2011年2月16日18時42分
1月から始まったみなさんのつぶやきをアサヒコムで紹介する企画「コブク郎onTwitter」(コブク郎のアカウントはhttp://twitter.com/asahi_tokyo)。当初の「ご飯のお供」から話題が広がった東京芸大・大浦食堂の名物料理「バタ丼」の記事は多くの方にアクセスしていただきました。バタ丼を食べた卒業生の中で名前が挙がった舞台俳優の石丸幹二さん(45)にダメ元で取材を申し込んだところ、なんと快諾。次回公演に向け稽古中の石丸さんに早速取材に伺い、バタ丼への思いのたけを語ってもらいました。
東京芸大・大浦食堂の名物「バタ丼」食べてみた――石丸さんとバタ丼の出会いはどんなものだったんでしょうか。
石丸幹二さん(以下石丸) 初めは知らなかったんです。でも、いつも食堂でずらっと並んでいた美術学部の人たちが、つなぎの服とか着て、「バタ丼!」なんて、かっこよく注文するわけです。おお、かっこいいと。あこがれから入ったバタ丼でした。
――石丸さんがバタ丼にあこがれていたとは。実際食べてどうでしたか?
石丸 和食のラインナップの中、洋食なバタ丼。豆腐がソテーしてあって、香りもハイカラ。そう、まさにハイカラな味ですね。
――そしてはまった、と。
石丸 1年の時は特にお世話になってたなぁ。朝、大学へ行ってずーっと授業やサークルがあるわけです。僕はバッハなどを歌う「カンタータクラブ」に入っていたのですが、これが夜から練習がありまして。夕方、小腹が減るんですね。そのときにバタ丼をかきこんで、もうひと踏ん張り、と。
――けっこう盛りだくさんな一杯の気がしますけど(笑)。小腹ですか。
石丸 逆に物足りないくらいでしたよ。
――実は今日、こちらに来る前に大浦食堂に寄って、バタ丼を持ってきたのですが。
石丸 本当ですか!(実物を見て)…んー。こんなにたっぷりだったっけ。これはヘビーだね。でも、いただきます!
――久々に食べてみてどうでし…
石丸 うまい!!モヤシがいいね。バター(マーガリン)が染みこんでる。学生の頃は唐辛子をふって、スプーンでガサッと食べていたんですよね。いやあ、懐かしいなあ。卒業以来だよ。
――どんな風景が思い浮かびますか。
石丸 大浦食堂は僕の通っていた当時、木造でね。近代的な校舎の中にふっと、そこだけタイムスリップしたような何とも言えない感覚になる建物でした。木の扉をがらっと開けてね。まさに「THE昭和」というイメージ。
――昭和!
石丸 ええ。僕は昭和と平成の端境期に芸大に通ったからね。その中でも「昭和」を感じさせる食堂ですよ、あそこは。あ、こんなにむしゃむしゃ食べながらですみません。
――今取り組んでいる舞台でも、昭和な場面がたくさん出てくるそうですね。
石丸 「日本人のへそ」という井上ひさしさんのデビュー作です。昭和が元気な時代、浅草の艶(いろ)が香り立つような舞台、といったらいいでしょうか。
――どんな人が出てくるんですか。
石丸 東北から上京してきた娘さんが人生を転々としていくんですが、ストリッパーになり、政治家の愛人になってのし上がり…。
――その中で石丸さんはどんな役柄を。
石丸 彼女の父を演じたり、東大生のふりをするヤクザを演じたり。彼女が出会っていくいろいろな人物を演じます。
――かっこいいイメージが強い石丸さんがヤクザですか。
石丸 そうなんです。ヤクザだけじゃなく、しょうもないオヤジも演じてますし、コントも初めて。個人的には「石丸の真ウラ」とでもいいましょうか、今までやったことのない事に挑戦しています。
――舞台の見どころは?
石丸 どんでん返しですね。観ている人がいったい自分は何を見ているのか、いい意味で、どんどん裏切っていくひねりのきいた構成になっています。
――というと。
石丸 実はさっき挙げた役柄、彼女の半生をたどっていく「治療劇」のため、僕が演ずる「会社員」がいろいろ演じていたとわかるんです。
――お芝居の中の登場人物が、実は「お芝居」を演じていたことがわかると。
石丸 そうです。そこまでが一幕。二幕になると、またその設定が大きくひっくり返ります。
――え、それも実は違っていたんですか!?
石丸 ふふふ。そうなんです。その先は観てのお楽しみですね。
――ああ! 石丸さんが歌う場面もあるのですか。
石丸 もちろんあります。ただ、「音楽劇」なのは第一幕だけ。コント仕立ての一幕から一転、推理劇に変わります。二幕目は歌はまったくない。いろいろな要素が詰まった舞台なんです。
――面白そうですね!そして、作品も「昭和」が根底にあるんですね。
石丸 まさにそうなんです。今回の台本をもらった時、大浦食堂や芸大近くの鶯谷の様子なんかを思い出しましたよね。
――大浦食堂。ツイッターでも話題になっていたのですが、店主の北澤さんは石丸さんから観ても「名物店主」なんですか?
石丸 ええ。誰に対してもフレンドリーで、よく、学生のころは食べに行く夕方以外にも朝晩、あいさつだけしにいきましたね。しゃべりたくって。「おはようございます」とか「ごちそうさま」なんてね。卒業後もお世話になりましたよ。若いころは自分が出演する舞台のポスターなんかを持って行くと、張ってくれたり。
――へええ。
石丸 しかし、最近もたまーに行くんだけどね。あのオヤジさんも変わらないよね。それが不思議(笑)。白い帽子をかぶって、いつもあそこに立ってる。そういう意味で建物は建て変わったけれど、あそこはずっと「あのまま」なんですよね。
――なるほど。原風景なんですね。
石丸 ええ。(稽古の時間が近づく)あ、バタ丼、このまま残しておいてもらえますか?残りはあとで食べたいので。
――わかりました。ではあとで、お皿とりに行きますね。
石丸 いや。僕が直接芸大に持って行きますよ。
――え!?
石丸 ちょうど良かったです。オヤジさんに会いたいし。僕が持って行きます!
◇
日本人のへそ 3月8日から3月27日、東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンで。井上ひさし作、栗山民也演出、共演者に笹本玲奈さん、山崎一さんら。音楽は小曽根真さんで、伴奏者として出演もする。公演の詳細はこまつ座
(http://www.komatsuza.co.jp/contents/performance/index.html)
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