世の中は思いがけないことが原因で思いがけないことが起きる。「風が吹けばおけ屋がもうかる」ということわざのいう通り。世界を「複雑系」ととらえる学問では「アマゾンでチョウが羽ばたくとテキサスで竜巻が起きる」という言い方をするそうだ▲その伝に従えば「米国で金融緩和するとイスラム諸国で民主化が進む」ということになろう。チュニジアに端を発した民主化を求める民衆の決起は、エジプトに飛び火してムバラク政権を倒し、さらにリビアやバーレーン、イランに広がっている。とどまるところを知らない▲米国はそんなことをもくろんで金融緩和をしたわけではない。景気をよくするため、印刷機を回して大量のドル札を刷っただけだ。実は日本や欧州の中央銀行も似たようなことをしている。先進国のおカネが世界中に流れ出て食料や石油価格を急騰させた▲世界銀行のゼーリック総裁は「世界の食料価格は危険な水準に到達した」と言っている。民衆の決起の要因のひとつが食料の値上がりなのは確かである。マネーの力の強力なこと。世界中をおカネが駆けめぐって波乱を起こす▲グローバリズムとはこういうことだったらしい。しかし因果の連鎖の行き着く先はさっぱり見えない。パリに主要20カ国・地域(G20)の財務責任者が集まって鳩首(きゅうしゅ)協議したが、何をしたらいいのかよい知恵も出なかったようだ▲専門家に聞くと、イスラム諸国もさることながら中国のインフレが心配のタネらしい。中国経済がヘンなことになると世界経済は成長のエンジンを失ってしまう。「米国の紙幣輪転機が回ると世界が目を回す」昨今だ。
毎日新聞 2011年2月21日 0時21分
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