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[25721] 【習作】恋姫シリーズ二次 女オリ主 クロス無し
Name: Paradisaea◆b43e5c39 ID:f7de0e10
Date: 2011/02/20 00:51
 


『あれ、兄さん?』

『よっ』

『なに、ひょっとして、待っててくれたの?』

『まぁ、なんだ?日の落ちるのも早くなったし?一応お前も女だし?』

『なんだよ、一応は余計だろ』

『なによりあれだ、見た目からじゃ中身はわからないからな!上っ面にだまされる奴も居ないとも限らないし!!』

『………』

『あ、おい!冗談だって!お~い!!』










『ん?』

『なんだよ、そんな見え透いた手に引っかかる私じゃ』

『ちげ~って、今むこうのほうで』

『ん?資料館のほう?』

『そっか、そういやあっちは』

『どうしたの?』

『あれ、人目を気にしてたんだよな…、たぶん』

『え、なに?ひょっとして不審者とか?』

『…、ちょっとお前、戻って誰か呼んでこい』

『え?!、ちょっ?!』










『うわ、あの人おもっきし器物損壊だよ?!』

『うわ、何でお前いんの?!』

『そ、それより中入ってくよ、あの人!今度は不法侵入?』

『ちっ、いいからさっさと誰か呼んでこい!』










『何か捜してやがんのか?』

『ここ、なんか値打ちものってあったっけ?』

『うわ、何でお前いんの?!』

『うわ、大声出しちゃダメ~!』










『………』

『………』

『………、奥いったみたいだな』

『兄さん、これ』

『おう、サンキュ…?』

『あいつは?』

『いやいやまてまて、おま、何でこんなもんが』

『前の顧問の先生が居合いもやっててさ ダイジョブ、刃はついてないよ』

『それでもあぶね~だろ!、こんなもんそこらにほっぽってあるのかよ!』

『まさか、ちゃんと鍵かけてあるよ』

『じゃぁなんで…』

『鍵もってる』

『………』










『目当てのもん、見つけたみたいだな』

『兄さん、わたしが物陰伝いに近づくからタイミングを見て気を引いて』

『あいよ、ただし役割は交代だ』

『え?』

『あのな?俺おとこ、お前おんな ついでに俺が兄貴でお前妹、OK?』

『あ、もう!』

『動くなよ、声出すだけでいい 出来るだけ頭も引っ込めてろ』










『誰か~っ!!』

『な?!』

『もらいっ!チェストー!!』




















 「あ~………」

 真っ青な空を流れていく雲をなんとなく見送る。

 「知らない天井ですらないとか………」

 力なくボソボソつぶやく誰かの声が、他ならぬ自分のものであることに気づくまでしばし。

 それにしてもいい天気だ………?

 「あれ………」

 妙な違和感を覚えるものの、頭にもやがかかったようにものを考えること、それ自体ががおぼつかない。

 上体を起こしてしばし。

 そもそもなんでこんなところで昼寝をしていたのだろうか?。

 年頃の娘にあるまじき………。

 「おこられちゃう……… んしょ………」

 手に持った何かを杖代わりに立ち上がる。

 「ん………? なんだこれ………?」

 なんだこれ?ではない。見ればわかる。

 亡くなった先代の剣道部顧問が居合いの練習用にと置いていた練習用の刀。

 まだ誰もいない早朝などを使って教えてもらったこともある。

 あいつの孫に俺の剣を仕込むのも一興とかいって笑ってた。

 学園を去るときに譲られた二振りのひとつ。

 亡くなったときは悲しかった。

 みんな大好きだった老人の形見を独り占めするのと、祖父のライバルに師事したのがなんとなく後ろめたかったのがあって、武道館に併設されていた資料館に預けていた刀。

 フランチェスカ生え抜きの私は知ってる、編入組の兄さんは知らない………?

