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[25950] 【ネタ完結】魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 02:06
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 本SSは、以下のSSのその後になります。

 【チラシの裏】
  「魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~」

 ただし、アリシアが生きていたらという設定を借りるためだけと思ってください。
 非常にややこしいですが、二次創作作品の平行世界の一つと考えてください。
 以下、上記理由と注意事項になります。

 ・ギャグが主体です。
 ・主人公は、アリシアです。
 ・本SSのアリシアの特徴は、以下になります。
  ①活発的な性格。
  ②魔法資質がないわけではなく、極端に低い設定。
  ③男の子の好むようなものを特に好みます。
  ④少しおかしい。
 ・もし、アリシアが居たらのA's~StSにおける再構成になりますので、話の流れ上、原作の会話が多用されます。
  オリジナルの設定も入れるつもりですが、原作と大筋の流れは変わらないのは、ご容赦ください。


 …


 一度削除した作品ですが、SS捜索掲示板にてお探しの方が居ましたので、再度、投稿させていただきました。
 参照:No.94258 [特定] 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~

 また、このSSは、全削除の切っ掛けとなったものです。
 自分自身で解消されない矛盾点や納得出来ない気持ち悪さなどがありました。
 それを編集して、一話ずつ投稿する予定です。
 無印、A'sの時には姿を見せず、頼めば何でも出来た管理局という存在がStSで姿を見せました。
 理解出来ない管理局の仕組みなどを自己解釈する予定ですが、大きな間違いも含まれると思います。
 ご指摘やアドバイスを頂ければ幸いです。


 …


 最後に……。

 また、お世話になります。
 読む時も書く時も、非常に重宝しています。
 このサイトを管理運営してくれている管理人さんに感謝を致します。
 本当にありがとうございます。



[25950] 第1話 A's編・アリシアの悩みごと
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/12 12:12
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 フェイトとアリシアとアルフが、時の庭園からミッドチルダに移って暫く経っての頃……。
 少しずつハラオウン家の人達と交流が深まり、もう少しで養子縁組の話が成立するところまでの頃……。
 この頃から、アリシアに変化が表われ始めた。
 幼いアリシアにも分かり始めたのだ。


 「私とフェイトは、同じ時間に居ない……。」


 そう……。
 生まれが早かっただけで、アリシアの成長は五歳で止まっていた。
 一方のフェイトは、『プロジェクトF.A.T.E』の関係から、成長がアリシアの記憶を受け継いだ歳からになる。
 つまり、この時点で、アリシア五歳、フェイト九歳と四年分の差があったのである。



  第1話 A's編・アリシアの悩みごと



 アリシアを更に追い込んだのが、フェイトとの実力差であった。
 フェイトの魔導師としての資質は、非常に高い。
 これは、『プロジェクトF.A.T.E』の「使い魔を超える人造生命の作成」による成果と四年間の魔法訓練の差だ。
 そして、フェイトは、管理局の執務官を目指し、将来というものも考え始めていた。

 一方のアリシアは、魔導師の資質が非常に低い。
 念話など簡単なものは使えることが分かったが、絶対的な魔力量が少ない。
 特に顕著に表われたのが、瞬間的に発生出来る魔力量だった。

 例えば、なのはのディバインバスター。
 これを魔力量の観点から見ると二つ考えられる。
 まず、個人がディバインバスターを撃つだけの魔力量を持っていること。
 もう一つは、ディバインバスターを一回撃つだけの魔法を瞬間的に発生させる魔力量を練り出せること。
 アリシアは、後者が圧倒的に低かった。

 一人の人間として負けているのは我慢出来た。
 だけど、このままだと姉妹として、一緒に居ることは出来ない。


 「……フェイトと一緒に居られない。」


 自ら望んで、母であるプレシアが守ってくれた約束であるフェイト。
 このままでは、フェイトと一緒に居られないとアリシアは感じていた。
 そして、気丈なアリシアは、その悩みを明かすことが出来なかった。
 また、何もしないで諦めることも出来なかった。


 …


 そんな内面で追い詰められているアリシアに、最初に気付いたのはフェイトだった。
 いつも通り明るく見えるのに何処か違和感がある。


 「お姉ちゃん……。
  何処か痛いの?」

 「何処も痛くないよ。」

 「じゃあ、何か悩みでもあるの?」

 「ないよ。
  ・
  ・
  どうして?」

 「何か……いつもと違う。」

 「そんなことないよ。」

 「……そうかな?」


 最初の違和感を感じてから、フェイトは、アリシアを気にするようになった。
 本当に些細な違いだが、笑顔に何処か元気がないような気がした。
 そして、それをクロノに相談した。
 クロノは、フェイトのように変化には気付かなかったが、出来るだけ気を付けてアリシアに接してくれることを約束してくれた。


 …


 それから、数日が過ぎる……。
 嘱託魔導師として仕事を受け持つようになって、フェイトは、一日家を空けることもあった。
 その仕事にはアルフも付いて行くため、管理局に常時勤務になるリンディとクロノも出掛ければ、必然的にアリシアは一人になる。
 そして、そんな日のお留守番……。
 アリシアは、涙が止まらなかった。
 ハラオウン家の自分の部屋で、薄い緑の服の袖は、緑の斑点をいくつも作っていた。


 「どうすればいいの……。」


 いくら考えても、年月を埋める方法は見つからない。
 いくら考えても、自分の資質を変える方法が見つからない。
 最近は、一人になるとこっそりと涙を流していた。
 そして、そんな姿を誰にも見せたくなくて我慢していたのに……。
 突然の来訪者がアリシアの部屋を訪れてしまった。


 「アリシア、居るか?
  今日は、非番になったんだけ……ど。」


 アリシアの部屋の扉を開けたのは、クロノだった。
 アリシアは、自分の泣く声でクロノの帰宅にも、部屋をノックする音にも気付いていなかった。


 …


 アリシアは、クロノの居る扉に背を向けた。
 クロノは、フェイトの言葉を思い出す。
 そして、背を向けたアリシアに静かに声を掛ける。


 「……アリシア?
  どうしたんだ?」

 「何でも……ない。」


 アリシアは、見られまいと必死に涙を拭う。
 クロノは、アリシアの背中を見ながら話し掛ける。


 「そんなわけないだろう……。」

 「何でもない!」


 小さい子には適わなかった。
 そして、どう接していいか分からない。
 それは、クロノの生い立ちにも少し原因があった。
 幼くして父の死に直面し、暫く同年代の仲間に心を閉ざした。
 だから、少し人と接するのが難しく感じる時がある。
 特にアリシアぐらいの歳の子には……。

 しかし、士官学校で出会ったエイミィが、クロノを少し変えた。
 人と接することの大事さを思い出させてくれた。
 そして、変化は、今も徐々に継続中であった。

 アリシアに背を向かれてしまったクロノは、黙って部屋を出て行った。
 そして、アリシアは、自分の不甲斐なさが悔しくて深く俯いた。


 …


 暫くして、クロノは、トレイに紅茶の入ったティーポットとカップを二つ、そして、その他諸々を用意してアリシアの居る部屋に再び現れた。
 背を向けるアリシアの近くに座り、黙ってカップに紅茶を注いで、いつもアリシアが入れる分だけの角砂糖をカップに入れてスプーンで掻き混ぜる。
 それをそっとアリシアの視界に入るところに差し出し、今度は、自分の分の紅茶を入れ始めた。


 「…………。」


 時間にしたら、三分弱……。
 クロノは、ゆっくりとアリシアが話し出すのを待っていた。
 やがて、アリシアが口を開く。


 「ごめんね……。」

 「大丈夫だよ。
  紅茶……冷めるよ。」

 「うん……。」


 アリシアは、ゆっくりと振り返り、クロノの淹れてくれた紅茶のカップに手を伸ばす。
 それを黙ったまま、口に運ぶ。


 「いつもと同じ味だ……。」

 「よかった。」


 クロノは、アリシアの言葉に静かに微笑んだ。
 アリシアは、初めてクロノの笑顔を見た気がした。
 しかし、思い出してみるとそんなことはない。
 いつも見守るような笑みを湛えていた気がする。


 (クロノ……。
  いつも見ていてくれたんだ……。)


 アリシアは、クロノを見続ける。
 クロノの優しさに我が侭を言った罪悪感が込み上げる。
 また、何も出来ない自分の悔しい思いも込み上げて来る。
 今度は、クロノに縋りついて声を上げた。
 クロノは、アリシアを優しく抱きながら、アリシアが泣くのを止めるのを待ち続けた。
 ハラオウン家に来て、アリシアが初めてクロノに心を許した瞬間だった。


 …


 初めて自分の気持ちを明かしてくれたアリシアの行動は、クロノにとって予想外だった。
 本来、アリシアは、こんなにも考えていて……。
 こんなにも甘えたかったに違いない……。

 それは、アリシアだけではなくフェイトも同じなのかもしれない。
 本当は、両親に甘えたい盛りなのに……。
 その気持ちは、クロノも少し分かる。
 父親を幼くして亡くた思いが少し蘇る。
 クロノは、落ち着き始めたアリシアに話し掛ける。


 「アリシア。
  僕に話してくれないかな?
  少しでも力になってあげたいんだ。」


 アリシアは、クロノを見つめたまま考えている。
 そして、頷くと話し出した。


 「わかった。
  クロノには話す……。
  ・
  ・
  でも!
  フェイトには、絶対に言っちゃダメだからね!」

 「分かったよ。」

 「……フェイトと一緒に居たいの。」


 クロノは、首を傾げる。
 アリシアは、今もフェイトと一緒に居る。


 「私がこのままじゃ、フェイトと一緒に居られない……。
  管理局で働けない……。」


 クロノは、少し呆気に取られた。


 (管理局って……。
  アリシアは、まだ五歳で……。
  ・
  ・
  もう、将来のことを考えているのか!?)


 アリシアが続ける。


 「最近……思うの。
  私、もしかしたら……。
  お姉ちゃんじゃないかもしれない……。」


 クロノは、額に手を当てる。


 (これは、いい傾向だ……。
  アリシアが、やっと自分の方がフェイトより、
  年下であると理解し始めている。
  だけど……。
  途中の工程を飛ばして、
  いきなり管理局に入ることを前提で話が進んでいる。
  ・
  ・
  確かに将来を考えるのはいいことだ。
  だけど、まともな教育すら始まってないのに……。
  早熟過ぎないか?)


 しかし、クロノの頭に色んなものが過ぎる。
 十四歳で管理局の執務官をしている自分。
 九歳で嘱託魔導師をしているフェイトと使い魔のアルフ。
 この前、知り合ったなのはも、九歳だったはず。


 (環境のせいか……。)


 クロノは、項垂れる。
 そして、項垂れるクロノに、アリシアは質問をする。


 「クロノ。
  私は、どうすれば管理局に入れるの?
  どうすれば、フェイトと一緒に居られるの?」

 (困った……。)


 アリシアが、クロノを見続けている。


 (本当に困った……。)


 そして、クロノが出した答えは?


 「アリシア。
  今の現状から知ろうか?」


 五歳のアリシアに真面目に答えることだった。
 クロノは、アリシアの真摯な視線に嘘を言うことなど出来なかった。


 …


 クロノは、アリシアに説明を始める。


 「アリシアも分かっていると思うけど、
  アリシアの魔法の資質は高くない。」

 「わかってる。」

 「だから、フェイトと同じ方法だと追いつけない。」

 「あぅ……。
  でも、そこが問題なの。」


 クロノが頷く。


 「例を出すよ。
  僕の魔力量は、フェイトやなのはより少ない。
  でも、模擬戦をしても負けない。
  ・
  ・
  何でか分かるか?」


 アリシアは、首を振る。


 「なのはの砲撃を砲撃で受けることはしないんだ。
  攻撃するなら、高い操作技術を利用して、
  先に魔法を当てることを考えている。
  ・
  ・
  つまり、得意な分野で勝負したんだ。」

 「え~と、じゃあ……。
  私も得意な分野を伸ばせばいいの?」

 「そう思うよ。」

 「でも、私の魔法の資質って……。」

 「分かってる。
  だから、フェイトの進む道と平行して説明する。
  ・
  ・
  フェイトの能力は、明らかに実戦で発揮されるものがほとんどだ。
  高位の魔法、高い魔力数値……。
  だから、フェイトが目指している執務官というのは、
  よく考えられていると思う。」

 「ますます、私の入る余地がない……。」

 「だけど……。」


 アリシアが、顔を上げる。


 「こうは、考えられえないか?
  実戦を多くこなさないといけない以上、
  フェイトの能力は、戦闘に特化した技術や訓練、知識に偏る。」

 「うん。」

 「じゃあ、フェイトが執務官になった時に閲覧する資料などは、
  フェイトが一から集めるものか?」

 「閲覧するなら、誰かが……あ!」

 「そう。
  フェイトの足りない知識を補う役職に就く方法もある。
  もう少し例を挙げるとデバイスだ。
  デバイスは、人口AIなどを詰め込んだ高性能な機械の部分もある。
  これをメンテナンスするのは、フェイト自身じゃない。
  管理局の技術者だ。」

 「そうか……。
  そっち方面で頑張ればいいんだ。
  ・
  ・
  でも、私、勉強嫌い……。」


 クロノは、微笑む。


 「頑張って出来ると思うよ。」

 「本当?」

 「うん。
  アリシアとフェイトのお母さん……。
  プレシア・テスタロッサは、大魔導師でもあったけど、
  優秀な研究者でもあったんだ。
  アリシアなら、プレシア・テスタロッサのような人になれるよ。」


 アリシアは、暫くクロノを見続けるといつもの笑顔で微笑んだ。


 「頑張る!」

 「え?」

 「今日から、頑張る!」

 「……そうか。」

 「フェイトに足りない知識を全部覚えて、
  最後には、バルディッシュをメンテナンスする!」

 「大変なことだよ?」

 「それでもやる!
  それなら、私にも出来るかもしれないから!」

 「うん。」


 クロノは、元気が出たアリシアを見て微笑む。


 「目標は、十年で管理局の全部署制覇!」


 クロノが、吹いた。


 「ぜ、全部署!?」


 アリシアが、クロノを捕食者の目で見る。


 「クロノ!
  じっくり教えて!」

 「きょ、今日は、非番なんだけど……。」


 クロノは、溜息を吐いて諦める。
 泣いているアリシアよりも、元気なアリシアの方がいい。
 この日を堺にアリシアの奮闘が始まるのだった。



[25950] 第2話 A's編・アリシアの資質
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/12 12:11
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 嘱託魔導師としての仕事を終え、久方振りに戻るミッドチルダのハラオウン家……。
 リビングに入り、フェイトとアルフが帰りの挨拶をする間もなく固まった。


 「お、お姉ちゃんが……。」

 「ア、アリシアが……。」

 「「勉強してる!?」」


 リビングで教科書を開いていたアリシアは、失礼な言葉に青筋を浮かべた。



  第2話 A's編・アリシアの資質



 フェイトは、ここ最近のアリシアの違和感を思い出す。
 少し元気がなかったたこと。
 何かを隠しているようだったこと。
 少し首を傾げながら、勘違いだったのかと思い直して呟く。


 「勉強をし出す予兆だったのかな?」

 「フェイト……。
  失礼じゃない?」

 「だって!
  いつも宿題出されても、私に頼るし!
  事あるごとに言い訳して逃げてるよ!」

 「……そうなんだけど。」


 アリシアは、普段の態度を思い出して、自分に幻滅する。
 そして、気を取り直すと片手を上げて、フェイトに言葉を返す。


 「フェイトが居ない時に少しあっただけよ。
  それと……アリシアでいいよ。」

 「え?」

 「呼び方、困るでしょ?」

 「……うん。」

 (困ってた……。
  『お姉ちゃん』って、呼ぶ度に見られてた……。)


 フェイトは、アリシアをあらためて呼ぶ。


 「アリシア。」

 「何? フェイト?」

 「どうして、勉強してたの?」

 「う~ん……。
  フェイトが管理局で仕事をしている間に
  フェイトよりも勉強出来るようになって……。」

 「なって?」

 「なのはに会った時に五歳児より勉強出来ない子って、
  からかおうと思ったから。」

 「「陰険だよ!」」


 フェイトとアルフの声が重なった。
 アリシアは、可笑しそうに笑っている。
 その笑顔は、久しぶりに見る本当の笑顔の様な気がした。

 アルフは、アリシアの読んでいる本を見る。


 「何か難しそうな本を読んでるね?」

 「フェイトより、一つ上の学年の本。
  ここから始めれば、間違いなくフェイト以上。」

 「分かるのかい?」

 「一応ね。」


 アルフが、フェイトを見る。


 「……フェイト。
  負けそうだよ……。」

 「が、頑張らないと……。」


 フェイトは、いそいそとリンディとクロノに帰りの挨拶を済ませる。
 そして、自分の部屋から勉強道具一式を持ち出すと、アリシアの隣で勉強を始めた。
 アルフは、リビングで勉強する姉妹を見ると腕を組む。


 「何で、うちのご主人様達は、
  自分の部屋で勉強しないのかね?」


 複雑な事情で離れていた分、一緒に居る時間が欲しいのかもしれない。


 …


 アリシアの生活スタイルが少しだけ変わる。
 ハラオウン家のお留守番から、艦船アースラにて、ハラオウンの家族ぐるみで過ごすことが多くなった。
 家に居るよりも目の届くところに居る方が安心という理由と、艦長の特権をリンディがこっそりと行使したりして許された。
 また、巡航期間中は、暇が多いと言っていたのは事実だったらしい。
 艦船アースラで、アリシアが邪魔者扱いされることはなかった。

 そして、アリシアが艦船で過ごす時間は、エイミィの側がほとんどだった。
 エイミィの側に居る理由は、アリシアが管理局で働くために必要な能力を持っているのがエイミィであると、クロノにアドバイスされたせいでもある。
 エイミィの側で勉強をしたり、仕事の説明を受けたりして過ごしている。
 一方のエイミィも、小さい妹が出来たみたいで悪い気はしていなかった。


 …


 そして、数ヶ月が過ぎる……。
 管理局の中では、噂が立ち始めていた。
 何者かがリンカーコアから魔力を奪っている。
 被害が管理局員にも及んだことで、事態は大きく変わろうとしていた。
 なのはの居る地球を拠点にヴォルケンリッターが闇の書の蒐集を始め、リンディとクロノの浅からぬ闇の書との因縁が動き始めた。

 更に数日後……。
 艦船アースラは、ヴォルケンリッターに襲われるなのはをキャッチする。
 なのはを守るためにフェイト達が戦闘に介入。
 その戦闘で、なのはのレイジングハートとフェイトのバルディッシュが中破……。
 なのはも闇の書の蒐集の対象になり、管理局の病院に入院することになってしまった。
 事態は、アリシア達の周りでも遂に動き出した。


 …


 場面は、時空管理局の本局施設内に移る……。
 アースラの主要クルーと一緒に、アリシアも、なのはの御見舞いという形で本局施設内に居る。
 そして、戦闘に参加出来なかったアリシアは、少し気を遣って、なのはの御見舞いを他の皆の後にした。
 今は、デバイスメンテナンスルームにエイミィと一緒に居る。
 アリシアが、中破した待機状態のレイジングハートとバルディッシュを見て質問する。


 「エイミィ……。
  これ、直るの?」

 「今、レイジングハートとバルディッシュは、
  自己修復しながらメンテナンス中。
  管理局の技術者さんへ渡す前に必要な情報も集めてるんだよ。」

 「情報?」

 「うん。
  壊れてしまった部品の交換や、
  今までの戦闘データからのシステム改善とかもするからね。」

 「ふ~ん。」

 「アリシアちゃんも、手伝ってみる?」

 「出来るの?」

 「今まで、アースラで説明して来たお仕事の応用。
  ちょっとしたデータの整理だから、簡単。」

 「じゃあ、やってみようかな?」

 「今、もう一つ端末を使えるようにするね。」


 エイミィが操作する端末の指示で、アリシアの前に画面とキーボードが浮かび上がる。


 「その画面のデータをスクリプトを使って移すだけ。
  アースラで説明したスクリプトの使い方、覚えてる?」

 「うん、それなら出来るよ。」


 作業を始めるアリシアを見て、エイミィは、少し微笑むと自分の作業を再開した。
 しかし、十五分ほどすると、アリシアがエイミィに話し掛けた。


 「エイミィ。
  これって、急ぎかな?」

 「うん? そんなことないよ。
  諸々の情報なんかと一緒に渡すから、
  今日中に終わればいいからね。」

 「そう……。
  じゃあ、新しいスクリプトを作っていいかな?」

 「プログラムの?
  でも、アリシアちゃんは、
  プログラムの基本の文法を全部知らないでしょ?」

 「そうなんだけど……。
  どうも、このスクリプト無駄があって……。」

 (管理局の技術者が組み上げたスクリプトに無駄がある?
  そんな感じはないんだけどなぁ。
  ・
  ・
  まあ、時間はあるんだし……。)

 「いいよ。
  アリシアちゃんの好きなようにして。
  でも、管理局のオリジナルのプログラムは弄っちゃ駄目だよ。
  コピーして、別の名前でスクリプトを起動してね。」

 「わかった。」


 アリシアは、スクリプトを作り始めた。
 エイミィに教わって、少し上手くなったキーボードの叩き方で一生懸命にスクリプトを作っていく。
 初めてのスクリプト作成までに一時間掛かった。
 コンパイルをして、プログラムを管理局のスクリプトと入れ替える。
 そして、実行。
 データが整理されて出力される。
 アリシアは、出力されたデータを見て、予想通りの結果を示すと頷いた。


 「よし、いい感じ。」


 アリシアの声に、エイミィが結果を横から見る。


 「そうそう。
  そういうデータの整理をして欲しかったんだよ。
  ・
  ・
  ところで、何を変えたの?」


 アリシアは、画面をエイミィの方に向けて、修正したプログラムを二つ見せる。
 エイミィは、項垂れる。


 「……汚い。」


 アリシアのプログラムは……。
 改行なし。
 インデントなし。
 コメントなし。
 作った本人しか分からない見難いプログラムだった。


 「先にプログラムの書き方から教えるべきだったね……。」

 「どうしたの?」

 「アリシアちゃん。
  このプログラムの書き方じゃ、他の誰も分からないよ。
  このプログラムを整理しながら、
  見やすい書き方を教えるから覚えてね。」

 「ううう……。
  ごめんなさい。」


 エイミィは、アリシアの修正したプログラムに改行とインデントを付けながら、アリシアに綺麗なプログラムの書き方を教えていく。


 「さて、プログラムの何処を書き換えたのか……。」


 エイミィは、再び項垂れる。


 「コメントもなしで、元の記述が削除されてる……。」

 「元?
  オリジナルは、残ってるよ?」

 「そうじゃなくて……。
  アリシアちゃんの直したプログラム。
  変えた箇所は、コメントアウトで残して置いてね。
  私が確認する時に比較出来ないから。」

 「エイミィは、プログラムを全部覚えてないの?」

 「無理無理……。
  こんなの一部だからね。
  管理局で使ってるプログラムを全部暗記するなんて無理だよ。」

 「そうだね。
  私も、もう、少ししか元の覚えてないし。」

 「そうでしょ?
  じゃあ、オリジナルのものを見ながら確認しようか。」

 「うん。」


 エイミィは、アリシアの説明を聞きながら、アリシアの作ったプログラムにコメントを入れていく。


 「どう?
  見やすいでしょ?」

 「本当だ……。
  私、こんなこと考えながら、
  プログラムを組んでたんだね。」

 「発想と思い付きが凄いのかな?
  必要なくなったら忘れ始めるなんて……。」

 「コメントを綺麗に記述するのって大事なんだね。」

 「それが分かっただけでもいいか。
  さて、本格的に見ようか……って!
  この大きいプログラムは、
  スクリプトじゃない大元のプログラムじゃない!」

 「今頃……。」

 「道理で修正箇所が多いと思ったら……。
  肝心のスクリプトは、何処で呼び出して使って……。」


 見比べ始めて、徐々にエイミィの顔が変わり始める。


 「これって……。」

 「どうしたの?」


 エイミィは、アリシアのプログラムを組み込んで、何かのシミュレーションを開始した。
 アリシアは、エイミィの手元で素早く打ち込まれるキーボードを見ながら、感嘆の溜息を漏らす。
 直にエイミィのシミュレーションが終わる。


 「0.7%の処理効率アップ……。
  %にすると微々足るものだけど……。
  もし、大量にデータを処理する業務が舞い込めば……。
  それにこの発想って、他にも転換出来るんじゃ……。」

 「どうしたの?」

 「アリシアちゃん!
  これ、どうやって導き出したの!?」

 「え? うん。
  処理が面倒臭かったから。」

 「…………。」

 (そうだよね……。
  子供の発想は、そこからだよね……。
  ・
  ・
  あれ?)


 エイミィは、少し気になる疑問を質問する。


 「全部の文法を知らないのに、
  どうやってプログラムを全部読んだんだろう?
  これなんて、教えてないよね?」


 エイミィが、プログラムの一箇所を指差す。


 「これ、少し上で使ってるよ?」


 アリシアは、画面を上にスクロールして指差す。


 「ここ。
  リンクしてるでしょ?」

 「よく分かったね?」

 「何となくわかる。
  でも、教えて貰ってないから、
  自分のプログラムには使ってないよ。」

 「じゃあ、どうして利用出来るって思ったの?」

 「何となく。
  コンパイルも通ったし。
  結果も予想通りだったし。」

 「何となくで……。」

 (これ、後でクロノ君に見て貰わないと。)


 アリシアの資質が、少しだけ光り始めた瞬間だった。


 …


 入院中のなのはとの面会、今までの経過と闇の書というロストロギアの説明……それが終わり、暫く待機になった時間。
 フェイト、アリシア、アルフは、再びなのはの病室へ。
 そして、別の部屋では、リンディ、クロノ、エイミィが、アリシアの作成したプログラムを話題にしていた。
 クロノが、エイミィに問い掛ける。


 「このプログラム……。
  本当にアリシアが組み上げたのか?」

 「そうだよ。」

 「少し信じられないな。」


 リンディは、修正前のプログラムと修正後のプログラムを見比べる。


 「でも、本当でしょうね。
  エイミィが組み上げたなら、
  こんな基本が出来ていないプログラムは組まないでしょうから。
  このプログラムは、固定された幾つかの文法でしか組まれていないわ。」

 「確かに……。」

 「それでね。
  そういうのを置き換えたのが、こっちなんだ。」


 エイミィが、綺麗に書き直したプログラムを見せる。


 「本当に些細な修正なんだけど、
  これを入れるだけで工程が三つぐらい減るんだよ。
  このプログラムをデータの分だけ通すと考えると
  随分な時間削減になるんだ。」

 「アリシアには、こういう才能があったのか。」

 「そういえば、フェイトさんに負けたくないって、
  無理して勉強してるけど、結果はついて来てるわね。」


 アリシアにプレシアの才能が受け継がれている可能性が見え隠れする。
 クロノは、腕を組んで少し考えると話し出す。


 「もしかしたら、魔法の資質がないと割り切るのは早いかもしれないな。」

 「クロノ君、どういうこと?」

 「僕達の使ってる魔法は、デバイスにプログラムされているものもある。
  そういったプログラムを組む資質も、魔法の資質じゃないのか?
  だとしたら、魔力量がないからと言って、
  魔法を使うのを諦めさせるのも良くないと思ったんだ。」

 「デバイスの魔法を組む才能か……。
  でも、結局は、魔法を使おうとしても、
  魔力量が関係して発動しないんじゃないの?」

 「そこなんだけど。
  発動しないんじゃなくて、
  感知出来ないぐらいの発動が起きるって考えられないかな?」

 「それはあるかもしれないわね。
  でも、砲撃撃っても煙しかあがらないと思うわよ。」


 三人の頭の中では、魔法陣が起動した後にバスンッと煙をあげるアリシアの姿が想像される。
 クロノが続ける。


 「僕は、それでも習得する価値があると思うんだ。
  今のアリシアの資質は、プログラムに関する発想や閃きのようなもの。
  そして、この前、アリシアと話して、
  デバイス関係の技術者になりたいことも確認している。」

 「ふ~ん……。
  アリシアさんは、クロノにいつの間にか心を開いていたのね。」

 「まあ……あ!
  それと今の話は、フェイトには黙ってて。
  アリシアから、フェイトに言うのを口止めされていたんだ。」


 エイミィは、口止めしているアリシアを想像して笑みを浮かべる。


 「何となく分かるなぁ……。
  アリシアちゃん、フェイトちゃんのこと意識してるもんね。
  お姉さんとして、何か勝ってるものが欲しいんだろうね。」

 「そして、それを意識していることを
  まだ、フェイトさんに知られたくないのね。」

 「多分、そういうことだと思うよ。
  ・
  ・
  話を戻すけど、アリシアに魔法を覚えさせたいのは、
  将来、デバイスに携わる技術者になった時のためなんだ。
  完全な成果が出なくても、魔法を発動させた経験が、
  魔法のプログラムをデバイスへ組み込む時に役立つと思う。
  だから、魔法の発動を多く知っていた方が、将来的には困らないはずだ。」

 「そうだね。
  でも……。」

 「何だい?」

 「そうするとアリシアちゃんは、色んな部署に配属になるよね?
  魔法を使う部署、技術を開発する部署、他にも沢山……。
  大丈夫なの?」


 クロノは、少し複雑そうな顔をする。


 「そのことなんだが、既にアリシアのプランにあるんだ。
  アリシアは、十年掛けて全部署を回って、
  最後にデバイスを扱う技術者になるって……。」

 「そ、壮大な目標だね……。」

 「本当に……。」

 「ただ、今の成果を見せられたら、
  この前の発言が冗談じゃないような気がして来たよ。」

 「今、五歳か……。」

 「十五歳で独立……。」

 「末恐ろしい気はするけど、
  管理局では色んな世界の人間が居るから、
  早めの独立もありだとは思うよ。」

 「クロノ君。
  随分、物分かりがいいね?」

 「さっき言ってたアリシアとの話で、
  そういう壁に当たったんだ。
  そうしたら、原因は、僕達にあると思ったから。」

 「クロノ君達?」

 「僕は、十四で執務官。
  フェイトは、九歳で嘱託魔導師。
  五歳のアリシアが、将来を考え出すのも仕方がない。」

 「……そうだね。」


 リンディが、ポンと手を叩く。


 「とりあえず、アリシアさんの意思は良く分かりました。
  母親になるかもしれない身としては、
  頑張って応援してあげないとね。」

 「そういえば……。
  後は、フェイトちゃん達の了承待ちでしたね。」

 「ええ。
  でも、心配はないかな。
  クロノが、しっかりと対応してくれていたみたいだから。」


 クロノは、少し頬を赤くした。
 リンディが、エイミィに話し掛ける。


 「エイミィ。
  今回のプログラムの修正を管理局に申請して貰える?」

 「いいですよ。」

 「その時、アリシアさんの成果であることも報告してね。
  結果を見て、何処かの部署が名乗りをあげてくれれば、
  アリシアさんの管理局入りの道が開けるわ。」

 「あ、なるほど。」

 「それとアリシアさんの面倒を引き続き見て貰える?」

 「はい。
  実は、結構、お仕事を手伝って貰ったりしてます。」


 クロノは、項垂れる。


 「エイミィ……。
  それ間違ってるよ……。」


 こうして、アリシアの管理局入りも、少しずつ現実味を帯び始めた。


 …


 ※※※※※ 管理局のプログラムについて ※※※※※

 違う世界ということで、正直、どんなプログラムが横行しているのかというのは分かりませんが、アリシアの才能を発揮するならとこっちの方向にしました。
 また、どんなプログラムが使われているか分からないため、SS内では抽象的な表現になっています。

 ただ、原作のアニメではソフト化される前の原文のようなプログラムが多く流れていましたので(演出だと思いますが)、操舵士や通信士など技術者じゃない局員もある程度の知識がないと働けないのが管理局だと思いました。

 そして、魔法がプログラムとして扱われ、それの補助をする魔導師の杖……デバイスというものが用いられているのも原作の面白いところです。
 なのはが初めて魔法少女として活躍した時、レイジングハートに補助して貰い、収められていた魔法プログラムを使用していました。
 アリシアが、デバイス技術者になるためには、その魔法プログラムを覚えるのは必須になります。
 このSSでは、クロノにアリシアのデバイス技術者になる水先案内人となって貰っています。



[25950] 第3話 A's編・地球での生活へ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/13 00:00
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 なのはの体調回復を機にアースラスタッフは、時空管理局の本局から地球へと移動することになる。
 これは、アースラがドッグ入りしていることも理由に挙げられるが、一番の理由は、第一級指定のロストロギア闇の書に関わったヴォルケンリッターの潜伏場所が地球を中心にしていると予想されるためだ。
 闇の書捜索と魔導師襲撃事件の捜索のために臨時作戦本部を地球に移しての駐屯……。
 司令部となるなのはの家の近くのマンションにリンディ、クロノ、エイミィ、フェイト、アルフ、アリシアは、移住することになった。
 そして、引越し初日のなのはとその友達のアリサとすずかの第一声。


 「「本当にそっくり!」」


 フェイトとアリシアは、ビデオメールで知られている。
 逆にアリサとすずかのことも知っている。
 そして、知られちゃいけない事実。


 『私達の関係は、黙っておこうね。』

 『そうだね、アリシア。
  どっちがお姉さんかの詳細は……。』


 フェイトとアリシアは、念話でそう決めた。
 そして、そのアイコンタクトを見て、なのはは、何となく察してクスリと笑った。



  第3話 A's編・地球での生活へ



 喫茶翠屋での自己紹介……。
 ビデオメールで話せなかった話……。
 そして、フェイトの聖祥転校の話……。
 届いたばかりの聖祥の制服を抱きしめるフェイトを見て、アリシアも微笑む。
 そして、再び談笑が始まると、すずかがアリシアに質問する。


 「アリシアちゃんも、聖祥に入学するの?」

 「私? どうかな?」


 アリシアは、同じ制服で聖祥に通う姿を想像するが、優先するべきものを思い出すと諦める。


 「私は、別の学校かな?」

 「どうして?
  フェイトちゃんと一緒で楽しいと思うよ。」

 「そこは賛成。
  でも、フェイトと一緒に居るなら、
  あっちの方がいいと思うんだよね。
  寄宿舎みたいのもあるだろうし。」

 (フェイトの転送魔法を使えば、
  地球とミッドチルダを行き来できるかな?
  ・
  ・
  遠過ぎるか……。)


 アリシアの言葉に質問を投げたすずかだけでなく、なのは、フェイト、アリサまでもが首を傾げた。
 その会話を聞いていたリンディだけが、アリシアの意志の表れを感じていた。


 (アリシアさんは、
  子供で居る時間を捨ててしまうのかしら?)


 リンディの頭にアリシアに対する不安が浮かんだ。
 しかし、アリシアは、不思議がっている他の面々を見て笑っている。


 (そういう訳でもないみたいね。)


 リンディは、アリシアの強さを見て微笑む。
 そして、いつか躓くような時は、しっかりと支えてあげようと密かに思うのだった。


 …


 司令部、兼、マンション……。
 学校に行かないアリシアは、今日もエイミィの隣で勉強中。
 エイミィが、アリシアに話し掛ける。


 「今日、フェイトちゃんは、学校デビューだね。」

 「昨日から、何回も制服見せられてるよ。
  よっぽど、嬉しかったんだね。
  きっと、今日は、いつも以上にしゃべるフェイトが見れると思うよ。」

 「そうだね。」


 今度は、アリシアが、エイミィに話し掛ける。


 「この前、フェイト達と戦った人達が持ってたデバイス……。
  少し変わってるよね?」

 「うん、ベルカ式のカートリッジシステムって、
  ところまで分かったんだよ。」

 「ベルカ……。
  昔、ミッドと二分してた魔法使いだよね?」

 「そう、よく覚えてたね。」

 「ちゃんと勉強したもん。」

 「偉いよ、アリシアちゃん。」

 「えへへ……。」


 アリシアは、少し照れている。
 そして、続きを促す。


 「そのベルカ式のカートリッジって、何?」

 「文字通りって言うのかな?
  カートリッジをロードして、魔力を高めるの。
  分かる?」

 「外から自分で生成する以外の魔力を注入する……でいいのかな?」

 「そんな感じだね。」

 「ふ~ん……。」

 「どうしたの?」

 「これ使えば、私の資質に関係なく
  魔法を発動出来るかなって……。」

 「何を考えてるの?」

 「う~ん、とね。
  私が魔法を発動出来ない以上、
  デバイスに頼ることになるかなって、この前から考えてるの。
  魔力をデバイスに送り込めない私は、そこで困ってたんだ。
  でもね、このシステムをデバイスに組み込めれば……って。」

 「諦めてなかったんだね……。」

 「それはね。
  ただ、デバイスに掛かる負担が大きくなるから、
  部品とかが特注になりかねないとも思って……。
  結局、そこら辺の知識を仕入れないと駄目なんだけどね。」

 (……この子、前向き過ぎる気がする。)


 そんな感じでアリシアは、エイミィの隣でお留守番をしていた。


 …


 数時間後……。
 同じくマンションの一室……。
 アリシアの目の前で、物騒な話が展開している。


 「魔力の高い大型生物。
  リンカーコアさえあれば、人間でなくてもいいみたい……。」

 「正になりふり構わずだな……。」

 (そうだね。
  クロノもエイミィも、私が居てもなりふり構わず……。)


 エイミィは、端末を操作して画面を開く。
 画面には闇の書のデータが映し出される。


 「でも、闇の書のデータを見たんだけど……。
  何なんだろうね? これ?
  ・
  ・
  魔力蓄積型のロストロギア。
  魔導師の魔力の根元となるリンカーコアを喰って、
  そのページを増やしていく……。」

 「全ページである666ページが埋まると
  その魔力を媒介に真の力を発揮する……。
  次元干渉レベルの巨大な力をね。」

 「んーで……。
  本体が破壊されるか所有者が死ぬかすると、
  白紙に戻って別の世界で再生する……と。」

 「様々な世界を渡り歩き、自らが生み出した守護者に護られ、
  魔力を喰って永遠を生きる……。
  破壊しても、何度でも再生する。
  停止させることの出来ない危険な魔導書……。」

 「それが……闇の書。
  私達に出来るのは、闇の書の完成前の捕獲?」

 「そう。
  あの守護騎士達を捕獲して、
  更に主を引き摺り出さないといけない。」

 「うん。」

 「……と、話が終わったところでいい?」


 クロノとエイミィが、アリシアを見る。


 「それが今度のお仕事?」

 「アリシアには伝えてなかったな。
  僕達は、その闇の書の事件を追っているんだ。」

 「そうなんだ。
  ・
  ・
  それ、私が聞いても大丈夫の話?」

 「…………。」


 エイミィが、頬を掻きながら答える。


 「ギリギリセーフかな?
  もう、大分手伝って貰ってるし……。」

 「いや、駄目だよ……。
  戦闘行動も始まっているし、
  アリシアに危害が及ぶかもしれない。」

 「どうして?」

 「敵は、なのはを狙って現れた。
  もしかしたら、この街に敵が居るかもしれない。
  そこにアリシアと敵が出くわしたら……。」

 「私を知らないんだから、襲って来ないんじゃない?
  魔力値も少ないし。」

 「いや、フェイトとそっくりの君を
  襲って来ないとは限らない。」

 「それは……あるかな?
  でも、背が縮んでるよ?」

 「それでも気をつけてくれ。」

 「うん。
  フェイトは、もう戦ってるんだもんね。」


 アリシアは、少し考える。


 「じゃあ、私、ミッドに戻ろうかな?」

 「え?」

 「フェイトの迷惑になっちゃうかもしれないし……。
  役に立ちそうにないし……。」

 「そんなことはない!」

 「そうだよ!
  アリシアちゃんは、私の仕事を手伝ってくれてるよ!」

 「エイミィ……。
  だから、それは違う……。
  ・
  ・
  そうじゃなくて、アリシアをフェイトが必要としてる。」

 「フェイトが?」

 「そう。
  アリシアがフェイトを見て頑張ろうと思ったように、
  フェイトもアリシアを見て変わり始めている。
  アリシアの明るくて元気な姿を見て、少しずつ変わっていっている。
  これは、フェイトがアリシアを見て感じた足りないものを
  アリシアから学んでいる証拠だ。
  どっちかが居なくなっても駄目なんだ。」


 アリシアは、少し嬉しそうに視線を落とす。


 「……そっか。
  私は、フェイトの役に立てていたんだね。
  だったら……。
  自分の役目が来るまで、ここで頑張るよ。」


 クロノが、アリシアの頭に手を乗せる。


 「いい子だ……。
  でも、会話は、少し気を付けるから。」

 「うん。」

 「私は、変わらずお手伝いを頼むよ。」

 「エイミィ……。
  だから、それは違う……。」


 アリシアの出番は、まだ、もう少し先の話。
 今は、未来に手にする資質のために勉強中。



[25950] 第4話 A's編・アリシアの始まり……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/13 13:13
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 時は、少し進む……。
 リンカーコアが元に戻り、魔力を取り戻したなのは。
 そして、新たな力を手にしたデバイス。
 そのデバイスを使ってのヴォルケンリッターとなのは達の再戦。
 力が拮抗し、決着は付かずにヴォルケンリッターの一時撤退という形で、再戦は幕を閉じる。

 なのは達とヴォルケンリッター……両者暫しの睨み合いで、何も起きない日々が続く。
 そして、その睨み合いをする一方で、闇の書の調査が開始される。
 闇の書の調査のため、クロノ、エイミィ、ユーノ……そして、何故かアリシアも一緒に時空管理局本局に出向いていた。
 クロノを先頭に本局の一室をアリシア達は訪れる。


 「リーゼ、久しぶりだ。
  ……クロノだ。」


 訪れた部屋の住人にクロノは、挨拶をした。
 直ぐに部屋の住人は、クロノに反応する。


 「わぁ……!
  クロスケ!
  お久しぶりぶり~♪」

 「わっ!
  ロッテ……!」


 クロノが、猫耳に尻尾のついた亜人の少女に捕獲された。
 アリシアとエイミィは、拳を握る。


 「私も、いつか……。」

 「私も、クロノ君にいつか……。」

 (この二人……似てる?)


 ユーノは、捕獲されているクロノに同情の目を送った。
 敵は、まだ近くに二人居る。



  第4話 A's編・アリシアの始まり……



 この部屋を訪れた理由。
 それは闇の書の調査……管理局の無限書庫で闇の書の資料発掘をするためだ。
 が、その道のエキスパートは、今、クロノを捕食しようとしている。
 アリシア達の前で、謎の乱闘が繰り広げられていた。
 クロノが、ロッテと呼んだ亜人の少女を引き剥がす。


 「放せ! こら!」

 「何だと、こら!
  久しぶりにあった師匠に冷たいじゃんかよ!
  ・
  ・
  う~りうりうり!」


 クロノの貞操が危ない。


 「わぁ! アリア!
  これを何とかしてくれ!」

 「久しぶりなんだし、
  好きにさせてやればいいじゃない。」


 猫系の亜人の少女は、もう一人。
 その少女も、クロノの味方ではなかった。
 アリシアが、ユーノを見る。


 「私、こんなクロノ見るの初めて……。」

 「僕もだよ……。」

 「いつもからかわれてるから、
  少しは、溜飲が下がってたりしてない?」

 「……実は、少し。」


 そして、クロノが助けを求めていたアリアと呼んだ、もう一人の亜人の少女が止めを刺す。


 「それに……。
  まあ、なんだ……。
  満更でもなかろう?」

 「そんなわけな……。」

 「うにゃ~♪」


 ロッテが、クロノに飛び掛かった。
 再びアリシアが、ユーノを見る。


 「正しいクロノの躾け方?」

 「違うよ……。
  でも、数少ないクロノの天敵なのは確かだ……。」


 そして、その騒動を無視してエイミィがアリアと挨拶を交わす。
 会話の中からアリアというのが相性で、リーゼアリアというのが本名だと分かる。
 ロッテの方は、リーゼロッテが本名だった。

 更に騒動は続き、ロッテがクロノを捕食し終えた。
 クロノが、何かを失って床に手を着いている。
 そして、ロッテは、ターゲットをユーノに替えると目を光らせる。


 「何か美味しそうな鼠っ子が居る……。」


 ユーノは、『うっ』と声を漏らすと後退りした。


 (凄いキャラね……。)


 アリシアは、瞬間的にこの部屋では女性が強いことを感じ取った。


 …


 騒動が一段落すると、クロノからロッテとアリアに説明が始まる。
 そして、ロッテとアリアは、闇の書の調査に出来る限りの協力を約束してくれた。
 残念ながら、駐屯地まで足を運ぶことは出来なかったが、ユーノの無限書庫での調べ物の協力も手伝ってくれるとのこと。
 ただし、作業終了後に好きにしていいという条件で……。


 「「ふふ~ん♪」」


 ロッテとアリアは、あらためて捕食するユーノを観察した後、アリシアに目を移す。


 「この子は?」

 「管理局勤務を希望しているんだ。
  邪魔はしないから、
  ユーノの作業を見学させてあげてくれないか?」

 「ふ~ん……。」


 クロノの魔法教育担当だったアリアが、アリシアを見る。


 (この子……。
  魔力値が低いわね……。
  何で、こんな子が管理局に?)


 アリアが、ちらりとロッテを見る。


 (仕込むなら、魔力なしの近接戦闘かな……。)


 アリシアは、アリアの視線に首を傾げる。
 そして、今度は、ロッテがアリシアに近づく。


 「この子も、食べていいの?」

 「やめてくれ……。」


 クロノは、自分の二の舞にはしないと直ぐに注意を入れた。
 しかし、ロッテは、悪戯っぽい目でクロノを見続ける。


 「でも、見返りが欲しい~な~♪」


 アリシアは、クロノをからかうロッテの行動に少し嫌な感じを覚える。
 故に自ら一歩前に出て、ロッテを直視すると口を開く。


 「そんなのは、自分で払うよ。」

 「へぇ……。
  私を満足させられるもの持ってるの?」


 アリシアは、目の前に突き出された顔を睨み返す。
 そして、力強く頷き、拳を握る。


 「見返りは、最近のクロノの失敗談!」

 「クロスケ!
  この子、直ぐに預かる!」

 「アリシア!
  僕を売るな!」


 アリシアが不機嫌になっていた理由。
 自分以外が、クロノをからかったからに他ならない。
 だから、アリシアは、ロッテ以上にからかうところを見せ付た。
 しかも、ロッテの興味も掴み取って……。
 エイミィは、一筋の汗を流す。


 (この黒さ……。
  アルフから聞いたプレシア・テスタロッサの黒さに似ている気が……。)


 アリシアのプレシア属性(黒)が開花し始めた。


 …


 クロノとエイミィが地球に戻り、ユーノとアリシアは、本局に残る。
 そして、本局の無限書庫で闇の書の調査が始まる。
 ユーノは、検索魔法を使用して、何冊もの本の中から情報を検索する。
 その近くでは、アリシアが、うんうん唸っている。


 「こうして……こう!」


 ユーノと同じ魔法陣が起動する。
 ユーノは、アリシアに視線を向けると、アリシアが自分の検索魔法を真似しているんだと気付く。
 しかし、ユーノと違い検索出来る本は、一冊が限度。
 しかも、持続時間も短い。
 物の数分で、アリシアの魔法は解けてしまった。


 「限界……。
  本の半分しか頭に入らないで切れちゃった……。」


 アリシアは、再び集中し出す。


 「もう一回!」


 再度、検索魔法を起動して、残りの半分の本の内容を頭に詰め込む。
 一冊分の本の検索が、ようやく終了する。
 アリシアは、大きく息を吐く。
 そして、何冊もの本を検索し続けるユーノを見る。


 「ユーノ凄いな……。」


 また、自分の資質の無さに俯きそうになる。


 「っと、ダメダメ!」


 アリシアは、頭を振って、別の本を手に取った。


 …


 本の検索の作業は、いつまで経っても終わらないように思えた。
 広い書庫の何処から本を持ってくればいいのか分からない。
 何か目安はないのか?
 アリシアは、さっきは気落ちしていたが、今は、不満が募っていた。


 「……これさ。
  タイトルだけでも電子タグ付けて、
  データベース化すればいいのに……。
  ほとんど整理されてないって……。
  ・
  ・
  ワザと電子化しないで情報の流出を防いでんのかな?」

 「そうかもね。」

 「ユーノ?」


 独り言に答えたユーノにアリシアが視線を向ける。


 「これだけの本があれば、
  泥棒目的で入った人も、目的の本を探すだけで諦めたくなるかもね。」

 「そうだよね……。」


 アリシアは、名前の通り無限に広がっていそうな本棚を見上げて溜息を吐く。
 ユーノは、少しお疲れ気味のアリシアに声を掛ける。


 「アリシア。」

 「ん?」

 「大丈夫?
  クロノに言われたから、手伝いをさせてるけど……。」

 「大丈夫だよ。
  私がクロノに頼んだことでもあるし。
  フェイトの役に立つかもしれないし。」

 「そう?
  フェイトと離れて寂しくない?」

 「うん、ちょっとだけ。
  でも、一年も居るつもりじゃないんでしょ?」

 「そんなに掛かったら、
  事件が終わってそうだよ……。」

 「それもそうだね。」


 アリシアは、笑って答えた。


 「そろそろ、検索魔法を使うの飽きたんじゃない?」

 「そんなことないよ。
  検索魔法は、ちゃんと習得しないと。」

 「習得?」

 「うん。
  この検索魔法を使えば……。
  なんと! 勉強しないで頭に知識が入るの!」

 「……アリシア?」

 「ふふふ……。
  これは、ちょっとした裏技よね。
  エイミィのくれたプログラムのコードの本を
  読破する必要がなくなるなんて……。」


 アリシアは、不適な笑みを浮かべて笑っている。


 (この魔法……。
  アリシアに見せちゃいけない魔法だったんじゃ……。)

 「とりあえず!
  この魔法を駆使して、フェイトの受ける執務官筆記試験の知識を詰め込む!
  そして、目の前で模試満点を取ろう!」

 「そんな意地悪しないで教えてあげたら……。」

 「この裏技?」

 「普通に勉強。」

 「どうしようかな?
  なのはも驚かせたいから、暫く黙っとく。
  三年ぐらい普通の子のフリしとくから、
  ユーノは、私が検索魔法覚えたの秘密にしてね。」

 「それ意味あるの?」

 「果実は、熟してから頂くんだ~♪
  ・
  ・
  それにしても便利な魔法だよね。
  これ使えば、分厚い電化製品の説明書を読まなくても、
  余すことなく性能を使えるよ。
  一生使わないと思っていた携帯電話の機能とか使えそう。」

 「何か無駄な使い方だなぁ……。」


 アリシアは、笑っている。
 この会話が休憩のような感じになり、滅入っていた気持ちも少し上向く。


 「ねえ、ユーノ。
  私は、どうすればいい?」

 「そうだね。
  使う魔法の時間に差があるから……。
  アリシアは、本棚の単位で最初の一冊を調べてくれないかな?
  闇の書に関する記述があれば、
  その本棚を優先的に検索するから。」

 「うん、わかった。」


 アリシアは、ユーノの手伝いをしながら、未熟ながら検索魔法に磨きを掛けていった。
 そして、検索魔法は、やがて手にする技術の確かに第一歩だった。
 しかし、アリシアが介入出来た闇の書の事件は、ここまで……。

 これ以降の流れは、ほとんど変わらない。
 アリシアを置いてきぼりにして進んだ。
 ヴォルケンリッターの目的の解明、闇の書の発動、謎の協力者の正体、これらを経て得られる八神はやての闇の書の主としての覚醒……。
 そして、「闇の書」と言わしめ、呪いの魔導器と呼ばせたプログラム「闇の書の闇」……防御プログラムの暴走の鎮圧と消滅。
 管理者権限を取り戻した闇の書の意志リインフォースの消滅……。

 闇の書事件で、アリシアは、ただ傍観者であり続けた。
 モニター越しに見るフェイトの魔導師としての活躍に対して、何も出来ない自分の無力差を思い知った。
 あの場所に居る魔導師達の輪に入れないことも……。
 バックアップとして、支援することが出来ないことも……。
 口には出さなかったが、胸には悔しい思いが溢れ返っていた。

 しかし、それは仕方のないこと。
 アリシアは、まだ何も手に入れていない。
 自分の資質を活かす方法も……。
 身につけなければいけない知識も……。

 そして、そのためにしなければいけない努力は始まってもいない。
 姉妹で一緒に居るため……。
 いつか同じ場所に立つため……。
 ここからが、アリシアの始まり……。



[25950] 第5話 幕間Ⅰ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/13 21:00
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 闇の書事件から、二年が過ぎる……。
 場所は、時空管理局本局の病棟……。
 ここには、異世界で大怪我をして手術を受けたなのはが入院している。
 現在、手術後のリハビリに精を出して、再び現場復帰を目指して頑張っている最中。
 そして、その病室を誰かがノックする。


 「どうぞ。」

 「検診で~す。」

 「アリシア……ちゃん?」


 訪問者は、よく知っている少女。
 二年前に地球を離れて、本局の住宅エリアに住みだしたハラオウン家の変わり者。
 アリシアが、なのはに微笑んだ。



  第5話 幕間Ⅰ



 なのはは、少し慌てると笑顔を作る。


 「どうしたの?
  もう、元気だよ?」


 相手を気遣う無理な笑顔。
 その笑顔は、よく知っている。
 アリシアも、クロノに打ち明けるまで作り続けた笑顔だ。


 「フェイト達には見せたくないもんね……。」

 「え?」

 「何でもないよ。
  と、いうか、話を聞いてないでしょ?」

 「え、と……。」


 なのはは、『何だったっけ?』と誤魔化す。


 「検診。
  今日から、私がなのはの担当。」

 「何で……。」


 アリシアは、くるっと回ってナース服をみせる。


 「バッチリ看護師さん!
  今日から、この部署でお世話になります。」

 「また、部署変わったの?」

 「変わったんじゃない。
  変えたの。」

 「自分で変えたの?
  もしかして、前からちょくちょく変わってたのって……。」

 「全部、私の意志。」

 「それいいのかなぁ……。
  変な噂が立ってるよ。」

 「噂?」

 「アリシアちゃんが、
  問題起こして追い出されてるって……。」

 「いや、普通に考えてよ……。
  問題起こしたら管理局クビになって、
  余所の部署になんか異動出来ないよ。」

 「それもそうだね。
  じゃあ、何で、こんな噂が立つんだろう?」


 アリシアは、小さな笑いを少し浮かべると端末を叩いて、なのはの前に画面を出す。


 「各部署の私の評価。」

 「一番の高評価か……真ん中?」

 「そう。
  魔法の実技がある部署では、実技は全部最下位。
  別の筆記とかで足して割ると真ん中。
  魔法の実技のない部署では一番。」

 「きょ、極端だね……。」

 「こんな成績だから、きっと妙な噂が……。」

 「立つかもね……。」

 「決して、私が悪さしてるわけじゃないよ?」

 「うん、分かったよ。」

 「よろしい。
  私は、部署異動の時に少し強請るだけだからね。」

 「ゆ、強請る……?」

 「だって、なかなか希望の部署には入れないから。
  陸士を扱う部署のある部隊なんて移ったはいいけど、
  二週間で追い出されたからね。」

 「……何してんの?
  それだよ!
  そのせいで変な噂が立ってんだよ!
  成績関係ないよ!」

 「そうかな?」

 「もしかして、この医療部門に移ったのも……。」

 「ああ、ここはしてないよ。
  希望を出したら通ったんだから。」

 「よく通ったね?」

 「今、管理局のSEが不足してるからね。
  医療部門の要求するソフトの組み上げを条件に
  異動の許可が出たんだ。」

 「へぇ……。」

 (まあ、なのはが入院してるから、
  この時期に異動したってのもあるんだけどね。)

 「将来的には、シャマルのデバイスなんかも
  メンテナンス出来るようになりたいから、
  どうしても、ここの知識は必要なんだ。」

 「なるほど……。
  ・
  ・
  前から気になってたんだけど、
  何で、フェイトちゃんもアリシアちゃんも、
  基本、呼び捨てなの?」

 「……何でかな?
  日本人じゃないからじゃない?
  英語の教科書とかでも名前呼びだし。」

 「う~ん……。」

 「なのはも、そのうちアルフのことを
  『さん』付けじゃなくなるかもよ?」

 「何で?」

 「勘……。
  アルフは、最近、自分の容姿を変えるのに凝ってるから、
  きっと、これじゃ『さん』付け出来ないって姿に固定すると思う。」

 「何か妙に生々しい予想だね……。」


 アリシアは、可笑しそうに笑う。
 そして、なのはも、医者以外の歳の近い話し相手が出来たことで、久しぶりに会話が弾む。


 「アリシアちゃん。
  少しお話していい?」

 「いいよ。」

 「何にしようかな?」

 「内容決めてなかったの?」

 「つい……。」

 「まあ、いいけどね。」

 「そうだ!」


 なのはは、何か話題を思いついた。


 「アリシアちゃんのことを教えてよ。」

 「私のこと?」

 「うん、色々と気になることもあるし。」

 「私に秘密なんてあるかな?」

 「あるよ。
  例えば、アリシアちゃんの本局の家。」

 「ああ……。」

 「あれ?」


 アリシアは、乾いた笑いを浮かべている。
 なのはは、その態度に首を傾げる。
 アリシアは、腰に手を当てて溜息を吐くと話し出す。


 「私もさ……。
  最初は、不思議だったんだよ……。
  リンディさんが、五歳児の一人暮らしを
  すんなり認めてくれるなんて。」

 「そうだよね?」

 「理由があったんだ。
  順番に話すね。
  ・
  ・
  まず、ハラオウン家の居住場所について。
  ハラオウン家は、元々、ミッドチルダに本宅があったんだけど、
  地球に移住したよね?」

 「うん、フェイトちゃんの学校に合わせてくれたから。」

 「そう。
  普通は、親の仕事に合わせるのに子供に合わせた。
  どうしてか分かる?」


 なのはは、首を振る。


 「リンディさんもクロノも、アースラがあるから、
  居住場所は、何処でもいいの。
  転送魔法で移動出来るから。
  なのはも経験あるでしょ?」

 「そうだったね。」

 「でね、今度は、私の扱い。
  本局に一人暮らしを許してくれた理由。」

 「うん。」

 「リンディさんもクロノも、本局で過ごすことが多いんだ。
  リンディさんは、艦長さん。
  艦船アースラの帰る場所は、本局。
  巡航任務の記録を提出したり、艦の修理の手配をしたりするんで、
  本局に泊まり込んで仕事をすることも多い。」

 「うん。」

 「一方のクロノ。
  同じアースラに乗り込むことも多いし、
  執務官の別の仕事もある。
  同じ様に本局で仕事をすることも多い。」

 「うん。」

 「だから、ハラオウン家は、本局で仕事をすることを考えて、
  元々、住宅エリアに住居があったの。
  そこに私が住み込んだだけ。
  『一人暮らし』と思っていたのが、直ぐに『一人暮らし?』に変わっちゃった。
  だって、リンディさんもクロノも、よく訪れるし、
  嘱託魔導師の仕事をする時には、フェイトも利用するからね。」

 「最初は、そうだったんだ?」

 「うん。
  いざとなれば、転送魔法使って、
  地球→アースラ→時空管理局本局 だもん。
  遠くても目の届く範囲だったんだよ。」

 「管理局の常識って、少し眩暈を覚える時があるよね……。」

 「同感……。
  ・
  ・
  そして、半年ぐらいしたら住宅エリアの家が、
  一世帯の家族用から六世帯の家族用にパワーアップしたし……。」

 「あれ、どういう経緯があったの?
  私やはやてちゃんは、本局に来る時に利用させて貰って、
  凄く助かってるけど。」

 「リンディさんが本気になった……。」

 「リンディさんの本気?」


 アリシアは、頷くと続きを話す。


 「闇の書の事件が終わってから、ハラオウン家は、地球に移住。
  なのはも、地球在住。
  はやても、地球在住。」

 「そうだね。」

 「本局に通うの遠いよね?」

 「うん。」

 「それぞれが泊まり業務の度に、
  部屋を借りる申請を出すと大変だよね?」

 「うん。」

 「部屋を用意する管理局側も大変。
  管理局へ奉仕することになったヴォルケンリッターは人数も多いし、
  それぞれがバラバラに申請したら、更に大変。」

 「うん。」

 「で、リンディさんが、住宅エリアに六世帯の家族用の家を確保。
  ハラオウン家、高町家、八神家と、
  地球から働きに来る魔導師の住居を確保したんだよ。」

 「そんな凄い経緯になってたの?」

 「そうだよ。
  あの住居のはやてのためのバリアフリー化は、
  私とシグナムの手作りだしね。」

 「……何で、シグナムさん?」

 「ヴォルケンリッターの中で、
  シグナムは、お父さんの位置付けだから。
  家事洗濯はしないけど、
  日曜大工とかを主に担当しているらしいよ。」

 「……お父さんなの?」

 「まあ、はやての家行っても新聞読んで、
  シャマルの手伝いをする気配もないし。
  あれでバランスが取れているんだよ。」

 「何か凄い魔空間のような気が……。」

 「魔空間だよ。
  ハラオウン家と高町家と八神家が一同に介する家だからね。」

 「あの……。
  私は、フェイトちゃんのお部屋を借りてるから、
  高町家にはならないはずなんだけど……。」

 「なのはの御見舞いに来た高町家の人々が泊まっていきます。」

 「私に一言も話が届いてないよ!
  何で、教えてくれないの!」

 「きっと、サプライズだよ。」

 「嬉しくないよ!」

 「じゃあ、どっきり?」

 「誰の計画なの!」

 「う~ん……あ。」

 「今度は、何?」

 「私が桃子さんに頼まれて、言い忘れてた。」

 「アリシアちゃん!」

 「今、伝えたから大丈夫だよね?」

 「お母さん達が帰ったの何週間も前だよ!」

 「なのは、大きな声を出すと体に悪いよ?」

 「誰のせいなの!」

 「まあ、そういった経緯だから、
  私は、本局でも家に帰れば誰かが居ると。
  ちなみに誰も居ないで困った時には、ユーノを訪ねています。」

 「信じられないよ……。
  今の流れで纏めに入るなんて……。」


 なのはは、激しく項垂れた。


 …


 アリシアの妙な話が終わる。
 アリシアには他にも謎があるが、なのはは、聞くのを止めた。
 話を聞いて、新たな地雷を発掘しても仕方がないからだ。
 アリシアと話す時は、話す内容を吟味して選ぼうとなのはは誓った。

 そして、本題の検診のためにアリシアが端末を叩く。
 なのはの前に新たな画面が浮き上がった。


 「なのは、今日の状態にチェックを入れてね。」

 「いつもみたいに聞かないんだね?」

 「何ていうのかな……。
  項目見ると言葉に出したくないものも
  あったんだよね……私が。」

 (常にアリシアちゃんが中心なんだ……。)

 「でも、ちょっと分かる……。
  自分のことだけど、口に出したくないのもあった……。」

 「でしょ?
  それにチェックし終わったデータは、先生のところに直ぐ行くから、
  今までと違って、こっちの手間も減るんだ。」

 「そうなんだ。」

 「他にも気付いたら言ってね。
  不要でも、どんどんプログラム作るから。」

 「うん。」


 なのはが、チェックを入れている横でアリシアは、端末を叩いてなのはのデータをチェックする。


 (やっぱり……。
  はやての心配していた通りだ。
  リハビリ経験者は語るってところだね。
  ・
  ・
  それで、これを私が説明するの?)


