのだ。
 その時はもう既に近くなっている。だからこそジャギの意思は悪魔を喰らいて悪魔と化そうと意思は固い。
 ……不穏な気配は見えざる手のように二人の体を撫でようとする。だがお互いに死線を何度も潜り抜けた人物である。









  「……来たか、……モルモット諸君。おれがここを指揮する……カーネルだ」










   
    あとがき



   ジョーカーとカーネルは部署は違いますが同じ国の兵だったと思ってる。



 ……てか二人とも日本の兵士に見えないんだよね。実際





[25323] 第七十七話『神の兵士との激闘。危うし!? 共闘の北斗七星』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/09 09:26



   GOLANの拠点中心部の扉を開けるは死神と悪魔。


 死神の名はケンシロウ。北斗宗家の血を正しく引き先代の伝承者の面影を残し正史の未来では数々の強敵との闘いを経て
 救世主の名を轟かした。だが、今は悪魔と成るべく男の手によって強敵との闘いもなく、ただ愛する者を取り戻すべく闘うだけの男。

 悪魔の名はジャギ。北斗の血、星の宿命も非ず正史では自身の不運と絶望を救世主へと全て向け散っていった荒野の一輪の華。
 だが、正史すらも捻じ曲げ今度こそ二輪の華で幸福を目指す事を北斗七星を刻み決意し強敵すら敵に回しつつ運命と闘う男。

 どちらも背負う者は命に等しく大事であり。どちらも自分が傷つく事は厭わない。
 だが、皮肉にもその道はどちらも相反する行動を取らなくてはいけない道である事は神の皮肉だとしか思えないと言える。

 その二人を眺めるのは正史では、死神を名乗る救世主により北斗壊骨拳を受け散った野獣よりは名があった敵の一人。
 だが今そこで二人と対峙する、その敵の微笑みには余裕を保ちながら二人へと拍手をしつつ口を開いた。

 「見事! 北斗神拳の美技、楽しませて貰った!」

 「……何でお前が北斗神拳を知っている?」

 「おれの友人が拳法に詳しくてね。……聞けば希有な暗殺拳らしいな?」

 「……成る程? だいだいお前とつるんでる奴の正体が掴めた気がしたぜ。それでその大事な友人を呼んでおくべきだったな?
 ……北斗神拳を扱う二人を相手に勝てると思うなよ?」

 ケンシロウの問いに答えるカーネルに、ジャギは自身と対峙した敵の中で非情に仲間のバルコムを切り捨てた男の姿を脳裏に
 過ぎらせつつカーネルへと挑戦的に言い放つ。

 ……だが冷酷な笑みを貼り付けるカーネルはジャギの言葉を聞くと静かに笑いを喉から鳴らし……そして。






                     クククッ ハハハハ   ハーーーーハッハッハハハハハハハハ!!!!





 「……何が可笑しい?」

 「ククク……!? 何が可笑しい……だと!? ……やれぇ!!」

 


                                   ガシャン!!


 重い音と共に開けた扉に鉄格子が降りる。そしてそれと同時にカーネルからブーメランが飛ばされるか牽制にすらならず
 ケンシロウとジャギに叩き落された。……最もカーネルは元から期待もしていなかったようなので、戦闘の幕開けのつもりなのだろう。

 「……鉄格子の扉、閉じ込めたつもりか?」

 「何考えてんだ、おい? 袋の鼠にするなら自分が逃げなくちゃ駄目だろ?」

 「くくくく、ククククク……!!」

 カーネルは本当に可笑しくて堪らないとばかりに喉から笑みを浮かべる。……それにジャギはここに来てようやく不安に
 なり始めた。……確かに正史でも自分の南斗無音拳が最強と謳っていたが、この自分の勝利を確信してる笑みを昇らしている
 のは不自然すぎる。……また薬品の力でも試す気か?


 「……さて、お手並み拝見といこう」

 「……む!」

 「ちぃ!」

 カーネルが跳ぶ。跳躍は直進的で早く、ケンシロウとジャギの立つ間を迫っていた。けれどどちらも不意打ちだが攻撃して来たら
 避けれるとその時は確信していた。距離は目に見えて近くなる。……そしてその時異変が起こった。




                                   ブシュッ!!?!!



 「ぐっ!?」

 「何ぃい!?」

 突如『二人の間でカーネルの姿は消え』二人の体には獣の爪で裂かれたような跡が血飛沫を上げて出現した。

 「南斗聖拳か!」

 「いや……! ……南斗聖拳の衝撃波にしちゃあ『溜め』も『気』も無かったぞ!? ……何処だ!?」

 立ち並んでいる悪趣味な鬼のオブジェと暗闇の所為で死角に隠れてるのは火を見るより明らかだが気配が忽然と消えてしまった。
 
 意識を集中する二人。どちらもお互いに注意を払っている所為が、動きはぎこちない。ケンシロウも、ジャギも、どちらも
 相手が敵だと、敵だと思われていると言う意識が、何時もの自由に震える力を制限しているのだから。



                                  ……上だ

 そう何処からか囁かれ反射的に上に意識を集中する。然し後方と横からの見えぬ斬撃が二人の腕やわき腹の部分を再度襲った。


  「む!? がはっ……!?」

  「……くそっ、たれが……!」

 呻きつつ体勢を整える。そしてジャギは切れ気味に言った。

 「……ならこいつを受けてみろ!!」

 散弾銃を引き抜くと、我武者羅にオブジェへと連発して破壊していくジャギ、耳を塞ぎたくなる破裂音が室内へと轟いていく。 
 死角を存在させるオブジェへと弾丸で削る。崩れ倒れる数個のオブジェ……舞い上がる粉塵に襲撃を予測し身構えるが襲ってこない。

 「……ちっ……殺気を完全に殺してやがる。……どんな手品だ?」

 「喋っていると襲ってくださいと言ってる様な物だ。……黙っていろ」

 「あぁん!? こちとら喋ってる方が頭の巡りが良く……な!?」

 ジャギの行動を軽率な行動だと暗に皮肉を交えて諭すケンシロウ。それに思わずジャギは戦闘での興奮状態も合わさり切れる。
 ケンシロウへと怒声を放とうとした時に、急激に体の力が無くなり膝が崩れそうになる。その時に粉塵に混じり異臭へと気付く。
  
 (……やべぇ!? ……痺れガスか!?)

 視界を良好にする為と、落下物に反応して叩き出す作戦が裏目に出ちまったと内心自分へ毒づきも、体の呼吸を安定しようとする。
 酸素は体にまだ残っている。呼吸を止めつつ必死に蔓延する痺れガスへの対処を図る。……ケンシロウも視界の中で動いてない。

 (……待て、よ? ……そうだ、冷静になれ、こう言う時こそ。こう言う時の為にあの技を練習してたじゃねぇか……)






 






 (……クク、……馬鹿な男だ、態々状況をこちらに有利にしてくれるとは)

 舞い上がった粉塵と共に用意していた麻痺ガスを流すカーネル。……その口元には何時の間にかマスクを装着していた。


 (……ヘルメットを被った男は激情型で、あちらの男は冷静に状況を見極める能力が高そうだな。……よし、ならば)

 ゆっくりと『先ほどと同じように姿を隠す』と、カーネルは足音を消し素早くケンシロウへと迫った。……狙うは首筋の頚動脈。
 殺(と)った……! と確信を得てカーネルは姿を隠したまま笑みを浮かべる。しかしそれが詰めを誤る結果へと進めた。

  
                                『北斗壊骨拳』!!

                                『北斗邪技弾』!!



                             「ぐあああああああああああぁぁああ!!??」


  左手指に嵌めた鉄爪もろとも『左腕が消し飛んだ』カーネル。勢い良くその場を離れ千切れた左腕を押さえ二人を睨む。


 「……なるほどな。まさか『迷彩マント』なんぞ洒落た玩具を持ってるとは。……それが消えたカラクリかよ」

 「お前の隠行は確かに優秀だ……だが立ち上る粉塵の流れが貴様を覆う部分だけ不自然に変化していた。……その腕では
 もはや満足に闘えないだろう。……言え、貴様が兵士へ投与した薬の秘密を」

 ……ケンシロウとジャギの取った行動、それは調気呼吸術(ちょうきこきゅうじゅつ)。北斗の拳を覚えるに当たって初期に
 覚えれる物は覚える長時間呼吸を止める呼吸法。それらを今は亡き師父から正確にこの二人は会得し、そして機を見てカーネル
 へと反撃の出を窺っていた。そして見事ケンシロウの読みと、ジャギの奇襲の双方の攻撃がカーネルの左腕を破壊させた。
 もはや闘いは続行不可能だろうと言葉を投げかける。その言葉の裏には自白しても死を下すと宣言しでいるが、猶予は与えられた。

 ジャギとケンシロウの声が無常に暗闇の中を響く。だが、カーネルは左腕の激痛で汗を流しつつも……『まだ笑っていた』


      ……クク            クク          クックックックックックッ……!!!


 「……未だ何かする気か? 言っとくがGOLANの兵士の変異なんぞ俺達には効きはしな」

 「馬鹿が……! ……あれは不良品だっ。どんなに優秀で忠実な戦闘マシーンと言えどそれが人間なら何時心に反逆精神が
 芽生えるがわからない! それが人間の悪性だ。そうだろう!?」

 「……お前は失敗作を自分の部下へ渡していたのか?」

 「ははははは……! GOLANは『選ばれし神の子』を創り上げる国……ゆえに神に近づけぬような存在など元から道具よ!!
 『人間』では駄目だ。神に成り代わるには『怪物』へ進化出来なければならない。だからこそ『GOLAN』は手を組んだのだ!
 貴様達は大変優秀なモルモットだ。感謝しようお前達に! そして巡り合えた神の思し召しと……この『神の血』で!!!」

 カーネルは叫びつつ残った右手を左腕の千切れた部分へ直接挿した。そして二人へと血走った目で口に泡を吹きつつも叫んだ。

 「未だ筋肉の促進と同調は未完成だが……GOLANの神よ! おれに力を!!!」


                                   ドスッ!!   ギュルギュルギュルギュル……!!


 

         ぬうううぅぅぅううう!!!?!    がああああぁあぁああぁああぁあああああああ!!!!!


 絶叫と共にカーネルの体は『巨大化』する。そして『左腕から魚のような腕が』生え変わっていった。その映画のような
 非日常の光景に、思わず不意打ちすら二人は忘れ変異を完成するのは見守るジャギとケンシロウ。……それが終了した時ジャギは呟いた。

 「……化け物だ」

 それにカーネルは『サメのような肌と充血した瞳』で笑いながら言った。

 「化け物……違ウ……オレハ……人間ヲ超エタ……!!」

 その変質し触れるものはすべて刻めそうな爪を光らせるカーネルへと、ケンシロウは構えつつ呟く。

 「……サメは水族館にでも戻れ」

 「クク……!! ナラバ鮫ノ歯ヲトクト味ワウガ良イ!!!」

 それと同時に、本物の鮫が突進するのと同じスピードでカーネルはケンシロウへと爪を振るった。それをギリギリの所で
 避けて拳を振るうケンシロウ。だがそれは金属音を立てつつ拳を跳ね返した。
それはカーネルが投与していた筋肉増強剤による影響。変異した肌をコンクリートよりも硬くカーネルの体は鉄壁へと変化していた。
 秘孔すら突けないと言う事態にケンシロウは未だ直面した事態はなく、完全に無防備な状態をカーネルへと晒してしまった。

 「何っ!?」

「gyaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooo!!!!!」


 「ぐおおおおぉ!!!?」

 一瞬の隙を突いてケンシロウの腕へとカーネルは『噛み付いた』。その攻撃に堪らず苦痛の声を上げる。当然だろう。
 北斗神拳で鍛えられた肉体であろうと、鮫の顎の筋力に耐ええるか等想像したくもない実験だ。……そこへ勢い良く影は躍りかかる。


  「……こいつはどうだぁ!!!」



                                   ドスッ!!!


  「gyaooooooooooooooooooooooonnnn!!!!!?????」


 「へっ! ……流石に目玉は硬く出来ねぇよなぁ!?」

 ……何が起こったか? その方法はと言うとジャギのショルダーに生えた一本のトゲが無くなってるのから推察出来る。
  自分の『肩のトゲを折り、それを小さな槍に見立て』カーネルの目玉へと突き刺したのだ。
 堪らず激痛でケンシロウの腕を離す。……血は夥(おびただ)しいが何とか腕は繋がっている。
……だが、カーネルはその行為で完全に標的をジャギへと変更した。怒りで目つきを変化しつつ、異常な速度でカーネルはジャギへ
 接近し腕を叩きつけるように振った。……防ぎつつも衝撃を殺せず壁へ叩きつけられる。……ケンシロウも後に続いた。
 そして衝撃で胸の息を吐きつつも荒い息でジャギは提案した。
 
 「……なぁケンシロウよ、……あの化け物を殺すまで一時共同戦線と行かないか? ……絶対にお前に奇襲はしねぇよ」

 「……良いだろう。……蟹では無いが、俺も今丁度あの鮫が気に食わなくなった」

 そしてケンシロウとジャギは立ち上がる。その空気に相手への死を暗示する気配を纏わせて。……そしてカーネルは思考した。

 (……『108』の力を試す絶好のチャンスか……こいつらのほえ面を見せてもらおう……!)

 「……見セテアゲヨウ……ッ! ……『南斗百斬拳』!!!」

 『!!?』

 カーネルの希望通り、ケンシロウとジャギに驚きの表情が浮かびつつ、ダンデが使用する百の鮫の爪での斬撃を巧みに避けた。

 「マダマダ! 『南斗隼牙拳』!!!」

 そして次に振るわれるは我将軍ハバキが使用していた拳法。カマイタチの如き斬撃が二人の体を切刻もうと襲った……それも避けられる。

 「クソ! クソ!! 避ケルダケノ能無シガ……」

 「わかったぜ……てめぇの弱点」

 その時にぽつりと……静かにジャギは口にした。……カーネルにとっては死の宣告となる言葉を。
 
 「ナニ……!? コノ肉体ハ最強! 弱点ナド」

 「お前の南斗聖拳は所詮真似事……コピーされた拳法ではその拳法家でないお前では満足に振るう事が出来ない」

 「しかもてめぇの体は再生したが、筋肉の重さが自分の持ち味の素早い動きを殺しちまってるんだ。……どっかのサイヤ人だな」

 最後のジャギの言葉の語尾の意味は置いとくとして、その言葉にカーネルは衝撃で固まる。

 (……確かに言われればそうだ。……この薬品は俺ノ力を高めた。……ダガこれでは元の戦闘力よりもある意味下がった
 と言って良い……。……!!?? マサカジョーカー! お前はコレも予想の範疇で……最初から俺を使い捨てに!!??)

 「バカナ……bakanaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」


 突進するカーネル。そしてその勢いだけの攻撃を軽々と二人は避ける。……既に勝敗は付いたと言って良い。

 突進によって鉄格子ごと破壊される入り口。そして変異された体は軋み始めていた。……薬の効果が切れ始めている。



                ゴキュ           ゴキュゴキュゴキュギュギュギュ!!!……ッ!!

 逆再生の如く人間の姿へと戻るカーネル。その姿は上半身半裸で、疲弊し体を満足に動かすには出来ないのが見て取れる。
 
 「……時間切れだな。……本当に終わりだ」
 
 そうショットガンで肩を叩きつつ呟くジャギ。それにケンシロウも同意してか構えを崩す。……だが神は未だカーネルを味方してた。


                   (く、ぐ、ぐぅうう! ここで終わ……あれは!? ……良し!!」


 入り口を破壊し疲弊したカーネルが目前である物を見て自分に未だGOLANの神が味方してる事を感謝し、それを腕に掲げた。

 「ハハハハハッ!! お前達、この娘の命がどうなっても良いのか!?」

 「ヶ……ケン!」

 「リン!? ……来るなと、言ったはずだ」

 そこに居るのはケンの安否を想う余り駆けつけたリン。入り口が破壊された衝撃で立ち尽くしていたのだが、それはカーネル
 にとって正に天から降ってきた幸運そのものだった。

 「良し……っ! 一歩でも動くな!? 動けばこの娘を殺す! ……安心しろ。お前達がいなくなればこの娘を解放……」

                                    カチャ……

 ……ソードオフショットガンを構えるジャギ。……それはリンを盾にするカーネルへと向けられる。

 「……な、に!? ……貴様、動くなと!!」

 「……リン……とかケンシロウに呼ばれたな? ……いいか? 絶対に動くなよお前」

 「き、貴様娘ごと俺を撃ち殺す気なのか!? 言っておくが見逃せば俺は三人とも無事に」

 「そんな保証が何処にある? お前が約束を守るという確証が何処にある? しかも俺達は敵同士なんだぜ? そう、……俺は
 言っておくが『その娘』に関して関係ねぇんだ。……だから悪いとは少しは思うが、……てめぇを今生かす必要性が俺にはねぇ」

 「おい……お前やめろ!」

ケンシロウは叫ぶ、その言葉に賛同して冷や汗を流しつつカーネルも叫ぶ。今だけどちらも必死だった。
……どちらも同じ言葉でジャギを制止しているが、その言葉の裏に含まれる意味は真逆だが。

 「その男の言う通りだ!!? 俺は約束を守る! GOLAN総帥として約束する。だから撃つな! 撃つなああああああぁ!!」

 もはや体はろくに動けず薬品の効果は切れ常人程の肉体になっているカーネルには散弾銃でさえ脅威へなっていた。だが、ジャギは
 静かに悪魔よりも恐ろしい声色でカーネルへと言葉を下ろした。

 「断る。……今は悪魔が微笑む時代なんだ……! ……お前の目が悪魔に似ている……!!」

 
                         「やめ、ろ! やめろおおおおおおおおおおおお!!!!!」



                                 『北斗蛇欺弾』!!!




                        「めェぐァわああっ!!! めェぐうぅっ!!? へっげェえええーっ!!!?」





  





 それは一瞬の幕切れだった。
 ……銃声の瞬間にリンを突き飛ばし出口の死角へと逃れようとしたカーネル。

 それを予測していたように蛇のように追いかけた銃弾はカーネルの体へと次々と着弾していった。

 ケンシロウは見た。直線でリンに迫った銃弾が枝分かれして綺麗にリンだけを避けてカーネルだけを追尾していたのを……。

 ケンシロウに抱き起こされつつリンの体には弾痕はまったくなかったが、ケンシロウに敵意を再度ジャギへと抱かせるには
 ジャギの先ほどの振る舞いは十分だった。

 だが、ケンシロウに抱かれつつも、リンはそのヘルメットの男が自分に動くなと言った時の瞳は自分を憂うような光を帯びて
 たように思え、若干その男が悪人ではないように感じた。……それでもその男に恐怖は未だ残っている。





 (……腹が痛みやがる。……カーネルの異常な成長。……本当に何が起こるってんだ?……くそったれ)

 ジャギの苦悩も去る事ながら、暗雲は静かに壊滅したGOLANから別の方へと流れる。




 ……それは次にどのような試練を二人へ降らすのか。











     あとがき




 ケンシロウのジャギへの敵意は60%。けどすぐに北斗神拳で倒そうとは思ってません、自制出来ます。

 原作よりは弱いですが、リンやバットに危険が迫ったら強くはなります。それでも南斗聖拳伝承者とは4:6のダイヤで負けます。

 ……自分でやっといてなんだけど弱すぎる……修正が必要だ(´・ω・`)





[25323] 第七十八話『愛する者を求む二振りの剣と刀』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/09 12:28




 それはモヒカン達が幾つもの村々を襲撃するのが日常茶飯事だった時に起こった出来事。

 
 とある村に大柄なスキンヘッドの首領、そして数人のモヒカンが村を襲おうと疾走していた場面で起きた。

 これ位なら世紀末では何時もの光景だ。だが、今回村は蹂躙される前に二人の人間の手によって救われる事となる。



 「……ちっ! んだありゃあ? 鎧なんぞ被ってる野郎が入り口に立ってるぞ?」

 「ヒッハー! あんなんすぐに蹴散らしてやろうぜぇ!!」

 モヒカン達は村の入り口で二振りの剣を構え佇んでいる人間に気付くが、自分達の力量を過信し過ぎて相手を完全に見くびっていた。

 遠目からも鎧を纏う人間はモヒカン達全員よりも背丈は低く、自分達よりも小柄な姿に簡単に一撃で叩きのめせると余裕のモヒカン達。

 だがモヒカン達は知らなかった。この鎧を纏う人物が今世界を支配しようとする人物の片腕となっている者だと……。





                                  『双剣乱舞』!!!




 モヒカン達と接触した瞬間体を旋回させモヒカンの攻撃を避けると同時に双剣を連続で振るう鎧の騎士。
 悲鳴を上げて一番前のモヒカンが切刻まれるのを見て戦慄すると同時にモヒカン達は二手に分かれた。

 「何だあの野郎!? ただの張ったりかと思ったら……!」
 「落ち着け! こっちはボウガン持ってるだろうが! 遠くから狙いを定めて狙い打ちにすんだよ!!」

 その首領らしきスキンヘッドの男の命ずるまま、すぐには近寄れぬ距離でボウガンを構えるモヒカン達。その行動に少しだけ
 後退しつつも、すぐに動ける体勢で構える騎士。……多少の怪我を負うとしても避ける自信はその人物にはある。

 だが、その騎士にボウガンの矢が放たれる事は終ぞ無かった。何故なら首領の声が上がらぬまま、数人のモヒカンの頭に何かが生えたのだ。


  「ばっ!?」  「びっ!?   「ぶべ~ぼっ!!?」

 慌てて血を頭から噴射し倒れる仲間から離れるモヒカン達。何が起きたのか一人のモヒカンが仲間の頭から生えた物体の名を叫んだ。

 「丸鋸!?」

 そう、フリスビーのような大きさのギザギザの芝刈り機等で使うような刃が無防備に晒されたままボウガンを構えた男の頭
 へと直撃したのだ。もう一人の男も同じ……最後に直撃した男の脳天に生えていたのは小ぶりの斧だったが……それは置いておこう。

 投げつけられた方向へとモヒカン達は振り向く、そこにはバイクに座ったままのバンダナを風で揺らした女性が武器を投擲した
 状態で佇んでいた。それに未だ仲間が居たのか! とヒステリックに叫ぶモヒカン達。だが鎧を纏った騎士はその防具の
 中で困惑の表情を誰にも知られずに浮かべていた。何故ならこの村を守っているのは自分一人だけの筈だったから。

 走り下るバイク。それに向かって生き残ったモヒカンはボウガンを発射するが巧みにその運転する人物は粉塵をあげながら避けた。
 毒づきつつ矢を装填しようとするモヒカン達。だがそれを騎士が黙って容認するはずがない、目前まで走ると剣を振るった。





                                 『双剣文舞』!!



  断末魔もそこそこに倒れ伏すモヒカン達。これで生き残っているのはスキンヘッドの首領ただ一人となった。

 呻き怒りの声を上げながら常人に持てぬような斧を持ち上げる首領。それへと何時の間にかバイクから降りた金髪の娘と
 鎧の騎士は同時に首領へと自身の武器を振るっていた。……二振りの剣と刀を。



                                   ……一閃



 それと同時に首領の首と腹は裂かれ血の華を撒き散らせつつ地面に鈍い音を立てて事切れた。……立っているのは二人。

 ……血飛沫で汚れたゴーグルを上げるのはパッチリと開いた瞳、そして笑えば可愛いだろうが無表情で日本刀を構えるアンナ。
 もう一人は野獣達を捌きつつも、未だ敵味方が判別つかぬ人物が構えているのを両手の剣を構えつつ対処を思案する騎士。

 ……同時に動いていた。日本刀を横に水平に構えて鎧の騎士へと迫るアンナ。それを交差した剣で迎え撃とうとする鎧の騎士。
 跳躍するアンナ。そしてその頭上へと日本刀を兜割りすべく打ち下ろす。

 それに素早く反応すると頭上で剣を盾にする事で金属音を響かせつつ初撃を鎧の騎士は防いだ。……翻し後方を見れば人影無し。

 (……消えた!?)

 兜の視界から消え失せた事に一瞬焦りが浮かぶが、幾戦もの戦場を駆けたその人物の肉体は次の一撃が何処から来るか理解していた。
 無意識に跳躍し後退する鎧の騎士、それと同時に下から空気を切りつつ日本刀が振り上げられていた。……兜が外れ飛ぶ。

 「……え!? 女性!?」

 そして同時にアンナの驚愕の声が響いた。脱げた兜から見えるは、淡い薄茶色の髪を零し、顔をしかめる端整な女性の顔。
 だが驚愕しワンテンポ動きを遅らせたアンナへと容赦せずその女性は双剣を自由に操りつつアンナへ迫りながら叫んだ。

 「私は女などとうに捨ててる! それにお前も女だろう!?」

 「わっ! ちょっ! タン! マ! おぉおっと!!?」

 連発して振り下ろされる剣を日本刀で何とか受け凌ぎつつ意外な騎士の正体に途切れ途切れ制止の声を上げるアンナ。
 だがそれに騎士は止まらない、気合の声を一時、双剣を交差しアンナの武器めがけて振り下ろす。
 だがその瞬間にアンナは腰から『ある物』を投げて騎士の双剣にわざと当ててそれを空中へと扮散させた。

 「ゴホッ!? 毒っ……じゃなくて胡椒!?……ハクッション!?」

 一発盛大なクシャミと同時に涙と鼻水が流れそうになるのを必死に強靭な意志の力で止める騎士、それに笑いつつアンナは叫んだ。
 
 「はっはっは! 勝てば良いのだ何を使おうが! 争うつもりはないんで戦術的撤退~!!」

 「この……っ!! 逃がすがぁ!!」

 盛大に走りながらバイクへと逃げようとするアンナ。それ目掛けて適当に転がっている石を当たらないとは思いつつ投げた。
 ……飛んでいく、飛んでいく石、それは上空を飛びアンナばバイクに乗ると同時に……。







                                   ゴン!!





 「……じゃ……ぎ、ん……ドサッ」
 愛する人間の名前を告げて、倒れる擬音すら自分で言ってアンナは後頭部にタンコプを生やしつつバイクもろとも倒れた。
 それを石を投擲した当の騎士はと言うと、その一部始終を眺めつつ冷たい風が通り過ぎるのを感じながらポツリと呟いた。




 「……何で私の剣を避けれてあんなのが当たるのよ」













 「……あ痛たたたた……ここは何処? 私は誰?」

 気がつけば見知らぬ天井で額に布を当てて倒れていたアンナ。服を見れば先ほど着てた物で装備もちゃんと身に付けている。
 あれ? と思いつつ寝ている場所を抜け出し外へ出る。……どうやら先ほどの村の中らしい。日は若干暮れているから結構
 気絶していたのだろう。首を鳴らしつつそう思考していると後方から声が聞こえた。……先ほど対決した人間の声に似てる。

 「……どうやら平気らしいわね?」

 「わっ!! 出たぁ!!?」

 「……貴方私をお化けが何かだと思ってるの?」

 米神に青筋をたてる薄茶色の長髪の女性、既に鎧は脱ぎ捨てられ軽装で動いている。

 「……あれ? 何で私を助けてくれたの? 自分で言うのもなんだけど斬りかかったでしょ? 私」

 「確かに気絶してる貴方を斬っても良かったんだろうけど……野獣とは違うようだし、何より仕切りにうわ言で誰かの事を
 呟いてたから斬る気になれなかったのよ。……それより何故いきなり私を斬ろうとしたのか言ってくれるかしら?」

 「……言わなくちゃ駄目♪?」

 「斬るわよ?」

 軽装でも身に付けている双剣を構え殺気を膨らませる女性。それに慌ててアンナは説明を開始した。……話は遡る。

 ……何時ものようにモヒカンからの強襲を捌きつつ旅をしていたアンナ。だが日々襲われるストレスが頂点に今日達していた。
 モヒカンを倒す事でストレスの発散をするのは人間としての倫理感が失われる気がして何時もなら自制出来ていた。
 ……だが今日だけは何故か自制を半ば失い村を襲おうとしているモヒカンをストレス発散の格好の獲物として襲い、その時
 モヒカンを華麗に剣技で倒している人間を見かけ、自分のストレス発散の邪魔をしたのと好敵手だと思い闘おうと思った。
 だが、鎧の中の人物が女性だと理解すると急に正気に返り、逃げようとして今の事態へ陥った……と言う理由だ。

 「うん、私が全部悪い……けど一時間正座させる事は……」

 「こっちは危うく死に掛けたのよ? ……何ならこの場で私の剣の錆びに」

 「はい、申し訳ありません。全部私が悪いです」

 そう土下座して項垂れるアンナへと、数時間が経ってからその女性はようやく許した。……足が痺れて動く事もままならなく
 なったアンナはその日その村で一夜を過ごす事になったが。


 





 






「……呆れた。貴方剣術ちゃんと学んで無い訳!? ……よくそれで今まで何とかやってたわね……」

 「いやぁ、昔は南斗の修行場で色々な武器は齧ってたよ? ……はい、まったくの初心者です。御免なさい睨まないで下さい」

 持っている装備品。……日本刀、弓矢、投擲用の刃物、目潰し用の粉、火薬類、etc……等を並べつつ土下座をまたしてるアンナ。
 その理由は朝の鍛錬をしていた女性が自分もしないのか? との問いに自分は我流だからと言い放ったら雷を落とされたからだった。

 「……日本刀と言うのはね、十年、二十年子供の頃から振ってなくちゃ身につけられない物なのよ? 貴方それなのに我流で
 ただ格好良いから自分の武器にしてるって……。しかもこれ手入れもまったくしてないんでしょ!? 何を考えているの!?
 刃毀れしたり血で錆びるんだから、武器の手入れなんて普通常識よ! じょ、う、し、き!!」

 「いやぁ~一応血は布で拭いて……御免なさいだからもう一時間正座で説教は止めて……」

 すっかりその女性の説教に恐怖が染み付いたアンナ。それを鼻息荒く見下ろしながら女性は言った。

 「……生兵法なんて一剣士として見てられないわよ。……しょうがないわね……稽古、これからするわよ」

 「えっ!? ……いやぁ自分はこれから旅があるので……」

 「そんな腕でこの荒野を生き抜けると思ってるの? 私にまぐれで優勢だったような腕で? 今度は大怪我するかもしれないのに?
 い、い、か、ら! 暫くここで私の指導を受けなさい!!」

 そうとても恐ろしい剣幕で言い放つ女性に、ぶるぶる小動物の如く震えつつアンナは『了解……』としか返す手段はなかった。

 







 「……うぅ~、疲れたよ~、しんどいよ~」

 「ほらっ、しゃきっとする!! あと二千回は振るのよ!!」

 「うぅ~、鬼だよ~夜叉がここに居るよ~。ジャギ~助けてよ~」

 「……貴方本当に一回焼き入れないといけないようね」

 米神に青筋立てつつ座って指導している女性、それに涙目で睨みながらアンナは文句を口にする。

 「……大体何でそっちは鍛錬しないのさ? 私ばっかりじゃん?」
 
 「あ……その、ちょっと私は医者から激しい動きは止められてるのよ。……良いからちゃんと刀を振るう、正眼で! ちゃんと!」

 話題をそらしながら女性はアンナに渇を入れる。唸りつつ手に豆出来つつもアンナは歯を食いしばり刀を振った。







                               ……一週間の経過。




 






「……駄目だ、このままじゃあの鬼女に過労死させられちゃう。……私、こんな所でもたついてじゃ駄目なのに……」

 アンナにもアンナなりに影でジャギを助ける努力をしている。来るべく時に向けて火薬の精製をしたり、そして虫の如く沸く
 野獣の一掃をしたり。……それは多分周囲には解り難いだろうけど。だからこそ誰にも理解されないと思っているアンナは
 最近やさぐれつつ自分勝手に時折りなりかけていた。……だからこそアンナは寝台で横になりつつぽつりと口にした。

 「……逃げちゃえ」









 ……部屋を出れば今日は満月。怖いほど綺麗な月光が村を照らしている。

 これならバイクで逃げるのも楽勝だと含み笑いしつつアンナはそ~っと足音を殺し自分の足の置いてある場所を目指した……誰かいる。







 「……」



 それは適当な場所で星空を眺めている自分の剣術の指導をしている女性。月、ではなく星空を悲しそうに眺めている。

 「……どしたの?」

 「……寝ないの?」

 「まあ、月見って所かな」

 バイクを取り戻すには女性を横切らなければならないし、それにその光景に先ほどまで逃げようとしてた気持ちが段々冷えていく
 のが自分で解ってしまった。だからこそ、その女性の隣へと座り、話しの花を咲かす事へとアンナは決めた。……女性は喋る。

 「……私ね、本当はここの村の人間ではないのよ。……遠い遠い場所で生まれて、……そこから海を渡ってここに来た」

 「私はこの場所で生まれたけど、今は大きく変わった場所を見て回るのが楽しいかな。色々と野獣の危険もあるけど、それは
 オプションって思えば楽しめるんだよね、旅も」

 生来の明るさを保ってカラカラと笑うアンナ。それに感化され笑みを浮かべつつも、また悲しそうに女性は言った。

 「……私には愛してる人がいる。……その人の為に私は子供も作ったわ。……けどあの人の瞳には私を時折映してくれて
 る気もするけど、……何時も見ている場所は遠いところ。……私には追いつけない所なの」

 「子供……って、妊娠してるの? そんなにぽっこりしてないけど……」

 「もう産み終わったわ。出産後の影響で少し安静にするように言われてるのよ。だからこの村に居るようにその人に言われたの。
 ……私の子、あの人に似ているわ。……きっと大きくなったらあの人に似ると思う。……今からそれが楽しみよ」
 
 そう笑うのは母親としての笑顔で、同年代なのにその女性の大人びた雰囲気にアンナは自分が子供だと自覚させられ少しだけへこむ。

 「……ねぇ、その人って貴方の事どう思ってるの? 今後の参考にしようかな~なんて」

 笑顔で問いかけるアンナに、悲痛さや、憧憬や、愛情などが混じった複雑な微笑みをその女性は浮かべて喋る。……その機敏な
 変化をアンナは見落としているのか、それとも直感的にあえて触れないのが深く尋ねる気はないのがその女性には幸いだった。
 

 「とても強い人……一言で表すとそれね。周囲には恐ろしいって思われてるけど、……けど私はそう思わない。
 あの人の夢は誰よりも大きくて、それがほとんどの人には理解されないから孤独なのだと思うの。……私は支えて上げたくて
 だからあの人の子供を宿せて嬉しかった。……時折り何を考えてるのか自分でも不安だけど……私にはそれで十分」

 「……そうかな?」

 その女性の言葉に、アンナは疑問の声を上げる。え? と声を漏らす女性にアンナは言った。

 「言いたい事があるなら正直に言った方がその人の為なんじゃない? 私にも好きな人……まあ意識して言うのは照れくさいんだけど、
 いるから解るんだよね。お互いに遠慮してたら何も言えないし心も通えないと思うんだよね。正直に言って喧嘩になるかも
 知れないけど、その人に自分が何を思っているか言ったほうが私は良いと思うな」

 そのアンナの言葉に、女性は暫し目を閉じて黙考する。……そして月夜を眺めて口を開いた。


 「……正直にか、……けど、あの人は私の言葉を……聞くかしら?」

 「子供作って欲しいって言う位なんだから、その人貴方の事大切だって思っているはずだよ。……まさか政略結婚とか
 そう言うような人間じゃないよね? 貴方の旦那さん……」

 「それは無い!! あの人はそんなんじゃ……あっ」



  




  ……そうだ、……あの人は確かに自分達より遠くを目指している。

  けどあの人が私を抱いた時の瞳……そしてあの時の事を思い出せば解る。

  ……そうだ、今目の前の悪戯気に微笑む子に逆上したのが良い証拠

  ……『私があの人を愛してる』……それで十分ではないか?

  ……あの人は一言で私の告白を切り捨てるかもしれない……けど否定でも『私は』嬉しいのだ。返事を返してもらっただけで……


 








 「……そうね。あの人に暫くしてから言ってみる事にするわ」

 「でしょでしょ! その方が良いって、絶対!」

 「……言っておくけど相談に乗ってくれたからと言って明日の鍛錬を易しくはしないわよ?」

 その言葉に悲鳴をアンナは上げる。それを笑いつつ女性は心の中でお礼を口にしていた。

     (……有難う。貴方の言葉で……『あの方』へと正直に今度再開する時は言葉が言える気がする)










 「……今日で修行は終わりね。……だいだいコツは掴めたと思うけど……後は貴方の気持ちが肝心よ」

 「……一日の大半刀を持ってたんだから、これで力が着いてなかったら私貴方を斬るよ……」

 死にそうな表情で呼吸するアンナ。その手は豆が潰れて痛々しくも精神的疲労の方が大きかった。

 「……一番確実なのは『居合い』ね。……それが一番貴方の剣術に合ってると思うわ」

 「まぁ……そうかもしんない。……確かに一撃で倒さないとねぇ……」

 そう不気味に輝く日本刀を細めで睨むアンナ。……その見るものによれば若干可笑しい顔に女性は笑う。笑い声にアンナは膨れつつ
 睨むが女性は意に介さず言った。

 「……旅、気をつけてね? ……また出来ればここに来なさい。ちゃんと手ほどき受けないと大怪我しちゃうわよ?」

 「今度は私の恋人と一緒に来るよ。……赤ちゃん、ちゃんと見させてね」

 「ええ」


 そう言って手を振ってアンナを女性は見送った。……暫くしてからその場所へと鋭い目つきで荒野の粉塵で汚れた茶髪を
 払いつつ男が現れた。……男は問いかける。

 「……体調はどうだ『レイナ』?」

 「ええ、もう大丈夫よ『ソウガ』……拳王様の準備は出来たのでしょ?」

 「あぁ、先程一人北斗の三男と対峙したが……決別したよ。それは見事にな」

 「そう……これで拳王様に北斗の兄弟は全員敵に周ったのね」

 「ラオウならば負けん。……随分と晴れた顔つきだが……何があったのか?」

 「……ちょっとね、友達が出来たのよ。……何時か貴方にも紹介出来たら良いわね」

 「友達が? ……この乱世を拳王が終わらしたらゆっくり紹介してくれ」

 「ええ……すぐに支度するわ」

 ……その女性は鎧を纏い、兜を被る。……その女は『双剣のレイナ』そして拳王の片腕、拳王親衛隊の隊長。
 ……子を身篭った事により、それらを周囲へ秘匿するべく病欠を騙り遠く離れた場所で拳王の安否をこの世界で祈りつつ過ごしていた。

 そしてアンナはその村で始終その人物が拳王に最も深く、最も重要な人物だと気付かず、レイナもその女性が最後まで想い人に最も
 敵対する人物だとは気付く事は死ぬまでなかった。


 二人は最もその人間を愛し、そしてその愛する人物達もまたその女を愛していた。

 それゆえに先に起きる出来事は正史よりも早い暗黒の到来を告げるのだが……それはもう少し先の話し。










      あとがき


  はい、レイナは拳王の嫁となりました。皆さん拍手(パチパチパチ


  修羅の国から帰国してすぐに俺の子を産めって言える拳王って凄いよね( ´_ゝ`)





[25323] 第七十九話『GOLANの最後、そして獣たちの宴が始まる』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/10 08:54


  GOLANの総帥カーネルの死!! それは生き残りの兵士達には衝撃の事実となって広まった。

 ある者は死を下した死神と悪魔へと鉄槌を下そうと、そして残りの兵士達はジョーカーを頼り逃亡を決意した。


 だが総帥カーネルでさへ勝てなかった人物達を兵士達だけで如何にか出来る筈も無く、ジャギとケンシロウに秘孔を突かれる
 事でその血肉をGOLANの残骸へと染まる事となった。

 「……だいだい終わったな」

 「あぁ……『ここ』はな。……けど薬の製造されていた場所が見つからないって事は此処以外に別の基地があるって事だろうな。
 ……そっちの方はどうするんだ、ケンシロウ?」

 「……俺は俺の大切な人を取り戻したいだけだ。……それさえ叶えば俺は助けを求める者には手を貸そう。……貴様以外な」

 そう冷たい声色でケンシロウは返事を返す。まあ当然の反応であろう。自分の大事な人間に含まれているリンを、話しかける男
 は状況的に仕方が無かったかもしれないが下手をすればリンの体に弾丸が当たってた可能性もあるのだ。
 それにユリアを攫った張本人。これ程の悪事を自分の前で見せつけながら友好的に接しろと言われる方が無理な願いと言う物だ。

 だが、ジャギはすぐさま返事を返す。ケンシロウの甘い性格を突いた台詞を吐いてだ。心理戦に関しては世紀末ではジャギが優位だ。

 「おいおい、お前さっき片腕失いかけたの助けたの忘れた訳じゃねぇよな? しかも結果的にあの小娘助けたの俺だぞ?
 その俺を救世主様は冷酷に殺すってぇのか、やだやだ、怖いね」

 「む……」

 そう言われ言葉を失うケンシロウ。……そもそもユリアを攫われた事である程度の覚悟は身についているが、自分の身内に
 良く似た人物、この場合自分の三番目の兄……まあ第三者から見れば本人へと対峙しているケンシロウとしては、冷徹に
 不意を打ってまで目の前の男の秘孔を突く気持ちになれない。それは原作とのズレによって起きた甘さが起こした結果だろう。

 それはジャギに関しては都合が良い事であるし。その甘さが自分以外の人間と闘う時に不利になるとは思ってはいない。
 それは原作知識からのケンシロウの無類無敵の強さを知っているからだ。

 「……けど、こいつら意外に手応え無かったな? ……いや、北斗神拳扱う俺達だからか……」

 掌をまじまじと見つめながらそう一人ごちるジャギ、時折り自分が通常の人間とは違うと言う事を忘れそうになる。この世界で
 過ごし十五年余りになるが、モヒカン相手を最初に殺したのも『ジャギ』としての感情が反動して容易く倒せたのだ。これが
 本来の平和な憑依前の世界で過ごしていた時の自分であるなら最初の一人を殺した時に嘔吐しても可笑しくなかった筈だ。
 ゆえにジャギは時折り目の前の掌が血まみれのような幻視を見る。そしてその度に自分が病気だと自覚するのだ。

 (……気持ち悪いな自分が。……けど我慢だ、我慢。……それにこの感覚に慣れないと『あの技』も使えねぇんだよ……)

 「……そろそろ教えろ。……ユリアの居場所を」

 ケンシロウの声に掌を無表情で見ていたジャギは我に帰る。ケンシロウは無防備で絶好の機会であったにも関わらず、その男が
 掌を見ていた時動く事にどうも躊躇し、そう声をかけるだけに留まった。

 「……あぁ……ユリア、な。そうだな、『約束』したもんな。……『約束』は絶対に守る……守らなくちゃいけねぇんだ」

 「……お前?」

 ケンシロウは自分に向かってではなく、誰かに向けて喋ってるような声に不審感を抱く。けれど次に男が喋る時にはその奇妙な
 雰囲気は消えて、乱暴で人を小馬鹿にしたような口調へと男は戻っていた。

 「……ユリアはなぁ…………俺の前から逃げた」

 「……何? ……如何言う事だ?」

 「だから言ったろ? 隙をついて俺様にライフル構えて降参させて逃げたんだよ? 言っとくが嘘を吐いてないぞ? 
 俺様は『絶対に約束を守る』。……何ならその北斗神拳で秘孔を突いて見るか?」

 ……ケンシロウはじっとその男の瞳を睨むように観察していた。……数秒程なのにとても長く感じる視線のぶつかり合い。
 そしてケンシロウは視線を外して男へ尋ねた。
 
 「……ユリアの行き先は?」

 「……安全な場所さ。……野獣の居ない所へと行ったよ」

 そうジャギは嘲笑しながら言う。ケンシロウは睨みながらも、声の口調から嘘を吐いてない事を知り、困惑気に言った。

 「……お前は何がしたい?」

 「最初に言ったろ? 俺はお前を苦しめたいんだよ。救世主様」

 そう言ってジャギは背を向けてケンシロウとは反対側へと歩いていった。……ケンシロウは複雑な顔を浮かべ一歩も動かず黙考した。

 (……何故俺はあの男に白状させようとしない? ……俺の何か……心がそれを拒絶している? ……シンにもう一度尋ねてみる
 必要があるかもしれん。……あの男は未だ何かを隠している。……何かを)

 バイクの走り去る音が聞こえる。……自分から遠ざかっていく男の気配を感じつつ、ケンシロウはこれからの行動を決めかねていた。










 







……場所は変わり、そこはジョーカーの居る拠点。……培養液が並々と入った水槽に入る『形容し難い生物』を見つめつつ
 GOLANから命からがら到着した兵士から、カーネルの死の一部始終を聞いた。

 「……やはり、死んだかカーネルは。……北斗神拳、やはり我々の想像を遥かに超えた強さを秘めてるらしい……。カーネルの
 肉体でさえ通じないとは……それが解っただけでも成功か」

 そしてジョーカーはトランプのエースを吊るされた蛍光灯で透かしつつ兵士へと質問を投げかけた。

 「……それで、お前は見す見す自分の主人を見殺しにして此処へ来たと言う事だな?」
 
 その言葉に恐怖を浮かべるGOLANの兵士。ツカ、ツカと兵士へ近づき弁明の余地すら聞かず、ジョーカーはトランプを空に斬る。
 
 ……その刹那首筋から血を噴出し倒れた兵士を一瞥しつつジョーカーは呟いた。

 「……主人に仕える犬ならば主人と共に死ぬべきだろう? カーネル、お前の死に対するせめてもの礼だ。……お前の遺伝子も
 既にこちらでは研究資料の一部に入れてる。……南斗無音拳か……近代格闘術の域を出ないチンケな物で満足したお前は井の中の蛙。
『108』など勿体無い、お前には鮫の遺伝子を混ぜた人体改造薬だけで十分だったろう。余計な浪費をしたものだ」

 そうトランプに僅かについた血液を不愉快気にハンカチで拭いつつジョーカーは部屋から抜ける。……不気味に培養液の中で
 眠る生物は泡沫を上げつつ眠る。……時が来るまで怠惰を貪る邪神のように。










 
 





 「……おい! 酒がまったくねぇって如何言う事だ!?」

 「五月蝿ぇ! 水でも飲め! 全部かっぱられたんだよ、畜生!」

  怒鳴りあうマスターと客、一人は中年のむさいおっさん。もう一人は綺麗なのにやる事が無いので食器を拭いてるマスター。
 マスターの名は世紀末では唯一と言って良いバーのマスター、我々の最後の良心、そしてケンシロウに額に秘孔を突かれ
 一ヶ月の命となった悲劇のキャラクターJony BAR 105の経営者ジョニーであった。

 「何でアルコール全部切れてんだよ!? やる気あるのか!?」

 「だから! 前に金髪の女が『お兄さん、作物の種上げるからとびっきりのアルコールくれない?』って言うからこの扉
 開けたらよぉ……。あの女その瞬間に拳銃突きつけてメルチアルコール毎全部アルコール品ぶん盗ったんだよ!! 
 大風呂敷で食料あるなんて言ってたけど、その空の大風呂敷に言われるまま全部詰め込んだし、商売上がったりだ、こちとら!!」

 「はぁ~ん? 要するに色仕掛けに引っかかったてっ事かよ?」

 バットの小馬鹿にした言葉に涙目で五月蝿い! と怒鳴るジョニー。図星を突かれたのもあるが酒類の赤字を賄える程の物資が不足
 しているのが一番の原因だろう。

 ちくしょう! とヒステリックに叫ぶジョニーに、扉が開いた。涙目で客に挨拶しようとするジョニー、そして硬直した。

 「……うっ……い、いらっしゃい……」

 「……このガソリンと、水交換してくれ」

 「あ、ま、毎度ー」

 それは悪魔めいたヘルメットを被っていた。……ジャギだ。

 (……もうこの反応に慣れた……ケンシロウは何時来る? ……次はジャッカルとの対峙だろ? ……待たせるなよ)

 ……解っているのだろうか? ケンシロウは徒歩で、自分はバイクでここまで戻ってきた事を?

 そう苛立つジャギに不安そうに見る視線が二人……バットとリンだ。……コソコソと小さな声で喋る。無論、霊王の地獄耳の
 所為でジャギには丸聞こえであったが。

 (お、おい……あいつってケンの恋人攫った奴なんだろ? 何で無事に戻って来てるんだ!? ケンはどうなったんだよ!?)

 (私に聞かれても……けど、ケンが負けるなんて思わないし)

 「……お前達言いたい事があるんなら直接言えよ。……別に取って食いやしねぇよ……こちとら」
 
 「……ケンはどうしたの?」

 恐る恐るジャギへ問いかけるリン。ば、馬鹿! とバットに制止をかけられても自分の大好きな人の安否を知る気持ちには勝てなかった。

 「……こちとらバイクでここまで来たからな。……奴さんならなら後から来るだろうぜ? 未だあいつとは闘う気がねぇんだわ」

 「……ケンと……闘うの?」

 「あぁ、……それが俺の目的だからな」

 臆面なく呟くジャギに、リンは悲しそうに顔を伏せる。……それがジャギの心の琴線には少しばかり振れ、持ってる小袋を
 出すとジョニーにお湯を注文し、小袋に入っていた粉末を入れて差し出した。

 「飲め、そんでもって泣きそうな顔を俺の前で見せんな」

 「……これって?」

 それは湯気を立ちながら甘い香りを放つ飲み物……ココアだ。

 世紀末では結構な貴重品の飲み物にジョニーとバットは驚きつつこの人物が持ってるにしては意外な物に笑って良いのか
 驚いたほうが良いのか複雑な顔を表し、お互い顔を見合すだけに止めた。

 「……ふふっ」

 けど、それはリンからすれば微笑む行為であったらしい、ジョニーとバットは心中穏やかでなかったが、目の前のヘルメットの男は
 気分を害す様子はなく、鼻息一つ出してマスターへと声をぶっきらぼうにかけた。

 「……酒」

 「……あ、すまねぇけど酒は切らしてるんだ。……この前強盗にあってよ」

 「強盗? ……アルコール全部かよ?」

 「あぁ……金髪の女がよぉ、拳銃で脅してき……ウグッ!?」

 その瞬間、ジャギは雰囲気を一変させジョニーの胸倉を掴んでいた。

 「何時来た!? そいつは何時!?」

 「……み、三日前……っ!」

 「三日……! ……くそっ! ……俺がもう少し早く来てれば……っ!」

 カウンターを叩き壊しそうな勢いでジャギは拳を振り下ろす。その口調には胸を締め付ける位の悲哀が満ちている。

 「……何だ、知り合いだったのか?」

 「……っ一年は……経ってんだ。……元気そうだったか? そいつ」

 「あぁ……服装は汚れてたけど健康的な娘だったな。だからこっちも丸ごと奪われたんだけどよ」

 「!……そっか……元気そうだったか……っ」

 感無量とばかりに溜息を吐く。……色々と苦しい出来事に対処し緊張の続く毎日の中で、アンナの生存の報告はジャギにとって
 唯一の癒しであった。……振り絞るようにジョニーへ告げる。

 「……今度会う時があったら。俺も元気にやっているって伝えてくれねぇか? ……頼む」

 「いや、別に構わないけど……あんたの名前は」

 「……俺は」

 その時、まるで待ってたかのように、ケンシロウが現れた。

 









 「……お前は……何でここに居る?」
 
 「……俺様が何処で何を飲んでいようが構わねぇだろうが? ……まぁこの小娘達がいたからてめぇが来るとは予想してたけどな」

 そう空気を変質させゆらりとジャギは立ち上がる。自然と構えるケンシロウ。

 「お、おい! ケンカするなら外でやってくれよ!」

 ただならぬ様子にジョニーは慌てる。当然だ、一番の売り上げの酒も無くなり、おまけに自分の店も壊されたら堪ったもんじゃない。
 もっとも、それをジャギは予測している。ゆえに、ジャギはその言葉に素直に椅子へ音立て座り直した。

 「……お前」

 「ヒヒヒヒ! ここで闘りはしねぇぜ? その方がお前の苛立つ顔も見れるってもんよ!!」

 怒気含んだケンシロウの声にジャギは嘯く。その横をすり抜けてバットとリンは喜びの声を上げる、そしてジョニーの無事に
 帰ってきた事に対し驚きの言葉……それを皮切りにあの場面が再来された。

 「……ほぉ? お前がGOLANを壊滅させたのか?」

 「お前を探してた。俺達の元に来てもらおうか?」

 大柄な男二人がケンシロウへと勧誘の言葉を上げる。それに対しバットは無謀にも近づき間に入り大男の一人に殴られ吹き飛んだ。
 そこまでは正史と同じ風景、だがその風景に一人の乱入者がいる事が少しだけ歴史を変える。


                                   ガッ


 「……気ぃつけろ、ガキ」

 「お……あ、ありがとな……しょっとして意外と優しいのか? あんた?」

 「……けっ」

 吹き飛ばされたバットを受け止めたジャギ、それに礼を言いつつ人物像を若干修正しても良いかな? と思うバット。
 ジャギは不機嫌に顔を背け、事の成り行きを見守った。

 ……小さなボロボロの子供が現れる。……タキだ。
 ……予想通り、ケンシロウはバットとリンを伴い出て行く、そしてジャグジーへと入っていたジャッカルが仲間二人を潰した。

 ……時は来た。のっそりと立ち上がるとジャギは大股でジャッカルへと近づいた。


 「……よぉ? あんたが最近有名なジャッカルさんか?」
 
 着替えるジャッカルへと、悪意の香りを巻き上げながら問いかけるジャギ。

 「……あぁ、そうだぜ。何か用か?」

 「なぁに……最近手に職ないといけないなぁって思ってよ……雇わねぇか? ……俺もあの野郎と同じ位強いぜ?」

 「……良いだろう。だが、妙な真似したら直ぐに俺様のペットの餌にするぜ?」

 (……ペット?)

 ジャッカルとジャギ、……色々とある世界ではジャギの部下であったジャッカル。今回はジャギがジャッカルの部下となった。
 ……その真意は決してジャッカルに従う気は無かったが、それでも歴史はその道筋へと針路を決めた。











 





 ……場所はトヨの居る村を見下ろせる場所。そこへと腕を組みつつ眺めるジャッカル達と面倒臭そうに佇むジャギ。
 ……ジャッカル達が村を襲う時刻を聞きながらじわじわと心の中に湧き出る殺意を押し隠し思考をしていた。

 (……デビルリバースはちと強敵だが……まぁ今のケンシロウに任す位なら俺が倒すか。……けどタキはこのままだと見殺しに
 するしかねぇなぁ……やっぱ俺は救世主は似合わねぇ……本当なら助けれるガキの命一人無視してんだから……)

 そうジャギの心には深く深く負の感情が占めている。……だが、その一方でタキは元気そうに水をトヨへと届けてる姿があったのを
 ジャギは知らない。……何故こんな事が起きたのかと言うと一時間前へ遡る。











 「……よしっ、誰もいない」
 井戸の水を汲み上げ、必死に水筒へと入れたタキ。水を盗むと言う事が今の時代ではとてもいけない事とはわかってる。
 けれど必死に皆に水を分け乾きを我慢している自分の母と言えるトヨへと水を渡したい気持ちは、今は盗みすら厭わなかった。
 ……その時声がした。それは正史では水の番人をしているモヒカンであった。だがここでは違った。突如として振ってきた声は
 正史の野太いモヒカンの声ではなく、若い活発な女性の声だった。


 「……こぉら!」


 「え? うわぁあ!?」

 ゴッ……と頭に鈍い衝撃が出現する。目から火花を出しつつ水筒を落とし頭を押さえるタキ。……そこには金髪の女性が睨み立っていた。

 「水泥棒なんてするもんじゃないよ? 本当なら死んでも仕方が無いよ、君?」

 めっ! と指を振って注意する金髪の女性。それに酷い目には遭いそうにないと若干安心しつつタキは弁明を言葉にする。

 「ご、御免なさい! ……け、けどお婆ちゃんが……」

 「お婆ちゃん? ……ふ~ん、それで水を……ね」

 そう言って水筒を持ち上げる女性。どうするのかとハラハラとタキは見守る。

 「……なら私と勝負したら水上げても良いわよ?」

 「えぇ!? そんな、僕闘えないし……」

 「誰も喧嘩なんて言ってないわよ。ジャンケンよ、ジャンケン。それで勝ったらあげるし、負けたら大人しく帰りなさい」

 その言葉に不満気な顔をするタキ。当然だろう、乱暴な事はされないにしても折角、水をお婆ちゃんへと持っていけそうだったのが
 ジャンケンなどで駄目になってしまうかもしれないのだ。

 「あ、その前にこの植物の種……邪魔だから持っててくれる?」

 「え、いや、あの」

 「はいっ! ジャンケンポン!!」

 女性が落とした種を反射的に受け止め握り締めるタキ。その瞬間に不意打ちで女性は仕掛けてきた。……驚き反射的に
 握りこぶしを出すタキ……そして女性はチョキを出していた。

 「え……お姉さん?」

 信じられない、と言った調子で声をかけるタキに、わざとらしく額を手で押さえてアンナは呻き、その後二ヤッと笑み浮かべ言った。

 「……ほらほら、行った行った! すぐ出て行かないとまた拳骨が振るよ?」

 そう笑顔で言い放つ女性に、タキは満面の笑顔でお礼を言うと走り去った。……タキが去った後に女性……アンナは言った。

 「……ま、この方が幸せだよね。……ジャギ、遠くから見守ってるよ? だから頑張って……もうすぐで終わるよね?」

 そう言ってアンナは物陰に置いてあったバイクへと飛び乗った。……脇には血を噴出し絶命しているモヒカンの屍があった。











 ……夜、トヨの村の井戸から水を出したケンシロウ。滞在する事になったケンシロウ達に、一発の銃声が聞こえた。

 「……む? ……遠く、だな」

 聞こえてきた方向が、村より少し離れているのを確認し少しだけ安堵するケンシロウ。警戒は怠らないが、今は安眠している
 村の者達を無闇に脅かしたくないと思い、夜の外に静かに佇むだけに留まった。……そしてケンシロウには平和な一夜が過ぎる。
 









 ……彼は知らない。その夜に起きた事件……ジャッカル達とジャギの激闘を。










 
 



響き渡るバイクのエンジン音、そして唸るジャッカルの手下達……その中心には腕を組み嘲笑うジャギの姿が荒野にあった。
 そしてジャギの周囲には不意打ちで首を折られたモヒカンが並んでる、全部油断していたのをジャギに殺された連中だ。
 
 「……てめぇ……! 何いきなり裏切るなんぞ言ってるんだ……っ!?」

 「……言ったろ? 手に職欲しいってよ。……俺にはやっぱりこの職があってんだよ……悪魔狩りって言うな……」

 そう言ってヒヒヒヒ……! と笑うジャギ。それにジャッカルの手下達の一人の元ボクサーが叫んだ。

 「てめぇ! この俺が相手してやる! 元ヘビー級を舐めるなよ!!」

 そう言って右ストレートを繰り出す。本来ならば普通のモヒカンの首をへし折るほどの威力も、北斗神拳を扱う人間には
 とてもではないか効かない……。

                                  ドガ……ッ

 「……こんなもんか?」

 「な……!? ビクともしない……だと!?」

 あえて顔で受け止めるのは自分の力量をアピールする為、ジャッカルへと恐怖を植えつける為、今までの所業を知識として
 見てるだけでも、ジャッカルを殺す事にジャギは何とも思っていなかった。

 「……痒くもねぇ、いいか? パンチってのはなぁ……こうすんだよ!!」

 

                                  ドガァ!!!!



