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社説:リビア情勢 「密室」下の弾圧やめよ

 激しい民衆運動が中東各地で続いている。北アフリカでも、ペルシャ湾岸でも。特にリビア情勢は重大局面を迎えたようだ。最高指導者カダフィ大佐の次男であり後継者と目されるセイフ・アルイスラム氏が国営テレビで演説し、リビアは「内戦の危機」にあると語った。リビア第2の都市ベンガジは反政府派の支配下に置かれ、首都トリポリでも反政府運動が広がっているという。

 セイフ氏の危機感に満ちた演説の真意は不明だが、今後は抗議行動を内戦とみなし、市民であろうと容赦なく攻撃するという含みがあるなら言語道断である。国際人権団体によると、16日からの反政府デモの死者は230人を超えた。政権側は死者を84人としているが、犠牲者が多いことに変わりはない。死者数はその後も増えているだろう。

 強権的な取り締まりであるのは明らかだ。そもそもリビアは入国・報道規制が厳しく、何が起きているのか見えにくい。リビア当局は密室のような状況を改め、外国メディアの取材を広く認めるべきだ。

 リビアは、先に政変が起きたチュニジアとエジプトに挟まれ、地形的に反政府運動が波及しやすい。しかもエジプトのムバラク前大統領の在任が約30年だったのに対し、カダフィ大佐は69年の実権掌握以来、もう40年以上君臨している。石油資源がある割にリビアの庶民生活は苦しく、30%ともされる失業率はエジプトより悪い。石油収入はもっぱら政権支持派を潤してきたという。

 それにカダフィ大佐の人気も衰える一方とあっては、政変飛び火の条件はそろっていたと言うべきだ。80年代には米国から「中東の狂犬」と呼ばれた大佐は、90年代になると対米批判を控え、次第におとなしくなった。米英が88年の米パンナム機爆破事件についてリビアの関与を指摘し、91年の対イラク戦争(湾岸戦争)に続いてリビア攻撃の可能性をちらつかせたからだろう。

 米ブッシュ政権が大量破壊兵器を理由にイラク戦争に打って出た03年、リビアは大量破壊兵器計画の廃棄を宣言して米国を喜ばせた。06年には米国がリビアに対する「テロ支援国」指定を解除した。しかし、カダフィ氏の対米姿勢の転換が国民の疑問を呼び、他方ではカダフィ一族への富の集中も顕著になって、人心はさらに離れることになった。

 カダフィ大佐は、52年にエジプト革命を起こしたナセル大佐(後に大統領)のアラブ民族主義の信奉者だった。しかし、今の大佐はナセルのような信望を集める人物ではない。「英雄」たらんと強権を振るうのではなく、これ以上民衆の血を流さない方策を考えるべきである。

毎日新聞 2011年2月22日 2時31分

 

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