Cecil Taylor / Unit Structures ビッグピンクなんば店 CD 1170円


 1. Steps 10:15
 2. Enter, Evening 11:03
   (Softly line structure)
 3. Enter, Evening (Alternate take) 10:06
 4. Unit Structure
   /As of a Now/Section 17:45
 5. Tales (8 Whisps) 7:10
 
Personel:
 Eddie Gale Stevens, Jr. (Trumpet)
 Jimmy Lyons (Alto Sax)
 Ken McKintyre (Alto Sax,
            Oboe, Bass Clarinet)
 Cecil Taylor (Piano, Bells)
 Henry Grimes (Bass)
 Alan Silva (Bass)
 Andrew Cyrille (Drums)
 Recorded May 19, 1966
 Blue Note・CDP 7 84237 2
・ うさぎ、うさぎ、何見て跳ねる

 と、何で童謡の「十五夜お月様」かと言うと、3曲目の「Enter, Evening」の別テイクを聴いていたら、セシル・テイラーのソロで一瞬「うさぎ、うさぎ」の旋律が出てきて驚いたからだ(7分過ぎ)。

 空耳はともかくとして、テイラーのリーダー作を聴いたのは、これが初めてになる。今まで、どうも買う気が起こらなかった演奏者の代表がセシル・テイラーと言ってもいい。フリージャズは嫌いではない、しかしラジオでチラッと聴いた彼の演奏・・・もう両手に目一杯力を込めて、グシャッ!と「ピアノのおにぎり」を作るかのような暴力的なスタイルには、「これは一寸」と敬遠したい気分になった。では何故聴く気になったかというと、ケン・マッキンタイアーが参加していたからである。

 最初は、マッキンタイアーの演奏を期待していたが、次第にピアノの方が気になり出した。たしかに奔放だが、予想していた「刺々しさ」は意外に少なく、その代わりピアノの一音一音の硬質な美しさに、それまで抱いていたセシル・テイラーのイメージが変わり始めた。

 彼のピアノは、音の飛沫を、音の破片を、あるいは音の粒子を想わせる。まるで抽象画家のように(ここで、同時期に美術界で「アンフォルメル」と呼ばれる抽象絵画運動が隆盛していたのを思い浮かべた)。
 青い色彩を、画面にサッと飛ばし、細かな飛沫の跡となる(彼のピアノからは、何故か青を連想してしまう)。粒子が集積し、それが波打つような曲線を描く。色彩をどこへ、どのように配するかは、彼の即興に委ねられているが、画家とは違い、刻々と時間が進行している中での即興であり、そこが聴く者に緊張を与える。

 テイラーのピアノが繰り出す様々な色彩、フォルムを、ナイフでギュギュ〜ッ! と非情にこそげ落とすような弓弾きベースの音がとても面白い。また、弓弾きでも違う場面では、キュイ〜ンと蔓が延びていくような効果をあげている。
 「Enter, Evening」では、三人のホーンが不気味に暗い空間を伸びてゆく枝を思わせ、その入り組んだ森の底の方で、ピアノがうねり、また奥の方に隠れるように不穏な「振動」を発する。そんな中、混沌とした枝の分け目から、一気にこちらへ流れ出るような瞬間があり、その響きはまさに冷たい水しぶきのようで、ひんやりと美しい。
 また、リズム・セクションが定型ビートに入るかのような一瞬の間があり(無論そうはならないが)、その「間」がフリージャズの中において、却って新鮮な緊張感をもたらす。

 4曲目でのマッキンタイアーの、ほとんど肉声のようなバス・クラリネットも面白かったが、やはりテイラーに触れてみて良かったと思う。聴く前は、もっと破壊的なものだと思っていたが、実際に聴くと何らかを「構築」しているように感じた。勿論、それは破壊を伴うが。当時は、「破壊」の部分が衝撃を与えたのだろう。描き、それをあっさり消す、残る痕跡。
 全体的に整然とした印象を持ったのは、「パネルクイズ・アタック25」のようなジャケットのせいだけではない・・・そんなことより、テイラーがもしエリック・ドルフィーの「Out to Lunch」に参加していたら・・・と想像するだけでスリルを感じる。
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