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TOYOTA再発見

【ものづくりの心】

(1)拡大路線 薄れた原点

2011年01月13日

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「トヨタ生産方式」を応用したネット中古書店「ネットオフ」の商品センター=愛知県大府市、加藤丈朗撮影

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トヨタ生産方式の生みの親、大野耐一=トヨタ自動車提供

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ブラジルのサンベルナルド工場から移した工作機械=トヨタ自動車本社工場

●ネット企業「カイゼン教えて」

 もとは鉄工所だったという古びた倉庫。広さは約7千平方メートルある。中に入ると、背丈よりも高い約4千の本棚が、整然と並ぶ。エアコンはなく、肌寒い。従業員らは防寒着姿で台車を押しながら、小走りに本を探して回る。
 愛知県大府市。中古本をインターネットで買い取り販売する「ネットオフ」の商品センターだ。客からの注文をネットで受け、100万冊の在庫から探し、出荷する。
 社長の黒田武志(45)は、トヨタ自動車の元社員。1998年、起業しようと一念発起して退社。中古書店大手「ブックオフ」の起業家支援制度で独立した後、00年に現在の会社を立ち上げた。
 もっとも、中古本販売は新刊本より利幅が薄い。そのうえ、宅配なので物流費など中間コストを抑えなければ、利益は望めない。そんな厳しい条件の下で稼ぐため、黒田が参考にしたのは「トヨタ生産方式」。古巣の人脈をたどり、トヨタやデンソーのOBに教えを請うた。
 1日に約1万5千冊の注文をさばく。従業員1人が17分で50冊を探す。動きを指示するのはコンピューター。従業員は携帯する端末の指示に従い、本を台車に積んで回る。探す経路は、ムダのない「一筆書き」になるように計算されている。
 台車にも工夫がある。上下2段構造で、下段に載せる本の数は上段より少ない。従業員がかがむ回数を減らし、作業負担を軽くするためだ。
 トヨタの工場にもあるような、ムダやムリを無くすカイゼンの跡。「ネット企業なのに製造業の知恵が生かされている」。ネットオフは09年、米シリコンバレーであったベンチャー企業のビジネスモデルを競うコンテストで、こう高い評価を得た。=敬称略
(久保智)

 トヨタ自動車社長の豊田章男は10年ほど前、ネットオフの倉庫を訪れたことがある。まだ取締役だったころだ。倉庫は岡山市にあった。ネットオフは、トヨタが運営するポータルサイト「GAZOO(ガズー)」に、中古書店を「出店」していた。
 「トヨタも昔はベンチャー企業でした。ベンチャー精神で頑張っていきましょう」。豊田は、ネットオフ社長の黒田武志を励ました。
 本社と倉庫は現在、ともに愛知県大府市にあり、とても近い。「渋谷に本社があっては、トラブルが起きてもすぐに対応できないから」と黒田は言う。
 何事も現場をみて判断する「現地現物」。このトヨタの基本精神が、ネット企業の中で息づく。一方、本家本元のトヨタでは、伝統のものづくりに狂いが生じていた。

  □   □

 トヨタは1990年代後半から拡大路線を突き進み、世界中で工場を建設した。生産能力は毎年、富士重工業1社分に当たる約50万台が増えた。07年には生産台数で米ゼネラル・モーターズを抜き、世界一の自動車メーカーになった。だが、その足元は揺らぎ始めていた。
 同じころ、米国でサブプライムローン問題が表面化。米国市場で好調な販売を続けていたトヨタも、変調を来す。08年秋にリーマン・ショックが世界を襲うと、大量の在庫を抱え、2兆円を超えていた連結営業利益は09年3月期、4610億円の赤字に転落した。
 大量の在庫――。必要なものを必要なときに必要なだけをつくるトヨタ生産方式(Toyota Production System=TPS)では、あってはならない。
 70年代の石油危機では、在庫を抱えて業績不振にあえぐライバルを尻目に、着実に成長を続けた。低成長時代の手本として、世界から絶賛されもした。それが今、国内の自動車大手で最も深く、景気低迷の中であえいでいる。

  □   □

 異変に気づいていた人々が、社内にいなかったわけではない。99年から6年間、社長を務めた張富士夫(現会長)も、その一人だ。戦後、トヨタのものづくりの礎を築いた大野耐一(元トヨタ自動車工業副社長)の直弟子。大野の薫陶を受けたトヨタマンは、現役では数少なくなった。
 「トヨタは原点を忘れていないか」。拡大路線の先頭に立ちながら、疑問を感じていた。お金をかけずコツコツと機械にカイゼンを施し、生産性を高める意識が希薄になっていた。
 トヨタ流の原点を学べるものを探していると、ブラジルのサンベルナルド工場の古い設備が目にとまる。大野が70年、ブラジルに渡って手がけた設備だ。
 オフロードの四輪駆動車「バンデランテ」を1日に4台つくっていたが、01年に生産打ち切りになり、廃棄されようとしていた。張は日本へ移すように指示。愛知県豊田市の本社工場に、大野の知恵が詰まった機械を展示した。
 その近くには03年12月、小さな生産ラインを立ち上げた。「TPS基本ライン」と名付けられ、20人ほどの社員が2交代で1日約120の駆動系装置をつくる。ラインには「からくり」と呼ばれる機械的な仕掛けが数多くある。
 04年1月、張はTPS基本ラインを視察。社員らに「これをうまく活用し、次の世代に渡して下さい」と託した。=敬称略

《ネットオフ》
 元トヨタ自動車社員の黒田武志社長が1998年、中古書店大手ブックオフのフランチャイズ「ブックオフウェーブ」(三重県四日市市)として創業。00年、インターネットによる中古書店「イーブックオフ」(名古屋市)を設立。02年、商品センターを岡山市から愛知県大府市に移し、本社も移転。05年、「ネットオフ」に社名変更。現在は中古のCD、DVDやブランド品の売買も手がける。会員数は約140万人。10年9月期の売上高は約35億円。社員は約60人。

◆トヨタ自動車のものづくりの根幹であり、多くの企業が手本とする「トヨタ生産方式」。カイゼンやジャスト・イン・タイム、かんばん方式、自働化などは、どう編み出され、いかされてきたのか。第3部では、トヨタのものづくりの心を見つめる。
(このシリーズは久保智が担当します)

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