<西日本殖産 大畑康一社長>
「残された道は強制執行しかないんですね」
京都府宇治市に立ち退きを迫られている人たちがいました。
<ウトロ住民>
「あきらめてるけど、なんぼどないしても向こうが『アカン』言うたらそれまでやんね」

宇治市伊勢田町、「ウトロ」。
在日コリアン65世帯、およそ200人が住む町には今も下水道が整備されておらず、上水道がひかれていない世帯も半数に上ります。
「ウトロ」はもともと戦前、京都飛行場建設のため集められた朝鮮人労働者の飯場でした。
戦後、在日の人々が住み始めたのですが、地権者も宇治市もこれを放置してきました。
そして1987年になって土地は大阪市の不動産会社の手に渡り、住民は不法占拠状態とされました。
<ウトロ住民>
「棄民にしないでください。捨てないでください。『ウトロ』の人たちを捨てないでください」
裁判の結果、住民側が敗訴、人々は立ち退きの強制執行の危機にさらされながらも住み続けるための戦いを続けました。
そんな中4年前、「ウトロ」に朗報が飛び込みました。
韓国政府が30億ウォン、日本円で当時3億8,000万円を支援することを決めたのです。
<ウトロ住民>
「うれしいよそら。モノも言えんくらいうれしい。これで生きられる。いままでは土台だけは生きてても体の中は死んだんと一緒や」
「『マンセー!(ばんざい)』いうて」
「ホンマそれしかない」
韓国の支援に加え民間募金、1億2,000万円を加えた5億円で「ウトロ地区」の半分、3,200坪を買い取る契約を地権者と交わしたのです。
宇治市も買い取った土地に公営住宅を建設し、住民全員が移り住むことで戦後65年にわたる問題がようやく解決するかに見えました。
しかし…
<宇治市・レコーダー(去年11月)>
「強制執行も含めいろんな手立てがあるであろう」
「ちょっとこっちへ責任を投げかけすぎ違いますか?あまりにも」
いま再びわき上がった立ち退き「強制執行」の危機。
いったい、何が起きたのでしょうか。
不法占拠とされた裁判で住民敗訴から10年。
韓国政府の支援で、ようやくウトロの住民に安住の日が訪れるかに見えました。
ところが今、住民の知らないところで計画が頓挫しようとしていました。
<宇治市・レコーダー>
「無茶なことを言ってるつもりは全然ない」
<西日本殖産・レコーダー>
「じゃあ行政代執行やって立ち退きやってください。それが一番シンプルじゃないですか。なんで何十年も放置してるんですか」
これは、「ウトロ」の土地を所有する不動産会社「西日本殖産」と宇治市とのやりとりです。
この両者の交渉がここにきて、決裂の危機を迎えているのです。
そもそも住民側が「西日本殖産」から土地を買い取ることで解決するはずでした。
しかし、その土地の権利関係に問題が潜んでいました。
「西日本殖産」が経営難で固定資産税や銀行からの借り入れ金を滞納、宇治市とRCC=整理回収機構が債権を持っていたのです。
そこで、韓国からの支援金を両者に配分することで売買が成立するはずでした。
しかし―
近年の円高に加え、韓国ウォンが暴落、韓国政府が支援するはずだった3億8,000万円が2億円程度に目減りしたのです。
そこで住民側が買い取り面積を減らした上で、去年9月、「西日本殖産」が再度2億円の配分案をRCCと宇治市に提示しました。

<西日本殖産 大畑康一社長>
「(配分案の作成は)大変な作業でしたから。5か月くらいかかりましたから。その中でやっと出たものを皆で折り合いをつけました。痛み分けの産物みたいな決済やったんですけども」
その結果、RCCには4億円を1億2,000万円に、宇治市には3,000万円を1,300万円に大幅な減額案となりましたが、RCCは「後に配分を変更しないこと」を条件にこれを受諾しました。
あとは宇治市がOKを出せば売却が成立するはずだったのですが…
土壇場なって宇治市がこの配分案を拒否したのです。

<宇治市 木下賢二税務室長>
「理由としては税負担の公平性が保たれないことと、配分案を変更する余地がまだ残されていると判断したためであります」
宇治市はあくまで全額回収しないと市民の理解が得られないと言います。
RCCは「変更しないこと」を条件にしているため、交渉は暗礁に乗り上げてしまいました。
<西日本殖産 大畑康一社長>
「ダメなら先に、(RCCの)決済が降りる前に言ってくれれば、それはそれで対処できたのに」
「変えられないということは分かっておりながら、それを敢えて変えるという行為、まるっきり理解できない」
「西日本殖産」は宇治市と話し合いの場を持ったのですが・・・
<宇治市・レコーダー>
「我々は税で差し押さえた分の本税分をくださいと言うてるだけですわ。それを払えないと言うてはるだけで、それやったらできませんと言うてるだけの話。じゃあ、なぜRCCにその話をしていかないのですか正式に、宇治市が3,000万円を主張してる。考え直してくれと」
<西日本殖産・レコーダー>
「言いましたよ」
<宇治市・レコーダー>
「正式には何もおっしゃってないじゃないですか。文書で何も出しはらへんし。うちも確認しましたやん」
<西日本殖産・レコーダー>
「聞きました聞きました。怒られました」
もはや言った言わないの水掛け論。
結局宇治市は「全額回収」を譲らず、ついに両者の口からは「強制執行」の言葉が飛び出しました。
<宇治市・レコーダー>
「そちらの方が動かはるということについても当然我々も想定はしています。強制執行も含めいろんな手立てがあるであろう」

<西日本殖産・レコーダー>
「外交問題になりますよ」
<宇治市・レコーダー>
「そこまで理事者(市長)は腹をくくった上でおっしゃっているんじゃないかと、判断されたんじゃないかなと思います」
<西日本殖産・レコーダー>
「私らも強制執行するには、そこまで覚悟しなくちゃいけないんでって言ってる」
<宇治市・レコーダー>
「こっちへ責任を投げかけすぎ違いますか?あまりにも」
この事態に、「ウトロ」の住民は…
<ウトロ住民>
「こんなになったら、どないもこないもいけへんもんね。どういうていいかわからへん」
「(解決へ)進む、大丈夫。何年間も住んでるのに、放り出されるか」
「ウトロ町内会」は「問題解決を切望していますが、売買の直接の当事者ではないのでお話しする立場にありません」と事態を静観しています。
地権者も宇治市も、解決を望む思いは同じはず。
しかし住民にとっては、すぐそこに出口が見えていただけに、ここにきて「強制執行」という最悪のシナリオはあまりにも残酷です。
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