日07−190
「Life 天国で君に逢えたら」
2007(平成19)年8月2日鑑賞<東宝試写室>
監督:新城毅彦
原作:飯島夏樹『天国で君に逢えたら』『ガンに生かされて』(新潮社刊)
飯島夏樹(プロウインドサーファー)/大沢たかお
飯島寛子(夏樹の妻)/伊東美咲
藤堂完(夏樹のウインドの師匠)/哀川翔
藤堂玲子(藤堂の妻)/真矢みき
篠田(夏樹のウインド仲間)/袴田吉彦
小夏(夏樹の娘)/川島海荷
武藤医師(夏樹の主治医)/石丸謙二郎
東宝配給・2007年・日本映画・118分
<Based on a True Story>
冒頭、スクリーン上に登場するのがこの英語。つまりこの映画は、日本人でただ1人8年間ワールドカップに出場し続け、数々の受賞経験をもつプロウインドサーファーの飯島夏樹(大沢たかお)とその妻寛子(伊東美咲)という実在の家族の物語。ウインドサーフィンという競技自体が日本では有名ではないから、日本人初のプロウインドサーファーであり、夏樹の師匠でもある藤堂完(哀川翔)はもちろん、夏樹のことも多くの日本人が知らないのは当然。
彼が映画化されるほど有名になったのは、もちろん本業のウインドサーファーとしての活躍が前提だが、それ以上に彼が2002年5月に肝細胞ガンと診断されてからの闘病生活にある。元来、天然派でノー天気(?)な夏樹だったが、武藤医師(石丸謙二郎)から肝細胞ガンの診断を受けてからは2度の大手術と17回の入退院をくり返し、その間うつ病とパニック障害を併発するという大きな苦しみを味わうことになった。
しかし、2004年5月(6月)、「余命3カ月」との宣告を受けた後、8月に家族と共に慣れ親しんだハワイに移住してからの生活が圧巻!妻寛子の献身的な支えを受けながら、書くことに意義と意欲を見い出し、妻との愛を率直に綴った『天国で君に逢えたら』、そしてガンとの闘いを『ガンに生かされて』というタイトルにまとめあげるなど、「余命3カ月」の被宣告者とは到底考えられないような活動を・・・。
この映画の中には、ホームページを読んだ多くのファンに対して「返事を書かなければ」と言いながらパソコンに向かう夏樹のシーンが出てくるが、現実にはそれ以上の執筆活動をやっていたわけで、ホントに頭が下がる思い。私も彼に負けないで、さらに毎日書き続けていかなければと、決意を新たにした次第・・・。
<飯が食えるプロは・・・?>
ゴルフの世界では、現在アマチュアながら16歳のハニカミ王子こと石川遼クンが大活躍中だが、本来プロの中に混じったアマチュアに大きな顔をされるのはプロの恥。将棋の世界ではコンピューターがかなり腕を上げ、先日は渡辺竜王といい勝負をくり広げたが、結局は敗退。プロ野球、大相撲、サッカー、テニスその他何でも、プロとアマの差は歴然としているのが当然。
またプロでも、イチローや松坂大輔のように年収何億ももらえる選手はホンの一握りで、その陰には育成選手制度によってやっとプロ球団に「支配下登録」されて喜んでいる四国リーグ出身の西山道隆投手や中谷翼選手のように、ギリギリの生活を続けながらプロにしがみついている人たちもいる。このように、どの世界でもその仕事で飯が食えるプロは少ないもの。
ましてや、ウインドサーフィンなどという日本では珍しいスポーツでは、いくらプロと言ってもそもそも飯を食うこと自体が大変。映画の前半は、そんな若き日の夏樹と寛子の生きるための闘いの様子がイキイキと描かれているので要注目!
<今ドキ珍しい!4人の子持ち!>
夏樹がプロとして飯が食えるようになったのは、1991年のワールドカップ・オーストラリア大会で優勝してから。もっともネット情報を調べたところでは、これは映画上の話だけで、実際は1990年のワールドカップ韓国種目コースレース準優勝がベスト・・・?もっとも、それが決して偶然やまぐれでなかったことは、その後も世界大会を転戦し、数々の入賞を果たしていることからも明らか。この映画でみる、夏樹がハワイで購入した自宅は豪華なものだから、選手としての最盛期には結構な収入があったことは明らか。
他方珍しい(?)のは、1966年生まれの夏樹と1967年生まれの寛子との間に、長女小夏(94年5月)、双子のヒロと吾郎(96年4月)さらにタマキ(01年9月)と4人の子供が生まれたこと。普通なら、せいぜい双子の男の子が生まれたところで打ち止めだろうが、4人目誕生となったのは、ひょっとして夏樹がこの分野でも天然でノー天気だから・・・?
<4人の子持ちにしては、キレイすぎ・・・?>
それはともかく、この映画では1967年生まれの寛子を、1977年生まれの伊東美咲が演じているが、あの世紀の美女が4人の子持ちの母親を堂々と演じていることにビックリ!もっとも、あの抜群のスタイルはどうしようもないから、4人も子供を生んだとは到底思えないのが、映画女優伊東美咲にとってはちょっと損・・・?
