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きょうの社説 2011年2月21日
◎事業所内保育の支援 制度利用促す一段の工夫を
仕事と家庭の両立、待機児童の解消という社会的要請が強まるなか、金沢市は新年度に
、事業所内の保育所の開設を支援する制度を設ける。国の助成対象(児童数10人以上)から漏れる小規模な施設を後押しするもので、同様の助成制度は既に富山県が先行実施している。自治体独自に国の制度を補完するこうした取り組みは大いに評価できる。ただ、事業所内保育所の普及を図る国、自治体の助成制度に対しては、要件の緩和を求 める声も大きく、制度利用を促す努力がさらに求められる。企業の負担を軽減するため、共同で事業所内保育所を設置するといった工夫がもっと試みられてもよいだろう。 事業所内保育所は、政府が進める「ワーク・ライフ・バランス」政策の柱の一つで、開 設費や運営費に一定の助成金が交付される。厚生労働省の2009年3月末現在の調査では、全国の施設数は前年より252カ所増の3869カ所に上る。その6割ほどは病院内保育所である。北陸は富山県21カ所、石川県18カ所、福井県22カ所となっている。 事業所内保育所は女性職員の確保、定着を図るのに有効という認識が広がり、公的な助 成制度の後押しも受けて開設に踏み切る病院や企業は年々増加している。 それでも、経済産業省の調査・研究報告などによると、助成を受けるには、児童1人当 たりの面積や調理室の確保など認可外保育施設の設置基準に合致した施設であることや、その他の制度要件をクリアする必要があるため、その緩和を求める声が多く聞かれる。 保育所の設置基準の緩和や権限の自治体移譲といった国、地方の大きな政治課題がそこ に横たわっているということでもある。 また、事業所内保育所の壁として、企業負担の重さのほか、入所児童を常時確保するこ との難しさも挙げられる。この問題点の解決策として、経産省の報告書が、複数事業所による共同設置や従業員以外の地域利用を促しているのはもっともである。事業所内保育所の運営を外部に委託することで保育ビジネスを拡大する可能性についても研究したい。
◎親権停止を答申 虐待を断ち切る運用を
親の虐待から子どもを守るため、親権を最長2年間にわたり一時停止できる法整備要綱
を法制審議会が答申した。政府は要綱に基づき、今国会に民法改正案を提出する方針である。現行民法の親権喪失制度は家裁による取り消し措置があるとはいえ、原則的には期限を 定めない親権のはく奪を意味する。このため、児童福祉の現場では、親子関係に決定的な影響を及ぼすとして、喪失の申し立てをためらい、適用も極めて少ない状況にあった。 親権を盾に子どもを強引に入所施設から連れ去ったり、病気の子どもに治療を受けさせ ない医療ネグレクト(放棄)は後を絶たない。対応が後手に回れば子どもの命にかかわる恐れもある。迅速、柔軟な判断が必要となる児童虐待に対し、親権喪失制度が十分に対応できていないのは明らかである。 親権維持か喪失かという二者択一の前に、停止という段階的な措置を入れれば、現場も 判断しやすくなる。親権停止で何より大事なのは、その期間中に親子関係を再構築することである。法整備に合わせ、親の教育プログラム拡充や指導する人材の確保など虐待を断ち切る体制を整えていきたい。 法制審議会がまとめた要綱では、親権の一時停止は、親族や検察官のほか、子ども本人 、未成年後見人も家裁に申し立てができる。状況が改善されれば、親や親族の取り消し請求も可能となる。 近年の児童虐待の状況をみれば、子どもは言う通りにならないという当たり前のことさ え分からない未熟な親が多い。いったん傷ついた親子関係を修復するのは容易でないだろう。親権停止の選択やその取り消し判断に際しては、親がどこまで変われるかという見極めが極めて重要になる。 2000年に成立した児童虐待防止法で、虐待の定義が定められ、国、自治体の責任も 明確になった。その後も通告義務の範囲拡大や立ち入り調査権の強化など法整備は着実に進んだ。親権の一時停止で選択肢はさらに増えることになる。それらをいかに活用し、虐待に歯止めをかけていくか。現場の対応能力も一層問われている。
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