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平成23年2月23日記念LAS小説短編 同棲同名 ~アスカとあすか~(使徒襲来世界編)
早朝の葛城家のキッチンで、シンジは自分とアスカとミサトの分のお弁当、そして朝食を作っている。
そこまでは普通の朝だった。

「うぇぇぇっ!?」

静かな葛城家にアスカの悲鳴が響き渡った。

「どうしたの、アスカ!?」

シンジがアスカの部屋に駆けつけると、そこには何とアスカが2人居た。
片方のアスカはシンジがいつも見慣れたタンクトップにショートパンツ姿のアスカ。
もう片方のアスカは、熊さんのキャラクターが入った子供っぽいパジャマを着たアスカだった。

「アンタ、何者よ? どうして、アタシそっくりなのよ?」
「それはこっちこそ聞きたいわよ」

両方のアスカはお互い相手を怪しんでそんな事を言い合っていた。

「もしかして、新手の使徒!?」

タンクトップ姿のアスカがそう言うと、シンジの顔にも緊張が走った。

「何よ使徒って?」

そう言って身を乗り出して来たパジャマ姿のアスカが身を乗り出すと、タンクトップ姿のアスカはパジャマ姿のアスカを突き飛ばす。

「離れなさいよ!」
「痛っ!」

突き飛ばされたパジャマ姿のアスカはしりもちを着いて顔をゆがめた。

「大丈夫?」

その姿を見たシンジは警戒を一気に解いてアスカに駆け寄って助け起こした。

「シンジ、そいつは使徒かもしれないのよ? 早く離れなさい!」
「嫌だ、使徒だったとしても、いきなり突き飛ばすなんてやりすぎだよ」
「シンジ……」

タンクトップ姿のアスカにシンジが言い返すと、パジャマ姿のアスカの表情が華やいだ。

「ちっ、じゃあミサトに言ってその使徒をきっちり殲滅してもらうから!」

タンクトップ姿のアスカはそう言って部屋を飛び出して行った。
シンジは追いかけて引き止めようとしたが、不安そうなパジャマ姿のアスカに腕を引かれて、その場に止まった。

「シンジも、あたしの事は知らないの?」
「うん、残念だけど、さっき話していたアスカしか知らないんだよ」
「そっか……目が覚めたら、あたしの部屋と違う場所に居るし、どうなっちゃうのかしら……」

パジャマ姿のアスカは自然にシンジに体を預けるような形で抱きついてしまっていた。
シンジはそんなアスカを振り払う事は出来なかった。

「あーっ、何でシンジに抱きついているのよ!」

ミサトを連れて部屋に戻って来たタンクトップ姿のアスカは怒った顔で人差し指を突き付けた。
シンジはパジャマ姿のアスカをかばうような発言をする。

「アスカはいきなり知らない場所に来て心細いんだよ」
「ミサト、使徒は色仕掛けを使ってシンジを陥落させるつもりよ」
「だから、使徒って何なのよ?」

言い争う2人のアスカを前にして、腕組みをしたミサトはため息を吐き出す。

「こうなったら、ネルフ本部に来てもらって使徒かどうか検査するのが一番ね」

ミサトの提案に従い、シンジ達は葛城家を出て行こうとしたが、玄関でパジャマ姿のアスカは大声を発する。

「ちょっと、パジャマで外に出て行けって言うの!?」
「そうよ、着替えている暇なんて無いわ」
「……じゃあ、僕のジャンパーを羽織ると良いよ」

シンジは急いで自分の部屋に戻ってジャンパーを持って来ると、アスカに渡した。

「ありがとうシンジ、優しいのね」
「そ、そんな事無いよ」
「ウオッホン!」

いい雰囲気になりかけた2人を邪魔するかのように、タンクトップ姿のアスカはわざとらしく咳払いをした。
ネルフ本部に向かう車の中はミサトが運転席、タンクトップ姿のアスカが助手席、後ろの席にシンジとパジャマ姿のアスカが並んで座った。
運転しながらミサトはパジャマ姿のアスカに緊張をほぐすような感じでそれとなく質問をする。

「ねえ、アスカちゃんの着ているパジャマって可愛いわね」
「これは、ママに買ってもらったから仕方無く……」
「ママって?」
「惣流キョウコ、ミサトも知らないの?」

パジャマ姿のアスカの言葉を聞いて、シンジとタンクトップ姿のアスカは息を飲んだ。
ミサトは心の中で思考を巡らせる。

(……もし使徒がアスカに擬態するとしたら、隣に居るアスカの真似をしようとするはずだわ。となると、後ろに居るアスカは別の可能性が……)

