海外

文字サイズ変更

国連安保理:米国、拒否権発動 イスラエルに配慮 ドミノ動揺、防ぐ狙い

 【ワシントン草野和彦】オバマ米政権は18日、イスラエルの入植活動を違法とする国連安保理の決議案採択に拒否権を発動し、廃案に追い込んだ。中東和平で重要な役割を果たしてきたエジプトなど中東地域の親米独裁国家が「民主化ドミノ」で揺らぐ中、同盟国イスラエルに対する「安全保障は守る」とのメッセージだった。不安定な環境下で神経をとがらせるイスラエルを無用に刺激して、中東の混乱をこれ以上、深めたくないという米国の思いが透けて見える。

 「中東地域での民主化と改革を求める激しい勢いの中、中東和平の問題を解決する緊急性が増している」。ライス米国連大使は拒否権発動後の電話を通じた記者会見で語った。

 米国は、イスラエルとパレスチナの2国家共存を実現するのは「(両国の)直接交渉を通じてしか達成できない」(ライス氏)との立場だ。決議案採択でイスラエルが反発すれば、頓挫している中東和平交渉の再開はさらに難しくなる。

 米国の中東政策の柱の一つは、民主主義の価値観を共有するイスラエルの安全保障だ。だが、イスラエルと79年にアラブ諸国の中で最初に平和条約を結んだエジプトでは、ムバラク前大統領が民主化要求の中で退陣に追い込まれた。

 エジプト国内で現在、最も組織力があるとされているのが、穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」だ。暫定的に全権を掌握しているエジプトの軍最高評議会に対し、米国は繰り返し、イスラエルとの平和条約維持を求めている。

 さらにエジプトに次いでイスラエルと平和条約を結んだヨルダンでも反政府デモが起きるなど、民主化の波で、米国の中東政策に協力してきた親米独裁政権は動揺している。

 こうした状況を受け、米ヘリテージ財団のフリップ上級研究員は「イスラエルは非常に神経質になっている」と語る。実際には中東和平交渉が再開する可能性は低いが、それだけに米国は「(エジプトとの)平和条約は維持させるとの確約をイスラエルに与える必要がある」という。

 米国の取り組みの背景には、イスラエルが不安定な環境に過剰に反応し、かえって中東の混乱要因になりかねないとの懸念がある。これまでもイスラエルは、イランの核施設攻撃の必要性を示唆し、米国が抑制してきた経緯があるためだ。

 ただ採決に先立ちクリントン国務長官が18日、前日にはオバマ大統領がそれぞれ、パレスチナ自治政府のアッバス議長と電話で協議した。ムバラク前大統領を支えなかったことで、米国はサウジアラビアなど他の親米国の反発を招いており、決議より拘束力の弱い議長声明での妥協を探ったとみられる。

 だがアラブ諸国がこれに反発。国際協調主義に伴う国連重視を掲げるオバマ政権だけに、孤立化を招く決議案採択への拒否権発動は、苦渋の選択だったといえる。

 ◇パレスチナ硬化、米を非難

 【エルサレム花岡洋二】米国の拒否権発動について、パレスチナ自治政府は18日、「イスラエルによる入植活動の拡大を促すもので、和平プロセスに反する」(ルデイネ報道官)と批判した。パレスチナ解放通信が報じた。パレスチナ側の対イスラエル強硬姿勢は今後も強まる見通しだ。

 決議案が安保理へ提出された先月、パレスチナ側は和平交渉を有利な状況で再開するのが狙いで、提出だけでもイスラエルと米国に対する圧力になると考えた。そのため、米国の拒否権発動が確実なうちは、採決を求めない見通しだった。

 しかし、和平交渉にかかわる機密文書でパレスチナ側の大幅譲歩案が暴露され、住民が反発。さらに中東での反政府デモの拡大を受け、対米関係悪化というリスクを負ってでも対イスラエルで非妥協的な姿勢を示す必要に迫られ、決議案採決を求める姿勢に転じた。

 一方、イスラエル外務省は「米国の姿勢に感謝する」との声明を発表し、入植凍結という前提条件なしで交渉を再開するようパレスチナ側に求めた。ただし和平交渉とは別に平和条約を結ぶ隣国エジプトで政権が崩壊し、安全保障上の不安が増す中、米国との関係が冷え込む事態を避けられたことで安心できた側面が大きい。それでも入植政策を巡り、米国を含めた国際社会でイスラエルの孤立がますます鮮明となり、政策の再考を求める外圧は高まりそうだ。

毎日新聞 2011年2月20日 東京朝刊

海外 アーカイブ一覧

PR情報

スポンサーサイト検索

 

おすすめ情報

注目ブランド