 アリシアは、なのはをちらりと見ると溜息を吐く。


 (頑固なんだよね……。
  ここのお医者さんも、随分説明したみたいだけど。)


 アリシアは、更に端末を叩き続け、プログラムを組み上げ始める。
 なのはは、真剣に端末を叩き続けるアリシアを見て『終わったよ』と言いそびれてしまった。
 そして、アリシアは、プログラムを組み終えるとなのはの視線に気付いた。


 「終わってた?」

 「うん。
  真剣に何かしてたから……。」

 「ごめんね。」


 アリシアは、端末を操作してなのはの前の画面を消した。


 「ねえ、なのは。」

 「うん?」

 「私がここに居るのって、
  はやてやヴィータに頼まれたからでもあるんだ。」

 「?」

 「私以外は、皆、自由の利かない仕事をしてる。
  フェイト達は、嘱託魔導師の仕事が入れば現場に行く。
  私だけが、自由に移動出来る身分なんだ。
  ・
  ・
  それでね。
  はやてとヴィータが特に心配してたんだよ。」

 「どうして?」

 「はやては、なのはの先輩。
  リハビリを経験してるから、辛いのも苦しいのも知ってる。
  ヴィータは……優しいからね。
  側で起きたことを一番気にしてた。」

 「……そうだね。
  皆に心配掛けちゃって……。」

 「うん。
  でも、心配掛けないようにっていう
  なのはの頑張りは、データに出てるんだよ。」


 アリシアが端末を叩くと今度は、二人で見れる大きな画面が浮き上がる。


 「これね。
  なのはのリハビリの成果を数値から折れ線グラフにしたもの。
  右肩上がりで上がっているでしょ?」

 「本当だ……。」

 「頑張ってるよね。」


 なのはは、照れながらも自分の成果を喜んでいる。


 「でもね。
  この数値を見て、はやてとお医者さんが心配しているんだ。」

 「どうして?
  良くなってるんでしょ?」

 「うん。
  良くなり過ぎてる。」

 「え?」

 「この回復の仕方は、おかしいんだよ。
  別のグラフを出すね。」


 画面が切り替わる。
 上から、赤い横線、黒い横線、青い横線が引かれる。
 そして、赤い横線と青い横線の間に棒グラフが出る。
 棒グラフは、上が赤、下が青で連結している。


 「左から右に時間の経過ね。」

 「うん。」

 「最初は、棒グラフは短い青だけ。
  頭の位置は、黒い線から少し下。
  黒い線は、通常の状態を表わしてるの。」

 「うん。」

 「だけど……。
  時間が経つと棒グラフが赤と青に分かれる。
  そして、赤い棒グラフが上に伸びて赤い横線に近づいていく。
  青い棒グラフが下に伸びて青い横線に近づいていく。
  これに比例して、なのはの成果も上がってる。」

 「その赤い横線は?」

 「疲労のピーク。
  つまり、なのはは、リハビリを無理し過ぎて、
  赤い棒グラフを伸ばしてる。
  もう直ぐで、限界点を超えちゃう。」

 「……じゃあ、青い線は?」

 「体の抵抗力のピーク。
  つまり、なのはは、リハビリを無理し過ぎて、
  青い棒グラフを伸ばしてる。
  もう直ぐで、限界点を超えちゃう。」

 「赤い横線を越えると、どうなるの?」

 「多分、体の何処かが怪我する。」

 「あ、青い横線は?」

 「抵抗力が落ちてるから、多分、病気になる。」

 「…………。」


 なのはは、呆然とする。
 アリシアが顔を近づける。


 「なのは。
  リハビリ無理してるよね?
  先生が止めようって言っても続けてるよね?」

 「……うん。」

 「数値を見て、はやてが気付いたんだ。
  はやても、一度やったんだって。
  その時は、軽くで済んだけど、
  もしかしたら、大きな事故に繋がってたかもしれないって。」

 「……ごめん…なさい。」

 「うん、分かってくれればいいよ。
  でもね、お医者さんの言うことを聞いてね。
  お医者さんのリハビリのメニューは、
  黒い線に近づけて、無理しないでしっかり直すメニューだから。」

 「うん、先生にも謝る……。」


 アリシアは、微笑む。


 「ま、そうは言ったけど、
  なのはのは、まだいい方なんだよね。」


 なのはが、首を傾げる。


 「一番悪いのは、リハビリから逃げちゃうことなんだって。
  リハビリしないと体の機能は回復しないから。」

 「リハビリ痛いから……。」

 「そうみたい……。
  はやての話し聞いて痛くなった……。
  仮死状態から蘇った経験はあるけど、
  大怪我した経験はないからね。」

 「それも凄いけどね。」

 「それもそうだね。」


 なのはとアリシアは、笑い合う。


 「兎に角、よろしくね。
  私、あまり仕事を一緒にすることなかったから、
  色々となのはのお話しも聞きたいんだ。」

 「うん、いいよ。」

 「勉強も付き合うよ。
  入院生活して学校に戻っても、浦島太郎にならないように。」

 「ありがとう。」

 「じゃあね。」


 アリシアが病室を後にすると、なのはは、視線を落として反省する。


 「休むことも大事だったんだなぁ……。
  今度は、気を付けないと。」


 なのはは、ベッドにゆっくりと体重を預けた。


 …


 アリシアは、病室を出ると休憩室の方に向かう。
 そこには、はやてと医者の先生が居た。


 「どうやった?」

 「多分、分かってくれた。」

 「よかった……。
  なのはちゃん、頑固やから、
  いくら言っても言うこと聞かんのよ。」


 アリシアは、説明に使ったプログラムを起動する。


 「この図を見せたんだ。
  やっぱり、数字よりも図で説明した方がいいからね。」

 「よく出来とるねぇ……。」

 「本当だ……。
  このプログラムを病院のソフトに組み込んでもいいかね?」

 「いいですよ。
  私、これが仕事で呼ばれたことですし。
  要求出してくれれば、どんどん作りますよ。
  その過程で必要な知識も理解出来て、一石二鳥だから。」

 「社内専属SE万歳……。」

 「なんや苦労しとるねぇ。」

 「本当……。」


 はやてとアリシアは、医者の先生の反応に苦笑いを浮かべた。
 そして、この話が切っ掛けで『無理するって危ない』に繋がるとか繋がらないとか。


 …


 ※※※※※ 没ネタ ※※※※※

 「ヴィータ、一緒にナース服着ない?」

 「着るか!
  そんなもん!」

 「なのはをロリナースで励まそうよ。」

 「私は、大人だ!
  ロリじゃねー!」

 「そう?
  なのはは、こういうの好きなのに。」

 「……それ、本当なのか?」

 「そうだよ。
  可愛いの大好き。」

 「…………。」

 「じゃ、じゃあ、着る!
  アイツを守ってやれなかったのは、私だからな……。
  こんなことで、少しでも元気が出るなら……。」


 …


 「ヴィータちゃん、どうしたの?
  その格好?」

 「げ、元気出たか?」

 「?」

 「私、そういう趣味はないけど?」

 「!」

 「~~~!
  アリシアは、何処に行ったーっ!」

 (アリシアちゃん……。
  また、嘘ついたんだ……。
  ・
  ・
  あ、壁が壊れた。)



[25950] 第6話 幕間Ⅱ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/14 14:27
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 大きな屋敷に数人の男達が雪崩れ込む。
 二階へと駆け上がった男達は、乱暴に扉を開け放つ。
 そして、二人の男が部屋に居た少年の腕を片方ずつ拘束した。
 少年は、扉の近くで別の男達に押さえられる両親を見つけ、恐怖に震えながら母親を呼ぶ。


 「ママ……。
  ママ……。」

 「やめて!
  やめてください!」

 「貴様ら!
  一体、何の権利があって!」


 少年の両親は、男達に立ち向かう。
 しかし、男の一人が、切り札を出すように笑みを浮かべて話し出す。


 「それは、こちらのセリフでしてね。
  モンディアル家の御子息……エリオ君は、既に病気で亡くなられている。
  ・
  ・
  そして、この子は、亡くなった息子さんの特殊クローン……。」


 男は、少年と両親の前に証拠を突きつけた。
 少年の前に広がった画面には、自分と同じ顔の少年の死を悲しむ両親の姿があった。


 「プロジェクトF……。
  忌まわしき生命創造技術で生み出された劣化コピーです。」


 その言葉を信じられずに、少年は、両親を見つめる。
 だけど、両親は、その言葉で諦めた。
 助けを求める少年の声には、誰も振り向かなかった。
 そして、信じていた者に裏切られた少年の心は、徐々に閉ざされていった。



  第6話 幕間Ⅱ



 少年は、研究施設に送られた。
 待っていたのは、監禁された状態と自分を実験動物のように扱う研究所の人間。
 少年は、直ぐに牙を剥いた。
 『プロジェクトF』の副産物である自分に宿る魔法の力で暴れ回った。

 そして、それが結果的に切っ掛けになり、研究施設を追い出される形で、少年は、保護を受けることになった。
 しかし、時空管理局の保護施設に移されて、自分を傷つける人間が居なくなっても牙を剥き続けた。
 助けを呼んでも振り向いてくれなかった偽りの両親……。
 自分を人として扱わない研究所の人間……。
 少年は、両親を切っ掛けに心を閉ざし、研究所の人間の扱いで完全に人を信じられなくなった。


 …


 同じ顔の二人の少女が、保護施設に向かう廊下を歩く。
 そして、背の高さの違いが、彼女達を双子ではなく姉妹と分からせる。
 背の高い方の少女は、執務官の服を身に付け、ヒールの音を響かせる。
 一方の背の低い方の少女は、管理局の一般職員の服を身に付け、ブーツの音を響かせる。
 そして、背の低い方の少女が話し掛ける。


 「フェイト。
  また、会いに行くの?
  この前、体に怪我したばっかりでしょ?」

 「うん。
  ちゃんと話し合えるまでは、
  何度だって、足を運ぶつもりだよ。」

 「確かにフェイトは、電撃に強いイメージはあるけど……。
  あの子と対話する時は、シールド張ってないじゃない。」

 「そうだね。
  でも、話そうとするのに武器を持つのも盾を持つのも大きな間違いだって、
  昔、なのはがヴィータに言われたって。」

 「そうだけど……。
  私は、フェイトが心配。
  見てるのも辛いし。」

 「アリシア……。
  だったら、来なくてもいいよ。」

 「そうはいかないよ。
  心停止なんてされたら、あの世行きじゃない……。」

 「そ、そこまでは、頑張らないよ!」

 「だと、いいんだけど……。」


 そして、二人は、件の少年の居る部屋の前まで来た。


 …


 部屋をノックして、少女達が少年の部屋に入る。
 アリシアは、扉近くの壁に寄り掛かる。
 フェイトは、ベッドに座る少年の前まで歩くと、少年の視線に合わせてしゃがみ込む。


 「エリオ、お話を聞いてくれないかな?」


 エリオと呼ばれた少年は、今日も無言で睨みつける。


 「エリオは、いつまでもここに居たいの?
  エリオの態度が直らないと、何処にも行けないんだよ?」


 エリオの振り上げた手をフェイトは、両手で受ける。
 エリオは、何を言っても聞き入れないとフェイトを威嚇する。
 そして、自分の中の力を解放した。
 エリオの手を伝い発せられる放電を必死に耐えながら、フェイトは、エリオの手を握り続ける。


 「エリオのこの手は……。
  この力は……。
  決してこういう使い方をするものじゃないと思うんだ。」

 「…………。」


 エリオは、フェイトから手を振り払うと顔を背けた。
 そして、フェイトは、いつもの様にエリオを抱きしめると立ち上がる。


 「また、明日も来るね。
  今度は、しっかりと話そう。」


 フェイトは、エリオの居る部屋を出た。
 アリシアは、部屋を出たフェイトを見ると後に続く。
 そして、フェイトに声を掛ける。


 「……意味あるのかな?
  ガツンと躾けちゃえば?」

 「それは出来ないよ……。
  でも、変わってると思うよ。
  最近は、前ほどじゃないから。」

 「そうなのかな?」


 アリシアは、フェイトの手を取る。


 「いつも通りの治療コースだよ?」

 「え、え~と……。
  許容範囲内……かな?」

 「まさか、妹がドMだったとは……。」

 「ち、違うよ!」


 フェイトとアリシアは、本日もシャマルのお世話になりに医療施設へと向かった。


 …


 受け入れられなくても会いに行く……。
 繰り返しの日々が、何日も続いた……。
 そして、今日もエリオの部屋を訪れたフェイトとアリシアの前で大きな声が響いた。


 「このガキ!
  ふざけやがって!」


 エリオを監禁していた研究施設の男が、エリオに向かって拳を振り上げていた。
 フェイトが、研究施設の男の拳を押さえる。


 「何をしているんですか!
  やめてください!」

 「サンプルのクセに抵抗しやがって!」


 エリオは、切った口から流れる血を拭って、研究施設の男を睨みつける。
 研究施設の男の足に掴み掛かり、ありったけの放電を発する。
 しかし、エリオの特性を知っている研究施設の男は、放電対策をしていた。
 今度は、エリオを蹴り飛ばす。


 「大人しくサンプルを取られていろ!」


 傷だらけの顔で、エリオは睨み返す。
 そして、次の瞬間、力で叶わなかった研究施設の男が一回転した。


 「そうやって、心を傷つけるから!」


 フェイトが、投げ飛ばした研究施設の男の肩をがっちりと極めている。
 エリオの目の前で、研究施設の男は、痛みでバタバタともがいている。


 「そうやって向けられる言葉や態度が、
  どれだけエリオを傷つけてるか知らないで!
  だから、こんなに苦しんでいるのに!」


 フェイトは、ぎりぎりと極めた肩を押さえつける。
 アリシアは、初めて見る怒るフェイトを突っつく。


 「フェイト……。」


 後、数センチ……。
 フェイトが、力を込めれば肩が外れる。


 「フェイト……。
  もう十分だよ……。」


 フェイトは、アリシアの言葉で力を緩めた。
 研究施設の男は、立ち上がるとエリオとフェイトに言葉を浴びせる。


 「お前ら劣化コピーは、これだから駄目なんだ!」


 研究施設の男は、部屋を後にした。
 フェイトは、研究施設の男の言葉を無視して、エリオに近づく。


 「ごめんね……。」


 エリオは、少し胸が痛かった。
 自分より遥かに強いその人は、力で言い聞かせることも出来たのに、今までそれをしなかった。
 そして、同じように罵声を浴びせられた自分よりも、今にも泣き出しそうな顔でエリオを思って悲しんでいた。


 (……何で、この人は、僕に謝ったんだろう?)


 その日は、それ以上、何も話せないまま、フェイトとアリシアは、部屋を後にした。
 そして、エリオの心に小さな疑問を残した。


 …


 次の日、フェイトとアリシアが、エリオの部屋を訪れる。
 フェイトは、いつものフェイトに戻っているようだった。
 そして、エリオが初めてフェイトに話し掛けた。


 「昨日は、何で……。」

 「ん?」

 「何で、悲しそうな顔をしていたんですか……。」


 フェイトは、少し困った顔で答えた。


 「エリオに向けられた言葉が……。
  痛かったからかな……。」

 「……どうして、あなたが?」

 「エリオとは、ずっと会話してたから。」

 「え?」


 フェイトは、エリオの両手を自分の両手で包み込む。


 「私に痛いって伝わってたよ……。」

 「僕は……。
  僕は、あなたを傷つけただけで……。」

 「そうやってでしか、会話出来なかったんだよね?
  だから、エリオの痛みを分けて貰ったんだ。
  今度は、言葉で伝え合おう。」


 エリオは、フェイトの手を握り返す。


 「あの時、謝ったのは……。」

 「私達、大人がエリオを傷つけたから。
  だから、謝ったんだ。」

 「……僕のために謝ったんですか?」


 フェイトは、頷いた。


 (この人は、代わりに謝ってくれたんだ……。
  何もしていないのに……。
  自分も大人だからって……。
  あの人達の代わりに……。)


 フェイトの手の温かさがエリオに伝わってくる。
 何度も何度も握ってくれた温かさだ。


 (僕の心が痛いのを分かろうとしてくれたんだ……。
  この人は、僕を分かろうとしてくれた……。)

 「人を……。」

 「ん?」

 「……人を信じていいんですか?」

 「うん……。」

 「……あなたのことを信じていいんですか?」

 「うん……。」

 「あなたを…傷つけてしまった……。
  僕は、どうすればいいんですか……。」


 フェイトは、ゆっくりと頷く。
 あの時は、アリシアが居て、ちぐはぐにされてしまったことを思い出す。
 そして、あらためて友達になった白い服の女の子が教えてくれた言葉。


 「難しいことは、後回しにしよう……。
  私は、フェイト。
  あなたじゃなくて、私の名前を呼んで。
  そこから始めよう……。」

 「……フェイト…さん。」

 「うん。
  これで始められるよ。」


 エリオは、俯くと涙を溢した。


 「……分からないけど、嬉しいんです。
  だから、涙が止まらない……。」

 「うん……。
  その気持ちも伝わったよ……。」


 エリオの心が、少しだけ開いた。
 だから、今までの思いをフェイトにぶつけて声を上げた。
 それをフェイトは、しっかりと受け止めていた。


 …


 その後、エリオは、隔離部屋のようだった保護施設から、普通の保護施設に移動する。
 保護責任者は、フェイト。
 経過する日々で、エリオは、徐々に自分を取り戻していった。
 その過程で、アリシアとの関係も深めていく。

 そして、そんなある日のこと……。
 エリオは、保護施設のベンチに並んで座るアリシアに質問する。


 「アリシアさん。
  質問してもいいですか?」

 「今日、フェイトは仕事だよ。」

 「そうじゃなくて……。」

 「ん?」

 「この前、研究施設の人がフェイトさんのことを……。
  劣化コピーだって……。」

 「ああ、それ。
  ・
  ・
  エリオは、自分のことを知ってんだっけ?」

 「はい。
  僕は、両親…だった人の前で……。
  知りました……。」

 「そっか……。
  それは辛いね。
  今度、その人、ボコボコにしようか?」

 「や、やめてください!
  そういうのは、もうしないって決めたんです!」

 「そう?
  言ってくれれば、
  私は、いつでも手を貸すからね。」

 「絶対にしません!」

 (時々、この人がフェイトさんと姉妹だって疑いたくなる……。)


 エリオは、気を取り直すとさっきの質問をする。


 「その、フェイトさんのことで……。」

 「劣化コピー……か。」

 「はい……。」


 アリシアは、少し天井を見上げて昔のことを思い出す。
 そして、静かに話し出した。


 「フェイトも、プロジェクトFの成果の一人なんだ。」

 「フェイトさんも?」

 「そう。
  最初の記憶は、別の人のもの。」

 「……そうですか。」


 エリオは、フェイトも辛い思いをしたのかもと俯く。


 「で、その記憶は、私。」

 「え?
  ・
  ・
  ええ!?」


 しかし、今度は、驚いて顔をあげた。


 「そんなに驚く?」

 「驚きますよ!」

 「これだけ容姿が似てれば、気付かない?」

 「気付きませんよ!
  それより! え、あれ?
  どうなってるの!?」


 アリシアは、可笑しそうに笑う。


 「まあ、フェイトにも、色々あるんだよ。
  色々も知りたい?」

 「そ、それは、もういいです。
  何か頭の中が一杯で……。」

 「ふふ……。
  ねえ、フェイトをどう思う?
  私と一緒に見える?」

 「……見えません。」


 性格の違うフェイトとアリシアは、別人のように目に映った。


 「うん。
  私とフェイトは、別々の人。
  それでね……。
  フェイトが、私より劣化してると思う?」

 「……あまり変わらないかと。」

 「そう、変わらない。
  劣化しているところなんてないの。
  個性も違うし、好みも違ってる。
  それを劣化と例えるのは、意味がないことだよ。」

 「そうですね……。」

 「それどころかフェイトの奴は、
  プロジェクトFの副産物で、私にはない魔法特性を!
  劣化どころかオリジナルを超える完璧人間に!」

 「ア、アリシアさん?」

 「どう思う?
  不公平だと思わない?」

 「いや、それは……。
  と、いうか、クローンに嫉妬する人って珍しいですよね?」

 「嫉妬するよ。
  私の魔法特性は、下の下だからね。」

 「……何かこういう存在でも、
  悪い気がしなくなって来ました。」


 エリオの言葉に、アリシアは微笑む。


 「気にしなくていいと思うよ。
  私達、こんな関係だけど姉妹してるし。
  フェイトのこと、好きだもん。」

 「好きなんですか?」

 「大好きだよ。
  いい子だし。」

 「……そうなんだ。」


 エリオは、少し安心した顔になる。


 「正直に言えばさ。
  あの研究施設の人『何言ってんの?』って、思ったわよ。
  劣化じゃないし、オリジナルの能力の低さを
  見くびるなって言いたかった。」

 「何か間違ってませんか?
  それに『もう十分……』って、止めてましたよね?」

 「その後、『私がとどめを刺すから』って、続くはずだったのに
  フェイトが解放しちゃったのよ。」

 「…………。」

 (アリシアさんって……。)


 エリオは、フェイトに付いて来ていたアリシアを寡黙な少女と誤解していた。


 「……僕のオリジナルも生きていれば、
  アリシアさんみたいな性格なのかな?」

 「それは違うんじゃない?
  そうねぇ……きっと、根暗よ!」

 「どうして、そうなるんですか!」

 「何となく……。」


 フェイトとエリオの出会いに、アリシアが加わるとこうなるのかもしれない。


 …


 ※※※※※ エリオの話について ※※※※※

 もしかしたら、別で本当の話があるかもしれませんが、原作のアニメしか見ていないので納得出来ないお話でしたら申し訳ありません。
 原作のワンシーンのエリオとフェイトの話をIFにして、アリシアを加えたのが今回のSSになります。
 原作では、エリオは、少し捻くれていた時期もあったようなので、こんな感じかなと時系列的に最初に持って来ました。



[25950] 第7話 幕間Ⅲ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/15 11:54
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 何処までも白いだけの研究施設……。
 小さな少女を前に幾人かの大人が会話を続ける。


 「確かに……。
  凄まじい能力を持っているんですが、
  制御が碌に出来ないんですよ。」


 一人の研究者に言葉を浴びせられ、少女は俯いた。


 「竜召喚だって、この子を守ろうとする竜が勝手に暴れ回るだけで……。
  とてもじゃないけど、まともな部隊でなんて働けませんよ。
  せいぜい単独で殲滅戦に放り込むぐらいしか……。」

 「ああ……。
  もう、結構です。
  ありがとうございました。」


 研究員の説明に苛立ちを見せて、女性は説明を止める。
 研究員は、女性が少女に興味がなくなったと思った。


 「では?」

 「いえ、この子は予定通り、
  私が預かります。」

 「え?」


 研究員の説明で自分の価値観を失いかけていた少女は、女性の言葉に思わず疑問の声を上げてしまった。
 そして、手続きを終えると研究所の外に連れ出された。



  第7話 幕間Ⅲ



 研究施設の外は、一面の雪景色。
 そして、空からは、雪が静かに舞い降り続けていた。
 女性は、少女の首にマフラーを巻いて胸元で可愛らしいリボンを作る。


 「私は……。
  今度は、何処へ行けばいいんでしょう?」


 少女の言葉に女性は、静かに答えを返した。


 「それは、君が何処に行きたくて……。
  何をしたいかによるよ。
  ・
  ・
  キャロは、何処へ行って……何をしたい?」


 女性の差し出された優しい手に少女は手を添える。
 それは、考えたことのないことだった。
 そして、暫く歩き続けると女性と同じ顔をした女性よりも少し若い……いや、幼い少女が声を掛けた。


 「フェイト! 遅いよ!」

 「ごめん、アリシア。」

 「まったく……。
  車を雪道使用に改造も出来ないなんて……。」

 「そう言わないでよ。
  タイヤを変えるだけにはいかないんだから。」

 「まあ、非番だからいいけど。
  今度、車改造しようか?
  デバイスも組み込んで、K.I.T.T.みたいのも付けてさ。
  勝手にタイヤとかが変形するの。」

 「絶対にしないで!」


 アリシアは、『冗談だよ』と呟くと、フェイトが手を引く女の子に目を移す。


 「その子? フェイトが気に掛けてた子って?」

 「うん……。」


 キャロは、そっくりな顔で対照的な性格の二人に目をしぱたいた。
 執務官になったフェイトとデバイス技術者として本格勤務を始めたアリシア。
 これは、その三人が初めて出会った日のことだった。


 …


 並ぶと見た目は、ほとんど分からないフェイトとアリシア。
 だけど、少しアリシアの方が背が低く幼い顔をしている。
 中学時代のフェイトのまんまの姿だ。
 しかし、見極めるのは簡単。
 黒いリボンに黒の執務官服を基調にしているのがフェイトで、緑のリボンに薄い緑の私服を基調にしているのがアリシアだ。

 そして、次の日……。
 研究所や施設と違う時空管理局本局の与えられた部屋で、キャロは、フェイトとアリシアと会話をしていた。


 「私……。
  本当に力を制御出来なくて……。
  だから、何処にも居ちゃいけないって……。」

 「それを理由にたらい回し?」


 キャロは、頷いた。


 「フェイト。
  執務官の意見としては?」

 「間違ってるよ。
  研究所の資料を見たけど、
  制御が出来ないんじゃなくてしないんだよ。」

 「どういうこと?」

 「キャロの力は、確かに大きいんだけど、
  きっと、それを使いたくないんだと思う。
  無意識でブレーキを掛けているんだよ。」

 「危ないもんね。」

 「うん。
  キャロは、優しいから大きな力を使わないと思うんだ。」

 「そっか。
  そんな状態で、研究所の人が無理に力を使わせれば……。」

 「精神が安定しないでの召喚になる。」

 「さすが、執務官。
  感情の分析は、お手の物ですか?」

 「そんなことないよ……。」

 「い~や!
  そんな優しい顔を浮かべて、
  次元犯罪者が油断した隙にガブリと!」

 「しないよ!
  そんな騙まし討ちみたいなこと!」


 キャロは、仲のいい姉妹に少し安心する。
 しかし……。


 (何で、妹のアリシアさんの方が、
  フェイトさんを手玉に取ってんだろう?)


 そこにある複雑な事情を一目で見破るのは不可能だった。
 そして、フェイトが席を立つ。


 「これから、お仕事だから。
  キャロ、帰ったら、またお話しようね。」

 「はい。」

 「アリシア。
  キャロのこと、お願いね。」

 「任せて。」


 フェイトは、微笑むと部屋を出た。


 …


 残されたアリシアとキャロ。
 まず、アリシアからの自己紹介。


 「あらためまして。
  アリシア・T・ハラオウンだよ。
  歳も近いから、『さん』付けじゃなくていいよ。」

 「キャロ・ル・ルシエです。
  私のことは、キャロって。
  でも、やっぱり『さん』は、付けさせてください。」

 「あはは……。
  そこは、人の個性だよね。
  分かったよ、キャロ。
  少しお話しよう。」

 「はい。」

 「何を話したい?
  バラエティ広いから、何でも話せるよ。」

 「話せることと言っても……。」

 「そう?
  じゃあ、不安の解消からしようか?」

 「不安……私の力?」

 「うん。
  さっきの話の流れからすると
  それが唯一の共通点だからね。」


 キャロは、頷いた。
 アリシアが端末を叩いて画面を開くと、研究所の資料が映し出される。


 「じゃあ、説明を……。」


 そこで、アリシアの携帯電話が鳴った。
 アリシアは、掛けて来た人物を確認せずにいきなり電話に出た。


 「何?」

 『キャロは、大丈夫?』


 相手は予想通り、フェイトだった。


 「さっき、出たばっかだよね?」

 『仕事場に着いて、開始まで時間があるから。』

 「……エリオの時もそうだったけど、
  フェイト、過保護過ぎだよ。」

 『そうかな?』

 「そう。
  今から、研究所の資料を説明するところ。」

 『うん、分かったよ。
  じゃあ、よろしくね。』

 「うん、じゃあね。」


 携帯電話を切る。


 「ごめんね。
  フェイトは、いつもああなんだ。」

 「優しいんですね。」

 「うん。
  少し過保護なぐらい。」


 また、携帯電話が鳴った。


 「……何?」

 『今日の仕事、少し余裕があるから。』

 「…………。」


 アリシアは、青筋を浮かべて携帯電話に叫ぶ。


 「あんた、携帯にイヤホン付けて仕事してなさいよ!
  どれだけ心配性なのよ!」

 『そ、そうする……。』

 「ったく……。」


 アリシアは、キャロを見る。


 「フェイトは、こういう人……。
  今から、説明するね。
  フェイトも加わって。」

 「はは……。
  はい、お願いします。」


 アリシアは、大きく息を吐くと気分を入れ替える。


 「う~ん、とね。
  ここに映ってる資料を見て、
  私も、フェイトと同じ考えになったんだ。」

 「同じ考え?」

 「うん。
  フェイトの言ったのは、キャロの心の部分。
  それは、正しいと思う。
  だって、大きな力は怖いもんね。」

 「怖い……ですか?
  私の力……。」

 「キャロだけじゃなくて、
  大きな力を持っている人は皆だよ。
  この資料を見るといきなり、『竜魂召喚』をやってるよね?」

 「はい……。」

 「これは、名前からすると
  大きな力じゃないのかな?」

 「そうです。
  私の竜……フリードリヒを真の姿にします。」

 「研究所の人がおかしいよ。
  キャロは、自分の力に詳しい段階じゃないんでしょ?」

 「はい……。」

 「フェイト、どう思う?」

 『まず、自分の力を知らないと大きな力は使えないよ。』

 「私も、同意見。
  じゃあ、例を挙げるね。」


 アリシアが、拳を握って素早く突き出す。


 「これぐらいで走る車があったとするね?」


 キャロが、頷く。
 そして、今度は、ゆっくり拳を突き出す。


 「もう一台、ボロい車もあったとするね?」


 キャロが、頷く。


 「さっきの速い車のエンジンをボロい車に乗せて、
  エンジンをイグニッション!
  ・
  ・
  キャロは、鍵を回せる?」


 キャロは、首を振る。


 「それを研究所での行動に置き換えるよ。
  キャロは、召喚の大きな力を全部は知らない。
  それなのに同じ様に『竜魂召喚』!
  ・
  ・
  怖くない?」

 『怖いよ……。』

 「フェイトに聞いてない。」

 『う……。』


 キャロは、苦笑いを浮かべて頷く。


 「怖いです。」

 「うん。
  キャロが正しい。
  私は、寧ろ我慢してくれていたキャロを褒めたいよ。
  無理して『竜魂召喚』を全力全開で発揮したらって思うと……。」

 『大事故が起きていたかもしれない……。』

 「そう思う……だからね。
  昨日、フェイトがキャロに掛けてた
  言葉に繋がると思うんだ。」

 「何処へ行きたいか?
  何をしたいか?」

 「うん。
  でも、何処かに行くなら地図が必要。
  何かをしたいなら手段が必要。」

 『キャロが望むなら、私達が与えるよ。』

 「そういうこと。」


 キャロは、初めて何をしたいか考える。
 そして、それを許してくれる人達に胸が一杯になる。


 「私……。」

 『執務官!
  さっきから、何をぶつぶつ言ってんですか!』

 『え、ええ!?』


 アリシアが、携帯電話を切った。


 「非常に申し訳ありませんが、
  フェイト執務官は、ここで強制退場です。」


 キャロは、思わず吹き出した。
 そして、笑いながら答えを出す。


 「私は、やっぱり自分の力を扱えるようになりたい……。」

 「そうだね。
  自分の資質を伸ばそう。
  ・
  ・
  じゃあ、まず、力が怖くないってことを理解するために
  補助魔法を覚えようか?
  誰かを守れる力もあるからね。」

 「はい!」

 「成果は、フェイトに見て貰おうね。
  私は、教えることしか出来ないから。」


 キャロは、首を傾げた。
 そして、姉妹は、仲良くやっていた。


 …


 ※※※※※ キャロの話について ※※※※※
 エリオ同様に原作のワンシーンのキャロとフェイトの話のIFです(+α アリシア)。
 実は、この時期にキャロが補助魔法を使っていたかは不明です。
 原作の中でも、自分の中の力を怖がっているシーンがありましたので、それを題材にしたSSを作成する上でキャロには魔法をあまり覚えていないという設定で話を書かせて貰いました。
 他にも違和感があると思いますが、寛大な心で許していただければと思います。



[25950] 第8話 StS編・アリシア勧誘
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/15 20:29
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 0071年 4月29日 ミッドチルダ臨海第8空港火災……。
 その対応の遅さと不自由に縛られた現場の行動に、一人の少女が決意をした。


 「やっぱ、自分の部隊を持ちたいんよ。」


 そして、その希望に笑顔で答える友達の少女二人。
 その希望に向かって動き出す少女達。
 意志を示したのは、八神はやて。
 その意志に力を合わせることを約束した高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。
 これから四年掛けて形になっていく部隊の始まりの日だった。



  第8話 StS編・アリシア勧誘



 0073年 時空管理局本局……。
 八神はやては、本局に到着すると真っ直ぐにデバイスメンテナンスルームへ向かう。
 目的は、管理局一の変わり者に会うため。
 次々と部署を替え、魔法資質がほとんどないにもかかわらず魔法を使う部署に異動したりする少女に会うため。

 その目的の少女の奇行が治まったのは、ここ最近。
 十年計画の総仕上げとデバイス技術者として、技術を身につけている。
 八神はやては、デバイスメンテナンスルームに着くと、デバイスの調整を続ける少女に声を掛けた。


 「お久しぶり。
  ちょっと、ええかな?」


 少女が振り返る。


 「はやて?
  久しぶり!」


 はやてと少女は、手を取り合って再会を喜び合う。


 「アリシアちゃんは、フェイトちゃんと見分けつかんねぇ。」

 「同じ遺伝子だからね。
  フェイトの成長が安定したところに
  私が追いつけば見分けがつかないよ。
  あと何年かすれば、まるっきり同じになると思う。」

 「ほんまに……。
  ・
  ・
  夢……叶えたんやね。」


 アリシアは、フェイトと管理局で一緒に働くための力をようやく手に入れるところだった。


 「うん……。
  これで、フェイトと一緒に管理局に勤められる……。」

 「頑張ったもんなぁ。」

 「随分と遠回りしたけどね。
  でも、まだまだ未熟だから、本局でもっと腕を磨くつもり。
  ・
  ・
  ところで、今日は?
  はやてのデバイスを見て欲しいの?」

 「そうやないんよ。
  少し先のことなんやけど、
  頼みたいことがあるんよ。」


 アリシアが、メンテナンスルームの端末のスイッチを切る。
 そして、立ち上がると備え付けのコーヒーメーカーから、二人分のコーヒーを淹れる。


 「インスタントなんだけど、
  今、これに凝ってるんだ。」


 アリシアが、はやてにカップを渡す。


 「そこの椅子に、どうぞ。」


 はやてとアリシアは、椅子に腰を下ろす。


 「インスタントなのに
  コーヒーメーカー使うん?」

 「裏技使うと一杯で三回分飲めるんだよ。」

 「今度、教えて貰おうかな?」

 「いいよ。
  知らないでやるとコーヒーメーカーが
  ご臨終しちゃうから。」

 「相変わらず、スレスレのことしよるなぁ……。」


 アリシアは、笑っている。
 はやてが、話を続ける。


 「お仕事、ええの?」

 「仕事は、終わってるんだ。
  今、自分のデバイスを作ってるとこ。」

 「ついにデバイス持つんか……。
  ・
  ・
  何で? 魔法使わへんのに?」

 「使ってるよ。
  地味に目立たないで、あまり魔力使わないヤツ……。」

 (……どんな魔法やろ?)


 ダブルSランク魔導師には分からない世界もある。
 そして、はやては、コーヒーを一口啜り、舌を滑らかにすると本題に入る。


 「今日のお願いいうんわな。
  アリシアちゃんを勧誘したいんよ。」

 「勧誘?」

 「そう。
  実は、少数精鋭のエキスパート部隊を持ちたいんよ。
  災害救助は、もちろん。
  犯罪対策も、発見されたロストロギアの対策も……全部受け持つ部隊。
  管理局の地上部隊は、行動が遅過ぎるんよ。
  だから……。」


 アリシアは、コーヒーを啜りながら、はやての話を聞いている。


 「だから、アリシアちゃんに
  その部隊の技術部門で協力して欲しいんよ。」

 「ふ~ん……無理。」

 「都合とか進路とか……って、早っ!?
  即行で断わるん!?」


 アリシアは、カップを机の上に置くと端末のスイッチを再び押す。


 「長い付き合いのはやてだから、正直に話すよ。
  今、作ってるのデバイスだけじゃないんだ。」

 「どういうこと?」


 アリシアが端末を叩くと、画面に艦船の設計図が浮かび上がる。


 「何や……これ? 帆船?」

 「帆船をモチーフにした時空航行型の艦船。」

 「個人で艦船を持つ気なんか?」

 「そう。」

 「そうって……資金は!?」

 「今、持ってる特許を三つばかり売るつもり。」

 「と、特許!?
  そんなん持っとるの!?」

 「研究には、お金が掛かるからね。
  中には一ヶ月で、はやての給料三ヵ月分弾き出すのもあるよ。」

 「何処で、人の給料知ったん……。」

 「経理部門にも居たし。
  名前分からなくても、明細の仕事内容で誰か分かるよ。」

 「この子、歩く機密書類みたいな子やなぁ……。」

 「まあ、そういった意味で、
  直ぐに協力は出来ないかな。」

 「そっか……。
  でも、こっちも直ぐに部隊が出来るわけじゃないし。
  ・
  ・
  と、いうか、その艦船共々入隊してくれへん?」

 「二年ぐらい掛かると思うよ?」

 「こっちも、いつ実現出来るか分からへんから……。」

 「じゃあ、何で、こんなに早く勧誘しに来たの?」


 はやては、軽く笑う。


 「アリシアちゃんは、
  自分都合で、ふらふらしとるから知らんと思うけど……。
  凄いんよ?
  上層部のアリシアちゃん争奪戦。」

 「何それ?」

 「平社員の給料で、エリート社員の三倍の成果をあげる……って。」

 「……平社員。」

 「アリシアちゃんは、役職ついてないし、
  長く部署に留まらないから、給料は新人のままやし、
  そのくせ、各部署回ってるから顔も利く……。
  臨機応変に各部署の知識を利用出来る……。」


 はやてが、指を立てる。


 「そして、付いたあだ名が『管理局一の器用貧乏』。」

 「器用貧乏?」

 「器用(技術)貧乏(魔力)。」


 アリシアは、青筋を浮かべる。


 「名付けたの誰だ?
  私の全知識を持って、秘密を暴いて曝してやる。」

 「もう、誰が名付けたか分からんよ。」

 「じゃあ、全員……。」

 「管理局、潰す気か。」

 「己……。」

 「兎に角、そういう経緯があるから、
  早めに予約を入れとかないといかんのよ。」

 「最優先で協力してあげる。
  部隊出来たら、幽霊隊員にしといてよ。
  はやての召集があったら、異動願いを出すから。」

 「はは……。
  勧誘成功かな?」


 こうして、二年後に結成される部隊にアリシアの入隊が約束された。
 そして、はやては、アリシアと談笑を終えると、気分よくデバイスメンテナンスルームを出た。
 しかし、会話に出たキーワードをもう少し吟味して置くべきだった。
 管理局勤務が長いとは言え、アリシアは、世間一般に言えば小娘だ。
 そんな小娘が特許を取っている。
 この時、アリシアの内面で育ったプレシア属性(黒)がクラスチェンジしていることなど、知る由もなかった。



[25950] 第9話 StS編・陸戦魔導師Bランク試験
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/15 21:10
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 0075年 4月 ミッドチルダ臨海第8空港近隣 廃棄都市街……。
 スバル・ナカジマ三等陸士とティアナ・ランスター二等陸士の陸戦魔導師Bランク試験が終わり、試験官であるリインフォース・ツヴァイと部下になるかもしれない二人を見守っていた高町なのはは退場。
 現場では、ヘリに乗った八神はやてとフェイト・T・ハラオウンがスタート地点に戻り、観察用のサーチャーと障害用のオートスフィアを設置し直していた。


 「何か、よく分からん展開なんやけど……。」

 「そうだよね。
  アリシアは、魔力値が低過ぎて、
  魔導師にも登録されていないのに。」

 「何で、陸戦魔導師Bランク試験なんか受けたがるんやろ?」


 ヘリの下では、訓練用の服を纏ったアリシアが準備運動をしていた。



  第9話 StS編・陸戦魔導師Bランク試験



 スタート地点のアリシアの前で、通信画面が開く。
 フェイトが、アリシアに声を掛ける。


 『アリシア。
  危ないと思ったら、直ぐに強制終了だからね。』

 「分かった。」

 『準備は?』

 「いつでも。」

 『じゃあ、始めるよ。』


 アリシアの前の画面が切り替わり、カウントダウンを開始した。


 …


 ヘリの中で、はやてがフェイトに話し掛ける。


 「なんや、いつものアリシアちゃんと違うなぁ……。」

 「うん。
  集中力を凄く高く感じた。」

 「でも……。
  この魔力量やとなぁ……。」

 「うん……。」


 二人は、画面に映し出されるアリシアの魔法資質のデータに不安を抱える。
 そして、いつでも止められるようにアリシアを見守ることにした。


 …


 シグナルが青に変わり、アリシアが走り出す。
 オート攻撃型のスフィアの居ないターゲットスフィアだけのポイントを目指す。
 そして、ターゲットスフィアを足技主体のマーシャルアーツで、瞬時に三体粉砕する。
 物陰がなく周囲からオート攻撃型のスフィアが近づくのが分かる場所を陣取る。

 安全が確保されるとアリシアは、自分のデバイスを起動する。
 円形の陰陽太極図のプレートが二つに分かれて、二つの投げナイフとなって地面に突き刺さる。
 空力を考えたひし形のフォルムと一回り小さいカートリッジを二つだけ搭載出来る簡易投げナイフ……それがアリシアのデバイスだった。
 そして、ナイフからサーチャーが飛び出すと試験場全体に飛ぶ。
 アリシアは、右手と左手に端末を開き、キーボードを叩き始めた。


 …


 ヘリの中は、沈黙していた。
 暫くして、はやてが声を漏らす。


 「な、何をしとるんや?
  時間制限があるのにサーチャー飛ばして……。」

 「それだけじゃないよ。
  バリアジャケットに換装してない。
  あのデバイス、そういう機能が付いていないんだ。
  直撃を受けたら、怪我をするよ。」

 「……でも。
  あの位置取りは、オート攻撃型のスフィアの攻撃が当たらない位置やろ?
  考えなしじゃない……。
  出だしの足技もターゲットスフィアを破壊する威力だったし、
  大分、訓練されていたみたいや。」

 「アリシアは、体を鍛える時に格闘技の訓練もしているんだ。
  魔力で肉体強化出来なくても、それなりに強いよ。
  そして、女だから攻撃面を補うために足技が多いんだ。」

 「手の三倍やったっけ? 足?
  それで、無抵抗のターゲット粉砕は分かるけど……。」

 「…………。」


 少しだけ補足するなら、アリシアの戦闘訓練は、現場で働く魔導師のためでもある。
 技術者だからと言って、ノロノロと行動して守って貰っては足を引っ張る存在になる……故に体も鍛えていた。
 切っ掛けは、クロノに説明して貰った執務官に付いて行くならという説明からだが……。
 幼いアリシアは、直ぐにフェイトに結び付けてしまった……。

 そして、時間は、経過していく。
 ただ真剣に端末を叩き続けるアリシアに、はやてもフェイトも強制停止出来ないでいた。


 …


 アリシアの手が止まる。
 画面に映し出されるデータを、もう一度、視線が追う。


 「データ収集終了。
  ・
  ・
  行くよ!」

 『『Yes Sir.』』


 アリシアが、地面から投げナイフを引き抜く。
 片方ずつに握られた投げナイフに魔法陣が起動する。


 「刃の形態・エクセリオンモード突撃形態!
  付加能力は、ソニック・ムーブ!
  発動スキルは、魔力刃の圧縮!
  ・
  ・
  プログラム・ダウンロード!」


 ナイフの先端に魔力の刃が申し訳ない程度に現れる。
 アリシアは、左右に投げナイフを投げる。


 「カートリッジ! ロード!」


 投げナイフは、カートリッジをロードすると先端の刃を伸ばす。
 そして、魔力光を濃い色に変え、衝撃波を残して消えた。


 「後は、私が時間内にゴールまで辿り着くだけ!」


 アリシアは、ゴールを目指して走り出した。


 …


 ヘリの上からだと良く分かる。
 落雷の様な音がスタート地点からゴール地点に響く。
 そして、画面に映し出されていたターゲットがクリアになった。


 「え、えげつないデバイスやなぁ……。」

 「本当……。
  今ので、アリシアの魔力値は"0"だよ。」

 「それにしても、よくあんな魔力量で貫けたなぁ……。
  最後のスフィアは、スバルも大技使って倒したのに……。」


 フェイトが、端末を叩く。
 最終関門の大型スフィアが映し出される。


 「……壊れてない。」


 他のスフィアも映すが、破損箇所が見えない。


 「フェイトちゃん。
  もう一回、最後のスフィアを見せて。」

 「うん。」

 「……あ!
  あそこ!
  小さい穴が開いとる!」

 「何処?」

 「そこ!」


 はやての指差す大型スフィアの一点に、確かに小さな穴が開いてる。


 「でも、これだけじゃ……。」

 「待ってな。
  今、そのスフィアの設計図出すから。」


 はやてが、端末を叩くと壊されたと思われるスフィアと設計図が並ぶ。
 二人は、納得する。


 「「配線を切ってる……。」」

 「聞いたことないわ……。
  試験で配線だけ切るなんて……。」


 はやては、項垂れるが、フェイトは、逆に納得してしまった。


 「アリシアらしいな……。」

 「え?」

 「技術者のアプローチって、言うのかな?
  サーチャーを飛ばして、時間ギリギリまで情報を収集。
  そして、綿密な飛行コースを組んだプログラムをデバイスにダウンロード。
  そして、一点集中に圧縮した魔力の刃で、重要なコードだけを切断。
  ・
  ・
  アリシアにしか出来ないし、アリシアしかしない。」

 「でも、こんなの実戦じゃ使えんよ。」

 「これしかないから……アリシアには。
  魔力量が少ないから、一回しか魔法を使えない。
  精密射撃の訓練も出来ないから、
  デバイスの補助機能を最大限に使ってプログラムするしか方法がない。
  ・
  ・
  アリシアの魔法は、私達の一回より重いんだ。」

 「……そうやったね。
  アリシアちゃんの魔法資質は、
  魔力量で制限が掛かってるんやった……。」


 二人の見る画面で、時間内ギリギリにゴールするアリシアが見える。
 そして、アリシアは、画面に向かってチョキを出していた。


 …


 ゴール地点……。
 ヘリは、アリシアを回収した。
 アリシアは、シートに体重を預けた。


 「しんどかった~……。」


 フェイトが、アリシアに声を掛ける。


 「無茶したね。」

 「まあね。
  でも、これでフェイトに追い着いた気がする……。
  私の作ったデバイスが成果を出してくれた……。」

 「アリシア……。」

 「お待たせ……だね。
  ・
  ・
  これで、フェイトのバルディッシュを
  メンテナンスさせてくれないかな?」

 「もしかして、今までバルディッシュに触れなかったのって……。」


 アリシアは、静かに頷く。


 「陸戦魔導師Bランク試験をデバイスの力で突破するって、願懸けをしてた……。
  それが出来たら、フェイトのバルディッシュをしっかりメンテナンス出来るって、自信を持とうと誓ったんだ……。
  ・
  ・
  デバイス技術者として、フェイトの力になりたい……。」


 フェイトは、嬉しそうに頷いた。


 「アリシア……。
  これから、バルディッシュをお願い。」

 「うん……。
  ありがとう……。」


 アリシアも、フェイトに嬉しそうに笑顔を返した。
 アリシアの十年の努力は、やっと報われたのだった。


 …


 フェイトとアリシアの話が一段落ついたことで、はやてが、アリシアに質問する。


 「少し、ええか?」

 「いいよ。」

 「さっきの試験のことを聞きたいんよ。
  アリシアちゃんの魔力量で、
  スフィアのシールドは、抜けんと思うんやけど?」

 「うん、カートリッジで補ってる。
  それとデバイスに無理させてる。
  今のだけで、普通のデバイスなら軽いダメージで済むけど、
  私のデバイスは、30%も壊れてる。」

 「やっぱり……。
  アリシアちゃんの魔力量を上回っとるもんなぁ。」

 「私がしたのは、魔法のプログラム化まで。
  今回みたいな複数の高度なプログラムを作っただけで、
  私の魔力がなくなったとも言えるけどね。
  そして、負荷は、デバイスに全部行っちゃう仕組み。
  ・
  ・
  つまり、プログラムされたなのはのエクセリオンモードの負荷が、
  デバイスだけに行く仕組みになってるの。
  そして、私以外がこの子を使えば、
  魔力量の関係で、この子は壊れちゃう。」


 アリシアは、自分のデバイスにカートリッジを入れる。


 「カートリッジ・ロード。」

 『『Recovery.』』


 アリシアのデバイスは、一気に破損箇所を回復する。
 フェイトが、少し顔を顰める。


 「その回復スピード……バルディッシュみたい。」

 「そういう能力も備えてるんだ。
  この子、戦うためのデバイスじゃないから。」

 「そうなの?」

 「うん。
  この子は、デバイスを作るためのデバイス。
  この子が礎になって色んな子が生まれるの。
  差し詰め、お父さんとお母さんみたいな感じ。
  ・
  ・
  少し無理させちゃう時は、申し訳ないけど……。
  この子が頑張れば、デバイスを使う人が安全に任務をこなしていける。
  今日の試験で無理させちゃったけど、いいデータが取れたから、
  なのはにもレイジングハートにも、
  いつか負担の掛からない新素材のフレームを開発出来るかもしれない。」

 「そういうデバイスなんやね。
  ただ、壊れるのも考慮されてるのが、少し可哀そうやなぁ。」

 「いや、一回の砲撃でデバイス壊れるほど負荷掛ける魔導師って、
  なのはぐらいしか居ないから。
  私は、そんな頻繁に壊れるようなデバイスの使い方をする気はないよ?」

 「……そうやね。」

 「今日の試験のスフィアは、装甲固いの知ってたから、
  なのはのエクセリオンモードを使って、データを取ったの。」


 アリシアの少し目的の違うデバイス。
 魔導師を補助するものではなく、技術者の開発を補助する。

 それはそうとフェイトが端末を叩き、アリシアの試験結果を表示する。


 「公式にはならないけど、大記録だよね?
  魔導師ランクなしのアリシアが、Bランククリアなんて。」

 「そうやね。」

 「デバイスの凄いところを見せれた気がするよ。」


 ヘリは、もう時期、隊舎に着こうとしていた。
 はやてが、アリシアに話し掛ける。


 「これで、アリシアちゃんも、
  心置きなく六課に入れるなぁ。」

 「……何それ?」

 「約束したやんか! 二年前に!
  召集掛けたら、来てくれるって!」

 「そう言えば……。
  この前の手紙の内容、それか。
  ……ごめん。
  読んでないから、まだ異動願い出してない……。」

 「な!?」

 「それに有休消化してから辞めるから……待って。」


 はやてが、フェイトに振り向く。


 「フェイトちゃん!
  お宅のお姉ちゃん、おかしい!」

 「まあ、それは、今に始まったことじゃないし……。」

 「あ~、もう!
  しゃーないな。
  今は、待つけど、なるべく急いでな。」

 「有休切り上げないよ?」

 「……もう、ええ。
  じゃあ、せめてデバイスの名前だけでも教えて。」

 「……まだ、決めてない。」

 「~~~!
  アリシアちゃんと話すと、いっつもこうや!」


 フェイトが苦笑いを浮かべた頃、ヘリは、隊舎に到着した。


 …


 ※※※※※ アリシアのデバイス ※※※※※

 実験データ収集型のデバイスとなり、戦うよりも技術者補助という設定にしています。
 アリシアが技術者ということで、端末としての機能も持ちます。
 そして、アリシアが行なえるのは、魔法プログラムの作成まで。
 実際に魔法を使う時は、カートリッジをロードしないと能力を発揮出来ません(アリシアの魔力が低過ぎるため)。
 しかも、魔導師に掛かる負担も全てデバイスに回ってしまうため、扱いが少し難しい。
 はやてとかが使うと魔導師から送られる魔力量も加わり、まず間違いなく壊れます。


 「ちなみにアリシアちゃんがデバイス使わないと、
  どんな魔法になるん?」

 「砲撃は、煙しか上がらない。」


 バスンッ。


 「チェーンバインドが伸びないで、
  四つくらいの鎖が地面に落ちる。」


 ジャラッ。


 「デバイスないと使えんねぇ?」

 「そんなことないよ。」

 「どんな時に役立つん?」

 「隠し芸で披露したら、大うけだった。
  『ディバインバスター!』
   ↓
  『バスンッ!』」

 「……切ないディバインバスターやね。」

 「でもさ。
  はやてには出来ないと思うよ。
  繊細さが求められるし。」

 「私がガサツとでも言いたいんか?
  ええやろう。
  やってみせる。」


 …


 「何でや!?
  何で、普通の砲撃しか撃てないんや!?」

 「ふ……。
  SSランク魔導師にも出来ないものはある。
  なのはもフェイトも出来なかったし。
  全力全開でしか撃てない戦闘民族どもめ。」

 「っつーか!
  ほんまにどうやって撃っとるの!?」



[25950] 第10話 StS編・アリシア配属……少し前
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/16 22:00
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 陸戦魔導師Bランク試験の後、アリシアは、時空管理局本局の部署に戻った。
 そして、アリシアは、いきなり有休消化申請を提出。
 ついでに異動することも告げた。
 今まで成果を出していただけに、担当部署の上司は悲鳴を上げた。
 とは言え、この部署に異動してから二年以上勤めて(過去最長)、代休を使ったことはあっても有休を使ったことはない。
 アリシアからすれば有休を取って何が悪いというところだが、組織内で我が侭をされては堪ったものではない。
 上司は、しつこくアリシアを引き止めた。

 アリシアは、その行動に溜息を吐く。
 そして、引き下がらない上司に『バラすよ?』と耳打ちすると上司をフリーズさせ、強制的に休みに突入したのだった。
 後日、『あのことさえなければ……』と机を叩く上司。
 アリシアは、この十年の間に何を身につけたのか?
 そもそも『あのこと』って、何だ?


 …


 十年経って、本局にある地球組みの仮宿だったハラオウン家も、そろそろ役目を終えようとしていた。
 地球での学生生活を終えた少女達は、地球に縛られることもなくなった。
 学校での授業を受ける必要がなくなり、地球に居る時間と管理局に居る時間が逆転した。
 それぞれがミッドチルダや本局の住宅エリアに住居を構え、ハラオウン家を利用する者も少なくなった。
 そして、一番長く利用していたアリシアも、はやての立ち上げた部隊に異動すれば暫く訪れなくなる。
 今は、有休を消化しながら、最後の仕事に取り掛かっていた。


 「約束は、忘れてないよ。
  ただ、艦船のシステムにデバイスを組み込むところが、まだ完成してないんだ。
  デバイスの作製技術は問題なかった……。
  後は、班ごとのデバイスを用意するだけ……。
  はやての部隊には艦船がないから、私が用意しないと……。
  ・
  ・
  はあ……。
  興味本位に、はやてのやってることを見るんじゃなかった。
  フェイトも絡んでるから、手伝わないわけにいかないじゃない。
  個人使用の艦船を部隊用に大きくしたから、
  デバイスの数が全然足りないよ……。」


 アリシアは、フェイトとの約束を果たし、今度は、はやてとの約束を果たすために奮闘中だった。
 艦船のシステムと組み込むデバイスの作製……。
 はやてとの約束は、果たすことが出来るのか?



  第10話 StS編・アリシア配属……少し前



 はやての立ち上げた部隊、機動六課が形になる日……。
 部隊長であるはやてが、新規に作られた隊舎で挨拶を済ませ、新人隊員達は、早速、なのはとの共同演習を始めることになる。
 演習は、いきなりの実践型の模擬戦突入……。
 初日からハードなものとなる反面、お互い協力し合わなければならない状況から、新人で採用されたティアナ、スバル、エリオ、キャロの四名のぎくしゃくした関係など見る間もなくチームワークを作り上げた。
 結果、お互いを知る良い切っ掛けになったと言える。

 一方、ミッドチルダ地上本部では、はやてとフェイトの説明から、機動六課の新設された理由が告げられる。
 第一種捜索ロストロギア・レリックの捜索……。
 レリック事件解決を目指して、機動六課は、動き出す……。


 …


 新設二週間後……。
 今日も、朝から訓練漬けのフォワード陣……。
 早朝の実戦形式の模擬戦を終えて隊舎に戻る時、一台の黒い車が隊舎に止まろうとする。
 そこに一人の女性がふらふらと車の前に割り込む。
 車は、急ブレーキを掛けた。
 誰もが蒼然となった瞬間、女性は、車のボンネットに手を付いて振り返った。


 「「フェ、フェイト執務官!?」」


 ティアナとスバルは声を上げるが、その人物をよく知るなのは、エリオ、キャロからは、溜息が出た。
 ティアナが、女性に質問する。


 「どうしたんですか!?
  こんな普段着にサンダルで……。」


 こんな普段着……ジャージ。


 「はやてに会いに来たんだけど……。」

 「はやて?
  八神部隊長ですか?」

 「しっかりクビになって来たから、連絡に……。」

 「「クビ!?」」


 なのはが額に手を置き、フェイトそっくりの女性に近寄る。


 「アリシアちゃん……。
  その格好は拙いよ……。
  ・
  ・
  お疲れだね?」

 「うん、寝ないでソフト作ってたから。
  一区切りつくまで、作業を止められなくて……。
  ちょっと複雑だから、間を置きたくないんだよね。」

 「それで?」

 「はやてとフェイトが見えたから、
  車を止めようと……。」


 アリシアに、はやてのグーが炸裂した。


 「死ぬ気か!
  危うく引くとこだったやろが!」

 「……はやて。
  本局でしっかりクビになった。」

 「まず、謝らんかい……。」

 「そうだよ!
  アリシア!」


 ティアナとスバルには、フェイトが二人に増えて見えた。
 二人は、なのはに振り返り、指を差す。


 「執務官の服を着ているのがフェイトちゃん。
  もう一人の方がアリシアちゃん。
  二人は、姉妹だよ。」

 「双子ですか?」

 「そうじゃないけど……。
  似たようなもんかな?」

 「そうや。
  出来のいい方がフェイトちゃんで、
  出来の悪い方がアリシアちゃんや。」


 はやての答えに、なのはが注意をしようとする。


 「その通りだね。」


 だけど、アリシアが認めてしまったため、苦笑いを浮かべるしか出来ない。
 『皮肉も通じない』と嘆くはやてにアリシアが話し掛ける。


 「ちゃんとクビになって来たよ。」

 「さっき、聞いた。」

 「六課に配属して。」

 「事前に連絡してくれんかな……。
  退職した後にいきなり来ても、
  直ぐに手続き出来んよ……。」

 「まあ、配属は、いつでもいいから。」

 「……ほんま、マイペースやな。」

 「まだ、ソフトが組み上がんなくてさ……。
  区切りがつくまでは、自宅で作るつもり。」

 「それまで、働かないつもりなん?」

 「うん。
  配属後は、デバイス作りたいから、
  六課のデバイスメンテナンスルーム貸して。」

 「高いで?」

 「二億までなら出す。」

 「……冗談も言えへん。」

 「冗談なの?」

 「冗談や。
  六課の幽霊隊員になってるから、
  書類一つで、いつでも異動出来るよ。」

 「メンテナンスルームは?」


 その質問に、なのはが答える。


 「今から、皆のデバイスを実践用に変えるから、
  暫く使用出来ないよ。」

 「そう。
  じゃあ、メンテナンスルームが空くまで、
  自宅待機してようかな?」

 「それ、部隊長の権限で、
  アリシアちゃんが決めていいことじゃないよね?」


 アリシアが、はやてに手を合わせる。


 「約束の品が、もう少し掛かるの!
  最終調整は配属後にやるから、
  ソフトを組む時間だけ、頂戴!」

 「その約束、生きとるの?」

 「え? 要らない?
  なら、作業止めるから、いつでも配属していいよ。」

 「いや、その……欲しい。」

 「だったら、少し時間くれないかな?」

 「……ええよ。
  いつも折れるのは、私やから。」


 フェイトが、申し訳なさそうに謝る。


 「本当にごめんね。」

 「昔からやからね。
  私も、手の掛かる妹を持ったみたいだから、ええんよ。」

 「ありがとう、はやて。」


 アリシアは、用件を言い終わると踵を返す。


 「フェイト。
  フォロー、ありがとう。
  じゃあ、次は、配属する日に。」


 アリシアは、言うだけ言うと去って行った。


 …


 ティアナとスバルは、呆然としている。
 スバルから、言葉が漏れる。


 「あの人って、一体……。」


 エリオからも、言葉が漏れる。


 「相変わらずだな……。」


 ティアナが質問する。


 「エリオ、知ってるの?」

 「ま、まあ……。」

 「どんな人なの?」

 「フェイトさんは、説明し易いんですけど……。」

 「説明しづらい人なんだ。」

 「多分、見たまんまの印象で間違いないです。」

 「それだと、掴みどころがない人になるんだけど?」

 「的確な分析だと思います。」

 「…………。」


 妙な謎が残った。
 はやてが、なのは達に話し掛ける。


 「ところで、練習の方はどうや?」

 「頑張ってます。」


 ティアナの答えに、はやては微笑む。
 一方のフェイトは、少し申し訳なさそうな顔でエリオとキャロに謝る。


 「エリオ、キャロ、ごめんね。
  私は、二人の隊長なのに
  あんまり見てあげられなくて。」

 「いえ、そんな……。」

 「大丈夫です。」


 エリオとキャロは、フェイトに答えを返した。
 なのはからも、フォワード陣の評価が話される。


 「四人ともいい感じで慣れて来てるよ。
  いつ出動があっても大丈夫。」

 「そうかぁ。
  それは、頼もしいなぁ。」

 「二人は、何処かへお出掛け?」

 「うん。
  ちょっと六番ポートまで。」

 「教会本部でカリムと会談や。
  夕方には戻るよ。」

 「私は、昼前には戻るから、
  お昼は、皆で一緒に食べようか?」

 「「「「はい!」」」」


 はやてとフェイトは、車に乗り込む。


 「まさか、突っ込み入れるために
  車降りると思わんかったよ。」


 フェイトは、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


 「ほなな~。」


 はやてが手を振るとフォワード陣は、敬礼で応える。
 車は、隊舎を後にした。


 …


 ミッドチルダ北部 ベルカ自治領聖王教会……。
 ここでは、管理局理事官カリム・グラシアがはやてと会談を設けていた。
 簡単に言えば、レリック事件についてカリムからはやてへの情報提供。
 そして、はやてからカリムへの部隊の状態報告。
 はやて……頑張ってます。

 そして、新人フォワード陣は、新規デバイスへの切り替え後の一級警戒態勢、リニアレールに詰まれたレリックを求めて現れたガジェット殲滅のため、初出動になった。
 その後、隊長であるなのはとフェイトのフォローの元、任務は、無事終了。
 新人達の成長と共に、部隊は、少しずつ形になっていった。


 …


 その頃、アリシアは……。


 「これ、自宅でやる必要ないんじゃないの?
  給料出ないしさ……。
  六課に配属されてからソフトを作れば、
  はやてから給料貰えたじゃん……。」


 自由な時間欲しさに勿体ないことをしたと溜息をつきながら、ソフトを組んでいた。



[25950] 第11話 StS編・アリシア配属
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/16 22:01
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 遂にアリシアが配属される日が来た。
 それなのにアリシアは、項垂れていた。


 「艦船登録で引っ掛かった……。
  クロノに頼んだけど、六課への艦船配属はいつになるか……。
  まあ、いいんだけどさ。
  艦船用のデバイスを作る作業もあるから。
  艦船だって、直ぐには必要にならないだろうし。」


 約束は、完全に延期。
 どうしたもんかと思いながら、アリシアは、六課の技術部門の扉を開けた。



  第11話 StS編・アリシア配属



 アリシアは、管理局の制服に身を包み、フェイトと色違いの緑のリボンで髪の先端を縛るスタイル。
 靴は、動き易いブーツタイプ。
 ちなみに制服の色は、一般の人と同じ色で、フェイトのように黒に拘りがあるとかはない。
 あれは執務官の服らしいので、拘りとも違うが……。

 アリシアが、メカニックデザイナー、兼、機動六課通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士に挨拶をする。


 「本日付けで、機動六課に複隊することになりました。
  アリシア・T・ハラオウンです。
  階級はないので、ただの技術者として扱き使ってください。」

 「機動六課通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士です。
  皆は、シャーリーと呼ぶので、良かったらそう呼んでね。」

 「了解です、シャーリー。
  私のことは、フェイトモドキと呼んでください。」

 「……呼べないよ。」

 「冗談です。
  アリシアで、お願いします。」

 「じゃあ、アリシアで。
  早速だけど、アリシアには階級ないの?」

 「試験受けてないから、万年平社員だよ。」


 堅苦しい挨拶が終わり、シャーリーが口調を変えるとアリシアもそのタイミングで口調を変える。
 アリシアは、基本、上下関係を無視する。
 シャーリーも、そんなアリシアを気にすることなく会話を続ける。


 「経歴を確認しても?」

 「いいよ。」


 シャーリーが、端末を操作し画面にアリシアの経歴を映す。


 「……凄い異動の数ね。」

 「全部隊とはいかないけど、
  全部署は回ったから、技術のサポートは、一通り出来るよ。」

 「確かにこの経歴なら……。
  でも、どうしてこんなに?」


 アリシアは、頭を掻く。


 「デバイスの仕事に携わりたくて……。
  デバイスには、魔法を補助するシステムも組み込まれているから、
  一通りの魔法の起動が出来ることとデバイスに必要な機械的な知識も欲しくて……。」

 「それで、全部回ったの?」

 「……うん。
  フェイトのデバイスをいつでも完全な状態にしてあげたかったのが切っ掛け。
  今は、使う人の能力を100%引き出して、
  使用者とデバイスが最高のパートナーになれるようなものを作りたい……。」

 「いいね……それ。」

 「そして、それと正反対に悪人共を
  滅殺するような質量兵器を積んだデバイスも。」

 「ストップ!
  それは、法に触れるよ!
  クリーンで安全な魔法文化を創ったのが管理局!」

 「冗談だよ?
  じょう・だ・ん。」


 シャーリーは、ホッと息を吐く。


 「もう、危ない子かと思っちゃったよ。」

 「えへへ……。
  でもね。
  なのはもフェイトも地球のアニメの物理兵器を
  参考に戦闘スタイルを作ったんだよ。」

 「また、嘘でしょう……。」

 「信用ないなぁ……。
  じゃあ、証拠画像を。」


 アリシアが、端末を叩くと少女時代のなのはがディバインバスターを撃つ前の画面が出る。
 更に隣にストライクフリーダム・ガンダムがビームライフルを連結させる画面が出る。


 「……似てる。
  バリアジャケットのデザインも……。」


 更に更にガンダム・デスサイズのビームサイズを構える画像。
 そして、少女時代のフェイトが、サイズフォームでバルディッシュを構える画像。


 「フェイトさんも……。」

 「そう。
  なのはもフェイトも、
  実は、男の子の見るロボットアニメが大好き。」


 誤解(嘘)が、広がっていく。


 「そう……だったんだ。」

 「そうだよ。
  デバイスからバリアジャケットまで、
  コスプレしちゃうんだから。
  ・
  ・
  それにね。
  クロノも、そうなんだよ。」

 「そうなの?」

 「兄妹揃って。」


 アリシアが、新たな画像を出す。


 「これがアースラ。」

 「うん。」

 「これがアーガマ。」

 「これも似てるわね……。」

 「武装も似てるんだよ。
  アースラは、アルカンシェルを撃てるけど、
  アーガマは、ハイメガキャノンを撃てるの。
  ・
  ・
  そして、こっちが最新鋭のクラウディア。
  こっちは、レウルーラ。」


 また、画像が切り変わった。


 「クロノの提案で、このデザインが本局の艦船に採用されたんだよ。」

 「知らなかった……。」


 当たり前である。
 全ては、アリシアの口から出た『でまかせ』なのだから。


 「おっと、ついついフェイト達のことを……。
  私のことは少しずつ話すから、
  これから、よろしくお願いします。」


 アリシアは、頭を下げる。


 「こちらこそ、よろしくね。」

 「私は、何をすればいいかな?」

 「じゃあ、新人達のデバイスのデータを整理してくれるかな?
  四人分だから、結構、大変なんだ。」

 「いいの?
  初対面で、どんな人かも分かんない私に頼んで?」

 「うん。
  お手並みを拝見させて貰おうと思って。」


 アリシアは、少し気合いの入った顔になる。


 「じゃあ、期待には応えないと!」

 「頼むね。
  私は、これから、なのはさん達と今までのデバイスのデータを検討するから、
  二時間ぐらい席を外すね。」

 「了解。
  じゃあ、終わるのお昼少し前だね。」

 「そうなるかな?
  分からないことは、周りのスタッフに聞いてね。」

 「分かった。」


 シャーリーは、技術部門の部屋を出た。


 「シャーリーか……。
  素直でいい子だ。
  あんな嘘を信じてくれるなんて。」


 この時、アリシアは、まだ気付いていなかった。
 このシャーリーという女性が、思いの他、口が軽いためになのは達の耳に直ぐに嘘が飛び込むことを……。


 …


 アリシアが、与えられた席で作業を始める。
 近くには自分のデバイスが置かれ、随時、サポートも行なわれる。
 シャーリーに与えられた作業自体は、一時間ほどで終了し、今は、新人のデバイスデータを眺めている。


 「新人のデバイスにリミッターを設けてるのか……。
  あのシャーリーっていう人、凄い……。
  なのはの要求に合わせて、
  訓練と併用してデバイスのリミッターを作ったんだ。
  ・
  ・
  そして、このストラーダ……。
  私の好みのデザインだ。
  カッコイイなぁ。
  エリオいいなぁ。」


 アリシアは、暫しストラーダに心を奪われる。
 そして、一通りのデバイスデータを頭に入れると仕事を再開する。


 「データも整理出来たことだし、少しクセを洗い出すかな?
  このデバイスの負担の掛かり具合は、
  利き腕、利き足とは関係なしにバランスに問題があると見た!
  特にティアナ!
  これを報告すれば、なのはのスペシャル特訓コースが、
  更にハードなものに……!」


 アリシアは、楽しそうにデータを解析して整理する。
 そして、更に一時間が経過し、アリシアは、満足顔で頷く。


 「いいんじゃない?
  シャーリーの作った過去のデータから推測すると、
  こういうデータも欲しいでしょう。」


 そこにポンとアリシアの肩を誰かが叩く。
 アリシアが振り向く。


 「シャーリー……じゃない?
  なのはとフェイト?」


 二人は、不適な笑みを浮かべている。


 「アリシアちゃん……。
  私達は、いつからそんな男の子みたいな
  少女時代を過ごしたことになったのかな?」

 「何、言ってんの?」

 「ガンダムって……お姉ちゃんが見てたよね?」

 「お姉ちゃん?」

 「初めて会う人に嘘を吹き込むのって、どうなんだろう?」

 「……なのは?」

 「シャーリーが嬉しそうに話してくれたよ……。」

 「……フェイト?」

 「アリシアちゃん……。」
 「お姉ちゃん……。」

 「「少し……頭冷やそうか?」」

 「ちょっと!
  バレるの早過ぎない!?
  シャーリー!
  シャーリーを呼んで!」

 「「問答無用!」」


 アリシアの体を何かが拘束した。


 「バインド!?
  魔法を使えない相手に使う!?」

 「変な噂が六課中に広がったでしょ!」

 「ちょ……!
  シャーリーって、噂話の好きな子なの!?」

 「アリシア、責任取ってよ!」

 「そんなの誰も信じないって!」

 「比較画像も流れてたよ!」

 「何で!?
  画像は、私の端末にしかないのに!?
  あの少しの時間で、持って行かれたの!?
  機動六課通信主任は、伊達じゃない!?
  ・
  ・
  あ、でも……。
  フェイトのバルディッシュ・アサルトとなのはのディバインバスターが、
  V2アサルト・バスターに掛かってるっていうネタは出してないよ?」

 「「出させないよ!」」


 技術部門では、普段見られないなのはとフェイトの姿に局員達が驚いていた。
 その姿は、教え子には見せられない姿であった。
 そして、一日で、アリシアの名前が六課中に広まったのは言うまでもない。



[25950] 第12話 StS編・進展
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/17 21:52
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 現在、アリシアは、シャーリーの下で仕事を覚えながら、日々の業務をしている。
 初日になのはとフェイトにお灸を据えられてから、少し自重した日々が続く。
 しかし、知識と処理能力は高いアリシア。
 シャーリーとのコンビで、六課の仕事の効率も少し上がる。
 そして、仕事の合間と休憩時間を利用して艦船用のデバイスを作っていく。


 「このデバイス作りもクロノの依頼ってことで、
  メンテナンスルームを使わせて貰ってんだよね……。
  クロノには、頭が上がらないよ。
  ・
  ・
  まあ、クロノもしっかりと既成事実を作る際に
  自分の部隊の人間のデバイスを私に作らせてるから、
  見返りは、十分なんだけど……。
  ・
  ・
  さっさと作らないと。
  ソフトが組みあがっても、ハードのデバイスがないと何にもならないもんね。」


