リバネスショップ
(一応リンクしてあるけれど、購入を推奨しているわけではありませんので、念のため)
リバネスはバイオ教育の会社としてスタートしている。今はバイオの限定を解除して教育ビジネスをメインにしているのだけれど、いくつか他業種にも進出しているし、関連会社もある。そうやって色々なところに手を伸ばすのはもちろん構わないのだけれど、健康食品っていうのは相当に違和感がある。
一番最初に彼らが食品に手を出したのはコメだったと思う。みんなで自給自足、みたいな感じでコメを作って、売る、みたいな。僕自身、蕎麦で「種まきからそば打ちまで」みたいなイベントで遊んでいるから、そういう楽しみは分かるし、「有機栽培のお米、美味しいですよー」って売るのは普通。次に僕が知っているのは野菜工場。サブウェイなどに持ち込んで色々やっていたようだけれど、野菜工場のマーケティングというのも、まぁ理解可能。農業という産業自体にビジネスチャンスを見出すのは決して筋悪ではない。怪しくなったのはウコンから。
ウコン(ターメリック)の有効性についてはヒトで一部の消化系、肝臓系の何らかの症状改善や動物等での作用が発見されているようだが、僕が知る範囲では、例えば飲み会の前に飲むと二日酔いになりにくいとか、その手の短期的、即効的な薬効に関する客観的データは見たことがない。ただ、じゃぁ全く無害で、毒にも薬にもならない物質かと言えばそんなこともなく、漢方薬として利用されるくらいだから、服用すれば何らかの生理活性があるはずだ。これは健康食品としては逆に怖い物質で、用量を間違えるとひどい目にあいかねないということでもある。医薬原料になりうる食材は過剰摂取が厳禁であり、なんらかの内臓系機能障害を抱えている場合は重篤な副作用が発現する可能性もある。わりとデリケートな物質で、一言のもとに「こんなの効かねぇよ」とは言えず、一方でちゃんと効果があるような濃度なら、それはそれで危なっかしい。これは想像だが、「高濃度なら効果があるけれど、それじゃぁ危なくて使えないので、副作用が全く出ないような安全な濃度、すなわち、毒にも薬にもならない濃度で配合してある」といった感じなんだと思う。つまり、飲んでも何の役にも立たない(プラセボ効果はあるかも知れず、それはこのブログで散々叩いているコラーゲンと一緒)。
それとも、絶対に副作用がなくて、ちゃんと肝機能向上の効果があるとか、そういう濃度に調整されているんですかね?
ちなみに上記のウェブサイトではしじみも売っていて、しじみについては「肝臓に良い健康食品」と書いてある。しじみのどこが肝臓に良いのかは良くわからないけど、このサイトによるとバランスよく必須アミノ酸が含まれているかららしい。
healthクリック
この程度の根拠が肝臓に良い理由だとしたら、肝臓に良い食品は山ほどある。というか、科学的根拠を明示せずに「健康食品です」は、科学教育の会社としていかがなものか。
続いて「あれ?」と思ったのはビルベリー。要はブルーベリーだと思われるけれど、このビルベリーにはβカロテンが豊富に含まれているらしい。それで、このβカロテンというのは栄養機能食品である。じゃぁ、栄養機能食品とは何か、ということになると、健康食品の分類について知っておく必要が出てくる。健康食品というのは俗称なのだが、日本の場合、健康食品は大きく次の4つに分類される。
広義の健康食品
○栄養補助食品
○保健機能食品
●特定保健用食品(トクホ)
●栄養機能食品
○特別用途食品
○その他の健康食品
栄養補助食品は剤型がタブレットなど、薬剤の形状をしたサプリメントと解釈するのが一般的、保健機能食品については健康増進法、食品衛生法によって定義されている、特定用途食品は表示について国の許可が必要、これらの該当しないものが「その他」。このあたりの分類がそもそも分かりにくい上に、欧米の定義がまたちょっと違っていて、さらに「日本でも米国の健食を売らせろ」と圧力がかかったりするものだからややこしくて仕方がない。それで、ビルベリーには栄養機能食品であるところのβカロテンが含まれているらしいので、それを商品名にしちゃうのは行儀は悪くても、別に犯罪ではない。ここで行儀が悪い、と書いたのは、つまり日本人のほとんどは栄養機能食品の何たるかなどは知らないし、その中のβカロテンが何なのかも知らないわけで、そういう状態で「これって、βカロテン入ってます、栄養機能食品です!」って、商品名にまで入れてアピールしちゃうところが「煙に巻いている」って感じだということ。
ちなみに栄養機能食品の定義はこんな感じ。
栄養機能食品:栄養素(ビタミン・ミネラル)の補給のために利用される食品で、栄養素の機能を表示するものをいいます。
栄養機能食品制度:栄養機能食品は、栄養素の機能の表示をして販売される食品です。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる当該栄養成分量が定められた上・下限値の範囲内にある必要があるほか、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等も表示する必要があります。