推論を確信に変えるために、ミサトはパジャマ姿のアスカにさらに質問を続ける。

「シンジ君のご両親について教えてくれるかしら?」
「ユイおばさんとゲンドウおじさんの事?」

またもやシンジとタンクトップ姿のアスカは驚いた。
これにはミサトもショックを受けて動揺した。

「ゲンドウおじさんったら、この前なんか町内会を巻き込んで運動会なんか開催しちゃってさ。ユイおばさんをお姫様だっこしたら腰を悪くしちゃったのよ」
「アスカ、その辺で良いから止めて!」

楽しそうに話し出したパジャマ姿のアスカをミサトは慌てて制止した。
いくらなんでも受ける衝撃が大きすぎる。
タンクトップ姿のアスカもシンジも冷汗を流して黙って座りこんでいた。
ネルフ本部に到着すると、リツコ達も実際にアスカが2人居る事に驚いていた。

「さあ、とっとと検査とやらをしちゃってよ」

パジャマ姿のアスカがぶっきらぼうにそう言い放って怒った顔でリツコ達をにらみつけた。

「ごめんねアスカちゃん」
「あ、いえ、別に伊吹先生に怒っているわけじゃないから」

謝るマヤに向かって、アスカは優しい口調でそう答えた。
そして、不安そうな顔でシンジの方をチラッと見つめる。

「ねえ、もしあたしが使徒って事になったら、殺されちゃうの?」
「そんな事無いよ、大丈夫だよ」

優しく微笑みかけるシンジを、タンクトップ姿のアスカは膨れてにらみつけた。
そして、リツコ達に従って医務室に入って行ったアスカをシンジ達は息を飲んで見守った。

「検査の結果、使徒の反応は全く見られなかったわ。まったく普通の人間よ」

リツコがそう言うと、パジャマ姿のアスカは堂々と腰に手を当てて言い放った。

「ほら、あたしを化け物呼ばわりして突き飛ばすなんてひどかったじゃない」
「悪かったわね」

タンクトップ姿のアスカは口をとがらせながらも頭を下げて謝った。

「でも、それならいったいどういう事かしら?」

リツコのつぶやきを聞いて、ミサトは自分の推論を話した。
パジャマ姿のアスカは、こことは異なる世界パラレルワールドからやって来た存在なのではないかと。
話を聞いたリツコ達もそのミサトの仮説に同意した。

「でも、アスカが2人じゃ区別がしにくいわね」
「それじゃあ、アスカA、アスカBにすればいいじゃない?」
「「それは嫌!」」

難しい顔をしてつぶやくリツコにミサトがそう提案すると、2人のアスカは声をそろえて反論した。

「そうね、もとからこの世界に居たアスカを『アスカ』、この世界にやって来た可愛いパジャマ姿のアスカを『あすか』って呼ぶ事にしない?」
「AとかBよりはだいぶマシね」
「まあ、それなら……」

アスカとあすかは納得したようにうなずいた。

「あすか、ちょっと実験に付き合ってくれないかしら」
「何ですか、赤木先生?」

リツコの目が怪しく光るのを見逃さなかったアスカは、あすかの前に立ちはだかった。

「もしかして、エヴァに乗せるつもり?」
「良く分かったわね」
「あすかは今までエヴァなんかに関係無い世界で生きていたのよ? 興味本位で巻き込むなんて絶対許さないんだからね!」
「わ、わかったわよ」

アスカの剣幕に驚いたリツコはやむなく引き下がった。

「さ、早く帰りましょう。こんな所に長く居ると、あすかが実験材料にされちゃうわ!」

怒った顔でそう言ったアスカは、あすかの手を引いて部屋を出て行こうとした。
苦笑しながらミサトとシンジが後を着いて行く。
アスカとあすかは打ち解けた後は双子のように仲良くなっていた。
帰りの車の中ではシンジも入りこめないぐらい話していた。
葛城家に戻ると、アスカとあすかはアスカの部屋で着替える事になった。