 振りかぶったジャギの右ストレート。それは元ボクサーの首の骨を完全に折った。
 
 「あべしっ!!!?」

 「……ちっ、一発で首の骨お釈迦かよ。……次は誰だ?」

 悲鳴を上げてジャッカルの手下達は後退する。自分達ではとてもじゃないが勝てないとわかったから。そしてお決まりの手段へ
 ジャッカルの手下達は走る。そう、ジャギを相手するには、北斗神拳を相手するには最悪の手段をだ。

 「う、撃て! 撃てぇ!!」

 手下達が一斉掃射をジャギ目掛けて放つ。矢を、銃弾を、投擲の刃物を……それを溜息一つ吐いてジャギは小さく呟く。




                       『……羅漢の構え』    『……二指真空把』



  ……そして悲鳴を上げてジャッカルの手下の大半は全滅し、荒野の土を紅く染めるのであった。

 そのジャギの異常とも言える強さに戦慄しながら、冷や汗を流しジャッカルはお得意の話術で叫ぶ。

 「は、ははははは!! やるなぁおい!? ……な、なぁ!? 食料とガソリンならたんまり貯蔵してある!! お前を正式に俺達の
 仲間にしてやる! ど、どうだ!?」

 男の所業を見ても勧誘する真似が出来るのは今まで神さえ欺けると確信していたジャッカルの性根ゆえか? ……ジャギは呟いた。

 「……俺が一番何が嫌いかわかるか?」

 「は? ……な、何だ?」

 「……そいつは悪魔だ。俺以外の悪魔染みた奴が全部許さねぇ、俺様が悪魔になっても受け入れてくれる奴がいる。……だが
 お前達のような悪魔はあいつは許さねぇだろう……だからてめぇは八つ裂きにしてやる。……その耳が悪魔に似ている」

 「なっ……!? て、てめぇ俺が何をしてるか知りもしねぇで……」

 「ピレニィプリズン」

 そのジャギの呟いた言葉にジャッカルは硬直する。……ジャギの言葉は続く。

 「……てめぇの正体は既に知ってる。……そんでもってあの村を襲ったらお前は次に何を得ようとする? 何を生贄にする?
 ……想像するだけで胸糞悪ぃ……俺は今すぐてめぇを世界から消し去ってやりてぇよ」

 その憎悪で形成された声はジャッカルの耳を打ち付ける。違う!……こいつは俺で勝てるような相手ではない! ……と。

 







「……くっ!!」 



バイクに飛び乗りジャッカルは逃げる。……目標はピレニィプリズンであろう。

 ジャギはバイクを吹かしつつ、トヨの村を見下ろす。……そして静かに小さく声を紡いだ。


 「……ゆっくり眠りな、ケンシロウ。……もう少しでラオウと対決するんだ、精々体を休ませておけ……」



  













 そしてバイクを走らせジャッカルをジャギは追う。……ジャギは知らない、……自分がこれから対決する物が歴史の歪みで
 起きた怪物である事を、そしてその力の強大さを……未だ知らない。











     あとがき


  次回、ジャギvsスーパーミュータント






   ……正直戦闘描写きついっす(´;ω;`)









[25323] 第八十話『ピレニィプリズンの死闘! 獣神VS狂神』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/10 18:28
  (???)


               ……餌ガ欲シイ


   そう暗闇の中でソレは惰眠の中で本能が欲していた。
 
   何十もの肉を食し、ソレには獣並みの知性しか最初は存在せず、そして本来の環境とは違う地域ゆえに体は崩壊するはずだった。

   だが時折り食す存在に違いがある事が知った。……『力のある肉』と『力のない肉』がある事。……それが自分の肉体
 の崩壊を防ぐ術に繋がるとソレは段々肉を取り込む事で知性を身につけていた。

 ……自分の首輪となる物を持ってる餌の一つは自分が言葉を始めて喋った時に怯えた顔をしていた。……餌は全部そんな顔をしてた。

 ……この暗闇は故郷を思い出し少しだけ安らげる。……故郷の情景……逃げ惑う餌達を仲間と共に食してた時を思い出す。

 ……情景が変わる。……餌……否、ワタシノツマ……ドウシテワタシハコンナモノ二ナッ……餌が餌の食事を出してる情景。
 ……?? 自分は理解出来ず餌を食べようと口を開く、だがすぐに食べれる大きさの口が、その時餌と同じほどの大きさに
 なってる事を気付いた。……不思議に思う自分に、餌は口を開ける自分に餌の食事を放り込んでいた。……コノ感情ハ何だろう?

 ……夢が終わる。そして暗闇の自分の巣に何者かが近づいてくるのがソレの本能が告げていた。

 ……音が遠方から聞こえる。……また自分の首輪を握る餌が来る音だろう。

 ……ふと、先程の夢が何か気にかかり、……そして直ぐに消えた。……今は餌を食べる事だけに集中しよう……。






 (……ビーストを出すしかねぇ!! 本当ならあの不気味な化け物出したくねぇがそうは言ってられねぇ……くそが! ジョーカー
 の野郎とんでもない化け物寄越しやがったな!? デビルの方があれよりは未だマシだった気がするぜ!!)


 バイクで滑走しつつジャッカルは汗を流しながら思考する。もう少しでピレニィプリズンへと着く。……手に握ってるのは
 ビーストを操るリモコン。……前は『ビースト・キング』等と呼んで機嫌よく自分の道具として利用していたが、最近では
 その道具の不気味な進化にジャッカルは扱いきれなくなったと思っていたのだ。

 (……化け物は所詮化け物か……っ。あの化け物手当たり次第に人喰った後は俺の部下まで食いやがって……! しかも
 この俺まで喰いたそうに……っ! ……問題ねぇ! あの悪魔じみた野郎を食わせれば満足するだろうが!)

 そう心の中で叫びジャッカルはピレニィプリズンへと到着した。……そこにはジャッカルの部下であるフォックスとその部下が居た。

 「うん?……どうしたジャッカル、そんな血相変え」

 「お前ら今から来る野郎を引き止めて置け! 俺はビーストを起こす!!」

 そのジャッカルの声にフォックスは顔色を変えるとジャッカルへ叫んだ。

 「正気か!? あの化け物最近俺達まで食べようと思ってるじゃねぇかよ!? そいつら集団なんだろうな!? じゃねぇと
 あいつ満足しないで俺達まで食おうと……」

 「ごちゃごちゃ言うな! 大丈夫だっ! 俺様に考えがある! 信用しろ!!」

 「……わ、わかった。そこまで言うなら信用するぜ!」

 フォックス達部下が陣形を作るのを尻目にジャッカルはピレニィプリズンの扉を開ける。そこには既に門番はいない。
 全部デビルの去った後にビーストの監視役として置かれていたが、ビーストの腹の中へと収まってしまったのだから。
 ジャッカルはフォックスがあの男を倒せるとは思っていない。ビーストを覚醒させるのに少しでも時間が稼げればそれで良いのだ。

 (ビーストには誰も勝てねぇ! 手下はを全部食わせれば満足するはずだ。……今はあの野郎を倒す! 俺の切り札を使ってなぁ!!)
 
 ジャッカルはそう思考しながら、ピレニィプリズンの暗闇へと叫んだ。


                       




                            「起きろビースト! 目覚めの時間だ!!」








 



……襲い掛かったジャッカルの残りの手下を順当に片付けると、少し歩いた先に居たのは横たわっている人間。
 

 「……死体……か」

 ピレニィプリズンへ辿り着き、そこに横たわっている死体を見てポツリと呟くジャギ、……死体の名前はフォックス。
 これだけでもはやジャギにはフォックスの奇襲を、太陽が明日昇る程に理解していたが、あえてフォックスへ気付かせはしない。

 (そうだぁあ~~~通り過ぎろ~~~通り過ぎた瞬間に俺の跳刀地背拳で切刻んでてめぇは即死だぁ~~~~)

 「……俺の母国では」

 (……あん? 何呟いてんだ? 早く通り過ぎろって!!)

 「俺の国ではよ……死体が転がっていたらとりあえず燃やさなくちゃいけねぇんだよな。……どんな野獣であろうと死ねば骸……
 せめて死後は安らかに逝ける様によ……」

  パシャ、パシャ……死体の振りをするフォックスは自分の体にかけられる冷たい液体とその異臭に戦慄する。

 (が、ガソリン……!? ば、ば、ば、馬鹿野郎~~~!?!? このまま燃やす気かぁ~こいつぅ~~~!!??)

 ジャギは冷たい目でマッチを一本擦ると、その小さな種火を空中へと放り投げて呟いた。

 「……じゃあな」

 (じゃあなじゃねぇよぉ~~~!!? 何てめぇ人燃やそうとしてんだぁ~!!!!」

 最後の方は叫びながらフォックスは背筋で跳躍すると、自慢の跳刀地背拳を繰り出した。

 「はっははははは!! 俺様の跳刀地背拳は大地に味方された拳! てめぇの体はまっぷた『うるせぇって』は!?」

 ドッ……と気がつけば背面を正史と同じく足で支えられたフォックス、冷や汗を流すフォックスへ冷たくジャギは言った。

 「……おめぇの弱点は背面ががら空きな事……ってわざわざお前に説明する気も起きねぇわ。……地獄で元気でな」

 「て、てめっ」

  
                                   『北斗邪技弾』


 「……ヘルメットが汚れるんだよ……ったく」

 後ろからフォックスの頭を気の銃弾で消し去ったジャギ。……重力によって垂れてきた血を拭きつつピレニィプリズンへ入った……。



 (……? いやに静かだな? ……デビルの咆哮でも聞こえてくると思ってたが……)

 暗闇の中を突き進んでいくジャギ、……そのピレニィプリズンの闇の中をジャッカルの声が響き渡った。

 「……ハハハハ!! 良くここまで来たなぁ! だがてめぇはもう終わりだ!! これから俺様のペットに殺されるんだよ、おい!」

 「……デビルをペット扱いかよ? 中々大した自信じゃねぇか!?」

 『正史』を知っているジャギとしては、今の言葉は挑発であった。……だが次のジャッカルの言葉に思考は止まった。

 「デビルぅ?……そんなのはもう此処にはいねぇよ!! 此処にいるのはビースト・キング! 最強最悪の生体兵器だぁ!!!」

 
                                 (……何?)


 その言葉に歩みを止めるジャギ、その瞬間何かの気配が自分に瞬間移動並みのスピードで迫ったかと思うと腹部にトラックが
 衝突したような衝撃と共に、ジャギは気がつけば自分が先程見ていた真っ青な空へとピレニィプリズンの天井を突き破って
 飛ばされた事を脳が理解した。……吹き飛ばされた、『何』かに。

 ……脳が理解した瞬間、圧迫感が胸を襲い内蔵が痛めつけられ血が込み上げる。もう少し肉体を鍛えてなければ死んでいた。……!
 血の嘔吐を出しつつ、立ち上がるジャギ。その後に自分が突き破った地面から何かが日の光の下で正体を明らかにした。


                   







                          ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル…………ッ


 




 「……勘弁しろよ。B級モンスターなんぞ最近見飽きた所だぜ?」

 そこに居たのは二足歩行の怪物。鋭い鉄のような爪を携え緑色の爬虫類の肌をしていた。そして瞳はカメレオンの如く
 自分と周囲を巡るましく移動し、先程自分を打ち上げた時に僅かについた血を触手状の舌で掬い取っていた。

 「はははは!! 驚いたか!? これが俺様の切り札! 生体兵器の『ビースト・キング』だ!!」

 「……その化け物、ジョーカーとか言う野郎から貰ったのか?」

 立ち上がり表情の見えぬジャギは問いかける。それにビーストの背中から降りると顎を撫でながらジャッカルは叫んだ。

 「そうだ! あの野郎とデビルで取引したのがこいつよぉ! てめぇはこいつの餌になって貰うぜ! ……ついでに教えてやる!
 最近人攫いしてたのはこのジャッカル様よ! 全部こいつの餌にする為になぁ!!!」


                                  ……ピク

 
 無言で体は揺れる。そして動きを見せぬジャギへとビーストはその異常とも言えるスピードを活かし爪を振るった。



                           ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!


 吹き飛ばされるジャギ、それにジャッカルは爆笑しつつ叫ぶ。

 「良いぜ、最高だビースト!! やっぱてめぇは俺の救世主だぜ!! 止めだ! 止めを刺してやれ! 未だ油断するなよ!!」

 ……吹き飛ばされた粉塵の煙の中から、血だらけの体を引き摺りジャギは現れる。それにビーストは音声を放った。

 「グリリリリ……! モット! モットコイ!!」

 爪を器用に曲げて挑発に似た真似をするビースト。それにジャッカルはまた知性が上がった事に冷や汗を流しつつも、これなら
 勝てると余裕の笑みを貼り付けている。……その時静かな声が、ジャギの口から漏れ出た。

 「……そいつに、人、食わせたのか?」

 「ああそうよ!! 何故ならこいつの主食は人肉なんでな!! てめぇが今日の主賓よ! 喰い応えがあるよなぁビースト!!」

 笑うジャッカル……そいつは気付かない、『ジャギ』であれば何とも思わないかも知れない。だがジャギには、その所業は
 完全に理性を拭い去る言葉だった。自身に残っている善の感情は、その言葉を火種として負の感情を胸に燃え広がせた。

 無言で立ち尽くすジャギをビーストは強烈な一撃を叩き込まんと水平に鉄の爪を腕のバネだけで振るう。……しゃがみ避けるジャギ。

 横斜め、右縦、×印、突き……ビーストはあらゆる方向から攻撃を繰り出すがジャギは先程とは違いまったく攻撃が
 当たらなくなっていた。……それにジャッカルは苛立ちビーストへ叫ぶ。

 「何やってんだビースト!? 舌だ!! 舌で動きを封じまえ!!」

 その言葉にビーストは舌を鞭のように振るいジャギの首に巻きつけた。そして動きを止めるジャギ。勝った……! ジャッカルは
 確信するがその瞬間に目を驚愕に最大限まで開いた。


                                   ドシュッ!!

 
 「グリピイイィ!!!?」

 「び、ビースト!!!?」

 

 無言でジャギが自分のショルダーのトゲを先日カーネルの目玉に刺した時の要領でビーストの舌をトゲで貫く。
 その痛みにビーストは悲鳴を上げてジャギの首から舌を離す。ジャッカルもビーストが始めて上げる悲鳴に不安で名前を叫んだ。

 だがビーストも生体兵器としては異常な能力を持ち合わせた生物。ゆえにすぐ反撃で爪を振るいまた壁へとジャギを吹き飛ばした。
 ……意識が揺らぐ、そして衝撃によりヘルメットには僅かながら皹が入る。
 その皹すら自分の事を守る女神からの武具を穢された気がして、恥ずべき気持ちが沸き起こり、注意深く、それを壊れ物
 のようにジャギはヘルメットを外すと置いた。

 「……少し、待っててくれ」

 それがまるで自身の恋人の代わりのように、置いたヘルメットへ優しく呟く。
 
 そして粉塵の先で咆哮を上げる獣神の如き化け物へと、ジャギは言った。

 「……この技はラオウと闘う時まで封じて置くつもりだった。……使用すると周囲の人間まで傷つけるんでなぁ……。
 けど、この状況なら何も問題ねぇ。感謝しろよ? これを最初に見せるのはお前が初めてだ……!」












 


 ……昔、自分は如何しようもない人間だった。

 あの救世主を地獄へ叩き落す為に手下を使い村を襲い、人を殺し、女を犯し、……それを何世紀償っても、何世紀懺悔しても
 その時自分が奪い失った命は戻りはしない。最後の最後、自分は滅するまでそれを苛み生き続けなければならない。

 そして『俺』は平和な核とは無縁な場所で仲間を作り、家族と過ごす。……『平凡な幸せ』を過ごすと言う幸福を理解した。
 ゆえに弱者強者の関係なく命の重さを知れる。ゆえに過去の自分の贖罪でさえ憑依したジャギは苦しむのだ。

 ゆえに、この世界は自分にとっては異常ゆえに、その甘い世界の価値観や倫理観では決して生き残れない世界を受けれいれる
 事は出来なかった。……そこに苦しんでいる所へ『あいつ』は言う。

 ……苦シメ、悩メ、と『あいつ』は言った。……『昔の俺』は嘲笑(わら)いながらそう諭す。それゆえに、苦悩の果てに俺が
 辿り着いた答えはこう。……この世界が『正常』ゆえに自分は狂っているのだ。……『俺』が『異常』だと辿り着いた。

 『あいつ』はそう思考した俺に拍手して言う。そうだ、お前の思考は正しい、何故ならお前が異常であると認めるがゆえに
 お前はその歪みの果てで強くなろうと決意するだろうと。

 ……ならば俺は狂おう、狂い果てよう。そうすれば俺が彼女を守れるなら……。

 俺は暗闇の中でヘルメットを被ったあいつの行動を鏡合わせのように真似する。あいつと同じく片手を顔まで持ち上げる。……そして、
 そして指を米神へと持っていった。

 



 






 元の体の持ち主はその奥義を身につけるが為に阿片の力を借りた。その力、邪道の力ゆえに、その体の人物には阿片を頼るしかなかった。

 だが、この体を扱う人間は『既に狂っていた』。ゆえに奥義を得るのは容易い。それもその筈、愛する女一人を救うために
 輪廻の輪を超えてまで時を一周してまでもその女の未来を変える意思は既に『狂気』と呼んでも差し支えの無い代物である。
 だからこそ、男はそのもう一つの意思と共に心の中で言葉を紡いだ。
 




 『……俺達は狂った存在だ。……だからこそ俺達は扱える。人間だからこそ、悲しい程神なんぞに辿り着けない俺達だからこそ
 この技を扱おう。……なぁジャギ? そうだろ? 俺達は救世主なんぞにはなれねぇ。……俺達は悪魔で十分だ、異端の悪魔。
 ……俺達は悪魔だ。だからこそ……』







                                「今は悪魔が微笑む時代なんだ……っ!」




  

                       ……その技の名は    『狂神魂』






 ……ビーストの破壊の力により起きた粉塵、だがそれは立ち上がった男が何かをした瞬間に気合で吹き飛んでいた……男の姿が現れる。

 それは米神に指を当て獰猛な顔へと変化して行く男の姿。髪の毛は直角に立ち並び、その気配は死を予言させる物へ変化する。

 「……へ、へ! はったりかましやがって……ビースト! 後一息だ!! 殺せぇええ!!」

 そのジャッカルの命令にビーストは従わない。当然であろう、ビーストの本能はその男の力が増した事に気付いていた。
 ゆえに迂闊に飛び込む真似はしない、そのような真似は瞬時の『死』へと結びつくから。

 「……ひゅううううぅ! ……来ない、なら……こちらから行くぞ!」

 そうジャギは変化した顔で笑みを浮かべ地面の破片を掌に置く。その技の名は『操気掌』接近戦ならば相手の気を抜く技
 であるが、別の使い方も出来る。……例えばこのようにだ。


                           「むううううぅうん……おおらぁッ!!!」


  


 破片を掌で気を纏いながらビースト目掛けて飛ばすジャギ。その破片は散弾銃の如く威力を秘め、腕を交差してガードするビーストの
 防御すら貫き衝撃を食らわした。


 「グギィイイイイイイイイィ!!??」

 だが、脚は地面を削りつつもそのビーストの瞳には未だ戦闘の意思が生きている。

 「ほぉ……! まだ闘えるか……!」

 鉄の爪を構え戦闘体勢に入るビーストに、凶悪な雰囲気を纏いながら感心の笑みを浮かべるジャギ。それをジャッカルは
 援護も言葉を出す事も出来ず見守る事しか出来ない。

 (な、何だあの変わりようは……!? ……い、いやビーストが負けるはずがねぇ!! 奴の力はデビル以上の筈なんだ!!)










 ……目の前の餌は今までの餌ともまったく異なっていた。

 まずとても自分のように強く、そしてその強さは最初感じなかったのに、首輪を持ってる餌が何かを叫んだ瞬間に、その餌は
 強くなっていた。……言葉だけで餌とは強くなる事が出来るのだろうか?

 餌はいきなり自分では防げないような、普段なら痒みすら起きないのにただの破片をぶつけて自分に傷をつけた。

 ……その傷に何かが思い出しそうになる。……まただ、また餌が餌の食事を作っている風景を思い出した。

 これは何だ?? 何なんだ??? 

 理解できない事にソレは苦しみ、ゆえに苛立ちはソレに何かしらの科学物質を生み出し、それに更に力を与え始めていた……。









  


(……ク……頭痛ガ……聴覚……視覚……触覚マデ異常二ナッテャガル……!!)


 ジャギの顔つきが必死に痛みと格闘する顔へと変貌している。
 先程からその怪物の爪を『狂神魂』によって高まった闘気の鎧で防ぎつつ反撃を繰り出すが、異常な俊敏性が悉くジャギの
 攻撃をいなしていた、膠着状態の続く中、ジャギには焦りが浮かぶ。

 『狂神魂』とは自身の狂気を高め肉体の力を自身の本来の力以上に引き出す技、ゆえにその代償としてジャギのオリジナルでは
 あるが自分の全感覚にすら変化を及ぼす事を代償にしているのだった。
 軽口で拳を避けるビーストへと言葉をかける。だが、それは正直な今の心中の感想でもある。長時間の『狂神魂』の維持は
 体力の大半を奪うのだから。

 「……クッ……ソロソロ決着を付ヶたいンだがなぁ?」

 



                 八つ裂きにしろ       引き裂け       コロセ 
        潰せ       挽肉にしろ            悲鳴を上げさせろ
                  
           滅ぼせ         燃  やせ          切     刻んでやれ


 「む……っ!!」

 視界に生物がいれば無意識に自分の拳の犠牲にしてしまうかもしれない邪拳ゆえに、ジャギはこの力を人間にはなるべく
 使わないようにしていた。ゆえにこの状況で『この技』は最良ではあるが、ゆえにその作用を制御する事もジャギには困難である。


 ビーストもビーストで、自分の思考に先程から浮かび上がる情景に胸の部分が痛みを発生し、その違和感に混乱している。

 どちらもお互いの力が互いに蝕んでいるのだった。
 ……それをジャッカルは見守りながら勝機を確信した。


 (……こ、こいつはチャンスか!? ……俺にはまったく見えない速さで拳を打ち合ってるが幸運にも膠着してやがる。
 ……よっしゃあ、今なら目障りな二匹を潰せるぜ!!)

 ジャッカルにとって、ビーストは今この瞬間に自分の生活を脅かす物と決定的になる。それは狂神のように闘う男へと互角の力で
 闘う獣神の化身のようなビーストの凄まじさを目の当たりにしてだろう。

 その姿に後々この化け物は自分では手に負えなくなると感じたのがジャッカルの切り捨てる要因。デビルならば未だ人間の姿で
 ある事がジャッカルの気持ちに余裕を持たせたかも知れないが、人間とは全く異なる風貌は、ジャッカルの安全措置に働きかける心
 が上回ったのだ。……ゆえにジャッカルは懐からダイナマイト取り出すと二人へと凶悪な笑みで叫んだ。

 

                         「残念ながら終わりだ! 『南斗爆殺拳』!!!」





  「むっ!?」
  
  「……!!」

 壮絶な打ち合いをしていたジャギとビーストの目に、大束のダイナマイトが自分達目掛けて振ってくるのを視認する。……間に合わない!
 ジャッカルはジャギが両手を突き出し、ビーストが体を腕て覆い無駄な抗いを見せるのを最後に、爆炎はジャギとビーストを包んだ。





                              ドガアアアアアアアアアアアアアアアンン!!!!……!!










 ……ピレニィプリズンの上にある闘技場は爆炎で包まれた。
 大量の噴煙が辺りを包む、それを見ながら爆発から逃れていたジャッカルは立ち上がると叫んだ。

 「は、はははははっ!!! よっしゃあ二匹とも死んだぜ!! ざまあ見ろっ!!! てめぇ達如きがジャッカル様に
 勝つなん百年経とうが不可能なんだよ、おい!!!」

 ジャッカルの哄笑がピレニィプリズン上空を響き渡る。……哄笑を上げ続けるジャッカルを余所に、噴煙は晴れていく。

 「へっ、流石のビースト言えどダイナマイト直接浴びて無事では済まねぇだろうが? ……最も生きてた所でこのスイッチさえ
 あれば幾らでも命令で停止させて自殺、でも……」

 ジャッカルはそこで言葉を止め、晴れた噴煙から現れた者を見ると銜えた葉巻を落とした。

 


 「……よぉ……早い再開だな?」

 「……グルルルルルル……ッ」



 そこには正面に焼き焦げを浮かべつつも無事なビーストとジャギが立っていた。……種明かしはこう。
 『狂神魂』により増さり立ち上っていた気をジャギは『羅漢の構え』をしつつ『北斗震天雷』……闘気をドーム状にに展開し
 爆発の衝撃と火炎から身を守ったのだ。……そしてビーストはと言えば瞬時に地面へ体を伏せると、爆発の衝撃を地面にほぼ吸収させ、生体兵器ゆえの異常なまでの硬質化した肌がダイナマイトの威力に勝ったのだ。


 


 「……人の闘いに茶々入れるとは……てめぇ覚悟は出来てるよな?」

 ……ジャギにとって化け物と言えど好敵手。ゆえにその闘いを穢すものは何人たりえど許さない。凶悪な瞳を光らせジャッカルへ
 歩もうとする。……それにビーストは静かに目前へと立ちはたがった。
 そのいじらしいまでの忠誠心にビーストに尊敬の念が心に過ぎるが、獣なのだから操られているだけかと頭を振り否定する。

 「……!! そ、そうだビースト良い子だ! てめぇはそいつぶっ殺すんだよ!」

 背後で喚くジャッカルにジャギは殺意を膨らませる。……だが、ビーストの様子にジャギは怒りが雲散していく。……様子が可笑しい。
 鉄の爪に視線を固定しつつ悲しげな声で呟いている。それは狂気で周囲の音声が可笑しく聞こえる耳でも正確に捉える事が出来た。

 「……グルル……俺ハ……そうか……コロサレ……妻、モ……(俺は……そうか殺されたのか……妻も、あの時に……)」

 「……!? お前」

 そのビーストの気配には、……『人間』の気配しか発生されていない。ジャギはそれが人間であったと言う事が、その様子と言葉を
 見て確信する。それと同時にジョーカーへの殺意が心の花を満開以上に咲かせるのを感じる。……ビーストが構えた。
 そして、その言葉にジャギは自分の狂気で高まった感情すら一時忘れてビーストの言葉が心を捉えた。

 




               





               「……セメ、テ……拳法家……ト……si……て(せめて拳法家として殺してくれ)」


               「……oreo……妻……ノ元(俺を……妻の元へ往かせてくれ)」




  





  「……ビースト」

  「……グルルルルルルルルゥゥゥウウ!!!」

 そして人間としての気配は消え闘争に満ちた殺意の気配がビーストへ戻る。……ジャギは柄でも無いと思いつつビーストへ言った。

 「……わかったぜ。……ならてめぇに教えてやる。……世界最強の拳の味を! 北斗神拳の真髄を……思い知らせるてやる!!」


  そして二人は駆けた。……一人はその変えられてしまった鉄の爪で全てを裂こうとジャギ目掛けて全ての力を込めて振り下ろす。

  そしてジャギは拳を構えた。走りながら右腕を振り上げ殴りつける体勢でビーストへ向かう、そしてその拳の名を叫んだ。





                           ギャアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオ!!!!





                                『北斗七死星点』!!!






   




 その瞬間……ピレニィプリズンに一陣の風が吹き、……世界を数秒止めた。
 ……背中を向き合う二人。そしてビーストの胸には北斗七星の跡に打撃痕が残っていた。


 「……あばよ、……てめぇ立派だったぜ」

 「……スマ……ン」








 ドサッ……   最後に微笑みを作り、ビーストはそのまま息絶えた。……生体兵器に改造されてもその心には最後に、愛する
 者の顔が映っていたと、……ジャギはその亡骸を見下ろしつつ願うのであった。
 改造される前は幸せに家庭を築いていただろう名も知らぬ拳法家……その歪みの犠牲になった人物へ黙祷しつつ。

 ……そして、断罪の時は下される。





 「……よぉ? ……随分と舐めた真似をしてくれたなぁ?」

 「ひ、は、ははははあんた良くぞビーストを倒してくれた。いやぁ~良かった、あんたは救世主だ」

 「黙りやがれ……! ……てめぇなんぞがビーストの何を知ってやがるんだ! あいつの苦しみの何を知ってる!! ああぁ!!?」

 『狂神魂』の力が未だ残ってるとは言え、ジャギの怒りは激しい。自分に真正面から自身の肉体だけで戦い抜いたビースト。
ジャギにとって戦友にまで格上げされた存在を馬鹿にするのは爆弾の投下に他ならない、……そしてジャギの言葉が下る。

 「……これから貴様に生き地獄を味あわせてやる……!」

 「へ? ……ばっ!!?」

 一瞬ジャギの姿が消えたようにしかジャッカルには映らなかった。……そして何かの見ない衝撃で吹き飛ぶ、……体勢を立て直すと
 何とか反撃しようとダイナマイトに手を伸ばし、そして悲鳴を上げた。

 「ぎゃああああいいいいぃ……!?」

 「……北斗神拳奥義『醒鋭孔』……! てめぇに触れる感覚全てが激痛となる……!」

 その言葉と共に体中に強い風によって当たる破片が襲う。普段なら気にも留めない小さな破片の感触が、今はジャッカルに
 とっては死の脅威を誇示させる物にすべて変化していった。

 「た、頼む……助けて、助けてくれ!!」

  そう手を突き出し命乞いをするジャッカル。だが、ジャギは両手を広げ指を曲げ構えると口を開きつつ……跳んだ。

 「……最初に言った筈だ……てめぇだけは……」





 そして、この十五年余りで完成させた新しい南斗聖拳を繰り出したのだであった。



                 八つ裂きにしてやる~!!    『南斗八虐裂(ナントヤギャクレツ)!!!』


                                  「あろ!!!??」

   八虐……日本の古き法律で八つの重き罪と言われた罰。……それらを裂くようにジャギは、ジャッカルの両耳、両目、両腕
 両足……その八つの部位を切り裂いた。その今までの数々の悪行を振るった罪人の肉体を鬼の代わりのように……。


 その衝撃は醒鋭孔によって痛覚をむき出しにされたジャッカルの命を完全に絶った。……この瞬間、ウォリアーズの首領ジャッカル
 の人生の終焉は落とされたのだった。
 「……一発でお陀仏か……あぁ、それとその体に巻きつけてる物……『こんな物はもはやお前に必要ない』……だろ?」

 そう言ってマッチで導火線に火をつけると、この世界からジャッカルの死骸を完全にジャギは消し去った。







  





 「……終わったぜ、ビースト。……こんなクソ野郎にこき使われて……救われねぇよな。……ちくしょう」

 ビーストの亡骸を、ピレニィプリズンの横に寝かせる。……せめてその人間の魂が天国に行けるのを祈って……。


 「……これでよ、後は牙一族とジョーカーの野郎をぶっ潰すだけだ。……お前をこんな風にした奴ら……敵は取るぜ」








  そう言ってピレニィプリズンに火を放つと、ジャギはバイクに乗り炎上して行く建物を背に走り去った。
 ……こうして何十年もの間、苦痛の声を放つピレニィプリズンの悪夢は完全に炎により消え去った。……次に狂い果てる狂神の化身が
 何処へ向かうのか? ……それは走りさるバイクの上空に輝く北極星だけが知ってるのだろう。










    あとがき


  オリジナル技『南斗八虐裂』


 うん、石投げられてもしょうがないんだ。

 因みにAC版に登場したらレイ見たいに空中で『八つ裂きにしてやる~!』って言いながらキリサケ攻撃になるよ。

 
 ……レイのパクリ? いえいえオマージュです(`・ω・´)

  



[25323] 第八十一話『等活地獄の天邪鬼の心理学講座』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/10 20:08


 「……おめぇらいい加減にしろよ。何でまた俺の所で話し聞こうとしてんだ」

 そう怒気と殺気を混ぜ合わせた空気を放つのは、花の世話の為に必死で土に地獄の竈の灰を混ぜて肥料を混ぜているジャギ。

 その周囲で怯えつつも下手に笑いながら座っているのは前回ジャギに説法を聞かされ消えかけた亡者達。……一回ジャギに
 滅ぼされかけたのにこれほど粘るのはもはや笑えてくるから不思議だ。

 「……つっても大した面白い話なんぞねぇぞ、今日はよ」

 「い、いやどんな話でも構わねぇって!! 俺達生前の辛い記憶しかないからあんたの話ってそう言うの以外の記憶が沢山
 残ってるじゃねぇか! 頼むって旦那!!」

 土下座して話を請う亡者へと、鬱陶しいと思いつつも花が同情するように揺れてるのが視界に入ると、苛立ち混じりに口を開いた。

 「……つまらなさそうだったら八つ裂きにするからな」










 「……とりあえず、俺じゃない俺。……その世紀末で善行やってるジャギの精神状態って言うのをてめぇらに教えてやろう。
 ……まずな、世紀末到来によってジャギには二つの人格がある状態だ。一つは『憑依したジャギ』と『前世のジャギ』だ。
……本来なら現在進行形で主人格なのは『憑依したジャギ』なんだが、それをあの馬鹿ガキは自分で半分放棄しちまった」

 「え? 何でだ?」

 その亡者の問いかけに面倒臭そうにジャギは説明する。

 「……言うなれば学習性無力感にあいつは近い状態に戻っちまったんだよ。……学習性無力感ってのはな、長期にわたってストレスが困難回避の状況に陥ると生物はその状況から逃れる気力を失くすって言う見解の事だ。……あいつは突然自分が世紀末で死ぬなんて言う世界に放り出され、挙句頼りになるのは見ず知らずに近いリュウケンのみ。……だからこそあいつは幼初期から人間として若干壊れ始めてたんだろうな。……あいつの女がその精神の圧迫感を回避する役目を担ってなければ、あのガキは多分自殺でもしてたんじゃねぇか?」

 その言葉は、その世紀末で闘っていると言う男の冒険譚を盗み聞きしていた亡者達には衝撃的な内容だった。
 まさかその英雄とも思える行為をしている人間にそんな致命的とも言える精神的な疾患があったとは……! 驚く亡者達にジャギは言う。

 「何も可笑しくねぇだろ? まったくの違う環境に、ほぼ大人の精神年齢とは言えそこで無理やり生活させられちゃあ鬱病に
 なっても不思議じゃねぇよ。むしろそう言うのにならなかったあいつはやっぱりどっちも可笑しいんだよ。やっぱ同一人物って
 事なんだろうな、そう言う所は。……まぁ魂からの刷り込みが行われてるから元々そう言う過酷な状況でも精神は拒絶
 しないように無意識に深層心理で防御反応が形成されていたって事も考えられるけどな。……如何したおめぇら?」

 「いや……話が難しすぎて頭痛が……」

 そう音を上げた亡者をジャギは容赦なく手刀で首を斬った。

 「……何処まで話したっけな? ……んで、一応世紀末到来までは何とか俺様の介入もあったからあいつの精神は無事だったんだよ。
 だが到来してからはあいつは自身の死と精神安定剤だった女との離別を占い師の奴によって宣告されて完全にアウト。
 だからリバウンドしてきたジャギの性格を反映する事に妥協したんだよ。でないと本当に可笑しくなりそうだったからな……。
 あいつらどちらともその環境ゆえに連絡もほぼ困難だからな。……仲が良い奴らに助けて貰えれば良いって簡単に言うけどな?
 占い師の野郎にそれすら方法としては悪手だって言われちゃメンタル的に弱いあいつらじゃ自分で逃げ道塞がれちまったんだよ。
 自分の友人、知人、良い人は守りたい、って考えてる甘ちゃん達だから迷惑をかけるような方法は完全に止めて……馬鹿だろ、本当。
 ……女の方は女の方でほぼPTSD状態だしよ。……その発症を回避する為に無意識に自分の加害者であるモヒカンに対して
 冷酷に殺害するんだろうな。……ヤンデレ? ……意味が違うだろ! てかこんなヤンデレに殺された奴らって何々だよ……」
 
 一人の亡者が呟いた言葉に突っ込みを入れるジャギ。そして拳でも言葉の通りに突っ込みをして亡者を砕いてから話を続ける。

 「……あん? 他の奴らに関してか? ……ああ、まず『その世界』での救世主様に関してだが、まず恋人目の前で攫われた
 事が怒りの要因になっているが、……これは完全にあのガキのミスだが救世主様に何となく勘付かれてるんだよな。だから
 非情さを身につけられない。……もっともあのガキは何かしら作戦を考えてるようだが……俺は上手く行くとは思えないね。
 ……サウザー。あの鳳凰拳伝承者は精神的外傷なんて無いからな。あのガキの手で成長して、そのまんま伝承儀式すら乗り越えた
 からよ。……俺様はああ言うお涙頂戴のシーンって大嫌いなんだよな。……俺様の生きてた世界とほぼ同質だから尚更だ……。
 ……レイ、マミヤ、ユダとかそう言う奴らも説明しなくて良いだろ。あいつら俺の世界よりかは平和に生活してんだから。
 ……シンだが、……あいつはガキに記憶を操作されてるんだが、やっぱりあいつ甘ちゃんなんだよな。記憶を操作されたとしても
 ガキんちょの事信頼してるから違和感が拭い去れないんだ。……多少時間があればすぐに記憶を自力で取り戻すだろうな。
 ……あいつの考えでは、拳王一人ぶっ倒せれば大切な奴と又一緒に過ごせると考えているから手段も方法も躊躇無く
 すぐに拳王を殺してぇって考えてる筈さ。けどそう言った手段だと予言の件もあるから下手な真似は出来ない、だからこそ
 ストレスが堪る。……『狂神魂』が扱えて当然だな。負の感情だけは今のあいつには尽きる、って言葉が無いだろうからな。
 あいつに教えた拳は『南斗邪狼撃』と『羅漢の構え』からの応用バージョンだけだったけどよ、あの野郎俺の癖に何故か素直
 なんだよな。だから俺の弟を思い出してむかつくんだよ。俺なのにまるで俺の憎んだ弟見てぇな行動しやかって……」

 その言葉にどう反応して良いかわからず笑みを浮かべる事にした亡者は瞬時にジャギに切刻まれた。それはほぼ全員だった。

 「……第一あの世界で心理的に病的な物背負ってるのあのガキとあのガキの女だけだろうぜ? 他の奴らでそんなの気にしてる
 玉なんぞいねぇよ。……それともう一つ面白い話を聞かせてやろうか? ……まずよ、あのガキとガキの連れの女は『その世界』
 で憑依しただろう? って事はだ。『魂が二つ』存在するって言う矛盾があるんだよ。……わからなかったらもう少し丁寧に
 教えてやる。あのガキ達は五歳で世界に憑依した。……ならその五歳まで生きてきた魂は何処へ行ったって事になるだろ?
 ……あいつはその事に未だ気付いてねぇだろうけどよ。それに気付かなかったら俺の一番上の兄者を倒そうなんざ真似は到底
 出来ないだろうぜ? ……あいつはな、本当の『極める』って事なんぞ未だ知らねぇひよっこだよ」

 「……亡者達もあらかた始末したから尋ねるけどよ、……この世界に如何しててめぇが一緒に来る気になったかいい加減教えろや。
 ……あの爺いに頼めば天国だろうが現世だろうが何処にでも行けただろうか? ……まさか俺の事が放って置けなかったなんぞ
 気持ち悪い事言わねぇよな。……ま、だんまりって言うか返事なんぞ気にしてねぇけどよ」

 ……その言葉に、花は陽だまりに晒していた布団のような香りを発し、答える。

 「……その通りってか? ……んな物好きな野郎だからこんな地獄くんだりで何時も一人ぼっちで亡者達の呻き声なんぞ
 聞かされる羽目になるんだろうが? ……いい加減寝言ほざいてると世話なんぞ本当にしなくなるからな、おい」

 そう言って肩をいからせ、ジャギは亡者達の残骸を踏みしめ立ち去るのであった。
 ……花はその後姿を寂しそうに蜂蜜のような香りを放ちながら見送った。

 ……何時か素直な貴方の笑顔が見たい。……そんな想いを乗せつつ花は香りを放つ。










    








  あとがき




   

  某友人『そうだ! バレンタイン前日に全裸で外に出れば刑務所に入れるからチョコ貰えなかった言い訳になるぜ!!』


  




  




 ……俺、人生駄目にしてまでチョコ貰えない言い訳作りたくない(´・ω・`)







[25323] 第八十二話『光を捜し求める狼達! そして迫るは群狼!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/11 11:57




                   キャアーーーーーーーーーーーーーーーーーー




   女性? の悲鳴の声。そこではモヒカンに追われる女性? とおぼしき人間が荒野で見かけられた。

   「へっへっへ……! 追い詰めたぜぇ~!」

   そう自身の武器を構える十字剣ヌンチャクの使い手、補足すると声優はジャギと同じ戸谷さんでもある。

  「おぅ、おぅ! 観念しな! 大人しくしてたら悪いようにはしねぇからよ!」

 そう二人の悪党も続けざまに女? へと投降を促す。その声からして女性と判断しているからであろう。

  「……お前たち、食料はもっているのかい?」

 そのモヒカン達に取り囲まれつつも、その女性? と思しき声は平然とした口調で問いかける。
 
 モヒカン達の肯定の声が続けざまに下衆な笑みと共に上げられた。

 ……もうお解かりであろうが、その声と共に女? を包んでいたマントは脱ぎ捨てられた。そして女? の声は叫びわたる。

  




                             「そうかい! ではそいつをいただくとするか!!」







 ……女装をしていた人物の正体はレイ。南斗水鳥拳伝承者、『義星』を背負う男。それゆえに自身のたった一人の妹
 の行方を当ても無く捜し日々食料が尽きればモヒカン達と闘う羽目に陥っていた。

 男!? とざわめきつつも、レイの挑発とも言える発言と余計な時間を食わされた事で襲いかかる野獣達。だが南斗水鳥拳の
 前ではまさしくゴミ屑当然であり、その美しき拳を見ながら体を切刻まれ死んでいった。
 そして一人だけ口が利けるようにした野獣へとレイは必死な表情で尋ねる!
 
 「……おい! 桃色の長い髪で目元は可愛く、それでいて喋ると可愛らしい二十代ほどの女を知らないか!?」

 ……歴史の崩れた事により、その言葉の内容も若干シスコンの混ざっていた事は黒歴史として葬り去られる事になるだろう。

 「し、知らねぇよそんな女。そんな女見かけたら攫って見てぇ」

 「死ね!!」

 妹を想像の中であろうと穢す者には死を。手掛かりが正史よりも少ないゆえに、妹の生存の確率が不明なレイにとって、苛立ちは
 日々堪るばかりであった。

 (アイリ、何処にいるというのだ? ……死んでるお前がいたと言う所は幸運にも全部人違いで済んだ。……だが野獣の溢れてる
 場所がひしめき合ってるゆえにお前が危険な場所に居るかと思うと不安で仕方が無い。……ああ……アイリ)

 食料を詰め込みながら懸念するのはアイリの顔、アイリの姿である。……相当重症であるが、傍から見ると滑稽なのが不思議だ。
 そして歩きつめるレイの目には一つの村が見えた。
 だが、この時ばかり、彼の思考状態によって歴史は違いを辿る。レイが考えは別の行動へと走らせた。

 (村か……子供が中へ入ろうとしてる。……アイリを攫った連中が村を支配してるならば子供が村へ入れる筈なし……宿を
 取るにしても日はまだ上にある、もう少し別の場所を探そう)

 ……不幸の材料とは、まずアイリが攫われた時は、誰が何の目的で攫ったのか原因不明だった事。ゆえに彼は桃色の長髪の女性
 と言う人物像だけで(それでも結構目立つ)世界を旅していたのだ。そして時系列的にアズガルズからの帰還がてらアイリの
 行方を捜していたのだが、有力な情報はほとんどと言ってなく、ゆえに攫ったのは盗賊か野獣であると見当を自分でつけていた。

 それゆえに付近の村は聞き込みをする事はあっても、アイリが居るとは思考の想定外であった。ゆえに、マミヤの村に現在
 滞在しているアイリを発見する事を、レイは見逃してしまう事態へと発展してしまった。









 
 ……場所は変わりそこはマミヤの住む村の庭園。その花の美しさに感動するリンと驚きの声を上げるバット。

 「驚いた、ここは天国だぜ……」

 「ふふ……言っとくけど、この庭園を作ったの私一人の力では無いのよ。……もう一人の友達のお陰ね」

 そう言ってマミヤは微笑む。ユダからの刻印によって女を捨てはせずとも、野獣達から大切な者を守る為ならば戦士として
 生きる事を、この世界のマミヤは決意していた。しかし、正史と同じく女性としての優しさは損なわれてはいない。

 「……その友達って今は何処に居るんですか?」

 「私の弟と出かけている所よ。……こんな危険な時代に旅を続けてばかりで、最近ようやく再開したらしたらで笑いながら
 倒れて一日眠ってたわ。……無理をし過ぎなのよ、まったく……」

 そう手を額に当てて呆れた表情を浮かべるマミヤ。……同じ女性として、そして誰とでも笑顔で接するアンナは人と成りとして
 好印象であるが、無茶がその分多くてハラハラする。……まるで手のかかる妹が出来たようだと、マミヤは思うのだ。

 「……リンちゃん、お風呂に入る? ……マミヤも入った方が良いわ」

 「そう? ならリンちゃん。行きましょう」

 アイリの言葉に頷き、マミヤはリンの手を取ると水浴場へと連れていった。……バットがアイリへと話しかける。

 「……アイリ、さんは兄貴の事探してるんだろ? ……如何言う奴なんだ?」

 「う~ん……私の事を何時も心配してくれてる人ね。……けど私も甘えてばかりはいられないわ、こんな時代だもの。 
 ……マミヤや別の人が懸命に生きようと頑張ってるのを眺めてて思ったの。縮こまってばかりじゃ駄目だって。……未だ
 時々怖いと思うけど、私も戦えるようになりたいの。……これも皆のお陰ね」

 そう微笑んで頭を撫でてくるアイリに、バットは照れくさそうにしつつもあえて手を払おうとは思わなかった。

 ……バットもバットでトヨ婆さんと和解する事も出来た。そしてケンシロウへと付いて行きたいと言う願いもトヨ婆は理解
 して力強くバットを見送った。……それは原作では起こりえなかった微笑ましい旅立ちであったとここに記しておく。










 
 ……場所は少し変わる。そこは隣の村から食料を交換しに来ていたマミヤの弟のコウ……そしてアンナだった。

 「いやぁ~、サザンクロスに戻って保存していた種を補充しといて良かったよ。こんなに食料と交換出来たし」

 「そうですね、アンナさんが丁度一緒に来てくれて助かりました。一人だと大荷物になったでしょうし」
 そう快活な笑みを浮かべるのはアンナ。腰に提げてるのは鉈、護身用としては頼りないと感じていたが、重装備だと
 食料を持って帰るのも面倒なのでその武器だけで止めていたのだ。……そして何度がマミヤの弟と共に外へ出て、その時は警戒を
 していたのだが危険に遭う事なく済んでいたのが事件の発端と言えよう……その時に事は起こった。
 
 
 何かの視線を感じ立ち止まるアンナ。それに不思議な顔をしてどうしたのか? と問いかけるコウ。

 「……走って」

 「え?」

 「良いから! 立ち止まらず走って! 早く!!」

 その切羽詰ったアンナの様子に事態を飲み込めずも走り出すコウ。その瞬間に少し離れた岩山から矢が降り注いできた。
 コウはアンナのお陰で危機一髪ながら避ける。だが、その分の矢はアンナ目掛けて降り注いできた。

 刹那、それを前転しつつ避けるアンナ。地面に突き刺さる矢。鉈を引き抜いて見上げればそこには獣の皮を纏った男達。

 「……一人逃がしたか……だが構わねぇ……上等の女だぜ」

 「あぁ……喰うなり犯すなり……生け捕りにしろ」

 (……やばいかな、この状況……)

 冷や汗交じりに笑うアンナ。そして十人程の牙一族を前に、アンナは一回瞳を閉じると目つきを鋭く変化させると……叫んだ。







                                「……来い!!」









 
 
 「……ユリア? ……昔お見かけになった事はありますよ。今では絶世の美女となっているでしょうねぇ……ここで見かけた
 事はありませんん。……残念ですが」

 「そうか……」

 マミヤの居る村へと場所は変わり。長老へとユリアの情報を尋ねるが思うような情報は得られず落胆するケンシロウ。
 リンとバットを伴いユリアに似た女性が居ると聞いてマミヤの居る村へと訪れたが、似てはいる者のそれはまったくの別人。
 期待はずれながらもリンとバットの世話を引き受けて貰う代わりに牙一族へのボディガードを原作通りケンシロウは引き受けた。

 「申し訳ない……旅の方にこのような危険な仕事をお任せして」

 「いや……俺の兄たちなら……多分こうするだろう」

 そう穏やかに引き受けるケンシロウ。その返事の裏で想うのは優しき聖者のような兄か、それとも三番目の兄か? 真意は
 知れずともケンシロウがそう了承を託した数分後に、息を乱したコウが村の中へ走り倒れた。

 「どうしたのじゃコウ? そんな慌てて」

 「……アンナ……さんが! 牙一族……に」

 「何!?」

 その言葉に長老は驚愕の声を上げる。無表情でコウの言葉を聞き入りつつも、ケンシロウも頭の中で混乱していた。

 (……アンナ? ……似たような名前があるが……兄さんの想い人の名前……偶然にしては出来すぎている気が……)

 そしてケンシロウはその言葉を受けてアンナを救出する為に村を飛び出すのだった。……村を見下ろす怪しい視線を気付かず……。









……目の前では爪で裂かれた腕を押さえつつ呼吸を必死で整えようとするアンナ。
 そして喉笛を裂かれた牙一族が数人横たわっていた。それらは全てアンナが南斗聖拳を扱える事を知らず舐めてかかった者達であった。

 「くっ……! 女ぁ……良くも俺の仲間達を……っ!!」

 そう怒りの声を滲ませるのはケマダ。灰色の毛皮を身に纏い自身の刃物を震わせつつアンナを睨みつける。

 (……やばいなぁ、このままだと逃げ切れなさそう……)

 アンナとしては自分の弾薬類を置いてある村まで戻れれば勝機を得たも当然だが、この牙一族達が逃がしてくれるはずも
 なく武器の鉈もこびりついた血によって切れ味は既に駄目になっている。倒れてる牙一族に関しては爪以外での武器は
 自分には扱えぬ重量武器ゆえに役に立たない。それゆえに残ってる敵を倒すには劣勢と言って問題ない状況に陥っている。

 対する牙一族も女だと舐めてかかっていたが、どうも南斗聖拳を学んでいるらしい女の素早い動きと正確に急所を狙われ
 命を絶った仲間達の最後を見て迂闊に攻める事を止めた。矢も先程ので撃ち尽くしてしまし、何故もう少し計算して
 襲わなかったのかと昔の自分に問い詰めたかった。

 「……お前等、同時に飛びかかれ! そうすりゃ迎え撃てっこねぇ!」
 
  ケマダの言葉が飛び、牙一族の男二人が同時に爪を振るい襲ってくる。

 対してアンナの取った行動は相手の予測を上回った……自分の鉈を投げたのだ。

 それによって驚き飛び掛った一人の牙一族は顔面に鉈を生やし散った。そして残りの牙一族は不意を突かれた攻撃を
 見て動きが鈍る。それを見越してアンナは『地面に刺さった矢を引き抜き牙一族の喉笛へ刺した』。……そして二人は絶命した。

 ……一部始終を見ていたケマダ。そして倒れ伏した牙一族を一瞥し、空気を凍らせる程の声で言った。

 「……気が変わった。……てめぇはやはりここで殺す。……貴様は危険だ」

 そう言って気配を変えるケマダ。……ケマダは一連の女の行動を見て確信する。この女の闘いぶりは危険だ。下手すると
 自分達一族を全滅させるかも知れねぇ……そんな予感が本能的に女の姿を見てケマダの戦闘本能に触れさせたのだ。

 対するアンナは無手……手元に残っているのは自身が想い人から貰った手甲のみ。だがそれでも頑張れば勝てる気がした。

 鋭い爪を構えつつ、牙一族特有の力を振るおうと脚に力を込めるケマダ。
 
 ボグシングスタイルでアンナは構える。……だが、そこへと声は突如舞い込んできた。……救いの英雄の声が。










                  アイリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィ!!!!








  「は?」

  「あぁ?」

 絶叫で誰かの名前を叫ぶ、声。それが今正に激突しようかと緊張感の高まっていたアンナとケマダはその声に水を差される。




                       





                             南斗水鳥拳    『飛燕流舞』!!





  「あわびゅ!!?」


 その声の持ち主は一瞬にして不意打ちを喰らったケマダの体を切刻んでしまった。ケマダは、その技の美しさを理解する事も
 叶わずにして、アンナとの牙一族の恨みを果たす一騎打ちも願わず散った。……あわれケマダ。









 
 「……おぉ! アイリ……っ! やっと……! やっと会えた……!」

 「ちょ、ちょっと待って。以前もこんな出来事有ったよね!?」

 涙目で近寄ってくるレイ。それにアンナは冷や汗を流しつつレイの姿を見ながらレイを落ち着かせようと声をかける。……だが。

 「あぁ、やっと出会えた。お前のことをどれだけ兄さんは心配していたか……! アズガルズでお前がいたと言う噂を聞きつけ
 てもお前に似た別人だったし、雨の日も、雪の日も、嵐が荒れ狂う日でもお前が生きてるかどうか心配で眠れなかった。
 ああ、俺の可愛いアイリ……!!」

 「……駄目だ、私じゃ如何しようもない」

 髪の色も違う。声も違うと言う事に本来ならば気付けるはずなのだが、精神的に疲労が蓄積しているレイとしては、そのような
 変化に気づけと言う方が酷であった。……ゆえに不運な出来事が襲う。


 「……お前は……アンナ、か?」

 「……面倒事が来たよ」

 ……そう、ケンシロウが現れた事により、小声でアンナは頭痛が起こりそうなのを無視しつつ呟いた。










  (partケンシロウ)

 ……あの姿はレイ? ……そして、あれは兄の想い人だ。
 
 何故二人が一緒なのか? そしてレイは何故号泣しながらアンナへと詰め寄っているのか? ……幾つか疑問が咲くが
 如何しても聞いておきたい事が目の前の女性にはあった。

 「……アンナ、ジャギ兄さんと一緒に居るのか?」

 「……ううん、今は別れて行動してるよ」

 そう寂しそうに笑う目の前の長い金髪をバンダナで押さえている女性。……やはり、ジャギ兄さんはもしや……。

 そう確信めいた推測が脳裏に過ぎりそうになる、……だがそこで思わぬ人間が割り込んできた。……レイだ。

 「……お前はケンか? 何故此処に? 今俺はようやくアイリと出会えたんだ。出来れば邪魔しないでくれ!」

 「……いや、その女性はアンナではないのか? 髪の色も違う……」

 俺は至極真っ当と言える言葉を発言したつもりだった。……だがレイは怒りで顔を歪めながら詰め寄ってきた。

 「違う! アンナではないアイリだ!! ケン、この俺がアイリを想う気持ちが理解出来ないのも仕方が無い! だがな俺が
 アイリを見間違える筈がないだろ? この愛らしい瞳! そして唇! 俺と家族と離別した所為で髪の色すら変色してしまったんだ!
 あの俺を呼ぶ美しい声すら、あの悲劇的な一夜のショックで声が変質してしまったんだ! 想像するだけで胸が痛い!!
 ああ、可哀想なアイリ! だがその今までの地獄であったであろう日々もこれで終わる! これからは俺がついてるのだから!!」

 「……アンナ、レイは一体如何したんだ?」

 ……俺はとりあえず錯乱気味のレイに秘孔で落ち着かせるべきか考慮に入れつつアンナへ事情を聞こうとする。……お手上げと
 ばかりにアンナは首を振る。……一体レイは如何したと言うのだ? アイリならば俺が今いる村にいるだろうに……。

 その時ケンシロウは、マミヤの村に居たアイリへと詳しい話を聞いては居なかったのだ。ゆえに起きる勘違い。レイが居るのを
 見かけてアイリと共に来ていたのだと思うケンシロウ。ゆえに次の言葉を放つ。

 「レイ……あれはアンナだろう? アイリならば今俺の村にいるではないか?」

 その言葉に逆上しつつレイは叫ぶ、自分の言葉が支離滅裂になってる事も関係なしにレイはケンシロウへと言い返す。
 
 「だから何を言っているんだ!? お前の兄のジャギの恋人のアンナとアイリを俺が間違えるものか! 美しさ、器量の良さ!
 性格さえもジャギとアンナには悪いがアイリは勝っている!! 第一あのガサツさが勝るアンナなど、一目でわかる……」


 「悪かったわね!! ガサツで!!」


 

                                コキーーーーーーーーン!!!!☆



 「……アイ……リ……?」



 ……股間を押さえ倒れるレイ。疲労困憊と急所の一撃も合わさり、レイは青白く気絶した。



 「……アンナ、本当にレイは如何したんだ?」

 「……とりあえず背負ってよ。……村まで辿り着いたら話をするから」


 その言葉に先頭してケンシロウが来た道を戻るアンナを見つめつつ、倒れ伏すレイを背負った。


 (……今はジャギ兄さんの事については止そう。……然し、レイ元気そうで安心した。……後で何が起こったか詳しく説明
 して貰わなければいけないが……)

 ジャギの思惑によって既に知人と化していたレイとケンシロウ。互いが互いに友人となっている二人であるからこそ、既に
 レイは『義星』として輝きを放てる状態となっている。

 その星の宿命を強く振るえる存在へと狼達は迫る。……そして悲劇を全て喰らおうとする邪狼も近づいて来ようとする……。










  

    あとがき



まさかとは思いますが、この「某友人」とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。

もしそうだとすれば、あなた自身が統合失調症であることにほぼ間違いないと思います。

あるいは、「某友人」は実在して、しかしここに書かれているような異常な行動は全く取っておらず、 すべてはあなたの妄想という可能性も
読み取れます。

この場合も、あなた自身が統合失調症であることにほぼ間違いないということになります。
      
  



   ……本当にこのコピペ通りになってくんねぇかな。




[25323] 第八十三話『世紀末バドルロワイヤル開幕?』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/11 18:46

 場所はマミヤの住む村より離れた高台。そこにはとある集団が見下ろしていた。そして憎憎しげにギバラが呟く。

 「……あの村だな。……ケマダの兄貴を殺した奴が居るのは……」

 牙一族はマミヤの村を少し離れた場所を縄張りとしている。そして、レイがケマダを殺害したのを遠方から他の牙一族が目撃していた。
 
 「……兄貴……仇は取ってやるからなぁ……。おい、そして報告したおめぇ」

 「へ……へい!」

 目撃していた牙一族の一人がギバラの声に参上する。そして一瞬の内にギバラの爪によって顔をばらばらにされた。

 「ふぼぃごぉ!!?」

 「……おめぇ何ただ見てたんだよぉ……兄貴を何故助けようとしなかったんだよぃ……!」

 今殺害した奴が報告しなければ永遠に自分の兄を殺した人間が解らなかった事すら棚において、ギバラは呟いた。

 「待ってろよぉ……冥土に兄貴を殺した奴を送ってやるぅ……大丈夫だ、兄貴が弱い俺の為に寄越してくれた、兄貴の分の薬で
 そいつをギダギダにしてやるよ……。絶対に、絶対にその野郎俺の命を賭けて殺してやるからなぁ……」
 牙一族でパンダのぬいぐるみが大好きなギバラ。……兄のケマダの復讐を誓い、怪しい色の液体を握り締めつつ怨嗟の声を上げる……。








 


 ……そのギバラが涙を流しながら復讐を誓っている時に、もう一つの場所でも動きがあった。その男は何となく見覚えのある
刻印を肩へと貼り付けていた。後ろにも似た刻印を貼った者達が控えている。……そこに居る者の名前はシカバ。
 正史ではコマクと共にマミヤの村を襲撃した男であったが、今回はユダにある任を受けマミヤの村へと複数の兵士と共にやって来ていた。
 
 「……あそこが、ユダ様に恥をかけた男の肉親が滞在していると言う村か?」

 「あぁ、らしいぜシカバ。……そしてユダ様に気に入られるような女が居たら攫えってぇのがダガール様からの命令だ」

 「……要するに女攫って、他の奴は殺せば良いんだろ?」

 上から順にシカバ、ゴーレム、ゴーギャンと言う名前である。……もっともゴーレムとゴーギャンに関してはどちらも
 スキンヘッドの大男で大した違いはないとだけ名言しておく。そしてシカバに関しては白髪の妙齢のおじさんでユダの兵の中では
 智将っぽいのだが、アニメでは人質であるマミヤを放ってレイと戦い返り討ちと言う賢いのか愚かなのか良くわからない最後を遂げた。

 「……ここら辺一帯は牙一族が確か縄張りとしていた。……余計な戦闘は避けるべきだろうな」

 「んな事言ってもやられそうになったら殺すしかねぇだろ? ユダ様に殺されたくなけりゃ俺達は言われた事すりゃ良いんだ」

 「……女攫う、他の奴殺す。それだけだろ?」

 (……大丈夫か? この面子で襲って?)

