東工大、プラスチックを安価につくる触媒を発見
2011/02/22
東京工業大学応用セラミックス研究所の中島清隆助教、原亨和教授らの研究グループは、プラスチック、ポリマー、医農薬などさまざまな化成品の原料となる5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を糖水溶液から合成する触媒を発見した。米国の化学会誌「Journal of the American Chemical Society」で発表された。
HMFは糖から合成される高い付加価値(1kg当たり600〜800円以上、高純度製品は1gが6,000円以上)を持つ化学物質で、ペットボトル、ウレタン、ポリエステルといったプラスチックや医薬品、化成品の原料となるため、石油に依存しない化成品製造の原料として注目されている。
研究グループはセルロースバイオマスから糖水溶液を生産する画期的な技術を2008年に開発しており、糖水溶液からHMFを合成するプロセスは、糖を超臨界水で処理する方法、糖をイオン液体中で均一系ルイス酸触媒と反応させる方法をすでに考案しているが、いずれも多くのエネルギーを消費するため、実用プロセスとして展開することが困難であった。
HMFはグルコースの酸触媒による骨格異性化反応とそれに続く脱水反応によって生成し、ルイス酸という酸がこの反応に有効な触媒であることが知られている。
セルロースバイオマスから糖製造では糖は水溶液として得られる。したがって高効率、省エネルギーでセルロースバイオマスからHMFを合成するには水中でこの反応を触媒するルイス酸が必要となる。しかし、この目的を達成できる物質はこれまで発見されていなかった。
この問題を解決するため、研究グループは今回、含水ニオブ酸(Nb2O5・nH2O)という固体材料の特殊な性質に注目して研究を行った。
同材料はNbO6の8面体とNbO4の4面体で構成されており、NbO4の4面体が正電荷をもつルイス酸として機能することが知られている。従来の常識では金属―酸素多面体のルイス酸は塩基としての水、すなわち水分子の負電荷を持つ部分が結合するため、水中では触媒として機能しないと考えられていた。
しかし、研究グループでは含水ニオブ酸のNbO44面体は水分子が結合しても正電荷を保持し、ルイス酸触媒として働くことを発見。
実際、含水ニオブ酸粉末をブトウ糖の水溶液に入れ、100℃程度に温めると、50%以上の収率でブドウ糖からHMFが生成されることが確認された。反応後、含水ニオブ酸粉末は水溶液から簡単に分離でき、繰り返し使用しても反応の効率は低下しなかったという。
また含水ニオブ酸の粉末を充填した管に、温めたブドウ糖水溶液を通過させることで、連続的なHMF製造が可能であることも確認した。
含水ニオブ酸は低コストで大量合成でき、安定で繰り返し利用できる固体触媒である。また、今回の研究から含水ニオブ酸は分離・回収・再利用にエネルギーを必要とせず、高効率で糖をHMFに変換できることが明らかになった。研究グループがすでに開発しているセルロースバイオマスから糖水溶液を生産する方法を、今回の成果と組み合わせることで、セルロースバイオマスから付加価値の高いHMFを従来の1/5未満の価格で生産できるようになるとしており、その波及効果は以下のように多岐にわたると研究グループでは予想している。
- HMFは高付加価値の化学物質であるため、これまで無駄に、あるいは有償で廃棄されていた農産廃棄物(稲わら、剪定枝など)、非可食資源(事故米、飲食品製造残渣など)や回収・輸送が高コストな間伐材・廃木材を価値のある原料にする
- 多くの化成品の原料を化石資源に依存することなく省エネルギーかつ安価に生産するため、国際情勢、化石資源の埋蔵量・市場取引に大きな影響を受けることなく化成品を提供できる
- 多くの化成品の原料を化石資源に依存することなく省エネルギーかつ安価に生産することは温室効果ガスの低減だけでなく、化石資源の高騰・枯渇時においても社会に必要不可欠な化成品を安定に提供できることを意味する
なお、研究グループでは現在、この成果の実用化に向け、複数の企業と連携して取り組みを行っているという。
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