インドネシア特使団機密盗難:「完璧な失敗事例」(下)

 かつて国情院幹部だったある人物は「プロであるはずの要員らが、ノートパソコンから情報を取り出すのに6分もかかるのはあり得ないことだ」「1976年のエンテベ作戦でイスラエルの特殊部隊は、旅客機のハイジャック犯7人と30人以上のウガンダ兵を射殺し、105人のイスラエル人を救出した直後、11機のミグ戦闘機を爆破した。これに要した時間はわずか30分だった」と述べた。かつて軍の情報担当だったある人物は「ノートパソコンの中にある情報が重要なら、ハードディスクだけを取り外して持ち去るか、あるいはホテルの職員を使ってノートパソコンを持ち去ることもできたはずだ」と指摘した。

 別の情報機関の関係者は「要員らは自分たちが持ち出そうとしたノートパソコンを特使たちに返した。これが最も理解できない」「泥棒が盗みを働いて見つかり、その場でわざわざ自分の住民登録証を残して立ち去ったようなもの」と語る。ノートパソコンに当事者の指紋などが残っていれば、その人物は当然、特定されるだろう。韓国軍機務司令部(軍で情報収集などを担当する機関)の元職員は「今回の事件を南大門警察署が担当することになったのも困ったことだ。国益が懸かるこの種の問題が発生した場合には、国情院、国防部(省に相当)、警察などが直ちに連絡を取り合わなければならない」と指摘する。また情報機関の関係者は「清掃員やウエーターなどに変装していれば、単なる窃盗として処理できたはずだ」と述べた。

 作戦中の国情院職員がホテルでインドネシアの大統領特使に発見され、直後に非常階段に隠れていたところを、ホテル職員に見つかった。これなどまさにコメディーだ。警察は、この人物がホテルの客室清掃員だったとみている。警察の情報収集担当者は「発覚したら直ちに姿を消すのが常識だが、今回の行動はあまりにもずさんだった」と話す。

 元国情院職員は「1970年代に中東で韓国の建設会社が工事を受注するときも、(韓国の情報機関が)ライバル国の入札価格や条件などに関する情報を現地で収集した。しかしそのときは見つからなかった」「2011年に自国の、しかも首都のソウルでこんなことが起こったのは、非常に恥ずかしいことだ」と述べた。安全保障関連部処(省庁)の担当者は「情報の世界では、成功しても外部に知られることはなく、失敗したケースだけが暴かれるものだ。今回のような完璧な失敗事例は、世界のスパイ史で長く記憶にとどめられることだろう」と語った。

アン・ヨンヒョン記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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