 アリシアは、艦船システムと六課の仕事を器用に並列でこなす日々を送っていた。



  第12話 StS編・進展



 機動六課に遅く入隊したアリシアは、ようやく機動六課の活動が分かって来た。
 午前中の仕事を片付け、一息入れると画面に六課のデータを出して独り言を呟く。


 「はやての作った少数精鋭部隊……。
  なのは主体のスターズ……。
  隊長:なのは。
  副隊長:ヴィータ。
  新人:ティアナ、スバル。

  フェイト主体のライトニング……。
  隊長:フェイト。
  副隊長:シグナム。
  新人:エリオ、キャロ。
  ・
  ・
  確かにこれは異常だよね。
  隊長の人数と部下の隊員の人数が同じ……これで部隊と呼んでいる。
  下の隊員が少な過ぎる。
  そして、隊長と隊員のこの力の差。
  ・
  ・
  だけど、そこにはやての狙いがある。
  まず、人数。
  機動性を活かすなら、少数がいいのは当たり前。
  四人の準備が出来れば、即動ける。

  次に部隊が持てる魔導師ランク。
  これは大胆に一般隊員をばっさり切って、隊長の力に振り分ける。
  それでも、リミッターを使うぐらいの異常性。
  そして、伸び代のある新人隊員をスカウト。
  有能な一般隊員を入れて魔導師ランクを消費しないで、
  魔導師ランクの低い新人を入隊させてから鍛えて伸ばす。
  まあ、この新人達の魔導師ランクは、決して低くないけど……。
  つーか、どっかの部隊がこの引き抜きに悲鳴をあげているんじゃ……。
  ・
  ・
  更に部隊を動かすために奔走するはやて。
  後ろ盾に聖王教会騎士カリムにクロノ提督……。
  情報収集は、懐刀のフェイト執務官……。
  よく考えられてるわ。
  そして、もっと凄いのが私の採用。
  魔導師ランク使い切ったのに更に搾り出すんだからね。
  ・
  ・
  はやては、四年のうちにどれだけ仕込んだんだろう?
  これを中学卒業間近の少女が考えて実行するんだから、
  並みの行動力じゃないよね。
  一年前は、人生で一番馬鹿な時期の中二だというのに……。
  と、いうか、管理局の組織を動かす十九歳って……。
  年齢詐称してんじゃないの?
  どう考えても、熟年のキャリアウーマンでしょ?」


 人のことを言っているが、アリシアも特許を取ったり、艦船を造ったりしている。


 「はやても、なのはも、フェイトも……。
  青春を無駄遣いしてるのかな?
  今ぐらいの歳なら、大学行って遊んでてもいいのに……。
  いや、あの三人が嫌々やっている様には見えないわね。」


 アリシアは、目を閉じながら、難しい顔をして腕を組む。


 「……きっと、変態ね。」


 最悪の結論をつけて納得すると、アリシアは、お昼のチャイムを聞いて席を立った。


 …


 食堂では、新人チームとシャーリーが昼食を取っていた。
 アリシアは、割り込むのもいいが、会話をしている最中なので観葉植物を挟んだ隣の席に座って昼食を取ることにした。
 話は、スバルがエリオに対して質問をするところだった。


 「そういえば、エリオは、何処出身だっけ?」

 「僕は、本局育ちなんで。」

 「管理局本局?
  住宅エリアってこと?」

 「本局の特別保護育ちなんです。
  八歳まで、そこに居ました。」


 スバルは、ここで聞いてはいけないことだと気付く。
 ティアナが念話を飛ばす。


 『馬鹿……。』


 スバルは、困った顔をするが、エリオが直ぐにフォローする。


 「あ、あの、気にしないでください。
  優しくして貰ってたし、全然普通に幸せに暮らしてましたんで。」


 シャーリーもフォローを入れる。


 「そうそう。
  その頃から、ずっとフェイトさんが、
  エリオの保護責任者なんだもんね。」

 「はい。
  もう、物心ついたころから色々良くして貰って。
  魔法も、僕が勉強を始めてからは、時々教えて貰ってて。
  本当にいつも優しくしてくれて。
  僕は、今もフェイトさんに育てて貰ってるって思ってます。
  ・
  ・
  フェイトさん、子供の頃……。
  家庭の事情で、ちょっとだけ寂しい思いをしたことがあるって……。
  だから、寂しい子供や悲しい子供のこと……ほっとけないんだそうです。
  自分も優しくしてくれる温かい手に救って貰ったからって。」

 「そうなんだ……。」


 スバルは、少し安心した表情で息を吐く。
 しかし、その横でティアナが疑問を浮かべる。


 「フェイトさんのことは、分かったけど。
  アリシアさんのことは?」


 エリオの会話が止まった。


 「エリオ?」

 「……非常に表現しづらいです。
  アリシアさんは、僕より五歳も歳が上なんですけど、
  何と言うか……精神年齢が同じなんです。」

 「は?」

 「アリシアさんは、話す相手に合わせて精神年齢が変わるんです。」

 「どういうこと?」

 「えっと、ティアナさんは、小さい子と遊べますか?」

 「変な質問ね?
  育児が出来るかってこと?」

 「違います。
  本気で、遊ぶんです。」

 「……それは、積み木遊びを本気にとか?」

 「そうです。」

 「出来ないわね……。」

 「アリシアさんは、それが出来るんです。」

 「……どういう人なの?」

 「だから、難しいんです。
  施設には、僕以外にも色んな歳の子が居るんですけど、
  そのバラバラの歳の子達と本気で遊べるんです。」

 「……初対面から、掴みどころがない人だったけど。
  私より、一つ下でスバルと同い歳……。
  ・
  ・
  でも、フェイトさんと見た目ほとんど同じよね?」

 「時々、フェイトさんが歳を取ってないと感じます……。」

 「……アリシアさんのせいで、
  フェイトさんも、おかしな人に見えて来た。」


 …


 アリシアは、隣で額を押さえている。


 「なんて会話をしているのよ、エリオ。
  まるで、私が変人じゃない。
  施設であんなに遊んであげた恩を仇で返す気?」


 …


 ティアナの質問が続く。


 「エリオの話を聞くと子供っぽい感じが強いけど、
  そんな人が、どうして六課にスカウトされたのかしらね?」


 その質問には、シャーリーが答えた。


 「アリシアは、凄く優秀な技術者さんで、
  あの歳で特許も幾つか取ってるんだよ。」

 「特許……。
  天才ですか?」

 「違うかな?
  才能がなかったから、努力した人かな?」

 「才能がない?」

 「これは、本人に確認しないと言えないかな?」


 ティアナは、あの人にも言えないような過去があるのかと想像するが、思い描くビジョンは、はっきりとしなかった。


 「スバル、想像出来る?」

 「私は、既に頭の中がごちゃごちゃだよ。
  エリオの話だと、元気のいいお姉さんとしか……。」

 「他に何かアリシアさんを表わすエピソードとかってないの?」


 エリオが、アリシアの記憶を思い出す。


 「そうですね……。
  魔法を使う姿が凄いです。」

 「魔法を使う姿?
  変な格好で使うの?」

 「そうじゃなくて……。
  格好は、普通です。
  ・
  ・
  真剣なんですけど、僕達と何処か違う感じなんです。」

 「?」

 「空気が少しピリピリするっていうか……。
  それぐらい集中しているんです。」

 「それ、少し分かります……。」

 「キャロ?」


 キャロも、エリオの話を聞いて思い出していた。


 「私、アリシアさんに魔法を教わったことがあるんです。
  と、言っても、魔法を起動する前段階なんですけど。
  アリシアさんの集中は、少し変でした。
  私には『失敗してもいいよ』って、言ってくれるのに、
  自分には、絶対に失敗を許さないんです。
  私に教えながら、自分にも言い聞かせるように時間を掛けて、
  丁寧に丁寧に魔法を組んでいくんです。
  だから、一度も失敗したところを見たことがないんです。」


 シャーリーは、アリシアの魔法資質を知っているので、キャロの話を聞いて少し同情した。
 アリシアは、魔力量が少ないために失敗出来ない。
 一日に使える魔法の回数が制限されているため、例えどんなに簡単な魔法であれ、手を抜くということが出来ないのだ。
 シャーリーが、手を叩く。


 「アリシアの話は、ここまでにしましょう。
  あんまり人のことを詮索するのも良くないもの。
  どうしても気になるなら、
  アリシアと仲良くなって、直接聞きましょう。」

 「そうですね。
  直ぐ仲良くなれますよ。
  アリシアさんは、気さくな人ですから。」

 「エリオが言うなら、そうなんだろうね。
  ティア、今度、話してみよう。」

 「そうね。
  訓練ばかりだから、会う機会も少ないけど。」


 シャーリーと新人達の昼食は、そこで終了して席を立った。


 …


 アリシアは、フォークを口に持っていったまま、話を聞き入ってしまった。


 「エリオとキャロには、そう見えてたのか……。
  まあ、私の場合は、失敗出来ないから、
  頭の中で、何回もシミュレーションを繰り返すからなぁ。
  魔法を使う時は、手を抜けないんだよね……。
  ・
  ・
  ティアナとスバルとは、お友達になれそう。
  歳も近いし。」


 アリシアは、昼食を再開する。
 そして、少し先のティアナとスバルとの会話を想像すると自然と笑みが零れた。


 …


 一方で、レリック事件の調査も進展していた。
 はやては、古巣である陸士108部隊で、スバルの義父であるナカジマ三佐へのルート調査を要請。
 六課の捜査主任のフェイトとスバルの姉でナカジマ三佐の娘のギンガの協力を取り付ける。

 そして、その日の夜……。 
 時空管理局 首都中央地上本部……。
 職員が帰宅して少なくなった部屋で、シャーリー、フェイト、アリシアは、先の事件で回収したレリックの解析をしていた。


 「シャーリー……。
  私なんて連れて来て、大丈夫なの?」

 「はい。
  この前のデータ整理は、お見事でした。
  ここでも気付いたことがあれば、アドバイスしてくださいね。」

 「何か気付いたら声に出すけど、
  あまり期待しないでね。」


 シャーリーが、端末を叩いて回収されたレリックの情報を画面に映す。
 しかし、レリック自体は、今一どういうものかは分からない。
 次に回収されたガジェットの残骸データが画面に映る。
 そして、新型の残骸データにフェイトが反応する。


 「ちょっと、戻して。
  さっきのⅢ型の残骸写真。」

 「はい。」


 シャーリーが、画像を戻す。


 「多分、内燃機関の分解図……。
  ・
  ・
  それ!」

 「これ……宝石?
  エネルギー結晶か何かですかね?」

 「ジュエルシード……。
  随分昔に私となにはが探し集めてて……。
  今は、局の保管庫で管理されているロストロギア。」

 「ああ、なろほど……って!
  何で、そんなものが!?」


 驚くシャーリーを止めて、アリシアが手を上げる。


 「少しいい?」

 「何、アリシア?」

 「このガジェット……。
  ジュエルシードで、動いてたってことだよね?」

 「そうなりますね。」

 「……壊し方も考えないといけないよ。
  フェイトは、覚えてるよね?
  発動したジュエルシードが、どれだけ危険か……。」


 フェイトは、頷いた。
 アリシアが続ける。


 「このガジェットをエリオが切り裂いた時、
  ジュエルシードを貫いていたら、大きな事故が起きたかもしれない。」

 「大きなって……。」

 「シャーリー。
  ジュエルシードは、それぐらいのエネルギー体なんだ。」

 「もう一つ。
  このⅢ型を動かすのにジュエルシード並みのエネルギー結晶が必要なら、
  Ⅲ型よりも上のガジェットからは、ロストロギアを搭載している可能性が高い。
  ジュエルシードでしか動かないなら、
  局からなくなったジュエルシードの数だけのⅢ型しかない。」

 「それはないと思う。
  他のエネルギー結晶でも動作するはず。」

 「それって……。」


 フェイトが頷く。


 「入手経路の調査と戦闘方法の検討も必要だ。」

 「それと……。
  これって、もう封印されてるの?
  そのまま放置してたら、局員の誰かの願いに反応して……。」

 「!」


 フェイトが慌ててシャーリーを通じて連絡を入れた。
 そして、暫くするとジュエルシードは発動しておらず、今、その場で適切に処理されたとのこと。
 フェイト達が、安堵の息を吐く。


 「今まで連絡なかったってことは、
  フェイトが気付かなかったら、ずっと嵌めっぱなし?
  よく発動しなかったわね……。」

 「そうですね。
  もしかしたら、ガジェットに組み込まれていた装置が
  安定させていたのかもしれませんね。」


 フェイトが、シャーリーに話し掛ける。


 「シャーリー、前に模擬専用のガジェットを作ったよね?」

 「はい。
  初日に新人達と戦わせました。」

 「こっちも早急に作ってくれないかな?
  特に狙っちゃいけないところを意識させるような仕組みを入れて。」

 「狙っちゃいけない?」

 「動力であるエネルギー結晶を避けて壊す練習をしないと。
  回収されたガジェットと同じ位置に動力があるとは限らないから、
  魔力を感知してそこを避けて攻撃する。」

 「分かりました。
  アリシアも、手伝ってね。」

 「うん、分かった。
  壊すだけで、生死が付き纏っちゃうからね。
  でも、何で、動力がジュエルシードなんだろう?」

 「確かに……。」

 「…………。」


 三人は、少し考えるとシャーリーが思い付く。


 「AMFのせいじゃないんですか?
  あれは、魔力を結合させなくなるから。
  結合をさせない以上のエネルギーが必要なんですよ。」

 「なるほど。
  出力を強くする必要があるのね。」

 「そうかもしれない。
  Ⅲ型は、距離を取っていたキャロまで、
  AMFの効果が及んでいた。」

 「調査チームに今の会話内容も、
  検討して貰うようにお願いしますね。」


 シャーリーが端末で報告書を纏めている間にフェイトとアリシアは、ジュエルシードの映る画像に視線を戻す。
 そして、再びフェイトが気付く。


 「シャーリー。」

 「もう少し……。
  ・
  ・
  いいですよ。」


 フェイトが、画面の一点を指差す。


 「その部分を拡大して。
  何か書いてある。」

 「はい。
  ・
  ・
  これ……名前ですか?
  ジェイ……。」

 「ジェイル・スカリエッティ……。」


 フェイトが、シャーリーの後ろから手を伸ばし端末を操作する。
 画面には、件の名前の人物の経歴が現れる。


 「ドクター……ジェイル・スカリエッティ。
  ロストロギア関連事件を初めとして、
  数え切れないぐらいの罪状で超公益指名手配されている
  一級捜索指定の次元犯罪者だよ。」

 「次元犯罪者?」

 「ちょっと事情があってね。
  この男のことは、何年か前から、ずっと追っているんだ。」

 「そんな犯罪者が、
  何で、わざわざこんな分かり易く自分の手掛かりを?」

 「本人だとしたら挑発……。
  他人だとしたら、ミスリード狙い……。
  どっちにしても、私やなのはが
  この事件に関わってるって知ってるんだ。
  ・
  ・
  シャーリー。
  このデータを纏めて、急いで隊舎に戻ろう。
  隊長達を集めて、緊急会議をしたいんだ。」

 「はい、今直ぐに。」


 シャーリーは、ジェイル・スカリエッティのデータを纏め始めた。
 上司にデータ整理をさせて申し訳なさそうにしながら、アリシアがフェイトに話し掛ける。


 「随分と懐かしい名前が出て来ちゃったね。」

 「うん……。」

 「割り切っていても、少し複雑だよ……。
  この人の研究が縁を結んだとも言えるから……。」

 「でも、見逃せない。」

 「そうだね。」


 シャーリーの作業が終わると三人は、急いで首都中央地上本部を後にした。


 …


 アリシアは、溜息を吐く。


 「フェイトの車って、二人乗りなんだよね……。」


 アリシアは、トランクを開けると中に入った。
 車は、六課の隊舎に急ぐ。
 よい子は、アリシアの真似をしないように……。


 …


 ※※※※※ ガジェットⅢ型について ※※※※※

 言い訳です……。
 今回、原作のセリフのまんまの箇所がほとんどです。
 理由としては、アリシアの性質のせいです。
 アリシアが技術者という設定ですので、今回の新型ガジェットの話をしないわけにはいきませんでした。
 正直に言えば、何の面白みもない状態です。
 きっと、誰も楽しめない……。

 そして、それ以外にも追加して入れないといけない理由があります。
 この新型のガジェットⅢ型。
 設定が分かりません。
 というのも、
 ・スカリエッティが、ミスリードのためにジュエルシードを入れただけなのか?
 ・本当にガジェットⅢ型の動力としてジュエルシードを使っているのか?
 はっきり、分からないからです。

 つまり、アリシアが技術者という設定でSSを書く以上、シャーリーと訓練シュミレーションを作成するアリシアがガジェットⅢ型の構造を理解していないわけにはいかないのです。
 よって、面倒ではあったのですが、原作の説明部分のセリフにアリシアが加わったことで追加された機構(原作では描かれていないIF)を詰め込むためにこのような結果になりました。

 そして、このSSでは、ジュエルシードを動力に使っていたという設定になっています。
 独自解釈ですが、ゆりかごを動かす前あたりで、スカリエッティが大量のレリックを前に嘲笑していた場面がありました。
 あれの使い道がガジェットⅢ型に組み込まれたものと判断しました。

 ただ、そうなるとこのガジェットⅢ型は、このSSでアリシア達が心配していたように非常に危険な存在になります。
 無印で、ジュエルシードは、制御を失敗すると次元震が起こり掛けるほどのロストロギアです。
 発動には魔力流を流すだけなど不安定さもあります。
 そんなものをエリオをは、切り裂いていました。
 一歩間違えれば、メガンテが発動するようなものです。
 よって、その対策用のシュミレーションプログラムの作成へと繋がります。

 しかし、強さを表わす踏み台に使われるのは王道ですが、ジュエルシードを使ったのは拙い気がしました。
 ロストロギアの使い捨て……。
 ドクター、太っ腹過ぎるでしょう……。


 ※※※※※ 原作での重要セリフ削除について ※※※※※

 このSSでは、以下のフェイトとシャーリーの会話を削除しました。


 「だけど、本当にスカリエッティだとしたら、
  ロストロギア技術を使ってガジェットを作るのも納得出来るし、
  レリックを集めている理由も想像がつく。」

 「理由?」


 原作を見ても、レリックを集めている理由がフェイトの口から出ていないように感じました。
 また、レリック自体がこの時点では、謎のエネルギー結晶という設定だったので、想像がつくというのもおかしいと判断し、削除しました。
 アニメなんかだと、声優さんの言い方や演出で誤魔化しも利くのですが、文字にするとそれが絶対になるので、あえて削除しました。
 StSは、最後になって、脳みその人が秘密を暴露したり、三提督のお婆さんから説明が出て、一気に流れるのでそこで使われていたのかもしれません。
 例えるなら、フェイトが執務官として、ドクターの秘密基地を探していた場面はなかったけど、アコース査察官の口から、フェイトと108部隊が協力していたことが話されたみたいな感じです。

 独自解釈が横行しますが、寛大な心でご容赦していただければと思います。



[25950] 第13話 StS編・アリシアとティアナ
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/17 21:46
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 フェイトの呼び掛けで隊長達にレリック事件の重要参考人の情報が伝わる。
 それと同時にはやてからも、第108部隊に協力を得られたことを伝えられる。
 そして、シャーリーからは、ガジェットⅢ型のデータとそれに対応した戦闘方法、新人達の教育プランの修正の検討が伝えられた。


  ・
  ・
  新人の模擬戦には、早急にⅢ型のデータを反映させるつもりです。」

 「うん。
  それがええやろな。」

 「そして、開発には、私とアリシアで当たる予定です。」

 「了解や。
  模擬戦用のシステムが出来たら……。
  なのはちゃん、確認してな。」

 「了解、はやてちゃん。」

 「ところで……。」


 はやてが、シャーリーを見る。


 「何ですか?」

 「そのお手伝いをするアリシアちゃんは?」

 「アリシアは、隊長ではないので……。」

 「そっか……。」


 シャーリーとフェイトが首を傾げた。


 「隊舎に戻ってから見てないような……。」

 「あ! フェイトさん、車!」

 「車……!」

 「どうしたん?」

 「私の車、二人乗りだから……。
  アリシアが、トランクの中に!」

 「何で、そんなことになっとんの……。」

 「兎に角、出して来ます!」


 フェイトは、車の鍵を持って走った。


 …


 フェイトが、車のトランクを開ける。


 「ZZZZ……。」


 フェイトは、ホッと息を吐き出す。


 「忘れてたのアリシアにバレなかった……。」


 決して安心するのは、そこじゃない。
 そして、危険なので車のトランクには入らないように。



  第13話 StS編・アリシアとティアナ



 隊長に情報が伝えられ、その情報が新人隊員にも伝えられる時は、任務に向かうヘリの中だった。
 ジェイル・スカリエッティの情報を頭に入れつつ、新人達は、ホテル・アグスタへと向かう。
 骨董美術品オークションの会場警備が、本日の任務になる。
 そして、アリシアは、シャーリーの指示で、新たな模擬戦用のダミーガジェットを作成中。
 シャーリーは、支援部隊のロングアーチから会場警備をサポートして、作業は、別々になった。


 …


 機動六課隊舎 技術部門……。
 アリシアが端末を叩いて、ダミーガジェットの作成作業を開始する。
 画面には、ガジェットⅢ型の情報が映る。


 「この前のエリオとキャロの戦闘データか……。
  キャロの補助で、AMFを貫いて攻撃出来たってのは収穫だよね。
  これを基準にして、なのはとシャーリーの指示でAMFを
  新人達のデバイスを操作して再現するんだよね。
  これは、既存のガジェットの数値を変更するだけだから、簡単。
  問題は、動力炉の位置をランダムで変えるプログラムと
  指揮官から位置を指定出来るプログラムを……新規作成。
  ・
  ・
  もう一つ、Ⅲ型の行動パターンを入力……。
  でも、これは、データの1パターンのみ。
  もう少しデータが欲しいところだね。
  今後は、新たに倒されたⅢ型のデータを蓄積して、パターンを増やすと……。」


 アリシアは、仕様書を作り始める。


 「プログラムは、頭にあるけど、
  使う人に使い方が分からないとね。
  エイミィに教えて貰った手順で……。」


 その後、仕様書を作成するのに本日の作業時間の大部分を要する。
 実は、プログラムを組むよりも仕様書を作る方が面倒臭くて大変だったりする。
 アリシアは、仕様書を作成するとシャーリーに仕様書を送付する。
 そして、プログラムを組む作業に入る。


 「一人でやるには面倒臭いな。
  仕様書を作るのに時間が掛かっちゃったし……。
  仕様書はあるんだから、作成するプログラムを分けて並列でやるか。」


 アリシアは、技術部門のスタッフに声を掛けると作業を手伝って貰うようにお願いする。
 こういうところに遠慮がないところが、早く関係を築く切っ掛けになったりする。
 事実、シャーリーが戻る頃、技術部門の大半と打ち解けていた。


 …


 夕方、隊舎でシャーリーに仕様書と組み上げたプログラムをチャックして貰う。
 大体は合っているが、やはり、技術者同士。
 納得いかないところは突き詰める。
 仕様書は、赤ペンのチェックだらけ、プログラムにも修正が加えられる。
 そして、シャーリーとアリシアの二人は、お互い納得がいくと不適に唇の端を吊り上げた。


 「じゃあ、ここまでにしようか。」

 「すっかり、夜だね。」

 「うん。
  明日、なのはさんと訓練に使えるか検討するから、
  プログラムだけは、インストールしちゃうね。」

 「了解。
  じゃあ、仕様書の赤ペンを今日中に反映させて、
  メールに添付して置くよ。」

 「いいよ。
  もう、遅いし……。」

 「でも、こればっかりは、仕様書を作った人間がやらないと……。
  明日の打ち合わせで、清書がないのも気持ち悪いだろうし。
  こっちは、シャーリーが作ってくれたⅠ型のプログラムを流用出来たから、
  本当に大助かりだったんだから。
  それ位、きっちりやらせて。
  残業しても、三十分で終わらせるからさ。
  ・
  ・
  その代わり、明日の打ち合わせで、
  私の分も、しっかりチェックを入れてね。」

 「うん、分かった。
  ありがとね。」

 「じゃあ、お疲れ様~。」


 シャーリーは、技術部門の部屋を出て行った。


 「シャーリーとは、話が合うなぁ。
  さて、もう一頑張り!」


 アリシアは、仕様書を清書し直すために仕事を再開する。
 そして、三十分を少し過ぎたところで作業を完成させ、シャーリーに添付したメールを送付する。
 後片付けを終わらせると、アリシアは、人の少なくなった技術部門を後にした。


 …


 夜……。
 アリシアは、隊舎の前で新人達が着ていた訓練用の服に身を包んでいた。
 宙に浮く円形の自分のデバイスに声を掛ける。


 「今日のフェイトの運動量は?」


 デバイスが、アリシアの前に画面を出し、データを表示する。


 「フッフッフッフッ……。
  今日は、ほとんど動いてないわね。
  じゃあ、必然的に今から私が運動すれば、
  体力だけは、フェイトより上を維持出来るわね。」


 アリシアは、魔法や魔力で適わないので、他分野で勝手に競っている。
 もちろん、そんなことで競われていることなど、フェイトは知らない。
 そして、一日中フェイトが訓練に充てれば、体力の上下関係は、直ぐに逆転する。


 「そんなこと気付いているわよ。
  でも、総合した積み重ねで追い抜くの!」


 軽い準備運動をするとアリシアは、隊舎の周りを走り出した。


 …


 この遅い時間で、もう一人、訓練を続ける者が居た。
 ティアナである。
 本日、彼女は、大変な失敗を犯している。
 任務先でのガジェット襲来の際、味方であるスバルに誤射をしてしまった。
 色んな精神的状況が重なったとはいえ、決して許されることではないのを深く理解している。
 故に現場での戦闘と調査の手伝いの後で、自主練習に入っていた。
 かなり長い時間の射撃の訓練の途中、何かが視界に入った。


 「フェイトさん?
  違う……。
  リボンが緑だから、アリシアさんね。
  ・
  ・
  夜のジョギングか……。
  あの人が終わるまでは続けよう……。
  技術部門の人になんか負けられない。」


 ティアナは、アリシアのジョギングは、直ぐに終わるだろうと練習を再開した。


 …


 ティアナは、少し後悔していた。
 アリシアは、あれから90分近く走り続けている。


 「あの人、技術部門の人なのにどれだけ走るのよ……。
  走るスピードも落ちないし……。」


 先に根を上げそうになった時、アリシアが隊舎の前で両手を膝について止まった。


 「か、勝った……。」


 一体、何に勝ったか分からないが、ティアナから言葉が漏れた。
 そして、隊舎に戻るところで、二人は、顔を合わせた。
 アリシアから、ティアナに声を掛ける。


 「お疲れ様。
  こんな遅くまで、頑張ってるんだね?」

 「はい。
  アリシアさんも、随分、走られるんですね?」

 「まあ。
  ・
  ・
  あ、アリシアでいいよ。
  敬語もなしで。
  データ見たら、年上だったから。」

 「そうですか?
  じゃあ、アリシアで。
  私は、ティアナで。」

 「了解。
  とりあえず、お風呂行かない?」

 「そうですね。」


 ティアナとアリシアは、隊舎の女子風呂へと向かった。


 …


 女子風呂……。
 シャワーを浴びながら、ティアナからアリシアに話し掛けた。


 「アリシアは、随分走るのね?」

 「体力だけは、フェイトに負けたくないからね。」

 「フェイトさん?」

 「そう。」

 「フェイトさんに勝つつもりなの?」

 「体力だけはね。」

 「魔法は?」


 アリシアは、軽く笑いを浮かべる。


 「……諦めた。」


 ティアナは、その言い方が少し気に食わなかった。
 ティアナの努力は、そういう人達に負けないためのものでもあったためだ。


 「逃げたの?」

 「……それすら出来なかったんだよね。」


 アリシアが、デバイスにお願いするとティアナの前に画面が開く。
 ティアナは、言葉をなくした。
 そこには、アリシアの魔法資質がデータになっていた。


 「生まれ持っての資質でね。
  私、魔法特性が低いんだ。
  だから、魔導師ランクもつかない。」

 「…………。」

 「あれ? どうしたの?」

 (この人……。
  私よりも凡人だ……。)


 ティアナが、アリシアを見る。


 「あ、あの!」

 「な、何!?」

 「フェイトさんと比較されて……。」

 (どんな気分なんだろう……。)

 「惨めだったよ……凄く。」

 「…………。」

 「フェイトは、いつも居るからね。
  このコンプレックスは埋まらないよ。」

 「悔しくない……の?」

 「悔しいよ。
  初めて力の差を理解した時は、泣きまくったもんね。
  クロノに初めて打ち明かした時なんて、
  二時間ぐらい泣いてたんじゃない?」

 「それでも、魔法に関わりたかった……?」

 「関わりたかったよ。
  決意したのが五歳。
  フェイトに対抗意識を燃やしてたから、
  管理局しかないって思ってたしね。
  それに自分の世界が狭かったから、
  フェイトと一緒の仕事じゃなきゃ駄目だって思ってたし。」

 「…………。」

 「だから、十年。
  デバイス方面で、フェイトの力になりたくて……。
  知識をつけて技術を身につけて……。
  やっとこさ、ここまで来たよ。」


 アリシアは、今度は、普通に笑って見せた。
 ティアナは、そんなアリシアを見て、素直に感想を口にする。


 「十年……。
  凄いな……。」

 「私も、そう思うよ。
  年数だけで比べればね。
  ・
  ・
  でも、ティアナも凄いよね?」

 「何が?」

 「あの地獄のような特訓を耐えてるでしょ。」

 「……私だけじゃないし。」

 「そう?
  私は、六課って、異常だと思うんだけどなぁ。」


 ティアナが、顔を上げる。


 「アリシアも、そう思う?」

 「いや、今まで思わなかったの?」

 「周りの皆は、平然としてたから。」

 「エリオとキャロは、少し鈍いし子供だから。
  スバルに至っては、なのはが居れば気付かないんじゃない?」

 「そうかもしれない……。
  私は、正常なのよね?」

 「そう思うよ。
  大体、隊長格と部下の比率が『1:1』って変でしょ?
  クロノが中隊を呼んだ時、そんなことなかったよ?」

 「……そうだ。
  四人でスターズを部隊なんて呼んでるところかして、
  変だったんだ……。」

 「日々の特訓が凄まじ過ぎて、
  ティアナの冷静な思考力を奪ったみたいね。
  でも、これが通常になりつつあるってことだね。」

 「どうなってんの……。」

 「はやてのスカウトの時に聞かなかった?」

 「え?」

 「少数精鋭のエキスパート部隊って?」

 「……何か思い出話の中に少し。」

 「それそれ。
  それに組み込まれちゃってるから、特訓が厳しいんだよ。
  隊長とマンツーマンで訓練出来るなんて、
  前に居た部署でも稀でしょ?
  と、いうか、そんなの罰ゲームの類だったはずだよ。」

 「……そうだった。」

 「ティアナは、引き返せないところまで来てるわけ。
  異常が通常と錯覚し出してんだから。」

 「どうしよう……。」


 悩んでるティアナだが、アリシアは、笑っている。


 「答えは、出てるんでしょう。
  それでも負けたくない。」

 「……うん。」

 「私と少し感じが似てるね。
  あの三人を意識するの大変だよ……。
  アイツら、才能あるくせに立ち止まらないからね。
  少しぐらい油断して怠けてくれるとこっちは楽なのに。」

