余録

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余録:菅政権の袋小路

 落語には奇想天外な話も多い。つじ斬りにあった大工の身体が上下二つになったが、命に別条ない「胴斬り」もその一つだ。上半身は背負われ、下半身はふんどしを引っ張られて、ともかく家に帰る▲おかげで大工は廃業だが、上半身は湯屋の番台に座り、下半身はこんにゃく屋でこんにゃく玉を踏む仕事にありつく。万事丸くおさまったある日、上半身が「近ごろ目がかすむ、足に灸(きゅう)をすえてくれ」。下半身は「あまり茶ばかり飲むな、小便が近くていけねえ」▲はてさて二つに分かれたような、つながっているような。こんな現実離れした話にも人を引き込むのが落語家の芸である。だが、こと政権与党の分裂のような、分裂でないような造反の奇策には鼻白むばかりだ。こちらはこの先「命に別条ない」とはいきそうにない▲民主党内で小沢一郎元代表に近い衆院議員16人が会派離脱届を出したことで、与党内の亀裂が広がっている。予算関連法案の採決でも造反をほのめかす16人には、離党ならぬ会派離脱表明がそのまま菅政権に退陣を迫る剣となった。今後の同調者増を見込む声もある▲ともあれ上半身だけではとても予算関連法案の衆院の再可決ができない菅政権には正真正銘の袋小路である。首相を支持してきたグループ内からも、またまた頭をすげ替えて予算関連法案を通そうとの声が聞こえ出した。古典落語もびっくりの着脱自在の身体である▲政治の選択にこの国の将来がかかる今、どこに灸をすえればどこが治るのかも分からぬ与党の四分五裂だ。もう笑おうにも笑えない政党政治の無能への国民の失望を政治家は心底恐れてほしい。

毎日新聞 2011年2月19日 0時09分

 

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