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天声人語

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2011年2月20日(日)付

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 人の世で往々に「石が流れて木の葉が沈む」ことがある。中国の「浮石沈木」に由来する諺(ことわざ)で、物事が当たり前の道理に合わないたとえだ。ただでさえ晴れやらぬ時代、これに類するニュースを聞くと、どうにもやりきれない▼消費者金融・武富士創業家の贈与課税をめぐる「2千億円還付」の司法判断もその一つだろう。もっともこれは「道理の殿堂」とも言うべき最高裁の判決だから、諺そのままではない。きのうの小紙社説も「釈然としない結論だが、筋は通っている」と書いていた▼ここは語順を変えて「筋は通っているが、釈然としない」としたい。還付金のうち利子が400億円というから、低金利のご時世に焼け太りである。経営破綻(はたん)した武富士は更生手続き中で、違法な高金利で借り手から巨額の「過払い利息」を取った問題を抱えてもいる▼ざっくり言えば「税逃れの成功」だろう。裁判官は「著しい不公平感を免れないが、租税法律主義からはやむを得ない」と補足意見を述べたそうだ。悪法もまた法なり、の古言に思いが至る▼もう一つ、諺を地でいくのが調査捕鯨の中断だろう。ご承知の通り反捕鯨団体の悪質な妨害ゆえだ。日本人は鯨肉を食べなくなった。冷静に見る対応は必要だが、伝統の食文化である。険しい感情が腹に残る向きもおられよう▼中国の古典によれば「浮石沈木」は大衆の無責任な言論で起きると言う。今や軽い言葉の乱発で「石が流れて木の葉が沈む」ごとき政界である。あれやこれや。わだかまる毒を消す良薬が、どこかにないか。

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