2.中水準消毒薬
3)次亜塩素酸系
(1)次亜塩素酸ナトリウム 1〜5、7、8、39)
1 特徴
ごく低濃度においても細菌に対して速効的な殺菌力を発揮し、またヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎ウイルスなどウイルスに対する効力の面でも最も信頼のおける消毒薬である。1,000ppm(0.1%)以上の高濃度であれば結核菌を殺菌することもでき、この濃度においては高水準消毒薬に分類される。ただし有機物による失活がきわめて大きいため、血液などを消毒する場合には5,000〜10,000ppm(0.5〜1%)の濃度で使用することが必要である。
比較的短時間で成分が揮発し残留性がほとんどないという点で安全であるので、食品衛生や哺乳びんの消毒などに低濃度で繁用されているが、金属に対する腐食性が高いため医療器具への適用はプラスチック製品などに限られる。漂白作用があるためタオルなどリネンの消毒にも適しているが、色物のリネンを脱色する。物品、環境への使用も可能で、非生体消毒薬として最も有用な消毒薬のひとつであるが、腐食性や塩素ガス発生の危険性などを考慮すると高濃度溶液を広範囲に使用することは避けるべきである。手指、皮膚などへの適用も認められているが、手荒れを招く場合が多く、持続効果も期待できないので生体適用が適切な場合はほとんどない。酸との混合により多量の塩素ガスが発生するため、この点で取り扱い上の安全性に留意が必要である。また原液の濃度において安定性が悪く、冷所保存をしなければ比較的短期間に表示量以下の濃度に低下してしまう。
2 抗微生物スペクトル
グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、ウイルス、芽胞に有効であるが、大量の芽胞を殺滅することはできない。結核菌には1,000ppm(0.1%)以上の濃度で有効である。HBV、HIVに対する有効性も確認されている。クリーンな条件下では、マイコプラズマに25ppm(0.0025%)で、栄養型細菌には1ppm(0.0001%)以下で殺菌効果があることが報告されている5)。
3 作用機序
次亜塩素酸(HClO)が主な有効成分である。水溶液中の次亜塩素酸はpH5〜6付近で濃度が最も高く、これよりpHが高くなると次亜塩素酸イオン(OCl−)が増加し、またこれよりpHが低くなると塩素(Cl2)が増加する。したがって殺菌効果はpH依存性があり、あまりpHが高ければ殺菌効果が減弱するが、酸性側では塩素ガスが発生しやすいため、アルカリ側に調製された次亜塩素酸製剤が市販されている。
遊離塩素類の細胞質の破壊のメカニズムは明確にはわからないが、細胞内の酵素反応の阻害、細胞内蛋白質の変性、核酸の不活化が作用機序として考えられている。
4 適用範囲
(承認に基づく効能・効果。推奨されるものについては下線。)
有効塩素濃度100〜500ppm(0.01〜0.05%)次亜塩素酸ナトリウム液 |
手指、皮膚(ごく限られた場合のみ使用) |
有効塩素濃度50〜100ppm(0.005〜0.01%)次亜塩素酸ナトリウム液 |
手術部位(手術野)の皮膚、手術部位(手術野)の粘膜(ごく限られた場合のみ使用) |
有効塩素濃度200〜500ppm(0.02〜0.05%)次亜塩素酸ナトリウム液 |
医療機器(非金属)〔金属についてはごく限られた場合のみ使用〕、手術室、病室、家具、器具、物品 |
有効塩素濃度1,000〜10,000ppm(0.1〜1%)次亜塩素酸ナトリウム液 |
排泄物 |
有効塩素濃度10,000ppm(1%)次亜塩素酸ナトリウム液 |
B型肝炎ウイルスの消毒〔血液その他の検体物質に汚染された器具(B型肝炎ウイルス対象)〕 |
有効塩素濃度1,000〜5,000ppm(0.1〜0.5%)次亜塩素酸ナトリウム液 |
B型肝炎ウイルスの消毒〔汚染がはっきりしないものの場合(B型肝炎ウイルス対象)〕 |
有効塩素濃度500〜1,000pm(0.05〜0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液30分間浸漬 |
