日本勢で世界シェア7割
炭素繊維の歴史は古い。1879年、トーマス・エジソンが木綿や竹を焼いて電球のフィラメントを製造した。日本で基礎原理や技術が開発され、1971年、東レが世界で初めて本格的商業生産に着手した。アクリル長繊維、または石油や石炭などの副生成物であるピッチを高温で炭化して作る。自動車の車体などにはアクリル長繊維から生産したものを用いる。
現在は、東レ、東邦テナックス、三菱レイヨンの日本勢が世界シェアの7割を握る。初めのうちは釣ざおなどスポーツ用品で市場が広がり、90年前後から破損すると墜落に直結する主翼などの航空機の一次構造材にも使い始めた。90年代には土木建築や産業機械などの産業用途が本格化し、市場が拡大した。米航空大手ボーイングの次世代中型機「787」は重量の約5割がCFRPだ。
下のグラフにあるように、2009年度はリーマンショックで出荷が落ちて年間2万5000tだったが、「想定した以上に需要が戻って」(東レの大西盛行常務)、2010年度のCFRPの世界需要は3万tを超える見込みである。2013年の需要予測は世界で約5万t。建築資材、発電用風車などといった産業用途は2013年度には前年度比で21%伸びる予測だ。自動車向けは2010年代前半に需要の本格拡大が期待されている。
世界的に自動車の燃費規制が厳しくなるにつれ、一層の車体軽量化が必要となったためだ。現に、F1などのレーシングカーや、「フェラーリ」などの高級車の車体にはCFRPをかなり使っている。
三菱自動車の「パジェロ」への搭載を皮切りに、国内の自動車でもCFRP製のプロペラシャフト(エンジンから動力を伝達する部品)をいくつかの車種で採用している。
しかし今のところ、量産車の基幹部品として使うにはコストの高さが障害になる。かつては日産自動車の「スカイラインGT-R」のボンネットフードなどにも使用していたが、同じ車種の現行モデルは使っていない。 「自動車にCFRPを使うのは現段階ではまだ広報的な意味合いが強い。量産車の主要部品に使うことが技術開発のブレークスルーとなる」と東レの大西常務は話す。