 「意識してるんだ?」

 「当然。」

 「私で……追い着けると思う?」

 「私は、頑張ってることに無駄はないと思ってる。」

 「……そこは、私も。」

 「じゃあ、頑張ろうね。」


 アリシアが、チョキを出す。
 ティアナは、少し笑みを浮かべるとアリシアに微笑んで返した。


 「少し安心した……。
  私以外にも、努力してる人が居て……。」


 ティアナは、そこで力尽きて倒れた。


 「なぬーっ!?
  ちょっと! ティアナ!?
  上せちゃったの!?」


 この後、アリシアは、ティアナを引き摺って、脱衣所へと向かうのだった。


 …


 脱衣所では、着替えを終えたアリシアが、バスタオル一枚で上せているティアナを団扇で扇いでいた。


 「お~い。
  ティアナ~。
  お~き~て~。」

 「……う。」


 ティアナが倒れて、十分ほど経とうとしていた。


 「起きた?」

 「……うん。」


 ティアナが起き上がるとバスタオルが落ちる。


 「ティアナ!
  胸、胸!」

 「……ん?
  ~~~!
  スバル! また、セクハラして!」


 アリシアに、ティアナのグーが炸裂した。


 「スバルじゃない……。
  アリシア……。」

 「あれ?」


 ティアナは、バスタオルを掴み上げて、状況を整理する。


 「私……。」

 「シャワー浴びて倒れたんだよ。」

 「……ごめん。」

 「まあ、私が話し過ぎたのも原因ということで、
  お互い様で手を打とう。」

 「ありがとう。
  ・
  ・
  寝なきゃ……。
  明日も頑張らないといけないから。」


 アリシアは、無理に立ち上がり着替え始めるティアナを見続ける。
 そして、ティアナが着替え終わると後ろまで近づき、二の腕を掴む。


 「痛っ!」

 「……筋肉痛だね。
  それで、無理するの?」

 「……それしか出来ないから。」

 (止めても聞かないよね。
  私だったら、絶対止めないし。)


 アリシアが、ティアナの肩を指で叩く。
 ティアナが振り向くと、アリシアは、床を指差す。


 「練習の後、ストレッチした?」

 「してないけど……。」

 「睡眠時間も大事だけど、五分だけ付き合ってよ。」

 「いいけど……。」


 アリシアが、ティアナのストレッチを手伝う。


 「え~っと……。
  腕の関節を伸ばして、
  少し反り気味に胸と一直線になるように……。」

 「変わったストレッチね?」

 「うん。
  血管の通り道を意識してるから。
  次、足ね。
  踵を立てて、膝と腿を伸ばして……。」


 ティアナのストレッチは、実際、十分掛かった。


 …


 少し変わったストレッチが終わり、ティアナは、備え付けのベンチに腰を下ろす。
 直に体中が温かくなって来る。


 「何これ……。」

 「血が巡ってる証拠。
  少しだけど筋肉痛がとれるの早くなるよ。」

 「そうなの?」

 「うん。
  ストレッチもしたから、寝ながら足が攣ることもないと思うよ。」

 「そうなんだ。」


 アリシアは、立ち上がると自販機でジュースを二本買って、一本をティアナに渡す。


 「体が火照ってると寝れないから、
  火照りがとれるまで、少しリラックスしよう。」

 「ありがとう。
  ……てっきり、無理するなって注意されると思って、身構えちゃった。」

 「言っても聞きそうにないし。
  今は、ティアナにとって大事な気がしたから、
  明日、少しでも回復出来るようにサポートすることに変えた。」

 「経験談?」

 「……まあ。
  でも、怪我だけは気を付けてね。
  明日、怪我したら、半分私のせいだから。」

 「嫌なプレッシャーの掛け方ね……。」

 「よく言われるよ。」


 アリシアは、笑ってみせる。


 (同じ顔なのにフェイトさんとは、
  違う魅力の笑顔をする人なんだな……。)


 暫くすると二人の手の中のジュースは空になった。


 「じゃあ、寝ようか。
  明日は、きっと駄目出しを貰うから、
  元気を蓄えとかないと。」

 「駄目出し貰うの分かってるんだ?」

 「あはは……。
  皆の努力の成果が反映されて、
  シミュレーションを練り直しだよ。」


 ティアナは、少し微笑む。


 「アリシア、ありがとう。
  おやすみ。」

 「うん、おやすみ。」


 アリシアとティアナは、そこで別れて自分の部屋に戻った。


 …


 スバルの待つ自分達の部屋にティアナが戻る。
 スバルは、ティアナに声を掛ける。


 「ティア。」

 「何だ……。
  まだ起きてたの?」

 「うん……。」

 「あのさ。
  私、明日、四時起きだから……。
  目覚まし……うるさかったら、ごめんね。」

 「いいけど……。
  大丈……ブーッ!?」


 目覚ましを掛け終えたティアナが、二段ベッドの上のベッドに頭をぶつけて自分のベッドに倒れた。


 「ティ、ティア!?」

 「ダメ……。
  あのストレッチ気持ち良過ぎる……。」


 ティアナは、布団に頭を突っ込む形で寝息を立て始めた。
 スバルが、寝易い姿勢にティアナを寝かしつける。


 「ストレッチって、何だろう?
  ・
  ・
  もしかして、私以外にティアの体を誰かが!?
  ライバル出現!?」


 決してそういうことは起きていないが、日々、ティアナにセクハラしているスバルは、まだ見ぬアリシアのストレッチにライバル心を燃やした。
 そして、翌日のティアナの練習への付き添いは、友情以外の不埒な感情も少し含まれることになる。


 …


 一方のアリシアは、自分の部屋に戻ると、寝る前にメールのチェックをする。


 「ん? フェイトからだ。
  この前のジュエルシードのことだ。」


 アリシアは、フェイトのメールを読む。
 そして、眉を吊り上げる。


 「局の保管庫で管理しなくちゃいけないジュエルシードを……。
  地方の施設なんかに貸し出すなーっ!
  クロノが、苦労して管理局に届けたのに!」


 ジュエルシードは、貸し出した施設から盗まれたらしかった。



[25950] 第14話 StS編・アリシアによる、なのはとティアナの考察
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/18 13:20
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 本日もアリシアは、シャーリーと打ち合わせ。
 技術部門の他の隊員も居るが、隊長達と既知の仲であるということとアリシアの培って来た能力の高さから、シャーリーがアリシアと仕事をする時間は増えている。
 また、他の隊員から文句が出ないところを見ると、この前の仕事振りから信頼を得たとも言える。
 しかし……。


 「これだけ出来るのに階級もないのよね……。」

 「はやてが欲しがるわけでしょ?
  魔導師ランクも消費しないし。」

 「裏技の裏技だよね……。」

 「そうだね。」


 ティアナ曰く、六課の戦力は異常だ。


 「そして、はやての政治的手腕も……。」


 アリシアの言葉にシャーリーは、苦笑いを浮かべた。



  第14話 StS編・アリシアによる、なのはとティアナの考察



 アリシアがシャーリーと打ち合わせているのは、先日、作ったガジェットⅢ型の動作プログラムだ。
 日々の訓練で、実戦から感じた違和感やもしもの動作に対する追加要求が、隊長や副隊長から技術部門に報告される。
 そして、時には、フォワード陣やⅢ型を相手にした別部隊からの意見も取り入れている。
 初版の仕様書に改定が加わり、版数のリビジョンもどんどん上がる。
 更新履歴の行も増える一方だ。


 「そろそろ手打ちになるかと思ったけど、
  まだ、もう少し増えそうだね。」

 「特に隊長クラスからの要求が多いかな?」

 「ところでさ……。
  なのはのこの要求って、部品から回収した耐久強度よりも、
  随分と上の要求だよね?
  こんなの貫けるほど、エリオ達は成長してるの?」

 「成長してますよ。
  まあ、最後の総仕上げで戦わせる時、
  強過ぎた時は、なのはさんからの念話で、
  こっそりと修正の連絡が入るから。」

 「実力以上の力を引き出すための訓練?」

 「そう言ってたよ。」

 「そっか……。
  エリオ達は、何も知らずに勝てない相手と戦わされているんだねぇ……。」

 「はい。
  なのはさんマジックです。」

 (……エリオ達が知ったら、笑えないだろうなぁ。)


 アリシアが、なのはからの要求のメモを確認する。


 「やっぱり、デバイスの方にも機能を追加だね。
  スバルやエリオは、接近戦だから、
  万が一が起きた時を考えて封印処理が出来ないと。」

 「そうだね。」

 「リリカルマジカルの呪文復活かな?」

 「何ですか? それ?」

 「封印処理の呪文。」

 「また、嘘ばっかり。」

 (なのはが唱えてたのなんて、
  もう、誰も覚えてないよね。)


 アリシアは、端末を叩いてデータを引っ張り出す。


 「昔、ジュエルシードを封印する時、
  レイジングハートには、封印する魔法がプログラムされてたんだ。
  遠距離で攻撃出来るティアナとキャロには、
  この魔法プログラムをデバイスに組み込もう。」

 「ええ。
  そのまま利用出来るはず。」

 「問題は、スバルとエリオのデバイスか……。」


 スバルのデバイスは、ナックル。
 エリオのデバイスは、槍。
 デバイスが、直接ガジェットに接触する。

 シャーリーが、指を顎に当てる。


 「スバルのディバインバスターは、同じプログラムでサポート出来るけど、
  問題は、直接デバイスをガジェットⅢ型にぶつけた時の発動よね……。」

 「うん。
  今、動力部を避ける訓練はしてるけど、絶対かわすなんて言い切れない。
  何か新素材をデバイスに組み込むしかないかな?」

 「エネルギー結晶に影響を与えないような?」

 「うん。
  よく考えたら新人達よりも、
  ヴォルケンリッターのベルカ式の近接武器の方が対策が必要かもと思って。」

 「なるほど……。
  次のリミッター解除までに適応するものがあるか調査ですね。」

 「なければ作るしかないね。」

 「ええ。」

 「新素材組み込みの対応が間に合えばいいけど、
  対応が間に合わず、エネルギー結晶に衝撃を与えて発動したら、
  なのはの予想にあったティアナ頼りの対応になるね。」

 「精密射撃による封印処理弾を命中させる方法ね。」

 「ティアナって、なのはの期待が大きいんだね。
  サラッとこんな難題を要求するんだから。」

 「なのはさんの訓練も、今は、精密射撃がメインね。
  しっかりと成果も出てるよ。」

 「へぇ……。」


 アリシアは、ふと思い出す。


 「そういえば、ティアナの調子は?」

 「どうしたの? 急に?」

 「いや、少し仲良くなって。」

 「そうなんだ。」

 「部隊員と技術部門だから、
  あまり会う機会はないんだけど……。
  ちょっと、頑張ってるのを見たから。」

 「そうねぇ……。
  調子は、良さそうだけど。」

 「なら、いい。
  体調不良とか怪我とかしてたら、心配だったから。」

 「何で、アリシアが心配するの?」

 「私とティアナが、強敵と書いて友と呼ぶ仲だから。」

 「殴り合うんですか……。」

 「冗談だよ。
  普通に友達だからかな?
  ・
  ・
  はて? ティアナは、私を友達として認めてくれたんだろうか?」

 「何かどうでもよくなって来たよ……。」

 「そういうことにしてくれると助かるかな?」

 「アリシアの友人関係って、謎だよね?」


 アリシアは、シャーリーの肩に手を置く。


 「シャーリーも、その仲間だよ。」


 シャーリーは、ピシッと固まった。


 …


 そして、その日……。
 ある出来事が起きる。
 なのはとティアナ達の模擬戦……。
 それは、いつもと違っていた。
 この日のために高めた実力を見せるつもりだったティアナとスバル。
 自分の教導以外の戦いをされてしまったなのは。

 結果は、気持ちのすれ違ったままでの強制終了。
 なのはの魔法ダメージによる攻撃で、ティアナを貫いての終了だった。


 …


 模擬戦の話は、デバイスをメンテナンスしているシャーリーの耳にも入る。
 そして、その話をアリシアは、シャーリー経由で聞くことになるのだった。


 「シャーリー……。
  少しその好奇心旺盛なところは、抑えた方がいいよ……。」

 「でも、気になるし……。」

 「気絶しただけでしょ?」

 「その過程が問題なの!」

 (そんなに凄かったんだ。)


 シャーリーが、端末を叩いて画面を出す。


 「デバイスの調整用に録画してた記録。」


 …


 アリシア鑑賞中……。


 『クロスファイヤー……シュート!』
  ・
  ・

 『フェイクじゃない? 本物?』
  ・
  ・

 『レイジングハート……。
  モードリリース……。』
  ・
  ・

 『おかしいな……。
  二人とも、どうしちゃったのかな……。
  ・
  ・
  がんばってるのは分かるけど……。
  模擬戦は喧嘩じゃないんだよ。
  ・
  ・
  練習の時だけ言う事を聞いてるフリで
  本番でこんな危険な無茶するんなら、練習の意味……ないじゃない。
  ・
  ・
  ちゃんとさ……。
  練習通りやろうよ……。』

 『あ、あの……。』

 『ねぇ……。
  私の言ってること……。
  私の訓練……。
  ・
  ・
  そんなに間違ってる?』

 『私は!
  もう、誰も傷つけたくないから!
  失くしたくないから!
  ・
  ・
  だから……強くなりたいんです!』

 『少し……頭冷やそうか?
  クロスファイヤ……シュート。』
  ・
  ・

 『ティア!
  バインド!?』

 『じっとして……よく見てなさい。』

 『なのはさん!?』
  ・
  ・

 『ティアーッ!』

 『模擬戦は、ここまで。
  今日は、二人とも撃墜されて終了。』
  ・
  ・


 …


 アリシアは、頬を少し掻く。


 「で……。
  これを私に見せて、どうしろと……。」

 「どう思う?」

 「……スバルは、なのはの魔法弾を抜いて、よく一撃を入れた。」

 「違うでしょ!
  なのはさんは、そういう教え方をしてないでしょ!」

 「え~と……。
  ティアナは、リミッターの付いたクロスミラージュで、
  よく刃を形成した攻撃方法を会得した。」

 「それも違う!
  ティアナの持ち味は、射撃!」

 「じゃあ、なのはのモードリリースでの
  防御と攻撃は、流石だ。」

 「違う!
  そうじゃなくて!」


 シャーリーは、溜息を吐く。


 「相談する相手を間違えた……。」

 「そうみたいだね。
  勿体ないから、今の訓練のデータを反映させようか?」

 「……はあ。
  横道に逸れるのもよくないから、付き合うよ……。
  でも、その前にコーヒー淹れて来る。」


 シャーリーは、席を立った。
 そして、アリシアは、溜息を吐く。


 「こんなの直ぐに答え出せないよ。
  人間関係の話なんて、プログラムとは違うんだから。
  どうしたもんかな……。」


 アリシアは、その場の問題を考える時間が欲しくて、嘘をついただけだった。
 良好な関係が望ましいのは、アリシアだって同じなのだ。


 「でも、何というのかな?
  シャーリーは、なのはよりの考えだよね。
  まあ、日々、なのはの努力を見てるんだし、
  私も仕様書の改定で、相談受けるから分かるけど。
  ・
  ・
  ティアナの努力も認めて欲しいよね。」


 アリシアは、一朝一夕では出来ないティアナとスバルの戦い方を見直す。


 「本当は、この先に続きがあったのかも……。
  クロスミラージュに蓄積されたデータは、
  射撃スキルのデータも多く蓄積されていたんだから。
  ・
  ・
  コミュニケーション不足……かな?
  自分達の成果を見て欲しいって、
  一言あれば違ったかもしれない……。
  とりあえず、少し様子見。
  暫く経っても、関係がおかしいようなら、
  お節介おばさんしよう。」


 アリシアは、再び溜息を吐いた。


 …


 夜、九時過ぎ……。
 隊舎にアラート音が響く。
 スターズとライトニングの部隊員は、ヘリポートへ。
 他の隊員は、ロングアーチからのサポートへ。

 ヘリポートでの会話は、ロングアーチにも筒抜けだ。
 その会話は、関係修復が難しいのが分かる内容だった。


 「今回は、空戦だから、
  出撃は、私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人。」

 「皆は、ロビーで出動待機ね。」

 「そっちの指揮は、シグナムだ。
  留守を頼むぞ。」


 なのは、フェイト、ヴィータからの言葉にエリオとキャロは、元気よく返事を返すが、スバルとティアナは、声が小さい。
 特にティアナの声は、弱々しいものだった。
 そして、ヘリポートの騒動の切っ掛けは、なのはの一言。
 気遣ったつもりか?
 精神状態を心配したつもりか?
 捉え方によっては、少し誤解を招く言い方だったかもしれない。


 「ああ……。
  それから、ティアナ。
  ・
  ・
  ティアナは、出動待機から外れとこうか。」


 エリオ、キャロ、スバルは、驚いた声をあげる。


 「その方がいいな。
  そうしとけ。」


 ヴィータも、なのはに賛成した。


 「今夜は、体調も魔力もベストじゃないだろうし。」


 ティアナは、なのはの言葉を聞くと俯きながら話し出す。


 「……言うこと聞かない奴は、使えないってことですか?」


 なのはは、溜息を吐く。


 「自分で言ってて分からない?
  当たり前のことだよ、それ。」

 「現場での指示や命令は、聞いています!
  教導だって、ちゃんとサボらずやっています!
  それ以外の場所や努力まで、
  教えられた通りじゃないと駄目なんですか?
  ・
  ・
  私は、なのはさん達みたいにエリートじゃないし、
  スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもない!
  少しくらい無茶したって、
  死ぬ気でやらなきゃ強くなれないじゃないですか!」


 そこで、シグナムがティアナを殴り飛ばした。


 「心配するな。
  加減はした。
  駄々をこねるだけの馬鹿は、なまじ付き合ってやるからつけ上がる……。
  ・
  ・
  ヴァイス!
  もう、出られるな?」


 シグナムは、強引にその場を終わりにして、ヘリのパイロットのヴァイスに声を掛けた。


 「乗り込んでいただけりゃ、直ぐにでも!」


 ヴァイスの言葉に空戦を行なえるフェイト達が乗り込む。
 そして、ティアナを気遣って降りようとするなのはをヴィータが止める。


 「ティアナ!
  思い詰めちゃってるみたいだけど、
  戻って来たら、ゆっくり話そう!」

 「だから、付き合うなってのに!」


 ヘリは、ヴィータがなのはを押し込めると飛び立つ。
 窓からは、フェイトがエリオとキャロを見て、念話でフォローをお願いしていた。


 …


 ロングアーチでは、部隊長のはやてが少し困った顔をしていた。


 「ちょっと、拙い状態かな?」

 「拙いですよ!」


 シャーリーが、はやてに声をあげた。


 「私……皆のところに行って来ます!」

 「そうかぁ……。
  ・
  ・
  リイン、シャーリーの代わり、
  お願い出来るか?」

 「はいです!」


 シャーリーは、ロングアーチを走って後にした。
 はやての目が、もう一人の技術者に行く。


 「行かへんの?」

 「……私が行って、どうにかなるかな?」

 「アリシアちゃん……。
  行ってくれへんかな?」

 「ん? はやての命令?
  珍しいね。」

 「普段は、好き勝手させるんやけどね。
  あのメンバーだと、なのはちゃんの関係者の繋がりが強くてな。
  その点、アリシアちゃんは、入隊が遅い分だけ、
  訳隔てなく見れるはずやから。
  後で、アリシアちゃんの口から報告してくれへんかな?」

 「そうだね。
  はやては、海上のガジェットⅡ型の殲滅の指揮に
  集中しないといけないもんね。」

 「うん。」

 「口出ししないで見てるよ。
  一応、記録も撮っとく。」

 「頼むな。」


 アリシアは、少しはやてを見る。


 「はやても、無理しないでね。」

 「大丈夫や。
  心強いサポート陣が居るから。」


 はやての部下達は、頷いてみせる。
 アリシアは、少し納得の顔をするとシャーリーを追った。


 …


 アリシアが、シャーリーを追うとヘリポートの入り口で、シャーリーは、深呼吸していた。
 走って行ったはいいが、息が切れてしまったようだ。


 (それだけ、心配だったんだね。)


 アリシアがシャーリーの側に近づくと、外からはスバルの声が聞こえた。
 話し掛けている相手は、シグナムのようだ。


 「命令違反は、絶対駄目だし……。
  さっきのティアの物言いとか……。
  それを止められなかった私は、確かに駄目だったと思います。
  ・
  ・
  だけど、自分なりに強くなろうとするのとか、
  きつい状況でも、何とかしようと頑張るのって……。
  そんなにいけないことなんでしょうか!
  自分なりの努力とか……。
  そういうことも、やっちゃいけないんでしょうか!」

 「自主練習は、いいことだし、
  強くなるための努力も、凄くいいことだよ。」


 スバルのシグナムへの質問は、シャーリーが答えた。
 さっきまで、息を整えていたシャーリーが、いつの間にかアリシアの隣に居ない。
 アリシアは、拳を握る。


 「シャーリー……。
  なんて、いいタイミングで出て行くのよ……。」


 シャーリーが続ける。


 「何か……。
  皆、不器用で見てられなくて。
  ・
  ・
  皆、ちょっとロビーに集まって。
  私が説明するから。
  なのはさんのことと……。
  なのはさんの……教導の意味。」


 場所は、ロビーへと移る。


 …


 ロビーでは、シャーリーの説明が始まろうとする。
 なのはを知るシャーリー、シャマル、シグナム、アリシアとテーブルを挟んで、エリオ、キャロ、ティアナ、スバルが座る。
 アリシアは思う。


 (シャマルが呼ばれて、ティアナが氷嚢を当ててる……。
  シグナム、加減失敗してんじゃん……。
  加減出来てないじゃん……。
  心配するな? 怪我してる分だけ、なのはの模擬戦より心配する……。)


 アリシアの中で、シャマル基準(治療による対応)ティアナ比較(ダメージ)をしたところ、『シグナム>なのは』だった。
 そして、端末から必要なデータを用意出来たシャーリーの説明が始まる。


 「昔ね……一人の女の子が居たの。
  その子は、本当に普通の女の子で、魔法なんて知りもしなかったし、
  戦いなんてするような子じゃなかった……。
  友達と一緒に学校に行って、家族と一緒に幸せに暮らして、
  そういう一生を送るはずの子だった。」


 なのはの少女時代の映像にアリシアは、首を傾げる。


 (はて? この映像は、何処から入手したんだろう?)


 復唱、機動六課通信主任は伊達じゃない。
 アリシアを無視して、説明は続く。


 「だけど、事件が起こったの。
  魔法学校に通っていたわけでもなければ、
  特別なスキルがあったわけでもない。
  偶然の出会いで魔法を得て、
  偶々、魔力が大きかったってだけのたった九歳の女の子が、
  魔法と出会って僅か数ヶ月で命懸けの実戦を繰り返した。」


 映像には、なのはとフェイトの争う姿が映る。


 「これ……。」

 「フェイトさん?」


 エリオとキャロの疑問には、アリシアが答えた。


 「ちょっと、誤解があってね。
  ユーノっていうジュエルシードの危険性を知る子の手助けをしていたなのはと
  同じくジュエルシードの危険性を知るフェイトのお母さんの命令で、
  ジュエルシードを集めていたフェイトは、ぶつかっちゃったんだ。
  ・
  ・
  まあ、誤解が解けて以降は、協力し合うことが出来て、
  今のフェイトとなのはの関係が築かれたんだけどね。」

 「そうだったんですか。」


 シャーリーが続けようとする。
 しかし、アリシアが止める。


 「シャーリー。
  この後の面白映像は?」

 「省略……。」

 (いつもなら、ノリノリで提供するのに……。)


 そして、場面は、闇の書事件の映像に切り替わる。
 闇の書の事件に関わっていたシグナムとシャマルに説明が代わる。


 「その後もな。
  さほど、時も置かずに戦いは続いた。」

 「私達が深く関わった闇の書事件……。」

 「襲撃戦の撃墜の末と敗北……。
  それに打ち勝つために選んだのは……。
  当時は、まだ安全性の危うかったカートリッジシステムの使用。
  ・
  ・
  体への負担を無視して、自身の限界値を超えた出力を
  無理やり引き出すフルドライブ……エクセリオンモード。
  ・
  ・
  誰かを救うため、自分の思いを通すための無茶をなのはは続けた。
  だが、そんなことを繰り返して、体に負担が生じないわけがなかった。」

 「事故が起きたのは、入局二年目の冬……。
  異世界での操作任務の帰り……。
  ヴィータちゃんや部隊の仲間達と一緒に出掛けた場所……。
  不意に現れた未確認体……。
  いつものなのはちゃんなら、きっと何の問題もなく味方を守って、
  落とせるはずだった相手……。
  だけど、溜まっていた疲労、続けて来た無茶が、
  なのはちゃんの動きをほんの少しだけ鈍らせちゃった。
  ・
  ・
  その結果が、これ。」


 映像は、手術後の包帯を巻かれた痛々しい姿……。
 辛いリハビリの姿……。


 「なのはちゃん……。
  無茶して迷惑掛けて、ごめんなさいって。
  私達の前では笑っていたけど……。
  もう、飛べなくなるかもとか……。
  立って歩くことさえ出来なくなるかもって聞かされて……。
  どんな思いだったか……。」

 「無茶をしても命を懸けても、譲れぬ戦いの場は確かにある。
  だが、お前がミスショットをしたあの場面は、
  自分の仲間の安全や命を懸けてでも、
  どうしても撃たねばならない状況だったか?
  訓練中のあの技は、一体誰のための何のための技だ?」


 全員が俯く中で、シャーリーが声を絞り出す。


 「なのはさん……皆にさ。
  自分と同じ思いさせたくないんだよ。
  だから、無茶なんてしなくていいように
  絶対絶対、皆が元気に帰って来られるようにって……。
  本当に丁寧に……一生懸命考えて教えてくれているんだよ。」


 シャーリーの切なげな言葉で、ロビーは、静まり返った。


 …


 ヘリポートでは、任務を終えたなのはに謝るシャーリー。
 シャーリーは、なのはの過去を話したことについて白状していた。


 「ええ!?」

 「ご、ごめんなさい!」

 「駄目だよ、シャーリー。
  人の過去、勝手にバラしちゃ……。」


 困った顔のなのは。
 それを注意するヴァイス。


 「駄目だぜ。
  口の軽い女わよぉ。」

 「その、何かこう……見てられなくて。」


 ヴィータは、半ば諦めた口調で言葉を漏らす。


 「ま、いずれはバレることだしな。」

 「シャーリー。
  ティアナ、今、何処いるかな?」

 「ああ、えっと、多分……。」


 そして、なのはは、ティアナのところへ。


 …


 ガジェットⅡ型の殲滅が終わり、ロングアーチで後処理を終えたはやて。
 自分の席のシートに体重を預けて、一息ついたところにアリシアが現れた。


 「はやて。
  お疲れ様。」

 「ん、ありがとうな。」

 「これから、どうするの?」

 「自分の部屋に戻るだけやよ。」

 「そう。
  どうする? ここで話す?」

 「う~ん……。
  私の部屋に行こか。
  リインもおいで。」

 「はいです。」


 はやて達は、場所を変えて話すことにした。


 …


 はやての部屋で、アリシアは、リインを含めて状況の説明をした。


 「まあ、シャーリーとシグナム達の説明は、そんな感じだったよ。」

 「そうか……。
  アリシアちゃん。
  今回のすれ違いって、何が原因やと思う?」

 「若さ故の過ちというものかと。」

 「シャアかい……。」

 「本当にガンダム好きですよね?」

 「そうだよ、リイン。
  私、許可が出ればガンダム造るよ。」

 「質量兵器は、禁止です!」

 「だから、造らないって。」


 はやては、冗談を切り上げて質問し直す。


 「それで、若さいうんわ?」

 「うん。
  会話を聞いて感じたんだけど、
  結局、なのはも大人じゃないのかなって。」

 「大人か……。」

 「だって、歳で言えば、なのはとティアナは三つしか違わないんだよ。
  ああいう風にいきなり躾けるのも珍しいし、
  同じ少女として怒ってたんじゃないのかな?
  でも、頭じゃ大人でいないといけないと思うから、
  ああいう行動になっちゃった。」

 「もう少し、噛み砕いて貰えんかな?」

 「そうねぇ……。
  なのはとアリサとすずかが、友達になる喧嘩を知ってる?」

 「知っとるよ。」

 「あの時、なのはは、叩いて喧嘩を止めようとしている。
  子供らしく直感で動いて、行動を起こしてる。
  でも、歳を取って大きくなれば、話し合うことで分かるんだって理解する。
  それは、フェイトに何度も何度も話し掛けて実行してる。」

 「そうやったね。」

 「でも、今回は、説明がないよね?
  どっちかと言うと、自分が怒る理由をティアナ達に語ってた。
  これがティアナじゃなくて、はやてやフェイトだったら、
  もう少し違ったアプローチになってたんじゃないかな?」

 「……そうかもしれへんなぁ。」

 「はやてとフェイトは、歳も同じで立場も似てる。
  そして、もう友達としての関係も築いている。
  でも、ティアナとスバルは、少し違う。
  歳が近いけど、友達じゃない。
  本来、友達でもおかしくない年齢なのに上司と部下の関係。
  だから、いくらしっかりしようと思っても、態度が中途半端になる。
  ここでは、他の部隊のように上下関係を厳しくしていないから、
  上司と部下の関係も、はっきり形成されていない。
  だから、無意識のうちになのはの大人になり切れない少女の感情が出ちゃうんだよ。」

 「…………。」


 はやては、自分の組織した部隊に少し俯く。
 少し上下関係を甘くし過ぎたかもしれないと。


 「もう少し例を出すね。
  ヘリポートで、ティアナのぶつけた感情に、
  なのはは、明らかな不快感を持って答えを返してる。
  でも、シグナムがティアナを躾けてからは、
  ティアナのことを必死に思ってる。
  少女から大人に戻った証拠だよ。」


 はやては、額に手を置く。


 「そこまで、分析してたんか……。」

 「まあね……それでね。
  これをティアナの立場に置き換える。
  ティアナも、なのはにどう接していいか分からなかったんじゃないかな?
  上司といえど、まだ十九歳の女の子。
  普通に女の子として接していいのか?
  上司として接しなければいけないのか?
  そして、迷って出した結果が、あの行動。
  友達として相談も出来ず、上司としても相談出来なかった。
  つまり、なのはは、凄くあやふやな存在に見えたんだと思う。
  ・
  ・
  そして、それは、若い部隊長であるはやてや、
  執務官であり捜査を担当するフェイトにも当て嵌まる。」

 「……厳しい意見やね。」

 「うん。
  でも、今のうちに自分はどうしたいのかを決めて置いた方がいいと思うよ。
  この機動六課という部隊は、エリートの精鋭部隊というはやての願った部隊の反面、
  部隊員が若過ぎるという異常性も抱えている。
  六課を支えるはやて、なのは、フェイトだけの関係を強化してもダメ。
  シャーリー、ティアナ、スバルといった歳の近い人間との関係も強化する必要がある。
  そして、その関係を深める方法は二つ……縦か横か。
  ・
  ・
  縦は、役職と上司をキッチリ分ける今まで通りの管理局のシステム。
  横は、部隊員の垣根を越えた人としての繋がり。
  友達というか仲間というか……表現は難しいけど、そういう人間関係。
  はやての選ぶのは、どっち?」


 はやては、少し悩む。


 「選べない……。
  私達は、六課を立ち上げる時に少し背伸びしてでも大人になることを選んだ。
  そして、今の六課の横の人間関係を伸ばさない気もないんよ。」

 「じゃあ?」

 「きっちり、大人にもなる。
  だけど、仲間としての人間関係も強くする。」

 「つまり……。」

 「縦も横も伸ばすいうことや。」


 アリシアは、納得する。


 「それがはやての作りたい部隊の理想なんだね。」

 「そうや。」

 「欲張りだよね?」

 「でも……出来ると思うんよ。」

 「だってさ、リイン。」

 「はい!
  私も、それがいいと思います!」


 アリシアは、苦笑いを浮かべる。


 「私さ。
  この六課に校長先生みたいな人が欲しいと思うよ。」

 「ん?」

 「だって、はやてもなのはもフェイトも相談出来るじゃん。」

 「ああ。
  それ、ええなぁ。」

 「安西先生みたいな校長先生が居てさ。
  ティアナが言うのよ。
  『安西先生……。
   強く…強くなりたいです……』って。」

 「それ、あかんやろ。
  その時、ティアナの前歯なくなっとるやないか。」

 「そう。
  折ったのは、シグナム。」

 「……シグナム怒るで?」

 「でもさ。
  ポジション的には、ヴォルケンリッターの皆でしょ?
  あの人達、一番の年長者で人生経験者だよね?」

 「そうやね。」

 「でも、シグナムもヴィータも駄目だよね。
  あの二人武闘派だもんね。」


 部屋の何処かで、ピシッ×2っという音がした。
 はやては、冷や汗を流して、音のした方に目を向ける。


 「大体さ。
  シグナムもヴィータも言葉より、
  体でお話ってタイプだもんね。」

 「そ、そんなことあらへんよ。
  家居る時は、十分優しいで。」

 「ああ、そうだ。
  じゃあ、その映像公開すればいいじゃない。
  『はやて、アイス食べていい?』とか言ってるヴィータとか。
  ザフィーラとモフモフしている烈火の将の愛らしい姿とか。
  くく……ティアナとスバルに対する威厳なんて五分で粉々だよ。
  あははははは! げふ!?」


 アリシアの顔面に、枕がクリティカルヒットした。


 「黙って聞いていれば言いたい放題に……。」

 「シグナム?
  何で、ここに居るのよ?」

 「私も居るぞ……。」

 「ヴィータまで……。
  騎士のくせに盗み聞きとは。」

 「何が盗み聞きだ!
  ここは、我等の住居でもある!」

 「……そういえば、なのはとフェイトも同じ部屋だったわね。
  そして、これだから烈火の将と鉄槌の騎士には相談も出来ない。
  校長先生になれるのは、シャマルかザフィーラだけね。」

 「聞き捨てならねぇな。」

 「じゃあ、ヴィータだったら、
  どうやってティアナを説得するの?」

 「それは……。」

 「どうせ、強敵と書いて友という形で、
  拳で会話するんでしょ?」

 「悪いかよ!」

 「ほら、はやて。
  ヴィータとシグナムには校長先生は出来ない。」

 「うるせぇな!
  シャマルだって、勤まらねーよ!」

 「何で?」

 「シャマルは、怒れないだろうが!」

 「……そうだね。
  この前、相手が居ないのに電話しながら、
  もの凄く謝ってたよ。
  ・
  ・
  じゃあ、ザフィーラ校長か。」

 「お前、狼形態のザフィーラに相談出来るか?」

 「……既にスバルなんかは、頭撫でてたね。
  威厳がないかも……。
  ・
  ・
  ヴォルケンリッター全滅……。」

 「嫌な敗北感があるな……。」

 「あ、リインが居た!
  リインが、六課の校長先生!」

 「私ですか!?
  いいかもしれないです!
  校長先生になったら、どんどん校則を作っちゃいます!」

 「駄目だ……。」
 「駄目だな……。」


 リインは、『何で、ですか!?』とヴィータとシグナムの周りを飛び回っている。
 一方のはやては、結論を口にする。


 「まあ……。
  校長先生は、置いといて。
  私は、まだ六課が完成したとは思っとらんよ。
  アリシアちゃんの話を聞いて、
  伸び代があるのは、新人達だけじゃないと分かっただけで十分や。」

 「そうだね。
  試用期間は、一年……。
  その間に、皆、どれだけ成長するか楽しみだね。」

 「うん。
  完成は、試用期間が終わる日や。
  皆、これからもよろしく。」


 はやての言葉に、その場に居た者が頷く。
 そして、ヴィータから一言。


 「それにしても……。
  アリシアって、考え方は、一番老けてるよな。」

 「せめて、大人って言ってよ。」


 仕返しに成功したヴィータがにやりと笑う頃、なのはとティアナの会話も終わろうとしていた。
 本日は、久しぶりにアリシアのお姉ちゃん属性が出た。
 そして、次の日から、少し成長を遂げた面々の活動が始まる。



[25950] 第15話 StS編・休暇の前の朝食で
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:47
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 朝食時……。
 機動六課の隊長クラスのメンバーが食堂に集まっていた。
 八神はやてを筆頭にした守護騎士達……。
 そして、なのはが右手、フェイトが左手をがっちりと拘束してアリシアを連れて来た。


 「捕らえられた宇宙人みたいやね?
  どうしたん?」

 「最近、ずっとデバイスのメンテナンスルームに引き篭もってたから、
  無理やりに連れて来られちゃった。」

 「一人で食事するのは、良くないからなぁ。」

 「私、集中している時に間を開けると効率落ちるから……。」


 フェイトとなのはが注意する。


 「アリシア、集中し過ぎると食事も食べなくなるでしょう。
  そのくせ、日々の運動もこなすし。」

 「そうだよ。
  しっかり食べないと。」

 「運動しないと筋力落ちるけど、
  食事を抜いても死なないわよ。
  いざとなったら、サプリメントを飲めばいいんだし。」

 「それが良くないんだよ。
  顎の力が落ちるよ。」

 「大丈夫よ。
  フェイトみたいにヤシの実を喰いちぎるほど、
  鍛える気ないから。」


 フェイトのグーが、アリシアに炸裂した。


 「私は、グラップラーじゃないの!」


 アリシアは、フェイトが突っ込みを入れられる唯一の存在。
 姉妹は、これでも仲良くやっている。
 そして、アリシアのせいで、フェイトは、刃牙ネタに突っ込める。



  第15話 StS編・休暇の前の朝食で



 和やかな食事が始まると、はやてからアリシアに質問が飛ぶ。


 「六課の中で、面識薄い子はおる?」

 「スバルと話してないかな?
  はやて達やヴォルケンリッターの皆は、フェイト関係で知ってるでしょ。
  フェイトが保護責任者してるから、エリオとキャロも知ってる。
  夜に運動した後で、自主練していたティアナとは話した。
  スバルとは、この前のなのはとティアナの乱で少し話したけど、
  一対一で、話してないよ。」

 「アリシアちゃん……。
  その言い方、やめてよ……。」


 はやては、なのはの反応に苦笑いを浮かべると続ける。


 「珍しいなぁ。
  アリシアちゃんが、そういう関係を築けてないなんて。」

 「基本、部隊員と技術者だから接点薄いし、
  今、食堂でのご飯も偶にだから。」

 「そうなんや。」

 「そんなことより……。
  ボス、もう少しで要求の品動きますぜ。」

 「ほんま?
  楽しみやわぁ。」


 ヴィータが、アリシアに質問する。


 「何作ってんだ?」

 「艦船と艦船を動かすソフト。
  六課に艦船ないでしょ?」

 「ああ、そう言えば……。」

 「自分用の艦船を造ってたんだけど、
  はやてに頼まれたから、大分設計図に手を加え直して造ったんだ。
  後は、ソフトと起動キーのデバイスが出来れば動くよ。」

 「すげぇな……。」

 「でもね。
  もっと問題があるのが、登録が取れないところなんだ。
  各部隊の持ち回りじゃなくて六課専用になるから、
  クロノに頑張って貰ってる。」

 「ふ~ん……。
  どんな艦船なんだ?」

 「デザインと使用するソフトに拘ってる。
  設備も新しいものをなるべく使ってるよ。」

 「新しくないのは?」

 「廃艦になったアースラの再利用出来るところ。
  50%弱は、アースラの部品を利用してる。」

 「何で、そんな面倒臭いことしてんだよ?」

 「中古で買った方が資材の節約になるし。
  ソフトにアースラの航行データや戦闘データも使用しているから、
  性能を落とさないで利用出来る設備は使用してるんだ。
  それに……思い出の多い船だからね。」

 「そっか……。」


 アースラは、既に最新鋭の座から遠退いた古い艦船になってしまっていた。
 それでも、ジュエルシード事件、闇の書事件を共にし、リンディとクロノが艦長を務めた思い出深い艦船だ。
 アースラは、アリシアの手で最新鋭の艦船に生まれ変わろうとしていた。

 そして、そんな和やかな雰囲気の中で、テレビ中継からレジアス中将の演説が響いた。


 『魔法と技術の進歩と進化……。
  素晴らしいものではあるが……しかし!
  それが故に我々を襲う危機や災害も、
  十年前とは比べ物にならないほどに危険度を増している!
  兵器運用の強化は、進化する世界の平和を守るためである!
  ……首都防衛の手は、未だ足りん。
  地上戦力においても、我々の要請が通りさえすれば、
  地上の犯罪も発生率で20%……。
  検挙率においては、35%以上の増加を初年度から見込むことが出来る!』

 「このおっさんは、まだこんなこと言ってんのな。」

 「レジアス中将は、古くから武闘派だからな。」


 レジアス中将の演説にヴィータは、呆れて答え、シグナムは、それとなく付け加えた。
 はやてが、興味本位にアリシアに振ってみる。


 「アリシアちゃんは、どう思う?」

 「……戦いは数だよ! 姉貴!!」


 アリシアは、とりあえずはやてに叫んでみた。
 はやてが、むせ返る。


 「なんや! 今のは!」

 「レジアス中将の心中を叫んでみた。」

 「ドズル中将やんか!」

 「元ネタ知っていたとは意外だね。
  でも、そういうことでしょ?
  地上戦力を増やして、検挙率を増やすんでしょ?」

 「そうみたいやけど……。」

 「まあ、こんな穴だらけの演説してるようじゃ、
  地上本部の実力なんて、高が知れてるけどね。」

 「随分と酷評だな?」


 アリシアは、今度は、シグナムに説明する。


 「だってさ。
  魔法と技術が進歩と進化をしようが、
  災害が十年前よりも危険度が増すのは関係ないじゃん。
  人為的災害かもしれないけど、災害なんて言われたら、
  洪水とか地震とかを想像しない?
  人為的災害なんて、直ぐに連想出来る?
  私は、無理。」

 「……お前、そういう粗を探すのは天才的だな。」

 「それにさ。
  ちゃんと聞き取れば、
  『地上の犯罪も発生率で20%……』で切ってるから、
  次の検挙率のセットで聞くと
  犯罪の発生率が20%増えたことになってるし。」

 「……もう、何も言えん。」

 「こんなのテレビで流して、
  全世界に恥の上塗りの電波を垂れ流して、
  地上本部は、どうする気なのよ?」

 「もう、気が済んだか?」

 「言い足りない!」

 「主はやて。
  何故、アリシアに振ったのですか?」

 「はは……。
  ヴィータの言葉聞いたら、
  なんや、アリシアちゃんの意見も聞きたくなって……。」

 「そこ! 黙る!」


 アリシアは、立ち上がった。


 「そもそも!
  兵器運用の強化ってのがおかしいのよ!
  確かに私は、質量兵器を造っていいと言われれば、
  造る人間だけど……。」

 「オイ……。」

 「管理局は、クリーンで安全な魔法を使うことを選んだんでしょうが!
  強化したいなら、そこが間違い!
  魔法を使える人間が大量に居ないから、人材不足になってんでしょうが!
  地球で考えてよ!
  あそこは、魔法を使える人間がほとんど居ないじゃない!
  星単位で少ないんだから、人材が足りるわけないでしょう!」

 「アリシアちゃんが熱い……。」

 「そうなると、決まった数で魔導師の取り合いになる。
  そこで、レジアス中将のように
  首都防衛の手を強化してみようか?
  首都防衛の手=魔導師。
  この六課から、なのはとフェイトを地上本部の強化に充てます。
  ヴィータ、感想は?」

 「ぶっ潰す。」

 「その通り!」

 (((((間違ってる気がする……。)))))

 「そんなもんは、当たり前!
  地上本部に人員裂けば、こっちの効率が下がる!
  ヴィータ、感想は?」

 「ぶっ殺す。」

 (((((だから、間違ってる……。)))))

 「その通り!
  だから、お前は、アホなのだぁぁぁ!」

 「……師匠。
  気ぃ済んだか?」

 「うん。
  それでね。
  はやてのやってることが正しい。」

 「は?」

 「足りない分は、質で補うってこと。
  ティアナとスバルとエリオとキャロのこと。
  六課で足りない戦力を叩き出すための
  なのはとヴィータの教導でしょ?」

 「「「「「おお!」」」」」

 「アリシア、初めていいこと言ったな。」


 アリシアは、ヴィータにチョキを向けると着席して食事を再開した。
 なのはがフェイトに話し掛ける。


 「アリシアちゃんって、
  時々、変なスイッチが入るよね?」

 「……そうなんだ。
  ああなると止められない。
  変に正しかったりするから……。」

 「はは……。
  苦労してるね。」


 フェイトは、溜息混じりに頷いた。
 そして、テレビには別の人物が映り、なのはが声に出す。


 「あ、ミゼット提督。」

 「ミゼットばあちゃん?」


 テレビの温和なお婆さんに全員が目を向ける。
 フェイトは、ミゼット提督以外にも気付いた。


 「ああ、キール元帥とフィルス相談役も一緒なんだ。」

 「伝説の三提督揃い踏みやね。」

 「でも、こうして見ると……。
  普通の老人会だ。」

 「駄目だよ、ヴィータ。
  偉大な方達なんだよ。」

 「管理局の黎明期から、今の形まで整えた功労者さん達だもんね。」

 「そうだよ。
  未来のはやて達の年取った姿なんだから。」


 隊長達に青筋が浮かんだ。


 「アリシア。
  割り振りは?」

 「それ言ったら、ミゼット提督以外を言われた人に
  消されるから言えないよ。」

 「もう、既に消したい気分やけどな。」

 「でも、この人達もセットアップするとミニスカートかな?」


 全員、吹いた。


 「お前! 食事中だぞ!」

 「それは、三提督に失礼なんじゃ……。
  でも、隊長達は、いつまでミニスカートで頑張るの?」

 「…………。」

 「フェイト。」

 「私に振るの……。」

 「はやてとなのはは、先に睨んでた。」

 (出遅れた……。)


 アリシア以外の視線も感じるとフェイトは、仕方なく答えた。


 「こ、小皺が目立ったらかな……。」

 「じゃあ、なのはのデバイスのピンクが許されるのは?」

 「え?
  ・
  ・
  …………。」

 「フェイトちゃん!
  何で、黙るの!」

 「え、ええっと……アリシア!」

 「ノーコメント。」

 「ず、ずるいよ!」


 アリシアは、溜息をついて見せる。


 「少しは、気の利いた冗談でも言えないの?」

 「言えないよ!」

 「仕方ない……。
  お姉さんが助けるのは、今度だけだよ?
  こうやって、フォローするんだよ。
  ・
  ・
  『レイジングハートは、三十歳ごろから色が薄れて、
   四十歳ごろから色が荒み始める。
   還暦を迎える頃には小豆色に変色し、
   死を迎える時には黒くなる。
   なのは、だから大丈夫♪』って、言ってごらん?」

 「絶対に言えないよ!」

 「そんなわけないでしょう!」


 …


 シャマルが、シグナムに話し掛ける。


 「遊ばれてますね?」

 「あれには勝てんだろう。
  偶には、アリシアを困らす質問でもしたいものだな。」

 「そうですね。」

 「私は、考えたぞ。」

 「「ん?」」


 シャマルとシグナムが、ヴィータを見る。


 「アイツは、何だかんだでフェイトが弱点だと思う。
  髪型とかを真似しているのは、
  フェイトじゃなくてアリシアだからな。」

 「なるほど。」

 「気付きませんでしたね。」

 「だから、フェイトに甘えているところを
  突いてやればいいんだよ。」

 「ええこと聞いたな。」

 「はやて?」

 「武器は得た!
  行って来る!」


 はやては、アリシアの方に視線を向ける。


 「アリシアちゃん。」

 「何?」

 「何で、いつもフェイトちゃんと同じ髪型なんや?」

 「はやてが言ったじゃん。」

 「へ?」


 …


 シグナムが、ヴィータを見る。


 「雲行きが怪しくないか?」

 「私のせいじゃないぞ。」


 …


 はやてが聞き返す。


 「私、何言うた?」

 「三年ぐらい前かな?
  フェイトが中学卒業した頃。
  なのはが、
  『背が追い着いたら、見分けつかないね。』
  って、言って……。
  はやてが、
  『見分けつかなくなったら、フェイトちゃん困るなぁ。
   ワザと同じ髪型にしたら?』
  って、言って……。
  フェイトが、
  『管理局で困るから、駄目だよ。』
  って、言って……。
  私は、それ以来、ツインテールやめてフェイトと同じ髪型だよ。」

 「が……。
  私のせいなんか……。」

 「は~や~て~……。」

 「フェイトちゃん!?
  ストップ!
  もう時効や!」


 …


 ヴィータが、言葉を漏らす。


 「アイツ、弱点ないよな……。」

 「思わぬところに飛び火した……。」

 「とりあえず、助け舟出して来ます。」

 「人身御供か?」

 「自ら、アリシアにからかわれに行くとは……。
  主のために身を捧げるか。
  騎士の鑑だな。」

 「説得です!」


 しかし、対象が、はやてからシャマルに変わった。
 シャマルの説得は、失敗した。


 「本当に鑑になってしまったぞ……。」

 「いっそ、束でかかればいいんじゃないか?」

 「武器は得た!」

 「はやて……。」


 そして、ループする……。



[25950] 第16話 StS編・拾い物
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:48
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 (もう、随分と前のことになる。
  本局の保護施設に居たエリオを連れ出して出掛けると、
  何故か高確率で色んなものを拾う。
  財布に始まり、貴金属、現金……時には、捨て猫なんかも。
  そして、フェイトの話では、今日、キャロとお出掛けをするらしい。
  私は、また、何かを拾って来るのではないかと密かに期待をしている。
  ・
  ・
  しかし、キャロとお出掛けか……。
  フェイト、二人に負けてるよ。
  少しは、浮いた話は出て来ないの?
  ……私もか。)



  第16話 StS編・拾い物



 その日、機動六課の新人達は、休日ということだった。
 アリシアは、さっきから、そわそわとするフェイトを何度も見掛け、既にエリオとキャロのお母さんにでもなってしまったかのように感じていた。
 そうして、ようやく送り出した後も、心配そうに二人の背中を見守っている。


 「フェイト、大丈夫だよ。」

 「でも……。」

 「街にガジェットよりも強い暴漢なんて居ないって……。
  二人は、ガジェットよりも強いんだよ?」

 「でも、街には言葉巧みに子供を騙して、
  お金を巻き上げる悪い人達も……。」

 「もう、付いて行きなさいよ。」

 「そんなこと出来ないよ……。」

 「じゃあ、なのはと一緒に二人が向かうところを灰にでも変えれば?
  世紀末覇者ごっこして、帰って来るから。」

 「もう!
  どうして、そういうことを言うの!」

 「フェイトが過保護過ぎるからだよ……。」


 ちなみにアリシアの後ろでは、スターズを見送ったなのはがレイジングハートを起動していた。
 また、バインドを掛けられて、フェイトを含めてお説教されるパターンらしい。


 …


 休日を満喫するティアナとスバルと違い、エリオとキャロは、シャーリーにアドバイスして貰ったプランで休日を過ごす。
 アリシアは、時々、シャーリーが何を考えているか分からなくなる。
 この前のことといい、お節介過ぎないだろうか……と。
 しかし、基本無視する。
 シャーリーには、何を言っても通じないのは分かっている。


 「はあ……。
  シャーリーは、何を考えているのかな?
  ・
  ・
  いや、待て。
  これをフェイトに告げ口すれば、
  面白いことになるんじゃないの?」


 アリシアが、不適な笑みを浮かべる。


 「……でも、やめて置くか。
  フェイトだけなら、兎も角。
  エリオとキャロに飛び火したら、可哀そうだもんね。
  ・
  ・
  それよりも、レイジングハートとバルディッシュとクラールヴィントのデータを反映させないと……。
  シャーリーとリインが、皆のデバイスをメンテしてるから、
  私は、自分のことをしててもいいよね?
  とりあえず、さっさと調整を終わらせないと、
  クロノが幾ら艦船の登録を済ませても、一向に動かないままだよ。」


 アリシアの作る艦船のソフトは、もう一息というところだろうか。


 …


 一方の新人達……。
 ティアナとスバルは、ツーリングをしながら、街でのんびりと凄し中。
 エリオとキャロは、ベンチに腰掛けて、自分達の生い立ちを語っていた。
 二人は、フェイトに連れて行って貰った遊園地や水族館の思い出を宝物のように語り合う。
 そして、話は、フェイトからアリシアへと変わる。


 「エリオ君。
  アリシアさんとは、お出掛けしなかったの?」

 「うん。
  遊園地とか特別なところには、フェイトさんが連れて行ってくれて、
  アリシアさんは、身近なところが多かったと思う。」

 「同じだね。
  アリシアさんは、フェイトさんが、なかなか来れないと
  足を運んでくれるんだよね。」

 「そうだね。
  僕は、カブトムシを捕りに行ったのが印象深いな……。」

 「……アリシアさん、虫捕るの?」

 「変わってるよね。
  僕は、三匹捕まえたんだけど、
  施設には他にも沢山の子供が居るから、
  全員にあげられなくて困ったんだ。」

 「うん。」

 「そうしたら、アリシアさんが戻って来て、
  虫かごの中にこれでもかって、カブトムシを捕って来て……。」

 「相変わらずだね……。」

 「それを施設の皆に配ったんだ。」

 「へぇ。」

 「だけど、それは建て前で、自分よりも小さな生き物を触らせて、
  命の大事さを教えることが目的だったんだ。
  その後、施設の皆全員でカブトムシは放したんだ。」

 「……全員?
  よく申請が通ったね。」

 「フェイトさんと一緒に頼んだって言ってたよ。
  よく分からないけど……。
  フェイトさんとアリシアさんが本気になると、
  時々、無理が通るんだ。
  フェイトさんが真摯に気持ちを伝えて、
  アリシアさんが規律に沿って、申請を押し通す感じかな?」

 「少し想像出来る。」


 キャロは、笑みを浮かべる。


 「私は、魔法かな?」

 「?」

 「フェイトさんもアリシアさんも、
  魔力を使わないで魔法を使えるの。」

 「それ知ってる。」


 エリオは、手を閉じて開いた。


 「そう、それ。
  握った手を開くと中に折り紙が入ってるの。
  ちょっとした時間に見せてくれた。」

 「あれ、手品って言うんだよね?」

 「うん。
  昔、二人を助けてくれた人が使ってたって。
  それで、二人で一生懸命覚えたんだって。」

 「僕は、未だにタネを明かして貰っても見破れないんだ。」

 「私も。
  最初見せて貰ったのは、二つ目の魔法を覚えた時。
  アリシアさんが、困った顔した私に見せてくれた。
  ・
  ・
  最初の魔法が成功するまで、
  私は、何度も何度も繰り返したんだ。
  施設の人は、怒ったんだけど、
  アリシアさんは、ずっと待っててくれた。
  そして、納得がいくまで繰り返して、
  『出来ました』って言うと褒めてくれた。
  二つ目の魔法を覚えた時は、一つ目の魔法よりも早い時間で習得出来たの。
  だけど、それが不安で、どうしようもなくて……。
  ・
  ・
  そうしたら、アリシアさんが笑って、
  手を握って開いて見せてくれた。
  そこに折り紙があった……。
  『頑張ったご褒美』って。」

 「そういうアリシアさんは、初めて聞くなぁ……。」

 「私も、虫捕りするアリシアさんは、初めてだったよ。」

 「不思議だなぁ。
  同じ人なのに印象が違うなんて。
  ・
  ・
  ところで……。
  さっきの魔法の話。」

 「うん。」

 「不安は、消えたの?」

 「うん。
  アリシアさんが理由を教えてくれたから。
  アリシアさん、私が最初の魔法を覚えるの待っていたのは、理由があったんだ。
  ・
  ・
  あのね。
  私が、自分の中で納得する線を引いてるのを考えてると思ってたんだって。」

 「線?」

 「そう。
  魔法の成功を決める線。
  これ以上の成果が出たら、成功とか失敗とか。
  『だから、二回目は、一回目の線をしっかり意識してたから、
   習得が早かったんだよ』って。」

 「ああ、なるほど。」

 「少し自信が持てた……。
  性格は、全然違うけど、
  フェイトさんも、アリシアさんも優しい……。」

 「うん。」

 「…………。」

 「「ただアリシアさんは……。」」


 エリオとキャロは、顔を見合う。
 考えていることは、同じ様だった。
 思わず笑ってしまった時、エリオのストラーダに連絡が入った。
 ストラーダに入った連絡は、スバルからの確認の連絡。
 エリオとキャロが、シャーリーのプランを話すと微妙な顔で『健全だ……』とスバルは漏らす。
 そこで、お互いが休みを満喫していることを確認すると、また、それぞれの休みを続けるのであった。


 …


 エリオとキャロは、律儀にシャーリーのプランを続ける。
 街を歩いて会話をしているとエリオが何かを聞き取った。


 「……エリオ君?」

 「キャロ。
  今、何か聞こえなかった?」

 「何か?」


 エリオは、辺りを見回すと脇道へと走り出す。
 キャロも、エリオに続いて走り出す。
 そして、二人の目の前のマンホールが音を立てて蓋をずらした。


 「女の……子?」

 「エリオ君!
  あのケース!」

 「まさか……。
  レリックの……!」


 キャロは、直ぐに全体通信で連絡を入れ、現場に新人達は集合する。
 そして、六課全体が、救急の手配とレリックと女の子の保護に動き出した。


 …


 ヘリで駆けつけたなのは達が見たのは、キャロが抱く幼い女の子。
 そして、アリシアから出た言葉は……。


 「まさか本当に世紀末覇者ごっこをしていたとは……。
  拾って来たのは、リンね……。」

 「アリシアさん!
  何を訳の分からないことを言っているんですか!」

 「キャロが怒るなんて珍しいね。」

 「アリシアさんだからです!」


 ティアナとスバルが、溜息を吐く。


 「アリシアが、キャロにどういう接し方をして来たか分かるわ。」

 「さすが、ティア。
  じゃあ、世紀末覇者ごっこは?」

 「それは、意味不明よ。
  キャロも、エリオ同様に遊ばれたんでしょう?」

 「ああ、なるほど。
  ・
  ・
  あの人、見境ないよね……。」


 スバルも納得のアリシアの個性。
 更にアリシアは、エリオに質問する。


 「また拾ったの?
  今度は、人か……。」

 「前から言いたかったんですけど、
  その拾うものまで連れて行くのアリシアさんですから。」

 「今回ので、私じゃなくて、
  エリオの特性だって証明されたじゃない。」

 「絶対に違います……。」


 エリオが否定したところで、なのはとフェイトから注意が入る。


 「アリシアちゃん。
  私語は、謹んで。」

 「そうだよ。
  今から、シャマルが診察するんだから。」

 「何で、私だけ怒られるのよ?」

 「話の流れからして、
  アリシアが、キャロとエリオに話し掛けたからだよ。」

 「分かりました~。
  もう、黙ってます~。」


 アリシアは、腕を組んで少しふて腐れる。
 そした、シャマルの女の子への診察に目を移した。


 「うん。
  バイタルは、安定してるわね。
  危険な反応はないし、心配ないわ。」


 シャマルの言葉に皆が安堵する。
 そして、フェイトからの休日の勤務に対して謝罪があると問題ないと返す新人達。


 (私だったら、有休の振り替えが効くか質問するのに……。
  皆、素直でいい子だ……。)


 アリシアだけは、少し違うことを考えていた。
 更になのはから新人達に指示が出る。


 「ケースと女の子は、このままヘリで搬送するから、
  皆は、こっちで現場調査ね。」

 「「「「はい!」」」」


 新人達は、調査へと向かう。
 アリシアは、新人達が去った後で、あらためて女の子を覗き込む。


 「何処から来たんだろうね?
  このボロしか身に着けてないのも気になるし。」

 「そうだね。」

 「やっぱり、世紀末覇者ごっこしてたんじゃ……。
  ケンシロウも、こんなの身に纏ってたし。」

 「「「それはない……。」」」

 「……完全否定。」

 「レリックは、どう説明するの?」

 「戦利品。
  村から奪って来たの。」

 「何処の……。」

 「きっと下水道の下に広がる地底王国から。
  YAIBAみたいに地底人が居て、
  そこから奪って来たんだよ。」

 「……そのノンストップで切り返す能力は、
  冗談以外に使えないのかな?」

 「それ以外で発動した記憶がないわね。」

 「うぁ……。」


 なのはが項垂れるとシャマルが声を掛ける。


 「なのはちゃん。
  この子をヘリまで抱いて行って貰える?」

 「あ、はい。」


 なのはが女の子を抱き上げる。
 フェイトがケースを持つ。
 シャマルは、医療器具を仕舞って立ち上がる。


 「私、何しに来たんだっけ?」


 手ぶらのアリシアが呟く。


 「アリシアは、エリオが何か拾ったのかもって、
  物見遊山で来たんだよ……。」

 「ああ、そうだった。
  結果、女の子を拾って来たね。」

 「手が空いてるなら、
  女の子の寝てたシートを持って。」

 「うん、手伝うよ。」


 アリシアは、シートを巻き上げて持つとなのは達の後に続いた。


 …


 十数分後……。
 ヘリには、アリシアとシャマルしか居ない。
 なのは達は、ガジェットの殲滅に向かったためだ。
 残されたアリシアが呟く。


 「こういう時、自分の能力の低さが悔しいよね。
  取り残された感が寂しい……。」

 「でも、助かりますよ。
  医療器具を使える人が、もう一人居ると。」

 「まあ、それは……そうだね。
  私が手伝えれば、シャマルは、触診なんかも出来るもんね。
  どんな事でも役に立つなら、
  回り道して習得した甲斐があったってもんだよ。」

 「ええ。
  知らない人には触らせられませんからね。」

 「それにしても……。」


 アリシアが女の子に目を移す。


 「このまま病院連れて行くには汚れ過ぎてるかな?
  この子?」

 「そうですねぇ……。
  下水道を歩いて来たみたいですし。
  ・
  ・
  バイタルも安定してるから、
  隊舎でお風呂に入れて来ますか。」


 ヘリの中では、近づく危険のことなど知る由もなかった。


 …


 一方の六課の隊員達は……。
 隊長達は、海上に現れた大量の空戦型のガジェットを殲滅中。
 途中、はやての限定解除により、なのはとフェイトは、海上のガジェットを囮の場合と考えてヘリに再び向かう。

 新人達は、下水道でスバルの姉であるギンガ・ナカジマと合流して、少女が引き摺っていたと推測されるレリックを捜索中。
 ガジェットとの戦闘を繰り返しながら、目標物の回収と同時に新たに現れた召喚師の少女とその使い魔と戦闘になっていた。


 …


 再びヘリ……。


 「シャマル~。
  この子が目を覚ましたら、何して遊ぼっか?」

 「……遊ぶんですか?」

 「そうだよ。
  やっぱり、積み木かな?
  大量に仕入れて、ミッドの街を再現して……。
  なのはごっこで、街を壊そう!」

 「そんなことばっかりしてるから、
  なのはちゃんに怒られるんですよ……。」

 「いやいや。
  私は、あれは喜びの裏返しだと思う。
  口では、『そういうのやめてよ~』とか言っているけど、
  心の声では、『やっぱり? 快感なの!』とか思っていると見た。」

 「え~と……。
  九割方、間違いだと思います。」

 「分かる? 
  冗談だからね。
  なのはに告げ口禁止ね。」

 (だったら、言わなきゃいいのに……。)


 アリシアは、少し表情を固くして口調を変える。


 「でもさ……。
  一向にロストロギアに関する事件は減らないね。
  なのは達の使う魔法が強化され続けているのは心配……。」


 シャマルは、少し前の闇の書事件を思い出す。


 「確かにそうですね。
  私は、闇の書の一部だったから分かるんですけど、
  あのクラスのロストロギアは、数自体が少ないはずなんです。
  だけど、管理局に入ってからも見つかり続けています。」

 「そうなんだよねぇ。
  なのは達クラスの魔導師は、ポンポン現れないし、
  それなのにロストロギアは見つかり続けて……。
  古代人は、どんだけ隠すのが好きなのよ。」

 「はは……。」

 「だから、管理局になのは、はやて、フェイトの三人が居なかったらって思うと、
  時々、ぞっとすることがあるよ。
  あの手の事件に対応出来る魔力量と技術と経験を持っているのって、
  本当に稀少だからね。」

 「だから、心配なんですよね。
  強い力には強い魔導師を当てなくてはいけない。
  連続で事件が起きれば、必ず声が掛かる。
  そして、発見されるロストロギアに対抗して、
  使う魔法も、どんどん強力になる。」

 「うん……。
  この前、フェイトのバルディッシュを見て驚いた。
  強度や収められている補助プログラムに……。
  ・
  ・
  まあ、心配の反面。
  少し嫉妬もしたけどね。」

 (正直な子……。)
  
 「はっきり言って、Aランク以上のクラスって資料を見ても、
  今一、分からないことがあるんだよね。
  魔導師ランクって、きっと始めは、Aが最高だったんじゃないの?
  それがAAAとかAAA+とかSだもんね。
  はやてのSSって、想像出来ないよ。」

 「そうですね……。」

 「まったく……。
  こっちの都合も考えてよね。
  折角、デバイスのメンテナンスが出来るようになったのに、
  いきなり、デバイスの強化から練り直しだよ。」

 「デバイスの強化?」

 「私、特許を持ってるの知ってるでしょ?」

 「ええ。」

 「その中にさ。
  はやて用の公開していない特許もあるんだよ。」

 「?」

 「はやてのデバイス。
  はやての魔力に耐え切れなくて、何度も壊れてるでしょ?
  デバイスの耐久強化に組み込もうとして開発したのがあるんだけど、
  それをなのはやフェイトのデバイスにも組み込まないと駄目かも……。」

 「相変わらず……。
  よくそんなに隠しネタがありますね?」

 「うん、まあ……。
  五歳の時にユーノに教えて貰った魔法を使って……ちょっとね。
  その魔法を改造して、ドラクエⅥの主人公みたいな特技が使えるから。」

 「どんな特技なんですか?」

 「『思い出す』と『忘れる』。」

 「は?」

 「私、凄い面倒臭がりでね。
  その都度、本を引っ張り出すのが嫌だから、
  魔法で、一回で記憶しちゃうんだ。
  発想や閃きは、母様から受け継いだ素質があるから、
  閃かせる素材の知識さえあれば、何とでもなるの。」

 「あの……。
  それって勉強しないで知識を積め込んでいるんじゃ……。」

 「そうだよ。
  あんな本をイチイチ読んで覚えるなんて馬鹿みたい。
  魔法使えばいいじゃない。」

 (天才児かと思ってたけど……。
  ただのズルい人なのかも……。)

 「まあ、私の開発した魔法を、
  誰もが使えるかは微妙だけどね。」

 「どうしてですか?」

 「実は、この魔法は、脳のスペックに依存するんだ。
  例えば、一般人と天才の脳の出来って同じじゃないの。
  数学なんかで、一回で覚えられる人と覚えられない人が居るでしょ?
  これは、脳のスペックが違うの。
  逆に運動神経がいい人と悪い人。
  これは、肉体のスペックに依存する。
  そして、魔法も同じ。
  カスみたいな私と有能なフェイト。
  ・
  ・
  で、私は、研究者の母様の血を受け継いでいるから、
  それなりに頭のスペックは高い。
  でも、言いたいのは、頭の良さじゃなくて、記憶して置ける知識の記憶容量。
  私の開発した魔法の効果を余すことなく活かせること。
  多分、普通の子が私の魔法を使い続けると頭がパンクする。」

 「ず、随分と危険な魔法ね……。」

 「そうだよ。
  もし、私の頭の容量がのび太レベルだったら、
  使った瞬間に廃人になってたかもしれないからね。
  今、考えると小さい頃の私の無謀さに冷や汗が出るわ。
  もっと事前調査してから、魔法を使えと……。
  ・
  ・
  その後、この魔法の危険性に気付いたユーノから指摘を受けたんだ。
  でも、面倒臭さが優先して、更に別の魔法を開発。
  そして、出来たのが容量を超えそうになった時用の『忘れる』。
  容量を超える心配は、今のところないけど、
  実際、くだらないものの消去に大活躍してる。」

 「アリシアちゃんの秘密……大公開。」

 「ふ……。
  漫画だと天才も影で努力をしているけど、
  私は、正真正銘の努力をしない天才タイプ!
  ただの頭でっかち!」

 「……自分で言っちゃった。
  で、でも、体は、鍛えてますよね?」

 「それだけはね……。
  本当は、寝てるうちに、
  勝手に体が鍛えられているといいんだけど……。」

 (仕方なくなんだ……。
  駄目人間になる一歩手前……。)

 「特に私の場合は、体を日々鍛えてないとね。
  魔力強化出来ないから……。
  管理局に居る以上、魔導師さんとの仕事は日頃からだし。
  ただの技術者のままじゃ、現場に付いていけない。」

 「それで、鍛えているんですか?」

 「うん。
  フェイトが暇な時には、エリオ達がやってる訓練を教わった。
  魔力強化なしで、同じことは出来るよ。」

 (意外と凄い……。)

 「何か……。
  頭鍛えないで、体鍛える方が主体ですね?」

 「まあね。
  それをしないと執務官のフェイトが偏狭の地に行った時に
  付いて行けなくなるから……。
  ・
  ・
  後、一言言っとくけど、頭も使ってんだよ。
  結局、創作する時は知識だけじゃ無理だから、
  知恵熱出しながら頑張るしかないんだよ。」


 シャマルは、少し何かに気付く。


 「……あの、もう一ついいですか?」

 「何?」

 「知識を利用するのは分かりました。
  そして、魔法を使って知識を溜め込むのも。」

 「うん。」

 「でも、開発や創作には頭を使うと……。」

 「そうだよ。」

 「それって……。
  他の人が知識を持ってない分、
  仕事を回されるってことじゃないですか?
  その……。
  常に頭は、フル稼働して……。」

 「……ハッ!」

 「そう……。
  楽したつもりが仕事量を増やす結果に……。」

 「そ、そうか……。
  それで幾ら異動しても、私だけ依頼される仕事が……。」

 (今頃……。)

 「でも、知識がないとフェイトのデバイスが……。」

 (その根底を忘れているから、
  損をした気分になるんじゃ……。)

 「くっ……。
  楽するつもりが裏目に……!」

 (頭がいいんだか悪いんだか……。
  今のアリシアちゃんを見ていると、
  ちゃんと研究者だったお母さんの発想力を
  受け継いでいるか心配です……。)


 妙なことに悩むアリシアに、シャマルは、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
 そして、次の瞬間……。
 ヘリを閃光が包み込んだ。

 ゴチンッ!


 …


 既に暗躍していた敵……。
 接触は、今日が初めてになる。
 新人達とサポートに回っていたヴィータとリインは、既にナンバーズと呼ばれる何人かと接触。
 海上の戦闘でも、それと思しき幻術の確認。
 そして、ヘリを包んだ閃光は砲撃……。


 「…………。」


 ヘリの中では、アリシアとシャマルが蹲っておでこを押さえていた。
 救出した少女を庇おうと覆い被さろうとして、ぶつかった……。


 「った~……。」

 「考えることは同じですね……。」

 「咄嗟だったから……。」


 しかし、砲撃を受けたのに話をする余裕がある。


 「助かったの?」

 「……みたいですね。」


 二人がヘリの窓から見た先に居たのは、はやてからの限定解除で、ヘリを守ったエクシードモードのなのはだった。


 「スターズ2とロングアーチへ……。
  こちらスターズ1。
  ギリギリセーフで、ヘリの防御成功!」


 アリシアは、号泣して叫ぶ。


 「なのは~!
  さっきは、ご~め~ん~!」

 (アリシアちゃん……。
  また、何か私の悪口を言ってたんじゃ……。)


 なのはは、ピンチを救った余韻にも浸れず、眉をハの字にして溜息を吐いた。
 そして、砲撃した犯人にフェイトからの攻撃が飛んだ。


 …


 アリシアは、ヘリの中で拳を突き上げる。


 「フェイト!
  殺れ! 殺ってしまうのだ!」

 「アリシアちゃん……。
  局員が率先して殺しに行っちゃ駄目です。」

 「だって!
  アイツら、物理攻撃型の魔法で狙って来たんだよ!」

 「それはそうですけど……。」

 「許せない!
  あの青い全身タイツどもめ……!
  あの二人の顔は覚えた!」

 「ここから、見えるんですか?」

 「いや、はっきりとは……。
  でも、怒りの心眼で確実に捉えた!」

 (多分、見えてないですね……。
  怒りに任せて、支離滅裂に叫んでるだけです。
  ・
  ・
  でも、それだけのことをやられたのは確か。)


 シャマルは、深い眠りにある少女を見る。


 「こんな小さな子も、命の危険に曝されたんだわ。」


 ヘリは、現場を去り始める。
 そして、飛び去るヘリの後で、はやてのデアボリック・エミッションが発動していた。


 …


 現場での後処理など、ロングアーチや部隊員達が作業を続ける。
 救助された女の子を聖王医療院へと連れて行く前にお風呂に連れて行くことになる。
 そして、役職がないため比較的暇なアリシアが、シャマルと腕捲りをして洗うことになった。
 場所は、六課のお風呂場へ……。


 「女の子洗うなんて久しぶり。
  キャロ以来かな?」

 「私は、はやてちゃんの足が治って以来ですかね?」

 「へぇ。
  ・
  ・
  まあ、大きい大人のフェイトを、
  時々、洗うことはあるんだけどね。」

 「どういう状況なんですか?」

 「ほら、フェイトは、執務官で忙しいから。
  へとへとで疲れて帰って来ると、朝も起きるの大変でね。
  時間がない時は、私が洗髪担当するんだ。」

 「髪、長いですもんね。」

 「そうなんだよね。
  ・
  ・
  じゃあ、シャマルは、体をお願い出来る?
  私は、洗い慣れた頭を担当するから。」

 「分かりました。」


 二人は、暫く無言で女の子を洗い続ける。
 そして、そのうち女の子に変化があることにシャマルが気付いた。
 洗う手を止める。

 にぱ~。

 女の子が気持ち良さそうに脱力している。
 自分の手は止まっている。
 では……。


 「ふんふ~ん♪
  ふふんふっふ~ん♪」


 鼻歌を歌いながら、楽しそうに手を動かし続けるアリシア。
 女の子の顔が、更に気持ち良さそうに変わる。


 「……あの、アリシアちゃん?」

 「ん?
  ・
  ・
  あ、うるさかった?」

 「そうじゃなくて……。
  随分と堂が入ってるのね?」

 「そう?」

 「ええ。
  この子、天国にでも逝ったみたいな顔になってる。」

 「そうかな?
  フェイトも、大体、こんな顔になるよ?」

 「…………。」

 (一体、あの洗髪には、どんな魅力が……。)


 シャマルは、女の子を見て考え込む。


 「今度、私も洗って貰おうかな?」

 「……自分で洗いなよ。
  人に自分のテリトリーを荒らされるなんて、
  気持ちのいいもんじゃないよ?」

 「この子の顔を見ると、そうは思えないんだけど?」

 「まあ、別にいいよ。
  誰の頭だって一緒だし。」

 「じゃあ、お願いしますね。」

 「了解。
  じゃあ、今夜にでも。」


 その後、綺麗に洗い終わった女の子は、聖王医療院へと移送された。


 …


 そして、その夜……。
 ベッドで、ピクリとも動けないシャマルの姿があった。


 「拙いです……。
  気持ち良過ぎます……。」

 「はやて~!
  よく分からないけど、シャマルが骨抜きにされた!」

 「どういうこと!?」

 「風呂に行っただけのはずだが……。」

 「一体、何が……。」


 はやてとヴォルケンリッターの見守る中で、シャマルが逝った……。



[25950] 第17話 StS編・ヴィヴィオとアリシア達
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:49
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 事件の翌日……。
 なのはとシグナムは、聖王医療院へ。
 そして、件の少女……ヴィヴィオを六課の隊舎へと連れて戻って来ていた。