 「!!」

 ようやく、しかし一瞬で覚醒する。

 「兄さん?!」

 最後に眼にしたのは兄に驚いた不審者が取り落とした何か、皿のような円盤状のようなそれが割れる様。

 その何かからまばゆい光が溢れ出し………、いやあんなところにあるあんな物が、あんなふうに光りだすわけもなし。

 おそらく男がなにか隠し持っていたのだろう。

 光と音で人を昏倒させる武器があると云うし。

 そこまで考えて戦慄する。
 
 空の様子からして、どう少なく見ても半日かそれ以上不覚を取っていたことになる。

 そしてその場には敵がいた。

 膝から下がフニャりと崩れそうになる。

 すぐにでも下着の中を確かめたい衝動を抑えつつ、周囲を見回す。

 見渡す限り何もないそこは、敵が隠れる場所もなかったが、同時に身を隠せる場所もなく、さらには一人きりであるという事実までも押し付けてくる。

 「おちつけ、おちつけっ」

 口の中で音になる前に噛み殺しつつ、それでも呪文のように繰り返す。

 声を出したら、動き出したらたちまちパニックになる予感があったから、必死で手を、足を、心を押さえ込む。

 わけのわからない状況だからこそ、平常心だけでもなければ。










 「よし、おちついたっ!」

 太陽の位置から時間を知るなんて器用なことは出来ないが、まぁ、たいした時間はたっていないであろう。

 われながら強靭な精神力。

 「すごいぞ、わたし」

 太陽の位置から時間を知るなんて器用なことは出来ないが、携帯みればどれくらい経ったかはわかるな。

 「だめじゃん、わたし」

 そもそも最初に時間確認してなかったんだから、どれくらい経ったかなんてわからないよな。

 「だめだめじゃん、わたし」

 でも、今の時刻は判るよ!。つまり結論………。

 「ぜんぜんおちついてなかった………」

 そもそも、真っ先に携帯に思い当たらないあたり、女子的にどうよ?。いいもん、電話あんまり好きじゃないし、メールとかも好きじゃないし。
 
 嘆息しつつ内ポケットから携帯を取り出し、手首のスナップと指先だけ弾くようにして開く。

 「圏外………、予感はあったけど………?」

 時間と日付を確認して、パタンとたたむ。

 「………、こわれてる?」

 再度、先ほどのように手首のスナップと指先だけ弾くようにして開く。

 たとえ圏外で、オートの時間あわせが効かなかろうとそうそう時間がずれたりすることもないだろう。

 だが、表示される時間は校舎を出たときから換算しても二時間も経っていない。

 あの時はもう暗くなり始めていたのに、今はどう見ても昼間だ。

 学校で昏倒した私を拉致って、飛行機で昼間の地域まで高飛びし、どことも知れぬ荒野に置き去り。その間わずか二時間。

 「ありえないし………」

 カメラやプレイヤーは起動するのを確認し、なんとなく腑に落ちないものを感じながらもポケットに戻す。

 立ち上がり、再度周囲を見回す。なにか、行動の指針となるような変化はないか?

