== 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ 【IF】 ==
六課の崩壊激しい廊下をアリシアは全力で走る。
「キャー!
来た来た来た来た!
ガジェットが追って来たーっ!」
アリシアが、屈んだ上をレーザーが通り抜ける。
「撃って来た!
レーザー撃って来た!」
そして、他にも飛んで来るレーザーは、アリシアの長い髪の先端をかすった。
「尻尾が焦げた!
アイツらめ!」
全力で走っても、魔法スキルのないアリシアにガジェットが直ぐに追い着くのは当たり前のこと。
行き先を飛び越えても、逃げ果せることは出来ないようだ。
「フェイトのソニック・ムーブがあれば……!
こいつら倒したら、今日の魔力使い切っちゃうし!」
アリシアは、ポケットの中のカートリッジをスイッチを押して握ると十字路の右側に投げる。
瞬間的に上がった魔力にガジェットが向きを変えた。
「惨めね……。
私は、薬莢以下の存在か……。」
アリシアは、ガジェットを置きざりにして走り抜ける。
そして、玄関に辿り着き、その先に続く黒煙の中に飛び込んだ。
第23話 StS編・六課隊舎の攻防
シャマルが息を切らせ、空中の戦闘機人二人を睨む。
既に重症を負わされたザフィーラが横たわり、防戦しか出来ない。
その状況の中で、黒煙を突っ切り、アリシアが姿を現す。
そして、握り締めたデバイスを突き上げる。
「私は、今、猛烈に熱血してる!」
「アリシアちゃん!?」
アリシアのデバイスからサーチャーが飛ぶとロングアーチのグリフィス達に情報が飛んだ。
…
グリフィスとルキノが同時に叫ぶ。
「「来た!」」
アリシアのデバイスを通して、データが更新される。
内部と外部のデータがリンクし、転送するデータが完成する。
「送信!」
データが、アリシアとシャマルのもとへと戻る。
そして、これと同時に六課のシステムはダウンした。
…
戦闘機人の一人が、新たに現れた人間に少しだけ警戒する。
しかし、直ぐに言葉を漏らす。
「あの出来損ないか……。」
アリシアは、自分のことだと分かったが無視する。
今は、それどころではない。
デバイスから端末を引き出し、キーボードを叩く。
シャマルの前に一枚の画面が開くと、シャマルは、直ぐに理解した。
「助かりました……。
でも、どれだけ役立てることが出来るか……。」
アリシアは、会話を聞かれないように念話を飛ばす。
『時間稼ぎでいい……。
連絡は入れたから、戦える誰かが戻るまで。』
『持ち……ますかね?』
『サポートする!
防御系のシールドも広範囲から、指定するポイントだけに!
シャマルには、アイツらが撤退した後の治療があるから、
倒れることも許さない!』
『……厳しいですね。』
アリシアは、ザフィーラを見る。
『まず、血を止めなきゃ……。
ここで、私の魔力を全部使い切る!
指示を頂戴!』
シャマルは、ちらりとザフィーラを見るとアリシアに指示を出す。
「アリシアちゃんの魔法じゃ、全て止血出来ません。
重症なところの傷に全て費やしてください。」
「分かった。」
アリシアは、本日の魔力を治癒魔法のプログラム作成に回す。
血液の流れをコントロールするプログラム。
活性化させて傷を塞ぐプログラム。
そして、残りの魔力はデバイスを介さず、直接治癒魔法の機動へ。
「プログラム・インプット!
カートリッジ・ロード!
・
・
ごめん……無理させる。
シャマルのサポートが出来るギリギリまでロードして……。」
『Yes Sir.』
アリシアのデバイスは、三回ほどロードを繰り返すと小破する。
アリシアは、魔法陣の起動したデバイスをザフィーラに近づける。
シャマルから、位置が指示される。
「刀傷を頼りに出血の多いところを探して。」
アリシアは、刀傷に沿って治癒魔法を掛ける。
「傷が深い……。」
デバイスとは別に自身での治癒魔法も傷口に近づける。
(アリシアちゃんの魔法で……血が止まるかどうか。)
シャマルは、戦闘機人に警戒しながらも、ザフィーラを気に掛ける。
「薄皮一枚作るのが、やっと……。
他にも血を止めなきゃいけないのに魔法が切れそう……。」
「それでいいです。
魔法が切れたら、縛って血管を止めてください。」
「分かった。
でも、魔力が尽きて切れるまでは……。」
アリシアの必死の治癒魔法は続く。
そして、動いた短髪の戦闘機人をシャマルが睨む。
「これで最後だ。」
短髪の戦闘機人から一言言葉が漏れる。
緑の魔力光が溢れ、隊舎に降り注ぐ。
データを基に展開したシャマルのシールドが全体の一部を無視して防いでみせる。
「耐えた……?」
(まだ、こちらが守る箇所を特定したことに気付いてない……。
だけど、長くは騙せない……。
同じことを……向こうも攻撃する範囲を絞って、一点に集中されたら……。
今度は、抜かれる……。)
シャマルは、ギリギリの駆け引きの中で六課を守り続けていた。
…
アリシアが自分の上着を切り裂き、即席の包帯を作る。
