風知草

文字サイズ変更

風知草:選挙に踊る人々=山田孝男

 「菅降ろし」政局が火を噴いた。次は前原か野田か、いや衆院解散だと永田町は沸き立っているが、少し頭を冷やした方がいいのではないか。

 「会派離脱」騒動はいかにも陰謀めいている。造反組の16人は、離党のリスクはとらず、離党もどきの虚勢を誇示して菅直人首相を揺さぶった。

 16人は小沢一郎元民主党代表に近い。「政治とカネ」をめぐる小沢排除に反発したといわれている。いかにもそうに違いないが、「消費税増税はマニフェスト違反」という表向きの声明の中にこそ、小沢系といわれる人々の重要な特徴がよく表れていると筆者は思う。

 選挙キャンペーンの偏重にもとづく大盤振る舞いと財源軽視という特徴である。

 民主党は岡田克也現幹事長が代表だった04年、マニフェストに「年金財源として消費税3%アップ」と書いたが、05年郵政選挙で惨敗したため、のちに小沢代表が削除した。

 当時、月額1万6000円と公約していた子ども手当を2万6000円へ強引に引き上げたのも日本一の選挙職人・小沢だった。これで民主党は07年参院選と09年衆院選を制し、政権を握ったまではよかったが、金庫をあらためてみればカネがない。自分の政治資金問題で退いた小沢に代わり、非小沢系の面々が後始末に四苦八苦しているというのが現状である。

 現状の評価はさておき、「金銭給付と選挙必勝」というストーリーで小沢神話とそっくりなのが、今月初め、空前の大量得票で再選を決めた名古屋の河村たかし市長である。

 09年4月、初当選した河村は、市民税減税と市議の給料削減に取り組んだ。言うことを聞かぬ市議会の解散を探る一方、自ら市長を辞めて出直し市長選に挑むという奇策に打って出、これが図に当たった。

 名古屋市議の年収は1600万円だそうだ。半減すれば6億円浮くが、市はケタ違いの巨額債務を抱えている。それでも減税で名古屋はよくなるか。答えは遠からず出る。よくなればよし、悪くなればそれまで。住民が選択の責任を引き受けてこその地域主権だろう。

 問題はその先だ。小沢神話と河村神話が結びつけばどうなるか。地域の課題を離れて「金銭給付で選挙必勝」党を結成した場合、バラマキ型選挙を繰り返し、国政の深刻な停滞を招くのではないか。「政権さえ握れば剛腕が万事解決致します」というおとぎ話を信じられるか。河村が永田町に小沢を訪ね、ともに笑い崩れる印象深い写真(9日各紙朝刊)を見ながら、そんなことを考えた。

 旧弊破壊と格差是正は内外ともに時代の要請だ。が、国政の死活的な課題はそれを超えたところにある。地球規模の食糧不足と資源枯渇、安全保障と国家債務危機などである。

 「会派離脱」に踊った面々はこれらの課題にどう取り組んできたのか。マニフェストの実現を阻む制約とどこまで格闘したか。その辺りのことも厳しく問われる必要があろう。

 造反組に付け入るスキを与えたのは菅首相自身である。菅は年初に内閣改造を断行、気合十分で国会に臨んだが「ピンチでエラー、チャンスに凡退」の連続で国民の失望を招き、人気がみるみるしぼんだ。

 しっかりしてほしい。「国民の生活が第一」と言いつつ、実は「選挙と自分の延命が第一」の政治に振り回されるのはもうたくさんである。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2011年2月21日 東京朝刊

PR情報

スポンサーサイト検索

風知草 アーカイブ

 

おすすめ情報

注目ブランド