 六課では、そのヴィヴィオの声が響いていた。


 「行っちゃ、やだ~~~!」


 なのはに抱きついて、手を放さないヴィヴィオ。
 それをモニター越しに確認したはやてとフェイト。


 「この駄々っぷり……。
  何処かで見た気がするなぁ……。」

 「うん……。
  少し前に居た……。」

 「じゃあ、この手の騒ぎを治めるには、
  フェイトちゃんの力が必要やね。」


 フェイトは、少し困った顔で微笑むとはやてと一緒に席を立った。



  第17話 StS編・ヴィヴィオとアリシア達



 泣き声の響く部屋に、はやてとフェイトが訪れる。
 なのはとの念話で救助依頼があった後、フェイトは、なのはから離れないヴィヴィオの前に落ちていた兎の人形を持って挨拶する。


 「こんにちは。
  この子は、あなたのお友達?」

 「ヴィヴィオ。
  こちらフェイトさん。
  なのはさんの大事なお友達。」


 なのはから、ヴィヴィオにフェイトの紹介がある。
 フェイトは、ヴィヴィオに話し掛ける。


 「ヴィヴィオ、どうしたの?」


 フェイトの言葉と手の中の兎の人形に、ヴィヴィオの目は、一瞬で釘付けになる。
 フェイトの手の兎の人形を追って、ヴィヴィオの顔が右に左にと動く。


 「ねえ。
  ヴィヴィオは、なのはさんと一緒に居たいの?」

 「……うん。」

 「でも、なのはさん。
  大事なご用でお出掛けしないといけないのに、
  ヴィヴィオが我が侭言うから、困っちゃってるよ。
  この子も……ほら。」


 フェイトは、手の中の兎の人形の手を頭に持って行き、困ったポーズを作る。


 「ヴィヴィオは、なのはさんを困らせたいわけじゃないんだよね?」

 「うぅ……。」


 ちなみにこの部屋にはヴィヴィオをあやすために新人達も居たが、ヴィヴィオの説得に全員玉砕している。


 「だから、いい子で待ってよ? ね?」

 「……うん。」


 なのはが、ヴィヴィオに話し掛ける。


 「ありがとね、ヴィヴィオ。
  ちょっと、お出掛けして来るだけだから。」

 「う、うん。」


 仕方なく納得して諦めてくれたヴィヴィオ。
 そして、これから出掛けるはやて達は、後のことを新人のフォワード陣に任せることになる。
 部屋を出る時、フェイトがフォワード陣に声を掛ける。


 「ヴィヴィオのことで困ったら、
  アリシアを頼ってみてね。
  アリシアも、子供の扱いには慣れているから。」

 「そっか。
  フェイトさん同様にアリシアさんもエリオ達を……。」

 「うん。
  でも、アリシアは、忙しいかな?」


 フェイトの言葉に、はやてが振り返り答える。


 「確か大丈夫のはずやよ。
  作るもの作って、
  後は、クロノ君に渡すだけだって。」

 「何で、クロノに?」

 「艦船登録するのがクロノ君やから、
  その審査に起動キーであるソフトとデバイスを
  審査して貰う必要があるんやって。
  艦船自体は、審査通ったって聞いてるよ。」

 「そうなんだ。
  じゃあ、少し余裕が出来たんだね。」

 「うん。
  フォワード陣の次のリミッターの解除まで時間もあるし、
  自分の私用も終わったから、暇が出来たはずや。」

 「えっと……。
  六課の他の仕事は?」

 「技術部は、元々、人数足りてたからなぁ。
  アリシアちゃんは、何かあった時のスーパーサブ的な位置付けなんよ。
  既にこっちが求める以上の仕事も自発的にしてくれているから、
  ほんま大助かりや。」


 フォワード陣の二人が難しい顔になる。


 「どうしたん?」

 「八神部隊長……想像出来ません。」

 「私も……。
  元気過ぎる人だから、デスクワークをしているというのも……。」

 「ティアナとスバルは、アリシアちゃんの働く姿を
  あまり見てへんから。
  凄いんよ。
  違う部署同士のバラバラの要求を形に出来る一般隊員は、
  アリシアちゃんぐらいやから。」

 「あの……。
  それって、部隊長クラスの人がやることを
  ただの隊員のアリシアがやってるってことですか?」

 「いんや。
  部隊長でも出来へんよ。
  専門的な知識が必要になるからなぁ。」

 「何で、一般隊員がそんな知識を……。」

 「今まで続けて来た努力の副産物やな。
  そして、アリシアちゃんの本格的なお仕事は、
  これから始まるんよ。
  ・
  ・
  な、フェイトちゃん?」

 「うん。
  私のデバイスをメンテナンスしてくれているんだ。」

 「専属ですか?」

 「そうなるのかな。
  定期的にメンテナンスしてくれてるよ。」


 ティアナは、以前話したアリシアの話を思い出す。


 (アリシアは、今、やりたいことをしているんだ。
  十年頑張って、フェイトさんの力にやっとなれたんだ。)


 ティアナは、アリシアの話をしているフェイトの顔が何処か嬉しそうな感じがした。
 そんなティアナを見て、スバルが話し掛ける。


 「どうしたの?
  フェイトさん見ながら微笑んで?」

 「ちょっとね。
  アリシアの努力が報われて、
  それを喜んでくれている人が居るのっていいな……って。」

 「そうだね。
  じゃあ、ティアの執務官になる夢が叶ったら、
  私が喜んであげるよ。」

 「ハァ!?
  何で、あんたに喜んで貰わないといけないのよ!」

 「またそんなこと言って。
  私が喜んであげないと寂しいくせに。」

 「そんなことないわよ!」


 ティアナとスバルのいつもの掛け合いが始まると、エリオとキャロは、クスクスと笑っていた。
 そして、はやてが話を切り上げる。


 「じゃあ、そろそろ行こか?
  後、よろしくなぁ。」

 「「「「はい!」」」」


 フォワード陣は、敬礼をしてはやて達を送り出した。


 …


 一時間後……。
 六課の技術部で、アリシアは、訓練用のガジェットの仕様書を作り直していた。
 改定も進み、隊長陣からの要求を大分こなせるシステムになって来た。
 アリシアが、シャーリーに話し掛ける。


 「どうかな?
  これだけ外部で設定値を変更出来れば、
  なのはの要求にも応えられると思うんだけど?」

 「そうね。
  後は、なのはさん用にソフトを組み上げれば、
  私達が居なくてもフォワード陣の訓練が出来るわね。」

 「じゃあ?」

 「うん。」

 「「お疲れ様でした!」」


 アリシアとシャーリーが手を叩く。
 その音に技術部の人達が集まる。


 「最終版の仕様書が出来たんですか?」

 「これで、新しいガジェットが出なければ、
  暫く使えますね。」

 「早速、作成するソフトのプログラムを割り振りましょう。」


 アリシアは、シャーリーを中心にやる気を見せている技術者達を見て、いい職場だなと思う。
 その技術部の扉が開いて、エリオとキャロが現れる。


 「えっと……アリシアさんの席は?」


 エリオが、何かを見つけて、三人はアリシアの席に近づく。


 「アリシアさん。」

 「私の席、よく分かったね?」

 「自分の席にフェニックスガンダムを飾ってる人なんて、
  アリシアさん以外に居ませんよ。」

 「管理局の科学力を使って、
  1/60を完全に再現したんだよ。
  見てよ。
  この洗練されたフォルム。」

 「管理局の科学力を使って、
  何てものを作っているんですか……。」

 「地球の模型屋に売ってなくてさ。
  パテで自作するっていう手もあったけど、
  ここはプラスチックを脱却して超合金でしょう。
  はやてのデバイスに採用する前の特許の新素材で、
  生半可な攻撃じゃ壊れないフェニックスガンダムなんだ。」

 「本物の超合金を使って、
  本当に無駄なものを作ってんじゃないですか!」


 アリシアは、エリオに怒られてフェニックスガンダムを引き出しに仕舞う。


 「と、ところで、どうしたの?」

 「今、忙しいですか?
  ……そんなわけないですよね。」

 「いい加減、機嫌直してよ。
  ちょっと、お茶目なアリシアさんを見せただけじゃない。」


 エリオは、溜息を吐く。


 「じゃあ、真面目に答えてください。」

 「分かったって。」

 「繰り返しになるんですけど、
  今、忙しいですか?」

 「今? 一区切りついたところだよ。
  私に用事なの?」

 「はい。
  子供のあやし方を教えて欲しいんです。」

 「子供?
  ベビーシッターの研修でも組み込まれてるの?」

 「そうじゃなくて……。」


 キャロの後ろに隠れている女の子が顔を覗かせる。


 「ああ、この前の……。
  六課に来たんだね。
  エリオもキャロも小さい子と遊ぶの初めてだっけ?」

 「はい……。」

 「慣れてないです……。」


 アリシアは、微笑むと振り返る。


 「シャーリー。
  暫くお手伝い出来ないけど、いいかな?」

 「うん、いいよ。
  緊急事態がなければ、こっちで全部片付けるから。
  ごめんね、色々と手伝って貰っちゃって。
  すっかり、頼り切っちゃって。」

 「気にしてないよ。
  新しい知識も身についたから、問題なしなし。」

 「フォワード陣の訓練時間も減っちゃうかもしれないから、
  エリオ達を優先して手伝ってあげて。」

 「そうだね。
  じゃあ、優先するね。
  明日から、寮母のアイナさんところで働こうっと♪
  シャーリー、はやてに言っといてね。」

 「言うのはいいけど……。」

 「あ、そうそう。
  フェイトのバルディッシュだけは、私がメンテナンスするから、
  その仕事だけは、取っちゃダメだよ。」

 「それもいいけど……。」

 (アリシアって、技術系の仕事に未練ないのかな?)


 エリオ達と技術部を出て行くアリシアを見送ると、シャーリーは、はやてにメールを入れようと端末に向かう。


 「あれ?
  ・
  ・
  部隊長から、メールが来てたんだ。
  内容は……休暇を与えてヴィヴィオの面倒を見て貰うことか。
  じゃあ、返信に仕事場の変更を伝えればいいかな?
  ・
  ・
  しかし、アリシアって、正式には何処の部門に配属になったんだろう?
  実は、自給のアルバイトだったり?」


 新たなアリシアの謎の一つだった。


 …


 なのはを待つ部屋で、ヴィヴィオがアリシアを不思議な目で見ている。
 さっき出て行った女の人と同じ顔だ。
 その人が居るなら、何故、自分の待ち人であるなのはが居ないのか?


 「初めましてだね。
  私は、アリシアだよ。」


 アリシアは、自分の髪をヴィヴィオに見せる。


 「フェイトとは会ったかな?
  尻尾のリボンが違うの分かるかな?」


 ヴィヴィオは、首を傾げる。


 「分かんないか。
  いい?
  この尻尾に緑のリボンが付いてるのがアリシア。
  あなたの見た同じ人は、黒いリボンが付いてるんだ。」

 「別の人……?」

 「うん。
  私の方が、少し背が低いんだよ。」

 (多分、もう少しで丸っきり同じになると思うけど。)


 ヴィヴィオは、分かったようで分からないような感じで頷いた。


 「ごめんね。
  急に沢山の人に囲まれて怖かったよね。
  でも、皆、あなたと仲良くなりたいだけなんだ。
  だから、名前を教えてくれないかな?
  私は、アリシアだよ。」

 「アリシア……。
  ・
  ・
  ヴィヴィオ……。」

 「ん、ヴィヴィオだね。
  初めまして。」


 アリシアは、丁寧に二度目の自己紹介をして、ヴィヴィオと握手をした。


 「嬉しいな。
  ヴィヴィオに名前を教えて貰っちゃった。」

 「嬉しいの?」

 「うん。
  挨拶もしてくれると、もっと嬉しいよ。
  『はじめまして』って……言えるかな?」


 ヴィヴィオは、小さく頷くと声を絞り出した。


 「……はじめ…まして。」

 「ありがとう。
  とっても嬉しいよ。」


 そこにある屈託のない笑顔に、ヴィヴィオは、子供ながらに目の前の人が喜んでいるのを感じた。
 少しだけ、顔から緊張が取れる。
 アリシアが、キャロとエリオの背中に手を置く。


 「さあ、お姉さんにお兄さん。
  ヴィヴィオは、しっかり挨拶出来たよ。
  元気良く挨拶してみようか。」


 キャロとエリオが、アリシアに視線を向ける。
 そこにあるのは、楽しそうに笑っている笑顔。
 そう、新しい友達が出来るのが詰まらない訳がないのだ。
 それを頭ではなく心で感じ取るとキャロから、ヴィヴィオに挨拶を始める。


 「キャロ・ル・ルシエです。
  はじめまして、ヴィヴィオ。」

 「はじめまして……。」


 キャロの笑顔にヴィヴィオも少しずつ安心感が増していく。
 アリシアが、キャロの肩に手を置く。


 「皆は、キャロって呼ぶんだよ。
  フルネームは、早口言葉みたいだから。」

 「アリシアさん!
  絶対にそんな理由じゃありません!」

 「そうだっけ?」

 「そうです!」


 エリオは、アリシアとキャロのやり取りを見ながら、クスリと笑うと自己紹介を始める。


 「はじめまして。
  僕は、エリオ・モンディアル。
  皆は、エリオって呼んでます。」

 「はじめまして。」


 ヴィヴィオの答え方に少しずつ戸惑いがなくなっていく。
 アリシアが、エリオの肩に手を置く。


 「キャロが、からかわれているのを見て、自分で回避したわね?
  ヴィヴィオに呼び方まで伝えるなんて。」

 「そうなの? エリオ君?」

 「そ、そういう訳じゃないよ!」

 「卑怯者め!
  エリオには、『モンディアルって言い難いから』って言おうと思ってたのに!」

 「アリシアさんが、からかいたいだけじゃないですか!」

 「そうだよ。」

 (この人、からかうことしか考えてないんだ……。)


 エリオは、思わず項垂れる。
 そして、少し置いていかれたヴィヴィオが、初めて自分から声を掛けた。


 「アリシア……さん。」

 「ん? アリシアでいいよ。
  どうしたの?」

 「なのはさんも、喜んでくれる?」

 「ん?」

 (何をだろう?
  ・
  ・
  あ、挨拶か。)


 アリシアは、頷きながら答える。


 「もちろんだよ。
  でも、初めての挨拶は終わったから、
  なのはが帰って来た時の挨拶を覚えようか?」

 「うん。」

 「なのはは、お仕事して疲れて帰って来るんだ。
  だから、ヴィヴィオが『おかえり』って言ってあげると、
  疲れも飛んで喜んでくれるよ。」

 「ほんと?」

 「本当だよ。
  練習してみる?
  ・
  ・
  キャロ、なのはの役やって。」

 「私ですか?」

 「うん、扉から入って来るだけでいいから。」

 「頑張ります!」

 「決して、頑張るようなことじゃないと思うんだけど……。」


 しかし、キャロは、気合いの入った顔で部屋を出て行った。
 そして、案の定、緊張して部屋に入って来た。


 「やり直し。」

 「な、何で、ですか!?」

 「普通にしてよ。
  なのはは、そんなにガチガチで歩いてないでしょ?
  キャロに話し掛けてる時みたいで、いいんだよ?」

 「え~と……。
  もう一回やります。」


 キャロは、再び部屋を出る。
 そして、今度は、普通に部屋に入って来る。


 「…………。」


 暫しの沈黙。


 「キャロ。
  なのはが、フリーズしてる。
  帰って来たら、言う言葉があるでしょ?」

 「そうでした!
  ・
  ・
  ただいま!」

 「はい、ヴィヴィオ。
  ここで、さっきの言葉。」

 「おかえり!」

 「完璧だよ。」


 アリシアが、ヴィヴィオの頭を撫でる。
 ヴィヴィオは、アリシアに顔を向ける。


 「喜んでくれる?」

 「もちろん。
  もう一回、やってみようか?」

 「うん!」


 アリシアは、キャロにウィンクする。
 キャロは、今度こそと部屋を出て、今度は、完璧に『ただいま』までをやり切った。


 「おかえり!」

 「ヴィヴィオ、満点あげちゃう。」

 「えへへ……。」


 ヴィヴィオは、少しずつアリシア達に心を開き始めた。


 …


 アリシアの膝の上で、ヴィヴィオがなのはについて語っている。
 子供のため、漠然としたことしか語れないが、如何になのはのことが好きかが伝わる。
 そして、心を許せた初めての相手がなのはだったのだということも分かる。


 「ヴィヴィオは、なのはのことが大好きなんだね。」

 「うん。」


 スケッチブックに書かれたなのはの絵。
 今、一番心を許して頼りにしている存在が誰なのか良く分かる。
 アリシアが、スケッチブックを手に取る。


 「なのはの人形でも、作ってみようか?」

 「そんなの作れるんですか?」

 「うん。
  面白いフリーソフトが落ちてたんだ。」


 アリシアが、自分のデバイスを起動してソフトウェアを起動する。
 デバイスは、スケッチブックのヴィヴィオの書いた絵をスキャンして取り込むと何かのデータを作り出した。
 それを技術部門のプリンターに出力すると、アリシアは、技術部門まで足を運んで出力された紙を取って来る。


 「じゃん。
  二頭身なのはちゃん人形の設計図。」

 「それ可愛いです。」

 「でしょ?
  小さい子の描いた絵から、人形を作る型紙を起こすソフトなんだ。
  この紙に合わせて生地を切って、綿を入れて、縫い合わせて完成。」

 「凄いですね。
  これって、私が描いた絵でも作れるんですか?」

 「多分ね。
  子供の描いた絵の線は歪んでるから、
  それを自動補正してくれるみたいだし。
  大分違っても、取り込んでくれると思うよ。
  試してみようか?」


 アリシアは、スケッチブックを一枚捲り、何かを描き始める。
 そして、描き終わると見せる。


 「劇画風はやて。」


 ヴィヴィオは首を傾げ、エリオとキャロは吹いた。


 「リリカルの悪口は、俺に言え。」

 「怖いです!」

 「何で、北斗の拳みたいな絵なんですか!」

 「まあまあ。
  ・
  ・
  お、取り込めた。
  ほら。」


 デバイスが出力した絵には、二頭身のはやての絵。


 「このソフト凄過ぎる……。
  あの絵がこんな可愛い人形になるんだから……。」

 「多分、写真で取り込むのも考えてんじゃないのかな?
  兎に角、それは置いて。
  なのはちゃん人形を作ろう!」

 「うん!」

 「素直に返事出来ない……。」

 「何か複雑だ……。」


 ヴィヴィオの返事に対して、エリオとキャロのテンションは低かった。


 …


 ヴィヴィオが型紙から取った線に合わせて、ゆっくりと生地に鋏を入れる。
 ぐにゃぐにゃと歪んでいるが、そこはご愛嬌。
 しかし、完成した姿を想像するとエリオとキャロは、少し不安になる。


 「ヴィヴィオ、綺麗に切れたね。
  針は、まだ危ないから、私が縫う役目ね。」


 アリシアは、鼻歌を刻みながら、ヴィヴィオから受け取った生地を縫い合わせる。
 そのアリシアに念話が飛んで来る。


 『あの、大丈夫なんですか?
  ヴィヴィオの切った生地、歪んでますよ?』

 『完成したら、想像と違うって泣きませんか?』

 『大丈夫。
  ワザと大きく切らしたから、
  縫い合わせる時に正規の線に合わせて誤魔化すから。』

 『『なるほど。』』

 『人形出来たら、ちゃんとヴィヴィオのこと褒めてあげてね。』

 『『はい。』』


 アリシアは、縫い合わせる位置を調整して人形を作っていく。
 キャロは、手馴れたしぐさに質問する。


 「随分と慣れているんですね?」

 「うん。
  小さい時にフェイトの解れたボタンや服を直してたからね。
  魔法が使えないから、何か他のところで役に立ちたくて、
  リンディ母さ……ま、じゃなくて……。」

 (昔のクセが出た……。)

 「リンディ母さんがクロノのボタンを留め直しているのを見て、
  直ぐに真似したんだ。
  今思えば、フェイトに変な気遣いさせちゃったな。
  フェイトは、一生懸命に解れたところを探してたから。」

 「仲がいいんですね。」

 「はは……。
  私が小さいのにお姉さんで居たかったから、
  フェイトには苦労掛けっぱなしだったよ。
  フェイトの方が、ずっとお姉さんだった。」


 ヴィヴィオとキャロは、理由が分からなかったが、エリオは、察していた。
 プロジェクトFのことについて、フェイトとアリシアの関係を知っているからだ。
 そして、そのことをフェイトもアリシアも話してくれたことに自分が如何に信頼されているかが分かる。


 「よし! 出来た!」


 アリシアの手の中で、なのはちゃん人形が出来上がる。


 「…………。」


 ヴィヴィオは、嬉しそうに人形を見ている。
 エリオとキャロは、固まっている。


 「あの……。」

 「ん?」

 「このなのはさん……兎の耳が付いてる。」

 「そうだよ。
  だって、ヴィヴィオの持ってる人形は兎だもん。
  そうじゃないと一緒に遊べないじゃない。」

 「そこまで考えてたんですか?」

 「うん。
  ヴィヴィオの持ってる兎は、友達でしょ?
  その友達のなのは兎。」

 (この人、本当に子供目線になれるんだな……。)


 ヴィヴィオが、アリシアの袖を引っ張る。


 「ヴィヴィオは?」

 「そっか。
  ヴィヴィオ兎を作ってなかったか。
  じゃあ、ヴィヴィオ兎も作ろうか?」

 「うん!」

 「キャロ達は、どうする?
  なのは兎を作った感じだと、
  全員で共同作業することもないみたいだけど?」

 「私、自分の人形が欲しいです!」


 キャロは、なのは兎の出来に興味が湧いたようだ。


 「エリオ君、一緒に作ろう。」

 「ぼ、僕も!?」

 (エリオは、男の子だからなぁ……。
  助け舟を出すか。)


 アリシアは、エリオに話し掛ける。


 「手伝ってあげたら?
  自分用じゃなくていいからさ。」

 「僕用じゃない……。
  それなら手伝うよ。」

 「ありがとう。
  フェイトさんとティアさん達の人形も作ろうね。」

 「そんなに?」


 その話にアリシアは、嫌な予感がした。


 (もしかして、このパターンは……。)


 アリシア達の人形作りが始まった。


 …


 ヴィヴィオの居る部屋になのは達が帰って来る。
 お出掛けの理由……聖王教会にて行なった機動六課の設立の話と今後についての話を終えて来たのだ。

 ヴィヴィオは、一目散になのはのところに走り、ガシッと抱きついた。
 そして、今日、覚えた言葉を口にする。


 「おかえり!」


 なのはは、少し驚いた顔をするが直ぐに笑顔になり、ヴィヴィオを抱きかかえて挨拶を返す。


 「ただいま、ヴィヴィオ。
  いい子にしてた?」


 ヴィヴィオは、返してくれた言葉が嬉しくて、そのまま抱きついたまま泣き出してしまった。
 なのはは、一日面倒を見てくれたエリオとキャロの方に目を移して、ビクッとする。


 「アリシアちゃん!?」


 そこには苦笑いを浮かべるエリオとキャロの横で、アリシアがテーブルに突っ伏していた。
 一緒に来たフェイトが、なのはの代わりにエリオ達に話し掛ける。


 「ありがとね、エリオ、キャロ。
  ・
  ・
  それで、えっと……アリシア、どうしたの?
  疲れ切ってるよ?」


 フェイトの質問に突っ伏したままのアリシアの手があがり、部屋の一角を指差す。
 そこには、山盛りになった人形が箱に入っていた。


 「何……それ?」

 「六課全員分の人形……。」

 「全員分って……。
  どうして?」

 「キャロが、フォワード陣の人形作った後にフェイトの人形作ったら、
  『八神部隊長のがない』って……。
  そうしたら、『シグナム達の分もない』って……。
  それが繰り返されて、仲間はずれは良くないってことに……。」

 「まさか……。
  それが理由で……。」

 「うん、名簿引っ張って全員分作らされた……。」


 フェイトが、エリオとキャロに視線を移すと、二人は、複雑そうな笑顔を浮かべた。
 そして、エリオが、スケッチブックをフェイトに渡す。


 「その絵から、人形の設計図を起こしたんです。」


 フェイトが、スケッチブックを捲る。
 そして、ヴィヴィオを抱いたなのはもスケッチブックを覗く。


 「これ、エリオ達が書いたの?」

 「アリシアさんです。」

 「皆、可愛く描けてるね。」


 なのはがヴィヴィオに話し掛けると、ヴィヴィオは、笑顔で頷く。
 そして、ある絵でフェイトとなのはが吹いた。


 「何で、はやてちゃんだけ男前なの!」

 「吃驚したよ!」


 アリシアは、その反応に答えを返せなかった。
 六課全員分の人形を作らされて、本当に力尽きていた。


 「針の持ち過ぎで力が出ない……。
  折角、いいリアクションが返って来たのに……。」


 いつもと違う反応を示すアリシアに、エリオとキャロは、笑いを堪えられなかった。
 そして、その日のうちに六課の兎人形が全員の手元に渡った。


 …


 さっきから、ずっと人形を眺めるヴィータにシグナムが声を掛ける。


 「ご機嫌だな、ヴィータ。」

 「まあな。
  兎は、私のトレードマークみたいなもんだからな。」

 「そうだったな。」

 「しかも、全員分っていうのが最高だ。
  はやてにシグナムにシャマル……リインも居る。
  ・
  ・
  ザフィーラの兎人形は笑えるな。」

 「私は、携帯電話のCMの犬を思い出してしまったよ。」

 「はは……。
  ・
  ・
  ところで、誰が作ったんだ?」

 「アリシアが作ったらしい。」

 「へ~。
  いい仕事しやがって。」


 届けられた人形に、ヴィヴィオ以上にヴィータはご機嫌だった。


 …


 ※※※※※ 没ネタ・リリカルの意味 ※※※※※

 「なのはさん、ちょっといいですか?」

 「どうしたの? エリオ?」

 「アリシアさんが言ってた『リリカル』なんですけど……。」

 「うぁ……。
  それは、聞かないで欲しいな。」

 「聞く?
  いえ、意味の確認なんですけど?」

 「意味?」

 「はい。
  どうも、アリシアさんは、嘘をついているようで。」

 「絶対に嘘ついてる。
  今度は、何て言ってたの?」

 「『リリカル=調子こく』です。」

 (魔法少女調子こくなのは……。)

 「アリシアさんの例えでは、
  『リリカってんじゃねぇよ=調子こいてんじゃねぇよ』
  なんていうのも……。」

 「絶対に違うよ!」

 「ですよね。」

 「リリカルは……。
  リリカルは……。
  リリカルは、叙情的な……って意味。」

 「ありがとうございました。
  それで謎が解けました。」

 「へ?」

 「アリシアさんは、『無駄無駄』を叫んで、
  リリカルラッシュと言っていたんです。」

 「?」

 「JOJO的な。」

 「違う違う!
  アリシアちゃんに毒されてるよ!
  『JOJO的な』じゃなくて『叙情的な』!」



[25950] 第18話 StS編・アリシアの予想(なのはとフェイトが同室なわけ)
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:49
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 六課の隊舎で、ティアナの呼び出しが掛かる。
 ティアナは、呼び出しのあったはやての部隊長室を訪れる。
 はやては、端末を操作しながらティアナに話し掛ける。


 「いやぁ、実はなぁ。
  今日、これから本局に行くんやけど、
  良かったら、ティアナも一緒に来とくか? って相談や。」

 「あ、はい……。」

 「今日、会う人は、フェイト隊長とアリシアちゃんのお兄さん。
  クロノ・ハラオウン提督なんよ。」

 「はい……。」


 呼び出しの意図が分からず、ティアナは、返事に少し戸惑いがある。


 「執務官資格持ちの艦船艦長さん……。
  将来のためにも、そういう偉い人の前に出る経験とか
  しといた方がええかなって?」


 意図を理解するとティアナは、敬礼しながら返事を返す。


 「ありがとうございます。
  同行させて頂きます。」


 その様子を見て、はやては、少し微笑む。
 そして、ティアナは、はやての側にあるダッシュケースに目を移す。


 「あの……それは、何なんですか?」

 「ん? これか?
  この前、話してたアリシアちゃんの作った艦船の起動キーや。」

 「何で、部隊長が?」

 「アリシアちゃんにクロノ君に会う言うたら、
  ついでにって、押し付けられたんよ。」

 「……アリシアって、部隊長を顎で使うんですか?」

 「昔っからやね。」


 ティアナは、アリシアの怖いもの知らずな性格に少し呆れる。


 「よく組織の中に居れますよね?」

 「そこは、大いなる謎やね。」


 アリシアは、UMAのような位置付けになって来た。



  第18話 StS編・アリシアの予想(なのはとフェイトが同室なわけ)



 はやてとティアナは、クロノに会うために本局へ。
 ライトニングは、現場調査。
 六課隊舎には、なのはとスバルが残る。
 そして、はやて達の話題に出ていたアリシアは……。


 「私は、形から入る主義。」


 寮母のアイナと同じ服装に身を包んで、アイナとお仕事をしていた。
 アイナが不思議そうに質問する。


 「技術部門に居ませんでしたか?」

 「居たよ。
  暇になったから、アイナのお手伝い。
  そして、ヴィヴィオの遊び相手。」

 「それは助かるんですけど……。
  技術者さんにお手伝いして貰うのは申し訳なくて。」

 「何で?
  仕事してるのは同じでしょ?
  私、働いている人には分け隔てないよ?
  ・
  ・
  部隊長だって利用出来るなら利用するし。」

 「え?」

 「皆が役割分担しないと回らないのが六課。
  誰一人として必要ない人間は居ない。
  それがはやての作る部隊。
  だから、上も下もあるけど、横に長いの。」

 「そういう組織なんですか?」

 「半分、私の独自解釈。」


 アリシアは、にっこりと笑うとアイナも釣られて笑ってしまった。
 アリシアが促す。


 「さあ、一生懸命お手伝いするから、
  どんどん頼んでよ。」

 「はい。」

 「それと、ちょっと質問なんだけど。」


 アリシアは、近くのヴィヴィオを気にして、アイナに耳打ちする。


 「男性局員って、やっぱりエロ本とか隠してんの?」

 「……何、言ってんですか?」

 「私も、何処かのお母さんみたいに、
  探し出したエロ本をそっと机の上に置いておきたくて。」

 「…………。」

 (この子、何考えてんだろう?)


 アリシアは、好奇心に満ちた目でアイナを見ている。
 アイナは、溜息を吐くと答える。


 「まあ、中には……。」

 「おお!
  私にやらせてね!」

 「構いませんよ……。」


 アリシアは、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 アイナは、溜息を吐く。


 (この人にヴィヴィオを見させて、
  大丈夫なのかしら……。)


 一抹の不安が残った。


 …


 部屋の掃除をしたり、シーツを換えたりと寮母の仕事も意外と幅広い。
 そして、アリシアとアイナ以外にも、ヴィヴィオのお守り役に狼形態のザフィーラも居る。
 ヴィヴィオは、ザフィーラを怖がることなくお手伝いをして畳んだタオルを見せてご満悦だった。
 アリシアが、ヴィヴィオとザフィーラに近づく。


 「懐かしいね。
  私もザフィーラに遊んで貰ったの覚えてるよ。」

 「そうか。」

 「背中に乗って、お散歩したんだよね。」

 「そんなこともあったな。」


 ヴィヴィオは、ザフィーラを見る。
 ザフィーラが、ヴィヴィオに話し掛ける。


 「乗ってみるか?」


 ヴィヴィオは、アリシアを見る。


 「お仕事終わったら、皆でお散歩行こうか?」

 「うん!」


 そこにシーツを換え終わったアイナが、二階から降りて来る。


 「何の相談?」

 「ヴィヴィオとザフィーラとお散歩の約束。」

 「いいわね。」

 「えへへ……。」


 ヴィヴィオは、嬉しそうに笑う。
 アイナは、シーツを畳みながら、アリシアに話し掛ける。


 「アリシアさん。
  少し気になることがあるんだけど。」

 「気になること?」

 「ええ。
  この部屋のことなんだけど。」

 「なのはとフェイトの部屋?」

 「何で、別々の部屋じゃないのかしら?」

 「そのことか。
  理由は分からないけど、想像ならついてるかな。」

 「悪い噂の方?」

 「百合じゃない方だよ。」


 アイナは、ほっと息を吐く。
 ヴィヴィオは、『百合って、何?』とザフィーラに聞いていたが、ザフィーラは、散歩の話を持ち出して誤魔化していた。
 アリシアは、ヴィヴィオが居ることを思い出して不用意な発言だったと反省する。
 そして、自分の予想を話し出す。


 「私、なのはやフェイトは、子供の頃からの付き合いだから、
  性格とか言動の変化なんかも知ってるんだよね。
  それでね。
  当時のなのはやフェイトの環境なんかを考えるとこうなるんだ。
  ・
  ・
  まず、フェイト。
  九歳で、管理局に入ったけど、魔法のことも知ってたし、
  養子に引き取られたハラオウン家の人達は、管理局に勤めてたから、
  生活圏内に管理局や魔法が身近にあったの。
  一方、なのはは、魔法の才能が開花したばかりで、
  管理局って何かを分からないまま、自分の魔法の力を使おうと決めたばかり。
  そして、そんな二人が管理局に入る。
  フェイトは、管理局にある程度慣れているけど、
  なのはは、大人だらけの管理局に戸惑ったと思うんだ。
  ・
  ・


 …


 ここからは、アリシアの予想の物語……。
 なのはが管理局に入って間もない頃……。

 なのはは、管理局の本局で、研修や仕事を行なうことも増えて来ていた。
 しかし、幾ら高い魔力や才能があっても、中身は九歳の女の子。
 慣れない環境や周りの大人達に戸惑うことも多かった。
 そして、なのはが地球での長期休暇を利用して、研修のために本局に宿泊して数日後……。
 なのはは、本局のハラオウン家のフェイトの部屋をノックしていた。


 「なのは?」

 「フェイトちゃん……。
  助けて……。」

 「ど、どうしたの!?」

 「キーボードが早く打てないの……。
  周りの人は、大人ばかりで相談も出来なくて……。」

 「そうなんだ。
  私でよかったら、教えてあげるよ。」

 「本当?
  ・
  ・
  ううう……。
  フェイトちゃん!」


 なのはは、少しホームシックにもなっていた。


 …


 それから毎日、なのはは、フェイトの部屋を訪れることになる。
 そして、その話を聞いたクロノが気を利かせてくれた。


 「フェイトの部屋を大きな部屋と交換しよう。
  二段ベッドなら十分に入るから。
  今みたいにお互いの部屋を行ったり来たりするよりはいいだろう。」

 「「ありがとう、クロノ(君)。」」

 「喜んでくれて、何よりだ。
  また、何かあったら言ってくれ。」


 こうして、管理局でのなのはとフェイトの共同生活が始まる。


 …


 月日は流れ、なのはも管理局での生活に慣れ始める。
 苦手だったキーボード打ちも上達し、周りの年代の違う局員達とも打ち解け始めた。
 そして、フェイトと共に仕事をこなすことで、徐々に周りの人間にも名前が知れ渡り始める。


 「フェイトちゃん。
  長い間、ありがとう。
  これからは、自分一人でも大丈夫。」

 「そう?
  少し寂しいな。
  なのはとの生活は、楽しかったから。」

 「そうだね。
  毎日が林間学校みたいで楽しかった。」

 「うん。
  ・
  ・
  今度の部隊内の部屋の割り当てで、お別れだね。」

 「元気出してよ。
  同じ管理局内だから、直ぐに会えるし。」

 「うん。
  遊びに行くね。」

 「約束だよ。」


 …


 そして、部屋割りの発表の日……。


 「「あれ?」」

 「すいません。
  手違いで、お二人を同じ部屋に……。」


 なのはとフェイトは、顔を見合す。


 「はは……。
  えっと……。」

 「ま、また、よろしくだね。」


 まだ駆け出しの二人には、部屋割りに文句を言う権限はなかった。


 …


 更に月日が流れる。


 「フェイトちゃん。
  今度こそ、部屋割りのことを言おうね。」

 「そうだね。
  局内で、変な噂も立ってるし……。
  私がしっかり言うよ。」


 二人の部屋をノックする音が聞こえる。


 「どうぞ。」

 「突然、すいません。
  今度の部隊移動での部屋割りなんですけど……。」

 ((来た!))

 「あ、あの……。」

 「お二人の二人部屋は、しっかり用意してありますんで。
  以上です。」

 「え、ちょっと……。
  そうじゃなくて!」


 ドアが閉まった。


 「……フェイトちゃん?」

 「…………。」


 フェイトは、がっくりと床に手を付いた。


 「……ごめん、なのは。」

 「い、今のはしょうがないよ。
  今度! 今度、がんばろう!
  私も一緒に言うから!」

 「うん……。」


 そして、部屋換え……。


 「「ベッドが替わってる……。」」


 ベッドが二段ベッドから、シングルのベッド二つにレベルアップした。


 …


 更に更に月日は流れる……。
 なのはは、エース・オブ・エースの二つ名を手にし、フェイトは、執務官としての実績を着実に積み上げていた。


 「「今度こそ!」」


 二人の部屋が開く。


 「部屋割りのことなんですが……。」

 ((来た!))

 「第XXX部隊の部隊長がお二人を獲得して、
  特別な二人部屋を用意してあります。」

 「「え?」」

 「では。」


 ドアが閉まった。
 なのはとフェイトが頭を抱えて蹲る。


 「……今の何?」

 「……会話も出来なかった。」

 「…………。」

 「フェイトちゃん。
  変なキーワードが入ってたよね?」

 「うん。
  『獲得』とか『特別』とか……。」

 「「一体、何が……。」」


 管理局上層部部隊内で、熾烈な獲得競争があった。
 そして、噂が噂を呼んで、なのはとフェイトは、別々にしてはいけないという噂が定着し始めていた。


 …


 部屋換えの日……。


 「「また、ベッドが替わった……。」」


 ベッドは、キングサイズのシングルベッドにレベルアップした。


 …


 それから、数回の部屋換えがあったが、なのはとフェイトの思惑など無視して割り当てられる部屋は必ず二人部屋。
 二人は、いつしか個別の部屋を持つのを諦めた。
 そして、ベッドだけがレベルアップしていった。


 …


 六課入隊前……。
 リインが、なのはとフェイトに話し掛ける。


 「お二人の部屋、しっ……かり作ってあるですよ!」

 「うん。」

 「楽しみにしてる。」


 そう……この時、二人は諦めていた。
 もう、個別の部屋じゃないんだろうなと。
 そして……。


 「「またベッドが……。」」


 ベッドだけが、超キングサイズにレベルアップした。


 …


  ・
  ・
  と、まあ、こんな感じかな?
  なのはとフェイトの性格を考えると。」

 「諦めたんですか?」

 「人の足を止めるのは絶望ではなく諦め、
  人の足を進めるのは希望ではなく意思ってね。
  いい加減、諦めたんでしょうね。
  局内には、変な噂も一杯あったし。
  『なのはとフェイトを離すと不幸になる』とか
  『二人を離そうとした部隊長が不慮の事故にあった』とか
  『一人部屋作るより、二人部屋一つの方が安くて済む』とか
  他にも悪い噂とか……。」

 「凄いですね……。」

 「私は、今、言った通り、
  子供の頃に言い出せなかったことが
  尾を引いてると思ってるけど。」

 「九歳ですもんね。」

 「言い出し辛かったと思うよ。」


 ヴィヴィオが、アリシアのスカートを引っ張る。


 「アリシアは、なのはさんとフェイトさんのこと詳しいの?」

 「うん。
  なのはとは友達で、フェイトとは姉妹だからね。
  何か聞きたい?」

 「うん。
  好きなもの。」

 「いいね。
  じゃあ、お散歩しながら、
  なのはとフェイトの好きなものをお話しようか?」

 「うん!」

 「アイナ。
  いいかな?」

 「ええ。
  私は、その間に別の部屋も片付けるから。」

 「ありがとう。
  ・
  ・
  じゃあ、行こうか。」


 アリシアは、ヴィヴィオを抱き上げるとザフィーラの背中に乗せる。


 「どう?」

 「あったかい!」


 ザフィーラは、少し笑みを浮かべてアリシアの前を歩き始めた。
 アリシアも、後に続いてなのは達の部屋を後にした。


 …


 ※※※※※ 没ネタ・すごいよ! シグナムさん! ※※※※※

 少し思い出の話を題材に書きたいと思い、上記のようなSSを作成しました。
 以下、没にしたプロットレベルの話を折角ですので追加しました。
 お暇な方は、読んでやってください。
 StSで車を運転していたフェイト、シグナム、はやてを題材にと考え、ライトニングのフェイト、シグナムで話を考えてみました。


 腕を組みながら、シグナムは、隣に座るフェイトに話し掛ける。


 「テスタロッサ。
  車というのは、思ったよりも遅いものだな。」

 「そうですね。
  あのスピードでなら、余裕を持ってハンドルをきれますね。」

 「ああ。
  我等が空を飛ぶよりも遥かに遅い。」

 「はい。」


 シグナムとフェイトは、初めて運転した車の感想をそう漏らした。


 「言い訳は、それだけですか?」


 しかし、二人の目の前の指導教官の顔は厳しい。


 「言い訳など……。
  本当のことを言ったまでです。」

 「え、と……。
  私は、少しやり過ぎたかと……。」

 「少し?
  フェイトさん、あなたは、まだまだ反省が足りないようです。
  そして、シグナムさん……。」

 「何か?」

 「あなたは、全く反省していないようです!」

 「は?」

 「何処の世界に初めての教習で、
  アクセルを目一杯踏み込む人が居るのです!」

 「おかしなことを言う人だ。
  教本には、余裕を持ってハンドルをきればいいと書いてある。
  私の反射速度を持ってすれば、あの程度のスピードなど造作もない。」

 「その前に法定速度を守りなさい!」

 「その速度……合っているのか?
  あまりに遅いが?」

 「合っています!
  間違っているのは、あなたの常識です!」

 「そうなのか?
  テスタロッサ?」

 「え~っと……。」

 「その人に聞いても無駄です!
  その人もあなたと同じで、目一杯アクセルを踏んでいます!」

 「さすがだな、テスタロッサ。」

 「褒めるところじゃありません!
  あなた方は、法を守る管理局の人でしょう!
  初めてですよ!
  初日にカーブでサイドブレーキを引いたのは!」

 「ご冗談を。
  他にも居たでしょう。」

 「言い間違えです!
  初日でサイドブレーキを引かされて、
  ドリフト走行したのがです!」

 「あれがドリフトですか。
  なるほど。
  実は、一度してみたかったが、
  早々に願いが叶うとは思いませんでした。」

 「だから、反省してください!
  あなたは、免許を取る気があるんですか!」

 「無論です。
  しかし、この程度なら取得も早そうだ。」

 「どの口で言いますか!
  あなた方には、まず常識が必要です!」

 「わ、私もですか!?」

 「当然です!」


 …


 はやては、とある教習所の一室から響く声に頬を掻く。


 「シ、シグナムとフェイトちゃんは、ちょっと時間掛かりそうやな……。
  帰ったら、シグナムに一般常識を教えなあかん……。」


 現代に蘇った古代ベルカの騎士は、少し時代錯誤の修正が必要だった。



[25950] 第19話 StS編・新たな艦船は……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:50
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 時空管理局本局……。
 新造艦XV級クラウディア……。
 クロノが艦長を務める艦船。
 そこへ六課から、はやてとティアナが訪れる。


 「はやて。」

 「ようこそクラウディアへ。」


 出迎えは、クロノと査察官のアコース。
 はやては、艦船の中を少し見回して、挨拶の代わりに一言。


 「凄い艦やねぇ。
  さすがは、新造艦や。」

 「まあな。」

 「そうだ。
  こっちも新造艦の用を押し付けられたんや。」


 はやては、ダッシュケースをクロノに渡す。


 「アリシアちゃんから、起動キー。」

 「結構、重かったんじゃないか?」

 「ソフトとデバイスだから、
  そんな重ないはずなんやけどねぇ。」

 「審査を通すのに説明書の類も軽く目を通したんだが、
  起動キーの数が多いんだよ。」

 「……何で?」


 クロノは、話が長くなりそうなので艦船の話を止めることにする。


 「この話は、また後にしよう。」

 「そうやね。」

 「臨時査察を受けたようだが、
  そっちの方は、大丈夫だったか?」

 「うん。
  即時査問は、回避出来たよ。
  ・
  ・
  あ、そや。
  紹介しとくな。
  うちのフォワードリーダー。」


 はやては、連れのティアナを紹介する。


 「執務官志望の……。」

 「ティアナ・ランスター二等陸士であります。」


 ティアナは、気の入った敬礼で挨拶をした。


 「ああ。」

 「よろしく。」


 そして、一同は、話し合いの出来る部屋に移動する。



  第19話 StS編・新たな艦船は……



 一方、六課では、なのはとヴィヴィオの関係にちょっとした変化が加わる。
 昼食の時間、ヴィヴィオの居る部屋で、スバルがヴィヴィオに保護責任者の話をしてみたが……。


 「……?」


 首を傾げるヴィヴィオ。


 「ほら、やっぱりよく分からない。」


 なのはの言葉に思案するスバル。


 「え~と、何て言えば分かるのかな?」

 「私の出番のようね。」


 声を発したのは、ヴィヴィオを相手するために付き添っていたアイナとザフィーラの横で腕組みして立つアリシアだった。


 「アリシアさん?」

 「スバル。
  『さん』は、なしの方向で。」

 「え? はい。」

 「敬語もなしで。」

 「うん。」

 「私も、はやてと同じ属性だよ。」

 「はい?
  ・
  ・
  何か分かった……。」

 「きっと、スバルを含めれば黒い三連星を名乗れる気がする。」

 「話し逸れてる……。」

 「何だっけ?」

 「ヴィヴィオに説明。」

 「おっと。
  なのはとヴィヴィオの関係だよね。
  シロー・アマダとアイナ・サハリンだよ!」

 「…………。」


 誰一人、理解出来なかった。
 スバルは、アリシアを無視してヴィヴィオに話し掛ける。


 「つまり……。
  暫くは、なのはさんがヴィヴィオのママだよってこと。」


 無視されたアリシアは、床にのの字を書き、それをザフィーラが前足を置いて慰めていた。
 ヴィヴィオは、なのはを見て話し掛ける。


 「ママ?」

 「え?」


 スバルは、ヴィヴィオの言葉に、また失言をしてしまったかと焦る。


 「ああ! いや、その……。」

 「いいよ……ママでも。」


 焦るスバルとは、逆になのはは受け入れたようだった。


 「ヴィヴィオの本当のママが見つかるまで、
  なのはさんがママの代わり……。
  ヴィヴィオは、それでもいい?」

 「…………。」

 「……ママ。」

 「はい、ヴィヴィオ。」


 ヴィヴィオは、ママの呼び掛けに返事を返したなのはに抱きつくと大声で泣き出した。


 「何で、泣くの?
  大丈夫だよ、ヴィヴィオ。」

 「……だから、08小隊の例で説明すればよかったのに。」


 スバルは、項垂れてアリシアの言葉に返す。


 「アリシア……。
  それ、絶対に伝わらなかったと思う……。」

 「何で?
  『生きてアイナと添い遂げる!』は、通じるものがあるじゃない。
  これを伝えれば、ヴィヴィオは泣くことも……。」

 「泣かないけど、一生理解出来ないと思う。」

 「ぐぐぐ……。
  昼食中に熱く語り尽くしてやる!」

 (何だろう……。
  フェイトさんと同じ顔してるから、
  凄い違和感がある……。
  フェイトさんは、絶対にこんなこと言わないから。)


 六課では、平和な時間が流れていた。


 …


 再び、クラウディアの一室。
 紅茶にアコース自作のケーキをお茶菓子に、はやてとクロノは会話をしていた。


 「ところで、アリシアちゃんの新造艦は?」

 「ドックで待機中だ。
  廃艦の決まったアースラを買い取った時は、
  一体、何を考えているのかと思ったが……。
  アースラを新造艦に改造するとは思わなかった。」

 「アースラか……。
  まだまだ頑張れそうやったけど。」

 「二年前の時点で、かなり蓄積された損傷があったから、
  長期任務には、そろそろ耐えられないと思われていたんだ。」

 「でも、私達の思い出の艦やからなぁ。
  アリシアちゃんも、思い入れがあったんやろなぁ。」

 「本当は、十分働いたんだから、
  休ませてあげたかったんだがな。
  アリシアは、
  『この子は、まだ頑張れる。
   もう一度、皆と飛びたいって願ってる』って、聞かなかったんだ。」

 「そうなんかぁ。」

 「実際、一度完全にバラして造り直しているから、
  仲間内では、これと同じ新造艦を造った方が早いと言われていた。」

 「よく形に出来たねぇ。」

 「そこなんだが、艦船なんて一人では造れないだろう?
  携わった人間をリストアップすると幅広い名前が出て来るんだ。
  有名な教授から科学者や研究者……そして、新人まで。」

 「どんな人脈なんよ?」

 「アリシアの回った部署の人間だ。」

 「でも、有名な教授が、
  何で、新人のアリシアちゃんに協力するん?」

 「しかも、ほぼ無償でな。」

 「どんな魔法を使ったんよ?」

 「自由という魔法だよ。」

 「自由?」

 「研究するにしても開発するにしても、莫大な資金が必要だ。
  だから、彼らは、それを得るために組織や企業に身売りする。
  だが、結局、それは自分のしたいことではない。」

 「うん。」

 「だから、アリシアは、自分の特許を売って資材と施設を揃えて、
  各分野のスペシャリストに、好きに開発をさせたんだ。
  当然、ただで思い通りに出来れば、
  お金じゃなく成果に魅力を持つ技術者が喰いつく。
  そして、そういった者は、老若男女問わないため、
  これだけの広い人脈が形成される。」

 「この前、私のことを言ってたくせに……。
  自分も大概やないか……。」

 「だが、アリシアが凄いのはそこじゃない。
  その好き勝手させた開発の成果を一つに纏められることなんだ。
  作られたハードは、出力も利便性も他に合わすことなんて考えていない。
  ただ性能を意識しただけのハイスペックなものだ。
  それを制御するソフトや繋ぎ合わせる新規回路を組み込んで艦船に組み込んでいく。
  逆の工程で作られたものを纏め上げているんだ。」

 「ひょっとして……。
  とんでもない艦船だったりするんやろか?」

 「ああ。
  とんでもないな。
  このクラウディアより、一回りから二回り小さいのに装備も性能も出力も上だ。
  しかも、同型のエンジンは、補助エンジンでメインのエンジンは別系統だ。」

 「メインエンジンは、どうやって動くんよ……。」

 「ロストロギアのエネルギー結晶だよ。
  だが、使用許可は出ないから、
  補助エンジンで動くことになるだろう。」

 「一体、どんな構想の艦船なんやろう?」

 「デバイスだよ。」

 「デバイス?」


 クロノは、画面を呼び出してアリシアの説明書を見せる。


 「まず、アリシアの艦船が小型なのは、
  人員を減らしているためなんだ。
  本来、艦船を動かすには多人数が必要だが、
  アリシアの艦船は、一人でも動かせる。」

 「どうして?」

 「人がやることを起動したデバイスが全て行なうからだ。
  だから、起動キーが沢山必要なんだ。」

 「なるほど……。」

 「更にデバイスを起動すると杖状にならずにアームが出る。
  これで人間と同じ作業が出来る。
  そして、人間だと生活する空間……居住区が必要になるが、デバイスには必要ない。
  掌に収まるデバイスが多くあっても、
  持って来て貰ったダッシュケースに入るスペースで十分だ。」

 「それが艦船が小さい理由なんやね。」

 「ああ。
  そして、アリシアは、この艦船自体もデバイスとして考えているんだ。
  艦船を一つの起動した杖として考えている。
  補助エンジンだけだと、このクラウディアと変わらない航行。
  そして、クラウディアにはない防御スキル……艦首にバリア系と帆にシールド系の生成が可能だ。」

 「な……。」

 「説明書には、メインエンジンを起動すれば、
  フィールド系で艦船を包み込むことも可能と記載されている。
  レイジングハートからのデータから、砲撃も出来るようになるし、
  バルディッシュからのデータからは、高速で動く時の航行操作術にダメージ回復のリカバリー。
  クラールヴィントのデータから、レーダーの精度も上がる仕組みだ。」

 「そんなん……チートもいいところやないか。」

 「まあな。
  だが、弱点がないわけじゃない。」

 「?」

 「これを再現出来るロストロギアが手に入らん。」


 はやてが、こけた。


 「何やそれ!」

 「更に言えば、補助エンジンだけでは、
  バリア系とシールド系の展開も長時間使用不可能だ。
  ・
  ・
  使える機能で、他の艦船より優れているところを簡単にあげると……。
  小型だけどクラウディアより広い艦内、
  時間制限付きのバリア発生機能、
  少人数での艦船操作可能……こんなところだろう。」

 「ハイスペック過ぎて使えんのか……。」

 「ああ。
  度外視して作られたハードで形成された艦船だからな。
  それでも最新鋭のこの艦船よりも優れているのは認めるよ。」

 「どうしてかなぁ……。
  アリシアちゃんが関わるものには、いっつも落ちがあるのは……。」

 「我が妹ながら、そこら辺は、未だに掴めないところだ。」

 「はは……。
  まあ、本来のポテンシャルをフルに引き出せた時は、
  関わった技術者さん達は大歓喜やろな。」

 「そんな連中が作ったから、常識を度外視した艦船になるんだ……。
  お陰で審査を通すのにどれだけ苦労したか……。」

 「お兄ちゃん、お疲れ様やね。」


 クロノは、盛大な溜息を吐いた。
 はやては、もう一度、画面の説明書を見る。


 「まあ、でも……。
  私、このデザインは好きやなぁ。」

 「そうか?
  僕は、思いっきりアリシアの趣味が入ってると思うが……。」

 「うん。
  男の子の船みたいじゃなくてええのよ。」

 「それは一理あるな。」


 二人は、納得した。
 しかし、アリシアが読んでいる漫画や見ているアニメは、決して女の子向けではない。
 二人の納得は、当然、裏切られることになる。

 そして、はやてとティアナは、クラウディアを後にした。
 お昼は、ティアナがアコースに聞いたお勧めの料理屋で舌鼓を打ち、帰宅の途についた。


 …


 その日の夜……。
 六課のなのはとフェイトの部屋にて、ヴィヴィオにもう一つの環境の変化があった。
 フェイトがヴィヴィオに話し掛けていた。


 「そう、なのはがママになってくれたんだ。」

 「うん。」

 「でも、実は、フェイトさんもちょっとだけ、
  ヴィヴィオのママになったんだよ。」

 「?」

 「後見人っていうのになったからね。
  ヴィヴィオとなのはママを見守る役目があるの。」

 「なのはママとフェイトママ?」

 「うん。」

 「そう。」


 なのはとフェイトがヴィヴィオの手を片方ずつ握る。
 ヴィヴィオは、どっちがママなのか交互になのはとフェイトの顔を見る。


 「ママ……。」

 「「はーい。」」

 「あ。」


 そして、両方が自分のママだと理解すると嬉しそうにヴィヴィオは微笑んだ。


 …


 シャマルがザフィーラに話し掛ける。


 「じゃあ、ヴィヴィオは、
  なのはちゃんとフェイトちゃんがママになったのね?」

 「ああ。」

 「どんな気持ちなのかしら?」

 「明日、様子を見て、夜にでも報告しよう。」

 「お願いね。
  ・
  ・
  ところで、アリシアちゃんは?」

 「アリシア?」

 「そう、アリシアちゃんの位置付け。
  フェイトちゃんが、ママなんでしょう?」

 「多分、ワンランク下だ。」

 「ワンランク下?」

 「ヴィヴィオは、アリシアを
  同年代の友達としか思っていないと思う。」

 「でも、背の高さも違うし……。」

 「本能で理解したのであろう。
  精神年齢が近いと……。」

 「…………。」

 (アリシアちゃん……。)


 ザフィーラの分析は、かなり当たっていると思われる。



[25950] 第20話 StS編・アリシアとピーマンと毒電波
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:50
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 ここ暫く六課では、静かな時間が流れていた。
 戦闘機人とはあれ以来接触はなく、大きな事件も起きていない。
 それでも、事前策を取らなければいけないのは確かであり、六課にはスバルの姉である陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹と本局技術部の精密技術菅マリエル・アテンザが出向という形で訪れる。
 そして、時間の大部分は、日々の訓練に費やされる。
 それは全員に自由な時間が増えることも意味し、その自由な時間は、六課の人達とヴィヴィオにより良い関係を作る時間を与えることにもなった。

 六課の一室……。
 顔を洗い終わり、ヴィヴィオは、アイナへ報告に走って来た。


 「アイナさん、出来た。」

 「はい、よく出来ました。」

 「うん。」


 そして、お出掛けの準備。


 「ちょっと待ってね。
  ママのお迎え、ちゃんと可愛くしていかないとね。」

 「うん!」


 アイナが、ヴィヴィオにお出かけ用の青いリボンを結い始める。
 ザフィーラは、静かに見守っているアリシアに目を向ける。


 「あのリボン……。
  なのはっていうより、小さいアリサよね?」

 「黙っていると思ったら、
  そんなことを考えていたのか?」

 「まあね。」

 「…………。」

 「ツンデレじゃないアリサ……。
  魅力半減か?」

 「…………。」

 「しかし、あれはあれで……。
  アリサを知っている人間からすれば、一粒で二度美味しい……。」

 (ママへの格上げは、程遠いな……。)



  第20話 StS編・アリシアとピーマンと毒電波



 時間は流れ、昼食の時間……。
 隊長達とフォワード陣の和やかな時間が流れる。
 そして、ヴィヴィオが一生懸命に食事を用意している。
 キャロとエリオが、ヴィヴィオに近寄る。


 「どうしたの?」

 「ママ達の。」

 「ヴィヴィオが持って行くの?」

 「うん。」


 エリオは、フェイトの方を見る。
 フェイトは、『お願い』と念話で手伝うのを頼んだ。


 「重いから、僕が持ってあげるよ。」

 「私も。」

 「ありがと。
  ・
  ・
  じゃあ、これとこれとこれ。」

 「決まってるの?」

 「うん。
  アリシアにママ達の好きなもの教えて貰った。」

 「そうなんだ。」

 「でも、エリオ君。」

 「うん?」

 「これ、本当になのはさんとフェイトさんの好きなものかな?」

 「……分からない。」


 とりあえず、二人は、ヴィヴィオに従った。


 …


 ヴィヴィオが、なのはとフェイトに駆け寄る。


 「ママ~!」

 「ありがとね、ヴィヴィオ。」

 「ふふん♪」


 エリオとキャロが、なのはとフェイトの前にトレイを置く。


 「メニューは、何か……な?」

 「…………。」


 なのはとフェイトが固まる。

 フェイトのメニュー……一言で言うと黒い。
 ひたすらに黒い。
 ご飯は、”ごはんですよ”で覆われて真っ黒。
 おかずは、ひじきに黒豆。
 ご飯に被って、再び焼き海苔。

 なのはのメニュー。
 パン。
 焼き魚。
 焼き肉。
 焼き鳥。
 焼き野菜の盛り合わせ。


 「へへぇ♪」


 ヴィヴィオは、ご満悦。
 なのはが、ヴィヴィオに尋ねる。


 「ヴィ、ヴィヴィオ……。
  これ、どういうテーマなのかな?」

 「ママ達の好きなもの!」

 「え?」

 「フェイトママは、黒が好き!
  なのはママは、全力全開で焼いたのが好き!」

 「黒……。」

 「全力全開……。」

 ((それでか……。))


 なのはとフェイトは、子供の考えで強ち間違いじゃないと項垂れる。


 「アリシアが言ってた!」

 「「!」」


 しかし、情報源に顔を上げる。
 なのはとフェイトは、犯人を捜して食堂を見回すが、まだ現れて居なかった。


 「「アリシア(ちゃん)~~~!」」


 他の皆は、笑いを堪えていた。


 …


 なのはとフェイトは、とりあえず今日は、ヴィヴィオの用意してくれた昼食を食べる。
 そして、昼食の間に誤解も解く。
 暫くするとヴィヴィオの手が止まった。


 「ヴィヴィオ、駄目だよ。
  ピーマン残しちゃ。」

 「苦いのきらーい!」

 「ええ? 美味しいよ。」

 「しっかり食べないとおっきくなれないんだから。」


 ピーマンと格闘中のヴィヴィオにママ達からのエールが飛ぶ。


 「そやなぁ。
  しっかり食べないとママ達みたいな美人になれないよ。」


 はやての言葉にヴィヴィオは、しぶしぶ決心を決め始める。
 しかし、同じ様な内容の会話が別のところから聞こえる。


 …


 「アリシア、ピーマン残ってるよ?」

 「それは食べ物じゃないから食べない。」


 教育に良くない声に全員の視線が向かう。
 アリシアは、寮母の皆さんと食事をしていた。


 「ピーマンなんて食べなくても、勝手にでかくなるわよ。
  どうしてもって言うなら、サプリメントを一錠飲む。」

 「そこまで嫌なの?」

 「イヤ。」


 …


 ヴィヴィオは、アリシアを見てフェイトを見る。
 フェイトは、笑顔で誤魔化すとアリシアに念話を飛ばした。


 『アリシア!』

 「ん?」


 アリシアは、フェイトに気付くと笑顔で手を振る。
 そして、更に続ける。


 「ピーマンの存在意義が分からないのよね~。」


 フェイトの強い念話が飛ぶ。


 『アリシア!
  今、ヴィヴィオが食べようとしているところ!
  そういうこと言っちゃ、ダメ!』

 『関係ないよ。
  嫌いなものを無理に食べさせると
  親御さんが乗り込んで来るよ?』

 『私が母親!』

 『分かったわよ。
  静かにしてるわよ。』

 『もう、手遅れだよ!
  ヴィヴィオの手が止まっちゃったよ!』

 『分かったってば。
  私が、そこでピーマン食べて平気だよって、
  思わせればいいんでしょ?』


 アリシアは、ゆっくりと立ち上がるとヴィヴィオの側に近寄る。


 「ヴィヴィオ、ピーマン嫌いなの?」

 「嫌い……。」

 「私もだよ。
  でも、一つ嫌いなものから逃げたら、
  また逃げることになっちゃうんだよ。」

 「うぅぅ……。」

 「今回は、私と一緒に頑張ってみようか?
  二人なら、頑張れるでしょ?」

 「……うん。」


 ヴィヴィオは、ピーマンの輪切りの一つをフォークに刺す。
 アリシアも、自分の食べ残しのピーマンを取りに行こうとする。
 しかし、肩を掴まれた。


 「フェイト?」

 「はい、アリシアの分。」


 手に渡されたもの……。


 「これ、丸ごとじゃない!」

 「ヴィヴィオ……。
  アリシアは、ヴィヴィオよりも大きいのを食べるよ。」

 「言ってない!
  そもそも、種ごとなんて無理!」

 「大丈夫だよ。」

 「なのは?」

 「そう言うと思って、種は取ってあるから。」

 「逃げ道が塞がれた……。
  ・
  ・
  と、いうか、何かあった?」

 「「何も……。」」


 何かあった後だった。
 アリシアは、手の中のピーマンを一筋の汗を流して見つめ続ける。


 「アリシア?」


 ヴィヴィオの純粋な目にアリシアは、追い詰められる。


 「ヴィヴィオ、約束だよ。
  私が食べたら、ちゃんと食べるんだよ。」

 「うん。」

 「じゃあ、せーので食べようか?」

 「うん。」

 「せーの。」


 ヴィヴィオは、フォークに刺さるピーマンを食べ、アリシアは、ピーマンに噛り付いた。


 「…………。」


 ピーマンの丸齧りは好き嫌い問わず、見ていてきついものがあった。
 しかし……。


 「……意外とイケるわね。」

 「「え?」」

 「私、食べず嫌いだったみたい。
  ヴィヴィオ、大丈夫だよ。」


 アリシアは、笑顔でピーマンを食べ切った。
 そして、なのはとフェイトの復讐は、失敗に終わったかのように見えた。
 ヴィータが感想を漏らす。


 「すげぇな……。
  アイツ、弱点あるのか?
  ああいう風に弱点が克服されたら、
  仕返し出来ねーよな?」

 「全くだ。
  この前のことが思い出される。」


 シグナムも呆れる。
 そして、ヴィヴィオがピーマンを食べ切ると、アリシアは、ヴィヴィオの頭を撫でて自分の席に戻って行った。

 その二分後、魔法に関わる者に災難が降った。


 …


 食堂は、混沌とした。
 ある者は吹き、ある者はむせ返り、ある者はテーブルに頭を打ちつけた。


 『まっず……。』


 アリシアの念話が、ヴィヴィオを覗いた全員に強制的に伝わった。


 『口が苦い……。
  青臭い……。
  死にそう……。
  ・
  ・
  誰よ? 最初にピーマンを食べようなんて思った馬鹿は?
  お陰で、こんな不味いものが食用になっちゃったじゃない。
  考えられない。
  何で、こんなものが食べられるの?
  その時点で食べられると分かっても、栽培に踏み切らないでよ。
  馬鹿じゃないの?
  馬鹿じゃないの?
  馬鹿じゃないの?
  馬・鹿・じゃ・な・い・の!』


 強制的に流れるアリシアの念話という毒電波。
 食堂には、魔法に関わる者全員に如何にピーマンが下らない食べ物かが流れ続ける。


 『大体、何で、日本にもあるのよ?
  ここ世界が違うけど……。
  名前からして、カタカナなんだから、
  どっかの国から来た輸入物じゃないの?
  つまり、こんなもの食べなくても、
  昔の日本人は、生きて来れたのよ。
  この世に必要のない食べ物なのよ。
  それなのに何で、受け入れるわけ?
  訳分からない……。
  ・
  ・
  やっぱり、ピーマンの存在意義が分からない……。
  そして、それを強要する世間一般の親の考えが理解出来ない……。
  栄養のバランス?
  そんなものは、他の食材で補いなさいよ。
  何で、ピーマンなのよ?
  ピーマン以外でいいじゃない。』


 こんな毒電波が飛び続け、強制的に受信させられる。
 フェイトが立ち上がった。


 「アリシア!」

 「…………。」


 フェイトが、アリシアの席に駆け寄る。


 「…………。」


 そこには、呆然と生気のない目で上を見上げるアリシアの姿があった。


 「ア、アリシア?」

 「…………。」

 (アリシアが壊れた……。)


 フェイトは、アリシアの両肩を掴んで揺する。


 「アリシア!
  アリシアってば!」

 「…………。」

 「しっかりして!」

 「……ああ、フェイト。
  光だけが広がっていく……。」

 「ちょっと!
  何、言ってるの!?」

 「大丈夫……。
  私は、もう好き嫌いしないから……。」

 「悪かったよ!
  もう無理にピーマン食べなくていいから!」

 「何を言っているの?
  ヴィヴィオの前で?」

 「それもあるけど!
  この電波止めて!」

 「フェイト……。
  人間から、強力な電波は出ないよ……。」

 「出てるよ!
  毒電波!
  念話を止めて!」

 「はは……。
  何をおかしなことを……。
  私は、今、無我の境地にあって、
  何も考えてないよ……。」

 「何も考えなしで、ピーマンについて語ってるよ!」

 「フェイト……。
  母様が見える……。」

 「どうしてピーマン一個で、そうなっちゃうの!?」

 「いいこと考えた……。
  今度、戦闘機人が来たら、
  私、ピーマン齧る……。
  そうしたら、奴等は、私の毒電波の餌食だ……。
  フェイト、これで役に立てるね?」

 「立てないよ!
  そんなのやられたら、味方も大混乱だよ!」


 …


 ヴィータが、シグナムに話し掛ける。


 「前言撤回……。
  仕返しは、成功してたな……。」

 「だが、成功したらしたでこれだ……。」


 ヴィータとシグナムは、溜息を吐いた。
 そして、別の席では、ギンガが、スバルに話し掛ける。


 「ろ、六課って、楽しいところね?」

 「違う~……。
  アリシアだけがおかしいの~……。」


 項垂れるスバルにギンガは、苦笑いを浮かべる。
 念話の届かなかったヴィヴィオだけが首を傾げた。
 そして、嫌いなものの食べ残し禁止、丸齧りは、尚、禁止になった。



[25950] 第21話 StS編・アリシア技術部門復帰
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:51
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 六課でのアリシアの立場が元に戻る。
 フォワード陣のリミッターがワンランク上がるためだ。
 アリシアは、アイナに部署替えの挨拶をしてヴィヴィオに挨拶する。


 「ヴィヴィオ、お仕事入っちゃった。
  暫く遊べなくなっちゃう。」

 「え~!」

 「私も寂しいよ。
  折角、44ソニックが完成するところだったのに……。」

 「そうだね……。」

 「お昼休みとかにママ達も含めて完成させようね。」

 「うん!」


 ちなみに44ソニックと言っても、ヴィヴィオが剛速球を投げるわけではない。
 ただのキャッチボールで、一定の距離を制覇したら名前が変わるだけである。
 名前は、結構、いい加減で、スノーミラージュボール→レインボースパークボール→サンダーバキュームボール→ハイパースピンブラックホールボールと変化を続けて、次の距離を44ソニックと勝手に命名して挑戦中であった。



  第21話 StS編・アリシア技術部門復帰



 ヴィヴィオは、アリシアに手を出す。


 「ん?」

 「お仕事行くなら、お人形?」

 「それ、ママルールじゃないの?」

 「アリシアも!」


 以前作った人形は、意外な役目を果たしていた。
 小さいヴィヴィオは、どうしてもなのはと離れたくない時がある。
 その時、代わりになのはの兎人形が渡される。
 これは、なのはのものを大事にヴィヴィオが持つことで、一緒に仕事をしている……つまり、ヴィヴィオが人形を大事に預かる役目をしていると思わせている。
 なのはが返った時、ヴィヴィオから人形がなのはに返還されれば、預かってくれてありがとうとお仕事を共有したように錯覚させるのである。


 「どうしようかな?
  多分、勤務長いんだよね。
  ・
  ・
  ヴィヴィオ、何日か預かって貰うことになるけど……。
  大丈夫?」

 「大丈夫!」

 「そっか。
  じゃあ、アリシア兎をよろしくね。
  皆と仲良くさせてね。」

 「うん!」


 ヴィヴィオは、アリシアから人形を受け取ると、いつも大事に置いている兎の人形の一番横に並べた。


 (大家族になったわねぇ。
  なのはの切っ掛けの兎に……。
  なのは兎、ヴィヴィオ兎、フェイト兎、アリシア兎か……。
  ・
  ・
  大事にしてくれるのは嬉しいかな?)


 アリシアは、少し嬉しそうに微笑むと技術者として仕事場に戻って行った。


 …


 平穏な日々が続き、一週間……。
 公開意見陳述会が始まる。
 聖王教会の騎士カリムの予言もあり、六課では隊員達にはやてが警護の主旨を説明していた。
 そして、はやて、シグナム、フェイトを除くメンバーは、夜間のシフトで警備に当たることになった。


 …


 夜間のヘリでの出発……。
 ヘリポートにて、ヘリに乗り込んで行く隊員達。
 その見送りにヴィヴィオが、アイナに連れられて顔を出していた。


 「あれ? ヴィヴィオ?
  どうしたの?」


 なのはは、心配そうなヴィヴィオに話し掛ける。


 「ここは、危ないよ。」

 「ごめんなさいね、なのは隊長。
  どうしても、ママのお見送りするんだって。」

 「駄目だよ、ヴィヴィオ。
  アイナさんに我が侭言っちゃ……。」

 「ごめんなさい……。」


 俯くヴィヴィオを見て、フェイトがなのはへ補足する。


 「なのは、夜勤でお出掛けは初めてだから、
  不安なんだよ……きっと。」

 「あ……そっか。
  ・
  ・
  なのはママ、今夜は、外でお泊りだけど、
  明日の夜には、ちゃんと帰って来るから。」

 「絶対……?」

 「絶対に絶対。」


 なのはから優しく差し出される小指。


 「いい子で待ってたら、
  ヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるから。」

 「うん……。」

 「ママと約束ね。」


 ヴィヴィオは、自分の小指をなのはの小指に絡ませる。
 そして、見送りが終わると、ヴィヴィオは、フェイトに手を引かれて隊舎に戻って行った。


 …


 おまけ?

 お見送り終え、寝室にてフェイトの家族の写真を眺めるヴィヴィオ。


 「リンディママは、フェイトママのママ……。
  こっちのママも、フェイトママのママ……?」

 「そうだよ、テスタロッサのおうちのプレシア母さん。」

 「……こっちは、アリシア?」

 「そう。
  一緒に撮ったんだ。」

 「皆、少し変な顔してる。」


 フェイトは、写真立ての後ろを外すと他にも収められている写真を見せる。


 「撮るの失敗しちゃったんだ。
  でも、大切な思い出だから、失敗しても大事に取ってあるんだよ。」

 「思い出?」

 「そうだよ。」

 「見せて。」

 「うん。」


 ヴィヴィオは、あの日の写真を眺める。


 「この写真……皆、笑ってる。」

 「そうだね。
  失敗の後だったから、思わず笑っちゃったんだ。
  ・
  ・
  今度、皆で写真撮ろうか?」

 「フェイトママと?」

 「うん。
  なのはママもアリシアも……六課の皆とヴィヴィオで。
  きっと、楽しいよ。」

 「うん!
  ・
  ・
  これ、どうやって撮るの?
  これも撮ってみたい。」

 「ん?
  ・
  ・
  アリシアの後頭部……。
  タイマーが止まらなかった時のだ……。
  ヴィヴィオ、これは撮ってもしょうがないよ。」

 「ふ~ん……。
  大きいのに。」

 (大きいのに惹かれたのか……。)


 フェイトの中で、ちょっとだけ、あの日の思い出が蘇った。


 …


 公開意見陳述会……。
 それは、カリムの予言の日でもある。
 本局や各世界の代表によるミッドチルダ地上管理局運営に関する意見交換が目的の会。
 地上本部の防御の要として準備が急がれていた『アインヘリアル』と呼ばれた何かをアピールする場でもある。
 そのため、本局よりの扱いは少し悪い。
 警備位置が隅だったり、デバイスの持ち込み禁止など……。
 アリシアが、その場に居れば『馬鹿じゃないの!』を連呼していた可能性が高い。

 そのアリシアは、技術部の席でテレビを見ながら呟いていた。


 「馬鹿じゃないの……。」


 やっぱり言っていた。


 「まあ、政治ネタは、どうでもいいわよ。
  何も期待してないし。
  何処の世界でも、くだらないのが取り仕切ってて、
  下の連中が尻拭いするのは同じなんだから。」

 「ア、アリシア……。
  間違っても査察に来た人に言わないでよ。」

 「分かってるよ、シャーリー。
  気の知れたシャーリーにだから語ってるの。」

 「そう?」

 「うん。
  それよりさ。
  はやても映ってたよね?」

 「ええ。」

 「実はさ。
  凄い違和感があるのよね?」

 「何で?
  毅然とした姿だったわよ?」

 「そこ。
  私、ちょっと前まで、はやてとなのはとフェイトが、
  学生服で並んで歩いてるのを見ているのよ。
  簡単に言えば、近所の女の子三人組。
  それがよ?
  あんなムッサイおっさん達と政治を語り合ってる違和感!
  自然と流れる敬語の嵐!
  どうして、こうなった!?
  いつから、魔法少女が政治に介入を!?」

 「……大丈夫?」

 「違和感ないの?」

 「あまりないかな?
  管理局は、結構、若い人も多いし。
  アリシアのお兄さんのクロノ提督も若いじゃない。」

 「そうだった……。
  もしかして、管理局って平均年齢凄く低い?」

 「低いかもね。」

 「う~ん……。
  何でだろう?
  ・
  ・
  閃いた!」

 「本当?」

 「うん!
  厳密に言えば、ここ宇宙人の集まりだからだ!」


 シャーリーが、ガクッと肩を落とした。


 「な、何それ?」

 「いやね。
  思い返せば、私も含めて地球外生命体の集まりでしょ?
  世界が違うって言うけど、文化も全然違うんだよ。
  地球に浸ってたから忘れてたけど、
  異文化コミュニケーションのごちゃ混ぜなのが管理局なのよ。」

 「まあ、極端に言えば、そうかもしれないけど……。」

 「まさにリアルドラゴンボールだよね。
  そのうち、惑星を売り買いするフリーザ様みたいのが出て来て、
  なのは達は、戦いをすることになるかもしれないわね。」

 「それはないんじゃ……。
  実際、管理局に居るのは、ほとんどヒト科の人達で形成されてるし……。
  食べ物も医療も同じ様に適用されているわけだから……。」

 「そっか……。
  進化の過程はほぼ同じで、文化だけが違うのか……。」

 「多分ね。
  そして、リンカーコアを持つ人間と
  持たない人間に二分されていると思うよ。」

 「がっかり……。
  宇宙人が居たと思ったのに。」

 「アリシア……。
  今頃、こんなことを思ったの?」

 「ん?
  ・
  ・
  ごめん、四年ぐらい前にフェイトと話してた。」

 「アリシア!」


