2010年12月27日 21時22分 更新:12月27日 23時31分
デジタル放送専用のDVDレコーダー販売を巡り、著作権法で定められた私的録画補償金(著作権料)を支払わないのは違法として、映像著作権を管理する社団法人・私的録画補償金管理協会(東京都港区)が家電大手の「東芝」(同)に約1億4700万円の賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、請求を棄却した。大鷹一郎裁判長は「支払いに法的強制力はない」と指摘。補償金はメーカーが視聴者に代わり支払う仕組みだが、判決がメーカーの支払い義務を否定したことで今後に影響を及ぼしそうだ。協会側は控訴する方針。【和田武士】
東芝は09年2月以降に発売したデジタル放送専用の録画機器5機種について「デジタル放送は利用者による複製回数を(10回に)制限する『ダビング10』が適用されており、著作権は保護されている」などとして、出荷価格に上乗せして協会に支払う補償金制度の対象外と主張した。
判決は「制度は著作権保護技術で複製制限が行われている実態を踏まえたうえで導入された」と指摘し、補償金支払い対象になると認定した。
そのうえで補償金制度の仕組みそのものを検討。著作権法の「メーカーは著作権料の支払いの請求及びその受領に関し協力しなければならない」との規定について、「あえて『協力』という抽象的な文言を用いることにとどまっており、法律上の具体的義務ではない」として、メーカーの支払いに法的義務はないと判断した。
協会側代理人の久保利英明弁護士は「デジタル専用機が補償金支払い対象になると認めた点は評価できるが、法的強制力を否定した点は遺憾だ」と述べた。一方、東芝広報室は「請求を棄却した点で妥当な判決。内容を精査し今後の対応を検討する」とコメントした。
【ことば】私的録画補償金制度
テレビ番組を高画質録画できるデジタル方式の機器を使う場合、著作権法により、視聴者は私的録画でもテレビ局などに著作権料として補償金を支払わなければならない。実際には、メーカーが指定機器の出荷価格に補償金(価格の1%で1000円以内)を上乗せして販売し、視聴者に代わって放送局や番組制作会社などでつくる「私的録画補償金管理協会」に納め、協会が著作権者に分配する仕組みが設けられている。99年7月にスタートし、協会によると、08年度出荷分の補償金は計約18億8000万円。
来年7月のアナログ放送終了を見据え、家電メーカーはDVDレコーダーやブルーレイディスクレコーダーなどデジタル放送専用録画機を次々と市場投入している。私的録画補償金管理協会によると、パナソニックやソニーも東芝と同様の理由で一部機種について補償金支払いを見合わせており、判決を受け追随するメーカーが相次ぐ可能性もある。協会の代理人は「企業のコンプライアンスからすれば考えられない行為」とけん制した。
判決は著作権保護の必要性を認める一方、法律の規定があいまいとして、メーカーによる「支払い代行」義務を否定した。確定すればメーカーの対応が分かれることも予想され、「一番困るのは消費者」(文化庁担当者)との指摘もある。判決は視聴者の著作権料支払い義務を前提として判断しており、補償金を価格に上乗せしない社の製品を購入した消費者は著作権料の支払いが困難で違法状態になる恐れもある。
文化庁によると、放送局やメーカー、消費者団体の合意の下に制度ができた経緯から法律も「協力義務」にとどまり、これまで議論にならなかったという。欧米ではメーカーによる支払い代行に法的強制力があるが、メーカー側には反発もある。著作権保護と消費者の利便性の観点を踏まえ、混乱を招かないような法整備が求められる。【和田武士】