[評者]青木るえか
[掲載]週刊朝日2011年2月25日号
■BL的妄想をかきたててくれる
なんか有名ですよね、『ガロア』。
数学の天才で若くして決闘で死んだ、という話はやたら知られている。顔はよくわからないが、悪くなさそう。ボーイズラブ小説の登場人物みたいでドキドキさせられる。しかしBL小説の登場人物の職業や家柄がやたら凝ってるのに読んでもまったく実態がわからない(20代で巨大コンツェルンCEOなのに、美少年と恋愛というような)のと同様、ガロアの数学上の業績もまったくわからない。いや、知ろうとしないこっちが悪いんだが、BL小説的なカラッポの印象が強いのだ、ガロア。
なのでこの本を見つけた時は「これを待っていた! 遅すぎた発刊だ!」と喜んだ。期待に違わず、最初のほうは「巻を措く能わず」で、というのはガロアの親から説き起こして詳細に生い立ちを書いていて、その生い立ちというのが、勝手に想像していたBL小説的ガロア像より、さらにもっとBL的妄想をかきたててくれる。文化的な家庭に生まれて母は美しく、当時最高のリセ(このリセ、というのもたまらん)に進学するが、自分の好きな数学の勉強しかしないから劣等生として扱われ、次の学校では放校。退学より放校というほうがロマンがある。『車輪の下』っぽくもある。肖像画はいい具合にイイ男で、革命に片足つっこんでるあたりもかっこいい。ホントにドキドキの展開なのですよ。
そして「ガロアといえば決闘」の問題についても、現在わかっていることを丁寧に書いてある。いろいろな説を紹介したあと「決闘の原因はわからない。『陰謀説』、『自殺説』、『恋愛説』のどれも魅力的なシナリオであるが、どれも決定的ではない」として、どの説が真実であっても「偉大な数学の才能捨ててまでやることじゃない」と著者は憤慨する。もっともだ。しかし私はそれを読んでハッとした。というのも本の途中に出てきていた、ガロアが完成させた数学の理論の部分をつい後回しにして読んでなかったからだ。今からそこをじっくり読みます。
著者:加藤 文元
出版社:中央公論新社 価格:¥ 882
著者:ヘッセ
出版社:新潮社 価格:¥ 340