 六課の一室では、公開意見陳述会の緊張など全然感じさせていなかった。
 しかし、四時間後、事態は一変する。



[25950] 第22話 StS編・ロングアーチの攻防
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:51
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 地上本部へのクラッキング。
 そこから、事態が動き出す。
 通信施設の無力化、動力部の襲撃、召喚されたガジェットに囲まれたAMFによる壁、長距離からの砲撃……。
 地上本部は、完全に閉じ込められて隔離される。
 迎撃に向かった管理局の航空魔導師も、二人の戦闘機人に一気にやられた。

 テレビで流れる混乱の映像に六課でも、慌ただしくなる。
 ロングアーチにて、部隊長からの指揮を待つ体制に移行し始めた。



  第22話 StS編・ロングアーチの攻防



 ロングアーチとのやりとりで、本部に向かう何者かをヴィータとリインが追う。
 フォワード陣は、地上本部に閉じ込められた隊長達にデバイスを届けるために別行動。
 戦闘は、直ぐに開始された。
 空で接触したゼストと名乗った男 対 ヴィータ……。
 地下で新たな戦闘機人 対 フォワード陣……。
 そして、六課の隊舎にも二人の戦闘機人が向かっていた。


 …


 ロングアーチから、隊舎内部に指示が出る。
 近隣部隊への応援要請。
 バックヤードスタッフの退避。
 アリシアは、バックヤードスタッフの扱いだが、途中で引き返すことにした。


 「シャーリーのサポートに回った方がいい気がする……。
  地上本部に出払って、六課で戦える魔導師なんて数えるだけ。
  映像に映っていた戦闘機人は、二人で地上部隊の航空魔導師を退けていた。
  応援に駆けつける部隊が地上本部に回される魔導師より、
  優秀とはとても思えない。」


 アリシアは、自分のデバイスを握る。


 「頼りないマスターで悪いけど、
  技術屋のデバイスとして力を貸してね。」


 アリシアは、ロングアーチへと走り出した。


 …


 僅かな時間での襲撃で、六課の隊舎は火の海に包まれていた。
 ロングアーチでは、戦闘機人の攻撃で設備が次々と無力化した。
 サポートが出来なくなった通信士のシャーリーとアルトは、部隊長補佐のグリフィスの指示でバックヤードスタッフ同様に退避指示が出された。
 そして、僅かな通信設備を残し、ロングアーチにはグリフィスと通信士のルキノを残すだけになっていた。
 そして、退避命令の出ていたロングアーチの扉をアリシアが開けた。


 「アリシア?」


 アリシアは、ロングアーチの破壊された設備に奥歯を噛み締める。


 (六課の防御システムも破壊されてる……。
  長くは持たない……。)


 アリシアは、残っているグリフィスとルキノに話し掛ける。


 「状況を教えて。
  今、外では、どうなっているの?」

 「シャマルさんとザフィーラが……。」


 ルキノの言葉にアリシアの頭の中で優先順位が整理されていく。
 そして、グリフィスは、部隊長補佐の立場からアリシアに命令する。


 「アリシアは、直ぐに退避を!
  通信設備もほとんど壊されて、何も出来ない!
  シャーリーもアルトも退避して貰った!」


 アリシアは、首を振る。


 「それは間違いだよ。
  今から、シャマルのサポートをしなくちゃいけない。
  これが今やる最善だよ。」

 「シャマル……?」

 「グリフィス。
  今、六課で一番大事なのはシャマルなんだよ。
  今、ここには戦える魔導師が一人も居ないだけ。
  私達が耐え抜いて時間を稼げば、必ずスターズかライトニングが戻って来る。
  その時、負傷した隊員達を治せるのは、誰?」

 「そうか……。」

 「うん。
  守護騎士の中で守備力が高いシャマルとザフィーラが
  外で守ってくれているのは間違いじゃないけど、
  シャマルの能力と魔力は、先を考えて絶対に守らなくちゃいけない。」

 「でも、システムもいずれ完全に……。」


 アリシアは、自分のデバイスを起動する。
 白と黒の投げナイフのうち、白い方をグリフィスに渡す。


 「六課の端末ほどじゃないけど、
  それなりの性能をこの子達は持ってる。
  それを使って、シャマルをサポートするよ。」


 ルキノが、グリフィスの側まで近づくと質問する。


 「どうやって?」

 「白い子が六課の内部にサーチャーを飛ばす。
  黒い子が外でサーチャーを飛ばす。
  中と外の情報がリンクして、立体的に隊舎の状況を報告してくれる。
  その情報をルキノがシャマルに送ってあげて。
  把握した情報で、完全に破壊されているところを守る必要なんてないし、
  壊させてもいいところは守らなくていい。
  重要なところだけをシャマルに指示してあげることが出来れば、
  魔力を節約出来るし、耐え抜く時間も増える。」


 ルキノが頷く。
 アリシアが、グリフィスを見る。


 「指示を頂戴。」

 「指示?」

 「私は、黒い子を持って、外に行かなくちゃいけない。
  六課のシステムがダウンする以上、
  この子達で通信するしかないから。」

 「ガジェットは、どうするんだ?
  内部には、ガジェットが居るんだぞ?」

 「だから、グリフィスの指示が要るの。
  ルキノと連携して、私を外まで導いて。」

 「しかし……。」

 「ガジェットの攻撃を避ける自信はあるよ。
  この六課で、ガジェットについて一番知っているのは、
  シャーリーと私なんだから。
  ・
  ・
  それに絶対に戦わない!
  私は、痛いの大っ嫌いだから!」

 「……アリシア。
  それ、何の根拠もないんだけど……。」

 「重要だよ。
  怪我しないって宣言してんだから。」


 グリフィスは、溜息を吐く。


 「アリシア、本当に頼って大丈夫なのか?」

 「任せて。
  それに約束する。
  無理だと判断したら引き返す。」

 「分かった。
  今、出来る最善をしよう。
  これから、全力でシャマルをサポートする。」


 アリシアとルキノが頷く。
 アリシアは、ルキノに話し掛ける。


 「じゃあ、ルキノ。
  その子に命令してあげて。
  サーチャーを飛ばしてって。」


 ルキノは、頷く。


 「お願い……出来ますか?」

 『Yes Sir.』


 白い投げナイフの先端からサーチャーが飛び出し、六課の内部に散って行く。


 「いい子だ。」


 アリシアは、ルキノにポケットのカートリッジを一つ渡す。


 「ちょっと特別でね。
  私が魔導師じゃないから、魔力が切れたらロードしてあげて。
  端末動かすだけだから、魔力は切れないと思うけど。」

 「分かりました。」


 ロングアーチを出ようとするアリシアに、グリフィスが、伝え忘れていた情報を付け加える。


 「さっき、隊長達に連絡は入れたから……。
  だから、それまで何とか凌ごう。」

 「うん。
  ・
  ・
  じゃあ、行って来るね。」


 アリシアは、ロングアーチを後にした。
 残されたルキノが、グリフィスに話し掛ける。


 「アリシアって……あんなに頼りになる子だっけ?
  何だか、年上のお姉さんに諭された感じだった。」

 「ルキノもか……。
  僕も、何故かあれ以上、止められなかった。」


 アリシアは、長い間閉じ込めていた性格の一つを解放していた。


 …


 グリフィスの指示で、六課の内部を右へ左へと駆け回る。
 崩落した廊下を避け、ガジェットを避ける。


 「いい感じ……。
  敵と遭遇してない。
  ・
  ・
  もしかしたら、私が魔法特性低いのも関係しているのかもしれない。
  ガジェットが無視するほどの……。」


 アリシアは、言ってて俯いた。


 「自分でテンション下げて、どうするのよ……。」


 アリシアは、溜息を吐くと走り続ける。
 そして、グリフィスから停止の指示が入る。


 『ガジェットが三体、道を塞いでいる!』


 アリシアは、舌打ちをすると辺りを見回す。
 少し長めの鉄パイプを拾い上げると曲がり角の先に居るガジェットに警戒する。
 小さく息を吸うと決心する。


 「アリシア……。
  上手くやりなさいよ……。」


 アリシアは、ガジェットに向かって走り出した。


 …


 ガジェット三体が、一斉にアリシアに向きを変える。


 「Ⅰ型で助かったわ。」


 頭の中では、シミュレーションを作った際のガジェットのデータが駆け巡る。
 レーザーの発射のタイミングを完全に見切ると屈んで避ける。


 「見える……。
  私にも敵が見える!」


 そして、次の行動パターンに移られる前にガジェットへ接近して、鉄パイプを棒高跳びの要領で突き立てる。
 アリシアが、ガジェットの上へ舞い上がる。


 (蝶のように舞い……。)


 音もなく着地する。


 (猫のように降り立ち……。
  そして……。)


 アリシアは、全力で走り出す。


 「ゴキブリのように逃げる!」


 アリシアは、逃げ出した。


 …


 ロングアーチでは、グリフィスとルキノが、がっくりと肩を落として脱力していた。


 「た、戦う気ありませんね……。」

 「それはそれで安心したが……。
  ゴキブリって……。」


 アリシアの行動は、味方も油断出来ない。



[25950] 第23話 StS編・六課隊舎の攻防
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:52
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 六課の崩壊激しい廊下をアリシアは全力で走る。


 「キャー!
  来た来た来た来た!
  ガジェットが追って来たーっ!」


 アリシアが、屈んだ上をレーザーが通り抜ける。


 「撃って来た!
  レーザー撃って来た!」


 そして、他にも飛んで来るレーザーは、アリシアの長い髪の先端をかすった。


 「尻尾が焦げた!
  アイツらめ!」


 全力で走っても、魔法スキルのないアリシアにガジェットが直ぐに追い着くのは当たり前のこと。
 行き先を飛び越えても、逃げ果せることは出来ないようだ。


 「フェイトのソニック・ムーブがあれば……!
  こいつら倒したら、今日の魔力使い切っちゃうし!」


 アリシアは、ポケットの中のカートリッジをスイッチを押して握ると十字路の右側に投げる。
 瞬間的に上がった魔力にガジェットが向きを変えた。


 「惨めね……。
  私は、薬莢以下の存在か……。」


 アリシアは、ガジェットを置きざりにして走り抜ける。
 そして、玄関に辿り着き、その先に続く黒煙の中に飛び込んだ。




  第23話 StS編・六課隊舎の攻防



 シャマルが息を切らせ、空中の戦闘機人二人を睨む。
 既に重症を負わされたザフィーラが横たわり、防戦しか出来ない。
 その状況の中で、黒煙を突っ切り、アリシアが姿を現す。
 そして、握り締めたデバイスを突き上げる。


 「私は、今、猛烈に熱血してる!」

 「アリシアちゃん!?」


 アリシアのデバイスからサーチャーが飛ぶとロングアーチのグリフィス達に情報が飛んだ。


 …


 グリフィスとルキノが同時に叫ぶ。


 「「来た!」」


 アリシアのデバイスを通して、データが更新される。
 内部と外部のデータがリンクし、転送するデータが完成する。


 「送信!」


 データが、アリシアとシャマルのもとへと戻る。
 そして、これと同時に六課のシステムはダウンした。


 …


 戦闘機人の一人が、新たに現れた人間に少しだけ警戒する。
 しかし、直ぐに言葉を漏らす。


 「あの出来損ないか……。」


 アリシアは、自分のことだと分かったが無視する。
 今は、それどころではない。
 デバイスから端末を引き出し、キーボードを叩く。
 シャマルの前に一枚の画面が開くと、シャマルは、直ぐに理解した。


 「助かりました……。
  でも、どれだけ役立てることが出来るか……。」


 アリシアは、会話を聞かれないように念話を飛ばす。


 『時間稼ぎでいい……。
  連絡は入れたから、戦える誰かが戻るまで。』

 『持ち……ますかね?』

 『サポートする!
  防御系のシールドも広範囲から、指定するポイントだけに!
  シャマルには、アイツらが撤退した後の治療があるから、
  倒れることも許さない!』

 『……厳しいですね。』


 アリシアは、ザフィーラを見る。


 『まず、血を止めなきゃ……。
  ここで、私の魔力を全部使い切る!
  指示を頂戴!』


 シャマルは、ちらりとザフィーラを見るとアリシアに指示を出す。


 「アリシアちゃんの魔法じゃ、全て止血出来ません。
  重症なところの傷に全て費やしてください。」

 「分かった。」


 アリシアは、本日の魔力を治癒魔法のプログラム作成に回す。
 血液の流れをコントロールするプログラム。
 活性化させて傷を塞ぐプログラム。
 そして、残りの魔力はデバイスを介さず、直接治癒魔法の機動へ。


 「プログラム・インプット!
  カートリッジ・ロード!
  ・
  ・
  ごめん……無理させる。
  シャマルのサポートが出来るギリギリまでロードして……。」

 『Yes Sir.』


 アリシアのデバイスは、三回ほどロードを繰り返すと小破する。
 アリシアは、魔法陣の起動したデバイスをザフィーラに近づける。
 シャマルから、位置が指示される。


 「刀傷を頼りに出血の多いところを探して。」


 アリシアは、刀傷に沿って治癒魔法を掛ける。


 「傷が深い……。」


 デバイスとは別に自身での治癒魔法も傷口に近づける。


 (アリシアちゃんの魔法で……血が止まるかどうか。)


 シャマルは、戦闘機人に警戒しながらも、ザフィーラを気に掛ける。


 「薄皮一枚作るのが、やっと……。
  他にも血を止めなきゃいけないのに魔法が切れそう……。」

 「それでいいです。
  魔法が切れたら、縛って血管を止めてください。」

 「分かった。
  でも、魔力が尽きて切れるまでは……。」


 アリシアの必死の治癒魔法は続く。
 そして、動いた短髪の戦闘機人をシャマルが睨む。


 「これで最後だ。」


 短髪の戦闘機人から一言言葉が漏れる。
 緑の魔力光が溢れ、隊舎に降り注ぐ。
 データを基に展開したシャマルのシールドが全体の一部を無視して防いでみせる。


 「耐えた……?」

 (まだ、こちらが守る箇所を特定したことに気付いてない……。
  だけど、長くは騙せない……。
  同じことを……向こうも攻撃する範囲を絞って、一点に集中されたら……。
  今度は、抜かれる……。)


 シャマルは、ギリギリの駆け引きの中で六課を守り続けていた。


 …


 アリシアが自分の上着を切り裂き、即席の包帯を作る。
 魔法で止血出来なかったザフィーラの傷口を縛っていく。


 「血さえ流れなければ……。
  死なない……。
  死なせない……。」


 アリシアは、目に見える傷口を縛り終えるとシャマルを見る。
 シャマルの肩が激しく上下している。


 (シャマルもギリギリだ……。
  それに戦闘機人は、もう一人居るんだ。
  あれがシャマルを同時に襲ったら……。)


 アリシアは、最悪を想像する。


 (どれだけ、時間が稼げたんだろう……。
  後、どれだけ耐え抜かなければいけないんだろう……。)


 時間は、いつもの何倍も遅く流れているように感じた。


 …


 時間は、少し戻る……。
 地上本部では、隊長達と合流したフォワード陣が指示の下で行動を分割していた。
 スターズは、連絡の取れなくなったギンガを追って、再び地下へ。
 ライトニングは、グリフィスから連絡を受けて六課へ。
 そして、シグナムは、ヴィータのところへと向かっていた。

 六課隊員の戦闘は、今まで培ったチームワークを活かせないバラバラの状況下での戦闘になっていた。
 そして、六課隊舎へ向かうライトニングは、途中、別の戦闘機人と接触していた。
 フェイトが戦闘を受け持ち、エリオとキャロが先行して六課隊舎へと向かったが、時間は、また削られてしまった。


 …


 シャマルの限界が近い……。
 そして、遂に戦闘機人に見破られた。
 目的が隊舎から、シャマル個人へと変わった。


 「アリシアちゃん!」


 アリシアは、頷くとザフィーラを抱きかかえて、シャマルの背後にピッタリと張り付くように移動する。


 「これでいい?」

 「はい!
  ここに一点集中のシールドを張ります!」


 戦闘機人が、隊舎を指差す。


 「それで、あれを守れるの?」

 「拙い!」

 「シャマル! 嘘!」

 「!」


 シャマルは、アリシアの言葉に反応して、そのままシールドを張り続ける。
 そして、アリシアの言った通りに飛んで来た魔力光を防ぐ。


 「よく分かったね……。」

 「っ!」


 遊ばれている状況に、シャマルは、睨み返すことしか出来ない。
 しかし、手詰まりの状況下で、視線の先にフリードが見えた。
 アリシアが、シャマルに声を掛ける。


 「これで戦える……。」

 「ええ……。」


 だが、一息つくことも出来ない。
 シャマルの相手をしていた戦闘機人が向きを変えた。


 「今度は、キャロ達に向かうつもりだよ!」

 「エリオが!」


 アリシア達の視線の先で、エリオは、召喚師の少女に連れて行かれるヴィヴィオを見つけるとキャロと別行動に出た。
 そして、もう一人の髪の長い戦闘機人の横からの攻撃で海へと落下した。
 アリシアは、ようやく理解する。


 「あの……残ってた戦闘機人は、
  隊舎を攻撃していた戦闘機人のガードだったんだ……。
  だから、こっちに仕掛けて来なかったんだ……。
  ・
  ・
  やられた……。
  向こうは、連携を取って、この日のために仕掛けて来ているのに、
  こっちは、地上本部と隊舎で戦力を分散されてる……。」


 シャマルは、アリシアの言葉を聞いて、次に出来ることを考える。
 しかし、手が浮かばない。
 助太刀に来たエリオとキャロも、温存されていたもう一人の戦闘機人に落とされた。
 アリシアが、抱いていたザフィーラを横たえ、立ち上がる。


 「打つ手なしだね……。
  次の一撃は、私が受けるよ。
  シャマルには怪我人を治療する役目があるからね。」

 「アリシアちゃん……?
  何を言って……。」

 「最後まで、諦めるつもりはないけど……。
  時間を稼ぐのにもう少し何かが必要みたいだよ。」


 アリシアは、小破した自分のデバイスを見る。


 「ごめんね……。
  魔力が尽きてるから、発動プログラムもダウンロード出来ない。
  インプットしてあるプログラムで、
  アイツを止めれそうなの選んでくれる?」

 『Yes Sir.
  However, If I stop an act……』

 「分かってる……。
  狙いが急所になるんだよね……。
  ・
  ・
  まあ、でも……。
  こっちも死ぬかもだし、
  向こうもそれぐらいの覚悟……して貰わないと!」


 アリシアは、デバイスを強く握り、カートリッジを差し込む。


 「アイツは、ミスを犯した!
  私に何回も攻撃を見せた!
  撃った後のチャージまでの隙は見逃さない!
  ・
  ・
  カートリッジ……。」


 アリシアが覚悟を決め、自分のデバイスに命令しようとした瞬間……海面に召喚の魔法陣が浮かんだ。


 …


 俯いたキャロから、小さな言葉が漏れる。


 「何で、こんな……。」


 止め処なく流れる涙は、止まる気配を見せない。



 「竜騎召喚……。
  ・
  ・
  ヴォルテール!」


 海面に広がる巨大な魔法陣より、巨大な竜が姿を現す。


 「壊さないで……。
  私達の居場所を……壊さないで!」


 キャロの叫びに呼応して、竜から炎の奔流が流れる。
 その竜が、隊舎を覆っていたガジェットを一掃していった。


 …


 アリシアは、その光景を暫く立ち尽くして見ていた。
 戦闘機人が、その隙に姿を消したのにも気付かなかった。
 そして、その頃、事件の黒幕であるジェイル・スカリエッティから、犯行声明が出されていたことなど知る由もなかった。



[25950] 第24話 StS編・襲撃の後……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:52
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 初めて見る戦火……。
 壊され燃えているのは、自分達が昨日まで過ごした隊舎……。
 壊される過程を見ていた。
 途中、もう持たないと見極めたはずなのに……現実を受け入れられない。


 「アリシアちゃん……。」


 シャマルの声で、アリシアは、ようやく我に帰った。



  第24話 StS編・襲撃の後……



 アリシアは、自分の言動を思い出す。
 あれだけ偉そうなことを言って、立ち止まっているわけにはいかない。
 自分の耳には、声が聞こえている。


 「キャロが泣いてる……。
  行かなきゃ……。」


 アリシアは、静かに目を閉じると気持ちを立て直す。


 「シャマル……指示を貰う前に、
  キャロのところに行っていいかな?」

 「ええ……。」

 「カートリッジ・ロード。」

 『Recovery.』


 アリシアは、さっきはデバイスに回復もさせないで、無理させようとしていたんだと反省する。


 「冷静でなんていられないんだな……。
  戦いの場では……。
  自分だけは、平気なんだと思ってたよ。」

 「アリシアちゃん……。」

 「もう少しで、自分のデバイスを壊すかもしれなかった。
  ・
  ・
  でも、反省は後にする。
  シャマル、私のデバイスでグリフィスと連絡を取り合って。」

 「分かったわ。」


 シャマルが、アリシアのデバイスを受け取る。


 「そうだ!
  ザフィーラ!」

 「応急処置まで終えたわ。」

 「……私、呆けてるね。
  しっかりしなくちゃ。
  ・
  ・
  シャマル!
  後、よろしく!」


 アリシアは、キャロのところへ走って行った。


 「こんなことが起きれば、
  皆、冷静でいられないわ。
  アリシアちゃんだけが特別じゃない。
  ・
  ・
  そして、体を動かしていないとどうしようもないのよね?」


 シャマルは、ザフィーラを抱きかかえると、アリシアのデバイスでグリフィスに連絡を入れた。


 …


 アリシアは、巨大な竜の足元でキャロを見つける。
 キャロの近くにエリオも見える。
 キャロが、海から引っ張り上げたに違いない。


 「……キャロ?」


 キャロは、ボロボロになった顔でアリシアに縋りついた。


 「エリオ君が……。
  六課が……。
  私達の居場所なのに……。」


 アリシアは、キャロが居場所に強い思い入れがあるのを思い出す。
 一族を追放されて放浪し、管理局に来ても研究所をたらい回しにされていた。
 そのキャロが自分から六課を選んで、頑張った居場所。
 それが目の前で壊されたのだ。

 アリシアは、キャロにゆっくりと話す。


 「キャロ……。
  凄く心が痛いよね。
  私も同じだよ。」

 「…………。」

 「だけど、キャロの居場所……取り戻せるよ。」

 「……本当ですか?」

 「うん。
  隊舎は壊れちゃったけど、皆、居るよ。
  六課っていうのは、建物じゃないよね?
  ここに集まった人達だよね?」

 「……はい。」

 「皆が居れば、そこはキャロの居場所だよ。」

 「…………。」

 「だから、その居場所で怪我をしている人が居る。
  失くしちゃいけない人が居る。
  私には、何の力もなくて、その人達を助ける力もない……。
  でも、キャロには居場所を守れる力がある。
  このキャロの友達に頼めるかな?
  瓦礫を退かしたり、火を消したりしたいんだ。」

 「ヴォルテールに……。」

 「うん。
  ヴォルテールとキャロの力で……。
  ・
  ・
  建物の方は、キャロが望むなら、
  私がツナギを着て、コンクリ捏ねて建て直すよ。」

 「え?」


 キャロは、何となく想像出来るアリシアの姿を思い浮かべると微笑む。


 「その時は、私も手伝います。」

 「いいの?
  結構、力仕事だよ?」

 「……はい。
  アリシアさんと……。
  六課の皆で頑張りたいんです。」

 (キャロは、大丈夫かな?)


 アリシアは、気絶しているエリオを見る。
 エリオをシャマルのところに連れて行かなければならない。


 「じゃあ、連れてくか。
  ・
  ・
  あ、そうだ。
  キャロ。」

 「はい?」

 「皆を助けるのは、一緒に始めようか?
  エリオをシャマルのところに連れて行くから、
  片方、肩貸してよ。」

 「はい!」


 力強く返事を返したキャロに、アリシアは、安堵の息を吐く。
 そして、キャロがエリオの腕を肩に回し、キャロより背の高いアリシアがエリオの腕に腕を回して歩き出した。


 …


 六課隊舎へ戦闘機人を退けたフェイトが、上空からアリシア達を見つけると降り立つ。


 「アリシア!」

 「あ、フェイト。」

 「エリオ!
  どうしたの!?」

 「こっちでも、戦闘機人と戦闘になったんだ。
  撃墜されたエリオは、キャロが助けてくれた。」

 「そうなんだ。
  キャロ、ありがとう。」

 「そんなことないです……。
  私も、結局、役に立てませんでした……。」

 「そんなことないよ。
  最後のガジェットをキャロがやっつけてくれなかったら、
  間違いなく死人が出ていたよ。
  多分、私が。」

 ((アリシア(さん)……。))


 フェイトとキャロが項垂れた。


 「と、そんなことより、エリオを連れて行かないと。」

 「あ!」

 「どうしたの? キャロ?」

 「ヴィヴィオ!
  連れて行かれたんです!」

 「何で、キャロが知ってるの?」

 「エリオ君は、ヴィヴィオを取り返そうとしてたから……。」

 「そっか……。
  遠目で分からなかったけど、
  エリオがキャロと連携取らなかったのは……。」

 「キャロ。
  後で、詳しく聞かせてくれるかな?」

 「はい。」


 シャマルのところへ合流するのにフェイトも加わる。
 アリシアが、フェイトに話し掛ける。


 「フェイト。
  もしかしたら、サーチャーの記録に残ってるかも。
  私のデバイスは、シャマルとルキノが持ってるから、聞いてみて。」

 「分かった。」

 「後、出来るかの確認なんだけど……。」

 「何?」

 「随分前になのはとフェイトで、魔力の受け渡しをやってたよね?
  訓練生の時の練習だったかな?
  それ、シャマルに出来ない?」

 「シャマル?」

 「隊舎を守って、魔力が尽き掛けてるの。
  今は、残った魔力で怪我人の治療に当たってる。」

 「シャマル……無事だったんだね?」


 アリシアは、首を振る。


 「ザフィーラは、大怪我。
  きっと、シャマルも無理してる。
  怪我してない人なんて居ないよ。」

 「アリシアも?」


 アリシアは、手を広げる。


 「私は、鉄パイプで飛んだ時に
  掌をガリガリと引っ掻いただけ。」

 「……聞いてて痛いよ。
  それより、鉄パイプで飛ぶって、何?」

 「ガジェットと、出くわしちゃってさ。
  回避する時に鉄パイプ使って、飛び越えたのよ。」

 「一番、危ないよ!
  アリシアは、バリアジャケットを着れないんだよ!」

 「そうですよ!」

 「ご、ごめん……。
  でも、六課のシステムがダウン寸前で、
  シャマルと連絡取る方法も、
  外からデータを取り込む方法も思いつかなくて……。」


 フェイトは、溜息を吐く。


 「どうして、昔からおてんばなのかな?」

 「緊急事態なんだから、今回は、許してよ。」

 「アリシアは、時々、お姉ちゃんに戻るから、
  心配になる時があるよ。」

 「……今回もそうかも。」


 キャロは、変な会話に首を傾げた。
 その後、グリフィスが指揮する仮設本部で、各々、仕事が振り分けられる。
 エリオは、ここで棄権。
 フェイトとキャロが、現場の後処理。
 フェイトに魔力を分けて貰ったシャマルが、治療を受け持つ。
 アリシアは、シャマルの助手として治療を手伝うことになった。

 また、スターズは、地上本部で後処理に追われ、スバルは、大怪我をして病院に運ばれた。
 その大怪我の原因は、姉のギンガが戦闘機人に攫われたことが原因だった。


 …


 ※※※※※ シャマルの治療魔法について ※※※※※

 StS本編では、治療魔法を使う場面がなかったシャマル。
 しかし、このSSでは、ロングアーチで、はやての代わりに指揮するグリフィス同様に活躍して貰いました。

 さて、シャマルの治療魔法ですが、完全回復は出来ないこととします。
 原作の流れを辿れないという理由もありますが、治療魔法にも制限があると考えたからです。
 魔法は、万能ですが絶対ではないと思います。
 出血が多いのに活性化させて傷を塞ぐと体力がないのに無理させて死にかねないと思うからです。

 つまり、治療魔法が有効なのは、怪我をした直後や体力に余裕がある時と考えます。
 故に失血死しかねないザフィーラに掛けられる魔法にも制限が存在し、同様にヴァイスも制限が発生することになります。
 新たに魔法を掛けるなら、点滴などで魔法の活性化に耐えられる体力が回復してからになります。
 一応、この理由付けなら、原作でも入院していた理由と等価になりませんかね?
 寛大なお心で、ご容赦願います。



[25950] 第25話 StS編・夜から朝へ、そして……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:53
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 六課の隊員の大半は病院へと搬送され、動ける者は、深夜になっても動いていた。
 そして、六課隊舎の鎮火、地上本部の要人を安全な場所に移して、ようやく訪れる静かな時間。
 その時間も夜が明けて、現場の調査が開始される僅かな時間でしかない。
 多くの者は、長い一日の疲れを癒すために眠りについていた。

 しかし、眠りにつけない人間も居る。


 「アリシア……。」


 病院の屋上で、夜風に当たっていたアリシアに、フェイトは、声を掛けた。



  第25話 StS編・夜から朝へ、そして……



 アリシアは、少しフェイトに振り返る。


 「ストーカーでも流行ってるの?」

 「違うよ……。
  アリシア、手は?」

 「治して貰った。
  私は、軽症だったからね。」


 フェイトは、アリシアの横に腰掛ける。


 「汚れるよ?
  ベンチじゃない縁なんだから。」

 「アリシアは?」

 「気にしない……。
  と、いうか、フェイトに言って気付いた。」

 「重症だね?」

 「うん……。
  落ち込んでるんだ……。
  今日ほど、自分に魔法特性がないのを悔やんだ日はないよ。
  敵を前に何も出来ず……。
  傷ついた仲間も治療出来ず……。
  ・
  ・
  挙句、出来たのは口出しだけ。
  それもシャマルに無理させるだけ。
  惨めだよ……。」

 「でも、アリシアが駆けつけたから、
  ザフィーラの出血量は、少なく済んだって……。」

 「あそこで馬鹿して役に立ったのって、
  結局、それぐらいだよね。
  まあ、ザフィーラの症状が少しでも軽く済んだんなら、
  それぐらいなんて言えないけど。
  ・
  ・
  何だかんだで、命が一番大事だからね。」

 「アリシア……。
  うん、命は大事だよね……。」

 「私達は知っているんだ。
  一秒だって無駄にしない生き方を……。
  そして、その時間がどうして大事かを……。
  ・
  ・
  って、こんな切ないことを考えてたんじゃないのよ。」

 「じゃあ、何を考えてたの?」

 「今回の六課の襲撃。」

 「予言のこと?」

 「それはなし。
  一緒に考えると面倒臭くなる。」

 「面倒って……。
  それも加味して動いていたはやてを
  無視する言葉だよね?」

 「話すの止めようか?」

 「や、止めないでよ!
  気になるから!」

 「言っとくけど、大したことじゃないからね?
  ・
  ・
  今回の襲撃って、かなり練られたものだなって思ったの。」

 「練られた?」

 「うん。
  何か六課の戦力を上手く分散したな……って。
  変な話、地上本部を襲撃した時、
  動ける部隊が六課だけって知られてたみたいなんだよね。」

 「そんなことないよ。
  ちゃんと、地上部隊も出てたよ。」

 「役に立ってた?」

 「え?」

 「今回の戦闘機人って、皮肉にもはやての作ろうとした部隊を
  逆に証明された形なんだよ。」

 「量より質ってこと?」

 「うん。
  レジアス中将の演説だと地上本部は、%で結果を上げることを言ってた。
  でも、実際、数で上回っていた地上本部の航空魔導師が
  二体の戦闘機人によって壊滅状態。
  ・
  ・
  私とシャーリーが苦労して作ったガジェットのシミュレーターは、
  一体、何処で使われたのかしらね~。」

 「使ってないとしか……。」

 「だよね~……。
  使ってたら、ああはならないよね~。
  あははははは!
  ムカツク!
  あのオヤジ!」

 「アリシア!
  何が言いたいの!」

 「不平不満!
  適度な睡眠不足が気分をハイにさせるのよ!」

 「本当に何が言いたいの……。
  心配で、わざわざ話しに来たのに……。」

 「だから……情報が漏れてたんじゃないかって。」

 「…………。」


 フェイトは、アリシアの言い回しが、言い難くて遠回しにしていたと気付く。


 「……多分、そう思っているのはアリシアだけじゃないよ。
  ヴィヴィオが攫われたのも証拠の一つになってるから。
  ヴィヴィオが六課に居たのが漏れてたと思う。
  そして、ヴィヴィオが目的なら、
  公開意見陳述会に警護が裂かれるのは、絶好の機会だった。
  隊長陣は、地上本部に隔離、
  ガジェットとの戦闘を想定して訓練していたフォワード陣も借り出される。
  六課に居るヴィヴィオの守りは……薄い。」

 「公開意見陳述会の日程は分かっている。
  でも、ヴィヴィオの居場所だけは……ってことだよね。
  普通に考えれば、私以外にも違和感持つか……。」

 「ティアナ辺りは、気付いているかもね。
  あの子は、頭いいから。」

 「……だね。」

 「それで……。
  アリシアは、どうするの?」

 「ん?」

 「アリシアは、嫌なんでしょう?
  その、レジアス中将をああ言うぐらいだから……。」

 「そうだね……。
  でも、投げ出せないんだよね。
  フェイトのバルディッシュを
  やっと、メンテナンス出来るようになったし……。
  ・
  ・
  ここで辞めたら、この数ヶ月のためだけの努力だしね。
  それに……。」

 「?」

 「地上本部だけが悪いわけじゃないしね。
  根本は、魔導師が足りない人手不足。」

 「そうだね。
  本局と地上本部で、魔導師の取り合いになっちゃってるもんね。」

 「フェイト達が、幼くして管理局に入れたのがいい例だよ。
  管理局は、いつも人手不足。」

 「そのサポートをするアリシアは辞めれないね?」

 「本当に……。
  でも、希望もあるよね?」

 「希望?」

 「はやてが、私の住み易い管理局にしてくれるでしょう。
  私は、安心して管理局に居続けられるよ。」

 「は、はやて任せなの?」

 「いえいえ。
  熱い友情の織り成す信頼ですよ。」

 「そうなのかな……。
  そうかもしれないけど、
  アリシアが言うと裏がありそうだよ。」

 「いいじゃない。
  私が成人するまでにフェイト達で、
  いい管理局にしてよ。
  私は、のんべんだらりと楽して生きていくから。」

 「させないよ!
  絶対に扱き使うんだから!」

 「扱き使うって……。
  そんな言葉、いつ覚えたのよ……。」

 「そ、そうじゃなくて、
  一緒に真面目に働くの!」

 「はは……。
  働くよ。
  フェイトと……仕方なく。」

 「もう!」


 アリシアは、伸びをする。


 「フェイトのお陰で、少し気が晴れたよ。」

 「私は、もやもやが残ったよ!」

 「…………。」

 「ごめん……。
  私は、自分の特性上、最前線には立てないけど、
  バックアップの最前衛に立ち続けることを約束するから……。」

 「……じゃあ、許してあげる。」

 「ありがとう。
  明日からは、少し積極的に動くよ。
  はやての側に居る……。
  ・
  ・
  こんな変なのでも、話を聞いてあげることは出来るからね。
  部隊長の立場上、愚痴の一つも言えないんじゃ……ね?」

 「そうだね……。
  でも、アリシアに話して大丈夫かな?」

 「どういう意味よ!」


 フェイトとアリシアは、緊張した一日から少し気を抜いた時間を過ごす。
 少し胸のうちにあった影を吐き出して、明日のために切り替える。
 個人では、どうしようもならない大きな流れを信頼出来る仲間で変えていくために……。


 「アリシア、ヴィヴィオのこと……心配してないの?」

 「はやてに六課の体制を立て直して貰わないと救いに行けない……。
  頭に血が上っても、やることは分かってるつもり。
  ・
  ・
  ヴィヴィオを助けるなら、敵地に乗り込まないといけない。
  皆で、もう一度、力を合わせるの。
  スターズ、ライトニング、ロングアーチ、バックヤード……。
  この機能が全部合わさった時の六課の力は、
  こんなもんじゃないはずだよね?」

 「うん!」


 アリシアは、いつもの笑顔を浮かべる。


 「さて、寝ようか?」

 「明日から、今以上にエネルギーがいるからね。」

 「数時間でも、ぐっすり眠れそうだよ。」


 フェイトは、先を歩くアリシアを見る。


 「励ますつもりが、最後に励まされちゃったかな?
  アリシア……また、お姉ちゃんになってるよ。
  暫く見てなかったのに……。
  ・
  ・
  でも、気持ち……誤魔化せないよね。」


 フェイトも、アリシアに続く。
 そして、短い睡眠を二人は、取るのだった。


 …


 翌日……。
 六課の破壊された隊舎にて、現場調査が行なわれる。
 破壊尽くされた隊舎で、新たに調査出来るものは、あまり多くないように思われる。
 それでも、破壊したガジェットの残骸から、新たな機能が追加されていないかなど、僅かな痕跡から敵の情報を見つけるために手を抜くことは出来ない。
 それに回収出来るデータや使える備品も運び出さなければならない。


 「酷いことになってしまったな。」

 「シグナム副隊長。」


 ティアナは、破壊された六課の隊舎からシグナムへと視線を移した。
 ティアナは、後から来たシグナムに話し掛ける。


 「病院の方は?」

 「重症だった隊員達も、峠は越えたそうだ。」

 「そうですか……よかった。」

 「高町隊長は?」

 「中です。」

 「様子は、どうだ?」

 「いつも通りです……。
  しっかり、お仕事されてます。
  攫われちゃったヴィヴィオのこととか、
  負傷した隊員達のこと確認したら……後は、少しも。」

 「そうか……。
  こちらは、私が引き継ぐ。
  お前も、病院に顔を出して来るといい。」

 「ですが……。」

 「行ってやれ。」

 「はい。」


 シグナムは、ティアナと現場調査を代わり、ティアナは、なのはに連絡を入れると六課の隊舎を後にした。
 シグナムは、ティアナの言葉を少し思い返すと隊舎の中へと向かった。


 …


 破壊された隊舎の中で、なのはは、気丈に振舞っていた。
 現場を指揮し、自らも調査を進めるため、奥へと歩く。
 その足が、ぴたりと止まる。
 視線の先のものに目が話せない。


 「ああ……。」


 焼け焦げた人形……。
 ヴィヴィオが大事にしていたものだ。
 言葉を失くして、しゃがみ込む。
 なのは兎とフェイト兎が、ヴィヴィオ兎となのはのあげた兎を庇うように覆い被さっている。
 あの時、してあげたかったこと……。
 出来なかったこと……。
 なのはは、人形を拾い上げると強く抱きしめた。

 その蹲るなのはにシグナムが気付き、声を掛けた。


 「なのは……。」

 「人形……。
  ヴィヴィオの大事にしてた……。」

 「そうか……。」


 自分の立場を理解して、なのはは、吐き出したい感情を必死に押し殺している。
 シグナムも、それが分かっているから、今のなのはの気持ちを優先させる。
 隊長であろうとしているなのはを否定しなかった。


 「きっと、必死に抱いてたんだ……。
  これは、ヴィヴィオのだから…取って置かないと……。」

 「ああ……。
  そうして置け……。」


 なのはが、あることに気付く。


 「人形が足りない……。」

 「足りないのか?」

 「うん。
  ヴィヴィオは、アリシアちゃんの兎も持ってたのに……。」

 「慌てて、持ち出せなかったんじゃないのか?」

 「……そうかも。
  でも、この近くに落ちてるのかもしれない……。」


 なのはとシグナムは、辺りを見回し、一点を見つめて止まる。


 「…………。」


 爆発してた。



[25950] 第26話 StS編・はやての気持ち、アリシアの想い
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:54
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 ティアナの向かった病院では、多くの隊員が入院したままだった。
 フェイトは、隊員達に声を掛けて励まして病室を回り、昨日のことを聞いていた。
 そして、シャーリーに至っては、泣き出してしまっていた。
 フェイトは、はやての作り上げた六課が、如何に皆の中で大切なものになっていたのかを強く感じていた。



  第26話 StS編・はやての気持ち、アリシアの想い



 病院では、主力になるメンバーも入院している。
 六課の隊舎を守ったシャマルとザフィーラ。
 地上本部で大怪我をしたスバル。
 ヴァイスは、召喚師の少女との戦闘で重症を負い、意識も戻っていない。
 それ以外にも、ヴィータと一緒に戦ったリインも負傷し、本局で処置を受けている。
 進んだ医療や治療魔法があっても、全員が動けるようになるには時間が掛かる。
 それは、誰の目にも明らかだった。


 …


 壊滅的な状態……。
 そんな状態だからこそ、動かなければならない。
 はやては、地上本部で、レジアス中将の右腕とも言われる女性……オーリスと会話をするために連絡を待っていた。
 そして、連絡の入るまでの待ち時間、休憩室の椅子に座り、今の六課の状況を整理しようと端末の画面を開く。
 しかし、色んなことが頭を掛け巡り、集中出来ない。
 これでは駄目だと大きく息を吐き、纏めるべき事項を頭で整理しようとした時、声を掛けられた。


 「手伝いに来たよ。」

 「アリシアちゃん?」

 「ロングアーチの通信士が入院中だからね。
  データの整理とか全部をはやてがやると大変でしょ?
  皆が動き出せるまで、はやてを手伝うよ。」


 アリシアは、自分のデバイスにお願いして端末を呼び出す。
 そして、現在の六課の現場調査のデータ、病院での隊員のデータを引き出す。


 「心配なのは、こんなところかな?
  調書も作らないといけないもんね。」

 「……はあ。
  正直、助かったかな。
  今、頭の中で整理つかなかったんよ。」

 「報告書なんかも凄い量なんでしょ?」

 「一回死ねる量やね。」


 アリシアは、可笑しそうに笑う。


 「そう思ってね。
  役職の権限の掛からないものは、私が処理するよ。
  はやては、提出前に一回目を通してね。」

 「うん、分かった。」

 「一応、今朝一番に昨日の六課を襲った戦闘機人のデータは纏めたよ。」

 「助かるわぁ。」

 「まあ、六課のシステムがダウンしたから、
  私のデバイスに記憶してたっていうのもあるんだけどね。」

 「ありがとうな。」

 「自給五百円で、何でもするよ。」

 「えらく安いな……。」

 「お友達価格。」

 「しっかり甘えさせて貰うわ。」


 アリシアは、はやての連絡待ちの間、はやてと書類作成に従事するのであった。


 …


 はやてへの連絡は、なかなか入らなかった。
 ただ待つだけならイライラしたかもしれないが、今回の事件に関する報告書などの書類の量は、幾ら作っても終わらないような量だった。
 それでも、大方の書類を纏め上げ、後日報告で記載すべき書類などを整理し終える。
 アリシアは、がっくりと項垂れた。


 「これだけ作って、まだ終わらないよ~……。
  二、三日付き合ってあげる。
  これ、一人じゃ無理だって。」

 「そやね。
  リインと二人でやるつもりやったから、大助かりや。」

 「少しツール作ろうか?
  データを移し書きするだけのツールでも楽んなるよ?
  手入力じゃない分、ヒューマンエラーも減るし。」

 「ほんま? 助かるわぁ。」

 「今、一通り仕事したから、頭ん中にパターンが残ってる。
  忘れる前に作っちゃうよ。」


 はやての前で、アリシアの手がキーボードを恐ろしい速さで叩いていく。


 「さすがやね……。」

 「こればっかりしてるからね。
  でも、コーディネーターみたいに
  OSの書き換えなんて出来ないからね。」

 「そうなん?」

 「ちょこ変なら、兎も角。
  プログラムなんて、上から下まで見ないと分からないよ。
  作った人のクセもあるし……。」

 「じゃあ、アリシアちゃんのプログラムもクセがあるん?」

 「あるよ。
  エイミィのクセに似てる。
  エイミィが先生だからね。
  ・
  ・
  あ。
  エイミィの作ったプログラムなら、
  いきなり改変とかも出来るかも。」

 「ふ~ん……。」

 「出来たよ。」

 (早……。)

 「どうやって、使うん?」

 「ツールのショートカットにドラッグして終わり。」

 「……えらい簡単なんやけど。
  フォーマット変わったら、使えんとちゃう?」

 「使えないよ。
  でも、フォーマットなんて滅多に変わらないと思うよ。
  御役所仕事だから、上の人が変えるの嫌うと思うし。」

 「そういうもん?」

 「多分ね。
  履歴見てみたけど、三年前から変わってないし。」

 「……ほんまやね。」

 「はやて。
  部隊長の中で、一人だけ楽出来るよ。」

 「少しいい気分やね。
  でも、ナカジマ三佐には教えたげよ。」

 「愛人?」

 「ちゃうわ! 恩師や!」

 「残念。
  はやて達の色恋の話を聞かなかったから、
  少しだけ期待したのに。」

 「この子は、ほんまに……。」


 はやては、溜息を吐いた。
 そして、丁度良くオーリスから連絡が入った。
 はやては、少し厳しい顔になると立ち上がる。


 「さて……。」

 「私も居ていい?」

 「あんまり、ええ話やないよ。」

 「もしかして、一般局員が聞いちゃいけないとか?」

 「大丈夫やと思うけど……。
  局員の役職分かり辛いし……。」

 「そうだね。
  フェイトの服が執務官じゃないと
  一般局員と見分けつかないもんね。」

 「そやね。
  じゃ、行こか。」


 はやては、アリシアを伴ってオーリスのところへと向かった。


 …


 地上本部のエレベーター内……。
 会話の個室もなければ、座るところもない。
 はやてへの扱いは小さいのだとアリシアは感じる。
 オーリスは、はやてに話し掛ける。


 「それで、私に聞きたいこととは?」

 「レジアス・ゲイズ中将のお仕事についてです。」

 「特秘事項が多分に含まれます。
  個人として回答出来ることは、ほとんどありませんが。」

 「聞くだけ、聞いて頂けますか?」


 エレベーターが、オーリスの目的の階に着く。
 三人は、長い廊下を進む。
 会話は、歩きながらに変わる。


 「戦闘機人……。
  人造魔導師……。
  いずれも、かつてはレジアス中将が
  局の戦力として採用しようとした技術です。」

 「随分と昔の話です。」

 「安定して数を揃えられる量産可能な力。
  倫理的問題を問われず、量産によるコストダウンさえ出来れば、
  実現可能な計画……。」


 オーリスの歩くスピードが早くなる。
 はやてとアリシアも続く。


 「レジアス中将は、その計画を何処かで
  秘密裏に進めてはいませんでしたか?」


 はやての言葉にオーリスが止まる。
 はやては、続ける。


 「スカリエッティは、その依頼先として理想の存在です。
  違法研究者でなければ、間違いなく歴史に残す天才ですから。
  恐らくは、スカリエッティとの司法取引が行なわれ、
  中将は、機が熟するのを待っていた。
  スカリエッティが人造魔導師や戦闘機人を大量生産し、
  それを地上本部が発見、摘発するという状況を作れるのを……。
  そうなれば、摘発したそれらを試験運用という形に持っていけるでしょうし。
  ・
  ・
  その途中、掴まれたくない事実に近づいた捜査員を事故死させるのも、
  優秀な人造魔導師素体を得ることも……。」

 「下らない妄想は、いい加減にして頂きたいものです。」

 「ご意見を伺いたいだけです。」


 …


 ジャー♪ ジャー♪ ジャー~♪
 ・
 ・
 アリシアの頭の中では、火サスの音楽が流れていた。


 (はやてが、片平なぎさに見える……。)


 そして、どうしようもないことを考えていた。


 (今、犯人の女性と話してる段階ね。
  そして、この後で犯人の説得を……。)


 地上本部に崖はない。
 そんな展開になるわけはなかった。


 …


 アリシアを置いて、オーリスとはやての話は続く。


 「貴方は、入局十年でしたか?」

 「はい。」

 「中将は、四十年です。
  十年前、貴方が自分の命惜しさに自分の騎士に犯罪行為を働かせていた時期にも、
  貴方がその歳で二佐にまで駆け上がれた魔力の源……。
  貴方の体に溶けたロストロギア闇の書が、数多の命を奪い続けていた時期にも、
  中将は、地上の平和を守るため働いていました。」

 「自分と闇の書の罪……否定はしません。
  そやけど、隠された真実があるなら、
  それを日の当たる場所に持って来る……それが今の私の仕事です。」

 「聴視や捜査をしたいなら、
  調査許可証や特別礼状を持って来てください。
  話は、それからです。」

 「近いうち……きっと。」


 オーリスは、振り返る。
 振り返り様、少しアリシアを気に掛けるとはやてを置いて歩き出した。
 はやては、一呼吸置いてアリシアを見る。


 「ちょっと怖かった……かな?」


 アリシアの視線は、少し下がっていた。
 途中、ふざけたことを考えたアリシアであったが、オーリスがはやてを責めた言葉に少し落ち込んだ。


 「はやて……。」

 「ん?」

 「ああいう言い方は、心が痛いね……。」


 はやては、頬を少し指で掻きながら、言葉を返す。


 「まあ……そやね。
  でも、闇の書との関係は付いて回ることやし。」

 「あと、自分と闇の書との罪……否定してよ。」

 「それは……。」

 「はやて……。
  少し話そう。」


 はやては、窓の外に視線を移す。
 夕日は、沈み掛けていた。
 そして、少し考えると帰宅してから行なう仕事は、アリシアと終わらせていたことを思い出す。


 「うん。
  少しだけ……話そか。」


 はやてとアリシアは、夕飯も踏まえて、帰宅途中のレストランで食事をすることにした。


 …


 レストランに着く頃、アリシアは、幾分か落ち着いていた。
 注文を済ますと料理が来るまでの時間、会話をすることにした。


 「あの人、分かってるのかもね?」

 「オーリスさん?」

 「うん。
  理知的な人に見えたから、
  普段なら、ああいう話し方をしないのかなって。
  それでも声をあげて、はやての気にしていることを口にしちゃったのは、
  図星を突かれちゃったからかなって。」

 「そうかもしれへんし、
  そうじゃないかもしれへん。」

 「でも、はやては、何の確証もなしにああいうことを言わないよ。
  機嫌が悪くなる内容だもん。
  それが分かってても、口にしたのは悪いことを悪いと
  言ってあげなくちゃいけなかったからなんでしょ?」

 「……うん。
  色々と調べはついとる。
  調べていく中で点が線になったから、オーリスさんに話した。
  私も同じ様にあの人は、理知的な人だと思っとるからなぁ。」

 「難しいね。
  ・
  ・
  それはそうと、はやての話し方に驚いちゃったよ。」

 「はは……。
  言わんといて。
  自分でも、少し恥ずかしいんやから。」


 はやての答えにアリシアは、少しほっとする。
 はやては、はやてのままで、変わったわけではなく使い分けていただけなんだと。


 「ところで、はやて。」

 「うん?」

 「大丈夫?
  酷いこと言われてたけど?」

 「うん、大丈夫や。
  あんなのは慣れっこや。」

 「……慣れないよ。
  ヴォルケンリッターの皆は、大事な家族じゃない……。
  そういうことを言われれば傷つくよ。」

 「そうやね……。
  嘘やね……。
  ちょっぴり、胸にチクッと来たわ。」

 「あと、建て前もあったと思うけど、
  闇の書の罪っていうのは、否定して欲しいな。」

 「……う~ん、でも、それはなぁ。」

 「私、はやてと夜天の魔導書の物語好きだよ。」

 「……夜天の魔導書の物語?」

 「うん。」

 「私達の事件のこと?」

 「ううん。
  それも含めた私が勝手に作った物語。」


 はやては、ガクッと肩を落とす。


 「そ、そりゃ知らないわけやね……。
  アリシアちゃんが勝手に作ったんなら。」

 「そういえば、そうだね。」


 アリシアは、笑って誤魔化す。


 「で、どんな物語なん?」

 「聞きたい? いいよ。
  でも、夜天の魔導書を振り返ってみようか?
  本来の夜天の魔導書って、少し変なんだよね。」

 「何処が?
  確か……『各地の偉大な魔導師の技術を収集し、
  研究するために作られた収集蓄積型』やろ?」

 「うん。
  ユーノは、そう言ってたね。
  じゃあ、その収拾した技術を回収するのは誰になるの?
  作った本人の手元には、戻って来ないよね?」

 「確かに変やな。
  自分の手元に戻って来ないのに収集し続けるなんて……。」

 「だから、私は、こう考えたんだ。
  夜天の魔導書は、誰かに託すために作られた。
  各地の偉大な魔導師の技術を収集して、
  誰かに託すためのロストロギア。」

 「でも、誰かいうても分からんやないか。
  私は、そこで『自分のためや!』なんて言わないで?」

 「分かってる。
  はやては、そんな傲慢な性格してない。
  ・
  ・
  そこで守護騎士の皆を考えるの。」

 「シグナム達?」

 「うん。
  大昔、ミッドでは魔法が二分されていたよね。
  近接系の個人戦闘に特化しているベルカ式。
  遠近取り揃えたオールラウンド系のミッドチルダ式。
  シグナム達は、ベルカの騎士とも呼ばれるベルカ式の魔導師。
  そして、四人の守護騎士を配置するなら……。
  前衛にシグナムとヴィータ。
  真ん中にザフィーラ。
  後衛にシャマル。
  そして、一番最後に夜天の主。」

 「うん。」

 「この配置には理由がある。
  はやての魔法って、少し特殊だよね。
  夜天の書を開く、呪文を唱える、発動。
  簡単に言うとスリーアクション。
  ・
  ・
  つまり、大きな魔法を使うまで隙が出来る。
  それを守るのが守護騎士なら、
  今あげた配置が理想だと思うんだ。」


 はやては、オーソドックスだが、尤もだと納得する。


 「では、質問です。」

 「?」

 「夜天の主に相応しいのは、ベルカ式の魔導師でしょうか?
  それとも、ミッド式の魔導師でしょうか?」

 「何を突然に……。
  夜天の主の配置から考えて、
  広範囲で遠距離も使えるミッド式やろ?」

 「正解。
  でも、このロストロギアは、ベルカの魔法が礎になってる。
  恐らく作ったのも、ベルカの人と思われる。
  変だよね?」

 「……変や。」

 「私は、そもそも魔導書に人格があったのも不思議だったんだ。
  だから、こういう物語にして納得した。
  きっと、夜天の魔導書は、
  ベルカの人とミッドの人が仲良くなるためのロストロギア。
  ・
  ・
  夜天の主は、ミッドとベルカを繋ぐ存在。
  夜天の魔導書に宿っていたリインフォースは、
  その主を探して夜天の魔導書を届ける案内人。」

 「…………。」

 「途中、悪い人に悪い魔法を掛けられたけど、
  最後の力で、ミッドとベルカを繋いでくれる女の子を選んだ。
  そして、その女の子は、守護騎士を従え、
  ミッドとベルカを繋いでくれました……ハッピーエンド!」

 「私は…そんなこと……。」

 「ううん。
  ハッピーエンドは、動かないよ。
  ・
  ・
  フェイトに聞いたはやて達のお話。
  何で、リインフォースが笑ってお別れしたか……。
  何で、世界で一番幸せな魔導書なのか……。
  だって、リインフォースは、はやてに届けることが出来た。
  本来の目的を果たすことが出来た。
  だから、笑って世界一幸せな魔導書で逝けたんだ。」

 「だったら……。
  私は、リインフォースの期待に応えられているんやろか……。」

 「うん。
  聖王教会のベルカの騎士カリム、シスター・シャッハ、アコース査察官……。
  はやては、嫌いなの?」

 「皆、大好きやよ……。」

 「ミッド式の魔導師のなのはやフェイトは?」

 「大好きやよ……。」

 「繋がってるよ。
  はやてを通して……。
  罪なんてないじゃない?」

 「アリシアちゃん……。
  ・
  ・
  何や、嬉しいなぁ。」


 アリシアは、笑うとチョキを見せる。


 「まあ、オーリスさんの言ってた蒐集のことは、
  気にしないで放っとけばいいよ。」

 「へ?」

 「シグナム達が、はやての人生を考えて、
  死人は出してないじゃん。」

 「いや、それはそうだけど……。」

 「そうだよ。
  それを罪だって思ってんなら、
  そういう風に蒐集してくれたシグナム達を傷つけるよ。」

 「う、う~ん……。」

 「大体、壊れた闇の書が復活するたんびに
  管理局は、アルカンシェルをぶっ放す気なの?」

 「ア、アリシアちゃん?」

 「寧ろ、無限ループのどうしようもないサイクルを
  断ち切ったリインフォースとはやて達に
  土下座ぐらいしてもいいんじゃない?」

 「それは違うやろ……。」

 「蒐集の時の魔力ぐらいケチケチしてんじゃないわよ。
  あんなもん魔人ブーを倒す前の元気玉の元気回収と同じじゃない。
  100メートル全力で走った後みたいなもんよ。」

 「はっきり言うわ……。
  アリシアちゃん、間違っとる!」

 「何で?」

 「少なからず、迷惑を掛けとんのや!」

 「そう?
  まあ、世間一般には、これぐらいにしか思ってないわよ。
  それに見合う努力をはやてがしてんのは、私が認めるよ。」

 「……おかしい。
  途中までは、間違いなくいい話やったのに……。
  何で、最後に突っ込まなあかんねん……。」

 「あ、はやて。
  料理来たよ。」

 「…………。」


 はやては、『何でかなぁ』と額に手を当てる。
 そもそも、アリシアは、オーリスの話を聞いて元気をなくしていなかったか?
 色んな疑問が、はやての頭を駆け巡る。


 「……やめた。
  真面目に考えると馬鹿を見そうや……。」

 「ん?」

 「何でもあらへん……。
  ただアリシアちゃんの物語は、採用決定や。」


 アリシアは、嬉しそうに笑う。


 「ヴィヴィオに絵本作ってあげようかな?」

 「それは恥ずかしいから止めて……。」

 「いいじゃん。
  原案;八神家。
  編集:アリシア・T・ハラオウン。
  ・
  ・
  ヴィヴィオにうけたら、沢山刷って売り出して一財産作れるよ。」

 「ほんまに作りそうで怖いわ……。
  でも、本当に作るなら……一番最初に読ませてな。」

 「うん、いいよ。
  ヴィヴィオには、はやてが読んであげてよ。
  だから、きっちり奪い返そうね!」

 「奪い返すって……物騒な表現やな。」


 はやては、アリシアと一緒に食事を始める。
 食事が終わる頃、少し今までと違う想いが合わさっていた。


 …


 帰り道……。


 「はやて。
  実は、もう絵本にする前の状態で電子データになってんだよね。」

 「な!?
  道理で、スラスラ話が出ると思ったわ!」

 「あはは……。
  六課壊れちゃったから、何処にデータ送ればいいかな?」

 「…………。」

 「リインに送っといて……。
  あの子、日記つけたりで自分の端末持っとるから……。」

 「了解。」


 その夜……。
 目を覚ましたリインから、八神家の皆にアリシア編集の絵本が転送された。



[25950] 第27話 StS編・新たなる翼
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:54
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 六課襲撃から二日が経つ……。
 アリシアが、はやてについていたように六課にはフェイトがついていた。
 フェイトは、深夜にヴィヴィオのことについて気落ちするなのはを励ます。
 アリシアを励ました後だったので、少し既視感を感じる反面、なのはの正常な反応が嬉しかった。


 (アリシア……。
  やっぱり、何処かおかしいよ……。
  なのはは、ちゃんと落ち込んでるのに……。)


 なのはは、まさかフェイトに泣きついている時、アリシアと比べられているとは思いもよらなかった。


 (アリシアの影響なのかな……。
  最近、誰かに泣きつかれる場面が多いような……。)


 多分、フェイトの性格故だと思われる。



  第27話 StS編・新たなる翼



 はやては、忙しなく動く。
 六課のメンバーが、直ぐに動くことが出来るように少しでもやれることはやって置かなければならない。
 入院している隊員達が戻って来た時の居場所も確保しなければいけない。
 本日は、管理局本局へと足を運んでいた。


 「はやて……。
  昨日は、地上本部……。
  今日は、本局?」

 「そうや。」

 「……はやてって、意外とパワフルだよね?」

 「部隊長として、やれることはやっておかな。」

 「こんなの中年のおっさんの管理職ポストじゃない。
  何で、成人式迎える前のねーちゃんが、
  がっつり取り仕切ってんのよ?」


 アリシアは、頭を掻きながら溜息を吐く。
 はやては、アリシアを見ると笑う。
 そして、約束の場所。
 待ち人から、はやては、声を掛けられる。


 「はやて。」

 「ロッサ、ごめんな。
  お待たせや。」

 「ロッサ?」


 待ち人のアコース査察官を相性で呼んだはやてに、アリシアは、首を傾げる。
 アコースが、アリシアに挨拶をする。


 「初めまして。
  ヴェロッサ・アコースです。
  はやては、ロッサと呼ぶんだ。」

 「ああ、なるほど。
  アコース査察官で通っていたもので。
  アリシア・テスタロッサ・ハラオウンです。
  はやては、私のこともロッサと呼びます。」

 「そうなのかい?」

 「呼んだことないわ!
  何で、嘘から入るんよ!」

 「冗談です。
  初めまして。
  アリシアと呼んでね。」


 アリシアの方から手を差し出すと、アコースは、笑顔で手を握り返す。


 「面白い子だね。
  フェイト執務官とは双子なのかい?」

 「双子じゃないよ。
  ただ複雑にこんがらがった事情があるんだ。
  言ってもいいけど、二十分ぐらい語ってもいい?」

 「いいかな? はやて?」

 「いいわけあるか!」

 「ロッサは、はやてをからかい慣れてるね?
  あ、ロッサでいいかな?」

 「君の方こそ、慣れてるね。
  ロッサで構わないよ。」

 「あんたら~……!」


 はやてのグーが、アリシアとアコースに炸裂した。


 「はやて……。
  最近、シャッハに似て来てないか?」

 「誰のせいや!」

 「はやて……。
  最近、フェイトに似て来てない?」

 「二人とも、行動パターン同じか!」


 アリシアとアコースは、顔を見合す。


 ((同じ匂いを感じる……。))


 アリシアとアコースは、笑って誤魔化した。


 (この二人……絶対同類や。)


 はやての中の長年の勘が囁いた。


 …


 場所は、艦船のドッグを見渡せる通路。
 今、整備されている艦船を前にアコースが話し掛ける。


 「さすがのはやても、ちょっと元気がないかい?」

 「う~ん……そやね。
  ギンガやヴィヴィオを攫われたんも大失態や。
  部隊員達にも怪我させてもうたしな。
  ・
  ・
  そやけど、持ってかれたんは取り戻すし、
  今度は、絶対ちゃんと守る!」

 「うん。
  落ち込んでも、やる気は減ってない。
  なかなか立派だ。」

 「夜天の主として、六課の部隊長として……当然や。」


 アコースは、はやての頭を撫でる。
 アリシアは、はやてを子供扱いするアコースに興味が湧いた。


 …


 三人の居る通路の窓から、新造艦船が見える。
 それに目を移してアコースが、はやてに話し掛ける。


 「しかし、本気なのかい?
  はやてとクロノ君の頼みだから、
  何とか許可を取ったけどさ。」

 「隊員達の住居や生活空間も含めて、
  本部は、絶対必要やし……。
  今後を考えれば、移動出来る本部の方がええ。」

 「これ、許可下りたの?」


 アリシアの声にアコースが質問する。


 「この艦、知っているのかい?」

 「知っているも何も、
  その新造艦を設計したんは、アリシアちゃんや。」

 「君が……?」


 少し驚くアコースとは逆に、アリシアは、腕を組んで首を傾げる。


 「おかしいなぁ。
  艦船本体の許可が下りるまで、
  結構、時間が掛かったのに……。
  何で、起動キーとソフトの許可は早かったんだろう?」

 「ああ、それか。
  それは、六課に提供出来る艦船がなかったからだよ。」

 「へ?」

 「都合よく個人製作の艦船が入って来たから、
  上の人が個人で持てる艦船ならって、
  簡単な審査で通したんだ。」

 「今、そんなに切羽詰まってんの?」

 「まあね。」


 アリシアは、溜息を吐く。


 「なら、クロノに骨折って貰わないで、
  ロッサにタイミングを見計らって頼めばよかった。」

 「そんなに都合よく行くもんじゃないよ。
  今回は、結構、無理して貰っているんだから。」

 「ロッサの言い方って、今一、努力が伝わらないんだよね。
  絶対、それで損してるところがあると思うよ。」

 「……心当たりがあるよ。」


 はやては、口を押さえて笑っている。
 アコースが、艦船を指差す。


 「ところで、この艦船……随分と変わった形をしてるね?」

 「そうやろ?
  私、このデザイン好きなんよ。
  添付されてた説明書を見た時から、気に入ってん。」

 「艦船を見るのは初めてなのかい?」

 「うん、そうや。」


 アリシアは、思い出す。


 「はやて。
  本物見るのは、初めてなの?」

 「うん。」

 「じゃあ、あれ気付いてない?」

 「あれ?」


 はやてが、新造艦を見る。
 アリシアの指差しているのは、船首から船底に設置されている黄金の女神像だった。


 「…………。」


 はやてが、一呼吸あけた後、言葉を溢す。


 「リインフォース……。」


 アリシアの作った艦船は、帆船をモチーフにしている。
 船首から船底に掛けて、航海の無事を祈る女神像も当然つけている。
 ただし、アリシアは、その女神像をリインフォースそっくりに仕上げていた。


 「どうして……。」

 「強く支えるもの……。
  幸運の追い風……。
  祝福のエール……。
  リインフォース……。
  ・
  ・
  この船は、どんな凪に入っても止まらない。
  どんな嵐にも沈まない。
  幸運の追い風が後押しするからね。
  勝手に女神像つけたら、ダメだったかな?」


 はやては、首を振る。


 「凄く……気に入った。」


 はやては、懐かしい姿に涙を浮かべていた。
 嬉しそうなはやてを見て、アコースがアリシアに尋ねる。


 「アリシア、この艦船の名前も決まっているんだろう?」

 「うん!」


 はやては、アリシアの口から紡がれる名前を待つ。


 「マザー・バンガード!」


 はやてとアコースがこけた。


 「おかしいやろ!
  そこは、『リインフォース』やろ!」

 「僕も、その名前が出ると思ってたよ……。」


 同属のアコースすら裏切るアリシアの感性。


 「何で?
  どう見ても、『クロスボーン・ガンダム』の
  『マザー・バンガード』じゃない。」

 「知らんわ!
  何やそれ!」

 「何で、知らないの?」

 「また、ガンダムやないか!
  ガンダムに詳しいわけあるか!
  この艦船の名前は、『リインフォース』や!」

 「ダメ!
  そこは譲れない!
  中古で買ったGジェネで、綺麗に再現された『マザー・バンガード』に
  私がどれだけ感動したか分からないの!」

 「分かるか!
  中古で買ってる時点で、思い入れ薄いやろが!」

 「子供が新品のゲーム買うお金を持っているか!
  うちは、働いていてもお小遣いせいだったの!
  コツコツ貯めて買ったの!
  寧ろ、それだけ思い入れあるの!」

 「いやや!
  『リインフォース』にするんや!」

 「『マザー・バンガード』!」


 アコースは、額を押さえて項垂れる。


 (子供の喧嘩か……。)


 ポケットから、登録書類の空白になっている艦船名のところを見る。


 (これ、どっちに渡せばいいんだ?)


 はやてとアリシアは、睨み合っている。
 アコースは、もう一つの空欄も確認すると二人に提案する。


 「いいかな?」


 はやてとアリシアが、『キッ!』とアコースを見る。


 「マザー・バンガード型 L級 次元航行艦船リインフォース。
  これで提出すれば、どう?」

 「マザー・バンガード型 L級?」

 「そう。
  この艦船は、前例がないから新しい型の登録が必要だ。」

 「次元航行艦船リインフォース……。」

 「そう。
  艦船の名前は、リインフォース。」

 「…………。」

 「「ナイスアイデア。」」


 アコースは、安堵の溜息を吐く。
 ここにマザー・バンガードを模した新たな艦船が登録された。


 …


 一騒動が治まると再び艦船の話に戻る。
 揉めはしたが、はやては、この艦船のデザインを気に入っている。


 「艦船が帆船なんて、本の中のお話のようやわ。
  部隊員に女の子も多いし、
  きっと、皆、気に入ると思うわ。」

 「そうだね。」


 アコースも納得する。
 しかし、アリシアは、首を傾げる。


 「女の子?」

 「そうや。
  ガンダムがモチーフ言うても、
  デザインは、大航海時代の帆船やろ?」

 「ううん。」

 「ん?」

 「これ、モチーフは帆船だけど……海賊船だよ。」


 はやてが、固まった。


 「…………。」


 はやてが、現実に戻って来る。


 「も、もう一回ええか?」

 「だから、海賊船。」

 「…………。」

 「こればっかりは、造った後だから修正きかないよ?」


 はやてが、床に手を付いた。


 「か、海賊船って……。」

 「いいじゃん。
  ギンガもヴィヴィオも取り返すんでしょ?
  だったら、海賊らしく奪いに行こうよ。」

 「それでか……。
  それで、この前の危ない発言が出て来たんか……。」


 アコースは、笑うことしか出来なかった。
 初対面で、これほど強烈な印象を残す女の子は、アリシアが初めてだった。


 …


 一方、連れ去られたヴィヴィオは、ドクターことジェイル・スカリエッティにレリック・ウェポンを植えつけられようとしていた。
 台に両手両足をバインドで拘束され、ヴィヴィオは、泣き叫ぶ。


 「いや~!」


 眼鏡を掛けた戦闘機人が話し出す。


 「お姫様……。
  きっと、分かるのよ。
  これから、自分がどうなるか……。」

 「ママ~!」

 「泣いても叫んでも、だ~れも助けに来てくれませんよ?」


 泣き叫ぶヴィヴィオを前にスカリエッティが、レリック・ウェポンに手を掛ける。


 「さて、始めようか……。
  聖王の器に、今、王の印を譲り渡す。
  ヴィヴィオ……。
  君は、私の最高傑作になるんだよ。」

 「ママ~!
  アリシア~!」


 レリックが、ヴィヴィオの胸の上まで飛来する。
 その瞬間、ヴィヴィオは、生体ポッドから抜け出してガジェットを破壊した力を解放する。
 ドクターの目が見開かれる。


 「素晴らしい!
  これが聖王の中に眠る力!」


 ヴィヴィオは、右手のバインドの拘束を引き千切るとレリックを掴む。


 「自ら取り込むか!
  聖王の器よ!」

 「44ソニック!」

 「…………。」


 刺さった。



[25950] 第28話 StS編・六課の方針
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:55
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 六課襲撃から一週間……。
 六課の本部は、「マザー・バンガード型 L級 次元航行艦船リインフォース」へと移される。
 隊員達の住居も、リインフォースに移された。
 隊員達は、少しずつ病院から、新たな本部に終結しつつあった。
 そして、リインフォースに居るロングアーチスタッフ、ルキノ、アルトと、隊長陣なのはとフェイトがブリーフィングルームへと集まる。
 これから、アリシアから新造艦船の説明が始まるのだ。



  第28話 StS編・六課の方針



 ブリーフィングルームに、はやてと部隊長補佐のグリフィスが入室する。


 「皆、お揃いやな。」

 「失礼します。」


 はやては、全員を見渡せる真ん中の席に座り、グリフィスは、はやての直ぐ後ろに立つ。


 「六課の今後の方針を伝えたいところやけど、
  まず、この艦船を動かさなあかん。
  そこで、この艦船の設計者であるアリシアちゃんから、
  皆に説明をして貰うことになっとる。
  ・
  ・
  お願い出来るか?」

 「うん。」


 アリシアが立ち上がる。


 「まだ、本局や病院に居るメンバーも居るけど、
  時間も差し迫っているから、出来るところから進めるね。
  ・
  ・
  この艦船は、宇宙戦艦ヤマトの班分けを基に機能している艦船なんだ。」


 アリシアを除く、全員の手があがる。


 「ん?」

 「「「「「「宇宙戦艦ヤマトって、何!?」」」」」

 「アニメ。」

 「…………。」


 アリシアを除く全員が、頭を抱える。
 先日から、幾分か慣らされて、復活の早かったはやてが質問する。


 「こ、この艦船……。
  デザインは『ガンダム』で、機能は『ヤマト』なんか……。」

 「そうだよ。
  私は、自分を真田さんの位置付けにしてるよ。」

 (技師長……。)

 「続けていい?」

 「お願いするわ……。」


 全員に多大な不安を与えて、アリシアの説明が続く。


 「この艦船は、宇宙戦艦ヤマトの愛の戦士達で、
  彗星帝国に特攻を掛ける際、古代 進が一人で動かしていたように
  一人でも動かせる思想になってるの。
  それを実現しているのが、管理局にあるデバイス。
  ・
  ・
  古代 進の位置。
  副艦長にあたるレイジングハートⅡ。
  そのサポートにⅢ~Ⅹ。
  レイジングハートの部隊には、戦闘班も受け持って貰ってる。
  ・
  ・
  次に航行班。
  島 大介の位置。
  バルディッシュⅡをリーダー。
  そのサポートにⅢ~Ⅹ。
  ・
  ・
  次に通信と医療班。
  森 雪の位置。
  クラールヴィントⅡをリーダー。
  そのサポートにⅢ~Ⅹ。
  ・
  ・
  そして、最後。
  機関と技術班。
  機関長と技師長、兼任の位置。
  私のデバイスがリーダー。
  艦船を動かすためにⅡ~ⅣⅩの沢山のサポートが居る。
  ・
  ・
  このデバイス達で、艦船は動かすことが出来るよ。」


 グリフィスから、質問が出る。


 「この艦船は、人を必要としていないってことになるのか?」

 「そんなことないよ。
  人が居ないと本来の能力は半減するよ。
  今のは、一人で動かす説明。
  ・
  ・
  この艦船は、魔導師とデバイスがバディを組むように
  各ポジションが纏め役であるⅡの子とバディを組むの。
  各ポジションを発表するね。
  艦長に、はやて。
  はやての命令が、この艦船で第一優先される。
  皆に命令してあげてね。」

 「うん、分かった。」

 「副艦長にグリフィス。
  バディにレイジングハートⅡ。
  実質の纏め役は、その子だから。
  分からないことは、何でも聞いてあげてね。」

 「はあ……。」

 「はは……。
  いきなりじゃ、分からないよね?
  後で、フォワードメンバーが模擬戦したように
  シミュレーターで艦船を動かす練習するから、
  今は、そういうもんだって思ってくれるかな?」

 「了解。」

 「はやて不在の時は、その子と取り仕切って貰うからね。」

 「分かった。」

 「次は、航行班だけど……。」


 ルキノが手を上げる。


 「私が、やります。」

 「うん、お願いしようと思ってたよ。
  バディにバルディッシュⅡね。」

 「はい。
  ・
  ・
  質問いいですか?」

 「いいよ。」

 「この船の艦船システムなんですけど……。」

 「選べるよ。
  アースラでもクラウディアでも。
  そういうソフトを組み上げたからね。
  後、敬語じゃなくていいよ。」

 「そうですか……。
  では……。
  アースラの操舵に設定して貰えるかな?
  アースラは、私の前の職場なんだ。」

 「いいよ。
  でも、その作業は、バルディッシュⅡとね。
  仲良くなればなるほど、
  艦船は、思う通りに動くよ。」

 「うん、分かった。」

 「あと、アースラを発展させたのがこの艦船だから、
  操舵に違和感はないと思うよ。
  でも、不思議な縁だね?」

 「うん、艦船操舵士になりたくてね。
