社説

文字サイズ変更

社説:着工ダム中止 治水行政に一石投じた

 大阪府が本体着工後、工事を中断していた槙尾川ダム(和泉市)の建設中止を決めた。ダムに頼らない治水を目指し、河川改修などによる方法に切り替える。本体工事に着手したダムの建設中止は極めて異例だ。建設の是非を巡っては専門家の意見もまとまらなかったが、橋下徹知事の政治決断が「動き出したら止まらない」といわれた公共工事にストップをかけた。全国のダム行政に一石を投じるものだ。

 槙尾川ダムは82年の台風で浸水被害があったことから、府が事業主体となって09年9月に着工した。

 ところが着工後、政権交代で就任した前原誠司国土交通相がダム見直し方針を発表。それに呼応する形で橋下知事も「ダムは原則、建設したくない」といったんゴーサインを出した工事を中断し、ダム建設に慎重な専門家も加えた府河川整備委員会で建設の是非を検討してきた。

 他に安全を確保できる方法があるなら環境負荷の大きいダムは避けたいというのが知事の意向だ。さらに「府内の全域で100年に1度の大雨(時間雨量80ミリ)に対応する」という治水目標も見直した。

 従来の目標の実現には50年以上の年月と約1兆円の費用がかかり、現実的とはいえない。「30年に1度の大雨(同65ミリ)でも床上浸水をさせない」を目標とし、その代わり20~30年で実施することとした。

 こうした方針を受けて委員会が検討し、委員長は「ダムによらなくても治水は可能。コスト的なメリットもある」と河川改修による代替案を示した。だが、「議論が十分でない」などと異論が続出し、知事に最終判断が委ねられていた。

 地元首長の判断でダム計画がストップした例では淀川水系の大戸川ダム(大津市)などがある。だがこれは国交省近畿地方整備局の諮問機関・淀川水系流域委員会が「ダムの治水効果は限定的」とする意見書を出したことを根拠に、滋賀、京都、大阪、三重の地元4府県の知事が整備局に凍結を求めたものだ。

 今回は専門家の間でも意見集約できなかった問題を、知事の「政治判断」で政策変更した。方針転換への住民の反発も強い。河川改修には民家の移転も必要だが、理解を得られなければ工事が遅れる可能性がある。何よりも住民の命を守るために、綿密なプランを早急に示す必要がある。

 政権交代後、国交省は八ッ場ダム(群馬県)の中止を表明し、全国のダム計画の見直しも進めている。だが大臣の交代で八ッ場ダム中止の方針は棚上げされた。国の脱ダムが足踏みする中、橋下知事が治水行政でどのようなモデルを示していくのかを、注目して見守りたい。

毎日新聞 2011年2月21日 2時32分

 

PR情報

スポンサーサイト検索

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド