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社説:論調観測…エジプト革命 「中東の嵐」に期待と不安

 「北京でチョウが羽ばたけば、やがてニューヨークで嵐が起きる」という、バタフライ効果と呼ばれる理論がある。

 ネットを通じて広がったチュニジアの反政府運動がたちまちエジプトのムバラク長期政権を崩壊させるうねりとなり、今も中東諸国を大きく揺るがしている。元毎日新聞カイロ特派員の佐藤陸雄さんは15日掲載の識者座談会で「グローバル化が進む中で人やモノのやり取りの仕方が変わり、予測のつかないことが次々と起きている」と国際情勢の転換を指摘した。

 約30年続いたムバラク政権の崩壊を受けて毎日新聞は13日「変わるアラブの模範に」と題した大型社説を載せた。多くの犠牲者を出したものの、基本的には市民の平和的な抗議行動による「エジプト革命」の実現を「新たな歴史のページを開いたことを高く評価したい」と率直に歓迎した。

 ムバラク政権は米国の中東外交の大きな要だった。同氏もイスラム原理主義が台頭する懸念を引き合いに出し「カオス(混とん)」に陥ると退陣論に反論していた。

 毎日は「政変の原動力になったのはイスラム教やアラブ民族主義に基づくイデオロギーではなく『これでは生きていけない』という現実的な危機感だろう」と、民衆の生活感覚が原動力と強調した。湾岸諸国の動揺が原油価格など世界経済に及ぼす影響にふれつつ「だからといって湾岸諸国のみ改革の例外とする時代でもない」と論じた。毎日は3日、6日両日の社説でも大統領の早期退陣を重ねて主張している。

 他紙も大統領退陣を肯定する立場で一致した。ただ、国軍の全権掌握から始まる政権移行に「民主的な体制への転換につながるかどうかは、まだ予断を許さない」(読売)、「軍による統治はあくまで暫定的であるべきだ」(産経)など前途多難とする論調も目立った。朝日は民主化への軍介入排除のため「国際的な監視と圧力」を説いた。

 日経は「インターネットを通じて広がった国民の連帯による独裁打倒は、これまでの国際政治の常識を変える」とツイッターなどメディアの役割にも重点を置いた。イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」をむしろ政治改革プロセスに参加させることが必要だと指摘した。

 「予測のつかないこと」がどこでも起こりうる政治の変質は日本すら例外でないのかもしれない。この春、統一選という舞台もある。どんなチョウが舞うだろう。【論説委員・人羅格】

毎日新聞 2011年2月20日 2時30分

 

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