 ……先程と同じ順番で台詞を言うユダの部下達。そしてシカバはこの連中と一緒に任務を引き受けた事を不安に思い始めていた。










 

 ……そこでは一人の男がバイクで走っていた。……破損した服の修理を終えて装備を整えた……ジャギだ。
 以前と異なり腰に提げてるショットガンが二丁になっている。……一つは何時もの銃で、もう一つは水平二連散弾銃だ。
 あの生体兵器との対戦もあり、念には念を入れて武器の性能のアップ……までは行かないか手数を少しでも増やす事に決めたのだ。
 
 (……トゲの肩当てに余計な時間食っちまった。……マミヤの村は大丈夫なのか? ……アンナはもう去ってるだろうな)

 そう胸中に悲哀を過ぎらせるジャギ。だが、その意中のアンナは未だマミヤの村でケンシロウ達から逃げられずにいるのを
 ジャギは知らないでいた。ゆえにもうすぐで一年と約半年ぶりにジャギはアンナと会える可能性が咲いているのだった……。










 ……場所は変わりマミヤの村。その一角で眠っているのはレイ。
 聴診器を使い一人の医者がレイを一通り見終わると、呆れた顔つきで言った。
 
 「過労だね。眠ればすぐに意識を取り戻すよ」

 「良かった……! 兄さん……っ!」

 医者の言葉に一安心して寝ているレイの手を握るアイリ。それを微笑ましくマミヤは見守り、そしてケンシロウ、バット、リン、
 そしてアンナは少し離れた場所で自己紹介も兼ねて話をしていた。

 「……ジャギは、最近貴方が誰かに襲われたって聞いてその犯人を追うって行って出て行ったきりだよ。……まあケン君の
 恋人のユリアを私も捜してたんだけどね。ジャギに言われて」

 「……そうか」

 アンナは予め文通で用意していた言い訳をケンシロウへと話す。その言葉にケンシロウは全部は信じてないが、アンナの話に
 頷く事に決めた。……アンナの表情から真実を聞き出すのは容易ではないと思ったからだ。

 「……けどレイが妹と出会えて良かったよ。まさかいきなり人違いされるとは思わなかったけどねぇ」

 「アイリさんとアンナさんって……そんなに似てないと思うけど」

 「だよな、アイリさんっておしとやかって感じだけど、あんた活発そうだし」


その言葉に笑うアンナ、リンとバットは少しだけその笑い声に驚く。今の時代にそんな風に大声で笑い声を立てる女性は少ないからであろう。

 「いやぁ~、まぁこれで一件落着! 私の役目もお役御免って事で新しい村へと繰り出しますかね!!」

 「待て」

 颯爽と荷物を抱えてアンナは自分で作った雰囲気に流されて去ろうとする。だがそれをケンシロウは許さず腕を掴んで引き止めた。

 「未だ詳しい話が済んでいない。……ジャギ兄さんと貴方は恋人同士のはずなのに詳しい行方を知らないのは何故だ?」

 ……この世界のケンシロウは頭が良い。無闇に秘孔で真実を切り出そうとするのを止めてる変わりに自分の思考で推理しようと
 考えている。だからこそアンナの不審な行動や、言葉の裏に対して考える能力も持っているのだ。

 「……それに不審な点は未だある。……ジャギ兄さんと貴方は安住の地を探しに出かけたとトキ兄さんに聞いていた。なのに貴方達
 が戻ってきた理由が見当たらない。……そして一番不審な点はジャギ兄さんの行方が世紀末から誰も知らない」

                         
                                   パシッ

 そこまで喋るケンシロウの腕を、強くアンナは払った。

 「……」

 「……御免、私からは何も言えない……ジャギに会えたら真相聞いてよ」

 そう言ってアンナは外へと出る。

 「出て行くのか?」

 「もう少し居るよ。お腹すいたからご飯食べるだけ……リンちゃんとバット君も一緒にどう?」

 その言葉にリンとバットは一瞬ケンシロウを見る。大丈夫だと頷くケンシロウの表情に安心すると、二人はアンナの元へ歩いて行った。

 (……やはり、あの七つの傷の男はジャギ兄さんなのか? ……だがそれだと顔の変化が……わざと秘孔で顔を変えた?
 だとしても俺とユリアを引き離した原因がわからない。……やはり、もう少し詳しい事情を今度シンから聞く必要があるな)

 そう、ケンシロウは深く思考の渦へと囚われた。……背後でアイリを夢の中でも捜すレイの呻き声が上がりながら……。







 「……おっ! パンにソーセージかよ! やったぜ!」

 そう嬉しそうに声を上げるバット。世紀末では加工した肉類を食べる事なんて滅多に無いからバットとしては久し振りのご馳走だ。
 そして嬉しそうに食事をし始める二人、そして野菜だけ除けようとするバットへとアンナは強い口調でバットに言う。

 「喜ぶのは良いけどしっかり野菜と一緒に食べてね? 将来肥満とかになりたくないでしょ?」

 「……けっ、わかったよ、食うよ」

 面白くなさそうにアンナの言葉に従いバットは野菜も挟んで食べる。それにリンはくすくす笑う。リンにとってケンシロウ
 と会う前はこんなに穏やかな生活は夢のまた夢だった。だからこそ今の幸せを噛み締めつつパンを口の中に運ぶ。

 「……ちょっと顔持ち上げてもらって良い?」

 「? ……うん」

 その言葉にリンは顔を上げる。すると自然な動作でアンナはハンカチでリンの口元に付いていた食べかすをふき取った。

 「よーし、完了! ……どうしたの? 呆けちゃって?」
 
 「……アンナさんって何だかお母さん見たい」
 
 「あ、わかるぜ。何か家族の一番上で何時も笑ってるイメージがあるよな」

 リンの言葉にバットは笑う。……アンナはと言うと瞬きしてから照れたように二人に連れられて笑った。

 「……そう言ってくれたのジャギにも話したら嬉しがるだろうなぁ~」

 「え? ……あぁ、そう言えばアンナさんの恋人って」

 「ケンの事襲った奴って確かケンの兄貴の服装を真似してるんだろ? ……もしかして襲われたんじゃないか心配じゃねぇの」

 「……う~ん、大丈夫だと思うよ? ジャギは私が思うより強いし……それに」

 そこで言葉を区切ると、リンとバットが一瞬言葉を失うような笑顔でアンナは堂々と言い切った。

 


 
                    「……ジャギが死んだら、私も一緒に死ぬから。だから大丈夫」

 





 『……』

 アンナの言葉の壮絶さに、リンとバットはただただポカンとしつつアンナを見る。

 「……なーんてね! まぁ、それだけ私はジャギの事が好きって事!」

 「な、何だよ、驚かすなよな」

 そうバットは疲れた表情で手を上げる。リンも同意するように少しだけ怒るような表情で頷いた。安易に死と言う言葉を
 使うのが許せなかったのだろう。特に、この世紀末では一秒先では冗談ではなくなるのだ、その言葉は。

 「冗談でもそう言う事言うの……良くないと思う」

  リンの言葉に大げさな動作で謝るアンナ。リンの機嫌が直るまで日が暮れるまでアンナは謝り倒すのだった。








 ……そして……日が暮れる。


 そして暗闇で動き出す三組の瞳が月も出ぬ荒野で瞳だけが輝いていた。


 獣の香りが充満する中、ギバラは呟く。

 「……よし、……親父が貰った薬があればこの闇夜でも平気で奴らを皆殺しに出来る。……行くぞ!」



 



 次にUDの刻印を体に刻んだ男達も闇夜になれ始めた頃に行動を起こした。

 「……今の時間ならば奴らも眠りに着くだろう……行くぞ、まず標的を攫う事だけに徹底しろ。……邪魔する者は殺して構わん」








 

 




 ……そして、……邪狼の名の技を受け継ぐ男はバイクに腰掛けつつ叫んでいた。


 「……クソッ!! 何でこんな時にガス欠起こしてるんだこのポンコツバイク!! ……村まで後二キロなんだ! 
 ……なぁ頼むぜ相棒、良い子だから。な? な? ……くそっ! 最悪だぜ! 歩くのかよこの闇の中を!!」


 ……世紀末の夜に、大きなバドルロワイヤルが開催されようとしていた。
















    あとかぎ




  はい、次の作品書くの怖いっす。(戦闘描写及び安定した台詞書くのに






  因みに明日は時間の都合上南斗邪狼撃投稿しか出来ないかもしれない。まぁ頑張るよ、うん。






[25323] 第八十四話『真夜中の大乱闘ほあた☆世紀末(前編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/12 17:28
  それは村人が寝静まる真夜中、マミヤの村ではひっそりとすべての光が消えて見張りを除き皆就寝しようとしていた。

 ……いや、二つの人影が家屋から出てきた。バットとリンだ。

 「……不味いよバット。……つまみ食いなんてしたらいけないよ?」

 「へへ……! リン、お前にも分けるから内緒にしてくれよ。な?」

 もう……、とリンは困り気にも、自分も何故か眠れず何かお腹に詰めれば眠れそうな気がしたので強くバットに言い返せない。
 二人とも何故か妙に目が冴えて盗み食いを決行しようとしていたのだ。
 別の村ならばこんな真似を仕出かすとリンチに遭う可能性もあるが、この村の安全さに、つい魔が差したと言う感じだろう。

 ……そして二人が食料庫にある場所へと繰り出そうとした時……二人の鼻へととても甘い香りが通り過ぎたのを感じた。
 その香りはついこの前も嗅き覚えのある香りであり、そちらの方向へと忍び足で二人は近づく……そこにはアンナが座っていた。
夜食でも作っているのだろう。その香りに喉をバットは鳴らし、リンは声をかけた。

 「アンナさん……?」

 リンの声に少しだけ驚いた表情を見せるも、ランプに照らされた温和な笑みでアンナは手招きした。

 「……やぁ二人とも……おいで。折角だから二人も飲む?」

 そう言って、近づいて来た二人へとアンナはマグカップに入った液体を翳した。……それは前にジャギが勧めたココアだ。

 丁度温めた所であるポットに、二人分注いでアンナは差し出す。二人とも眠れなかった時に絶好の飲み物を貰ってご機嫌だ。

 「うめぇ……けど何でココアなんて貴重品持ってるんだ?」

 「うーん……世紀末が訪れる前にシェルターに砂糖とか塩とか貴重品類詰め込んでた人が居たからね。その人のお陰かな」

 「……もしかして、その人って……アンナさんの大事な人?」

 女としての鋭い直感が糖分を吸収した事も合わさりリンに考察力を与える。アンナは含み笑いをしつつリンを見てから呟く。

 「……うーむ、リンちゃんには叶わないな」

 「……そう言えば、前にジョニーのバーでもココア出したよなあいつ。……やっぱりアンナさんの恋人ってそいつだったって事は……」

 恐る恐るバットも問いかける。けれど、アンナは苦笑いしつつ手を横に振った。

 「あいつ、恥ずかしがり屋だもの。……そのココア飲ませてくれた人ってそんな感じだった?」

 「……恥ずかしがりや」

 「……いや、やっぱり違う……か?」
 
 二人はバーで出会った強面(と言うか悪魔めいた仮面)の殺伐した雰囲気を思い出し、それがアンナの言葉と関連させるのが
 難しく、自分達の想像が外れている気がして頭を押さえる。その二人のシンクロした難しい顔を見てアンナは笑うと言った。

 「ははははは、まぁ考えなくても何時か会えるものだよ。良かったらこっちのおつまみの……」

 そうアンナが差し出そうとしたつまみが何か解らず仕舞いに終わる。何故ならばその時に見張りの村人の絶叫が響き渡ったからだ。







                      や    野獣だあああああああああああああああ!!!!






 その言葉に瞬時に手元に置いていた武器を差し、アンナは二人へと鋭い声で告げた。
 「……二人はケンシロウとレイを起こして!!」

 「アンナさんは!?」

 「私は門へ行く! ……大丈夫! 言っておくけど私強いんだよ?」

 そうリンへ笑いつつ声を掛け、アンナは颯爽と村の入り口まで走り去るのであった……。










 ……一方村の入り口、そこでは大混乱が陥っていた。



 「くっ……! まさか夜襲しようと考えていたのがあっちも同じだったとはなぁ!!」

 「誰だ貴様等ぁ!? こっちは兄貴の仇討ちだぁ!! 邪魔してるんじゃねぇ!!」

 総勢で100に昇るのでは? と思う人数が村の入り口で激突していた。それはUDの刻印の持ち主のシカバ、そしてギバラの
 闇夜の中での邂逅、そして二つの軍勢はどちらも敵であると判断し激突する事になった。


 だが、二つの軍勢とも力量では同じ。目的を迅速に果たしたいのはどちらも同じであり、両方とも同じ結論を思考で達した。

 
 ((とりあえず村の中へ突破する!! でなければ埒が明かない!!))

 
 閉じられた門を一気に上がろうと牙一族とユダの部下のモヒカン達が上ろうとする。

                               シュッ     シュッ


 だが、そこで空気を切る音と共に降り注ぐ謎の物体。

 
 それに門の半分程を上っていた二つの軍勢の部下は何かを頭へと刺さり地面へと落下していった。……そして声が村から上がる。

 「……誰だが知らないけどこの村から離れないなら私が相手するよ」

 猛ダッシュで門まで辿り着いた事により息遣いも荒いアンナ。だが門を上ろうとする怪しい人影を戸惑いもなく持っていた
 トマホークで撃墜する力は残っていた。……そしてとある投擲用の武器を荷物から取り出した。

 「牙一族だっけ? 犬っころならフリスビーが好きでしょ? ……とおりゃっ!!」

 問いかけながら何かを回転させながら投げる。それは意地でも門を破壊しようとする牙一族の二人の体へと命中した。
 それはギザギザの刃をした丸鋸。生身の手で触れば自分の手も裂きそうな物だが、手甲を付け、昔ジャギの飼っていたリュウ
 に何度もフリスビーをしていたアンナの腕ならば人に命中させるのも意外と簡単であった。

 だが、その武勇伝も長くは続かない。門の上で攻撃を加える女に、大男のユダの部下であるゴーギャンは自身の武器である
 鉄球を振り回し遠心力をつけると門目掛けて勢い良く直撃させた。



                               ドオオオオオオオオオンン……!!



  「……っ!? やばっ!」

 たたらを踏み門の外へ落下しそうになる。だがそれでは絶好の標的になるのは請け合いである、何とかアンナは門の内側へと
 着地する事は出来た。……だがすぐに扉がメキメキ……! と嫌な音を軋ませつつ自分に向かって盛り上がってきた。



                               ドガアアアアアアアァン!!



  「嘘でしょぉ!?」

 物の数秒で防護していた扉は破壊される。巻き込まれないように体を捻って避ける事は出来た。だがすぐに二つの軍勢が
 入り口目掛けて走ってきた。……不味い! そう瞬時に判断して使用を控えていた拳銃を引き抜く。
 



                             パン! パン! パン! パン! パン!



 五発、それが進入しようとしていた牙一族とユダの部下の額へ命中し屍の床を形成する。その隙に立ち上がったが圧倒的に人数が多すぎる。
 一人で対抗するには数の差で負ける。爆薬類を使えば入り口を広げさせる事になりかねないから使えないのだ。



 「けけけけけ!!! よく一人で入り口を守ったけどなぁ……ここまでだ!」

 「……牙一族の爪の味をお嬢ちゃんに教えてやるよ」

 歩み寄ってくる二つの軍勢。最初に弱そうな女を再起不能にする事を暗黙の了解としたのだろう。……両手に握る武器を
 鉈へと替えつつ二人を睨む。それが一層被虐心をそそり怪しい目の色になりながら武器を引き下げ二人は近づいていくる。

 そして飛び掛って来た二人へとアンナは迎撃の態勢を取る。傷を負うことを厭わなければ軽傷で倒せると思いつつ。
 


 ……そこへ救世主が飛び込んできた。

                            ほあたあっ!!     あたぁ!!


 「……犬の香りが多過ぎる……お前達、死にたくなかったら犬小屋へ帰れ」


 「……やっと来たか」


 颯爽と飛び掛って来た二人をその腕からは想像出来ない怪力で外まで吹き飛ばしたケンシロウ。ようやく出て来た主戦力に
 安堵の笑みをアンナは浮かべる。……そして入り口からは白髪の男が現れた。

 「ふむ……男一人と女一人……女の方は南斗聖拳でもう一人の方は不明だがあの怪力……。牙一族よ、ここは一度組むか?」

 「俺達は兄弟の仇を取るのみ! 先程お前達に傷を付けられた! だが、今だけは目を瞑ろう……! 行くぞ兄弟達!!」

 そして猛然とギバラはケンシロウへと襲い掛かる。静かに拳を構えるケンシロウ。そして、ギバラ達牙一族は同時に叫ぶ。



                                『華山群狼拳 妖滅の型』!!


 「! 華山群狼拳っ」

 目の前で急激に増えたように分裂する牙一族、それは余りのスピードから敵を翻弄し、その隙を突き敵を滅する攻撃なのだろう。
 しかし、一瞬驚きの声をケンシロウは上げるも、すぐ冷静な顔へと戻り腹の底から叫ぶ。


                         アーーーーたたたたたたたたたたたたあ!!!



  「あかい!!?」  「きつねと!!?」  「みどりの!??」  「たぬきっ!!!」


 謎の断末魔を上らせ牙一族はケンシロウに吹き飛ばされる。……その中にギバラの姿は……いない!?

 後方に視線を向けると村の奥へと走っていくギバラとその仲間達。……まさか!?

 「俺達兄弟の仇! ケマダの兄貴を殺した奴をまず殺す!! その次にお前殺す!!」

 (ケマダ?……レイか! しまった! 未だレイは眠りについている筈……!)

 慌てて追おうとケンシロウは背中を向ける。だがその瞬間に背中に大きな衝撃を食らい前へ吹き飛ぶと地面へとそのまま倒された。

 「ぐはっ!?」

 「お、お、お前……このゴーギャンが相手!」

 鉄球をブンブンと振り回しながら大男は笑いつつケンシロウへ呟く。先程の衝撃は振り回してる鉄球をぶつけられて所為だろう。

 起き上がり体を払ってからケンシロウはゴーギャンへと構える。……そして冷たい瞳を携えつつケンシロウは呟いた。

 「……時間が惜しい、お前は三秒で倒す」











 「……何処だ! 人、女……何処だ!?」

 焦りつつギバラの仲間は家屋の天井へと上りながら叫ぶ、他の牙一族も散らばりつつマミヤの村を捜索している。
 見張りの声を聞いて既に村人は数人を除き安全な隠れ場所へと避難している。ゆえに牙一族は焦る。兄弟の復讐も大事だが
 自分達の子孫繁栄の為に女性を攫う事も重要だからだ。

 「……匂いがする。……雌の匂いする。……何処だ!?」

 そして異常な嗅覚から香水のような香りを追い、その家へと窓を突き破り入った。

 「……い、嫌!」

 そこに居たのは桃色の長髪の女性、その怯える顔に牙一族は舌なめずりしつつ呟く。

 「ぐひひひ! 女ぁ……まず貴様を親父の元に送る……!」

 「邪魔よ」

 「ごはぁあん!?」

 その言葉がその牙一族の最後、背後から鉄の蛾媚刺で首筋を突き刺し、その牙一族の命を刈り取ったのだ。

 「……急いで! ……牙一族を昼に倒した事で夜襲は予想していたけど、こうまで早くとはね……!」

 アイリを引きつれ家屋から用心深く出る。……しかしそこには先客が待っていたる。

 「……お、女だ!」

 「しかも上等の……これならばダガール様から褒美が貰える!」

 「!? ……牙一族じゃない、ようだけど味方ではなさそうね」

 瞬時にマミヤは敵と判断しヨーヨーを取り出す。そのマミヤの武器に笑うユダの配下のモヒカン達。
 ……そして舐めた態度で近づこうとユダの部下達は近づく……だがそれは命取り、ユダの配下のモヒカン達は甘く見過ぎた。

 「これが見切れるかしら?」

 その言葉と共にマミヤはヨーヨーを飛ばす。そのヨーヨーが放たれた瞬間に回転した刃がヨーヨーの隙間から飛び出した。
 それに絶命する二人のモヒカン。その瞬間残りのモヒカン達は飛び掛って来た。

 「落ちて!!」

 ヨーヨーを巧みに操りモヒカン達の脚へ直撃させるマミヤ、それに一人はぶつかり転倒するが、もう一人は避けてマミヤへと
 迫った。……避けられない! 一撃貰う覚悟で見構えるマミヤ。そこへ鋭い声が上空から飛び出した。それは妹が危機に
 晒されてるのを上空から目撃したゆえに自身の最も信ずるべく技を自然に繰り出した技。見る人が見れば原作知識から
貴様にくれてやるには惜しい技だと、誰かに言われても仕方が無い技をレイは繰り出した。




 

                           南斗水鳥拳奥義!!  『飛翔白麗』!!






  その拳は美しく、だが実態は敵を切り裂き、切刻む、比類無き残虐非道の必殺拳。マミヤの間合いへ入っていたモヒカンの体
 を両断すると、そのまま着地の際についた手を払いつつマミヤへと口を開いた。

 「……油断すれば即、死に繋がるぞ?」

 その強い視線は南斗聖拳を極めた拳法家としての強い視線、そして守るべき者を守る強い意志の輝きが秘められていた。

 だが、そのレイの視線を受けても動じる事なくマミヤの顔は険しい。怒らせたか? とレイが表情を和らげようとした瞬間、マミヤは
 身につけていたボウガンを取り出すとレイの方に目掛けて構えた。

 「な!?」

 「邪魔よ」

 その言葉と共に放たれるボウガンの矢、体を捻りレイは避ける。そして文句を口にしようとした時、地面から呻き声が聞こえた。
 それに視線を向ければ吹き矢のような物を構えながら倒れるモヒカン。先程マミヤのヨーヨーで脚を割れたか未だ戦闘続行可能 
 であったモヒカンだった。……多分口に銜えた吹き矢は毒矢だろう。その方向はレイを最後に標的にしていたと理解出来た。

 「油断したかしら?」

 そう、してやった表情でマミヤは声をかける。レイと言えば面白くなさそうな表情を浮かべるしかない。アイリを守っていた
 女に、借りを返すつもりで助けたつもりだったが、借りが未だ出来てしまったのだから。

 「……礼を言う」

 そう真意からではない謝礼の言葉にマミヤは思わず笑ってしまう。どう見てもレイの顔は不機嫌で、それは喧嘩や説教をした後の
 自分の弟を思い起こせるからだろう。マミヤの思わず零した笑みに、レイは照れくささや不機嫌さが同時に浮かび、顔を背けるしか
 出来ない。……その時耳へと近接した場所から空気を切るような音が聞こえマミヤとレイは一瞬で臨戦態勢に入る。
 
 ……だが、気がつけば終わっていた。上空から何かが落ちてきたと思ったらそれは体に矢を生やしながら落ちてきた牙一族だった。

 「む!? 先程あらかた倒したと思っていたが。……いや、それより一体誰が今撃った?」

 そうレイは疑問の声を上げる。……ボウガンを持っているのはマミヤ、そしてアイリ、……この中で撃てた人間となると……。
 そして理解すると驚いた表情でレイはアイリを見た。……ま、まさかあの消極的で誰かに守られていたアイリが……!? とレイは
 信じられないと言う視線でアイリを見る。だが、レイの推測は正しく、上空へとボウガンを放ったアイリが、真剣な表情で
 レイとマミヤへと声を放った。

 「兄さん! マミヤさんも油断しないで! 戦いは終わってないのよ!」

 「アイリ、お前……」

 「兄さん……私、色々と兄さんの居ない間に解ったの。……誰かに守ってばかりじゃ駄目……私も戦わなくちゃいけないって……!」

 「アイリ……!」


 


 ……原作とのズレがここでも一つの早い感動を咲かせた。
 アイリの心の成長。兄のお守りを抜け自分だけの生き抜こうとする力を身につけていたアイリ。それに感動や寂しさを織り交ぜ
 つつレイは涙を流す。マミヤはその二人を眺めつつこう思考していた。

 (……蚊帳の外ね、私。……少しシスコン過ぎるけど、良いお兄さん見たいね)

 ……肉親である弟に似た可愛らしさを覗かせ、アイリへと愛情深い態度を見せるレイに対し、マミヤは少しだけ好感を覚えるのであった。
 









 






 (……く! 牙一族の所為で予想より迎撃態勢が早すぎた! ……何としてでも南斗水鳥拳伝承者のレイの殺害……又は肉親を
 攫わなければダガール様に処刑される……!)

 焦るシカバ。彼は村の強襲部隊の頭脳として任された。だが想定外のアクシデントが積み重なり早くも作戦の失敗を予感していた。

 (……少なくともあの拳法家……ゴーギャンを倒した男は北斗と言う技を使いゴーギャンを数秒で倒してしまった……! あれが
 多分伝説と言われている北斗神拳! これだけでも十分な情報だ。私だけでも何とか逃げ切り、この情報をユダ様に……!)

 「……何? そんな入り口まで走って如何したの?」

 その声に立ち止まり武器である鎖を構えるシカバ。……目前に立ちはたがるはアンナ。両手に鉈を構えつつシカバを睨みつける。

 「……はは、先程門番の真似事をしていた娘か……。……どけ、死にたくなければな」

 「……その肩のマーク、UD……貴方ユダの部下でしょ」

 「……っ」

 「……要するにこの村を襲ったのもユダの命令……って所か。……つまり今回の村を襲ったのは南斗の軍勢……特にサウザー
 とかに知られたら一番不味いんじゃないの?」

 (こ、小娘……!!)

 シカバは焦る。今回の作戦は完全に内密。それを『将星』サウザーに知られれば自分はどっち道死刑。いや、最悪ユダから
 この世の物とは思えぬ拷問を命尽きるまでされる事だってありえるのだ。

 鎖を掴む、もはや猶予はなし。この娘は絶対に殺さなければならない……何としてでもダガール様の元へと戻る!!

 「うおおおおおおおおおぉぉ!!」

 前方へと跳ぶシカバ。鎖を降り回し血走った目でアンナだけを見据える。

 対するアンナは動かない、じっと自然体でシカバだけを見てる。……例えどんな拳法が使えようと、この俺の鎖を防ぐことは


                                   ガシャン!!

 「ぎゃっ!??」

 「……残念」

 突如噛まれたような激痛が脚を襲う。……痛みを堪え脚を見ればそこには狩猟用の罠が置かれていた。……!? ま、まさか
 この女、私が挑発に乗る事すら予想してここで待ち受けていたとでも言うのか!?

 その予知とも言える恐ろしい行動にシカバは戦慄する。そしてアンナは気がつけば自分の額に銃口を突きつけていた。
 
 ……もはや命運尽きた。……瞳を閉じて最後の時を待つ。

                                   カチャ
 ……銃弾の弾が飛んでこない。……不発? いや、この女がそんなヘマをする事はないだろう。それゆえ混乱した声を上げる。

 「……な、なに?」

 「……今ここで殺すよりは、貴方を証人として引き渡す方が良いでしょ?」

 その言葉に体の血が抜けていく感覚を覚えた。

 ……こ、この女、このまま俺を材料にユダ様を陥落させるつもりか!? と。
 
 「ま、そこで少しじっとしててよ? ……さーて、お片づけに戻りますか」

 そう散歩に出かけるような調子で拳銃を仕舞い女が去る。……私はこう呟くしかなかった。


 

                                「あ……悪魔め」







 








 「……かなり減ってきたな。……未だ闇に潜んでいるのが大勢居るが」

 「だがかなり目も慣れてきた。すぐに終わらせて見せよう」

 そう言葉を切るケンシロウとレイ。向かい合わせに構える二人にユダの軍勢と牙一族の屍が周囲に転がっている。余りの強さに二つの
 軍勢は恐怖で動けない。それ程までに二人の強さは桁違いだった。

 「……ふ、ふっふっふっふっふっ……!!」

 「……? 気でも触れたか? 何がそんなに可笑しい?」

 冷や汗を流しながらもギバラは笑う。その笑い声に眉を顰めつつレイは疑問を唱えた。だが、その声すら無視し、ギバラは
 星空なき空を見上げつつ、遠くへ向けて言葉を発した。

 




                             「……兄ちゃん、使うぜ……」





「……!? あれは……!?」

 ケンシロウはその怪しい液体を飲み干す姿に以前のカーネル達の光景が過ぎる。そして薬を飲み干し息を吐きつつギバラは震えながら言った。

 「兄ちゃん……兄ちゃん……ニイチャン……ニイチャンンンンンンンン……!!!!!」



                               グゴロオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!



 

 ……体毛は闇夜に混じる黒色へと変わる。そして瞳は完全に狼と同じく黄色へ変色し、牙、爪もろとも完全な狼の化身となる。
 そしてもう一つの飲み干した薬の影響か? その体は以前のギバラよりも確実に巨大化していた……!!

 その様子を一部始終見て、レイは言った。
 
 「……何だ、あの化け物は……? ……いや、待てよ? アズガルズルで似たようなのを見た覚えが……」

 「来るぞ、レイ!!」

 何かを思い出そうとしていたレイへ注意を放つケンシロウ。瞬間に巨大化したギバラの爪がレイとケンシロウの後退した地面を抉った。

 「!! ……成る程……触れたら危険だな」

 「薬を飲むとどうやら異様に体全体が固くなるらしい……南斗聖拳が通用するかどうかは解らんぞ」

 「ふっ……ならば通用してみるか試してやろう! 南斗水鳥拳の伝承者の名にかけて!!」

 空中へと跳ぶレイ。そして怪物へと変貌したギバラめがけて叫んだ。





                            南斗水鳥拳 『残鳥斬』



 その技名と共に着地するレイ。……硬直するギバラ……その体は両断されるかと思われた……だが!!


                        グルルルル……  グゴオオオオオオォ

 
 「なっ!? 俺の技の特性を見切ったのか? ……いや違う! これは物理的に効いてない!」

 跳び退りレイはギバラの爪を避けつつ叫ぶ。……『残鳥斬』は余りに素早い斬撃ゆえにすぐに動かなければ一瞬で体が癒着する技、
それゆえに一瞬レイは静止していたギバラの命が助かっているのがその所為だと思ったが、体の筋に『残鳥斬』で付けた斬撃の跡を発見し
 物理的に今の斬撃が効いてなかったのだと理解し叫んだ。

 「何と固い肌だ!? 先程とは比べ物になら……ぐあああぁ!?」

 一撃を貰い吹き飛ばされるレイ。それと同時にケンシロウもギバラ目掛けて飛び込み技を振るう。



                                『岩山両斬波』!!!



 それは通常ならば一撃で岩を砕く程のチョップを脳天に繰り出し相手を絶命する技、……それは重くギバラの体を震わせる。
 やったか? と一瞬レイも揺れるギバラの様子を見て思う。……だが、やったか? と思った敵が倒される事はほぼ在り得ない!



                              ギャゴオオオオオオオオおおォォアア


 ……鬱陶しい蝿でも振り払うかのようにケンシロウへと振るった腕が直撃する。一つの民家へと壁を崩し倒れたケンシロウ。

 「ぐはっ!? ……北斗神拳すら効果は薄いか……!」

 そして勝てる様子に生き残っていた牙一族は咆哮を上げた。……それに釣られギバラも咆哮を上げる。……このままでは分が悪い。
 立ち上がり口元の血を拭いながら劣勢を打破するべく術を模索するケンシロウとレイ。……だが秘孔は通用せず、南斗聖拳も
 効果が薄いとなると、二人にはこの異常な家族愛で形成された化け物を打ち倒す術が思いつかなかった。


 ……それを遠巻きに眺める男がいた、ゴーレムだ。劣勢の二人を見て喜びの表情を見せつつ手元にある爆薬を掲げる。

 「へへ……! この爆薬で村を火事にすりゃあ炙り出せるだろう。……そんでダガール様の命令は全部済む、あの二人は牙一族
 に殺される。……へへ、頭さえ使えば勝てるんだよ」

 「ああ、本当にそうだな」

 「ああ、ああ、そうだろ? ……あん? 今誰が俺に話しかけた?」

 自分の周囲には誰も居ないはず。不思議そうに首を回し後ろを見る。……その瞬間誰かの手が顔を挟んだ!

 「がっ……!!??」

 「……あの二人は何を遊んでやがるんだ? ……ったくバイク背負って歩いていたら何やら騒がしいしよ。……牙一族は
 良いとして何でユダの部下が此処にいるんだよ? ……何もかも狂ってやがる。ったく先行き考えるのも苦労すんだぞ、こちとら」

 
 「て、でめぇなにもん……!?」

 顔を挟む手を引き離そうとゴーレムは両手に力を込める。だが、自分の自慢であった怪力、ゴーレムとしての力でもこの正体不明
 の男の片手の力に抵抗出来ない事を理解すると驚愕した。

 そして男は面倒臭そうにゴーレムを離す。倒れこみゴーレムが見上げればその胸に七つの傷が付けられているのが見えた。

 ……七つの傷!? ……ならば、こいつは最近色々な場所で救世主と囁かれているあの……!?

 「お、お前はもしや……!?」

 「……俺か? ……そうだな、とりあえず恒例としててめぇに言ってやろうか。……おい、お前」



 そう言って、ヘルメットの男、ジャギは七つの傷を見せつけながらゴーレムへと重苦しく声を放った。






                           「……俺の名を言ってみろ……!」









    

     








      





     あとがき



   ジャギ   遅い






    




[25323] 第八十五話『真夜中の大乱闘ほあた☆世紀末(後編)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/12 21:45



 疲労困憊と言った様子のケンシロウとレイ。激しく息をつきながら目前には巨大化し怪物と変貌したギバラが咆哮を上げている。

 そして周囲の牙一族もそれに同調し咆哮を上げている。……その瞳は赤く変色している。

 「……ケン、気がつかないか? 仲間の牙一族も凶暴化している……」

 「……どうやら奴の咆哮に感化されたと言う所だろうな」

 呼吸を整えつつ状況を冷静に分析するケンシロウ。だが、分析しただけではギバラを倒せなどしない。どう打開策を
 生み出すか……。万事休すになりかけた時に、家屋から大きな発砲音が聞こえてきた。

 「? 今の音は散弾銃か?」

 「……どうもそうらしいな」

 ケンシロウはその音の正体に勘付きつつも、音に反応しそちらへ向かった牙一族を尻目に拳を構える。……人数が少なく
 なったら都合が良い。……視界に入る敵は全て倒せば良いだけの事!
 
 そう言葉でなく体で表すケンシロウに笑みを浮かべつつレイも同意するように構えて言った。

 「……ふむ。単純だが、実際に拳だけで倒せなければ、南斗水鳥拳伝承者の名に傷がつく! 行くぞケン! あの狼の化け物に
 俺達の力を見せてやろう!」

 ギバラはその声を引き金にケンシロウとレイへと走り迫る。マミヤの村の一角……そこでは滅多に見られぬ伝承者達の
 激闘が広がる事となった。








  
                    『北斗邪技弾』!!  『北斗邪技弾』!!   『北斗蛇欺弾』!!



  踊りかかる敵達へと、気弾、気弾、操られた銃弾を発射させるジャギ。

 ゴーレムを難なく倒し村へと入ったは良いが、入った途端にユダの部下であろうモヒカンや牙一族達へと襲われて二丁の
 散弾銃をフルに活用する事になっていた。……鬱陶しそうに敵へと叫ぶ!

 「てめぇら蝿みたいにうじゃうじゃ沸いて来やがって!! いい加減離れろってんだ!!」

 そしてまた銃声が響く。いい加減気を消費するのも面倒だとジャギがうんざりしていると、背後から気配がする。
 振り向けば飛び上がって自分に爪を振るおうとしている敵。……動きもスローに見えるのは走馬灯と言うよりは自分の動体視力が
 異常に鍛えられている所為だろ。迷惑そうにジャギはライフルを構えようとする。……すると銃声が別の方から聞こえてきた。


 (誰だ? 俺未だ撃ってねぇぞ?)

 
 その銃声の方へとゆっくり首を向けるジャギ。……この時までは多分マミヤかその辺りが牙一族を倒してくれたのだろうと
 見当つけ、自分の事についてどう言い訳しようかとも考える余裕がジャギにはあったのだ。
 だが、その銃声を発生した人物を見た瞬間、ジャギは幽霊でも見たかのように二丁の散弾銃を取り落として呟いた。





                                 「……アンナ?」



                                 「……ジャギ?」






 
  (……え? 何でだ? もう、この村は去ったんじゃねぇのかよ?)

  (何で? 確かにケンシロウが来たけど、ジャギが来るなんて予想してなかった)

  (如何する? 如何やって声をかければ良い? 俺、会えるなんて思ってなかったから何を言って良いかわからねぇ)

  (如何しよう? 私、何をジャギに話せば良いかわからない。会えたら色々話したかったのに、何で、何でなの?)

 お互いの世界がその時完全に止まっていた。二人は約一年、言葉も交わさず、ただお互いの残り香だけを自身の慰めとして
 旅を続けていた。約一年、短いようでそれは長すぎる月日。どちらも頭の中には鮮明に彼、彼女の姿を思い浮かべ、その幻影は
 自分へと元気付ける言葉を話しかけてくれた。……けれど目の前には本物がいる。……ただ二人は恐ろしかった。
 まるでこのまま触れ合えばどちらも壊れてしまうのではと考え、だからこそ動けずにいた。……それを、どちらともなく出現した
 モヒカンが邪魔する。


 
  『後ろ(だ)!!』

 同時に叫び、同時にその声に反応して二人は背中を向けて牙一族、又はモヒカンの体を爆散、両断する。血に濡れるアンナ。そして
 ジャギ。そして二人が出会ったのを見計らったかのように多数の敵が二人へと出現する。それを視認するとお互いに無言で各々に
 構えた。……ジャギは己の凶器である拳を。そしてアンナは一年を経て自身の一部となった刀を構え……同時に駆けた。


                          爆散  爆散  爆散  爆散   爆散  爆散   爆散  爆散

                          両断  一閃  両斬  一閃   両断  両断   一閃  両斬


  


    爆 爆 爆 死 爆 爆 散 爆 斬 散 死 爆 爆 斬 散 死 爆 斬 死 爆 爆 散 撃 爆 崩

    斬 斬 刺 刺 斬 閃 斬 斬 滅 閃 撃 斬 死 死 撃 滅 散 滅 残 撃 死 残 残 閃 撃



 お互いが、相手を一瞬で死へと帰らす一撃を振るう。一人は一本の指で、一人は一振りの刀で相手を死へと追いやる。

 敵は血を噴出し、肉を空中へと舞わせ、血の塗られてない場所を探すのが困難な程に、屍で地面が染まっていった。

 そしてジャギの服は野獣達の血によって一時的に、擬似的な魔法戦士のような服装へと変化する。
 アンナと言えば野獣達の血が更に体へと浴び、金髪は変色し桃色のような妖しい色へと変わり、バンダナは血に染まった。


 ……すべての野獣達を掃除し終えた頃には、アンナとジャギの距離は数歩まで狭まった。


 「……アンナ」

 ……ようやく会えた。


 嬉しさはある。喜びもある。だが血に濡れたアンナは顔を俯いて俺を拒絶している。
 それが嫌でも感じ取りジャギは怯える。そして振るえる腕でアンナへと手を伸ばした。


                                 ……スッ


 「……触ったら、駄目だよ。ジャギ」

 ……アンナの声は震えてる。その言葉にジャギは静かに言う。
 
 「……何が、駄目、なんだ?」

 ジャギの言葉にアンナは顔を上げる。……その表情は笑顔だ。……笑顔であるが壊れ物のようにそれは儚かった……。

 「ははは……だって……さ、ほら? 私、血まみれだよ? ……ねぇ、ジャギ。汚いじゃん? ねぇ? ……そんな事より私ねっ、
ジャギと会わない間とっても強くなったんだ。……ほら! 今襲ってきた奴らもぜーんぶ返り討ちに出来る位にさ! 凄かったでしょ!
ジャギ、褒めてくれる!?」

 「……アンナ」

 「一杯一杯、モヒカンや、野獣や、悪い奴達一杯倒したんだ! 今の私、武器さえ持たせたら結構強い拳法家だって
 互角に渡り合えるんだよ? さっきの見てたでしょ? 一杯血をとばーっと、刀を振った瞬間に野獣をやっつけてさ!」

 「……アンナっ」

 「ジャギに再開出来て嬉しいよ? けど未だ会っちゃいけないんでしょジャギ?だから私とっても強い、から、ジャギ、に……」


 そこでアンナの言葉は途切れる。ジャギがアンナを抱きしめたから。

 「……駄目、だよジャギ。……汚れちゃうよ?」

 「……汚く、ねぇ」

 「……駄目だって……私に触ったら」

 「……汚くねえ……! アンナは汚くねぇ……っ!!」

 強く強く、それでいて傷つけぬようにジャギはアンナを抱きしめる。

 血の化粧をしたままアンナは瞳に生気ないまま、拒否の言葉を繰り返す。……ジャギはアンナへと叫んだ。

 「アンナ……アンナ! 約束したろ!? 笑顔で再会するって……!」

 「うん、うん……。だから笑顔でしょ? ジャギ……?」

 「馬鹿、野郎……! ……すまねぇ……馬鹿は俺だ! ……お前がこんなにボロボロなの……知らずに……!!」

 ジャギの涙は、野獣達の血と混ざり赤い涙になって地面へと落ちる。……アンナは悲劇的な程に優しくジャギへと言葉をかける。

 「……汚れちゃうよ……ジャギが。……だから離れて? ねぇ……」

 「アンナ!!」

 ジャギはアンナの笑顔を見ながら形相を浮かべ叫んだ。


                               







                               「俺の名前を言ってみろ!!」


 






 その叫び声に目を見開いてから、小さく声を出すアンナ。

 「……ジャ、ギ」

 「そうだ! お前を愛してるジャギだ!! お前の事をずっと守る! 絶対にこれ以上傷つけねぇ!! だから頼む!!
 頼むよアンナ!! お前の……本当の……表情……見せてくれよぉ!!」

 泣き叫ぶジャギ。……そして、その言葉にアンナは数秒経ってから目が覚めたような顔つきへと変化すると……
 『アンナ』はジャギへと名前を紡ぐのを繰り返した。

 「……ジャギ」

 「ああ」

 「ジャギ……!」

 「あぁ……!」

 「ジャギ!!!」

 「そうだ……!! そうだアンナ……!!」

 泣き叫びながらジャギの名前を連呼ししがみつくアンナ。それに、ようやくジャギは、泣きながらも笑顔でアンナを抱きしめる
 事が出来た。

 ……一年分とは言えずとも二人は傷を舐めあう事は出来る。……そしてようやくジャギとアンナは幸福の華と成らんと
 お互いに再会をようやく祝福する事が出来た。



 ……ギバラの咆哮が聞こえる。……それに対し涙を出し尽くしたアンナとジャギは口を開いた。

 「さて、まずあの化け物倒さねぇとな。アンナ」

 「うん! ぶっ飛ばして行こうよ! ジャギ!」

 お互いに笑みを浮かべると二人は向かう。その顔にはもはや危なげな所は少しもなかった。










                                  『北斗千手壊拳』!!

                                  『無外絶影掌』!!!





 ケンシロウとレイの互いの拳がギバラへと降り注ぐ、だが、ある程度の痛みを与える事が出来てもギバラの肉体へと通用する
 ダメージは未だケンシロウとレイは与える事が出来ていなかった。

 「……ふぅ、ここまで骨があると流石にだれるな」

 「呑気な事を言ってる場合じゃないだろう。……また来るぞ」

 レイの若干ふざけた言葉を戒めつつケンシロウは注意を上げる。それと同時にギバラは猛獣の突進の如くケンシロウとレイ
 目掛けて襲ってくる。巧みに避けているが、その分自分達の拳法が全く通用しない事に辟易も二人は覚え始めている。
 よって二人とも力技で捻じ伏せる以外の方法を捜し求めていた。……そこへ声が上がる。

 

                                 「……苦戦してるようだなぁ? ……ケンシロウ」

                                 「……私達がその化け物倒して見ましょうか?」





 「何? ……ジャギ! そしてアンナ!」

 見上げればそこに居たのは懐かしき友の二人。レイは喜びの声を上げてアンナとジャギへと笑みを浮かべた。
 
 「……ジャギ」

 対するケンシロウの顔は険しい。……未だ真偽が掴めない人物がここに来て参上したからであろう。顔を曇らせたまま二人の
 動向を見守る。とりあえず二人がどうギバラを料理するのか興味を覚えたからだろう。……そしてジャギの声が上がった。


  「おら来いよ化け物……ギバラ、だっけか? ……ケマダの野郎を殺したのは実は俺だぜ」

                        グルウウウウウウウウウウウウウウウウウ???!!!!



  その言葉にレイとケンシロウに襲い掛かるのを止めてジャギへと顔を固定する。例え理性を完全に失いつつも、兄を殺した
 と言う言葉だけは異常な肉親への情愛で突き動かされているギバラにとっては禁句と言って良い言葉だった。ゆえに
 ジャギへと完全に標的を変える。……そして走り寄り跳びかかろうとした瞬間にギバラの足元から金属音が響いた!

                               キン!!   キンッ!!

     
                                 ギャウウウン!!!?


 「よしっ、大成功!!」

 ガッツポーズするアンナ。……大型獣用の罠は見事にギバラの脚を銜えこんだのだ。苦痛の唸り声を上げるギバラ、それに
 向かいジャギは一つの容器を取り出すと言った。

 「……勝てば良いんだ何を使おうが……確かにてめぇ見たいな化け物相手してると、この言葉さへ正しく思えるから不思議だぜ」

 そう言いながらジャギは振りかぶる。……液体の揺れる音が静かに聞こえる。

 「人生の勝者ってのが生きてる者の事ならば……私達は勝者って事で間違いないよね?」

 その言葉と共に弓矢をアンナは掲げた。……その矢にはマッチによって炎が点けられていた。

 ギバラはその火矢と容器から漂う匂いに気づき必死に狩猟罠から逃れようと脚を懸命に動かす、だがそれより早く二人の声が響いた。

                                 




                                『思い知らせてやるぅ(あげる)!!』




 その言葉と共にジャギが投げたガソリンとアンナの火矢は同時にギバラへと命中し、ギバラは絶叫しながら火炎へ包まれた。


 「グウウウウウウウウラああ……おの、れええええ……己えええええ!!!」


 「!? 言葉を……体が縮んでいく!?」

 「薬がようやく切れ始めたのだろう……終わりだな」

 だが、効果が切れた事によりギバラの脚は罠から抜け出せるようになった。それを好機と見てギバラは抜け切れてない薬の力
 を振り絞り、この事態を親父へと知らせようと家屋へと跳ぶ。何とか上に辿り着ければ脱出が見通せると信じて。

 「アンナ!!」

 「はいよ!!」

 それを見て瞬時にアイコンタクトと共にジャギとアンナは次の行動へ移る。

 ジャギは野獣達によって壊れた柱を渾身の力を込めつつ持ち上げる。

 アンナはその柱を足場にするとギバラと同じ目線の高さまで跳び上がった!!

 「な!?? ぢ、ぢぐじょおおおおおお!! にいちゃ」

 

                                  『jade give』!!


 ……アンナのシンクロアクションアーミーによる弾丸を受けて、ギバラは最後に兄の姿を思い浮かべながら生涯を閉じた。

 ……だが、未だ牙大王が及び残りの牙一族が残っている。……戦いは未だ始まったばかりなのだ。

 だが、それすらも愛する者を守ろうと思う気持ちがある彼らならば大丈夫であろう。

 拳銃を発射し、アンナを受け止めつつ笑みを浮かべるジャギ。

 そしてそれに血で汚れつつも晴れた笑みを浮かべるアンナ。


 ……彼らならばこれからの戦いもきっと、微笑みを失わずに切り抜ける筈であろう。


















     



   ※ バレンタインが迫って精神的に可笑しい友人の独白が後書きにあるので、そのような物がキライな方はここで読むのをストップして下さい。





   皆様の精神の健康を損なう可能性があるので、絶対に、絶対に注意事項を守ってください。






   警告したからね?(´・ω・`) 俺も公開するの嫌だけど拒否したら全裸で迫ってくるんだもん……(´;ω;`)
        









        あとがき

   『僕は小学生の時にメーテルとモナリザに性欲を抱いた。
    僕は小学生高学年の頃に杉田かおるに性欲を抱き、ジャポニカのおじさんへと性欲を抱いた。
    僕は中学へと上がり幼年の心を取り戻すとロールパンナたんのロープでSMプレイされたいと願望を抱き。そしてSFの春麗たんの
 パンストクンかクンかしたいとボッキしながら夢を膨らませた。
    中学一年になると僕も大人になりポケモンのイーブイにスピードスターで体中に青アザ作りつつ抱きしめたいと思い始める。
    二年三年生では既に悟りを開き、手塚先生の火の鳥とセクロスする姿を抱いては夢精する毎日であった。
    高校一年生になると淫乱テディベアを嫁にする事を決意し修行する毎日。修行を終えるとボルゲたんの笑みが
 可愛く見えるから不思議だ。あぁ、やっぱり僕にはボルゲしかいない。
    今から36年前……いや1年と六ヶ月前の話しだ。
    私には99人の嫁が居たが最初の嫁の名は……ボルゲ。
    あぁやっぱり私にはボルゲしかいない。それが高校の中で私が卒業すると同時に学べた教育方針であった。
    汚物よ。君の蹴りが威力が弱いときでも僕は君の友人である事を善処した。
    汚物よ。君の殴る威力が甘くて文句を言ったら更に殴ってきても快感に足りない時でも私は君を軽蔑はしなかった。

    明後日は私にとって地獄の黙示録。だが僕にはボルゲがいる。アンリマユに侵されたサクラたんがいる。
    サクラたんのアンリマユに飲み込まれつつ絶叫したい。君はそう言ったら(´・ω・`)<死ね と一言で済ませたけど
    それが君のツンデレである事は知っている。
    私には明後日などない、そうだ私にはボルゲたん率いる沢山の嫁がボキを優しく突き放す目線で見守ってくれてるのだから……』






     ……弁護士の方とかいらっしゃいますか? 

     ストーカー規制法通用しないかな? (´・ω・`)
    






[25323] 第八十六話『狼達の夜明け 真の闘いへ向けて』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/13 20:37



 「……それで、お前は何故ここに訪れている? ……もう下手な言葉では誤魔化されんぞ」

 そう鋭く詰問するケンシロウ。それを椅子に座り疲労した雰囲気を滲ませてジャギは崩れた姿勢で溜息を吐いている。


 とりあえず嵐は過ぎ去り大量の死骸の掃除も一通り終わってから、ケンシロウの尋問を受ける事を止む無く受けたジャギ。
 バイクも未だ修理が完了出来てないから逃げれないし、何より今はアンナと離れたくなかったから別に構わないが……。

 「……答えろ」

 「答えろって言ってもなぁ……前に言わなかったが? 俺様は、俺の気に入らない奴をぶちのめすのが目的だってよ。
 だから牙一族に、そいつが薬を売った情報を聞きつけてここに来た。……何の不思議もねぇじゃねぇが?」

 話術が得意なのは前世からの影響が、はたまたこの世界で生き残る決意をした時に必死にイメージトレーニングした甲斐か、
 又は両方か? とにかく、ジャギは飄々としつつケンシロウの質問をいなす。

 「……ならば何故アンナとお前が先程共闘などしていたんだ?」

 「んなもん利害の一致だからだろうが? 襲ってくる敵が煩わしいから目の前で戦ってる野郎に提案しただけ……何も可笑しくねぇ」

 渋った顔を見せるケンシロウ……。この時にケンシロウは言葉の選択を誤った。矢継ぎ早な質問ではジャギの話術には勝てない。
 この場合質問をするとしたら、連携している時の異常な同調について指摘する方が未だ有力であった。
 だが、ケンシロウは大まかな疑問以外の細かい部分を指摘する程の器量は持ち合わせていない。だからこそジャギはケンシロウ
 の質問の嵐に逃げ切る事が出来たのだ。……そしてそこへとレイが現れる。

 「……あの生き残ったユダの部下の事だが、やはりアンナの提案した通りに聖帝軍に引き渡すのか?」

 尋ねながら持ってきた食事をケンシロウとジャギへと手渡す。……若干ジャギへ手渡すときに乱暴に見えたのはケンシロウから
 ジャギの偽者だと告げられているからだろう。……微妙にレイも半信半疑であるから大げさにジャギへ嫌悪の態度は見せないが。

 「……お前、本当にジャギではないのか? ……最もそれならどんな手段を使おうとジャギの居場所を吐かせるが……」

 「はっ! てめぇ何ぞにこの南斗聖拳を扱う俺様を倒せるかなぁ? ……ああ、後飯届けてくれて有難うよ」

 「……本当に貴様は俺達の知っているジャギじゃないのか? ……ケン、どう見る?」

 「……俺からは未だ何も言えん」

 馬鹿にした口調を上げるジャギ。レイはと言うと今すぐにでも力で圧する事も出来れば叶えたいのだが、どう見ても
 被っているヘルメット以外では自分の旧友の人物そっくりであるし、何より自分を先程手助けしたと言う恩もある。
 『義星』のレイ。そして救世主の宿命を背負うケンシロウ。どちらの宿命も相手が自身に害を加えぬのならば暴力で
 訴えるのは気が引けるのだ。それに、もしこれが推察する通り兄であるならば危害を加えた後の自分の罪悪感が凄まじい。
 ケンシロウはそのジレンマによって手が出せず、レイもケンシロウからそれを聞かされてジャギへと手を出せないのだ。

 『……秘孔を突いて正直に吐かせれば良いのでないか?』

 『……ジャギ兄さんは、秘孔について最も熱心に研究を昔していた。だから俺の秘孔を突いても、それに対し何かしら対策
 をしている可能性もある。……だからこそ俺には推理でしか正体を見極めるしか今は出来ない』

 そうジャギの居ない場所で(最も霊王の体ゆえに地獄耳ではっきり聞こえてる)このようなやり取りもあった。
 ゆえに詰んだ状態。どちらも邪険にする一歩手前の態度を取る術だけに現在進行形で留めているのだ。

 (……ここまでは俺の予想通りになったな。……ほぼ俺の所為だけどよ、甘ちゃんのこいつらじゃ無抵抗な状態の人間を
 極悪人以外はどうこうしようとは思わねぇんだ。……『以前』ならアウトだけどな)

 そう考えつつ口に食べ物を運ぶジャギ。そしてレイへと先程の質問を返す。

 「それで良いだろ? シカバって野郎をユダに引き渡せばユダの野郎は地位剥奪だろうが?」

 「それでは駄目なんだ」

 ジャギの言葉にレイは難しい顔で首を振る。……どう言うこった? 

