（１５）厳しさと穏やかさ 共存

大野耐一

岩月伸郎

　トヨタ自動車工業の元副社長で、トヨタ生産方式を確立させた大野耐一は、トレードマークの鼻ひげを２０代からはやしていた。怒鳴るときは、その鼻ひげを震わせ、額には青筋を立てた。身長が１８０センチほどと高く、しかもがっしりとした体格だったので、迫力があった。
　大野は同じことを、さも初めて話すように何十回も平気で話した。岩月伸郎（現デンソー顧問）は、しぐさで次に言おうとすることがわかった。右上を見ると「この話」、手を上げると「あの話」という具合に。「大野学校」の生徒らは、そうして頭と体にトヨタ生産方式を刻み込んだ。
　池渕浩介（現トヨタ自動車顧問）は若いころ、休日に大野の自宅を訪ねたことがある。仕事の不手際を報告するためだった。「こわごわと行ったのだけど、握りずしを食べさせてくれた。職場とプライベートの姿がまったく違う」と、池渕は懐かしむ。イスに座って猫を抱く姿が印象に残っている。
　職場を離れた大野は、とても穏やかだった。酒は飲まず、趣味はゴルフとマージャン。ゴルフでは７６歳のとき、年齢以下のスコアで回る「エージシュート」を達成。同じころ、名古屋ゴルフ倶楽部（愛知県東郷町）の和合コースで、ホールインワンも記録した。マージャンでは、自分の役をそろえるのに熱心で、かけひきはあまり気にしなかった。＝敬称略

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