  アースラで事務員として研修しながら、
  操舵ライセンスを取ったんだ。」

 「そうなんだ。
  暇な時間にどんどん仲良くなってね。
  ついでに他の艦船の操舵も覚えてもいいし。」

 「可能なんですか?」

 「うん。」


 ルキノの顔が緩む。


 「……いい。」

 「はい?」


 グリフィスが、声を漏らす。


 「ルキノは、艦船に少し……。」

 「そういう子なのか……。
  ・
  ・
  次に通信士なんだけど、
  シャーリーとアルトになるのかな?」

 「アルトは、ヴァイス君の代わりや。」

 「ヘリパイロット?
  どうするの?
  ロングアーチの通信士って、
  シャーリー、ルキノ、アルトの三人で取りし切ってたじゃない。」

 「う~ん……。
  操舵士にルキノは外せんし、
  代わりのヘリパイロットは必要や。
  暫くは、シャーリーに頼むしかあらへんかな?」

 「まあ、シャーリーは、デバイス大好きっ子だし。
  クラールヴィントⅢ以下の子と私のデバイスⅡ以下の子を使えば、
  二人分の穴は埋められるかな?
  ちなみにクラールヴィントⅡは、シャマルのサポートね。
  ・
  ・
  それで、機関部に私が居るから、これで全部かな?」


 なのはとフェイトが手をあげる。


 「何?」

 「いつ私達のデバイスを?」

 「うん、気になってた。」

 「相談してないよ。」

 「「どうして!?」」

 「許可いるの?」

 「…………。」

 「そこは、一言あるべきなんじゃ……。」

 「でも、頼めば許してくれるんでしょ?」

 「まあ……。」

 「じゃあ、いいじゃん。」


 アリシアを除く全員の中に、アリシアには何を言っても無駄な気持ちが根付いた。
 アルトが、ちょっとした疑問を聞く。


 「アリシア。
  あなたのデバイスの名前は?」

 「ん? この子?
  ・
  ・
  はやて……。
  何かいい名前ない?」

 「まさか……。
  あれから、まだ決めてないんか!?」

 「うん……。
  『ねえ』とか『ちょっと』とかって……。」

 「デバイスも困っとるやろ!」

 「困ってた?」


 アリシアのデバイスは、点滅して返事する。


 「いい名前ない?」

 「ここで決めるんか……。」

 「私が決める?」

 「その方が喜ぶやろ。」

 「そう?
  ・
  ・
  じゃあ、なのは&フェイト。」

 「「何で!」」

 「白と黒だから。」

 「やめてよ、アリシア!
  同じ名前だと呼ばれた時、困るよ!」

 「そう?
  ・
  ・
  う~ん……。
  干将・莫耶なんて安易につけたら、
  どっかのファンが乗り込んで来そうだし……。
  ジャイアント・パンダとかは?」

 「デバイスが可哀そうだよ!」

 「いいの!?
  片方にジャイアントって呼び掛けるんだよ!?」

 「そ、そうね。
  パンダは、見た目二つで一つだね……白と黒。」

 「アリシアちゃん。
  お得意のガンダムは?」

 「いや、二つで一つの白と黒って……。
  都合良くないよ……。
  ・
  ・
  私は、そもそも何で、
  デバイスが二つに分かれるようにしたんだっけ?」

 「そんなのアリシアちゃんしか分からへん……。」

 「思い出せない……。
  でも、多分、なのはとフェイトが原因なのよね~。」

 「原因って……。」

 「私達のせいみたいに……。」

 「う~ん……。
  う~ん……。
  う~ん……。
  また、今度でいい?」

 「ダメや!
  よく考えたら、シャーリーが、名前を呼ぶ時に困るやろが!」

 「困ったわねぇ。」

 「あんたの問題や。」


 アリシアは、難しい顔で腕を組む。


 「マイケル・J・フォックスとか?」

 「一個多い……。
  ええよ……もう。
  なるべくデバイスの名前を呼ばない展開にするから。」

 「これで、私の出番は終わりってこと?」

 「いんや!
  きっちり、働いて貰います!」

 「了解だよ。」


 また、アリシアのデバイスの名前は、先送りになった。


 …


 はやてから、六課の今後の方針を説明することになる。
 まず、グリフィスから、現状の地上本部の連絡が話される。


 「地上本部の事件への対策は、
  残念ながら、相変わらず後手に回っています。
  地上本部だけでの事件調査の継続を強行に主張し、
  本局の介入を頑なに拒んでいます。
  ・
  ・
  よって、本局からの戦力投入は、まだ行なわれていません。
  同様に本局所属の機動六課にも、捜査情報は公開されません。」

 「そやけどな。
  私達が追うのは、テロ事件でもその主犯格としての
  ジェイル・スカリエッティでもない……ロストロギア・レリック。
  その捜査線上にスカリエッティとその一味があるだけ。
  そういう方向や。
  で、その過程で誘拐されたギンガ・ナカジマ陸曹と
  なのは隊長とフェイト隊長の保護児童ヴィヴィオを捜索救出する。
  そういう線で動いていく。
  ・
  ・
  両隊長、意見があれば?」


 なのはとフェイトが返事を返す。


 「理想の状況だけど、また無茶してない?」

 「大丈夫?」

 「後見人の皆さんの黙認と協力は、ちゃんと固めてあるよ、大丈夫。
  何より、こんな時のための機動六課や。
  ここで動けな、部隊を起こした意味もない。」

 「了解。」

 「なら、方針に依存はありません。」


 アリシアが、口を挟む。


 「少しだけ。
  地上本部は、当てにしなくても大丈夫だと思うよ。
  事件調査を幾ら続行しようと手掛かりになる戦闘機人のデータは、
  直接襲撃を受けた六課より多いとは思えないからね。
  データは、私のデバイスを通して、グリフィスとルキノが収集済み。
  そして、はやてが目を通してる。
  情報戦で、間違いなくトップを走っているのは六課だと思うよ。」

 「そうかもしれんね。」

 「気になるのは、スカリエッティと戦う時。
  戦闘機人と戦える魔導師は、限られてくるから気にしてないけど。
  大多数の一般魔導師が、ガジェットについて、
  どれだけ戦闘訓練を積んでるのか?
  フォワードの皆の初期戦闘の戸惑いが、あっちでもこっちでも広がるのが心配。」


 なのはが答える。


 「ヴィータ副隊長には、ナカジマ三佐の第108部隊に出向して貰ったけど。
  他の部隊全部までは、回れなかったかな。」

 「なのはとかに直接要請はなかったの?」

 「声は掛けたんだけどね。
  シャーリーに頼んで、シミュレーターの提供なんかも。」

 「地上本部……。
  そこまで、意地張り合ってんだ……。
  私だったら、無償で提供して貰うんだから、
  即、利用するんだけどなぁ。
  ・
  ・
  シミュレーターは、結構な出来だと思ってたんだけど。」

 「そうだね。
  訓練で凄く役に立ったよ。」

 「技術者冥利に尽きる言葉だね。」


 アリシアは、なのはに笑い返した。


 「よし。
  ほんなら、捜査出動は、本日中の予定や。
  万全の体制で出動命令を待っててな。」


 部隊員達は、揃って返事を返すとはやては、退室して行った。


 …


 おまけ……。


 「なのは、フェイト。」

 「何?」

 「どうしたの?」

 「部屋割り、どうする?」

 「「え?」」

 「別々の部屋も用意出来るよ?」


 なのはとフェイトが感無量の顔をしている。


 「ど、どうしたの?」

 「いや、ちょっと……。」

 「うん、何でもない……。」

 「「でも……。」」

 「うん?」

 「ヴィヴィオが居る以上、
  ママ達が別々の部屋に居るわけにはいかないよ。」

 「いきなり、家庭内離婚になっちゃう……。」

 「ふ、複雑ね……。」

 「十年目にして叶う夢だったのに……。」

 「私達は、一生離れられないのかも……。」

 「……どっちか男作れ。」



[25950] 第29話 StS編・機動六課、準備中
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:55
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 艦船リンフォースに続々と六課の隊員達が集結し始める。
 それをブリッジで見ながら、アリシアは、満足顔で頷く。


 「この展開は、白色彗星の説明を聞きに行く時の再現みたい……。
  ちょっと、燃える展開だよね。」


 アリシアの私語をグリフィスが注意する。
 アリシアは、一言謝ると別に開いていた画面を閉じる。
 アリシアは、本局でスバルのデバイスの修復をしているシャーリーを待ちながら、はやての指揮の下でロングアーチのメンバーとシミュレーションを繰り返している最中だった。



  第29話 StS編・機動六課、準備中



 艦船リインフォースのシミュレーションが繰り返し行なわれる。
 今のところ、部隊長のはやて、補佐のグリフィス、操舵士のルキノ、通信士代理のアリシアでの訓練である。
 艦船のブリッジで、はやての指示が飛ぶ。


 「次、13番のシミュレーション行ってみよか?」

 「分かりました。
  ・
  ・
  ルキノ。
  高速移動時でのシミュレーションになる。
  操舵の方、しっかり頼む。」

 『了解です。』


 はやての指示を受けて、グリフィスがシミュレーションの指示を出し、操舵室のルキノがしっかりと答える。
 グリフィスの指示が続く。


 「アリシア、準備は?」

 「少し待ってね。
  今、収集したデータを反映させるから。」


 アリシアは、デバイスから収集したデータを確認する。


 「いいデータが取れてるよ。
  サポートしているデバイスも、皆のクセを覚え始めて対応し始めてる。
  次から、サポートにデバイスの予測も加わるからね。」

 「了解。
  ・
  ・
  一ついいかい?」

 「ん?」

 「デバイスにアリシアのクセが付いてしまわないのか?」

 「付くでしょうね。
  でも、量産も視野に入れているから、
  色んな性格の人間ともバディを組めるようにしたつもり。
  ・
  ・
  一応、その辺のA.Iには、手を入れたつもりなんだけど……。
  デバイスは、個人で一つが通常だから、
  私からシャーリーに代わった時、問題なく機能して初めて成功なんだ。」

 「そうか……。
  少し用途の違うデバイスなんだな。」

 「うん。
  戦闘用のデバイスは、命に関わるし魔法特性も個人で違う。
  だから、個人用にカスタマイズするし、
  デバイスは、使い手に応えるように成長する。
  でも、艦船の機能は、ハードに依存して共通だから、
  その機能を誰でも使えなくちゃ、ダメ。
  この子達に求められるのは、どんな人にも使い易いようにサポートする機能の成長なの。
  ・
  ・
  分かるかな?」

 「戦うためではなく扱うためのデバイス……ってことだね?」

 「その通り。
  ・
  ・
  さて、反映完了。
  次のシミュレーション、行ってみよう。」


 ロングアーチスタッフの艦船シミュレーションは、シャーリーとスバルが合流しても続いた。
 そして、シャーリーが来たことで、アリシアは、機関室に移動して実動作での訓練に変わる。
 この艦船のデバイスに、シャーリーは歓喜してA.I機能向上に励み……。
 ルキノは、新たな艦船の操舵技術の習得に歓喜して励む……。


 「六課には、変わりもんが多いっちゅうことなんかねぇ……。」


 艦長のはやては、スタッフより先に根をあげそうだった。
 『ここまでにしよか?』と切り上げたら、シャーリーとルキノに恨めしそうに見られた。


 …


 艦船リインフォースでのシミュレーション訓練が終わり、リインフォースは、ミッドチルダ上空を飛行中。
 次の指示があるまで、隊員達は、時間を自由に使っている。
 とはいえ、やることは多い。
 戦闘機人のデータの解析や敵アジト捜索の情報集め、今までの経緯から導き出される敵の次の行動の予測など、前線では活躍しないスタッフ達の頑張りもある。
 そして、戦闘機人と戦う隊員達にとっては、訓練に充てる貴重な時間になる。
 地上本部襲撃の急な展開にリミッターもファイナルリミッターを解除。
 エリオは、シグナムとの模擬戦を繰り返し、ティアナとスバルも模擬戦をしながらデバイスの確認をしていた。
 残されたフォワードの一人、キャロは、艦船のデバイスメンテナンスルームにアリシアと居た。


 「キャロは、戦闘訓練しないの?」

 「タイミングですね。
  私の魔法は、召喚以外だと補助がほとんどですから、
  艦内での模擬戦をしている時は、加わりづらくて。
  皆さんが一息ついたら加わります。」

 「皆のこと、分かって来たんだね。」

 「はい、少しずつ。」

 「重要かもね。
  キャロの支援魔法は、皆のことが分かってないといけないから。
  的確にサポートしてあげたいもんね。」

 「はい。」


 アリシアは、キャロの笑顔に少し頼もしさみたいなのを感じる。


 「少し変わったね。
  昔は、魔法を使うの少し怖がってたのに。」

 「そうですね。
  なのはさんが、私の魔法を『優しい支援魔法』って言ってくれたり、
  私の召喚魔法が誰かのために役に立ってくれたり……。
  きっと、魔法が怖いものじゃないって、分かって来たんだと思います。」

 「そっか……。
  デバイスの調子は?
  リミッター、最後まで解除したんでしょ?」

 「はい。
  扱い切れるか不安ですけど、
  これで三回目ですから、直に慣れると思います。」

 「なるほど。
  考えられているわね。
  ・
  ・
  こういう展開を見越してのリミッターの設け方だったのかな?」

 「そうかもしれませんね。
  リミッターに吃驚したのは、最初だけでしたから。」


 アリシアは、溜息を吐く。


 「もう、私に教えられることはないね。
  キャロの方が優秀な魔法使いだよ。
  リンカーコアの育たない私は、サポート出来ないね。」

 「そんなこと……。
  アリシアさんは、私の知らない魔法も知ってますし、
  私に合った魔法があれば教えてください。」

 「うん、そこは力になれるね。
  でも、もう一方的に勧めるのは終わり。
  キャロが考えて相談してよ。
  私は、それに全力で応えるから。」

 「それって……。」

 「お友達の格上げ。
  キャロとは、もっと対等にお話出来るよ……ってこと。」

 「対等ですか?」

 「うん。
  もしかして、私が格下げされたから、
  明日から、キャロに敬語とか?」

 「そ、そんなのイヤです!
  いつも通りにしてください!」

 「うん。
  じゃあ、いつも通りにするよ。」


 キャロは、ほっと息を吐く。
 そして、時計に目を移す。


 「そろそろ行きます。」

 「うん。
  頑張ってね。」

 「はい。」


 キャロは、最後に手を振るとトレーニングルームへと向かった。
 アリシアは、今度は、安堵の溜息を吐く。


 「この前のこと、引き摺ってないみたい……。
  六課の隊舎がなくなって、一番落ち込むのはキャロだと思ったのに。
  ・
  ・
  フェイトが、ちゃんとフォローしてくれたんだろうな。」


 アリシアは、立ち上がる。


 「さてと!
  今度は、シャマルのところの様子を見に行くか!」


 アリシアは、デバイスメンテナンスルームで、全員のデバイスの情報を頭に入れた後、メディカルルームに居るシャマルのところへと向かった。


 …


 メディカルルームを訪れれば、アリシアは、一通り艦船に割り当てられた人間を把握したことになる。
 アリシアが扉を開くとシャマルが難しい顔をしていた。


 「どうしたの?」

 「アリシアちゃん。
  いいところに。」

 「ん?」

 「このクラールヴィントⅡ以降のデバイスなんですけど……。」

 「使い勝手悪い?」

 「いえ、そうではなくて……。
  どうして、こんなに必要なのかと……。
  ・
  ・
  艦船のレーダーは、一つですから数は必要ないような……。」

 「そうだね。
  数増やしても出力上げなきゃ、基点から探索する範囲変わらないし。」

 「じゃあ……治療用ですか?」

 「うん。
  シャマルが、並列で最大十個使える。」

 「魔力持ちませんよ……。」

 「大丈夫。
  Ⅱ以降は、艦船から魔力引っ張ってくるから。」

 「そういう作りなんですか?」

 「うん。
  多分、この艦船は、野戦病院の役目もすると思うから。
  空で落とされた魔導師達が運ばれて来ると思うよ。」

 「そのためのデバイスですか。」

 「まあね。
  地上本部が愚図ついたら、怪我人を病院に運べないし……。
  実際、本局の介入も断わってるから、Ⅱ型と戦う艦船も何隻出られるか……。
  ・
  ・
  何より、そういうところに一秒でも早く向かうのが、
  はやての立ち上げた機動六課の意義でしょ?」

 「そうですね。」

 「ガジェットの数がどれだけ投入されるか分からないけど、
  はやてが海上で叩き落とした以上のガジェットが出て来ると思うよ。」

 「アリシアちゃん。
  意外と先のことを見据えてますね?」

 「ニュースで、バンバン流れてる以上、
  敵も本局と地上本部の対立があるの分かっているでしょ。
  だったら、連携取らないって言い切っている今のうちに
  次の行動に出るのが普通だよ。
  私が悪役なら、本局が来ないと分かっている地上本部を叩くか、
  地上本部が助けに行かないと分かっている本局に攻め込むよ。
  ・
  ・
  まあ、戦闘機人の出没している場所を考えれば、
  地上本部……ミッドチルダに仕掛けて来ると思うけどね。」

 「予想出来て、当然?」

 「さあ?
  思いついたことに対して、対策立てるしかないしね。
  ・
  ・
  私は、襲撃から一週間、何もないのが不気味で仕方ないよ。
  傷口が開いている時に仕掛けるのが普通なのに
  癒す時間を与えてくれているのは、一体、何のためなんだか……。
  ・
  ・
  その間にさっき言った地上本部と本局の仲違いの悪い情報が
  更に流出しているのを見ると敵の様子見大正解よね……。」


 シャマルは、アリシアの意見に苦笑いを浮かべる。
 その通りだった。


 「そう言ったわけだから、シャマルもしっかりと
  その子達の扱いを覚えてね。
  と、言っても、クラールヴィントの兄弟みたいなもんだから、
  やることは少ないか……。」

 「ええ。
  どちらかと言うと、
  この艦船の医療機器の使い方を覚える方が大変ですね。」

 「ごめんね。
  中には市場に出回ってないものもあるんだよ。
  技術者集める時に医療機器専門の技術者も居てさ。
  その人に押し付けられちゃったんだ。
  ・
  ・
  私は、医療機器だし、実績のある最新式で揃えようと思ったのに……。
  スポンサーが私だから、ただで開発出来るって強引に手伝いに来て……。
  分からなかったら、一緒に使い方覚えるよ。」

 「大変だったんですね?」

 「そうだよ。
  この艦船造り、技術者にとっては、一種の祭だからね。
  『仕事関係ない! 自由な開発出来る! ヒャッハーッ!』って感じ。
  色んな業界の人間が協力してる。
  艦船が出航した時、祝いメールの多さで、デバイスがフリーズし掛けたんだから。」

 「はは……。
  そんなに届いたんですか?」

 「添付ファイル付きだったから……。
  『上手く動いたら、こっちのパターンで』とか……。
  『ちょこ変だから、ソフトをこっちに入れ替えろ』とか……。
  『このファイルに動作データを送り返せ』とか……。
  動くと分かった瞬間にああだこうだと……。
  ・
  ・
  まあ、でも……。
  凄く楽しいんだけどね。
  何年かに一回、技術者集めて祭をしたいなぁ。」

 「楽しそうですね。」

 「でも、幹事は、もう沢山。
  今度は、参加する側でやりたいよ。」


 シャマルは、可笑しそうに笑っている。


 「この艦船。
  本局採用になったら、参加した技術者さん達は大喜びですね?」

 「でしょうね。
  結局、そん時にまた祭が発生するのか……。」

 「どうしてですか?」

 「後で、機能を付加する方が大変だからね。
  一番艦は、度外視した機能とか、実績あるIPを使ったから余計な機能が付いたままとか……。
  かな~りの高スペックになってるんだ。
  二番艦以降は、不必要なものを削ったり、
  機能を限定したりの作業が発生するんで……また祭を。」

 「終わりがなさそうね……。」

 「多分、最低でも一年は監禁されると思う……。
  まあ、量産型の二番艦が採用されれば、信じられない利益が生まれると思うけど……。
  その利益の分配なんかで余計な仕事も……。
  ・
  ・
  でも、技術者として好き勝手するのは夢だったし……。
  全部片付いたら、二年ぐらい仕事しない……。」

 「十代の女の子の言葉とは思えませんね。」

 「そうだね。
  デバイス弄るだけで良かったはずなのに……。
  思いつくと『あれもしたい』『これもしたい』になるんだよね。
  研究者と呼ばれる人達が引き篭もるわけだよ。」


 シャマルは、分野の違う話でも真摯に聞いてくれていた。
 アリシアは、話し過ぎたと気付く。


 「ごめんね。
  シャマルのお手伝いをしに来たはずなのに。」

 「構いませんよ。」

 「やっぱり、シャマル校長案ありな気がして来た。」

 「?」


 シャマルは、首を傾げた。
 アリシアは、笑って誤魔化す。


 「とりあえず、医療機器を一回一緒に動かしてみようか?」

 「はい、お願いします。
  ついでにアリシアちゃんの健康診断もしましょうか?」

 「実験台? いいよ。
  身長伸びたかな?」

 「伸びてるといいですね。」

 「でも、フェイトの成長記録をなぞって
  成長しているから、今一、感動がないのよね……。」

 「仕方ないんじゃないですか?」

 「だよね。
  じゃ、始めようか?」

 「はい。」


 アリシアとシャマルとの医療機器の動作確認が始まった。


 「これ……六課に入れて確認した方がよかったのでは?」

 「そうだね……。
  艦船の中の医療機器の方が最新って意味分からないし……。
  数ヶ月、艦船の中で眠ったままだったよ……。」

 「…………。」

 「ま、まあ、隊舎壊れて無駄にならなかったし!」

 「結果論だと思います。」

 「…………。」

 「次の戦闘では、怪我人がバンバンと出れば!」

 「そこは期待しちゃいけないと思います……。」

 「…………。」

 「私のミスよ……。」

 「分かって頂ければ……。」


 アリシアは、少しへこんだ。



[25950] 第30話 StS編・首謀者の宣戦布告
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:56
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 アリシアは、自室にて艦船リインフォースの稼働状況を纏める。
 人員、デバイスともに配置完了。
 動作誤差の出た機能も修正完了。
 現在、正常動作中。


 「とりあえず、やるべきことは終わったよ。
  後は、今後の展開を待つだけ。」


 アリシアは、艦船内の各部署を回り終え、ようやく一息ついたところだった。



  第30話 StS編・首謀者の宣戦布告



 管理局の技術力であるデバイス。
 この人口A.Iが齎す功績は大きい。
 アリシアが一息ついている間も稼動する艦船のデータを蓄積し続け、一秒前とは違う進化を続ける。
 スバルのマッハ・キャリバーが、修復後に強化システムのプランを作成したように独自で進化を続ける。


 「この理論……プロジェクトFに似てるんだよね。
  アースラの航行データを引き継いで、
  リインフォースは、そこから始まってるから。」


 アリシアは、コーヒーメーカーのところまで歩いて行き、カップにコーヒーを注ぐと椅子に腰掛けて端末を開く。


 「いや、別物か……。
  この艦船は、アースラが生まれ変わったものだもんね。」


 少し感慨に耽っているとドアをノックする音が聞こえる。


 「どうぞ。」


 アリシアの返事でドアが開くと、なのはが居た。


 「私って、最近、人気者なのよね。
  私が設計した艦船だから、色んな人に声を掛けられる。」

 「そうなの?」

 「そうだよ。
  自慢したくて自分から振る時もあるけど。」

 「うぁ……。」


 なのはの反応にアリシアは、笑って返す。
 そして、新しいカップを取り出して、コーヒーメーカーからコーヒーを注いで、なのはに渡す。


 「ありがとう。」

 「どういたしまして。
  ・
  ・
  何か問題でも起きた?」

 「話だけなら、念話を使うよ。」

 「?」


 アリシアとなのはは、机の前まで移動して椅子に座る。
 なのはが紙袋を取り出すと机の上に中身を出す。


 「これ……直せないかな?」


 六課で回収したヴィヴィオの持っていた人形だった。


 「どれも焼け焦げちゃってるね。」

 「うん……。
  何とか元に戻してあげたくて。」

 「難しいなぁ。
  どんなに洗っても、焼け焦げた生地に臭いは残るし、
  縫った跡が残ると思うよ。」

 「そう……。」

 「プラスチックの部分は溶けてないから、
  これを流用して、他を作り直すことなら出来るけど……。」

 「それでいいから、直し方を教えて欲しいんだ。
  ヴィヴィオに渡してあげたいの。」


 アリシアは、なるほどと納得してデバイスにお願いする。


 「データ、残ってる?」


 デバイスは、点滅を繰り返すとモニターを開いて人形の設計図を映し出す。


 「同じの作れるよ。
  でも、なのはのあげた兎は、設計図から起こさないとね。
  それを元に作ったから、簡単だと思うけど。」

 「本当?」

 「うん。」

 「じゃあ、早速作りたいんだけど。」

 「いいよ。
  アイナさんのところに必要なものを
  取りに行って来る。」

 「そんな……。
  私が取って来るよ。」

 「いいって。
  なのはは、設計図見ててよ。」


 アリシアが部屋を出ると、なのはは、端末を操作して設計図を確認する。


 「ヴィヴィオ……。
  これを頑張って作ってくれたんだ……。」


 色んなことを思い出しながら設計図を見続けていると、アリシアが戻って来た。
 思い出していた時間は、思いの他、長かったらしい。


 「全部作ると大変だから、役割分担しようか?」

 「うん。
  ヴィヴィオの兎と友達の兎は、私が作るよ。」

 「了解だよ。
  じゃあ、私は、なのは兎とフェイト兎だね。
  ・
  ・
  あれ? 私の兎は、見つからなかったんだ。」

 「……あ。」

 「?」


 なのはは、申し訳なさそうに言葉に出す。


 「あの……。
  アリシアちゃんの兎は……。」

 「兎は?」

 「バ、バラバラになってた……。」

 「何で……私のだけ。」

 「ええっと、状況だけ言うと、
  ヴィヴィオ兎と友達の兎を庇うように
  私の兎とフェイトちゃんの兎が覆い被さってて……。
  アリシアちゃんの兎が近くで……。」


 アリシアは、小さな声で笑い出す。


 「なるほど……。
  よ~く理解したよ……。」

 「わ、私のせいじゃないよ?」

 「大丈夫……。
  私は、冷静だよ。
  ・
  ・
  つまり、私の兎は、ナッパから悟飯を庇うピッコロさんのように
  『ヴィヴィオーーーッ!』って叫んで爆発したんだよ。」

 「…………。」

 (爆発したんなら、クリリンの展開のような気が……。)

 「熱い展開ね!」


 アリシアは、拳を握っている。
 なのはは、アリシアが気にしないのであれば、深く突っ込むまいとこの件にこれ以上触れるのを止める。

 そして、人形作りが始まる。
 プラスチックの目の部分を丁寧に外し、型紙から布を切り、綿を詰めて縫い合わせる。
 二人供、大人の分だけ、エリオとキャロよりも進み具合が早い。


 「ヴィヴィオを取り返した後が楽しみだね。
  ヴィヴィオ、喜ぶよ。」

 「そう……かな?」

 「そう思うよ。
  なのはにプレゼントして、
  今度は、なのはから貰えるんだから。」

 「……うん。」

 「元気ないね?」

 「そんなことないよ。」

 「そう?
  私は、少し落ち込んだよ。」

 「え?
  ・
  ・
  ……うん、ごめん。
  嘘ついた……。
  私も落ち込んだ……。」


 アリシアは、クローゼットを開けて開封前のダンボールを引っ張り出す。
 それをなのはの前に置く。


 「これは?」

 「ヴィヴィオと遊ぼうと思って。」


 アリシアがダンボールを開封すると真新しいおもちゃが山のように出て来る。


 「攫われた後に届いてさ。
  ヴィヴィオを取り戻さないと、私が遊べないんだよね。」

 「…………。」

 「ちゃんと二人で遊ぶように二組ずつ発注しててさ……なのは?」


 なのはは、アホみたいな量に暫し呆然としていた。


 「アリシアちゃん……気合い入り過ぎてない?」

 「そう?
  エリオの時もキャロの時も、これぐらい用意したけど?」

 「エリオとキャロの時も、そうなの?」

 「そうだよ。
  ちなみにこの艦船の一室は、遊戯室として確保してあるよ。
  そっちにも、おもちゃを沢山用意した。」

 (……自分が遊びたいだけなんじゃ。)

 「男子局員から、ビリヤード台を置けって要請があったけど、
  無視して遊戯室にしたんだ。」

 「男子局員……。」

 「でも、遊戯室のおもちゃは、男子局員に意外と人気なんだよ。」

 「男子局員、何やってんの!」

 「いや、なのは。
  最近のおもちゃは、侮れないよ?
  ヴィヴィオと遊ぶ前に、私も男子局員と遊んでみたんだけど、
  これが意外と……。」

 「何してんの!」

 「あまりの面白さにダンボールで、更に一個分追加を。」

 「これ、追加分だったの!?」

 「うん。」


 なのはは、がっくりと項垂れた。


 「アリシアちゃん……。」

 「ん?」

 「少し計画的にお金は使った方がいいと思うよ。」

 「使ってるよ。
  リンディ母さんが、子供のうちはダメって貯金してたもん。
  そして、フェイトが車買ったり、お金を使うようになって、
  私も使うようになったんだから。」

 「それで……解禁されたら?」

 「全力全開で投資したよ。
  全力全開でやりたいようにやるために。」

 「計画的は!?」

 「計画的に余すことなく使い切ったよ。」

 「使い切る計画じゃなくて、節約する計画だよ!」

 「でも、管理局給料いいじゃん。
  ミニ四駆を百台買っても、一ヶ月分の給料で足りるじゃない。」

 「おかしいよ!」

 「分かってるよ。
  でも、制限されたお小遣いで我慢出来ないでしょ?
  毎月のお小遣いじゃ、色々と足りなくてさぁ……。
  そこで特許を取ることに踏み切ったんだよ。」

 「もっと、おかしいよ!
  どれだけ足りなかったの!?」

 「いや、私は、個人で艦船持とうっていう変な子だよ?
  少しぐらいの端金じゃ……。」

 「そんな経緯!?
  そんな経緯で特許取り出したの!?」

 「他に理由がいる?」

 「いるよ!
  もっと、立派な理由があると思ったよ!」

 「う~ん……。
  でも、人生をより豊かに生きるためには、
  お金が必要不可欠だったし……。
  この艦船作るために随分と投資をしたんだよ。」

 「リンディさんは!?
  クロノ君は!?
  何で、許しちゃったの!?」

 「特許取ったのを教えたのは少し前だから。
  私の口座のお金は、家族でもプライベートがあるから、
  どれだけの金額が入っているかなんて知らないもん。
  二人とも、真人間だから。」

 「アリシアちゃん、黒いよ!
  真っ黒だよ!」

 「そこは、プレシア母様の血じゃないのかな?」

 「黒いの!?
  黒かったの!? フェイトちゃん達のお母さん!?」

 「目覚めた時、少し変わってたかな?」

 「……何があったの?」

 「何があったんだろうね?」

 「何で、人事なの……。」

 「それもありかなって。
  研究者として生きていくには、
  人の黒い部分も知って置かないと……ってね。」

 「どういうこと?」

 「騙される立場にならないためのコツかな。」


 なのはは、首を傾げる。
 一方のアリシアは、自分の母親であるプレシアが少し捻くれた原因を知っている。
 フェイトがプロジェクトFを追っていたように、アリシアも母親に何が起きたかを追っていた。
 そして、そうならないための黒さというか力というものの必然性も感じていた。
 だから、利用されないための資金力を稼ぐ方法やそういった状況に陥らないための知識も少なからず身につけた。


 「知り合いは、純粋な子が多いからね。
  お姉さんが頑張らないと。」

 「それと無駄遣いするの関係あるの?」

 「無駄遣いじゃないって。
  先行投資だよ。」

 「そうなのかな?」


 なのはは、また首を傾げてしまった。
 そして、何を言っても言い負かされると諦めた。


 「そんなことよりも。
  さっさと人形作ろうよ。」

 「そうだね。」


 なのはは、少しだけいつも通りになった。
 いや、させられた。
 そして、アリシアほどではないにしろ、ヴィヴィオと過ごす楽しいことを考えてもいいのではないかと思った。


 …


 人形作りも終わり、次の展開を待つ待機状態。
 長く続くかと思われた状態も、艦内に響くアラート音で終わりを告げる。
 地上本部の用意していたアインヘリアルが戦闘機人の襲撃にあったためだ。
 フェイトとアリシアは、艦内に流れる映像を見ていた。


 「そっちを潰しに来たか……。」

 「そうだね。」


 フェイトとアリシアは、映像を見続ける。


 「今回、ガジェットはあまり出てなさそう。」

 「え?」


 アリシアは、映像を確認する。


 「本当だ。」

 「戦闘機人だけでやられたんだ。」

 「少し質問していいかな?」

 「うん。」

 「地上本部って、AかSランク魔導師って居ないの?」

 「そんなことないよ。」

 「じゃあ、何で、こんなにポンポンやられるの?」

 「配置が悪いと思う。
  もしくは、組織の……。」

 「そっか……。」


 アリシアは、溜息を吐く。


 「結局、鼻息荒げて推したアインヘリアルは、
  何の活躍も見せずに沈黙か……。」

 「そうだね……。」

 「どっちにしろ、これだけ大きいと戦闘機人には当たらないか。」

 「…………。」


 フェイトは、アリシアの言葉を聞きながらも映像を見続けていた。
 アリシアは、ポンとフェイトの肩を叩く。


 「フェイト、言いたいことあれば言った方がいいよ。
  ここには、私しか居ないんだから。」

 「アリシア……。」

 「それとも、また文句より先に
  倒れた魔導師達の心配してるの?」

 「えっと……うん。」

 「フェイトは、優しいよね。」

 「アリシアだって……。
  私のことを見抜くんだから、
  本当は、心配なんでしょう?」

 「……うん。
  幾ら地上本部と本局が仲悪いからって、
  どっちかの魔導師が傷つけばいいなんて思えないからね。
  あの人達の中にも守りたい人が居て、
  守りたいものがあるはずだからね。」

 「うん。
  そして、その事件を終わらせるために六課がある。」


 アリシアは、フェイトの言葉ににこりと笑う。


 「さすが執務官。
  じゃあ、行きますか?」

 「行かれますか?」


 フェイトとアリシアは、お互い頷くとはやてのところへと向かった。


 …


 リインフォースのブリッジ……。
 空席の目立つここには、七名しかいない。
 艦長のはやて、補佐のグリフィス、通信士のシャーリー、待機状態の副隊長シグナムとヴィータ。
 そして、遅れて来たフェイトとアリシアである。

 アリシアは、空席の目立つブリッジ内で艦船デバイスが代わりに機能しているのを確認する。
 そして、非常時には、今後、必要になってくるシステムかもと改めて本採用を考える。


 (正規の艦船クルーが居ないとスッカスカだよね。)


 アリシアは、シャーリーに近づく。


 「人足りる?」

 「ええ。
  この子達がサポートしてくれていますから。」


 シャーリーは、アリシアのデバイスⅡとクラールヴィントⅢに加え、空席分の通信士のサポートにクラールヴィントⅣ~Ⅸを動員している。


 「こんなに使ってるの?」

 「ええ。
  並列処理出来るのは、便利過ぎるわね。
  私のクセを覚えて、どんどん成長してる。」


 アリシアは、頬を掻く。


 「シャーリーにしか出来ないよ。
  デバイスを知り尽くしてないと並列処理出来ないから。」

 「ええ。
  自分のデバイスを持っているみたい。」

 「じゃあ、ちゃんと機能してる?
  私の変なクセは、残ってなかった?」

 「ええ。
  A.Iのサポートは、しっかりと艦船用になってるよ。」

 「よかった。
  ・
  ・
  あ、そうだ。
  クラールヴィントⅢ以降のサポートは、
  シャマルが治療に専念すると数が減るからね。」

 「分かってる。
  アリシアのデバイスにもデータを蓄積させているから、
  クラールヴィントⅢ以降とのリンクは取れているわ。」

 「……さすが。
  もう、システムに手を加えたんだね?」

 「勝手で悪いと思ったけど、
  ご覧の通り、人数不足だから。」

 「だね……。
  シャーリーのクセは、六課で一緒に仕事していたから問題ないか。
  この事件終わったら、そこら辺のデータを反映させないと。」

 「アリシア。」

 「ん?」

 「そのお手伝い、是非させてね。」

 「いいけど……。」

 「出来るなら、私もこの艦船造り誘って欲しかった……。」


 シャーリーが、恨めしそうにアリシアを見る。


 「そんなの無理だって。
  シャーリーと知り合ったの六課来てからだもん。」

 「私もデバイス作りしたかったなぁ。」

 「艦船が動いているうちの更新は、全面的に任せるから。」

 「本当?
  やったぁ!」

 (デバイス好きなんだね……。
  とは言え、六課の仕事やりながらだと休日に働かせちゃうから、
  無理に頼めなかったし……。
  二番艦以降の話が出た時は、必ずシャーリーに声を掛けよう。)


 そして、シャーリーとの会話が一段落すると大画面のモニターに一連の首謀者であるジェイル・スカリッティが映し出された。


 …


 何処から流れてくるのか艦船にもキャッチ出来る電波。
 首謀者は、隠れるわけでもなく、恐れるわけでもなく、不敵な笑みを浮かべて嘲笑する。
 しかし、額には絆創膏が目立つ……。


 『さあ、いよいよ復活の時だ。
  私のスポンサー諸氏……。
  そして、こんな世界を作り出した管理局の諸君……。
  偽善の平和を謳う聖王教会の諸君も……。
  ・
  ・
  見えるかい?
  これこそが、君達が忌避しながらも求めていた絶対の力……。
  ・
  ・
  旧暦の時代、一度は世界を席巻し……。
  そして、破壊した……。
  古代ベルカの悪魔の英知……。』


 首謀者は、歓喜し、狂い、己が成果を語り続ける。
 しかし、絆創膏がチャーミングだ。
 そして、映像は、姿を現した巨大船に切り替わり、その後、鍵となる少女……ヴィヴィオを映した。


 『見えるかい?
  待ち望んだ主を得て、古代の技術と英知の結晶は、
  今、その力を発揮する。』


 ヴィヴィオが叫ぶ。


 『ママ……。
  痛いよ……。
  怖いよ……。
  ママ…ママ!』

 『さあ、ここから夢の始まりだ!』


 首謀者の笑い声が絆創膏のアップと共に消える。
 艦内は、蒼然と静まり返り、ある者は目を逸らし、ある者は拳を握る。
 そして、ヴィヴィオのママである二人の少女は、胸を押さえてモニターを凝視し続けていた。



[25950] 第31話 StS編・出撃……少し前
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:56
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 状況を整理するとタイムラグはあるが、短時間の間に三つのことがほぼ同時に起きた。
 一つ目は、地上本部が推し進めていたアインヘリアルと呼ばれる新兵器の壊滅。
 二つ目は、第108部隊とフェイトが協力し、アコース査察官が辿り着いたスカリエッティのアジトの発見。
 三つ目は、そのアジト近くから、古代ベルカの質量兵器・聖王のゆりかごと呼ばれる巨大船の出現。
 全ては、遅過ぎた。
 地上本部を守るはずのアインヘリアルは戦闘機人により壊滅させられ、その戦闘機人は、地上本部へ。
 ようやく辿り着いた首謀者のアジトでは、最悪の形で巨大船が空へと飛び立ってしまった。

 そう、全てスカリエッティの思惑通りにことが進んでいた。



  第31話 StS編・出撃……少し前



 沈黙するブリッジの中で、アリシアがフェイトを見る。
 スカリエッティに対する怒りよりも、ヴィヴィオに対する行為に胸を押さえつけている。


 (きっと、あっちのママも同じだろうな……。)


 アリシアは、大きく息を吸う。


 「私のヴィヴィオに何してくれてんだ!」


 フェイトが言えないと思ったことを代わりに叫ぶ。
 ブリッジの全員の視線がアリシアに集まった。
 アリシアは、今度は、大きく息を吐いた。


 「とりあえず、一番言いたいことは叫んだつもり。」

 「…………。」


 アリシアは、フェイトを見る。


 「足りなきゃ、まだ叫ぶけど?」


 フェイトは、無言で首を振る。


 「もう一人のママのところに行ってあげなよ。
  きっと、フェイトと同じぐらい胸が痛いはずだから。」

 「アリシア……。
  ありがとう。
  行って来る。」


 フェイトは、ブリッジを走って出て行く。
 アリシアは、それを少し見続けていた。
 そして、はやてに話し掛ける。


 「はやて。
  フェイトをなのはのところに行かせていいかな?」

 「順番逆やね。
  アリシアちゃんも動揺してたってことかな?」

 「頭に来てるかな?
  付け加えるなら、
  『私の妹に精神的ダメージを与えてくれやがって!』と叫びたい。」

 「気持ちは分かるよ。
  だけど、少し冷静にな。
  直ぐに事態は動き出すよ。」

 「了解。
  これから、機関室に篭もってスタンバっとくよ。」


 はやては、アリシアに頷くとカリムからの連絡に対応する。
 そして、アリシアは、ブリッジを出る前にシグナムとヴィータにこそっと話す。


 「はやても怒ってるよね?
  あの子、怒ると逆に冷静になるタイプだから。」

 「だろうな。」

 「それは、なのはもフェイトもだろ?
  アイツら蓄積型だから。」

 「私みたいに小まめに発散する方が安全だと思わない?」

 「それは言えるな。
  怒りを溜め込んだ後の全力全開は、
  敵を見ているこっちが気の毒になる。」

 「そんなこと言ってるけど、
  今回は、皆、臨界近くまで溜め込んでるでしょ?」

 「私達もか?」

 「うん。
  だって、最初のレリックの回収以外は、
  全部、あっちの掌の上だからね。
  私の隊舎を壊して、私の友達を攫って、私の邪魔をするような地上本部。」

 「決して、お前のじゃないけど、
  そういうのが溜まってるのは間違いねー。」

 「じゃあ、悪いけど、
  今回の敵は、いつもの三割り増しで気絶して貰うしかないね。」


 ヴィータは、にやりと笑う。


 「乗った。」


 シグナムは、溜息を吐く。
 アリシアの話は、まだ続く。


 「それにヴィヴィオへの仕打ちは、万死に値すると思うんだ。」

 「万死?」


 アリシアが、ポケットからカートリッジを取り出す。


 「このカートリッジ特別性でさ……。
  魔力ダメージでノックダウンする砲撃を
  デバイスが強制的に物理ダメージの砲撃に変えるんだよね……。
  これをなのはに渡して、スカリエッティに……。」

 「「!」」


 シグナムとヴィータがアリシアに掴み掛かった。


 「放せ!
  これをなのはに届けるんだ!
  今なら、有無を言わさず受け取るから!」

 「何、危ねーもん持ってんだよ!」

 「それを寄こせ!
  なのはの砲撃の物理ダメージなんて喰らえば、本当に死ぬぞ!」

 「やだ~~~!」

 「はやても、手伝ってくれよ!
  コイツ、どうしようもないもん所持してる!」


 その後、アリシアは、シグナムとヴィータに羽交い絞めにされ、はやての身体検査により危険なカートリッジを取り上げられた。


 「私の波動カートリッジ弾が……。」

 「ほんまにこの子は……。
  もう、持ってないやろね?」

 「フ……。
  こんなこともあろうかと、
  後、私の部屋にマガジン三個分用意してある。」

 「そんな凶悪な真田さんがおるか!
  ヴィータ、直ぐに回収して!」

 「分かった。」

 「私は、私の正義を貫くために努力しただけなのに……。」

 「その言葉をこういう場面で使うな。」

 「危険な正義やわ……。
  アリシアちゃんには、正義の刷り直しが必要や。」

 「……それ洗脳って言うんだよ?」

 「それぐらいで、ちょうどええ。」

 「私がしっかり教えますか?」

 「しっかり扱いたって。」

 「……シグナムと語らうの?」

 「そうだ。」

 「体動かさないよね?」

 「安心しろ……竹刀だ。」

 「死にはしないって、洒落はしないでよ?」


 シグナムは、アリシアを羽交い絞めにしながら少し唇を吊り上げた。


 「体で、お話じゃない!
  反省した!
  もの凄く反省した!」


 シグナムが、アリシアを解放する。


 「冗談だ。
  だが、少し反省しろ。」

 「……分かったよ。
  じゃあ、機関室行って来る。」


 アリシアは、少し項垂れてブリッジを出て行った。


 「アリシアは、どうしようもないな。
  何で、フェイトとこうも性格が真逆なのか?」

 「ほんまやね。
  でも、そのお陰で見分けがつくんやけどね。」

 「確かに歩き方も、かなり違いますからね。」

 「そうそう。
  緊張感持ったヒールの音が響くのがフェイトちゃん。
  元気にブーツの音が響くのがアリシアちゃん。」


 はやてとシグナムの頭に何かが過ぎった。
 シグナムが口を押さえる。


 「フ……。
  ・
  ・
  すいません。
  こんな時なのに思わず。」

 「お互い様や。
  私も、気抜けたわ。
  緊張のガス抜きいうことにして、
  ここから締めて行こか。」

 「はい。」


 そして、少し緊張感の解けたブリッジにクロノからの連絡が入った。


 …


 クロノからの連絡は、本局から出動した艦船クラウディアの中からだった。
 早速、クロノからはやてに話し掛ける。


 『はやて。
  クロノだ。
  ・
  ・
  随分と落ち着いているな?』

 「落ち着いて?
  そんなことないよ。
  さっき、カリムと話してた時は、
  緊張感バリバリやったんやけどね。
  アリシアちゃんに緊張を解いて貰ったとこや。」


 クロノは、モニター越しに、額に手を当てる。


 『すまない。
  アリシアが、また何かをしたんだな。』

 「ええよ。
  それで?」

 『ああ。
  本局は、巨大船を極めて危険度の高いロストロギアと認定した。
  次元航行部隊の艦隊は、もう動き出している。
  地上部隊も協力して、事態に当たる。
  ・
  ・
  機動六課動けるか?』

 「うん。」

 『ところで……。』

 「何や?」

 『スカリエッティの額にあった絆創膏……何だろうな?』

 「……あったなぁ。
  さすがに、それにアリシアちゃんが絡んでるとは思わんよ。」

 『そうだな。』

 「でも、どうしたん? 急に?」

 『アリシアの名前が出たら、急に頭を過ぎったんだ。』

 「兄の勘?
  でも、今回ばかりはハズレやね。」

 『そうだな。
  すまん、時間を取らせた。』


 クロノとの通信が、一度切れる。
 はやては、少し頬を掻く。


 「まさかね……。」


 そのまさかで、絡んでた。



[25950] 第32話 StS編・出撃
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:57
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 はやてとクロノ……そして、ミゼット提督からの一連の大まかな流れが隊長陣とフォワード陣へ説明がある中、ロングアーチのスタッフは、現在進行形で進む巨大船と戦闘機人とガジェットの情報を集め、艦船リインフォースを現場へと進める。

 そして、機関室……。
 艦船リインフォースの一番大事な場所。
 また、拘りの一品でもある。
 宇宙戦艦ヤマトの補助エンジン、フライホイールのデザインを完全に再現。
 メインエンジンは、ナディアに出て来るノーチラス号の対消滅エンジンのデザインを再現。
 それらの調整と操作を機関室のコントロールルームから、デバイスに指示を出し制御する。
 機関室では、アリシアのデバイスⅡ~ⅡⅩが忙しなく動き続けていた。
 アリシアは、コントロールルームから自分のデバイスに指示を出す。


 「さて、航行用の運転は終わり。
  補助エンジンに流し込むエネルギーを増やしていくよ。」

 『Yes Sir.』

 「デビュー戦で、いきなりロストロギア指定の巨大戦を相手か……。
  頼むよ、リインフォース。」


 アリシアの操作で、補助エンジン内の圧力は徐々に上がっていき、艦船リインフォースは戦闘態勢へと移行しつつあった。
 そして、艦内に降下ポイント到着三分前のアナウンスが流れる。
 アリシアは、満を持して丸秘と書かれたボタンに指を伸ばした。


 「ポチッとな。」


 押されてしまった。



  第32話 StS編・出撃



 降下ポイント上空。
 艦船リインフォースの後部ハッチが開く。
 ヘリのエンジンが始動し、空を飛べるスキルを持つ隊長陣が飛び立つ準備を始める。


 「ほんなら、出動や!」


 そして、艦内には、大音量でGジェネFで採用されていたクロスボーン・ガンダムのテーマソングが流れた。


 「何や、これ!?」

 「この音楽知ってる……。」

 「フェイトちゃん?」

 「アリシアが、夢中でやってたテレビゲームだ……。」


 全員がこけた。
 そして、隊長陣の足元にリニア・カタパルトが出て来た。


 『隊長陣は、名前とデバイスの名前を言った後、
  順次発進すること!』

 「アリシア……。」

 「アイツ、馬鹿だよな……。」

 「でも、凄い期待してるに違いないわ……。」

 「そもそも、これって危なくないの?」


 これ……リニア・カタパルト。
 隊長陣は、フォワード陣の乗るヘリが出動するのを確認した後で、無言で頷く。
 リニア・カタパルトを跨ぎ、無視して飛び出した。


 『裏切り者~~~!』


 スピーカーから虚しく響くアリシアの声を無視して、戦いは始まった。


 …


 リインフォースの機関室にて、アリシアは、文句を口にする。


 「今一、ノリっていうものを分かってないのよね。
  あのカタパルトは、私の力作なのに。
  六課のヘリにも、こっそりカタパルトつけたのに壊されちゃうし。
  エリオ達も空を飛べればいいのに……。
  ・
  ・
  しかし、このスーパーサイヤ人みたいに飛んでってるフェイト達は、
  どんだけのスピードで飛んでってるのかしらね?」


 アリシアがどうでもいいことで悩んでいると、シャーリーからの通信が入る。


 『この音楽、いつまで流してるの!』

 「出来るなら、戦闘が終わるまで。」

 『今直ぐ止めなさい!』

 「分かりました~。
  フェイト達は、やってくれなかったしさ~。」


 アリシアは、スイッチを切る。
 そして、通信が繋がったので、ついでにシャーリーに話し掛ける。


 「ところでさ。
  艦長自ら、出陣しちゃったんだけど、
  この艦船は、どうするの?」

 『私は、現場の皆のサポート。
  艦船の指揮は、グリフィスに移行。
  ルキノは、引き続き操舵を担当。』

 「了解。
  続きは、グリフィスに聞くよ。」


 アリシアは、シャーリーとの通信を終えて、グリフィスに繋ぐ。


 「グリフィス。
  どうするの?」

 『少し前に出ようと思っているんだが。』

 「何で?」

 『航空魔導師の一時的な基地にするんだ。
  この艦船には防御スキルがあったはずだから、
  シールド内に身を隠せるし、傷ついた魔導師を収容して治療も出来る。』

 「それで前に出るのか……。」

 『巨大船と一定の距離を取りながら、
  一定位置をキープし続ける。』


 アリシアは、少し考える。


 「グリフィス。
  それ出来なくもないけど、
  長時間は持たないからね。
  ・
  ・
  シールドも前面だけだし、帆の方も……。」

 『ちゃんと、マニュアルには目を通しているよ。
  ただ確実にこの艦船は、傷ついていく……。
  その、つまり……。』

 「…………。」


 正直に言えば、自分の作った艦船だから、傷つけて欲しくはない。
 だけど、グリフィスの方法を取れば、前線で戦う魔導師が大勢救われる。


 「艦船の機能が停止するまで、
  盾になって踏ん張るってことだね。
  ・
  ・
  クロノが言ってたよ。
  悲しい事件で、こんなはずじゃない人生を送らなければならなくなった人のこと。
  艦船は、壊れたところを直せるけど、人は直せないからね。
  六課が悲しい事件を一秒でも早く終わらせるために動いている以上、
  戦っている魔導師達を一人でも助けて、
  こんなはずじゃない人生を送らせないようにしないとね。
  ・
  ・
  その代わり!
  この事件が終わったら、しっかりオーバーホールさせて貰うからね!」

 『ああ、部隊長に掛け合うよ。』

 「それと!
  グリフィスは、この艦船に乗ってる皆の命を預かっているんだから、
  艦船が落ちそうになったら、速やかに撤退だからね!」

 『分かってる。
  それが、僕の責任だ。』

 「分かった。
  今から、レイジングハートⅡに艦船のダメージデータと機能データをリンクする。
  グリフィスは、そのデータを見て限界と感じたら、
  撤退の指示を出して。」

 『了解した。
  ・
  ・
  シャーリー!
  部隊長と近隣の魔導師との通信を開いてくれ!』


 ブリッジでは、グリフィスの指示の下、艦船リインフォースが前線へと向かう。
 そして、シールドが展開されると空戦魔導師達の逃げ込める一時避難所となった。
 しかし、展開出来るのは前方のみ。
 圧倒的な数を擁するガジェットⅡ型の前に、側面と後方から徐々にダメージを蓄積させ始めた。


 …


 六課の魔導師達が分散して事に当たり、時間も経過する。
 巨大船鎮圧に向かったはやて、なのは、ヴィータ。
 スカリエッティのアジトへ向かったフェイト。
 地上本部に向かうスカリエッティの手で蘇った人造魔導師ゼストと融合騎アギトを迎え撃つシグナムとリイン。
 同じく地上本部へ向かう戦闘機人と召喚師の少女を迎え撃つフォワード陣。
 敵戦力の主力を面と向かって、相手をしているのは六課の隊員になっていた。

 一方、聖王のゆりかごの周辺では、ゆりかごから大量に射出されたガジェットと地上部隊の航空魔導師、六課部隊長であるはやてが戦いを続けていた。
 ダブルSSランクの魔導師の投入。
 本来なら、大技の一つで広範囲にゆりかごを包むような魔法で殲滅する方が手っ取り早い。
 しかし、今は、それも出来ない。
 理由は、以下になる。
 ・敵味方入り乱れている状況では、味方まで巻き込んでしまう。
 ・はやての大きな魔法には、詠唱による大きな隙が出来る。
  そして、今は、その詠唱時間を守れる魔導師……守護騎士が側に居ない。
 ・ゆりかごから、射出されるガジェットの数が分からない以上、不用意に魔法を連発して魔力を”0”にするわけにはいかない。

 そこで、敷かれるのは地上部隊の魔導師との連携。
 使う魔法も詠唱のないものか短いものということになる。

 はやては、前に出る。
 力を持った者の役目。
 自身を縛り付ける罪の意識。
 悲しい事件を体験した自覚。
 そして、六課の隊員を現場で戦わせるために部隊長として道を切り開く。
 それらを認識して感じているから、はやては、先頭に立ち続ける。


 「叩ける小型機は、空で叩く!
  潰せる砲門は、今のうちに潰す!
  ミッド地上の航空魔導師隊、勇気と力の見せ所やで!」


 デバイスである夜天の書を開き、ガジェットを魔法で殲滅していく。
 同時に一緒に戦う魔導師達の指揮も行なう。
 そして、内心では焦燥感もある。
 自身の育てた部隊員ではないため、正確な戦力の把握が出来ないこと。
 ガジェットを想定した訓練が、あまりに未熟であること。

 はやては、ちらりと後方を見る。
 艦船リインフォースは、しっかりと付いて来ている。


 「無理は、禁物や!
  ゆりかごからの砲撃をかわせないと判断した時は、
  迷わず艦船のシールドに入って!
  負傷者も艦船に運び込むんや!」


 はやての指示に魔導師達から返事が返る。


 「アリシアちゃんの艦船じゃなければ、
  ゆりかごの砲撃で沈んでるとこやね……。
  ・
  ・
  ロングアーチの皆も、よく付いて来てくれてる。
  この状況でも、まだ救える命がある。
  リインフォース……。
  もう少し、私に付き合ってな。」


 はやては、新たなガジェットの密集地帯へと小隊を伴って飛び立った。



[25950] 第33話 StS編・決戦
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:57
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 戦闘開始から、艦船リインフォースの補助エンジンは、フル稼働している。
 前方のシールドも解除することが出来ない。
 救助者も増えていく。
 そして、メディカルルームで治療を続けるシャマルにザフィーラからの念話が入る。


 「ザフィーラ?
  行かなきゃ……。」


 しかし、シャマルは、ここを離れるわけにはいかない。
 シャマルは、念話を通じてアリシアに連絡を入れた。



  第33話 StS編・決戦



 機関室のコントロールルームで端末を叩きながら、アリシアは、シャマルの念話を受ける。


 『アリシアちゃん。』

 『何?』

 『ザフィーラが呼んでるの。』

 『ザフィーラ?』

 『戦闘機人を探すのに、手が居るって。』


 アリシアは、更にモニターを増やし、デバイスの稼働状況を確認する。


 『条件があるの。
  シャマルの治療スキルをクラールヴィントⅡにダウンロードして。
  シャマルの能力は、特秘事項になってるから遠慮してたけど、
  代わりになれる魔導師が居ない以上、どうしても……。
  この戦いが終わったら、データは、全て抹消するから。』

 『……構いませんよ。
  傷ついた人を癒す役に立つなら、
  データも消さなくてもいいです。
  ・
  ・
  用件が済んだら、必ず戻って手伝いますから。』

 『了解。
  ここから、私が操作する。』

 『ありがとう。』


 シャマルが、メディカルルームを出る。
 アリシアは、バックヤードスタッフの居る部屋に通信を繋ぐ。


 「手が空いてる人は手伝って。
  シャマルが抜けた分を埋めさせて。」


 直に数名のスタッフが名乗りを上げてくれる。
 アリシアは、クラールヴィントの兄弟達とバックヤードスタッフに指示を出した。


 「治療スピードは落ちたけど、許容範囲内。
  砲門を潰せば、救助者も減って来るはず。」


 今度は、艦船のダメージを確認する。


 「……ヤバイわね。
  これ以上、ダメージが蓄積されて装甲板を抜かれたら、
  機能が落ちるわよ……。
  それどころか、人の居るところまで抜かれたら……。
  隔壁を降ろす準備もしないと……。」


 ガジェットの攻撃によるダメージが蓄積していく。
 アリシアは、更に端末を叩き続ける。


 「ルキノの操舵データから、回避運動のパターンも更新されてる……。
  ゆりかごからの砲撃も、シールドで逸らす受けるを判断出来てる……。
  後は……。
  この艦船を一秒でも長く持たせるには……。」


 アリシアやロングアーチのスタッフの努力も虚しく、リインフォースのダメージを表わすモニターは、アラートを表わす赤が徐々に広がり始めていた。


 …


 ゆりかごの砲門を潰し、ガジェットを叩いていたはやても、終わりの見えないガジェットの数に息を切らす。
 その後方で黒煙をあげる艦船リインフォース。
 限界が近いのが分かる。


 「ここまで……やね。
  よう、付いて来てくれた……。
  失われるかもしれなかった命を救えた……。
  ・
  ・
  だから……。
  グリフィス。」


 はやてから、グリフィスに連絡を入れる。


 「今の状態、あとどれぐらい維持出来る?」

 『……次のガジェットの一隊が来たら、
  恐らく装甲板が……抜かれます。』

 「分かった。
  判断は任す。」


 その通信にアリシアが割って入った。


 『ごめん……。
  この子を最後まで飛ばせてあげれなかった……。』

 「アリシアちゃん……。」

 『アリシア……。』


 はやてとグリフィスは、アリシアがいつもと違うと感じる。


 『最後まで……。
  最後まで…諦めないから……。
  それまで……。』


 アリシアの通信は、そこで沈黙した。
 そして、アリシアが諦めたくなくても、艦船の中に多くの人々が居る以上、撤退を判断したら後退しなければいけない。


 『アリシアは……。
  自分が止められないのを知っていたのかもしれない。
  だから、僕に……。』

 「そうかもしれへん。
  ・
  ・
  だから、しっかり支えてやってな。
  今は、グリフィスが艦長なんやから。」

 『はい。』

 「…………。」

 (掛けたい言葉も掛けてあげられない……。
  これが戦いなんよね……。)


 はやては、少し目を閉じると再び戦闘を再開した。


 …


 機関室のコントロールルームで、アリシアは、無言で端末を叩き続ける。
 目からは、涙が止まらない。
 それを無視して端末を叩き続ける。
 しかし、思いついた回避行動のプランも、これ以上は役に立たない。


 「ごめん、はやて……。
  折角、リインフォースの名前を貰ったのに……。
  絶対に墜ちちゃいけないのに……。
  ・
  ・
  私は、何も出来なかった……。
  十年頑張った成果がこれだよ……。
  足りなくて届かなかった……。」


 アリシアは涙を拭い、端末に向かうが手が動かない。
 目には、別の決意が映る。


 (ロストロギアのエネルギー結晶を手に入れるしかない……。
  ガジェットのⅢ型を回収して……。
  リインフォースのメインエンジンを動かせば……。
  ・
  ・
  でも、管理局の許しも得ないで、そんなことをすれば……。)


 ロストロギアの無断使用……。
 犯罪者になれば、管理局で勤務も出来ない。
 つまり、フェイトと一緒に居られない。


 (それでも……。
  この艦船を沈めたくない……。
  沈められない……。
  ・
  ・
  最前線で戦い続ける魔導師達を守り続けなければいけない。
  アースラは、そのために再び翼を広げた。
  私が翼を与えた。)


 アリシアは、ポケットの機械を取り出す。
 説明書には載せなかったロストロギアを直列で繋いで、エネルギー結晶の出力を上げる機械。
 アリシアは、機械を握り締めた。
 その時、機関室のコントロールルームを誰かがノックした。


 …


 機関室のコントロールルームの扉を開けたのは、地上部隊の航空魔導師だった。


 「お嬢さん、お届けものです。」

 「え?」


 見たこともない人物なのに、声だけが耳に残る。
 その声は、忘れようとしても忘れられない。
 地上部隊の航空魔導師は、溜息を吐く。


 「あの時、言ったのになぁ。
  おじさんは、呼んだら助けに来るって。」


 アリシアは、航空魔導師から発せられる言葉を不思議に思いながら聞き続けていた。
 そして、にやりと笑った顔の下から、あの時の泥棒の顔。
 脱ぎ捨てられた航空魔導師の服の下から見えるのは、あの時、目に焼きついた赤いジャケット。


 「どうして……。」

 「聞き間違いか?
  助けを呼んでいたのは、
  アリシアの声だと思ったんだけど?」


 ルパンは、アリシアにウィンクする。


 「ちょ~っと、キザだったか?
  でも、これがあれば、何とかなるんじゃないか?」


 ルパンのポケットから出て来た機械。
 それは、忘れようと思っても忘れられない。


 「まさか……。」

 「そう、ロストロギア。
  ムフフフフ……。」


 アリシアは、ルパンに抱きついた。
 ルパンは、アリシアの頭に手を置く。


 「大きくなったなぁ。
  元気だったか?」

 「……うん。」

 「急ぐんだろ?」


 アリシアは、静かに頷く。
 そして、ルパンの手の中の機械を厳しい顔で見つめ、ルパンから機械を受け取ろうとする。
 しかし、ルパンは、それを上にあげる。


 「……何で?」

 「アリシア……。
  これを受け取るって、
  どういうことか分かってるのか?」

 「え?」

 「ロストロギアの無断使用。
  得体の知れない人物の協力。
  ・
  ・
  管理局に居られないかもしれないんだぜ?」


 アリシアの手が止まる。
 それは、さっき考えたこと。
 暫く呆然とした後、にかっと笑うとジャンプしてルパンの手から、機械を奪い取る。
 少し迷ったのが馬鹿らしくなる。
 あの時のおじさんは、心配しながら後押ししてくれている。


 (私の気持ちを分かっているから……。
  持って来てくれたんだ……。
  ・
  ・
  甘えない。
  自分で決める。)

 「そんなのは、あと!
  今は、これ以上、犠牲者を出させない!
  そして、はやてから名前を貰ったこの艦船を落とさせない!」

 「いいのか?」

 「いい!」


 ルパンも、にかっと笑う。


 「管理局に入れとくの勿体ねぇな。
  今度、俺と泥棒するか?」

 「クビになったら、再就職する!」


 ルパンは、可笑しそうに笑うとコントロールルームのマイクを掴み、スピーカーのスイッチを入れる。
 そして、大きく息を吸うとマイクに叫ぶ。


 「アリシア・テスタロッサは預かった!
  この艦船は、ルパン三世が占拠した!」


 アリシアは、目をパチクリとしぱたいた。


 …


 艦船リインフォースから流れる通信。
 アリシアが人質になった。


 『管理局の人間に連絡~!
  アリシア・テスタロッサは、
  この俺、ルパン三世が預かった!』

 『キャ~!
  攫われる~!』

 『艦船を直すために
  今から、盗み出したロストロギアを使う!』

 『お願い~!
  命だけは助けて~!』


 艦船リインフォースから流れる犯人とアリシアの声。
 航空魔導師達は、艦船リインフォースを見て固まる。
 そして、それは、艦船リインフォースに乗る六課の人間全ても同じだった。


 …


 再び機関室のコントロールルーム……。


 「こんなもんか?」

 「そうじゃない?」


 全ては、ルパンの提案による演技。
 ルパンは、アリシアを犯罪者にしないために、また罪を被ろうとしていた。
 そして、そんなことを気にさせないように、ルパンがアリシアに声を掛ける。


 「んじゃあ、行ってみようか?」

 「うん!
  おじさんも手伝って!」

 「はいはい、りょ~か~い。」


 ルパンは、アリシアに指示されて、コントロールルームの隅にある四色のレバーの前に立つ。


 「今から、補助エンジンの動力を繋いで、
  メインエンジンを動かすよ。
  補助エンジンは、さっき、セットしたロストロギアの
  エネルギーを送る装置に切り替わるの。」

 「タイミングが重要ってことだな?」

 「そう。
  ・
  ・
  補助エンジン接続。
  フライホイール始動。」


 アリシアが、動力の接続を切り替える。
 機関室のメインエンジンに繋がる巨大なホイールが回転を始める。


 「フライホイール始動確認。
  メインエンジンにエネルギー注入用意。」


 アリシアは、目の前の画面の数値……エンジン内の圧力フライホイールの回転数が徐々に上がっていくのを確認し、タイミングを計る。
 自分のデバイスが計算しながら、サポートする。
 計算値が予測値に達する。
 アリシアが、ルパンに叫ぶ。


 「赤上げて!」

 「何!? ホイっと!」


 ルパンは、アリシアの指示に合わせて、中間で止まっている赤いレバーを押し上げる。


 「黒白下げて!
  青上げる!」

 「な~んか、昔……。
  同じようなこと叫んだ記憶があるわ。」


 ルパンは、アリシアの指示通り、レバーを上げ下げする。


 「メインエンジン始動!
  接続、点火!」


 アリシアが大き目のレバーを引くと、メインエンジンがロストロギアからエネルギーを吸い出し動き始める。


 「来た……。
  来た来た来た来た!
  出力上昇中!」


 ルパンは、アリシアのところに歩いて来る。


 「何で、アナログな動かし方なんだ?」

 「機密保持。
  盗まれても、手順を知らないと動かせないように。」

 「な~るほどね。」

 「今、一気に修復しちゃうから、待っててね。」

 「修復?」


 アリシアは、自分のデバイスに指示を出す。


 「リカバリー、行けるね?」

 『Yes Sir.』


 アリシアは、頷く。
 デバイスは、艦船とリンクして機能を発揮する。


 『Recovery.』


 デバイスの機械音と共に艦船リインフォースは、眩い光に包まれた。


 …


 航空魔導師達は、一瞬、何が起きたか分からなかった。
 しかし、数人がその異変に気付くと徐々に周囲が理解し始める。


 「か、艦船が修復した……。」


 はやての口から、言葉が漏れる。
 そして、はやての頭には、クロノとの会話が蘇った。


 「ちょい、待ち!
  今のがリカバリーなら、
  ほんまにロストロギアがセットされたいうことやないか!
  あっちの艦船も、止めなあかんとちゃうのか!?」


 はやては、焦り出す。
 しかし、再び妙な叫び声が、艦船リインフォースのスピーカーから響く。


 『うわ~~~!
  ちょっと、暴れるなって!』

 『悪は滅びるのよ!』

 『ちょ、何!?
  この技!?』

 『腕挫ぎ逆十字固め!』

 『どっこで、覚えたんだよ!』

 『ふふふ……。
  女には秘密があるのよ。』

 『何、不二子みてーなこと言ってんだよ!』

 『これで、このまま……。』

 『こうなりゃ、自棄だ!』

 『ちょっと!
  何処触ってんの!
  ・
  ・
  あ! 逃げた!
  はやて! 逃げた!』


 はやては、艦船リインフォースから流れる大音量の会話に項垂れる。
 その項垂れるはやてを周りの航空魔導師達は、笑いを堪えながら見ている。


 「と、兎に角……。
  アリシアちゃんに対する危機は去ったいうことか?」


 …


 やるべきことを終え、機関室のコントロールルームは、静けさを取り戻している。
 アリシアがルパンを見上げる。


 「おじさん……。」

 「十年前に……。
  アリシアには、何もあげられなかったからな。
  これで、許してくれるか?」

 「許すものなんてないよ。
  私は、おじさんに貰うことしか出来てない……。」

 「いいさ。
  本当は、しっかり助けてやりたいんだけどな。
  この世界じゃ、質量兵器が使えねぇ。
  俺は、ワルサーを撃つことも出来ねぇ。」

 「うん……。」

 「手助け出来るのも、ここまでだ。」

 「また、悪者にしちゃったね……。」

 「それもいいさ。
  フェイトとアリシアを離れ離れにしたら、
  プレシアに怒られちまう……。」

 「母様?」

 「約束だからな。」

 「ありがとう……。
  ・
  ・
  本当は……。
  管理局辞めて、フェイトと別れるの怖かったんだ……。


 アリシアは、笑いながら涙を浮かべた。
 ルパンは、優しい笑みを浮かべながら、アリシアの頭を撫でる。
 そして、アリシアは、小指を差し出す。


 「約束。
  十年前のあの公園で待ってて。
  あの時と同じ日にフェイトと会いに行く。」

 「……ああ。」


 ルパンが、アリシアの小指に自分の小指を絡める。


 「騙まし討ちで、逮捕っていうのはなしだぜ?」

 「私はしないけど、フェイトは、今や執務官だよ?
  保障出来ないなぁ。」


 ルパンは、可笑しそうに笑う。


 「じゃあ、そろそろ行くわ。」

 「うん。」


 アリシアは、ルパンの背中を見続ける。
 ルパンは、背中を向けたまま、アリシアに付け加える。


 「実はな……。」

 「?」

 「助けに来たの偶々なんだわ。」

 「へ?」

 「不二子ちゃんが、若返りの薬が欲しいって言うから、
  本局の無限書庫に忍び込んで調べものしててよ。
  そこで、フェイトとアリシアのこと耳にしただけ。」


 アリシアは、ガクッと肩を落とした。
 ルパンの背中は、笑っている。


 「そうそう。
  帰る時、あれ、使っていいか?」

 「あれ?」

 「あの足に固定するの。」

 「うん! 使って!」

 「ほんじゃ、またな。」


 ルパンは、手を振って機関室のコントロールルームを出て行った。


 「おじさん!
  ありがとう!
  リインフォースを動かすのおじさんと一緒でよかった!」


 アリシアの叫ぶ声にルパンは、もう一度、微笑んだ。


 …


 艦船リインフォースから、勢いよく赤いハンググライダーが飛び出す。


 「もしかして……。」

 『はやて!
  艦から逃げたよ!』


 はやては、一瞬、どうするか迷うが直ぐに整理する。


 「ハンググライダーは、ここに居ない魔導師に任す!
  今は、ゆりかごを止めるのが優先や!」


 周りの航空魔導師は、了解の返事を返す。


 「艦船リインフォース!
  まだまだ行けるな?」

 『フルパフォーマンスで行けるよ!』

 「うん、分かった。
  ・
  ・
  しゃーないな……。
  今回のは、目を瞑るか……。
  そいで、アリシアちゃんには、後で始末書書くの手伝って貰わんとなぁ。」


 はやての後半の独り言が、アリシアの耳に届くと呻く声がはやてに届いた。
 はやては、クスリと笑うと戦線を立て直す。


 「追い風が吹いたで!
  もう一頑張りいくよ!」


 魔導師達の士気があがる。
 自分達に有利な奇跡みたいなことが起きたことと、空中の移動基地が再び復活したことで心の中に少なからず余裕が出来たためだ。
 はやては、呟く。


 「ほんまに祝福の風が吹いたな……。」


 はやては、戦線が回復したことで、今度は、自らもゆりかごへと向かう余裕を確保した。
 グリフィスに連絡を入れ、今度は、先に突入したなのはとヴィータの支援へ向かう。
 そして、この約一時間後、この事件は、終着を迎えた。



[25950] 第34話 StS編・終幕
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 13:10
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 JS事件の終幕……。
 六課フォワードメンバーを始め、多くの魔導師の協力の下で戦闘機人十二名全員の身柄を確保。
 敵アジトにて、首謀者ジェイル・スカリエッティの逮捕。
 スバルの手による攫われていた姉のギンガ・ナカジマの救出。
 そして、なのはが取り戻した保護児童のヴィヴィオ。

 しかし、最後の最後で物語りは逸れる。
 聖王のゆりかごを消滅させるべく召集した本局の艦隊。
 艦隊から発射される強力な魔導砲に混じって、地上からもゆりかごを八本の光の柱が貫いた。
 艦船リインフォースから発射された主砲である。
 これにより、アリシアに更なる始末書が増えたのであった。



  第34話 StS編・終幕



 戦闘の全てが終わった後を少し……。
 はやてが、艦船リインフォースに戻った時、ブリッジは、お祭り騒ぎだった。
 『祝! 飛翔!』
 『祝! 主砲発射!』
 他にも訳の分からない垂れ幕が下がる。
 艦船リインフォース造りに関わった研究者と技術者からの祝報のメールが山のように届き、戦闘前から勝利を前提に動いていたアリシアが用意したクラッカーや祝いのジュースや酒が振舞われていた。
 当然、はやては、拳を握る。
 誰かのせいで、無許可でロストロギアが使われ……。
 誰かの余計な砲撃のせいで、艦船リインフォースは、地上本部からだけでなく本局からも目をつけられた……。


 「我が世の春が来たぁぁぁ!
  はやて! この艦船凄いよぉぉぉ!
  さすがアースラのお兄さん!」

 「アリシアちゃん~~~!」


 盛大にはやてのグーが、アリシアに炸裂したのは言うまでもない。
 そして、帰還したシャマルが加わり、野戦病院フル稼働再開。
 アリシアは、はやての機嫌が直るまで心置きなく扱き使われた。


 …


 そして、十日後……。
 アリシアは、ツナギを着て、本局の廊下を不満顔で歩いていた。


 「あ~もう……。
  何で、新人研修を受け直さなくちゃいけないのよ……。」


 アリシアには、大量の始末書と減給。
 更にもう一度、管理局が何なのかを覚え直させるために、新人研修を受けさせられることになっていた。


 「とはいえ、ロストロギアの無断使用で、
  これだけで済んだのは奇跡的か……。」


 アリシアは、あの時、現れたルパンの姿を思い出す。


 「夢じゃないんだよね……。
  ロストロギアが回収されたんだし……。」


 アリシアは、暫し窓の歪んだ空間に目を移す。
 そして、反射して窓に女性が映るのを見つけると振り返る。


 「リンディ母さん……。」


 リンディは、アリシアに手を振って笑顔を浮かべた。


 …


 本局内の喫茶店で、久々の再会を過ごす。
 テーブルの上には、アイスシュガー抹茶ミルクが二つ。
 アリシアの味覚は、リンディの味覚を克服済み。


 「久しぶりね、アリシア。」

 「そうだね。」

 「聞いてるわよ。」

 「……いい噂?」

 「さあ?
  アリシアにとっては、どうなのかしら?」

 「悪いことしてないもん。」


 アリシアの態度に、リンディは、クスクスと笑っている。


 「あれは、偶然だったのかしらね?
  あの時、取り逃がした泥棒が現れるなんて。」

 「…………。」

 「私には、彼がアリシアを助けたように感じたわ。
  艦船の修復に彼が持っていたと言われるロストロギアを使ったのも、