 ふと、右足のかかとに何かが触れた。

 見るとそこには見慣れたカバン。制服に合わせた青いナップザックタイプのそれは、自分のもので間違いあるまい。

 こんな物にすら気づかないでいたとは。

 拾い上げ、中からベレータイプの制帽を取り出す。暗い資料館の中で落とさないように突っ込んでおいたものだが、幸い型崩れはしてない。

 ついでに鏡も取り出して帽子の角度を決める。長い習慣であるから、特に見なくてもそれなりに決まるのだが、そこはそれ。

 「ん、よし」

 鏡をカバンにもど………すのをやめ、しばし。

 きょろきょろと辺りを見回す。

 カバンを地面におきそこに鏡を立てかける。

 しばしの逡巡の後………。 










 「なにしてるかな………野外でとか………」

 結論から言えば「証」は無事だったのだが。

 小さなカバンの陰に身を縮こまらせるように隠れ、いや、多分ぜんぜん隠れてはいなかったろうが。

 おそるおそる確かめて、それと判ったときには安堵のあまりちょっと泣いた。

 そして涙がおさまると一転、妙にテンションが上がり、遠くに何かが見えた気がしたのを良いことに意気揚々と歩き出してしまった。

 いろいろありすぎて、やはりちょっとテンパっていたのだろうか?。

 屋外で「くぱぁ」とか、ありえん。

 けして軽くなかった不安がひとつ解消されたとはいえ、ちょっといろいろ、いろいろすぎやしないか?。

 などと考えつつも足は前へ。

 本人に自覚はないものの、こんなふうにうじうじ自省できるのはまさにその「けして軽くなかった不安がひとつ解消された」ことにより、心の天秤がすこしづつ

平衡を取り戻しつつあるためではあるのだが、だからといって「くぱぁ」した事実は消えない。

 もし見られてたら恥死できる。

 そんなこんなをつらつらと考えつつ。

 どうやら何か見えたのは気のせいでもなかったらしい。

 道というにもお粗末な、せいぜいが荒野に残った轍の跡が消えずに残っている程度のものではあるが、それでも何かが行き来してはいるのだろう。

 そんな道が右から左へ、あるいは左から右へ。太陽は道の向こう。やや高くなってきてまもなく正午といったところだろうか?。

 携帯を確認しても相変わらず圏外。時刻はまもなく午後九時半。

 「さて………」

 どちらに進もうか。地理がつかめない以上勘に頼るしかないわけだが。

 「先生、おねがいします!」

 訂正、どうやら師の英霊に頼るらしい。

 鞘に納まった刀を垂直に立て、そっと手を離す。

 よほどバランスが良かったのか、しばし静止、固唾を呑んで見守る。ごくり。

 かちゃん、と音をたて、師の英霊が導く。

 太陽に向かって突き進め!!。

 「いやいや、それは無しの方向で!道なりに北か南でお願いしますって」

 なんじゃ、つまらん。

 二度目の「かちゃん」は微妙に投げやりな響きがあったような無いような。
 









 「分けわかんないなら、わかんないなりに………」

 考えることが大事だよね、と。

 なにがどう判らないのか、それをも考えずにいれば、いざヒントがあっても気づかないかもしれないし、うん。

 やはり、最大の疑問はなんでこんなところにいるのか?だろうか。

 ストレートに考えれば盗賊に攫われたのだろうが、そもそも攫う理由は?顔を見られたと思ったか?兄に対する脅迫?

 いくら名門私立とはいえ、あの資料館の展示物などたかが知れている。しかし誘拐となれば官憲の追及も違ってくるだろう。

 そのリスクを加味してもなお、私を攫うメリットなどあるのだろうか。

 これがそもそも名門の子女を攫うのが目的だったとして、ならなんでこんなところで捨てられた?。

 「う~ん、私がかわいかったから、ついもってきちゃった、とか?」

 言ってみたかっただけです。

 「で、途中で重くなって捨てた、と」

 なんだとう!。

 傍で見ている人がいればなかなかに愉快な見ものだったろう。

 「あ~………」

 そもそも、なぜ誘拐犯は刀を取り上げなかったのか。刃のついてない練習用とはいえ、殴れば骨ぐらいパキパキである。

 さらにナップザックのこともある。

 動きの邪魔にならないよう、いざとなれば牽制代わりに蹴り飛ばしてぶつけてやろうと思って足元に置いていたそれまで拾って持ってくる理由はなんだ?。

 そして結局は、なぜそこまでして攫ったのにこんなところで捨てるのか?という最初の疑問に帰っていくのだった。

 だがここはひとつ、無理やりにでも状況を説明できる設定を考えてみよう!

 「まずは………」

 いきなりこわい考えになってしまった。

 フィクションでもやや食傷気味になってきたデスゲーム系のやつとか、マンハントとかの獲物にされているパターンだ。

 なにが怖いって、考え付く疑問の全てにそれなりに説得力のある説明が出来そうなところだ。

 気絶してる間にたべられなかったことも、持ち物が全てそろってることも、『獲物は生きがいいほうが楽しめるから』で、説明できてしまわないか?