出典:厚生労働省ウェブサイト
別に個別の商品について厚生労働大臣が審査しているわけではない。規格・基準に適合していれば、許可申請や届けでは不要である。ちなみにβカロテンについては同じページに次のような注釈もある。
本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。1日の摂取目安量を守ってください。
注)ビタミンAの前駆体であるβ-カロテンについては、ビタミンA源の栄養機能食品として認めるが、その場合の上限値は7,200μg、下限値1,620μgとする。また、ビタミンAの前駆体であるβ-カロテンについては、ビタミンAと同様の栄養機能表示を認める。この場合、「妊娠3ヶ月以内又は妊娠を希望する女性は過剰摂取にならないように注意してください。」旨の注意喚起表示は、不要とする。β-カロテン×1/12=ビタミンA
出典:厚生労働省ウェブサイト
つまり、別に病気が治ったり、健康が増進するわけじゃないし、βカロテンの状態でビタミンAを摂取しようと思ったら、単純にビタミンAを摂取するよりも12倍量のβカロテンを摂取しなくちゃなりませんよ、ということ。
#ちなみに僕は経産省時代にトクホの経済波及効果について担当していたので、このあたりの制度は多少勉強したことがあります。もう、10年近く前のことなので知識は古いですが。
まとめてしまえば、ビルベリーなるものも、商品名に栄養機能食品とまで入れて何か効果が期待できそうに書いてあるだけで、ただのブルーベリーみたいな感じだ。
それで、「あー、こんな、お行儀の悪い商売をやるような会社になっちゃったんだなぁ」と思っていたら、そう感じていた(かどうかは厳密にはわからないけれど)のは僕だけじゃなくて、菊池誠さんとかもこんなことをつぶやいていた。
@kikumaco 菊池誠
リバネスが健康食品を売るというのは、いまいち微妙感があるな
http://twitter.com/#!/kikumaco/status/12007938520522752
菊池さんの微妙感がどういったところにあるのかは良くわからないけど、僕的な微妙感を言えば、本来、リバネスという会社は、こうやってややこしい状態になっている食品の分類について一般の生活者や子供たちに説明し、理解してもらい、賢い生活者となってもらうべく頑張ったり、あるいはウコンやシジミがどうして体にいいのか、科学的根拠を示してきちんと理解してもらうために頑張る会社だったはずなのに、いつの間にやらミイラ取りがミイラになっている、ということにある。さらに、この菊池さんのつぶやきに対しての丸社長のつぶやきもいかがなものか。
@yukihiroMaru 丸 幸弘/リバネス代表取締役CEO
沖縄ウコンの会社と青森のシジミの会社と長野に工場がある味噌の会社と共同研究開発をした結果です!国の委託事業でもあります。売るというよりはマーケティングのお手伝い!RT @Mochimasa: RT @kikumaco: リバネスが健康食品を売るというのは、いまいち微妙感があるな
http://twitter.com/#!/yukihiroMaru/status/12014772291637248
まず、「マーケティングのお手伝い」だから構わない、というのが回答になっていない。それならオウム真理教の信者獲得に関するマーケティング活動でも手伝うのか、という話。やっていることが事業主体じゃないから、とかは行動の是非に無関係だ。それから「国の委託事業」っていうのもいかがなものか。国から頼まれればそれが錦の御旗かといえば全く違うはず。それに、この会社の立ち上げ期にこの会社を選んで補助金をつけたのは間違いなく僕だが、それはもう6年ぐらい前の話。立ち上げ期はともかく、お前ら相変わらず税金におんぶに抱っこ、そのお金で社員増やして良いオフィスに引っ越してんのかよ、そうやってタックスイーターやってて恥ずかしくないの?という感じでもある。やはり、一度公的なお金の旨みを知ってしまうと、何かあったときに常に「どこかに良い補助金の情報、ないの?」って探す体質になってしまうのかも知れない。
だいぶ前に知り合いのゴールドマン・サックスのOBにリバネスを紹介したとき、かげで「補助金もらって経営している会社なんか、ベンチャーとは言えないですよ。ろくでもねぇ」って言われて、僕は「まぁ、日本みたいな国では仕方ないでしょ。これがきちんと成長して、雇用を生み出すなら」って弁護したんだけど、彼の意見が正しいことが証明されつつあるのかも知れない。
そういえば、先日河野太郎さんのブログを読んでこんな記事を書いた。
河野太郎さんがまとめた経産省古賀茂明氏のレポート
僕はひとつの有望な会社が補助金漬けのダメ会社になるきっかけを与えちゃったのかも知れない。覚せい剤の最初の一本、みたいな。