「政局」と「政策」の言語とシンボル - 落合恵子と鳥越俊太郎の凋落
本日（2/24）の朝日が、また小沢叩きの社説を掲載した。2/19、2/22に続いて一週間に三度目で、二日に一度のペースで小沢攻撃のキャンペーンを絶叫している。常軌を逸した乱発と暴走としか言いようがない。テレビのニュース番組は、NZの地震とリビア情勢の報道で埋められているのだが、朝日にとっては小沢叩きの連呼こそが新聞の使命なのだろう。あまりに度を過ぎた偏執狂ぶりに空いた口が塞がらない。こうして社説で叩き固めたからには、その主張の「正しさ」を証明すべく「世論調査」を出す魂胆なのだろうが、一足先にYahooがネットでの世論調査を公開しているので注目しよう。「党員資格停止の処分についてどう思うか」という設問に対して、「そもそも処分は不要」の回答が60％で圧倒的に多い。マスコミ報道の方では、2/14にNHKが世論調査を発表していて、「議員辞職すべきだ」が54％、「離党すべきだ」が21％とあり、ネットとマスコミで全く逆の結果となっている。こうした状況は昨年9月の代表選のときも顕著で、マスコミの世論報道では菅支持が多数だったが、ネットの世論では小沢支持が凌駕していた。ネットの世論調査はサンプルに偏りがあり、つまり、代表選の立会演説会に集まった新宿西口前の聴衆を対象にアンケート調査をするような具合になる。この政治に高い関心を持っている層の声が出る。全体の平均値とは看做せない。しかし、だからと言って、ネットの世論調査が意味のないものだとは言えない。
マスコミの世論調査とネットの世論調査と較べて、どちらが信憑性が高いかと言えば、マスコミの調査結果の方だろうと私も判断する。一般的で平均的な傾向は、マスコミの世論調査の方が正確に捉えているだろう。だが、昨年と状況を比較したとき、小沢問題についての世論の中身は、少なからずネットの方に真実が移動している実感を抱くのも打ち消せない。小沢問題に限定して言えば、ネットの世論調査のサンプルは、市場調査で言うところの「アーリーアダプター」とか「インフルエンサー」の性格を帯びている印象を持つ。そして、これまた小沢問題の政治に限って断言すれば、ネットの方が明らかに圧倒的に情報が多く、濃く、マスコミ報道が一面的な情報の垂れ流しであるのに対して、ネットの方は2年間にわたって多面的で重層的な情報が発信され蓄積されている。旺盛な関心と探求と論議のベースがある。この点は誰も否定できない。小沢問題の政治言論について言えば、インテリジェンスとリテラシーはネットの側にあり、信頼できるオーソリティーの説得力はネットの内部にある。ネットで情報を収集し点検している者の方が、マスコミ報道しか情報源を持たない者よりも、この問題では正確で妥当な判断と認識を持ち得る。と言うことは、半年先には、小沢問題については、ネットの世論調査の方がマスコミの世論調査よりも正しいと感じる者が増えているという想定になるだろう。真実が移動し、マスコミの立場的正義の蓋然性が崩れて行くに違いない。
昨日(2/22)のテレ朝のワイドショーで、落合恵子が、「いま解散すると言って、それじゃ私たちどこに投票すればいいの」と大袈裟な身振りでコメントし、今の政局そのものを批判する場面があった。国民不在論を言い、永田町不毛論を言い、政局騒動している場合じゃないと政治家批判をしていた。この言い草は、2/20にTBSの週末番組で大宅映子が言っていた台詞とそっくり同じだ。きっと、落合恵子は大宅映子が出演したテレビを見ていたのだろう。政局報道で商売しているマスコミによる、定番パターンの政局批判と永田町批判の一般論である。落合恵子とか、佐高信とか、いわゆる市民系左派のニーズに対応するバランス・ピース（駒）の役割でテレビ出演している連中が、こうやってマスコミのプロパガンダを復唱する。そうするとプロパガンダ色が抜かれる効果となり、中立的な公論に化学変化し、世間に対する説得力になる。そして、高額なギャラを懐にする。マスコミに登場する左翼ルーティンメンバー。彼らは、政治言論がマスコミ対ネットの構図にシフトしつつある今、むしろ有害で無用な反動の存在になりつつある。老衰による思考停止もある。驚いたのは鳥越俊太郎のコメントで、何と、経団連の米倉弘昌の「与野党議員は給料泥棒」の発言を「そのとおりだ」と持ち上げ、強い調子で同意と共感を表明したのである。鳥越俊太郎は、4月からの降板が噂されているが、その人事と関連しているのだろうか。生き残りのための転向なのか。
最近のテレビ報道では、キャスターもコメンテーターも、総動員で「政局ナンセンス」論を吐き捨てる合唱が続いていて、小沢一郎は退場しろと言い、菅直人は政策（消費税・TPP）に邁進しろと言い、自公は予算に協力しろと喚いている。「国民不在の政局劇」への怒りと憤りを宣伝扇動している。「政局ではなく政策をしろ」という大義を拡声器で流し続けている。この「政局ではなく政策を」の一般論は、政治や政論を批判して自己の立場の正当性を主張する際の常套句で、常識の投擲として威力があり、誰もが簡便なフレーズとして頻用するものだ。私自身も例外ではない。しかし、一般論としてこのフレーズの中身を考えても、政治である以上、政策を実現するためには政局の媒介は必須なのである。多数派となって権力を握らなければ、党派勢力は自己の目指す政策を実現することができない。現在の各勢力の「政局」と「政策」の論理を見てみよう。例えば、自民党は参院選で勝利を収め、形式上は掲げる政策に直近の民意を得ているのであり、今国会で与党に譲歩しなくてはならない理由はないのだ。折れるべきは菅政権である。小沢系についても、マニフェストに回帰せよという主張は至極当然で、これが正論でなければ民主主義も選挙も根本から成り立たなくなる。妥協するべきは公約違反の菅政権の方だ。自民党も、小沢系も、予算案に反対する立場と主張には民主主義のルールに基づいた正当な根拠があり、不当なのは予算修正に柔軟に応じようとしない菅政権に他ならない。