 ジャギの疑問にすぐさまレイは答えた。……その答えはある種想定範囲だが、色々と不味い話だ。

 「……俺達は南斗六星と呼ばれ、サウザーの『将星』を中心として今まで乗り越えてきた。……ユダの『妖星』が欠ければ
 今の時世からすれば南斗の星に皹入る事になる。……ユダもそれを考えて俺の妹を拉致しようと考えたのだろうな。
 下手に俺がユダを倒せばあいつは南斗六星が崩壊すると知っている。そして誘拐が成功すれば俺を好きに奴の玩具に出来る。
 ……今は下手に手を出せない。悔しいが奴を聖帝軍に引き渡せば南斗の崩壊の切欠を渡してしまう事になる。そうすれば
 折角今まで平和を目指し築き上げてきたあいつ達の苦労が水の泡だ。……俺にはそんな真似は出来ない、『義星』に誓って」

 その言葉に同時に唸り声を上げるケンシロウとジャギ。南斗は表の拳法ゆえに世間的な出来事が色々と密接しているが
 まさかこのような所で弊害が生じるとは思ってもいなかったのだ。……そしてケンシロウは声を上げた。

 「……ならば如何する? 奴をユダの元へわざわざ帰らすのか?」

 「いや、それは問題ないだろう。……あいつが失敗した部下をどう裁くが奴自身がわかっているだろうからな……」

 苦々しくレイはそう言い放った。……今は遠い昔になったとは言え、共に同じ時間で遊んだ事もあったのだ。
 ……それゆえにユダを心から憎む事はレイには辛いのだろう。ジャギによって、多くの星が絆を結んだゆえに。

 それを一番思い知っているジャギは胸が痛いのを必死に押し隠しつつ何でもないような口調を保って言った。

 「……じゃあ野に放して別に構わないんじゃねぇか? ……拳さへ封じればあいつはもう何も出来ないだろ」

 その言葉に、二人は頷く。……戦いは既に終了した。……もはや無力に等しい男を殺すのは拳法家ではない……どちらも闘い以外
 平和な頃の姿勢が抜け切れてないのは、甘いと言われそうだがジャギには嬉しい誤算であった。

 (……俺はやっぱり甘ちゃんのお前達が好きだよ、レイ、ケンシロウ。……態々飢狼やら救世主やら必死に背負う
 なんぞ馬鹿げてるじゃねぇか……)

 ジャギはそう心中一人ごちつつ、シカバの元へ歩く二人の背中をゆっくりと付いて行った。








 




「……それで、私を追放すると?」

 「ああ……俺の手で拳を封じるがな。……ユダの元に帰る気があるならば別だが」

  そのケンシロウの言葉に、シカバは無言で思考を巡らす。……一番重傷であった脚は既に包帯が巻かれ、一週間も
 すれば走れる位までは回復するだろう。……最もそれまで野獣に出会わなければの話しだが。

 「行け、そして二度と悪事に手を染めるな」

 「……甘いな、南斗水鳥拳伝承者『義星』のレイ。……そんな甘さでは何時か災いの種が育ちお前達に降りかかるぞ」

 「んなもん返り討ちにされるのが身をもってこちとら解ってるっつうの。てめぇはこれから目立たず生きるんだな。肩の刻印
 も包帯が何かで隠しておけ。……ユダに見つからないようにな」

 レイの言葉に言い返し、そしてジャギの言葉で沈黙するシカバ。……間を空けてからシカバは小さな声で喋り始めた。

 「……言っておくが今回の作戦はダガール様の独案だ。……ユダ様に承認して貰っていると言っていたがな。……私は馬鹿
 ではない。冷静に考えればこのような質悪な作戦をユダ様が承認する筈がないのだ。……ダガールめ」

 「何? 如何いうことだ?」

 シカバの言葉にレイは口調を強くせがむ。痛めてる脚をさすりつつシカバは独り言のように続けた。

 「……言えば政治的策案だよ、最近黒い噂が耐えん。……荒野の一角で化け物がうろついてるのを見たとか、突如村人が
 全員消失したとかな。……最近になって上った噂では、あと少しで恐怖の大王が降り注いで世界が崩壊するとかな……」

 「んなもんデマだろう。それが何故ダガールって奴の独断と繋がるんだ?」

 ジャギの言葉にしかめっ面でシカバは答えた。

 「だからこそだ。核が落ち全員が恐怖で暴力的な行動へと陥っている。……聖帝軍やサザンクロスは平常を保っているが
 あれの方が今の世界では異常なのだ。……皆何かに怯えている、だからこそ確固とした力を手に入れたいのだよ。
 だからダガール様も突発的に今回の作戦を思いついたのだろう、ユダ様の機嫌を少しでも取れれば自分の恐怖が緩和
 されると思ってな。……信じられないと言う顔をしてるな? だが人間の心理など単純なものだ。馬鹿な行動でさえ
 それが最も有力な行動だと信じて取ってしまうんだよ……」

 シカバの言葉は脈絡ないように思えるが、説得力がその言葉の響きにはあった。ジャギは自身の『前世』の過去を振り返る。
 ……恐怖。確かにあの世紀末で俺は恐怖していたかも知れない。……だからこそ必死に目を背けこの仮面を着けて……オレは。

 「……礼は言わんぞ、……精々ダガール様の動向に気をつける事だ。……それと近辺で我々とは違う見たこともない集団が
 何か行っていたと目撃されてる。……お前達に何か関係あるかもしれんな」

 それを区切りに、シカバはびっこを引き摺りつつマミヤの村を出て行った。……レイやケンシロウは余り優れない顔色で
 それを見送っていた。……ジャギに関してもまた頭の痛い問題になりそうだ、と考えつつこれからを思案していた。








 




 「……そう言えば……牙一族はこれからどうする?」

 「ぶっ倒すしかねぇだろ。……と言うか俺様はその為にここに来たんだぜ」

 そう磨いたばかりの散弾銃を背中へ担ぎジャギは言う。……血まみれの服は既に洗っている。最初にそれをマミヤ率いる
 人間達に目撃された時危うく撃たれかけたのだ。……心臓に悪い事この上なかったと後にジャギは感想を口にした。

 「……お前達二人はどうするんだ?」

 「俺はようやくアイリと出会えたんだ。……何だその目は? 未だ俺は何も言って無いぞ? ……と言うかやっぱりお前
俺の知っているジャギだろ!? 何度か前にもそんな目をしてだろ!? ……わかった! 俺も一緒に行くぞケン、ジャギ。
……奴らを倒さなければアイリ達がまた危険に晒されるからな!」

 冷たい目線を浮かべるジャギに半ば焼けになりつつレイは宣言する。ケンシロウも腕組みしつつおもむろに言った。

 「……俺も行く。……今のままではリン、バット。……そして本当に守りたい者を守れん」

 重々しくケンシロウはそう口にする。その言葉に若干安堵しつつもジャギはそれをおくびに出さずにケンシロウへ茶々を入れる。

 「ほぉ? 救世主様はようやく自分の役割を認識し始めたか?」

 そう小馬鹿にした口調のジャギ。……だが今回はムキになった顔はせず、困惑した様子でケンシロウは呟いた。

 「……救世主、救世主と言っているが、……俺はそんな者ではないぞ?」

 (……あ、ちょい不味ったか? ……確かに今は言われてねぇか)

 ケンシロウが救世主と謳われるのはだいだい天帝編かラオウとの決着着けた位からだろうから。

 「はっ! この世紀末で子供連れて見かけた悪党ぶっ倒して回っている奴が救世主じゃなくて何なんだよ、え! おい!?」

 話の流れを強引に変える為にジャギはそう言い放ち二人から離れた。……修理しているバイクでも見に行ったのだろう。

 「……やはりどう思う、ケン? ……俺が知っているジャギにも思えるし、全く違うようにも思える……。だが、あの男は
 俺達を救ったのは事実だ。……それが見返りや打算的な行動を含んでいなかったと言われると自信がないが……」

 ジャギが見えなくなってからレイは今朝もケンシロウへと問いかけた質問を再度繰り返した。ケンシロウは平坦に言う。

 「やはり未だ何も言えない。……だが、俺はあの野獣達の掃除を終えたら一度シンの元へ戻ろうと思う。……あの時、シンは
 操られていた。……北斗神拳さへ扱えれば記憶を修正する事も可能だ」

 ケンシロウの提案に頷きつつも、額を撫でつつ悩んだ表情でレイは言葉を続ける。

 「……どうもわからん。……俺はやっぱりあいつは本物のジャギだと思うんだケン。偽者ならばわざわざユリアを攫った後に
 お前の元に現れようと思うか? しかもリンを助けるというおまけ付きでだろ? ……そんな真似をする悪党なんぞ
 存在すると思えん。それに俺の『義星』が訴えるんだ。あれが悪党ではない、と……」

 そうケンシロウへと言葉を投げかけレイはアイリの元へ行く。……ケンシロウは無人の中で呟いた。

 「……なら俺はどうすればいい? 偽者ならば偽者で、俺は奴に手を下せば良いだけの話し……簡単に事は済む。
 だが本物のジャギ兄さんならば……俺は」

 みつめる掌は、世紀末を蔓延る野獣達からは死神、凶器、兵器の類として恐れられる存在。……だが昔は違った。
 この俺の手は小さく、未だ兄たちに劣っている事は何時も鍛錬場で倒れていた。その時に手を伸ばしてくれる優しい存在がいた。
 倒れている俺を、少しだけ悪そうな笑みで、その兄さんは俺へと手を伸ばしていた。……俺にとって……その人は。


 







 そこで回想を打ち消す。……今は自分の出来る事をやろう。牙一族を倒す。……それが俺の今のするべき事だ。

 ……リンとバットが自分を呼ぶ方向へと足を進める。その顔つきには迷いは無く、何時ものようにしっかりとした足取りで
 ケンシロウは進むのであった。










 ……一方、ジャギはその時バイクの所ではなく、眠っているアンナの隣に座っていた。

 「……アンナ」

 小さな声で囁き、その手を優しく握る。……握った瞬間、眠りながらアンナの口元には笑みが浮かんでいた。

 「……ちょっと出かけてくる。……すぐ戻るからな」

 ……正直離れたくはない。これから起きる出来事などすべて放り出しアンナの手を引いてこの場所から逃げ出したい。
 ……けれどそうしたらきっとアンナの微笑を失うだろうから。アンナは許してくれるだろうけど、アンナの微笑みを二度と
 見れなくなる予感がするから。……だから少しだけの密月……アンナの額へと唇を落とすと立ち上がる。

 




  「……ジャギ」



 「……! 起きたのか?」

 出口まで足を運んだ瞬間に聞こえた声。振り返るジャギ……未だアンナは寝ている。

 「……寝言か」

 安堵と寂しさを交ぜ合わせつつアンナの元に座り直す。……未だ少しだけ時間があるから、それまで一緒にいよう……。

 そう思いなおしたジャギに、……寝言でアンナは言葉を続けた。

 「……すぐに……帰らないと……拳骨だからね?」

 その言葉に一瞬唖然としてから、ジャギは眠るアンナの小指へと自分の小指を絡ませると、一度呼吸を整えてから宣言した。

 「ああ、約束だ」

 「……エヘへ」

 「……何の夢見てんだがな。……さて、と」

 ……ヘルメットを被り直す。……久し振りに気力が充実し、体中に力が漲るジャギ。……入り口で待ち受けているレイと
 ケンシロウへと哂いつつ大声で言う。

 「さぁて行くぜ!! てめぇら俺様の足でまといになったらぶっ殺すからな!!」

 「……大口を叩く」

 「……ふん、こちらの台詞だ」

 ケンシロウとレイに冷たく言い返されても今のジャギの前進を止める事は出来ない。

 







         そして三人の救狼、飢狼、邪狼は、未知なる神の力と手を組んだ群狼の山へと乗り込むのであった。











      あとがき




 今日の投稿はこれで終わり。




 バレンタインは番外編の、この世界の北斗の拳の皆さんのバカップルの描写
 になると思います。




    ……明日が怖い(´・ω・`)





    ……発狂した某友人的な意味で









[25323] 第八十七話『番外編:世紀末血汚孤(チョコ)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/14 15:36
            やぁ    ジャキライです(`・ω・´)


  お早いもので後少しで90話まで行きます。これは皆様の応援のお陰です、本当(友人的な意味で)迷惑かけて御免ね(´・ω・`)


 

 
|ω・`)今回はバレンタインでの世紀末のリア充達の話し。時系列はバラバラだけど、しょこは多目に見て下さい。



                 それではどうぞ



 (殉星編)


 「……何なんだこの大量の包装紙の山は?」

 それはシンが南斗孤鷲拳伝承者となった頃の話し、バレンタインの日となった途端にシンの住居へと、色とりどりの
 ラッピングされた包装紙の山が大量にシンへと送りつけられてきたのだ。

 困惑して全部の荷物の中身を確認してみる。……北斗の拳世界であろうとバレンタインの行事は世間には浸透している筈だが
 拳法家達は世間の風習には疎い。ゆえにシンはこの大量の荷物に危険物がある可能性も警戒しつつ、無駄な緊張を費やし
 全部の包装紙を時間をかけて開ける事となった。……主に全部チョコであったがゆえに、シンは頭痛が最終的に発生したが。

 「……そう、か。今日はバレンタインとか言う日だったな。……何なんだこの贈り物の山は!? ジャギの言った通りの
 ファンクラブとかが実在していたとでも言うのか!? 御免だぞ! 俺は!!」

 部屋の外で巡回している兵士達が声に反応し立ち止まる事すら構わず、シンは絶叫する。なまじ真面目な性格ゆえに、この
 ような打算が込められているのが不明な贈り物に対し、返事をすれば良いのか、それとも無視して処理すれば良いのかシンは
 真剣に悩んでしまうのだ。……南斗孤鷲拳伝承者と言う立場は、世間的には貴族階級と勝る上の地位であるだろうし、シンの
 伴侶となる地位を政治的に欲する人間は数知れないだろう。けれどもこのチョコと共に同封された手紙の送り主の中には
 真剣に自分に想いを込めて送った人間がいるかもしれない。ないがしろにしてはそれは不憫であるし……。延々と積み上げられた
 チョコへと跪き頭を掻き毟る。……これをもう一人の伝承者を争っているジュガイが目撃したら、血の涙を流しつつも
 (シンに比べ人気がないゆえに汚物と同じで誰からも貰えない)シンに嘲りの笑みを浮かべるだろう。……想像するとどっちも不憫だ。
 
 「……何をそんなにお悩みなんですか? シン様」

 「サキ、か……いや、この大量のチョコ……どう処分すれば良いかと思ってな……」

 「では、城の兵士達にお配りしましょう。手紙の返事は私達がお返ししときますよ? 皆様の機嫌を損なわず、かと言って調子に
 乗らないような返事を贈り主の方々には書いておきます」

 「む? 頼んでも良いのか? そう言う返事は流石に俺が……」

 「シン様は多忙なのですから、このようなつまらぬ事でお悩みにならないで下さい。この様な雑事は私の役目ですから」

 サキはシンの前に積み上げられた別の女性からのチョコの山を見かけても動じずにシンへと返事する。……それは長年シンに
 想いを振り向かせようとしてきた、女と言うレベルでは高位ゆえの強靭さが織り成す冷静さであり、シンの性格を長年付き添い
 知り尽くしてるがゆえの余裕からである。……最もシンに贈られた手紙の返事をサキがどの様な執筆で返したかは割愛である。
……想像するだけで恐ろしくて仕方が無い。

 数十分後には片付けられた包装紙の山々。溜息と共に安楽椅子へと腰かけてシンは紅茶を差し出すサキへと礼を言った。

 「……いや、助かった。……本当に何時も、お前には迷惑かける」

 「何を言ってるのですか。シン様の侍女としては当然の義務ですよ」

 「……本当にユリアの侍女を辞めて良かったのか? ……いや、俺個人はとても助かってるし、手放すのは惜しいが、
お前の気持ちも尊重するつもりだ。だが、お前が実は後悔してるのであれば」

 「シン様」

 多少怒った表情を作ってサキはシンの額の指を軽く小突く。む……、と言いつつシンは額を押さえてサキを見つめた。

 「……私は、サキは自分の成したいと思う事をしてるだけです。……これでも自分のやりたいようにしているつもりですよ?」

 「……そう、か。それなら良い、んだ」

 シンは、心からそう返事を返すサキに柔らかな笑みを浮かべる。
  それがサキにとっては何より嬉しく、そして暖かな気持ちを満たしてくれるのをシンは未だ知らないだろう。

 「……あぁ、そうだ。今日は紅茶と一緒に、こちらもどうぞ」

 「……む、クッキーか。……お前が焼いたのか?」

 それにコクリと頷くサキ。……そしてシンは口へゆっくりそれを運び、そして暫く味わってから……静かに言った。

 





 「……何時もながら、美味い。……有難う」

 「はい、有難うございます。……紅茶は、御代わりはどうですか?」

 「頼もう」

 ……暖かい陽だまりが窓から零れる中、シンとサキの穏やかな時間が流れる。……二人のその、祝福された暖かな
 空間は、時が許すまで続けられた。……時が許すまで。








 





 (将星編)
 



 海は枯れ、大地は裂け……しかし……バレンタインは死滅してはいなかった!!

 




 それは聖帝サウザーが政策を整え、南斗が安定していた時の頃の、仮定の話。

 その場所ではイザベラがとある品物を抱えながら右往左往していた。
 
 (……どうしよう? 私が手で編んだ織物など、サウザー様は受け取らないかもしれない……)

 世紀末と言えど男女の色恋行事とは不滅。ゆえにイザベラも例外ではなかった。
 ……参考に話を聞ける人間。カレン等には話を聞けない。
 調理器具から火を吹かしつつ、聖帝軍の制止を聞かずチョコをレイへと作ろうと悪戦苦闘しているのを目撃し、話を
 聞く所ではなかったのだ。……リュウロウが巻き添えを食らって黒焦げのチョコを味見して倒れているのが恐ろしかった。
 ……もっとも肝心のレイはマミヤにチョコでも貰っているのだろうけど。

 (……可笑しいわね。初心な少女じゃあるまいし、今まで数多くの男に素知らぬ顔で贈り物なんてしてきたのに……)

 今まで数多くの男性をその肉美で虜にしてきたイザベラ。だが、真実の恋と言う物に関しては未だ初心者であり、目の前に
 サウザーがいれば手が震えて贈る事を躊躇してしまうのだ。

 「……如何したイザベラ、そのように陰鬱な顔をして」

 (さ、サウザー様!?)
 
 そして懊悩し結局渡すのを止めるかと思っていた時に、サウザーが目前へと出現する。……何時にも増して勇々しく見える
 とイザベラが赤面しつつ思うのは、惚れた女性ゆえの悲しき性だろう。

 「顔が赤いぞ? ……! 風邪か!? ならば早く寝室に戻れ! 何の病であろうと初期に治さんと取り返しがつかん!」

 「!? い、いえっ風邪ではないのです! サウザー様!!」

 「むっ、そうなのか? ……ふむ、確かに熱はないようだ」

 赤面している、心なしか瞳がおぼつかないイザベラにサウザーは焦り声でイザベラの手を引っ張り寝室へ向かおうとする。
 それは主君として間違っては無いのだが、今のイザベラには心臓に悪い事このうえない。それに次にサウザーが自分の額へと
 手を当ててるのも、動悸が激しくなるのを既に抑えられなくなっていた。

 「……本当に大丈夫か?」

 既に重病を負うかのようにイザベラの体中が赤くなっている。……恋煩いと言えど過剰過ぎないか? と思ってはいけない。
 何故なら思春期ですら本当に男性に恋心を抱いた事などなかったのだ。サウザーも恋愛経験など皆無だが、完全に皆無ゆえに
 女性の気持ちに対しほぼ無関心である。ゆえにイザベラの気持ちに気付く事が出来ない。……哀れ、サウザー。

 心臓が暴れるのを必死に落ち着かせるイザベラ、心配気に自分を見るサウザーに申し訳なく思いながら手に持っている品物に気付く。
 ……それを見た瞬間体中の熱が一瞬で雲散し、自分でも驚くぐらいの底冷えするような声が出た。

 「……サウザー様。……それは何ですの?」

 「これか? ああ、俺も朝から困っていたのだが、如何も出歩く度に女性から何やら菓子やら恋文などが渡されているのだ。
 こんな事は初めてだ。核が降り注いだからでもあるまいし……何か心当たりがないか? イザベラ」

 「……存知あげません」

 冷たく拒否の返事をするイザベラに、そうか、と溜息をサウザーは吐く。……実際サウザーは外見も良く、
そのように女性受けが良くても当たり前なのだ。正史では政治などなく暴君ゆえにこのような現象に遭遇などしなかっただろうが、
今は内政を完備し、民衆から聖帝と崇められるサウザー。……例え世紀末になろうと女性陣の恋愛の対象となるのは不思議ではない。

 「……しかし今日はどうも周囲の兵も民も浮ついているな。……この日は特別な行事であったか? 如何にも甘い香りが朝方
 から何度も嗅いで胸焼け気味だ。……何処かしら澄んだ場所でゆっくりしたいものだな」

 ……一応言っておくが汚物の想像ではサウザーは伝承者となるまでは女人とはほぼ接さず(ユリア、アンナ等除き)
 少年の心のまま大人になった形である。ゆえにバレンタインと言う行事にも疎い。……疎いと言ったら疎いのだ(断言)!

 「!! で、でしたら私の庭園にご案内します!」

 そう先ほどとは打って変わって明るい声と顔つきに戻りサウザーへと訴えるイザベラ。……サウザーもそう何処となく必死な
 様子のイザベラに苦笑いを覗かせつつも頷いた。






 「……ふぅ、やはりこの場所が落ち着く。……礼を言うぞ、イザベラ」

 「はい! こんな事で宜しければ何時でも!」

 少女に帰ったような笑顔で元気良く返事するイザベラに可笑しそうにしつつも、今朝から奇妙に騒がしかった空間から
 一時的に解放されてサウザーも気分が良い。……周囲にはイザベラの手で必死に育て上げられた花が元気に咲かれている。

 「この雛達も元気良く育った物だ。……未だ平定の世を築くまでは至らんが皆の気持ちは一つに纏まっている。……それに
 俺には信頼すべき者が大勢いる、何も憂う事はない。……お前にも感謝してるぞ、イザベラ。良くやってくれてる」

 「わ、私がですか? ……そんな滅相も無い。私なんてほとんどお役に立てなくて」

 そう、自分は役立たずである。
 サウザー様を守れる程の強さはない。そして料理が然程得意と言う訳でなく器量も良いとは思えない。……今まで築いた魅惑
 などもっての他。それをサウザー様に使う気は既になく、他の男へと使う事は二度と御免なのだから。

 「何を言う? お前を母のようにシバが慕っている。そして民が苦しい時にお前が必死に話を聞こうとしていたとも耳にしてる。
 他にも必死でお前が役立とうとしている事をな。……俺はどんなに礼をしても足りない位にお前に感謝を抱いている」

 ……その言葉に、イザベラはサウザーと会ってから涙もろくなった瞳から、涙が溢れるのを感じた。……こんな私にすら
 この人は注意深く見てくれている。……罪深い私の苦しみをすべて焼けつくしてくれるような優しい炎をだ。
 ……この方は私を良く泣かせる。とイザベラは涙を拭き取りながら思う。……そしてその度に自分の心は穏やかになってるとも。

 「おいおい! だからそんなに目を擦ってはいかんと前にも言っただろ?」

 サウザーは焦った顔でイザベラへと自分の持っていたタオルでイザベラの目元を押さえた。……そのタオルにサウザーの匂い
 が自分を抱きしめてるようで、イザベラはタオル越しに人には見られないような恍惚の顔を浮かべた。……貴方以外に誰も
 いなくて良かったと安堵しつつ、呟く。

 「これは、サウザー様のものですか?」

 「ああ、済まんな俺が顔を拭いた物で。だがそれしかなくて……」

 その言葉にイザベラは硬直する。……そして思考の中のもう一人の自分が呟く。

 (……それで今顔を拭いた自分って……か、か、間接キス……とかでは?)

 また顔に熱が集まってきそうになるのを慌てて顔を振って抑制する。サウザーはそれを眺め、やはり今日は早めに安静に
 させるべきだろうかと見当違いの思考が持ち上がっていた。

 そして、注意深くイザベラを観察して、手元に持ってる物へとようやくサウザーは気付いたのだった。

 「……む、イザベラ、その手に持ってるのは何だ?」

 「あ……こ、これはその、あの」

 慌てた様子で隠そうとするイザベラ。……普段ならばサウザーもそんな気にならなかっただろうか、今朝方からの異常な周囲の
 熱気や、イザベラの被虐心を煽る表情から悪戯心が沸く。……乱暴ではない程度に素早くイザベラの手から品を取ったのだ。

 「あっ……!」

 「……これは、手袋、のようだな」

 顔を俯かせるイザベラ。……春近くと言っても地殻変動、異常気象により未だこの季節は冷え込む。……ゆえにサウザーの手が
 少しでも暖まるようにと、イザベラは祈りと愛情、その他もろとも込めつつ手袋を編んだのだ。……正直羨ましい。

 「むっ! す、すまん勝手に品を取って……。誰か他の者へ渡したかったのか? それだったら本当に」

 「ち、違います!? これはサウザー様に編んだ物……あ」

 サウザーの焦り謝る声に、イザベラは猛反論で勢いのままに告白してしまった。……まぁ自分の意中の人間が下手に
 勘くぐるような発言をしたら怒るのは無理もない。……ゆえにこれは当然の結果。そして暫し沈黙が流れてから、聖帝は言う。

 「……ふむ、柔らかく……それでいて温もりがある」

 イザベラは如何しようかと焦り顔でまた顔を俯いてたが、手袋を既にはめたサウザーを見て驚きつつ、その感想を聞き逃すまいとする。
 ……そして、見惚れる程に良い笑顔をサウザーはイザベラへと向けると、手袋をつけたま頭を撫でつつ言った。

 「……有難うなイザベラ。とても、とても嬉しい」

 「……っはいっ! イザベラも、イザベラもその言葉を聞けてとても嬉しいです!!」

 サウザーの感謝の言葉にまた涙が溢れ。それを焦った様子で如何しようかと悩むサウザー。……それは在り得たかも知れない
 未来で起きる微笑ましき光景。……ゆえに二人の愛が通じ合う日はここで一旦区切りを迎える。










 (流れゆく雲編)

 それは核が降る少し前。……広々とした森林で果実を咀嚼しつつ、一人の青年の声が響き渡っていた。

 「……なぁリュウガ、……おーい……リュウガ? ……リュ! ウ!! ガ!!!」
 
 「……五月蝿い」

 そこでは、木に身を隠すようにして修行をしているリュウガ。……そして逆さまに枝へぶら下がりながらジュウザは呼びかけてた。

 「なぁ、町へ繰り出そうぜ? お前も可愛い女の子達から一度はチョコでも貰えよ? 何時も一人で修行しないでさ」

 「……お前一人で行けば良いだろう。……俺は『天狼星』、孤高の星……誰とも相容れぬつもりはない」

 「……お前そう言うけど、この前バーベキューに参加したよな?」

 「……っ」

 その言葉に泰山天狼拳の修行をしていた動きが、ジュウザだけには見て取れる程に乱れた。……睨むリュウガ、そして口笛を吹きつつ
 すっ呆けた表情でジュウザは顔を横に向ける。……息一つ吐いてからリュウガはジュウザへと冷たい声色で言った。

 「……あれは偶々強引にお前達が俺を捕まえて参加させた事だ。……俺の意思ではない」

 「お前結構楽しんでたと思うんだけどな~。いや、俺も記憶怪しいんだけどさ、確か間違って酒入りのチョコ食べて奇行を」

                                   パキッ

 「おわぁああああああ……おわぁああああ……おわぁぁあああ!!!?」


 「……ふん」


 何やら面白そうな話をジュウザがする前に、リュウガの泰山天狼拳がジュウザの足場となってた枝を切り離し、地面へと
 悲鳴をトップラー効果を流しつつジュウザは消え去った。
 ……既にリュウガの雰囲気は戻り、そのまま何時もの修行へと戻ってた。……耳に赤味が差してた気もするが。






 「……ててて。あいつ、何もあそこまでする必要ないよな。……けど本当にジャギに乗ってリュウガを参加させて正解
 だったな。……またチャンスがあったらあいつ参加させよーうっと!」

 悪巧みに関しては正史よりも磨きが上がったジュウザ。町に繰り出せば既にそのかぶき者として正史と似た性格ゆえに
 恋と愛に溢れる町へと飛び込まんと走りこんでいた……いたのだ。


                                  ピュンッ!!!    バサッ!!!


 「へ? ……とわぁあああ!?」

 何故か知らないが町への通路まであと一歩の所で仕掛けられていたロープに足を引っ掛けられたと思ったら網を
 被せられたジュウザ。必死に抜け出そうとするジュウザの耳に、やったやった! と歓声を上げる子供の声と、その声に
 混じって今の自分には最も苦手とされる女性の声がジュウザの耳へと降ってきたのだった。

 「……ジュウザ……この日に街へ繰り出すって言うのは……ど、う、言う、事、か、し、ら、ねぇ……?」

 「へ、へへへへ……トウ。やぁ、今日も美人だねぇ! 怒った顔もチャーミンぐうっ!!?」

 下手なお世辞も強く怒りを煽るだけ。網に囚われたまま背中をトウの持ってる竹箒で叩かれるジュウザ。……あのラオウにトウが
振られた時以来、ちょくちょくとジュウザへとトウは話をする機会が多くなった。……そして女として好きになったと自覚した時に
 サキからの秘伝の術(媚薬)を教わりなし崩し的にジュウザへと強制的に好意を向けさせたのだった。……恐ろしい子達!!
 よって、この世界ではジュウザとトウは恋人同士。ゆえにバレンタインと言う行事と、ジュウザの性格を見越して街の子供
 に協力して貰い捕獲に成功したと言う訳だ。

 「今日と言う今日はたっぷりお説教するから覚悟しなさいジュウザ!」

 「た、頼むってトウ! 街には寂しい寂しいって俺と言う恋の救世主の登場を待ち望んでいる子達が待ってるグェ!?」

 「そんなのは私一人で十分です! あなた達有難うね!」

 「ばいばいー! ジュウザ兄ちゃんにトウのお姉ちゃん~!」

 「ジュウザー、死ぬなぁー」

 子供達は口々にジュウザへと応援、二人に別れの声を告げて去っていった。
 それに対し笑顔でトウと網の中のジュウザは手を振る。……何だかんだ言って二人とも良い関係を築けているのだ。

 「……さっ! 部屋に戻るわよ。……まったくユリア様もユリア様で外出してらっしゃって警備も手薄だし、もう少し皆さん
 ちゃんと気を引き締めて貰いたいものですわ!」

 「……トウ~! 頼むからいい加減網は放してくれよ~! 誰が~! 俺を待ってる全国の女子高生の皆~! 誰がいないか~!?」

 「だ! め! で! す! 後そんなのがいますか!! 性根から叩き直して見せます! この海のリハクの娘の名にかけて!」

 「そんなのいらねぇよ~! ユリア~! リュウガ~!! こう、ムチムチで俺好みの巨乳をした天使~!!! 助けて~!!!!」

 「……きょ、にゅ……?! ……完膚なきまで叩いて上げます!!!」

 そのやり取りは日常茶飯事。二人はこんなやり取りをしつつ恋愛へと発展し子を設けるのだ。……駄目男としっかり者の女性の
 典型的な例と言うのは置いといて、この後女性達に囲まれる時間が出来ず落ち込むジュウザへと、トウが特製のジュウザの好き
 な料理で慰めたのはご愛嬌と言って差し支えないだろう。……まぁ、好きに想像してもらえれば良い話だ。








 (北斗編)


……時系列ではトウがジュウザに折檻されてる頃……で良いだろう。
 そこでは少しばかり集中力に欠けた二人が激しく胸の秘孔の部分に印をつけて組み手をしていた。……名はジャギとケンシロウ。

 激しく常人では見切れぬ拳だが、極めた人間ならば動きに乱れがあるとわかるだろう。……それはこの日が特別な日ゆえに。

 「……なぁケンシロウ。もう終わりにしねぇ?」

 「あ、あぁ……そうだな」

 ソワソワしてるのはお互い様。……どちらも追求はせずにお互いに修行を終える。……その思考はどちらも似通っている。

 (……貰えるだろうか? ……いや、ジャギ兄さんは太鼓判を押していたが、だがもしや別の人へユリアは……う~ん……)

 (……貰えるか? いや、『前』では高校とかで義理チョコ貰えたけど。この場合重みっつうか何つうか違うし……あぁ、たくっ)

 どちらの体も青年に近づき、性自認し始めた頃。だが、ジャギは複雑な成長をしてきたがゆえが、精神的な年齢は大分肉体
 と同調しており、ゆえに意中の相手から貰えるか心配で堪らないのだ。

 その二人を遠くから離れて観察している二人がいる。……言わずもがな、トキとラオウだ。

 「……下らん。たかだが俗世の行事に振り回されてる餓鬼が」

 ラオウにとっては一笑に付す事。ゆえに普段ならば二人の組み手が終わればどちらかへ挑むのだが興も削がれ一人で鍛錬を
 する事に決め身を翻す。……トキは暖かく二人に笑みを暫く浮かべてから、今日は久し振りに診療所へと赴くかと、場を離れたのだった。





 (北斗編 北斗七星)

 ……初めてばれんたいんと言う行事を聞かされたのはジャギ兄さんからだった。……世間的な出来事には疎い俺には
 ジャギ兄さんは雑学の宝庫であり、そして何でも知っている人である。……だからこそこの日に、恋……人同士で女人が
 贈り物をするのだと聞かされ、その日が来た時は朝からどうにも奇妙な緊張が続いており修行もおぼつかなかった。

 ……トキやラオウ。二人の兄達はそんな世間が造り上げた習慣などには乗りはしないだろうけど、ジャギ兄さんにまんまと
 感化されて俺としては、集中力の途切れた合間にユリアの顔を思い出しては体の動きが鈍くなる。……ジャギ兄さんも
 似たような気配だった。……心中で自分の事は棚に上げ苦笑いしつつ、早めに切り上げ俺は何時もの場所へと腰掛けた。
 ……そこはユリアと訪れる場所。自然とお互いに誰もいない場所で待ち合わせする時に使う所となった、俺とユリアだけの
 秘密の場所。……ユリアは未だ来ていない。……来ないかも知れないと言う不安もせり上がる。……だが、足音が聞こえた。

 「っ……待った?」

 息を切りつつ、俺に汗ばみつつも笑顔を見せるユリアが現れる。俺が首を振ると安心しつつ俺の隣へ腰かけた。
 ……走ったからであろう、隣から上る熱気が心地よい。だが、すぐに春近くと言えど冷える事を思い出し上着をかけた。

 「ありがとう、ケン」

 ……俺は彼女を愛してる。……彼女を愛する者は周囲には大勢居る。……ジャギ兄さんを除いて兄達も多分そうだ。……けど、
 彼女は俺を選んでくれた。……それが傲慢と思いつつも独占欲で俺は満たされ穏やかな気持ちが心に満ちるのだ。

 「……これ、ケンに」

 そう彼女は、何か長い毛糸状の物を俺の首へと巻いた。……マフラー?
 ユリアの首にも同じようにマフラーが繋がれつつ巻かれている。……こそばゆくも嬉しい。……俺の表情にユリアは微笑んだ。

 「……幸せね、ケン。……ずっと、ずっと一緒に居たい。……我が侭かしら?」

 ……ユリアは俺の手を握りながらそう問いかける。……そんな筈はない。……兄の一人が言った。自分を幸福に出来ない
 人間が誰かを幸福に出来る筈がない、と。……俺が否定の言葉を上げると、ユリアは俺に笑顔を浮かべてくれた。

 ……幸福だ、俺は。……長くは続かないかもしれない。北斗の星を背負う俺にはこれからも至難が続くだろうから。
 ……けれど何時までもこう二人で一緒に居たい。……偶に大切な人に振り回されつつも、それすら楽しいと思いながら。
 
 「……ユリア、俺はお前を幸福(しあわせ)にする」

 そう一言だけ俺は言葉を紡ぐ。……ユリアが今も浮かべる笑顔……俺はきっと守り抜いてみせる。……そして大切な俺の周りも。









 (北極星編)

 「……やべぇ、心臓のドキドキがやべぇ……。何だよ? まるで中学でラブレターがロッカーに入ってた時みてぇだ……。
 ……結局友達の悪戯だったから殴り飛ばしたけどよ」

 町へ繰り出せばバレンタイン一色、その周囲から発生する気配が桃色に見える幻視さへ発生している。……比較的にきつい、毒男には。
 
 現在アンナとジャギの関係は友人以上恋人未満(汚物>嘘だ!!)の関係ゆえにジャギはチョコが貰えるか不安継続中である。

 (……ま、貰えなくても、良いけどよ。……正直貰いてぇけどな)

 内心気持ちをひた隠しにしつつリーダーの居る店へ入ろうとした……瞬間にリーダーがリーゼント振り回しつつ滝涙を流し
 飛び出してきた。……キモッ!? じゃなくて!

 「ど、如何したリーダー?」

 「うおおおおおおおおおおお!! ……お、ジャギか? いや、実はよ、アンナの野郎俺にチョコくれてよおおおお!! 兄貴
 としてこんなに嬉しい事はねぇ! よしっ、他の仲間にも知らせに行くぜええええええ!!」

 バイクを吹かし走り去るリーダー。……うん、リーダーのシスコンは割りといいや、出番なんてこれからもう無いと思うし。

 ジャギは今の場面を見なかった事にすると店の中に入った。……咽あがるチョコの香り……アンナはいない。代わりに
 チョコをつまみつつ酒をのむ不良Aだけが店にはいた。……声をかけるジャギ。

 「……不良A、アンナ何処に行ったか知らねぇか?」

 「あいつならチョコを全員分作った後に外に出たぜ? ……いや、ちょい待ち!? お前なんだよ不良Aって!? おい!?」

 「そっか、有難うな。じゃっ」

 「おう、じゃあな……ちょい待てって! 何なんだよ俺様の名前が不良Aって!? 名前じゃなくて役じゃねぇかよおい! 俺の名は」

 最後を聞く事なく店をジャギは出た。……すれ違い、か、とジャギは溜息を吐きつつアンナの居そうな場所を探し続けた。






 「……んでもって夜だよ。……何処だよアンナぁ……」

 外には既に満開の星空。……今帰ったら父親の怒りがもの凄いだろうと思いつつ寝っ転がる。……そこはアンナの秘密の場所だ。
 
 「……けど、結構色々と手を回したよなぁ。俺」

 小休止として、自分のやってきた事を振り返る。……五歳で自手練を行い、義兄弟となるべく仲良く接し、南斗の重要な星
 とは仲良くなり。……リュウガとも仲良くなろうと作戦決行したんだよな。……若干失敗した気もしたけど。あの時。

 「……そして、これからも俺は自分の為に手を汚し続ける、か。……洗っても俺の手について汚れは取れない……」

 「別に汚れてなくない?」
 
 「ただの表現だよ……ってうぉ!?」
 
 何時の間にか隣に立っていたアンナ。……大して重要な話はしてなかったけど、聞かれてなかったよな?
 
 ビクビクしつつジャギは平静を何とか保つ。ジャギの横にアンナも寝ると口を開いた。

 「……ジャギ、手を出して」

 「? ……おぅ」

 そう言って手を出すと、アンナは俺の手に自分の手を合わせる。……アンナの体温を感じていると、言葉が続けられた。
 
 「……大分ジャギも大きくなったよね。……ねぇ、色々とさ。悩み事はない?」

 「……ねぇよ」

 「はは! うっそだぁ!」

 それは嘘だ。……これから迫る未来の出来事が悩みでないと言えば嘘になる。……そしてアンナもそれを見透かして
 すかさず否定の言葉を言う。……そして笑顔で言い放つのだ。

 「別に良いよ? だけど倒れそうになったら私が駆けつける。……それだけは覚えていてね? ジャギの背中を守るのは私だもん」

 ……何時も、何時も。自分に嬉しい言葉を彼女は聞かせてくれる。……照れつつ顔を背ける自分の髪を優しく手で梳きつつ、
 アンナは何かを被せた。

 「……帽子か、これ?」
 
 それは結構不恰好だが、帽子と言える物。ちょっと失敗した感じかな? と苦笑いをアンナは浮かべる。……けどその暖かさが
 一生懸命アンナが頑張って作った物だとわかり……胸は満たされた。

 「……へへ、寒いと思ったから丁度良いぜ」

 「私もちょっと寒いと思ってたんだぁ……だから、よっ! と」

 そう言ってアンナは自分の体へと飛び込むように抱きつく、そして驚く俺にアンナはしたり顔を見せながら言ったのだった。

 「こうすれば、二人ともあったかいでしょ?」

 「……馬鹿野郎」

 「へへへ……!」

 北極星は二人を優しく照らす。……何時の日か来る世紀末の不安さへも今だけは忘れさせ……暖かく、優しく。









 「……これを私に、か? サラ」

 「はい、……トキ様は働きすぎですから甘い物が必要ですよ?」

 「はは、済まない。……うん、美味いよ」

 そう聖者が一人の女医にチョコを食べつつ礼を言う光景と。








 


 「……文、だと?」

 ……そして、覇王の元には手紙が。
 何処の誰か俺に? と一瞬疑問を浮かべつつ文を開く……そこには馴染みのある文字と、ある物が入っていた。
 「……貝殻か」
 それは自分の指で摘める程の大きさ。そして文の最後にはこう書かれていた。

 『……貴方と昔眺めた、海に在った物です』

 ……そしてラオウは瞳を閉じて何かしらの情景に浸る。……子供の頃の自分、そして隣にいた肉親ではない誰かを……。

 「……笑止、……いずれ……迎えに行くのだ」

 そう誰に呟くでもない独り言を珍しく浮かべ、ラオウは手紙を火のくべていた場所へ放り投げると、貝殻だけ自身の懐へ入れた。
 ……後はただ何時もの自身のみ。明日から又ただのラオウとして野望の為に突き進むのみ。



 「……俺は、天を握る」

 ……何処からか優しいさざ波の音が耳に流れてくる気がしつつ、その日は安息の眠りを久々にラオウはつく事が出来た。






 星々はいずれも安らかな日々を迎える。……せめてひと時の休息をと神が告げるように……。













     

        あとがき

  リュウガのバーベキューの話は又今度ね。色々な過去の出来事をちょいちょい挟むから『本編だけ読ませろ汚物』って人は御免ね






  ちょい某友人の遠吠えが聞こえてくるので成敗してきます。

  大丈夫! 今の俺には天狼凍牙拳があるんだぜ!!(`・ω・´)




[25323] 第八十八話『赦し難き獣達との闘い 狼の真髄』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/15 23:20


 そこには一輪の華。その隣でミスマッチな鉄の仮面を被る男が嘯く。

 「……そういやぁよぉ、俺が邪狼撃使えるのは知ってると思うけどよ。何でそう名づけたか知ってるか」

 それに花は首を振るように揺れる。上下縦横の区別などわかりもしないけど、その男は何となく否定だろうなぁと見当を
 つけて適用に話を進めるのだ。……ほぼ10割でその意思が疎通は出来ている訳だけども。

 花を軽く小突いて男は話を続ける。

 「……俺の居た世界は野獣達の巣窟だった。……人なんぞいねぇ、真っ当な奴なんぞ何処にもいねぇ。狩られるのと狩る者
 だけ、弱肉強食の世界だからこそ俺は一番強い狼の名をこの技に付けた。……そして俺自身が邪悪だからこそ……だ」

 男は自分の腕を持ち上げて言う。それは自身を嘲笑う響きと、過ぎ去った日々に対する哀愁に似た色が声に伴っている。

 小突かれた花はただ澄んだ香りだけを発する。慰めも、払拭するような強い香りも、彼の心を逆撫でしても、癒しはしないと知って。

 男はその香りを鼻を鳴らしつつ嗅いだあと、腕を下ろし天を見上げる。

 そこは暗闇。地獄ゆえに赤と黒、それ以外は暗色だけしか映さぬ天を眺めつつ誰かへ向けて独り言を呟く。

 「……あんな似非狼なんぞに苦戦なんぞするな小僧。……見せてやれ、邪狼の真髄って奴をよ」











 (義星)

 
 「……切刻んでも切刻んでも貴様等には逃げると言う本能すらないらしいな?」

 そこには少しばかり呼吸を早くしつつ、南斗水鳥拳を次々と繰り出すレイの姿。皮肉な笑みを浮かべているが、かなりの時間
 牙一族達と闘い抜いている所為が疲労の色は濃い。

 そして周囲には『紫色に変色した瞳の』牙一族の群れがレイへとナイフ、自身の爪をひけらかしつつ対峙していた。

 (……思ったよりも速い! ……いや、速さは問題ではない。問題なのは奴らの血液! ……あれは毒だ……)

 バラバラにされた牙一族の屍の血液は変色している。それは時間の経過とは関係なく薬品の影響によってだろう。
 その血液の色も不気味な紫や緑色になっており、レイの手の部分にも付着していた。……呼吸が可笑しいのはもしや……!?

 (皮膚毒……と言う物か。即効性でないだけ未だマシだが長引けば不利。……然し無理に倒そうとすれば、奴ら死を覚悟で毒を
 俺の体へ打ち込もうとする! 触れただけでもかなり危険なのだ。直接毒が体に回れば命の危険すら有る……)

 ……何故このように危険な状況に陥ったのか? ……時間は半時間前……。









 「……ここら辺が、牙一族の根城か?」

 そう散弾銃を肩に乗せながらジャギは辺りを見渡して呟いていた。……辺りは岩屋まで覆われており、視界は最悪である。

 「……そうらしいな。……だが何も気配がない……既に場所を移したのではないか?」

 そう返事をするのはレイ。半刻ほど岩山を歩き続けているが未だ牙一族どころか生き物すら遭遇していない。
 それをレイは不気味に思う。ここまで『何も存在してない』ような気配を感じるのは生まれて初めてだからだ。
 それにはケンシロウも違和感を感じていたのだろう。辺りを見渡して呟く。

 「……静かだ、……静かすぎる。……ここまで何も音がしないのは可笑しい」

 「そりゃあ生き物なんぞ全部根絶やしになってんのは当たり前だろうが? ここら辺は全部牙一族が支配して、後は何もねぇんだろ?」

 「だからこそだ。生物が生活してるなら、何かしら存在していた気配がある。……だが此処にはそれがない。
 ……まるで此処だけ『何かが喰らった』ようにだ。……お前は気付かないか?」

 「……確かに不自然過ぎるとは思ってたぜ? ……けどよ、核で生物が死滅したんだぜ。そう言う場所があってもだな……」

 そこでジャギは言葉を止めると、前方を睨んだ。……ケンシロウ、レイの二人も前方へと警戒を向ける。……一匹、……一匹の
 獣の皮を纏った牙一族が倒れている。

 「……どう考えても、罠だろ。……お二人さんが先に見てくるか?」

 「……殺気、視線はない。……だが絶対に近づけば何か起きるな」

 ジャギのわざとふざけた口調と、レイの警戒心の篭もった声が続く。……ケンシロウがおもむろに言った。

 「……俺が行こう」

 そう呟くと二人の制止の声を上げる暇もなくケンシロウは牙一族の死骸? へと歩み寄った。……うつぶせに倒れてる
 牙一族。……ケンシロウがゆっくりと牙一族を反転させた。……何も起きない。

 「……来て見ろ」

 ケンシロウの声が二人へと掛かる。二人とも周囲への警戒を怠らずも何事も起きない事に心中で安堵した……が。




                                   シュッ……



  「あ?」

  「な」


 何処からが飛ばされてきた鎖、それがジャギの体へと絡みついた。

 「ちっ! こんな鎖直ぐに壊してやラァ!!?」

 「ジャギ!!」

 体中に力を込めて鎖を引き千切ろうとするジャギ。しかしそれよりも早く鎖が勢いよく引っ張られジャギを遠くへ持ち去った。

 「ジャギ!? くっ! ケン追いかけ……何っ!?」

 ケンシロウへと声をかけようとすれば其処には既に姿は非ず。困惑していると其処には冒頭の牙一族が音無く突然姿を現したのだ。

 「貴様等……! 其処をどけぇ!!」


                           南斗水鳥拳    『湖面遊』!!


  それは湖面を軽やかに泳ぐ水鳥のごとく華麗な足さばきで多数の敵を倒す技。
 だが、それによって砕かれた血液はレイの体にかかり、それを払った瞬間に鈍痛がレイの体へと走った。

 (! ……毒か! くっ……!? 俺の南斗聖拳では多少、分が悪い!)

 相手の体を斬撃によって屠る南斗水鳥拳。その拳によっての切り裂きによって血液の付着はないが、斬撃の後に飛ぶ血液までを
 防ぐ事は至難である。何よりこいつらの体は如何言う訳が仕組まれたようにレイの体へと飛ぶように改造されていた。

 (最初から俺を相手にする為に仕組まれたように……! ケン……ジャギ……無事でいろ!)

 そしてレイは水鳥の如く華麗に舞う。友を助けんが為に義星の輝きを放ちながら。









 (北斗七星)


 「……此処、は?」

 それは牙一族の死骸を観察し、呼吸も心臓の音もしない事を聴力で確認して二人へ声をかけようとした時だった。
 その牙一族の死骸は『生き返り』自分の腕を掴んだ瞬間、自分の見ていた視界は一瞬にして別の場所へと変わったのだ。

 呆然と景色が変わった出来事に驚いていると、その死骸の牙一族が背後に回り襲ってきた。……最もすぐに返り討ちにあった。

 (……先ほどの牙一族の死体は擬態、……だとしても場所が移動している? ……瞬間移動? 馬鹿な、SFでもあるまいし)

 「それがあるんだよ、北斗神拳使い」

 「誰だ?」
 
 ケンシロウが振り向けば、そこにはニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべた牙一族が居た。それはピンク色の頭髪、横は白い毛で
 覆われた男だ。……男はナイフをジャクリングのように扱いながらケンシロウへと自己紹介をする。

 「俺様はゴジバ、親父からは牙一族一番の切れ者と呼ばれてる。……まぁてめぇは知る必要もないだろうがな」

 「俺が北斗神拳使いだと誰から聞いた?」

 「あぁ、胡散臭ぇ金髪でオールバックの男がお前等の特徴上げてたのよ。お前の北斗神拳が秘孔を突いて殺す技だってのも
 教えてくれたぜ?」

 「……金髪のオールバック? そいつは何者だ?」

 「さあな、だがお前は知らなくて良いんだよ、何故ならなぁ……」

 そこでゴジバは言葉を区切った。

 「……何故ならここでお前はここでこのゴジバ様に殺されるんだからなぁ!!」










 (北極星)



 「……おう、おう。……まさかいきなりボスに対面出来るとはなぁ……」

 「ふんっ、貴様達がうちの可愛い息子達を殺した奴等だな?」

 「おいおい、俺は殺してねぇよ……駆除したんだよ。邪魔だったんでね」

 「……貴様、どうも英雄気取りでこの牙大王に歯向かう気ではないらしいな?」

 そこには鎖を巻かれつつ強気な態度を取るジャギ。……そして鎖を握る牙大王。

 「けど獣の癖に鎖の扱い方が上手じゃねぇか? ……それも大方ジョーカーとやらから教わったのか?」

 「うん? 貴様あれを知ってるのか? ……なら冥土で伝えておけ。……貴様は獣にすら喰わせる価値なき者だとな」

 その言葉にジャギは「ん?」と言って牙大王へ問いかける。

 「何だ、あの野郎死んだってのか?」

 「未だだ、このわしが今度会った暁に殺してやる。……あの異常者め、マダラを奪った挙句、わしの息子達をあんな目に……!」

 そう拳を震わせて形相で泣く牙大王。……何があったってんだ?

 だが、ジャギが疑問を解消する前に牙大王は表情を悪党の顔へと戻すとジャギへと声を張り上げた。

 「……さて! 貴様は息子達の弔いの為の生贄にしてやろう! この息子達の生まれた大地に貴様の体を引き摺って血まみれに
 して息子達へと許しを請うのだ!!」


                            ……ガガ! ……ガガ!  パキパキッ!!

 「……んなもん御免に決まってんだろ? ……あぁ、てめぇには俺も恨みがあるんだよ」

 鎖を体の筋肉を一時的に膨張させ強引に引きちぎりながら、ジャギは言う。

 「うん? このわしに恨みだとぉ?」

 「ああ……、……てめぇの息子のギバラだっけか? ……そいつが俺の恋人の居る村を襲ったんだ。……許せる筈ねぇよな?」

 「はっ! そんな事でこのわしに恨み!? わしの息子を殺した事に比べれば小さ過ぎるわ!!」

 その牙大王の嘲笑にジャギは哂いを浮かべて最後とばかりに言った。

 「そうかよ? ちなみにてめぇの息子のギバラ殺したのは俺だ。……まぁ、小さ過ぎる事だなぁ」

 その言葉に牙大王も戦闘態勢に入る。……狼の首領、そして邪狼が正に激突せんとしていた。








 

 (北斗七星  死兆星)


 「死ねやぁ!」

 そう振るわれてゴジバのナイフが飛ぶ。それを軽々と避けてゴジバへと迫るケンシロウ。

 「あちゃぁ!!!」

 凄まじく相手を屠らんとする拳がゴジバの顔面へ振りかざされる。だが、それが到達する前に、ケンシロウの体は硬直する。

 「む!?」

 「無駄だぁ! うりゃぁああああ!!」

 すかさずゴジバのナイフがケンシロウの胸を切り裂き流血する。そしてその隙にゴジバはケンシロウの間合いから大きく跳んで
 遠ざかる。……これが先程から何度も繰り返されていた。

 (何故だ? 何故奴に拳が触れる前に俺の体が止まる?)

 その疑問を思考しているケンシロウに、ゴジバはニヤニヤした笑みを再度浮かべて言った。

 「不思議そうだなぁ? 教えてやるよ。この力はなぁ、超能力だ!」

 「……超能力……だと? ……寝言は寝て言え」

 ケンシロウの言葉の切り返しにすらゴジバの笑みは変わらない。むしろ深くなりながらナイフを舌で舐めつつ説明する。

 「その金髪の男はなぁ、俺達兄弟に様々な薬品を投与してくれたのよ。……最もその代償に何人かの兄弟かが連れて行かれて、
 親父はカンカンになったがなぁ。……だがそのお陰で俺様はこんなにも強い力を手に入れた。……例えばこう頭で力を込めると……!」

 そう言い『ふんっ!』と呟きゴジバの顔つきが変わるとケンシロウは反応する暇すらなく突然地面に叩きつけられた。

 (……念力、と言う物か!? ……しかもかなりの衝撃だ……!)

 体を起こすケンシロウ、だがその立ち上がる間に体中に何かが突き刺さった。……ゴジバが念力でナイフを操りケンシロウの
 体中へと突き刺したのだ。

 「はははははは!! 良い様だな北斗神拳使い!? そんなに体中串刺しまみれじゃあもう終わりだなぁ!!」

 その言葉にケンシロウは無言。そしてゴジバの笑いを無視しつつ、気合を体中に込めると体中のナイフを抜いた。

 「……やれやれだ」

 一言そう呟き、ケンシロウは気合を入れて上半身の服を破る。

 闘気を前進に巡らして北斗七星の傷を輝かせながらケンシロウはゴジバを見ながら言った。

 「……北斗神拳がただ相手の秘孔を突き殺す技だと思うな。……はぁああああああぁぁぁぁ……!!」


 声を込め、ケンシロウが構える。それは正史では聖帝サウザーへと対峙した時の構え。間合いの外に居る敵を屠る為に
 生み出された北斗神拳の技。それを繰り出さんが為にケンシロウはその構えの名を呟いた。

 「『天破の構え』!!」

 「はははは!! 何をしようと俺様は牙一族で一番の切れ者!! くたばれぇえええええ!!」

 自分の超能力の念力は絶対! どんな技であろうと止める自信がゴジバにはあった。

 だが、ゴジバは知らな過ぎる。北斗神拳の1800年の歴史の強さを……!

      
                                 



                                  『天破活殺』!!






 「な、なんだっ、ぺ!!?」

 その言葉を残し、ゴジバは体中を闘気によって秘孔を突かれ死んだ。……正史と同じく北斗百裂拳を喰らった時のように……。


 (……念力。……相手が雑魚だったから良かったが、これがもしも一流の拳法家が身につければ恐ろしい力になる……)

 ケンシロウはゴジバの肉片を見下ろしつつ憂う。……遠くの空に黒い靄が見える。







 


 (北極星 死兆星)



 「がっはっはっはっ!! 如何した!? 威勢が良いのは口先だけか!?」

 「……ぺっ」

 そこには倒れこむジャギ。そして体中が鋼鉄のような肌になりながらジャギを踏みつける牙大王。

 最初に牙大王が『華山角抵戯』……体を鋼鉄の鎧に化したのを鼻で笑い秘孔を突いてやろうとしたまでは良かった。

 だがその筋肉を贅肉へと化す秘孔を突いた筈なのに牙大王の体には全く変化が起こらなかった。……そして叫ぶ。

 「がっははははははは!! 北斗神拳を使ったのか!? だがわしの秘孔は突けぬぞ! そう言う細工を施したからなぁ!!」

 その言葉と共に牙大王の一撃がジャギへと降り注ぐ。ジャギは腕を交差して防御しつつも牙大王の一撃の威力に負けて地面へ
 叩きつけらた訳だ。

 「……成る程、薬品の力か」

 「ああ、忌々しいが確かに素晴らしい薬だ! だがわしに薬を渡したのが奴の不運よ! わしの一族を再生した折に奴を
 この力で捻子付してみせる! 貴様はわしの力にひれ伏す初めての者と言うわけだ!! がっはっはっはっはっは!!」

 「……五月蝿ぇってんだよ……一々」

 片手で牙大王の足を持つジャギ。……その声は聞く物が聞けば震え上がるだろう。

 「がっはっはっはっはっは!! そんな片手でわしの足を持ち上げられると」

 「思ってるぜ」

 「はっは……な、なぁ……!?」

 自分の視界が若干上になったと気付く、そして見下ろせば鉄の仮面越しに赤い瞳で男は自分の足を浮かばせていた。

 「き……貴様も薬の力を……!?」

 「薬? 違う……俺様は地獄を過ごしたんでねぇ……ちょっと怒るとその所為が瞳に血が混ざるんだよ……!!」


                                 パキパキぺキポキィ!!

 「ぎゃあああああああああぁぁ!!!??」

 牙大王の悲鳴が上がる。 片足の骨に皹が入る音が耳を塞ぎたくなる程響く。堪らず離れた牙大王を見上げつつゆっくりジャギは
 立ち上がる。……そして構えた。

 「……ゆっくり尋問したかったが気が変わった……てめぇは俺様の南斗聖拳で殺してやるよ……!」

 「がはっ……はは! ば、馬鹿が! わしの華山鋼鎧呼法で鋼鉄の鎧を南斗聖拳で貫くだとぉ!? そんなのは不可」

 「不可能ってのはなぁ……負け犬が創り上げた言葉なんだよ!!」

 そしてジャギは構える。腕を水平に逆に反らし膝を曲げる。そして呼吸を高めつつ闘気を腕へと溜める。


 『……良いか? 弓が逸れるように、折り曲げた枝が一気に元に戻るように突進するんだ。……自分が人間である事を忘れろ。
 邪狼ってのはな。目の前に在る物を全て喰らうって言う意思の塊なんだ。……てめぇは邪狼だ。……てめぇは邪狼だ……』



 「行くぜ……ジャギ」

 「ぬぅうううううう!!?? この鋼鉄の拳に死ねぇえええ!!」

 



 「南斗聖拳……奥義!」




                                 『南斗邪狼撃』!!!!