「絶対のぞくんじゃないわよ!」
「分かってるよ、命は惜しいしね」

アスカの言葉にシンジはそうため息をついたが、アスカの部屋から聴こえてくる楽しそうな声にはドキドキしていた。

「じゃあ、私はネルフに戻って仕事にかかるから。今夜の夕飯、私の分はあすかにあげて」
「あすかはこれからどうなるんでしょうか?」

シンジは不安そうに顔を曇らせると、ミサトは明るく励ます。

「とりあえず、しばらくここに居てもらう事になるわね。アスカもあすかとすっかり打ち解けたみたいだし、同じ部屋でも構わないと思うわ」
「そうですね」

ミサトの言葉を聞いて、シンジはほっと息を吐き出した。

「シンちゃん、今日から文字通り両手に花生活じゃない、羨ましいわ」
「からかわないでください」

ため息をついたシンジに見送られて、ミサトは葛城家を出て行った。
しばらく考え込んだシンジは、商店街に買い物に出かける事にした。
あすかが来たのでハンバーグを作ろうと思ったのだ。
きっと喜んでくれると思ったシンジは鼻歌交じりに葛城家を後にした。

「これなら鏡が要らないわね」

アスカはあすかに次々と服を着せて、満足気に眺めていた。

「その頭に付けているのは何よ?」
「ああ、これはエヴァのインターフェイス・ヘッドセットよ。エヴァとシンクロし易いように付けているの」
「何かダサいわね。ほら、リボンの方が可愛いわよ」

あすかはそう言うと、アスカの頭からインターフェイス・ヘッドセットを取り外して自分の付けていたリボンを結びつけた。

「そうだ、入れ替わってシンジをからかっちゃおうか?」
「面白そうね、それって」

アスカの提案に、あすかは笑って答えた。
あすかはインターフェイス・ヘッドセットを自分の頭に付けた。

「あ、あの服なんか着てみたいわね」

あすかはそう言うと、部屋にかけられていたレモン色のワンピースを指差した。

「アンタ、持ってないの?」
「ママはあたしに可愛らしい服を着せるのが好きなのよ。だから、持っている服もフリフリのフリルが付いたものとか、そんなのを勧められちゃう」
「……アンタのママって、アンタを愛してくれている?」
「うん、もう面倒になるぐらい抱きしめてくるのよ……あっ」

暗そうな表情になったアスカを見て、あすかは気まずい表情になる。

「ごめん、あんたの気持を考えずにこんな事言って」
「謝らなければいけないのはアタシの方よ、勝手に落ち込んだりして」

アスカは軽く首を振ってそう言うと、あすかの脱いだパジャマを拾い上げて顔を赤らめながら尋ねる。

「このパジャマ、アタシも着てみていい?」
「良いわよ、少しきつくなって来た所だし、アスカにあげる」

あすかの言葉にアスカは喜んだが、あすかの胸やお尻を見ると少しむくれた表情になる。

(……どうせ、アタシはガリガリですよーだ)

アスカは心の中でそうつぶやいた。
夕食の席で、アスカはシンジがあすかがアスカだと騙されるいたずらを楽しみにしていた。
頭のインターフェイス・ヘッドセットとリボンが入れ替わっているのに気が付かないはずだ。

「あすかの口に合うと良いけど……」
「あ、ありがと」

あすかは戸惑ったようにシンジに答えた。

「どーして分かったのよ!?」
「そ、それは……」

シンジは気まずそうにレモン色のワンピースを着るあすかの開いた胸元に視線を送った。

「この、スケベっ!」

顔を真っ赤にしたアスカは思いっきりシンジの足を踏みつけた。
そんなハプニングもあったが、3人は夕食を食べ始めた。
アスカは少しむくれた表情になっていた。
シンジは今夜のおかずはアジの開きと肉じゃがだと言っていたのに、あすかが来てハンバーグを張り切って作ったのに腹が立ったのだ。
あすかとシンジが楽しそうに話しているのにもさらに腹が立った。
しかし、アスカは怒って自分の部屋に戻ると言う事はせず、不機嫌ながらもシンジとあすかの会話に参加していた。
せっかく姉妹のような存在ができたのに1人になるのは寂しかったのだ。

「でも、学校ではあすかの事をどう説明したらいいんだろう?」
「ええっ、あすかを学校に行かせるの?」
「だって、ずっとあすかを家に閉じ込めておくわけにも行かないじゃないか」
「生き別れの姉が居たって言うのが一番無難かもね」
「何でアタシが妹になるのよ?」
「だって、あたしの方が背もスタイルも良いし」