  彼が無理やりアリシアに指示したというのも。」

 「…………。」

 「管理局では、申請に時間が掛かって通らない、
  もしくは、使用の許可が出ないロストロギアを使わせるために
  彼が全ての罪を被ったように。」

 「…………。」


 アリシアは、リンデイを見て頷く。


 「そうだよ。」

 「認めるの?」

 「うん、ここではね。
  他の場所では認めないけど。」

 「ずるい子ね。
  公の場では、アリシアの証言がないと
  証拠にならないことを知ってて。」


 アリシアは、笑ってみせる。


 「あのおじさんは、恩人なんだ。
  全部は言えない……。
  言ったら、プレシア母様の努力も消えちゃうから。
  私達姉妹の秘密。」

 「どうしたらいいのかしらね?」

 「私、今回のことで捕まってもいいよ。」

 「どうして?」

 「後悔してない。
  こんなはずじゃない人生を送る人を
  一人でも多く救った確信があるからね。
  あそこで躊躇って、後で死んだ人が居たって後悔するより、
  あそこで出来ることだけのことをしたって思える方がいい……。」

 「そうね……。
  あの艦船があそこに居続けることが出来たのは大きいものね。
  魔導師達の盾になって、治療もしたんですもの。」

 「うん……。
  だから、後悔ないよ。
  おじさんは、私の十年培った努力を発揮させてくれた。
  フェイト以外の人の役にも立てちゃった。
  もう十分……。」


 リンディは、溜息を吐く。


 「ここでの話は、秘密にして置きます。」

 「ん?」

 「確かに犯罪者と知り合いなのは頂けないけど、
  真実を裁判で語っても、裁けないでしょうね。
  アリシアが、多くの命を救った事実も変わらないから、
  有罪になったら、多くの魔導師から抗議が出るでしょう。」

 「それは、有り得るね。」

 「だから、アリシアの処分は軽いんでしょうね。」

 「ん?
  ・
  ・
  もしかして、上の人達って気付いてる?」

 「真実は分からなくても、
  きっと、何かしらの流れは感じているんじゃない?
  私も、その一人だし。」

 「はは……。
  見逃して貰ってたんだね……。
  管理局を影で散々酷いこと言ったのに……。
  もう、足向けて寝れないかな?」


 アリシアの困り顔に、リンディは微笑む。


 「そういえば……。
  何で、そんな格好をしているの?」

 「これから、六課に戻るんだけどね。
  キャロと約束があってさ。」

 「約束?」

 「壊れた六課の建て直しをしなくちゃなんだよ。」

 「アリシアが建て直すの?」

 「実はね。
  六課の隊舎は、吹き飛んじゃったでしょ。
  だから、皆、リインフォースで勤務続けてるんだよ。」

 「まあ。」

 「それで、六課の試用期間は一年だから、
  建て直すよりも艦船勤務の方が経費掛からないって。」

 「それじゃあ、建て直すというのは?」

 「六課の隊舎跡を艦船のドッグにするんだって。
  こう……艦船と合体する感じ。」


 アリシアは、両手で艦船とドッグの感じを表現する。


 「つまり、屋根と壁を取っ払って、
  配管とか配線とかがリインフォースに合体するの。」

 「へぇ。」

 「ドッグは、隊舎を建て直すよりも、
  ずっと安上がりだからね。
  それに資材は、艦船に揃ってるし。
  ・
  ・
  しかも、私の私物だから、新たに揃える必要もないから、
  実質費用0だしね……。
  さすが、はやてだよ……。」

 「ふふ……。」

 「六課が解散したら、
  このままリインフォースも持っていかれる勢いだよ。」

 「その時は、どうするの?」

 「え? う~ん……。
  黙って、プレゼントかなぁ。
  はやてと守護騎士の皆が、女神像を見る時の目が普通じゃないからね。
  あれで取り上げたら、一生恨まれそうだよ。」

 「……艦船あげちゃうの?
  一体、幾ら掛かってるの?」

 「多分、リンディ母さんの退職金よりも多い。」

 「当然よね……。」

 「は~……。
  もっと、計画的に艦船造れば良かった……。
  はやての喜ぶ顔が見たくて、
  初代リインフォースの女神像をつけたのは完全な失敗だったよ。
  あの艦船に全財産の4/5を注ぎ込んじゃったからなぁ。」

 「アリシアには、お小遣いの使い方を
  もう一度、しっかりと教えないとダメね。
  フェイトは、ちゃんと計画的に使うのに。」

 「まだ、1/5残ってるよ。
  特許も、まだ何個か残ってるし。」

 「聞いてて、こっちの金銭感覚がおかしくなりそうだわ。」

 「そうでしょうね。
  でも、それだけお金が掛かるんだよ。
  今回の事件で使用されたガジェットだって、
  一体、幾ら掛かったか分からないでしょ?
  あれ合計したら、艦船一隻なんて値段じゃないと思うよ?」

 「確かにそうね……。
  貴方達技術者は、少しおかしいわね。」

 「私を含めないで。」

 「この先、心配だわ。
  手の掛かる娘が、今度は、何に手を出すのか……。」

 「一体、何の心配をしてるの?
  こんなの今回が最初で最後だよ……多分。」


 リンディは、苦笑いを浮かべてアイスシュガー抹茶ミルクを飲み、アリシアは、話を続ける。


 「でも、少しぐらい黒くないとね。
  利用する気はないけど、
  利用されないためには、汚いことも知らないといけないし。」

 「あら、何それ?」

 「スカリエッティと管理局とのドロドロとした関係。
  リインフォースの記録にクロノとの会話が残ってた。
  私、就職先間違えたんじゃないかと思ったよ。」

 「……確かに。」

 「人造魔導師も戦闘機人の技術も違法。
  しかも、あのガジェットとか研究資金とかも管理局の援助。
  これって、管理局全体の信用問題でしょ?
  誰が責任取るの?
  誰が裁かれるの?
  どっかの政治家みたいに秘書がやりましたって?」

 「アリシア……。」

 「これから、荒れるわね!
  楽しみだわ!」


 リンディが、テーブルに頭をぶつけた。


 「ちょっと!
  何、考えてるの!」

 「あはは。
  斉藤みたいなセリフを言ってみたかっただけだよ。」

 「何処の斎藤さん……。」

 「るろうに剣心♪」

 (話の掴みどころが分からない……。
  真剣な話をしてるのか、ネタを言いたいだけなのか……。)


 リンディは、咳払いをする。


 「でも、アリシアの言う通り、
  管理局が失った信用は大きいわ。
  管理局が禁止していた非人道的なことに
  管理局が率先して関わっていたのだから。」

 「そうだね。
  組織の中から変えないと。
  問題の底辺に有るのは、人材不足だと思うからね。
  一つ、魔導師の絶対数。
  一つ、魔導師のランク。
  両方とも解決は困難。
  生まれて来る人間全員が魔導師じゃないから、
  魔導師を増やすのは、困難この上極まりない。
  そして、私のように魔法資質がなければ、
  魔導師のランクは上がらない。
  つまり、訓練しても、何処かで頭打ちになる。
  ・
  ・
  さあ、リンディ母さん!
  どうすればいい?」

 「…………。」


 リンディは、難しい顔で顎に手を当てる。


 「……直ぐには、思いつかないわね。
  だからと言って、
  命を弄ぶ研究を進めるわけにはいかないわ。」

 「うん。
  そして、質量兵器に頼るのは、歴史を繰り返すからNG。」

 「本当……。
  難しい……。」


 アリシアは、言いたいことを言い切るとアイスシュガー抹茶ミルクに手を伸ばす。
 リンディは、アリシアに質問する。


 「アリシアは、答えを持ってるの?」

 「私がした質問の?」

 「ええ。」

 「持ってるよ。」

 「聞きたいわ。」

 「比率を変えればいいのよ。
  悪い人とそれを対処する人の比率。
  今は、悪い人が多いから手が回らないけど、
  悪い人が減れば、今の人数で対応可能だからね。」

 「なるほど。」

 「レジアス中将が推し進めていたのは、
  悪い人を取り締まる力の強化。
  悪い人を減らす努力をするべきだと思うよ。」

 「ズバリ、その方法は?」

 「心の成長。
  分かり合うことを皆が知ることだと思うよ。
  少なからず、私達は見て来たからね。
  フェイトやなのは。
  はやてや守護騎士の皆。
  分かり合ったら、こんなに上手くいくよ。」

 「心か……。
  確かに皆が分かり合えたら……。」

 「無理でも分かり合える努力をすれば、
  悪い人も減ってくと思うよ。」

 「もしかしたら、そういう努力をしていく方が近道かもしれないわね。」

 「人類全てをニュータイプにするの♪
  スペースコロニーでも作っちゃう?」

 「もしかして……。
  また、漫画からなの?」

 「えへへ……。」


 リンディは、呆れたと溜息を吐く。
 しかし、漫画からとはいえ、直ぐにそこへ結び付けれるのがアリシアのいいところなのかもしれないと思う。


 「アリシアは、前向きよね。
  時々、救われるわ。」

 「そう?」

 「ええ。
  今回の事件は、広範囲の被害が出たし、管理局とも根が深い。
  少し気が滅入っていたのよね。」

 「分かる分かる。
  上司が馬鹿だと部下が苦労するもんね。」

 「また、そんな大声で……。」

 「あはは。」

 「それに……。」

 「ん?」

 「今回の事件は、まだまだ終わらない。」

 「ラスボスも倒したけど?」

 「その人が暴れた後始末よ。
  街の復旧。
  被害者の支援。
  アリシアの言った管理局内部の改革。
  他にも沢山あるわ。」

 「そうだね……。
  六課周りで言えば、隊舎以外にヴィヴィオの心のケアもあるし、
  戦闘機人の子達とかの今後とかだよね。」

 「ええ。」

 「まあ、うちは大丈夫でしょう。」

 「?」

 「ヴィヴィオには、ママ達が居るし。」

 「ああ。」

 「戦闘機人の子も、仲間になるんじゃないの?」

 「は?」

 「正義超人と戦ったから、友情が芽生えてさ。
  ピンチになったら、きっと助けに来てくれるわよ。」

 「何処のジャンプ作品!?」

 「友情、努力、勝利。
  今までだって、この王道を進んでると思わない?」

 「……そうかもしれない。
  そして、その通りになりそうで怖い……。」

 「フェイト達の行動が魔法少女じゃないもんね。
  あれは、正義超人だよ。
  なのはがキン肉マンで、フェイトがテリーマン。」

 「それを頭の中で『=』にさせないで。」

 「そのうち、マッスル・ドッキングとかしちゃうの。」

 「アリシア……。」

 「あ、フェイト達には言っちゃダメだよ。
  こういうネタ好きじゃないから。」

 「言えないわよ……。」


 アリシアは、コップの中のアイスシュガー抹茶ミルクを飲み干す。


 「じゃあ、行くよ。
  六課で、コンクリ練らないといけないから。」

 「それ本気?」

 「どっちだと思う?」


 アリシアは、可笑しそうに笑って席を立つ。
 リンディも席を立つ。


 「アリシア。
  話の核心は、はぐらかされた感じだけど、
  貴重な意見だったわ。」

 「うん。
  そして、私の役目は分かってるよ。」

 「え?」

 「皆のサポートをする。
  魔法特性のない私の出来ること。」


 アリシアは、手を振って去って行く。


 「皆のサポートか……。
  フェイトのお姉さんから、
  皆のお姉さんになるのかしら?」


 リンディは、笑みを溢す。


 「アリシアの長い問題の答えの一つが出たかな。」


 リンディは、フェイトとアリシアの年齢と姉妹の立場の関係に、ようやく答えが出たのかもしれないと思った。



[25950] 第35話 StS編・JS事件後①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:58
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 JS事件から、二週間……。
 機動六課は、本部を艦船リインフォースに移して活動していた。
 六課隊舎跡では、隊舎がドッグに姿を少しずつ変え、空を飛べない魔導師の運搬にヘリが常時スタンバイしている。
 このヘリにより、地上勤務と本部勤務を使い分けている。
 そして、アリシアは、ドッグ作成の現場指揮を執っていた。



  第35話 StS編・JS事件後①



 キャロと約束した六課の建て直し。
 それは少し姿を変え、艦船リンフォースのドッグになる。
 ドッグの建造にリンフォースを造ったアリシアが呼ばれるのは、当然と言えば当然だった。
 そして、キャロに話していたように、アリシアが本当にコンクリを練る訳ではない。
 ドッグの設計に携わるだけである。
 ドッキングさせるドッグの大きさ、ドッキング・アームの設置場所、ドッキング後の配管の設置位置など……。
 今回は、市民の生活を守るのが管理局ということもあり、市民の暮らしを優先させる街の復旧が優先ということで簡易ドッグの作成で終わる予定になっている。
 どんな魔法か、完成予定は二週間。
 後、六日ほどで完成とのこと。

 ヘリパイロットに転向したアルトが、アリシアに話し掛けた。


 「新しい地上の本部が出来るのは嬉しいけど、
  この建築スピードは異常だよね?」

 「そうだね。
  はやての支援をしてるバックが大きいのもあるけど、
  艦船リインフォースが活躍して、
  私の技術者の知り合いが、はやてを気に入っちゃったってのも大きいね。」

 「どういうこと?」

 「普通、艦船でロストロギア使って機能をフル稼働させるなんてないんだよ。
  だけど、艦船リインフォースは、それをしちゃったでしょ。
  だから、永久に入らないと思ってた研究成果を技術者や研究者は手に入れられたわけ。
  それを実行したのは、無断で実行した私なんだけど、
  真実を知らない人達は、はやてが人命優先で踏み切ったと勘違いしたんだ。
  更にそこで責任を取らされそうになった私を庇ったと勘違いして、
  はやてに偉い技術者や研究者の繋がりが出来たの。
  実際は、はやては、私の後始末をさせられただけなんだけどね。」

 「凄い偶然とどさくさなんだけど……。」

 「真実って怖いよね。
  でも、お陰でドッグ造りは、本局からの人材投入で早く終わるって。」

 「運も重要だよね……。」

 「そうそう。
  それに艦船は、はやても気に入ってくれてるし、
  そこで勤務出来るのは嬉しいかもよ?」

 「そういえば、守護騎士の皆さんも気に入ってるよね?」

 「うん。
  ・
  ・
  もしかしたら、このドッグの何処かに『八神』って、
  表札が掛かるかもしないよ。」

 「それ……どうなの?」

 「正直、微妙。
  だけど、今は、それぐらいのテンションになってる。」

 「あの艦船の何が気に入ってんだろう?」


 闇の書事件は、一般の魔導師には知らされていない事実も多い。
 アリシアは、笑って誤魔化すことにした。


 …


 午後、アリシアは、市内の病院を訪れる。
 ここでは、二週間経っても通い続ける魔導師も多い。
 アリシアは、御見舞いと病院の状況を六課に報告する任務のための訪問だった。
 そして、スバルの姉であるギンガが、本局での左手の処置の後、定期健診に来ていると聞いて、全ての用事を終わらせてから待合室に顔を出した。


 「失礼します。
  あ、ティアナにスバルも居る。」


 病院の待合室には、ティアナとスバルも居た。
 ティアナが、アリシアに話し掛ける。


 「アリシア?
  どうしたの?」

 「知り合いの魔導師の御見舞い。
  ついでに病院内の様子を六課に報告するための視察。
  そして、スバルのお姉さんの噂を聞いたので挨拶に。」

 「ご丁寧にありがとう。」


 ギンガが、アリシアに挨拶をする。


 「いえいえ。
  入院じゃないらしいから、
  御見舞いの品を用意してないんだけど。」

 「気にしてませんよ。」

 「ありがとう。
  余計に気を遣わせちゃったね。
  ・
  ・
  え、と……お加減は?」

 「もう、ほとんど完治です。」

 「よかった。」


 アリシアとギンガの会話にティアナが割り込む。


 「それより、聞きたいんだけど?」

 「何?」

 「どうして、ナース服を着てんのよ?」


 アリシアは、何故かナース服を着ていた。


 「これ?
  男性局員が喜ぶから。」


 ティアナ達が吹いた。


 「要望があってさ。
  こだわりの一品なんだよ。
  スカートの丈は、膝上二十センチとか。」

 「……そ、その片方だけのニーソックスとかは?」

 「リインのバリアジャケットみたいでしょ?
  男子局員の中に生足派とストッキング派が居てさ。
  両方の期待に応えてあげたの。」

 「「「応えるな!」」」

 「色も黒でさ。
  フェイトを意識してんだよ。
  真面目なフェイトには頼めないからね。」

 「フェイトさん、知ってるの?」

 「ノーコメント。」

 (((絶対知らない……。)))

 「私のことより。
  ギンガもスバルも調子悪くないの?」


 スバルが項垂れて、アリシアに話し掛ける。


 「アリシア……。
  私達に調子悪くなって欲しいの?」

 「そうじゃなくて。
  折角、リハビリのメニューとか考えたのに
  無駄に終わったのが残念で。」

 「わざわざ作ってくれたの?」

 「うん。
  この前のスバル用に作ったヤツだけど。」

 「アリシア……。
  今度、調子悪くなったらやるよ。
  だから、教えて。」


 ギンガも、頷く。


 「私も、ほぼ完治だから、
  完全に完治するまではやってみようかな。」

 「本当?
  ギンガもスバルもいい人ね。」


 アリシアは、感動している。


 「でも、これスバル用なんだよね……。
  ギンガは、スバルと同じタイプかな?」

 「同じよ。」

 「じゃあ、大丈夫だね。
  このリハビリね。
  ティアナの協力が居るの。」

 「私?」


 ティアナは、自分を指差す。


 「うん。」

 「スバルの長所を利用するから。」

 「ああ。
  スバルとは付き合い長いからね。」

 「うん。
  それでね。
  神経の繋がりを意識させるリハビリだから、
  スバルの集中力を高めないといけない設定になってる。」

 「なるほど。」

 「で、スバルの好きなものっていうのを調べたら、
  ティアナへのセクハラと判明したんだ。」

 「…………。」


 ティアナとギンガが固まった。


 「だから、リハビリメニューにティアナの胸を揉むという項目を追加して、
  揉み方にも十三通りのパターンを付け加える。
  スバルの集中力は、間違いなく極限まで高まる!
  たとえ、辛いリハビリでも止めるに止められない!
  ・
  ・
  どう?」

 「最高だよ! アリシア!
  ティア! 早速、やろう!」


 ティアナのグーが、アリシアとスバルに炸裂した。


 「馬鹿じゃないの! あんた達!」

 「でも、ちょうどおっぱいは、二つあるし……。」

 「何の関係があるのよ!」

 「ギンガとスバルで一つずつ。」

 「私にそんな趣味はありません!」

 「でも、さっきスバルと同じタイプだって……。」

 「「何のタイプを質問してたのよ!」」

 「ううう……。
  ギンガとティアナ怖い……。」

 「ところで、その十三通りって?」

 「聞くな! スバル!」


 アリシアが居ると纏まるものも纏まらない。
 しかし、スバルとアリシアに深い絆が生まれたのは確かだった。



[25950] 第36話 StS編・JS事件後②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:59
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 ヴィヴィオが、一時保護と検査を終えて戻って来たばかりの頃、まだ平穏な日常が戻り切っていない頃……。
 アリシアは、ママ達の居ない間の遊び相手になっていた。


 「おかしいわよね?」


 ドッグ造りも終わったのに艦船のオーバーホールは、未だに出来ていない。
 約束の時間は、確保出来ていない。


 「外装は、リカバリーで新品同様だけどさ……。
  中を弄りたい……。
  磨耗したかもしれないエンジンを弄りたい~!」


 アリシアは、地団太を踏む。


 「このままでは、シャーリーに全部オーバーホールされてしまう~!」


 この時点で、九割以上の整備が終わっていたりする。
 アリシアの欲求が満たされることはない。



  第36話 StS編・JS事件後②



 アリシアは、ソファーに腰掛けながら、積み木で遊ぶヴィヴィオに話し掛ける。


 「ヴィヴィオ~……。
  エンジンを弄りたいの~。」

 「エンジン?」

 「そうだよ。
  メインエンジンと補助エンジン。」

 「わかんな~い。」

 「だよね~……。
  ごめんね。」


 アリシアは、ヴィヴィオに向かって、手を広げる。


 「抱っこしてあげる。
  おいで。」

 「…………。」

 「イイ!」

 「…………。」

 (まさか……。
  嫌われた……。)


 アリシアは、少し放心した。


 …


 お昼を食べ終わって、午後になる。
 ヴィヴィオは、アリシアの手を引いている。


 「アリシア!
  44ソニックの練習しよう!」

 「いいよ。
  完成まで、もう少しだもんね。」

 (嫌われてないじゃん。)


 アリシアは、ヴィヴィオとキャッチボールを始める。
 キャッチボールは、一人で出来ない以上、嫌われていたら誘われない。


 (あれは、何だったんだろう?)


 アリシアは、首を傾げた。


 …


 次の日……。
 アリシアは、キャッチボールをする前に、ヴィヴィオに昨日と同じことをしてみる。


 「ヴィヴィオ。
  抱っこしてあげる。」

 「うん!」

 (あれ? 何でだろう?)


 ヴィヴィオは、アリシアの胸に飛び込んだ。
 アリシアは、首を傾げる。


 「はて?」

 「ん?」

 「ヴィヴィオ。
  この前、何で、抱っこ嫌だったの?」

 「いつ?」

 「昨日なんだけど。」

 「…………。」


 ヴィヴィオは、顎に指を当てて考える。


 「へへぇ……。
  わかんない。」

 「忘れちゃったか……。」

 「うん!」


 アリシアは、困った顔をする。
 しかし、何か胸に引っ掛かる。


 「ヴィヴィオ……。」

 「ん?」

 (もしかして……。)


 アリシアは、ママ達が帰ると直ぐにヴィヴィオを預け、自分の部屋に篭もった。
 なのはとフェイトは、いつも夕食を一緒にするのにと首を傾げた。


 …


 アリシアは、自分の部屋で頭の中を整理していた。


 (まずは、ヴィヴィオの笑顔……。
  何かを隠してる……。
  ・
  ・
  あの誤魔化し方を覚えてる。
  フェイトに姉でありたくて虚勢を張ってた時にそっくりなんだ。
  そして、経験上、誰かに話すまで嘘は続く。
  私は、クロノに話すまで嘘をつき続けた。
  逆に言えば、話せる相手や心の整理がついていない。)


 アリシアは、真剣な顔で目を閉じる。


 (抱っこの拒否……。
  あれが嘘なのは間違いない。
  でも、昨日と今日で何が違う?)


 アリシアは、必死に思い出す。
 積み木とキャッチボール。
 抱っこの状況。


 「座ってたか立ってたか……。
  でも、違いって、これぐらいだよね?」


 アリシアは、明日、ヴィヴィオに試してみようとその日を終わりにした。


 …


 翌日……。
 アリシアは、ソファーに腰掛けて手を広げる。


 「ヴィヴィオ、抱っこしてあげる。」

 「イイ!」

 (やっぱり……。)


 アリシアは、また遊び始めたヴィヴィオを見ながら、抱っこの姿勢をしてみる。
 ヴィヴィオが居たとして……。
 アリシアの膝に乗り、両手で支える……。
 アリシアは、顔を上げる。
 そして、部屋を見回し、二脚の椅子を運ぶ。


 「ヴィヴィオ。
  椅子取りゲームしよう。」

 「ゲーム?」

 「うん。
  こっちの椅子とこっちの椅子。
  どっちがいい?」

 「そっち。」

 (やっぱり……。)


 アリシアは、少し目を伏せる。
 そして、間違いじゃないかと、もう一度、確かめる。


 「でも、私は、こっちがいいな。」

 「じゃあ、やらな~い。」


 アリシアは、間違いないと確信するとヴィヴィオを抱きしめた。


 「ヴィヴィオ……。」

 「アリシア?」


 ヴィヴィオが、嫌悪していたもの。
 肘掛けのある椅子。
 そう、玉座に似た椅子や縛り付けられるような仕草を嫌ったのだ。


 「ヴィヴィオ……悪い子だよ。」

 「何で?」

 「辛いことは、イヤだけじゃなくて、
  辛いんだって言っていいの。」

 「辛い?」

 「ごめん……。
  言葉が難しかったね。」


 アリシアは、ヴィヴィオの背丈に合わせ、両肩に手を置く。


 「ヴィヴィオ……。
  あの椅子……怖いんだよね?」

 「…………。」


 ヴィヴィオは、『どうしよう?』という仕草でアリシアを見る。


 「怒ってんじゃないよ。」

 「でも、さっき悪い子だって……。」

 「ごめんね……。
  私の言い方が悪かったんだ……。
  ・
  ・
  言えなかったんだよね?」

 「……うん。」

 「でも、言っていいんだよ。
  私は、ヴィヴィオに話して貰えたら嬉しい……。」

 「でも……。
  ヴィヴィオがイヤなもの……。
  皆に言えない……。」

 「じゃあ、誰になら言える?」

 「うぅ……。」


 ヴィヴィオは、困ってしまう。
 だけど、胸に残るなのはの言葉が蘇る。


 『本当の気持ち…ママに教えて……。』


 ヴィヴィオが、アリシアを見る。


 「ママ……。」

 「ママ?」

 「本当の気持ち……。」

 「うん、それ。」

 「言って……いいのかな?」


 アリシアは、ヴィヴィオの手を取る。


 「言っていいよ。
  ヴィヴィオが困ってるの助けてくれるよ。」

 「あ……。
  ・
  ・
  いつだって……。
  どんな時だって……。」

 「うん。
  ・
  ・
  あれ?
  しっかり分かってるじゃない?」


 ヴィヴィオは、小さく頷く。


 「アリシア……。
  一緒に来てくれる?」

 「もちろん。
  ママ達が帰るまで、一緒に居てあげるよ。
  ・
  ・
  ほら、抱っこ。」

 「イイ!
  アリシアの意地悪!」


 アリシアは、悪戯そうな笑顔を浮かべる。
 ヴィヴィオは、アリシアに向かって舌を出す。


 「何処で覚えたの?」

 「教えない!」

 「いやだな~。
  ヴィヴィ子さんってば。
  ほんの冗談じゃないですか?」

 「フンだ。」

 「…………。」

 「ジュース飲みに行こうか?」

 「行く♪」


 アリシアは、ジュースに釣られたヴィヴィオに笑う。
 そして、これで仲直りと手を繋いで部屋を出た。


 …


 なのはとフェイトが仕事から戻ると、時間的には夕食の時間だった。
 そのまま、ヴィヴィオとアリシアは、なのはとフェイトと夕食を済ませる。
 そして、いつもは、ママ達の両手を取るヴィヴィオが、今日は、アリシアの手を握っていた。
 なのはとフェイトは、何があったのかと疑問に思っていたが、疑問は、直ぐに分かる。
 ヴィヴィオに引っ張られる形で、アリシアもなのは達の部屋にお呼ばれしたからだ。
 ヴィヴィオが、少し緊張した感じでママ達に話し掛ける。


 「なのはママ……。
  フェイトママ……。
  お話があるの。」

 「うん、何かな?」


 ヴィヴィオは、心配そうにアリシアを見る。
 アリシアは、『大丈夫だよ』と一声掛ける。
 ヴィヴィオは、少し勇気を出して言葉に出す。


 「椅子がこわいの……。」

 「え?」

 「椅子?」


 なのはもフェイトも、漠然とし過ぎて理解出来ない。
 それに夕食時、ヴィヴィオは、椅子に座っていた。
 ただし、肘掛けはない。


 「え、と……。
  フェイトちゃん?」

 「ちょ、ちょっと分かんないかな?
  エリオもキャロも、この相談はしなかったから。」


 アリシアが、念話でフォローを入れる。


 『正確には、肘掛けのある椅子だよ。』

 『『肘掛け?』』

 『そう。
  一昨日、少し変だったから、
  昨日、今日と少し原因探ってたんだよ。
  そうしたら、肘掛けのある椅子が怖いんだって分かったの。』

 『どうして……。』

 『多分、あの玉座だよ。
  なのはもフェイトも、ぶちキレたでしょ?
  ヴィヴィオは、きっと肘掛けのある椅子に座ると思い出すんだよ。』


 なのはとフェイトが、驚いた顔でヴィヴィオを見る。


 「ごめんね。
  気付いてあげれなくて。」

 「ヴィヴィオ……。」


 なのはとフェイトは、ヴィヴィオを抱きしめている。


 「ママ……。」

 「ありがとう。
  話してくれて。」

 「うん……。
  なのはママが言ってたから。」

 「そうだね。」


 アリシアは、安堵の息を吐く。
 後は、ママ達に任せれば問題ないだろう。
 フェイトが、なのはに話し掛ける。


 「なのは。
  でも、どうしようか?」

 「そうだね。
  きっと、無意識に怖がってると思うから、
  肘掛けのある椅子を怖くないって思わせればいいと思う。」

 「ああ。」

 「あの時の思いを打破すればいいから、
  フェイトちゃんが椅子に魔法で電気を流して、
  私が魔力でシールド張りながら、大丈夫だよって座って見せるの。」

 「なるほど。
  早速、やってみよう。」

 「ちょっと、待て!」


 ママ達、大混乱。
 大丈夫じゃなかった。
 ヴィヴィオの事態に動揺していた。


 「トラウマが再発するわよ!
  ボケるのは、私の役目でしょうが!」

 「で、でも……。」

 「まず、落ち着こう。
  いい? 大きく息を吸って。」


 アリシアの指示で、なのはとフェイトが深呼吸する。
 ヴィヴィオも、真似して深呼吸する。


 「落ち着いた?」

 「うん……。」

 「ごめん……。」

 「状況を一から説明するから、一緒に考えよう。
  最初にヴィヴィオは、座った状態で抱っこを拒否したの。
  それが疑問に思った原因。
  次に立った状態で抱っこしたら、問題なし。」

 「うん。」

 「で、座った状態で抱っこの真似をするとヴィヴィオを支えるでしょ?
  これを嫌がったと思って、例の事件に結びつけたの。」

 「そっか。」

 「納得?」

 「「うん。」」

 「これを踏まえて考えていこう。」

 「分かった。」

 「ありがとう。
  アリシアちゃん。」


 アリシアは、溜息を吐く。
 いつもと立場が逆になった。
 なのはがベッドに座った状態で、ヴィヴィオに向かって手を広げる。


 「抱っこ……怖い?」

 「……うん。」


 なのはは、ゆっくりと立ち上がる。


 「これなら?」

 「大丈夫。」


 ヴィヴィオは、なのはに抱っこされる。


 「本当だ。
  立ってると平気なんだ。」

 「なのは。
  そこから、少しずつ慣らしていったら?」

 「うん?
  そうだね。
  ・
  ・
  ヴィヴィオ。
  ママと少し頑張ってみようか?
  ゆっくりベッドに腰掛けるから。」

 「うぅ……。」


 ヴィヴィオは、小さく頷く。


 「じゃあ、座るよ。」


 なのはが、ゆっくりとベッドに座る。
 普通に座れた。


 「あれ?」

 「何ともないね?」


 フェイトが、あることに気付く。


 「もしかして、向きじゃないかな?
  今、ヴィヴィオは、なのはと向き合ってるから。」

 「ああ、なるほど。
  ・
  ・
  ヴィヴィオ、反対向ける。」

 「…………。」


 手ががっちりと服を掴んで放さない。


 「ダメみたい。」

 「でも、大進歩だよ。
  私の時は、完全拒否だったから。」

 「そうなんだ。」

 「じゃあ、この状態になれてから、反対向きだね。
  ・
  ・
  ヴィヴィオ、この格好は怖くない?」

 「少し怖い。」

 「じゃあ、怖くなくなるまで、
  このまま、お話しようか?」

 「うん。」

 「意外と早く問題解決出来るかも。」

 「そうだね。」

 「うん。」


 …


 一時間後……。
 なのはが、ベッドで力尽きる。
 そのなのはの手をアリシアがマッサージする。


 「無茶して支え続けるからだよ!」

 「止めるに止めれなくて……。」

 「でも、ヴィヴィオ、もう怖くないって。」


 ヴィヴィオは、今、フェイトに抱っこされている。


 「明日は、前向きだね。」

 「その前になのはとフェイトが、
  腱鞘炎にならなければいいけど。」

 「時間決めた方がいいかな……。」


 ヴィヴィオのトラウマ回復は、もう少し先のようだった。


 …


 二日後……。
 ヴィヴィオのトラウマは、少し回復し膝の上に座れるぐらいになる。
 なのはとフェイトとアリシアが項垂れる……。


 「ここまでの道のり……。
  長かった……。」

 「そうだね……。」

 「うぁ……。
  レイジングハートが、今日ほど重く感じた日はなかったよ……。」


 三人共、手の変なところが筋肉痛になっている。


 「でも、今日からは大丈夫のはず。」

 「そうだね。」


 無邪気に笑うヴィヴィオには、三人が何のためにへばっているか分からない。


 「膝に乗っけるだけでいいから、
  今度は、手が筋肉痛になることはないはずだし。」

 「うんうん。
  椅子の間にワンクッション置けばOK。
  確実な進歩だよ。」

 「じゃあ、お昼ご飯は、私の上で食べようか?」


 フェイトのお誘いにヴィヴィオは、笑顔で返した。


 …


 そして、昼食終了……。
 食堂で、フェイトが突っ伏している。


 「フェイトちゃん?」

 「あ、足が痺れて……。」

 「魔力で強化すれば?」

 「出来ない……。
  ヴィヴィオが、あの椅子を思い出しちゃう……。」

 「エコノミー症候群にでも掛かりそうね……。」


 ママ達の試練は、その後、一週間続いた。
 そのお陰で、ヴィヴィオのトラウマは回復したが、ママ達の仕事に少し支障が出た。



[25950] 第37話 StS編・JS事件後③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 01:59
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==



 時間は、一気に流れる。
 機動六課試用期間が終了し、各々、次の進路へと歩き出した。
 フォワード陣の新たな就職先、隊長陣の次なる仕事、高町ヴィヴィオと正式に親子になったなのはとヴィヴィオ。
 そして、アリシアは、聖王教会でカリムと面会をしていた。



  第37話 StS編・JS事件後③



 洋風の客室に大きな丸いテーブル。
 テーブルの上には、白のテーブルクロスが掛けられ、紅茶やクッキーなどが並ぶ。
 そんなところに場違いな人間が居ると自分でも認識しつつ、アリシアは席に着いていた。
 目の前には、聖王教会騎士カリム、シスター・シャッハ、査察官のアコース。
 三人は、ベルカのレアスキルを持ち、はやてと親しい間柄であるのはアリシアも知っている。


 「用件を伺ってもいいでしょうか?
  もしかして、まだJS事件の懲罰が残っているとか?」


 アリシアは、少し緊張した様子で話し掛けるとカリムは、笑顔で返す。


 「はい、その通りです。」

 「が……。
  ・
  ・
  私の味方は、ロッサだけか。」

 「今回は、敵になるかもね。」


 アリシアは、溜息を吐く。
 一体、何を咎められるのか。
 カリムが続ける。


 「単刀直入に言いますと貴女の造った艦船のことなのです。」

 「リインフォース?」

 「あの艦船は下手をすれば、ゆりかごに匹敵する危険なものです。」

 「ああ……。
  なるほどね。」


 アリシアは、納得の顔をすると余裕が戻る。


 「あの艦船の建造された理由をお聞きしたいのです。」

 「本当は、あの艦船にシールドと主砲を取り付ける気はなかったんだ。
  最初は、個人持ちの艦船だったからね。
  でも、何か嫌な予感がしたのよね。」

 「予感?」

 「うん。
  はやてが部隊を起こすって言うでしょ?
  今は無き、アインヘリアルの開発も名前と機能は伝わらなくても、
  技術屋やってれば、何か造ってるって耳に入るわけ。
  そこで、部隊配属の艦船に設計し直す時に追加したんだ。」

 「周知の事実はなく、独断であったと?」

 「それは認める。
  あの装備は、私の独断。
  ・
  ・
  まあ、そこに好奇心がなかったといえば嘘だけど。」

 「正直な子ね……。」

 「でも、隊舎を破壊されて、艦船を動かして間違いじゃないと思ったよ。
  だって、裏で管理局とスカリエッティは繋がってたんだからね。」

 「痛いところを突きますね。」

 「皮肉を言いたいんじゃなくて、
  私は、もう一つ最悪のシナリオも考えてたの。」

 「もう一つ?」

 「アインヘリアルを奪われて、敵が使用するシナリオ。
  あの飛んでるゆりかごを
  地上からアインヘリアルが援護してたら?」

 「……最悪ですね。」

 「うん。
  地上のアインヘリアルとも一戦交えなくちゃいけなかったと思うよ。」


 アコースが指摘する。


 「でも、あの艦船は、ロストロギア……。
  エネルギー結晶体が必要なんだろう?」

 「そうだよ。」

 「何処で手に入れるつもりだったんだい?」

 「最悪……犯罪を犯すつもりだった。
  ガジェットⅢ型が純度の高いエネルギー結晶体を使って動いているのを知っていたから、
  アインヘリアルが使われた時点で、
  地上に降りてガジェットⅢ型の残骸から奪うつもりだった。」

 「君って子は……。」

 「それ以外は、補助エンジンだけで終わらせようと思ってた。
  最後の最後で……約束破っちゃったけど。」

 「その約束は、誰と取り交わしたんだい?」

 「自分の中。」


 アコースは、呆れて溜息を吐く。
 カリムが、別の質問をする。


 「最後になります。
  今後、貴女は、あの艦船をどうするつもりですか?」

 「はやてにあげる。」

 「あげ……はい?」

 「だから、はやてにあげるの。」

 「あの危険なものをですか?」

 「メインエンジンを動かさなければ平気。
  それにメインエンジンは、手動で私しか動かし方を知らないから。」

 「本当ですか?」

 「うん。」

 「では、その言葉が本当か調べさせて貰ってもいいですか?」

 「どうやって?」

 「僕の能力を使ってだ。」


 アコースが、右手を軽く上げる。


 「君の頭の中を査察させて貰うよ。」

 「スリーサイズとか?」

 「そんなものは調べない!」


 一瞬、カリムとシャッハの目が鋭くなった。


 「誤解を招くような言い方はしないでくれ。」

 「ごめんね。
  ロッサなら、見ただけで分かるもんね。」

 「もっと、誤解を招いてるよ!」


 シャッハが、アコースの肩に手を置く。


 「後で、少しお話が……。」


 アリシアは、可笑しそうに笑っている。
 カリムは、アリシアを見て嘘だと見抜いたが、シャッハは、見抜けていないようだった。


 …


 アコースの査察が始まる。
 アリシアの頭に手を置くが、ものの数秒で手を放す。


 「どうしたのですか?」

 「ちょっと、これは手を焼くね……。
  記憶されている情報が普通じゃない。」


 アリシアは、当然と笑顔を浮かべる。
 ユーノに教えて貰って独自開発した検索魔法改造版のせいで、とてつもない情報が記録されているのだ。
 更に母譲りの記憶容量は、まだまだ知識を詰め込める容量を残している。


 「ロッサ。
  必要な情報を意識してあげるから、
  それを手掛かりに調べていいよ。」

 「こんな協力的な犯罪者は初めてだな。」

 「犯罪者じゃないって……。
  ・
  ・
  いくよ。」


 アリシアが目を閉じるとアコースが再び記憶を査察する。
 十分後、査察は終了する。


 「確かに君にしか出来そうにない。」

 「でしょ?
  コンピュータでタイミング取ってサブとメインを切り替えるのを
  自分で計算して動かしているんだから。」

 「しかも、その手順を理解するには、
  艦船の内部機構まで理解しないといけないと……。」

 「そう。
  その切り替えソフトを作れるのは、世界で私だけ。」

 「そういうことです、姉さん。」


 カリムは、頷く。


 「では、あの艦船は、今後、性能を発揮することがないのですね?」

 「私が乗らない限り。」

 「しかし、それも勿体ない気がしますね。
  使い方次第では、今回のように多くの人の命を守れるかもしれないのに。」

 「だから、はやてが持ってればいいよ。
  はやては、人の命もそうだけど、
  自分の命も、どれだけ大事か知ってるもん。」

 「そうかもしれませんね。」

 「でね、そのソフトなんだけど、
  作ろうと思えば、直ぐにでも作れるよ。
  この前、動かした時にデータも揃ったからね。」

 「貴女という人は……。」

 「それにカリムとはやてのリミッター解除権限を組み込んであげるよ。」

 「え?」

 「リミッターなんて、本来、人に付けるものじゃないでしょ?
  使う機械につけるものだよ。
  もう、こんな大事件起きないと思うけど、
  抑止力は必要でしょ?」


 カリムは、考え込んでしまう。
 シャッハとアコースも、突然の提案で驚いている。


 「シャッハ……。
  何で、僕らが提案を受ける形になっているんだ?」

 「おかしいですね……。
  注意して艦船の説明を受けるはずだったのに……。」


 カリムは、アリシアに質問する。


 「そのソフトというのは、簡単に削除も出来るのですか?」

 「削除は簡単。
  改造は、私と同じ知識を持たないと出来ないでしょうね。」

 「では、組み込んでください。
  私とはやての承認で、第一ロック解除。
  管理局のロストロギアの使用許可で、第二ロック解除と二重の鍵にします。」

 「うん。
  そして、私のアクセス権限の制限で第三ロックだね。
  整備以外のアクセスを禁止。
  これで、三重の鍵だね。」

 「そこまでは制限しません!」

 「いいの?
  勝手にソフトを書き換えちゃうかもよ?」

 「信じます。」


 アリシアは、頭を掻く。


 「……弱ったなぁ。
  そういう風に言われるの苦手なんだよね。」

 「はい、フェイト執務官から聞いています。
  『アリシアは、絶対的に信頼されると逆らえなくなる』と。」

 「フェイト……。
  私の制御方法を広めないでよ……。」


 今日、初めて項垂れるアリシアに、カリム達は、声を出して笑う。


 「さて、前置きが終わりましたね。
  それでは本題に入らせて貰います。」

 「本題?」

 「はい。
  アリシアさん、貴女の進路についてです。」

 「?」

 「その知識や技術を、もっと多くのことに使ってみませんか?」

 「今も技術者だけど?」

 「責任のあるポストに就かないかということです。」


 アリシアは、微笑む。


 「それはしない。
  私は、デバイスに関わる仕事を続けるよ。
  自給五百円のメンテナンスルーム勤務の技術者とかでいい。」

 「アルバイトより低いですよ……。」

 「その代わり、自由な時間がある。
  色んな人と出会っちゃって、色んな人と関わりを持っちゃった。
  だから、呼ばれたら積極的に関わるつもり。
  カリムとも縁が出来たから、呼ばれたら都合をつけて会いに来る。
  ・
  ・
  そうねぇ。
  『フェイト:その他=7:3』で関わるよ。」

 「随分、フェイトさん贔屓ですね?」


 アリシアは、笑みを浮かべる。


 「私は、フェイトのお姉さんだもの……。
  ずっと、こうしていたいんだ……。」


 アリシアの物語は、この事件から始まるのかもしれない。
 一緒に居たいと思う人の力になれたここから……。

 そして、あの時の公園で……。
 約束は、確かに果たされる……。



[25950] 没ネタ・少女と侍①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 02:00
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~はやてと侍のおじさん~ ==



 社会人も学生も出社、登校を終えて、静かになって閑散とした道。
 そこで一人の少女が助けを求めていた。


 「すいません! 誰か!」


 足の症状が良くない少女は、道に出来た窪みのような溝に車椅子の車輪を挟んだまま動けなくなっていた。
 誰が悪いわけでもない。
 自分の責任だが、誰も助けてくれない状態に少し寂しくなる。
 そして、こんな溝からも抜け出せない自分の不甲斐なさと情けなさに悲しくなる。
 悔しさに涙が溜まり始めた頃、そっと誰かが車椅子を押してくれた。


 「あ、ありがとうございます。」


 少女が振り向いた先に居たのは、編み笠を被った痩躯の男だった。



  番外・IF・A's編・少女と侍①



 少し時代のずれた着物に袴。
 はだけた前から見えるのは、さらし。
 足下は素足に雪駄。
 そして、目を引くのは白鞘。


 「あ、あの……。
  本当にありがとうございました。」

 「礼は、無用。
  困っている少女が居るなら、助けるのも武士の務めでござる。」

 「はあ……。」

 「では、これにて御免。」


 痩躯の男は、軽く頭を下げると歩き始める。
 少女は、恩着せがましくなく去って行く男に少し好感を持つ。
 そして、自分も家に帰ろうと車椅子の車輪に手を掛けて止まる。


 「何で? 動かへん……。」


 車椅子の車輪に目を移すと車輪が歪んでいる。


 「さっきの溝に落ちて……。」


 少女は、溜息を吐く。


 (こんなことなら、さっきの人にタクシーでも呼んで貰えば良かった……。
  また、助けを呼ぶのも少し恥ずかしいし……。)


 しかし、少女の思いとは違い、先ほどの痩躯の男が戻って来た。


 「何やら、問題があるようでござるな?」

 「戻って来てくれたんですか?」

 「うむ……。
  振り返り際に動かなかったので。」


 痩躯の男は、車椅子を眺める。


 「車輪でござるか……。
  何処かで直せそうなところは?」

 「自転車屋さんで見て貰うしかあらへんかな?
  それが駄目なら、業者に頼むか……。」

 「左様でござるか。
  では、拙者が御手伝い致そう。」


 痩躯の男は、少女に手を差し出す。
 少女が差し出された手に手を添えると、痩躯の男は、片手で少女を抱き上げた。
 そして、少女に自分の命とも言える白鞘を向ける。


 「すまぬが、これを大事に持っていてくれぬか?」

 「はい。」


 少女がしっかりと白鞘を掴むと、痩躯の男は、反対の手で車椅子に手を掛けてゆっくりと持ち上げた。


 「凄い力やなぁ……。」

 「まだまだ未熟。
  未だ修行中の身でござる。」

 「じゃあ、これも修行なん?」

 「うむ……。
  さて、自転車屋は、どちらか?」

 「あっちです。」


 少女の指差す方に従い、痩躯の男は、少女と車椅子を持って歩き出した。


 …


 自転車屋で車椅子の車輪を見て貰うと、直せる範囲の歪みということで直して貰えた。
 そして、これも何かの縁と痩躯の男は、少女の乗る車椅子を押して家まで送り届けてくれることになった。


 「今日は、ありがとうございました。
  私、八神はやて言います。」

 「拙者は、石川五ェ門。」

 「あれ?
  それって、有名な泥棒と同名やな。」

 「知っているのでござるか?」

 「私、よく本読むから。」

 「なるほど。」

 「五右衛門は、確か義賊なんよね。
  そして、釜茹でになる話が有名やけど、
  息絶えるまで、我が子を持ち上げ続けた男気のある人や。」


 五ェ門は、はやての手を握る。


 「はやて殿。
  感動でござる……。
  このような少女が、ご先祖様を好いてくださるとは……。」

 「好きとは、一言も言ってないんやけど……。
  ・
  ・
  ……ご先祖様?
  あの五右衛門の子孫なん?」

 「十三代目になる。」

 「はぁ~……。
  驚きやわ……。」


 五ェ門は、はやての驚いた顔を見て少し微笑むと再び車椅子を押す。


 「何や、有名人の子孫の方に
  車椅子を押して貰うなんて恐縮やなぁ。」

 「喜んで頂けたようで、何より。」


 そして、はやての家に着くまで話は続く。
 普段、言葉少なな五ェ門も、はやての好奇心旺盛な質問に、ついつい多弁になってしまっていた。


 …


 短い時間の会話は終わり、お別れの時を迎える。


 「それでは、はやて殿。」

 「本当にありがとう。」


 五ェ門が振り返った瞬間、お腹の鳴る音がした。


 「…………。」


 五ェ門は、少し赤くなると編み笠を深く被った。


 「お、お礼にご飯食べてきます?」

 「……かたじけない。
  二日前から、何も食べていなかった……。」

 (どんな生活してたんやろう?)


 五ェ門は、主に修行僧のような摂生した状態で修行を続けていたのだった。
 そして、二人のお別れは、もう少し先まで延長のようである。



[25950] 没ネタ・少女と侍②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 02:01
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~はやてと侍のおじさん~ ==



 はやての案内で、五ェ門は、家へと足を踏み入れる。
 そして、玄関で五ェ門は、はやてに声を掛ける。


 「ご両親に挨拶をしなければ……。
  しまった……。
  手土産を持ち合わせていない。」

 「お構いなく。
  その……一人暮らしですので。」


 五ェ門は、少し驚いた顔をする。
 しかし、はやては、特に気にすることなく中へと促した。


 「お邪魔するで……ござる。」


 五ェ門は、少し戸惑いながら家に上がった。



  番外・IF・A's編・少女と侍②



 家の中は、綺麗に掃除が行き届き、とても車椅子の少女一人で生活しているような感じはない。
 それでも、台所の高さやガス代の高さなどがはやてに合わせてあるのは、一人暮らしをしていると認識させる。


 「夕飯、これからなんよ。
  準備するから、待っててな。」

 「いや、御手伝い致す。」

 「え、ええよ、別に。」

 「では、何か……。」

 「はは……。
  気にせんといて。」

 「そ、そうでござるか。」


 五ェ門は、少し静かに待つ。
 しかし、間が持たずに五ェ門からはやてに話し掛ける。


 「普段から、一人で暮らしているのでござるか?」

 「時々、ヘルパーの人が手伝いに来たり、
  病院の石田先生が来てくれるんよ。」

 「そうでござるか。
  良いご友人が居られるのだな。」

 「そうなんよ。」

 (笑顔の優しい強い娘だ……。)


 五ェ門は、一人暮らしのはやてを心配していたが、少し安心した気持ちになる。
 そして、暫くの後、夕飯が始まる。


 …


 目の前の食事に、五ェ門は感動する。


 「和食だ……。」

 「はい?」

 「失礼。
  最近、和食の店が減り、見つける店も高級店ばかり……。
  やっと入った居酒屋も、若者が戯れていて落ち着かない……。
  静かな場所で和食を食べたかった……。」

 (和食にしてよかった……。
  ここまで喜んでくれる人見たことない……。)

 「た、食べよか?」

 「はい。」


 二人は、手を合わす。


 「「いただきます。」」


 はやては、目の前の五ェ門が感動していた分だけ、がっついて食べるのかと思ったが、落ち着いて口に運んでいるので予想と違うと思った。


 「この魚……いい焼き加減でござるな。」

 「コンロについてる魚焼きやよ。
  せやから、失敗せぇへんよ。」

 「そうでござるか。
  しかし、いい味だ。
  今度は、拙者が七輪で焼いて進ぜよう。
  また違う味わいでござる。」

 「ほんま?
  楽しみやわ。」


 付け合わせのほうれん草の御浸し、味噌汁、白飯。
 全てがここ最近、五ェ門の求めていたものだった。


 「ご馳走様。
  久々に堪能し申した。」

 「いえいえ。
  お粗末様。」

 「片付けは、拙者が。」

 「じゃあ、食後のお茶は、私が。」


 それぞれが役割分担して片付けを終え、まったりとした時間になる。


 「五ェ門さんは、どういう生活してたん?」

 「ふむ……。
  何と説明すればいいか。」

 「何で、悩むん?」

 「いや……。
  色々と有り過ぎて。」

 「色々?」

 「拙者の生きて来た時間は、少し入り組んでいて……。
  ご先祖様と同様に泥棒をしたこともあるし、
  仲間と悪党共を懲らしめたこともあった。」

 「じゃあ、修行言うんは?」


 五ェ門は、白鞘を見せる。


 「ここに収められている斬鉄剣を扱うためでござる。」

 「銃刀法違反なんじゃ……。」

 「さ、侍は、いいのでござる。」


 はやては、可笑しそうに笑う。


 「五ェ門さん。
  私、五ェ門さんの話が聞きたい。」

 「詰まらない話でござるよ。」

 「ええんよ。
  私は、足が悪いから、色んなこと出来ないやろ?
  だから、物語や話を聞くのは大好きなんよ。
  ・
  ・
  それに有名な石川五右衛門の子孫の物語やからなぁ。」

 「そうか……。
  では、少し昔の話から……。」


 その日、はやては、五ェ門の信じられないような話に終始笑顔だった。
 そして、五ェ門は、はやての家に一泊し、次の日の病院の診断も付き合うことになった。


 …


 次の日の診断の付き添い。
 石田医師の診断が終わり、はやてが別の検査を受けている間に少し話しをすることが出来た。


 「付き添いの……方?」

 「昨日、車椅子で困っていたところを少々……。
  その延長で付き添いというところでござる。」

 「そういうことですか。」

 「はやて殿の体は、悪いのですか?」

 「ええ……。」

 「では、そのような少女が……何故、一人で?」

 「親戚の方が援助はしているのですが……。」

 「援助?
  それだけなのですか?」

 「我々も、出来る限りはお手伝いをしているのですが、
  私も他の患者さんを診なければいけませんし……。」


 五ェ門は、頭を下げる。


 「すみませぬ。
  決して責めているのではなく……。
  理由も尤もでござる。
  ・
  ・
  では、拙者が何とかするしかござらんか。」

 「え?」

 「成人するまで……。
  もしくは、信頼出来るどなたかが見つかるまで、
  面倒を看なくては……。」

 「あの……あなたが?」

 「万が一があってからでは遅い。
  誰も面倒を看れぬのなら仕方あるまい。
  足の悪い状態で一人暮らしなど……。
  ・
  ・
  それに一食一飯の恩もあるでござる。」

 「出来るなら、それがいいんですが……。」

 「何か問題でも?」

 「その……あなたは、怪しい人じゃありませんよね?」

 「失敬な。
  拙者の何処が怪しいというのだ。」

 「何処って……。」

 (……全部?)


 少し時代錯誤した出で立ちは、石田医師に誤解させるインパクトは十分だった。


 「まあ、はやてちゃんが安心して連れて来た方ですから、
  大丈夫だとは思いますが……。」

 「安心なされよ。
  暴漢が襲って来ても返り討ちにして、ご覧に入れよう。」

 「そこは、普通に捕まえてください……。」

 (この人、本当に大丈夫?)

 「それに長い時間ではなかろう。
  あれだけ優しい子を御仏が見捨てるはずもない……。
  後見人も直ぐに見つかるはずでござる。」

 「御仏……。」

 (僧だわ……。
  この人、僧侶だわ……。)

 「それとなく話してみよう。
  話をしてくれて、ありがとうでござる。」

 「あ……はい。
  お願いします。」

 (『お願いします』でいいのかしら……。
  言ってしまったけど……。
  少し様子を見ましょう……。)


 …


 病院から帰ったはやての家の前……。
 五ェ門が、はやてに話し掛ける。


 「はやて殿。
  お願いがあるのだが……。」

 「ん? 何?」

 「暫くはやて殿の家に、
  ご厄介になれないだろうか?」

 「どうしたん?」

 「この街を修行の地にしたいのだが、
  雨露を凌ぐ場所がないのでござる。
  もし、ご迷惑でなければ、
  暫く置いていただけないだろうか?」

 「ほんま?」

 「うむ。」

 「ほんまにほんま?」

 「お願い致す。」


 はやては、笑顔を浮かべると頷く。


 「こちらこそ、お願いします!
  一人じゃないの久しぶりやわぁ……。」


 五ェ門は、はやての笑顔を見て思う。


 (やはり、この少女は無理をしていたのでござるな。
  拙者に代わる新たな家族が見つかればよいのだが……。)


 少女と侍の短い生活が始まった。



[25950] 没ネタ・少女と侍③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 02:01
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~はやてと侍のおじさん~ ==



 はやての生活が少し変わり始める。
 今までは、起きても誰も居ない生活だった。
 しかし、はやてが目を覚ませば、そこには侍が朝食の調理に勤しんでいる。
 着物の裾を襷で捲くり上げ、味噌汁の味を小皿を用いて確認していた。


 「また、起きるの負けたわぁ。
  五ェ門は、早起きやなぁ。」

 「長年の修行の癖で、ついつい目が覚めてしまって……。
  ・
  ・
  さ、はやて殿。
  毎朝変わらぬ料理でござるが、食べてくだされ。」

 「ありがとう。
  私、五ェ門のお味噌汁大好きやよ。
  今度、出汁を摂るタイミング教えてな。」

 「了解いたした。」


 八神家の朝食には必ず味噌汁が出る。
 変わるのは、おかずだけ。
 そして、昼食は、はやてが作り、夕飯は、二人で共同という日課になっていた。



  番外・IF・A's編・少女と侍③



 学校に行っていないはやては、自宅学習をしている。
 その間、五ェ門は、縁側で禅を組んでいる。
 はやては、捗らない勉強に手を止めて縁側に目を移す。


 「手が止まっていますぞ。」

 「へ?」


 はやては、声を掛けられて驚く。


 「どうして、後ろ向いてて分かるん?」

 「禅を組んでいる間は、
  集中しているから分かるのでござる。」

 「禅って凄いんね?」

 「まだまだ未熟でござる。」

 「五ェ門は、もう十分やろ……。
  一体、どうなることを望んでいるんや?」

 「悟りを開くことを……。」

 「悟り……。
  それを開くとどうなるんやろ?」

 「全てが斬れる……。」

 「…………。」

 (本物の侍なんやねぇ……。)


 はやては、一途に自分の道を歩み続ける五ェ門を見て反省する。
 そして、今、自分に出来る勉強を再開する。
 今度は、少し集中力を増しながら。


 …


 昼食後……。
 炊事洗濯を役割分担してこなす。
 一人でするよりも、二人で仕事を進める方が楽しい。
 そして、どんなことをする時も手を抜かない五ェ門。


 「五ェ門になら、安心してお仕事任せられるなぁ。」

 「そうでござるか。」

 「うん。
  まさか錆びついた包丁まで、
  ピカピカになるとは思わなかったわぁ。」

 「職人の作った包丁には、魂が宿るもの。
  丹念に研ぎ直せば、元通りの切れ味を取り戻すでござる。」

 「これ、手造りなん?
  私、大量生産した機械のものか手造りのものかなんて分からへん。」

 「間違いなく手造りでござる。」

 「そうなんや。」

 「試して見せよう。」


 五ェ門は、まな板の上に野菜の切れ端を乗せる。
 そして、研いだ包丁を振り下ろした。


 「……確かに切れたなぁ。」

 「うむ……。」


 しかし、まな板まで切れた。


 「研ぎ過ぎた……。」

 「今日の買い物は、まな板も追加やな……。」


 二人は、買い物に出掛ける。


 …


 図書館に寄り、はやての借りる本を選んだ後、近所のスーパーへ向かう。


 「さて、今日は、何食べよか?」

 「和食であれば、何でも。」

 「洋食は、食べへんの?」

 「基本、緊急事態の時だけでござる。」

 「緊急事態?」

 「うむ。
  餓死寸前の時とか。」

 「……どんな時?」

 「そうでござるな……。
  では、今日の夕食後の話は、その時の話を。」

 「リアルで話せるいうのが凄いんよね……。」

 「何ごとも経験でござる。」

 「いや、その経験は勘弁……。」


 五ェ門は、軽い笑みを浮かべると車椅子を押す。
 そして、ある商品の前で止まる。


 「どうしたん?
  ……梅干し?
  食べたいんか?」

 「いや、別に……。」

 「ええよ。
  高いもんじゃないし。
  私も、久しぶりに食べたいし。」

 「そ、そうでござるか?」

 「うん。
  一人でだと食べ切れない量やけど、
  二人なら食べ切れるから、丁度ええわ。」

 「では。」


 少し嬉しそうに梅干しへ手を伸ばす五ェ門を見て、はやては、微笑んだ。
 そして、次にまな板を確認する。


 「どれがええかな?」


 五ェ門は、厳しい目になる。


 「駄目でござる。」

 「何が?」

 「このまな板には魂がない。」

 「それは……。
  スーパーに売ってる物なんて……。」

 「仕方ない。
  斯くなる上は……。」

 「上は?」

 「自分で作るしかないでござる。」

 「どうやって?」

 「木材を買って斬鉄剣で。」

 「何でも出来るんね。」

 「修行の成果でござる。」


 はやては、そうなんだろうかと首を傾げた。


 …


 当初の予想と反して、スーパーで食材を買った後、材木屋で柳の木片を購入。
 八神家の庭では、はやてが車椅子に座りながら、五ェ門を見守る。
 五ェ門は、木片を前に前傾姿勢で斬鉄剣に手を掛ける。
 掛け声の後に一瞬で抜刀された斬鉄剣をはやては、目で追うことが出来なかった。
 気付いた時には、納刀の体勢に入っていた。


 「また、詰まらぬものを斬ってしまった……。」


 納刀する音がした後、木片は、まな板へと姿を変えて転がった。


 「何も見えへんかった……。
  何回切ったんや……。」

 「四回でござる。」


 五ェ門は、切られたまな板を拾い上げるとはやてに渡す。
 まじまじとまな板を見るはやて。


 「凄い……。
  鑢掛けも要らないぐらいにすべすべや。」

 「全ては修行の賜物。」

 「はぁ~……。」


 感嘆の声が漏れる。


 「後は、包丁を研ぎ直して、
  切れ味を少し調整しなくては。」

 「そうやったね。」


 はやてと五ェ門の生活は、こんな感じで送ることになる。
 少し認識のずれた侍と少女の生活は、上手く行っている。
 しかし、少女の持つある本を切っ掛けに別れも近づいていた。



[25950] 没ネタ・少女と侍④
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/19 02:02
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~はやてと侍のおじさん~ ==



 五ェ門に合わせた和食の料理が続く。
 当初は、飽きが来るのではないかと思っていたが、不思議と飽きが来ない。
 五ェ門が来てから、和食の種類の多さに驚いたり、それを一緒に料理するのが楽しかったり、はやての毎日は、充実したものになっていた。


 「今度、洋食も食べさせてみたいな。」

 「やはり、和食は飽きたでござるか?」

 「そうやないんよ。
  私、洋食の料理も出来るから、
  五ェ門が作らない料理を食べさせてあげたいな……って。」

 「嬉しい心遣いでござる。
  では今度、是非。」

 「ほんま?
  私、頑張る。
  ・
  ・
  この前、教えて貰った七輪使ってお肉焼いたら、
  また違う味わいになるかもしれんね。」

 「拙者で試すのでござるか?」

 「大丈夫。
  私も食べる。
  死なばもろ共や。」

 「一体、どんな料理を作る気なのか……。」


 五ェ門の答えに、はやては、可笑しそうに笑った。



  番外・IF・A's編・少女と侍④



 夕食後の少しのんびりした時間に電話が鳴る。


 「拙者が出よう。」

 「そう?」

 「うむ。
  相手は、石田医師だ。」

 「何で、電話に出ないで相手が分かるんよ……。」


 五ェ門は、いつも通り『修行の賜物』と言って電話に出た。


 「これは、石田殿。」

 (ほんまに石田先生やった……。
  侍って、超能力でも備えてんやろか?)

 「はやて殿は、元気でござる。
  今のところ目に見えた体調の悪さはござらん。
  ・
  ・
  何と?
  それはめでたい。
  ・
  ・
  は、しかとお伝えして置くでござる。」


 五ェ門が受話器を置いて戻る。


 「何やて?」

 「はやて殿。
  明日、誕生日だったのでござるな。
  石田医師がお祝いに寄ってくださるとのこと。」

 「そうやった。」

 「言ってくれれば、拙者も何かを用意したのでござるが。」

 「初めて会った時、二日も食べてなかった人が、
  何を用意出来るんやろか?」

 「これは手厳しい。
  この斬鉄剣を用いて、荘厳な菩薩像を御造り致したのに。」

 「…………。」

 (言わなくて良かったかもしれへん……。)


 ある日、居間に巨大な菩薩像が置かれた時のことを想像して、はやては苦笑いを浮かべた。


 「しかし、困った。
  菩薩像は、兎も角。
  拙者、年頃の女子に贈り物などしたことがござらん。
  一体、どのようなものがよいのか……。」


 はやては、腕組みして考え出した五ェ門を可笑しそうに見ている。
 確かに侍が女の子に贈る物というのは想像が出来ない。


 「別になんもいらんよ。
  もう、十分貰っとる……。
  誕生日前のこの数日間は、とっても楽しかったわぁ。」

 「はやて殿……。
  ありがたい御言葉。
  心に染み渡りました。」

 「大げさやなぁ。」

 「こうなったら、この前の柳の余り木から、
  小さめの阿弥陀如来像を……。」

 「仏像から離れて。」


 五ェ門の贈り物は先延ばしに決定し、就寝することになった。
 そして、その夜……。


 …


 今まで感じたことのない気配。
 それが守るべき少女の部屋から広がる。
 五ェ門が開け放った部屋で、辞書のように厚い本が怪しい光を放ち続けている。


 「はやて殿!」

 「五ェ門!」


 五ェ門は、はやての前に立ちはだかる。


 「妖の類か!」


 はやてから露出したリンカーコアを基点に、その本は、動き出していた。
 二人の前で魔法陣が輝くと四人の影が姿を現す。


 「闇の書の機動を確認しました。」

 「我等、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にてございます。」

 「夜天の主の下に集いし雲……。」

 「ヴォルケンリッター……。
  何なりと命令を……。」


 五ェ門が前に出る。


 「己! 怪しい妖め!
  拙者の斬鉄剣で成敗してくれる!」

 「「「「は?」」」」


 一番小さい少女から、リーダーと思しき女性に念話が飛ぶ。


 『オイ、シグナム。
  変なのが居るぞ。
  あれが主なのか?』

 『いや、後ろの少女が主だろう。
  我等との繋がりを感じる。』

 『じゃあ、アイツは誰なんだ?』

 『主の従者と言ったところか。』


 そして、ヴォルケンリッターを名乗る者達の前で、従者にしがみ付く主。


 「あかんて!
  斬ったら、あかん!」

 「止めてくれるな! はやて殿!
  拙者、石田医師との約束で、
  暴漢の類を討ち倒すと約束しているのでござる!」

 「話を聞いて!
  守護騎士言うてるやないの!」

 「妖は、皆、そう言って騙すのでござる!」


 さっきの少女が念話を止めて声に出す。


 「随分と失礼なことを言う奴だな。」

 「素性の知れぬ者が突然現れれば、
  警戒するのは当然のこと!
  はやて殿に近づくなら、この斬鉄剣で容赦なく斬る!」


 五ェ門は、白鞘を四人の前に突き出した。
 そして、リーダー格の女性が立ち上がる。


 「どうやら、誤解から解かなければならないようだな。」

 「敵意はないと?」

 「その通りだ。」

 「…………。」


 五ェ門は、はやてに振り返る。


 「はやて殿。
  如何されるか?」

 「え、う~ん……。
  話を聞いてみよか。
  何や悪い人達でもなさそうやし。」

 「分かり申した。
  しかし、納得がいくまで拙者の側を離れぬように。」

 「うん。」

 (本当にそんな悪い人達には見えんのやけど……。)


 五ェ門を交えた会話は、居間で行なわれることになった。


 …


 現れた守護騎士達には、それぞれ名前があった。
 ポニーテールのリーダー格の女性がシグナム。
 肩までの髪の長さのおっとりした感じの女性がシャマル。
 背の小さい三つ編みの少女がヴィータ。
 逞しい亜人の男性がザフィーラ。

 今、その四人をテーブルで挟んで、五ェ門とはやてが向かい合っている。
 そして、それぞれの前には、お茶の入った湯のみ。
 早速、ヴォルケンリッターから、闇の書と守護騎士の説明があり、はやては、少し納得した感じで件の本を手に持っていた。


 「そうか……。
  この子が闇の書っていうもんなんやね。」

 「はい。」

 「物心ついた時には、棚にあったんよ。
  綺麗な本だから、大事にはしてたんやけど。」

 「覚醒の時と眠っている間に、
  闇の書の声を聞きませんでしたか?」

 「う~ん……。
  私、魔法使いとちゃうから、漠然とやったけど……。
  分かったことが一つある。
  闇の書の主として守護騎士の衣食住……きっちり面倒みなあかんいうことや。
  幸い住むとこはあるし、料理は得意や。」


 守護騎士達は、はやての今までの主と違う態度に少し呆気に取られている。
 そして、はやてとヴォルケンリッターの話が一段落したところで、五ェ門がはやてに話し掛ける。


 「はやて殿。
  話の流れからすると彼女らの存在を
  少なからず知っていたのでござるか?」

 「さっきも言ったけど、漠然的なんよ。
  正直、夢やと思ってたし。」

 「なるほど。
  しかし、闇の書とは……。
  些か禍々しい名前でござるな。」

 「仕方ねぇだろ。
  そういう名前がついてんだから。」

 「左様か……。
  しかし、守護騎士というのは良い名だ。」

 「そうやね。」


 はやてと五ェ門の話に、今度は、シグナムが質問する。


 「主はやて。
  我々のことは、分かって頂けたと思います。
  今度は、我々にそちらの方を説明して頂けませんか?」

 「うん、ええよ。
  石川五ェ門いうて、今、うちでお世話してお世話になってる人や。」

 「は?」

 「お侍さんでなぁ。
  修行中の宿を貸してて、
  その間、私の面倒を看てくれてんのや。」

 「そうですか。」

 「はやて殿には、いつもお世話になっているでござる。」

 「お前も、でかい顔出来ないんじゃねぇか。」

 「その通り。
  故に命懸けで守ろうとした。」

 「ありがとな。」


 ヴィータは、シャマルに念話を飛ばす。


 『なあ。
  何かシグナムに似てないか?』

 『そうね。
  何となく話し方とか雰囲気とか。』


 そして、話を締めるようにはやてが手を叩く。


 「何や嬉しいなぁ。
  家族が増えたみたいで。
  さて、皆のお洋服買って来るから、サイズ測らせてな。」


 こうして、八神家に新たな居候が増えた。


 …


 八神家に新たな居候が増えて数日……。
 五ェ門は、自分の役目が終わったと感じ始めていた。
 守護騎士達は、本当に主として……そして、家族として、はやてに接していたからだ。

 五ェ門は、禅を組む時間が増えた。
 そして、禅を組み続ける五ェ門にシグナムが近づく。


 「五ェ門、少しいいでしょうか?」

 「うむ。」

 「貴方も相当の剣の使い手と聞きました。
  一つ、お相手をして頂けないでしょうか?」

 「シグナム殿も剣を使うのでござるか?」

 「はい。」

 「一向に構わぬが、真剣は止めて置くがよかろう。」

 「それは、どういう意味ですか?」

 「自惚れている訳ではござらんが、
  拙者の斬鉄剣は、斬れ過ぎるのでな。」

 「斬れ過ぎる?
  構いません。
  是非、真剣勝負にて。」

 「……どうなっても知りませんぞ。」


 五ェ門は、ゆっくりと立ち上がる。
 そして、八神家の庭で手合わせが始まる。


 「では。」

 「うむ。」


 シグナムは、自分のデバイスであり剣でもあるレヴァンティンを構える。
 五ェ門は、前傾姿勢で斬鉄剣を抜いていない状態。


 「参る!」


 シグナムが先に仕掛ける。
 五ェ門を間合いに捉えるところで剣を振り上げる。
 振り下ろしに入り、剣が加速状態に入っても五ェ門は動かない。
 そして、シグナムが、五ェ門が動いたところを確認した瞬間にレヴァンティンと斬鉄剣がぶつかった。


 (早い!
  しかし、このまま!)


 レヴァンティンで斬鉄剣を押し切ろうとした時、シグナムの手には手応えがなかった。
 一呼吸遅れて、地面に金属が落ちる音がする。


 「気迫の篭もった良い斬撃であった。」

 「斬られたのか……。」


 シグナムは、地面に転がったレヴァンティンの刀身を拾い上げる。


 「この切り口は……。」

 「すまなかった。
  真剣勝負故に、手は抜かなかった。」

 「いえ……ありがとうございました。
  上には上が居ることを認識しました。
  ・
  ・
  それにこれだけの切り口なら……。」


 シグナムの手の中で、レヴァンティンがカートリッジをロードする。
 すると、レヴァンティンの刀身が再生する。


 「何と……。」

 「我等の武器は、魔力で再生も可能です。
  特にあれほどの切り口なら、
  レヴァンティンのもう一つの姿……鞭状連結刃を元に戻すのと変わらない。」

 「この世には、まだまだ見知らぬことがあるものだ……。」


 シグナムは、レヴァンティンを待機状態に戻すと、別の質問を五ェ門にする。


 「一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」

 「構わぬ。」

 「先ほどの剣……。
  何故、あれほどに早く?」

 「居合いを知らぬのか?」

 「居合い?」

 「簡単に言えば、全身のバネと鞘走りにより剣速を加速させる。
  普通の斬撃よりも遥かに早い。」

 「鞘走りですか……。」

 「一撃必殺の感じもあるが振り切った後の隙もあるので、多様は禁物でござる。
  使うなら十分な修行を積むことを御薦め致す。
  まあ、剣の形状の関係から鞘走りは出来ぬだろう……。
  これは、拙者の斬鉄剣のような反りが必要でござる。」

 「なるほど。
  参考になります。」

 「もう一つだけ助言を致すなら、
  静の動作というものを身につけるとよかろう。」

 「静?」

 「うむ。
  心を静かに保った状態から放たれる剣でござる。
  シグナム殿の剣は、猛々しい感じがする。」

 「……ええ。
  実戦の中のみで培われたものです。」

 「拙者も修行中で、まだ完璧に使いこなせるわけではござらんが、
  禅を組んでみるのも良かろう。」

 「禅?
  貴方がいつもしているあれですか?」

 「そうだ。
  拙者は、まだ未熟故に悟りが開かん。」

 「そうですか……。
  是非、私も。」


 …


 そして、夕方……。
 八神家の面々が見た先には……。


 「何してんですか?
  あの二人?」

 「さあ?」


 五ェ門の横で禅を組むシグナムの姿だった。


 「侍が二人になってもうた……。」


 はやては、少し引き攣った笑いを浮かべた。


 …


 そして、更に数日が過ぎた日……。
 五ェ門は、少ない荷物を纏めて、八神家を去ろうとしていた。
 長いようで短い間、お世話になった少女に頭を下げる。


 「はやて殿。
  長い間、御世話になり申した。
  拙者は、また修行の旅に出掛けるでござる。」

 「え? そんな……。
  突然、どうして?」

 「はやて殿に家族が出来たからでござる。」

 「家族……。」

 「拙者は、はやて殿に信頼出来る者が現れるまで見守るつもりでいたが……。
  これも御仏の導き……。
  来るべき所に来るべき者が来たのであろう。
  あの者達は、信頼出来る。」


 五ェ門はしゃがんで、はやての背の高さに合わせるとはやての両肩に手を置く。


 「新しい家族と幸せに暮らすでござるよ。」

 「五ェ門……。
  もしかして、修行いうんは嘘で……。
  私のために……。」

 「こんなことで、一食一飯の恩を返せたとは思わんが……。」

 「行って欲しく……ないんよ。」

 「いや、拙者の役目は終わったのだ。
  今度は、一人の友人として……はやて殿と再会しよう。」

 「……友人?」

 「約束でござる。
  そして、はやて殿が困っていることを知ったら、
  いつでも駆けつけよう。」

 「うん……約束や。」


 差し出された小指に五ェ門は、自分の小指を絡めた。


 「この広い空の下で、はやて殿の足が治ることを祈っているでござる。
  神社仏閣、道祖神を見掛けた時は、
  必ず御参りをして願懸けをすることを誓うでござる。」


 はやては、いつもの五ェ門らしい言葉に少し微笑む。
 そして、五ェ門なら本当に願懸けして歩くような気がした。


 「では、御免。」


 五ェ門は、初めて会った時と同じ様に編み笠を被って去って行った。


 「あ……。
  ありがとうを言えなかった……。
  ・
  ・
  でも、再会の約束はしたんや。
  その時は、必ずお礼を言わな……。」


 こうして、少女は、侍と別れを告げ、再会の時に伝え忘れた言葉を伝えることを誓った。


 …


 そして、もう一人……。


 「五ェ門……。
  何故、私に何も言わずに……。」

 「シグナム!?
  シグナム!?
  本当にどうしたんだ!?」


 五ェ門は、シグナムから大変なものを盗んで行ったのかもしれない。


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