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航路:広島港-切串に乗る 島を支えるフェリーに逆風 並走する道路の無料化 /広島

 南区と呉市を結ぶ広島呉道路(クレアライン、約16キロ)の無料化社会実験などの影響で、広島湾を並走する広島港-江田島・切串の航路は、旅客が前年より1割近く減った。同航路を運航する上村汽船(南区)のフェリーに乗船し、実情を取材した。【樋口岳大】

 平日の昼下がり。広島港発のフェリー1階「シルバー室」に女性(80)が座っていた。女性は江田島の北端、切串の近くに住み、週3回、フェリーで南区の病院に通う。足が悪く、長年通い慣れた病院で治療とリハビリに専念するためだ。「島には総合病院がなくバスも不便。船で広島市内に通院できるのはとても便利で、船がなくなったら困る」と語った。

 高齢化が進む江田島市。65歳以上の人口割合は32・8%で県平均(23・4%)を超える。現在約2万7000人の人口は04年の旧4町合併時から1割減った。

 人口減とともにフェリー利用者も「自然減」が続く。さらに昨年6月、広島呉道路の通行料(普通車全線で900円)が無料になり、車と人の流れが劇的に変わった。道路の交通量は1日約2万5000台に倍増した一方、フェリーは通勤や商用、自衛隊員らの利用が目に見えて減った。

 上村隆彦社長(55)は、高速道路にだけ極端に税金をつぎ込み、無料化する政策に異を唱える。「道路も船も同じ。使った人がお金を払う受益者負担が当然じゃないか」。このまま乗客が減れば、減便も考えざるを得ない。さらに数年後に第2音戸大橋が開通し、道の混雑が解消されれば、さらに乗客が奪われるのではないか。逆風が続く。

 海と島と空に抱かれながら30分。船は切串に着いた。ただ--。上村社長の目にぐっと力が入った。「島の人の足はね、確保しなくちゃいけない。できるだけのことをやるしかない」。

 ◇島にあるものを生かそう--上村汽船船長・奥本剛さん(38)

 「高速道路を安くすれば、どこにしわ寄せが行き、どれだけの人が困るかを考えないと」。高速道路割引・無料化政策を批判する静かな口調には、船員になって20年近く広島港-切串航路を守り、島の暮らしを支えてきたという自負がにじむ。

 江田島出身。幼いころから船が好きで船乗りを志した。船内で乗客の顔を見て手渡しで切符を売る。親しくなった乗客から「大変だろうけど頑張って」と声をかけられることもある。

 「日本陸海軍艦船研究家」という顔も持つ。江田島など広島湾周辺にあり、一般の人でも足を運びやすい44カ所の戦争遺跡を紹介した「呉・江田島・広島 戦争遺跡ガイドブック」(光人社)を09年に出版した。「今のままではいけない。島に今あるものを生かし、情報発信して人を呼び込まないと」。著書にはそんな思いも込められている。

毎日新聞 2011年2月17日 地方版

 
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