 それを放った瞬間。その構えを取っていたジャギの姿は霞み、そして立っていた場所から忽然と消えたと思えば
 何時の間にか牙大王の懐で腕を水平に貫手で放った状態で立っていた。

 「……な、……は?」

 牙大王は訳がわからないようにジャギを見下ろし、そして自分の体をジャギの腕が貫いたのに気付いた瞬間吐血した。

 「……俺には南斗聖拳と言う切り札があったのだ……!」

 そうジャギが腕を抜いたとき……腕には血の跡一つすらない綺麗なままであった……。








 ……岩山で倒れこむ牙大王。……そしてその周囲で立つジャギ、ケンシロウ、レイの三人。

 闘いが終了し、ジャギの散弾銃の音を聞いてケンシロウとレイは駆けつけた。
……レイの体には不気味な血液が多く付着していたが、顔色悪くも「平気だ」と毅然としつつ言っていた。


 「……あの男は突然現れわしらに強くなりたくないか? と聞いてきた」

 「奇妙な薬品、注射……ケマダやギバラは本能的に拒否し、わしは薬品だけを貰い他の息子達が注射されるのを見ていた」

 「……息子達の何割かは異常な力を身につけ、……八割は暴走し……二割の内一人のを残して自殺した」

 (……さっきの死骸の振りをしていたのが、その生き残りか……)

 ケンシロウの思考を知らぬまま、牙大王は続ける。



「……最近抑えられなくなったマダラ、そして息子達の何人かが男に連れられて行った。……わしの居ない間だ。……息子達を
 守ろうと別の息子達が抗ったが、その男にまとめて殺された。……トランプを全身に刺されて」

 「……ジョーカーは何をしようとしてるんだ?」

 「……わし達の血を抜いた。……それを見返りに力を与えると言ったが……奴を信用できないのは目を見ればわしも
 わかる。……あれは悪党だ、それも絶対に相手に利益を与えはしない部類の悪党だ。……息子達よ、すまん……」

 「奴の居場所は?」

 「……そんなの……知ってたら……わしがとっくの昔に……殺して……る」


 ケンシロウの最後の質問に牙大王は答えた後に事切れた。

 牙大王。……凶悪な盗賊集団であったが家族達を想う父親ではあったのだろう。

 最後に残りの息子達の境遇を憂いつつ、牙大王は穴の開いた胸と同じような穴を心の中にも開け、その生を終えた。


 


 「……って事は他の牙一族は未だ死んでねぇってのか……嫌だねぇ、次から次へと面倒事が降りかかる」

 「貴様もその面倒事の一つだろうが。……アイリに何がしたら殺すぞ」

 「しねぇよ、馬鹿」

 レイと軽く殺気を混ぜたやり取りをしつつ村へと戻る。

 レイは足取り重くも何とかと言った感じで歩いており、ジャギとケンシロウは少し疲れを覚えているが足取りはしっかりだ。

 ……北斗神拳使いのチートさがよく解る構図だろう。

 「……レイ、毒は平気なのか?」

 「ああ、暫く休めば平気だ。……ふぅ……」

 無理に平気な顔を作っているが何度も牙一族の毒を浴びたゆえに顔色は悪い。北斗神拳の安騫孔をケンシロウに
 突いて貰ったが毒が強烈ゆえに暫くはきついであろう。

 
 マミヤの村が見えてほっとするレイ。……ジャギも心中安堵の溜息を漏らすが顔には出さず答える。

 「どうやら何も起きてなさそうだな? はんっ、てめぇらの大事な奴等に何かあれば俺も胸がす……ありゃKINGの兵士か?」

 その入り口には倒れるように座るKINGの兵士。……体中に包帯を巻いているのは横に立っているマミヤとアイリを見て理解する。

 「……何があった?」

 「あっ! 大変よケン、レイ!! 今、サザンクロスが拳王軍に襲われたって!!」








                             ……あ?









 「……は? 今なんて言った?」

 「だから!! サザンクロスが拳王軍に侵攻されたのよ!」

 マミヤの言葉に激昂しなかったのは奇跡だった。我を忘れそうになるのが抑えられたのはケンシロウが先に言葉を出したから。

 「何!!? 何時だ! 何時サザンクロスが! シンは!?」

 その言葉にKINGの服装の兵士が弱弱しい声で答える。必死で命からがら走ってきたのだろう、口元にも血が見える。

 「……け、拳王みずから一人でサザンクロスへと乗り込み、そしてKINGと対峙し……KINGの命令により城を崩壊。
 ……拳王を城の崩壊に巻き込む事は成功しました。……KINGの生死は不明。……サザンクロスの民は全員避難に成功……」

 報告をするKINGの言葉はもはや聞いてなかった。……シンが……生死不明だと……? ……しかも、ラオウが……?











                                  ……シン

















       あとがき



   『吃驚する程ユートピア! 吃驚する程ユートピア!!』

   『天狼凍牙拳!! (`・ω・´) 』

   『アンッ……! 吃驚する程ユートピア!! 吃驚する程ユートピア!』

   『天狼凍牙拳!! 天狼凍牙拳!! (`;ω;´) 』

   『もっと! もっとおおおおおお!!! 吃驚する程ユート……!』

   『天将奔烈!!! (♯`・ω・´)===』

   『え? いや流石に鳩尾はきつウゲェエエエエ未知の快楽ううううう!!』







  ……疲れた。











[25323] 第八十九話『妖星に与す星々達の思惑』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/15 23:20



 そこには下着だけで鏡に佇む男、そしてそれを取り囲む美しき女達。

 そこに居るのは『妖星』のユダ、南斗紅鶴拳の使い手。自分が最も美しいと傲慢に誇る男である。

 だが今のユダは機嫌は最悪であった。それゆえに鏡で自分の美を楽しむゆとりすら無く、顔を歪め女性達へ荒々しく告ぐ。

 「何をしている!? 早く俺に衣服を着せろ!」

 その言葉に焦りつつ女性達は服を着替えさせる。だが、その時誰かが誤ってユダの首筋に指の爪が触れた。それにユダは過剰に
 反応して女達を体を大きく振って吹き飛ばすと取り乱した口調で叫んだ!

 「誰だ!? 今誰が俺の首に何か突きつけた!? お前か! それともお前か!?」

 違います! 違います!! と首を振る女達。それに激昂したままのユダは感情のままに女達の厳しい罰を与えようとする。
 口を開き言葉を出そうとするユダ。……だがその時衣装鏡に映る自分の顔が視界へと映ると、冷静に戻り、荒々しい口調のまま
 女達へと命令を下した。

 「……もういい! 役に立たぬ女達め、後は自分で着替える!」

 その言葉にひれ伏しつつ女達は怯えた顔のまま自分の元から逃げるように去る。

 ……忌々しい。何もかもが忌々しい。

 ユダは丁寧に磨き上げた爪を噛みながら思考を展開していた。

 (サウザーめ! シバを伝承者候補にしたばかりは確実に軍を整備した挙句リュウロウで俺の動きまで封じている。
 ……忌々しい、鳳凰の美しさなど、この俺の美に遥かに劣る癖に!!)

 そう思考しながらも、心の何処かではサウザーの空を華麗に舞いつつ拳王と闘っていた光景は今でも瞳に焼きついている。

 以前の拳王軍との衝突の際に、自分はラオウへと南斗紅鶴拳奥義『血粧嘴』を渾身の一撃で放った。

 その技は南斗紅鶴拳最強と自負していた技。ゆえに放った後に拳王の返り血に染まる自分を想像し愉悦さえしていた。
 だが結果は悪夢。眉一つ動かさぬ覇者は自分を虫けらのように拳で殺そうとした。

 ……その時だ、聖帝は自分を哀れむような顔で言った。


       


 『無事かユダ!? 良くやってくれた……後は任せよ!! 拳王!! この鳳凰の拳見せてくれる!!』


 ……貴様に心配される筋合いなどない。貴様に憐れみを覚えられるような低い者では俺はないのだ。

 お前を……お前の荒々しい鳳凰の拳に……俺は美しさなど覚えてはいない!!

 「……そうだ、俺は『妖星』……美と知略の星!!」

 あの時、あの闘いで俺は何の役にも立てなかった事は自ら知っている。

 だからこそ屈辱だった。嘲笑(わらえ)ば未だ良かった。策略を練り後で屠り俺がそいつを見下し勝者の笑みを浮かべれば良い
 だけの話し。……だが闘いが終わった後……あいつは何と言った?

 『良くやってくれたユダ。お前のお陰で兵が救われる時間が持てた、礼を言おう』

 ……何故貴様は俺にそんな笑みを見せる!? 何故貴様は俺に賛辞を向ける!? 何故!? 何故!? 何故だ!!? サウザー!!


 鳳凰……奴の舞いに、奴の南斗鳳凰拳に心を奪われかけたのは確かに認めてやる。……どいつもこいつも憎い。
 レイの南斗水鳥拳に心を奪われ憎悪を抱き、何時か復讐の機会を練っていた時にサウザーにまで心を奪われるとは……!!


 「……だが、それも……仕方がないのかも知れんな」

 鏡に手をつきつつ溜息を吐く。……自信の力量が南斗六星の中では劣っている事は知っている。……この俺の真価は
 知略、作戦では勝るとは自負している。……だが、この低落はどうだ? 今の鏡に映ってる情けない男が最も美しい男!?

 「ふっ……!! 笑えてくる……!」

 間者に怯え、配下の女達にすら恐怖を最近は抱いてる。……イザベラが居る時はこんな事は未だなかった。
 今では不穏な影が辺りに映り、何人もの護衛をつけても安らぐ事はない。

 「……あの頃の俺ならば……こんな事も……なかった、な」

 ……遠い昔、俺が南斗紅鶴拳の伝承者にすらなってない頃には南斗の星達と共に宴を楽しんでいた。

 今では決して在り得ぬ風景。もしもこの事を臣下に話せば驚愕で滑稽な顔を晒すだろう。……想像すると少しだけ笑みが零れる。

 「楽しかった……かも知れん、あの頃は」

 鏡の中の少しやつれた自分よりも遠くの頃を頭の中に映し出してみる。

 ……あの頃は『義星』もピエロのように俺の前で笑える行動をしてくれたものだ。……そしてもう一人ピエロのような顔をした
 男が一緒に俺に喜劇を見せてくれた。……俺は何時しかその喜劇に混ざり自身もピエロを演じるのを楽しみだと思ってた。

 ……あの頃は『将星』もピエロの一人だった。……俺に決して美しいなど思わせる事はない、ただの年若い俗世に疎い
 田舎者の男として頓珍漢な事を偶に吐き俺を笑わしてくれたものだ。……その頃はこんなに心を病む事もなかった。
 もう一人のピエロと似つかわしくない冠を被る『将星』の掛け合いは落語のように笑えた。……楽しかった。

 ……『雲』『殉星』『慈母星』『天狼星』『北斗七星』を宿す者々。俺を見て飽きさせぬ喜劇の役者達。囲まれつつ時に
 宴を演じ、時には多少不愉快つつも汗水と泥に転がりつつ遊び、道化めいた顔の男の喜劇へと乗ってやって
……あの時代は正に俺には楽園の日々だった……。


 (……感傷にでも浸るのがユダ? ……『妖星』に感情など似合わん。……真にらしくない)

 溜息を吐いて回想を終わらせる。そして鏡に映る自分の顔と、そして『背後に映る人影』に自分は目を見開き振り返り叫んだ。





                                 『伝衝烈波』!!



 砕ける壁。接近した状態で衝撃波を繰り出したのに軽がるとその人影の男……金髪をオールバックにした男は口を開く。

 「……おや、これは手荒い挨拶ですね? ……『妖星』にしては美しさに欠ける」

 「人の屋敷に土足で入るような者に礼儀を説かれる覚えはない! ダガール!! コマク!! 居ないのか!?」

 「貴方の兵は全員出払っておいてでしょう? ……まぁ、お話をしましょう」

 「……話しだと?」

 背後を取られた事、そして薄気味悪い視線に背筋に悪寒が走るのを感じつつユダは一切油断をせぬように警戒を強める。

 男は無表情で淡々と言葉を続けた。

 「ええ、……貴方の王宮は素晴らしい……毒蛇、均一した床や壁、絵画、そして美術品……。……実は折り入って
 頼みたい……いえ、聞きたい事がありましてね。……美を追求する貴方ならば所持してる可能性があると思いまして」

 「……何をだ?」

 「……『希望の目録』、……又はそれに類似、関連する品物はないかと思いましてね。……レプリカでも構いません。
 それが是非欲しいのですよ。……他の者には不必要かも知れませんが、私にはジンクスも兼ねてね」

 男の言葉にユダは眉をひそめる。……『希望の目録』? ……聞いた事もない物だ。……この男は何故それを狙ってる?
 ……駄目だ交渉材料がない。……今のこの男と駆け引きが出来ない……ただ愚者のように男の質問に答えるだけだ。

 「……知らん」

 「そうですか、では結構です。僅かながら期待していたが、まあ最初から駄目だとは思っていましたから」

 そう少し小馬鹿にした口調……実際馬鹿にしてるのだろう。その言葉にユダはカッとなりそうだが、冷静にこの男の真意を
 見極めようとしていた。

 (……まず如何やってこの男は俺の背後に近づけた? ……幾ら回想に耽っていたとは言えあんなに接近を許せる程
 俺も自分の腕が下がったとは思えん。……何故)

 「そう怯えずに、私は貴方に危害を加えるつもりはありません」

 「っ! 誰が怯えているだと!?」

 ユダは怒りに駆られ自分の拳をその男に突きたてんとする。だが、男がただ片手を上げただけで自分の体が硬直してしまう。

 (馬鹿な……!? この、『妖星』の俺が……動けん、だと?)

 「……動けないのは貴方が私に恐怖しているからこそ。……ご安心を、もう私は帰ります。お手数をかけて申し訳ない」

 そう形式だけの一礼を済まし、男が視界から突然消えたと思った瞬間に自分の硬直は解けた。
 
 「……く……くぅ…………っ!!」

 整えられた前髪は垂れ下がり、目元が隠れながらも唇を噛み、ユダは血が流れるのすら気にせず拳を強く握り締める。




 ……悔しかった。……見ず知らずの男に……ただ怯えて動けなかった自分に……ただ恐怖で圧された自分自身が……許せなかった。




 「……おれのもつ星は……最も美しく……輝く……妖星」


 跪きながらユダは呟く。……鏡だけが、ユダの深い哀しみを見ていた。











 「……さて、返事を聞こう……ダガール、コマク」

 そして、その男は場所を移し、UDの赤い軍服を纏う険しい表情の男二人と先程と同じく無表情で向き合っていた。

 「……『我々』の仲間になれば絶対な力を約束する。……ユダのような知略だけで支配を行う愚者に君達が従う理由は
 ないだろう? ……『我々』は新しい世界で君達を祝福する。……どうかね?」

 「……私は賛成だ。……この前の作戦も失敗し、このままではユダ様に処罰も免れないからな。……コマク、お前は?」

 そうダガールは眼帯に隠されて無い瞳でコマクをみやった。

 小男であるコマクは眼鏡を拭きつつ、小声で呟く。

 「……私は結論を急ぎたくはない。……ユダ様の動向も暫く観察したい。……ダガール、お前は先に行けばいい。
 ……私は暫く残るよ」

 「そうか、ではコマク達者でな。……精々ユダ様の逆鱗に触れぬ事だ」

 「気が変われば何時でも私に返事をくれ。……定期的に私の鳥を手配する。それにトランプを渡せば良い」

 そう言って、『ジョーカー』は一枚のトランプを渡すとダガールを連れて視界から消えた。

 コマクは立ち去った場所を暫く眺めて、トランプを一瞬引き裂きたいように力を込めようとした。……だが思い直したように
 懐におさめるとユダの元へと帰る。


 (……私は、……私は……)



 その心中は無力に苛まれるユダか、それとも帰路に苛まれるコマクの思考だったであろうか?




 






   ……空に輝く『妖星』はこれから裏切りに進むのか、それとも……。











    あとがき



 『テンション上げ↑下げ↓サタデーナイト!』某友人



 ……駄目だ、バレンタイン過ぎた所為でテンション上がり気味(´・ω・`)






[25323] 第九十話『愛に殉する男 天の為に愛を屠る男』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/15 23:21





   サザンクロスが暗雲に覆われる。……平和の象徴の一つを消し去るように。








 (サザンクロス)
 
 「……急げ! もう一刻の猶予もない!! 積荷は最低限にしろ! 絶対に住民全てを避難させるんだ!!」

 ナリマンの声がサザンクロスへと響き渡る。恐怖で顔が覆われる人々、泣き叫ぶ赤ん坊。それらに混じって男達の声が上る。

 「た、頼む俺達もKINGの兵士に加えてくれ!!」

 「そうだ! 俺達だって戦える! 頼むよ!!」

 それにナリマンは叫ぶ。

 「馬鹿者! お前達が戦い死ねば誰がお前達の家族を守るんだ!? 正規軍! こいつらを早く乗せろ! いいか!!
 絶対に民を犠牲にしてはいけない! KINGの、サザンクロスの宝を絶対に消してはならん!!」

 その言葉にサザンクロスKINGに忠誠を誓う兵士達は雄叫びを放つ。

 拳王軍が迫る。……住民は乗せた。後は突破口のみ!!








 (拳王軍)

 「……拳王様! 周囲の包囲……終了しました!!」

 一人の兵士が巨大な馬、黒王号に乗った拳王……ラオウへと言葉をかける。

 「……お前達。ここで待て」

 「な!? いけません、拳王様が行かなくても我々だけで侵攻でき」

 「二度俺に同じ事をうぬは言わせる気か? ……聞け、サザンクロスは資源の宝庫。今貴様等が攻めれば一切の富を失う」

 「!? わ、解りました。ご無礼をお許し下さい……!」

 正史のラオウならば一言目で拳の錆になっても可笑しくない。だが、拳王はこの世界でもそれ程珍しくなく陳情をその兵に
 下すと馬を下りた。

 「……KING……ふん、一人の女に国をやった男か……笑止!」

 そして拳王は自身の足でサザンクロスの門を開けた。……行き先を阻む物は無い。






 ……不気味な程人気のない城。……だが、拳王の闘争を求む血が知っている。その男がこの城に居ると……。



 「……シン」


 「……来たか、ラオウ。いや、……今は拳王と呼ぶべきか?」

 「何とでも言え」


 

 そこでは腕を組み、何時かのように外の景色を眺める後姿のシン……。

 それに闘気を溢れんばかりに纏い、ラオウはシンに命ずる。


 「……我が軍勢にこの街を明け渡せ」


 「……明け渡した後……貴様はどう俺とサキを処分する?」


 「知れた事、我は無抵抗な男と言えど貴様をむざむざ野に放しはせん。その拳を二度と使えぬようにする」


 拳王は腕を掲げ宣言する。自身の言葉が絶対であるとの強大さを誇示し、KINGと名乗る男に自身がお前の王だと言わん
 ばかりに言葉を降らす。……依然としてサザンクロスに吹く風に長髪を揺らしシンは街を眺め続ける。


 「この俺がこの地を掌握するのを、我が下で眺めさせる事を許す。貴様の女も貴様の側に置かす。……是非もないであろう」

 戦争であれば確かに主君の妻を側に置くのは稀な処置だ。しかも自身の敵である南斗六星であるシン。……ラオウは
 これ以上の譲歩をしない。そして……そしてシンは拳王に振り返った。



 「……この街を、このサザンクロスをお前に渡す。……それで俺とサキを助ける。……そう言う事か」

 
 「貴様の返答は……是か……否か……どれだ?」


 
 「……拳王…………いや……ラオウ……!!」












                         「その程度で……俺の心が動くと思っているのかぁあ!!!」








 シンは叫ぶ、腕を払い強い意志を宿し宣言する。その『殉星』を背負う男の瞳の輝きは轟々とラオウの瞳を睨む。


 「このサザンクロスは……サキの故郷!! ……サキとの愛の誓いの場所!!」


 「この俺にはサキさへ居れば最初は何もいらないと思ってだ……だがサキが教えてくれたのだ!!!」


 「ここの民が、兵が……そして出会えた信頼すべき『強敵』が!!」


 「この俺の在り方を決めてくれた!! ……このサザンクロス(南十字星)は俺の宝だ!!」


 「ラオウ!! ……貴様に対する返事は……否だ!!!」






                              シュウウウウウウウウウウウウウ……ッ!!!




  強風が吹き荒れる。シンの髪を乱れさせ、ラオウのマントが暴れる。




 睨み付けるラオウの耳に、爆音と共に一方向の壁が崩れ去るのが見える。


 「……あれは、電車か?」

 「あぁ、少し改造してな。……貴様の軍と言えど、あれは聖帝軍に辿り着くまでは追いつく事は出来ん!」


 「……ふん、元から興味なし。……貴様さへ滅せば事は容易い……!」




 そして二人は闘いの時を迎える。……一人は『殉星』を背負う王として。一人は天を掌握する王として。
 




 「……もはや言葉は不用……我が拳で滅してくれよう……!」


 「お前如きでは……俺に勝つ事は出来ん!!」


 闘気が二人の体を溢れる。




 『殉星』その輝きは既に満ちていた。

 ……策略と言えど一人の女へと抱いた愛は純愛。……ゆえに『殉星』はその女へ命を捧げ守る事を誓った。
 ゆえにその輝きは男を強くさせる。そして男は叫んだ。





                                 『南斗獄屠拳』!!



 それは傍目からはただのとび蹴り。然しそれは南斗孤鷲拳の奥義に勝るとも劣らぬ膝・肘の四肢の関節を瞬時に切り裂く技。
 そしてそれは闘気の鎧で覆われた拳王のオーラを突き破りその鎧に浅い傷を負わせる。だが、拳王を怯ませるには至らない!!


 「優しい拳よ……!!」


 拳王の腕が着地するシンへと迫る。その剛拳は触れれば即座に死を予感させる凶拳と成長していた。だが、シンの顔に
 怯えの色はない。まるでそれを予期していたように後姿のまま跳ぶと体を回転させて叫ぶ。





                                 『南斗施鷲斬』!!



  それは平行世界でのシンが南斗十人組み手で行った技。鷲が大きな翼を広げるような動きの中に、
手刀による無数の突きを繰り出し相手を倒す、非情に殺傷力のある技。それゆえにラオウが拳を避けられ虚を突かれた甲斐
 もあってか斬撃の嵐がラオウの鎧を砕いた。




 「ぬううううううぅう!!!?」



 「くっ!? ……少し浅かったか。……もう少しで首を切れたものを」

 
 
 ラオウの声を聞きつつ、シンは悔しそうに呟く。強敵ゆえに出来ることならば一瞬で仕留めたいのが実情。例え目の前の男が
 『強敵』の兄弟であろうとも、シンはそれが『強敵』の敵になるのであれば情けなど既に捨てる覚悟である。


 
 「……解せぬ」


 「……む?」


 ラオウは鎧が砕かれ、マントも地に落とした状態で呟く。それに訝しむシン。



 「……貴様にそれ程の強さは以前は決してなかった筈……貴様を変えたのはその守りたいと言わせるサキとか言う女か?
 ……俺はそれだけではないと見た。……貴様を変えたのは……一人の男……そうではないか?」


 「ならば如何した?」


 シンは次でラオウを倒す意思を宿し拳に闘気を込める。だが、次の言葉がシンの心を少しばかり揺らした。


 「……それは……まさか俺の義弟であった……あ奴か?」


 「……そうだ」


 頷くシン。『あ奴』と言うのが誰を指しているのが何故か理解する。……自分が友ではなく『強敵』だと思う者。
 それがラオウが指す者だと、はっきりと何故か自分は知る事が出来た。


 だが、その言葉がラオウに驚くべき変化を起こした。……唸り、如実に闘気が乱れるラオウ。


 「ならば……やはり……『あ奴ら』はこの俺の野望に何処までも阻むと言うのだな……!!」


 「……ラオウ?」


 その余りの急激な変化にシンは好機である事すら忘れ声をかける。


 ……だが、まるでそれが夢か幻であったかようにすぐにラオウの乱れは収まった。……そして、先ほどよりも
 恐ろしい、……嵐が吹く前の静けさが起きる。


 「……理解した。……貴様を、我が拳で完全に葬ってくれる……!」





                           



                     ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ……!!!!!!
                          
 そして先程とは比べ物にならない程の闘気が、ラオウから溢れ出した。


 (!!?? ……凄まじい気! 先ほどとは違う!! ……何の変化が今ラオウに起きたと言うのだ!!??!!)


 いや、迷うなシン。そうシンは自分へと叱咤する。


 心を乱すな。思い出せ、自分の守るべき者を。


 ……ケン、ユリア、サウザー、レイ、ジュウザ、ユダ、……サザンクロスの民……サキ。

 ……そして、俺の人生を変え、俺に幸福の在り方を見せてくれた……あいつに。



 (俺は……俺はサキに! 『強敵』に誇れる者で在りたい!!)



 意中の相手は既にあの遠くへと向かう乗り物の中であろう。


 ……泣きながら俺の元に居ると叫び、そしてハートに抱えられていた最後の姿を思い出せば胸が痛む。



 ……だが、お前を守る為に……俺は……っ!!
                          




                             ぬおおおおおおぁああああああああああ!!





                                  『南斗獄屠拳』!!!!!!!







                                  ……風が     ……止んだ




 ……拳を振るった状態で硬直するラオウ。


 ……着地し、両手を付き硬直するシン。





 



                                  ……ガハッ!?







 ……吐血したのは……シンだ。





 「……久々にこの血が滾り慄いたわ……っ!」


 獰猛な笑みで勝者として振り返るラオウ。

 正に王者、正に頂点の者。それに相応しき貫禄を纏いラオウは吐血し咳き込むシンを見下ろす。




 ……だが、敗者である筈のシンは……口から血を流しつつも……ラオウへ笑う。




 「……何を、笑う?」




 「ゴホッ……! お前、では……『聖帝』にも……俺の『強敵』にも勝てん!!」



 その言葉に先程までの余裕を捨て去りラオウはシンを睨みつける。それに意を介さずシンは言葉をラオウへ浴びせる。



 「愛を……『強敵』をラオウ……お前は持てるか? ……王者はな……孤独なのだ。……その地位には真に愛せる者も
 真に切磋琢磨し信頼し合える者を……ゲホッ! ……存在しえない……お前の未来は……何とも無様だ……!!」



 血を吐き、地面を這ってるのはまさしくシン。だが、今やラオウは敗者の気持ちを味わい、シンに怒気を膨らませ拳を握る。

 だが、ラオウはその誇りゆえに拳を振り落とさない。落とせばシンの言葉が真実であると突きつけられるから。


 「……立て! ……安らかには殺さぬ! このラオウの恐怖を受け、拳の錆となるが良い!!」


 「……くっ……ガハ……ッ……!!」


 だが、シンは立ち上がろうとはせず這い蹲りながら玉座の場所まで進む。

 その無様な姿に怒りを買い、ラオウは闘気も篭もらぬ蹴りをシンに浴びせた。


 吹き飛ぶシン、だが、してやったと言う顔でシンは勢いのまま玉座へ倒れこむと……何かのスイッチを押した。
 ……その後、何かが階下で爆発する音が轟き……そして音がした。






                          ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッゴ!!!!ッッ!!!








   
  「……ぬぅ!!?」

  「……ラオ、ウ……何故無人で俺だけが城に残ってたと思う? ……いざと言うとき貴様もろとも……!」

  「貴様ぁ……計りおったな!」


 ……欲望、執念。……愛する者を、守りたい者を絶対に幸せにすると言う。


 それを悪と呼ぶ物はいないだろう。その欲望、執念はどんな法の代行者であろうとも決して否定出来ない物だ。

 

 それがこの城の崩壊の音だと気付くラオウ。もはや王者の誇りすら捨てシンを殺そうと歩む。……立ち上がるシン。


 「……ふふ……悪友を作った所為かな? こんな事も考えられるとは……。だが、俺はこれでようやく……愛する者
 をお前から守れる……俺は、貴様と言う乱世の申し子を倒せる」

 「この俺が……乱世の申し子だとぉ……っ!?」


 怒り震えるラオウへ、嘲りすら瞳に浮かべシンは続ける。


 「そう、とも! 『将星』である聖帝サウザーが乱世を正そうとする中、お前は野獣を配下にこの大地を闊歩している。
 ……誰であろうと口を揃えて言うだろう。お前は乱世を生み出してる者に過ぎんと!!」


 「……言いたい事はそれだけか?」


 その言葉は絶対の死の宣告。黒煙が城から上がり、シンとラオウの対峙する屋内も馬鹿らしいほど揺れる中でラオウは
 シンを滅さんと闘気を込めた。……だが、シンの瞳は死なない!!


 






                            「俺は……お前の拳では死なん!」







 その言葉を残し、シンは開け放たれている外に通ずる場所に身を躍りだす。


 (すまんサキ! お前を残し……俺は先に『殉星』を果たそう! ……お前を…………これからも愛してる!!)




                                 「さらばだ!!」

   







  「……ぬぅ!?」


 ラオウの驚愕の言葉を背に、シンは崩壊に向かう城の黒煙の中に姿を消した。


 ……見下ろす拳王。……この高さから落ちれば命は無い。




 「……『殉星』か……見事よ……!!」



 ラオウはその言葉を最後に、サザンクロスの崩れる建物に姿を消す。







 ……これが、『強敵』であるジャギへと通告が知らされる三時間前の話であった。













       あとかぎ





          

     諸君! これが北斗千手殺投稿だ!! (`・ω・´) 」



[25323] 第九十一話『メディスンシティー 兆される出会い』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/17 11:21



 「……シンが……死んだ?」

 サザンクロスの兵士の肩を掴みながら、ケンシロウは膝を崩れる。

 認められない。認めれる筈がない。……ついこの前までサキと共に幸福そうに寄り添っていた友人。
 ……引き裂かれた俺とユリアを思い出させる、その平和の情景がたった一日で崩壊した? ……信じられる筈がない!!

 ケンシロウは無言でサザンクロスの方向を向く。そして一歩足を前へ踏み出す。

 それだけでマミヤは瞬時にケンシロウの考えが読み取れてしまった。それは正史ではケンシロウに恋心を抱いたゆえの
 女の直感か? ……いや、この場合ケンシロウが解りやす過ぎたのが原因であろう。

 「待って! 何処へ行こうと言うの!?」

 「サザンクロス」

 「馬鹿げてるわ! 拳王軍は強大! その渦中にのこのこ一人で乗り込もうと言うの!? 死にに行くようなものだわ!」

 「……シンの生死を確かめる」

 その言葉にマミヤは必死でケンシロウの腕を掴み引き止める。そしてその間完全に動きを止めていたジャギはと言うと
 ようやく顔を上げると、ケンシロウの元へと歩み寄った。

 「……おぃ」

 「なんだ……っ!?」

 ケンシロウが意識をジャギに向けた瞬間に、異常な腕力で体を持ち上げられる。

 「頭を冷やせ……っ! 手遅れだって事はてめぇが何より知ってるだろうがぁ?」

 「……っ……!」

 「……悔しいか? 悔しかったらその気持ちをずっと持ってろ! ……シンの仇が討てるまでよぉ……」

 「……っ……お前、に……何がわかると……っ!」

 激情と怒りが静かに体を回っているケンシロウには、相手が自分の兄であるがどうかなど早速気にしてはいなかった。
 ジャギも同じように気付かれようと今は構わない。……ケンシロウと同じ位、ジャギも怒りが体を巡ってるのだから。

 (……何故シンに無理をするなと一言声をかける事すら俺はしなかった? ……何故シンに危険が迫ると予測しなかった?
 反乱が過ぎてこれ以上は何も起きないだろうと油断したか? ……馬鹿が! ひよっこにすら劣る屑が!! ……俺は、俺は
 早速大事な奴を一人失くしたかもしれねぇんじゃねぇか……!!)

 「……シン……?」

 その時、一人の女性が青白い顔で入り口に出現した。

 それにジャギはケンシロウの手を離す。……ケンシロウもジャギへ文句は言わず、二人とも同じ人物に視線を向ける。


 ……アンナだ。……アンナも、シンの大事な友人……ある意味それ以上の人物であった。


 南斗聖拳の基礎の部分といえども十年余りシンを師として修行に付き合って貰い、助言を多く賜ったのも彼の人物だ。

 「……やっぱり、だ……やっぱり私がいけないんだ……っ」

 「……アンナ?」

 青白く、今にも失神しそうな表情のアンナにケンシロウも先ほどまで抱いていた憤怒を一先ず忘れ心配そうに声をかける。

 それを黙ってジャギは見るしかない。……そのアンナの苦痛が痛過ぎるほどに解るゆえに。

 ……アンナの懊悩。……ジャギと再会してしまったゆえに起きる災害。……サクヤから告げられた言葉は半永久的に
 アンナとジャギの心を縛っていたがゆえに、その心を締め付ける苦痛は激しい。

 シンが死んだかもしれないのは自分の所為だと……今のアンナは絶望を抱き苦しんでいる。……誰にも相談出来ずに。


 「……っご、めん……大丈夫っ、私は大丈夫……」

 「大丈夫なはずが無いだろう。……レイ、お前もきつそうだぞ」

 「……っ済まん。……如何も毒が想像以上に強かったらしい。……今しがた告げられた内容も精神的には強烈だったがな……」

 苦痛で顔を歪めつつ、膝をつくレイ。……肉体的な意味ではレイの方が重傷であろう。……どちらも安心は出来ない状態だ。

 「さっさとてめぇは村の医者に見て貰えや。……おめぇ、は……暫くここに居ても構わねぇんじゃねぇか?」

 ……それは精一杯の今のジャギが取れる演技。……他人の振りを演じる度にジャギの精神は何かが壊れる音が響く。
 けれどジャギの苦痛を知るがゆえに空元気でアンナも微笑みつつ脂汗を拭いながら気丈に言う。

 「いや、もう迷惑かけられないから。……私は、……本物のジャギを捜しに旅へと戻るよ」

 その、重苦しく息が詰まる雰囲気にマミヤが、『あー! もう!』と声を上げる。……限界だったのであろう。女である事も未だ
 捨てる事も出来ず、他人事に近いとは言え連続で凶兆めいた事が連続で目の前で起こされたら大抵の人間はヒステリックになる。

 「とりあえず全員村へと入りなさい! 如何するかはその後でも良いでしょう!?」











 「……う~ん。……余り良くはないな」

 「危険な状態なのか?」

 「危険と言えば危険だが……。一週間、いや二週間もあれば自力で起きれるかねぇ……」

 「……それは流石に遅すぎるな。……何とか早くそいつを再起させられねぇのか?」

 「解毒剤さへあれば三日ほどで元気になれる。……だが生憎ここには薬がなぁ……」

 (……メディスンシティーだな)

 ケンシロウの質問に色よくない返事をして、ジャギの返事に回答した医者の言葉にジャギはそう思考を瞬時につける。


 要は秘孔『新血愁』を突かれた時に、『心霊台』を受けるレイにマミヤが死へ誘う薬を取りに言ったのを模倣した状況だ。
……最も今回の状況は比較的緩い状態だが。

 ……アンナも寝込んでいる。過労だと医者は判断しているが、そんな生易しいものではないとジャギは知っている。
 ……無理に外へ出ようとするのをアイリが無理強いして引き止めなかったら如何しようもなかった。


 「……メディスンシティー……そこなら薬もあるわ」

 「けどあそこは今やばいって言われてるぜ?」

 マミヤとバットの声。リンは不安気にケンシロウを見上げる。……ケンシロウはそれを見つめ頷いた。

 「……一緒に行こう。……シンの事は、何時かその拳王と決着つける。……だが今のレイを放ってはおけない」

 「……じゃあ、俺も言ってやるよ」

 散弾銃に弾を装填しつつジャギは呟く。全部の視線がジャギに浴びるのを感じつつ、言葉を続ける。

 「……気の迷いだ。気にするな」

 「……アンナの元に居てやらなくて良いのか?」

 「……俺が何であの小娘の心配をする必要があるんだ?」

 

 


 ……イタイ   イタイ          アア     アア      胸ガ苦シイ

 
 
 この顔を大部分を隠せるヘルメットが無ければ、自分の表情が若干歪んでるのを指摘されていた筈だ。……ケンシロウは
 何かを言いたそうにしていたが、すぐに諦めたように溜息を吐き、マミヤへと視線を向けて肯定を込めて頷いた。













  「……さぁ~てわたしの可愛い可愛いペット達。お食事の時間ですよぉ~」

 そこには今の世紀末の食事では規格外の豪華な食事を犬へと与えてる男がいた。

 ……狗法眼ガルフ。人の命よりも犬の命の方が重いと悪法を発布しメディスンシティーを恐怖へと陥れた人物。

  「わたしの可愛いセキ~、どうやら拳王はサザンクロスの城と一緒に潰されたって話だぞ~? 拳王はお馬鹿だね~?
 まあ自業自得だよなぁ~、こんな可愛いお前達を町で放す事を進言しても下らないとか言うような拳王にはお似合いな最後だなぁ~」







                             「ああ……拳王は確かに大馬鹿野郎さ……!」




  
  「そうそう……だ、誰だてめぇ!!!?」

 犬に話しかけていた温和な顔を金繰り捨てて獰猛な顔つきで声を出した人物を振り返る狗法眼ガルフ。
 ……そこに居るのは凶悪なヘルメットを被る男。……む? この男……前に一度拳王の勧誘を断った大馬鹿に似てるような……。


  「……てめぇの部下はあらかた仕留めたぜ。……それと機嫌が悪いもんでなぁ。……てめぇの体は良い
 サンドバックになりそうだ……」


 「ふんっ、このおれを誰だか知らないようだなぁ~!? 喰らえぇ~!!」

 金属のトゲ付きの輪っかを振りかぶり投げる狗法眼ガルフ。

 だがいとも簡単にジャギはそれを手で受け止めると、一匹の犬へとその輪っかを投げつけた。……その犬の名はセキ。



                                  ガウン!!?



   「セ、セ、セキ~~~~~~~~!!??!」

   「犬を散歩させんなら首輪をちゃんと付けとけや」


 そのジャギの声を聞きながら、充血し、怒りの眼差しで狗法眼ガルフは自分の大柄な体を引き摺ってジャギへ突進する。


   「セキに何をやってんだあああ貴様はあああああああ!!!??」


                                   ガシッ



   「が、ぱ……!?」


 頭を片手で握られ動きを封じられる狗法眼ガルフ。

 その時ジャギは頭を握りつぶす前に、よーくその尖った狗法眼ガルフの鼻を一瞬見遣ってから、顔の造形を暫く眺め
 何かを思案してから納得したように頷いて言った。

 「……あぁ、あぁ、さっきからてめぇを見てると何で殺したくなってたかやっと疑問が解けたぜ」

 「が、ぱ、な?」

 「……てめぇの顔つき、その鼻さへ除いたらトドに似た顔……おめえ紅華会のあの呉東来に微妙に似てるんだ」

 「こ、こ……紅華会??」

 それは狗法眼ガルフからすればまったくの言いかがり、完全に自分の知る範疇から外れた言葉なのだがジャギは言葉を続ける。

 「……顔の大部分は似てねぇけど何か似てるんだよなぁ。……この体の記憶の所為かね? ……俺は紅華会に似ている野獣
 を見るといたぶりながら殺したくなるのよ……!」




                                 ペキペキペキペキッ……!!




  「がっ!? ば!? たしゅ……げ……っ!!?」

  「……よし、ならトドか犬なら犬らしく鳴いてみろよ?」

  「わか、り……ヮ、ワオ」

  「死ね、下手糞」


                                  グショッ!!



 鳴き声を最後まで聞く気は毛頭なく、拳王への怒りをそのままに狗法眼ガルフの頭を握りつぶした。



 「……ちっ、……不愉快だ、くそったれ……」

 心が濁り何も見えなくなりそうになりながら、残りの野獣達を掃除しようとジャギは散弾銃を片手に歩くのであった……。










  「ここよ……、薬品が保管している場所は」

  「あいつが惹き付けている間にすぐに薬品を持ち帰ろう。……もっとも奴に心配など無用だろうがな」


  薬品倉庫へと乗り込むケンシロウとマミヤ。本来ならば其処には薬品を守る者として硫酸の玉を操る男ゾリゲと言う
 男が居たはずだった。……だがケンシロウとマミヤが忍び込んだ時にはゾリゲの姿の代わりに、ある一人の男が立っていた。


 「……ふん、……貴重と言える程珍しい類は無いな……」

 「……!? ……お前は?」

 「……おや? ……始めまして」


 そこにいたのは黄色い髪をオールバックにした、ブラッディークロス……サザンクロスの軍服に良く似た服を纏った男
 が薬品を眺めていた。……その隣にはゾリゲが痙攣しながら倒れている。

 「な……っ……ナっ……っ」

 「喧しいなお前は? ……もう黙れ」

 トランプを投げられ絶命するゾリゲ、ケンシロウはマミヤを背に隠しつつ問いかける。

 「……お前は誰だ?」

 「……ふむ、私の名か。……それは哲学的な分類へと入れる物だな。……私の名は多くあり、それでいて一つ。……ふむ
 どうにも言語で説明するのが至難だ。……真理の表現とは如何にも説明出来ない分野が多い、そうは思わないかね?」

 そのチンプンカンプンな言葉にケンシロウは眉を顰めるだけに留まる。……そして直感的に思った。……この男は危険だ、と。

 「……まぁそんな警戒をしなくて結構。少しばかり拝見したが今の技術力ではやはり期待に応える物は存在しないと知りえた
 だけでも良い結果だ。……それでは、ここら辺でお暇を」

 「待て……っ」

 そうケンシロウが制止の声を吐いた瞬間……男はその場所から突然消え失せた。

 (……消えた。……まるでこの前の牙一族の時のように……もしや、あれがジョーカーとか言う者か?)

 そうケンシロウは自分達以外無人となった場所で黙考する。……ただ薄暗い影だけがゆっくり窓からの光に合わさり揺れて。











 「……本当に……次から次へとB級映画の化け物が出るな。……何時から『北斗の拳』はパニック漫画になったんだ?」

 場面はまたジャギへと戻る。

 ……そこには犬がいた。


 ただの犬ではない。凶暴化し瞳が変色し巨大化した犬達である。

 
 (……くそったれ。本当に何から何まで最近可笑しすぎるだろ)


 そう愚痴を天に吐いても誰も救ってはくれない。自棄になりつつ散弾銃を二丁とも引き抜くと叫んだ。





                                 『北斗蛇欺弾』!!!




 二丁の銃から放たれる散弾は飛び掛って来た犬達の脳天を割る。


 だがコントロールが甘かったのが一匹だけ操られた散弾が掠るだけに留まりながらジャギへの顔へと迫った。

 反射的に腕を振るい吹き飛ばすが、涎を垂らしながらも戦闘意欲は失わない。舌打ちしつつ気の銃弾で仕留めようとする。

 だがその時一陣の影が自分の横から走ってくるのに気付いた。……殺気がないが自分へと迫ってくるのは頂けない。

 一丁をその影へと定める。だが、それよりも早くその影は自分の散弾銃に『手を添えて逆立ち』した。アクロバディック
 過ぎる動きに硬直するジャギ。そして飛び掛る犬。





                               「あ~ら……よっと!!!」





  だが、その犬の鋭い牙がジャギの首筋へ届く事はない。

  明るい声が一声放たれたと思った瞬間。犬は何も解らぬままきりもみしながら回転して吹っ飛ばされたのだった。









  






  「……おめぇ……ジュウザ」






  「よぅジャギ、辛気臭い顔してるじゃないの」







 ……何故ジュウザが此処に? ……いや、と言うかこいつは今起きている出来事を全部知っているのだろうか?

 「……なぁジュ『ジュウザ……?』……ちっ」


 話しかけようとした瞬間にケンシロウが現れる。

 空気の読めねえ野郎だ……と舌打ちする。だが、その時やばい事に楽天的な声でケンシロウへジュウザは声を上げた。


 「よぉケンシロウ! 何だよ綺麗な女性側に置いて隅に置けないなぁ! お前ユ……!?」


 その瞬間にジュウザの口を抑えてジャギは物陰へと引っ張り込んだ。


 「……っプハッ!? 何をするんだよジャ」

 「しーーーーーっ!! ……今ちょい不味い状況なんだよ。……俺と知り合いだと思われる行動すんな。……あとユリアの
 事をケンシロウの前では話すな。……いいか!?」

 その形相で必死に頼み込むジャギに、ジュウザは瞬きしつつも、やれやれと言った顔つきで言った。

 「……借り一つな?」

 「馬鹿、てめぇがトウになし崩し的に迫られた事黙ってやるんだからチャラだ……行くぞ」


 そう話を終了させ、ジャギとジュウザは何事もなかったようにケンシロウの前へと現れる。……どう見ても怪しんでる
 ケンシロウにどう言い訳するか二人の演技が見ものだ。


 「……二人は知り合いなのか?」

 「……ん? いや、俺も最初知り合いかと思ったけど違ったよ」

 「……」

 もう少しましな誤魔化し方しろ……! と頭を抱えたいジャギを余所に、ジュウザの態度は軽い。……マミヤの声が突如降る。

 「……知り合い?」

 「……こいつは『雲』のジュウザ。……南斗六星とは別に南斗を守る役割を果たしている南斗五車星と呼ばれる内の一人だ」

 ……無論、これはケンシロウとジュウザが仲良くなった時、ジュウザ含む南斗五車星が方便として説明した言葉。
 ユリアが最後の南斗六星の将である事は、幾ら正史が曲がったケンシロウと言えど知らされてはいなかった。

 「いやぁ、それにしても本当に美人だ! なぁ、俺と少しで良いからデートでも……そ、そんなに睨むなよ、ケン」

 「……お前は少し空気を読むべきだ。……ジャギ兄さんも居たらそう言うだろう」

 その言葉に少しだけ不思議そうな顔つきを浮かべたか、すぐ悟られぬように平静に戻った。……ジュウザも偶にポカをやらかす
 が機転は元々利く。……先程のジャギの言葉も含め状況がどうもややこしそうだと知ると演技を努める事にした。


 「……OK! 詳しい話をちょっと聞かせて貰おうか。……何が起こってるのか……な?」











 「……ふーん……シンが……ねぇ」

 「……なんとも思わないのか? ジュウザ?」

 「いや、確かに驚いてるさ。……けどシンが正確に死んだって伝えられた訳じゃないんだろ? ……俺は生きてると思うけど」

 その言葉に少しだけ険しかったケンシロウの顔つきが柔らかくなる。……ジュウザの前向きな言葉に感化される程には
 時間が少し経ったお陰で心に余裕が持て始めたのだろう。

 「……そう思うか?」

 「あいつ、結構しぶとい奴だと俺は思ってるからな。……それよりも拳王軍の支配してた町を解放するって事は、本格的に
 ケン、お前は対立するんだな。お前の兄と」

 「……何?」

 その言葉に顔つきが元のように険しくなる。……これに関しては伝えても構わないか。……ジャギはジュウザの話を黙認する。


 「何だ知らないのか? ……拳王の正体はお前の長兄ラオウだよ。……遠目からしか確認できないけどお前の兄だったぜ」

 「……ラオウ。……そう、か。……ラオウが、シン……を」

 項垂れるケンシロウ。……動揺は隠せぬだろう。……まさか自分が仇敵だと憤怒してた正体が自分の長兄だと伝えられたら。

 「……お前はここに如何して来た?」

 「良い美女を捜す為……ってのは流石に嘘だ。カサンドラって知っているか?」

 「!!……知っているわ。『鬼の哭く街』と呼ばれる場所にある監獄だと聞いている。……入ったら二度と戻れないともね」

 「あぁ、どうやら拳王はそこにいた大部分の囚人達を既に招集してるらしいんだ」


  !! ……また歴史に歪みが生じてきたな。……そう苦渋を心中で噛み締めつつジャギは聞き入る。

 「……カサンドラとは正確にどんな場所なんだ?」

 「……ウイグルとか言う奴が取り仕切っていたらしいが……さっきも言ったとおり拳王に召集されて今はいない。
 ……俺はそれを確認するようにユ……将に言われたんだよ」

 「将? ……それは南斗六星の最後の星か? ……誰も知らぬと言われる」

 「あぁ……。まあ、近いうちに逢えるさ」

 ジャギの視線の意図をある程度把握しジュウザは軽い口調で返事する。

 ……そしてケンシロウがマミヤと共に村へ戻ろうとする時ジャギはようやく言った。

 「……俺はてめぇを殺すのが目的だ。……それは解ってるよな?」

 「……重々承知だ」

 その言葉には疲れだけが見て取れる。……殺す、殺すと言いながらジャギの言葉には殺気も篭もってない。
 おなざりだけの形式ぶった台詞だけに思える。……もはや衝撃的な出来事ばかりでケンシロウにはジャギのその台詞は呆れは感じても
 それ以外に反応は覚えなかった。

 「……今の俺ではお前を殺せねぇ……だから精々お前は俺がお前を殺せる腕前を磨き上げるまで精々伸びた命に感謝しろ」

 「……わかった」


 その言葉と共にケンシロウは背を向けた。……振り向きはしない。









 
 




 「……さて、説明してくれるよなジャギ? ……一体何がお前とケンに起きてんだよ?」

 「俺もてめぇに聞くぜジュウザ。……ここいらで今までの出来事の整理をな」



 ……雲のように自由な生き方を求めた男。……今は愛に生きて愛を乗せて男は流れる。

 ……そして狂乱に蝕まれ黒い雲と成りつつある男。……愛と離れる事で愛に生きようと男は流れる。








 ……この出会いは運命に吉となるのか? ……それとも凶か……。










      





    あとがき


   


  ちょいと疲れたんで今日は徹夜でゲーム。


 ……某友人から借りたんだけど、意味深な笑み浮かべてたから怖い……(´・ω・`)




[25323] 第九十二話『番外編:砂漠と荒野に咲く一輪の華(超IF)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/17 18:21




       とりあえず一言               友人は一回シュマゴラスにやられてしまえ



     ……今日変な夢見て寝起き大変だったんだぞちくしょー



       ……本文どうぞ(´;ω;`)












  ……一人の男が砂漠をバイクで激走している。

  男の名はジャギ。奇数な運命に流され今や体は北斗孫家の血を引く体となっており、魂を憑依された男。

  その男は愛する者と別離しなければ災厄がその人物に降りかかると信頼に値するであろう占い師から宣告されて
  当てもない旅、もしくは愛する者に少しでも負担を減らす為野獣を狩っている日々を続けている最中である。

 ……一回何かが弾ける様な音がする。そして徐々にバイクのスピードが減少する。
 
 男には原因が嫌な程わかっていた。給油メーターが既に0に等しくなっていたからだ。舌打ち一つで辺りを見渡す。

 「……くそ、何処にも町なんぞ見当たらねぇ……。仕方がねぇ……バイク置き去りに徒歩でこの砂漠を歩くか?
 ……ちっ、かなり面倒……っ!?」

 その時砂漠の砂がいきなり舞い上がり砂嵐となってジャギの体へと襲い掛かる。

 手を翳して砂風から身を守るも、いきなりの不慮の出来事に口汚く罵る。

 そしてようやく砂嵐が収まると、ジャギの視界には一つの町が見えた。

 「……何だ? さっきまで無かったよな? ……蜃気楼って訳でもなさそうだが……行くか、このままだと日射病にならぁ」

 そう思考を口にしながら、よっこらせとバイクを背負いジャギはその突如砂嵐と共に出現した町へと向かった……。











 「……何だここは? ゴーストタウンか?」

 ようやく辿り着いた町。日が暮れる前に辿り着いたのにほっとしつつバイクを適当な場所へ下ろしながら町の感想を口にする。

 町は無人。そして見れば見るほどに奇妙だなと、ジャギは心の中で口にする。

 残っている家屋はまるで汚れた廃液を濡らしたように変色している。絶対に常人は拒絶反応する色具合の家屋だ。
 しいて言うなればペンキをぶち撒けたような色具合と言って良いだろうか? ……地面も似たりよったりだ。

 そして奥には何やら工場めいた物、その向こう側に一軒の世紀末にしては珍しい別荘地のような家が建っていた。

 「……変な場所だな、おい。……さっさとガソリン探しておさらばする……って、……そうもいかねぇようだな、おい?」

 家屋から現れたモヒカン達。まぁ何時もの事かと呆れつつそいつらへと体を向ける。

 だが、そのモヒカン達は襲いかかろうとせず、どうも薬物に侵されてるように挙動がかなり不自然だ。

 「……へ、エヘへ……っ。ぴ、ピンクだ! 空がピンク色だっ!! エヘへへへへへへエヘへへッ……!!」

 「美味い、美味いウマイ……砂糖……甘くてウマイ……。キャンディー……キャンデー……っ」

 一人は空を見上げながら涎を垂らし恍惚な笑みでぶつぶつ呟いている。

 もう一人は地面の砂を摘んで口に放り込みながら、本当に美味しそうな顔でぶつぶつ呟いているから不気味だ。

 「……完全にイカレテやがる。……何なんだこいつら? ジョーカーの野郎に脳みそでもいじくられたとかが?」

 一人の敵を思い浮かべるが、今回この町で起きた出来事とは残念ながら無関係だ。だが、若干惜しい発言をジャギはしている。

 その如何するか考えあぐねているジャギに、そのモヒカン達は気付く。そして怯えながら叫んだ。

 「ヒ、ヒィイイイ! また来た!? 来たのかアレが!!??」

 「やめっ……!? クソ……っ!! 喰われて堪るガァアアアアアア!!!」

 他にも数人モヒカン達が居たのだが、この発言が一番印象にジャギには残ったのでこの発言だけを描写に纏めておく。

 他の発言は奇声やら、既に言語なのか如何なのかも怪しく表現化すら難しかった。……既に獣と同様だった。

 「……ったく、面倒な真似かけるなよな」

 襲い掛かっても既に理性的な攻撃ではないのでジャギは軽々と南斗聖拳でそのモヒカン達の体をばらばらにした。

 家屋から何か役立つ物がないか引っ張り出す。……妙だな、とジャギはそして思った。

 「……水も食料もちゃんとある。……そんでもって何かされたにしちゃあこいつらの様子以外では体は普通だしな……。
 ……って事は『何かこの世の物とは思えない物を見て』気が狂ったとか? ……はっ! んな馬鹿なっ!」

 自分で推測して自分で一笑すると、ジャギはその目立つ工場へと悠々と歩き始めた。……ガソリンを探して。




 「……危険な廃液ばかりだな、おい。……この工場管理してた奴は馬鹿が? ……人間が浴びたらひとたまりも
 無いんじゃねぇの? ……ちっ、ガソリンが見当たらねぇ……。大きい割りに肝心の物が全く無いとか馬鹿だろ、本当」

 工場内を見渡し呆れつつ感想を口にするジャギ。……何やら粘液のような物が窓に張り付いていたりして気分は
 最悪だ。以前も兵士が怪物化したり等でパニックモンスター映画並みの出来事には嫌気が差しているのだから。

 「……後は出口に通ずるこの部屋のみ、か」

 そうしてジャギは扉を開けた。……そして後悔を瞬時にした。

 「……何だぁ? このブヨブヨの気持ち悪いナメクジ人間は?」

 そいつは体を横にして眠っていた。

 ……巨大な肉体。それは未だ良い、世紀末では大柄な突然変異の大男等ざらに居る。……問題は体の質感が見るからに変な事だ。

 (ナメクジ見てぇに粘液が出てやがる。……見てるだけで嫌悪感が迫りやがるからむかつく事この上ねぇ。
 ……でもちょっと待てよ? この大柄な体じゃさっきの場所を自由に行き交い出来ねぇよな? ……じゃあさっきの引き摺った)

 そこで思考をジャギは止める。そいつはジャギの気配に気付いたのか体をのっそりと起き上がるとジャギを振り返った。




                          マアアアアアアア嗚呼アアバアアア嗚呼アアアアアア……ッッ!!





 「……既に正気はないってか。……まぁいいぜ、不運はお目当ての物はてめぇの塞いでいる入り口の側にある事だぜ!!」

 そう、その大柄でブヨブヨのモヒカン? の後ろの出口にはガソリンとおぼしき缶が置いてある。何としてでも
 ジャギはそれを奪取しなければいけなかった。

 「喰らえっ!」

 飛び上がりその男の秘孔を突かんと勢い良く拳を繰り出す。……千手の一撃を。






                                 『北斗千手殺』!!!




   だが、それは無駄な行為へと終わった。



  「ブボオオオオオオオオッ!!」


  「ちったぁ怯むかしろよクソッ垂れがぁ!?」


 肉なのか別の物体なのか解らない肌がジャギの秘孔を突かんとする千手の連激を波立てても大きな効果を与えない。

 何処のハートもどきだと悪態つきながらジャギは吹き飛ばされる。

 壁に激突し当たり所悪くジャギは激痛で顔を歪める。……そして。


 「……いいぜ、ちょいとムカついた。……サービスだ。てめぇにはこれから地獄を味合わせてやる……っ!」


 その言葉と共にジャギはヘルメットを脱ぐと、米神へとゆっくり手を添え……そしてある部分を二つの指で突いた。






                                   『狂神魂』!!











 「……やべぇ、頭がクラクラする。……今回は失敗気味だな」


 頭を抑えつつ吐きそうな顔でジャギはバラバラになったモヒカンの肉塊を眺めつつ呟く。

 ……現在視覚、聴覚、五感の全てが完全に乱れている状態だ。……しかも半ば軽い怒りで北斗孫家の奥義を使った所為か
 どうもその状態を抑えることが出来ない。……この状態が暫く続きそうだと溜息混じりでヘルメットを被った。
 








                              「へぇ、凄いね貴方」







 (……女の声!?)


 不味い……! 今の状態では下手したら拳で襲いかねない……っ!!

 だがこの体は本能でその声へ振り向く。……理性は止めろと叫んでいるが本能には抗えない。

 ……だが、『狂神魂』で戦闘本能に駆られている体はその人物を見ても襲わなかった。

 (……女、だな。……けど安心したぜ。どうやら自制出来ているようだな……)

 一安心するジャギ。……だがジャギは気付いてない。その正体を体だけは本能的に見抜き、襲い掛かるのを止めた事を。


 「……貴方、迷子?」

 その言葉に笑いそうになる。……昔も、愛する奴に同じ事を言われたから……。

 「いや、ガソリンを探しに来ただけだ」

 その言葉に少しだけ驚きの顔を浮かべる女性……何か言葉にいけない部分があったか?