 「やめ、これは無し、ダメ、ぜったい」

 気を取り直してパターンそのに。

 「謎の光に包まれて、気づいた先は見知らぬ荒野。これはもう、伝説の勇者として異世界に召還されたとしか!!」

 おい。

 「あとはもう、夢オチくらいしかないよね」

 ほんとかよ。

 「夢だったら、まぁ眼が覚めるまですることもないし?目覚めたあとで今のこと覚えてるとも限らないし。」

 こうして

 「と、ゆーわけで! ここからは伝説の勇者として活動していきたいと思います!!」

 当面の行動指針(?)が決まった。決まってしまった。
  









 だがまぁ、無理やり上げたテンションも、てくてく歩いてるうちに醒めてくるもので。

 「う~、こういうのって普通巫女さんとか僧侶とか王子様とか魔法使いとか、あと王子様とかが説明キャラとして出てくるものじゃないの?」

 失礼、まだ酔っ払っていたらしい。

 「召還即野垂れ死にのコンボから始まる物語なんていやすぎる」

 そこから始まってしまったりするとホラー一直線だ。いさぎよく終わっとけ。

 「そろそろ始まりの街が見えてくるべき」

 右手で庇を作るようにして、ついでにちょっと背伸びもしながら行方をみる。

 すると、何かが見えた気がした。

 少し足を速め、ときどきぴょんぴょん跳ねてみたりしながらその「なにか」に目を凝らす。

 どうやら何か動くものが居るらしい。頭の隅にちらっと「パターンそのいち」がちらつく。

 だが、ここは身を隠すものもない荒野。相手が乗り物に乗ってたら逃げ切ることは出来まい。

 ここは………。

 「覚悟を決めるべき」

 ザックの背負い方を変え、いつでも投げ捨てられるように右肩に背負いなおす。

 そうしてるうちに影は人の型を取り始める。二人、それも年端も行かない少女のようだ。

 刻一刻と得られる情報が増えていく。徒歩、ではなく走っている。走っているのではなく追われている、逃げている。

 追っ手は三人、こちらも徒歩。いずれも男。

 「パターンそのいちなら、女の子達は私と同じ被害者で追っ手は敵だ」

 早足から小走りに。

 「パターンそのになら、女の子を助けるべきだよね、勇者的には」

 小走りから本格的に走り出す。

 「夢オチなら、楽しいほうを選ばなきゃ損だ!」

 そして全力疾走へ。

 自分でも意外なほどに体が軽い。風になったような速度から、天井知らずに早く速く!。

 すでに少女たちの表情まで見て取れる。

 亜麻色のショートヘアーの少女が銀髪のツインテールの子の手を引くようにして走ってくる。

 どれほど走り続けてきたのだろうか、苦悶にゆがんだその顔がこちらを向き、視線が交わった。

 そこに浮かんだのは絶望。

 挟み撃ちに、罠にかけられたとでもおもったか?

 「ちがう、あれは………!」

 こっちに逃げてきてしまったせいで、私も巻き込んでしまった、もう逃げられないと………。

 にげて、と口元が動くのが見えた気がした。

 「なんて優しい子」

 おもわず笑みがこぼれる。カバンを投げ捨て最後の距離を走りぬく。

 3………2………1………0で少女たちとすれ違う。

 後ろの男たちはいつの間にか足を緩めていた。

 そもそも体力もコンパスもちがう少女たちをなぶって楽しんでいたのだろう。それでも少々息が荒れているあたりがいかにも雑魚っぽい。

 無力な少女を駆り立て、追い立て、弱った獲物を取り押さえ、いざお楽しみというところで、そこに新たな獲物が飛び込んできた。

 そんな下種な考えが透けて見える。

 垢じみた不潔な身なり、抜き身でぶら下げた刀は見るからになまくらで、錆が浮いている。

 こんな奴らが口にする台詞なんてお決まりのものに決まってる。

 「よぉ、ねぇちゃん、痛い目みたくなきゃぁおとなしく………」

 ほらね?だからこういう時こそアレをやるチャンスなのだ!。
  








 「黙れッ!! そして聞けッ!!」

 少女の口から出たとは思えぬ大喝が野盗どもの臓腑を射すくめる。

 両の眼に苛烈な怒りを滾らせ、少女はこの世界に堂々たる名乗りを上げる。

  







 「わが名は北郷! 北郷ふたば!! 悪を断つ剣なり!!!」






[25721] その2
Name: Paradisaea◆b43e5c39 ID:f7de0e10
Date: 2011/02/01 16:12
 
 少女達が二人連れ立って、見聞を広める旅に出ようと決めたのは二月ほど前のことになる。

 あっちこっち見てまわり、あわよくば仕えるに足る主をみつけたい。

 いい人がみつかるといいね~、そうだね~、いっしょにお仕えできるといいね~、そうだね~。

 準備は順調に進み、そろそろ先生にご挨拶を、と思ったら。

 ある「うわさ」を耳にした。

 鍛冶屋の孫さん(仮)が、武器を鍛え始めたらしい。

 今でこそ田舎の鍛冶屋さんである孫さん(仮)だが、若いころは都会でぶいぶいいわせていたらしく、腕も近隣では確かなほうではある。

 だがしかし、ここは田舎。農具の修繕こそ日常的にあれ、武具の製作などはまず注文があってから。

 作り置きなどしても捌けないのである。

 では誰の注文で?とは皆が疑問に思うところ。逗留している侠客などが居るわけでなしでもなし。

 疑問に思った某が尋ねたところ、こんな答えが返ってきたそうな。










 【(「<女神>」)】が夢枕に立ったのだと。

 【(「<女神>」)】いわく、まもなくこの村に英雄の卵が訪れるらしい。

 その英雄に剣を与えるように、とのお告げがあったというのだ。

 余談だが、【(「<女神>」)】を不自然なまでに強調する孫さん(仮)であったが、そのやつれ果てた面が【(「<女神>」)】と口にするたびに

 無残に引きつり、まるでおびえるように辺りを窺っていたと某は語る。









 それはさておき、英雄である。

 それも、女神様のお告げつきで。

 主探しの旅に出ようとした矢先にとは、これも何かのお導き。せめて一目見てからでも遅くはあるまいと。

 幸か不幸か、インタビュアー某の最後の二行分を聞き逃してしまった少女二人は、旅立ちを延期して鍛冶屋の孫さん(仮)のもとに足繁く通うことになった。

 まだかな~まだかな~、はやくこないかな~。

 何かにとり憑かれたような、鬼気迫る様子で一心に槌を振るう鍛冶屋の孫さん(仮)の、その表情に気づかないまま、のんきに佇む少女二人。

 だが、一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、三週間が過ぎ、四、五ときて、六週間目が半ばまで過ぎた頃になって、ふと思ったのだ。

