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冤罪訴え 人生めげず

2011年02月19日

 強盗殺人事件で逮捕・起訴され、冤罪(えん・ざい)を訴えながらも、無期懲役刑で29年間服役し、仮釈放された男性2人の再審請求が決定するまでを追ったドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」が2010年キネマ旬報の文化映画部門で1位になった。20日に表彰式がある。この映画の監督を務めた井手洋子さん(55)は、鹿島市古枝出身だ。映画は3月19日に首都圏で公開されるが、井手さんは地元・鹿島市での上映会への協力を求めている。(長沢豊)
 1967年8月に茨城県利根町布川(ふ・かわ)で、一人暮らしの大工(当時62歳)が、自宅8畳間で殺された。強盗殺人の犯人として近くに住む建設作業員桜井昌司さん(64)と造園業杉山卓男さん(64)が逮捕・起訴され、78年に無期懲役が確定。96年に仮釈放され、2010年に再審が開始された。「布川事件」と呼ばれている。
 映画監督を務めた井手さんは高校卒業後、東京の大学に進み、様々な仕事を経て映像の世界に入った。井手さんは偶然、彼らと知り合った。
 2人は20歳と21歳だった時から29年間「獄中」にいた。仮釈放後、駅の発売機で電車の切符を買えない。廃屋同然となった我が家にぼうぜんとする。普通のおじさんになるために、多くの障害を乗り越えなければならなかった。
 井手さんは、2人が仮釈放された1996年から、再審が始まった10年までを自身のビデオカメラで記録。受賞作の映画(158分)にした。井手さんは監督のほかにも制作、編集、ナレーションも自ら担当した。
 映画作製の過程で、井手さんは2人が持ち前の明るさで、たくましく新しい暮らしを築いていく姿に驚く。そこから映画の副題を「フツーのおじさんになるためにめげない、あきらめない、立ち止まらない」とした。
 映画が1位を受賞したことについて、井手さんは「事件と2人の人生を思って欲しい。映画では冤罪に対する主義主張を強調はしなかった。ごく普通の人たちが予期せずに巻き込まれる、という事例を身近に感じ、被疑者の人権とは何なのかなどを考えてくれたら」と話している。
 映画は東京新宿ケイズシネマや横浜ニューテアトルで3月19日から一般公開される。今のところ、九州各地での上映は予定されておらず、井手さんは自主映画会への協力を求めている。問い合わせは「ショージとタカオ」上映委員会(03・6273・2324)へ。

 【布川事件】
 1967年8月、大工の男性(当時62)が自宅で絞殺され、10万円余が奪われた事件。近くに住む桜井さんが窃盗、杉山さんが暴力法違反の容疑でそれぞれ別件逮捕され、殺害を「自白」。2人は公判で無罪を主張したが、78年に最高裁で無期懲役が確定。96年に仮釈放された。2001年の2度目の再審請求を受け、水戸地裁土浦支部が05年に再審開始を決定。最高裁が09年12月、検察側の特別抗告を棄却して再審開始を認め、同支部で10年7月から公判が始まった。

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