あすかが自慢気に胸を張ると、アスカは渋い顔になった。
外見が似ている2人だが、夕食の後に見るテレビの好みは違った。

「こんなトーク番組、面白くないじゃないの」

アスカがチャンネルを変えた。

「ハプニング映像番組なんて、つまんない」

あすかがチャンネルをトーク番組に戻した。
そのうちアスカとあすかはリモコンを奪い合い取っ組み合いのケンカになってしまった。

「仲が良かったと思ったら、急にケンカするんだから」

シンジは疲れた顔でため息をついた。
アスカがお風呂に入って居る時、あすかとシンジはリビングで2人きりになった。

「今日は助けてくれてありがとうね」
「そんな、あすかの事を放っておけなかったから……」

シンジは照れたように頭をかいてそう答えた。

「でも、シンジってばレイにも優しくしてあげるんでしょう?」
「うん、綾波も放って置けないところがあって」
「それは結構なことだけどさ、自分を放って置かれてレイと仲良くしているシンジを見ているとイラつく事があるのよね」

あすかがそう言ってため息をつくと、シンジは驚いて目を丸くする。

「えっ、それってあすかが僕の事を気にかけているって事?」
「ま、まあ、そんな所ね」

あすかは少し顔を赤らめながらもシンジの言葉を否定しなかった。

「アスカってば、いつも僕に辛く当たるから、ストレートに甘える加持さんの事が好きだとばかり思っていたよ」
「あんたの事だから、そうだろうと思ってたわよ」

あすかは再びあきれたようにため息をついた。

「じゃあアスカも僕の事を気にかけているのかな?」
「調子に乗るんじゃないわよ、あんたは加持さんに比べたらまだまだガキよ」

少し嬉しそうに笑顔を浮かべたシンジに、アスカはそう言い放った。

「そっか……でも、どうしてあすかは僕に話してくれたの?」
「あたしが使徒かもしれないってアスカに言われても、助けてくれたのが嬉しかったからかな」
「ずいぶんと仲良くなっているじゃない?」

あすかとシンジが見つめ合って話していると、お風呂からあがったアスカが鋭い目つきでにらんでいた。
そして、アスカはシンジ達に言い訳する時間を与えずに怒った様子で部屋の中へと入って行った。

「さすが、我ながら分かりやすい怒り方ね」
「僕が綾波とばかり話していると、アスカを怒らせてしまうのか」
「ま、あたしの顔色ばかりうかがうようになっても困るけど、少しは鈍感を直してアスカを気にかけてやってね」
「うん、何かあすかってアスカのお姉さんみたいだ」
「な、何を言ってんのよ!」

あすかは照れ臭そうに逃げるようにお風呂へと入って行った。

「アスカ、またあすかと仲が悪くならなければいいけど……」

アスカと仲直りしたくても、良い言葉が思い付かないシンジはリビングでそう祈るしか無かった。
あすかがお風呂から出て来て、アスカの部屋に入る。
部屋の中から2人の話声が聞こえるが、すぐにあすかが追い出されない所を見ると、アスカもそんなには怒っていないらしい。
安心したシンジはお風呂に入る事にした。

「そうだ、アスカのシャンプーの減りが2倍速くなるんだっけ、気を付けないと……」

シンジはそんな事を心配していた。

「何よ、シンジとの仲良し話は終わったの?」

アスカの部屋にあすかが入ると、アスカは背中を向けたままそう嫌味を言った。

「あたしにシンジを取られそうだって、嫉妬しているの?」
「別に、嫉妬なんかしてないわよ!」

あすかに言われたアスカは勢い良くあすかの方に振り返った。

「隠さなくても分かるわよ、同じあたしなんだから。まあ、加持さんに比べると情けなくて頼りないけどね」
「そうね、加持さんよりは落ちるけど……ね」

渋々ながらアスカもあすかの意見に同意した。

「でも、シンジの方もアスカに気があるみたいじゃない。あたしとあんたが入れ替わってもすぐに見抜いたし」
「あいつ、アタシの事をやらしい目で見てただけよ」
「仕方無いじゃん、男なんだから。あたしもしんじからそう言う視線を感じた事があるし」
「ずいぶん余裕じゃない。もしかして、しんじとキスは済ませたの?」
「ええ」
「ふーん」
「5歳ぐらいの頃したらしいわ。あたしもしんじも良く覚えて無いけど」
「それって、してないのも同然じゃない」
「じゃあ、シンジとキスしちゃおうかな?」
「何ですって!?」