 いったいどんな武器をつくってるんだろう。そう思うまで時間かかりすぎではないかね、きみたち。

 そうしてついに、見てしまったのだ。










 炉の火に熱せられ、煌々と輝く、大男の身の丈ほどもある巨大で、大雑把なその鉄塊を。例のコピペは省略で。










 そのあまりのインパクトに小さなやっとこで器用にひっくり返しトンカントンカン、時折無造作に炉に鉄塊をつっこむ鍛冶屋の孫さん(仮)や、

 どう見てもそんなもんが突っ込めるはずもない田舎鍛冶屋の四次元炉すらも眼に入らない。










 Q どんなひとならアレを使うことができるでしょう?。

 A 雲をつくような大男。空気の澄んだ天気のいい日には偶に顔が見えることがある。吐く息は地獄の炎で、たまに鼻からも漏れる。
 
   額に第三の眼があり、これに睨まれると死ぬ。

   腕は四本、足も四本、山を一跨ぎにするが、雲が邪魔で足元が見えないので良く転ぶ。全身に生えた棘には毒があり、刺されると三日三晩苦しんで死ぬ。

   弱点は踵で、決まった順番で刺すと死ぬが、間違えると分裂して増える。伝説では月の向こうからやって来た地獄の使者とされ、キシャーと鳴く。









 紆余曲折、語るも涙、波乱万丈の大冒険の末、少女二人は女神のお告げに導かれた大英雄にお目どおりがかなう運びとなった。

 どうか御傍にお仕えすることをお許しください、われらの智謀を持って貴方様の大望、果たして見せましょう。

 英雄はそれを聞き、にっこりと微笑んでこういうのだ。

 オレサマ オマエ マルカジリ

 きしゃー





 「はわ、はわわわわっ」

 「あわ、あわわわわっ」




 血相を変えて旅に出ようとする二人だったが、もう遅いから明日にしなさいと引き止める恩師の言葉を無碍にはできず、故郷で最後の夜を過ごすことになる。

 夜も更けたころになって「「い、一緒に寝てもいいでしゅか?」」と、枕を抱えてやってきた二人に思わず こんな二人で大丈夫か?と思ってしまう先生であった。

 翌朝、先生から一番いい餞別を貰い、故郷を去る少女二人。

 だが、彼女たちは気づかなかった。それまで早朝から夜更けまで鳴り響いていた鍛冶屋の孫さん(仮)の槌の音が止んでいたのを。

 店の軒先に、まるで同じ屋根の下に居るのも恐ろしいとばかりに立てかけられた巨大な鉄塊にも。

 会心の仕事を終えたばかりの職人とも思えぬ孫さん(仮)の「やめろー貂蝉、ぶっとばすぞー」という、悪夢に魘される声もまた、届いては居なかった。





 さて、こうして旅立った少女二人。峠の山道をてくてくと、まだ見ぬご主人様へと思いをはせつつ歩いてゆく。

 そんな二人を岩壁の上から見下ろす人影が三つ。ぶっちゃけ前回の野盗三人組である。

 以前は別のところで悪事を働いていたこの三人、セコくほどほどに稼いでいたのだが、それでも長くなれば官憲の目にも留まる。

 ならそろそろ河岸を変えんべぇと、この辺りまで流れてきたのだが、ちょこっと様子でも探っておくかと人里に紛れ込んでみた折、少女二人が旅の話をしているところに

出くわしたのだった。

 カネの匂いを感じ、ちょっと探りを入れてみると、どうやら有名な私塾の生徒、それもかなり優秀であるらしい。

 随分とちんまいが、見た目もなかなか。掻っ攫って路銀を奪い、楽しむだけ楽しんだら適当な相手にうっぱらってやろう。身代金を脅し取るのもいいかもしれない。

 こうしてこの三人、少女たちが来るのを今か今かと待ち伏せ続けることになったのだが、何故だか一向にやってこない。

 そのうち一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、三週間が過ぎ、四、五ときて、六週間目が半ば以上過ぎた今日ついに、待ちに待った獲物たちがやってきたわけである。 

 さんざっぱら待ち惚けを食らったせいで体中垢まみれの汗まみれ、それでも諦めず待ち伏せを続けたのだから、見上げた、もとい見下げ果てた心がけ、ではなく執念といえよう。

 計画では峠のてっぺんで待ち伏せすることになっていた。

 それ以前だと里の外に出る大人たちの邪魔が入るかもしれない。そうでなくとも狩のために作った小道などがあり、そこに逃げ込まれると面倒なことになるかもしれない。

 ならば里から十分離れた一本道のここで、その退路を塞ぐようにして襲い掛かれば、たとえ娘っ子どもが逃げ出したところで里からは離れるばかり、疲れ果てたところでとっ捕まえて

