2011年1月16日 16時33分
裁判員裁判導入から1年半余がたち、裁判官が書く判決の書き方が変わり始めている。被告の刑の重さを決める際に検討した刑の幅に数字を交えて言及するなど、評議の中身に具体的に踏み込んで説明する判決が目立つ。専門家は「裁判官と国民から選ばれた裁判員が議論した経過が伝わってくる判決は、裁判員制度の趣旨にかなう」と評価している。
「同様事件の量刑傾向を見ると、検察官が求める懲役7年と、弁護人が主張する『懲役4年を超えない刑』との間で分布している例が多い。本件は比較的重い刑を科すべき事案だ」
昨年12月8日、東京地裁。自室の押し入れに放火したとして放火罪に問われた男(73)の判決で、若園敦雄裁判長はそう指摘した。重い刑を科すべき事情として▽近隣に延焼する危険が十分あった▽建物所有者に転居を余儀なくさせた--などを挙げ、懲役5年6月を選択したと説明した。
交際相手を殺害したとして殺人罪に問われ、同1日に東京地裁で判決が言い渡された男(20)の裁判では、後藤真理子裁判長が「死刑や無期懲役を選択することも、懲役刑の下限(懲役5年)付近で処罰することも相当ではない」と指摘。弁護側が▽男女関係のもつれが原因▽示談未成立--といった条件を基に類似事件の量刑を調べた結果、懲役9~14年で分布していたと述べた点も引用し、「求刑の懲役15年と弁護側が求めた10年を参考にした」として懲役13年を言い渡した。
裁判員裁判では、プロの裁判官と裁判員が話し合って量刑を決めるが、判決を書くのは裁判官の役割だ。
制度開始直後は「類似事件の量刑も踏まえ総合的に判断した」といった従来通りの説明にとどまる判決が多かった。あるベテラン裁判官は「制度開始前も模擬裁判の参加者からは『量刑理由をもっと分かりやすく書くべきだ』という意見が多数だった。制度施行から1年半で浸透してきているのでは」と話す。
元裁判官の青木孝之・駿河台大法科大学院教授(刑事法)は「従来型の判決もまだ多い。国民に参加を促す制度の趣旨を踏まえると、裁判官は国民との評議経過が生き生きと伝わるような判決を書くことを目指すべきだ」と指摘している。【伊藤直孝】