アスカが血相を変えて叫ぶと、あすかは大きな声で笑い出した。

「ほら、やっぱりシンジが気になるんじゃない」
「くーっ、騙したわね!」
「素直になれないのは分かるけどさ、少しは優しくしてあげないとレイにシンジを取られちゃうわよ」
「そんな恥ずかしい事できるわけ無いじゃない!」
「嫉妬してもシンジが気付かなくちゃ意味が無いわよ」
「解ったわ、ほんの少しだけ優しくしてやってもいいわよ」

ふくれた顔でアスカがそう言うと、あすかは満足そうにうなずいた。

「でも、あすかがこのままずっと元居た世界に帰れなかったら、シンジの事を好きになったりするの……?」
「それは……」

アスカとあすかは気まずそうに見つめていた。
しばらくの間、沈黙が流れた後、その雰囲気を壊そうとあすかが声を掛ける。

「もう寝よっか」
「そうね」

アスカはあすかからもらったパジャマに着替えた。
そして、毛布を持ってきて床で寝ようとした。
あすかはそんなアスカに声を掛ける。

「あたしが床で寝るわよ、ここはあんたの部屋なんだからさ」
「アンタこそ、朝から色々あって疲れたでしょう? ベッドはアンタに譲るわよ」

アスカの言葉を聞いたあすかはため息をつくと、後ろからアスカを抱きあげて、ベッドへと運ぶ。

「こうして2人ともベッドで寝ればいいじゃない」
「でも、それじゃあ狭いでしょ?」
「別にあたしは構わないけど」
「じゃあ、アタシが壁際に代わってあげるわ」

アスカが顔を真っ赤にして言うと、あすかは苦笑を浮かべた。
これはアスカが壁際に代わりたいと言う強い意思表示だ。

「ありがと」

あすかはそう言ってアスカと位置を変わった。

(……ありがとうを言うのはアタシの方よ)

アスカは心の中であすかに感謝した。
ベッドで誰かと2人で寝る事はアスカにとって初めての事だった。
その事がこんなにも心地が良い事だとはアスカは思ってもみなかった。
今日は悪い夢を見なくて済むと思ったアスカはすぐに眠りについてしまった。

「ママ……どうして死んじゃったの……?」

眠りかけていたあすかはアスカのつぶやきを聞いて目を覚ました。
そして涙を流すアスカを慰めるようにギュッと抱きしめる。

「あたしは、ママの代わりにはなれないけど、アスカのお姉さんになるから。寂しい時ずっと側に居てあげるから……」
「ごめん、ありがとうあすか」

アスカもあすかの胸に抱かれ、安心したように眠りについた。
そしてその翌日。
なかなか起きて来ないアスカとあすかを心配してシンジがアスカの部屋に足を踏み入れると、シンジは驚いた。
ベッドにはアスカとあすかの姿が無かったのだ。

「ミサトさん、大変です! アスカとあすかが居ないんです!」
「アスカとあすかが居ないですって!?」

たちまち葛城家はパニックになった。
そんな葛城家の様子を遥か遠く、赤い空が広がる世界から眺めている2人の男女の姿があった。

「上手く行きそうで良かったわね」
「うん、アスカがあすかを使徒だと言って突き飛ばした時はどうなるかと思ったよ」
「今度はこっちの世界の番ね」
「もう、アスカはあすかをすっかり信頼しているから大丈夫だと思うよ」
「神様って言うのも、意外と大変ね。使徒を倒しちゃったり、ママを復活させるとか、奇跡を起こしちゃえば良いんじゃないの?」
「ダメだよ、人間はなるべく人間の力で物事を乗り越えさせなくちゃ」
「人の可能性か。アタシも早くシンジの事を信じて居ればアタシ達の居るこの世界はこんな結末にはならなかったのに」
「悔やんでも仕方無いよ、僕達は世界を想像する力は持っていてもやり直す事は出来ないんだからさ」
「はいはい、これからもアンタの暇潰しに付き合ってあげるわよ」
「暇潰しとは酷い言い方だなあ。でも自己満足に過ぎないかもしれないけどね」

シンジは少し寂しそうな顔で微笑んだ。

「そうだ、お腹が空いたからハンバーグ作ってよ。シンジが作っているのを見たら食べたくなっちゃった」
「神様になってもお腹が空くんだ?」
「気持ちの問題よ!」

アスカの言葉にシンジは苦笑して、何も無い空間に1軒の小さな家を出現させた。
そしてアスカとシンジの2人は楽しそうにその家の中に入って行くのだった。
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