そのままおさらばってわけよ。さすがだぜアニキ。す、すごいんだな。





 そんな目論見が進行中とはさっぱり知らない少女二人。

 一晩眠って、少し落ち着いてはいたものの、住み慣れた学院を離れ二人きりで人気のない道を進むうち、昨日の恐怖がじわじわと首をもたげてきていた。

 そして、一度思いだすともうだめだ、何もかもが気になって仕方がない。

 風のなる音、草木のざわめき、うっかり蹴り飛ばした小石の転がる音に鳥の鳴き声。

 いま、視界の隅でなにか動かなかったか?。

     その物陰に何か隠れてやしないか?。

        なんだか妙な視線を感じはしないか?。

           ゆっくり、ゆっくり振り返ってみるといい。








                             ほら、そこには英雄が!!!きしゃー





 「はわ、はわわわわっ」

 「あわ、あわわわわっ」

 両者ともにすでに涙目である。

 それでもおっかなびっくり前には進んでいるあたり、決意だけは固いらしいが、これでは先生でなくとも「こんな二人で大丈夫か?」と思わずにいられない。

 はやくなんとかしないと。



 
 そしてとうとう運命の時きたる。このとき野盗三人組の頭領の描いていた段取りはこんな感じだ。

 足元を通り過ぎていく少女二人、通り過ぎたところで「おい、まちな!」

 岩壁を滑り降りてゆく三人。挟み撃ちにしてしまわないのは逃げられないと悟った二人が発作的な行動を起こさないようにするためだ。

 なんでもおつむの出来に自信があるようだし、こっちのことを言いくるめられるとでも思ってくれれば云うこと無し。

 思い上がった小娘に本物の殺気って奴を教えてやりつつこう言うのだ。

 「よぉ、お嬢ちゃんたち、痛い目みたくなきゃぁおとなしくするんだな」

 そのまま諦めて大人しくすればよし、例え逃げ出しても里は逆方向で、殺気を浴びて竦んだ体は思うようには動くまい。すぐに力尽き、そこでおしまいだ。

 なんともおめでたい計画だが、所詮は野盗、こんなものであろう。




 そしてとうとう運命の時きたる。このとき実際に起こったことを順に追っていくと、こんな感じになる。

 人気のない山道を歩いていく少女二人。おっかなびっくり進んでいく。そのとき不意に日が翳った。

 翳ったといっても、一転にわかに掻き曇り、などと嵐の予感を感じさせるようなものではなく、ちょっと薄雲が日をさえぎった程度のものであったが。

 きしゃー

 「はわ、はわわわわっ」

 「あわ、あわわわわっ」

 さらに驚いたのは待ち伏せする三人。しまった気づかれたと伏せた身を立ち上がらせる。

 さて、ここで問題をややこしくしたのは三人組の容姿であった。

 まずは頭領。中肉中背、荒事で鍛えた体躯は、まぁそれなりだ。

 日焼けした浅黒い肌、むさくるしいひげ面は野性的といえなくもないが、野獣的といったほうが同意は得られやすかろう。

 この人の職業は?、街の女の子百人にアンケートをとったなら百人が野盗と答える、野盗の中に混じったら馴染みすぎて二度と見つけられないザ・野盗。

 だが、問題はこの男ではない。

 二人目はチビ。世紀末でヒャッハーな世界なら大男の相棒との合体技でボールのように投げつけられ、空中からヒャッハーと襲ってくる重要な役どころが与えられたであろう。

 この男も問題ではなかった。

 つまり、消去法で三人目。中、小ときたらお約束の大男。うどの大木、でくのぼう。ボール役ではなく、投げるほうであった。 

 日が翳り、びくっとなって上を見たら崖の上から大男が見下ろしていたのである。きしゃー、である。

 ノータイムで逃走。まさにロケットスタートと呼ぶべき見事な遁走。さらにここが峠の頂上だったことも幸いした。

 下り一直線。はわわ、あわわと叫ぶ声が、はばばあばばに変わり、やがてだばばばばばと、猛加速。

 野盗たちが正気に返り、あとを追いだした時には既にかなりのリードを稼ぎ出していたのだった。

 こうして唐突かつなし崩し的に始まった追走劇。

 先行するは少女たち。小型軽量なボディが生み出す軽快なコーナリングと少ない正面抵抗がもたらす加速の伸びで逃げ切りを目指す。

 しかもこの少女たちは名門女学院の期待の俊英、ただ逃げるだけではない、罠だって仕掛ける。具体的にはタイミングを見計らって荷物をぽい。

 ぎゃぁなにをやめてとめてずこべきぐしゃアニキたすけておちるまておちるなあきらめるながんばれがんばれできるできる絶対できるがんばれもっとやれるって!!

