徹底取材

「在特会(在日特権を許さない市民の会)」の正体

いまや日本社会で最もやっかいな存在「ネット右翼」とは何者か

安田浩一 (ジャーナリスト)

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第6回

大手メディアへの不信も

大分街宣を皮切りに、私はいくつかの街宣現場をまわり、できるだけ在特会会員の「生の声」に接した。差別主義者、レイシストだと毛嫌いするのは簡単だが、少なくとも在特会が社会に一定程度の影響を与えていることだけは認めなければならない。さらに認めた以上は、「知る」「伝える」ことが私の仕事でもある。

9月下旬、札幌市―。大通公園に面した路上で、在特会北海道支部による街宣がおこなわれていた。道内各地から集まった約20名の参加者が、それぞれマイクを握って「在日特権の廃止」や「中国の軍事的脅威」を訴えた。

ここでも一番に目を引いたのは、「中国の脅威」をなめらかな口調で説いていた、ひとりの女性である。高橋阿矢花(27歳)。最近、勤めていた企業を退職し、現在は求職活動中だという。大きめのイヤリングと、膝上丈のスカートで決めた高橋は、むさくるしい男たちの中にあって、ひときわ目立つ。

「もともとは政治なんかに興味はなかったんです」と高橋は言う。イデオロギーとは無縁の「普通のOL」だった。そんな高橋の目を政治に向けさせるきっかけとなったのは、08年の国籍法改正だった。これは、外国人との間で婚姻関係のないままに出生した子どもであっても、親が認知すれば日本国籍の取得が可能となるよう、法改正されたものだ。

「直感的に何かおかしいのではと思ったんですね。国籍というものが、こんなにも簡単に付与されていいものなのかと」

ネットで調べた。そこには「改正反対」の声があふれていた。同じ意見の者が大勢存在することを「発見」し、それまで意識する機会の少なかった「国家」というものに強い関心を抱くようになる。保守系の衛星テレビ局である「チャンネル桜」の番組を視聴したり、ネットで知った在特会の動画を観る機会が増えた。

「動画を視聴しているうちに、いま日本が置かれている状況に危機感を覚えたんです。中国や韓国の言いなりになっていたら、日本が植民地化されてしまう。私も何かできることをしなければならないって」

そして気がつけば、日の丸を掲げて街頭に立つようになっていたのだという。

いま、彼女の危機感は、国家のみならず、目の前を足早に通り過ぎる人や、友人、同居する両親にも向けられている。

「無関心な人が多すぎる。必死に訴えているのに目の前を素通りされると、少しばかりイラつきます。友人や両親も、まるでダメですね。

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プロフィール
安田浩一
Koichi Yasuda
ジャーナリスト
1964年静岡県生まれ。週刊誌、月刊誌記者などを経て2001年よりフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続けている。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)ほか。Twitter ID: @yasudakoichi




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