ちなみに、ハリウッドビューティーを代表する女優シャーリーズ・セロンが、連続殺人犯という汚れ役に挑んだ映画が『モンスター』(03年)だったが、そこで彼女はその役づくりのために何と13kg以上も体重を増やしたとのこと(『シネマルーム6』238頁参照)。プレスシートの写真やエンドロールと共に流れてくる実際の寛子さんの姿を見ると、結構チャーミングな女性だから、伊東美咲がシャーリーズ・セロンのような役づくりのための無茶な努力をしなくてもよかったのはラッキー・・・?
<他方、大沢たかおは・・・?>
ガンや白血病の治療のために抗ガン剤の投与を続けていると、その副作用のために髪の毛が抜け落ちるのが常。したがって、大沢たかおが主演して大ヒットした『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)では、白血病に冒された長澤まさみ扮する広瀬亜紀は、毛髪の抜け落ちた頭を隠すため帽子で頭を覆っていたが、あるシーンではその抜け落ちた頭部を大胆に披露した。しかして今回、肝細胞ガンのために余命3カ月と宣告された夏樹を演ずる大沢たかおは・・・?
また、映画のリアリズムを追及するためには、大沢たかおには10〜15kg痩せてもらい、頬はげっそり、頭髪もほとんど抜け落ちた状態で登場してほしかったのは山々・・・?しかし、数多くのテレビドラマを手がけた後、『ただ、君を愛してる』(06年)で劇場長編映画デビューを飾った新城毅彦監督は、大沢たかおにそこまでは要求しなかったよう・・・。そのため、もちろん余命3カ月と宣告された末期ガンの患者の姿を俳優としては立派に演じているのだが、あまりにもキレイでカッコ良すぎるのが玉にキズ・・・?
<余命宣告とある医療過誤訴訟>
この映画の真骨頂は、寛子が「夫は余命3カ月」と宣告されてからのストーリー展開にある。すなわち、夏樹が日本の病院での延命治療を拒否して慣れ親しんだハワイに移住し、そこで家族と生活していく中、妻や家族との絆を深め、新たな生き甲斐を見つけていく姿は感動的。
余命宣告を受けた患者は、延命治療かそれともこの映画のような「気まま治療」かの選択を迫られるわけだが、結果的に2004年5月に余命3カ月と宣告された夏樹は8月にハワイに移住し、翌2005年2月28日の死亡まで、7カ月間生存したことになる。
この映画を観ながら私が思い出していたのは、現在係属中のある医療過誤訴訟。これは、患者本人に対するガン告知の有無などいろいろな争点がある事件だが、法律上の論点はさておき、このケースは本人や家族はある手術を受ければ病状が良くなると思っていたのに、結果的にその手術によって死んでしまったもの。したがって残された家族が、そんな危険があるのなら最初から手術など受けないで、自由に好きなことをやらせながら民間療養でもした方がマシだったと思うのは当然。もしこのケースで、この映画のような選択ができていたら、まだ数カ月、場合によれば1、2年生きられたのではないか、とホントに思えてきたものだ。この映画をエネルギーにして、この裁判もさらに頑張らなければ・・・。
<彼のメッセージをどう受け止める・・・?>
2001年10月以降映画評論を書き始めた私の周りには、書くことの大好きな数人の人間がいる。私を含めて彼らは少しヘンな人間ばかり(?)だが、この映画の主人公夏樹を含めて、そこに共通するのは「何かを伝えたい」という欲求。
ウインドサーフィンしか能がなく、ひたすらその道を走ってきた夏樹が、肝細胞ガンの診断を受けた後、短期間で何冊もの本を出版したことは大きな驚きだが、それは彼が何らかのメッセージを伝えたいと熱く願ったことの裏返し。この映画では、4人の子供のうち個性を示し、家族のあり方に大きな影響を与えたのは長女の小夏(川島海荷)だけだが、今度は双子のヒロ・吾郎とその弟タマキという3人の男の子の成長とその人生の選択が大いに楽しみ。少なくとも1人くらいは、オヤジの跡を継ぐという子が出現してくるのでは・・・?
ガンと闘い天国へ旅立ったプロのウインドサーファー夏樹による多くの日本人へのメッセージは、小説とこの映画によって広く伝えられたはず。したがって次の問題は、それを私たちがどう受け止めるか、ということ。私はこの映画を観た1人1人が、「ああ、この映画良かったね」とサラリと流すのではなく、夏樹からのメッセージをきちんと自分自身に問いかけてもらいたいと思うのだが・・・。
<あなたの涙の有無と程度は・・・?>
60歳になるのをあと1年半後に控えているせいか、私は最近とみに涙もろくなってきているよう・・・?そのためか、事前にこの映画のネット情報を読んでいた私は、「これは泣かせる映画」という予備知識をもって臨んだのだが、案の定・・・?
最近自分でもかなわないナと思うのは、筋書きが見え、スクリーン上でもそのとおりのストーリーが展開されていっても、思わず涙が流れてくること。そして、この映画はまさにそれ。だって、余命3カ月と宣告された夏樹は、環境や周りの支援によって多少長生きすることができたとしても、いずれ「天国へ行くこと」は大前提。そしてこの映画は、死ぬまで数カ月間の夏樹と妻との、そして4人の子供を含めた家族との愛と絆を実話にもとづいて映画として紹介したものだから、ストーリー展開は最初から読めているもの。
しかし、そんな映画であっても、やっぱり涙が流れてくるのは一体ナゼ・・・?ある観客は、「こんなお涙ちょうだいの映画はくだらない」と言うかもしれないが、私はそれには大反対。そしてさて、この映画を観たあなたの涙の有無と程度は・・・?
2007(平成19)年8月2日記