 やれる気持ちの問題だがんばれがんばれそこだ! そこで諦めんな絶対にがんばれ積極的にポジティブにがん(r

 突如始まった熱血劇場を尻目に走る走る。お気に入りの帽子達もいつのまにか何処かへすっ飛んでしまったが振り返らずに走り続ける。




 まあ結局のところ、快調だったのは下り坂が終わるまでだったわけだが。




 なぜか引き離せずについて来る男たち。だからといって諦めることなんて出来ず、足は前へと進み続ける。

 吐く息は焼けつき、吸っても肺に入ってこない。心臓は今にも爆発しそうで目は霞む。

 そもそも顔を上げているのすらも億劫で、気がつくと足元をみていて。

 そんなだから、その人に気がついたときにはもう、致命的に手遅れだったのだ。

 

 
 目に入ったのは駆け寄る少女。青いセーラーカラー、胸元を飾るグリーンのリボン。風にたなびく黒髪とダークグレイのケープ。

 青いミニスカートから覗く脚は、生み出す速度とは裏腹に細く白い。

 すっと透った鼻筋、切れ長の眦と黒曜石の瞳。

 あまりに美しく、だからこそ残酷な運命が彼女には待ち受けているだろう。

 だが彼女は躊躇など微塵も見せず、ただひたすらに私たちを救わんと駆けてくる。

 ああ、なのに!!肢体を弾ませ駆け寄ってくる彼女を見て!!





 いや、この期に及んで言葉を飾るのはやめよう。

 そう、中でも一段と激しく弾むその二つのふくらみを見てこう思ってしまったのだ。



 「「モゲロ」」、と。

 

 「「く、口にでちゃいましゅた!!」」

 

 



[25721] その3
Name: Paradisaea◆b43e5c39 ID:f7de0e10
Date: 2011/02/20 00:53

 『『『おーぼえーてやーがれー』』』



 「ふっ、我に断てぬもの無し」


 遠ざかる負け台詞をバックに、付いてもいない血糊をひゅんと払い、刀を鞘に収める。

 はっきり言って気持ちいい!!なんか漲ってきた!!!具体的には気力+30くらい!!!!

 やばいですゼンガー少佐!癖になりそう。今なら雲耀の太刀いける!いや、逸騎刀閃だっていけそうです!!

 斬艦刀ぷりーず!かもんトロンベ兄さん!!

 

 
 ひっひっふー、高まりまくったテンションを落ち着かせるために深呼吸。よし落ち着いた。

 ある意味ではここからが本番。状況がさっぱりつかめない今、追われていた少女たちはふたばにとってお釈迦様の蜘蛛の糸にも等しい。

 ここは少しでも好感度を上げておかねばならぬ。命がかかっているかもしれない今、たとえ同性が相手だろうとニコポナデポもやぶさかではない。

 カモン三択!最良の選択肢を選び取ってみせようぞ!!。











 

 
 さて、助けに来てくれた相手に思わず「「モゲロ」」と呪いをかけてしまった少女二人。


 よもや聞こえはすまいと思ったのも束の間、彼女の様子が一変した。

 白い貌が不意に陰になり、双眸がきゅぴーんと不吉な光を放つ。

 口元がにぃっと三日月型につり上がったかと思うと、背にしていた旅嚢を投げ捨てさらに加速。

 剣を片手に、うけけけけと駆け寄ってくる様の恐ろしさは英雄に勝るとも劣らない。

 このとき、ふたばとしては薄っすら笑みを浮かべた程度の認識でいたのだが、テンパり気味のテンションと荒事を前にした緊張、さらにそれを見る少女二人のライフが

もう0だったこととが相俟って、斯様な惨事となった模様。あ、流石にうけけけけは幻聴です。

 もう逃げたい!、偽らざる気持ちではあっても今まさに逃走中の二人。気分はまさに、人類に逃げ場なし!!。

 すでに待避する暇もありません、わたしたちの命もどうなるか。ますます近づいて参りました。いよいよ最後です。

 右手を剣に掛けました。いよいよ最後。さようなら先生、さようなら。

 そんなわけだから、彼女が二人に目もくれず通り過ぎたときに感じたのは安堵よりも、後回しにされただけなのでは?というより大きな不安感だったりする。

 三人組と対峙した少女剣士は、なにやら口上を述べようとした男たちを一喝して黙らせると、さらにグチグチ言い募ろうとした小男に対して

 「もはや問答無用!」と叫んで踊りかかり、鎧袖一触、蹴り飛ばしてしまった。

 続く大男も「空円脚!!でぇ~い!!」と蹴り飛ばし、あっけに取られる親分格を「蝕む!その心までも!!」とばかりにボッコボコに殴りまくるそのさまはまさに一匹の修羅。

 結局一度も使われなかった剣が鞘に納まるそのときまで、二人に出来たのは抱き合ってはわわあわわと震えていることだけだった。

 
 そして今、二人の目の前で乱れた気息をふしゅらしゅらしゅらと謎の呼吸法で整えていた修羅が、次なる獲物へ牙を剥かんとゆっくりと振り返ろうとしていたのであった!。

 








