友人に外国人参政権の問題点などを話すと、不思議な顔をされてしまうんです。『どうかしたの?』って感じで。両親にいたってはネットに書かれたことを信用しないんですよ。『チャンネル桜』の番組や、在特会のサイトなどを両親に見せてはみたのですが、まるで怪しい宗教のようなものだと決め付けられてしまいました」
ある程度予測はしていたが、私が接した在特会会員は、友人や家族には活動のことを隠していたり、または最初から理解させる努力をあきらめているケースがほとんどだった。
この運動は、あくまでもネットを媒介として進められる。けっしてリアルな人間関係から生まれたものではない。ネットという広大な空間のなかで、分断されていた個と個が結びつき、属性とはまったく関係のない者同士が団結していく。友人同士で誘い合って参加するようなケースは皆無に近いだろう。だから同じ会員であっても互いの本名や住所を知らなかったりすることが少なくないのだ。
北海道支部長を務める藤田正論(デザイン会社経営・自称30代後半)は、「だからこそネットの力は軽視できない」と話す。
「ネットがなければ、不満や危機感を持つ者たちを結びつけることはできなかった。私はそれほどネットに依存はしていませんが、それでも、学生の頃にネットという入り口が存在すれば、もっと早く運動に参加できたかもしれません」
藤田自身、ネットが普及していなかった学生時代に、「誰とも怒りを共有できない寂しさ」を感じていた。
「私は保守的な家庭で育ったので、子どもの頃から国や民族というものをずっと意識してきました。ところが北海道はかつて社会党天国とも言われたくらいにリベラルな風土です。とても自分のなかにある愛国心や天皇陛下に対する敬愛の念を、披露できる環境にはない。大学生の頃、仲の良い友人と歩いていたら、たまたま『憲法九条を守ろう』とスローガンの書かれた平和団体の宣伝カーが通り過ぎたんです。私は思わず『ひどい主張だよなあ』と漏らしてしまったのですが、隣にいる友人が、ものすごく驚いた顔をするんですね。しかも、『おまえ、戦争好きなの?』って真顔で聞いてくるのです。ああ、そういう捉え方をされるのであれば、誰とも議論できないなあと感じましたね」
以来、大学でも、社会人になってからも、政治的な話題について自分から持ち出すことは避けてきたという。
「酒の力を借りて、居酒屋のマスター相手につぶやいてみるくらいでしたよ。ですからネットを通じて自由に発言することが可能で、しかも同じ問題意識を持った仲間を見つけることができるいまは、ものすごく幸せだと思います」
過去の自分が抱いた苦悩を隠すことなく聞かせてくれた藤田は、街宣時の激しさとは対照的に、穏やかで礼儀正しい人物だった。
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