 「……沙耶を見ても何とも思わないの?」

 ……? 不思議な事を言うと思った。……確かに世紀末を出歩くにしては白っぽいワンピースな服装で軽装過ぎる。
 白いワンピース。そして黒っぽい長い髪。十六、七歳位の女の子……。そこそこの美人だとジャギは思った。
 まあそれ以外は別に不審な部分はない。……何故か第六感的な部分が警鐘を先程から鳴らしている気がするが。

 「別に? それ言うなら俺の格好見ても怖がらないお前も変わってるぜ?」

 「そうかな? ……おじさんも十分変わってる」

 「……おじさんって歳じゃねぇんだけどな。……俺の名はジャギってんだ」

 「……じゃぎ?」

 「そう、ジャギな。……てめぇ一人だけが? この町に居るのは?」

 「ううん、他にも郁紀が一緒だよ。この町に住んでいるのは沙耶と郁紀だけ」

 郁紀(ふみのり)……。そいつがこの沙耶とか言う奴の恋人か何かなのだろう。

 「……あの上の家に住んでいるのか?」

 「うん。郁紀、少し体が悪いから元気になるまで寝ている。……元気になる為にご飯がいるんだけどな……」

 そう言って寂しそうに顔を俯かせる沙耶。……何故か知らないけど危険な気がする。

 「……食料なら下りればたんまりあるぜ? あいつら全員俺様がぶっ倒したからな。……一緒に来るか? 分けるぜ」

 「え! 本当!? ……良かったっ、保存してた食べ物もう切れかけてたからどうしようかと思ってた所なの!」

 そう嬉しそうな笑みに俺も安心する。……ガキは笑顔が一番だと言うのもあるが、体の警戒してた部分も治まったからだ。

 







 「わぁ、本当だ。……こんなにご飯がいっぱい!」

 (……そっちモヒカンの死体しかねぇよな?)

 食料をかき集めてるジャギを余所に、モヒカンの死骸を掻き集めている沙耶。

 ここら辺で微妙に変だとジャギの理性が告げていたが、世紀末では良くある事だと受け流す事にする。

 「……ほら、こっちの食料置いておくぜ? 俺はもうガソリン手に入ったしそろそろ旅へ出る」

 「え、本当に? ……もう少しこの町に居てもいいよ? ジャギ、他の人とは違う見たいだから」

 そう少しだけ寂しそうな顔を浮かべ沙耶は言う。だが、ジャギはその言葉に確固たる意思を持って答える。

 「悪いがそれは聞けねぇ。……俺には如何しても守りたい奴がいる。……死ぬとしても守りたい奴がな。……そいつの為に
 旅を続けなきゃいけねぇんだ」

 「……そう。貴方も沙耶とある意味似てるんだね。……だから沙耶と普通に話せるのかな?」

 「あん? 今最後何か言ったか?」

 最後の部分は何故かノイズがかかったようにジャギには聞こえない。それに沙耶は何でもないと首を振る。
 ……気の所為か沙耶の姿が一瞬変なピンクか何だか脳が理解できない物体に見えた。……『狂神魂』の影響か?

 「……じゃあな。……あぁ、それと金髪のバンダナ付けた女、そいつがこの町に来なかったが?」

 「ううん、来てない。……それがジャギの大切なヒト?」

 「あぁ……そいつの事だけは命懸けで守る。……そいつに危害を加える奴は何であれ殺し、滅してやる」

 「沙耶でも?」

 「ああ、間違いなくな」

 嘘ではない。何故ならば子供であろうと、神であろうともジャギはアンナへ降る災厄を殲滅するのが目的なのだから。

 その本心で包まれた言葉に、沙耶も真面目な顔で言った。

 「……沙耶も郁紀が好き。この惑星(ほし)で沙耶を愛してくれたのは郁紀だけだから。……だから何時かこの惑星(ほし)
 を郁紀にあげたい。……沙耶と郁紀だけの世界の為に」

 「ほぉ……。……そりゃでかい夢だな。……応援するぜ」

 「有難う。……ばいばい迷子のジャギ」

 「迷子は止めろ……あばよっ、沙耶」










 





……砂嵐の向こう側にジャギの姿は消える。……もう二度と会う事はないだろう。

 沙耶は少しだけ無人の砂漠を眺めてから、モヒカン達の死骸……『ご飯』を持ち帰り郁紀の待つ家へと帰る。

 「……ただいま、郁紀。……今日ちょっと変わった迷子と出会ったんだ。……どう言う人かって? ……えっとね」

 「……うん。郁紀の体ももう少しで良くなるからね。そしたら一緒に外へ出よう。……もう、この世界で沙耶と郁紀
 を邪魔する物なんてほとんど居ないんだからね?」

 「……そうだね。もしかしたらさっき会った迷子の人と闘うかもね? ……けど大丈夫だよ郁紀。……沙耶頑張るから。
 ……沙耶と郁紀の為だけの世界に……」

 










 
 バイクで別の町へ向かうジャギ。その背後には存在していた町は既に幻のように消え失せている。だがそんな事はジャギに
 取ってはどうでも良い事である。彼には愛する者が無事であれば他の事は割りとどうでも良い事だから。


 (アンナ……てめぇを絶対に守り抜いてみせる。……その為ならば運命だろうがどんな化け物であろうが滅ぼしてみせる)


 





 



  ……何時か救われるか解らぬ一輪の華達は、……今日も夜空の日々で変わらぬ日々を謳っていた。













     後書き

 
 元ネタニトロ+『沙耶の唄』





 何でこのクロスオーバーしようかと思ったかって?      ……書かねぇと胸のざわめきが押さえられないからだよ!!







   某友人『いや、マジで泣けるから(笑) エロゲーだけど純愛ゲーって言われているから!(笑)マジで真夜中
 やれば快眠出来る事請け合いだから(笑)』

    


       




         ……友人は…………馬鹿だ!!(`・ω・´)






[25323] 第九十三話『流れてみよう そうすれば真実に辿り着く』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/17 20:52





 (雲)

 「……は~、よくもまあ、そんなややこしい状況を作ったなぁジャギ?」

 呆れを伴ったジュウザの声に『五月蝿い』と目の前の鉄仮面を被った男は吐き捨てるように言う。

 ……目の前にいるこいつは昔からの気の合う友人。……リュウガの兄を除けば一番信頼出来ると俺は思っている。

 ……昔も悪戯ではよく手を組んだが、今回の悪戯は少しばかり洒落にならないなと思う。……未だ全部話を聞いた訳じゃないが。

 ……ケンシロウに非情にさせるのが目的だと聞いたけど、それだけじゃ目の前のこいつのやってる出来事が未だ少々納得
 出来ない部分が多すぎる。……多分だけど、昔、『天狼星』の宿命に拘っていたリュウガの縛りを緩くしてくれたように
 こいつは裏で又こそこそと何かしら頑張っているんだと思う。

 そう言う時のこいつは何を聞こうと絶対に話さない。……そう言う意固地で全部背負おうとするのはリュウガの兄貴と同じだ。

 ……だから俺はかぶこう。……道化を演じ続けこいつの動向を見守ってやろう。

 リュウガはジャギの半ば真実、半ば偽の情報を混じった情報を大げさな反応で聞きながらそう決意を固めた。

 『雲』のジュウザ。愛を既に抱えた男の覇気は既に迷いない。









 「で? どうすんのよこれから?」

 「……暫くはケンシロウとは離れて行動するつもりだ。……兄者は多分だが死んでねぇ。……だが救出されても怪我は
 ある程度してる筈だから暫くは猶予が持てる。……その間にするべき事がある」

 「そいつは?」

 欠伸をしつつ聞くジュウザ。……こいつは多分俺に少しでも力を抜かそうとかそう言う意味合いも含めてこう言う態度を
 取るんだろうなぁと思うが、それでも腹が立ってくる。

 「まず、ジョーカーとか言うサザンクロスのマークのついた軍服の男。それとアミバって奴が今どう動いているか知りてぇ」


 「……そいつら危険な奴なのか?」


 「一人は生体兵器なんぞ産み出してでかい事企んでる。……もう一人は音沙汰ねぇが……絶対に良からぬ事を企んでるのは
 間違いねぇんだ。……今は少しでもこいつ等の情報が欲しい……」

 そう拳を鳴らしながらジャギは唸りつつ言う。

 ……ラオウが現在動けないのならば、今や無視出来ない人物へ昇華しているこの二人を何としてでも発見次第抹殺したい。

 危険な思想と言うなかれ。ジョーカーは未だ自身の目的が若干不明だが、アミバに関しては必ずトキ、もしくはケンシロウ
 へ立ちはだかる敵になる事は予測できるのだから。



 「……アミバって奴は聞かないが。……ジョーカーだっけ? そいつについては噂程度に聞いてるぜ?」

 「本当か!?」

 「これでも俺には沢山の友達がいるからな。……そんな目をしないでくれよ、今ではトウ一筋だし、終わった関係の子達
 ばかりだぜ? ……で、その友達の一人から聞いた話なんだが。……聞きたいか?」

 「さっさと話せや」

 カチャ……と散弾銃を構えるジャギ。冗談なんぞやってる暇はこちとらねぇと言わんばかりだ。

 それをジュウザは呆れた顔で軽く手でどける。睨みつけるジャギへと『どぉどぉ』と言いながら諌める調子で言った。

 「なぁ、急ぎすぎても悪い事しか産まれないぜ? 時間は未だあるんだろ? だったら少しは落ち着いて周りを見ろよ。
 そんな状態じゃアンナも悲しむんじゃないか?」

 「……アンナが?」

 「そうだよ。そんな周囲が見えてない状態で動き回っていて怪我したら泣くんじゃないか?」

 そう言われて泣きそうなアンナの顔を思い浮かべて……体が抱いていた拳王の怒りが薄れ行くのがわかった。

 ヘルメットを軽く直す。……確かに急ぎ過ぎてるとは自分でも思う。……けれど急がないと自分の大事な人間が又消えてしまう。
 ……そんな不安感で一杯なのだ。

 「……解った。……素直に聞いてやるよ」

 「これでトウの分は本当にチャラだぜ?」

 「……ケッ」

 ジャギが冷静になったのを得意気な顔でジュウザが確認すると、本題へと入った。

 「……こっから少し西に入った所で何やら多数の人間が出入りをしているって噂だ。……けど不思議な事にその場所は岩山
 でそれ以外は何も無い筈なんだ。……如何思う?」

 「……その出入りしている人間ってのは?」

 「まあ、可愛い女の子ではないってのは間違いないな。むさ苦しい集団だったって聞いている。血の十字架見たいな
 紋章をぶら下げてた気もするって話だ……っておい! 未だ話しの途中だぜ!?」

 「十分だ。……其処へ向かう」

 「言っとくが……行くには一つ条件がある」

 その言葉にジャギは振り向く。そして親指で自分を示し、かぶいた笑みでジュウザは言い切った。

 「俺も一緒だ!」











バイクで走ること数時間、途中盗賊にも出会ったかジャギとジュウザの敵では無い。何事も無くその地点へ辿り着く。
 
 「……それで、此処がその岩山……か?」

 「ああ、そう聞いている。……何か解るか? 俺も一度見て回ったけど特に可笑しな所は無かったな……」

 「……止まれ」

 歩き回って数分、一つの大きな岩の前でジャギは立ち止まる。

 「この岩が如何かしたのか?」

 「……どうも可笑しい。……『此処だけ』他と違和感がある。……よしっ、試してみるか」

 そう言ってジャギはヘルメットを脱ぐ。『うおおおおおっ!?』とその時ジュウザが叫ぶ。

 「何だ!? 敵か!!?」

 「……そ、そ、そんな……嘘、だろぉ!?」

 そう人差し指を震え指してるのは……俺の顔?

 「う、う、嘘だと言ってくれよジャギ! お前の顔がそんなに綺麗になっちまったら、もうからかえねぇじゃん!!」

 「……てめぇ一回暴風と共に遠くに消えちまえ」

 そう吐き捨てジャギは頭部の秘孔を突く。……『狂神魂』だ。

 「ふうううううううぅくぅぅううう……っ!!」

 「おお……! 見る見る形相になっていく……っ! ……けど良かったな、以前の顔でソレやったら放送禁止だぜ?」

 「おめぇ話すな!! 集中力が途切れるだろうが!!」

 五感の調子が可笑しくなりそうになるが、ジュウザとの馬鹿なやりとりのお陰が十分制御出来た状態でその岩山を視認する。
 ……やはりだ、ある一定の部分が透き通ってるように見える。……その部分へ向けてジャギは大きく唸り拳を振り上げた。

 「ぬううううううぅぅん……おおぉらぁああっ!!!」

 大きな玉砕音と共に岩山が壊れる。……そして破壊された岩の後ろから建物が覗く事が可能となった。

 「うへっ凄ぇ! どうやったんだ一体!!?」

 「……本物の岩と混ぜて張りぼてをつけていた。……そんでもってそれを幻術でより本物に似せていたって所だな」

 「幻術? んな馬鹿な……」

 「あるんだよ。確かパトラって女が幻術使いだった筈だぜ? ……行くか、油断すんなよ」

 「それはこっちの台詞だって! さぁて、秘密基地の探検と洒落込みますか!」

 警戒しつつのジャギと、呑気に腕組みしつつ付いて行くジュウザ。……対照的だがどちらも実力は十分である。




                                 ……シュッ!!



  「うおっと!?」

 その時刃物が一閃して飛び込んできた。危うく避けるジュウザとジャギ。……建物の上に誰かいる。


  「……おやおや、これはこれは鼠が二匹迷い込んだようだね?」

  「ふふ……だが運が悪かったような?」

  「我等四人、ジョーカー様から頂いた新たな力に」

  「果たして勝てるかな? ……ククククク!!」


 ……建物の上に陣取っていたのはパトラ、ドラゴン、竜神山の番人、ダンテの四人である。

 刃物の正体は苦無……竜神山の番人が投擲した物だ。

  それを見上げつつジャギはジュウザへ問いかける。

 「……どいつ、相手にする?」

 「俺はフェミニストだぜ? 女性とは闘えないよ。……後一番右側に居る奴とは何故か闘いたくないんだよな……」

  『行くぞ!!』


 「相手は選ばしてくれる余裕なんぞ無さそうだぜ?」

 「だろうな!!」


 二人は大きく跳躍してその敵達と対峙した。……その相手とは……。










 (雲)


 「おやおや、中々の色男じゃないかい?」

 「へへへ……! なぁ綺麗なレディー、こんな華麗さに欠ける真似は止めて俺とお茶でもしないかい?」

 「おや? それならば俺もご同伴させて貰いたいな? ……クク! 見れば見る程良い男だ……!」

 (っ!? ……こ、こいつ男色家かよ!? ちくしょ~! ジャギ本気で変わってくれよ!?)


 何の因果が絶対に手をかけたくない女性であるパトラと、そして男色家であるダンテと言うタッグと闘うジュウザ。

 そして何やらマントラ(真言)を呟くパトラ。ダンテの南斗百斬拳を無型の動きで翻弄しつつ避けながら何をする気か注意する。

 「破ぁ!!」

 (何!!??)

 パトラの声が響き渡った瞬間に自分の視界が真っ暗になる。

 それに混乱し思わず動きを立ち止まると、猛烈な斬激が体中を駆け巡った。


 「ぐわあああぁあああ!!??」

 「ククク!! 良い声で鳴いて踊ってくれるじゃないかぁ!!」

 ダンテは動けないジュウザを嬲るように南斗百斬拳で攻撃する。原作のアニメでも。『転龍呼吸法』使用時のケンシロウを
 膝を付かせる程の実力があるのだ、その攻撃力の強さは押し計れるだろう。


 (ぅ……ま、不味いな! 如何にかしねぇと!)

 だが虚を突かれてもジュウザは並大抵の拳法家ではない。ユリア、トウ、そして仲間達。愛する者と大切な者を知りえ
 雲と言えども守る事を誓っている今となっては、これ位の攻撃では決してジュウザは闘志を折りはしない。

 「しぶとい……! 俺は良い男は好きだが、しつこい男は嫌いなんだよっ!!」

 最後の部分に語尾を強めてダンテはハイキックをジュウザへと喰らわす。だが……ダンテの視界から消えた。

 「な……ど、何処だ!?」

 「上よ!!」

 パトラの声で顔を上に向ける。だが、それがいけなかった。

 
                                「よい……しょっと!!!」



  「ごばはっ!!!??」


 顔を上に向けた瞬間、何が起きたのか? 視界を封じられたジュウザが打撃の動きを予測しダンテの頭上へと移動する。
 次にダンテの注意が上へ向いたのを確認すると、そのままブリッジするようにダンテの膝と頭に力を加えて体を折ったのだ。
 これはジュウザが野党のボスであったゲルガを殺した技であったがそれは誰も知る由もない。


  「ダンテ……くっ……け、けどあんたは私を殺せないだろう!? 先程の言葉が本当なら女は殺せないらしいじゃないか!?」

 その言葉に視界を封じられたジュウザはそちらの声に体を向けながら渋い顔をする。
 確かに自分は絶対に女には手をかけないと自負している。……だがこのままでは劣勢は必須。どうするか良い方法を考えて……。


 「ああ、そいつは甘ちゃんだよ」

 「はい?」

 その時、ジャギの声が聞こえ、パトラの間抜けな声が聞こえたと思ったら。何かを貫いた音と共に、地面に倒れる音が聞こえた。
 そして視界が元に戻る。……そこには。


 「ジャギ……お前……」

 「……良いんだよ。……汚れ役は俺一人で沢山だ……」

 そこには胸を貫かれたパトラと……そして表情の解らぬジャギが立っていた。









 (北極星)


 「はいっ! はいっ! はいっ! はいっ! はいいいぃ!!」

 「……てめぇはオウムか」

 
 手裏剣、苦無、ナイフ、様々な飛び道具でジャギへと攻撃する竜山神の番人。

 「ふふふふ!! どうだぁ俺の部下の猛攻は!? 避けるだけなんぞ俺の宮殿の部下だって出来るぞぉ!!」

 それを笑うのはドラゴン。自分は手を出す必要もないと思ってるらしく余裕の表情でそれを眺めている。

 一方ジャギと言えば『羅漢の構え』から『二指真空把』さへ使えば事足りるのである。だが、それをしないのは自ら拳王
 と闘う必要性も兼ねてより対抗策を身につけるため。

 「……そうだ、そういやこんな技もあったな……」

 「はいっ! はいはいはいはいはいいいいぃ!!!!」

 投擲されるナイフだけを掴み取るジャギ。それに一瞬竜山神の番人は驚き動きを止める。

 「面白い曲芸を見せてくれたお礼によ……俺も少し手品をやってやるよ」

 そう言って掌にナイフを置くジャギ。……そしてジャギは掌に力を込めた。……霊王が霊王であるがゆえの力の一部を。


 「ふううううううぅぅぅううう……!!!」

 呼吸音と共に掌のナイフが空中に浮かびながら折り曲げられていく。それを竜神山の番人は口を開いて見守っている。

 「ふうううぅぅううう……!! おらぁ!!」

 そしてその捻じ曲げられたナイフは球状の弾丸へ変化し、竜神山の番人の額を貫いた。

 その技は『操気術』。『操気掌』の原点であると言えばわかりやすいであろうか?
 現在ジャギが『北斗蛇欺弾』と銘打っての弾丸を操っているのもこの技があるが所以。ジャギは気のコントロールに関しては
 霊王の体である事を自覚してからは日々それの修行にも自ら訓練を課していた。

 ……まぁ、気のコントロール『だけ』が上手いだけだと、某中国茶の人物を連想するが……この作品とは無関係ゆえに置いておく。


 それで絶命した竜神山の番人を見て、ジャギは『しまった!』と叫んだ。

 「……こいつの本名何て言うのか聞いとけば良かった……」





 「ひ、ま、まさか俺の部下が一撃で……!? ふ、ふふふふ、やるではないか? だが俺様の南斗龍神拳に通用するかなぁ!?」

 そう言って掌から炎を噴出しジャギへと襲う。火に包まれるジャギ、殺った! とドラゴンは確信する。

 「ははははは!! どうだぁ!! 俺の炎の威力はぁ!?」

 「……地獄の業火よりゃ生易しいよ」

 「ははは……はぁ~ああああ!!??」

 恐怖で顔を引きつらせるドラゴン。炎が荒れつつ消え去る。『操気術』によって炎が体に触れる前に気で覆っただけの話しだ。

 「……さて、次はこちらの番だぜ……こいつはどうだあああ!!」

 「ひっ! お、お助け~~~~~~~!!!??」


                                 『天破活殺』!!



 「ふばびごろおおおぃ!!!??」



 その技は『天破活殺』、気の力で秘孔を突き相手を滅す技。
この技は本来北斗孫家の技だ。……ゆえに『狂神魂』の効果が抜け切れてないジャギが扱えても不思議ではなかった……。

 「……後はあいつ……だけか?」

 それは自分に背後を向けているパトラ。……自分の陣営が負けぬと思っていてもあの油断はどうであろうか?
 そう思いながらジャギはパトラへと声をかける。……運の悪い事に、ジャギは『狂神魂』の影響が『未だ残ってる』のだ。
 ……ゆえに、慈悲は下さなかった……。










 「……ふ、これで終わり……かい、私は?」

 胸を貫かれても未だ意識はあるパトラ。……それにジュウザは女である事もあってか手を握る位の温情を与えている。
 それに下らないとジャギは言わない。……情けは罪ではない。……無情が正義でないとも言えないが……。

 「はん……優しいじゃないかい? ……あんた見たいな男と……私もいっぺんお茶でも飲みたかったねぇ……」

 そこで血を吐くパトラ。喋るなとジュウザに言われてもパトラは喋り続ける。


 「……ここは研究所さ。……悪い事は言わない、ここで引き返す方があんたの身のためさ。……あたいらは資格がないから
 ここで見張りなんぞ任されたんだ。……中の奴達はもっと強い……よ」


 「……ジョーカーの狙いは何なんだ?」

 ジャギの質問。自分でやっておいて何だが、聞きだせる内に聞き出す。それが情報戦の鉄則だ。

 「……あいつは秘密主義だよ。……指示だけして内容は明かさない、相当な狐さ……。……私達は何も知らされなかった。
 ……ゲホッ、これ、なら、KINGの元にいれば良かった、かもねぇ……」

 「後悔するなら抜ければ良かったじゃねぇか?」

 「馬鹿言うんじゃないよ、殺されるのがオチさ。……最後に、強く……握ってよ?」

 「……あぁ」

 ジャギの言葉に辛辣に返し、手を握るジュウザへと優しい顔を浮かべ強請る。

 それに頷き言われた通りにジュウザが行動すると、少し涙を流しながら呟いた。

 「……あったかい……ねぇ……」




 





 ……パトラ。正史のアニメではケンシロウの手で散った唯一の女性の敵。

 最後にジュウザに看取られて死んだのは原作の死に方に比べればずっとマシであっただろう。










 「……さて、蛇が出るか、鬼が出るかだな。……それとよ、ジュウザ」

 「うん、如何した?」

 「……やっぱり借り一つだな。……これでトウの一件の帳消しは無効だ」

 「うわ!? ひっでぇ!?」

 少しだけ場の雰囲気を和ましたジャギの言葉。

 小さく悲鳴を上げつつもジュウザは少しだけ安心しつつ研究所へと後から入る。




 






 ……果たしてジョーカーの真相へ到達する事は出来るのだろうか?











    あとがき




   某友人『ニャルラトホテップちゃん可愛いよね!!』






   その手の話題から離れろってんだ! べらぼうめぇ!!(`・ω・´)




 



 



[25323] 第九十四話『闘うは意外や意外 強敵のトランプ達』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/18 12:45

 「……何、消えた?」

 「えぇ、暫く大人しく寝ていたと思ったら、アンナったら忽然と荷物を纏めて居なくなっちゃったのよ!」

 憤慨しつつ話すのはアイリ。それはケンシロウとマミヤが村へと戻ってすぐの話し。

 「……何処へ行ったか解るか?」

 「さぁ……、けど仕切りに『反対に行かなくちゃ……反対へ行かないと』ってうわ言のように眠りながら呟いてたわ。
 ……だから多分反対方向へと出て行ったんじゃないかって思うわ」

 「そう……か」

 「無理し過ぎよ……っ! 未だ具合が悪かったと言うのに……っ」

 難しい顔のケンシロウと、頭を押さえるマミヤ。

 三人の思い雰囲気が立ち込める中、話を聞いていたリンとバットは小声で話し合っていた。

 『……なぁ、俺達も何か出来ないか?』
 
 『私達に出来る事は……戻ってきたアンナお姉さんを笑顔で迎える事しか出来ないと思う。……解るの。アンナお姉さんは
 背負いきれない物を無理に背負ってるって……。多分私達じゃ背負えない物を……』

 『そう、だよなぁ……。はぁ~……何か皆して一人で抱えていて見てられねぇよ』


 解毒剤を注入され、ある程度穏やかな顔つきに戻ったレイの寝室を囲みながら、世紀末の人間達は重い空気に沈み込むのだった。










 






……一方、その話題の中心であるアンナはバイクで当ても無く走っている所をモヒカン達に追われていた。

 機嫌は最悪、体調は不調であるゆえにアンナの顔色は悪い。バイクで走りつつボウガンの矢をセットしモヒカンへ撃つ、撃つ。

 だいだい五人程であったがゆえに人数は三人程に減る。だが仲間が殺された事に逆上して先程よりもスピードを上げてきた。

 「……しつこいんだってば……っ!」

 苛々した口調でバイクを急ブレーキで横に止める。そして横につけた荷袋から小さな円形の刃物を取り出す。
 これはアンナが世紀末で生き抜くゆえに考えた手裏剣を模した武器だ。鉄屑を再利用して手裏剣のように加工した投擲武器。
 手裏剣と言うよりはチャクラムに近い投擲武器をモヒカン達のバイクの前輪目掛けて放つ。
 そしてそれは直撃に成功した。



 ……バイクから投げ飛ばされたモヒカン達は当たり所悪く絶命した。

 
 「……しつこい男は嫌われるんだよ」

 睨み付けつつバンダナを結び直すアンナ。体調の不調もあるが、自分の精神の安定の代償にシンが犠牲になってしまった
 事が許せないのが一番の今の精神の苛立ちの原因であろう。
 もしジャギと平和に暮らすと言う目的が消えれば、たちまち罪悪感から自分の命を絶ちそうになる。何時も楽天的な様子を
 振舞うのは心の安定を図る為のダミーだ。どちらかと言えば、アンナの精神は脆弱である。……生き抜くのが難しいほど。

 「……あぁ~気持ち悪い。……もっと、もっと遠くに行か……っ!?」

 その時集団で近づいてくる気配が遠方から聞こえてきた。……幸いにも岩陰が多いのでバイクを引き摺りつつ身を隠す。

 そして近づいてくる集団の正体を見極めようとそっと顔を出し……思わず声を上げそうになる程驚愕した。

 (……あいつ達って……っ!)

 「……何だ、野獣の死骸か」

 「どうやらバイクの運転に失敗して死んだみたいだな。……ドジな死に方だぜ」

 「油断はするな。もしかしたら何処かに未だ生きてる野郎がいるかもしれねぇ。……右目が疼きやがる……っ!
 ったく虫唾が走る! 俺は戻るぞ! おめぇら不審な事が無いか調べておけ!」

 二人の兵士、そして一人の右目を鉄板で覆う大柄な男。

 ……そいつの名はスペード。一年ほど前にKIGNを幽閉している場所で見張りをしていたが、その後に捨て台詞と共に
 行方不明になっていた筈だ。……何故こんな場所に?

 「……ったくスペード様も人使いが荒い。……この前も右目が疼くからと言って一人殺されたからな」

 「何であんな奴をジョーカー様も配下にしてるのだ? ……まったく、KINGの元に居ても拳王軍に殺されてたかも知れんが
 此処に居ても何時か殺されそうで気が休まらん」

 「仕方がないさ。所詮俺達はスペード様に仕えて死ぬグハァラ!!?」

 「おいっ! どうしゴンドォル!!?」

 ……スペードが去り雑談している部下達の体をボウガンで射抜いたアンナ。

 「……ジョーカー……ねぇ。……何か知る事が出来たら、ジャギの役に立つかも」

 バイクでの追跡は不可能。ゆえに担げるだけの装備を整えると、アンナはスペードの後を追った……。










 


 「……うへ、凄いな此処……。大型のパソコンがズラリと並んでるぜ」

 「感心してる暇があんならさっさと怪しい部分を見つけろ。……こんな場所が存在するなんざ今まで考もしななかった……」

 それはジャギが一般人として生活していた頃では普通に見れた景色。だが、この『北斗の拳』と言う文明速度が昭和時代に
 近い世界では珍景色……パソコンが一つの大きな部屋に並ばれており。硝子で出来た棚に研究器具が立ち並んでいた。

 「如何にも研究所、って感じだな。……けどそれ以外じゃ目ぼしい物は存在してなさそうだけど……」

 
 確かにパソコンが立ち並んでいる部屋が地下に置かれている以外には部屋が存在していない。
 これだけではただ何かしらの研究施設の名残であったか、既に無人となったのだろうと、誰かが侵入しても思うだけだろう。

 だが、前の世界で色々と雑学やら何やらの知識を所有しているジャギは、この部屋の不自然さを見抜き、言い切った。
 「……この部屋はダミーだ」












 「この部屋はダミーね」

 一方、アンナも慎重に見張りも立てられていない研究所の中に入り込む。……多分先程のモヒカンが見張りであったのだろう。
 
 「……パソコンが一杯だけど既に機能していないし、中には部品も入っていない。まあ世紀末の人間って電化製品には
 疎い奴等ばっかりだから、こんなハリボテでも誤魔化す事か可能なんだろうけど」

 そして辺りの壁に触れてみる。……映画とかなら何処かしら叩いた音の違う部分が空洞であって、其処が隠し通路なのだ。

 「……ここが他と音が違う。……不法侵入したら直に気付かれそうだけど、仕方が無いか」

 悩んでいても始まらないとばかりに、アンナは一回強くバンダナ締め直すと。ハリボテのパソコンを抱えてその壁へと投げた。










 「……うわ、隠し扉って奴か? しかも梯子で降りたらすげぇ冷えるし、暫く居たら風邪引きそうだなぁ」

 「自然洞窟に繋がる場所を下手にいじる事なく改造したのか? ……なる程、核やらで地殻変動で自然に出来た穴を
 研究所に仕立て上げたのか。……そうすりゃ薬品の保存も自然の冷気で貯蔵が可能だしな。……考えてるぜ」

 「だけど奴さんここにも見張りを置いているだろう?」

 「ああ、間違いなく強い奴をな。……足音が聞こえてくるぞ」

 「はいはいわかっていますって!!」

 臨戦態勢に入るジュウザとジャギ。自然体で何時でも動けるようにしているジュウザと、そして散弾銃を構えるジャギ。










 

 「……うわぁ、グロい、グロい」

 生理的嫌悪感で顔を歪めながら、ボウガンで仕留めた巨大なトカゲのような死骸を見下ろすアンナ。
 「……自然のトカゲとかじゃないよね。……しかもかなり素早かったし。……薬漬けって奴? ……未だこんなの
 居るかと思ったら鬱なんだけど。……簡単に手榴弾で出入り口塞いで帰っても良いと思うんだけどなぁ……」

 だが、それだとここで何が行われているのか他の誰かに伝える事も出来ない。
 
 何か重要な物体でも捕獲しようと、半ば冒険気分でアンナは奥へ進むのであった。









 「……巨大なトカゲの化け物、そして巨大な蜘蛛……んでもってゴキブリかよ」

 「……なぁ、俺帰っても構わないよな? 俺、こう言う敵とは生理的にどうも苦手でさぁ……」

 「てめぇは女か。アンナだって命の危険が迫ってたらゴキブリであろうか冷静に戦い抜くぜ?」

 「……それもう女の子じゃないよなぁ」

 踏みつけ、そしてショットガンの柄で殴りつける。ジュウザはジュウザで少し体を動かし合気道のように飛び掛って来た
 生き物を壁へ吹き飛ばす。

 「けど大した事ないよなぁ。ちょっと面食らったけどこんな敵ばかりじゃ楽勝」




                                   ドゴッ!!!!



 「ゲフッ!!?」

 「ジュウザ!!」


 その時、『壁から巨大な棒が生えて』ジュウザの体を襲った。

 吹き飛び岩肌の壁へ叩きつけられるジュウザ。……棒はゆっくり引き抜かれる。

 「無事か!?」

 「ゴホッ……っ! 何とか、なっ! 油断してた!」

 口元の血を拭いつつもジュウザの動きに不具合はない。不意打ちは喰らったが、あの程度では南斗五車星の一人を
 易々と崩す事等は出来ないのだ。……そして壁からは次々とその棒の強い突きの嵐が迫る。

 「よっ! ほっ! おりゃ!」

 それを巧みに無型の動き、軽業士の如くジュウザは避ける。ジャギもただ傍観しているだけではない。その壁越しの
 攻撃が何処から迫っているか見当つけると、『先程から気を込めていた』散弾銃を構え、呟いた。

 「ぶち、抜いて……やるぅ!!!」


                                   『北斗邪技弾』



 光線のように強い闘気の塊が襲う。そして岩肌を貫き棒の連撃を繰り出していた人物に命中したのがジャギの視界に映った。
 ……だが、その男は闘気の光線、『北斗剛掌波』に匹敵する程の闘気の光線が岩壁で軽減したとは言え、受けたに
 関わらず後退しつつもしっかりとした足取りで立っていた。


 「あっ、あっ、ああぁ!!……み、み、見事!!」

 「……てめぇは……ダイヤ」

 棒を振り回し、歌舞伎役者のような言い方をしつつ首を振り回す男を見ながらジャギはその人物の名を上げた。


 「い、い、如何にも!! 元KINGの四重臣の一人にして! 今やジョーカー様に仕えし夜叉のダイヤとは俺のこと!!」


 棒を振り回し、片手を突き出しながら名乗りを上げるダイヤは歌舞伎役者の如く構えながらジャギを睨む。

 この隈取野郎が、と正史のケンシロウと同じ思考をしつつ闘おうとするが、それを片手でジュウザに制止される。

 「……ジュウザ?」

 「……やられっ放しじゃ格好がつかないからな。……それに未だ奥が有る見たいだからなジャギ。……お前はそのジョーカー
 とか言う、こそこそした奴に吠え面をかかせてやれ」

 「……わかった、……さっさとそんな野郎は倒しちまえ」

 「了解」

 ジュウザの背を見つつジャギは走る。……その洞窟の開けた場所には何があるのだろうか……?

 「……ダイヤ、だっけか? ……残念だぜ、本当に」

 「な、な、何かがぁ、かな!!?」

 「……顔と名前がまったく似合ってないってのも考え物だよ」

 「がはっ、がはっ!! 良かろうっ! 貴様は俺様の棒術の餌食になれええ!!」

 歌舞伎者と歌舞伎者、異なる覇気を纏う者が今やぶつからんとする。











 「……うへっ。さっきから気持ち悪い生き物ばっかし。……パラサイド・イブとかみたい」

 それなら私はアヤ・ブレアかな? とボウガンの矢を装填しつつ思考する。

 「……さっきから何か頭に植物生えたような人間もどきとか……、あのスペードとか言う奴ここで何やってんの?
 化け物はべらしてハーレム囲っているとか?」


 「俺がそんなイカレタ趣味はない。あるとすれば憎い敵をいたぶる趣味だけだ」


 !? アンナは後方から突如振って沸いた声に前方へ跳ぶ。

 その瞬間にアンナが居た場所には巨大な斧が地面に直撃していた。……危なかった!

 「お久し……振りっ!!」

 反転しつつスペードへとボウガンを放つアンナ。……だが金属音と共にアンナの放ったボウガンの矢は跳ね返された。

 「ふ、ふふふふ……本当に久し振りだなぁ……っ!!」

 「うっそ……!?」

 「ふはははははは!!! ここで会ったか百年目! じわじわと痛めつけて殺してやる!!」

 新たに強化薬によって力をつけたスペード。それに冷や汗を流しつつも立ち上がるアンナ。

 ……激しい死闘の火蓋が開こうとしていた。
 


 







 


 「……随分開けた、んでもって近代的な部屋に出くわしたもんだぜ」

 走り奥の部屋へ到達したジャギ。……そこには近代的なコンクリートの壁で覆われた学校の体育館並みにでかい部屋があった。
 そこにはいたる部分に格納するコンテナが置いてある。……何かでかい生き物を置いておく場所らしい。

 「……ジョーカーは何をするつもりなんだ」

 「新しい世界だよ、鼠君」

                                  ブシュッ!!

 「……っ!?」

 「フフ……かくれんぼをしようか? ……久し振りのお客さんだ。この一年まともな拳法家を切刻めなかったので
 ゆっくり楽しもう。……おれの名はクラブ……宜しく」

 「……クラブ」

 その名は原作で良く知っている。広々とした場所で奴隷達に自分に触れれば命を助けてやると言いながら、触れれば触れたで
 汚い手で触れるなと惨殺した人の姿をした悪魔……。

 「……なる程、久し振りにこっちも残酷になれそうだ」

 「……ガハハ! さぁ、恐怖で泣き叫べぇ!!」


 暗闇の中、悪魔と成ろうとする者と、闇に混じる悪魔が激突せんとしていた。











    後書き

  魔法少女まどか☆マギカをニコ動で拝見した感想。


 前半  (´・ω・`)『なる程……確かに可愛い魔法少女達だ。……プリキュア見たいな作品かな?』

 中半  (´・ω・`)『うん? 何か先輩魔法少女が出てきてる……サブヒロインかな?」


……問題の後半  (´・ω・`)『ふむふむ……あれ? 何かすげぇ強そうな敵が出てきてるね。けどまぁ魔法のパワーとかで何とか
 あれ? え? あれ? あれれ??』
  




   



   (。・д・)    ( ゚д゚)     (つд⊂)ゴシゴシ   (;゚д゚)           :(;゙゚'ω゚'):






   『……コルーニス お前もか!!!??』







 




[25323] 第九十五話『優しき人の結晶 そして旅の扉』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/19 13:24


 「ぬおらぁ! 『隈取』!!」

 自身の背丈とほぼ同じかそれ以上の鉄棒を軽く振り回しジュウザ目掛けて振り下ろすダイヤ。
 それを自由に壁を蹴りつつ飛び回りながらジュウザは避ける。

 「あっ、あっ、あっ! 逃げてばかりではこのダイヤは倒せはせん!」

 「一々口調が五月蝿いな! これでも喰って黙ってろ!」

 サッカーボール大の転がっていた石を口目掛けて投げつけるジュウザ。それをダイヤはあえて口で受け止める。そして……。



                                 バキガキゴキッ!!


 「……おいおい、冗談は顔だけにしろよ」

 「ぁっ、あっ、ああっ!! このダイヤに噛み砕けぬ物、アァ! 浮世に非ず!!」


 そして柏が打たれるような動きで構え直すダイヤ。ジュウザと言えば先程の腹部に鉄の棒を打たれた最の衝撃が
 未だ残っており吐きそうな不調である。それでも余裕の笑みを携えるのは『かぶき者』であるが所以のジュウザであるから。

 (考えろジュウザ……この隈取野郎を一撃で仕留める方法をだ……)











 (……考えなさいアンナ。……あの筋肉だけのデカブツをどう倒すか……)

 「がはははは!! かくれんぼか!? 良いぜ! 精々上手く隠れてみろ!」

 ボウガンの矢は歯が立たず。装備した鉈ですら一撃で曲がってしまう始末。

 挑発しながらスペードは薬品で強化した自分の肉体を最強と自負し、アンナの手が無くなった瞬間に仕留めるつもりだ。

 (……ダイナマイトでも持って来れば良かった。……刀の切れ味なら何とかあいつを倒せるかもしれない。けど、それでも
 駄目だったら本当に万事休すかも……。……弱点と言えば目玉だろうけど……そう安々あいつが狙わしてくれる筈もないし……)

 「……クク……怯えているな? お前が恐怖している匂いがここまで届いてくるぞぉ!!」

 右手の斧を揺らしながらアンナをじっくりと探すスペード。自然の障害物がアンナの小柄な姿を隠してくれているが
 このままでは見つかるのも時間の問題。……そして、スペードの耳に小さく火が着火した音が耳に届いた。

 「そこかあああああ!!!!」

 大振りに斧を岩へ投げつけるスペード。強化した筋肉の投擲は凄まじく大砲のような威力であり、触れた瞬間岩は粉砕する。

 そして横っ飛びで弓で矢を構えてるアンナ。小型ですぐに作れるように予め分解していた物だ。……それを放った。

 だが、薬物で強化したスペードの動体視力はボールでもキャッチするように、無事である左目に飛んで来た矢を掴む。

 「ふはははは!! 惜しかったな!? だが俺の強化した瞳には……うん?」

 そこでスペードは矢に括りつけられてた物に気付いた。……着実に短くなっていく導火線……これは爆弾!?



                                    BOM!!!


 「……流石にダイナマイトは無いけど小型の爆弾なら持って来てたりして」


 『矢に括りつけた即席の爆弾』は見事に注意を惹きつけた瞬間にスペードの顔へと爆発した。……立ち上がり勝ったと
 確信するアンナ。これでようやくこの秘密基地を闊歩出来ると安心した。




 ……安心したのだ。








                                   ドシュっ!!!





 「……へ?」


 気を抜いてたら腹部に何かが貫かれたような感触、そして見下ろせば『瓦礫の破片が脇腹に生えていた』……激痛で体を
 崩すアンナ。そして哄笑が目前から立ち上った。


 「がははははははははは!!! 今のは見事だった!! だが残念だったな!? 少々火傷したが、この俺は既にジョーカー様に
よって改造済みなのだ!! ゆえに!! この顔は既に人造皮膚!! 左目も高性能な義眼に改造したがゆえに
 俺の体にもはや穴があるとすれば貴様に貫かれた右目のみだ!! ふははははははははははははははは!!!!」


 焼け爛れた顔の裏から鉄製の肌が現れる。既にスペードは半分人間を止めていたのだ。


 そして跪くアンナをどう料理しようか考えつつ近寄ろうとするスペード。……アンナの体から何かが零れる。



                                   プシュウウウウウウウ……!!!




 「む!!?? 煙幕か!!!」


 小賢しい真似を! と思いつつも、自分の瞳を奪った奴が、こうもしぶとくなければ面白くないともサディスティックな笑み
 をスペードは浮かべつつ投げた斧を拾い上げる。

 「さあ! 次は鬼ごっこかなぁあ!? ふははっははははは!!!!」


 入って来た入り口は既に封鎖している。……逃げ場など用意させん。






 (……不味い……結構……重傷)

 煙幕で何とか逃げ切った。……だが先程投げつけられた破片は思いの外に自分の体に支障を起こさせていた。

 (……やばっ……もう、動けなさそう……)

 体調が最初から不調であった事も原因の一つ。だが、それ以上にアンナの体と精神は既に限界に達していたのだ。
 よってアンナは地下の洞窟で倒れる。……足音が聞こえてくる。

 (……あん、な……奴に……ころ……され……御免……ね……ジャ……ギ……約束……守れ……)








 


 




 「フフフフ……どうだぁ? 暗闇の中で何時殺されるか解らぬ恐怖とはぁ?」

 クラブの喉から出す笑い声がジャギの耳に生理的嫌悪すら沸かせ届く。

 ジャギと言えばクラブをどう殺すのかを考えている所だ。

 背後に忍び寄ってきたクラブを一撃で秘孔で粉砕するか……はたまた『操気術』を試行し新たにクラブが思いもよらぬ
 ような残虐な方法で痛めつけつつ殺すか……。

 (いや……それだと奴と同程度だ)

 暗闇の中で頭を振り残酷な処刑方法を消すジャギ。……例え前世に自身が人々へと恐怖を植えつける人間であったとしても
 今は違う。……自分はジャギであるがジャギと同じ行為で悪を処刑するのは正しい方法とは憑依した自分は違うと思っている。

 ……最近前世の『ジャギ』としての考えが自分の心の半分を埋め尽くしているように思える。
 ……これでは駄目だ。このままでは自分がじわじわと自分で無くなるように思えて不安で押し潰されそうだ。

 『狂神魂』を身に付けてからがこの不安感の芽生えを確信させた。あれ以来修行しつつ狂気を操る術を身につけようとしてる
 時に前世の『ジャギ』の声が幻聴で聞こえ始めてきていた。
 幻聴の内容の殆どは悪を悪が行った方法と同じ方法で処刑しろと言ってくる。……最初自分もそれを心で反発する
 気も起こらなかった。……『北斗の拳』の悪人は大なり小なり死んでも問題ないような人間だと自分も思ってたから。
 けど最近になってそれで本当に正しいのだろうか? とも思い始めてきた。
 切欠はアンナとの短い再会。……それが一年の間に消えていた自分の倫理感を呼び戻してくれたのだと思う。

 『……腑抜けがぁ……そんな事でこれからてめぇはやっていけると思ってるのか……? 殺すなら殺すで別に構わないだろ?
 ……奴等は虫けらだ。……ジャッカルだって、牙一族だって、……目の前のクラブなんぞ人間を家畜する屑野郎じゃねぇか?
 ……ぶっ殺しても誰も文句言わないだろ? ……チンケな良心なんぞ糞と一緒に流しちまえよ……』

 「……うるせぇ」

 「しゃははははは!! 恐ろしいか!? それは恐ろしいよなぁ! このクラブ様に殺された奴達も同じように気丈に
 振舞ってたぜ! だが直に小便垂らしながらこの俺に止めてくれと叫びながら命乞いして死んでいったんだ!!」

 『な? こんな屑に、塵に情けなんぞかけるなんぞ馬鹿げてるだろうか? ……お前の正義ってのは何だ? 救うに値すると
 思える奴等を救う為の拳なのか? ……そんなんは救世主様に任せて、おめぇは悪を黙々と潰せば良いんだよ……』

 「……だから、黙れってんだよ……っ!」


 「ふはっはははは!!! どんどん体中から血飛沫が出てきているぞぉ!!」


 風の様に闇の中で飛び回るクラブは、瞬時にジャギの体へとカマイタチが出たように傷を作り出していく。

 だがそれはジャギにとっては些細な事。……今や彼は人為的に造られている闇の中で自分の中の心の闇と対決していた。










 「……げほ」

    『散切物』!!   『長唄』!!  『片外し』!!    『太鼓片』!!  『暗闘』!!   『髪洗い』!!


 右打ち、右斜め打ち、左斜め下打ち、上斜め突き、振り下ろし、そして勢い良く回転させつつ鉄棒を振り回しながら
 ダイヤは全て歌舞伎用語で技の名前を叫びながらジュウザに猛撃を味あわせる。
 
 対するジュウザは避けつつも体力を目に目に削られていく。そして軽く連打の蹴りを食らわせようとするが、それを目前で
 鉄の棒を風車のように回転させつつ塞がれると、その勢いのまま鉄の棒を胴体へとジュウザは喰らわされた。


                            南斗歌舞伎拳『強盗辺』!!


 「……南斗歌舞伎拳だぁとぉ? ……ヶホッ!! もっとマシなネーミングセンスを親御さんから習うべきだったな」

 「ぬぅ、ぬぅ、ぬぅかぁああせええぇぇ! 貴様の体は既に奈落へ落ち行く満身総意!! 生の幕引き、あっ! これにて
 終了でありつつ候う!! やれ悲しき! 楽しき舞踊もここにて終わり! あっ、あっ、あっ……!!」

 「……三流だよ」

 「……ぬぅ?」

 吹き飛ばされ、ボロボロになりながらもジュウザの瞳は青空に浮かぶ一つだけの雲のように確固たる光を携える。

 「……お前の拳は所詮三流。薬や改造で力を増してその拳には魂が篭もってない。……俺は沢山の拳法家と共にこの空
 を歩んできた。……だからこそ解る。……てめぇは所詮歌舞伎の三枚目だってなぁ!!!」

 ……この世界で辿ってきた『雲』の軌跡。

 それは随分とした奇妙な雲筋。……一人の何の宿命も背負わぬ男が起こした風に流され『慈母星』に抱いていた恋心は何時か
 痛みもなく消え去り『海』である男の娘に愛をくれてやった。
 そして『天狼星』である自分の腹違いの兄とは本当の兄弟のように何時しかなる事が出来た。……ジュウザの『雲』のなかに
 秘められた想いは暴風に動くことすらない前代未聞の『風に動かぬ雲』へと成長していた。
 ゆえに切磋琢磨してきた『強敵』達の拳を見ていた自分が、今こうして歌舞伎を真似た拳法家に屈するなど……断じて無い!!
 
 「あぃ! あぃ! あぃいいいい!! な、な、ならば受けてみるが良い!! 我がダイヤの南斗歌舞伎拳の奥義を!!」

 「……へへ、なら一人の拳法家に戻って、……俺も唯一と言って良い『雲』の技をお前に見せてやる……」




 そしてジュウザは空を飛んだ。そして覇気を纏いダイヤの脳天へと迫る。

 ダイヤも鉄棒を上空で回しつつ、雲を叩き落さんと腕を反らし叫ぶ。








                                 『撃壁背水掌』!!!

                         南斗歌舞伎拳奥義『花道』!!!!













 


 「……ぅ……あれ? ……此処どこだっけ?」

 霞む視界の中、重い体を起こすアンナ。……自分はスペードに見つかって殺されたのでは無かったか?

 辺りを見渡せば、昔の懐かしい理科室のような場所に寝ていた。……天国では無さそうだ。

 「……気がついたかい?」
 
 首を回せば初老と言って良い、少し禿げた白髪の男が椅子に座って自分を見ていた。

 「……応急処置はしといたよ。……君は運が良い、当たり所が良かったから三日もすれば傷も完治する筈だ」

 そう言われて腹に巻かれた包帯を見る。……先程深く受けたのに痛みがない?

 「……新薬品で体の新陳代謝を限界まで引き上げられたお陰だよ」

 「貴方、ここの研究員の人?」

 自分の疑問を直に察知し答えた老人に、アンナは質問する。

 「あぁ……もう、私一人だけだがね」

 そう寂しそうに皺を寄せつつ研究員は答える。……他の人間はどうしたのか? そう言った類の質問に研究員は全て答えた。

 「……私達特有の技術員はある男に安全な生活を約束されて此処へ連れて来られた。
 ……確かに衣食住は完備されていた。……それと引き換えに人間を冒涜するような研究を無理やり行使させられてたがね」

 「……研究の内容は遺伝子の改造。……我々は『D』と呼ばれる遺伝子を何処まで人間が耐えられるかの実験を最初に
 その男に任務を負わされた。……今思えばその時に死んでも逃げ出した方がマシだったかも知れんな」

 「……最近では即効で人体の運動技能を高める薬品の開発をさせられていたよ。……そして実験に区切りが付いた所で
 その男の本部があると言われた場所に全員連れられて行った。……私が何故此処にいるかと言われると、やり残した事の
 整理と、此処を任されているあの男の鎮痛剤を作らされる為だよ。……月に何度も右目が疼くらしくてね……」

 そこで何処からが重い足音が聞こえてきた。……緊張で顔を引き締め初老の研究員は口元に指を上げると、扉まで近寄り鍵をかけた。

 ……数分間緊張感が続く。……スペードの遠ざかっていく足音が聞こえた。

 「……あの男……ジョーカーと呼ばれた男が渡した資料は私達の頭脳では考え付かないおぞましい研究内容ばかりだった。
 ……放射能を特定の部分に当てた人間はどう変貌するか。そして遺伝子に耐えられぬ人間はどう怪物へ変わり果てるか……。
 ……逃げ出す人間も居たさ……そう言う者すら、あの男は実験の被験者として使った。……恐ろしい、……恐ろしすぎる」

 恐怖で顔を引きつつ初老の男性。……その手をアンナが握ると穏やかな顔へと変わり、何かを決意した瞳になると一つの世紀末には
似合わない近代的なジュラルミンのケースを床から取り出してアンナの胸へと押し付けた。

 ケースの中には色とりどりの薬品がある。……カプセル剤、そして試験管に丁重に保存された液体状の薬品等だ。
 「……これは新薬品の一つだ。……投与して数分で効果が発揮される。……色によって効果は違うが、まぁ一つ説明するとすればだ。
 ……この赤い液体があるだろ? これを投与すると瞬発的に身体能力が向上する。……興奮状態になるのと、効果が切れると急激に疲労感が
 襲うのが難点だが。……他の液体については説明書きがある。だがじっくり読んでる暇はない、早くここから逃げて……」


  
                                「ここかぁあああああ!!!!」



 一瞬、だった。



 扉を粉砕し、形相を浮かべたスペードが斧を投げつける。

 粉砕し飛び散る実験器具。そしてアンナを突き飛ばした研究員の男の肩を大きく裂けて斧は壁に突き刺さった。

 「おじいさん!!?」

 「……は……やく、逃げ」

 「この爺いがぁあああああ!!! 生かしてる恩すら忘れやがってえええええ!!!」

 拳を震わせつつ憤怒の顔でスペードは床に転がっている何かしらの固い物を倒れ附す研究員へと投げつける。

 だがそれは飛び出したアンナの構えたジュラルミンのケースによって塞がれた。

 「ぬううううん!! 小娘がああああああ!!!」


 飛び掛るスペード、それを何とか蹴りつけ、その反動でアンナは出入り口に着地してケースを抱えたまま逃げた。

 「……ふっふふふふふ!! 狩りはこうでなくちゃなぁあああ!! ……こんなボロ屑は後で殺せる!! さぁ……鬼ごっこ
 の終わりと行くかああああ!!」

 斧を引き抜きスペードは鬼のような笑みを浮かべ歩く。……天井の蛍光灯によって映った影は正に悪鬼そのもの。











  『コロセ、八つ裂きにしてやれ……! そして命乞いする奴の足からじっくり削り取っちまえ……!!』

  (黙れ……っ! 俺は俺の意思で裁く! ……お前は邪魔をしたいのか!?)

  『邪魔? 今のままじゃてめぇは共に過ごしてきた人間が仇でも殺せないのにか? ……ひよっこは黙っていろ。
 ヒヨコなんぞ要らん。この世界に居るのは軍鶏だろうが? ……コロセ、コロセ、コロセ、コロセ……コロセ!!!』

  「ふはははははっ!! これで胴体とおさらばだあああ!!!」

 クラブの鉄の爪はジャギの背後から襲い掛かった。……それはジャギも重々承知している。

 ……クラブには何が起こったのか最初理解出来なかった。

 首を薙いだと確信した瞬間に、その自分の鉄の爪はばらばらに地面に落ちて、その腕はその男の手に握られていたのたから。

 「は? へ?」

 「……」

 呆然として事態を理解しようとするクラブ。その瞬間的な時間の中で未だジャギと『ジャギ』は心の中で闘っていた。

 『殺れよ』
 
 (殺るさ)
 
 『如何やって?』

 (俺のやり方で)

 『ひよっ子の癖にか?』

 (俺は……)

 『お前は甘ちゃんだ。甘ちゃんのヒヨコだ……』
  
 (俺は……!)


                                「ヒヨコっじゃ……ねぇ!!」


                          「はべぇべぇ~~~~~~~~~!!!!!!!」



 ……二本の指による貫手がクラブの首を貫き、その衝撃で目と口、鼻から血を吹きつつクラブの命は経たれる。
 ……その死に様を眺めながら、自分のこの手の汚れが改めて消えないだろうと、ジャギは再認識するのだった。











  「……み、み、見事ぉ……!!」

 鉄の棒で支えつつダイヤは脳天から血を噴出しつつ自分の最後を知り、最後にジュウザへ問いかける。

 「くっ、くっ、雲殿よぉ、最後に聞きたいいいいぃ!! おっ、おっ、お主はこの乱世で何を貫き生きるかぁあああ!?
 雲ならば、この乱世に引きちぎられ跡形無く消え失せるだろうううぅ!!!! あっ、あっ!? ひ、で、ぶぅ~!!」

 「……雲は、千切れてもすぐに元に戻るさ」

 血の飛沫を背に、ボロボロながらも『雲』のジュウザは立ち上がる。

 ……歌舞伎はようやく、ここで幕を閉じた。











 「……ふふふふ、小兎もようやく観念したがあああ!!?」

 「……」

 そこに対峙するのは……日本刀を構えているアンナ。……斧を振り上げているスペード。

 (クク……この俺の体は改造によってお前の動きは手に取るようにわかる。……刀を振り上げ下ろすスピードまでもな!
 お前の刀を指で受け止めた後、驚愕で顔を硬直させた貴様を我が拳で完膚なきまで破壊してくれる!!)

 「……あのお爺さん、さ」

 「あぁん?」

 「……貴方に何時も……痛み止め上げてたんでしょ?」

 その言葉に鼻で笑うスペード。何を言うかと思えば!? とと前置きしつつスペードは叫ぶ。

 「あの爺いは所詮薬を作るしか出来ないただの弱者だろうが! しかも情を沸き貴様なんぞ助けて馬鹿な奴よ!! 命を
 長生きさせていたのはこのスペード様のお陰だったのになぁ!!」

 ……世紀末ではその暴力的な思想はある意味正しい。その力だけが正義であれば大抵の人間は屈服するのだから。
 
 だがアンナはそれを認められない。ゆえに、『赤い瞳』でスペードを睨みつけるのだった。

 「あぁん? ……貴様、もしや薬を投与して……っ!」

 言いかける途中でアンナは一瞬で間合いをつめて跳ぶ。
 
 先程とは比例する比較も出来ない速さ、だがスペードは改造した身体能力をフルに使うと斧を振り下ろす。

 (無駄だ! スピードが幾ら勝ろうとも俺の肉体は既に刃など弾く程に強化している。例え浅い傷がつこうとも……!?)
 
 その時、自分の右目を『覆っていた鉄板が切り飛ばされ』るのを自分は義眼で見た。

 「……は?」

 「目は誰であると硬く出来ないでしょ?」

 ゆっくりと、高性能な動体視力ゆえに刃が自分の右目を突き立てんとしているのが解る。……肉体が追いつかない!!??
 こんな、こんな場所で死ぬ!?? このジョーカー様の下で新世界で支配しようとしているこのスペード・Jかが!!???

 「舐め、るなあああああああああああああ!!!??」

 「……bye」


                                  ……鈍い、何かを貫いた音が……地下へと響いた。







 「……何で、戻って……早……逃げ」

 「……スペードは倒したよ? ……もう、大丈夫」

 「! ……驚いたな……奴に勝つとは……」

 血の水に浸かりつつも、研究員は気丈に笑みをアンナへと向けて言った。

 「……ジョーカーの、本部は……地下だ、地下にある。……何処かは不明だが奴は海洋生物に着目していた……」

 「……海ね」

 「……私が……君を助けたのは……死んだ孫が生きていれば、丁度同じ位だったからかもしれん……本当は、最初助ける気は
 無かった……本当に、私はそんな優しい人間では無い……から」

 涙を流し、今まで自分が携わった悪魔の研究の事をアンナへ懺悔する研究員。……ただアンナは手を握り締めていた。

 「……お爺さん、とっても優しい人だよ。……お孫さんも……絶対そう言うよ」

 「……そう言われ……ると……嬉しいねぇ。……ようやく、……孫に……会いに……ほら、……空で……笑ってる」

 ……最後に天国に昇る研究員が見たのは、天使となった孫の姿か?