 ふぅ、と一息、伊達にお嬢様学校に通っていたわけではありません。普段からのたゆまぬ努力で身に着けた、とびっきりのスマイルを装備して振り返ります。

 ふわり、とケープを風に膨らませ、肩にかかった髪を掻き揚げつつ、あくまで優雅に。

 そしてにっこりと微笑みつつこう言うのだ

 「貴方たち、お怪我はありませ………ん………か………?」

 そこでふたばが見たものは!。

 お互いの背中に隠れようとして果たせず、くるくる追いかけっこをする二人の姿であった。


 なにこれかわいい。
 







 「いぢめる?」

 「いぢめないよ~」


 銀髪ツインテ少女に背中をとられたことで観念したか、亜麻色ショートの子が上目遣いに零れそうなほどの涙をためて聞いてきた。

 その様子に胸をきゅんきゅんさせながら答える。

 二人のやり取りに、背中に顔を押し付けるように隠れていたツインテ少女もそっと顔を覗かせる。


 「いぢめる?」

 「いぢめないよ~」


 際限なくきゅんきゅんしていくハートをこらえつつホロリ。

 よほど怖い目にあったのだろう、すっかり幼児退行してしまっている。

 五割程はふたば自身のせいなのだが、そんな事には気づかない。

 さらに三セットほどいぢめる?いぢめないよ~を繰り返すと、流石に少女たちも落ち着いてきたとみえ。

 すると今度は先ほどまでの自分たちの痴態が恥ずかしくなったらしい。

 真っ赤になってもじもじしはじめた二人に、ふたばのハートは臨界寸前。

 父さん母さんおじい様おばあ様、あと兄さん。ふたばはいけない世界に目覚めてしまうかもしれません。

 まて、そっちにいくなと引き止める脳内の両親祖父母に涙で詫びる。

 いい顔でサムズアップしやがった兄は今度シメる。

 どばどば溢れてくる癒しだか和みだかのエネルギーを浴びつつも、現状に思いを馳せると、そうのんびりもしてられない。

 頼りになりそうなのはこの少女たちだけで、謎エネルギーでは人は生きてはいけないのだ!。 ………生きていけそうな気がちょっとした。

 ともあれ、このままではらちが開かない。なんとかしないと。


 「んと、私の名前は北郷ふたば 貴方たちの名前、聞いてもいいかな?」


 コミュニケーションの一歩目は、まず自己紹介から。そんな軽い気持ちで放ったジャブだったが、投げ帰されたのはちょっとした爆弾だった。






 「は、はわ!助けていただいてありがとうごじゃいましゅ! わたしの名前は諸葛孔明、こっちはおともだちの鳳士元ちゃんでしゅ!!」
 







 「え、ギャグ?」

 「「ぎゃぐじゃないでしゅ」」 
 







 ところでぎゃぐってなんですか?。冗談って意味だよ。命の恩人に冗談で名前を偽ったりしましぇん!!。

 ぷくぅと膨れてみせる少女二人になんとか機嫌を直してもらおうと謝り倒す。


 「ごめんね、大昔の偉い人とおんなじ名前だったからびっくりしちゃったの」


 口先ではこんなこと言いつつも、内心ではあのほっぺやわらかそうだなぁ、つっついたらダメかなぁ、などと考えているのだから誠意など微塵もないうえ、いろいろ末期的だ。

 ニコポナデポどころか、むしろふたばの方こそ『ポ』されてしまっていると言えよう。まさに孔明の罠。

 だから、自分と同じ名前の偉人とやらに興味を惹かれたらしい二人の様子に気を良くしたふたばは、


 「それって、どんなひとなんですか?」


 との士元の問いにも、至極素直にあっさりと、寧ろ「興味を引けた!これで勝つる!!」とばかりに意気込んで、


 「孔明と鳳統っていってね、伏竜と鳳雛、え~と、お寝坊さんの竜と鳳凰の赤ちゃんって言われた偉い軍師さん……、あれ、あんま偉そうじゃない?」


 逆に考え込んでしまい、これを聞いた二人が意味ありげに目配せしたのにも気づくことはなかったのであった。


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