魔法で止血出来なかったザフィーラの傷口を縛っていく。
「血さえ流れなければ……。
死なない……。
死なせない……。」
アリシアは、目に見える傷口を縛り終えるとシャマルを見る。
シャマルの肩が激しく上下している。
(シャマルもギリギリだ……。
それに戦闘機人は、もう一人居るんだ。
あれがシャマルを同時に襲ったら……。)
アリシアは、最悪を想像する。
(どれだけ、時間が稼げたんだろう……。
後、どれだけ耐え抜かなければいけないんだろう……。)
時間は、いつもの何倍も遅く流れているように感じた。
…
時間は、少し戻る……。
地上本部では、隊長達と合流したフォワード陣が指示の下で行動を分割していた。
スターズは、連絡の取れなくなったギンガを追って、再び地下へ。
ライトニングは、グリフィスから連絡を受けて六課へ。
そして、シグナムは、ヴィータのところへと向かっていた。
六課隊員の戦闘は、今まで培ったチームワークを活かせないバラバラの状況下での戦闘になっていた。
そして、六課隊舎へ向かうライトニングは、途中、別の戦闘機人と接触していた。
フェイトが戦闘を受け持ち、エリオとキャロが先行して六課隊舎へと向かったが、時間は、また削られてしまった。
…
シャマルの限界が近い……。
そして、遂に戦闘機人に見破られた。
目的が隊舎から、シャマル個人へと変わった。
「アリシアちゃん!」
アリシアは、頷くとザフィーラを抱きかかえて、シャマルの背後にピッタリと張り付くように移動する。
「これでいい?」
「はい!
ここに一点集中のシールドを張ります!」
戦闘機人が、隊舎を指差す。
「それで、あれを守れるの?」
「拙い!」
「シャマル! 嘘!」
「!」
シャマルは、アリシアの言葉に反応して、そのままシールドを張り続ける。
そして、アリシアの言った通りに飛んで来た魔力光を防ぐ。
「よく分かったね……。」
「っ!」
遊ばれている状況に、シャマルは、睨み返すことしか出来ない。
しかし、手詰まりの状況下で、視線の先にフリードが見えた。
アリシアが、シャマルに声を掛ける。
「これで戦える……。」
「ええ……。」
だが、一息つくことも出来ない。
シャマルの相手をしていた戦闘機人が向きを変えた。
「今度は、キャロ達に向かうつもりだよ!」
「エリオが!」
アリシア達の視線の先で、エリオは、召喚師の少女に連れて行かれるヴィヴィオを見つけるとキャロと別行動に出た。
そして、もう一人の髪の長い戦闘機人の横からの攻撃で海へと落下した。
アリシアは、ようやく理解する。
「あの……残ってた戦闘機人は、
隊舎を攻撃していた戦闘機人のガードだったんだ……。
だから、こっちに仕掛けて来なかったんだ……。
・
・
やられた……。
向こうは、連携を取って、この日のために仕掛けて来ているのに、
こっちは、地上本部と隊舎で戦力を分散されてる……。」
シャマルは、アリシアの言葉を聞いて、次に出来ることを考える。
しかし、手が浮かばない。
助太刀に来たエリオとキャロも、温存されていたもう一人の戦闘機人に落とされた。
アリシアが、抱いていたザフィーラを横たえ、立ち上がる。
「打つ手なしだね……。
次の一撃は、私が受けるよ。
シャマルには怪我人を治療する役目があるからね。」
「アリシアちゃん……?
何を言って……。」
「最後まで、諦めるつもりはないけど……。
時間を稼ぐのにもう少し何かが必要みたいだよ。」
アリシアは、小破した自分のデバイスを見る。
「ごめんね……。
魔力が尽きてるから、発動プログラムもダウンロード出来ない。
インプットしてあるプログラムで、
アイツを止めれそうなの選んでくれる?」
『Yes Sir.
However, If I stop an act……』
「分かってる……。
狙いが急所になるんだよね……。
・
・
まあ、でも……。
こっちも死ぬかもだし、
向こうもそれぐらいの覚悟……して貰わないと!」
アリシアは、デバイスを強く握り、カートリッジを差し込む。
「アイツは、ミスを犯した!
私に何回も攻撃を見せた!
撃った後のチャージまでの隙は見逃さない!
・
・
カートリッジ……。」
アリシアが覚悟を決め、自分のデバイスに命令しようとした瞬間……海面に召喚の魔法陣が浮かんだ。
…
俯いたキャロから、小さな言葉が漏れる。
「何で、こんな……。」
止め処なく流れる涙は、止まる気配を見せない。
「竜騎召喚……。
・
・
ヴォルテール!」
海面に広がる巨大な魔法陣より、巨大な竜が姿を現す。
「壊さないで……。
私達の居場所を……壊さないで!」
キャロの叫びに呼応して、竜から炎の奔流が流れる。
その竜が、隊舎を覆っていたガジェットを一掃していった。
…
アリシアは、その光景を暫く立ち尽くして見ていた。
戦闘機人が、その隙に姿を消したのにも気付かなかった。
そして、その頃、事件の黒幕であるジェイル・スカリエッティから、犯行声明が出されていたことなど知る由もなかった。