民主主義は多数決の原理だが、多数派の独裁を許しているわけではない。少数意見の尊重も民主主義の重要な原則である。しかるにマスコミは、「政局ではなく政策を」と言いつつ、少数派の側の「政局」のみ責め、多数派の側の「政局」を「政策」だとスリカエて正当化している。実際には、道理なき「政局」に爆走しているのは菅政権の方であり、政治を混乱と停滞に陥れている責任は菅政権にある。自公社や小沢系の責任ではない。にもかかわらず、マスコミはその実態を正視せず、放送法を逸脱して菅政権の擁護と翼賛に徹し、ネガティブな「政局」の表象を小沢派と自公社に押し被せているのだ。一般に政治を語る文脈において、「政局」と「政策」の語がコントラストで扱われるとき、「政局」は悪性の意味を帯び、「政策」は良性の言語として機能する。これは常識だろう。政敵に「政局」のレッテルを貼り、自らに「政策」のバッジを光らせようとする。「政局」と「政策」のシンボルの争奪戦が行われ、言語をめぐるドッグファイトが演じられる。現在、マスコミの報道と論説は、「政策」というプラスシンボルを菅政権の側に独占させ、「政局」というマイナスシンボルを小沢系に糊塗している。良識派と目される鳥越俊太郎の、米倉弘昌を担いでの政局批判には絶句させられた。経団連が菅政権を全肯定し、小沢系を排斥するのは、まさに政策そのものの動機からではないか。消費税増税とTPP加盟のため、小沢系の抵抗を「国民に無益な政局」だと貶めるのである。真実は、小沢系の政策が経団連にとって不利益なのだ。
同じく、右の大宅映子や岸井成格も、左の落合恵子や鳥越俊太郎も、異口同音にして言うのは、「予算を人質にするな」のフレーズである。大越健介も毎晩のようにこの念仏を唱え続けていて、小沢系や野党が予算を人質にして政争をしていると口を極めて非難している。全く政府の代弁だ。政治的公平の自制と禁欲の感性がどこにもない。人質とは、「交渉を有利にするために、特定の人の身柄を拘束すること」の意味だが、果たしてこの政局で予算を人質にとっているのはどの勢力の側なのか。例えば、社民党の要求に従って、辺野古基地建設費を計上から除外し、法人税減税を予算案から撤回すれば、それで菅政権の予算関連法案は成立するのである。何故、左派の落合恵子と鳥越俊太郎は、その方向での要請をコメントしないのか。予算は国会で審議して決めるもので、官僚が作った予算案にめくら判を押すのが国会の役目ではない。ねじれ国会ならば、与党側が修正に応じて当然で、国民生活が大事だと言うのなら、政府与党が率先して譲歩すればよいではないか。マスコミは、予算審議の座礁を野党と小沢系に責任転嫁するが、国民生活に対応する行政責任は与党の側にあるのである。落合恵子の政局批判と鳥越俊太郎の経団連翼賛の論は、中身としては、官僚の予算をそのまま国会で通過させよという暴論であり、政府の予算案に抵抗する者は国民の敵だと言っているのと等しい。妥協して予算を成立させられないのなら、解散して総選挙をすればよいのだ。それが議会制民主主義の手続きではないか。
このマスコミの「政局」と「政策」の議論で、完全に見落とされている重大な問題がある。それは、政策の対立軸の問題である。マスコミは、小沢系対菅政権の抗争を「国民不在の無意味な政局」だと決めつけて罵倒する。単純化した図式を国民に刷り込み、マスコミの罵倒に国民も声を合わせるよう同調を求める。永田町叩きを斉唱せよと迫る。しかし、小沢系対菅政権の政局は、一見して政局すなわち権力闘争のように見えるけれど、実は政策が対立しているのであり、政策対立が政局抗争として現象化している姿なのである。この事実について、マスコミは最近は全く言わずに伏せている。消費税増税とTPP加盟の是非が問われているのであり、官僚主導と政治主導の問題が問われているのが本質だ。単純な政局抗争ではなく、国民生活に直結する深刻な政策対立が根底に横たわっている。ネットの政治言論の状況は、次第に熱を帯びていて、この政局動向を歓迎する姿勢にある。解散を積極的に求め、政界再編を求める主張が澎湃として起こり沸騰しつつある。マニフェストを守る勢力の台頭と勝利を切望している。それを無意味な「政局」だと罵って蔑み、政治不信の世論を無理に掻き立て、小沢系を排撃し抹殺しようとしているマスコミ論者の態度とは決定的に違う。この「政局」が「政策」を伴った政治であることを理解し、マスコミの世論工作に騙されていない。今、右（大宅・岸井）も左（落合・鳥越）も、説得力を喪失している。日本のマスコミは、小沢問題という大きな政治問題を契機にして、大きく国民への説得力を後退させてしまった。マスコミの論者からは、何も建設的な発想が出ない。問題の本質が誠実に捉えられていない。