B型肝炎ウイルス、エイズウイルスに汚染されたリネン(承認されていないが推奨) |
残留塩素量が1ppmになるように用いる |
患者用プール水の消毒 |
●有効塩素とは残留塩素のこと。残留塩素には遊離有効塩素と結合有効塩素がある。 |
5 主な副作用
10,000ppm(1%)以上の高濃度液付着で化学損傷が生じる。
6 その他の注意
・ | 血清、膿汁等の有機物は殺菌作用を減弱させるので、これらが付着している医療器具等に用いる場合は、十分に洗い落としてから使用する。 |
・ | 金属器具、繊維製品、革製品、光学機器、鏡器具、塗装カテーテル等は、変質するものがあるので長時間浸漬しない。 |
・ | 患者用プール水の消毒に使用する場合には残留塩素が1ppm以上にならないように注意する。 |
・ | 原液または濃厚液が眼に入った場合は水でよく洗い流す。 |
・ | 原液または濃厚液が皮膚に付着した場合は刺激症状を起こすことがあるので、直ちに拭き取り石けん水と水でよく洗い流す。 |
・ | 酸性物質が混入すると塩素ガスが発生するので混入させない。 |
・ | 冷所保存する。(原液濃度の場合) |
(2)その他の次亜塩素酸系消毒薬
1 ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム 39、40)
ジクロルイソシアヌール酸ナトリウムは次亜塩素酸ナトリウムとほぼ同等の殺菌作用、抗微生物スペクトルを持つ次亜塩素酸系消毒薬である。固形の製剤(粉、顆粒、または錠剤)であり、通常の室内で保存できる。有機物により容易に失活するが、次亜塩素酸ナトリウムと比較すると有機物の存在下においても不活化されにくいことが報告されている41〜43)。これはジクロルイソシアヌール酸ナトリウムが水溶液中で全有効塩素量の50%しか遊離せず、遊離有効塩素を消費すると結合有効塩素を放出し平衡を保つためといわれている44)。欧米では医療機関においても食器、リネン、環境などの消毒に使用されているが、日本では一般用医薬品としてのみ承認されており、プール水の消毒、プールの足腰洗水槽用水の消毒に承認されているものと、哺乳びん・乳首の消毒に承認されているものがある。顆粒製剤を血液や体液で汚染された床に直接散布する場合があるが、これはもっぱら血液や体液を包み込んで凝固し汚染の拡散を防ぐという効果を期待するものであり、このような使用法においては殺菌力が失活しやすいことに留意が必要である45)。
2 強酸性電解水 46〜49)
薄い食塩水、あるいは水道水を電気分解して得られる水を電解水といい、電解水のうち陽極側から得られる水を電解酸性水という。電解酸性水のうちpH2.3〜2.7のものを強酸性電解水、pH5〜6のものを弱酸性電解水というが、ここでは主に強酸性電解水について述べる。0.1%以下のNaCl水溶液を、隔膜を介して電気分解し生成する強酸性電解水(pH2.3〜2.7)は、酸化還元電位が1.1〜1.15V、有効塩素濃度が7〜50ppmであるが、これらの値は製造機器、生成条件によって変動する。生成の原理は(1)〜(4)の式のとおりであり、陽極では塩素ガス、次亜塩素酸、水素イオンが生じる。またヒドロキシラジカル、過酸化水素もわずかに生じるといわれている。

強酸性電解水はグラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、ウイルス、芽胞に有効であるが、大量の芽胞を殺滅することはできない。殺菌効果は0.1%次亜塩素酸ナトリウムとほぼ同等であるという報告がある48、49)。電解酸性水の作用機序についてさまざまな検討がなされたが、もっぱら次亜塩素酸が有効成分であることが判明している。強酸性電解水の有効塩素濃度は7〜50ppmと低く、0.1%の有機物の存在で不活化され、経時的に濃度が低下するなど安定性に乏しい。したがって洗浄を主な目的として生成直後のものを流しながら使用することが望ましい。また、電解水生成時に発生する塩素ガスの毒性や金属腐食性にも留意が必要である。厚生労働省により医療用具として認可された電解酸性水製造機器の適用は、流水式による2分間の手指の洗浄消毒と内視鏡洗浄消毒のみである。
|