 ……研究所は崩れていく。……スペードが死に、それを見計らったように崩壊の音が響く。……無言でアンナは立ち上がる。

 「……さようなら。……お爺ちゃん」

 ……また旅に出る扉。……微笑みを浮かべて眠る老人を最後に一瞥し……アンナは崩れ去る研究所を抜け出した……。











 「……不味いぜジャギ! 出入り口が塞がれちまった!!」

 「……落ち着け、ここは研究所なんだろ? なら不測の事態に脱出用の避難口がある筈だ……!」

 「……けどここの基地造った奴が部下を非難させるような設計で造ると思うか?」

 「……いいからとっとと捜すぞ! 生き埋めにされてぇのか!?」

 だんだんと落盤してくる天井を避けつつジャギとジュウザは必死に逃げ回り入り口を探す。……逃げ惑う生き物達。

 「……くそっ! 人間はさっきのあいつ達だけかよ!? 後は巨大な蚯蚓の化け物とか触手人間とか食人植物とか……!」

 「喋ってる暇あったらジュウザ足を動かせ足を!! 踏み潰されるんだよ!」

 今や体力ゲームと化した地下でのランニング。迫り来る落盤から逃げつつ奥へと逃げ進めるジャギとジュウザ。
 敵を倒して一段落したと思った瞬間。クラブかダイヤが死んだのを切欠にか地下研究室は崩壊し始めたのだ。

 「証拠は何も残さないってか!? ……うん、おい、あれ見ろ!!」

 走りつつ脱出の術を捜していたジャギに、救いとも思える物を発見する。

 「……あれ、何だ?」

 「知らねぇのか? ありゃ良く軍とかが緊急時に使う脱出ポットって奴だよ。……確か空中に打ち上げられる筈だ」

 「はぁ!? それじゃあんな狭い個室で空まで飛んで逃げろってのか!? 俺はそんなんする位なら生き埋めになった状態
 から何とか脱出するってぇの!!」

 「おめぇはこの深さから地面を掘り進めれると本気で思ってんのか! 窒息して死ぬのが関の山だろ!! 行くぞ!!」

 そうしてそのポットへと近づき困った事に気付いた。……一人分の席しかない。

 「……なぁ、ジャギ……もしかして……?」

 それをジュウザも理解したのか冷や汗を流しつつ問いかける。……ジャギは重苦しくその言葉を下した。

 「……詰めて乗るしかないな」

 「無茶だろ!? どんなに詰めてもよ! こんな……って乗り込んでるし……ぁあったくっ! 天使様如何か俺に加護を!!」

 「んなもん居たら殴り飛ばしてやるってんだ!!」




  そしてジャギとジュウザは小さなカプセルとも思える中に入り……そして轟音と共に空中へ投げ出された。


 ……もしもこの日空を眺めている人間が居たら、少しばかり大きい球形の何かが遠くの方向に飛んでいったのを確認しただろう。

 ……だが幸か不幸か。人数オーバーによりジュウザとジャギは本来降りる場所とは別方向へと着陸する事になる。


 








      ……その場所で真実へと辿り着く事になる。……北斗神拳に関しての……忌まわしい真実を彼らは……。
 











            後書き


     某友人『ところでこいつを見てくれ。こいつを見てどう思う?』
 
  (´・ω・`)『俺が貸したジョジョ漫画二十八巻……何故染みが?』

     某友人『カップヌードルの汁が飛んだから』

  (´・ω・`)『……』

     某友人『……』

  (`・ω・´) 『弁償な』

     某友人『チーズケーキもついでに買おうか?』

  (`・ω・´) 『美味しいのな!!』






   (´・ω・`) 偶には奢らしても罰は当たらんでしょ
   




[25323] 第九十六話『番外編:ムシャクシャしてやった 反省する(IF)』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/20 12:35





 とりあえずクロスオーバやるよ。まず如何してこれにしたかって言う……理由? ……後書きで言うよ













 第一作目クロスオーバー副題『極悪のカルネヴァーレ』


 世紀末によって世界は核戦争を勃発した。

 それによって海は枯れ、大地は裂け……と描かれているが本当に世界中がそうであったのだろうか?

 修羅の国と彼らが奮闘する大地の境目には海は存在していたし、各国でも荒地が多く広がっていたが他国は核の猛威
 から逃れる術を本当に持ち合わせていなかったのか? と言われると、確かにそれは妙だと言える。

 今回は、もしも核の猛威からイタリアが逃れていたら? と言う『IF』から物語りは始まる……。









 「……まいった……完全にはぐれた」

 おーい、アンナ!! と怒鳴りつつイタリアの雑踏で叫んでいる男がいる。

 道中を通り過ぎる人々はその男を敬遠し大回りで避けてその男を恐々と横目で見つつ、横を抜ける時は足早になるのだ。
 その風貌を見れば通行人達の反応も理解出来る。悪魔か死神かをモチーフにした鉄仮面。触れれば貫きそうなトゲのショルダー。
 そして服装の大半は血のように赤いのに、鼠径部は白いブリーフのように覆われていると言う、何とも文章に困る格好をしている。

 ……男の名はジャギ。……何故イタリアに? と言う疑問は置いてきて貰いたい。
 

 「……ったく、観光で来てる訳じゃねぇんだぞこちとら……。直にバイクの点検終わらしたら出発すんのによ」

 どうやらジャギとアンナは二人で旅をしているらしい。

 その目的はさて置き、何故はぐれたのか? と言う部分からまず説明させて貰おう。

 バイクで大陸を旅するジャギとアンナの二人組。どちらも時にはカップル、時には喧嘩をしつつもようやく訪れた
 二人だけの幸福を噛み締めつつ旅をしていたのだ。

 だが、バイクは人間とは違い壊れ易い、二人とも旅をする上で修理に関する知識は十分備わっていたのだが如何にも
 器材が足りない。それは知識だけではどうにもならない人工の摂理と言う奴だ。

 最近如何にもエンスト気味な事も考慮に入れ、何処かで一度ちゃんとメンテナンスを受けるべきだとアンナに一足早く提案
 され、イタリアの大地を走行中この場所へと一先ず訪れたのだ。







                                 ……ベルモントに……






 「……ジェラードとか、ピザとか、パスタとか……まぁ、最近観光なんぞさせてやれなかったけどよ。俺の事すら蚊帳の外
 で見て回ったりするのはちょっと如何かと考えるよな……?」

 既に心配を通り越して怒りを覚えているジャギ。一応加減はしているが世紀末を生き抜いて成長している気は如実に怒気を
 ジャギの体から昇らしている。……下手したら警察を呼ばれそうだ。

 「……っと、危ねぇ、危ねぇ……此処で騒ぎ起こした『また』一騒動起こすぜ」

 ……『また』と言う言葉が非常に気になるが、訪れる町一つ一つで一悶着が起きそうな運命を昔は背負っていたのだ。
 よってもはやはぐれたとかそう言う類は御免なのだが、これも一つの運命なのかも知れないと諦めつつ通りにアンナの
 特徴であるバンダナを巻いた金髪の女性がいないかと観察してみる。……だがこれと言ってそう言う特徴の女性はいない。

 「……しっかし自動機械人形(オートマタ)なんざ……。……『前の世界』でシンが見たら喜ぶだろうな」

 通りで行き交う人間に混じり、一見すれば人間にしか見えないが、『気』を発してない通行人がちらほらとジャギの目には映る。

 このベルモントと言う場所では如何やらオートマタと呼ばれる歩く人形が特色らしい……ジャギにはさっぱり理解出来ないが。
 
 「……『俺』の世界でもこんな技術は無かったぜ。……いや、こう言う技術力が世界にはあったのかもしれないけどな。
 俺の住んでいた場所は完全に井の中の蛙だったって事かも知らねぇし……」

 ぶつぶつと呟く強面の男に近づくオートマタも人間も存在はしない。やけに開かれた場所でジャギは自身の思考を整理する。

 「……っといけねぇ。……アンナを早く見つけねぇと……」

 そう考え腕を組みつつモーゼの如く勝手に離れていく人の間を通りつつジャギはアンナを捜すのである。……因みに腰には
 今は散弾銃は無い。……ベルモントの関所で既に危険物として預かって貰っているのだ。









 「ふっふ~ん。一度イタリアで思いっきりピザを食べたかったんだよね!」

 ジャギとは反対の場所で、ご機嫌な様子で丸いピザを食べている活発な女性が居る。……その名はアンナ。遠い昔は死兆星に
 囚われ死した者だったが、今はジャギの妻として念願の夢を叶えている途中だ。

 「……けどジャギとはぐれたから怒ってるかも…………まぁ謝ったら許してくれるよねぇ!!」

 あっはっはっはっは! と豪快にアンナは笑う。何事かとアンナに注目する視線すら気にせずアンナはピザを食べきると次は
 何処を見て回ろうかとアンナがうろうろと辺りを見渡していると、余りにも気を浮かれていた所為が転びそうになる。

 「とっ、とっ、とっ、とととと……!?」

 そして背中から倒れそうになったのを、一人の冷たい腕をした感触がアンナの背中を支えた。

 「大丈夫ですか?」

 「あ、ど、どうも有難う」

 そう笑顔で支えてくれた人間……いや、オートマタを見た。

 ……そこに居たのは太陽に映える美しい緑色の髪をツーテールに纏めた美女。そして瞳は月長石であった。

 (……オートマタだ)

 この都市を訪れた最に誰かから、この都市は自動で動く人形が居る場所なのだと説明された。だが、間近でこう見ても本物の
 人間と何の遜色も無い。感心を覚えたアンナ。然し何故かその瞬間自分を支えていた重力が消え、地面に背中を叩かれる結果へ到着した。

 「ゴフッ!?」

 中途半端な位置で支えられたお陰が怪我は無いが一瞬息が止まり変な悲鳴を上げたアンナ。そして支えた手から力を無くしていた
 そのオートマタはと言うと、一瞬呆然と倒れているアンナを見ていたが、直に我に返り焦った様子でアンナを起こすのを手伝った。

 「も、申し訳有りません……! ……お怪我は無かったですか?」

 「あはは……大丈夫、一回ブレーキが貴方のお陰でかかったから無傷、無傷」

 飛び跳ねて自分が元気である事をアピールすると、そのオートマタは安心したように笑みを浮かべた。

 ……この都市のオートマタとは人間に対し服従する存在である。

 例外も有るがこの人形も『特例』以外では人間に対しは服従している。……ましてや観光客に関して反抗する等以ての外、
 アンナの服装は異国から来たと解る服装であった。ゆえにオートマタの彼女は瞬時にその存在には他のオートマタと同じ
 態度で接すれば問題ないと判断していたのである。
 
 その彼女が何故迂闊にも観光客のアンナが転ぶのを止めれなかったのか? ……これは彼女の容姿が自身の最も感情を
 向けるべき相手に酷似していたから……。すぐにそれが他人だと理解出来ても一瞬感情の揺れ幅を制御出来なかったのだろう。

 「いえ、ですが不手際を起こしたのは私の責任です。如何かでしょう? あちらで私共が公演している『人形曲馬団チルチェンセス』
 に宜しければお越しして下さいませんか? 勿論代金は無料です」

 「チリチエンセス?」

 「チルチェンセス……サーカスで御座います」

 「サーカス! 面白そう!」

 キラキラと瞳を輝かせ期待の表情を浮かべるアンナに、その女性は人当たりの良い笑みを浮かべつつも、如何もこの観光客が
 苦手だと思い始めていた。……それは在り方等を超えた因縁的な意味合いで彼女の存在が自身の恋仇に似ているからだ。

 「……ぁ、でも駄目だ……」

 「何か不都合でも?」

 「今点検しているバイク直したらすぐに旅に出るって言ってたからなぁ……。御免! 後で行けたら行くけど、ちょっと
 ジャギに許可貰わないと後で大目玉食らうし……」

 そう眉を下げて両手を合わせる女性に、本当に、何故かあの娘を思い出すと、その緑色のオートマタは苛立ちに似た感情が
 芽生え始めていた。……けれどそれを顔に出しはしない。それ位の分別は付いている。

 「では、気が向いたら私共のサーカスにお越し下くさい。……私の名はルナリアと申します。名を言って下されば直に」

 「有難う! 私の名はアンナ! きっと行けたら行くから!!」

 そう元気良くアンナはジャギを捜し道中を逆走した。……太陽の影でルナリアの表情がアンナの瞳に良く写らなかったのが
 救いであろう。その名を告げた時、戸惑いとも、嫉妬とも取れる表情をルナリアは浮かべ、そしてアンナが消え去った後呟いていた。

 「……アンナ?」

 ……あの娘に良く似てて……しかも同じ名前……あの人の側に居る……。

 「……如何でも良いわ」

 あの娘の事は忘れよう……。高性能であるオートマタのルナリアは、記憶の中から今のアンナの姿を消去すると公演の場へと
 戻り人形劇に耽る。……人形である事をただただ忘れるかのようにだ。










 
 『……迷った』

 ……その時、ジャギは迷っていた。……限りなく迷子に近い状態で、如何にも怪しい路地裏に立っていた。
 アンナを捜す為ならばどんな場所であろうと捜索する。その姿勢は認めるが、見当違いの場所へ行くのは如何な物だろうか?
 そんな彼は呟いた瞬間、別の声が自分に被さっている事へと気付いた。
 
 「……あん? 今俺と一緒に誰が呟いたか?」

 ジャギは声の方向へと振り向く。……僅かに昇っている警戒の視線。……そしてジャギは本能的に建物の影に居る者が
 真っ当な人生を歩んでは居なさそうだと告げた。……最も当の本人も碌な人生では無い気がするけども。

 ……無言で現れたのは……男だ。

 灰色で生えるに任せた感じで伸びた髪の毛、そして口元には煙草。黒いスーツにネクタイであり、目つきは険しい。
 ……その視線は警戒を帯びた目つきでジャギを睨んでいる。……ジャギも仮面越しにその視線を受け止める。

 「……何者だ、てめぇ?」

 「……そっちこそ何者だ? ……ここはオルマ・ロッサの縄張りだ。……その成りでただの観光客って訳でも無いだろ」

 (……この都市の住人か? ……だけど普通の人間ではねぇな。……一瞬でも殺気向けたら一気に爆発しそうな気配持ってやがる)

 そうジャギは判断しつつ、自分の事をどう説明すれば良いか思案に暮れる。

 自分は余所者。だからこそ下手に刺激して厄介事に巻き込まれるのは馬鹿らしい。
 だから一番ベターな言葉を選ぶ。……それが事態をややこしくすると知らず。

 「……女を捜してる。……連れだ」

 「女? ……俺も捜している。……此処に連れられたのか?」

 「いや、何処に居るかわからねぇからこの辺り一体草の根を分けて捜してる所だ。……何処行きやがったんだ、アンナの奴……」

 ……この発言が間違った。言ってしまえば、ニトロにマッチを放り投げる位に不味かった。……完全に地雷を踏む発言だった。

 「……アンナ、だと?」

 その瞬間、その黒スーツに身を包んだ男の気配は獣のソレへと変わっていた。
 
 一瞬にして戦闘態勢に陥った男へと、反射的に『羅漢の構え』を繰り出し構えるジャギ。……スーツの男は呟く。

 「……貴様、答えろ。……誰の差し金だ? ……アンナを捜してる理由を十秒で答えろ。……でなきゃ」

 「あん? ……てめぇもアンナを捜してるのか?」

 「……そうだと言ったら?」

 そう馬鹿にした笑みを浮かべる男。……だがそれも不味い。その態度は二度と愛する女性を傷つけないと誓っているジャギ
 には逆鱗へ触れる態度である。ゆえに、昔、昔に虎へと放ったのと同質の覇気を叩きつけつつ男へ言う。

 「……てめぇこそアンナを如何するつもりか話せ。……でねぇと此処で八つ裂きにしてやる……!」

 「八つ裂き? ……面白い……っ!」

 そして、正に激闘が始まらんとしていたその時! 一つの通り道から声が響いてきた……。



                                 「おーいジャギ!! 此処に居たの!?」

                                 「ロメオ様~!! 大丈夫ですか~!?」



   『アンナ! ……あっ……?』

 ……何かが可笑しい。……そう先程よりも殺気を削ぎ顔を見合わせる二人。……そして事態は収束される方向へ向かう。
 ……因みにその二人へと走っていた、黒いジャケットでバンダナした女性と、そしてメイド喫茶のような服を着こなしている
 女性。……どちらも同じ名前であるアンナは何処で出会ったのか? ……それを詳しく話さなくていけない。

 






 

 「……ジャギ、何処にいるんだろう? ……人が異常に離れている場所があればすぐに見つかると思っていたんだけどなぁ」

 ルナリアから離れ数十分、疲れつつ人込みから少し離れた場所で溜息しつつジャギの行方を憂うアンナ。

 (第一ここって広すぎるんだよね。もう少しこう交通状態を良くすればこんな風に迷子になる事もないのにな……さっきも転びそうに
 なったのはそれが原因だし、と言うか転んだし。……余所見していたらこんな場所って絶対に)

 「ど、どいて下さい~~~~!!!??」

 (そうそう、あんな風にぶつかってくる人があらわれ……へ?)

 ……瞳と瞳がかち合う。買い物袋を提げた女性が自分に向かって危なげな足取りで飛び出してきた。そして思考してて油断してる状態。
 どちらも自分では如何しようもなく、ゆえにそれは紛れも無く起きる現象。

 
                                    ドシンッ!!


 「……~っ……今日は、厄日……だよ」

 「だと、アンナさんは思いますぅ……」

 金髪の二人の女性がもつれ合い倒れこんでいるシュールな光景が街角で生み出されたと言う訳だ。

 



 「す、すいませ~ん! 怪我は無かったですかぁ~!?」

 散らばった食材に囲まれつつ、少し涙目で謝罪するは金髪の髪、紫水晶の瞳、そしてメイド服と言ういでたちのオートマタ。

 「はっはっは! これ位世紀末の猛威を抜けきった私には屁でも無いよ!」

 それを鼻に絆創膏が貼られてるような感じで手を上げつつ自身の強さをアピールするアンナ。……元気だ。

 「けど本当にすいませんでした~! ちょっとぼうっとしちゃってて」

 「良いの、良いの本当に。私も普段なら避けれたんだけどなぁ。……貴方もオートマタって奴?」

 人形の瞳が宝石である事に気付き、アンナはそう尋ねる。

 そのアンナの言葉に、もう一人のアンナであるオートマタの女の子は元気良く答える。

 「はい! 私、オートマタのアンナと言います!」

 「……ほへ? ……アンナ……いや~、それは、それは……あっはっはっはっは……」

 「へ? ど、どうかしましたか~!? やっぱりさっきぶつかった所為で頭を打っちゃったとか!?」

 「何気に毒舌だね」

 ……こう言う経緯で自己紹介を済ませた二人。……まぁ世紀末の方のアンナが名前を告げた時、オートマタのアンナのテンパリ具合
 がまた凄かったか省いておく。……物語が進まない。


 「……いや、けど御免ね。わざわざ捜すの手伝って貰っちゃって……」

 「いえいえ! アンナさん、人様に迷惑をかけたらお詫びはきちんとするようにきちんと命じられてますから!」

 「ふ~ん……そのロメオって人に?」

 「……だったと思いますっ!!」

 「いや、覚えておこうよ、そこは」

 突っ込みがてらチョップを繰り出すと、きゃうんっ!? と鳴きつつオートマタのアンナは額を押さえる。
 ……いじりやすい子だなぁと、世紀末のアンナは、意外に固かった額の感触に手をぶらぶらと揺らしつつ思考した。

 そして歩き詰めること数時間、その間も珍道中はあったと思うが、それは置いときつつ、その時オートマタのアンナは言った。

 「あっ、此処は入ったら危ないですよ! この前ロメオさんが言ってました」

 「え? 如何して?」

 「確かまふぃあが此処をシマにしてるってロメオ様が言ってました! だから入ったら駄目なんです!」

 その言葉に目を細めてその路地裏を眺める世紀末のアンナ。……確かに何と言うか世紀末の時と似た危険な気配がその場所
 には流れている気がする。……けれども。

 「でも、こう言う場所さがしていそうだからなぁ~、ジャギの場合……」

 「けどアンナ様を危険な目にはアンナさんは遭わせる訳には行かないんです! アンナさんはアンナ様を何としてでも
 この道に入らせないとアンナさんは決意します!」

 「問題! 今、最後に指したのは私でしょうか? それともアンナちゃんでしょうか?」

 「え? えぇっと……」

 「隙ありぃっ!!」

 「……ぇえと最後に決意するのはアンナさんですから……って、ああ!? アンナ様~! 駄目ですってぇ~~~!!!??」

 






 …………。








 「……それで、殺気がいきなり昇ったから俺の居場所が解ったって事か?」

 「そう言う事! ……痛たた……。ジャギ、もう少し拳骨は優しくしてよぉ」

 「すぐに済むって言って数時間もはぐれる奴に優しくする覚えはねぇよ! ……ロメオ……だっけか? ……悪かったな」

 「……こっちこそな」

 誤解を何とか解き、疲弊した表情でどちらもおなざりながら謝罪の言葉を述べる。

 お互いの大事な者の肩をしっかり掴みつつ、反対方向へと去ろうとしていた。

 「えっ!? もうここ出ちゃうの!? 折角アンナちゃんとも仲良くなれたのに~!」

 「んなもんひとっ走りあそこを壊滅してから又戻ってくりゃいいだろ!」

 「そう言うの横暴でしょ! ジャギなんてジャギーになっちゃえばいいんだ馬鹿ー!!」

 「意味がわからねぇよ! ジャギーって何だ! ジャギーって!?」

 そう怒鳴りあう二人に、喧しいと思いながらロメオは見ている。そして、肩を抱かれるオートマタのアンナは満面の笑みで言った。

 「二人ともとっても仲良しなんですね!」

 『何処が!』

 そう同時に振り向く二人に、ロメオは思わず「ぷっ」っと軽く吹き、そして我に帰り口元を抑える。

 それを嬉しそうにオートマタのアンナは見上げ、不貞腐れたように二人へ別れを告げてロメオはアンナを連れて去った。

 「アンナさんと又会えたら良いですね! ロメオさんっ!」

 「……そうだな」

 だが、肩を抱きつつも、ロメオは先程の対峙の感触の名残を忘れてない。


 (……あの男……人狼では無いが異常な殺気を持ち合わせていた。……触れられたら間違いなく死ぬと思ったのは初めてだ。
 ……人間である事は間違い無さそうだが……一体何者だったんだ? ……いや、考えても仕方が無い。……もしも)








 

 「あ~あ……、……さよならパスタ、さよならピザ、さよならジェラード、……さよならアンナちゃん、ロメオ……」

 「……普通、其処は最初に友人の名前上げるだろ」

 バイクに乗りつつ不貞腐れた表情のアンナを撫でつつ、ジャギも考える。

 (……あいつ、ただの人間じゃ無さそうだ。……まるで昔ジョーカーの生体兵器を相手にしてた時のような……。
 ……いや、そんなの今度会った時にでも知れば良い。……もしも)

 二人はどちらも境遇は違う。だが、どちらも同じ思考に最後には辿り着く。

 人狼と邪狼。どちらも互いの境遇は合わさる事は無いが、思考は似通っていた。




  





                  『もしも俺達を邪魔する(ってん)なら……俺の牙(拳)で立ち向かうまでだ』














       後書き


  元ネタ ニトロ+ 『月光のカルネヴァーレ』


    某友人『とりあえず月光のカルネヴァーレでクロス書いてね(笑)』

   (;・д・)『え? 俺未だ借りてない奴だよね、それ』

    某友人『ネットで検索すればだいだい書けるって(笑)ニトロ+だけど鬱ゲーじゃないし(笑)』

(((( ;゚Д゚)))『いや! だから設定資料も無いし無理無理……』

    某友人『チーズケーキ奢ったじゃん(笑)』

    ( ゚д゚)『……』

    某友人『大丈夫!(笑) ヒロインの名前が一緒って言う共通点あるし!!(笑)』

    (。・д・)『いや、だからきつ……』

    某友人『それじゃあこれから夜まで延々電波ゲーの素晴らしさについて語るか! 狂った果実、終の空、くるくるファナティック、SWAN SONG……』

    (つД`)『出て行ってくれ、書くから……』






   


       ……書き終わった後







      某友人『それじゃあこの勢いで他のニトロ+の作品も(笑)』

      
    (`・ω・´) 『出来るわきゃねぇだろおおおおおおおおおおお!!!』


 

 







[25323] 第九十七話『闇色の真実 そして目覚め』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/21 13:39
  

   亡者達は怯えていた。何時も自分達がその人物の語り部を聞こうとする時は大体その人物は不機嫌なのだが、
 今日は何時にも増して、触れれば魂まで切刻まれそうな気を静かに地面にだらしなく座りつつも発していたから。
 
 その怒気、殺気、覇気とも取れぬ危険な気を放つ男は、隣に咲かれている花の花弁を一度指で撫でてから話し始めた。

 「……前に言ったか覚えてねぇが……。俺は北斗神拳伝承者の毒として迎え入れられた。……奴は最後までそれを言わなかったがな」

 「……そんでよ、奴等と競い合う前に俺は訳解らぬままに何処かに連れて行かれ……似たような理由で連れてこられた
 奴等と闘い抜いて一番になって……兄者二人と、あの野郎と一緒に北斗神拳伝承者になる事を正式に認められた」

 「……小僧の書物が何故か俺の前に現れたお陰でな。……大体カラクリが解けたんだ。……伝承者候補って奴の」

 「……三国志の時代……三人の英雄を守護するって言う下らない理由の為に分派した北斗三家拳が有った……」

 「北斗劉家拳。……『正式』な北斗神拳伝承者が居ない場合、此処が『天授の儀』によって伝承者を選んでいた」

 「北斗曹家拳。……北斗神拳に匹敵する『剛』の拳を持ち合わせた拳……、伝承者の認可を受けるには先代を殺害しなければ
 いけない儀式があった。……南斗鳳凰拳とほぼ内容は同じだ。……五叉門党って言う伝承者を守り抜く集団も有った」

 「そんで北斗孫家拳。……奥義は『狂気』であり、正式な北斗神拳には決して勝てぬと言われた拳法。……今小僧が扱ってる
 のがこいつだ。……此処でよ、お前等何か不思議に思わないか?」

 「へ? え、えぇっと……」

 「あっ、そうか! あんたの兄弟達四人に当て嵌められるって事だろ!」

 そう、少しだけ勘の鋭かった亡者が叫びつつ答えを出すか、鼻息と共に鉄仮面の男の言葉に沈黙する。

 「んな事言わなくたって解ってる事実だろうが? ……正解は、『何で拳質がこれほど合致した伝承者ばかり集められたか?』
 って事だよ。……考えてみろ、兄者達二人、そして俺、そしてあの救世主……ケンシロウに今の俺の話しを当て嵌めてよぉ」

 最後の人物の名を上げる時には怒気と殺気が篭もっていたが、何万年が経ってる今となっては一応語り部を破綻する程
 に感情のままに暴れるような真似はしない。……亡者達が悩んだままなのを暫く眺めてから、男は自ら答えを出した。

 「……北斗孫家拳は俺に似た小僧。北斗曹家拳はトキ。……そんで北斗劉家拳の力をラオウが受け継いでるって事だよ」

 「え? で、でも可笑しくねぇか? トキって奴は『柔』の拳の使い手で……それにそのケンシロウって奴は……」

 「何も可笑しくねぇんだよ」

 そう一言で亡者の言葉を切り伏せ……そして複雑な感情を乗せつつ言葉を紡ぐ。

 「……北斗曹家拳の使い手張大炎は師父を倒さんが為に『柔』の奥義を編み出した。……奇拳と称されたが、その力をトキの
 兄者はどう考えても受け継いでるとしか思えねぇ。……天帰掌一つ取っても、肉体を操る秘孔を取ってもな……そして」

 そこで少し区切りを入れて、亡者、そして聞き入っていた鬼に目を配らせてから一言でその言葉を吐き出した。

 「……始祖である北斗神拳を……ケンシロウは受け継いだ。……要するに、……奴が伝承者になるのは予め決まってたんだよ」


 











  「……痛っ」

 視界を空けると暗闇。……そして自分を圧迫する硬い肉体の感触。

 一瞬この状況は何なんだと考え、そしてようやく理解すると、空いた空間へと思いっきり拳を叩きつけ、……ポットを壊した。

 「うっ! 眩しい……結構、吹き飛ばされたぜ」

 何処に着陸したか知らぬが、一応無傷で着陸出来たのは幸い。

 かなり遠くまで飛ばされ、そして意識を失っていたのは太陽の位置から読み取れる。
 こんな場所でのんびりしてる場合じゃねぇなと結論つけると、ポットで未だ眠る……気絶しているジュウザへと怒鳴る。

 「おい! もう起きる時間だぞ、おい!」

 「……zzz、と、トウもう喰えねぇ……」

 「何だその寝言はぁ!?」

 散弾銃の柄で頭を殴りつけ強引に叩き起こすジャギ。『イタッ!?』と悲鳴を上げて起きたジュウザは、未だ寝ぼけ眼で言った。

 「……あれ? トウは? 目の前に並ばれた豪華な料理は?」

 「夢だ馬鹿。……さっさと元の場所に戻るぞ。……ったく、足のバイクも無いから何処かで見つけねぇと」

 苛々とした口調でジャギは呟く。……辺りを見渡せば、元は川であったのだろう場所にポットが挟まれるように着陸してある。
 転がって挟まったかともかく、とりあえずは歩いて何処か村か町でも探さないとと考えていた時、
 ジャギの視界には目を疑う物が飛び込んできた。……そしてジュウザが起き上がりジャギの様子が可笑しいと気付き声をかける。
 
 「うん? 如何したジャギ?」

 「……何で」

 「……ありゃ寺院だな、少し崩れてるけど。……あ、でも助かったんじゃないか? あそこなら何かあるかも……って、おい?」

 走り出すジャギ。それを慌ててジュウザは追いかける。

 仕切りに建物の外見を眺めてから、そして今度はジュウザの横を通り抜けジャギは逆走する。

 「お、おいおい如何したんだよ本当に? まるで気が違った見たいに……」

 そこで言葉を途切る。……ジャギが一つの人為的に建てられた石の前で座り込んだからだ。

 「墓石か? ……う~ん、でもこの大きさだと動物とか埋めたって感じだな。……一体何の」

 「ココ」

 「うん?」

 「……此処には、兄者が飼っていたココって言う犬が居たんだ」



                                 『ココ  眠る』

 
 長年の時間と風雨で掠れつつもしっかり刻まれた墓石の文字。それに頷いてからジュウザは言葉を放つ。

 「ふーん、って事は此処ら辺にお前の兄貴が住んでたのか? へぇ~、此処が故郷」

 「違う……、兄者は伝承者候補になる前に寺院でココを飼っていて……そんで狩人にココを殺されたんだ」

 「じゃあ何も可笑しくねぇだろ? あそこに建っているのが北斗の寺院……うん? あれ? ……ちょ、ちょい待て」

 「そうだ」

 今や汗を流し、ジャギは青褪めた顔で言葉を振り絞る。

 「……寺院は核による衝撃で崩壊したんだ。……じゃあ、あそこに建てられているのは何の寺院だ? ……決まって、やがる」










 




地獄で男は座りつつ、自身の推測と感情を尽きるまで話し続ける。

 「何故、その原作と言える回想部分に居た北斗の他の修行者が全員居なかったのか? 何故過去の修行風景と、俺が北斗神拳
 伝承者候補として修行していた風景が合致しそうにも無いのか? ……簡単な事だ」








                              『北斗の寺院は二つあったって事だ』











 「……い、いや待てよ。如何して寺院が二つも建っているんだ? ケンシロウもそんな事一言も言ってなかったぜ?」

 「……俺は、ケンシロウや兄者達に過去の話しは聞いてない。……けどこんな重大な事を話さなかった訳が無い。
 ……となると考えるのは……親父がその時の記憶を都合良く改造した可能性が高いって事だ」

 「リュウケンが? ……それは考えすぎじゃないかジャギ? ……第一何のメリットがあるんだよ。そんなの」

 「……行って見ようぜ」

 ジャギは立ち上がり、その遠くに建てられた寺院を睨みつけながら言い放つ。

 「……そうすりゃ全てが解る」










 
 「……俺は、過去の記憶ってのが如何も曖昧だったんだ」

 「……俺は最初よ、そんなん当たり前だ。毎日が嫌気の差す生活だったから忘れてぇと体が思ってるんだろって納得してた。
 ……けど死んでから如何も可笑しいと思ってた。……伝承者候補になってから奴等と修行する前の記憶がよ……すっぽり
 と抜け落ちていたと気付いたんだよ。……だからようやく……あのリュウケンって野郎は相当な古狸だって気付いたんだ」











 ……寺院の内部は薄暗く蜘蛛の巣も被り、相当長く使われてないのが見て取れた。

 「……陰気臭いな。……寒いし、お化けでも出そうで嫌な雰囲気だ」

 そう体を抱きつつ茶化した口調を上げるのはジュウザ。……本能的に体がこの寺院の空間を拒絶してるのかも知れない。

 「……ほとんど俺と兄弟が修行してた内部と同じだ。……いや、あそこは少し違うな。……奥に行くぞ」

 「うへっ……俺、こう言う所は苦手なんだけどなぁ~」

 意識的にジャギの後ろからノロノロとジュウザは呟く。……ジャギは奥まで進み、そこに壁が立っているのを見ると手を当てた。

 「行き止まりだろ? そろそろ帰っても良いと俺は思うな」

 「……隠し通路だな。……何で親父はこんな物を」

 強引に壁を壊すジャギ。……壁は既に老築化して脆くなってたのか簡単に壊れる。……其処にあったのは驚くべき物。

 「……これ、全部書物か? ……!? お、おいこれって……っ!?」

 「……北斗」



                                「……北斗神拳に関する……書物」












  「……何故、北斗神拳は長く2000年もの間一子相伝と言う拳法である筈なのに続けられたのか?」

 「……2000年もの間本当に秘匿出来たのか? 本当に秘拳として守りぬけたのか? ……そんな長い間に不測の事態が
 起きないなんて不可能だろうが。……だからこそ考えられたのよ。北斗の伝承者ってのは小賢しくもな」












 「……そう、か。理解出来る」

 「何かだ?」

 「……この寺院は、『裏』なんだ。……俺達の修行場であった北斗寺院は『表』だったんだよ」

 「おも、て?」

 混乱しているジュウザに、丁寧に昔の頃のような話し方で説明する。

 「もし北斗伝承者及び、北斗伝承者候補に万が一危険が迫り全員死ぬような最悪の事態が起きたらどうするか? ……此処は
 そのバックアップ……要するに新たに北斗神拳を身につけられるようにしておく最終手段として造られていたんだ。
 ……ただ個人で口伝と体得だけでは何時闇に葬られるか解ったもんじゃない。……だから此処に北斗神拳の書物を保存してた」

 「……リュウケンはこれを教えるつもりだったのか?」

 「……多分これを知ってるのは北斗宗家でも一握りの人間だった。……恐らく絶対の影……表舞台に決して日の目を見ない
 人間しか知らない筈だ。……親父」

 ……考えれば最初から違和感があった。

 トキに飼い犬が居ない事。そしてラオウの既に拳を半ば会得していた動き。……ケンシロウの、突然の来訪にしては直に
 寺院での生活に慣れていた事。……細かい部分で違和感は多数存在していたが、まさかこんな真実だったとは……!


 「……けど、まあ可笑しくもないよな? 南斗だっていざって時に拳法に関する書物は残してるんだからさ」

 「……本当に、この寺院はそれだけの為に造られたのか?」

 「何?」

 「……それでは可笑しすぎる。……なぁ、ジュウザ。俺は兄弟と修行していた時、他の修行者をほとんど見ていないんだ。
 時折、祈りを上げている僧や、親父が一人連れてきて、半年かそこらで破門した同門を除いては」

 「……どう言う事なんだ?」











 「そう、俺は突如伝承者候補になったにしては、北斗神拳伝承者になれなかった者の末路に関して良く知っていた」

 「……拳を封じ、記憶を失くす事すら、北斗神拳に関しては重要な秘匿に近い情報なのに……だ。……幾ら俺が北斗神拳伝承者候補
 と言えども、そいつは如何も可笑しい。……正式に北斗宗家の血脈を受け継がぬ俺が何でそんな情報を得たのか……その答えがある」










 「……地下に通ずる入り口だ。……此処だけ空気の通り道がある」

 「うへっ……、俺、こう言うホラー映画な展開って苦手だわ、やっぱ……」

 「……研究所の洞窟はどうなんだよ?」

 「あれは冒険って感じだったろ? お化け屋敷の捜索ってのは違う」

 その言葉に呆れつつ床を取り除く。……漏れ出る冷気が薄暗い地下から流れてくる。……入る物を拒むかのように。

 「……先に行くぜ。……別に待ってても良いんだぞ?」

 「え、そうか? それじゃあどうぞ」

 とても嫌そうな顔をしていたジュウザにジャギは呆れつつ溜息で返答一つ、……その階段を下り始めた。

 ……冷気の密度がだんだん上がる。……まるでジャギが入る事を拒むかのようにその冷気はジャギの肌を突き刺していた。



                       ヒキカエセ      マダ モドレルゾ?



  
 そう幻聴が目の前から現れる。……自分の仮面と同じ物が暗闇に浮かびながら黒い炎を纏っている幻覚まで現れていた。

 (……そういや、『前の俺』もケンシロウに頭を割られかけた時に見た死に神だが悪魔ってこのヘルメットと同じだったんだよな)

 「どけ」

 そうジャギは一言吐き捨てる。……その幽鬼は馬鹿にするような憐れむような笑みを一瞬浮かべてから消えた。……扉が現れる。

 ……そして、ジャギは扉を開けてその部屋へ進入した。










 
 「……何人も殴り、蹴りつけ……血の水溜りに立っていたのは俺だけだった」

 「その時に拍手する音が上ってた。……見てみれば、あの糞野郎が拍手して頷いていた。……俺が『どうだ?』と言うと、奴は
 『良かろう』と言って……後は曖昧だな。……気がつけばあの三人に伝承者候補だって糞野郎が紹介していた」

 「……あの殴り、蹴りつけられた他の奴等は、その後生きてたのかな? ……まぁ、死んでも如何でも良いけどよ」










 ……その部屋は……まるで消毒液でもかけたように匂いも、気配も、色も、何も無かった。

 ……一面が真っ白な床と壁。……ただ割れた地面から薄っすら差す光だけが暗闇であった筈の部屋を照らしている。
 
 ジャギはその部屋が怖かった。……前は『屍で埋め尽くされてた』ように、その部屋には死の気配が充満してるのが感じ取れたから。

 (……何なんだこの部屋は? ……親父は何を……この部屋で……)

 



                                ……シリ    タイカ?


 
 その白い部屋に対照的な、黒い炎が浮かび、そのジャギの仮面が現れてジャギに問いかける。

 

                 ……『狂神魂』    ツカエ    ……何モカモ    ソレデ    解ル





 「……『狂神魂』? ……はっ、どうせ何か胡散臭い小細工でも俺にする気だろうが? ……そんな言葉で」


                          

                           ツカエ          真実ヲ     ……シリタケレバ



 「……真実」



                          ……真実                  ダ




 「……」



 ……ジャギの仮面が脱ぎ捨てられる。……青褪めた顔と、険しい目つきの中で感情と理性がぶつかりあっていた。

 ……そして、二つの指がゆっくりと……米神に触れた。









 
 ……次に視界を開けると、セピア色の中で、昔のこの部屋が映し出されていた。

 ……そこにはリュウケンが居た。……未だ若い。
 
 『……これ……でも駄目か』


 そこに居るのは十代にも満たぬ子供達。……怯えを混じった子供達に混じり、息絶えたように横たわっている子供もいる。

 『……見込み……思ったのだが……仕方が……記憶を』

 そして子供達の頭に秘孔を突く。……そこで場面は変わった。








 ……次に現れた風景では、暗殺者と言った服装の男達が、数人の胴着を纏った者達を殺し、リュウケンと対峙していた。

 『……これで……伝承者の者は……始末……』

 『残念ながら……それ達は全て影……お前達を誘き寄せる為の』

 『何? ……例えそうでも貴様を始末すれば…………北斗神拳現伝承者……消えろ』

 『……是非もなし』





 


 
 ……風景が未だ変わる。……今度は格闘家とリュウケンが対峙していた。……憎憎しげな顔でリュウケンを睨みつけている。
 
 『……何が……不満だ?』

 『不満? ……良く言う……我々を連れ出して置き……そしてただ捨てると?』

 『……伝承者としての資格が無い……失せろ』

 『……ならば受けて見ろ!……独り善がりが通ずる世だと思う……』


 十七、十八の堅強な若者達がリュウケンに飛び掛る。……話の内容から察するに拳を教わったが北斗神拳に相応しく無かったのだろう。
 ……それを指一本でリュウケンは流れるようにその者達を突く……男達は事切れて床へと倒れた。……息をしてない。

 『……愚かな……』








 ……次に映る景色には、……リュウケンの他に別の人間が話しこんでいた。……あれはコウリュウか?

 『……リュウケン……予言の子……生まれたようだな』

 『ああ……後……誰を……候補者にするか……だ』



                            ……親父   何を言っているんだ?


 
 『……修羅の国……二人を此処に……だが……もう一人を』

 『三家の拳質を持つ……もう一人は……やはり壷毒(コドク)で』

 『……私の息子が……候補者になる事を……主張してる』

 『ならば……』

 『私の息子だ……だが……いざとなれ……』




                              おや            じ……












 「……おいっ! しっかりしろジャギ!!」

 ……気がつけば、自分はその白い床に崩れるように跪いていた。

 「如何したんだよ一体……そんな絶望に満ちたような表情してさ」

 「……くだ」

 「あん?」

 「……『壷毒』(こどく)だ。……解るか? ……色々な毒虫を壷に入れて、……強い毒虫を作る。
 ……その毒虫を生贄に……一つの何物にも劣らぬ毒を創り上げる」

 「如何言う事だ? ……此処で何か行われたんだ?」

 「……伝承者候補の、真実だ」

 「真実?」

 ジュウザに手助けされつつジャギは体を起こす。……そして息切れしつつ答えた。

 「……親父は、最初っからケンシロウを伝承者にするつもりだったんだ。……俺達三人は、それを強くする為に選ばれてた」

 「……ここでは、北斗神拳を知り得た選ばれた者以外の人間が……記憶を封じられ、拳を封じられ……。もしくは親父の手で殺された」

 「……ここは北斗神拳の闇なんだ。……ここで親父の後を継ぐ者が決められ、そしてその為の贄が育成されたんだ……!」










 

 亡者へと男は既に怒気を薄っすらと込めながら語っている。……その怒りは暗く、何万年経とうとも消える事はない。
 男にも誇りがあった。その生き方は例え人から見れば恥じの塊であろうとも誇りが。……それに唾を付けた者を許せはしない。

 「……そうとも、ゆえに北斗神拳は最強と謳われる拳法として名を馳せた。……三人の人生を狂わせてだ」

 「で、でもそれだと普通気付かないか? 何か一人だけ格別扱いだって思われるだろ?」

 「あの糞野郎自身も、自分で秘孔を突いて自分の記憶を忘れさしたんだろ。……何をそんなに驚く? 暗殺拳なんぞ人目に
 出せねぇ物を作るんだ。自分の体をいじくり回しても目的を達成するなんぞ不思議でも何でもねぇだろ」

 「……あの伝承者候補になる前……俺は奴に秘孔でその真実を忘れ去られたんだ。……あの糞野郎め……っ!!」










 



   「……ジャギ……が、ラオウの憎しみが今なら解る気がする。……薄々見抜いてたんだ。……自分達の夢を相手が決して
 叶える気持ちが無かった事を。……だからこそ既に選ばれていたケンシロウに、その憎しみが全て向けられたんだ」

 「ジャギ……しっかりしろ」

 「何で俺は気付けなかったんだ!? ……気付いて、いれば……ラオウの怒りに気付いてやれば……シン……すまん」

 「ジャギ!!」


 そこで苦しみ体をくの字に折るジャギを無理やりジュウザは自分の方に向けると言った。

 「下らない事で一々悩んでるんじゃねぇ! 悩む暇があるなら、起きてしまった事を解決するのが先決だろうが!?」

 「……ジュウザ」

 「俺にはあんまりお前等の複雑な事情なんて知らねぇよ? けどよ……お前、俺の親友だろ? ……目の前で苦しむなよ」

 その言葉に、ジャギは激しく体に渦巻いていた苦痛や懊悩を一先ず鎮めた。普段決して見せないジュウザの激情と言葉に
 心打たれた事もある。だが……その言葉が正論ゆえにだろう。……『あのジャギ』もそう言ってたかもしれない。

 「……済まん」
 
 「良いって……、……これから、どうするんだ?」

 真面目な顔のジュウザに、ヘルメットを被り直しジャギは言う。


 「……ラオウへ、会おう。……止めなくちゃいけねぇ。……今まで憎しみしか抱いてなかったが……気が変わった」



 「……兄者も犠牲者だったんだ。……だからこそ、俺は言葉で何とか……止めてみせる……っ!」








    ジャギは決意する。……運命を最初から狂わされ、野望へと突き進んだ男に少しでも別の道を今から進ませられぬかと。


 正義の目覚め。……陳腐な言葉かも知れないが、狂わされたのが自分だけでは無かったのだと知らされてしまえばジャギ
 は見過ごせない。ただ野望に突き進んでいた一人が、自分の意思ではなく、人為的に既に決められていたと知ってしまえば。

 自分は未だ選択肢があった。……だが、兄は違う!

 ジャギとジュウザは寺院を走り出ると、付近の町へ出る道を探し始める。


    だがジャギは気付かない。……既にその狂わされた男は、後戻り出来ない場所まで既に到達しかかってる事を。



        




                       暗雲が立ち込める。……果たして二人の行く道に光は差し込むのか?





  



[25323] 第九十八話『復活 そして幕開ける戦争への動き』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/21 19:33


 ジュウザとジャギが何とかラオウの元へと向かおうとしている頃。

 そこはサザンクロスにあった城跡。KINGの手により崩壊した建物の残骸を必死に拳王軍は取り除いていた。

 「どうだ! 居たか!?」

 「いえ! 未だ半分も取り除けていません!」

 「さっさとしろ! ……ラオウ」

 必死で指示を飛ばしているのは拳王軍の軍師ソウガ。必死に埋もれた拳王を見つけ出そうと焦りつつ兵士に指示出す。

 レイナも必死で城の残骸を取り除きその姿は汚れている。

 そのソウガやレイナ等の見えない場所で怠けている兵士達もいる。既に拳王が死んだと思っている連中だ。

 「けっ……あんな派手に崩壊した城に埋められたら、拳王と言えど無事な筈がねぇだろうが」

 「まったくだな。……俺達も聖帝軍にでも寝返るか?」

 「馬鹿言え、殺されるか、殴られて断られるだろ」

 そう雑談を瓦礫の山の一つで話す拳王軍の暴力的な資質に憧れ入ったモヒカン達は、早くも拳王の死が絶対的であろうと
 決め付け、既に解散した後の事を話していた。




                                  ……ボコ


 「あん? 何か今音がしなかったか?」

 「てめぇの屁の音だろう? ケヶヶ! ……まさか俺達の瓦礫の下に埋まってる事もねぇだろ」

 「ヒハハハハ! そいつは受けるな! 俺達のケツの下で拳王が苦しく暴れてるってか! ハハハハハハハ!!」

 だが、その笑い声は長続きしなかった。音が聞こえたと思っていた、そのモヒカン達の座っていた間、それが振動したかと
 思った瞬間に、モヒカン達は青白い顔へと変貌する事になる。


                                    ボゴォッ!!!


 「ひぇええ!!??」

 「な、なんなん!!??」


  
                              「ぬううううううううぅぅぅん……っっ!!!!」



                              「ぬぁああああああああああああ!!!!っ!!」



 『け、拳王だぁあああああああ!!!』

 絶叫するモヒカン達の間を、丸太の様に太い腕が突き出し一人のモヒカンの頭を砕きつつ地面へ手をついた。

 そして勢いのまま頭を抜け出すと、もう一人の恐怖で青褪めたモヒカンの頭蓋骨も押し潰しつつ体の全身を抜け出し、こう叫んだ。



                             「この拳王に何人たりと唾吐く事は許さん!」



 
 その覇気は健在。周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら天へ木霊する声で宣言を下した。

 「ら……拳王!!」

 ソウガは喜びの声を上げ近づき跪く。

 「ソウガ!! 今の戦況は!!」

 無事か、そして怪我の事すら無言で圧し、ただ野望の為に関する言葉以外は許さぬと言外に含ませ言葉を上げるラオウ。

 それに『はっ!』と声を上げ跪き、ソウガは話し始めた。

 「サザンクロスの民、兵士及び聖帝軍へ参入。現在、陣を組み我等と抗戦の準備を整えております!」

 「サザンクロスの資源は!」

 「悪質! 残された重量兵器に関しは、脱出の際に全て修復困難までに破壊された模様! 全てにおいて同様です」

 「やはりか……! シンめ……やりおる!」

 直に軍勢を集合させる拳王。全てにおいて絶対的な力を超えに纏わせ荒くれも者共を纏め上げ整列させる。
 予想はしていたのか、既に近づいていた黒王号に跳び跨ると周囲を見渡しソウガへ尋ねた。

 「これだけか?」

 「はい……拳王が城の崩壊に呑まれた時に、数割が解散し野へと戻りました」

 「ふんっ……! 良い! これで如何ほどの忠誠を持ち俺の軍に入っていたが器が知れると言う物だ」

 黒王号を嘶かせ拳王は叫ぶ。

 「カサンドラ及び、我が命で支配していた村、町の兵を引き戻せ! これから聖帝サウザーとの軍に向け再編し直す!!」

 「では……っ!」

 その言葉に慄きとは違う、武者震いを声に纏いソウガ及び、拳王へと心から忠誠する者達は声を上げる。

 


                               「これより! 我らはこの地を完全に掌握する!!!」






 黒王号は嘶き後ろ足で立ち上がる。

 まるでナポレオンの如く拳をその状態で振りかざすラオウ。

 それに拳を振り上げ拳王軍は応える、応える。

                         目指すは聖帝軍、そして『将星』のサウザー。


                            





                                戦争が始まろうとしていた












 「……シンが……そうか」

 「……っこの私が……身代わりになっていれば……っ!」

 「シンはそんな事は許さなかったであろう。……何より、お前のように主君をそこまで想う人間がいて、シンも誇りであろう」

 そこに居たのは玉座に相応しい椅子に座り、疲弊したナリマンの言葉を憂い顔で聞くサウザー。

 隣にはシバ、シュウ、イザベラも共に立ちつつ聞いている。……リュウロウ、カレン等の軍の上に立つ者達も一緒だ。
 皆、シンの訃報に哀しみ、そして拳王軍の本格的な脅威に顔を厳しくさせている。

 「……サザンクロス軍師ナリマンよ。……此処までの道のり、ご苦労だった。……今は休め」

 「いえっ……私は平気です」

 「無理をするな。……今は休め、お前はこの国の大事な客人だ」

 そう言われ、聖帝軍の兵士に連れられナリマンは立ち去る。……暫くしてからリュウロウは言葉を上げた。

 「……どういたしますか? 今の兵力はサザンクロスの兵を併合しましても未だ拳王軍が有利かと。……『妖星』ユダに軍を」

 「ですが、ユダは拳王軍との内通の噂もあったのでは? それでは戦時中に兵達も思い思いに戦えませぬ」

 「サザンクロスの資源を奪われる事は何とか避けれたが、地形的に我等と拳王軍は五分。……小細工も無駄でしょうし……」

 「一気に残った近代兵器を使用しても、奴等も強健な肉体と量で攻めて来るでしょうしねぇ……」

 リュウロウの言葉を皮切りに、様々な案を兵が出し、そして却下されていく。数十分議案が続かれたが、サウザーが手を上げると
 同時に兵士達の声が止まる。……全員の意識が向けられたのを意識すると、サウザーはゆっくり口を開いた。

 「……此処は機転を回し、古来からの風習で拳王と決着をつけるべきだと、俺は思う」

 「古来……それはもしや」

 リュウロウの言葉に頷き、サウザーは続ける。

 「ああ、やはり一騎打ちしかあるまい……」

 「そんな!? 我々の軍は士気で満ちております! 拳王軍の大半は野獣崩れの統率なき者ばかり! 我々でも……」

 カレンの威勢良い言葉に、サウザーは首を振る。

 「それでも兵の犠牲は免れぬだろう。……何より拳王自身、例え一人であろうとこの地を掌握出来ると考えている。
 ……奴ならばそれに値する力は持っているのだ。……それに」

 其処で一旦区切り、サウザーは皆に安心させるような強い笑みで言った。

 「それに、俺が拳王を倒せばこの地は完全に平定へと向かう。……依存は有るまい?」

 その力強く、人々の心を守る熱を抱いた聖帝サウザーの言葉に兵士達は言葉を失くした。

 そしてそれが議案を終了し、兵達は自分の持ち場へと守りに戻った。










 ……聖帝十字陵を眺めれる高台に立つサウザー、そこへ一人歩み寄る女性がいる……イザベラである。

 「……意外だった」

 「何がです?」

 「……お前の事だからな。俺が拳王と直に合間見えると言えば、例え兵達の前であれど引き止めると思っていたからな」

 その言葉に少しだけ怒ったような表情をイザベラは見せる。だが、見せるだけで直に温和な顔つきをサウザーへと見せた。
 ……暫くの時間しかサウザーとは過ごしていない。……だが、サウザーの暖かき鳳凰の火は、イザベラの長年によって
 培った氷の心を既にほぼ溶かしつくしていた。ゆえに、その表情にはユリアに劣らぬ優しさを携えている。……寂しさも。
 
 「……引き止めても、貴方は聞かないでしょう?」

 「……クッ、そうだな」

 悪戯小僧のような笑みを口元に作り、サウザーは続けて言う。

 「……拳王と俺の野望は似ている。……似ているが余りにもやり方は違っている。……本来ならばこの世界には、あいつの
 やり方の方が相応しいのだろう。……だが、俺には拳王のやり方は出来ん。……民の笑みを、雛鳥達の笑みを曇らさぬ為にはな。
 ……俺のやり方をどう思う? イザベラ」

 多少不安気な顔を見せるサウザー。……イザベラはそんな様子のサウザーにフフッと笑って無言で顔を見る。

 「……笑うな」

 「ですけども……そんな顔を見せる事が滅多に無いですから……嬉しいのです」

 そう笑顔で言われては返す言葉は鳳凰にはない。頭を掻きそっぽを向けるサウザーへと、イザベラは甘く言葉を紡ぐ。

 「……為さりたい様に為さって下さい。……貴方は『将星』、……貴方のなさる事に私は喜びとすれど、反する事など無いです」

 「……そうか、それなら良かった」

 「あら? そんなに素直に鵜呑みにして宜しいのですか? 私、こう見えて昔は姦計で生き抜いてきた女ですよ。嘘も得意ですわ」
 
 「止めたのであろう? ……何よりそんな言葉を紡ぐ者が嘘など言うか」

 その言葉にイザベラはまた年若き娘のように笑い声を転がす。……サウザーには既に迷い、憂いの顔は無かった。

 「……勝つぞ」

 「……ええ」

 「俺は勝つ。……お前達を守ると思えば……例え拳王であろうと、魔神であろうと葬り去る事が出来る」

 「ええ、信じております」

 聖帝十字陵で誓う鳳凰に、ただ肩を寄せ、一人のゼラニウムの花を宿す女は肯定の声を唱えていた。……それは一つの儀式のように。

 (……ジャギ、お前が居れば躍起になって止めようとするだろうな。……だが、これが鳳凰としての俺のやり方だなのだ)










 「……『殉星』が堕ちた……か……コマク、生存の確率は?」

 「サザンクロスの崩落で死体の発見は困難。……ですが生存の可能性も低いですね……何より拳王軍が支配しています。
 万一生きていようとも脱出は困難でしょう」

 「ふむ、ならば一先ず『殉星』生死は置いておく。……ダガールと兵は抜け、今の俺の軍はお前達だけが頼りだ。
 ……影武者を置き俺は陣を移す。……ダムの建設は予定通りだろうな?」

 「はい、山地の頂上に建設中で間もなく完成かと。……ですが今は雨季でもありませんし、何よりあそこは傾斜が激しく
 少し衝撃が起これば崩壊します。……本当にあそこで宜しいのですか?」

 「くどいぞコマク。……俺の知略に間違いない。……学び始めていた星の動きが確かであれば近いうちに暴雨が確実に起こるのだ」

 その言葉に、既に軍を纏め外に出ていたコマクは空を仰いだ。

 ……空は雲一つ無い青空。……本当に近い内に雨など降るのであろうか?

 もしかしたら自分も裏切った方が良かったのか? と思考がもたげる。……だがその度に首を振り自分にこう問いかけるのだ。

 (……お前は昔ユダ様の教育係りではあったでないか? ……その計らいで今まで特別拳の才もない自分を副官にさせて頂いた
 恩義すら忘れ裏切るのか? ……ユダ様は変わられようとしている。……ならばそれに賭けるのも良いではないか?)

 そんな思考を露とも知らず、砂埃が髪へ付着する事すら気にせずコマクへと次の報告を尋ねる。

 「そして、拳王の使者は何と言って来た?」

 「あ、はい……『我等に与せよ、さすれば蹂躙せず』……前と同じような内容です」

 「ならば『暫し議案中である、返事の延期を願う』と言ってやれ。……どうせ奴は聖帝との闘いに心奪われている。
 俺達の事など虫けらの如く気にしてない筈だ。……ならば今が好機! これから我等は陣地を変更する!」

 馬に乗りUDの軍勢は目立たぬように行進する。……それらは一体何処へ向かおうとしているのか?

 (俺は『妖星』……決して誰も俺も嘲笑う事は許さん。……拳王、『将星』サウザーよ。……お前達のどちらも俺は屈さん。
 ……俺は俺のやり方で行かせて貰うぞ……!)











 「……『殉星』のシンが……そして、ラオウは無事か……」

 「……トキ様」

 その言葉に不安げな顔でサラはトキを見る。

 トキは憂いを秘めつつ顔を一旦俯かせたが、決意した顔になると口を開いた。

 「……ラオウの元へ行こう。……誓いを果たす日は来た」

 「トキ様、行かないで下さい!」

 「そ、そうです! トキ様、如何か、如何か……!」

 ラモ、ルカの引き止める言葉も、遥か昔に約束を交わした言葉にはトキは逆らえない。

 「私もご一緒に……」

 「サラ、駄目だ……お前はこの村に必要だ。……何よりもな」

 そう優しく諭されてはサラは何も言えない。

 「……サラは、サラは帰りを待っています! ……何よりもトキ様の帰りを……!」

 「解った。……今の受け持っている村人達を全員の治療を終わらせる! 他に怪我人、病人がいれば迅速に来るよう伝えてくれ!」

 鉄の聖者であるトキも動く、兄との約束。それを止める為に。

 (……ジャギ、私は先に勤めを果たしに行く。……お前は今何処だ?)











 「……来たのですね。……南斗と北斗が争う日が……遂に」

 「……ユリア様」

 鎧を纏い、遠くの空で雄叫びの声が聞こえたかのように憂いを帯びるユリア、……そして懐妊中のトウ。

 「……フドウ様はご自分の村を守るのに精一杯。……ヒューイ様、シュレン様に関しては直に動けるように軍の編成、
 父上は現在拳王が勝った場合の戦略を練成中。……そして」

 そこまでは感情を伴わず声を発していたが、次の言葉には怒りの感情を有り有りと浮かべ声を発していた。

 「……あの阿呆に関しては目下行方不明。……全く、友人が心配ならば行っても構わないと言ったけど、行方不明
 になれなんて一言も私は言ってなかったのに!! ……帰ってきたらやはり竹箒以上に性根を叩く為に……っ」

 ぶつぶつと、一人に関し恐ろしい計画を練るトウに、将としての顔から女性としての顔へ戻しユリアは上品に笑う。

 「……ユリア様、笑わないで下さいませ」

 「だって……っ! トウってば真面目に話していたのに」

 そう鈴のような笑い声に、トウはピンク色に頬を上気しつつも言い返せない。そしてようやくユリアの笑い声が収まってから
 不安気な顔でユリアへと尋ねた。

 「……ケンシロウ様の身が心配では御座いませんか?」

 「……大丈夫だと思うわ。……きっと、ケンが本当に危ない時はあの人が助けてくれると思うの」

 「……あの方ですか。……確かにあの方ならばそうするでしょうね。口では反対しても結局は」

 「ええ……、……未だ少し不安だけど……きっと、あの人なら」

 トウとユリアは遠くの空を見つめる。……その遠い空に輝く星はどの星であろうか?










 「……ラオウはどうやら生き延びたらしいな。……ならば俺も『義星』として、南斗六星としての宿命を果たす時だ」

 「俺も行くぞレイ。……ラオウが俺の友を殺したのならば……尚更だ」

 「……兄さん、私も行くわよ」

 「私も行くわよ。止めても聞かないわ。貴方たち四人だけよりも、五人の方が心強いと思わない?」

 アイリの言葉、そしてリンとバットを肩に寄せ、ウインクしてマミヤは言ってのける。暫し困った表情をレイは見せたが、
 村へ置いておくよりも自分の元に居た方が安心すると思ったのだろう。レイが頷くと、ケンシロウは黙認する事にした。

 「……向かうはサザンクロスか?」

 「いや、今からそちらへ向かうならば聖帝軍の元へ行った方が良い。拳王も『将星』サウザーとの対決を望んでいる筈」

 「……サウザーが……随分と会ってなかった気がするな」

 「俺も久し振りの再会になりそうだ。最も、じっくりと思い出話をする余裕は無いだろうがな」

 五人は向かう、聖帝軍の元へ。その道中に暗雲も彼らへと牙を向くだろうけども。

 (……兄さん、貴方ならばこの時ラオウをどう止めるだろうか……弱いな、貴方の頼り無しに今を生き抜かなくてはいけないのに)

 (ジャギ、お前の『強敵』のシンが堕ちたと言うのだぞ? ……何処で何をしてるんだお前は? ……お前の愛する女を置いてまで)

 二人が思うのは奇遇にも同じ人間への胸中。……歩みは想いにより重い。











 「……基地S、基地D・Kは壊滅。予定通り戦闘データを収集しました!」

 一人の世紀末の軍のどちらにも属さぬ、何やら危険な軍服を纏った人物が一人の後姿の男に報告をしている。

 「……平均的に一般の女性でも薬物によりスペード・Jを倒せるか。……南斗五車星の『雲』の身体能力を割り出せば、
他の者の戦闘能力も計測出来るだろう。……問題は、……アレ、か」

 そう眺める中にはKINGのクラブがジャギを襲っている映像が映されている。……一瞬の内にクラブの腕を掴み
 ジャギが指で首を貫通させ死亡させた所で映像は止まる。

 「……奴の戦闘能力に関しては未知数過ぎる。……ジャギか……、我々に対するワイルドカードに成り得るのかも知れんな……」

 男はただ観察するのみ。……映し出された奇形の怪物、そして理解不能の数字やグラフを光無い瞳で写しつつ時を見計らう。

 「……万事滞り無し。……総統閣下、『我々』の復讐を必ず果たします。……『我々』の為にも」

 男はただ敬礼するのみ。……後ろに何十もの培養液の中で眠る怪物を背に。











 「いやぁ~、助かった。……まさかてめぇに又出会えるとはな」

 「……わしはあんまり嬉しくないです、デヘデヘ」

 そこに居たのはゲッソーシティの奴隷売人グルマ。……ゲッソーシティで娘をジャギに解放されたが抜け出す事は出来ず
 ケンシロウの助けによって何とかシティの解放には成功。

 だが奴隷売人として今までやって来た出来事を精算する事が出来る訳でもなく、シティを抜け新たな場所への移住を決意してたのだ。

 「それで、このバイクを修理して売ろうってか?」

 「デヘデヘ! そうそう! パソコンソフトもバイクも設計図で組み立てるのはどちらも同じだからね! 今じゃあバイクを
 修理する技術者なんて希少だから大儲け間違い無しよ!」

 「ほ~う、じゃあ一番速いのはどれだ?」

 「ああ、それはこれ……って!? ちょっ、乗るなら金払って……!!」

 「お前ぇ……娘を助けた恩、忘れてねぇよな?」

 そう睨みつけながらのジャギの迫力に、グルマは何も言えない、言える訳が無い。

 ゆえに涙を呑んで一番高かったであろうバイクをジャギに譲ったのだった。

 「……いやぁ~悪いね本当。後で俺がちゃんと言って聞かせとくよ」

 「あぁ、頼むよ……って!? あんたも何普通に乗り逃げしようとしてるんだ!? おい! 待て! 泥棒~~~~!!!」



 グルマの叫び声を背にジャギとジュウザは荒野を走りぬく。目指すは拳王へ向けて。

 「待って居ろよラオウ……俺様の手で何としてもお前を止めてみせる……何としてでもだ!!!」










 





 「……ジャギ」

 その一方、荒野をとぼとぼと歩く女性が居た。……アンナである。

 あの研究所を抜けたまでは良かったが、バイクに関しては運の悪い事に故障。……荒野を荷物抱え歩き詰めている。

 「……お爺ちゃん御免。……絶対に生き延びるって約束……守れないかも知れない……」

 「……如何かしたのか? お嬢ちゃん?」

 「……ぁあ、やっぱり駄目だ。……私、巨人に食べられてこの短い一生を終えるんだ」

 「……巨人って。……まぁ最初私を見たら誰でも驚くんだがね」

 その巨人である大男は、アンナを肩まで持ち上げた。……アンナは無抵抗のままだ。

 「日射病だね。……こんなケース抱えて一体如何したんだい?」

 「……」

 「……詳しく話したくないか。……そんな若いのに苦しい目に一杯あってるようだな。……私の村で少し休んでいきなさい」

 「……おじさん、誰?」

 日射病で朦朧としているアンナには、その人間の素性が解らない。

 だが、何となくその抱かかえる人物の手は温もりで溢れていると感じ取れた。

 「私か? 私はフドウと呼ばれてる。『山』のフドウとな」

 大きく木霊する声でフドウは笑う。……こうして、奇妙な巡り会いが身を結んだ。











      後書き



    

(´・ω・`)そろそろキムさんが出てきても良いと思うんだ    





[25323] 第九十九話『山の過去 そして、遂に……!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/22 12:19


 横たわっているアンナには冷たい水袋が額に置かれている。

 (フドウ……ユリアちゃんのお陰で鬼から変わった人か……)

 アンナはフドウの変化に関しては一切手を出していない。ジャギが必死に世紀末前に色々と手を出していた時、自分も何か
 出来るかと思って行ったのは、ユリアの心が取り戻せるように一生懸命話しかけた事と、遊びに連れ出した時のハートの事以外では
それ程原作を変化させるような行動を起こしてなかったのだ。……自分達の保身の為と言う理由だけれども。

 「少し経てば気分も良くなるよ。しかし無茶な事をするね、あんな荒野の炎天下を徒歩で長時間歩くなんて」

 「あはは……面目無いです。……けど、ちょっと急がなくちゃいけない用事がありまして」

 「……急ぎか、……この乱世で生き急ぐ人間は多すぎるな」

 そう溜息を吐き悲しそうな顔をするフドウ。……アンナは尋ねる。

 「フドウさんは此処で皆を守ってるの?」

 「あぁ、私はこの村の我が子達を野獣達から守っている。……本当ならユリア様の元に付いて置くべきだが……」

 そう悩むように頭を掻くフドウ。……アンナは当たり障りない言葉を選んで再び尋ねてみる。

 「そんなに力持ちで大柄なら拳王軍と対決しろって要請もされたんじゃない? 断ったら無理にでも連れて行かれそうだけど。
 または拳王軍からも力仕事を頼まれたりとかね」

 (まぁ、フドウさんは南斗五車星だから、そんな事有り得る筈も無いんだけど)

 「……拳王ならば一度この村へやって来たよ」

 「え!? らっ……拳王が如何してフドウさんの所に!?」

 額の水袋を放り出しアンナは立ち上がって驚きの声を上げる。そして眩暈によって座り込みフドウに慌てて横に寝かされた。

 「い、いきなり立ち上がったら駄目だよ! ……私と拳王には少し因縁があってなぁ……詳しく話を聞きたいかい?」

 「うん、でないとまた気絶するまでフドウさんの側にいるから」

 困ったな、とフドウは溜息を吐く。……子供、女性には鬼の角が取れたフドウは甘い。ゆえに、本当ならば内密にしたい
 出来事をフドウは語る。……世紀末が始まってから、他の者、ユリア以外には話してなかった意外な話を。











 ……それは孤児達を引き取り家族として過ごしていた頃。

 世紀末で親達を亡くした子達は数知れず、だが、フドウは既に鬼ではなく善に変わっている。子供達はフドウの
 優しさ、癒しに守られ笑顔を失わず過ごしていた。

 ……そんな生活の折に、突如その来訪者はやって来たのだ。





 

 ……フドウの村。其処では子供達が丁度鬼ごっこを繰り広げている所であった。

 「お~い! ハナ、テン、ミツ! は、早すぎるぞ~!」

 「ハハ! お父さん遅い~!」

 「そうそう! そんなに遅かったら鬼失格だよ!」

 「こっちこっち! アハハハ!!」

 ヒィ、フウと汗を拭いつつもフドウには笑顔が溢れている。自分が今は幸福だと、子供達の笑顔を確認して頷くのである。

 そして子供達を再度追いかけようとする。……その時前方を逃げている息子の一人のカンが何かにぶつかった。

 「お~い、カン大丈夫か? ……お前は!?」

 近寄り、そしてその正体は直に知れた。

 巨大な黒い馬の右足がカンの体にぶつかっていた。……そしてその巨大な馬に跨る男を自分は良く知っている。

 ……世紀末前、自分が鬼の頃に北斗の寺院に居た伝承者候補。そして今では一つの荒くれ共の上に君臨して拳王と名乗る男。

 ……それは。


                              「久しいな……我を覚えているか? フドウ……っ!」


                                「……ラオウ」




 ……大きく荒れ狂う突風が二人の体を押す。他のフドウに引き取られている孤児達は不安気に二人を見守っている。

 「……お前達、お父さんはこの人と大事な話がある。……家に戻ってなさい」

 「……お父さん、大丈夫なの?」

 息子達の二人のタンジとジロは自分の父を心配そうに見上げる。大丈夫だとフドウは安心させる為に笑顔を向け、子供達
 が全員家の中に入っていくのを見送ると、拳王へと力強い目線でその目を合わせ、口を開いた。

 「……何の用だ?」

 「……貴様に一つの件を尋ねる前に聞こう。……真か? 貴様があの孤児達を家族として養っていると言う噂は?」

 「あぁ、勿論。……あの子達は我が息子、娘。……私の何よりの宝だ……!」

 そう毅然と言い張るフドウ。その声には以前の鬼であった時と等しい覇気が満ちている。

 だが、その言葉に拳王は暫し口を閉ざしていた。……そして。




                  ク……フッ……ハ……フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!




 拳王は哂う。天を割るような勢いでフドウの言葉を嘲笑う。……フドウはその拳王の挙動に睨み叫ぶ。

 「何が可笑しい!?」

 「クク……何が可笑しい……だと? それを貴様が言うか? 以前は鬼として大小の命関係無く喰らっていた貴様が!?
 笑止! 貴様が今更子を守ろうとも、鬼であった頃の貴様に殺生で散った命は戻りはせぬ! ……成る程、貴様の心の慰め
 が、今のあの餓鬼共と言う訳か……!!」

 そう悪鬼の笑みをラオウは浮かべながら言い放つ。だが、ラオウの言葉はある意味正論。フドウは確かに鬼であった頃
 老若男女関係なく命を屠っていた。その贖罪の為に、今自分が子供達を守っていると指摘されては言い返せない。

 唇を噛み締め、フドウは俯く。

 「……これが、これが俺に恐怖を抱かせた男の末路か……! ……如何やら俺は貴様を過大評価してたようだ」

 「はっ!?」

 意識をラオウに向き直せば、目前に差し出された掌。……その掌は既に死を纏いフドウに引き金を引ける状態である。

 「『鬼』が『山』になる事は出来ぬ! ましてや貴様は何かを守る『山』だと? ……笑止! 貴様に築けるのは屍の山のみ!
 今更善を気取るなフドウ! 昔の如く悪鬼に戻れば、本来の貴様に戻ろう!!」

 ラオウは自身の絶対の宣言をフドウへ放つ。それは一つの理論では正解に値する道筋かも知れない。……だがフドウは。

 「……出来ん!!」

 大地を割れる程に踏みしめ覇気を纏いラオウへフドウは拒絶の言葉を放つ。

 「我は『山』のフドウ! 確かに私が昔犯した事は例えあの世であろうと償え切れぬかも知れん! だが、今更俺は鬼には
 戻れん! ましてや悪鬼など! 我が子達を悲しませる鬼になど私は成れん!」

 「……此処で貴様が死しても」

 「死しても!!」

 拳王の氷の視線すら燃やす炎をフドウは宿し立ち向かう。……そして家の中で見守っていた子供達は堪りかねず
 飛び出しフドウの周りへ立つ。……目の前で父に殺気を篭もらす鬼を守ろうと。

 「……うぬら、この拳王を阻むか?」

 コクリ、全員が拳王へ向けて頷く。

 「その小さく脆き拳でこの俺に歯向かおうと言うのか……っ!」

 怒気と殺気、覇気がラオウの体を包む。

 フドウは我が子達を抱きしめながら、次の拳王の挙動を一挙一動見逃さず瞬時に動けるよう身構える。

 「……『あ奴』と同じか……『あ奴』のように……っ!」

 「……拳王?」

 だが……拳王は何の気紛れか全てを破壊する気配を一瞬で消し去り黒王号の踵を返し背を向ける。

 「……拳王」

 「フドウよ、もはや貴様は俺に拳を向ける事は適わん!」

 「なっ……」

 その言葉にフドウは子供達を抱きしめた腕を見る。……微弱に震えている腕。……フドウは小さく驚愕する。……先ほど
 頭上で掌を向けられた時、既にこの体は無意識で拳王に屈していたと言うのか!?

 「け、拳王!」

 「……無駄な時間を過ごしたわ。精々束の間の時を過ごせ、その遊戯の児戯と共にに死ぬまでな」

 ……拳王が去った後に、緊張の糸を切り泣き出した子供達を宥めながら、……私は自分の敗北を知った。










 「……まぁ、これが事の顛末です。……拳王に私は拳を交える事なく敗北したのですよ。……何が原因なのかは知れぬが
 拳王の拳は荒れ狂う強さを纏っていた。……もしかすれば、あの時の拳王の力は『迷い』なのかも知れないと今では思う。
 ……『迷い』が、あの男の力を強くしているのでは、と……。……具合は本当に大丈夫ですか? 顔が青白いですが?」
 
 「え? ……う、うん」

 「無理をしないで。……話を聞けば少しは気分も良くなると思ったのに逆効果見たいだったらしいなぁ。……とりあえず
 良くなるまで横になっていなさい。私は息子達の元に戻らなくちゃいけないから」

 アンナが横になるのを確認すると、フドウは部屋を出た。

 体にかけた毛布を握りながら、アンナは青白い顔でフドウが消え去った後に……ポツリと呟くのであった。



                                 





                                「……私の所為だ」














 





 「……何? ……それで被害は」

 一方支配下に置いていた村々から次々と拳王軍の待機している場所に戻ってきた野獣達。その時不思議な報告が一人の
 兵からソウガは聞かされた。困惑した表情で兵は告げる。

 「え、ええ……。……自分でも耳を疑ったのですが、如何も三メートル程の小麦粉袋を背負っていた男がいきなり村へ
 やって来て『パンが欲しい人間はいないか?』と尋ねながらやって来たので。一人の部下が拳王軍に献上するように要求した
 のですか、それを男が拒否したので攻撃した所、瞬時に目にも止まらぬ速さで地面に倒されたとの事です」

 「……もしや拳王の弟のケンシロウではないのか?」

 「いえ……どうも素性とは異なった顔立ちだったようなので違うかと。……何より他の部下達もそれを見て闘った所
 『悪は許さん!』や『仏法を知れ!』等など奇妙な事を口走りながら撃退したとの事でして……」

 「何なんだそれは……。……その後全員殺されたのか? お前を残して?」

 「いえ……それが本当に妙でして。撃退された部下達全員気絶した後、ある程度軽傷は負いましたが全員無事でして。
……なのに、まるでいきなり心変わりしたように『戦など平和の妨げだ!』と全員目覚めた後口走り軍を抜け出してしまいまして」

 「は? 全員撃退され無事……。……いや、と言うか本当にそれは人間なのか?」

 「多分……。そしてその村で飢えてた人間全員、……我々にもパンを寄越すと『命を粗末にするな……!』と何やら熱く
 涙を流しながら説得して来まして。……始終観察に私は徹していたのですが、襲うにしても如何も未知の不安が出て
 その男が何処かの方向へと旅立っていくのをただ呆然と見てるしか出来ませんでした。……あの、私の処置は?」

 頭痛を起こし頭を抱えるソウガに、兵は恐る恐る問いかける。

 「……そんな前代未聞の報告、拳王にも出来んだろう。……我等だけの秘密にしておこう。お前もお咎めなしだ。
 ……他にも兵は居たのだろう? その兵達は何処だ?」

 「……パンを食って『美味い……っ! ……こんな美味い物がありながら俺は命を粗末にしようとしてたんだ』と、いきなり
 改心して私が止めるのも聞かず全員武具を投げ出し故郷の村へ帰って……ソ、ソウガ様大丈夫ですか!?」

 「……一体何なんだ、そいつは……」

 最後の兵の言葉を止めに、机へ倒れこむソウガ。……後に人間を食う化け物が出てきたと報告を受けても、この時の
 報告に比べれば、まったく衝撃的な内容では無かったとソウガは振り返る。











 ……そして場面は変わりユダの宮殿。

 ……ユダ? の為に服を着せていく女達。UDの刻印を身につけたユダだけの道具。それを満足そうに眺めていたユダ?
 だが、一人の女を見るとユダ? は腕を掴み問いかけた。

 「おい、この額の傷は如何した?」

 「……はっ!?」

 その言葉に女は恐怖を浮かべ額の傷を咄嗟に隠すが既に時遅し。ユダ? はその女を掴むと言った。

 「この俺の宮殿にお前は相応しくない! ……さぁ、行け!」

 「あっ、お、お許しを!!」

 そして原作と同じく王宮の外へ放り出される女。そう、原作と同じく其処には野獣達が溢れ、その女を自分の肉体の慰み者
 にしようと手を伸ばす。

 悲鳴を上げる女。そして野獣達に昼も夜も自身の陵辱の日々が待ち受ける筈であった。





                             「おい、お前達、その女を私に譲ってくれないか?」







 
 だが、不意にその時ボロボロの布切れで身を包んだ男の声が、野獣達の元へ踊りこんできた。

 「あぁ~? 何だてめぇ。俺達にユダ様が下さったんだぜぇ」

 そう陰険に突っぱねる野獣達に、男は気分を害す事無く言葉を続ける。

 「ふむ、確かに王政時代ならばまがり通るだろうな。だが、私はお前達に交換出来る物がある」

 「ほぉ? この女と交換出来るような物をてめぇがか? 何だそいつは?」

 「これだ」

 そう言って男が差し出したのは……種だ。

 「あぁん? 何だこりゃ!? こんなん腹の足しにもならねぇぞぉ?」

 「確かに今はこれはただの種。だが、一年もして耕せばこれは小麦になる。そして広々と成長した小麦を狩って
 小麦粉にすればパンが焼ける。これはお前達の心と体の飢えを癒してくれる、女などよりもっと良い物だ! 女性は確かに
 癒しの象徴。だが、姦淫とは仏法の妨げとなりて正道を踏み外す禁断の果実とも成り得る。だが、パンは違う!!
 お前達が耕した時、大空に君臨する小麦達は太陽に輝きお前達に微笑みかけるだろう! そしてその子供達の愛と犠牲を
 噛み締めつつお前達は涙しつつ呟くのだ。『あぁ、こんな平和の味が未だ残っていたのだな……!』……と!」

 「……こいつ、放っておいて行こうぜ」

 「あ、あぁそうだな。……頭の螺子がちょっと外れてやがる」

 野獣達にすら変人扱いされるボロボロの布を纏った男。そして無視して女を抱え野獣達は立ち去ろうとする。
 だが、その布を纏った男は一瞬で男達に回りこむと尚も熱い口調で言った。

 「これだけ言っても理解してくれないか!? そうだ、ならこの俺のパンを食べるが良い! これは三日三晩の俺の
 最高傑作だ。……くっ……! すまん息子よ! こんなパンのパの字すら心から理解せぬ奴にお前をくれてやるなんて!
 だが、俺はこの者達を救いたい! だからこそ我が子よ、今その輝く太陽のようなお前の味をこいつに……」

 「さっきから何訳分からない事ほざいてるんだてめぇはあ!!?」

 遂に切れて一人の野獣が飛び掛る。……だがそれは失敗に終わった。



                                  ズン……ッ



 「は……が……っ!?」

 突如自分の口の中に差し込まれたクロワッサン。そして白目を剥いて野獣の一人は倒れる。

 男は何時の間にか野獣達の抱えていた女を抱き、そして丁寧に下ろすと紳士的に言った。

 「さぁ、下がっていて。この者達に、仏法の在り方を正しく説き、改心させましょう」

 「え……ぁ、あの」

 「ご安心あれ! 私の拳は正道! 邪心を抱く者を正すのが私の役目……」

 「ごちゃごちゃ喋ってるんじゃねぇよおおおお!!」

 「かかれええええええええええええ!!!」

 呑気に喋る男に野獣達は飛び掛る。だが、シュンッ! と音立てて地面から浮かんだ埃だけ残し男はまた消える。

 「なあ!? ま、また消えたぞ!?」

 「お前は少し虫歯が多いな……。痛みは怒り、私も解る。お前はこれを食って苦痛を忘れるが良い」

 「は? なカポッ!!??」

 声はすぐ横から聞こえ、首を捻れば口の中にフランスパンを詰め込まれる。

 「な!? ば、馬鹿にしやがってえええ!!」

 男へと野獣は一刀両断させんと刃物を振るう。だが、瞬時に男は跳躍すると、野獣の銜えてるフランスパンに逆立ちで手を乗せて叫んだ。





                                 『金剛彗星脚』!!!






 そして男はフランスパンの上で逆立ちのまま回転しカポエラの如く野獣達の体を打つ、打つ、打つ。……飛び掛った男達は
 数秒後地面へと倒れるのであった。



 「な……何者だお前は!?」


 一部始終を眺めていたユダ? は、UDの兵達を率いその男へ問いかける。

 「私か? 私は……」







                                   パサッ!!




 ボロボロのマントを脱ぎ捨てると。そこから現れたのは白い胴着、背中に陰陽のマークを刻んだ少しばかり赤い髪を靡かせる男。





                                「影ある所に陽あり!!」



                                






                                「野獣ある所に仏あり!!」



                        





                              「そして!!   乱世ある所にパン(愛)溢れん!!」











 そして堂々と男は叫んだ。








                             「我!! 正覚金剛拳   キム!!!」















       








        後書き





    (´・ω・`)……キムぇ……

   




[25323] 第百話『黄金のパン(魂)が乱世を駆け抜ける』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/22 19:37
 





                                  男は昔弱かった





                                  男は昔逃げていた






                       男は昔米なんて(老師の所為で)滅びれば良いと本気で思った








                           そして           男は遂に悟りを開いた……







                           

                              パンが世界を救うのだと……!!!











  男がそのユダ? の元に辿り着くまで様々なドラマがあった。

 ある時はバターを取る為に畜産業を営んでいた男に土下座して頼み込み牛と共に眠り生活をした牧場物語もあった。

 



 ある時は砂糖を取る為に、伝説のサトウキビを探して高山地を登り、体が景色と同調し、肩からレーザーを発射させ伸びる槍を
 持った敵と闘い、その途中割り込んできた血液が硫酸の化け物が現れ、一時その敵と共闘し化け物を倒す熱いドラマもあった。

 



 ある時は上質の塩を採取する為に海へと潜り。何やら巨大なミミズの化け物と闘ったり、沈没船へ潜ると巨大イカと対決もした。
 





 ある時はイースト菌、ベーキングパウダー、重曹を得る為に無人の部屋へ入ると、そこに居たホッケーマスクの男と
 何やら悪夢に出てきそうな鍵爪の男と死闘を演じる事もあった。



 此処へ来る途中、お前を蝋人形にしてやろうか? と言う風貌の人間がニワトリ商を襲っていたので、パンを食べさせ
 その男達に真っ当な人生を送るように優しく(拳で)諭し、一つの小さな救世主伝説が生まれもした。





 辛かった。険しい道のりだった。死にそうな目に遭った回数など既に数えるのを止めてしまった。と言うか修行時代から死ぬような
 目に遭わされる事なんてしょっちゅう等で、『またか』としか思わなくなった。

 



 泣きたい時もあった。と言うか泣いた。その涙はパンの作る途中に混ざり、食べた時はしょっぱかった……そして更に泣いた。

 




 女性との華のあるラブストーリなんぞ非ず。と言うより何故か自分が話しかけると女性が引いてしまい恋愛に発展せず。
 




 だから男は既に愛と恋を自分を唯一見捨てないパンへと注いだ。注ぎまくった。

 そして奇跡が起きる。そのパンは神の創作に等しく食べた者に愛を、平和を、友情を、熱血を強制……思い出してくれる物となった。

 男は決意する。このパン(愛)を共に、人生を進む事を……。










 「聞いたぞ……お前がこの宮殿に住まう『妖星』のユダだな?」

 「ふん、ならば如何した?」

 そのユダ? の言葉に男は赤い髪を気で立ち上らせながら叫んだ。

 「説破!! 宮殿の王であるならば何ゆえに悪政を施し自身の配下を傷つける振る舞いをするか!? 私は悲しい……!
 もしも、万が一にも私が自分の育った小麦を乱暴に引き抜き潰し、そしてパンを作ったとしよう! さすれば本当のパンは生まれず。
 何故か? そのパンには愛も、慈悲もない! ゆえに心から美味いと喜び食べる等出来る筈もないのだ! 『妖星』のユダよ!
 お前が本当に配下の事を思うならば! 今すぐにその行いを悔いて善政を振舞うのだ! そうすれば私は本当に美味いパンを作ろう!!」

 「……お前は何を言ってるのだ」

 ユダ? は皆が思っていた事を代表して代弁して言う。周囲の野獣、兵、女達はこの時初めてユダ? へと心の中で頷いた。

 だが、キムは止まらない、止まろうとしない。と言うか止まれる筈が無い。涙をブワッ! と流しながら拳を握り締め叫び続ける。

 「未だ解らないか!? ユダよ! 聖書ではお前は確かに神の子を裏切る者かも知れぬ! だがユダよ! 新たな説では
 お前は神の子の指示により裏切りを決行した本物の聖者とも伝えられている!(※事実です) お前が本当のユダの名を
 受け継ぐならば今からでも遅くない! この俺のパンを食し……自分の罪深さを悔いて頭を丸めて正しい道へ進め」

 「お前は本当に何なのだ!? えぇい、やれ! 衛兵! こいつを殺せ! パン屑のように!!」

 本来ならば『虫けらのように』なのだが、余りにパン、パン、パンとキムが連呼するのでユダ? の命令の言葉が違った。

 だがそれは禁断の言葉。キムの前でパンに対し冒涜の言葉は逆鱗である。

 「パン……屑だと!?」

 怒りに撃ち震え体の動きが止まるキム。それにUDの刻印の兵士達は剣を大きく振るいキム目掛けて打ち下ろす。

 だが、それは呆気ない、いや呆れた事にキムは両手の指でその刃を掴むと思いっきり横へと刃を曲げた。……放り投げる兵士達。

 「ば、馬鹿な!?」

 「……せいしろ」

 「な、何っ?」

 「訂正……しろ!!」

 キムは顔を上げて金剛夜叉の如く怒りの顔でユダ? へ叫んだ。




                            「私の前でパンを屑などと呼んだ事を訂正しろ、ユダ!!!!」






 「……っ! もう良い! 掛かれ! お前達!!」



 王宮に潜んでいたユダの兵士達が颯爽とキム目掛けて投げナイフを放つ。

 だがキムはそれを避けようともしない、ただ空手の如く両手を腰に引いて構え深く呼吸すると、叫んだ。





                                  『金甌無欠の構え』!!!





 淡いバター色の気がキムの体を覆う。そして触れるナイフを弾き飛ばした。

 「ば、馬鹿な!?」

 本当に馬鹿な、としか思えない光景にユダ? は驚愕の声を上げる。

 「無駄だ! 私の正覚金剛拳は心を強くし肉体を強くする拳! 何千何万何億の型を極めた事により一つ一つの型が無類の強さを秘める!
 今の私の体は軍隊堅麺麭(ぐんたいかたパン)【※かなり硬いパンとして有名】のように何者も傷つけん!! ……そして!」

 最後にキムは叫び、かなり遠いUDの兵へと上段正拳突きを放つ。





                                 『正法眼蔵拳』!!!




 その突きから放たれるはベーキングパウダーの如き気の輝きと共にUDの兵士が吹き飛ばされる。柱に激突するUDの兵士。


 

 「なっ!? まさか南斗紅鶴拳と同じ気の……」

 

 「違う。私の拳は悪しき心を打ち倒す拳!! 死んではいない、目覚めれば真人間になっている事だろう……」


 そんな言葉を受けて信じられる人間等いるはずがない。そしてユダ? は兵士が頼りにならないと解ると、女の一人
 を盾にしてナイフを首へ当てた。

 「む!? 卑怯なユダ! お前は心まで邪悪に染まっていると言うのか!!」

 「ふはははは!! パンに狂った男よ、これは知略と言う物だ。解ったなら大人しく兵に切刻まれるのだな」

 絶体絶命……。本来ならばそんな状況なのだ。……だが、この男は一味も二味ところが味が理解出来ぬほど違っていた。


                                「く……ぅ……!」


                                 ポタ      ポタ……




 いきなり跪きキムは涙を地面へ零す。そして猛烈な勢いで天へ叫んだ。

 「ああ神よ! この男に私の言葉は届かないと言うのか!? 情けなしキムよ! お前は今まで仏の教えとパンで人の心を
 救うとのたまいときながら一人の男の心を救えないではないか! くそっ! 大馬鹿者め! こんな事でこの先に助けを
 求める者を救えると本気で思ってるのか! 馬鹿め! 本物の愚か者め!!」

 自分を思いっきり殴り顔面を流血させるキム。それにユダ? 含め一同は後ずさりするばかり。そりゃそうであろう、
 こんな男、正直言って作者も実在していたら某友人以上に嫌である。



 「……解った! ならば……」

 「ふっ、ようやく観念したようだな。そうだ、大人しく我々に」

 「ならば私は正覚金剛拳の奥義を以って!! お前を救おう!!!」

 「は?」







                         はぁぁぁぁあああああぁあああぁぁあぁああ…………っ!!!!!







 急激に地面の砂を浮かび上がらせる勢いで気を高めるキム。

 それに盾にしてる女が隙を見て脇へ逃げたのすら忘れて呆然とするユダ?




 「行くぞ……! 我が拳の真髄……!! 金剛(酵母)と正覚(小麦粉その他)を融合させた魂(発酵)の拳を……!!!」


 「や、止めろ! 止めろおおおおおお!!!!???」









                          金剛正覚拳奥義『正義金輪際』!!!!!







  その場で跪くユダ? そして正拳突きを放った体勢で硬直するキム。 何が起こったと言うのか?

 金色の気はユダを覆ったかと思うと、金色の鳳凰のような何かの鳥になって空へと消え去っていたのだ。

 それは美しく幻想的であったのだが、状況が状況ゆえに素直に感動している人間は誰もいなかったのがとても惜しい事である。


 「……悲しき孤独な男だお前は。……一度も真のパン(愛)に触れ合えなかったのであろう」

 そう悲しげな顔つきでキムは近寄る。……そして驚愕した。

 「な!? これは!?」

 そのユダ? の髪の毛はずり落ち、そして気付いた。これは本物のユダでは無いと。では、ユダは何処に?

 「おい! 其処の君! ユダは一体何処に居るんだ!」

 キムの拳で気絶した男を起こす。最初『俺は今まで何て酷い事してたんだ! ……お袋の元へ戻ろう』と呟いていたが
 キムの声に意識を何とか向けると言った。

 「……本物のユダ様なら既に陣を移してるよ。……あれは影武者さ。この宮殿は拳王や聖帝軍の気を向ける囮でしかない」

 「な! ……そうか、ユダめ! ……あくまでも裏切りの星として私の仏法を受け入れぬと言うのだな……っ!」

 別に本物のユダはキムが訪れるのと関係なしに陣を移してるのだが、そんな事はキムには理解し得ない。よって王宮で叫ぶ!

 


 「私は誓うぞユダ! お前の邪悪な心を正し、世界にはお前が考えるより素晴らしい物(パン)があるのだと教えてやる!!
 何処にいようとお前を探し当ててみせる!! 私は正覚のキム! 金剛の信念を宿すキムだ!!」

 女達を近くの村へ送り届けるアフターケアもしつつ、キムは信念のままに生き抜く。……周囲の迷惑を露知らずに。











 「……何だ? 急に寒気がして来たぞ」

 「大丈夫ですかユダ様? お風邪で?」

 「いや、問題ないコマク(何なんだこの悪寒は? ……拳王の事や、隠れた暗雲とはまた違った……)」

 







                  それをいち早くユダは予感する。果たしてこの二人は巡り合うのだろうか?





 続きたくないが、これは正史ゆえに世紀末の争乱の中物語は続くのである。














        あとがき



::::::::::::::::::::
  ::::::::::::::::
    ::::::::::::
   Λ_Λ :::::::
  /彡ミヘ )ー、 :::: <……何で記念すべき第百話なのに、こんな話になった
  /:ノ:丶 \::| :::
 /:|:: \ 丶| :::
 ̄L_ノ ̄ ̄ ̄\ノ ̄ ̄



 







[25323] 第百一話『荒野での激突! 荒れ狂う輝き!』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523
Date: 2011/02/23 17:42

  

  「ん~ふふ……よ~しお前等、こいつを処刑するのに賛成の者は挙手しろぉ~」


 そう、とある男が十字架に張り付けられているのを口元を歪めて笑みを作り眺めながら周囲のモヒカンへ叫ぶのはウイグル。

 

 カサンドラの獄長であり、自分の髭の本数を抜いて処刑の人数を決める等と大悪漢である。

 今十字架に張り付けられているのは、カサンドラ獄門の双子の衛士ライガ・フウガの弟ミツが処刑されようとしていた。

 上空にはウイグルの飼っている猛禽がこれから飛び散る血の香りを予感し興奮し飛び回っている。

 ウイグルは本来ならば監獄の獄長として思う存分その地位を振り暴虐を振るえると思っていた矢先、拳王からの勅令と言う
 気に喰わない命令をされた所為で機嫌は最悪であった。

 彼は『天の覇王』では時代に自身の伝説を残す事が目的であった。

 その野望の為にカサンドラの支配に腐心していたのに、当の拳王は何の気紛れが自分の楽しみである処刑する拳法家を気紛れに
 野へ放してしまう等の情に絆(ほだ)されたような行動を取られ、最初の自分の夢に唾を吐かれたような気分に陥る。

 そして止めとばかりに聖帝軍の戦いの駒に自分を使う? このカサンドラの支配者であった俺をただの戦争の一兵として?

 そんな行為は拳王と言えど自分の誇りが許せない。だが、拳王の力を間近で見る機会がある自分としては倒せそうもない。

 ゆえに散々自分に敵意を抱いていたライガ・フウガの弟を処刑して憂さ晴らしをしようとウイグルはその行動を取ったのだ。
 
 これでライガ・フウガが歯向かってくるならば返り討ちにしてやれば良いだけの話しだし、例え無抵抗でも自身の肉親が
 目の前で殺害され嘆き苦しむ様子を眺め溜飲が下がるであろうとウイグルは考えていた。

 だが、その場所は致命的にウイグルの運命にとってはやばかった。やば過ぎだと言って構わないであろう。

 ウイグルはライガ・フウガ以外の部下が全員自分の提案に挙手するのを満足そうに眺め終わると、叫ぶ。

 「よ~し! では処刑方法はどうする!」

 「ナイフを投げてじわじわ死ぬのを眺めると言うのは?」

 「おぉザコル! ナイスな提案だ! よ~し、お前等一人ずつナイフを持って並べぇ~! そしてライガとフウガの弟の悲鳴を
 このウイグル様に聞かせろ~!!」

 そして口々に嫌な笑い声を携え部下達は並ぶ、投げナイフを携え並びつつだ。

 「へっ! 最初に提案者の俺から行かせて貰う……ぜ!」

 ザコルのナイフが空気を切りつつミツの肩へと刺さる。

 心臓や頭に命中しなかった事によってウイグルの部下達からブーイングが起きる。悪い、悪いと手を上げ照れるザコル。

 だが、ウイグルだけは不機嫌である。何故ならば当のナイフが刺さったミツは悲鳴すら上げず覚悟を決めた顔をしていたから。

 「……貴様、何故泣き叫ばん?」

 「……俺は、お前の前では……絶対にっ、悲鳴など上げない……っ!」

 「あぁ~~~~あぁ!!!??」

 ウイグルの顔を寄せての形相にすら負けず、ミツはライガとフウガに穏やかな笑みを携え言った。

 




 「に、兄さん達……き、きっと救世主は訪れる。……だ、だから俺が死んでも……負けないでくれ……っ」

 




 「ミツ……!」

 「……ミツ!」

 そのボロボロの勇者に涙を流すライガとフウガ。唾を吐き面白くないとウイグルは不満の顔を表し部下へ命じる。

 「おい! お前達遠慮は要らん! 心臓か頭を狙ってこいつをぶっ殺せ!」

 『はっ!』

 その怒声に部下達は規律正しく返事を上げると、一人の部下がナイフをお手玉の如く手で遊ばせつつミツへと狙いを定めた。

 「へへへへ……いっく、ぜぇ~~~~!!!!」




                                   ドス





 「ぬぅ!? お前何処を狙っている!!」

 そのナイフの飛んだ場所は……ウイグルの額。

 間一髪ナイフを手で受け止めたウイグル。そして形相でその部下を見ると……何時の間にか一人の男がその部下の頭を突き
 そしてその所為で部下は瀕死の表情になっている。……これが原因で手元が狂ったのだと理解した。

 「貴様何者だ! このカサンドラの獄長、ウイグル様にナイフを当てようとは!」


 「……お前がウイグルか……」


 指を鳴らし、その男はウイグルへ指差し呟く。



                                「貴様には、地獄すら生温い」






                                 ケンシロウ 見参









 「……ほぉ? 貴様がケンシロウか……! 噂は聞いてるぞ! 拳王の三兄弟の弟であるとなぁ!」

 「……三兄弟?」

 「あぁ? 間違っていたか? お前達はラオウ、トキを含めた三兄弟なのだろ?」

 (……ジャギ兄さんが含まれてない? ……ラオウは口に出したくない程、兄さんを憎んでいると言う事なのか?)

 深い思考の海に耽りそうになるケンシロウ。だが、それに鞭を地面に叩きつけつつウイグルは自分の方へ意識を向け直す。

 「はっ! 丁度良い。お前等! ここでこいつを殺した奴には食料一か月分を俺様から寄越してやろう!」

 「食料!」

 「一ヶ月分!」

 その言葉に目の色を変えて部下達は自分の武器の鈍器、刃物を舌なめずりしつつケンシロウへと間合いを詰める。

 「……また墓標のない墓穴を増やすつもりか」

 ケンシロウはモヒカン達へ呟くと拳を構える。……負ける気は毛頭もない。










 「ふん……邪魔が入ったわ。……この際俺様の手でこの男をころ……あん?」

 ミツへと振り向き自分の獲物を構えたウイグルは素っ頓狂な表情をして、十字架しか立っていないのを見て目を疑う。

  



                                 「探し物はこれか?」




 声の場所へ振り向く。……其処には端整な顔に笑みを浮かべミツを抱かかえる美男子がウイグルに余裕の笑みを浮かべてた。

 「……貴様ぁ、何者だ!!」

 「俺は……」

 弟が解放され近寄ってきたライガとフウガにミツを放り投げると……男は毅然と言い放つ。



                                
                         「俺はレイ……南斗水鳥拳伝承者の名にかけて、貴様を処刑する」





                                  レイ   見参






 「南斗水鳥拳伝承者……! そうか! 貴様があの『義星』のレイとやらが!」

 「その通りだ。……貴様がウイグルか……男の覚悟を踏むにじるような真似……この俺が許さん」

 「はっ! 何が男の覚悟だぁ!! この俺様の泰山流に叶うと思っているのか!!」

 「ならば貴様のその自信。……切刻んでやろう」


 レイは構える。その闘気は鋭利である。











 一方少し離れた場所にある村。其処ではカサンドラ拳王軍の行進を目にして待機させられていたマミヤ達がいた。

 だがその場所にも拳王軍の魔の手が忍び寄っている。マミヤ達の前に現れたのは以外な人物であった。

 「くっ……っ!」

 「そのような鉄屑の武器ではわしの体に傷一つ付けれぬ。……大人しくわし達に降参せよ。……女子供を無理にわしも
 傷つけたくはない」

 地面には折れ曲がった娥媚刺。そして荒い息で膝を付いてその人物を睨んでいるマミヤ。

 「……投降せよ。ここで命を散らすには惜しい瞳の輝きをお主は持っている」

 「悪いけど、おじ様の言葉を聞き入れられるほど私、素直では無いのよ」

 刃を仕込んだヨーヨーがその男へと放たれる。だが、その男は鋼線でヨーヨを絡め取ると糸を容易く切り離しヨーヨーを地面に落とす。

 「これ程言ってもか……っ!」

 「……女の子って諦めが悪いのよ」

 苦しそうにマミヤを説得している妙齢の男。そして勝気な顔でその男へと立ち向かうマミヤ。

 

                            「我が風雷十極拳に勝てると思うか……っ、女よ」

        
                              「私は、とうに女を捨てたわ」




 その男の名はライガ・ソウガの師ソウジン。


 未知なる闘いが今正に正史を外れ行われていた。











                                  ドシャっ……!





 
 「げっ……っ!?」

 「バット!!」

 ターバン男に水月を蹴りつけられ吹き飛ばされるバット。もう一人の男に三日月刀を首に当てられながら悲鳴を上げるリン。

 それはマミヤがソウジンの相手をして時間稼ぎをしている間に三人はケンシロウとレイの元に救援を頼もうと走っていた時に
 起こってしまった。既に拳王軍の行進を知り無人の村と化した家屋の影から忍び寄る人影にアイリだけを何とか隠した
 物のリンとバットは見つかってしまった。

 慌てて小柄な体を活かし二人は家屋の窓や隙間を使い逃げよびようとしていた。

 だが、それは結果的に失敗。二人はカサンドラ拳王親衛隊であるカシムとザルカと鉢合わせしてしまったのだ。

 「う……りゃぁあああああ!!!」

 転がってる木材を拾い上げ、バットはカシムへ飛び掛る。だが、カシムは少し動いてバットの攻撃を避けると体を
 サッカーボールのように蹴りつけまたバットを吹き飛ばした。

 だが、バットはどんなに蹴りつけられ、血だらけになっても立ち上がる。

 「へへへへへ!! 中々根性あるじゃねぇか坊主!!」

 「がはははは!! そうだ! カシムさへぶっ倒せればお前達逃がしてやるぜ! もっともその前にお前が死んだら
 この大事な娘の首は地面にキスする事になるけどな!」

 カシムとザルカに挟み撃ちにされリンを捕えられバットが下した苦渋の決断。

 それは二人のうちどちらかを自分が倒せばリンを解放してくれと懇願したのだ。

 カシムとザルカは笑いつつその約束を承諾する。約束を守る気は無いが、拳王軍の本隊に到着するまでの時間潰しの玩具
 としては相応しいとカシムとザルカは顔を見合わせ同じ考えに至ったから。

 バットは何度も何度も小さな拳でカシムへ飛び掛る。どんなに腹を蹴りつけられ口から込み上げそうになり、倒れそうに
 なるのを必死で堪えるのはリンを守る為。そして一番の狙いは時間を稼ぐ為だ。

 (が、頑張るんだっ。……アイリさん、マミヤさんがきっとケンやレイを呼んで来てくれる。……それまで)

 だが、バットの思考などお見通しとばかりにカシムは立ち上がるバットを蹴りつつ嘲笑いつつ言葉をかけた。

 「ククっ! お前もしかしてさっきの女二人が助けを呼びに来てくれるなんて甘い事考えてないよな?」

 「……え?」

 呆然とした顔つきのバットに、大笑いしてザルカは続きの言葉をバットに浴びせる。

 「ハハハハ!! 本気でそんな事が通じるとでも!? 甘すぎるぜ! さっきのお前達が何とか隠したと思ってた女は
 俺達拳王親衛隊の部下が見つけてる頃だし、もう一人の女の相手をしてるのは、老いても風雷十極拳伝承者であった男だぞ!
 今のズダボロのお前を助けてくれる奴なんて一人もいないんだよ!!」

 その絶望の言葉は、バットの心を折ろうとしていた。そしてその言葉はバットには効く。……今まで散々ケンとレイに自分は
 守られてきた。……マミヤさん、そしてあのケンの敵である男にだって自分は一度如何いう気紛れか助けて貰った。

 ……自分は弱い。……自分は弱い。……俺は、……俺は何も出来ない?

 その無力であると言う事実が、バットの意識を沈ませようとする。

 カシムとザルカは小さな子供の心が死んでいくのをほくそ笑み見物する。……だが……声がその時小さな声が男達の間から昇る。



                               「……いで、バット」




 「……え? ……リン?」

 顔を上げて、激痛や疲労感で朦朧の意識の中……声が上がった場所……リンの方へと顔を向ける。

 刃を突き立てられ、命の危機に晒されている状況。

 それなのに……リンは涙目ながらも……俺を信じて微笑んでいる?

 
                               



                                「負けないで……バット!」




 ……その顔は決意に満ちた表情だった。

 その顔はケンに向ける時と同じく……信頼と期待を賭けてバットを見つめていた。
 恐怖はある、不安はある。……だが、今のリンは自分を必死で守ろうとしてくれるバットの雄姿に、その小さな体に秘められた
 心は荒れ狂いながら輝き、幼くもその血に宿された天帝の血を呼び覚ましたリンの瞳が、バットの体に新たな力が湧き上がるのを感じた。


 「……へ、へへ! ……リンにそんな表情されちゃあ俺も底力を出さないといけないよなぁ……っ」

 鼻をこすり、出てきた鼻血を拭いながらもバットは力強く立ち上がる。カシムは散々痛めつけた小僧の体の何処にそんな
 力があるのかと若干戸惑いつつも、こんな小僧の拳で俺がどうこう成る筈もないとの油断もある。それゆえに馬鹿にした笑いで
 バットが構えても自然体で立ったまま。


 「うおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」


 「はっ! 止まって見える……何ぃ!!??」


 飛び掛り拳を振り上げるバットにカシムは余裕の表情で体を斜めにして避けようとする。だが、バットの体はまるで磁石で
 引き付けられたかのように自分の顎目掛けて拳が曲がり自分へ届こうとする。

 (な、何だ!? 小僧から! まるで拳王見たいな恐ろしい気配がぁ!!??)

 その気配が闘気である事をカシムは知らない。死ぬのような闘いを子供の頃正史なればバットは経験などしてなかった。

 だが、目の前に守らなくてはいけない人がいる。目の前で自分が死んでも命懸けで生かさなくてはいけない人がいる。

 それはケンシロウと短いながら旅を行い。その隣で何時も柔らかい笑みをケンへと向けていたリンに何時しか暖かい気持ち
 を抱いていた幼いながらも恋を秘めたバットの心が突き動かす力。それはケンやレイが誰かを守る為に奮い起こす力を
 間近で感じ取っていた力を僅かながら受け取ったように、バットの体には、すぐに消える蝋燭の火が最後に燃え上がるように
 カシム目掛けて闘気を纏った拳を放っていた。

 「喰らえええええええええええええぇぇ!!!!!」

 「な!? のォろわ!!?」

 そしてガン!! と凄まじい音と共にバットの拳がカシムの顎にクリーンヒットし……カシムは倒れた。

 「カシム!!?」

 「……バット!」

 刃物をリンに当てつつカシムが倒れた事に驚愕で名を叫ぶザルカ。

 そして涙を流しながらバットの勝利に喜ぶリン。……それは日光に照らされとても涙は綺麗輝いていた。

 「……くそがぁ!!」

 だが、最初から約束を守る気などさらさら無かったザルカは、疲労困憊ながらリンに親指を立ててサムズアップしていた
 バットを蹴り飛ばす。小さく悲鳴を上げて名を呼びかけつつリンはバットへと駆け寄る。

 「おいカシム! 何こんなガキに負けてんだ!?」

 「……っあつつ……悪ぃ……ザルカ」

 そして気絶からすぐに立ち直りカシムは起き上がり三日月刀を構えると、顎をさすりながらバットを睨みつけ言い放った。

 「さぁて……何処から斬られたい小僧!」

 「酷い! 私達を逃がしてくれるんじゃ無かったの!?」

 「かっか!! そんな約束なんぞ守る訳ないだろうが!! ……気にくわねぇガキだな、てめぇ。……そりゃ何の真似だ?」

 ザルカは最初リンに向かって豪快に笑いながら言葉を発したが、最後の部分は不機嫌な調子で……立ち上がりリンを守るように
 両手を広げるバットへ向けて尋ねていた。

 「……にっ……げ、ろ……リン。……こいつらは俺が相手するから」

 「バット!? ……無理よ! 殺されちゃうよ!」

 「その小娘の言うとおりだぜガキ!! そんな今にも死にそうな調子で言う台詞じゃねえよなぁ!!」

 カシムとザルカは、自分達によって既に瀕死の状態のバットに引き付けが起きそうな位に笑ってリンに同意する。

 バットの手を引っ張りリンは叫ぶ。

 「一緒に逃げてバット! ケンやレイさんがもう直来て……」

 「リ……ン」

 「……バット?」

 泣いているリンの顔を、散々地面に転がされ血と土で汚れた震える指で涙を何とか拭い、……笑みを口元に作り言った。



                           







                            「お……れ、リンの事……好きだぜ」




                         「ヶ……ンには……負けるかもしんない……けど」




                    「惚れた女は……命懸けで守らないといけないって……教えられたからさ」










 「……バット」


 リンの震える声に無言の笑顔で答え、……カシムとザルカへ向き直り叫ぶ。

 「……俺が相手だぜ! ……リンには指一本触れさせるかよ!!」


 


 「~~~何臭い三文芝居なんぞ俺達に見せ付けてんだ!!」

 「あぁ!! 気持ち悪い! その脳天叩き割ってやる!!」



 
 三日月刀が二本、バットの脳天目掛けて振り下ろされる。


  (ケン……悪い! ……けど俺だって男なんだ……リンを守れる位にさ……良い男に今見えるかな?)





                              「止めてえええええええええええ!!!!!」





 バットの胸中。そしてリンの悲鳴が響き渡る。






 ……そして。









                                  パシッ









 「……え?」

 「……あ」


 「……格好良かったよ。……バットとか呼ばれてたな? ……良く、その女の子を守った……」


 「……え、へへ……へ」


 その人物を二人は知らない。未だ会った事の無い人物ではある。

 けど、その三日月刀を触れもせず止めた男からは。二人が時折ケンから放たれる優しい気配を濃厚にした雰囲気と、
 そして安心できる笑みに、二人は直感的にこの人は味方だと確信した。

 その笑みに安心してバットは意識を失う。片腕に抱かかえたバットを家屋の壁にひとまず寝かせると、リンへ優しく言った。

 「危ないから下がっていなさい。……良いね?」

 「はいっ……あの……貴方は?」

 「私かい? 拳王に会いに行こうとしていたのだが何処に場所を構えているのが知らなくてな。……それでケンシロウが居ると聞いて」

 「ごちゃごちゃ小娘と何を話してるんだお前は!!」

 急に現れた男に対し激情してザルカは三日月刀を振り下ろす。

 一瞬、その体を三日月刀が両断したように思えた。だがそれは残像であり、ザルカの背後へと音もなく移動する黒髪の男。


 「……貴様、中々の使い手のようだな。……だが! この我等の首長処刑刀術の剣技!!」

 「味わうがいいわ!!」






                             「……激流に身を任せ同化する」






 その剣舞の中を、清水のように穏やかに男は移動した。

 その男の華麗な動きで自分達の必殺の技を避けられた事に驚愕する。

 「き、貴様何者だ!!」

 カシム、ザルカ、どちらの言葉だっただろうか?

 それに男はただ沈黙で手を合わせ男達をただ静かに見据えるのみ。

 そしてそれに二人はこの男の正体に勘付く、そして恐怖の声を上げ、そして……。


 「ま、まさかその動き、その静かな目。……拳王様が話していた二番目の弟とはもしや……!」


 


                            



                          「……せめて痛みを知らず安らかに死ぬがよい」







  「ざ、ザルカぁ!!!」

  「う、うおおおおおおカシムぅううう!!!」


 二人はその男に汗を流し形相で三日月刀を振るう。

 その正体が間違いなければ自分達ではとても叶う相手では無くとも、必死の抵抗とばかりに。

 だが、男達の本能的な死は正解だった。カシム、ザルカがその男の横から刃を振り下ろしたその時!!

 男は胡坐座りすると、掌をカシム、ザルカへ向け叫んでいた。









                               『北斗有情破顔拳』!!!







                                  トキ  見参




 「……少し危なかったが、もう大丈夫だ。……すぐに目を覚ますだろう」

 「良かった……! バット……!」

 バットへと安心の笑みを浮かべ小さな体で眠るバットを抱きしめるリン。

 それを微笑みトキとアイリが眺めている。

 アイリは如何したか? それは隠れているのが拳王親衛隊に見つかり、何とか逃げる途中トキに助けられ、リンとバットの事を
 知らせたお陰で今こうやってバットの命は救われたのである。

 「勇敢な少年だ。まるで昔の私の弟のようだな」

 「トキ……さんはケンのお兄さんなの?」

 「トキで構わんよ。あぁ、そうだ。……最も私はケンシロウには兄として禄に構ってやる事も出来なかった酷い兄だよ。
 私の代わりに、もう一人の兄がケンシロウの兄代わりになってくれたお陰で……っと、思い出話をしている暇は無さそうだな。
 ケンシロウは今何処に?」

 「あっちの方角でウイグルと闘っているは。……けど、その前にお願い! マミヤを助けて下さい!」

 「解った、君達は此処に居なさい」




 (ケンシロウ、無事で居てくれ。……そしてラオウ。……このような暴虐を……貴方はただ黙認しているのであれば……私は)



  ただ一人の兄へ対し複雑な感情を抱きトキは歩みを進める。




                     


                                ……誓いの日は迫る。










 「……ケンシロウが……迫っているか」

 「はっ、……如何いたしますか?」

 「……ふんっ、……聖帝との決着の前に、どれ程の成長をしたか見てやろうではないか」


 黒王号に跨りながら、不穏の声を上げて王はケンシロウ達の居る方向へと歩みを向ける。……果たして運命は……。









 


 「……総統。……G-5付近で紛争が何やら激突が」

 「……北斗神拳伝承者ケンシロウ。……そして南斗水鳥拳伝承者レイ。……! ほぉ……トキも居るのか。……拳王の
 接近する確立は70%と言った所だな。……試作品を送れ。……戦闘データを得る機会だ。……私も共に行こう」

 そして一つの司令室で軍服を纏った男の指令が飛ぶ。……そして暗躍していた男が重い腰を上げようとしていた。











 「……あれは……ケンシロウにレイに……。……拳王軍、か。……ジャギの為にも人数減らすべきだよね」

 一人の女性が双眼鏡を手にしつつ遠方から集団を見下ろす。……そしてバイクへ飛び乗ると、丘を下りその集団へ近づくのであった。
 ……何やら大荷物をバイクへと携えながら。








   





                          ブウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥン……!!!


 そして、そのケンシロウ達の居る場所へと、荒野の砂埃を舞い散らせバイクが疾走している。

 「くそっ!! ジュウザの裏切り者が! なぁにが『悪い! ちょいとトウの様子が気になるから先に行っててくれ! 大丈夫、骨は
 拾っておいてやる』だ!! ……まぁジュウザが居たらややこしくなりそうだからこの際好都合か……待ってろよ
 ケンシロウ、ラオウ! すぐてめぇらの元に行くからよ!!」

 一つのバイクが疾走する。途中襲い掛かろうとするモヒカン達を振り払いつつバイクは止まらない。

 仮面の男は遠方に見える噴煙をじっと睨みつけるのであった。







                             




                       ……また交差する星々。……次に死の運命を背負いつつ。











        後書き


    某友人『この作品のキャラで人気投票したら、俺とキムが同列で一位だろ(笑)!!』 







   (´・ω・`)…………ジャギじゃ駄目なのか。



          


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
2.06478500366