北九州市小倉北区の不動産会社「アイデアル」の脱税事件を巡り、法人税法違反罪で起訴された元小倉税務署長でア社の納税申告を請け負った税理士、高藤(たかふじ)正義被告(67)が、福岡地検特別刑事部の調べに対し「部落解放同盟福岡県連合会の関係者に数百万円を渡した」と供述した。関係者への取材で分かった。納税申告書には、同連合会の関係団体がチェックした意味を示す押印があった。地検は、金は押印に対する見返りだったとの疑いも視野に入れ、押印の趣旨など慎重に捜査している。
法人税法違反罪で起訴されたのは、高藤被告と、ア社役員、高橋和広被告(49)▽ア社の顧問だった元税理士の男性(44)=執行猶予付きの有罪が確定=の計3人。
元税理士に対する福岡地裁判決によると、3人は共謀して07年7月、不動産の売却などでア社の06年6月~07年5月の所得が約20億9000万円だったのに、約6億1100万円だったとする虚偽の納税申告書を小倉税務署に提出。4億4439万円を脱税したとされる。
公判では、(1)納税申告書に同連合会の関係団体を示す押印があった(2)高藤被告が元税理士に「同和団体を通じて(申告書を)出せば(税務署の)調査はほとんどない」と伝えた(3)ア社が脱税の報酬として、高藤被告に4000万円を渡し、うち約400万円が元税理士に渡った--ことなどが明らかになった。高藤、高橋両被告の公判は始まっていない。
福岡国税局によると、局内にはかつて人権団体の要望などを受ける「同和対策室」と呼ばれる部署があった。高藤被告は同室長などを経て、02年小倉税務署長を最後に退職し、税理士になった。関係者によると、高藤被告は「国税局OB」をアピール。09年まで同連合会の顧問税理士を務めていた。
同和団体の脱税を巡っては、京都地裁が96年、相続税法違反に問われた同和団体幹部に対する判決で、特定の同和団体を経由した納税申告を大阪国税局がフリーパスにしていたと認定した例がある。
部落解放同盟福岡県連合会の吉岡正博書記長は、押印について「(印鑑そのものが)今はない」と否定。高橋被告が同和関係者ではないことに触れ、「えせ同和行為だ。高藤被告は連合会の顧問として信頼していたのに裏切られた」と話した。
毎日新聞は、脱税事件や、過去に同連合会の関係団体経由で提出された納税申告書の押印の有無について福岡国税局に取材を申し入れたが「個別事案にはお答えできない」と回答した。【岸達也】
2011年2月20日